特許第6754363号(P6754363)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6754363遠隔操作ロボットシステム及びその運転方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6754363
(24)【登録日】2020年8月25日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】遠隔操作ロボットシステム及びその運転方法
(51)【国際特許分類】
   B25J 3/00 20060101AFI20200831BHJP
【FI】
   B25J3/00 Z
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-536163(P2017-536163)
(86)(22)【出願日】2016年5月27日
(86)【国際出願番号】JP2016002574
(87)【国際公開番号】WO2017033350
(87)【国際公開日】20170302
【審査請求日】2019年5月24日
(31)【優先権主張番号】特願2015-165479(P2015-165479)
(32)【優先日】2015年8月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 康彦
(72)【発明者】
【氏名】下村 信恭
(72)【発明者】
【氏名】掃部 雅幸
(72)【発明者】
【氏名】黒沢 靖
(72)【発明者】
【氏名】田中 繁次
【審査官】 武市 匡紘
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−199376(JP,A)
【文献】 特開昭63−74582(JP,A)
【文献】 特開平8−267381(JP,A)
【文献】 特開2009−285753(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00−21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスタ装置と複数のスレーブアームとを備えた遠隔操作ロボットシステムの運転方法であって、
前記スレーブアームの各々は、予め記憶されたタスクプログラムに基づいて動作する自動モードと、前記マスタ装置が受け付けたオペレータの操作に基づいて動作する手動モードと、前記マスタ装置が受け付けたオペレータの操作によって逐次修正されながら前記タスクプログラムに基づいて動作する修正自動モードとの複数の制御モードを有し、
前記スレーブアームが前記自動モードで作業を行う自動部分と、前記スレーブアームが前記複数の制御モードのうち選択された一つで作業を行う選択部分とを含み、前記複数のスレーブアーム間で前記選択部分が時間的に重複しない動作シーケンス情報を作成するステップと、
前記動作シーケンス情報に基づいて、前記自動部分では前記自動モードで前記スレーブアームを動作させ、前記選択部分では前記複数の制御モードのうち当該選択部分ごとに選択された制御モードで前記スレーブアームを動作させることによって、前記スレーブアームが作業を行うステップとを含む、
遠隔操作ロボットシステムの運転方法。
【請求項2】
前記マスタ装置は、前記スレーブアームと同じ関節数のマスタアームであって、
前記スレーブアームが作業を行うステップが、
前記選択部分の開始時に、前記複数の制御モードのうち一つの選択を受け付けることと、
前記受け付けた制御モードが前記手動モード又は前記修正自動モードであるときに、前記スレーブアームのうち前記マスタアームが受け付けた操作を動作に反映させる被操作スレーブアームと前記マスタアームとの対応する関節の回転位置が各々等しくなるように、前記マスタアームを動作させることとを含む、
請求項1に記載の遠隔操作ロボットシステムの運転方法。
【請求項3】
オペレータの操作を受け付けるマスタ装置と、
予め記憶されたタスクプログラムに基づいて動作する自動モードと、前記マスタ装置が受け付けたオペレータの操作に基づいて動作する手動モードと、前記マスタ装置が受け付けたオペレータの操作によって逐次修正されながら前記タスクプログラムに基づいて動作する修正自動モードとの複数の制御モードを有する複数のスレーブアームと、
前記スレーブアームが前記自動モードで作業を行う自動部分と前記スレーブアームが前記複数の制御モードのうち選択された一つで作業を行う選択部分とを含み、前記複数のスレーブアーム間で前記選択部分が時間的に重複しない動作シーケンス情報、及び、前記タスクプログラムを記憶した記憶装置と、
前記動作シーケンス情報に基づいて、前記自動部分では前記自動モードで前記スレーブアームを動作させ、前記選択部分では前記複数の制御モードのうち当該選択部分ごとに選択された制御モードで前記スレーブアームを動作させる、スレーブ制御装置とを備える、
遠隔操作ロボットシステム。
【請求項4】
前記マスタ装置は、前記スレーブアームと同じ関節数のマスタアームであって、
前記マスタアームの腕部のリンク長比が前記スレーブアームのうち少なくとも一つの腕部のリンク長比と等しい、
請求項3に記載の遠隔操作ロボットシステム。
【請求項5】
前記マスタ装置は、前記スレーブアームと同じ関節数のマスタアームであって、
前記マスタアームの腕部のリンク長比が前記スレーブアームのうち少なくとも一つの腕部のリンク長比と異なる、
請求項3に記載の遠隔操作ロボットシステム。
【請求項6】
前記手動モード又は前記修正自動モードの開始時に、前記スレーブアームのうち前記マスタアームが受け付けた操作を動作に反映させる被操作スレーブアームの各関節の回転位置を取得し、前記マスタアームと前記被操作スレーブアームの対応する関節の回転位置が各々等しくなるように、前記マスタアームを動作させるマスタ制御装置を備える、
請求項4又は5に記載の遠隔操作ロボットシステム。
【請求項7】
前記スレーブアームの状況情報を取得する状況取得装置と、
前記手動モード又は前記修正自動モードの開始時に、前記スレーブアームのうち前記マスタ装置が受け付けた操作を動作に反映させる被操作スレーブアームの前記状況情報を出力する出力装置とを更に備える、
