(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリスチレン系樹脂発泡層と、該発泡層の少なくとも片面に積層接着されている熱可塑性樹脂フィルム層とを有する、厚み0.5mm〜2.0mmの多層発泡シートであって、
熱可塑性樹脂フィルム層の厚みが10〜60μmであり、多層発泡シートの見掛け密度Aが170〜420kg/m3であり、多層発泡シートのフィルム層側の表面から厚み方向に200μmまでの部分である表層部の見掛け密度Bが多層発泡シートの見掛け密度Aよりも高く、かつ320kg/m3以上であり、多層発泡シートのフィルム層側の表面の算術平均粗さRaが1.5μm以下であることを特徴とする多層発泡シート。
多層発泡シートが、ポリスチレン系樹脂発泡層と、該発泡層の片面のみに積層接着されている熱可塑性樹脂フィルム層とを有し、多層発泡シートの見掛け密度Aに対する前記発泡層の見掛け密度Cの比(C/A)が、0.75以上1.0未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載の多層発泡シート。
多層発泡シートが、ポリスチレン系樹脂発泡層と、該発泡層の両面に積層接着されている熱可塑性樹脂フィルム層とを有し、多層発泡シートの見掛け密度Aに対する前記発泡層の見掛け密度Cの比(C/A)が、0.60以上1.0未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載の多層発泡シート。
前記熱可塑性樹脂フィルム層が、前記発泡層に共押出により積層接着されている熱可塑性樹脂フィルム層Xと、該フィルム層Xの表面に熱ラミネート又は押出ラミネートにより積層接着されている熱可塑性樹脂フィルム層Yとからなると共に、フィルム層Xとフィルム層Yとの厚みの合計が10〜60μmであることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の多層発泡シート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の多層発泡シートについて詳細に説明する。本実施形態の多層発泡シートは、ポリスチレン系樹脂発泡層(以下、ポリスチレン系樹脂発泡シート、発泡シート、または発泡層とも言う。)と、該発泡層の少なくとも片面に積層接着されている熱可塑性樹脂フィルム層(樹脂層、フィルム層、または非発泡層とも言う。)とを有するものである。
【0014】
ポリスチレン系樹脂発泡シートは、ポリスチレン系樹脂に発泡剤を添加し、押出発泡成形して得られるものである。ポリスチレン系樹脂発泡シートに使用するポリスチレン系樹脂としては、例えば、ポリスチレン、ゴム変性ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−メタクリル酸エチル共重合体、スチレン−アクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリル酸エチル共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリスチレン−ポリフェニレンエーテル共重合体、ポリスチレンとポリフェニレンエーテルとの混合物等の樹脂が例示される。上記ポリスチレン系樹脂におけるスチレン成分含有量は、好ましくは50質量%、より好ましくは70質量%である。上記ポリスチレン系樹脂の中でも、発泡性や成形体としたときの剛性等に優れることから、ポリスチレンを用いることが好ましい。
【0015】
また、これらの樹脂には、所望の目的に応じて、プロピレン単独重合体、エチレン−プロピレン共重合体等のポリプロピレン系樹脂、高密度ポリエチレン,低密度ポリエチレン等のポリエチレン系樹脂、スチレン−共役ジエンブロック共重合体やその水添物等の熱可塑性エラストマー、エチレン−プロピレンゴム、ブタジエンゴム等のゴム等のその他の成分を含有させたものを使用することができる。この場合、その他の成分の含有量は、概ね20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%未満である。
【0016】
発泡剤としては、例えば、揮発性発泡剤、無機ガス系発泡剤、分解型発泡剤等を用いることができる。揮発性発泡剤としては、例えば、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素類、シクロブタン、シクロペンタン等の環式脂肪族炭化水素類、トリクロロフロロメタン、ジクロロジフロロメタン、1,2−ジクロロ−1,1,2,2−テトラフロロエタン、1−クロロ−1,1−ジフロロエタン、1,1−ジフロロエタン、1,1−ジクロロ−2,2,2−トリフロロエタン、メチルクロライド、エチルクロライド、エチレンクロライド等のハロゲン化炭化水素類等が挙げられる。無機ガス系発泡剤としては、二酸化炭素、窒素、空気等の不活性ガスが挙げられる。また分解型発泡剤としては、アゾジカルボンアミド、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、アゾビスイソブチロニトリル、重炭酸ナトリウム等が挙げられる。これらの発泡剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。本発明においては、ポリスチレン系発泡シートの熱成形に先立つ加熱時の二次発泡性向上の観点から、揮発性発泡剤を主たる発泡剤として用いることが望ましい。これらの中でも、ポリスチレン系樹脂との相溶性、発泡効率の観点からノルマルブタン、イソブタン又はこれらの混合物を好適に用いることができる。
