(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記センサホルダの外周面の途中部に鍔部が形成され、前記外周面が前記外方部材のセンサホルダ嵌合部に嵌合され、前記鍔部が前記外方部材の端面に接触して前記センサホルダの嵌合位置を定める請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の車輪用軸受装置。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の懸架装置において車輪を回転自在に支持し、車輪の回転速度を検出する回転速度検出装置を備えた車輪用軸受装置が知られている。車輪用軸受装置は、車輪に接続されるハブ輪が転動体を介して回転自在に支持されている。また、車輪用軸受装置の回転速度検出装置は、円周方向に異なる磁極が交互に着磁されたエンコーダリングと磁気センサとから構成されている。車輪用軸受装置は、ハブ輪にエンコーダリングが固定され、ハブ輪とともに回転しない部分に磁気センサが配置されている。車輪用軸受装置は、ハブ輪とともに回転するエンコーダリングが磁気センサ近傍を通過する際の磁性の変化の間隔からハブ輪に接続される車輪の回転速度を検出することができる。
【0003】
このような車輪用軸受装置において、回転速度検出装置のエンコーダリングへの飛石等による破損、泥土や磁性体等の付着による誤検出を防止するためにエンコーダリングをカバーによって保護しているものがある。車輪用軸受装置の外輪の開口部を非磁性体のカバーで覆うことで外輪の内部にエンコーダリングを密封するものである。例えば、特許文献1に記載の如くである。
【0004】
特許文献1に記載の車輪用軸受装置は、パルサリング(エンコーダリング)を覆う円筒状の保護カバーと、回転速度センサ(磁気センサ)と、回転速度センサを支持する円筒状のセンサキャップを具備する。パルサリング側の外方部材の開口部には、シール部材を備える保護カバーが嵌合され、その外側にセンサキャップが嵌合されている。これにより、車輪用軸受装置は、密封性の高い保護カバーとセンサキャップによって、泥土や磁性体から回転速度検出装置の磁気パルサリングを保護するだけでなく、飛び石等による破損を低減する。車輪用軸受装置は、パルサリング側の外方部材の開口部の内周に保護カバーの嵌合部分と保護カバーのシール部材の接触部分とセンサキャップの嵌合部分とがそれぞれ形成され、順に内径が大きくなるように構成されている。すなわち、パルサリング側の外方部材の開口部の内周には、複数の段差が形成されている。このため、車輪用軸受装置は、保護カバーを外方部材に取り付ける際にシール部材が段差に接触しても損傷しないように外方部材の開口部の内周に複雑な加工を施す必要があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、外方部材のインナー側開口部に複雑な加工を施すことなく保護カバーのシール部材の損傷を防止し、保護カバーの密封性を維持することができる車輪用軸受装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、車輪用軸受装置においては、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジを一体に有し、外周の他端部に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪からなり、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、この内方部材と前記外方部材とのそれぞれの転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材のインナー側開口部の内周に嵌合され、外周面に円環状のシール部材が設けられる円筒状の保護カバーと、前記外方部材のインナー側開口部の内周であって前記保護カバーよりも外側に嵌合される円筒状のセンサホルダと、を備えた車輪用軸受装置において、前記外方部材のインナー側開口部の内周に、インナー側端から軸方向アウター側に向かって順に、前記センサホルダが嵌合されるセンサホルダ嵌合部と、前記保護カバーのシール部材が接触するシール部と、保護カバーが嵌合される保護カバー嵌合部が形成され、前記シール部の内径が前記保護カバー嵌合部の内径よりも大きい内径であって、前記センサホルダ嵌合部の内径と同一の内径であり、前記シール部と前記センサホルダ嵌合部とが隣接しているものである。