請求項3〜6のいずれか一項に記載の遠隔操作ロボットシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスタ装置及びスレーブアームを備えた遠隔操作ロボットシステム及びその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マスタ装置(即ち、遠隔操作装置)と、マスタ装置の操作に応じて動作するスレーブアームとを備えた遠隔操作ロボットシステムが知られている。マスタ装置としては、マニピュレータ、操作レバー、操作ボタンなどが利用されることがある。このような遠隔操作ロボットシステムにおいて、マスタ装置としてのロボットアームの姿勢にスレーブアームの姿勢を従わせ、スレーブアームに作用する反力をマスタ装置を介してオペレータに伝えるように構成されたものがある。特許文献1では、この種の技術が開示されている。
【0003】
特許文献1には、自動操作モード、手動操作モード、及び、スレーブ動作管理手段が手先姿勢に拘束を加えるなどの手動操作を支援する拘束付き手動操作モードの3つの操作モードを有し、作業手順プランに応じて操作モードを切り替える遠隔操作ロボットシステムが示されている。自動操作モードでは、スレーブ動作管理手段が、所定のプログラムに則ってスレーブアームに作業を実行させる。また、手動操作モード及び拘束付き手動操作モードでは、主には、オペレータによってマスタ装置へ入力された操作に応じて、インターフェース手段がスレーブアームに作業を実行させる。加えて、拘束付き手動操作モードでは、スレーブ動作管理手段が操作を支援する動作を実行する。
【0004】
また、特許文献1に記載の遠隔操作ロボットシステムでは、オペレータの技能の程度を示すデータ及び与えられた作業目標に基づいて手動操作部分と自動操作部分とを織り交ぜた作業手順プランを作成し、作業手順プランの自動操作部分は自動操作モードでシステムを運転し、作業手順プランの手動操作モード又は拘束付き手動操作モードでシステムを運転する、遠隔操作方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平8−5018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載の技術は、手動操作モード又は拘束付き手動操作モードに切り替えられると、スレーブ動作管理手段は自動操作モードで利用するプログラムを利用しない。そのため、手動操作モード又は拘束付き手動操作モードでは、オペレータの負荷が過大なものとなるとともに、作業効率の低下がもたらされる。
【0007】
また、特許文献1には、遠隔操作ロボットシステムに複数のスレーブアームを備えてよいことが記載されているが、それは自動操作の割合が多いことを想定したものである。このように遠隔操作ロボットシステムが複数のスレーブアームを備えている場合には、スレーブアームごとに操作の内容が異なることがあり、オペレータの負荷が著しく過大となるおそれがある。従って、特許文献1に記載の技術には、複数のスレーブアームを用いて効率的な作業を行う上で改良の余地が残されている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る遠隔操作ロボットシステムの運転方法は、マスタ装置と複数のスレーブアームとを備えた遠隔操作ロボットシステムの運転方法であって、
前記スレーブアームの各々は、予め記憶されたタスクプログラムに基づいて動作する自動モードと、前記マスタ装置が受け付けたオペレータの操作に基づいて動作する手動モードと、前記マスタ装置が受け付けたオペレータの操作によって逐次修正されながら前記タスクプログラムに基づいて動作する修正自動モードとの複数の制御モードを有し、
前記スレーブアームが前記自動モードで作業を行う自動部分と、前記スレーブアームが前記複数の制御モードのうち選択された一つで作業を行う選択部分とを含み、前記複数のスレーブアーム間で前記選択部分が時間的に重複しない動作シーケンス情報を作成するステップと、
前記動作シーケンス情報に基づいて、前記自動部分では前記自動モードで前記スレーブアームを動作させ、前記選択部分では前記複数の制御モードのうち当該選択部分ごとに選択された制御モードで前記スレーブアームを動作させることによって、前記スレーブアームが作業を行うステップとを含むことを特徴としている。
【0009】
また、本発明の一態様に係る遠隔操作ロボットシステムは、
オペレータの操作を受け付けるマスタ装置と、
予め記憶されたタスクプログラムに基づいて動作する自動モードと、前記マスタ装置が受け付けたオペレータの操作に基づいて動作する手動モードと、前記マスタ装置が受け付けたオペレータの操作によって逐次修正されながら前記タスクプログラムに基づいて動作する修正自動モードとの複数の制御モードを有する複数のスレーブアームと、
前記スレーブアームが前記自動モードで作業を行う自動部分と前記スレーブアームが前記複数の制御モードのうち選択された一つで作業を行う選択部分とを含み、前記複数のスレーブアーム間で前記選択部分が時間的に重複しない動作シーケンス情報、及び、前記タスクプログラムを記憶した記憶装置と、
前記動作シーケンス情報に基づいて、前記自動部分では前記自動モードで前記スレーブアームを動作させ、前記選択部分では前記複数の制御モードのうち当該選択部分ごとに選択された制御モードで前記スレーブアームを動作させる、スレーブ制御装置とを備えることを特徴としている。
【0010】
上記遠隔操作ロボットシステム及びその動作方法によれば、作業内容やスレーブアームの状況に応じて自動モードと手動モードと修正自動モードとから、スレーブアームの制御モードを選択することができる。制御モードの選択はオペレータの判断で行うことが可能であり、スレーブアームを完全に自動で動作させると不具合の発生が予想されるような場合には、修正自動モードでスレーブアームを動作させることができる。修正自動モードでは、スレーブアームの自動的な動作を基調としつつ、オペレータの操作でその動作を修正することができるので、手動モードと比較してオペレータの負荷は小さく、且つ、作業効率の低下を抑えることができる。このように、オペレータが複数の制御モードのなかから状況に応じた適切な制御モードを選択することによって、止まらないロボットシステムを実現することができる。
【0011】
また、オペレータの操作が要求される手動モード及び修正自動モードが複数のスレーブアーム間で同時に出現しないので、オペレータは1つのマスタ装置を用いて複数のスレーブアームを遠隔操作することができ、スレーブアームやオペレータの空き時間が短縮される。従って、複数のスレーブアームを用いて効率的な作業を行うことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の遠隔操作ロボットシステム及びその運転方法によれば、複数のスレーブアームを用いて効率的な作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る遠隔操作ロボットシステムが導入された自動車組立ラインの様子を示す図である。
