【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)/革新的設計生産技術 高付加価値セラミックス造形技術の開発委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
セラミックス粒子及び高分子バインダーを含有するスラリーを基材の表面に塗布する塗布工程と、該塗布工程により得られた塗膜付き基材を、該塗膜付き基材の下方から加熱して前記塗膜の脱脂を行う脱脂工程とを、順次、備える、セラミックス成形体の製造方法であって、
前記脱脂工程において、前記塗膜付き基材の下面を不均一加熱することを特徴とする、セラミックス成形体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、セラミックス粒子及び高分子バインダーを含有するスラリーを基材の表面に塗布する塗布工程と、該塗布工程により得られた塗膜付き基材を、該塗膜付き基材の下方から加熱して塗膜の脱脂を行う脱脂工程とを、順次、備える、セラミックス成形体の製造方法であって、脱脂工程において、塗膜付き基材の下面を不均一加熱することを特徴とする。本発明では、塗布工程及び脱脂工程を繰り返し行うことができる。
【0009】
上記塗布工程で用いるスラリーは、セラミックス粒子及び高分子バインダーを含有し、通常、水又は有機溶剤からなる媒体を含有する。
上記セラミックス粒子は、好ましくは、酸化物、窒化物、酸窒化物、炭化物、炭窒化物等の無機化合物からなる粒子である。上記スラリーに含まれるセラミックス粒子の種類は、1種のみであってよいし、2種以上であってもよい。
酸化物としては、酸化アルミニウム、ムライト、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化鉄、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、チタン酸バリウム等を用いることができる。
窒化物としては、窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化タンタル、窒化鉄等を用いることができる。
酸窒化物としては、サイアロン、酸窒化珪素等を用いることができる。
炭化物としては、炭化珪素、炭化チタン、炭化ホウ素等を用いることができる。
炭窒化物としては、炭窒化チタン、炭窒化ニオブ、炭窒化ジルコニウム等を用いることができる。
【0010】
上記セラミックス粒子の形状は、特に限定されないが、いずれも中実体の、球状、楕円球状、多面体状、線状、板状、不定形状等とすることができる。また、上記セラミックス粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、好ましくは10nm〜100μm、より好ましくは100nm〜10μmである。尚、2種以上の異なる形状のセラミックス粒子を用いるか、又は、粒子径の異なるセラミックス粒子を用いることにより、高密度のセラミックス成形体を効率よく製造することができる。
【0011】
上記スラリーに含まれるセラミックス粒子の濃度は、高密度のセラミックス成形体の効率的な製造の観点から、好ましくは30〜80体積%、より好ましくは40〜70体積%、更に好ましくは50〜60体積%である。
【0012】
上記高分子バインダーは、水及び有機溶剤の少なくとも一方からなる媒体に溶解又は分散するものであれば、特に限定されない。本発明においては、水を主とする媒体を用いることが好ましく、この場合、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、アクリル系ポリマー、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール等が好ましい。
【0013】
上記スラリーに含まれる高分子バインダーの濃度は、高密度のセラミックス成形体の効率的な製造の観点から、好ましくは0.1〜20体積%、より好ましくは1〜10体積%、更に好ましくは2〜5体積%である。
