【実施例】
【0037】
以下、図面を参照しながら、検査装置、検査方法、コンピュータプログラム及び記録媒体の実施例について説明する。特に、以下では、検査装置、検査方法、コンピュータプログラム及び記録媒体がテラヘルツ波検査装置に適用された例を用いて説明を進める。尚、テラヘルツ波検査装置は、複数の層が積層された試料に照射されたテラヘルツ波を検出することで、複数の層の界面の位置を推定する。
【0038】
(1)テラヘルツ波検査装置100の構成
初めに、
図1を参照しながら、本実施例のテラヘルツ波検査装置100の構成について説明する。
図1は、本実施例のテラヘルツ波検査装置100の構成を示すブロック図である。
【0039】
図1に示すように、テラヘルツ波検査装置100は、複数の層Lが積層された試料Sに対して、複数の層Lの積層方向に交わる方向に沿って伝搬するテラヘルツ波THzを照射する。更に、テラヘルツ波検査装置100は、試料Sが反射したテラヘルツ波THz(つまり、試料Sに照射されたテラヘルツ波THz)を検出する。
【0040】
テラヘルツ波THzは、1テラヘルツ(1THz=10
12Hz)前後の周波数領域(つまり、テラヘルツ領域)に属する電磁波成分を含む電磁波である。テラヘルツ領域は、光の直進性と電磁波の透過性を兼ね備えた周波数領域である。テラヘルツ領域は、様々な物質が固有の吸収スペクトルを有する周波数領域である。従って、テラヘルツ波検査装置100は、試料Sに照射されたテラヘルツ波THzを解析することで、試料Sの特性を推定(言い換えれば、計測)することができる。
【0041】
本実施例では、試料Sが、内部を薬液が流れる配管である例を用いて説明を進める。この場合、試料Sは、
図1に示すように、複数の層Lとして、管壁層L1と、管壁層L2と、管路層L3とを備えている。管壁層L1は、配管を構成する筒状の管壁のうち管壁層L2よりも外側(つまり、管路層L3から遠い側)に位置する筒状の壁部分である。管壁層L1は、配管を構成する筒状の管壁のうち管路層L3を流れる薬液が浸透していない筒状の壁部分である。管壁層L2は、配管を構成する筒状の管壁のうち管壁層L1よりも内側(つまり、管路層L3に近い側)に位置する筒状の壁部分である。管壁層L2は、配管を構成する筒状の管壁のうち管路層L3を流れる薬液が浸透した筒状の壁部分である。管路層L3は、管壁層L2によって囲まれた、薬液が流れる流路に相当する層である。管路層L3を薬液が流れている場合には、管路層L3は、液体の層となる。一方で、管路層L3を薬液が流れていない場合には、管路層L3は、気体(例えば、空気等)の層となる。従って、管路層L3は、相が変化し得る層であるとも言える。
【0042】
管壁層L1が、薬液が浸透していない壁部分である一方で、管壁層L2が、薬液が浸透した壁部分であるがゆえに、管壁層L1の物性は、管壁層L2の物性とは異なる。更に、薬液層L3の物性は、配管層L1及び配管層L2の物性とは異なる。
【0043】
尚、管路層L3を一度も薬液が流れていない場合(或いは、管路層L3を薬液が流れていた時間が所定時間未満の場合、以下同じ)には、配管を構成する管壁に薬液が浸透することはない。このため、管壁の全体が管壁層L1となる。つまり、管路層L3を一度も薬液が流れていない場合には、試料Sは、管壁層L2を備えておらず、管壁層L1と管路層L3とから構成される。一方で、管路層L3を一度でも薬液が流れた場合(或いは、管路層L3を薬液が流れていた時間が所定時間より長い場合、以下同じ)には、配管を構成する管壁に薬液が浸透する。このため、管壁の一部が管壁層L1となると共に、管壁の他の一部が管壁層L2となる。つまり、管壁層L1のうちの少なくとも一部は、管壁層L1に当初接していた管路層L3を流れる薬液の影響を受けて変質し、その結果、管壁層L1のうち変質した部分が、管壁層L2に変わる。
【0044】
テラヘルツ波検査装置100は、試料Sの特性として、試料Sを構成する複数の層Lの界面Bの位置を推定する。ここに、界面Bは、ある層Lの境界を規定する面である。特に、テラヘルツ波検査装置100が界面Bの位置を推定する関係上、界面Bは、テラヘルツ波THzの照射方向に交わる面である。本実施例では、界面Bとして、界面B0、界面B1及び界面B2が存在する。界面B0は、管壁層L1と試料Sの外部との境界を規定する。つまり、管壁層L1は、界面B0を介して試料Sの外部に接している。尚、界面B0は試料Sの表面でもあるため、以下では、界面B0を、表面B0と称する。界面B1は、管壁層L1と管壁層L2との境界を規定する。つまり、管壁層L1は、界面B1を介して管壁層L2に接している。界面B2は、管壁層L2と管路層L3との境界を規定する。つまり、管壁層L2は、界面B2を介して管路層L3に接している。