【0008】
車輪用軸受装置においては、前記保護カバーの外周面が大径部と、大径部に接続されるテーパ部と、テーパ部に接続される小径部とから形成され、前記テーパ部と前記小径部とに前記シール部材が前記外方部材のシール部の内径よりも大きい外径に形成され、前記大径部が前記外方部材の保護カバー嵌合部に嵌合されるものである。
【0009】
車輪用軸受装置においては、前記シール部材に径方向外側に向かって突出する環状突出部が形成されるものである。
【0010】
車輪用軸受装置においては、前記シール部材の環状突出部がリップ状に形成されるものである。
【0011】
車輪用軸受装置においては、前記センサホルダの外周面の途中部に鍔部が形成され、前記外周面が前記外方部材のセンサホルダ嵌合部に嵌合され、前記鍔部が前記外方部材の端面に接触して前記センサホルダの嵌合位置を定めるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0013】
即ち、本発明によれば、外方部材のインナー側開口部の内周面における保護カバーのシール部材が通過する範囲に段差が存在しない。これにより、外方部材のインナー側開口部に複雑な加工を施すことなくシール部材の損傷を防止し、保護カバーの密封性を維持することができる。また、インナー側開口部のセンサホルダ嵌合部を径方向内側に向かって縮小させて段差を無くすことでインナー側開口部の外径が小さく形成される。これにより、外方部材を軽量化することができる。
【0014】
本発明によれば、保護カバーの大径部と小径部とをテーパ部で連結することにより大径部の小径側の剛性の増大が抑制されるので大径部の形状が外方部材の内側嵌合面になじみやすい。これにより、外方部材のインナー側開口部に複雑な加工を施すことなくシール部材の損傷を防止し、保護カバーの密封性を維持することができる。
【0015】
本発明によれば、保護カバーのシール部材が外方部材のインナー側開口部のシール部とセンサホルダ嵌合部とを摺動する際に発生する摩擦抵抗が抑制される。これにより、外方部材のインナー側開口部に複雑な加工を施すことなくシール部材の損傷を防止し、保護カバーの密封性を維持することができる。
【0016】
本発明によれば、センサホルダの嵌合位置を定めるために外方部材の内周に段差を設ける必要がない。これにより、外方部材のインナー側開口部に複雑な加工を施すことなくシール部材の損傷を防止し、保護カバーの密封性を維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、
図1から
図3を用いて、本発明に係る車輪用軸受装置の一実施形態である車輪用軸受装置1について説明する。
【0019】
図1に示すように、車輪用軸受装置1は、自動車等の車両の懸架装置において車輪を回転自在に支持するものである。車輪用軸受装置1は、外方部材である外輪2、内方部材を構成するハブ輪3、内方部材を構成する内輪4(
図2参照)、転動列である二列の一側ボール列5a(
図2参照)、他側ボール列5b(
図2参照)、シール部材6(
図2参照)、エンコーダリング7(
図2参照)、保護カバー9(
図2参照)、センサホルダ11および磁気センサ12を具備する。
【0020】
図2(a)に示すように、外方部材である外輪2は、内方部材(ハブ輪3と内輪4)を支持するものである。外輪2は、略円筒状に形成されたS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で構成されている。外輪2の一側(インナー側)端部には、保護カバー9とセンサホルダ11とが嵌合可能な一側開口部2aが形成されている。外輪2の車輪取り付けフランジ3b側である他側(アウター側)端部には、シール部材6が嵌合可能な外方部材開口部である他側開口部2bが形成されている。
【0021】
