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特許6754433ホイールスリップ及び車両加速を独立的に制御するためのシステム及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6754433
(24)【登録日】2020年8月25日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】ホイールスリップ及び車両加速を独立的に制御するためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/02 20120101AFI20200831BHJP
   B60W 10/04 20060101ALI20200831BHJP
   B60W 10/18 20120101ALI20200831BHJP
   B60W 40/10 20120101ALI20200831BHJP
   B60T 8/175 20060101ALI20200831BHJP
【FI】
   B60W30/02
   B60W10/00 120
   B60W10/04
   B60W10/18
   B60W40/10
   B60T8/175
【請求項の数】15
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-533231(P2018-533231)
(86)(22)【出願日】2016年11月4日
(65)【公表番号】特表2019-502596(P2019-502596A)
(43)【公表日】2019年1月31日
(86)【国際出願番号】US2016060433
(87)【国際公開番号】WO2017112108
(87)【国際公開日】20170629
【審査請求日】2018年6月22日
(31)【優先権主張番号】14/977,919
(32)【優先日】2015年12月22日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】315019735
【氏名又は名称】日信ブレーキシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】イング、 ロング
【審査官】 増子 真
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−024556(JP,A)
【文献】 特開2015−070779(JP,A)
【文献】 特開平11−170999(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC B60W10/00−10/30
30/00−60/00
B60T 7/12− 8/1769
8/32− 8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の第1の車軸に関連付けられた一対のホイールの各スリップしているホイールのホイールスリップをリアルタイム制御するためのシステムであって、該リアルタイム制御は、前記第1の車軸に関連付けられた各スリップしていないホイールによって提供される前記自動車の加速のリアルタイムの明示的な制御と同時にかつ独立的に行われ、当該システムは、
協調型ホイールコントローラ(coordinated wheel controller、CWC)サブシステムであって、
前記第1の車軸の全ダイナミクスを制御するために使用されるトルク信号TTCを生成するための、前記自動車の前記第1の車軸に関連付けられた第1のトータルコントローラ、及び
前記第1の車軸の非対称ダイナミクスを制御するように別のトルク信号TACを生成するように動作可能である、前記第1の車軸に関連付けられた第1の非対称コントローラを有し、
前記第1のトータルコントローラ及び前記第1の非対称コントローラは各々、
ホイールスリップフィードバック制御モード、及び
フィードフォワード制御モードを含むように更に構成されていて、
前記第1のトータルコントローラ及び前記第1の非対称コントローラは各々、ホイールスリップ状態及びホイール非スリップ状態を含む各前記ホイールのリアルタイム動作状態を検出し、かつ前記第1のトータルコントローラ及び前記第1の非対称コントローラのそれぞれのホイールスリップフィードバック制御モード及びフィードフォワード制御モードを増強するように更に構成されていて、前記増強が各前記ホイールの前記検出された動作状態及び以下の状態既定表に基づいている、協調型ホイールコントローラ(coordinated wheel controller、CWC)サブシステムと、
分配器サブシステムであって、前記自動車のドライブトレイン(the drive train)が
前記第1の車軸に関連付けられ、かつドライブトルクが制御可能である場合に、ドライブトルク目標Tを生成し、前記CWCサブシステムのトルク出力信号TC及びTACに応答し、以下の方程式が一般的に満たされるような様式で、前記第1の車軸に関連付けられた各ホイールについてのブレーキトルク目標(左ホイールについてはTBL、及び右ホイールについてはTBR)を更に生成するために使用される分配器サブシステムと、を備えることを特徴とするシステム。
【表1】
【数1】
【請求項2】
直接トルク管理(direct torque management、DTM)サブシステムを更に備え、
前記DTMサブシステムは、各ホイールが安定動作領域内で動作し、かつホイールスリップを経験していないときはいつでも、各前記ホイールが経験する表面トルクの所望の変化率を計算するためのDTMホイール制御モジュールを有することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記DTMサブシステムは、DTM運動制御処理モジュールを更に含み、該DTM運動制御処理モジュールは、各ホイールが安定動作領域内で動作し、かつホイールスリップを経験していないときはいつでも、各前記ホイール上の外部システムのトルク指示に応答して、各前記ホイールが経験する表面トルクの別の所望の変化を計算することを特徴とする請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記DTMサブシステムは、前記DTMホイール制御モジュール及び前記DTM運動制御処理モジュールに応答するDTM裁定モジュールを更に備え、該DTM裁定モジュールは、非スリップ動作領域内で動作している前記ホイールのうちの各々についての表面トルクの変化率に関する、前記DTMホイール制御モジュール及び前記DTM運動制御処理モジュールからの出力を裁定し、次いで前記第1の車軸について、2つのホイールについての表面トルクの前記裁定された変化率(dTSL及びdTSR)をもたらすために必要とされる、前記CWCサブシステムの前記第1のトータルコントローラ及び前記第1の非対称コントローラからのトルク出力dTTC及びdTACの前記変化率をそれぞれ計算するように構成されていることを特徴とする請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
