(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る実施形態について適宜図面を参照して説明するが、本実施形態は以下の内容に限定されるものではなく、本発明の範囲内において適宜変更して実施可能である。
本発明の細胞培養培地は、刺激応答性高分子との結合体で構成されていることを主な特徴とする。また、本発明の細胞培養装置及び細胞培養方法は、この細胞培養培地を使用したことを主な特徴とする。
まず、本発明の実施形態に係る細胞培養装置の全体構成について説明した後に、この細胞培養装置に使用される細胞培養培地及び細胞培養方法について説明する。
【0012】
≪細胞培養装置≫
図1は、本実施形態に係る細胞培養装置1の構成説明図である。
図1に示すように、細胞培養装置1は、培養槽2と、添加培地槽3と、刺激付与機構4と、分離機構5と、リザーバ6と、精製機構7を主に備えて構成されている。
【0013】
<培養槽>
培養槽2は、添加培地槽3から供給される液体培地(培養液)である添加培地12を収容してこの細胞培養培地8にて細胞を培養するものである。培養槽2の材質としては、例えばステンレス、アルミニウムなどの金属、ポリプロピレン、ポリスチレンなどの合成樹脂、ガラスなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。細胞培養培地8については後に詳しく説明する。
培養槽2には、培養槽2の内容物を攪拌する攪拌装置9が配置されている。この攪拌装置9は、培養槽2に収容される内容物を均一になるように混合する。
【0014】
また、培養槽2には、培養槽2に収容される内容物に、酸素、窒素、二酸化炭素などの気体を送り込むスパージャなどの通気手段11が配置されている。図示しないが培養槽2内の上部空間にも、通気手段が配置されている。これらによる培養槽2内への通気条件としては、細胞の培養環境に応じて気体の種類、2種以上の気体を使用する場合にあってはそれらの割合、通気量などが設定される。
【0015】
また、図示しないが、培養槽2には、貯留する細胞培養培地8を所定の温度(培養好適温度)に維持する温度調節機構が設けられている。また、培養槽2には、例えば、溶存酸素濃度、溶存炭酸ガス濃度、pH、温度などの計測装置、細胞代謝物(老廃物)としてのアンモニア、乳酸、グルタミン酸などの濃度測定装置を配置することもできる。
なお、本実施形態での培養槽2は、外部からの雑菌などの侵入を防ぐために、ゲージ圧で0.01〜0.05MPa程度に加圧されている。
【0016】
<添加培地槽>
添加培地槽3は、培養槽2と接続され、前記のように液体培地(培養液)である添加培地12を培養槽2に供給する。添加培地12の組成は、例えば後記するように培養槽2から有用物質とともに抜き出された細胞培養培地8のうち、後記する分離機構5によって分離されるろ過液の組成から老廃物などの不要物を除いた組成と同様に設定することができる。
なお、本実施形態での添加培地槽3から培養槽2への添加培地12の供給量は、分離機構5によって分離される前記のろ過液の液量と同量に設定することができる。
添加培地槽3の材質としては、例えばステンレス、アルミニウムなどの金属、ポリプロピレン、ポリスチレンなどの合成樹脂、ガラスなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0017】
<刺激付与機構>
刺激付与機構4は、培養槽2に貯留された細胞培養培地8を分離機構5に送り出す配管P1に近接させて配置されている。なお、
図1中、符号20aは配管P1に設けられた送液ポンプである。
この刺激付与機構4は、配管P1を通流する細胞培養培地8に所定の刺激を付与するように構成されている。具体的には、細胞培養培地8に含まれる後記する結合体21A(
図2参照)の刺激応答性高分子22(
図2参照)に刺激を付与する。
【0018】
刺激付与機構4による刺激は、刺激応答性高分子22(
図2参照)に構造変化、電位変化、親水親油変化などの応答変化を生じさせる。
この刺激としては、後記する刺激応答性高分子22(
図2参照)の種類、例えば温度応答性ポリマ、pH応答性ポリマ、イオン強度応答性ポリマ、光応答性ポリマ、磁界応答性ポリマ、電界応答性ポリマ、力学的刺激応答性ポリマなどに応じて適宜に選択することができる。つまり、刺激としては、例えば温度変化、pH変化、イオン強度変化、光強度変化、磁界強度変化、電界強度変化、力学的刺激変化などが挙げられる。
【0019】
本実施形態の細胞培養装置1では、前記の刺激応答性高分子22(
図2参照)として、温度応答性ポリマを想定している。したがって、本実施形態での刺激付与機構4としては、配管P1を通流する細胞培養培地8を後記する所定温度(37℃程度)に調節する温度調節機構(例えば、ペルティエ素子、ヒータなど)で構成されている。
なお、本発明での細胞培養装置1における刺激付与機構4としては、温度調節機構に限定されるものではなく、前記した刺激応答性高分子22の種類に応じて、例えばpH調節機構、イオン強度調節機構、光強度調節機構、磁界強度調節機構、電界強度調節機構、力学的刺激強度調節機構などを使用することもできる。
【0020】
<分離機構>
分離機構5は、培養槽2から有用物質とともに抜き出された細胞培養培地8(液体培地)のうち、細胞(培養細胞)及び所定の培地成分(後記する結合体21A(
図2参照))をろ別し、細胞培養培地8のその他の成分をろ過液として分離する。
【0021】
本実施形態での分離機構5としては、前記の細胞(培養細胞)及び結合体21Aを透過させずに、これら以外の細胞培養培地8の他の成分を透過させる孔径を有するフィルタを使用することができる。
このような分離機構5としては、限外ろ過膜を用いた構造体が好ましい。中でも中空糸膜モジュールがより好ましい。
【0022】
分離機構5で分離された前記の細胞(培養細胞)及び結合体21Aは、配管P2を介して培養槽2に返送される。
また、分離機構5でろ過液として分離された細胞培養培地8の他の成分は、配管P3を介してリザーバ6に送り出される。なお、
図1中、符号20bは、配管P3に設けられた送液ポンプである。
細胞培養培地8の他の成分には、培養槽2の細胞の培養によって産生された有用物質、細胞代謝物(老廃物)、及び結合体21A以外の他の培地成分が含まれている。
有用物質としては、例えば抗体、酵素などのタンパク質、生理活性物質などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。なお、有用物質が細胞内に産生されるものについては、別工程で回収した細胞から分離抽出される。
【0023】
<リザーバ>