外輪2の内周面には、環状に形成されている一側の外側転走面2cと他側の外側転走面2dとが周方向に互いに平行になるように形成されている。一側の外側転走面2cと他側の外側転走面2dとのピッチ円直径は、等しい大きさに構成されている。なお、一側の外側転走面2cと他側の外側転走面2dとのピッチ円直径は、異なる大きさに構成してもよい。一側の外側転走面2cと他側の外側転走面2dとには、高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲とする硬化層が形成されている。外輪2の外周面には、図示しない懸架装置のナックルに取り付けられるための車体取り付けフランジ2eが一側開口部2aの近傍に一体に形成されている。車体取り付けフランジ2eは、外輪2の一側の外側転走面2cに対向する部分を含む範囲に形成されている。外輪2の一側開口部2a(内輪4側開口部)は、保護カバー9とセンサホルダ11とが嵌合可能に形成されている。
【0022】
内方部材を構成するハブ輪3は、図示しない車両の車輪を回転自在に支持するものである。ハブ輪3は、有底円筒状に形成されたS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で構成されている。ハブ輪3の一側端部(インナー側)には、外周面に縮径された小径段部3aが形成されている。ハブ輪3の他側端部(アウター側)には、車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジ3bが一体的に形成されている。ハブ輪3の他側(車輪取り付けフランジ3b側)の外周面には、周方向に環状の内側転走面3cと環状のシール摺動面3dとが形成されている。車輪取り付けフランジ3bには、円周等配位置にハブボルト3eが設けられている。
【0023】
ハブ輪3の一側端部の小径段部3aは、内方部材を構成する内輪4が圧入されている。内輪4は、SUJ2等の高炭素クロム軸受鋼からなり、ズブ焼入れにより芯部まで58〜64HRCの範囲で硬化処理されている。内輪4の外周面には、周方向に環状の内側転走面4aが形成されている。内輪4は、圧入により所定の予圧が付与された状態でハブ輪3の一側端部に一体的に固定されている。つまり、ハブ輪3の一側には、内輪4によって内側転走面4aが構成されている。ハブ輪3は、一側の小径段部3aからシール摺動面3dまでを高周波焼入れにより表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。これにより、ハブ輪3は、車輪取り付けフランジ3bに付加される回転曲げ荷重に対して充分な機械的強度を有し、ハブ輪3の耐久性が向上する。
【0024】
ハブ輪3は、一側端部の内輪4に形成されている内側転走面4aが外輪2の一側の外側転走面2cに対向し、他側に形成されている内側転走面3cが外輪2の他側の外側転走面2dに対向するように配置されている。すなわち、ハブ輪3と内輪4とからなる内方部材は、外輪2の一側開口部内に内輪4が配置され、外輪2の他側開口部内にハブ輪3の車輪取り付けフランジ3bが配置されている。
【0025】
転動列である一側ボール列5aと他側ボール列5bとは、ハブ輪3を回転自在に支持するものである。一側ボール列5aと他側ボール列5bとは、転動体である複数のボールが保持器によって環状に保持されている。一側ボール列5aと他側ボール列5bとは、SUJ2等の高炭素クロム軸受鋼からなり、ズブ焼入れにより芯部まで58〜64HRCの範囲で硬化処理されている。一側ボール列5aは、内輪4に形成されている内側転走面4aと、それに対向している外輪2の一側の外側転走面2cとの間に転動自在に挟まれている。他側ボール列5bは、ハブ輪3に形成されている内側転走面3cと、それに対向している外輪2の他側の外側転走面2dとの間に転動自在に挟まれている。つまり、一側ボール列5aと他側ボール列5bとは、外輪2に対してハブ輪3と内輪4とを回転自在に支持している。
【0026】
車輪用軸受装置1は、外輪2とハブ輪3と内輪4と一側ボール列5aと他側ボール列5bとから複列アンギュラ玉軸受が構成されている。なお、本実施形態において、車輪用軸受装置1には、複列アンギュラ玉軸受が構成されているがこれに限定されるものではなく、複列円錐ころ軸受等で構成されていても良い。
【0027】