【0017】
発泡剤の添加量は、使用する発泡剤の種類、ポリスチレン系樹脂、目的とする発泡倍率等に応じて適宜調整して用いられるが、通常、発泡シートを形成するためのポリスチレン系樹脂に対して、概ね0.5〜5.0質量%であることが好ましく、1.0〜4.0質量%であることがより好ましい。
【0018】
また、ポリスチレン系樹脂発泡シートの成分として、上記成分の他、本発明の効果を阻害しない範囲において各種添加剤を添加することができる。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、耐候剤、紫外線吸収剤、難燃剤、無機充填剤、抗菌剤、着色剤等が挙げられる。
【0019】
本発明の多層発泡シートの見掛け密度Aは、170〜420kg/m
3の範囲である。多層発泡シートの見掛け密度Aが低すぎる場合には、成形時の熱の伝わりが悪く、金型形状の再現性を高めるために必要な加熱条件の制御が困難となり、表面平滑性に優れると共に金型形状通りの成形体(以下、シャープな成形体ともいう。)が得られなくなるおそれがある。一方、多層発泡シートの見掛け密度Aが高すぎる場合には、発泡容器の特徴である保温性や軽量性、省資源性が不十分となるおそれがある。上記観点から、多層発泡シートの見掛け密度Aは180〜400kg/m
3であることが好ましくは、より好ましくは210〜380kg/m
3範囲である。
【0020】
また、同様の観点から、ポリスチレン系樹脂発泡シートの見掛け密度Cは、概ね150〜400kg/m
3であり、好ましくは170〜380kg/m
3より好ましくは200〜350kg/m
3の範囲である。
【0021】
なお、多層発泡シートにおけるポリスチレン系樹脂発泡シート(発泡層)の見掛け密度Cは次のようにして求めることができる。まず、多層発泡シートから所定の寸法(例えば幅100mm×長さ100mm)の試験片を切り出すと共に、試験片からフィルム層を切り分け、フィルム層を除いた試験片の厚みと質量を測定する。次に、該試験片の質量をその体積(幅×長さ×厚み)で除することで、試験片の見掛け密度を求める。上記測定を発泡シートの幅方向における等間隔の10箇所について行い、それらの算術平均値を発泡シートの見掛け密度Cとする。
【0022】
なお、多層発泡シートにおける発泡シート(発泡層)とフィルム層(非発泡層)とを切り分けることが困難なときは、以下のようにして発泡シートの見掛け密度Cを求めることができる。まず、多層発泡シートの坪量からフィルム層の坪量を減じることで発泡シートの坪量を求めると共に、多層発泡シートの厚みからフィルム層の厚みを減じることで発泡シートの厚みを求める。上記方法により求めた発泡シートの坪量を発泡シートの厚みで除することで、発泡シートの見掛け密度Cを求めることができる。なお、基材シートとして、共押出により積層接着された熱可塑性樹脂フィルム層Xを有するポリスチレン系樹脂発泡シートを用いる場合においては、基材シートの坪量と、押出時の発泡層とフィルム層Xとの吐出量比とからフィルム層Xの坪量を求めると共に、該坪量をフィルム層を構成する樹脂の密度で除することでフィルム層Xの厚みを求める以外は、上記方法と同様にして発泡シートの見掛け密度Cを求めることができる。
【0023】
ポリスチレン系樹脂発泡シートの少なくとも片面に積層接着される熱可塑性樹脂フィルム層としては、本発明の所期の目的を達成することが可能であれば特に限定されるものではないが、例えば、ポリスチレン系樹脂フィルム、ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂フィルム、ポリエステル系樹脂フィルム、ポリスチレン樹脂とポリオレフィン樹脂との多層フィルム等を用いることができる。表面平滑性、熱成形性、リサイクル性、発泡シートとの融着性の観点からは、熱可塑性樹脂フィルムとして、ポリスチレン系樹脂フィルムを用いることが好ましく、特にポリスチレンフィルムを用いることが好ましい。なお、ポリスチレンフィルムとしては、インフレーション成形により製造された無延伸のフィルムを好適に用いることができる。また、電子レンジ加熱用途や耐油性の観点からは、ポリスチレン系樹脂とポリオレフィン系樹脂との多層フィルムやポリオレフィン系樹脂フィルムを用いることが好ましく、これらの無延伸フィルムを好適に用いることができる。なお、ポリオレフィン系樹脂フィルムとしては、接着剤をコーティングしたものを好適に用いることができる。
【0024】
上記熱可塑性樹脂フィルムを発泡シートに積層接着する方法としては、本発明の所期の目的を達成できるものであれば良く、例えば、加熱したロール等により発泡シートと熱可塑性樹脂フィルムとを熱融着させる熱ラミネート方式、発泡シートに溶融樹脂を介して熱可塑性樹脂フィルムを積層接着する押出ラミネート方式、また、熱可塑性樹脂フィルムの片面に接着剤をコーティングして発泡シートに積層接着する方式等を選択的に採用することができる。なお、熱可塑性樹脂層は複数層積層すること等により多層構造としてもよい。
