【0018】
[本発明の酸化亜鉛粉末の製造方法]
上記の特徴的な形態で規定される本発明の酸化亜鉛粉末の製造方法は限定されないが、一例としての製造方法は以下である。
(炭酸源が炭酸アンモニウムである塩基性炭酸亜鉛を前駆体として用いる。)
(4)合成に用いられる炭酸源が炭酸アンモニウムである塩基性炭酸亜鉛の熱処理によって得られる酸化亜鉛粉末の結晶子サイズとタップ密度の関係を
図2に示す。炭酸アンモニウムを用いた場合は、比較例1である炭酸アンモニウムを炭酸水素ナトリウムに変えただけのもの、および比較例3にある特許文献1および非特許文献1に準じたpH8.5、60℃合成と比較して、結晶子サイズが同じ場合、約1.5倍のタップ密度が得られる。タップ密度が高くなる理由はまだ明確ではないが、
図1のSEM写真に示すように脱炭酸、脱水のための熱処理の後で、凝集、もしくは連結の状態が軽微であることが一因であると考えられる。以下では塩基性炭酸亜鉛を、酸化亜鉛粉末の出発原料として酸化亜鉛粉末の前駆体または単に前駆体ということがある。
(5)本発明の酸化亜鉛粉末は、従来の湿式法と同様に、塩基性亜鉛塩の一種である塩基性炭酸亜鉛(主としてハイドロジンカイト)を前駆体とし、熱処理による脱炭酸、脱水によって酸化亜鉛を製造する。この時の熱処理温度は、高ければ脱炭酸、脱水が十分となるが、ナノ粒子酸化亜鉛では温度が高すぎると焼結が始まり、多くの粒子が連結した状態となってしまう。また、低温処理で炭酸、結合水の残留量が多い場合は本焼結時に焼結を阻害する要因となる。塩基性炭酸亜鉛が脱炭酸、脱水する際の重量減少が、600℃で熱処理した場合の重量減少率の97.0%以上、99.5%以下である時、連結状態が軽微でかつ焼結の阻害要因とはならない範囲であることが分かった。その温度は270〜450℃、好ましくは350〜370℃である。連結が進行すると、上記の本発明の酸化亜鉛粉末の形態で規定する軽装嵩密度、タップ密度が得られず、不均一な粒成長と閉気孔が生成してしまい、緻密な焼結体とならない。
【実施例】
【0020】
以下に実施例・比較例を用いて、本発明の酸化亜鉛粉末の前駆体である塩基性炭酸亜鉛を合成する工程、前駆体を熱処理し酸化亜鉛粉末とする工程、および酸化亜鉛粉末から酸化亜鉛焼結体を製造する方法とその評価を記載するが、本発明はこれらの具体例に限定されない。
<前駆体の合成>
(前駆体合成例1)
亜鉛源として硝酸亜鉛6水和物(キシダ化学製)、炭酸源として炭酸アンモニウム(キシダ化学製)、およびアルカリとして30wt%水酸化ナトリウム(キシダ化学製)を用いた。純水を用いた各水溶液は、硝酸亜鉛は0.5Mの水溶液1L、炭酸アンモニウムは2Lのビーカーに、0.4Mの水溶液0.5Lを準備した。前記炭酸アンモニウム水溶液にはpHコントロール用pH電極を装入し、前記硝酸亜鉛水溶液を1L/hの速度で滴下する。酸性である硝酸亜鉛水溶液の滴下によって炭酸アンモニウム水溶液のpHが低下することを防ぐため、pHコントローラー(東興化学研究所 TDP−51)によってon/off制御する送液ポンプによって30wt%水酸化ナトリウムを炭酸アンモニウム水溶液に滴下することで、炭酸アンモニウム水溶液のpHを硝酸亜鉛水溶液の滴下中pH7.5の一定値に保った。
送液が終了した後、20時間の攪拌養生を行い、前駆体塩基性炭酸亜鉛スラリーとした。この沈殿物生成反応、攪拌養生において、炭酸アンモニウム水溶液の温度は常に30℃未満となるように冷却装置を設置した。
養生後のスラリーは吸引ろ過法にて固液分離し、不用なナトリウムなどを洗浄・除去するため、固形分は適量の純水でリスラリーした後吸引ろ過で固液分離した。この洗浄工程は4回繰り返した。
洗浄後の固形分は、真空乾燥機にて、30℃、20時間の真空乾燥を行い、前駆体である塩基性炭酸亜鉛の乾燥粉とした。
【0021】
