【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、防衛装備庁、回転翼哨戒機(能力向上型)(その1)委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記利用可能トルク算出処理では、予め設定された前記パラメータの制限値に対応する、前記第1エンジントルクデータの前記エンジントルクを前記第1エンジントルクとして取得し、前記第2エンジントルクデータの前記エンジントルクを前記第2エンジントルクとして取得し、取得した前記第1エンジントルクと前記第2エンジントルクとの差分に対して、前記エンジン性能低下度合における前記第1パラメータと前記第2パラメータとの差分を対応させたときの、前記第1パラメータと前記標準化パラメータとの差分に対応する前記エンジントルクを、前記利用可能トルクとして算出することを特徴とする請求項2に記載の航空機のトルク推定装置。
前記情報取得処理では、定格となる前記エンジントルクであるトルク定格の20%以上となるトルク域において、前記パラメータ及び前記エンジントルクを取得することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の航空機のトルク推定装置。
前記標準化処理では、前記不要な因子として、前記航空機に設けられる負荷装置を使用することにより前記パラメータ及び前記エンジントルクへ与えられる負荷を除去するように、前記パラメータ及び前記エンジントルクを補正して標準化することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の航空機のトルク推定装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のトルク推定では、測定点が複数得られない場合、事前に得られている近似式の性能曲線を測定点に平行移動することから、実際のエンジンの性能と乖離する可能性があり、利用可能トルクを精度よく推定することが困難となる場合がある。また、複数の測定点を得てから近似式を生成するため、精度のよい利用可能トルクの推定に時間が掛かってしまう。
【0005】
そこで、本発明は、利用可能トルクを精度よく迅速に推定することができる航空機のトルク推定装置、航空機、航空機のトルク推定プログラム及び航空機のトルク推定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の航空機のトルク推定装置は、航空機に設けられるローターを回転させるエンジンにおける利用可能なエンジントルクである利用可能トルクを推定する航空機のトルク推定装置において、前記エンジンのエンジン性能に関するパラメータと前記エンジントルクとを対応付けたエンジントルクデータとして、前記エンジン性能の低下前の前記エンジントルクデータである第1エンジントルクデータと、前記エンジン性能の低下後の前記エンジントルクデータである第2エンジントルクデータと、を記憶する記憶部と、前記第1エンジントルクデータ及び前記第2エンジントルクデータに基づいて、前記利用可能トルクを推定する演算部と、を備え、前記演算部は、現在の前記エンジンから得られる前記パラメータと、前記パラメータに対応する前記エンジントルクとを取得する情報取得処理と、取得した前記パラメータ及び前記エンジントルクから、前記利用可能トルクを推定するにあたり不要な因子を除去して標準化する標準化処理と、前記第1エンジントルクデータ及び前記第2エンジントルクデータに基づいて、標準化された前記パラメータ及び前記エンジントルクから、前記エンジンの性能低下の度合いであるエンジン性能低下度合を算出するエンジン性能低下度合算出処理と、算出した前記エンジン性能低下度合に基づいて、現在の前記エンジンの性能に対応する前記利用可能トルクを算出する利用可能トルク算出処理と、を実行することを特徴とする。
【0007】