初期化及び飽和モジュールを更に備え、該モジュールは、アクチュエータの作動出力及びドライバの指示を監視し、アクチュエータの作動出力の飽和が検出された場合に前記CWCサブシステムのコントローラの内部構成要素の初期化及びリセットをサポートするために必要な計算を実行することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
制御偏差サブシステムを更に備え、該制御偏差サブシステムは、各前記ホイールが地面の上でスリップしているとき、及び各前記ホイールが安定していて地面の上でスリップしていないときを検出するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記制御偏差サブシステムは更に、
前記ホイールの各々についてのホイール速度目標を車軸の全目標及び車軸の対称的な目標に変換し、
前記ホイールの各々に関連付けられた個々のホイール速度のフィードバックを車軸の全フィードバック値及び車軸の対称的なフィードバック値に変換し、かつ
車軸の全制御偏差値及び車軸の非対称制御偏差値を計算するように構成されていることを特徴とする請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記自動車は第2の車軸を含み、当該システムは、
前記第2の車軸に動作可能に関連付けられた第2のトータルコントローラと、
前記第2の車軸に動作可能に関連付けられた第2の非対称コントローラとを更に備え、
前記第2のトータルコントローラ及び前記第2の非対称コントローラの両方は、前記第1のトータルコントローラ及び前記第1の非対称コントローラと同一に構成されていて、前記分配器サブシステムからの同一のサポートを有することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
自動車の第1の車軸に関連付けられた一対のホイールの各スリップしているホイールのホイールスリップをリアルタイム制御するためのシステムであって、該リアルタイム制御は、前記第1の車軸に関連付けられた各スリップしていないホイールによって提供される前記自動車の加速のリアルタイムの明示的な制御と同時にかつ独立的に行われ、当該システムは、
各前記ホイールが動作している制御領域、すなわち前記ホイールがスリップしているか又はスリップしていない(安定している)かのいずれかを決定し、前記第1の車軸の全制御偏差及び非対称制御偏差を計算するための制御偏差モジュールと、
前記ホイールの各々の表面トルクを制御するための直接トルク管理(direct torque management、DTM)サブシステムと、
協調型ホイールコントローラ(coordinated wheel controller、CWC)サブシステムであって、
前記第1の車軸の全ダイナミクスを制御するために使用されるトルク信号TTCを生成するための、前記自動車の前記第1の車軸に関連付けられた第1のトータルコントローラ、及び
前記第1の車軸の非対称ダイナミクスを制御するように別のトルク信号TACを生成するように動作可能である、前記第1の車軸に関連付けられた第1の非対称コントローラを有し、
前記直接トルク管理(direct torque management、DTM)サブシステムが、各前記ホイールについての前記表面トルクの所望の変化率(dTSL及びdTSR)をもたらすために必要とされる、前記第1のトータルコントローラ及び前記第1の非対称コントローラの各々からのトルク出力の変化率(dTTC及びdTAC)を決定するように動作する協調型ホイールコントローラ(coordinated wheel controller、CWC)サブシステムと、
前記CWCサブシステムに応答する分配器サブシステムであって、前記自動車のドライブトレインが前記第1の車軸に関連付けられ、かつドライブトルクが制御可能である場合に、ドライブトルク目標Tを生成し、かつ前記CWCサブシステムのトルク出力信号TC及びTACに応答して、前記第1の車軸に関連付けられた各ホイールについてのブレーキトルク目標(左ホイールについてはTBL、及び右ホイールについてはTBR)を生成するための分配器サブシステムとを備え、
前記CWCサブシステムの前記第1のトータルコントローラは更に、
フィードバック制御を、前記制御偏差モジュールによって計算される、前記第1の車軸の全制御偏差VDev_TCに適用するように構成されたホイールスリップフィードバック制御モードと、
前記DTMサブシステムによって計算される、前記第1の車軸のトルク出力dTTCの前記変化率を伝達するように構成されたフィードフォワード制御モードとを含むように構成されていて、
前記ホイールスリップフィードバック制御モード及び前記フィードフォワード制御モードを増強することによってトルク信号TTCを計算して出力するように構成されていて、前記増強は、1)前記制御偏差モジュールによって検出される、前記第1の車軸上の各ホイールの状態、及び2)次の表によって与えられる所定の計画に基づいていて、
【表2】
記CWCサブシステムの前記第1の非対称コントローラは更に、
フィードバック制御を、前記制御偏差モジュールによって計算される、前記第1の車軸の非対称制御偏差VDev_ACに適用するように構成されたホイールスリップフィードバック制御モードと、
前記DTMサブシステムによって計算される、前記第1の車軸のトルク出力dTACの前記変化率を伝達するように構成されたフィードフォワード制御モードとを含むように構成されていて、
前記ホイールスリップフィードバック制御モード及び前記フィードフォワード制御モードを増強することによってトルク信号TACを計算して出力するように構成されていて、前記増強は、1)前記制御偏差モジュールによって検出される、前記第1の車軸上の各ホイールの状態、及び2)表2によって与えられる所定の計画に基づいていて、