リザーバ6は、分離機構5によって分離されたろ過液23を一時的に収容する容器で構成されるリザーバ6の材質としては、例えばステンレス、アルミニウムなどの金属、ポリプロピレン、ポリスチレンなどの合成樹脂、ガラスなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
また、本実施形態でのリザーバ6は、外部からの雑菌などの侵入を防ぐために、図示しない圧力調整弁やポンプなどによって、ゲージ圧で0.01〜0.05MPa程度に加圧されている。
【0024】
<精製機構>
本実施形態の精製機構7は、配管P4によってリザーバ6と接続されている。
図1中、符号20cは、配管P4に設けられた送液ポンプである。
精製機構7は、リザーバ6から送り出されるろ過液23に含まれる有用物質を精製する。
【0025】
この精製機構7としては、例えば、アフィニティークロマトグラフ、高速液体クロマトグラフ、イオン交換クロマトグラフ、ゲルろ過クロマトグラフなどが挙げられるがこれに限定されるものではない。また、精製機構7は、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
精製機構7で精製された有用物質は、任意の溶出液で溶出され、図示しない回収容器に回収される。また、精製機構7に用いた洗浄バッファや平衡化バッファは、図示しない廃棄容器に貯留され、所定の廃棄処理を行った後に廃棄される。
【0026】
≪細胞培養培地≫
次に、本実施形態の細胞培養培地8(
図1参照)について説明する。
細胞培養培地8は、前記のように液体培地であり、所定の細胞を培養する際に必要な細胞の生育環境を形成する各種成分(培地成分)の水溶液又は水分散液で構成されている。
本実施形態での培地成分は、後記に詳しく説明するように、細胞培養培地8に含まれる少なくとも1種が、刺激応答性高分子22(
図2参照)との結合体21A(
図2参照)で構成されている。
【0027】
ちなみに、培地成分としては、例えば廃糖蜜、グルコース、フルクトース、マルトース、ショ糖、デンプン、乳糖、グリセロール、酢酸などの炭素源;コーンスティープリカー、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、アンモニウム塩、アミノ酸類などの窒素源;リン酸1ナトリウム、リン酸2ナトリウム、リン酸1カリウム、リン酸2カリウムなどのリン酸源;塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸第1鉄、硫酸第2鉄、塩化第1鉄、塩化第2鉄、クエン酸鉄、硫酸アンモニウム鉄、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸銅、塩化銅、硫酸マンガン、塩化マンガンなどの無機塩類;イオウ源;ATP、FADといった塩基や核酸;細胞増殖因子などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
このような培地成分は、培養する細胞の種類、培養によって細胞に産生させる有用物質の種類などに応じて選択され使用される。
本実施形態での細胞としては、特に制限はないが、例えば動物細胞、植物細胞、微生物細胞、藻類細胞などの生体細胞が挙げられる。
【0028】
本実施形態の細胞培養培地8は、前記したように、培地成分の少なくとも1種が、後記する刺激応答性高分子22(
図2参照)との結合体21A(
図2参照)で構成されている。中でも前記した培地成分のうちの比較的高価な細胞増殖因子と、刺激応答性高分子22との結合体21Aは、後に詳しく説明する本発明の効果を顕著に発揮するので好ましい。
【0029】
以下では、細胞培養培地8を構成する培地成分の少なくとも1種が細胞増殖因子25(
図2参照)であって、この細胞増殖因子25と刺激応答性高分子22(
図2参照)との結合体21A(
図2参照)について説明する。
【0030】
<結合体>
図2は、本発明の実施形態に係る細胞培養培地8(
図1参照)を構成する結合体21Aの模式図である。
図2に示すように、本実施形態での結合体21Aは、刺激応答性高分子22と、細胞増殖因子25(培地成分)とで構成されている。また、この結合体21Aは、後の他の実施形態で説明するように、刺激応答性高分子22と、結合因子24(
図5参照)とで構成することもできる。
なお、
図2中、符号26は、刺激応答性高分子22に導入される親水性基である。この親水性基については、刺激応答性高分子22及び細胞増殖因子25について説明した後に説明する。
【0031】
(刺激応答性高分子)
刺激応答性高分子22は、所定の刺激に対する応答変化によって、構造、電位(電荷)、親水・疎水性などの刺激応答性高分子22の性状(物理的性質、化学的性質、電気的性質など)に変化を生じるポリマである。
前記の刺激としては、例えば、温度変化、pH変化、イオン強度変化、光強度変化、磁界強度変化、電界強度変化、力学的刺激変化などが挙げられるがこれに限定されるものではない。
つまり、刺激応答性高分子22の具体例としては、前記のように、温度応答性ポリマ、pH応答性ポリマ、イオン強度応答性ポリマ、光応答性ポリマ、磁界応答性ポリマ、電界応答性ポリマ、力学的刺激応答性ポリマなどが挙げられる。
【0032】
温度応答性ポリマとしては、顕著な親水性から顕著な疎水性に転換するかまたはその逆に転換する鋭い相転移温度又は温度限界を有するものが好ましい。
溶液中における温度応答性ポリマにおいては、コンフォメーション/物理化学的特性の変化はいわゆる臨界溶液温度(CST;Critical Solution Temperature)において起こる。
【0033】
下限臨界温度(LCST;LowerCritical Soluble Temperature)を有するLCST型温度応答性ポリマは、親水性を示すLCSTより低い温度から昇温してLCSTを通過する際に立体構造が崩れて疎水性を示す。
【0034】
上限臨界温度(UCST;Upper Critical Soluble Temperature)を有するUCST型温度応答性ポリマは、疎水性を示すUCSTより低い温度から昇温してUCSTを通過する際に親水性を示す。
【0035】
本発明での刺激応答性高分子22としては、例えば双極性高分子であるスルポベタインポリマなどのUCST型温度応答性ポリマ、及び下記に例示するLCST型温度応答性ポリマのいずれをも使用することができるが、取り扱いが容易な点でLCST型温度応答性ポリマが好ましい。
【0036】