【0025】
多層発泡シートの片面当たりの熱可塑性樹脂フィルム層の厚みは10〜60μmである。熱可塑性樹脂フィルム層の厚みが薄すぎると、多層発泡シートの表面粗さを小さくすることができなくなるおそれがある。また、熱成形による発泡シートの二次発泡の影響により、得られる成形体の表面粗さが大きくなり、表面平滑性が低下するおそれがある。一方、熱可塑性樹脂フィルム層の厚みが厚すぎると、多層発泡シート全体の質量が大きくなり、軽量性、省資源性、コスト性が損なわれるおそれがある。上記観点から、熱可塑性樹脂フィルム層の厚みの下限は12μmであることが好ましく、より好ましくは14μm、さらに好ましくは16μmである。また、熱可塑性樹脂フィルム層の厚みの上限は50μmであることが好ましく、より好ましくは45μmである。なお、多層発泡シートに積層された熱可塑性樹脂フィルム層の厚みを顕微鏡観察等により直接測定することが困難なときは、フィルム層の単位面積当たりの質量であるフィルム層の坪量を、フィルム層を構成する樹脂の密度で除することで求めることができる。
【0026】
本発明の多層発泡シートの厚みは0.5〜2.0mmの範囲である。多層発泡シートの厚みが薄すぎると、熱成形により得られる成形体の強度や断熱性が不足するおそれがある。一方、多層発泡シートの厚みが厚すぎると、熱成形時に熱の伝わりが悪くなることで、金型形状の再現性が低下し、表面平滑性が良好であると共に、シャープな成形体が得られなくなるおそれがある。また、仕切り部や嵌合部等の複雑な形状を有する成形体を得る際に、仕切り部や嵌合部等で多層発泡シートに裂けが発生しやすくなるため、容器形状の設計上の制限を受けやすくなるおそれがある。上記の観点から、多層発泡シートの厚みは0.6〜1.8mmの範囲がより好ましく、更に好ましくは0.6〜1.6mmである。
【0027】
本発明の多層発泡シートにおいては、多層発泡シートのフィルム層側の表面から厚み方向に200μmまでの部分である表層部の見掛け密度Bが多層発泡シートの見掛け密度Aよりも高く、かつ320kg/m
3以上である。上記見掛け密度Bが低すぎると、熱ラミネート等により発泡シートに樹脂層を積層接着する際に、積層する樹脂層の熱による発泡シート表層部の再発泡の影響を受けやすくなることで、多層発泡シートの表面粗さが大きくなるおそれがある。また、熱成形時において、発泡シート表層部の二次発泡の影響を受けやすくなることで、得られる成形体の表面粗さが大きくなり、表面平滑性が低下するおそれがある。上記観点から、多層発泡シートの表層部の見掛け密度Bは340kg/m
3以上であることがより好ましく、さらに好ましくは360kg/m
3以上である。また、その上限は、概ね800kg/m
3であることが好ましい。また、金型形状の再現性と表面平滑性とのバランスの観点から、多層発泡シートの見掛け密度Aに対する、多層発泡シートの表層部の見掛け密度Bの比は1.1〜2.3であることが好ましく、より好ましくは1.2〜2.2であり、さらに好ましくは1.2〜2.0である。
【0028】
また、多層発泡シートにおいて、多層発泡シートのフィルム層側の表面から厚み方向に200μmまでの部分である表層部に残存する発泡剤の量(表層部の発泡剤の含有量)が1質量%以下であることが好ましい。上記部分に残存する発泡剤の量を1質量%以下とすることで、加熱成形による発泡シートの表層部における二次発泡の影響が軽減され、表面平滑性が良好な成形体をより安定して得ることができる。上記観点から、上記部分に残存する発泡剤の量が0.9質量%以下であることが好ましい。また、上記部分に残存する発泡剤の量の下限は、概ね0.2質量%であることが好ましい。
【0029】
一方、多層発泡シートの発泡剤の含有量は、成形性や得られる成形体の表面平滑性の観点から、概ね0.5〜3.0質量%とすることが好ましく、より好ましくは0.5〜2.0質量%である。また、多層発泡シートの発泡剤の含有量が、多層発泡シートの表層部の発泡剤の含有量よりも多いことが好ましい。
【0030】
多層発泡シートの発泡剤の含有量(質量%)の測定においては、まず、多層発泡シートから切り分けた測定サンプルをトルエンを入れた蓋付きの試料ビンの中に入れて攪拌し、多層発泡シート中の発泡剤をトルエンに溶解させた後、発泡剤を溶解したトルエンをマイクロシリンジで採取する。その後、採取したトルエンをガスクロマトグラフィーによる内部標準法により測定することで、発泡剤の含有量を求めることができる。
【0031】
本発明の多層発泡シートにおいて、熱可塑性樹脂フィルム層側の表面の算術平均粗さRaが1.5μm以下である。上記表面粗さが大きすぎると、熱成形により表面平滑性に優れる成形体を得ることが困難となる。上記観点から、多層発泡シートの算術平均粗さRaは1.2μm以下であることが好ましく、より好ましくは1.0μm以下、さらに好ましくは0.9μm以下である。
【0032】
本発明における表面粗さとは算術平均粗さRaをいい、表面粗さ計を用いてJIS−B0601(1994)に準じて、多層発泡シートについて測定した値である。表面粗さ計としては一般に使用されているものでよく、例えば、(株)小坂研究所製のサーフコーダSE1700α等が挙げられる。算術平均粗さの測定は、多層発泡シートの押出方向に沿って、カットオフ値の3倍以上の測定距離を計測速度0.5mm/秒以下で5回測定し、その算術平均値を求める。なお、カットオフ値は0.8mmとする。上記測定を、多層発泡シートの幅方向における等間隔の10箇所について行い、それらの算術平均値を多層積層シートの表面粗さとする。また、後述する基材シートの表面粗さについても同様に測定する。