表2における「オン又はオフ」については、以下に示す表によって与えられる各値を用いた方程式6の非対称ダイナミクスに関する式について
【表3】
【数2】
【数3】
によって制御可能な場合、オンであり
【数4】
によって制御不可能な場合、オフであることを特徴とするシステム。
【請求項10】
前記制御偏差モジュールは、
最初に、次の式に従って、前記個々のホイール速度目標を車軸の全目標及び車軸の非対称目標に変換し、
【数5】
次いで、次の式に従って、個々のホイール速度フィードバックを車軸の全フィードバック及び車軸の非対称フィードバックに変換し、
【数6】
次いで、以下の式を適用することによって、前記車軸の全制御偏差及び車軸の非対称制御偏差を生成し、
【数7】
式中、VWTgt_Lは、左ホイールの目標速度であり、
VWTgt_Rは、右ホイールの目標速度であり、
Tgt_TCは、車軸の全目標速度であり、
Tgt_ACは、車軸の非対称目標速度であり、
VWLは、左ホイールの速度フィードバックであり、
VWは、右ホイールの速度フィードバックであり、
FB_TCは、車軸の全フィードバックであり、
FB_ACは、車軸の非対称フィードバックであり、
Dev_TCは、車軸の全制御偏差であり、
Dev_ACは、車軸の非対称制御偏差であることを特徴とする請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記DTMサブシステムは更に、
各ホイールが安定動作領域内で動作し、かつホイールスリップを経験していないときはいつでも、各前記ホイールが経験する表面トルクの所望の変化率を計算するためのDTMホイール制御モジュールと、
各ホイールが安定動作領域内で動作し、かつホイールスリップを経験していないときはいつでも、各前記ホイール上の外部システム(例えば、運動制御)のトルク指示に応答して、各前記ホイールが経験する表面トルクの別の所望の変化を計算するためのDTM運動制御処理モジュールと、
前記DTMホイール制御モジュール及び前記DTM運動制御処理モジュールに応答するDTM裁定モジュールであって、前記モジュールからの出力を、非スリップ動作領域内で動作している前記ホイールのうちの各々についての表面トルクの最終変化率(dTSL及びdTSR)に裁定し、次いで、前記第1の車軸について、次の式に従って、dTSL及びdTSRをもたらすために必要とされる、前記CWCサブシステムの前記第1のトータルコントローラ及び前記第1の非対称コントローラからのトルク出力dTTC及びdTACの前記変化率をそれぞれ計算するように構成されているDTM裁定モジュールとを備えることを特徴とする請求項9に記載のシステム。
【数8】
【請求項12】
前記分配器サブシステムは、前記CWCサブシステムのトルク出力信号TTC及びTACに応答して、以下の方程式が一般的に満たされるような様式で、前記第1の車軸についての前記ドライブトルク目標T並びにブレーキトルク目標TBL及びTBRを計算するように構成されていることを特徴とする請求項9に記載のシステム。
【数9】
【請求項13】
前記自動車は第2の車軸を含み、当該システムは、
前記第2の車軸に動作可能に関連付けられた第2のトータルコントローラと、
前記第2の車軸に動作可能に関連付けられた第2の非対称コントローラと、を更に備え、
前記第2のトータルコントローラ及び前記第2の非対称コントローラの両方が、前記第1のトータルコントローラ及び前記第1の非対称コントローラと同一に構成されていて、他のサブシステム、すなわち前記制御偏差モジュール、前記直接トルク管理サブシステム、及び前記分配器サブシステムからの同一のサポートを有することを含むことを特徴とする請求項9に記載のシステム。
【請求項14】
自動車の第1の車軸に関連付けられた一対のホイールの各スリップしているホイールのホイールスリップをリアルタイム制御するための方法であって、該リアルタイム制御は、前記第1の車軸に関連付けられた各スリップしていないホイールによって提供される前記自動車の加速のリアルタイムの明示的な制御と同時に及び独立的に行われ、当該方法は、
前記自動車の前記第1の車軸に関連付けられた第1のトータルコントローラを使用してトルク信号TTCを生成すること、及び
前記第1の車軸に関連付けられた第1の非対称コントローラを使用して別のトルク信号TACを生成することであって、
ホイールスリップ状態及びホイール非スリップ状態を含む、各前記ホイールのリアルタイム動作状態を検出すること、並びに
前記第1のトータルコントローラ及び前記第1の非対称コントローラのそれぞれのホイールスリップフィードバック制御モード及びフィードフォワード制御モードを増強することであって、前記増強は各前記ホイールの前記検出動作状態及び以下の状態既定表に基づいていて、増強することによる、トルク信号TTCを生成すること及び別のトルク信号TACを生成することと、
分配器サブシステムを使用することであって、前記自動車のドライブトレインが前記第1の車軸に関連付けられ、かつドライブトルクが制御可能である場合に、ドライブトルク目標Tを生成し、前記第1のトータルコントローラ及び前記第1の非対称コントローラの出力TTC及びTACに応答して、以下の方程式が一般的に満たされるような様式で、前記第1の車軸に関連付けられた各ホイールについてのブレーキトルク目標(左ホイールについてはTBL、及び右ホイールについてはTBR)を生成することと、を含むことを特徴とする方法。
【表4】
【数10】
【請求項15】
当該方法は更に、直接トルク管理(direct torque management、DTM)サブシステムを使用して、前記第1のトータルコントローラ及び前記第1の非対称コントローラの前記フィードフォワード制御モードへの入力として使用するために、前記第1のトータルコントローラ及び前記第1の非対称コントローラからのトルク出力dTTCの変化率及び出力トルクdTACの変化率をそれぞれ計算することであって、
DTMホイール制御モジュールを使用して、各ホイールが安定動作領域内で動作し、ホイールスリップを経験していないときはいつでも、各前記ホイールによって提供される車両加速の所望の変化率に対応する、各前記ホイールが経験する表面トルクの所望の変化率を計算することによる、計算することと、
DTM運動制御処理モジュールを使用して、各ホイールが安定動作領域内で動作し、かつホイールスリップを経験していないときはいつでも、各前記ホイール上の外部システム(例えば、運動制御)のトルク指示に応答して、各前記ホイールが経験する表面トルクの別の所望の変化を計算することと、