【0014】
本発明により得られるセラミックス成形体は、後述のように、焼結体の製造原料、粒子配列体、粒子充填体等、広い用途で用いることができるので、上記スラリーは、他の成分として、分散剤、焼結助剤、表面修飾剤等を含有することができる。
【0015】
上記塗布工程では、スラリーを基材の表面に塗布する。上記基材は、脱脂工程において変質又は変形しないものであれば、特に限定されない。上記基材を構成する材料は、通常、無機材料であり、金属(合金を含む)及びセラミックスのいずれでもよく、これらの複合物であってもよい。また、脱脂工程における加熱により、基材とセラミックス成形体とが一体化するものであってもよい。
また、上記基材の形状は、特に限定されず、通常、スラリーの塗布面を平坦としたものが用いられるが、スラリーの塗布面に凹部又は凸部が形成されたものであってもよい。
【0016】
上記塗布工程において、スラリーを基材の表面に塗布する方法は、特に限定されないが、通常、基材の表面形状、スラリーの構成成分等に応じて、適宜、選択される。好ましい塗布方法は、スクリーン印刷、ドクターブレード法、スピンコート法、カーテンコーター法、ディップコート法等である。
【0017】
上記塗布工程により得られる塗膜の厚さの上限は、セラミックス成形体の効率的な製造の観点から、好ましくは10mm、より好ましくは500μmである。
上記塗布工程により得られた塗膜付き基材は、直ぐに、脱脂工程に供してよいし、塗膜の変形を抑制する、脱泡する、高分子バインダーを固化させる等の目的で、上限を10時間とした静置を行ってもよい。
【0018】
上記脱脂工程では、塗膜付き基材を、その下方から加熱し、この塗膜付き基材の下面に対して不均一加熱を行う。「不均一加熱」とは、塗膜付き基材を、好ましくは水平方向に配置し、その加熱開始時において、塗膜付き基材の下面のうち、所望の温度で加熱される部分と、それより低い温度で加熱される部分とが形成されるように、部分的に温度差が生じるように加熱することである。これにより、得られるセラミックス成形体の変形が抑制され、割れの発生も抑制される。本発明において、基材15の表面に塗膜20が形成されてなる塗膜付き基材の下面を不均一に加熱する方法は、特に限定されない。例えば、
図2に示すように、塗膜付き基材を、凸部を有する熱源10の該凸部の上に載置し、この凸部の形状(塗膜付き基材の下面と接触する部分の平面形状)を、
図1に示す点、線等とした熱源により加熱する方法(以下、「方法(1)」という)や、
図3に示すように、塗膜付き基材を、その下面の一部が熱源11に対して露出するように断熱材18の上に載置した状態で加熱する方法(以下、「方法(2)」という)等が挙げられる。
【0019】
上記方法(1)は、
図2に示され、所定の温度に加熱された熱源10の凸部の上に塗膜付き基材を載置する方法である。例えば、
図1に示す点、線等のパターン部を有する凸部の直上における基材及び塗膜は、所定温度で瞬時に加熱され、高分子バインダーがガス化し、発生したガスは、塗膜中において、凸部の直上の脱脂部から離れる方向に流れるとともに、伝熱されて、徐々に脱脂される。即ち、基材15が凸部と接触していない部分の塗膜は、初期においては、所定温度より低い温度で加熱され、脱脂が不完全であるが、時間の経過とともに、所定温度に達し、十分に脱脂されたセラミックス成形体22が得られる。基材15及び塗膜20の全面が均一に加熱されると、
図8に示すように、変形、割れ等が顕著なセラミックス成形体22が得られるが、本発明では、これが抑制される。
上記方法(1)により塗膜付き基材を加熱する場合、熱源10としては、いずれも、凸部を有するヒーターを用いることが好ましく、抵抗加熱ヒーター、赤外線ランプ加熱ヒーター、マイクロ波加熱ヒーター、高周波誘導加熱ヒーター等を用いることができる。
【0020】
上記方法(2)は、