【0045】
界面Bの位置を推定するために試料Sに照射されるテラヘルツ波THzの周期は、サブピコ秒のオーダーの周期であるがゆえに、当該テラヘルツ波THzの波形を直接的に検出することが技術的に困難である。そこで、テラヘルツ波検査装置100は、時間遅延走査に基づくポンプ・プローブ法を採用することで、テラヘルツ波THzの波形を間接的に検出する。以下、このようなポンプ・プローブ法を採用するテラヘルツ波検査装置100についてより具体的に説明を進める。
【0046】
図1に示すように、テラヘルツ波検査装置100は、パルスレーザ装置101と、「照射部」の一具体例であるテラヘルツ波発生素子110と、ビームスプリッタ161と、反射鏡162と、反射鏡163と、ハーフミラー164と、光学遅延機構120と、「検出部」の一具体例であるテラヘルツ波検出素子130と、バイアス電圧生成部141と、I−V(電流−電圧)変換部142と、制御部150とを備えている。
【0047】
パルスレーザ装置101は、当該パルスレーザ装置101に入力される駆動電流に応じた光強度を有するサブピコ秒オーダー又はフェムト秒オーダーのパルスレーザ光LBを生成する。パルスレーザ装置101が生成したパルスレーザ光LBは、不図示の導光路(例えば、光ファイバ等)を介して、ビームスプリッタ161に入射する。
【0048】
ビームスプリッタ161は、パルスレーザ光LBを、ポンプ光LB1とプローブ光LB2とに分岐する。ポンプ光LB1は、不図示の導光路を介して、テラヘルツ波発生素子110に入射する。一方で、プローブ光LB2は、不図示の導光路及び反射鏡162を介して、光学遅延機構120に入射する。その後、光学遅延機構120から出射したプローブ光LB2は、反射鏡163及び不図示の導光路を介して、テラヘルツ波検出素子130に入射する。
【0049】
テラヘルツ波発生素子110は、テラヘルツ波THzを出射する。具体的には、テラヘルツ波発生素子110は、ギャップを介して互いに対向する一対の電極層を備えている。ギャップには、一対の電極層を介して、バイアス電圧生成部141が生成したバイアス電圧が印加されている。有効なバイアス電圧(例えば、0Vでないバイアス電圧)がギャップに印加されている状態でポンプ光LB1がギャップに照射されると、ギャップの下側に形成されている光伝導層にもまたポンプ光LB1が照射される。この場合、ポンプ光LB1が照射された光伝導層には、ポンプ光LB1による光励起によってキャリアが発生する。その結果、テラヘルツ波発生素子110には、発生したキャリアに応じたサブピコ秒オーダーの又はフェムト秒オーダーのパルス状の電流信号が発生する。発生した電流信号は、一対の電極層に流れる。その結果、テラヘルツ波発生素子110は、当該パルス状の電流信号に起因したテラヘルツ波THzを出射する。
【0050】
テラヘルツ波発生素子110から出射したテラヘルツ波THzは、ハーフミラー164を透過する。その結果、ハーフミラー164を透過したテラヘルツ波THzは、試料S(特に、層L1の表面B0)に照射される。試料Sに照射されたテラヘルツ波THzは、試料Sによって(特に、表面B0、界面B1及び界面B2の夫々によって)反射される。試料Sによって反射されたテラヘルツ波THzは、ハーフミラー164によって反射される。ハーフミラー164によって反射されたテラヘルツ波THzは、テラヘルツ波検出素子130に入射する。
【0051】
テラヘルツ波検出素子130は、テラヘルツ波検出素子130に入射するテラヘルツ波THzを検出する。具体的には、テラヘルツ波検出素子130は、ギャップを介して互いに対向する一対の電極層を備えている。ギャップにプローブ光LB2が照射されると、ギャップの下側に形成されている光伝導層にもまたプローブ光LB2が照射される。この場合、プローブ光LB2が照射された光伝導層には、プローブ光LB2による光励起によってキャリアが発生する。その結果、キャリアに応じた電流信号が、テラヘルツ波検出素子130が備える一対の電極層に流れる。プローブ光LB2がギャップに照射されている状態でテラヘルツ波検出素子130にテラヘルツ波THzが照射されると、一対の電極層に流れる電流信号の信号強度は、テラヘルツ波THzの光強度に応じて変化する。テラヘルツ波THzの光強度に応じて信号強度が変化する電流信号は、一対の電極層を介して、I−V変換部142に出力される。
