特許第6754502号(P6754502)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6754502改質ゴムの製造方法並びに防弾性および耐穿孔性タイヤの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6754502
(24)【登録日】2020年8月25日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】改質ゴムの製造方法並びに防弾性および耐穿孔性タイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/20 20060101AFI20200831BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20200831BHJP
   C08K 9/00 20060101ALI20200831BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20200831BHJP
   C08K 9/06 20060101ALI20200831BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20200831BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20200831BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20200831BHJP
【FI】
   C08J3/20 BCEQ
   C08L21/00
   C08K9/00
   C08K7/02
   C08K9/06
   C08K3/013
   C08K3/04
   B60C1/00 Z
【請求項の数】18
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2019-556637(P2019-556637)
(86)(22)【出願日】2018年7月20日
(65)【公表番号】特表2020-516754(P2020-516754A)
(43)【公表日】2020年6月11日
(86)【国際出願番号】CN2018096352
(87)【国際公開番号】WO2019019953
(87)【国際公開日】20190131
【審査請求日】2019年10月17日
(31)【優先権主張番号】201710619579.3
(32)【優先日】2017年7月26日
(33)【優先権主張国】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507362513
【氏名又は名称】浙江吉利控股集団有限公司
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG GEELY HOLDING GROUP CO.,LTD.
(73)【特許権者】
【識別番号】516099613
【氏名又は名称】浙江吉利汽車研究院有限公司
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG GEELY AUTOMOBILE RESEARCH INSTITUTE CO., LTD
(74)【代理人】
【識別番号】100104547
【弁理士】
【氏名又は名称】栗林 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100206612
【弁理士】
【氏名又は名称】新田 修博
(74)【代理人】
【識別番号】100209749
【弁理士】
【氏名又は名称】栗林 和輝
(74)【代理人】
【識別番号】100217755
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 淳史
(72)【発明者】
【氏名】リ シュフ
【審査官】 河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−241831(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第103146346(CN,A)
【文献】 特開2011−153222(JP,A)
【文献】 特開平04−349301(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/142316(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/142319(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/060067(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00− 3/28