また、本発明の航空機のトルク推定プログラムは、航空機に設けられるハードウェアとしてのトルク推定装置において実行されるトルク推定プログラムであって、前記トルク推定装置は、航空機に設けられるローターを回転させるエンジンのエンジン性能に関するパラメータと前記エンジントルクとを対応付けたエンジントルクデータとして、前記エンジン性能の低下前の前記エンジントルクデータである第1エンジントルクデータと、前記エンジン性能の低下後の前記エンジントルクデータである第2エンジントルクデータと、を記憶する記憶部と、前記第1エンジントルクデータ及び前記第2エンジントルクデータに基づいて、前記エンジンにおける利用可能なエンジントルクである利用可能トルクを推定する演算部と、を備え、前記演算部に、現在の前記エンジンから得られる前記パラメータと、前記パラメータに対応する前記エンジントルクとを取得する情報取得処理と、取得した前記パラメータ及び前記エンジントルクから、前記利用可能トルクを推定するにあたり不要な因子を除去して標準化する標準化処理と、前記第1エンジントルクデータ及び前記第2エンジントルクデータに基づいて、標準化された前記パラメータ及び前記エンジントルクから、前記エンジンの性能低下の度合いであるエンジン性能低下度合を算出するエンジン性能低下度合算出処理と、算出した前記エンジン性能低下度合に基づいて、現在の前記エンジンの性能に対応する前記利用可能トルクを算出する利用可能トルク算出処理と、を実行させることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の航空機のトルク推定方法は、航空機に設けられるローターを回転させるエンジンにおける利用可能なエンジントルクである利用可能トルクを推定する航空機のトルク推定方法において、前記エンジンのエンジン性能に関するパラメータと前記エンジントルクとを対応付けたエンジントルクデータとして、前記エンジン性能の低下前の前記エンジントルクデータである第1エンジントルクデータと、前記エンジン性能の低下後の前記エンジントルクデータである第2エンジントルクデータと、を予め用意し、現在の前記エンジンから得られる前記パラメータと、前記パラメータに対応する前記エンジントルクとを取得する情報取得工程と、取得した前記パラメータ及び前記エンジントルクから、前記利用可能トルクを推定するにあたり不要な因子を除去して標準化する標準化工程と、前記第1エンジントルクデータ及び前記第2エンジントルクデータに基づいて、標準化された前記パラメータ及び前記エンジントルクから、前記エンジンの性能低下の度合いであるエンジン性能低下度合を算出するエンジン性能低下度合算出工程と、算出した前記エンジン性能低下度合に基づいて、現在の前記エンジンの性能に対応する前記利用可能トルクを算出する利用可能トルク算出工程と、を備えることを特徴とする。
【0009】
これらの構成によれば、第1エンジントルクデータ及び第2エンジントルクデータに基づいて、現在のエンジンから得られるパラメータ及びエンジントルクから、エンジン性能低下度合を算出し、エンジン性能低下度合に基づいて、現在のエンジンの性能に対応する利用可能トルクを算出することができる。このため、従来のように、複数の測定点を取得する必要がないことから、測定点が複数得られない場合であっても、エンジン性能低下度合に基づき、利用可能トルクを精度よく迅速に推定することができる。なお、第1エンジントルクデータは、例えば、新品のエンジンから得られるデータであり、第2エンジントルクデータは、例えば、廃棄前のエンジンから得られるデータである。また、第1エンジントルクデータ及び第2エンジントルクデータは、任意に設定可能となっている。
【0010】
また、前記標準化処理において標準化された前記パラメータ及び前記エンジントルクを、標準化パラメータ及び標準化トルクとすると、前記エンジン性能低下度合算出処理では、前記標準化トルクに対応する、前記第1エンジントルクデータの前記パラメータを前記第1パラメータとして取得し、前記第2エンジントルクデータの前記パラメータを前記第2パラメータとして取得し、取得した前記第1パラメータと前記第2パラメータとの差分に対する、前記第1パラメータと前記標準化パラメータとの差分の割合を、前記エンジン性能低下度合として算出することが好ましい。
【0011】
この構成によれば、第1パラメータ、第2パラメータ及び標準化パラメータを用いて、エンジン性能低下度合を容易に算出することができる。