LCST型温度応答性ポリマとしては、例えばポリプロピレングリコール,ε−ポリリジン吉草酸アミド、ε−ポリリジン酪酸アミド、N−ヒドロキシペンチル−ε−ポリリジン、N−ヒドロキシブチル−ε−ポリリジン、ポリエチレングリコール、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド、ポリ−N−n−プロピルアクリルアミド、ポリ−N−n−プロピルメタクリルアミド、ポリ−N,N−ジエチルアクリルアミド、ポリ−N−エトキシエチルアクリルアミド、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルアクリルアミド、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド、ポリビニルカプロラクタム、ポリビニルメチルエーテル、ポリメタクリル酸エステルなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。これらのLCST型温度応答性ポリマは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0037】
また、LCST型温度応答性ポリマとしては、ポリアミノ酸が挙げられる。ポリアミノ酸は、直鎖状に重合したアミノ酸鎖における水素結合によって螺旋構造を形成している。
ポリアミノ酸の具体例としては、例えばグルタミン酸、アスパラギン酸、アスパラギン、リジン、グルタミン、システイン、アラニン、ロイシン、アルギニンなどのアミノ酸を重合単位とするポリペプチドからなるものが挙げられるがこれらに限定されるものではない。ポリアミノ酸は、単独重合体及び共重合体のいずれであっても構わない。これらのポリアミノ酸は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。中でも、ポリリジン、ポリグルタミン、及びポリアルギニンのうちの少なくともいずれか1つであることが好ましい。特に好ましいのはデンドリティックポリリジンである。
【0038】
本実施形態での刺激応答性高分子22(
図2参照)としての温度応答性ポリマの数平均分子量は、特に制限はないが、細胞増殖因子25(
図2参照)よりも小さい100kDa以下、好ましくは5kDa以下である。このような数平均分子量の範囲の刺激応答性高分子22を使用することで、細胞に対する細胞増殖因子25の作用機能が良好に発揮されることとなる。
【0039】
また、本実施形態での温度応答性ポリマは、熱による応答変化、つまり刺激付与の前後における構造変化が顕著となる。よって、分離機構5(
図1参照)における結合体21A(
図2参照)の分離効率が向上する。
【0040】
本実施形態での温度応答性ポリマとしては、前記のポリアミノ酸が特に好ましい。ポリアミノ酸は、温度刺激が付与された際に、螺旋構造の水素結合が切断されてアミノ酸鎖が伸長する。これにより刺激付与の前後における構造変化がより顕著となる。また、ポリアミノ酸は、刺激応答性高分子22(
図2参照)の配向制御が比較的容易であるため、細胞の受容体に対して結合し易くなる位置に細胞増殖因子25(
図2参照)を容易に導入することもできる。
【0041】
また、本実施形態での細胞培養装置1(
図1参照)は、前記のように温度応答性ポリマを刺激応答性高分子22として使用するものを想定しているが、本発明では他の刺激応答性高分子22を使用することもできる。
【0042】
他の刺激応答性高分子22としては、例えばpH応答性ポリマ、電界応答性ポリマ、光応答性ポリマ、イオン強度応答性ポリマ、磁界応答性ポリマ、力学的刺激応答性ポリマなどが挙げられる。
【0043】
pH応答性ポリマとしては、例えばポリ(メタ)アクリル酸やその塩、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどとの共重合体やその塩、マレイン酸と(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどとの共重合体やその塩、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸及びポリビニルベンゼンスルホン酸やその塩、ポリアクリルアミドアルキルスルホン酸やその塩、ポリジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドやその塩などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。これらのpH応答性ポリマは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0044】
電界応答性ポリマとしては、例えばポリアミノ置換(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリル酸アミノ置換アルキルエステル、ポリビニルピリジン、ポリビニルカルバゾール、ポリジメチルアミノスチレンなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。これらの電界応答性ポリマは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0045】
光応答性ポリマとしては、例えば異性化反応を生じさせるアゾベンゼン誘導体、スピロピラン誘導体、又はトリアリールメタン誘導体などを含んだ高分子が挙げられる。
イオン強度応答性ポリマとしては、例えばアクリルアミドが挙げられる。
磁界応答性ポリマとしては、例えば磁性ナノ粒子包含高分子などが挙げられる。
力学的刺激応答性ポリマとしては、例えばアガロースなどが挙げられる。
以上の光応答性ポリマ、イオン強度応答性ポリマ、磁界応答性ポリマ、及び力学的刺激応答性ポリマは前記の例示したものに限定されるものではない。また、光応答性ポリマ、イオン強度応答性ポリマ、磁界応答性ポリマ、及び力学的刺激応答性ポリマのそれぞれは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0046】
(細胞増殖因子[培地成分])
次に、前記した培地成分の代表例としての細胞増殖因子25(
図2参照)について説明する。
細胞培養培地8(
図1参照)に培地成分として含まれる細胞増殖因子25は、細胞培養培地8においては前記の刺激応答性高分子22(
図2参照)との結合体21A(
図2参照)を構成している。
細胞増殖因子25は、細胞培養培地8中で、所定の細胞(標的細胞)と接触した際に、細胞上に存在する受容体と特異的に吸着することで、細胞内シグナル伝達を誘引する。
【0047】