99/00
C08K 3/00− 13/08
C08L 1/00−101/14
B60C 1/00− 19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さが35mm〜150mmの繊維に紫外線を照射する工程と、
照射された前記繊維をエタノールに加えて攪拌し、均一に分散された繊維懸濁液を調製する工程と、
調製された前記繊維懸濁液にカップリング剤を添加する工程と、
前記繊維懸濁液のpH値を8〜9の範囲に調整し、室温で2〜4時間にわたり反応させる工程と、
前記繊維懸濁液にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを添加し、1〜2時間にわたり反応させて、反応液を調製する工程と、
前記反応液を減圧濾過して前記反応液から液体を除去し、改質繊維スラリーを調製する工程と、
前記改質繊維スラリーをカーボンブラックおよび無機充填材に添加して改質繊維スラリー混合物を調製する工程と、
可塑化された極性または非極性ゴムを密閉式ミキサーに投入し、1〜2分間にわたり加圧混合してゴムマトリックスを調製する工程と、
前記改質繊維スラリー混合物を前記ゴムマトリックスに添加し、さらに1〜2分間にわたり加圧混合させ、混合ゴム化合物を調製する工程と、
このゴム化合物をオープンミルから押し出して改質ゴムを調製する工程と、
を含むことを特徴とする改質ゴムの製造方法。
【請求項2】
前記繊維を照射するための前記紫外線の強度が300W〜450Wであり、照射時間が25〜40秒であることを特徴とする請求項1に記載の改質ゴムの製造方法。
【請求項3】
攪拌速度が1200〜1500r/minであることを特徴とする請求項1に記載の改質ゴムの製造方法。
【請求項4】
前記改質繊維スラリーと前記カーボンブラックと前記無機充填材との質量比が、1:(0.6〜0.8):(1〜1.2)であることを特徴とする請求項1に記載の改質ゴムの製造方法。
【請求項5】
前記無機充填剤が、モンモリロナイト、アタパルジャイト、カオリンおよび炭酸カルシウムのうちの1種または2種以上であることを特徴とする請求項4に記載の改質ゴムの製造方法。
【請求項6】
前記極性または非極性ゴムが、天然ゴム、合成ポリイソプレン、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、溶液重合スチレン−ブタジエンゴム、乳化重合スチレン−ブタジエンゴム、ニトリルゴム、液体ゴム、ハロゲン化ブチルゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、イソプレン−イソブチレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエンモノマー、クロロプレンゴム、アクリレートゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、ポリスルフィドゴム、エピクロロヒドリンゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエン三元共重合体、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム、イソプレン−ブタジエン共重合体および水素化スチレン-ブタジエンゴムからなる群から選択される1つ以上の物質であることを特徴とする請求項1に記載の改質ゴムの製造方法。
【請求項7】
前記繊維は、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ポリ[2,5−ジヒドロキシ−1,4−フェニルピリジニウムジイミダゾール繊維、改質アラミド繊維、改質ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維および改質ポリ[2,5−ジヒドロキシ−1,4−フェニルピリジニウムジイミダゾール繊維のうちの1つ以上によって切断または破断されることを特徴とする請求項1に記載の改質ゴムの製造方法。
【請求項8】
前記カップリング剤が、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシランおよびγ−(メタクリロイルオキシ)プロピルトリメトキシシランからなる群から選ばれる1つ以上の物質であることを特徴とする請求項1に記載の改質ゴムの製造方法。
【請求項9】
前記改質ゴムの厚さが、0.8mm〜1.2mmであることを特徴とする請求項1に記載の改質ゴムの製造方法。
【請求項10】
前記改質繊維スラリー混合物と前記極性または非極性ゴムとの質量比が0.2:1〜0.25:1であることを特徴とする請求項1に記載の改質ゴムの製造方法。
【請求項11】
防弾性および耐穿孔性タイヤ(10)の製造方法であって、