図3に示され、所定の温度に加熱された熱源11の上方に、断熱材18の上であって、基材15の下面の一部が露出するように塗膜付き基材を載置する方法である。下面側が露出した基材15の上の塗膜は、所定温度で瞬時に加熱され、高分子バインダーがガス化し、発生したガスは、塗膜中において、断熱材18の直上の方に流れるとともに、伝熱されて、徐々に脱脂される。即ち、基材15が断熱材18と接触している部分の塗膜は、初期においては、所定温度より低い温度で加熱され、脱脂が不完全であるが、時間の経過とともに、所定温度に達し、十分に脱脂されたセラミックス成形体22が得られる。尚、断熱材18は、セラミックス等からなる中実体又は多孔体等とすることができる。
上記方法(2)により塗膜付き基材を加熱する場合、熱源11としては、抵抗加熱ヒーター、赤外線ランプ加熱ヒーター、マイクロ波加熱ヒーター、高周波誘導加熱ヒーター等を用いることができる。尚、これらのヒーターは、基材15側に凸部を有してもよい。
【0021】
上記脱脂工程における加熱温度は、セラミックス粒子の種類、高分子バインダーの種類等に応じて、適宜、選択されるが、好ましくは200℃以上、より好ましくは300℃以上である。尚、高密度のセラミックス成形体が効率よく得られることから、加熱温度の上限は、通常、500℃である。上記塗膜付き基材の加熱は、終始、一定温度で行ってよいし、昇温を組み合わせた方法で行ってもよい。
上記塗膜付き基材の加熱時間は、塗膜の厚さ、面積等により、適宜、選択されるが、好ましくは1〜30分間、より好ましくは3〜15分間、更に好ましくは5〜10分間である。
上記塗膜付き基材の加熱は、その下面、即ち、基材に対して行うものである。本発明においては、基材に対する加熱と、塗膜面に対する加熱とを行ってもよいが、その場合、塗膜面に対する加熱の上限温度(雰囲気温度)は、通常、300℃、好ましくは150〜200℃である。塗膜面の加熱温度が高すぎると、塗膜の割れや変形が発生する場合がある。
上記脱脂工程における加熱雰囲気は、セラミックス粒子の種類等により、適宜、選択され、大気、酸素ガス、窒素ガス、アルゴンガス等とすることができる。
上記脱脂工程では、塗膜の表面の一部又は全面に耐熱性部材を載置した状態で塗膜付き基材の加熱を行ってもよい。
【0022】
上記脱脂工程により、上記塗布工程による塗膜の厚さに対して、通常、30〜70%の厚さに収縮した脱脂皮膜(セラミックス成形体)が得られる。スラリーに含まれるセラミックス粒子の種類及び基材の構成材料によっては、脱脂皮膜及び基材を一体化させることができる。
【0023】
本発明においては、上記のように、塗布工程及び脱脂工程を繰り返すことができる。即ち、1回目の製造で得られた脱脂皮膜の全面又は一部表面に対して、更に、これらの工程を繰り返すと、厚肉化や、部分的に積層することによる立体化を行うことができる。尚、塗布工程及び脱脂工程を繰り返すに際して、塗布工程で用いるスラリーの構成(セラミックス粒子の種類、濃度等)を変化させてもよい。
【0024】
本発明により、一定体積に占めるセラミックス粒子の合計体積の割合(以下、「充填密度」という)が、好ましくは74%以上、より好ましくは85%以上、更に好ましくは90%以上であるセラミックス成形体を得ることができる。尚、この充填密度は、アルキメデス法、かさ密度法等により測定することができる。
【0025】
本発明のセラミックス成形体の製造装置(以下、「本発明の製造装置」という)は、セラミックス粒子及び高分子バインダーを含有するスラリーを基材の表面に塗布して形成された塗膜付き基材を載置し、且つ、該塗膜付き基材を下方から加熱する熱処理部を備え、上記熱処理部は、上記塗膜付き基材の基材部と点接触又は線接触する凸部を含むことを特徴とする。
【0026】
上記熱処理部は、塗膜付き基材をその基材部で加熱するものであり、基材部と点接触又は線接触する凸部の平面形状は、例えば、
図1に示されたものとすることができる。