【0012】
また、前記利用可能トルク算出処理では、予め設定された前記パラメータの制限値に対応する、前記第1エンジントルクデータの前記エンジントルクを前記第1エンジントルクとして取得し、前記第2エンジントルクデータの前記エンジントルクを前記第2エンジントルクとして取得し、取得した前記第1エンジントルクと前記第2エンジントルクとの差分に対して、前記エンジン性能低下度合における前記第1パラメータと前記第2パラメータとの差分を対応させたときの、前記第1パラメータと前記標準化パラメータとの差分に対応する前記エンジントルクを、前記利用可能トルクとして算出することが好ましい。
【0013】
この構成によれば、エンジン性能低下度合における各差分を、エンジントルクに対応付けることで、利用可能トルクを容易に算出することができる。
【0014】
また、前記情報取得処理では、定格となる前記エンジントルクであるトルク定格の20%以上となるトルク域において、前記パラメータ及び前記エンジントルクを取得することが好ましい。
【0015】
この構成によれば、利用可能トルクを算出するにあたり、適切なトルク域において、パラメータ及びエンジントルクを取得することができるため、精度のよい利用可能トルクを算出することができる。ここで、トルク定格とは、エンジン及びトランスミッションを総合し、航空機が連続で使用できる最大トルクであり、通常、エンジンの利用可能トルクよりも低い値となっている。なお、トルク域は、30%以上とすることで、より精度のよい利用可能トルクを算出することができる。
【0016】
また、前記標準化処理では、前記不要な因子として、前記航空機に設けられる負荷装置を使用することにより前記パラメータ及び前記エンジントルクへ与えられる負荷を除去するように、前記パラメータ及び前記エンジントルクを補正して標準化することが好ましい。
【0017】
この構成によれば、標準化された適切なパラメータ及びエンジントルクを取得することができるため、利用可能トルクを精度よく算出することができる。なお、負荷装置としては、例えば、空気調和装置及び防氷装置等がある。
【0018】
また、前記エンジンには、複数種のエンジン出力定格が設定されており、前記利用可能トルクは、前記エンジン出力定格の種類に応じてそれぞれ推定されることが好ましい。
【0019】
この構成によれば、複数種のエンジン出力定格の利用可能トルクを算出することができる。複数種のエンジン出力定格として、例えば、航空機の通常時におけるエンジンの通常出力定格、航空機の緊急時におけるエンジンの緊急出力定格があり、これらのエンジン出力定格に対応する利用可能トルクを算出することができる。
【0020】
また、表示部を、さらに備え、前記演算部は、前記エンジン性能低下度合算出処理において算出された前記エンジン性能低下度合を、算出した時間に関連付けて前記記憶部に蓄積すると共に、前記記憶部に記憶された前記エンジン性能低下度合を時系列順に並べた履歴として、前記表示部に表示させることが好ましい。
【0021】
この構成によれば、表示部にエンジン性能低下度合の履歴を表示することができるため、エンジン性能低下度合の経時的な変化を把握することが可能となる。
【0022】
本発明の航空機は、航空機本体と、前記航空機本体に設けられるローターと、前記航空機本体に設けられ、前記ローターを回転させるエンジンと、上記のトルク推定装置と、を備えることを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、精度よく迅速に推定された利用可能トルクに基づいて、操縦者が航空機を操縦することができるため、航空機の飛行時における安全性の向上に寄与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能であり、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせることも可能である。
【0026】
[実施形態]
図1は、本実施形態に係るヘリコプタのトルク推定装置に関する説明図である。
図2は、本実施形態に係るエンジントルクデータに関する説明図である。