前記タイヤは、トレッド(11)、ベルトプライ(12)、緩衝層(13)、コードプライ(14)およびインナーライナー(15)が外側から内側に向かう順に配置されており、前記緩衝層(13)は、改質ゴムからなり、前記緩衝層(13)および前記コードプライ(14)は、前記タイヤ(10)の側壁全体に延在しており、
前記タイヤ(10)おける前記緩衝層(13)の前記改質ゴムを、請求項1〜10のいずれか1項に記載の改質ゴムの製造方法を用いて製造することを特徴とする防弾性および耐穿孔性タイヤ(10)の製造方法
【請求項12】
防弾性および耐穿孔性タイヤ(10)の製造方法であって、
前記タイヤは、トレッド(11)、ベルトプライ(12)、緩衝層(13)、コードプライ(14)およびインナーライナー(15)が外側から内側に向かう順に配置されており、前記緩衝層(13)は、改質ゴムからなり、前記緩衝層(13)および前記コードプライ(14)は、前記タイヤ(10)の側壁全体に延在しており、かつ、前記トレッド(11)、前記ベルトプライ(12)および前記インナーライナー(15)のうち少なくとも1つが改質ゴムからなり、
前記タイヤ(10)おける前記各改質ゴムを、請求項1〜10のいずれか1項に記載の改質ゴムの製造方法を用いて製造することを特徴とする防弾性および耐穿孔性タイヤ(10)の製造方法。
【請求項13】
前記緩衝層(13)が、ポリウレタン発泡材、ポリスチレン発泡材、ポリプロピレン発泡材およびエチレン−酢酸ビニル共重合体発泡材から選ばれた1つまたは複数の発泡材で作製されていることを特徴とする請求項11に記載の防弾性および耐穿孔性タイヤ(10)の製造方法
【請求項14】
前記コードプライ(14)が、長繊維を撚り合わせて形成された繊維束で織られていることを特徴とする請求項11に記載の防弾性および耐穿孔性タイヤ(10)の製造方法
【請求項15】
前記長繊維が、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ポリ[2,5−ジヒドロキシ−1,4−フェニルピリジニウムジイミダゾール繊維、改質アラミド繊維、改質ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、および改質ポリ[2,5−ジヒドロキシ−1,4−フェニルピリジニジイミダゾール繊維からなる群から選択された1つ以上の物質であることを特徴とする請求項14に記載の防弾性及び耐穿孔性タイヤ(10)の製造方法
【請求項16】
前記コードプライ(14)は、互いに間隔を空けて平行に配置された複数の経糸(141)と、互いに間隔を空けて配置された複数の緯糸(142)とを含み、緯糸(142)は経糸(141)とそれぞれ交差し、各二本の隣接する経糸(141)はそれぞれ各二本の隣接する緯糸(142)と交差して接続されることで平行四辺形を形成していることを特徴とする請求項14に記載の防弾性および耐穿孔性タイヤ(10)の製造方法
【請求項17】
前記経糸(141)および前記緯糸(142)は、長繊維を撚り合わせた繊維束であり、経糸(141)と緯糸(142)との織り角度は30°〜60°であり、前記繊維束の繊度は50D〜300Dであることを特徴とする請求項16に記載の防弾性および耐穿孔性タイヤ(10)の製造方法
【請求項18】
隣接する2本の経糸(141)間の距離が0.3mm〜1mmであり、隣接する2本の緯糸(142)間の距離が0.3mm〜1mmであることを特徴とする請求項16に記載の防弾性および耐穿孔性タイヤ(10)の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2017年7月26日に提出された、浙江吉利控股集団有限公司および浙江吉利汽車研究院有限公司による中国特許出願第201710619579.3号に基づき、その優先権を主張する。この出願は、「改質ゴム製造方法、改質ゴムならびに防弾性および耐穿孔性タイヤ」と題されており、明細書および特許請求の範囲を含む上記の特定出願の全開示は、参照により本明細書に組み込まれている。
【0002】
本開示は、自動車に使用される複合材料に関し、詳しくは、改質ゴム製造方法、改質ゴムならびに防弾性および耐穿孔性タイヤに関する。
【背景技術】
【0003】