細胞増殖因子25としては、例えば上皮成長因子(EGF:Epidermal Growth Factor)、インスリン様成長因子(IGF:Insulin-like Growth Factor)、トランスフォーミング成長因子(TGF:Transforming Growth Factor)、神経成長因子(NGF:Nerve Growth Factor)、脳由来神経栄養因子(BDNF:Brain-Derived Neurotrophic Factor)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF:Vesicular Endothelial Growth Factor)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF:Granulocyte-Colony Stimulating Factor)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF:Granulocyte-Macrophage-Colony Stimulating Factor)、血小板由来成長因子(PDGF:Platelet-Derived Growth Factor)、エリスロポエチン(EPO:ErythroPOietin)、トロンボポエチン(TPO:ThromboPOietin)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF又はFGF2:basic Fibroblast Growth Factor)、肝細胞増殖因子(HGF:Hepatocyte Growth Factor)、トランスフォーミング増殖因子(TGF:Transforming Growth Factor)、骨形成タンパク質(BMP:Bone Morphogenic Protein)、ニューロトロフィン[神経栄養因子](BDNF、NGF又はNT3:Brain-Derived Neurotrophic Factor)、線維芽細胞増殖因子(FGF:Fibroblast Growth Factor)、血清、ウシ血清アルブミン(BSA:Bovine Serum Albumin)、コレステロール、インスリン、トランスフェリンなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0048】
細胞増殖因子25(
図2参照)は、刺激応答性高分子22(
図2参照)と直接結合していてもよいが、リンカー(図示省略)を介して結合していることが好ましい。リンカーを介して細胞増殖因子25を刺激応答性高分子22に結合させることによって、細胞増殖因子25の配向性に自由度が増し、細胞増殖因子25は細胞上に存在する受容体に結合することが容易になる。
【0049】
リンカーとしては、例えばビオチン−アビジン、ビオチン−ストレプトアビジン、リボフラビン−リボフラビンなどが挙げられる。中でもビオチン−アビジンが好ましい。ビオチン−アビジンは、細胞増殖因子25(
図2参照)と刺激応答性高分子22(
図2参照)とをより容易に結合させることができる。具体的には、細胞増殖因子25をビオチン化するとともに刺激応答性高分子22をビオチン化することで、アビジンを介して細胞増殖因子25と刺激応答性高分子22とが容易に結合する。
【0050】
刺激応答性高分子22(
図2参照)における細胞増殖因子25(
図2参照)の具体的な結合位置は特に制限されない。ただし、細胞増殖因子25をより確実に結合体21A(
図2参照)の外表面に露出させる観点から、刺激応答性高分子22を構成する高分子の末端に結合されることが好ましい。つまり、細胞増殖因子25との好ましい結合位置は、例えば刺激応答性高分子22を構成する高分子が直鎖状である場合には直鎖の末端であり、高分子が網目状である場合には網目の末端となる。
このような位置に細胞増殖因子25を結合させることによって、細胞増殖因子25は、より確実に結合体21Aの外表面に露出する。これにより細胞増殖因子25は、細胞培養培地8(
図1参照)中で、細胞上に存在する受容体と特異的に効率よく吸着することができる。
【0051】
細胞増殖因子25(
図2参照)を外表面に露出させる他の方法としては、例えば前記のリンカーを介して細胞増殖因子25を刺激応答性高分子22(
図2参照)に吸着させる方法が挙げられるがこれに限定されるものではない。
【0052】
また、細胞増殖因子25(
図2参照)が刺激応答性高分子22(
図2参照)を覆うように配置されることによって、細胞増殖因子25の細胞膜表面への非特異的な吸着を抑制することができる。
つまり、次に説明するように刺激応答性高分子22に由来する非特異的な吸着部分の面積を減少させることができるようになる。
【0053】
一般に、細胞は疎水性の部分に非特異的な吸着を生じやすい。このため結合体21A(
図2参照)を構成する刺激応答性高分子22(
図2参照)に疎水性の部分が多く存在すると、この疎水性の部分に細胞上の受容体以外の部分が非特異に吸着し易くなる。
【0054】
これに対して、本実施形態においては、細胞増殖因子25(
図2参照)が結合体21A(
図2参照)の外表面に露出するから、結合体21Aの細胞増殖因子25は細胞上の受容体に特異的に吸着しやすい。しかも、前記のように、結合体21Aの刺激応答性高分子22(
図2参照)における疎水性の部分の面積が低減されると、受容体以外の細胞部分に対する刺激応答性高分子22の非特異的な吸着を抑制することもできる。
【0055】
(親水性基)
次に、親水性基26(
図2参照)について説明する。
本実施形態での刺激応答性高分子22(
図2参照)においては、細胞に対する刺激応答性高分子22の非特異的な吸着を抑制するために、親水性基26が導入されている。
このような親水性基26としては、例えばヒドロキシル基、カルボキシル基、リン酸基などを含む官能基が挙げられる。
【0056】
親水性基26(
図2参照)を刺激応答性高分子22(
図2参照)に導入する方法としては、例えばエチレングリコールやその重合体(ポリエチレングリコール)、リン脂質構造を有する分子、リン酸やその重合体(ポリリン酸)などを刺激応答性高分子22に共重合やグラフト重合させる方法が挙げられるがこれに限定されるものではない。
【0057】
また、親水性基26(
図2参照)が導入された刺激応答性高分子22(
図2参照)の好ましい具体例として、次式(1)のポリアミノ酸が挙げられる。
【0059】
(ただし、式(1)中、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1から3の低級アルキル基であり、n及びmは、それぞれ独立に2以上の整数である)
【0060】
刺激応答性高分子22(
図2参照)における親水性基26(
図2参照)の具体的な導入位置は特に制限されない。ただし、親水性基26をより確実に刺激応答性高分子22(
図2参照)の外表面に露出させる観点から、刺激応答性高分子22を構成する高分子の末端に導入されることが好ましい。つまり、親水性基26の好ましい導入位置は、例えば刺激応答性高分子22を構成する高分子が直鎖状である場合には直鎖の末端であり、刺激応答性高分子22が網目状である場合には網目の末端となる。