シール部材6は、外輪2とハブ輪3との隙間を塞ぐものである。シール部材6は、NBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)、耐熱性に優れたHNBR(水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)、耐熱性、耐薬品性に優れたACM(ポリアクリルゴム)、FKM(フッ素ゴム)、あるいはシリコンゴム等の合成ゴムからなる複数のシールリップが加硫接着によって略円筒状に形成された芯金に一体に接合されている。シール部材6は、外輪2の他側開口部2bに芯金が嵌合され、ハブ輪3の外周面に複数の他側シールリップが接触している。シール部材6は、シールリップが油膜を介してハブ輪3の外周面と接触することでハブ輪3に対して摺動可能に構成されている。これにより、シール部材6は、外輪2の他側開口部2bからの潤滑グリースの漏れ、および外部からの雨水や粉塵等の侵入を防止する。
【0028】
図2(b)に示すように、エンコーダリング7(薄墨部分)は、フェライト等の磁性紛体が混入された合成ゴムが環状に形成され、周方向に等ピッチで磁極Nと磁極Sとに着磁されたものである。エンコーダリング7は、支持環8を介して内輪4に支持されている。支持環8は、一側端部が径方向内側に向かって屈曲された折り曲げ部を有する円筒状部材である。支持環8は、防錆性の向上と検出精度の安定性の向上のため強磁性体の鋼板、例えば、フェライト系のステンレス鋼鈑(JIS規格のSUS430系等)や防錆処理された冷間圧延鋼鈑(JIS規格のSPCC系等)からプレス加工にて形成されている。エンコーダリング7は、支持環8の折り曲げ部に加硫接着によって一体に接合されている。支持環8は、他側端部の円筒部分に内輪4が圧入されている。すなわち、エンコーダリング7は、外輪2の一側開口部2aの内部であって内輪4の端面に対向する位置に配置されている。これにより、エンコーダリング7は、支持環8を介して内輪4と一体的に回転可能に構成されている。
【0029】
保護カバー9は、外輪2のインナー側開口部である一側開口部2aを塞いでエンコーダリング7を保護するものである。保護カバー9は、プレス加工によって底面を有する円筒状に形成され、非磁性のオーステナイト系ステンレス鋼鈑(JIS規格のSUS304系等)から構成されている。保護カバー9は、側部にシール部材10が一体的に設けられている。
図3(a)に示すように、保護カバー9は、円筒状の大径部9aと小径部9cとが所定の角度θからなるテーパ部9bで連結されている側部と中央部が突出した円盤状の底部9dとから形成されている。保護カバー9は、大径部9aの一端と小径部9cとの他端とがテーパ部9bを介して接続され、小径部9cの他端に底部9dの外縁が一体に連結されている。つまり、保護カバー9は、一側端に底部9dが形成され、他側端が開口している。保護カバー9は、テーパ部9bと小径部9cとにNBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)、耐熱性に優れたHNBR(水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)、耐熱性、耐薬品性に優れたACM(ポリアクリルゴム)、FKM(フッ素ゴム)、あるいはシリコンゴム等の合成ゴムからなる環状のシール部材10が加硫接着によって一体的に設けられている。シール部材10には、環状突出部である環状のシールリップ10aと突出面10bとが一体に形成されている。
【0030】
保護カバー9は、環状のシールリップ10aと突出面10bとの外径であるシール外径D2が大径部9aの外径であるカバー外径D1よりも大きい外径に形成されている。保護カバー9は、外輪2の一側開口部2aの内周に嵌合されている。この際、保護カバー9は、底部9dをエンコーダリング7に近接させるために全体が外輪2の内部に入り込んだ位置に嵌合されている。また、保護カバー9の底部9dは、所定の軸方向の隙間をあけてエンコーダリング7に対向するように配置されている。保護カバー9のシール部材10は、外輪2の一側開口部2aと保護カバー9との隙間をシールしている。これにより、保護カバー9は、外輪2の一側開口部2aを塞ぎ、一側開口部2aの近傍に配置されているエンコーダリング7を保護している。