タイヤは、様々な車両または機械に組み付けられている接地転動の円形弾性ゴム製品である。これは通常、車体を支え、外的な衝撃を吸収し、路面との接触を達成して車の運転性能を確実にするために金属のリムに取り付けられている。また、タイヤは、複雑で過酷な条件で使用されることがよくある。例えば、これは運転中に様々な変形、荷重、力ならびに高温および低温にさらされる。さらに、タイヤは高い耐荷重性、トラクションおよび緩衝性などの特性を有しなければならない。複雑な地形および車輪付き車両に対する戦時の要求により、新型の防弾性および耐穿孔性タイヤを開発することが緊急の課題となっている。既存の防弾性タイヤには、主に、灌流型ソリッドタイヤ、インナーサポートタイヤおよびインナーシンクリミッタータイヤが含まれている。灌流型ソリッドタイヤの場合、タイヤの重量が大きいため、タイヤの走行抵抗が大きくなり、それが車両の走行速度に影響を及ぼし、その結果、車両の燃料消費量が多くなる。結局、車両の動力システムに対する要求は比較的高くなっている。インナーサポートタイヤおよびインナーシンクリミッタータイヤの主な不利点は、以下のように説明される。第1に、車両の損傷後に支持体またはインナーリミッタが車両の荷重を支えるようになると、タイヤがある程度の沈下を起こし、それによって車輪間に高低差が生じ、車両の乗り心地が悪くなる。第2に、特別なリムを使用する必要性が生じてしまう。第3に、支持体がタイヤとリムに組み立てられるとき、タイヤを取り付けるための特別な装置が必要となってしまう。
【0004】
高性能繊維は、特別な物理的および化学的構造、特別な性質および用途、あるいは特別な機能を有する化学繊維である。これは低密度、高強度、良好な靭性、高温耐性、容易な加工性および成形性などの利点を有し、その強度は同じ品質の鋼の少なくとも5倍であるが、密度は鋼のわずか1/5である。つまり、これは、高強度で軽量な素材である。
【発明の概要】
【0005】
本発明の実施形態は、既存の防弾性タイヤが大きい重量および劣った走行安定性を抱えるという問題を解決するために、改質ゴム製造方法、改質ゴムならびに防弾性および耐穿孔性タイヤを提供している。
【0006】
本発明は、改質ゴムの製造方法を提供する。この方法は、
高性能短繊維に紫外線を照射し、照射された高性能短繊維をエタノールに添加して攪拌し、均一に分散した繊維懸濁液を調製する工程と、
調製された繊維懸濁液にカップリング剤を添加し、繊維懸濁液のpH値を8〜9の範囲に調整し、繊維懸濁液中の成分を室温で2〜4時間にわたり反応させる工程と、
繊維懸濁液にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを添加し、さらに繊維懸濁液中の成分を1〜2時間にわたり反応させて反応液を調製する工程と、
反応液を減圧濾過して反応液から液体を除去し、改質繊維スラリーを調製する工程と、
改質繊維スラリーをカーボンブラックおよび無機充填材に添加して改質繊維スラリー混合物を調製する工程と、
可塑化された極性または非極性ゴムを密閉式ミキサーに投入し、1〜2分間にわたり加圧混合してゴムマトリックスを調製し、次いで改質繊維スラリー混合物をゴムマトリックスに添加し、1〜2分間にわたり加圧混合して混合ゴム化合物を調製する工程と、
オープンミルから混合改質ゴム化合物を押し出して改質ゴムを調製する工程と、
を含む。
【0007】
本発明は、また、上述の方法によって調製された改質ゴムを提供する。
【0008】
そして、本発明は、外側から内側に向かう順にトレッド、ベルトプライ、緩衝層、コードプライ、インナーライナーを配置した防弾性および耐穿孔性のタイヤを提供する。ここの緩衝層は、上記の改質ゴムにより形成されている。
【0009】
本発明は、改質ゴムの製造方法、改質ゴムならびに防弾性および耐穿孔性タイヤを提供している。ここで、改質ゴムは高性能短繊維を含み、防弾性および耐穿孔性タイヤの緩衝層は、改質ゴムで形成されている。また、防弾性および耐穿孔性タイヤのトレッド、ベルトプライおよびインナーライナーのうちの少なくとも1つが、改質ゴムによって作られており、防弾性および耐穿孔性タイヤのコードプライが、撚り合わせた高性能長繊維によって形成される。これにより、防弾性および耐穿孔性タイヤは、防弾機能および耐穿孔機能を有するだけでなく、軽量性および走行安定性も有する。
【0010】
上述の目的、特徴および利点をより明白かつ理解しやすくするために、好ましい実施形態に付随する詳細な説明を以下に行う。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態による防弾性および耐穿孔性タイヤを示す概略断面図である。
図2】本発明の一実施形態によるコードプライを示す概略構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態を参照しながら、より明瞭かつ完全に本発明を説明する。明らかに、例示された実施形態は、本発明の実施形態の一部にすぎず、全部ではない。示された実施形態に基づいて当業者によって創造性なしに得られ得る他のすべての実施形態は、本願の特許請求の範囲内に入っている。
【0013】
本発明は、以下の工程を含む改質ゴムの製造方法を提供する。
つまり、本発明の方法は、
高性能短繊維に紫外線を一定時間照射した後、高性能短繊維をエタノールに添加し、混合物を攪拌して均一に分散した繊維懸濁液を調製する工程と、