次いで、DTM裁定モジュールを使用して、前記DTMホイール制御モジュール及び前記DTM運動制御処理モジュールからの出力を、非スリップ動作領域内で動作している前記ホイールのうちの各々についての表面トルクの最終変化率(dTSL及びdTSR)に裁定することと、
次いで、次の式を適用することを含むことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【数11】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自動車のホイールスリップ及び車両加速を制御するためのシステム及び方法に関し、より詳細には、車両の各スリップしているホイールのホイールスリップを制御しつつ、各スリップしていないホイールによって提供される車両加速を独立的に及び明示的に制御し、これにより車両の安定性及び加速性を同時に改善するリアルタイムシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
本セクションの記述は、単に本開示に関する背景情報を提供するだけであり、先行技術を構成しない場合がある。
【0003】
歴史的に、乗用車及びトラックに実装されていたABS(アンチロックブレーキシステム)及びTCS(トラクションコントロールシステム)は、2つの基本的な課題すなわち、1)車両の安定性及び操縦性のために過剰なホイールスリップを防止すること、2)操縦者の運転要求を満たすように車両の加速/減速ポテンシャルを最大化することに取り組むことを目的として開始された。(本開示の残りの部分では、加速が符号付きの数学的な量であるという理解の下で、単に加速として加速/減速を指す。)時間の経過と共に、多くのABS/TCSシステムは、これらの課題に加えて追加の要件を含むように進化してきた。例えば、電子安定制御(electronic stability control、ESC)システムが作動すると、その特定のホイールによって生成された横方向の力を一時的に減少させるために、大きなスリップ目標までホイールを制御する必要があり得る。別の例では、スプリットμABS(「μ」は車両のタイヤと路面との間の摩擦係数)の間に、車両減速を最大化しようとすると、高いμホイールのブレーキ力は制御され増加しなければならない。
【0004】
従来、車両上の利用可能なアクチュエータからの制御可能な量は、1)各ホイールのブレーキトルク、2)車両のドリブン車軸(the driven axle)のエンジントルクである。これらの総量が組み合わさり、複雑で非線形の様式でホイールダイナミクス及び車両加速に影響する。ABSシステムを含む状況では、エンジンの影響はほとんどの場合無視することができ、この機構を分析して制御することがより容易になる。TCSの状況では、エンジンは常に重要な要素であり、この複雑化は不可避である。
【0005】
従来、多くの場合、(上述した複雑化により)特にTCSについては、ホイールスリップ制御の課題及び車両加速制御の課題の両方をそれらのそれぞれの望ましい方法で同時に達成することは困難であった。
【発明の概要】
【0006】
一態様では、本開示は、自動車の第1の車軸に関連付けられた一対のホイールの各スリップしているホイールのホイールスリップをリアルタイム制御するためのシステムに関し、この制御は、第1の車軸に関連付けられた各スリップしていないホイールによって提供される当該自動車の加速のリアルタイムの明示的な制御と同時にかつ独立的に行われる。システムは、共に第1の車軸に関連付けられた第1のトータルコントローラ及び第1の非対称コントローラを有する協調型ホイールコントローラ(coordinated wheel controller、CWC)サブシステムと、協調型ホイールコントローラサブシステムの出力を車軸用に利用可能なアクチュエータの目標に分解する分配器サブシステムとを備えてよい。
【0007】
第1のトータルコントローラ及び第1の非対称コントローラは各々、フィードバック制御要素及びフィードフォワード制御要素を更に備え、フィードバック要素及びフィードフォワード要素の柔軟な増強を可能にするように更に構成されている。
【0008】
別の態様では、本開示は、自動車の第1の車軸に関連付けられた一対のホイールの各スリップしているホイールのホイールスリップをリアルタイム制御するためのシステムに関し、この制御は、第1の車軸に関連付けられた各スリップしていないホイールによって提供される当該自動車の加速のリアルタイムの明示的な制御と同時にかつ独立的に行われる。システムは、両方が互いに独立的に動作し、かつ第1の車軸に関連付けられている第1のトータルコントローラ及び第1の非対称コントローラを有する協調型ホイールコントローラ(coordinated wheel controller、CWC)サブシステムを備えてよい。第1のトータルコントローラ及び第1の非対称コントローラは共に、フィードバック制御要素及びフィードフォワード制御要素を有する。システムはまた、各ホイールが作動している(すなわち、各ホイールがスリップしているか又は安定している)制御領域を決定するための制御偏差モジュールを含んでよく、この制御偏差モジュールは、第1のトータルコントローラ及び第1の非対称コントローラのフィードバック要素及びフィードフォワード要素の増強を容易にするためにCWCサブシステムによって使用される。制御偏差モジュールはまた、CWCサブシステム内のコントローラのフィードバック要素への入力として使用される正のスリップ制御領域及び負のスリップ制御領域の両方についてのホイール速度の目標及び偏差を計算するために使用される。システムはまた、車両の加速の所望の変化率をもたらすために必要とされる第1のトータルコントローラ及び第1の非対称コントローラの各々からのトルク出力の変化率を決定するための直接トルク管理(direct torque management、DTM)サブシステムを含んでよい。第1のトータルコントローラ及び第1の非対称コントローラからのトルク出力の決定された変化率は、コントローラのフィードフォワード要素への入力として使用される。システムは分配器サブシステムを含んでよく、これは、CWCサブシステムに応答して、第1の車軸の各ホイールについてのドライブトルク目標及びブレーキトルク目標を生成する。
【0009】