【0052】
光学遅延機構120は、ポンプ光LB1の光路長とプローブ光LB2の光路長との間の差分(つまり、光路長差)を調整する。具体的には、光学遅延機構120は、プローブ光LB2の光路長を調整することで、光路長差を調整する。光路長差が調整されると、ポンプ光LB1がテラヘルツ波発生素子110に入射するタイミング(或いは、テラヘルツ波発生素子110がテラヘルツ波THzを出射するタイミング)と、プローブ光LB2がテラヘルツ波検出素子130に入射するタイミング(或いは、テラヘルツ波検出素子130がテラヘルツ波THzを検出するタイミング)との時間差が調整される。テラヘルツ波検査装置100は、この時間差を調整することで、テラヘルツ波THzの波形を間接的に検出する。例えば、光学遅延機構120によってプローブ光LB2の光路が0.3ミリメートル(但し、空気中での光路長)だけ長くなると、プローブ光LB2がテラヘルツ波検出素子130に入射するタイミングが1ピコ秒だけ遅くなる。この場合、テラヘルツ波検出素子130がテラヘルツ波THzを検出するタイミングが、1ピコ秒だけ遅くなる。テラヘルツ波検出素子130に対して同一の波形を有するテラヘルツ波THzが数十MHz程度の間隔で繰り返し入射することを考慮すれば、テラヘルツ波検出素子130がテラヘルツ波THzを検出するタイミングを徐々にずらすことで、テラヘルツ波検出素子130は、テラヘルツ波THzの波形を間接的に検出することができる。つまり、後述するロックイン検出部151は、テラヘルツ波検出素子130の検出結果に基づいて、テラヘルツ波THzの波形を検出することができる。
【0053】
テラヘルツ波検出素子130から出力される電流信号は、I−V変換部142によって、電圧信号に変換される。
【0054】
制御部150は、テラヘルツ波検査装置100の全体の動作を制御するための制御動作を行う。制御部150は、CPU(Central Processing Unit)150aと、メモリ150bとを備える。メモリ150bには、制御部150に制御動作を行わせるためのコンピュータプログラムが記録されている。当該コンピュータプログラムがCPU150aによって実行されることで、CPU150aの内部には、制御動作を行うための論理的な処理ブロックが形成される。但し、メモリ150bにコンピュータプログラムが記録されていなくてもよい。この場合、CPU150aは、ネットワークを介してダウンロードしたコンピュータプログラムを実行してもよい。
【0055】
制御部150は、制御動作の一例として、テラヘルツ波検出素子130の検出結果(つまり、I−V変換部142が出力する電圧信号)に基づいて、試料Sの特性を推定する推定動作を行う。推定動作を行うために、制御部150は、CPU150aの内部に形成される論理的な処理ブロックとして、「検出部」の一具体例であるロックイン検出部151と、信号処理部152とを備えている。
【0056】
ロックイン検出部151は、I−V変換部142から出力される電圧信号に対して、バイアス電圧生成部141が生成するバイアス電圧を参照信号とする同期検波を行う。その結果、ロックイン検出部151は、テラヘルツ波THzのサンプル値を検出する。その後、ポンプ光LB1の光路長とプローブ光LB2の光路長との間の差分(つまり、光路長差)を適宜調整しながら同様の動作が繰り返されることで、ロックイン検出部151は、テラヘルツ波検出素子130が検出したテラヘルツ波THzの波形(時間波形)を検出することができる。ロックイン検出部151は、テラヘルツ波検出素子130が検出したテラヘルツ波THzの波形である検出波形DW(つまり、検出波形DWを示す波形信号)を、信号処理部152に対して出力する。つまり、ロックイン検出部151は、I−V変換部142から出力される電圧信号から参照信号とは異なる周波数のノイズ成分を除去する。即ち、ロックイン検出部151は、I−V変換部142から出力される電圧信号と参照信号とを用いて同期検波をすることによって、検出波形DWを、相対的に高い感度で且つ相対的に高精度に検波する。尚、テラヘルツ波検査装置100がロックイン検出を用いない場合は、テラヘルツ波発生素子110には、バイアス電圧として直流電圧が印加されればよい。
【0057】
ここで、
図2(a)から
図2(b)を参照しながら、検出波形DWについて説明する。
