(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなガスセンサでは、被測定ガスが保護カバー内を流通してセンサ素子の検出部に到達すると、検出部が特定ガス濃度を検出する。このとき、被測定ガスが検出部に到達するまでの時間が長いことにより、特定ガス濃度の検出の応答性が低い場合があった。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、特定ガス濃度の検出の応答性を向上させることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究した結果、保護カバー内のセンサ素子が配置された空間における被測定ガスの流れが層流的であることで、センサ素子の先端部の内部又は表面の検出部に被測定ガスが到達しにくくなっており応答性が低下していると予測した。そしてさらに検討した結果、従来のガスセンサにおけるセンサ素子が保護カバーの軸線上に配置されていることで被測定ガスの流れが層流になりやすいことを見いだした。そこで、センサ素子を保護カバーの軸方向から傾斜させたところ、特定ガス濃度の検出の応答性が向上することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、上述した主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0008】
本発明のガスセンサは、
内側に素子室を有し、外部から前記素子室への被測定ガスの流入を許容する筒状の保護カバーと、
前記素子室内に位置し前記被測定ガス中の特定ガス濃度を検出する検出部を有する長尺なセンサ素子であって、前記保護カバーの軸方向に対する前記素子室内での該センサ素子の軸方向の傾斜角度θtが1°以上であるセンサ素子と、
を備えたものである。
【0009】
このガスセンサでは、センサ素子の素子室内での軸方向が、保護カバーの軸方向に対して傾斜しており、その傾斜角度θtが1°以上である。これにより、センサ素子によって素子室内での被測定ガスの流れを乱すことができ、被測定ガスが層流になりにくい(乱流になりやすい)。したがって、センサ素子の検出部に被測定ガスが到達しやすくなり、ガスセンサの特定ガス濃度の検出の応答性が向上する。
【0010】
本発明のガスセンサにおいて、前記傾斜角度θtは3°以上としてもよい。こうすれば、被測定ガスが層流になるのをセンサ素子の傾斜によってより抑制でき、ガスセンサの応答性がより向上する。
【0011】
本発明のガスセンサにおいて、前記傾斜角度θtは15°以下としてもよい。こうすれば、センサ素子が傾斜することによる素子室内の圧損の増大が抑制される。そのため、圧損により被測定ガスの流速が遅くなることを抑制でき、ガスセンサの応答性の低下を抑制できる。
【0012】
本発明のガスセンサは、前記センサ素子のうち前記素子室内での傾斜方向側の表面を覆う厚さが、該センサ素子のうち前記素子室内での傾斜方向とは反対側の表面を覆う厚さよりも厚い保護層、を備えていてもよい。こうすれば、保護層の厚さの偏りによって、素子室内での被測定ガスの流れが乱されてより層流になりにくくなるため、ガスセンサの応答性がより向上する。
【0013】
本発明のガスセンサにおいて、前記保護カバーは、前記素子室に開口し前記被測定ガスの流路となる素子室入口と、前記素子室に開口し前記被測定ガスの流路となり前記素子室入口よりも前記保護カバーの先端側に位置する素子室出口と、を有していてもよい。一般に、素子室入口と素子室出口とがこのような位置関係にある場合、被測定ガスの流れが保護カバーの軸方向に沿った層流になりやすく、ガスセンサの応答性が低下しやすい。そのため、本発明を適用する意義が高い。
【0014】
本発明のガスセンサにおいて、前記センサ素子は、板状体形状であり、前記素子室内に位置する部分が前記保護カバーの軸方向に対して該センサ素子の厚さ方向に傾斜していてもよい。こうすれば、例えばセンサ素子が厚さ方向に垂直な方向に傾斜している場合と比べて、センサ素子のうち保護カバーの軸方向に交差する面の面積が大きくなる。そのため、素子室内での被測定ガスの流れが乱されてより層流になりにくくなり、ガスセンサの応答性がより向上する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。