図2】遠隔操作ロボットシステムの概略構成を示すブロック図である。
図3】スレーブアームの制御系統の構成を示すブロック図である。
図4】動作シーケンス情報の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0015】
〔遠隔操作ロボットシステム100〕
図1は本発明の一実施形態に係る遠隔操作ロボットシステム100を備えた自動車組立ラインの様子が示す図であり、図2は遠隔操作ロボットシステム100の概略構成を示すブロック図である。図1及び図2に示すように、遠隔操作ロボットシステム100は、マスタースレーブ方式のロボットシステムであって、複数のスレーブアーム1(1A,1B)と、マスタ装置20と、入力装置7と、出力装置4と、状況取得装置5と、システム100を包括的に制御する制御ユニット6とを備えてなる。本明細書では、複数のスレーブアーム1A,1Bを区別しないときには、数字1に添えられたアルファベットのA又はBを省略して単に「スレーブアーム1」と表す。
【0016】
図1には、作業空間内にコンベヤ99によって形成されたワークWの搬送ラインと、搬送ラインに沿って設置された複数のスレーブアーム1A,1Bと、作業空間から離れた位置(作業空間外)に設置されたマスタ装置20とを備えた自動車組立ラインが示されている。この自動車組立ラインにおいて、スレーブアーム1は、ワークWに対する移送、部品の組み付けや配置換え、姿勢変換、塗装などの作業を行うことができる。但し、本発明に係る遠隔操作ロボットシステム100は、このような自動車組立ラインに限定されず、各種製造設備において広く適用させることができる。
【0017】
本実施形態に係るスレーブアーム1は、自動モード、手動モード、及び、修正自動モードの3つの制御モードを有する。これら複数の制御モードのうち選択された一つで動作が制御されるように、スレーブアーム1の制御モードを切り替えることができる。
【0018】
本明細書では、スレーブアーム1が、予め設定されたタスクプログラムに従って動作する制御モードを「自動モード」と称する。自動モードでは、従来のティーチングプレイバックロボットと同様に、オペレータによるマスタ装置20の操作なしに、スレーブアーム1が所定の作業を自動的に行う。
【0019】
また、本明細書では、スレーブアーム1が、マスタ装置20が受け付けたオペレータの操作に基づいて動作する制御モードを「手動モード」と称する。マスタ装置20は、オペレータがマスタ装置20を直接的に動かすことによって入力した操作を受け付けることができる。なお、手動モードでは、マスタ装置20が受け付けたオペレータの操作や、この操作に基づいて動作しているスレーブアーム1の動きが、自動的に修正されてもよい。
【0020】
また、本明細書では、スレーブアーム1が、マスタ装置20が受け付けたオペレータの操作によって逐次修正されながら予め設定されたタスクプログラムに従って動作する制御モードを「修正自動モード」と称する。修正自動モードでは、予め設定されたタスクプログラムに従って動作しているスレーブアーム1の動きが、マスタ装置20が受け付けたオペレータの操作に基づいて修正される。
【0021】
以下、遠隔操作ロボットシステム100の各構成要素について詳細に説明する。
【0022】
〔スレーブアーム1〕
図1には、ワークWの搬送ラインと平行に離間して設置された第1スレーブアーム1Aと第2スレーブアーム1Bとの、2台のスレーブアーム1が示されている。2台のスレーブアーム1はいずれも垂直多関節ロボットであって、エンドエフェクタ12を除いて実質的に同一の構成を有している。なお、遠隔操作ロボットシステム100が備える複数のスレーブアーム1の態様は本実施形態に限定されず、各スレーブアーム1は3以上の関節数(軸数)を有する水平又は垂直多関節ロボットアーム(マニピュレータ)であればよい。また、複数のスレーブアーム1には、リンク長や関節数の異なる複数種類のロボットアームが含まれていてもよい。
【0023】
図2に示すように、スレーブアーム1は、複数のリンク11a〜11fの連接体と、これを支持する基台15とから構成された、複数の関節JT1〜JT6を有する多関節ロボットアームである。より詳しくは、第1関節JT1では、基台15と、第1リンク11aの基端部とが、鉛直方向に延びる軸回りに回転可能に連結されている。第2関節JT2では、第1リンク11aの先端部と、第2リンク11bの基端部とが、水平方向に延びる軸回りに回転可能に連結されている。第3関節JT3では、第2リンク11bの先端部と、第3リンク11cの基端部とが、水平方向に延びる軸回りに回転可能に連結されている。第4関節JT4では、第3リンク11cの先端部と、第4リンク11dの基端部とが、第4リンク11dの長手方向に延びる軸回りに回転可能に連結されている。第5関節JT5では、第4リンク11dの先端部と、第5リンク11eの基端部とが、第4リンク11dの長手方向と直交する軸回りに回転可能に連結されている。第6関節JT6では、第5リンク11eの先端部と第6リンク11fの基端部とが、捻れ回転可能に連結されている。そして、第6リンク11fの先端部にはメカニカルインターフェースが設けられている。このメカニカルインターフェースには、作業内容に対応したエンドエフェクタ12(図1、参照)が着脱可能に装着される。
【0024】
上記の第1関節JT1、第1リンク11a、第2関節JT2、第2リンク11b、第3関節JT3、及び第3リンク11cから成るリンクと関節の連結体によって、スレーブアーム1の腕部13が形成されている。また、上記の第4関節JT4、第4リンク11d、第5関節JT5、第5リンク11e、第6関節JT6、及び第6リンク11fから成るリンクと関節の連結体によって、スレーブアーム1の手首部14が形成されている。腕部13はエンドエフェクタ12を位置決めする役割を担い、手首部14はエンドエフェクタ12を方向付ける役割を担う。
【0025】