得られた前駆体の塩基性炭酸亜鉛はX線回折(ブルッカー社製 D8ADVANCE)による鉱物相の同定、および結晶子サイズの測定(シェラー法による)を行った。また、TG-DTA(日立ハイテクノロジーズ社製 TG/DTA6300)による熱減量の測定、燃焼法によるカーボン分析(LECOCS844)、およびICP(島津製作所製 ICP―9000)によるZn、Naの分析を行った。
X線回折、および成分分析の結果から、得られた沈殿物はハイドロジンカイト(Zn
5(CO
3)
2(OH)
6・2H
2O)を主構成物質とする塩基性炭酸亜鉛であることが分かった。また、この時の沈殿歩留まりは98%であった。さらに脱炭酸、脱水による熱減量は約600℃で終了することが分かった。
【0022】
(前駆体合成例2)
前駆体合成例1の製造例と同様とし、但し炭酸源を炭酸水素ナトリウムとして前駆体のハイドロジンカイトを合成した。
【0023】
(前駆体合成例3)
合成時のpHを6.0および8.5としたほかは、前駆体合成例1と同じ条件で合成を行った。沈殿物はいずれもハイドロジンカイトを主構成物質とする塩基性炭酸塩であったが、pH6.0では、得られた沈殿物の量が少なく、溶液の分析から歩留まりは20%程度となり経済性が著しく低いことが分かった。pH8.5では歩留り100%で実施例と同様のものが得られた。
(前駆体合成例4)
特許文献1および非特許文献1に準じて、合成を行った。亜鉛源を塩化亜鉛から硝酸亜鉛に変更、炭酸源は炭酸水素ナトリウムのままとし、沈殿反応は硝酸亜鉛と炭酸水素ナトリウムからなる水溶液にpHが8.5となるように攪拌しながら水酸化ナトリウムを添加した。容器は40〜60℃の温度に保ちながら沈殿反応を行った。
具体的には亜鉛源として硝酸亜鉛6水和物(キシダ化学製)、炭酸源として炭酸水素ナトリウム(重曹;キシダ化学製)、およびアルカリとして30wt%水酸化ナトリウム(キシダ化学製)を用いた。純水を用いた各水溶液は、硝酸亜鉛は0.5Mの水溶液1L、炭酸水素ナトリウムは2Lのビーカーに、0.4Mの水溶液0.5Lを準備した。送液、pHコントロールは合成例1と同じとした。30wt%水酸化ナトリウムを炭酸水素ナトリウム水溶液に滴下することで、硝酸亜鉛水溶液の滴下中pHを8.5の一定値に保った。この沈殿物生成反応、攪拌養生において、炭酸水素ナトリウム水溶液の温度は常に40℃以上、60℃未満となるように温水循環装置を設置した。実施例と同じく得られた沈殿物はハイドロジンカイトを主構成物質とする塩基性炭酸塩であり、沈殿歩留まりはほぼ100%であった。
(前駆体合成例5)
亜鉛原料を無水塩化亜鉛(キシダ化学製)、炭酸源を炭酸水素ナトリウムとしたほかは、前駆体合成例1と同じ条件で合成した。前駆体合成例1と同じく得られた沈殿物はハイドロジンカイトを主構成物質とする塩基性炭酸塩であり、沈殿歩留まりは99%であった。また、成分分析の結果から、塩素の残留量が約1.6%(脱炭酸、脱水後の酸化亜鉛中の塩素の残留量)と高かった。
【0024】
(熱処理)
前述の前駆体合成例で合成した塩基性炭酸亜鉛をアルミナるつぼに入れ、360℃、大気雰囲気で熱処理を行った。昇温速度は2℃/min、360℃の保持時間は6時間、冷却は自然冷却とした。熱処理後の重量減少の測定結果を表1に示す。重量減少率は、600℃で熱処理した場合の重量減少率を基準の100%とした時の相対値で表現した。また、BET吸着法(カンタクロム社製- AUTOSORB―MP1)による比表面積の測定を行った。さらにJIS法による軽装嵩密度とタップ密度の測定を行った。BET表面積より算出した粒子径、および軽装嵩密度とタップ密度の測定結果を、表1に示す。360℃の熱処理では、98.5〜99.9%の減少率となり、製造条件による差異は認められない。粉体の充填密度は、前駆体合成例1の熱処理物である実施例1で最も高いことが分かった。また、動的散乱法(堀場製作所製SZ―100)を用いた粒度分布測定を行った。粒度分布測定結果を表2に示す。粒径(メジアン径)は30〜60nmの幅にあるが、キュムラント多分散指数から分かるように、前駆体合成例1の熱処理物である実施例1の粒度分布はシャープであることが分かる。