【0031】
なお、保護カバー9のシール部材10は、環状突出部としてシールリップ10aと環状の突出面10bとがそれぞれ形成されているがこれに限定するものではなく、シールリップ10aのみが形成されているものや、環状の突出面10bのみが形成されているものでもよい。
【0032】
図2(a)に示すように、センサホルダ11は、磁気センサ12を保持するものである。センサホルダ11は、プレス加工によって底面を有する円筒状に形成され、フェライト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS430系等)やオーステナイト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS304系等)、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板(JIS規格のSPCC系等)から構成されている。センサホルダ11がSPCC系の材料で構成される場合、カチオン電着塗装によって防錆皮膜が形成されている。特に、防錆力と密着力に優れた強力な塗装膜が形成できるエポキシ樹脂系等からなるカチオン電着塗装が好ましい。なお、カチオン電着塗装は、正電極に対して、製品側を負電極として通電するものであるが、負電極に対して、製品側を正電極として通電するアニオン型の電着塗装であっても良い。このアニオン型の電着塗装の場合、塗装色の安定性や焼付温度を低く設定できる特徴を備えている。
【0033】
図3(b)に示すように、センサホルダ11は、円筒状の側部11aと一部が突出した円盤状の底部11cとから形成されている。側部11aには、径方向外側に突出している環状の鍔部11bが形成されている。底部11cには、磁気センサ取付部11dが形成されている。センサホルダ11は、側部11aの外径であるセンサホルダ外径D3が保護カバー9のカバー外径D1よりも大きく、保護カバー9のシール外径D2よりも小さい外径に形成されている。
【0034】
センサホルダ11は、外輪2の一側開口部2aの内周に嵌合されている。この際、センサホルダ11は、鍔部11bが外輪2の一側端に接触している状態で嵌合されている。すなわち、センサホルダ11は、外輪2の一側開口部2aの内周に嵌合されている保護カバー9よりも外側(インナー側)で保護カバー9を覆うように一側開口部2aに嵌合されている。これにより、センサホルダ11は、外輪2の一側開口部2aを塞ぐとともに外輪2に対する軸方向の位置が定まる。従って、センサホルダ11は、その底部9dの磁気センサ取付部11dに取り付けられる磁気センサ12をエンコーダリング7に対して適切な位置で保持することができる。
【0035】
図2(a)に示すように、磁気センサ12は、エンコーダリング7の磁性を検出するものである。磁気センサ12は、センサホルダ11によってその検出面がエンコーダリング7に対向するようにして外輪2に設けられている。磁気センサ12は、エンコーダリング7から所定のエアギャップ(軸方向すきま)になるようにセンサホルダ11に保持されている。磁気センサ12は、ハブ輪3と一体的に回転することにより交互に検出面を通過するエンコーダリング7の各磁性の通過時間を検出する。
【0036】
このように構成される車輪用軸受装置1は、外輪2とハブ輪3と内輪4と一側ボール列5aと他側ボール列5bとから複列アンギュラ玉軸受が構成され、ハブ輪3が一側ボール列5aと他側ボール列5bを介して外輪2に回転自在に支持されている。また、車輪用軸受装置1は、外輪2の一側開口部2aと内輪4との隙間を保護カバー9とセンサホルダ11とで塞がれ、外輪2の他側開口部2bとハブ輪3との隙間をシール部材6で塞がれている。これにより、車輪用軸受装置1は、保護カバー9によって内部からの潤滑グリースの漏れ、および外部からの雨水や粉塵等の侵入を防止しつつ内輪4に固定されているエンコーダリング7を保護している。また、車輪用軸受装置1は、センサホルダ11によって磁気センサ12をエンコーダリング7に対して適切な位置に保持している。
【0037】
次に、
図4を用いて、外輪2の一側開口部2aの内周の形状について詳細に説明する。
【0038】