【0033】
また、本発明の多層発泡シートが、発泡層と、発泡層の片面に積層されている熱可塑性樹脂フィルム層とを有する構成においては、多層発泡シートの見掛け密度Aに対するポリスチレン系樹脂発泡シートの見掛け密度Cの比が0.75以上1.0未満であることが好ましい。これらの見掛け密度の関係を上記範囲とすることで、樹脂層の積層量を低減でき、軽量性、省資源性、コスト性に優れた成形体を得ることができる。上記観点から、これらの見掛け密度の比の下限は0.80であることがより好ましい。
【0034】
同様な観点から、本発明の多層発泡シートが、発泡層と、発泡層の両面に積層接着されている熱可塑性樹脂フィルム層とを有する構成においては、多層発泡シートの見掛け密度Aに対する発泡シートの見掛け密度Cの比が0.60以上1.0未満であることが好ましい。また、これらの見掛け密度の比の下限は、0.70であることがより好ましく、更に好ましくは0.75、特に好ましくは0.80である。
【0035】
本発明の多層発泡シートにおいては、基材シートを用いて製造することができる。ここで、基材シートとは、ポリスチレン系樹脂発泡シートや、共押出により積層接着された熱可塑性樹脂フィルム層Xを有するポリスチレン系樹脂発泡シートを意味する。フィルム層Xを有する発泡シートを用いる場合、フィルム層Xの表面に熱ラミネート等により積層接着される熱可塑性樹脂フィルムを熱可塑性樹脂フィルム層Yともいう。
【0036】
本発明の多層発泡シートは、フィルム層が積層接着される面の表面粗さが4μm以下である基材シートを用いて製造することが好ましい。基材シートの表面粗さを上記範囲とすることで、厚みの薄い樹脂層を積層した場合であっても、多層発泡シートの表面粗さを小さくすることができる。上記観点から、基材シートの表面粗さは3.5μm以下であることが好ましい。
【0037】
また、本発明の多層発泡シートは、フィルム層が積層接着される面の表面から厚み方向に200μmまでの部分である表層部の見掛け密度が基材シートの見掛け密度よりも高く、かつ300kg/m
3以上である基材シートを用いて製造することが好ましい。基材シートの表層部の見掛け密度を特定範囲とすることで、熱ラミネート等により基材シートに樹脂層を積層接着する際に、積層する樹脂層の熱による基材シート表層部の再発泡の影響を軽減することができる。また、熱成形時において、基材シート表層部の二次発泡の影響を軽減することができるため、樹脂層の厚みが薄い場合であっても、表面平滑性に優れる成形体を得ることができる。上記観点から、基材シートの表層部の見掛け密度は320kg/m
3以上であることがより好ましい。また、その上限は、概ね600kg/m
3であることが好ましい。
【0038】
本発明において、熱可塑性樹脂層が積層接着される面の多層発泡シートの表層部の見掛け密度を高めると共に、多層発泡シートの表面粗さを小さくする観点から、熱可塑性フィルム層が、発泡層に共押出により積層接着されている熱可塑性樹脂フィルム層Xと、フィルム層Xの表面に熱ラミネート又は押出ラミネートにより積層接着されている熱可塑性樹脂フィルム層Yとからなることが好ましい。この場合、熱可塑性樹脂フィルム層Xは、厚みが概ね20μm以下であり、原料としてはポリスチレン系樹脂発泡シートに用いられるポリスチレン系樹脂と同様のものを用いることができるが、発泡シートと同種のポリスチレン系樹脂を用いることが好ましい。特に、得られる基材シートの表面粗さを小さくする観点から、発泡シートと熱可塑性樹脂フィルム層Xとがポリスチレンにより構成されることが好ましい。
【0039】
共押出法を用いることで、フィルム層Xを発泡シートに薄くかつ均一に積層することができる。また、発泡シートの形成とフィルム層Xの積層とが同時に行われることにより、発泡シートの見掛け密度が比較的低い場合であっても、表面粗さの小さい基材シートを安定して得ることができる。
【0040】
なお、基材シートがフィルム層Xを有する場合、基材シートにおけるフィルム層Xと基材シートに積層接着される熱可塑性樹脂フィルム層Yとの厚みの合計を多層発泡シートにおける熱可塑性樹脂フィルム層の厚みとする。上記したように、この場合の熱可塑性樹脂フィルム層の厚み(フィルム層Xとフィルム層Yとの厚みの合計)は10〜60μmである。
【0041】
本発明において、ポリスチレン系樹脂発泡シートの少なくとも片面に共押出によりフィルム層Xが積層接着されたシートを基材シートとして用い、そのフィルム層Xにさらにフィルム層Yを熱ラミネート等により積層接着することで、積層されるフィルム層Yの熱による発泡シート表層部の再発泡の影響を低減することができ、表面粗さの小さい多層発泡シートを安定して得ることができる。また、熱成形時においても、ポリスチレン系樹脂発泡シートに直接熱可塑性樹脂フィルム層を積層接着する場合に比べて、発泡シート表層部の二次発泡の影響を受けにくくなり、表面粗さの小さい成形体を得ることができる。
【0042】