【0025】
【表1】
【0026】
【表2】
【0027】
(前駆体である塩基性炭酸亜鉛の熱処理温度を変えて酸化亜鉛粉末を製造し、酸化亜鉛粉末の特性の熱処理温度依存性を評価した)
上記熱処理例で、最高温度を200〜550℃とした他は上述の熱処理例と同じ条件とした。前駆体合成例1および4で合成した塩基性炭酸亜鉛を熱処理して得られる酸化亜鉛粉末の熱処理による重量減少、BET表面積より算出した粒子径(BET径)、および嵩密度とタップ密度の温度依存性を表3にまとめた。熱処理例1−実施例1(前駆体合成例1を用いた)では、重量減少率は97〜99.5%の範囲にあり、結晶子サイズも小さく、充填密度も高いことが分かる。熱処理例2−前駆体合成例1は、同様の前駆体を用いて、熱処理温度が低い場合は重量減少が十分でなく、熱処理温度が高すぎると結晶子サイズが大きくなりすぎてしまう。結晶子サイズが大きいと焼結時に粒成長しにくく、緻密化が遅れる要因となり、低温での焼結に適さない。熱処理例3−前駆体合成例4では、実施例1と比較して、充填密度が低く、高温で熱処理した場合は結晶子サイズが大きいことが分かる。
【0028】
【表3】
【0029】
(焼結体作製と評価)
焼結例
熱処理によって酸化亜鉛となった粉末を0.6mmの篩いを通して簡単な解砕を行い、約60MPaの圧力でφ20mm×2mmの円板状、および40×40×5mmの板状の成形体を作製した。本実施例においては、スプレードライヤーなどを用いた造粒などは行わなかった。これは、熱処理による脱炭酸、脱水のみのサンプルを用いることで、前駆体合成条件による粉体特性の差異が及ぼす焼結体への影響が明確になると考えたからであり、実製品の製造にあたっては、このかぎりではない。
これらの成形体は各n=5で作製し、1000℃、および1150℃の最高温度保持時間6時間、昇温速度4℃/分、冷却は炉内放置とし、大気雰囲気中で焼結した。
焼結後、円板状のものはSEM観察用、アルキメデス法による比重測定用、X線回折用、およびレーザーフラッシュ法(アドバンス理工製 TC―1200RH)による熱伝導率測定用のサンプルとした。板状のサンプルは30×4×4mmの棒状に加工した後、ISO178による曲げ強度測定用サンプルとした。
図3および表4にX線回折より求めた結晶子サイズ、SEM観察から求めたSEM観察粒子数、およびこれらの1000℃、1150℃の変化率を示す。本発明における酸化亜鉛粉末は、1000℃での結晶子サイズ、SEM観察粒子数と、1150℃でのそれを比較した場合、前者で8%の増加、後者で60%の減少にとどまり、比較例と比べて著しく粒成長が抑制されており、このことによっても本発明の実施例の酸化亜鉛粉末が、高強度、低熱伝導焼結体を得るのに適していることがわかる。また、塩素を多く含有した比較例4で、結晶子サイズの増加は大きいが、空隙の増加が顕著でそのため視野内粒子が減ったことで粒子数の減少が多くなっている。
表5に相対密度、曲げ強度、熱伝導率の測定結果を示す。相対密度は、塩素を多く含んだ比較例4で低く、緻密化が十分でないことから曲げ強度も小さい。しかし、結晶子サイズが大きいことから熱伝導率は高くなっている。なお、ここで、アルキメデス法による測定によって、密度を求めた。表中には酸化亜鉛の真密度5.61g/cm
3に対する相対値で示した。
【0030】
【表4】
【0031】
【表5】
【0032】
(焼結体特性の前駆体熱処理温度依存例)
上記表3に示すと同様に熱処理温度を変えた前駆体を1150℃で焼結した。得られた焼結体の相対密度、曲げ強度、熱伝導率の測定結果を表6示す。脱炭酸、脱水のための熱処理条件を比較熱処理例に示した条件としたものを、同じく1150℃で焼結した場合の、相対密度、曲げ強度、および熱伝導率の測定結果を表6に示す。本発明である実施例1以外は、比較例3の酸化亜鉛粉末を用いた。相対密度、曲げ強度は実施例1で高く、熱伝導率は比較例3で高い。また、実施例1、比較例3ともに熱処理温度が低い場合は残留物の影響により、熱処理温度が高い場合は結晶子サイズの増加にともなう粒成長による緻密化が十分でないことにより、いずれも相対密度、曲げ強度が低くなることが分かる。