図1は、本発明の一実施形態であるガスセンサ10が配管90に取り付けられた様子を示す概略説明図である。
図2は、ガスセンサ10の縦断面図であり、
図1のA−A断面図である。
図2の右下の二点鎖線枠内は、センサ素子20の概略斜視図である。
図3は、センサ素子20の幅方向に垂直な断面図である。なお、本実施形態において、上下方向,及び左右方向は、
図2に示した通りとする。
【0017】
図1に示すように、ガスセンサ10は、例えば車両の排ガス管などの配管90に取り付けられて、被測定ガスとしての排気ガスに含まれるNOxやO
2等の特定ガスの濃度(特定ガス濃度)を測定するために用いられる。本実施形態では、ガスセンサ10は特定ガス濃度としてNOx濃度を測定するものとした。
【0018】
図2に示すように、ガスセンサ10は、センサ素子20と、センサ素子20の表面の少なくとも一部を被覆する保護層29と、センサ素子20の先端面20aを含む先端側(
図2の下端側)を保護する保護カバー30と、センサ素子20を封止固定する素子封止体40と、センサ素子20の基端面20bを含む基端側(
図2の上端側)の保護やセンサ素子20からの電気信号の取り出しを行う組立体50と、を備えている。
【0019】
センサ素子20は、ジルコニア(ZrO
2)等の酸素イオン伝導性固体電解質層を複数積層した構造を有している。センサ素子20は、長尺な板状体形状(直方体形状)の素子であり、下端側の先端面20aと、上端側の基端面20bと、先端面20a及び基端面20bに垂直な第1〜第4面21a〜21dと、を備えている。センサ素子20において、直方体の3辺のうち最も長い辺(例えば第1面21aと第4面21dとに共有される辺)に沿った方向を長さ方向とする。直方体の3辺のうち最も短い辺(例えば先端面20aと第4面21dとに共有される辺)に沿った方向を厚さ方向とする。直方体の3辺のうち残りの1辺(例えば先端面20aと第1面21aとに共有される辺)に沿った方向を幅方向とする。このセンサ素子20の軸方向は、保護カバー30の軸方向に対して傾斜角度θtだけ傾斜して配置されている。傾斜角度θtについて詳しくは後述する。センサ素子20の寸法は、例えば長さが25mm以上100mm以下、幅が2mm以上10mm以下、厚さが0.5mm以上5mm以下としてもよい。
図2及び
図3に示すように、センサ素子20は、被測定ガスを自身の内部に導入する被測定ガス導入口22aと、特定ガス濃度の検出の基準となる基準ガス(大気)を自身の内部に導入する基準ガス導入口22bと、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出する検出部23と、を有している。被測定ガス導入口22aは、センサ素子20の先端面20aに開口しており、内側保護カバー31の内側の空間である素子室37内に位置している。基準ガス導入口22bは、
図3に示すようにセンサ素子20の基端面20bに開口しており、大気側カバー74の内側の空間内に位置している。
【0020】
検出部23は、少なくとも1つの電極を備えており、素子室37内に位置して素子室37内の被測定ガス中の特定ガス濃度を検出する。本実施形態では、検出部23は、第1面21aに配設された外側電極24と、センサ素子20の内部に配設された内側主ポンプ電極25,内側補助ポンプ電極26,測定電極27,及び基準電極28とを備えている。素子室37内の被測定ガスは、外側電極24及び被測定ガス導入口22aに到達する。被測定ガス導入口22aからセンサ素子20の内部に導入された被測定ガスは、内側主ポンプ電極25,内側補助ポンプ電極26,及び測定電極27にこの順に到達する。また、基準ガス導入口22bから導入された基準ガスは、基準電極28に到達する。検出部23が特定ガス濃度を検出する原理は周知であるため詳細な説明は省略するが、検出部23は例えば以下のように特定ガス濃度を検出する。検出部23は、外側電極24と内側主ポンプ電極25との間に印加された電圧に基づいて、内側主ポンプ電極25周辺の被測定ガス中の酸素の外部(素子室37)への汲み出し又は汲み入れを行う。また、検出部23は、外側電極24と内側補助ポンプ電極26との間に印加された電圧に基づいて、内側補助ポンプ電極26周辺の被測定ガス中の酸素の外部(素子室37)への汲み出し又は汲み入れを行う。これらにより、酸素濃度が所定値に調整された後の被測定ガスが、測定電極27周辺に到達する。測定電極27は、NOx還元触媒として機能し、到達した被測定ガス中の特定ガス(NOx)を還元する。そして、検出部23は、還元後の酸素濃度に応じて測定電極27と基準電極28との間に発生する起電力又はその起電力に基づく電流を、電気信号として発生させる。このように検出部23が発生させた電気信号は、被測定ガス中の特定ガス濃度に応じた値(特定ガス濃度を導出可能な値)を示す信号であり、検出部23が検出した検出値に相当する。また、この電気信号は、センサ素子20の基端側の表面に配設された図示しない導通電極を介して外部に出力される。