図2(a)に示すように、テラヘルツ波THzは、試料Sの表面B0に照射される。表面B0に照射されたテラヘルツ波THzの一部は、表面B0によって反射される。表面B0によって反射されたテラヘルツ波THzは、試料Sからテラヘルツ波検出素子130に伝搬していく。表面B0に照射されたテラヘルツ波THzの一部は、表面B0によって反射されることなく、表面B0を通過する。表面B0を通過したテラヘルツ波THzは、試料Sの内部を透過していく。その後、表面B0を通過したテラヘルツ波THzの一部は、界面B1によって反射されると共に、表面B0を通過したテラヘルツ波THzの他の一部は、界面B1を通過する。界面B1を通過したテラヘルツ波THzの一部は、界面B2によって反射されると共に、界面B1を通過したテラヘルツ波THzの他の一部は、界面B2を通過する。このため、界面B1によって反射されたテラヘルツ波THz及び界面B2によって反射されたテラヘルツ波THzの夫々もまた、試料Sからテラヘルツ波検出素子130に伝搬していく。
【0058】
その結果、
図2(b)に示すように、検出波形DWには、表面B0によって反射されたテラヘルツ波THzに相当するパルス波PW0、界面B1によって反射されたテラヘルツ波THzに相当するパルス波PW1及び界面B2によって反射されたテラヘルツ波THzに相当するパルス波PW2が現れる。
【0059】
再び
図1において、信号処理部152は、ロックイン検出部151から出力される検出波形DWに基づいて、試料Sの特性を推定する。例えば、信号処理部152は、テラヘルツ時間領域分光法を用いてテラヘルツ波THzの周波数スペクトルを取得すると共に、当該周波数スペクトルに基づいて試料Sの特性を推定する。
【0060】
本実施例では特に、信号処理部152は、制御動作の一例として、検出波形DWに基づいて、界面Bの位置を推定する推定動作を行う。推定動作を行うために、信号処理部152は、CPU150aの内部に形成される論理的な処理ブロックとして、ライブラリ構築部1521と、「選択部」の一具体例であるライブラリ選択部1522と、「推定部」の一具体例である位置推定部1523とを備える。尚、ライブラリ構築部1521、ライブラリ選択部1522及び位置推定部1523の動作の具体例については、後に詳述するためここでの説明を省略する。
【0061】
(2)テラヘルツ波検査装置100が行う界面Bの位置の推定動作
続いて、
図3を参照しながら、テラヘルツ波検査装置100が行う界面Bの位置を推定する推定動作について説明する。
図3は、テラヘルツ波検査装置100が行う界面Bの位置を推定する推定動作の流れの一例を示すフローチャートである。尚、以下では、界面Bの位置を推定する推定動作の一例として、界面B1の位置を推定する推定動作について説明する。但し、テラヘルツ波検査装置100は、界面B1の位置を推定する推定動作と同様の態様で、界面B1とは異なる他の界面B(例えば、表面B0及び界面B2の少なくとも一方)の位置を推定する推定動作を行ってもよい。
【0062】
図3に示すように、まず、ライブラリ構築部1521は、界面B1の位置を推定するために参照されるライブラリ1521aが、制御部150が備えるメモリ150b(或いは、その他の任意の記録媒体)に格納されているか否かを判定する(ステップS101)。具体的には、ライブラリ構築部1521は、ライブラリ構築部1521が過去に構築したライブラリ1521aが、メモリ150bに格納されているか否かを判定する。
【0063】
ここで、
図4を参照しながら、ライブラリ1521aについて説明する。ライブラリ1521aは、試料Sにテラヘルツ波THzを照射した場合にテラヘルツ波検出素子130が検出するであろうと推定されるテラヘルツ波THzの波形(つまり、検出波形DWの推定結果)を記憶している。以降、ライブラリ1521aに含まれるテラヘルツ波THzの波形を、“推定波形EW”と称する。特に、ライブラリ1521aは、推定波形EWを、当該試料Sにおいて想定され得る界面B1の位置の候補と対応付けて記憶している。つまり、ライブラリ1521aは、界面B1がある候補位置に存在する試料Sにテラヘルツ波THzを照射した場合にテラヘルツ波検出素子130が検出するであろうと推定されるテラヘルツ波THzの波形(つまり、推定波形DW)を、複数の候補位置毎に複数記憶している。
【0064】
尚、界面B1の位置は、管壁層L1の膜厚及び管壁層L2の膜厚によって変動し得る。このため、本実施例では、ライブラリ1521aは、推定波形EWを、当該試料Sにおいて想定され得る管壁層L1及びL2の夫々の膜厚の候補と対応付けて記憶しているものとする。つまり、ライブラリ1521aは、管壁層L1及びL2の夫々がある膜厚となる試料Sにテラヘルツ波THzを照射した場合にテラヘルツ波検出素子130が検出するであろうと推定されるテラヘルツ波THzの波形(つまり、推定波形EW)を、膜厚の複数の候補毎に複数記憶しているものとする。