図3は、本実施形態に係るトルク推定プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
図4は、本実施形態に係るエンジン性能低下度合の履歴を示すグラフである。
【0027】
本実施形態のトルク推定装置12は、ローター26を有する航空機に設けられており、例えば、ヘリコプタ10に適用されている。トルク推定装置12は、ローター26を回転させるエンジン28において利用可能なエンジントルクである利用可能トルクを推定している。先ず、トルク推定装置12の説明に先立ち、ヘリコプタ10について説明する。
【0028】
ヘリコプタ10は、鉛直方向に離着陸可能な垂直離着陸機であり、機体(航空機本体)25と、機体25に設けられるローター26と、ローター26を回転させるエンジン28とを備えている。機体25には、ヘリコプタ10を操縦する操縦者に対して各種報知を行うためのスピーカ42及び表示装置(表示部)44が設けられている。エンジン28は、例えば、ガスタービンエンジンが適用されており、ガスタービンエンジンは、圧縮機と、燃焼器と、タービンとを有している。圧縮機は、取り込んだ空気を圧縮し、燃焼器は、圧縮した空気と燃料とを混合させて燃焼させることにより燃焼ガスを発生させ、タービンは、発生した燃焼ガスにより回転することで、ローター26を回転させる。ヘリコプタ10は、機体25に設けられるエンジン28により、ローター26を回転させるための必要なエンジントルク(必要トルク)をローター26に与えることで、機体25が所定の飛行動作を行う。
【0029】
また、ヘリコプタ10は、エンジン28の性能に関するパラメータ(以下、「エンジン性能パラメータ」という。)を計測するための後述する各種センサと、ヘリコプタ10を制御する機上コンピュータとを備えている。本実施形態に係るエンジン性能パラメータは、タービンガス温度(TGT)、エンジン回転数、及び燃料流量等である。タービンガス温度(TGT)は、ガスタービンエンジンに設けられるタービンを回転させるために、タービンに吹き付けられる燃焼ガスの温度である。また、エンジン回転数は、ガスタービンエンジンの圧縮機の回転数と、ローター26に繋がっているタービンの回転数との2種類があり、エンジン性能パラメータとしては、圧縮機の回転数を採用している。機上コンピュータは、各種センサに接続されており、利用可能トルクを推定するためのプログラムであるトルク推定プログラム29を実行することで、トルク推定装置12として機能している。
【0030】
各種センサは、エンジン28のトルクの大きさを測定するトルクセンサ30、エンジン28のタービンガス温度(TGT)を測定するタービンガス温度センサ32、エンジン回転数を測定する回転数センサ34、及び燃料流量を測定する燃料流量センサ36等が設けられる。各種センサ30,32,34,36は、トルク推定装置12に接続されており、各種センサ30,32,34,36で測定されたエンジン性能パラメータの測定値は、トルク推定装置12に設けられる記憶装置14に記憶される。
【0031】
次に、トルク推定装置12について説明する。トルク推定装置12は、記憶装置(記憶部)14と、制御装置(演算部)15と、を有している。
【0032】
記憶装置14は、磁気記憶装置や半導体記憶装置等の不揮発性を有する記憶装置からなり、各種のプログラムおよびデータを記憶する。記憶装置14に記憶されるプログラムとしては、上記した利用可能トルクを推定するトルク推定プログラム29が含まれている。また、記憶装置14に記憶されるデータとしては、各種センサ30,32,34,36で測定されたエンジン性能パラメータの測定値、利用可能トルクの推定に用いられる第1エンジントルクデータD1及び第2エンジントルクデータD2、利用可能トルクの推定のために算出されるエンジン性能低下度合に関するデータが含まれている。
【0033】
また、記憶装置14には、記憶装置14へ電力を供給するバッテリ38が接続されている。これにより、機体25の電源がオフとされても、記憶装置14から外部のメディア40へデータの読み出しが可能となる。このため、整備員は、ヘリコプタ10のメンテナンス時等に該データを利用できる。