【0021】
保護層29は、センサ素子20の表面の少なくとも一部を覆う多孔質体である。保護層29は、センサ素子20の先端面20a全てと、第1〜第4面21a〜21dのうち素子室37内に位置する部分のほとんどを覆っている。保護層29は外側電極24及び被測定ガス導入口22aも覆っているが、保護層29が多孔質体であるため、被測定ガスは保護層29の内部を流通して外側電極24及び被測定ガス導入口22
aに到達可能である。保護層29は、例えば被測定ガス中の水分やオイル成分等からセンサ素子20を保護する役割を果たす。保護層29は、例えばアルミナなどのセラミックスの多孔質体からなる。保護層29は、第1面21aを覆う部分(
図2におけるセンサ素子20の左側の部分)の厚さが、第2〜第4面21b〜21d及び先端面20aを覆う部分の厚さよりも厚くなっている。そのため、保護層
29は、センサ素子20のうち素子室37内での傾斜方向側の表面(第1面21a)を覆う厚さが、センサ素子20のうち素子室37内での傾斜方向とは反対側の表面(第2面21b)を覆う厚さよりも厚くなっている。
【0022】
保護カバー30は、例えばステンレス鋼などの金属からなり、外部から素子室37への被測定ガスの流入を許容する円筒状の部材である。保護カバー30は、センサ素子20の先端側を覆う有底筒状の内側保護カバー31と、この内側保護カバー31を覆う有底筒状の外側保護カバー32とを備えている。内側保護カバー31は、内側に素子室37を有している。素子室37は、内側保護カバー31の内周面に囲まれた空間である。素子室37内には、センサ素子20の先端面20a及び検出部23を含む先端側が配置されている。内側保護カバー31と外側保護カバー32との間には、両カバーに囲まれた空間であるガス室38が存在する。
【0023】
内側保護カバー31には、側面(外周面)に位置する複数の素子室入口33と、底面に位置する素子室出口34とが配設されている。素子室入口33及び素子室出口34は、いずれも素子室37及びガス室38に開口している。素子室入口33は、ガス室38から素子室37への被測定ガスの流路となる。素子室出口34は、
素子室37から
ガス室38への被測定ガスの流路となる。素子室入口33は、センサ素子20の先端面20a(及び被測定ガス導入口22a)よりも基端面20bに近い位置(先端面20aよりも上方)に位置している。また、素子室入口33は、検出部23のうちセンサ素子20の表面に配設された電極である外側電極24よりも上方に位置している。素子室出口34は、素子室入口33よりも下側すなわち保護カバー30の先端側に位置している。また、素子室出口34は、センサ素子20の先端面20aよりも下側に位置している。素子室入口33及び素子室出口34は、円形の孔とした。内側保護カバー31の内径は、例えば5mm〜10mmとしてもよい。素子室入口33と素子室出口34との上下の距離(内側保護カバー31の軸方向の距離)は、例えば10mm〜20mmとしてもよい。
【0024】
外側保護カバー32には、側面(外周面)に位置する複数の外側入口35と、底面に位置する外側出口36とが配設されている。外側入口35及び外側出口36は、いずれもガス室38及び外側保護カバー32の外部(配管90内)に開口している。外側入口35は、外部からガス室38への被測定ガスの流路となる。外側出口36は、ガス室38から外部への被測定ガスの流路となる。外側入口35は、素子室入口33よりも下側に位置している。外側出口36は、素子室出口34及び外側入口35よりも下側に位置している。
外側入口35及び外側出口36は、円形の孔とした。外側保護カバー32の内径は、例えば7mm〜15mmとしてもよい。
【0025】