このような位置に親水性基26を導入することによって、親水性基26は、より確実に刺激応答性高分子22の外表面に露出する。これにより親水性基26は、細胞に対する刺激応答性高分子22の非特異的な吸着をより確実に抑制する。
【0061】
結合体21A(
図2参照)は、刺激応答性高分子22(
図2参照)に細胞増殖因子25(
図2参照)が化学結合して形成される。
図3は、結合体21Aの具体例を示す構成説明図である。
図3に示すように、この結合体21Aは、刺激応答性高分子22としてのデンドリティックポリリジンに細胞増殖因子25としてのインスリンが化学結合して形成されている。
【0062】
≪細胞培養方法≫
次に、本実施形態の細胞培養方法の一態様について主に
図1及び
図2を参照しながら説明するが本発明はこれに限定されるものではない。また、適宜参照する
図4(a)は、細胞培養方法を構成する培養工程における
図2の結合体21Aの様子を示す模式図である。また、
図4(b)は、細胞培養方法を構成する刺激付与工程における
図2の結合体21Aの様子を示す模式図である。
【0063】
本実施形態の細胞培養方法は、例えば(1)培養工程、(2)培養液移送工程、(3)刺激付与工程、(4)分離工程、(5)培養液返送工程、(6)ろ過液移送工程、(7)精製工程、及び(8)培地移送工程を有するものが挙げられる。
【0064】
(1)培養工程
まず、この方法では、結合体21A(
図2参照)及びその他細胞培養に必要な培地成分を含む水溶液からなる細胞培養培地8(
図1参照)を収容した陽圧の培養槽2(
図1参照)内にて細胞の培養が開始される。なお、結合体21Aは、前記のように、
図2に示す刺激応答性高分子22(本実施形態ではLCST型温度応答性ポリマを想定)と「培地成分の少なくとも1種」に対応する細胞増殖因子25(
図2参照)とを結合させたものである。
この培養工程では、LCSTよりも低い温度(例えば、20℃)で細胞培養が行われる。そのため、結合体21Aを構成するLCST型温度応答性ポリマは親水性を示している。
【0065】
また、
図4(a)に示すように、細胞増殖因子25は、結合体21Aの表面に露出するように刺激応答性高分子22している。また、刺激応答性高分子22には、親水性基26が導入されている。
これにより結合体21Aの細胞増殖因子25は、細胞C上の受容体(図示省略)に対して効率よく特異的に結合する。培養槽2(
図1参照)内では、細胞Cの増殖が効率よく進行する
培養槽2内では、細胞Cの増殖が進行するにつれて、細胞培養培地8(
図1参照)中に有用物質と細胞代謝物(老廃物)とが産生される。
【0066】
(2)培養液移送工程
培養開始から所定の日数が経過した後、又は細胞培養培地8(
図1参照)中の培養細胞の濃度が所定値以上になった際に、培養槽2(
図1参照)から細胞培養培地8が配管P1(
図1参照)を通じて分離機構5(
図1参照)に圧送される。細胞培養培地8の圧送には、配管P1に設けられた送液ポンプ20a(
図1参照)によって行われる。このとき、必要に応じて、分離機構5に設けられた図示しないダイアフラムポンプなどの圧力発生装置を駆動させ、分離機構5内を陰圧に設定すると、培養槽2から分離機構5への細胞培養培地8の移送を迅速に行うことができる。
【0067】
(3)刺激付与工程
この工程では、培養槽2(
図1参照)から分離機構5(
図1参照)に向けて移送される細胞培養培地8(
図1参照)に含まれる結合体21A(
図2参照)に所定の刺激が付与される。本実施形態では、結合体21Aの刺激応答性高分子22(
図2参照)としてのLCST型温度応答性ポリマに対してLCST以上の温度(例えば、37℃)が付与さる。
図4(b)に示すように、熱刺激を受けた結合体21Aの刺激応答性高分子22は、立体構造が崩れて分子サイズが伸長するとともに疎水性を示す。なお、
図4(b)中、符号26は親水性基であり、符号25は、細胞増殖因子である。
【0068】
ちなみに、前記したpH応答性ポリマ、電界応答性ポリマ、光応答性ポリマ、イオン強度応答性ポリマ、磁界応答性ポリマ、力学的刺激応答性ポリマなどを刺激応答性高分子22(
図2参照)として使用する場合には、各ポリマに対応するpH変化、電界強度変化、光強度変化、イオン強度変化、磁界強度変化、力学的刺激強度変化などの刺激が付与されることによって、各ポリマは立体構造変化、電位(電荷)変化、親水・疎水性変化などの性状に変化を呈する。
【0069】
そして、刺激を付与された結合体21A(
図2参照)を含む細胞培養培地8(
図1参照)は、分離機構5(
図1参照)に向けて移送される
【0070】
(4)分離工程
この工程では、分離機構5(
図1参照)に移送された細胞培養培地8(
図1参照)のうち、細胞と分子サイズが伸長した結合体21A(
図2参照)が分離機構5(
図1参照)でろ別される。また、その他培地成分、有用物質、細胞代謝物(老廃物)、及び水性媒体などは、ろ過液として分離機構5を透過する。また、この際、疎水性となった結合体21Aは、親水性のろ過膜を使用することによって、より効率的にろ別される。また、刺激付与工程での刺激によって、例えば正の電荷を有するものとなった結合体21Aは、正の電荷を有するろ過膜を使用することによって、より効率的にろ別される。
【0071】
(5)培養液返送工程
この工程では、分離機構5(
図1参照)でろ別された細胞と結合体21A(
図2参照)とが培養槽2(
図1参照)に返送される。この際、細胞と結合体21Aとは、分離機構5に残存する少量の細胞培養培地8(
図1参照)に伴って返送される。したがって、培地成分として比較的高価な細胞増殖因子25(
図2参照)は、この結合体21Aの返送によって再利用することができる。
また、培養槽2に返送される細胞培養培地8は、細胞と結合体21Aとを高濃度で含むこととなる。したがって、本実施形態の細胞培養装置1(
図1参照)を連続的に運転する際に、定期的に培養液返送工程を繰り返すことで、培養槽2内における細胞と結合体21Aの濃度を良好に維持することができる。
【0072】
(6)ろ過液移送工程
分離機構5(
図1参照)によってろ過されたろ過液は、分離機構5内に一時的に貯留される。このろ過液には、前記のように有用物質と細胞代謝物(老廃物)などが含まれている。
ろ過液移送工程では、分離機構5内に貯留されたろ過液が所定量になった際に、配管P3(
図1参照)を通じて分離機構5からリザーバ6(
図1参照)に向けてろ過液が移送される。この移送には、配管P3に設けられた送液ポンプ20b(
図1参照)が使用される。この際、リザーバ6に設けられた図示しないポンプや圧力調整弁にてリザーバ6内を陰圧にすることで、リザーバ6へのろ過液の移送を促進することもできる。
【0073】
(7)精製工程
この工程では、前記のように、リザーバ6(