【0034】
制御装置15は、CPU(Central Processing Unit)等の集積回路と、作業領域となるメモリとを含み、これらのハードウェア資源を用いて各種プログラムを実行することによって各種処理を実行する。具体的に、制御装置15は、記憶装置14に記憶されているプログラムを読み出してメモリに展開し、メモリに展開されたプログラムに含まれる命令をCPUに実行させることで、各種処理を実行する。
【0035】
ここで、制御装置15は、トルク推定プログラム29を実行することで、パラメータ標準化部16、エンジン性能低下度合計算部17、利用可能トルク推定部18、負荷装置利用状態特定部20、状態判定部22、及び必要トルク推定部24として機能する。
【0036】
パラメータ標準化部16は、記憶装置14を介して各種センサから、現在のエンジン性能パラメータと、エンジン性能パラメータに対応するエンジントルクとを取得し、取得したエンジン性能パラメータ及びエンジントルクを標準化する標準化処理を実行する。ここで、パラメータ標準化部16は、エンジン28のエンジントルクがトルク定格の30%以上となるトルク域において、エンジン性能パラメータ及びエンジントルクを取得している。トルク定格は、エンジン28と、エンジン28とローター26との間の動力伝達経路に設けられるトランスミッションとを総合したときの、ヘリコプタ10が連続で使用できる最大トルクである。このトルク定格は、通常、エンジン28の利用可能トルクよりも低い値となっている。これにより、パラメータ標準化部16は、利用可能トルクの推定に適したトルク域において、エンジン性能パラメータ及びエンジントルクを取得している。なお、本実施形態では、トルク定格の30%以上となるトルク域において、エンジン性能パラメータ及びエンジントルクを取得したが、この範囲に特に限定されず、少なくともトルク定格の20%以上となるトルク域において、エンジン性能パラメータ及びエンジントルクを取得すればよい。
【0037】
そして、標準化処理では、利用可能トルクを推定するにあたり不要な因子を除去することで標準化を行っている。不要な因子としては、負荷装置41を利用することによるエンジン性能パラメータ及びエンジントルクへ与えられる負荷である。また、不要な因子としては、例えば、ヘリコプタ10外の外気温度、ヘリコプタ10が航行している高度、ヘリコプタ10の速度がある。このため、パラメータ標準化部16は、後述する負荷装置利用状態特定部20により特定した負荷装置41の利用状態を含む不要な因子に基づいて、現在のエンジン性能パラメータ及びエンジントルクに与えられる影響を除去するように補正することで、取得したエンジン性能パラメータ及びエンジントルクを標準化し、標準化した標準化パラメータ及び標準化トルクとして生成する。
【0038】
エンジン性能低下度合計算部17は、記憶装置14に記憶された第1エンジントルクデータD1及び第2エンジントルクデータD2に基づいて、標準化された標準化パラメータ及び標準化トルクから、エンジン28の性能低下の度合いであるエンジン性能低下度合を算出するエンジン性能低下度合算出処理を実行する。
【0039】
ここで、
図2を参照し、第1エンジントルクデータD1及び第2エンジントルクデータD2について説明する。
図2は、その縦軸が標準化トルクとなっており、その横軸が標準化パラメータとしての標準化TGT(標準化タービンガス温度)となっている。エンジントルクデータは、エンジン28のエンジン性能パラメータとエンジントルクとを対応付けたデータである。第1エンジントルクデータD1は、エンジン性能の低下前のエンジントルクデータであり、例えば、新品のエンジン28から得られるエンジントルクデータとなっている。一方で、第2エンジントルクデータD2は、エンジン性能の低下後のエンジントルクデータであり、例えば、廃棄前のエンジン28から得られるエンジントルクデータとなっている。
【0040】
エンジントルクデータは、標準化TGTを一定とした場合、エンジン性能が低下するにつれて、標準化トルクが低減する。換言すれば、エンジントルクデータは、標準化トルクを一定とした場合、エンジン性能が低下するにつれて、標準化TGTが増大する。このため、