【0065】
加えて、上述したように、管路層L3は、管路層L3を薬液が流れている場合に液体の層となる一方で、管路層L3を薬液が流れていない場合には気体の層となる。つまり、界面B2は、固体の層である管壁層L2(或いは、管壁層L1)と液体の層である管路層L3との境界を規定する場合もあれば、固体の層である管壁層L2(或いは、管壁層L1)と気体の層である管路層L3との境界を規定する場合もある。管路層L3が液体の層である場合には、管壁層L2(或いは、管壁層L1)のテラヘルツ波THzに対する群屈折率は、管路層L3のテラヘルツ波THzに対する群屈折率よりも小さくなる。一方で、管路層L3が気体の層である場合には、管壁層L2(或いは、管壁層L1)のテラヘルツ波THzに対する群屈折率は、管路層L3のテラヘルツ波THzに対する群屈折率よりも大きくなる。このため、管路層L3が液体の層である場合におけるパルス波PW2の形状は、管路層L3が気体の層である場合におけるパルス波PW2の形状に対して反転する。従って、ライブラリ1521aもまた、管路層L3が液体の層になる試料Sに対応する推定波形EWと、管路層L3が気体の層になる試料Sに対応する推定波形EWとを記憶している。
【0066】
例えば、
図4に示す例では、ライブラリ1521aは、管路層L3が液体の層になる試料Sに対応する推定波形EWとして、
図4の上部に示すように、(i)管壁層L1及びL2の膜厚が夫々1.0及び1.0になる試料Sに対応する推定波形EW、(ii)管壁層L1及びL2の膜厚が夫々1.0及び2.0になる試料Sに対応する推定波形EW、(iii)管壁層L1及びL2の膜厚が夫々1.0及び3.0になる試料Sに対応する推定波形EW、(iv)管壁層L1及びL2の膜厚が夫々2.0及び1.0になる試料Sに対応する推定波形EW、(v)管壁層L1及びL2の膜厚が夫々2.0及び2.0になる試料Sに対応する推定波形EW、(vi)管壁層L1及びL2の膜厚が夫々2.0及び3.0になる試料Sに対応する推定波形EW、(vii)管壁層L1及びL2の膜厚が夫々3.0及び1.0になる試料Sに対応する推定波形EW、(viii)管壁層L1及びL2の膜厚が夫々3.0及び2.0になる試料Sに対応する推定波形EW、及び、(ix)管壁層L1及びL2の膜厚が夫々3.0及び3.0になる試料Sに対応する推定波形EWを記憶している。更に、ライブラリ1521aは、管路層L3が気体の層になる試料Sに対応する推定波形EWとして、
図4の下部に示すように、(i)管壁層L1及びL2の膜厚が夫々1.0及び1.0になる試料Sに対応する推定波形EW、(ii)管壁層L1及びL2の膜厚が夫々1.0及び2.0になる試料Sに対応する推定波形EW、(iii)管壁層L1及びL2の膜厚が夫々1.0及び3.0になる試料Sに対応する推定波形EW、(iv)管壁層L1及びL2の膜厚が夫々2.0及び1.0になる試料Sに対応する推定波形EW、(v)管壁層L1及びL2の膜厚が夫々2.0及び2.0になる試料Sに対応する推定波形EW、(vi)管壁層L1及びL2の膜厚が夫々2.0及び3.0になる試料Sに対応する推定波形EW、(vii)管壁層L1及びL2の膜厚が夫々3.0及び1.0になる試料Sに対応する推定波形EW、(viii)管壁層L1及びL2の膜厚が夫々3.0及び2.0になる試料Sに対応する推定波形EW、及び、(ix)管壁層L1及びL2の膜厚が夫々3.0及び3.0になる試料Sに対応する推定波形EWを記憶している。
【0067】
図4から分かるように、界面B1の候補位置が変わると、界面B1に対応するパルス波PW1の位置もまた推定波形EW中において変わっている。更に、管路層L3が液体の層である場合におけるパルス波PW2の形状(
図4の上部参照)は、管路層L3が気体の層である場合におけるパルス波PW2の形状(
図4の下部参照)に対して反転することが分かる。
【0068】
再び
図3において、ステップS101の判定の結果、ライブラリ1521aがメモリ150bに格納されていると判定される場合には(ステップS101:Yes)、ライブラリ構築部1521は、新たにライブラリ1521aを構築しない。このため、制御部150は、メモリ150bに格納されている既存のライブラリ1521aを用いて、界面B1の位置を推定する。
【0069】