図1は、塗膜付き基材を載置する熱処理部に形成されている凸部を上から見た図であり、いずれも、塗膜付き基材を傾斜させることなく安定して支持し、不均一加熱することができる平面形状を例示したものである。(A)は、平面形状が円形の凸部を、(B)は、平面形状が四角形の凸部(4箇所)を、(C)は、三角形の外形線からなる凸部を、(D)は、十字線からなる凸部を、それぞれ示す。
上記熱処理部は、抵抗加熱ヒーター、赤外線ランプ加熱ヒーター、マイクロ波加熱ヒーター、高周波誘導加熱ヒーター等により構成されていることが好ましい。
【0027】
本発明の製造装置は、上記のように、特定の熱処理部を備え、塗膜付き基材を下方から加熱する構造を有する限りにおいて、他の構成要素は、特に限定されない。また、本発明の製造装置は、密閉系の装置であってよいし、開放系の装置であってもよい。また、バッチ式及び連続式のいずれであってもよい。
密閉系の製造装置の場合、装置内の雰囲気を調整する手段、脱脂により発生したガスを装置外へ排気する手段、塗膜面を加熱する手段、装置内で塗膜付き基材を作製する手段、複数の塗膜付き基材を連続的に処理するための搬出手段、外部で作製した塗膜付き基材を、装置内に搬入し、脱脂後に、搬出する手段、冷却する手段等を備えることができる。
開放系の製造装置の場合、脱脂により発生したガスを装置外へ排気する手段、塗膜面を加熱する手段、装置内で塗膜付き基材を作製する手段、複数の塗膜付き基材を連続的に処理するための搬出手段、外部で作製した塗膜付き基材を、装置内に搬入し、脱脂後に、搬出する手段、冷却する手段等を備えることができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。但し、本発明は、これらの実施例に何ら制約されるものではない。
【0029】
実施例1
不均一形状であり、且つ、平均粒子径が0.5μmである酸化アルミニウム粒子と、水にポリビニルアルコールを溶解させた水溶液とを混合して、スラリーを調製した。このスラリーに含まれる酸化アルミニウム粒子及びポリビニルアルコールの含有割合は、それぞれ、55体積%及び4体積%である。
次に、上記スラリーを、酸化アルミニウム焼結体からなる板状基材(20mm×20mm×2mm)の表面に滴下し、ドクターブレードを用いて板状基材の全面に塗布することにより、厚さ0.5mmの塗膜付き基材を得た。そして、この塗膜付き基材を、大気中、20℃で10分間静置した。
その後、上記塗膜付き基材を、予め、赤外線加熱により表面温度を500℃とした板状ステンレスヒーターであって、中央に高さ1.2mm、直径2mmの半球状の突起が形成されたステンレスヒーター10の突起の上に載置し、基材15の下面の局部的加熱を10分間行い、塗膜20の脱脂を行った(
図2参照)。これにより、厚さが約300μmの酸化アルミニウム膜を得た。膜厚のばらつきは見られなかった。
得られた酸化アルミニウム膜の平面及び断面を、SEMにより観察した。平面画像である
図4によれば、変形及び割れがないことが分かる。また、破断面を作製した後の断面画像である
図5によれば、全体に渡って、酸化アルミニウム粒子が高密度で膜を形成していることが分かる。尚、かさ密度法により、酸化アルミニウム粒子の充填密度を測定したところ、92%であった。
【0030】
実施例2
酸化アルミニウム焼結体からなる板状基材のサイズを、50mm×50mm×1mmとし、塗膜厚さを0.3mmとした以外は、実施例1と同じ操作を行って、厚さが約185μmの酸化アルミニウム膜を得た。
図6に示すように、得られた酸化アルミニウム膜には、変形及び割れが見られず、また、膜厚のばらつきは見られなかった。また、かさ密度法により、酸化アルミニウム粒子の充填密度を測定したところ、91%であった。
【0031】
比較例1
実施例1と同様にして作製した塗膜付き基材を、マッフル炉の中に配置した耐熱レンガの上に載置した。そして、大気中、80℃で2時間、次いで、500℃で2時間の加熱を行った。これにより、平均厚さが約300μmの酸化アルミニウム膜を得た。
得られた酸化アルミニウム膜は、
図7に示すように、割れており、また、厚さ方向に変形を生じていた。