素子封止体40は、ハウジング41と、第1絶縁碍子45と、封止部材48と、シール材49と、を備えている。センサ素子20は、素子封止体40の中心軸付近に位置しており、素子封止体40を上下に貫通している。ハウジング41は、円筒状の金属部材であり、下端には保護カバー30の上端が取付けられている。ハウジング41は、配管90に溶接され内周面に雌ネジ部が設けられた固定用部材91内に挿入されている。これにより、ガスセンサ10のうちセンサ素子20の先端側や保護カバー30が配管90内に突出した状態で、ガスセンサ10が配管90に固定されている。第1絶縁碍子45は、ハウジング41の内部に挿入された円柱状の部材である。センサ素子20は、第1絶縁碍子45の内部を貫通している。第1絶縁碍子45は、例えばアルミナ、ステアタイト、ジルコニアなどの絶縁性のセラミックスからなる。封止部材48は、例えばステンレス,ニッケル,又は銅などの金属からなるリング状の部材である。封止部材48は、ハウジング41と第1絶縁碍子45とに上下から押圧されており、ハウジング41と第1絶縁碍子45との隙間を気密に封止している。シール材49は、タルクやアルミナ粉末、ボロンナイトライドなどのセラミックス粉末の成型体である。シール材49は、第1絶縁碍子45の内周面とセンサ素子20との間に充填されて、両部材間を気密に封止している。第1絶縁碍子45及びシール材49は、傾斜した貫通孔を有しており、この貫通孔内に挿入配置されることで、センサ素子20は傾斜角度θtだけ傾斜した状態で固定されている。
【0026】
組立体50は、第2絶縁碍子55と、複数の接触金具60と、複数の接続端子71と、複数のリード線72と、ゴム栓73と、大気側カバー74と、外側カバー75と、皿バネ77とを備えている。第2絶縁碍子55は、有底筒状の部材であり、第1絶縁碍子45と同様に絶縁性のセラミックスからなる。第2絶縁碍子55は、下面が第1絶縁碍子45の上面と接触しており、第1絶縁碍子45と同軸に位置している。接触金具60は、複数箇所で屈曲した金属板であり、内側に折り曲げられた状態の板バネ部を備えている。接触金具60は、センサ素子20の左右に複数本ずつ(例えば2本ずつ、3本ずつなど)配設されており、各々がセンサ素子20の第1,第2面21a,21bに配設された図示しない導通電極と接触している。この複数の接触金具60の板バネ部は、自身の弾性力の反力によって第2絶縁碍子55に支持されると共に、センサ素子20を左右両側から押圧してセンサ素子20の導通電極と導通している。複数の接触金具60の各々の端部は、第2絶縁碍子55の上側の底部の孔を貫通して引き出され、接続端子71を介してリード線72と導通している。リード線72は、大気側カバー74及び外側カバー75の上端を塞ぐゴム栓73を上下に貫通して外部(配管90の外部であり、大気中)に引き出されている。大気側カバー74は、素子封止体40の外周面のうちセンサ素子20の基端側(上側)の部分を覆っている。また、大気側カバー74は、第2絶縁碍子55及びゴム栓73を覆っている。外側カバー75は大気側カバー74の上側の外周面を覆っている。大気側カバー74及び外側カバー75には、それぞれ複数の大気導入孔76が形成されている。この大気導入孔76を介して、センサ素子20の基準ガス導入口22b内に基準ガス(大気)が導入される。大気側カバー74及び外側カバー75は、上端付近に、縮径状に加締められた加締め部を有しており、この加締め部により、ゴム栓73が固定されている。皿バネ77は、上下で大気側カバー74と第2絶縁碍子55とに挟まれており、第2絶縁碍子55を下方に押圧することで第2絶縁碍子55及び第1絶縁碍子45を固定している。
【0027】
ここで、センサ素子20の傾斜角度θtについて詳細に説明する。傾斜角度θtは、保護カバー30の軸方向に対する素子室37内でのセンサ素子20の軸方向の傾斜角度である。
図2には、センサ素子20の中心軸である素子軸A1を図示した。素子軸A1は、センサ素子20の長さ方向に平行な軸であり、この素子軸A1に平行な方向がセンサ素子20の軸方向となる。また、本実施形態では、センサ素子20には反りなどは生じておらず、センサ素子20のうち素子室37内に位置する部分と素子室37内に位置しない部分(例えば基端面20bを含む基端側)とでは軸方向は同じとした。そのため、素子室37内でのセンサ素子20の軸方向(センサ素子20のうち素子室37内に位置する部分の軸方向)は、センサ素子20全体の軸方向と同じで素子軸A1に平行な方向となる。また、本実施形態では、ガスセンサ10の中心軸と、保護カバー30(内側保護カバー31及び外側保護カバー32)の中心軸とは一致しており、