図2に示すグラフにおいて、第1エンジントルクデータD1は、左上側に位置し、第2エンジントルクデータD2は、右下側に位置している。
【0041】
そして、エンジン性能低下度合算出処理では、現在の標準化パラメータT1及び標準化トルクN1の測定点をP1とすると、現在の標準化トルクN1に対応する第1エンジントルクデータD1の標準化パラメータを第1パラメータT2として取得し、現在の標準化トルクN1に対応する第2エンジントルクデータD2の標準化パラメータを第2パラメータT3として取得する。この後、エンジン性能低下度合算出処理では、取得した第1パラメータT2と第2パラメータT3との差分aを算出し、取得した第1パラメータT2と標準化パラメータT1との差分bを算出する。続いて、エンジン性能低下度合算出処理では、算出した差分aに対する差分bの割合を百分率で求めた結果を、エンジン性能低下度合として算出する。このため、エンジン性能低下度合は、「b/a×100」の算出式によって算出される。
【0042】
利用可能トルク推定部18は、算出したエンジン性能低下度合に基づいて、現在のエンジン28の性能に対応する利用可能トルクを算出する利用可能トルク算出処理を実行する。なお、エンジン28には、複数種のエンジン出力定格が設定されており、利用可能トルク算出処理では、エンジン出力定格の種類に応じて、それぞれ利用可能トルクが推定される。エンジン出力定格の種類としては、例えば、ヘリコプタ10の通常時におけるエンジン28の通常出力定格、ヘリコプタ10の緊急時におけるエンジン28の緊急出力定格がある。ここで、利用可能トルクは、エンジン28のエンジン性能パラメータ(タービンガス温度(TGT)、エンジン回転数及び燃料流量等)によって、制約を受けることとなる。つまり、利用可能トルクとは、換言するとエンジン28が発生させることが可能なトルクの最大値である。
【0043】
図2に示すように、エンジン28の通常出力定格における標準化TGTの制限値は、通常TGT制限値L1として予め設定され、エンジン28の緊急出力定格における標準化TGTの制限値は、緊急TGT制限値L2として予め設定されている。
【0044】
そして、利用可能トルク算出処理では、予め設定された通常TGT制限値L1及び緊急TGT制限値L2に対応する利用可能トルクを算出している。なお、以下の説明では、通常TGT制限値L1に対応する利用可能トルクを算出する場合について説明するが、緊急TGT制限値L2に対応する利用可能トルクの算出も、通常TGT制限値L1と同様であるため、説明を省略する。
【0045】
利用可能トルク算出処理では、通常TGT制限値L1に対応する第1エンジントルクデータD1の標準化トルクを第1エンジントルクNmaxとして取得し、通常TGT制限値L1に対応する第2エンジントルクデータD2の標準化トルクを第2エンジントルクNminとして取得する。この後、利用可能トルク算出処理では、取得した第1エンジントルクNmaxと第2エンジントルクNminとの差分に対して、エンジン性能低下度合における差分aを対応させたときの、差分bに対応する標準化トルクを、現在の利用可能トルクN2として算出する。つまり、利用可能トルク算出処理では、エンジン性能低下度合における標準化TGTの各差分a,bを、標準化トルクに適用することで、利用可能トルクN2を算出している。換言すれば、利用可能トルク算出処理では、エンジン性能低下度合における横軸の割合を、縦軸の割合に適用して、利用可能トルクN2を算出している。
【0046】
負荷装置利用状態特定部20は、ローター26とは異なるエンジン28の負荷装置(例えば、空気調和装置及び防氷装置等)41の使用状態を特定する。そして、負荷装置利用状態特定部20は、負荷装置41によりエンジン28に与えられる負荷に関する情報を、パラメータ標準化部16に出力する。
【0047】