他方で、ステップS101の判定の結果、ライブラリ1521aがメモリ150bに格納されていないと判定される場合には(ステップS101:No)、ライブラリ構築部1521は、ライブラリ1521aを新たに構築する(ステップS102からステップS104)。具体的には、ライブラリ構築部1521は、まず、以前に取得済みの基準波形BWを用いてライブラリ1521aを構築するか否かを判定する(ステップS102)。尚、基準波形BWは、試料S(或いは、試料Sとは異なる任意の物体)にテラヘルツ波THzを照射した場合にテラヘルツ波検出素子130が検出するテラヘルツ波THzの波形であって、ライブラリ1521aを構築する際に基準となるテラヘルツ波THzの波形である。
【0070】
ステップS102の判定の結果、以前に取得済みの基準波形BWを用いてライブラリ1521aを構築しないと判定される場合には(ステップ102:No)、ライブラリ構築部1521は、新たに基準波形BWを取得する(ステップS102)。具体的には、ライブラリ構築部1521の制御下で、試料S(或いは、試料Sとは異なる任意の物体)にテラヘルツ波THzが照射される。その結果、検出波形DWが取得される。この検出波形DWの少なくとも一部(例えば、表面B0に対応するパルス波PW0)が、基準波形BWとして用いられる。
【0071】
他方で、ステップS102の判定の結果、以前に取得済みの基準波形BWを用いてライブラリ1521aを構築すると判定される場合には(ステップ102:Yes)、ライブラリ構築部1521は、新たに基準波形BWを取得しない。
【0072】
その後、ライブラリ構築部1521は、基準波形BWを用いてライブラリ1521aを構築する(ステップS104)。具体的には、ライブラリ構築部1521は、まず、試料Sを模擬するシミュレーションモデル上において、管壁層L1から管路層L3の物性値(例えば、誘電率や、透磁率や、減衰率や、導電率等)を、管壁層L1から管路L3の物性値を事前に実際に計測することで得られた実測値に設定する。その後、ライブラリ構築部1521は、シミュレーションモデル上で界面B1の位置(つまり、管壁層L1及びL2の夫々の膜厚)を変えながら、推定波形EWを算出する。尚、ライブラリ構築部1521は、推定波形EWの算出方法として、電磁波の波形を模擬するための既存の方法を採用してもよい。既存の方法の一例として、FDTD(Finite Difference Time Domain)法や、ADE−FDTD(Auxiliary Differential Equation FDTD)法)があげられる。
【0073】
その後、テラヘルツ波発生素子110は、テラヘルツ波THzを試料Sの表面B0に向けて出射する(ステップS111)。その結果、テラヘルツ波検出素子130は、試料Sによって反射されたテラヘルツ波THzを検出する(ステップS112)。つまり、信号処理部152は、検出波形DWを取得する(ステップS112)。
【0074】
その後、位置推定部1523は、検出波形DWとライブラリ1521aが記憶している推定波形EWとのマッチングを行う(つまり、両者を比較する)ことで、界面B1の位置を推定する(ステップS121からステップS123)。本実施例では特に、位置推定部1523は、検出波形DWとライブラリ1521aが記憶している全ての推定波形EWとのマッチングを行うことに代えて、検出波形DWとライブラリ1521aが記憶している推定波形EWのうちの一部とのマッチングを行うことで、界面B1の位置を推定する(ステップS121からステップS123)。尚、以降、検出波形DWとマッチングするべき推定波形EWを、“部分推定波形EW’”と称する。
【0075】
具体的には、上述したように、ライブラリ1521aは、管路層L3が液体の層になる試料Sに対応する推定波形EWと、管路層L3が気体の層になる試料Sに対応する推定波形EWとを記憶している。一方で、検出波形DWに含まれているパルス波PW2の形状は、管路層L3が液体の層になるか又は気体の層になるかを実質的に示している。従って、検出波形DWに含まれているパルス波PW2の形状が、管路層L3が液体の層になることを示している場合には、位置推定部1523は、管路層L3が気体の層になる試料Sに対応する推定波形EWと検出波形DWとのマッチングを行わなくても、管路層L3が液体の層になる試料Sに対応する推定波形EWと検出波形DWとのマッチングを行うことで、界面B1の位置を推定することができる。従って、この場合には、管路層L3が液体の層になる試料Sに対応する推定波形EWが、部分推定波形EW’となる。同様に、検出波形DWに含まれているパルス波PW2の形状が、管路層L3が気体の層になることを示している場合には、位置推定部1523は、管路層L3が液体の層になる試料Sに対応する推定波形EWと検出波形DWとのマッチングを行わなくても、管路層L3が気体の層になる試料Sに対応する推定波形EWと検出波形DWとのマッチングを行うことで、界面B1の位置を推定することができる。従って、この場合には、管路層L3が気体の層になる試料Sに対応する推定波形EWが、部分推定波形EW’となる。