図2にカバー軸A2として示した。カバー軸A2は、
図2の上下方向と平行であり、この上下方向が保護カバー30の軸方向である。そして、センサ素子20の軸方向(素子軸A1に平行な方向)は、保護カバー30の軸方向(カバー軸A2に平行な方向)に対して傾斜角度θtだけ傾斜している。傾斜角度θtは、1°以上である。傾斜角度θtは20°以下としてもよい。また、センサ素子20は、センサ素子20の厚さ方向に傾斜している。すなわち、
図2の二点鎖線枠内に示すように、センサ素子20は、素子軸A1とカバー軸A2とが平行な状態(破線で示したセンサ素子20の状態)から、厚さ方向(先端面20a,第3面21c,及び第4面21dに平行な方向)にセンサ素子20を回転させた状態になっている。なお、本実施形態では、センサ素子20は、厚さ方向のうち、センサ素子20の先端側が第2面21bから第1面21aに向かう方向に傾斜した状態になっている。ただし、センサ素子20は、厚さ方向のうち、センサ素子20の先端側が第1面21aから第2面21bに向かう方向に傾斜した状態としてもよい。なお、素子軸A1とカバー軸A2とが交差している必要はない。素子軸A1とカバー軸A2とが交差していなくとも、保護カバー30の軸方向(=カバー軸A2に平行な方向)と素子室37内でのセンサ素子20の軸方向(素子軸A1に平行な方向)とが傾斜していれば、傾斜角度θtは定まる。
【0028】
次に、こうして構成されたガスセンサ10の使用例を以下に説明する。ガスセンサ10が
図1,
図2のように配管90に取り付けられた状態で、配管90内を被測定ガスが流れると、被測定ガスは保護カバー30内を流通する。具体的には、配管90内の被測定ガスは、外側入口35からガス室38に流入し、ガス室38から素子室入口33を経て素子室37に流入する。そして、被測定ガスは素子室37内を素子室入口33から素子室出口34に向かって流れ、素子室出口34から外側出口36を経て外部(配管90内)に流出する。なお、本実施形態では、保護カバー30はいわゆるアスピレータ式(差圧吸引式ともいう)として構成されている。すなわち、保護カバー30は、配管90の内周面付近よりも配管90の中心軸付近の方が静圧力が低くなる現象を利用して、配管90の内周面に近い外側入口35から被測定ガスが流入し、配管90の中心軸に近い外側出口36から被測定ガスが流出するようになっている。そして、被測定ガスが、素子室37内を流通する際に検出部23に到達、より具体的には外側電極24に到達及び被測定ガス導入口22aからセンサ素子20内に到達すると、上述したようにこの被測定ガス中の特定ガス濃度に応じた電気信号を検出部23が発生させる。この電気信号を接触金具60,接続端子71,及びリード線72を介して取り出すことで、電気信号に基づき特定ガス濃度が検出される。
【0029】
ここで、従来のガスセンサのようにセンサ素子の中心軸が保護カバーの中心軸と一致している場合(傾斜角度θtが0°である場合)には、素子室内の被測定ガスの流れが層流になりやすい。被測定ガスの流れが層流であるほど、センサ素子の周囲を流れる被測定ガスが素子先端部の検出部に到達するのに時間を要する。そして、検出部に被測定ガスが到達しにくいことで、例えば被測定ガス中の特定ガス濃度が変化してもセンサ素子が発生させる電気信号の変化には時間がかかるなど、特定ガス濃度の検出の応答性が低下しやすい。しかし、本実施形態のガスセンサ10では、傾斜角度θtが1°以上であることで、素子室37内のセンサ素子20が被測定ガスの流れ(本実施形態では素子室入口33から素子室出口34へ向かう下向きの流れ)を乱すことができる。これにより、素子室37の被測定ガスは層流になりにくい(乱流になりやすい)。したがって、センサ素子20の周囲を流れる被測定ガスが素子先端部の検出部23に到達しやすくなり、ガスセンサ10の特定ガス濃度の検出の応答性が向上する。
【0030】
なお、傾斜角度θtは3°以上であることが好ましい。こうすれば、被測定ガスが層流になるのをセンサ素子20の傾斜によってより抑制でき、ガスセンサ10の応答性がより向上する。傾斜角度θtは5°以上がより好ましく、9°以上がさらに好ましい。また、傾斜角度θtは15°以下であることが好ましい。こうすれば、センサ素子20が傾斜することによる素子室37内の圧損の増大が抑制される。そのため、圧損により被測定ガスの流速が遅くなることを抑制でき、ガスセンサ10の応答性の低下を抑制できる。傾斜角度θtは13°以下がより好ましく、11°以下がさらに好ましい。また、センサ素子20の素子室37内での傾斜方向は、被測定ガスの流れ方向(