状態判定部22は、ヘリコプタ10の所定の飛行動作時において、ローター26を回転させるために必要となるエンジントルク(以下、「必要トルク」という。)に対して、算出された利用可能トルクN2が十分満たした状態であるか否かを判定する。具体的に、状態判定部22は、算出した利用可能トルクN2から、後述する必要トルク推定部24において推定された必要トルクを差し引いた余裕トルクを算出する。そして、状態判定部22は、余裕トルクが予め定められたしきい値以上である場合、利用可能トルクN2が十分であると判定する一方で、余裕トルクが予め定められたしきい値よりも小さい場合、利用可能トルクN2が不十分であると判定する。また、状態判定部22は、機体25に設けられるスピーカ42及び表示装置44等の各種報知装置により、判定結果を操縦者に報知する。なお、状態判定部22は、利用可能トルク及び余裕トルクを操縦者に報知すればよく、余裕トルクに基づく判定を省いた構成であってもよい。
【0048】
必要トルク推定部24は、ヘリコプタ10の飛行中の外気温度、高度、速度、及び重量に基づいて、ヘリコプタ10の必要トルクを推定する。必要トルク推定部24は、推定した必要トルクを、状態判定部22に出力する。
【0049】
次に、
図3を参照して、上記のトルク推定装置12によって実行されるトルク推定プログラム29に関する処理について説明する。
【0050】
先ず、トルク推定装置12は、パラメータ標準化部16において、記憶装置14を介して各種センサから、現在のエンジン性能パラメータと、エンジン性能パラメータに対応するエンジントルクとを取得する(ステップS100:情報取得工程)。次に、トルク推定装置12は、パラメータ標準化部16において、取得したエンジン性能パラメータ及びエンジントルクを標準化する標準化処理を実行する(ステップS102:標準化工程)。標準化工程S102では、負荷装置利用状態特定部20により特定した負荷装置41の利用状態に基づいて、現在のエンジン性能パラメータ及びエンジントルクに与えられる負荷を除去するように補正することで、標準化した標準化パラメータ及び標準化トルクを生成する。
【0051】
続いて、トルク推定装置12は、エンジン性能低下度合計算部17において、第1エンジントルクデータD1及び第2エンジントルクデータD2に基づいて、現在の標準化パラメータ及び標準化トルクから、エンジン性能低下度合を算出する(ステップS104:エンジン性能低下度合算出工程)。エンジン性能低下度合算出工程S104では、
図2に示す差分aと差分bとを算出し、「b/a×100」の算出式によって、エンジン性能低下度合を算出する。
【0052】
次に、トルク推定装置12は、利用可能トルク推定部18において、算出したエンジン性能低下度合に基づいて、現在のエンジン28の性能に対応する利用可能トルクN2を算出する(ステップS106:利用可能トルク算出工程)。利用可能トルク算出工程S106では、
図2に示すように、予め設定されたTGT制限値に対応する第1エンジントルクNmaxと第2エンジントルクNminを取得し、取得した第1エンジントルクNmaxと第2エンジントルクNminとの差分に、エンジン性能低下度合における差分aを対応させたときの、差分bに対応する標準化トルクを、現在の利用可能トルクN2として算出する。
【0053】
この後、トルク推定装置12は、状態判定部22において、算出した利用可能トルクN2から、必要トルク推定部24において推定された必要トルクを差し引いた余裕トルクを算出する(ステップS108)。
【0054】
そして、トルク推定装置12は、状態判定部22において、余裕トルクの大きさに基づいた報知処理を行う(ステップS110)。
【0055】
続いて、トルク推定装置12は、エンジン28が停止されたか否かを判定し(ステップS112)、エンジン28が停止されたと判定した場合(ステップS112:Yes)、トルク推定プログラム29を終了する。一方で、トルク推定装置12は、エンジン28が停止されていないと判定した場合(ステップS112:No)、ステップS100へ移行し、新たに測定された現在の測定点に基づく利用可能トルクN2の推定を繰り返し実行する。
【0056】
次に、
図4を参照して、ヘリコプタ10の機体25に設けられる表示装置44に表示されるエンジン性能低下度合の履歴について説明する。