【0076】
検出波形DWと部分推定波形EW’とのマッチングを行うことで界面B1の位置を推定するために、ライブラリ選択部1522は、まず、ライブラリ1521aが記憶している全ての推定波形EWの中から、検出波形DWとマッチングするべき部分推定波形EW’を選択する(ステップS121)。具体的には、ライブラリ選択部1522は、パルス波PW2の形状に基づいて、部分推定波形EW’を選択する。
【0077】
ここで、
図5(a)及び
図5(b)を参照しながら、管路層L3が液体の層になる試料Sにおけるパルス波PW2の形状と、管路層L3が気体の層になる試料Sにおけるパルス波PW2の形状との違いについて説明する。
【0078】
図5(a)は、管路層L3が液体の層になる試料Sにおける検出波形DWの形状を示す波形図である。管路層L3が液体の層になる試料Sでは、管壁層L2の群屈折率が管路層L3の群屈折率よりも小さくなるがゆえに、パルス波PW2の形状は、極小値MIN2が極大値MAX2よりも先に現れる形状になる。言い換えれば、パルス波PW2の形状は、極小値MIN2と極大値MAX2との間において信号レベルが増加する(つまり、パルス波PW2の波形の傾きが正になる)形状になる。
【0079】
一方で、
図5(b)は、管路層L3が気体の層になる試料Sにおける検出波形DWの形状を示す波形図である。管路層L3が気体の層になる試料Sでは、管壁層L2の群屈折率が管路層L3の群屈折率よりも大きくなるがゆえに、パルス波PW2の形状は、極小値MIN2が極大値MAX2よりも後に現れる形状になる。言い換えれば、パルス波PW2の形状は、極大値MAX2と極小値MAX1との間において信号レベルが減少する(つまり、パルス波PW2の波形の傾きが負になる)形状になる。
【0080】
つまり、管路層L3が液体の層になる試料Sにおけるパルス波PW2と管路層L3が気体の層になる試料Sにおけるパルス波PW2とは、パルス波PW2の極大値及び極小値の出現位置の相対関係が異なるという点から区別可能である。或いは、管路層L3が液体の層になる試料Sにおけるパルス波PW2と管路層L3が気体の層になる試料Sにおけるパルス波PW2とは、極大値及び極小値の間におけるパルス波PW2の波形の傾きが異なるという点から区別可能である。ライブラリ選択部1522は、このようなパルス波PW2の形状に着目して、ライブラリ1521aの中から部分推定波形EW’を選択する。
【0081】
再び
図3において、その後、位置推定部1523は、検出波形DWと、ステップS121で選択された部分推定波形EW’とのマッチングを行う(ステップS122)。具体的には、位置推定部1523は、検出波形DWと部分推定波形EW’との間の類似度Rを算出する。尚、類似度Rは、検出波形DWと部分推定波形EW’とがどれだけにているかを示す指標である。このため、類似度Rは、検出波形DWと部分推定波形EW’とが似ていれば似ているほど大きくなる指標である。つまり、類似度Rは、実質的には、検出波形DWと部分推定波形EW’との間の相関係数と等価である。
【0082】
位置推定部1523は、2つの信号波形の類似度を算出するための既存の算出方法を用いて、類似度Rを算出してもよい。既存の算出方法として、以下の数式1及び数式2があげられる。尚、数式1及び数式2中において、「u
d(t)」は、時刻tにおける検出波形DWの振幅(但し、時刻tは、上述した比較対象範囲WRに属する時刻)を示し、「u
e(t)」は、時刻tにおける部分推定波形EW’の振幅を示し、「μ
d」は、検出波形DWの振幅の平均値(いわゆる、DC成分)を示し、「μ
e」は、部分推定波形EW’の振幅の平均値(いわゆる、DC成分)を示す。
【0083】
【数1】
【0084】
【数2】
【0085】
位置推定部1523は、このような類似度Rの算出動作を、ステップS121で選択された全ての部分推定波形EW’を対象に繰り替えし行う。その結果、複数の部分推定波形EW’に対応する複数の類似度Rが算出される。