図1参照)から精製機構7(
図1参照)に送り込まれたろ過液23(
図1参照)に含まれる有用物質が精製される。リザーバ6から精製機構7へのろ過液23の移送は、リザーバ6でのろ過液23の貯留量が所定量となった際に、配管P4(
図1参照)に設けられた送液ポンプ20c(
図1参照)によって行われる。また、精製機構7の下流側に設けられた図示しないポンプや圧力調整弁にて精製機構7内を陰圧にすることで、精製機構7へのろ過液23の移送を促進することもできる。また、精製機構7には、ろ過液23から有用物質を溶出させる溶出液を供給することもできる。
【0074】
有用物質の精製が終了すると、精製機構7(
図1参照)内には、洗浄バッファや精製機構7を平衡化する平衡化バッファなどが供給され、次回の精製工程の準備が行われる。
【0075】
(8)培地移送工程
この工程では、添加培地槽3(
図1参照)の細胞培養培地8(
図1参照)が培養槽2(
図1参照)に補充される。
前記のように培養槽2から有用物質などとともに細胞培養培地8が分離機構5(
図1参照)に向けて抜き出されると、培養槽2内の細胞培養培地8の液面高さが低下する。
【0076】
この液面の高さが予め定めた所定値を下回ると、添加培地槽3(
図1参照)から所定量の細胞培養培地8(
図1参照)が追加される。なお、添加培地槽3から培養槽2(
図1参照)への細胞培養培地8の供給量は、前記したように培養槽2から抜き出された細胞培養培地8のうち、分離機構5(
図1参照)によって分離されるろ過液23(
図1参照)の液量と同量に設定されている。
【0077】
このような培地移送工程は、前記(1)から(7)の各工程と並行して行われる。
また、このような細胞培養方法は、後記する実施例で使用した細胞培養装置1(
図8参照)では、制御装置10(
図8参照)の制御に基づいて行うことができる。
【0078】
≪作用効果≫
次に、本実施形態の奏する作用効果について説明する。
本実施形態の細胞培養培地8(
図1参照)は、培地成分の少なくとも1種が、刺激応答性高分子との結合体で構成されている。具体的には、例えば
図2に示すように、比較的高価な細胞増殖因子25と刺激応答性高分子22との結合体21Aを細胞培養培地8は含んでいる。
【0079】
ところで、前記のように、従来の連続培養法(例えば、特許文献1参照)では、細胞が産生した有用物質とともに培養槽から抜き出される液体培地量に応じて培養槽に新たに液体培地を追加投入する必要がある。そのため従来の連続培養方では、産生する有用物質の生産コストが高くなる問題がある。
【0080】
これに対して、本実施形態の細胞培養培地8(
図1参照)は、高価な培地成分(例えば、細胞増殖因子25(
図2参照))を、所定の刺激によって分離機構5(
図1参照)での分離が可能となる刺激応答性高分子22(
図2参照)と結合させている。
このような細胞培養培地8によれば、培養槽2(
図1参照)から有用物質とともに細胞培養培地8を抜き出す際に、高価な培地成分(例えば、細胞増殖因子25)を分離機構5によって培養槽2に留めておくことができる。これにより培養槽2に追加する高価な培地成分の投入量が低減される。したがって、本実施形態の細胞培養培地8によれば、細胞培養により得られる有用物質の製造コストを従来よりも低減することができる。
【0081】
また、本実施形態の細胞培養培地8(
図1参照)に含まれる結合体21A(
図2参照)の刺激応答性高分子22(
図2参照)としては、温度、光、及びpHのうちの少なくともいずれか1つの刺激に対して応答変化を示すものを使用することができる。
このような細胞培養培地8によれば、刺激応答性高分子22(
図2参照)に対する刺激量を定量的に管理し易く、刺激応答性高分子22の応答変化量を容易に制御することができる。つまり、このような細胞培養培地8によれば、高価な培地成分(例えば、細胞増殖因子25(
図2参照))を含む結合体21A(
図2参照)を、より確実に分離機構5(
図1参照)で分離することができる。つまり、より確実に有用物質の製造コストを従来よりも低減することができる。
【0082】
また、本実施形態の細胞培養培地8(
図1参照)に含まれる結合体21A(
図2参照)の刺激応答性高分子22(
図2参照)としては、刺激に対する応答変化が、刺激応答性高分子22の分子鎖の伸長、及び帯電電荷の変化のうちの少なくとも1つとして現れるものを使用することができる。
このような細胞培養培地8によれば、高価な培地成分(例えば、細胞増殖因子25(
図2参照))を含む結合体21A(
図2参照)を、より確実に分離機構5で分離することができる。つまり、より確実に有用物質の製造コストを従来よりも低減することができる。
【0083】
また、本実施形態の細胞培養培地8(
図1参照)に含まれる結合体21A(
図2参照)の刺激応答性高分子22(
図2参照)としては、ポリリジン、ポリグルタミン、及びポリアルギニンのうちの少なくともいずれか1を使用することができる。これらの刺激応答性高分子22は、刺激前後の応答変化量が比較的大きく、より確実に分離機構5で分離することができる。つまり、より確実に有用物質の製造コストを従来よりも低減することができる。
また、これらの刺激応答性高分子22は、細胞の受容体に特異的に結合し易い位置に細胞増殖因子25(
図2参照)を導入することができる。
【0084】
また、本実施形態の細胞培養培地8(
図1参照)に含まれる結合体21A(
図2参照)としては、刺激応答性高分子22(
図2参照)と細胞増殖因子25(
図2参照)との結合体21A(
図2参照)を使用することができる。
このような細胞培養培地8によれば、細胞増殖因子25が高価な培地成分であることから、より確実に有用物質の製造コストを従来よりも低減することができる。
【0085】
また、本実施形態の細胞培養培地8(
図1参照)に含まれる結合体21A(
図2参照)の細胞増殖因子25(
図2参照)としては、インスリン又はトランスフェリンを使用することができる。細胞増殖因子25の中でもインスリン及びトランスフェリンは、比較的高価であることから、より確実に有用物質の製造コストを従来よりも低減することができる。
【0086】
また、以上のような細胞培養培地8(
図1参照)を使用する細胞培養装置1(
図1参照)及び細胞培養方法は、細胞培養培地8(
図1参照)の前記した作用効果と同様の作用効果を奏するほか、次のような作用効果を奏する。
【0087】
従来の特許文献1の連続培養法では、細胞培養培地8の回収についての言及はないが、例えば、細胞を回収するろ過膜(分離機構)の下流側で細胞培養培地8を別途回収することも考えられる。しかし、そうすると細胞を回収するろ過膜(分離機構)に加えて、細胞培養培地8を別途回収する分離機構が必要となる。
【0088】
これに対して、本実施形態での細胞培養装置1(