図3はスレーブアーム1の制御系統の構成を示すブロック図である。この図では、モータ制御部16を中心とした具体的な電気的構成が示されている。図3に示すように、スレーブアーム1の各関節JT1〜JT6には、それが連結する2つの部材を相対的に回転させるアクチュエータの一例としての駆動モータM1〜M6が設けられている。駆動モータM1〜M6は、例えば、モータ制御部16でサーボ制御されるサーボモータである。また、各駆動モータM1〜M6には、その回転位置を検出するための位置センサE1〜E6と、その回転を制御する電流を検出するための電流センサC1〜C6とが設けられている。位置センサE1〜E6は、例えば、エンコーダ、レゾルバ、パルスジェネレータなどの回転位置を検出できるものであればよい。なお、上記の駆動モータM1〜M6、位置センサE1〜E6、及び電流センサC1〜C6の記載では、各関節JT1〜JT6に対応してアルファベットに添え字の1〜6が付されている。以下では、関節JT1〜JT6のうち任意の関節を示す場合には添え字を省いて「JT」と称し、駆動モータM、位置センサE、及び電流センサCについても同様とする。
【0026】
駆動モータM、位置センサE、及び電流センサCは、モータ制御部16と電気的に接続されている。本実施形態に係るモータ制御部16は、1台で複数の駆動モータMをサーボ制御できるものであるが、各駆動モータMに対応するモータ制御部が設けられていてもよい。
【0027】
モータ制御部16では、後述する制御ユニット6(詳細には、スレーブ制御部61)より取得した位置指令値やサーボゲイン等に基づいて駆動指令値(電流指令値)を生成し、駆動指令値に対応した駆動電流を駆動モータMへ供給する。駆動モータMの出力回転角は位置センサEによって検出され、モータ制御部16へフィードバックされる。但し、モータ制御部16とスレーブ制御部61との機能が、単一の回路又は単一の演算装置によって実現されていてもよい。
【0028】
制御ユニット6(詳細には、スレーブ制御部61)からモータ制御部16へ位置指令値が入力されると、入力された位置指令値は減算器31bのプラス側の入力に与えられる。この減算器31bのマイナス側の入力には、位置センサEで検出された回転角を表す信号(位置現在値)が与えられる。減算器31bでは、位置指令値から回転角が減算される。減算器31bの出力は係数器31cに与えられ、ここで位置ゲインKpで増幅されてから、減算器31eの+入力に与えられる。この減算器31eの−入力には、位置センサEからの回転角が微分器31dで微分されたものが与えられる。減算器31eの出力は係数器31fに与えられ、ここで速度ゲインKvで増幅されてから、減算器31gの+入力に与えられる。この減算器31gの−入力には、電流センサCからの電流値が与えられる。減算器31gの減算出力が駆動指令値として増幅回路31hへ入力され、増幅された駆動指令値と対応する駆動電流が駆動モータMへ供給される。
【0029】
〔マスタ装置20〕
マスタ装置20は、オペレータの操作を受け付ける手段である。本実施形態に係る遠隔操作ロボットシステム100のマスタ装置20は、マスタアーム2、即ち、多関節ロボットアーム(マニピュレータ)であって、スレーブアーム1がマスタアーム2の動きに追従して動くようにシステム100が構築されている。つまり、マスタアーム2は、スレーブアーム1の位置や姿勢を直感的に操作できるように構成されている。
【0030】
マスタアーム2は、スレーブアーム1と同じ数の複数の関節JTm1〜JTm6を有する多関節ロボットアームであって、基台25及び複数のリンク21a〜21fが順次連結されて構成されている。マスタアーム2のリンク21a〜21fの連接構成は、スレーブアーム1のリンク11a〜11fと実質的に同一であり、詳細な説明は省略する。マスタアーム2の第6リンク21fの先端部には、スレーブアーム1に装着されたエンドエフェクタ12と相似する又は対応する擬似エンドエフェクタが装着されてもよい。
【0031】
関節JTm1〜JTm6には、それが連結する2つの部材を相対的に回転させるアクチュエータの一例としての駆動モータMm1〜Mm6(図示略)が設けられている。駆動モータMm1〜Mm6は、例えば、モータ制御部26によってサーボ制御されるサーボモータである。また、各駆動モータMm1〜Mm6には、その回転位置を検出するための位置センサEm1〜Em6(図示略)と、その回転を制御する電流を検出するための電流センサCm1〜Cm6(図示略)とが設けられている。位置センサEm1〜Em6は、例えばエンコーダである。なお、上記の駆動モータMm1〜Mm6、位置センサEm1〜Em6、及び電流センサCm1〜Cm6の記載では、各関節JTm1〜JTm6に対応してアルファベットに添え字の1〜6が付されている。以下では、関節JTm1〜JTm6のうち任意の関節を示す場合には添え字を省いて「JTm」と称し、駆動モータMm、位置センサEm、及び電流センサCmについても同様とする。
【0032】
前述のスレーブアーム1の駆動系統と同様に、駆動モータMm、位置センサEm、及び電流センサCmは、モータ制御部26と電気的に接続されている。本実施形態に係るモータ制御部26は、1台で複数の駆動モータMmをサーボ制御できるものであるが、駆動モータMmごとに対応するモータ制御部が設けられていてもよい。
【0033】
モータ制御部26は、前述のモータ制御部16と同様に、後述する制御ユニット6(詳細には、マスタ制御部62)から取得した位置指令値やサーボゲイン等に基づいて駆動指令値(トルク指令値)を生成し、駆動指令値に対応した駆動電流を駆動モータMmへ供給する。駆動モータMmの出力回転角は位置センサEmによって検出され、モータ制御部26へフィードバックされる。但し、モータ制御部26とマスタ制御部62との機能が、単一の回路又は単一又は単一の演算装置によって実現されていてもよい。
【0034】
スレーブアーム1とマスタアーム2とは、軸数の等しい多関節ロボットアームであるが、腕部13,23のリンク長比が相違する。つまり、スレーブアーム1とマスタアーム2とは相似形でなくてよい。なお、リンクのリンク長とは、そのリンクの基端側の関節から先端側の関節までの距離のことである。本実施形態に係るスレーブアーム1及びマスタアーム2は6軸のロボットアームであり、腕部13,23を形成しているリンクは、第1〜3リンクである。スレーブアーム1は作業内容や作業対象に好適なリンク長比の腕部13を有するものがシステム100に導入されるが、マスタアーム2はオペレータが扱いやすいリンク長比の腕部23を有するものが採用される。例えば、スレーブアーム1の第1リンク11a:第2リンク11b:第3リンク11cのリンク長比が1:4:2である場合に、マスタアーム2の第1リンク21a:第2リンク21b:第3リンク21cのリンク長比が1:2:2であってよい。
【0035】
〔入力装置7〕