図4に示すグラフは、その縦軸がエンジン性能低下度合となっており、その横軸が時間となっている。制御装置15は、エンジン性能低下度合算出処理において算出されたエンジン性能低下度合を、算出した時間に関連付けて記憶装置14に蓄積している。また、制御装置15は、記憶装置14に記憶されたエンジン性能低下度合を、時系列順に並べたエンジン性能低下度合の履歴として、表示装置44に表示させている。このため、トルク推定装置12は、エンジン性能低下度合の推移を、操縦者に対して報知している。
【0057】
以上のように、本実施形態によれば、第1エンジントルクデータD1及び第2エンジントルクデータD2に基づいて、現在のエンジン28から得られるエンジン性能パラメータ及びエンジントルクから、エンジン性能低下度合を算出し、エンジン性能低下度合に基づいて、現在のエンジン28の性能に対応する利用可能トルクN2を算出することができる。このため、従来のように、複数の測定点を取得する必要がないことから、測定点が複数得られない場合であっても、エンジン性能低下度合に基づき、利用可能トルクN2を精度よく迅速に推定することができる。
【0058】
また、本実施形態によれば、エンジン性能低下度合算出処理において、第1パラメータT2、第2パラメータT3及び標準化パラメータT1を用いて、エンジン性能低下度合を容易に算出することができる。
【0059】
また、本実施形態によれば、利用可能トルク算出処理において、エンジン性能低下度合における各差分a,bを、エンジントルクに対応付けることで、利用可能トルクN2を容易に算出することができる。
【0060】
また、本実施形態によれば、利用可能トルクN2を算出するにあたり、適切なトルク域において、エンジン性能パラメータ及びエンジントルクを取得することができるため、精度のよい利用可能トルクN2を算出することができる。
【0061】
また、本実施形態によれば、標準化処理において、ヘリコプタ10の負荷装置41の使用によるエンジン性能パラメータ及びエンジントルクへの負荷の影響の他、ヘリコプタ10外の外気温度、ヘリコプタ10が航行している高度、ヘリコプタ10の速度等の不要な因子を除去することで、標準化された適切なパラメータ及びエンジントルクを取得することができるため、利用可能トルクN2を精度よく算出することができる。
【0062】
また、本実施形態によれば、複数種のエンジン出力定格の利用可能トルクN2を算出することができる。
【0063】
また、本実施形態によれば、表示装置44にエンジン性能低下度合の履歴を表示することができるため、エンジン性能低下度合の経時的な変化を把握することが可能となる。
【0064】
また、本実施形態によれば、精度よく迅速に推定された利用可能トルクN2に基づいて、操縦者がヘリコプタ10を操縦することができるため、ヘリコプタ10の飛行時における安全性の向上に寄与することができる。
【0065】
なお、本実施形態における第1エンジントルクデータD1及び第2エンジントルクデータD2は、任意に設定可能である。また、第1エンジントルクデータD1及び第2エンジントルクデータD2は、更新可能となっており、更新することでより精度の高い第1エンジントルクデータD1及び第2エンジントルクデータD2を用いることが可能となり、利用可能トルクN2の推定精度の向上を図ることが可能となる。
【0066】
また、本実施形態では、利用可能トルク算出処理において、エンジン性能低下度合における各差分a,bを、エンジントルクに対応付けることで、利用可能トルクN2を算出したが、この構成に限定されない。エンジン性能低下度合を用いて利用可能トルクN2を算出する構成であれば、いずれの算出方法であってもよい。例えば、利用可能トルク算出処理において、第1パラメータT2と第2パラメータT3との差分に対して、エンジン性能低下度合における差分aを対応させたときの、第1パラメータT2とTGT制限値L1,L2との差分が、エンジン性能低下度合における差分bとなる標準化トルクを、利用可能トルクN2として算出してもよい。つまり、利用可能トルク算出処理では、エンジン性能低下度合における標準化TGTの各差分a,bを、そのまま標準TGTに適用することで、利用可能トルクN2を算出している。換言すれば、利用可能トルク算出処理では、エンジン性能低下度合における横軸の割合を、そのまま横軸の割合に適用して、利用可能トルクN2を算出している。