更に別の態様では、本開示は、自動車の第1の車軸に関連付けられた一対のホイールの各スリップしているホイールのホイールスリップをリアルタイム制御するための方法に関し、この制御は、第1の車軸に関連付けられた各スリップしていないホイールによって提供される当該自動車の加速のリアルタイムの明示的な制御と同時にかつ独立的に行われる。この方法は、コントローラのフィードバック制御要素及びフィードフォワード制御要素の増強に基づいてトルク信号TTCを生成するために、車両の第1の車軸に関連付けられた第1のトータルコントローラを使用することを含んでよい。この方法はまた、コントローラのフィードバック制御要素及びフィードフォワード制御要素の増強に基づいてトルク信号TACを生成するために、車両の第1の車軸に関連付けられた第1の非対称コントローラを使用することを含んでよい。また第1のトータルコントローラ及び第1の非対称コントローラを使用してよく、これにより、ホイールスリップ状態及びホイール非スリップ(安定)状態を含む各ホイールのリアルタイム動作状態を検出し、その状態に基づいて、それらのそれぞれのフィードバック要素及びフィードフォワード要素の増強を決定し、改善された車両の安定性及び加速性を提供する。方法はまた、分配器を使用して、2つの当該コントローラの出力TTC及びTACを、以下の2つの式に従って、車軸T、TBL、及びTBR上で利用可能な3つのアクチュエータについての目標に分解することを含んでよい。
【0010】
TC=T−TBL−TBR
【0011】
AC=−TBL+TBR
【0012】
式中、Tは、第1の車軸に加えられたドライブトルクである。
【0013】
BLは、第1の車軸の左ホイールに加えられたブレーキトルクである。
【0014】
BRは、第1の車軸の右ホイールに加えられたブレーキトルクである。
【0015】
本明細書に提供される説明から、適用可能な更なる領域が明らかとなるであろう。説明及び具体例は、例示のみを目的とするものであり、本開示の範囲を限定することを意図するものではないことを理解されたい。
【0016】
本明細書において説明される図面は、例示のみを目的としていて、決して本開示の範囲を限定することを意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】車両の各ホイールにおける車両加速及びホイールスリップを独立的に制御するための、本開示によるシステムの一実施形態のハイレベルブロック図である。
図2】車両の各ホイールにおける車両加速及びホイールスリップを独立的に制御する図1のシステムの主要な動作を例示するハイレベルフローチャートである。
図3】ホイールに作用するトルクすなわちブレーキトルク(T)、ドライブトルク(T)、及び表面トルク(T)、それらのそれぞれの方向及びそれらに関連付けられたダイナミクスの定義をホイールの回転慣性モーメントと共に簡略化して例示するハイレベル図である。
図4】表面トルク(T)、タイヤ転がり半径(r)、及び表面力(F)の定義並びに関係を簡略化して例示するハイレベル図である。
図5】正及び負両方の「スリップ」領域(それぞれR1+及びR1−)内、並びに「安定」領域(R2)内のホイールスリップについての表面トルク(T)の挙動を簡略化して例示するハイレベル図である。
図6】本開示のCWCサブシステムによって実行される種々の機能のハイレベルブロック図である。
図7】車両の所与の車軸について、異なる制御領域内のトータルコントローラ及び非対称コントローラのフィードバック構成要素及びフィードフォワード構成要素の増強を例示する表である。
図8】分配器サブシステムの動作を例示するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下の説明は、事実上、単に例示的なものであり、本開示、用途、又は使用を限定することを意図するものではない。図面を通して、対応する参照番号は、同様の又は対応する部分及び特徴を示すことを理解されたい。
【0019】
本開示は、図1に示されるシステム10を説明する。このシステム10は、乗用車又はトラックなどの自動車の各スリップしているホイールにおけるホイールスリップを制御するため、並びに各スリップしていないホイールによって供給される車両加速を独立的にかつ明示的に制御するためのシステムであり、車両の安定性および加速性を改善するものである。システム10は、ホイールスリップ及び車両加速の制御を分離し、これにより、スリップしているホイールがあるときには、そのスリップを所望の目標に制御することができ、安定しているホイールがある(すなわち、重大なスリップがない)ときには、そのホイールによって供給される車両加速能力を明示的に調査することができる。上記の2つの課題は、その車軸上のホイールの状態の組み合わせにかかわらず、車軸に対して同時にかつ独立的にシステム10によって達成される。より具体的には、これらの課題は、所与の車軸上のホイールが両方ともスリップしている場合、両方とも安定している場合、又は一方がスリップしていて他方が安定している場合でも、システム10によって達成される。
【0020】
また、従来のABS/TCSシステム(例えば、ホイール速度センサ、ブレーキマスタシリンダ圧力センサなど)と同じセンサセットを使用することも、システム10の重要な利点でもある。システム10はまた、同じアクチュエータ(例えば、エンジン、ブレーキ油圧制御ユニットなど)に指示し、それに伴ってシステム10を従来のブレーキ制御システムアーキテクチャで実施することを可能にする。
【0021】
図3を簡単に参照すると、システム10は、ホイールダイナミクス及び車両ダイナミクスの以下の原理及び経験を認識し使用するホイール制御アルゴリズムを使用し、これにより、所与のホイールの角加速度は以下の式で表される。
【数1】
:ドライブトルク(ドライブトレインによって提供される)
:ブレーキトルク(負の方向で定義される)
:表面トルク(路面によって提供される)
:ホイールの回転慣性モーメント
【0022】
表面トルク(T)もまた、システム10によって考慮される重要な変数である。図4及び以下の方程式を参照すると、表面トルク(T)は、次のように表されてよい。
【数2】
【0023】
はホイールダイナミクスには現れていないが、車両加速(ΣF=Ma、式中、「M」は車両質量であり、「a」は車両加速である)に関与する。表面トルク(T)は表面力(F)の直接的な結果であり、上記の方程式1に示されるホイールダイナミクスに直接影響する。
【0024】
表面力(F)の適用の位置により、F及びTは常に車両加速及びホイール加速に対して逆の影響を有する。図4は、Fが車両を右に加速し、一方、Tがホイールを減速していることを示すことによって、この点を例示するのに役立つ。
【0025】