入力装置7は、マスタアーム2と共に作業空間外に設置され、操作者からの操作指示を受け付け、受け付けた操作指示を制御ユニット6に入力する入力手段である。入力装置7では、スレーブアーム1の位置や姿勢に係る操作以外の操作が入力される。入力装置7には、スレーブアーム1の制御モードを選択するための操作入力具や、非常停止スイッチなど、スレーブアーム1の位置や姿勢を除く操作指令を入力する1以上の操作入力具が設けられている。1以上の操作入力具には、例えば、タッチパネル、キー、レバー、ボタン、スイッチ、ダイヤルなどの既知の操作入力具が含まれていてよい。また、入力装置7として、ペンダントやタブレットなどの携帯端末が用いられてもよい。
【0036】
〔状況取得装置5〕
状況取得装置5は、各スレーブアーム1の作業空間内における状況を示す状況情報を取得する手段である。状況情報は、作業空間内におけるスレーブアーム1の位置及び姿勢等、或いはスレーブアーム1を取り巻く周囲の状況を認識するために利用する情報を含む。より具体的には、状況情報は、例えば、作業空間内におけるスレーブアーム1の位置及び姿勢、スレーブアーム1とワークとの位置関係、又はスレーブアーム1とワークを組付ける被組付部品との位置関係等、作業空間内においてスレーブアーム1の状況及びスレーブアーム1の周囲の状況を認識可能とするために必要な情報が含まれる。
【0037】
状況取得装置5は、例えば、センサ、カメラなどの撮像装置、通信器、エンコーダ等によって実現できる。センサとしては、例えば、組付部品又は被組付部品までの距離又は位置を計測するためのレーザーセンサ、又はレーダーセンサなどが例示できる。更には、複数の撮像装置から得られた画像データを用いてスレーブアーム1からその周囲の物体までの距離を計測するセンサであるステレオカメラなども例示できる。通信器としては、例えば、組付部品又は被組付部品、或いは作業空間内の所定位置に設置されたセンサ及び撮像装置からの情報を取得する通信器等が挙げられる。エンコーダとしては、例えば、スレーブアーム1の移動量又は位置を検知できるエンコーダが例示できる。
【0038】
状況取得装置5は状況情報を逐次取得しており、取得された状況情報は、後述する制御ユニット6に入力され、制御ユニット6においてスレーブアーム1の動作制御に利用される。更には、制御ユニット6は、状況情報を出力装置4において出力させるように制御する構成としてもよい。状況取得装置5は、スレーブアーム1自体に取り付けられていてもよいし、作業空間内の適切な位置に取り付けられていてもよい。また、取り付けられる状況取得装置5の数は1つであってもよいし複数であってもよい。適切に状況情報を取得できる位置に適切な個数の状況取得装置5が取り付けられていればよく、取り付け位置及び取り付け個数は任意である。
【0039】
〔出力装置4〕
出力装置4は、制御ユニット6から送信された情報を出力するものである。出力装置4は、マスタアーム2を操作しているオペレータから視認しやすい位置に設置される。出力装置4には、少なくともディスプレイ装置41が含まれており、更に、プリンタやスピーカや警報灯などが含まれていてもよい。ディスプレイ装置41では、制御ユニット6から送信された情報が表示出力される。例えば、スピーカでは、制御ユニット6から送信された情報が音として出力される。また、例えば、プリンタでは、制御ユニット6から送信された情報が紙などの記録媒体に印字出力される。
【0040】
なお、図1に示すように、出力装置4として各スレーブアーム1につき1つのディスプレイ装置41が設けられている場合には、各ディスプレイ装置41に対応するスレーブアーム1の状況情報を出力されてよい。この場合、オペレータがいずれのスレーブアーム1が被操作スレーブアーム1であるかを認識することができるように、被操作スレーブアーム1が表示されたディスプレイ装置41の背景の色を変化させたり、ディスプレイ装置41の周囲に表示灯を設けたりしてもよい。ここで「被操作スレーブアーム1」とは、マスタ装置20の操作対象であって、当該マスタ装置20が受け付けた操作を動作に反映させるスレーブアーム1のことである。
【0041】
〔記憶装置8〕
記憶装置8には、スレーブアーム1の制御に用いられる各種タスクプログラムが記憶されている。タスクプログラムは、作業ごとの動作フローとして作成されていてよい。タスクプログラムは、例えば、ティーチングにより作成され、スレーブアーム1の識別情報とタスクとに対応付けられて記憶装置8に格納される。なお、記憶装置8は制御ユニット6から独立して記載されているが、制御ユニット6が備える記憶装置が記憶装置8としての機能を担ってもよい。
【0042】
また、記憶装置8には、予め作成された動作シーケンス情報が記憶されている。動作シーケンス情報とは、作業空間内でスレーブアーム1によって実施される一連の作業工程を規定した動作シーケンスに関する情報である。この動作シーケンス情報では、作業工程の動作順と、スレーブアーム1の制御モードとが対応付けられている。また、この動作シーケンス情報では、各作業工程に対しスレーブアーム1にその作業を自動的に実行させるためのタスクプログラムが対応づけられている。但し、動作シーケンス情報が、各作業工程に対しスレーブアーム1にその作業を自動的に作業を実行させるためのプログラムを含んでいてもよい。
【0043】
図4には、記憶装置8に記憶された動作シーケンス情報の一例が示されている。ここでは、自動車のボディへのシート取付作業の動作シーケンスを例に挙げて説明する。自動車のボディへのシート取付作業の動作シーケンスは、コンテナからシートを取り出す部品取出タスクT1、シートをボディの取付位置近傍まで搬送する部品搬送タスクT2、及び、取付位置近傍にあるシートを取付位置へ取り付ける部品取付タスクT3からなり、これらのタスクT1〜P3をこの順に繰り返し実行する。この動作シーケンスのうち、部品取出タスクT1及び部品搬送タスクT2は、スレーブアーム1が自動モードで動作する「自動部分」である。動作シーケンスのうち自動部分には、制御モードとして自動モードが対応付けられている。また、動作シーケンスのうち、部品取付タスクT3は、スレーブアーム1が自動モード、手動モード、及び、修正自動モードから選択された制御モードで動作する「選択部分」である。動作シーケンスのうち選択部分には特定の制御モードは対応付けられておらず、制御モードが選択可能となっている。
【0044】