さらに、前述の共押出法にて製造される基材シートにおいては、共押出されるフィルム層Xを構成するポリスチレン系樹脂のメルトフローレイトが10g/10min以上であることが好ましく、より好ましくは15g/10min以上である。共押出されるフィルム層Xのメルトフローレイトを上記範囲とすることで、共押出の際に、ポリスチレン系樹脂を過度に高温状態とすることなく、発泡シートに均一に積層することができるため、基材シートの表面粗さを小さくすることができると共に、ポリスチレン系樹脂発泡シートの独立気泡率の低下を抑制することができる。なお、フィルム層Xのメルトフローレイトの上限は、概ね30g/10minである。
【0043】
なお、上記のメルトフローレイトは、JIS K 7210(1999)の試験方法A法により測定されるメルトマスフローレイトを意味し、試験温度200℃、荷重5kgの条件を採用する。
【0044】
次に、本発明の多層発泡シートの製造方法の好ましい実施形態について説明する。本発明の多層発泡シートの製造では、まず、ポリスチレン系樹脂発泡シート又はポリスチレン系樹脂発泡シートとポリスチレン系樹脂フィルム層Xを共押出した基材シートを製造する。基材シートは、従来公知の押出発泡成形により製造することができる。
【0045】
ポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法としては、まず、原料のポリスチレン系樹脂及び、必要に応じて添加される添加剤等をタンデム押出機に供給し、一段目の押出機にて所定の温度で溶融した後、発泡剤を圧入し、二段目の押出機にて所定の温度まで冷却を行い、押出機の先端に設けられたサーキュラーダイより筒状に押出して発泡させる。そして、サーキュラーダイから押出された筒状発泡体を冷却機能を備えた冷却筒に沿わせて引取りながら冷却した後、二枚に切り開くことで、所定の寸法のポリスチレン系樹脂発泡シートを得ることができる。
【0046】
ポリスチレン系樹脂発泡シートの製造においては、多層発泡シートの表層部の見掛け密度や表面粗さを特定範囲とするために、サーキュラーダイから押出された直後の筒状発泡体に冷却エアーを当てて冷却することで、ポリスチレン系樹脂発泡シートの表層部の見掛け密度を高め、かつ表層部の気泡の成長を抑制することが好ましい。
【0047】
なお、得られたポリスチレン系樹脂発泡シートは所定の条件で養生する。養生の条件としては、例えば、25℃の温度で20日間程度が考慮される。
【0048】
また、ポリスチレン系樹脂発泡シートとポリスチレン系樹脂フィルム層Xを共押出した基材シートの製造方法としては、まず、ポリスチレン系樹脂発泡シート(発泡層)を形成するために、原料のポリスチレン系樹脂をタンデム押出機に供給し、一段目の押出機にて所定の温度で溶融させた後、発泡剤を圧入し、二段目の押出機にて所定の温度まで冷却を行い、押出機先端に設けられた共押出構造を備えるサーキュラーダイに供給する。一方、ポリスチレン系樹脂フィルム層X(非発泡層)を形成するために、原料のポリスチレン系樹脂を押出機に供給し、所定の温度にて溶融させた後、共押出構造を備えるサーキュラーダイに供給する。そして、サーキュラーダイ内でポリスチレン系樹脂発泡シートとなる発泡層形成用樹脂溶融物の少なくとも片面に、ポリスチレン系樹脂フィルム層Xとなる非発泡層形成用樹脂溶融物を積層し、筒状に押出して発泡層形成用樹脂溶融物を発泡させる。そして、サーキュラーダイから押出された筒状発泡体を冷却機能を備えた冷却筒に沿わせて引取りながら冷却した後、二枚に切り開くことで、所定の寸法の基材シートを得ることができる。
【0049】
共押出により積層接着されたポリスチレン系フィルム樹脂層Xを有するポリスチレン系樹脂発泡シートの製造においても、多層発泡シートの表層部の見掛け密度や表面粗さを特定範囲とするために、サーキュラーダイから押出された直後の筒状発泡体に冷却エアーを当てて冷却することで、ポリスチレン系樹脂発泡層の表層部すなわち共押出によりポリスチレン系樹脂フィルム層Xが積層される面の発泡シートの見掛け密度を高めると共に、ポリスチレン系樹脂発泡層の表層部の気泡の成長を抑制することが好ましい。
【0050】
なお、得られた基材シートは、上記のポリスチレン系樹脂発泡シートと同様の条件にて養生を行う。
【0051】
環状ダイから押出された筒状発泡体を冷却する冷却エアーの風量は、基材シートの表層部の見掛け密度が前記範囲内となる量であれば特に制限されるものではないが、発泡シート片面に対して発泡シートの発泡倍率1倍当り概ね0.03〜0.07m
3/m
2とすることが好ましい。なお、発泡倍率とは、発泡シートに用いられる非発泡状態の樹脂の密度を発泡シートの見掛け密度で除した値とする。
【0052】
また、多層発泡シートの表層部に残存する発泡剤の量を前記範囲内とする方法としては、養生期間を長く取ること等で調整することが可能であるが、生産性を高める観点から、発泡シートを形成するためのポリスチレン系樹脂に対する発泡剤の添加量を2質量%以下として、基材シートを製造することが好ましい。
【0053】
本発明の多層発泡シートの製造においては、ポリスチレン系樹脂発泡シート又は共押出により積層接着された熱可塑性樹脂フィルム層Xを有するポリスチレン系樹脂発泡シートに熱可塑性樹脂フィルム層を積層接着する。この際、フィルム層が積層接着される面の基材シートの表層部の見掛け密度、具体的には、基材シートの表面から厚み方向に200μmまでの部分の見掛け密度が、基材シートの見掛け密度よりも高く、かつ300kg/m