調製された繊維懸濁液にカップリング剤を添加し、pH値を8〜9の範囲に調整し、繊維懸濁液中の成分を室温で2〜4時間にわたり反応させ、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)を添加し、そして成分をさらに1〜2時間にわたり反応させて反応液を調製し、該反応液を減圧下で濾過して反応液から液体を除去し、改質繊維スラリーを調製する工程と、
改質繊維スラリーにカーボンブラックと無機充填剤を添加し、均一に混合して改質繊維スラリー混合物を調製する工程と、
可塑化された極性または非極性ゴムを密閉式ミキサーに添加し、1〜2分間にわたり加圧混合してゴムマトリックスを調製し、そして改質繊維スラリー混合物をゴムマトリックスに添加し、さらに1〜2分間にわたり加圧混合して混合したゴム化合物を調製する工程と、
混合ゴム化合物をオープンミルに入れ、オープンミルから混合ゴム化合物を押し出して改質ゴムを得る工程と、
を含む。
【0014】
改質ゴムの製造工程において、高性能短繊維に紫外線を照射することは、高性能短繊維の表面に水酸基、エステル基等の反応基を形成するのに有利である。これにより、高性能短繊維とカップリング剤との間でエステル交換反応が起こり、カップリング剤の分子が高性能短繊維の分子鎖に導入され、カップリング剤上のアルキル鎖は、ゴムマトリックスとの良好な相溶性があり、これによって高性能短繊維とゴムマトリックスとの相溶性が改善される。一般的に言えば、35mmから150mmの長さを有する繊維は短繊維と呼ぶことができる。この実施形態では、高性能短繊維の長さは、35mmから150mmの範囲内である。
【0015】
しかし、高性能短繊維に照射される紫外線の強度は、高すぎてはならないし、照射時間は長すぎてもならない。ここで、紫外線の強度が大きすぎ、あるいは照射時間が長すぎると、高性能短繊維の多数の分子鎖が破断し、性能が低下する。一方、紫外線強度が低すぎた場合や照射時間が短すぎた場合は、カップリング剤のグラフト率は、高性能短繊維とゴムマトリックスとの相溶性を向上させるのに十分なほど高くなく、また、高性能短繊維の凝集を低減するのにも不十分である。本実施形態において、高性能短繊維に照射される紫外線の強度は、300W〜450Wが好ましく、照射時間は25〜40秒が好ましい。
【0016】
さらに、高性能短繊維は、次に述べる組み合わせのうちの1つ以上によって切断または破断される。これらは、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維(PBO繊維)、ポリ[2,5−ジヒドロキシ−1,4−フェニルピリジニウムジイミダゾール繊維(M5繊維)、改質アラミド繊維、改質ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維および改質ポリ[2,5−ジヒドロキシ−1,4−フェニルピリジニウムジイミダゾール繊維である。
【0017】
さらに、カップリング剤は、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタクリロイルオキシ)プロピルトリメトキシシランから選ばれた1つ以上の物質である。
【0018】
改質ゴムの製造工程において、繊維懸濁液を調製する際には、高性能短繊維をエタノールに添加する必要があり、カップリング剤のエタノールへの溶解性が良好であり、このことは、カップリング剤と高性能短繊維とのグラフト反応に有利である。他の実施形態では、他の溶媒を選択して繊維懸濁液を調製することもできる。また、繊維懸濁液を調製する工程において、高速攪拌が必要であり、攪拌速度は1200r/min以上1500r/min以下が好ましい。
【0019】
改質ゴムを調製する工程では、得られた繊維懸濁液にカップリング剤を添加する。カップリング剤は、高性能短繊維と極性または非極性ゴムとの相溶性を向上させるために使用される。これにより、高性能短繊維は、極性または非極性ゴムとの相溶性がよくなり、優れた機械的性質を持つ高性能短繊維を調製することが可能となる。
【0020】
改質ゴムの製造工程では、カーボンブラックおよび無機充填材に改質繊維スラリーを添加して均一に混合し、改質繊維スラリー混合物を調製する。改質繊維スラリー混合物において、改質繊維スラリーとカーボンブラックと無機充填材との質量比は、1:(0.6〜0.8):(1〜1.2)が好ましい。本実施形態において、無機充填剤は、例えば、モンモリロナイト、アタパルジャイト、カオリンおよび炭酸カルシウムのうちの1つ以上である。
【0021】
改質ゴムを製造する工程では、可塑化された極性または非極性ゴムを密閉式ミキサーに投入し、1〜2分間にわたり加圧混合してゴムマトリックスを得た。そして、改質繊維スラリー混合物をゴムマトリックスに添加して、1〜2分間にわたり加圧混合し続けて混合ゴム化合物を調製する。この実施形態では、改質繊維スラリー混合物と極性または非極性ゴムとの質量比は、0.2:1から0.25:1であることが好ましい。
【0022】