図4に示すように、外輪2の一側開口部2aの内周は、保護カバー9とセンサホルダ11とが嵌合する嵌合孔13として構成されている。嵌合孔13には、保護カバー9の大径部9a(
図3(a)参照)が圧入嵌合されている保護カバー嵌合部13a(一番目に濃い薄墨部分)と、保護カバー9のシール部材10が接触しているシール部13b(三番目に濃い薄墨部分)と、センサホルダ11の側部11a(
図3(b)参照)が圧入嵌合されているセンサホルダ嵌合部13c(二番目に濃い薄墨部分)と、が形成されている。
【0039】
センサホルダ嵌合部13cは、一側開口部2aのインナー側端(外輪2の一側端)から軸方向アウター側に向かって形成されている。センサホルダ嵌合部13cは、センサホルダ11の側部11aのうち鍔部11bまでの部分がすべて嵌合可能な軸方向長さの孔として形成されている。シール部13bは、センサホルダ嵌合部13cの軸方向アウター側に隣接して形成されている。シール部13bは、保護カバー9の小径部9c(
図3(a)参照)がすべて含まれる軸方向長さの孔として形成されている。保護カバー嵌合部13aは、シール部13bの軸方向アウター側に隣接して形成されている。保護カバー嵌合部13aは、径方向からみて外輪2と重複する位置に、保護カバー9の大径部9aが嵌合可能な軸方向長さの孔として形成されている。つまり、外輪2の一側開口部2aの内周には、一側開口部2aの端面から順に軸方向アウター側に向かってセンサホルダ嵌合部13c、シール部13bおよび保護カバー嵌合部13aが形成されている。
【0040】
嵌合孔13は、センサホルダ嵌合部13cの内径である外側内径d3が保護カバー嵌合部13aの内径である内側内径d1よりも大きい内径に形成されている。また、嵌合孔13は、保護カバー嵌合部13aとセンサホルダ嵌合部13cとの間に形成されているシール部13bの内径であるシール部内径d2が外側内径d3と同一の内径に形成されている。つまり、嵌合孔13は、保護カバー嵌合部13aが形成されている小径部分と、シール部13bおよびセンサホルダ嵌合部13cが形成されいてる大径部分とのみから構成されている。
【0041】
嵌合孔13の保護カバー嵌合部13aは、保護カバー9の大径部9a(
図3(a)参照)が圧入嵌合可能な大きさの内側内径d1に形成されている。嵌合孔13のセンサホルダ嵌合部13cは、センサホルダ11の側部11a(
図3(b)参照)が圧入嵌合可能な大きさの外側内径d3に形成されている。また、センサホルダ嵌合部13cは、保護カバー9の大径部9aがセンサホルダ嵌合部13cの内周面に接触することなく通過可能な大きさの外側内径d3であって、保護カバー9のシール部材10のシールリップ10a(
図3(a)参照)と突出面10b(
図3(a)参照)とが密封性を維持した状態でセンサホルダ嵌合部13cの内周面に接触して移動可能な大きさの外側内径d3に形成されている。嵌合孔13のシール部13bは、保護カバー9の大径部9aがシール部13bの内周面に接触することなく通過可能な大きさのシール部内径d2であって、保護カバー9のシール部材10のシールリップ10aと突出面10bとが密封性を維持した状態でシール部13bの内周面に接触して移動可能な大きさのシール部内径d2に形成されている。
【0042】
次に、
図5と
図6とを用いて、外輪2の嵌合孔13に保護カバー9とセンサホルダ11とが組み付けられる態様について説明する。
【0043】
図5(a)に示すように、保護カバー9は、嵌合孔13の入口である外輪2の嵌合孔13の軸心に保護カバー9の軸心を一致させた状態で嵌合孔13に挿入される。保護カバー9は、大径部9aが嵌合孔13のセンサホルダ嵌合部13cに挿入される。この際、センサホルダ嵌合部13cの外側内径d3よりも小さいカバー外径D1である大径部9aは、センサホルダ嵌合部13cの内周面に接触することがない。
【0044】
図5(b)に示すように、嵌合孔13の内側(アウター側)に向かって移動される保護カバー9は、大径部9aが嵌合孔13のシール部13bに挿入され、シール部材10がセンサホルダ嵌合部13cに挿入される。この際、シール部13bのシール部内径d2よりも小さいカバー外径D1である大径部9aは、シール部13bの内周面に接触することがない。一方、センサホルダ嵌合部13cの外側内径d3よりも大きいシール外径D2(