図2における左から右に向かう方向)に対向する方向であることが好ましく、本実施形態ではそのような向きになっている。センサ素子20の素子室37内での傾斜方向は、素子室入口33(複数存在する場合には素子室入口33のいずれか)に向かう方向であることが好ましく、本実施形態では、そのような向きになっている。
【0031】
以上詳述した本実施形態のガスセンサ10によれば、傾斜角度θtが1°以上であることで、センサ素子20の検出部23に被測定ガスが到達しやすくなり、ガスセンサ10の特定ガス濃度の検出の応答性が向上する。また、傾斜角度θtが3°以上であることで、ガスセンサ10の応答性がより向上する。さらに、傾斜角度θtが15°以下であることで、圧損の増大によるガスセンサ10の応答性の低下を抑制できる。なお、一般に、被測定ガスが低流速、低流量、低圧力の少なくともいずれかの場合には、特に検出部23に被測定ガスが到達しにくい。そのため、このような場合には特に傾斜角度θを1°以上として素子室37内の層流を抑制する意義が高い。
【0032】
また、ガスセンサ10は、センサ素子20のうち素子室37内での傾斜方向側の表面(第1面21a)を覆う厚さが、センサ素子20のうち素子室37内での傾斜方向とは反対側の表面(第2面21b)を覆う厚さよりも厚い保護層29を備えている。これにより、保護層29の厚さの偏りによって、素子室37内での被測定ガスの流れが乱されてより層流になりにくくなるため、ガスセンサ10の応答性がより向上する。
【0033】
さらに、ガスセンサ10において、保護カバー30は、素子室37に開口し被測定ガスの流路となる素子室入口33と、素子室37に開口し被測定ガスの流路となり素子室入口33よりも保護カバー30の先端側に位置する素子室出口34と、を有している。ここで、一般に、素子室入口と素子室出口とがこのような位置関係にある場合、被測定ガスの流れが保護カバーの軸方向に沿った層流になりやすく、ガスセンサの応答性が低下しやすい。そのため、このような形状の保護カバー30において傾斜角度θを1°以上として素子室37内の層流を抑制する意義が高い。
【0034】
さらにまた、ガスセンサ10において、センサ素子20は、板状体形状であり、素子室37内に位置する部分が保護カバー30の軸方向に対してセンサ素子20の厚さ方向に傾斜している。そのため、例えばセンサ素子20が厚さ方向に垂直な方向(幅方向)に傾斜している場合と比べて、センサ素子20のうち保護カバー30の軸方向に交差する面の面積が大きくなる。詳述すると、例えばセンサ素子20が幅方向に傾斜している場合は、第3面21c又は第4面21dが保護カバー30の軸方向に交差するが、センサ素子20が厚さ方向に傾斜している場合は、第3,第4面21c,21dよりも面積の大きい第1面21a又は第2面21b(本実施形態では第1面21a)が保護カバー30の軸方向に交差する。そのため、素子室37内での被測定ガスの流れが乱されてより層流になりにくくなり、ガスセンサ10の応答性がより向上する。
【0035】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0036】
例えば、上述した実施形態では、センサ素子20は厚さ方向に傾斜していたが、これに限らず厚さ方向に垂直な方向(幅方向)に傾斜していてもよい。また、厚さ方向と幅方向との両方に傾斜していてもよい。
【0037】
上述した実施形態では、ガスセンサ10の中心軸と、保護カバー30(内側保護カバー31及び外側保護カバー32)の中心軸とは一致していたが、これに限られない。傾斜角度θtは、センサ素子20の中心軸(素子軸A1)の方向と保護カバー30の中心軸(カバー軸A2)の方向とに基づいて定まる。例えば、ガスセンサ10の中心軸と保護カバー30の中心軸とが一致していなかったり平行でなかったりしてもよい。また、ガスセンサ10の中心軸とセンサ素子20の中心軸とが平行(一致も含む)であってもよく、この場合もセンサ素子20の軸方向と保護カバー30の軸方向とが傾斜していればよい。また、上述した実施形態では、内側保護カバー31と外側保護カバー32との中心軸は一致していたが、これに限られない。なお、内側保護カバー31と外側保護カバー32との軸方向が異なる場合には、内側保護カバー31の軸方向(言い換えると素子室37の軸方向)を「保護カバーの軸方向」とする。