図5は、表面トルク(T)の挙動を例示するのに役立つ。表面トルク(T)の挙動は、以下の式によって特徴付けることができる。
【数3】
正のスリップ→正のF→正のT
負のスリップ→負のF→負のT
【0026】
図5は、ホイールがスリップ領域内(領域R1+又はR1−のいずれか)にあり、Tがスリップに反応し、Tがほんのわずかに変化するときを説明する。ホイールが安定領域(R2)内にあるとき、Tは入力トルクに直接反応し、スリップはほんのわずかに変化する。
【0027】
システム10はさらに、以下の式を使用することによって車両車軸ダイナミクスの近似値を使用する。
【表1】
全ダイナミクス(ドリブン車軸)
【数4】
全ダイナミクス(非ドリブン車軸)(方程式4の特別なケースとして処理)
【数5】
非対称ダイナミクス
【数6】
【0028】
図1を再び参照すると、システム10の種々のモジュール及びサブシステムの全体的なハイレベルの説明が最初に提供される。この実施形態のシステム10は、制御偏差サブシステム12、協調型ホイールコントローラサブシステム14(以下、「CWCサブシステム14」)、直接トルク管理サブシステム16(以下、「DTMサブシステム16」)、及び分配器サブシステム18を使用する。
【0029】
制御偏差サブシステム12は、正のホイールスリップ制御領域及び負のホイールスリップ制御領域(図5の領域R1+及びR1−)の両方の目標及び偏差を計算する。さらに、制御偏差サブシステム12はまた、各ホイールの制御領域、すなわち、ホイール速度のフィードバック及び車両速度の推定に基づいてホイールがスリップしている(すなわち、領域R1+若しくはR1−のいずれか)か、又は安定している(領域R2)かを決定する。
【0030】
CWCサブシステム14は、積分器20aを有するトータルコントローラ20と、積分器22aを有する非対称コントローラ22とを含む。両方のコントローラは、車両の第1の車軸に関連付けられた一対のホイールを独立的に制御するために使用される。積分器24aを有する第2のトータルコントローラ24及び積分器26aを有する第2の非対称コントローラ26は、車両の第2の車軸に関連付けられた一対のホイールを独立的に制御するために使用される。初期化/飽和モジュール28は、作動出力及びドライバの指示(例えば、ドライブトルク目標対ドライバの意図したドライブトルクなど)を監視するために使用され、並びにアクチュエータの飽和が検出されたとき(例えば、積分器のワインドアップリセット)に、コントローラ20〜26の各々に関連付けられた積分器20a〜26aの初期化及びリセットをサポートするために必要な計算を実行するために使用される。
【0031】
DTMサブシステム16は、DTMホイール制御モジュール30を含み、これにより、検出されるリアルタイム状態に基づくことが望ましい、各安定しているホイール((dTs_ij、「ij」はホイールインデックス(FL、FR、RL、RR))についての表面トルク(T)の明示的な変化率を決定する。この変化率は、正又は負であり得る。両方の方向を加速モード、減速モード、又は惰行モードで適用することができる。例えば、ホイールが車両加速を提供しているときの正のdT(Tは正である)は、ホイールによって提供される加速を増加させることを意味する。Tが負であるときの正のdTは、ホイールによって提供される減速を減少させることを意味する。DTM運動制御処理モジュール32は、電子安定制御(electronic stability control、ESC)システム(図示せず)などの運動制御サブシステムからのDTM指示(例えば、ホイールトルク目標)を受信するために使用される。DTM運動制御処理モジュール32は、DTM指示を受信したホイールが安定しているかどうかをチェックし、そうであれば、運動制御サブシステムの指示を実行するのに必要な各安定しているホイールの表面トルクの変化率(dTs_ij)を計算する。DTMホイール制御モジュール30及びDTM運動制御処理モジュール32から受信した信号(dTs_ij)を裁定するDTM裁定モジュール34が含まれている。車両の各車軸に対して、DTM裁定器34は、裁定の結果としてdTSL及びdTSRをもたらすために必要とされる、CWCサブシステム14からのトルク出力(dTTC及びdTAC)の変化率を(以下の方程式10に従って)計算する。
【数7】
【0032】
図1に示されるように、分配器サブシステム18は、ドライブトルク目標モジュール36と、前車軸分配モジュール38と、後車軸分配モジュール40とを含む。ドライブトルク目標モジュール36は、CWCサブシステム14からの出力を受信し、車両エンジンのドライブトルク目標(TD_TGT)をホイールレベルで出力する。前車軸分配モジュール38は、CWCサブシステム14及びドライブトルク目標からの出力を取り込み、車両の前(すなわち、第1の)車軸についての一対のブレーキトルク目標を出力し、後車軸分配モジュール40は、後(すなわち、第2の)車軸について同じ動作を実行する。
【0033】
システム10の主要な利点は、車両の各車軸のための2つのコントローラ(すなわち、コントローラ20/22又は24/26)を使用すること、並びに所与の車軸に潜在的に接続されたドライブトレインを使用することであり、これにより、全ての動作状況において追加のコントローラを必要とせずに、所与の車軸上の両方のホイールのダイナミクスを独立的に制御することができる。トータルコントローラ(20又は24)は、エンジン制御が利用可能でない場合、(T−TBL−TBR)の組み合わせ又は(−TBL−TBR)によって作動される出力TTCを有する。各非対称コントローラ(22又は26)は、組み合わせ(−TBL+TBR)によって作動される出力TACを生成する。これらのコントローラ20〜26は、利用可能な全てのアクチュエータを使用し、方程式4〜6で上述したように車軸上の全ての既存ダイナミクスを制御する。
【0034】
両方のコントローラ(20/22又は24/26)についてのPIDフィードバック制御の要素を有することで、以下が真であることを条件として、良好な過渡状態及び定常状態の特性を有する任意のホイールスリップを制御することができる。
■ホイール(複数可)Tは、比較的一定のままである(すなわち、ホイールはスリップしている(図5では制御領域R1+又はR1−内))。
■スリップしているホイール(複数可)の速度は、コントローラについてのフィードバックである。
■トルクはコントローラの出力である。
■そして、安定しているホイールのTは、コントローラのトルク出力に応答せず、その状況では個々のダイナミクス(方程式4〜6)に適用されるときのコントローラの動作をキャンセルする。