図5(a)参照)であるシール部材10は、シールリップ10aと突出面10bとがセンサホルダ嵌合部13cの内周面に接触して変形した状態で嵌合孔13の内側に向かって移動される。
【0045】
図6(a)に示すように、嵌合孔13の内側に向かって移動される保護カバー9は、大径部9aが嵌合孔13の保護カバー嵌合部13aに挿入され、シール部材10がシール部13bに挿入される。この際、保護カバー嵌合部13aの内側内径d1と略同一のカバー外径D1である大径部9aは、保護カバー嵌合部13aの内周面に接触した状態で嵌合孔13の内側に向かって移動(圧入嵌合)される。一方、シール部13bのシール部内径d2よりも大きいシール外径D2(
図5(a)参照)であるシール部材10は、シールリップ10aと突出面10bとがセンサホルダ嵌合部13cの内周面に接触した状態で嵌合孔13の内側に向かって移動される。保護カバー9は、大径部9aが嵌合孔13の保護カバー嵌合部13aの所定の位置まで圧入嵌合されることで外輪2に固定され、シール部材10のシールリップ10aと突出面10bとがシール部13bの内周面に接触して嵌合孔13と保護カバー9との密封性を確保する。
【0046】
図6(a)に示すように、センサホルダ11は、嵌合孔13の入口である外輪2の一側開口部2aから嵌合孔13の軸心にセンサホルダ11の軸心を一致させた状態で嵌合孔13に挿入される。センサホルダ11は、嵌合孔13のセンサホルダ嵌合部13cに側部11aが挿入される。この際、センサホルダ嵌合部13cの外側内径d3と略同一のセンサホルダ外径D3である側部11aは、センサホルダ嵌合部13cの内周面に接触した状態で圧入嵌合されている。
図6(b)に示すように、センサホルダ11は、側部11aの鍔部11bが外輪2の一側端に接触するまで外嵌合孔13の内側に向かって移動される。
【0047】
このように構成することで、保護カバー9のシール部材10は、センサホルダ嵌合部13cからシール部13bの所定に位置に至るまでの間に、内径の大きさが同一であるセンサホルダ嵌合部13cの内周面とシール部13bの内周面とに接触した状態で移動される。つまり、シール部材は、センサホルダ嵌合部13cからシール部13bの所定に位置に至るまでの間に段差等を通過することなく一定の接触状態を維持しつつ嵌合孔13の内周面上を移動される。また、嵌合孔13は、内周面に小径部分と大径部分とを形成するだけで保護カバー9とセンサホルダ11とを圧入嵌合により固定するための保護カバー嵌合部13aとセンサホルダ嵌合部13c、および嵌合孔13と保護カバー9との隙間をシールするためのシール部13bが構成される。このように、車輪用軸受装置1は、外輪2の内輪4側開口部の嵌合孔13に複雑な加工を施すことなく保護カバー9のシール部材の損傷を防止し、保護カバー9の密封性を維持することができる。
【0048】
保護カバー9は、大径部9aと小径部9cとをテーパ部9bで接続することでプレス加工で作成する場合の小径部9cの外径と大径部9aの外径であるカバー外径D1との段差の最少寸法を小さくすることができる。つまり、保護カバー9は、大径部9aと小径部9cとが略直角に屈曲されている段差部によって接続されている場合に比べて、小径部9cの内径を径方向外側に拡張することができる。さらに、エンコーダリング7は、支持環8の一側端部が径方向内側に屈曲された折り曲げ部に設けられているので内輪4の径方向外側にエンコーダリング7用の空間を確保する必要がない。従って、車輪用軸受装置1は、ハブ輪3や内輪4の軸径を大きくしたり、一側ボール列5aと他側ボール列5bとのピッチ円直径を大きくしたりすることができる。これにより、車輪用軸受装置1は、車輪取り付けフランジ3bに付加される回転曲げ荷重に対する機械的強度および転動疲労寿命を向上させることができる。
【0049】
以上、発明の実施の形態について、車輪用軸受装置1は、ハブ輪3の外周に一側ボール列5aの内側転走面3cが直接形成されている第3世代構造の車輪用軸受装置1として構成されているがこれに限定するものではなく、ハブ輪3に一対の内輪4が圧入固定された第2世代構造であっても良い。また、本発明は各実施形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。