この実施形態では、可塑化極性または非極性ゴムは、以下の群から選択される一つ以上の物質である。これらは:天然ゴム、合成ポリイソプレン、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、溶液重合スチレン−ブタジエンゴム、乳化重合スチレン−ブタジエンゴム、ニトリルゴム、液体ゴム、ハロゲン化ブチルゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、イソプレン−イソブチレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエンモノマー(EPDM)、クロロプレンゴム、アクリレートゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、ポリスルフィドゴム、エピクロロヒドリンゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエン三元共重合体、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム、イソプレン−ブタジエン共重合体、水素化スチレン−ブタジエンゴム等である。
【0023】
改質ゴムを製造する工程では、混合ゴム化合物をオープンミル上に置き、オープンミルから押し出して改質ゴムを調製する。改質ゴムの厚さは、0.8mm〜1.2mmが好ましい。
【0024】
高性能短繊維は、凝集する傾向があり、極性または非極性ゴムの改質中にゴムマトリックスとの相溶性が低い。活性基が紫外線照射により高性能短繊維に導入されるので、高性能短繊維がカップリング剤と化学的に反応する。また、カップリング剤の分子が高性能短繊維の分子構造に導入され、極性または非極性ゴムマトリックスとの相溶性が充分に向上する。カップリング剤の分子鎖は、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムと物理的に絡み合っており、カップリング剤はドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムと結合している。さらに、ベンゼンスルホン酸ナトリウム間で同じ電荷の相互反発効果があるため、高性能短繊維は相互に反発する。したがって、高性能短繊維同士の凝集が回避され、高性能短繊維同士がゴムマトリックスの中により均一に分散される。
【0025】
本発明の実施形態は、また、上記の方法によって調製された改質ゴムを提供する。
【0026】
図1は、本発明の一実施形態に係る防弾性および耐穿孔性タイヤを示す概略断面図である。図1に示すように、防弾性および耐穿孔性タイヤ10は、外側から内側に向かう順に配置されたトレッド11、ベルトプライ12、緩衝層13、コードプライ14およびインナーライナー15を備えている。防弾性および耐穿孔性タイヤ10の緩衝層13は、上述の改質ゴムで作られており、防弾性および耐穿孔性タイヤ10のトレッド11、ベルトプライ12およびインナーライナー15のうち少なくとも1つは、上述した改質ゴムで作られている。本実施形態では、緩衝層13およびコードプライ14は、防弾性および耐穿孔性タイヤ10の側壁全体に延在している。防弾性および耐穿孔性タイヤ10の側面は脆弱であり、弾丸および穿刺性のものによって容易にパンクされる。また、緩衝層13およびコードプライ14が防弾性および耐穿孔性タイヤ10の側壁全体に延びるという設計は、防弾性および耐穿孔性タイヤ10の側壁をパンクから防止するのに有益である。
【0027】
緩衝層13は、ベルトプライ12とコードプライ14との間に位置するゴム層であり、主に、トレッド11から伝達される衝撃を吸収し、コードプライ14の損傷を軽減し、走行中や急停止時に防弾性および耐穿孔性タイヤ10の慣性により発生する剪断応力に耐えるために使用される。この実施形態では、改質ゴムを使用して、防弾性および耐穿孔性タイヤ10の緩衝層14を作る。このような緩衝層14は、穿刺物のエネルギーの一部を効果的に吸収し、コードプライ14、防弾性および耐穿孔性タイヤ10の内壁に対する穿刺物の損傷性を軽減することができる。
【0028】
他の実施形態では、緩衝層13は、ポリウレタン発泡材、ポリスチレン発泡材、ポリプロピレン発泡材、エチレン−酢酸ビニル共重合体発泡材からなる群から選ばれる1つ以上の発泡材で作られてもよい。
【0029】
さらに、防弾性および耐穿孔性タイヤ10のコードプライ14は、高性能長繊維を撚り合わせた高性能繊維束から織られている。高性能長繊維は、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ポリ[2,5−ジヒドロキシ−1,4−フェニルピリジニウムジイミダゾール繊維、改質アラミド繊維、改質ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、および改質ポリ[2,5−ジヒドロキシ−1,4−フェニルピリジニジイミダゾール繊維からなる群から1つまたは複数選択される。コードプライ14は、高弾性率、高強度および高性能を有する高性能繊維束を織り込んで形成されており、穿刺物がタイヤ内に侵入することを防ぐ。これによって、防弾性および耐穿孔性タイヤ10が穿孔されなくても済むようになる。