【0035】
上述の両方のコントローラについてのフィードフォワード制御の要素を有することにより、次の場合、ホイール(又は一対のホイール)のTの変化、及びしたがって車両加速の変化を明示的にもたらすことができる。
■ホイール(複数可)のTが入力トルクに直接反応する(すなわち、ホイールが図5に示される制御領域R2内で安定している)場合。
■両方のホイールのTに関する上述の変化が両方のコントローラに対するフィードフォワード指示に変換されたときと一致している場合(例えば、TSLについては変化なし、TSRについては+100Nmがトータルコントローラ(20又は24)に対する+100Nmの指示に変換され、及び、非対称コントローラ(22又は26)に対する−100Nmの指示に変換されるべきである)。
【0036】
図5に示されるように、ホイールのスリップに基づいてホイールの制御領域を検出すると、システム10は方程式3に示されるホイールのT挙動をほぼ理解することができる。車軸上の両方のホイールについて理解されたT挙動の組み合わせに基づいて、両方のコントローラ(20/22又は24/26)のフィードバック要素及びフィードフォワード要素を増強すると、スリップしているホイール(複数可)のスリップの制御を達成しつつ、車両加速に対する安定しているホイール(複数可)の能力を明示的に調査することができる。
【0037】
したがって、システム10は、車両の各車軸に対して、各々が全ダイナミクスを制御するためのホイール速度フィードバック及びトルク出力を有するPID(比例積分微分)フィードバックコントローラであるコントローラ20又は24と、非対称ダイナミクス用のもの(すなわち、コントローラ22及び26)とを実装する。システム10は、コントローラの積分器(20a/22a及び24a/26a)の両方に直接トルク管理16からのフィードフォワード入力を有し、車軸上の各ホイールの制御領域(安定又はスリップしている)を検出し、2つのホイールの制御領域に応じて両方のコントローラのフィードバック要素及びフィードフォワード要素の増強を構成する。システム10はまた、コントローラ20/22及び24/26の両方の出力を2つのブレーキトルク信号及び1つのドライブトルク信号に分配する。システム10は、全てのABS/TCS状況に対して上記と同じ設計を適用し、車軸上の2つのホイールに対して反対符号のスリップ目標が受信されたとしても、ESCのホイールスリップ及びホイールトルク目標を処理する。
【0038】
図1を更に参照して、制御偏差サブシステム12の動作を更に詳細に説明する。制御偏差サブシステム12は、各車軸に対して以下の機能を実行するソフトウェアを含む。
以下の方程式を使用して、個々のホイール速度目標を、所定の車軸について、車軸の全目標及び車軸の非対称目標に変換すること。
【数8】
以下の方程式を使用して、所与の車軸上の個々のホイールに関連付けられたフィードバックを車軸の全フィードバック及び車軸の非対称フィードバックに変換すること。
【数9】
以下の方程式を使用して、車軸の全制御偏差及び車軸の非対称制御偏差を計算すること。
【数10】
【0039】
式中、
VWTgt_Lは、左ホイールの目標速度である。
VWTgt_Rは、右ホイールの目標速度である。
Tgt_TCは、トータルコントローラ(20又は24)についての車軸の全目標速度である。
Tgt_ACは、非対称コントローラ(22又は26)についての車軸の非対称目標速度である。
VWは、左ホイールのホイール速度のフィードバックである。
VWは、右ホイールのホイール速度のフィードバックである。
FB_TCは、トータルコントローラ(20又は24)についてのホイール速度のフィードバックである。
FB_ACは、非対称コントローラ(22又は26)についてのホイール速度のフィードバックである。
Dev_TCは、トータルコントローラについての車軸の全制御偏差である。
Dev_ACは、非対称コントローラについての車軸の非対称制御偏差である。
目標ホイール速度を外部サブシステム(例えば、運動制御システム又はより具体的にはESC)によって指示し、システム10をかかるシステムのアクチュエータとして機能させ、かかるシステムにそれらの内部ホイールダイナミクスコントローラを削除させることができることを理解されたい。
【0040】
図1及び図6を更に参照して、CWCサブシステム14の動作を更に説明する。各トータルコントローラ20又は24は、フィードバック誤差入力(VDEV_TC)を取り込み、車軸に接続された構成要素及びそれらのダイナミクスをもたらすように利用可能なアクチュエータ(例えば、エンジン及び/又はブレーキ)に基づくゲインスケジューリングを伴うPID制御を概ね適用する。各トータルコントローラ20又は24はまた、フィードフォワードDTM入力dTTCを取り込み、それをその積分器(20a又は24a)に増強させる。トータルコントローラ20又は24はまた、制御偏差サブシステム12からの制御領域出力を取り込み、図7の既定表に従ってフィードバック制御及びフィードフォワード制御の増強の構成を決定する。次いで、トータルコントローラ20又は24は、フィードバック要素及びフィードフォワード要素の上述の増強に従って、システム10がその関連する車軸に出力すべき総トルク(例えば、TTC_FAは、トータルコントローラ前車軸からのトルク)を計算する。
【0041】
図1を更に参照すると、非対称コントローラ22又は26は各々、フィードバック誤差入力VDEV_ACを取り込み、非対称ダイナミクスをもたらすように利用可能なアクチュエータに基づくゲインスケジューリングを伴うPID制御を一般に適用する。各非対称コントローラ22又は26もまた、dTACのフィードフォワードDTM入力を取り込み、それをその積分器(22a又は26a)に増強させることができる。非対称コントローラ22又は26はまた、制御偏差モジュールからの制御領域出力を取り込み、例えば、図7の表に従って、フィードバック制御及びフィードフォワード制御の増強の構成を決定する。非対称コントローラ22又は26はまた、フィードバック要素及びフィードフォワード要素の上述の増強に従って、システム10が車軸に出力すべき非対称トルク(例えば、TAC_RAは、非対称コントローラ後車軸からのトルク)を計算する。
【0042】