【0038】
上述した実施形態では、センサ素子20には反りなどは生じておらず、センサ素子20のうち素子室37内に位置する部分と素子室37内に位置しない部分とでは軸方向は同じとしたが、これに限られない。あくまでセンサ素子20のうち素子室37内に位置する部分の軸方向に基づいて定まる傾斜角度θtが、1°以上であればよい。なお、センサ素子20の素子室37内の部分に反りが生じている場合など、センサ素子20のうち素子室37内に位置する部分の軸線が直線でない場合には、その軸線の両端を結んだ直線に平行な方向を、「センサ素子の素子室内での軸方向」とする。
図4は、センサ素子20に反りがある場合における、センサ素子20の素子室37内での軸方向の説明図である。
図4では、センサ素子20のうち素子室37内の部分の軸線A3(二点鎖線)の両端である点P1,P2を結んだ直線(破線)を素子軸A1とし、この素子軸A1に平行な方向を素子室37内でのセンサ素子20の軸方向とする。この素子軸A1に平行な方向とカバー軸A2に平行な方向とのなす角が、傾斜角度θtとなる。
【0039】
上述した実施形態では、第1絶縁碍子45及びシール材49が傾斜した貫通孔を有しており、この貫通孔内に挿入配置されることで、センサ素子20が傾斜角度θtだけ傾斜した状態で固定されていたが、これに限られない。ガスセンサ10では、傾斜角度θtが1°以上となる状態でセンサ素子20が固定されていればよい。例えば、センサ素子20は反りが生じた状態で作製されており、第1絶縁碍子45及びシール材49この反りに合うような形状の貫通孔を有していてもよい。また、センサ素子20単体では反りが生じておらず、第1絶縁碍子45及びシール材49の貫通孔の形状によってセンサ素子20を押圧することで、センサ素子20に反り(あるいは曲げ)を生じさせて傾斜角度θtが1°以上になるように調整されていてもよい。
【0040】
保護カバー30の形状は、上述した実施形態に限られない。例えば、内側保護カバー31及び外側保護カバー32の少なくとも一方が、基端側に位置する大径部と先端側に位置する小径部とを軸方向に接続した段差のある形状であってもよい。また、素子室入口33,素子室出口34,外側入口35,外側出口36の配置や数も、上述した実施形態に限られない。さらに、素子室入口33,素子室出口34,外側入口35,外側出口36は、円形の孔としたが、これに限らず楕円形の孔としてもよいし、四角形などの多角形の孔としてもよいし、孔に限らずスリット状の隙間としてもよい。また、保護カバー30はいわゆるアスピレータ式(差圧吸引式ともいう)として構成されていたが、特にこれに限られない。すなわち、保護カバー30への被測定ガスの流出入が、配管90の内周面付近と中心軸付近との差圧を利用していなくてもよい。また、保護カバー30は内側保護カバー31と外側保護カバー32とを備える2重構造のカバーとしたが、これに限らず3重以上の構造のカバーとしてもよい。保護カバー30が内側保護カバー31と外側保護カバー32との一方を備えるなど、保護カバー30が1重構造のカバーであってもよい。また、保護カバー30(内側保護カバー31及び外側保護カバー32)は円筒状としたが、筒状であればよい。
【0041】
上述した実施形態では、保護層29は、センサ素子20のうち素子室37内での傾斜方向側の表面を覆う厚さが、センサ素子20のうち素子室37内での傾斜方向とは反対側の表面を覆う厚さよりも厚かったが、特にこれに限られない。いずれの面を覆う保護層29の厚さも同じとしてもよい。また、保護層29は先端面20a及び第1〜第4面21a〜21dを覆っていたが、これらの5面のうち少なくとも1面を覆っていなくてもよい。また、ガスセンサ10は保護層29を備えなくてもよい。なお、「センサ素子20のうち素子室37内での傾斜方向側の表面を覆う厚さが、センサ素子20のうち素子室37内での傾斜方向とは反対側の表面を覆う厚さよりも厚い」は、少なくとも保護層29が傾斜方向側の表面を覆っていればよく、保護層29が傾斜方向とは反対側の表面を全く覆っていない場合も含む。
【0042】