【0033】
【表6】
【0034】
(焼結体特性の焼結温度依存性例)
表1、表2、表4に示す前駆体合成例および熱処理例で作成した実施例1、比較例3を、焼結時の最高温度を600〜1300℃として焼結した他は、上述の焼結例と同様の焼結を行うことで焼結体とし、上述と同様の特性評価を行い、焼結例における本発明の酸化亜鉛粉末の焼結特性におよぼす焼結温度の影響を検討した。比較は比較例3のみを示した。焼結温度600℃〜1300℃における主要特性を表7にまとめた。
【0035】
【表7】
【0036】
実施例およびその製造条件の評価
実施例1の酸化亜鉛粉末は、X線回折によって求められる結晶子サイズが20〜50nmであり、BET法によって求められる粒子径が15〜60nm、かつ、軽装嵩密度が0.38〜0.50g/cm
3、タップ密度が0.50〜1.00g/cm
3、より好ましい範囲として0.60〜1.00g/cm
3である酸化亜鉛粉末。または、動的散乱法によって求められるメジアン径が30〜60nm、キュムラント径が40〜82nm、キュムラント多分散指数が0.05〜0.20、より好ましい範囲として0.05〜0.15、さらに好ましい範囲として0.05〜0.12とすることによって、焼結体に焼結する温度が1000℃までに緻密化するとともに1150℃としても、比較例と比較して結晶子サイズの増加率とSEM観察粒子数の減少率が小さいことから、高強度で低熱伝導な焼結体となることがわかる。
このような特徴を有する酸化亜鉛粉末を得るには、以下の条件とすれば製造しやすいことがわかる。しかし本発明の酸化亜鉛粉末の製造方法は以下の製造方法に限定されるわけではなく、例えば、他の製造方法で製造して、粉砕、分級、粒度分布調整等の方法で、本発明の酸化亜鉛粉末を選択して得た場合でも本願請求項に記載される範囲であれば本発明の範囲内の酸化亜鉛粉末である。
炭酸源として、炭酸水素ナトリウム(重曹)、炭酸ナトリウム、および炭酸アンモニウムなどの既知の原料の中から、特許文献1および非特許文献1などにみられるような炭酸水素ナトリウムではなく、炭酸アンモニウムを用いることで、他の条件をそろえた場合に、ほぼ同一のX線回折によって求められる結晶子サイズとBET法による粒径であっても、高い軽装嵩密度とタップ密度が得られることによる低温焼結での緻密化への寄与があげられ、これは
図1に示した熱処理後のSEM観察からも明らかである。
上記の高い軽装嵩密度とタップ密度を得るためには、この実施例においては、前駆体の熱処理温度として、0.5%ないし3.0%の炭酸イオンと結合水を残存する360℃が適しており、これより低い温度では本焼結時の脱炭酸、脱水が多くなり焼結を阻害してしまう。これより高い温度では一次粒子の結合が始まり連結粒が増えてしまう。このことの影響はタップ密度の低下だけではない。大きな連結粒は粒成長が早く、より大きな焼結粒子となることはオストワルド成長として知られた現象であり、焼結体の粒子サイズが不均一になる原因でもある。
熱処理後に連結粒を作りにくい前駆体が望まれることになるが、本発明では酸化亜鉛の前駆体は、原料を炭酸アンモニウムとしたほかに、常温、低アルカリの合成が好ましいことを見出した。特許文献1および非特許文献1では、高温、高アルカリ下での合成を行っているが、熱処理後は
図1のSEM写真に示したように、酸化亜鉛粒子は前駆体の形状であるフレーク形状、またはフレーク形状が集積したバラの花構造の痕跡をとどめた状態で連結粒を形成するようになる。本発明においては、前駆体の沈殿歩留まりと結晶性を低下させることにはなるが、酸化亜鉛粒子が前駆体の形状であるフレーク形状、またはフレーク形状が集積したバラの花構造の痕跡をとどめることを防止できる。