図1参照)及び細胞培養方法は、細胞と結合体21Aとを単一の分離機構5(
図1参照)及び分離工程で分離回収することができる。
これにより本実施形態では、従来よりも細胞培養装置1(
図1参照)及び細胞培養方法の構成要素を簡素化することができる。
【0089】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、種々の形態で実施することができる。なお、ここでの他の実施形態(変形例)において、前記実施形態と同一の構成要素については、同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0090】
図5は、変形例に係る結合体21Bの模式図である。
図6は、結合体21Bの具体例を示す構成説明図である。
図7は、刺激付与工程における
図5の結合体21Bの様子を示す模式図である。
【0091】
前記実施形態での結合体21A(
図2参照)は、刺激応答性高分子22(
図2参照)と、細胞増殖因子25(
図2参照)とで構成されている。
これに対して変形例に係る結合体21Bは、
図5に示すように、刺激応答性高分子22と、細胞増殖因子25(
図2参照)を結合させる結合因子24とで構成されている。
結合体21Bの刺激応答性高分子22は、前記実施形態における刺激応答性高分子22(
図2参照)と同様に構成することができる。
【0092】
結合体21Bの結合因子24は、前記した培養工程においては細胞増殖因子25とは結合せずに、前記した刺激付与工程において刺激応答性高分子22が刺激を受けた際に、細胞増殖因子25と結合する。
図5中、符号26は、親水性基であり、
図2の結合体21Aにおける親水性基26と同様に構成することができる。
結合因子24としては、細胞増殖因子25に対して特異的に結合するものであれば特に制限はなく、例えば、所定の細胞増殖因子25に対して特異的に結合する抗体、酵素、タンパク質、糖鎖、核酸などが挙げられる。中でも抗体が好ましい。
【0093】
このような変形例に係る結合体21Bは、
図6に示すように、前記の刺激付与工程において所定の刺激を付与された際に結合因子24に細胞増殖因子25が結合するとともに刺激応答性高分子22が応答変化する。これにより結合体21Bは、分離機構5(
図1参照)によって分離可能となる。具体的には、温度応答性ポリマ、pH応答性ポリマ、イオン強度応答性ポリマ、光応答性ポリマ、磁界応答性ポリマ、電界応答性ポリマ、力学的刺激応答性ポリマなどからなる刺激応答性高分子22は、前記のように構造変化、電位変化、親水親油変化などの応答変化を生じることによって分離機構5(
図1参照)で分離可能に結合体21Bを変化させる。
【0094】
図7は、刺激が付与された後の結合体21Bの具体例を示す構成説明図である。
図7に示すように、この結合体21Bは、刺激応答性高分子22としてのデンドリティックポリリジンに結合因子24としての抗体が化学結合して形成されている。このような結合体21Bは、温度刺激を受けると結合因子24としての抗体に細胞増殖因子25としてのトランスフェリンが化学結合する。
【0095】
以上のような結合体21B(
図5参照)を含む細胞培養培地8(
図1参照)によれば、培養槽2(
図1参照)から有用物質とともに細胞培養培地8を抜き出す際に、高価な細胞増殖因子25(
図5参照)を分離機構5によって培養槽2(
図1参照)に留めておくことができる。これにより培養槽2に追加する高価な培地成分の投入量が低減される。したがって、この細胞培養培地8によれば、細胞培養により得られる有用物質の製造コストを従来よりも低減することができる。
【実施例】
【0096】
以下では、本発明の実施例について説明する。
(実施例1)
まず、後記する実施例2で説明する細胞培養方法に使用した細胞培養装置について説明する。
図8は、実施例2で使用した細胞培養装置1の構成説明図である。
図8に示すように、細胞培養装置1は、細胞培養培地8を貯留する培養槽2と、培養槽2から抜き出される細胞培養培地8から後記する培養細胞と結合体をろ別する分離機構5と、培養槽2から抜き出された細胞培養培地8に温度刺激を付与する刺激付与機構4と、を備えている。
【0097】
この細胞培養装置1では、後記する結合体(実施例2及び実施例3参照)と、細胞の培養に必要なその他の培地成分とを含む細胞培養培地8(液体培地)が培養槽2に貯留される。この細胞培養培地8によって細胞が所定の培養温度(本実施例では20℃程度)にて培養され、細胞培養培地8には、前記したように有用物質や細胞代謝物(老廃物)が産生される。
図8中、符号9は攪拌装置である。攪拌装置9は、培養槽2の内容物が均一になるように混合する。
【0098】
培養開始から所定の日数が経過した際に、又は培養槽2内の培養細胞の濃度が所定値以上になった際に、培養槽2内の細胞培養培地8は、分離機構5に向けて移送される。細胞培養培地8の移送は、主に培養槽2に設けられた図示しないポンプなどで培養槽2の内圧が昇圧されることで行われる。
図8中、符号31は、ダイアフラムポンプなどで構成される圧力発生機構である。圧力発生機構31は、分離機構5内の圧力を陰圧に設定することで、培養槽2から分離機構5への細胞培養培地8の移送を促進する。
【0099】
本実施例の刺激付与機構4は、ヒータで構成されている。刺激付与機構4は、培養槽2から分離機構5に向かう途中の細胞培養培地8を加熱して所定の温度(本実施例では37℃程度)に設定する。これにより後記する結合体には温度刺激が付与されて、結合体の刺激応答性高分子は、立体構造が崩れて伸長する。
【0100】
本実施例の分離機構5は、中空糸フィルタモジュールで構成され、培養細胞及び後記する結合体がろ別された後のろ過液23は、図示しないリザーバに回収された後、前記した精製工程に付される。
この分離機構5によって、細胞培養培地8の所定量がろ過工程に付され、又はこのろ過工程が所定時間行われた後、ろ別された培養細胞と後記する結合体とは、分離機構5内に残存するろ過前の少量の細胞培養培地8とともに培養槽2に返送される。この返送操作は、ダイアフラムポンプなどで構成される圧力発生機構31が、分離機構5内の圧力を陽圧に設定することで行われる。
【0101】
次いで、細胞培養装置1は、培養槽2から抜き出された細胞培養培地8に見合う細胞培養培地8を以下に説明するタイミングで培養槽2に補充する。
図8中、符号P4は、図示しない添加培地槽から培養槽2に向けて細胞培養培地8を供給する配管であり、符号32は、配管P4に設けられた開閉弁である。符号33は、培養槽2内の液面を検出するセンサであり、符号10は、所定のタイミングで開閉弁32を開閉制御する制御装置である。
【0102】