図4では、第1スレーブアーム1Aの動作シーケンスと、第2スレーブアーム1Bの動作シーケンスとが、並べて示されている。第1スレーブアーム1Aが部品取付タスクT3(即ち、選択部分)を実行している間に、第2スレーブアーム1Bが部品取出タスクT1と部品搬送タスクT2とを行う。また、第2スレーブアーム1Bが部品取付タスクT3(即ち、選択部分)を実行している間に、第1スレーブアーム1Aが部品取出タスクT1と部品搬送タスクT2とを行う。このように、動作シーケンスは、選択部分が第1スレーブアーム1Aと第2スレーブアーム1Bとに交互に現れ、且つ、第1スレーブアーム1Aの選択部分と第2スレーブアーム1Bの選択部分とが時間的に重複しないように作成されている。
【0045】
〔制御ユニット6〕
図2に示すように、制御ユニット6には、複数のスレーブアーム1と、マスタ装置20と、出力装置4と、状況取得装置5と、入力装置7と、記憶装置8とが有線又は無線で通信可能に接続されている。
【0046】
制御ユニット6は、いわゆるコンピュータであって、CPU等の演算処理部と、ROM、RAM等の記憶部を有している(いずれも図示せず)。記憶部には、制御ユニット6が実行する制御プログラムや、各種固定データ等が記憶されている。演算処理部は、例えば、入力装置7、出力装置4、記憶装置8などの外部装置とデータの送受信を行う。また、演算処理部は、各種センサからの検出信号の入力や各制御対象への制御信号の出力を行う。制御ユニット6では、記憶部に記憶されたプログラム等のソフトウェアを演算処理部が読み出して実行することにより、システム100の各種動作を制御するための処理が行われる。なお、制御ユニット6は単一のコンピュータによる集中制御により各処理を実行してもよいし、複数のコンピュータの協働による分散制御により各処理を実行してもよい。また、制御ユニット6は、マイクロコントローラ、プログラマブルロジックコントローラ(PLC)等から構成されていてもよい。
【0047】
制御ユニット6は、機能ブロックとして、ホスト制御部60と、複数のスレーブ制御部61と、マスタ制御部62と、受信部63と、出力制御部64と、修正部65とを備えている。図2では、これらの機能ブロックが1つの制御ユニット6にまとめて示されているが、各機能ブロック又は複数の機能ブロックの組み合わせが独立した1以上のコンピュータによって実現されていてもよい。この場合、これらの機能ブロックのうち一部が作業空間に配置され、残部が作業外空間に配置されていてもよい。
【0048】
スレーブ制御部61は、スレーブアーム1の動作を制御する。スレーブ制御部61には、第1スレーブアーム1Aの動作を制御する第1スレーブ制御部61Aと、第2スレーブアーム1Bの動作を制御する第2スレーブ制御部61Bとが含まれる。スレーブ制御部61は、システム100が備えるスレーブアーム1の数に応じて設けられてよい。
【0049】
スレーブ制御部61は、自動モードのときは、記憶装置8に記憶されたタスクプログラムを読み出してこのタスクプログラムに従って位置指令値を生成し、位置指令値やサーボゲイン等をスレーブアーム1のモータ制御部16へ与える。また、スレーブ制御部61は、手動モードのときは、マスタアーム2が受け付け、受信部63で受信した操作信号に基づいて位置指令値を生成し、位置指令値やサーボゲイン等をスレーブアーム1のモータ制御部16へ与える。また、スレーブ制御部61は、修正自動モードのときは、記憶装置8に記憶されたタスクプログラムを読み出してこのタスクプログラムと修正部65から取得した修正指令値とに基づいて位置指令値(又は修正された位置指令値)を生成し、位置指令値やサーボゲイン等をモータ制御部16へ与える(図3、参照)。なお、修正自動モードのときに、修正部65から修正指令値が与えられなければ、修正指令値はゼロとして演算される。
【0050】
マスタ制御部62は、マスタアーム2の動作を制御する。マスタ制御部62は、オペレータがマスタアーム2に与えた外力に従って当該マスタアーム2が移動又は姿勢を変化させるように、マスタアーム2を動作させる。つまり、マスタアーム2の動作によって、オペレータの操作力がアシストされる。また、マスタ制御部62は、オペレータがマスタアーム2に外力を与えたときに、マスタアーム2の手先部が所定の軌道に沿って移動するように、マスタアーム2を動作させてもよい。
【0051】
また、マスタ制御部62は、被操作スレーブアーム1が切り替わるときに、マスタアーム2の姿勢が新たな被操作スレーブアーム1の姿勢と対応するように、マスタアーム2の姿勢を自動的に変化させる。具体的には、被操作スレーブアーム1が切り替わるときに、マスタ制御部62は、新たな被操作スレーブアーム1の各関節JTの位置センサEで検出された位置情報を取得し、被操作スレーブアーム1とマスタアーム2とで対応する関節の回転位置が実質的に等しくなるように、マスタアーム2の各関節JTmをモータ制御部26を介して動作させる。これにより、手動モード及び修正自動モードのいずれかで作業を開始するときには、被操作スレーブアーム1の第n関節JTnとマスタアーム2の第n関節JTmnの回転位置が等しい(但し、nは1〜6の整数)。
【0052】
受信部63は、制御ユニット6の外部から送信された入力信号を受信する。受信部63によって受信する入力信号として、例えば、マスタアーム2から送信された信号、入力装置7から送信された信号、状況取得装置5から送信された状況情報を示す信号等が挙げられる。
【0053】
出力制御部64は、出力装置4を制御し、オペレータに通知される情報を出力装置4へ出力する。例えば、出力装置4は、動作シーケンスのうち選択部分を開始するときに、対象となるスレーブアーム1を識別する情報と、スレーブアーム1の制御モードの選択の入力を促す情報とをディスプレイ装置41に出力する。また、例えば、出力装置4は、スレーブアーム1の制御モードが手動モード及び修正自動モードのときに、マスタアーム2に操作されるスレーブアーム1の状況情報や動作状況をディスプレイ装置41に出力する。また、例えば、出力装置4は、システム100に不具合が発生したときにスピーカやディスプレイ装置41に警報を出力する。
【0054】
修正部65は、スレーブアーム1の制御モードが修正自動モードであるときに、マスタアーム2が受け付けた操作に基づいて、スレーブアーム1の動きを修正する。例えば、オペレータがマスタアーム2を動かすことによりマスタアーム2の手先部の位置が変化すると、マスタアーム2はこの手先部の変位を修正指示として受け付け、制御ユニット6へ入力する。スレーブアーム1の制御モードが修正自動モードであるときに、受信部63が修正指示信号を受信すると、修正部65が修正指示信号に基づいて修正指令値を生成する。修正指示信号から修正指令値を求める演算式又はマップは予め記憶されている。このような修正指令値は、例えば、マスタアーム2の手先部の変位量に比例した値であってよい。生成された修正指令値はスレーブ制御部61へ伝達され、スレーブ制御部61から修正された位置指令値がモータ制御部16へ出力される(図3、参照)。