上述した実施形態では、被測定ガス導入口22aはセンサ素子20の先端面20aに配設されていたが、被測定ガス導入口22aは素子室37内に位置すればよく、被測定ガス導入口22aがセンサ素子20の他の面に配設されていてもよい。例えば、被測定ガス導入口22aが第1面21aに配設されていてもよい。この場合も、傾斜角度θtを1°以上とすることで、ガスセンサ10の応答性が向上する効果が得られる。なお、被測定ガス導入口22aが第1面21aに配設されている場合、内側保護カバー31の素子室入口33は被測定ガス導入口22aよりも上方(センサ素子20の基端面20b側)に位置していてもよい。
【0043】
検出部23の構成は、上述した実施形態に限られない。検出部23が備える電極の数や配置が上述した実施形態と異なっていてもよい。例えば、検出部23が内側補助ポンプ電極26を備えなくてもよい。また、上述した実施形態では、被測定ガス導入口22aからつながるセンサ素子20の内部に検出部23の一部(内側主ポンプ電極25,内側補助ポンプ電極26及び測定電極27)が配設されていたが、これに限られない。例えば、センサ素子20が被測定ガス導入口22aを備えていなくてもよい。この場合、例えば検出部23が少なくとも測定電極27及び基準電極28を備えるものとし、測定電極27がセンサ素子20の表面(例えば第1面21a)に配設されていてもよい。
【0044】
上述した実施形態では、センサ素子20は長尺な板状体形状としたが、長尺であればよい。例えば、センサ素子20が円柱状であってもよい。
【実施例】
【0045】
以下には、ガスセンサを具体的に作製した例を実施例として説明する。実験例2〜10が本発明の実施例に相当し、実験例1が比較例に相当する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
[実験例1〜10]
傾斜角度θtを表1に示すように種々変更した点,及び保護層29を備えない点以外は、
図2,3に示したガスセンサ10と同様の構成のガスセンサを作製し、実験例1〜10とした。なお、内側保護カバー31の内径は8mmとした。素子室入口33は直径が2mmの円形とし、内側保護カバー31の外周面に均等に6個形成した。素子室出口34は直径が2mmの円形とした。外側保護カバー32の内径は12mmとした。外側入口35は直径が3mmの円形とし、外側保護カバー32の外周面に均等に6個形成した。外側出口36は直径3mmの円形とした。実験例2〜10のセンサ素子20の傾斜の方向は、
図2と同じく、センサ素子20の先端側が第2面21bから第1面21aに向かう方向とした。
【0047】
[応答性の試験]
実験例1〜10のガスセンサについて、センサ素子20の特定ガス濃度の検出の応答性を評価した。具体的には、以下のように評価を行った。まず、実験例1のガスセンサを
図1と同様に配管に取り付けた。配管の直径は50mmとした。保護カバー30のうち配管内に突出する部分の長さ(
図2の上下方向の長さ)は28mmであった。そして、配管内に空気を流速5m/secで流し、十分な時間放置した。その後、配管内に流れるガスを空気から被測定ガスに切り替えた。被測定ガスは500ppmのNOを含む窒素とし、流速5m/secで流した。なお、実験例1における空気及び被測定ガスの流れの向きは、
図2における左から右方向とした。この場合におけるセンサ素子20の出力(検出部23が発生させる電気信号)の時間変化を調べた。配管内に空気を流している状態の出力を0%とし、配管内に被測定ガスを流したときのセンサ素子20の出力の最大値を100%として、出力が10%を超えたときから90%を超えるまでの経過時間を測定し、特定ガス濃度の検出の応答時間(msec)とした。この応答時間が短いほど、ガスセンサの特定ガス濃度の検出の応答性が高いことを意味する。実験例2〜10についても、同様に応答時間を測定した。実験例1〜10の傾斜角度θt,及び上記の試験で測定した応答時間を表1にまとめて示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表1に示すように、傾斜角度θtが0°である実験例1と比べて、傾斜角度θtが1°である実験例2は、応答時間が短かった。また、傾斜角度θtが1°から大きくなるほど応答時間が短くなる傾向が見られ、3°以上が好ましく、5°以上がより好ましく、9°以上がさらに好ましい結果が得られた。また、傾斜角度θtが大きすぎると応答時間が増大する傾向が見られ、応答時間の増大の抑制のためには15°以下が好ましく、13°以下がより好ましく、11°以下がさらに好ましいことが確認できた。また、傾斜角度θtが7°超過13°未満の範囲における応答時間が最も短かった。