3以上であることが好ましい。これにより、多層発泡シートの表層部の見掛け密度を高めることができる。また、フィルム層が積層接着される面の基材シートの表面粗さが4μm以下であることが好ましい。これにより、多層発泡シートの表面粗さを小さくすることができる。
【0054】
基材シートに対する熱可塑性樹脂フィルム層の積層接着の方法としては特に限定されるものではなく、前記したような種々の方法を採用することができるが、樹脂層の厚みを薄くしつつ、多層発泡シートの表面粗さを小さくする観点から、熱ラミネート方式を用いることが好ましい。
【0055】
上記の製造方法により、本発明の多層発泡シートを得ることができる。
【0056】
また、多層発泡シートの熱成形方法としては、真空成形や圧空成形、更にこれらの応用としてフリードローイング成形、プラグ・アンド・リッジ成形、リッジ成形、マッチド・モールド成形、ストレート成形、ドレープ成形、リバースドロー成形、エアスリップ成形、プラグアシスト成形、プラグアシストリバースドロー成形等やこれらを組み合わせた成形方法等を用いることができる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明の多層発泡シートについて、実施例により具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0058】
実施例1
ポリスチレン樹脂HH102(PSジャパン製メルトフローレイト2.6g/10min)をタンデム押出機に供給し、一段目の押出機にて230℃の温度で溶融した後、発泡剤のブタンS(ジクシス製)を1.4wt%圧入し、二段目の押出機にて170℃まで冷却を行い、押出機の先端に設けられたスリット間隙0.4mm、幅口径220mmのサーキュラーダイより毎時215kgで筒状に押出して発泡させた。そして、サーキュラーダイから押出された筒状発泡体を冷却機能を備えた直径640mmの冷却筒に沿わせて引取りながら冷却した後、二枚に切り開いて、各々厚さ1.0mm、見掛け密度350kg/m
3、巾1045mmのポリスチレン系樹脂発泡シートを得た。なお、サーキュラーダイを出た直後、冷却筒側(筒状発泡体内側)から1.7m
3/min(23℃)、筒状発泡体外側から1.6m
3/min(23℃)のエアーを当てて発泡シートの冷却を促進した。得られた発泡シートを25℃の温度で20日間養生した後、発泡シートの冷却筒で冷却されていない面に40μmのポリスチレンフィルム(東和化工製、無延伸インフレーションフィルム)を200℃で温調した加熱ロールにて20m/minの速度で熱融着することで積層し、多層発泡シートを得た。
【0059】
実施例2
発泡シートの両面に20μmのポリスチレンフィルム(東和化工製、無延伸インフレーションフィルム)を積層した以外はすべて実施例1と同様に行い、両面に非発泡層を有する多層発泡シートを得た。
【0060】
実施例3
まず、発泡層を形成するためにポリスチレン樹脂G9305(PSジャパン製メルトフローレイト1.5g/10min)をタンデム押出機に供給し、一段目の押出機にて230℃の温度で溶融した後、発泡剤のブタンS(ジクシス製)を1.5wt%圧入し、二段目の押出機にて168℃まで冷却を行い306kg/Hrで押出機先端に設けられたスリット間隙0.71mm、幅口径220mmで共押出構造を備えるサーキュラーダイに供給した。一方、非発泡層を形成するためにポリスチレン樹脂679(PSジャパン製メルトフローレイト18g/10min)を押出機に供給し、190℃にて共押出構造を備えるサーキュラーダイに24kg/Hrで供給した。そして、サーキュラーダイ内で発泡シートとなる発泡層形成用樹脂溶融物の片面に、ポリスチレン系樹脂層となる非発泡層形成用樹脂溶融物を積層し、筒状に押出して発泡層形成用樹脂溶融物を発泡させた。そして、サーキュラーダイから押出された筒状発泡体を冷却機能を備えた直径640mmの冷却筒に沿わせて引取りながら冷却した後、二枚に切り開くことで、各々厚さ1.1mm、見掛け密度217kg/m
3、巾1045mmのポリスチレン系樹脂層(厚み:17μm)を有するポリスチレン系樹脂発泡シート(基材シート)を得た。なお、サーキュラーダイを出た直後、冷却筒側(筒状発泡体内側)から3.5m
3/min(30℃)、筒状発泡体外側から3.2m
3/min(20℃)のエアーを当てて基材シートの冷却を促進した。また、ポリスチレン系樹脂層は発泡シートの冷却筒で冷却されていない面に積層した。得られた基材シートを25℃の温度で20日間養生した後、ポリスチレン系樹脂層を積層した面に20μmのポリスチレンフィルム(東和化工製、無延伸インフレーションフィルム)を200℃で温調した加熱ロールにて20m/minの速度で熱融着することで積層し、多層発泡シートを得た。
【0061】
実施例4
発泡層を形成するためのポリスチレン樹脂にG9001(PSジャパン製メルトフローレイト1.5g/10min)を用い、二段目の押出機にて168℃まで冷却を行ったこと、加熱ロールにて積層する熱可塑性樹脂フィルムとして、接着剤をコーティングした25μmのポリプロピレンフィルム(中本パックス製)を用いたこと以外はすべて実施例3と同様に行い、多層発泡シートを得た。