【0086】
その後、位置推定部1523は、ステップS122で算出した複数の類似度Rに基づいて、界面B1の位置を推定する(ステップS123)。具体的には、位置推定部1523は、複数の類似度Rのうち最も大きい類似度Rに対応する部分推定波形EW’を特定する。位置推定部1523は、特定した部分推定波形EW’に対応付けられている界面B1の位置を、界面B1の実際の位置であると推定する。
【0087】
(4)テラヘルツ波検査装置100の技術的効果
以上説明したように、本実施例のテラヘルツ波検査装置100は、界面B1の位置(つまり、試料S中の界面Bの位置)を適切に推定することができる。特に、テラヘルツ波検査装置100は、検出波形DWとライブラリ1521aが記憶している全ての推定波形EWとのマッチングを行うことなく、界面B1の位置を推定することができる。このため、検出波形DWとライブラリ1521aが記憶している全ての推定波形EWとのマッチングを行う比較例のテラヘルツ波検査装置と比較して、界面B1の位置を推定するために要する演算コストを低減可能である。更には、テラヘルツ波検査装置100は、検出波形DWとマッチングするべき部分推定波形EW’を選択するためのユーザの指示を必要とすることなく、検出波形DWに基づいて(特に、パルス波PW2に基づいて)部分推定波形EW’を選択することができる。このため、ユーザの手間がかからないという利点もある。
【0088】
尚、上述の説明では、テラヘルツ波検査装置100は、部分推定波形EW’を直接的に選択するライブラリ選択部1522を備えている。しかしながら、テラヘルツ波検査装置100は、ライブラリ選択部1522を備えていなくてもよい。この場合であっても、ライブラリ1521aが記憶している推定波形EWのうちの一部と検出波形DWとのマッチングが位置推定部1523によって行われる(つまり、ライブラリ1521aが記憶している推定波形EWのうちの他の一部と検出波形DWとのマッチングが位置推定部1523によって行われない)限りは、実質的には、ライブラリ1521aが記憶している推定波形EWのうちの一部が部分推定波形EW’として選択されていると言える。つまり、本実施例において、「部分推定波形EW’の選択」とは、部分推定波形EW’を直接的に選択する動作のみならず、選択位置推定部1523によって検出波形DWとマッチングされる推定波形EWを絞り込む(言い換えれば、特定する)ことが可能な任意の動作を含む。
【0089】
また、上述した説明では、試料Sが、内部を薬液が流れる配管である例を用いて説明を進めた。しかしながら、試料Sは、2つ以上の層Lが積層された試料であってもよい。この場合、2つ以上の層Lは、互いに異なる物性を有する材料から構成されていてもよい。2つ以上の層Lの少なくとも一つは、固体状の材料から構成されていてもよい。2つ以上の層Lの少なくとも一つは、液体状の材料から構成されていてもよい。2つ以上の層Lの少なくとも一つは、気体状の材料から構成されていてもよい。この場合においても、テラヘルツ波検査装置100は、検出波形DWに基づいて部分推定波形EW’を選択することで、界面Bを推定してもよい。具体的には、テラヘルツ波検査装置100は、検出波形DWに含まれるある特定のパルス波PWの状態(例えば、上述した形状)に基づいて、部分推定波形EW’を選択してもよい。特定のパルス波PWの一例として、ある層Lと、相の状態が変わる(例えば、液体から気体若しくは固体へ、気体から固体若しくは液体へと、又は、固体から液体若しくは気体へ変わる)ことが可能な層Lとの境界Bに対応するパルス波PWがあげられる。特定のパルス波PWの他の一例として、群屈折率の大小関係が反転し得る隣り合う2つの層L(つまり、群屈折率の大小関係が、第1の層Lの群屈折率が第2の層Lの群屈折率よりも大きい状態と、第1の層Lの群屈折率が第2の層Lの群屈折率よりも小さい状態との間で切り替わることが可能な、隣り合う第1及び第2の層L)の境界Bに対応するパルス波PWがあげられる。
【0090】
また、テラヘルツ波検査装置100は、試料Sによって反射されたテラヘルツ波THzを検出しているが、試料Sを透過したテラヘルツ波THzを検出してもよい。
【0091】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う検査装置、検査方法、コンピュータプログラム及び記録媒体もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。