分離機構5によって培養槽2から抜き出された所定量の細胞培養培地8がろ過工程に付されると、培養槽2内の液面が低下する。制御装置10は、センサ33からの信号を入力して培養槽2内の細胞培養培地8が抜き出されたことを判断する。この判断によって制御装置10は、開閉弁32を開くとともに、図示しない添加培地槽に設けられたポンプなどを駆動することで、細胞培養培地8を添加培地槽から培養槽2へと移送させる。そして、制御装置10は、センサ33からの信号を入力して培養槽2内が所定量の細胞培養培地8で満たされたと判断した際に、前記したポンプを停止させ、開閉弁32を閉じる。
【0103】
なお、この細胞培養装置1においては、培養槽2への細胞培養培地8の補充工程は、前記のように分離機構5によるろ過工程と並行して行うことができる。また、この細胞培養装置1は、補充工程が行われている際には分離工程を中断し、補充工程が終了してから分離工程を再開するように構成することもできる。
【0104】
また、制御装置10は、
図8には図示しないが、前記実施形態の細胞培養装置1(
図1参照)における温度調節機構、濃度測定装置などと有線又は無線にて連携することで、通気手段の通気タイミング、細胞培養培地8の移送タイミング、細胞及び結合体の返送タイミング、分離機構5によるろ過タイミングなどの各種タイミングを制御することもできる。
【0105】
(実施例2)
本実施例では、以下の細胞培養方法を実施した。
まず、刺激応答性高分子としての熱応答性ポリマと、細胞増殖因子(培地成分)との結合体として第1の結合体及び第2の結合体の2種類を調製した。
【0106】
[第1の結合体]
まず、刺激応答性高分子22(
図2参照)としての温度応答性ポリマであるε−ポリリジンを調製した。ε−ポリリジンは、1−エチル−3−カルボジイミド(WSC)、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、及び吉草酸を含む水溶液に、種々の分子量からなるポリリジンを加え、透析膜にて未反応の低分子化合物を除去することによって調製した。調製されたε−ポリリジンの分子量は、50kDa以下であった。このε−ポリリジンには、側鎖としてポリエチレングリコールからなる親水性基を結合させた。
次に、1−エチル−3−カルボジイミド(WSC)、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)及びインスリンを含む水溶液に、温度応答性ポリマとして調製したε−ポリリジンを加えることによって、ε−ポリリジンとインスリンとが化学的に結合した第1の結合体を得た。
【0107】
[第2の結合体]
まず、温度応答性ポリマであるε−ポリリジンを第1の結合体を調製したときと同様にして調製した。ただし、透析膜の種類を変更することで、100kDa以上の分子量のε−ポリリジンを得た。
次に、1−エチル−3−カルボジイミド(WSC)、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)及び結合因子としての抗トランスフェリン抗体を含む水溶液に、温度応答性ポリマとして調製したε−ポリリジンを加えることによって、ε−ポリリジンと抗トランスフェリン抗体とが化学的に結合した第2の結合体を得た。
【0108】
[細胞培養]
培養する細胞として、糖タンパクである組織性プラスミノーゲンアクティベータ(tPA)を産生するチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞;CRL−9606細胞)を用意した(American Type Culture Collection(ATCC)入手)。なお、この細胞は、付着培養細胞を浮遊細胞に順化したものである。
【0109】
細胞培養培地としては、Ham’s F12基本培地に、ウシ胎児血清(FBS:Fetal Bovine Serum)最終濃度10%と、抗生物質であるペニシリン及びストレプトマイシンと、インスリン換算で10μg/mL相当の第1の結合体と、トランスフェリン換算で10μg/mL相当の第2の結合体と、その他、アミノ酸、ビタミンなどを含むものを使用した。
【0110】
この細胞培養培地を使用した実施例1の細胞培養装置1にて細胞の培養を行った。
図9は、第一の結合体の細胞に対する作用図である。
図10は、第二の結合体の細胞に対する作用図である。
【0111】
図9に示すように、代謝や成長の制御に重要なインスリンの細胞内シグナルは、インスリン受容体に内蔵されたチロシンキナーゼによるインスリン受容体基質(IRS)のリン酸化を介して伝達される。IRSに相互作用するタンパク質の一つとしてのユビキチンリガーゼNedd4は、IRSをモノユビキチン化し、これを介してIRSを受容体近傍に移動させることによってインスリンシグナルを促進する役割を果たす。
【0112】
図10に示すように、細胞膜に存在するトランスフェリン受容体(TFR)に3価鉄イオンを結合したトランスフェリンが結合すると(S1参照)、この複合体はエンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれる(S2参照)。エンドソーム内の酸性の環境では、鉄イオンはトランスフェリンから離れ、3価の鉄イオンは2価の鉄イオンに還元される。鉄が離れたトランスフェリンとトランスフェリン受容体は細胞膜に戻り、再利用される。
2価の鉄イオンは2価金属トランスポーター1(DMT1)を通ってエンドソームを出て細胞質に移行し、細胞内の様々な機能に使用される不安定鉄プールに入る。鉄イオンは細胞内の様々な目的で使用される。余剰の鉄イオンは鉄貯蔵タンパク質のフェリチンの中に貯蔵される。鉄イオンは鉄排出ポンプであるフェロポーチンによって細胞外に排出される。
【0113】
また、培養工程の後に、培養槽8(
図8参照)内の細胞培養培地8(
図8参照)は、刺激付与機構4(
図8参照)によって20℃から37℃に昇温され、分離機構5(
図8参照)に向けて移送される。
これにより第1の結合体及び第2の結合体の刺激応答性高分子22(
図2又は
図5参照)としての温度応答性ポリマであるε−ポリリジンは、分子サイズが大きくなるとともに、電荷が正に変化する。
【0114】
分離機構5では、第1の結合体及び第2の結合体は透過せず、有用物質としての組織性プラスミノーゲンアクティベータ、細胞代謝物(老廃物)としてのアンモニア、乳酸などがろ過液として分離された。
培地成分として高価なインスリン及びトランスフェリンは、第1の結合体及び第2の結合体として培養槽8(
図8参照)に返送された。
本実施例の細胞培養装置1(
図8参照)を1ヶ月連続運転した結果、細胞の生存率を80%以上維持したままで、有用物質としての組織性プラスミノーゲンアクティベータを高効率で回収することができた。また、インスリン及びトランスフェリンの使用量を大幅に削減することができた。