ここで図8を参照して、分配器サブシステム18(図1に示される)の動作を更に詳細に説明する。ドライブトルク目標モジュール36は、CWCサブシステム14からの出力を受信し、車両エンジンのドライブトルク目標(TD_Tgt)をホイールレベルで出力する。前車軸分配モジュール38及び後車軸分配モジュール40は、CWCサブシステム14及びドライブトルク目標(TD_Tgt)からの出力を取り込み、各々はそれらのそれぞれの車軸についての2つのブレーキトルク目標を出力する。換言すれば、前車軸分配モジュール38は、車両の前車軸についての一対のブレーキトルク目標(TB_FLは、前左ホイールのブレーキトルクであり、TB_FRは、前右ホイールのブレーキトルクである)を出力し、後車軸分配モジュール40は、車両の後車軸についての一対のブレーキトルク目標(TB_RLは、後左ホイールのブレーキトルクであり、TB_RRは、後右ホイールのブレーキトルクである)を出力する。
【0043】
各車軸について、以下の方程式は、分配器サブシステム18が満たす必要があるものである。
【数11】
【0044】
上記の方程式を満たすために、分配器サブシステム18は、状態に基づいて出力の望ましい組み合わせを計算する。例えば、これを非常に効率的な様式で行うために、分配器は以下の方程式を使用する。
D_Tgt=TTC+│TAC
TC_BrkTgt=−TD_Est
BL_Tgt=−(TTC_BrkTgt+TAC)/2
BR_Tgt=−(TTC_BrkTgt−TAC)/2
用語TD_Estは、システム10によって受信された推定ドライブトルクである。この時点で、この方程式セットにおけるTBL_Tgt/TBR_Tgtは、方程式11のTBL/TBR及び本明細書の他の箇所のものと同じであることが明らかにされるべきである。略語「Tgt」(目標)は、単に、これらがシステム10からの最終出力であり、ブレーキ制御システム全体における下流サブシステムへの実行の目標として送信されるであろうという事実を示すためにここに追加される(本開示では説明されない)。更に、この計算が車軸に適用されると、この総称名がより具体的な名前に変化する。例えば、前車軸に適用されると、段落0042で使用されるように、TBL_Tgtは単にTB_FLになる(式中、Tはブレーキトルクを、FLは前左を表す)。
【0045】
図2を簡単に参照して、各ホイールに関連付けられたブレーキ及び車両の各車軸に加えられたドライブトルクを制御するときにシステム10が実行する複数の主要な動作を例示するフローチャート100を示す。動作102において、システム10は、正のスリップ制御領域(R1+)及び負のスリップ制御領域(R1−)の両方についてのホイール速度の目標及び偏差を決定する。動作104において、CWCサブシステム14は、車両の各ホイールがスリップしているか否かを決定する。動作106において、DTMサブシステム16を使用して、1)リアルタイムに検出された状態に基づくことが望ましい、各安定しているホイールについての表面トルクの変化率、及び、2)運動制御(motion control、MC)指示を実行するのに必要な各安定しているホイールの表面トルクの変化率を決定する。
【0046】
動作108において、DTM裁定モジュール34を使用して、最初に、各安定しているホイールdTSL及びdTSRについての表面トルクの最終変化率を裁定し、次いで、最終的なdTSL及びdTSRをもたらすのに必要とされる、CWCサブシステム14からのトルク出力の瞬時変化率を決定する。動作110及び112において、トータルコントローラ20に対する入力が取得され(動作110)、非対称コントローラ22に対する入力が取得される(動作112)。2つの異なる車軸上のホイールがシステム10によって制御されている場合、取得される入力はトータルコントローラ20/24の両方、及び非対称コントローラ22/26の両方に対するものであることが理解されるであろう。
【0047】
動作114において、トータルコントローラ(複数可)(20及び/又は22)を使用して、車軸(複数可)上の各ホイールが動作しているリアルタイム制御領域、並びにフィードバック制御要素及びフィードフォワード制御要素の所定の増強に応じて、所与の車軸(複数可)に加えられる総トルクを決定する。同様に、動作116において、非対称コントローラ(複数可)(22及び/又は26)を使用して、フィードバック制御及びフィードフォワード制御の所定の増強に従って、車軸(複数可)に加えられる非対称トルクを決定する。動作118において、分配器サブシステムを使用して、最初に、所望のドライブトルク(TD_Tgt)を決定し、次いで、CWCサブシステムの出力を最も満たすべきである、各車軸についての一対の所望のブレーキトルク(TBL及びTBR)を決定する。この時点で、動作102〜118を繰り返すことができる。再び、フローチャート100の動作において実行される決定及び計算は、リアルタイムのホイール動作スリップ状態を考慮に入れてリアルタイムで実行されることが理解されるであろう。
【0048】
したがって、本開示の本システム10及び方法は、車両の各車軸についてのフィードバック制御要素及びフィードフォワード制御要素を各々が有する2つのコントローラ(20/22及び24/26)を使用する。この2つのコントローラは、そのうちの一方が所与の車軸のホイール及びその車軸に取り付けられた他の構成要素に関連付けられた全ダイナミクスを制御するためのトルク出力を提供し、他方が非対称ダイナミクスを制御するためのトルク出力を提供する。システム10は、車両の各ホイールが動作している制御領域(例えば、スリップしているかスリップしていないか)を検出し、制御領域の検出に応じて2つのコントローラのフィードバック要素及びフィードフォワード要素の使用を増強し、所与の車軸のホイールのダイナミクスを制御するように車両の適切なアクチュエータを適用することができる。各車軸に一対のコントローラを使用することにより、追加のコントローラを必要とせずに、車両にすでに存在するこれらのアクチュエータを使用することによって、システム10に、車両の2つの車軸に取り付けられた全てのスリップしているホイール及び他の構成要素のダイナミクス、並びに車両の2つの車軸に取り付けられた全ての安定しているホイールによって提供される車両加速のダイナミクスを制御させる。
【0049】
種々の実施形態を説明してきたが、本開示から逸脱することなくなされ得る変更又は変形を当業者は認識するであろう。例は種々の実施形態を例示するものであり、本開示を限定することを意図するものではない。したがって、説明及び特許請求の範囲は、関連する先行技術に照らして必要とされるような限定のみで十分に解釈されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8