【0055】
ホスト制御部60は、記憶装置8に記憶された動作シーケンス情報を読み出し、この動作シーケンス情報に沿ってスレーブアーム1、マスタアーム2、出力装置4、及び状況取得装置5が動作するように、スレーブ制御部61、マスタ制御部62、出力制御部64、修正部65に指令を出力する。
【0056】
〔遠隔操作ロボットシステム100の動作〕
続いて、上記構成の遠隔操作ロボットシステム100の動作の一例を説明する。
【0057】
初めに、制御ユニット6は、記憶装置8に記憶された所定の動作シーケンス情報を読み出し、この動作シーケンス情報に沿ってシステム100の制御を開始する。
【0058】
図4に示す動作シーケンス情報に従えば、先ず、制御ユニット6は、記憶装置8から部品取出タスクT1のタスクプログラムを読み出して実行する。次いで、制御ユニット6は、部品搬送タスクT2のタスクプログラムを読み出して実行する。部品取出タスクT1及び部品搬送タスクT2では、制御ユニット6は自動モードで第1スレーブアーム1Aの動作を制御する。
【0059】
部品搬送タスクT2が終了すると、制御ユニット6は、次の部品取付タスクT3の制御モードの選択をオペレータに促すための選択画面をディスプレイ装置41に表示させる。併せて、制御ユニット6は、制御モードが選択されようとしているスレーブアーム1(ここでは、第1スレーブアーム1A)の状況情報をディスプレイ装置41に出力させる。ここで、ディスプレイ装置41に表示出力される状況情報に、映されているスレーブアーム1の識別情報や、次に行うプロセスの内容などが含まれていてもよい。
【0060】
オペレータは、ディスプレイ装置41に表示された第1スレーブアーム1Aの状況情報を視認して、3つの制御モードのうち1つを選択する。オペレータによる制御モードの選択は、マスタ装置20又は入力装置7によって受け付けられ、制御ユニット6へ入力される。
【0061】
上記において、自動モードが選択されると、制御ユニット6は、記憶装置8から部品取付タスクT3のタスクプログラムを読み出して、自動モードで第1スレーブアーム1Aの動作を制御する。また、手動モードが選択されると、制御ユニット6は手動モードで第1スレーブアーム1Aの動作を制御する。或いは、修正自動モードが選択されると、制御ユニット6は修正自動モードで第1スレーブアーム1Aの動作を制御する。
【0062】
上記において、手動モード及び修正自動モードのうちいずれかが選択されると、制御ユニット6は、被操作スレーブアーム1とマスタアーム2との姿勢を対応させるようにマスタアーム2を動作させる。
【0063】
また、上記において、手動モード及び修正自動モードのうちいずれかが選択されると、制御ユニット6は、そのプロセスに亘って被操作スレーブアーム1の状況情報をディスプレイ装置41に表示出力させる。
【0064】
制御ユニット6は、第1スレーブアーム1Aでの部品取付タスクT3と並行して、第2スレーブアーム1Bに部品取出タスクT1と部品搬送タスクT2とを行わせる。そして、制御ユニット6は、第1スレーブアーム1Aでの部品取付タスクT3が終了し且つ第2スレーブアーム1Bでの部品取出タスクT1及び部品搬送タスクT2が終了すると、第2スレーブアーム1Bに部品取付タスクT3を開始させ、第1スレーブアーム1Aに部品取出タスクT1を開始させる。このようにして、制御ユニット6は動作シーケンスに沿って作業工程を順次進行させる。
【0065】
以上に説明したように、本実施形態に係る遠隔操作ロボットシステム100は、オペレータの操作を受け付けるマスタ装置20と、複数のスレーブアーム1と、動作シーケンス情報及びタスクプログラムを記憶した記憶装置8と、動作シーケンス情報に基づいてスレーブアーム1を動作させるスレーブ制御部61(スレーブ制御装置)とを備える。各スレーブアーム1は、予め記憶されたタスクプログラムに基づいて動作する自動モードと、マスタ装置20が受け付けたオペレータの操作に基づいて動作する手動モードと、マスタ装置20が受け付けたオペレータの操作によって逐次修正されながらタスクプログラムに基づいて動作する修正自動モードとの複数の制御モードを有している。動作シーケンス情報は、スレーブアーム1が自動モードで作業を行う自動部分、及び、スレーブアーム1が複数の制御モードのうち選択された一つで作業を行う選択部分を含み、複数のスレーブアーム間で選択部分が時間的に重複しないように構成されている。そして、制御ユニット6は、動作シーケンス情報に基づいて、自動部分では自動モードでスレーブアーム1を動作させ、選択部分では複数の制御モードのうちオペレータによって当該選択部分ごとに選択された制御モードでスレーブアーム1を動作させる。
【0066】
また、上記実施形態に係る遠隔操作ロボットシステム100の運転方法は、スレーブアーム1が自動モードで作業を行う自動部分と、スレーブアーム1が複数の制御モードのうち選択された一つで作業を行う選択部分とを含み、複数のスレーブアーム1間で選択部分が時間的に重複しない動作シーケンス情報を作成するステップと、動作シーケンス情報に基づいて、自動部分では自動モードでスレーブアーム1を動作させ、選択部分では複数の制御モードのうちオペレータによって当該選択部分ごとに選択された制御モードでスレーブアーム1を動作させることによって、スレーブアーム1が作業を行うステップとを含むものである。
【0067】
上記遠隔操作ロボットシステム100及びその動作方法によれば、オペレータは、作業内容やスレーブアーム1の状況に応じて自動モードと手動モードと修正自動モードとから、スレーブアーム1の制御モードを選択することができる。制御モードの選択はオペレータの判断で行うことが可能である。例えば、脆弱な部品を把持、精密な嵌め合い、正確な位置決めや軸合わせなどの作業は、スレーブアーム1の動きにオペレータの操作を反映させることのできる手動モード又は修正自動モードで行われることが好適である。このような作業において、例えば、スレーブアーム1を完全に自動で動作させると不具合の発生が予想されるような場合には、修正自動モードが選択されるとよい。修正自動モードでは、スレーブアーム1の自動的な動作を基調としつつ、オペレータの操作でその動作を修正することができるので、手動モードと比較してオペレータの負荷は小さく、且つ、作業効率の低下を抑えることができる。このように、本システム100によれば、オペレータが作業ごとに複数の制御モードのなかから状況に応じた適切な制御モードを選択することによって、止まらないロボットシステムを実現することができる。