【0062】
比較例1
ポリスチレン樹脂HH102(PSジャパン製メルトフローレイト2.6g/10min)をタンデム押出機に供給し、一段目の押出機にて230℃の温度で溶融した後、発泡剤のブタンS(ジクシス製)を1.4wt%圧入し、二段目の押出機にて166℃まで冷却を行い、押出機の先端に設けられたスリット間隙0.4mm、幅口径220mmのサーキュラーダイより毎時200kgで筒状に押出して発泡させた。そして、サーキュラーダイから押出された筒状発泡体を冷却機能を備えた直径640mmの冷却筒に沿わせて引取りながら冷却した後、二枚に切り開いて、各々厚さ1.0mm、見掛け密度350kg/m
3、巾1045mmのポリスチレン系樹脂発泡シートを得た。なお、サーキュラーダイを出た直後、冷却筒側(筒状発泡体内側)から1.0m
3/min(23℃)、筒状発泡体外側から1.0m
3/min(23℃)のエアーを当てて冷却を促進した。得られた発泡シートを25℃の温度で20日間養生した後、発泡シートの冷却筒で冷却されていない面に40μmのポリスチレンフィルム(東和化工製、無延伸インフレーションフィルム)を200℃で温調した加熱ロールにて20m/minの速度で熱融着することで積層し、多層発泡シートを得た。
【0063】
比較例2
ポリスチレン樹脂HH102(PSジャパン製メルトフローレイト2.6g/10min)をタンデム押出機に供給し、一段目の押出機にて230℃の温度で溶融した後、発泡剤のブタンS(ジクシス製)を2.4wt%圧入し、二段目の押出機にて158℃まで冷却を行い、押出機の先端に設けられたスリット間隙0.4mm、幅口径220mmのサーキュラーダイより毎時195kgで筒状に押出して発泡させた。そして、サーキュラーダイから押出された筒状発泡体を冷却機能を備えた直径640mmの冷却筒に沿わせて引取りながら冷却した後、二枚に切り開いて、各々厚さ1.2mm、見掛け密度210kg/m
3、巾1045mmの基材となるポリスチレン系樹脂発泡シートを得た。なお、サーキュラーダイを出た直後、冷却筒側(筒状発泡体内側)から1.4m
3/min(20℃)、筒状発泡体外側から1.5m
3/min(20℃)のエアーを当てて発泡シートの冷却を促進した。得られた発泡シートを25℃の温度で20日間養生した後、発泡シートの冷却筒で冷却されていない面に40μmのポリスチレンフィルム(東和化工製、無延伸インフレーションフィルム)を200℃で温調した加熱ロールにて20m/minの速度で熱融着することで積層し、多層発泡シートを得た。
【0064】
比較例3
ポリスチレン樹脂HH102(PSジャパン製メルトフローレイト2.6g/10min)をタンデム押出機に供給し、一段目の押出機にて230℃の温度で溶融した後、発泡剤のブタンS(ジクシス製)を2.4wt%圧入し、二段目の押出機にて158℃まで冷却を行い、押出機の先端に設けられたスリット間隙0.4mm、幅口径220mmのサーキュラーダイより毎時195kgで筒状に押出して発泡させた。そして、サーキュラーダイから押出された筒状発泡体を冷却機能を備えた直径640mmの冷却筒に沿わせて引取りながら冷却した後、二枚に切り開いて、各々厚さ1.2mm、見掛け密度210kg/m
3、巾1045mmのポリスチレン系樹脂発泡シートを得た。なお、サーキュラーダイを出た直後、冷却筒側(筒状発泡体内側)から1.4m
3/min(20℃)、筒状発泡体外側から1.5m
3/min(20℃)のエアーを当てて発泡シートの冷却を促進した。得られた発泡シートを25℃の温度で20日間養生した後、発泡シートの冷却筒で冷却されていない面に25μmのポリスチレンフィルム(東和化工製、無延伸インフレーションフィルム)を250℃に加熱溶融したハイインパクトポリスチレン475D(PSジャパン製、メルトフローレイト2.0g/10min)100μmを介して20m/minの速度で押出ラミネートを行うことで積層し、多層発泡シートを得た。
【0065】
次に、実施例1〜4、比較例1〜3で得られた多層発泡シートを25℃の温度で3日間養生した後、浅野研究所製の成形機(品番 FKS−0631−10)を用いてマッチモールド真空成形により熱成形し、フランジ部及び仕切り部を有する上面視長方形状の容器(食品トレー)を得た。該容器の外形寸法は、容器の長辺×短辺(上面視)が21cm×15cm、容器の高さが3cm、容器の厚み(成形後の多層シートの厚み)が1.0mmである。なお、加熱条件はヒータ温度330℃、加熱時間8秒±1秒の条件とした。
【0066】
実施例1〜4、比較例1〜3の基材シート、得られた多層発泡シート、及び成形体の性状を表1に示す。なお、表1における物性の測定や評価は次のように行った。
(基材シート及び多層発泡シートの厚み、坪量、見掛け密度)
まず、多層発泡シート及び基材シートを幅方向に亘って押出方向(MD)に100mmの長さに切り出し、さらに押出方向に直交する幅方向(TD)の両端部を25mmずつ切除し、幅方向中央部1000mmの部分を試験片とした。この試験片をさらに幅方向に10等分し、その中央付近の厚みをマイクロメータにより測定した。各測定点における厚みを算術平均した値を多層発泡シートまたは基材シートの厚みとした。また、該試験片の質量を測定し、その質量を試験片の面積(具体的には、1000mm×100mm)で除し、g/m