【0030】
図2は、本発明の実施形態によるコードプライを示す概略構造図である。図2に示すように、防弾性および耐穿孔性タイヤ10のコードプライ14は、互いに間隔をあけて相互平行に配置された複数の経糸141と、互いに間隔をあけて相互平行に配置された複数の緯糸142とを含む。複数の経糸141は、緯糸142とそれぞれ交差するように配置されている。各2本の隣接する経糸141は、それぞれ2本の隣接する緯糸142と交差して接続し、平行四辺形を形成している。コードプライ14の平行四辺形構造は、良好な変形性を有する。本実施形態では、経糸141と緯糸142との織り角度は30°〜60°が好ましく、高性能繊維束の繊度は50D〜300Dが好ましい。
【0031】
経糸141と緯糸142は共に、撚り合わせた高性能繊維束である。撚り合わせとは、原料の絹や原料の繊維を糸にする工程である。1本の糸は、複数の絹または繊維からなり、絹または繊維は互いに絡み合って糸をより堅く繊細にする。絹または繊維がよりきつく巻き付けられるほど、より高い撚りが得られ、得られる織布は比較的タイトとなり、良好なドレープ感および良好な堅牢性を有する。撚りを行わないと、糸が得られなくなり、絹と絹、または繊維と繊維が絡み合っていないため、布地が弛み、ドレープが劣り、堅牢性が悪くなる。本実施形態では、各経糸141および各緯糸142は、複数の高性能長繊維を撚り合わせた高性能繊維束であり、高性能長繊維は、高強度かつ高弾性となる。したがって、経糸141と緯糸141とによって織られたコードプライ14は、非常に高い強度および弾性率を有する。
【0032】
さらに、相互に隣接する経糸141または相互に隣接する緯糸142の間の線間距離は、高性能繊維束によって形成されるコードプライ14の織り密度を決定している。この線間距離が大きすぎると、織り密度は小さすぎてしまうので、コードプライ14の強度は制限され、穿刺物の穿刺を効果的に防止することができず、防弾性および耐穿刺性の効果も希望通りにならない。線間距離が小さすぎると、織り密度が大きすぎてしまい、一方ではコードプライ14のコストが高くなる。他方、コードプライ14の変形度が小さすぎて、車両の乗り心地や安全性が低下してしまう。したがって、この実施形態において、隣接する2本の緯糸142間の線間距離は0.3mmから1mmが好ましく、隣接する2本の経糸141間の線間距離は0.3mmから1mmが好ましい。
【0033】
図2に示すように、コードプライ14の経糸141と緯糸142は共に高性能撚繊維束であり、経糸141と緯糸142とを織り込むことによって形成された平行四辺形構造により、高強度および高弾性率を有するコードプライ14が得られる。経糸141および緯糸142によって織られた平行四辺形構造は、優れた変形性を有する。これは、タイヤ変形、走行快適性および安全性ならびに高弾性率および高強度などの要求を満たすことができる。
【0034】
本発明における改質ゴムの製造方法、改質ゴムならびに防弾性および耐穿孔性タイヤでは、高性能短繊維を改質ゴムに添加する。防弾性および耐穿孔性タイヤ10の緩衝層13は、改質ゴムを使用しており、防弾性および耐穿孔性タイヤ10のトレッド11、ベルトプライ12およびインナーライナー15の少なくとも1つは、改質ゴムを使用している。そして、防弾性および耐穿孔性タイヤ10のコードプライ14は、撚り合された高性能の長繊維で編まれている。これにより、防弾性および耐穿孔性タイヤ10は、防弾性および耐穿孔性の機能を有するだけでなく、軽量性および走行安定性をも有する。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明における改質ゴムの製造方法、改質ゴムならびに防弾性および耐穿孔性タイヤでは、高性能短繊維を改質ゴムに添加する。防弾性および耐穿孔性タイヤ10の緩衝層13は、改質ゴムを使用しており、防弾性および耐穿孔性タイヤ10のトレッド11、ベルトプライ12およびインナーライナー15の少なくとも1つは、改質ゴムを使用している。そして、防弾性および耐穿孔性タイヤ10のコードプライ14は、撚り合された高性能の長繊維で編まれている。これにより、防弾性および耐穿孔性タイヤ10は、防弾性および耐穿孔性の機能を有するだけでなく、軽量性および走行安定性をも有する。
【0036】
本発明は、現在最も実用的で好ましい実施形態で説明されてきたが、開示された実施形態に限定されるわけではない。また、このようなすべての修正形態および類似の構造を包含するように、最も広く解釈すべき添付の特許請求の範囲の精神および範囲内に含まれる様々な修正形態および類似の構成も、網羅されている。
図1
図2