【0068】
また、上記遠隔操作ロボットシステム100及びその動作方法によれば、オペレータの操作が要求される手動モード及び修正自動モードが、複数のスレーブアーム1で同時に出現しない。よって、自動部分と選択部分を織り交ぜた一連の作業を2つ以上のスレーブアーム1A,1Bを用いて効率的に行うことが可能となり、1つのスレーブアームを用いる場合と比較してシステム100の作業内容が拡張される。つまり、自動モードでのスレーブアーム1Aの作業と、自動モード、手動モード、及び修正自動モードのうち一つの制御モードでのスレーブアーム1Bの作業とを同時進行させることが可能となる。また、複数のスレーブアーム1を一人のオペレータが遠隔操作するので、スレーブアームやオペレータの空き時間が短縮される。よって、システム100の作業効率の向上が見込める。
【0069】
また、上記実施形態に係る遠隔操作ロボットシステム100は、手動モード又は修正自動モードの開始時に、複数のスレーブアーム1のうち被操作スレーブアーム1の各関節JTの回転位置を取得し、マスタアーム2と被操作スレーブアーム1の対応する関節JTn,JTmn(nは1〜6の整数)の回転位置が各々等しくなるように、マスタアーム2を動作させるマスタ制御部62(マスタ制御装置)を備えている。
【0070】
同様に、上記実施形態に係る遠隔操作ロボットシステム100の運転方法は、スレーブアーム1が作業を行うステップが、選択部分の開始時に、複数の制御モードのうち一つの選択を受け付けることと、受け付けた制御モードが手動モード又は修正自動モードであるときに、複数のスレーブアームのうち被操作スレーブアーム1とマスタアーム2との対応する関節JTn,JTmn(nは1〜6の整数)の回転位置が各々等しくなるように、マスタアーム2を動作させることとを含んでいる。
【0071】
上記遠隔操作ロボットシステム100及びその動作方法によれば、手動モード又は修正自動モードでの作業の開始時にマスタアーム2と被操作スレーブアーム1との対応する関節JTn,JTmnの回転位置が各々等しくなっており、オペレータはマスタアーム2を視認すれば被操作スレーブアーム1の各関節JTの状況を知ることができる。よって、ディスプレイ装置41に表示された被操作スレーブアーム1の状況情報が被操作スレーブアーム1の全体を示していなくとも、オペレータは被操作スレーブアーム1の大体の状況を知ることができる。
【0072】
また、上記実施形態に係る遠隔操作ロボットシステム100では、複数のスレーブアーム1の関節数は等しく、マスタ装置20は複数のスレーブアーム1と同じ関節数のマスタアーム2であって、マスタアーム2の腕部23のリンク長比がスレーブアーム1のうち少なくとも一つの腕部13のリンク長比と異なっている。
【0073】
このように、マスタアーム2とスレーブアーム1とは相似形に限定されず、マスタアーム2はオペレータが操作しやすく、スレーブアーム1は作業の内容に適した構成とすることができる。
【0074】
また、上記実施形態に係る遠隔操作ロボットシステム100は、複数のスレーブアーム1の状況情報を取得する状況取得装置5と、手動モード又は修正自動モードの開始時に、複数のスレーブアーム1のうち被操作スレーブアーム1の状況情報を出力する出力装置4とを更に備えている。
【0075】
これにより、オペレータは出力装置4(例えば、ディスプレイ装置41)に出力された被操作スレーブアーム1の状況情報を確認しながら、マスタ装置20を操作することができる。なお、手動モードのときは、オペレータの技能や作業の難易度によって、作業ごとに所要時間が変動しやすい。そこで、手動モードのときは、出力装置4が手動操作のためのガイダンスをオペレータに向けて表示出力するようにしてもよい。
【0076】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0077】
例えば、上記実施形態において、マスタ装置20はスレーブアーム1と非相似形のロボットアームであるが、マスタ装置20の態様はこれに限定されない。例えば、マスタ装置20として、スレーブアーム1の相似形のロボットアームが採用されてもよい。つまり、マスタ装置20が、複数のスレーブアーム1と同じ関節数のマスタアームであって、マスタアームの腕部のリンク長比がスレーブアーム1のうち少なくとも一つの腕部13のリンク長比と等しいものであってもよい。なお、スレーブアーム1と相似形のマスタアームがマスタ装置20として用いられた場合であっても、前述の実施形態と同様に、手動モード又は前記修正自動モードの開始時に、被操作スレーブアーム1の各関節JTの回転位置を取得し、マスタアームと被操作スレーブアーム1の対応する関節の回転位置が各々等しくなるように、マスタ制御部62がマスタアームを動作させてよい。
【0078】
このように、マスタ装置20としてスレーブアーム1と相似形のロボットアームが採用されることによれば、マスタ装置20はスレーブアーム1と対応した姿勢を採ることとなり、オペレータはマスタ装置20を見てスレーブアーム1の姿勢を感覚的に捉えることができる。
【0079】
また、上記実施形態において、マスタ装置20はロボットアームであるが、マスタ装置20はこれに限定されない。例えば、マスタ装置20は、3以上の自由度を有する水平又は垂直多関節ロボットであってもよいし、ジョイスティック、操作レバー、操作ボタン、操作ダイヤル、タブレット、ペンダントなどの既知の操作手段のうち1つ以上の組み合わせであってよい。
【0080】
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。
【符号の説明】
【0081】
1,1A,1B :スレーブアーム
2 :マスタアーム
4 :出力装置
5 :状況取得装置
6 :制御ユニット
7 :入力装置
8 :記憶装置
11a〜11f :リンク
13 :腕部
15 :基台
16 :モータ制御部
20 :マスタ装置
21a〜21f :リンク
23 :腕部
25 :基台
26 :モータ制御部
41 :ディスプレイ装置
60 :ホスト制御部
61,61A,61B :スレーブ制御部(スレーブ制御装置)
62 :マスタ制御部(マスタ制御装置)
63 :受信部
64 :出力制御部
65 :修正部
100 :遠隔操作ロボットシステム
C1〜6,Cm1〜6 :電流センサ
E1〜6,Em1〜6 :位置センサ
JT1〜6,JTm1〜6 :関節
M1〜6,Mm1〜6 :駆動モータ
図1
図2
図3
図4