2に単位換算して多層発泡シート及び基材シートの坪量とした。さらに、該坪量を上記厚みで除し、kg/cm
3に単位換算して基材シートの見掛け密度及び多層発泡シートの見掛け密度Aとした。
(基材シートの被積層面、多層発泡シート及び成形体のフランジ部の表面粗さ)
表面粗さは、JIS−B0601(1994)に準じて小坂研究所社製のサーフコーダSE1700αを使用して測定した。具体的には、多層発泡シートまたは基材シートを20mm×20mm
の大きさに切り出して試験片を調製し、この試験片を水平な台に静置し、先端曲率半径が2μmの触針の先端を試験片の表面(多層発泡シートにおける熱可塑性樹脂フィルム層側の面あるいは基材シートにおける熱可塑性樹脂フィルム層が積層される面)に当接させて、試験片を
0.5mm/sにて多層発泡シートまたは基材シートの押出方向に移動させ、8mmの測定距離を5回測定し、その算術平均値を求めた。なお、測定倍率は縦:500、横:2とし、カットオフ値は0.8mmとした。上記測定を、試験シートの幅方向における等間隔の10箇所から切り出した試験片に対して行い、それらの算術平均値を多層発泡シートまたは基材シートの表面粗さRa(μm)とした。
【0067】
また、成形体のフランジ部の表面粗さの測定においては、まず、フランジ部の平坦な部分から15mm×15mmの試験片を切り出した。次に、測定装置の触針が試験片の中心部を通るようにして試験片の表面粗さを測定した。この際の測定条件は、多層発泡シート等の測定条件と同様とした。上記測定を試験片の中心部を基準として60°ずつ回転させた3方向に対して行い、3方向の算術平均値を成形体のフランジ部の表面粗さとした。
(基材シート及び多層発泡シートの表層部の見掛け密度)
基材シートの被積層面及び多層発泡シートの熱可塑性樹脂フィルム層側の表面から厚み方向に200μmの部分をスライスし、長さ(シートの押出方向)20mm×幅(シートの押出方向と直行する幅方向)5mmの試験片に切り揃えると共に、試験片の質量と厚みをゲージにより測定した。試験片の質量を試験片の体積(幅×長さ×厚み)で除し、単位換算して試験片の見掛け密度を求めた。上記測定を、シートの幅方向における等間隔の10箇所について行い、それらの算術平均値を、基材シート及び多層発泡シートの表層部の見掛け密度(基材シートの被積層面の表層密度、多層発泡シートの積層面の表層密度)とした。
(多層発泡シートにおける発泡層の厚み)
上記の方法により求めた多層発泡シートの厚みから、非発泡層(熱可塑性樹脂フィルム層)の厚みを減ずることで、発泡層(多層発泡シートにおける発泡シート部分)の厚みを求めた。
(多層発泡シートにおける非発泡層の坪量)
非発泡層の厚みに非発泡層を構成する樹脂の密度を乗じ、単位換算することで非発泡層の坪量を求めた。また、基材シートとして、共押出により積層接着された熱可塑性樹脂フィルム層Xを有するポリスチレン系樹脂発泡シートを用いた場合においては、基材シートの坪量と、押出時の発泡層とフィルム層Xとの吐出量比とから求めたフィルム層Xの坪量に、フィルム層Yの坪量を加することで非発泡層の坪量を求めた。
(多層発泡シートにおける発泡層の見掛け密度C)
多層発泡シートの坪量から非発泡層の坪量を減じることで求めた発泡層の坪量を、上記の方法により求めた発泡層の厚みで除することで、発泡層の見掛け密度Cを求めた。
(多層発泡シートの表層部の発泡剤の含有量)
多層発泡シートの熱可塑性樹脂フィルム層側の表面から厚み方向に200μmの部分をスライスし、上記の方法によりスライスした部分に含まれる発泡剤をトルエンに溶解させた後、測定機として(株)島津製作所製GC−14Bを用いて、次の条件で多層発泡シートの表層部に残存する発泡剤の量を測定した。なお、上記操作は食品トレーに熱成形する直前の多層発泡シートに対して行った。
(a)カラム:(株)島津製作所製カラムSilicone DC550 20% on Chromosorb W AW−DMCS 60/80メッシュ、4.1m×3.2mm
(b)カラム温度:40℃
(c)検出器温度:180℃
(d)注入口温度:180℃
(e)検出器:FID
(f)キャリアガス:窒素140ml/min.
(g)試料量:2μl
(h)内部標準:シクロペンタン
(成形性)
成形性は目視により以下の基準で評価した。
○・・・成形性良好(金型形状の再現性良好で、シャープな成形体が得られる)
×・・・不具合あり
【0068】
【表1】
【0069】
実施例にて得られた多層発泡シートは、非発泡層の積層量が少ないにもかかわらず表面粗さが小さく、高度な表面平滑性を発現している。一方、比較例1や2では少ない非発泡層の積層量では高度な表面平滑性を達成できず、比較例3では高度な表面平滑性を達成するために多量の非発泡層を積層する必要があることが確認された。
【0070】
これらの結果から、本発明の多層発泡シートは、多層発泡シートの厚み、見掛け密度を本発明で規定する範囲とするとともに、熱可塑性樹脂フィルム層側の表層部を規定密度以上とし、多層発泡シートの熱可塑性樹脂フィルム層側の表面粗さを規定値以下とすることにより、熱可塑性樹脂フィルム層の厚みが薄くても、表面平滑性に優れる積層発泡シートを得ることができ、かつ熱成形により高い表面平滑性を有すると共に、金型形状通りの成形体が得られることが確認された。