特許第6754605号(P6754605)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6754605
(24)【登録日】2020年8月26日
(45)【発行日】2020年9月16日
(54)【発明の名称】アスパラガスの水耕栽培方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 22/10 20180101AFI20200907BHJP
   A01G 31/00 20180101ALI20200907BHJP
【FI】
   A01G22/10
   A01G31/00 601B
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-85100(P2016-85100)
(22)【出願日】2016年4月21日
(65)【公開番号】特開2017-192348(P2017-192348A)
(43)【公開日】2017年10月26日
【審査請求日】2019年4月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000126115
【氏名又は名称】エア・ウォーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100075524
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 重光
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100186897
【弁理士】
【氏名又は名称】平川 さやか
(72)【発明者】
【氏名】阿保 洋一
(72)【発明者】
【氏名】長尾 瑞恵
【審査官】 門 良成
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−027223(JP,A)
【文献】 実開昭58−189773(JP,U)
【文献】 特開2010−063414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 22/10
A01G 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
養液の液面の位置を、アスパラガスの根の浸漬率が20%より大きく80%以下になるように設定することを特徴とする、アスパラガスの水耕栽培方法。
【請求項2】
前記養液を用いてアスパラガスを栽培し、若芽を発芽させる、請求項1に記載のアスパラガスの水耕栽培方法。
【請求項3】
少なくとも若芽が発芽する際に、気温が20℃以上に保たれている、請求項1又は2記載のアスパラガスの水耕栽培方法。
【請求項4】
前記根の浸漬率が、アスパラガス全株の根の浸漬率である、請求項1〜の何れかに記載のアスパラガスの水耕栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスパラガスの水耕栽培方法に関し、より詳細には、養液の液面を、根の浸漬率が特定の数値範囲を満たすような位置に設定してアスパラガスを栽培する、アスパラガスの水耕栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アスパラガスは、宿根性の多年生草本植物であり、耐水性が低いので、一般に、水はけの良い土地において露地栽培やハウス栽培により育てられ、鱗茎から発芽して所望の長さに伸長した若芽が食用として収穫される。アスパラガスの地下茎の先端には複数の鱗茎が集合しており、一つ一つの鱗茎から若芽が発芽する。
【0003】
若芽の収穫は、主に春から夏にかけて行われるが、この時期のアスパラガスは多量の水を必要とするため、灌水に多くの労力を費やさなければならなかった。更に、アスパラガスの栽培には多量の肥料が必要であり、追肥作業も大変であった。
【0004】
また、本来アスパラガスは、同じ株から10年以上若芽を収穫し続けることができる作物である。しかも、栽培年数が長いほど地下茎先端の鱗茎の数が増えるので若芽の収穫量が向上し、加えて、若芽が太くなるので商品価値も高まる。
【0005】
しかし、特許文献1および非特許文献1に開示されているように、アスパラガスは、アレロパシー物質と呼ばれる作物の生育阻害原因物質を多く放出する。アスパラガスを栽培している土壌においては、栽培期間が長期化するほどアレロパシー物質濃度が上昇する。そのため、実際の現場では、アスパラガスを長期に亘って栽培し、収穫を続けることは非常に難しく、できるだけ長く同じ株を栽培し続ける技術の確立が求められていた。
【0006】
灌水や追肥にかかる労力の問題およびアレロパシー物質の問題を解決する技術として、近年、土壌を使わず、栽培に必要な養分を溶かした水溶液(養液)を用いてアスパラガスを育てる栽培方法が、盛んに検討されている。例えば、非特許文献2には、養液を与えながらロックウールキューブを用いてアスパラガスをある程度育てた後、ロックウールキューブごとアスパラガスをロックウールスラブの上に設置し、更に養液を与えながらアスパラガスを栽培する方法(以下、これをロックウール栽培方法と呼ぶことがある。)が開示されている。
【0007】
しかし、アスパラガスは、根(主に貯蔵根)に栄養を貯め込むため、栽培を続けるにつれて根が巨大化するという特性を持つところ、非特許文献2の方法ではこの特性が損なわれていた。即ち、非特許文献2の方法では、アレロパシー物質の問題は解決されているものの、ロックウールにより根の巨大化が阻害される問題が新たに生じており、その結果、栽培期間長期化の要求は依然として満たされていなかった。
【0008】
更に、非特許文献2では、ロックウール栽培方法が、土壌で栽培する場合よりも若芽の発芽率を高くすることができる可能性が示唆されているにすぎず、養液でアスパラガスを栽培するに際し、発芽率を向上させる具体的な手段については検討されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−176748号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】元木 悟、「アスパラガス連作障害におけるアレロパシー回避のための活性炭の利用」、園芸学研究 Vol.5(2006) No.4、P437−442
【非特許文献2】松原 幸子、「アスパラガスのロックウール栽培及び土耕による植物体の生長」、岡山大学農学部学術報告78、P11−16、1991
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、若芽の発芽率を向上させることができる、アスパラガスの水耕栽培方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、養液の液面の位置を、アスパラガスの根の浸漬率が20%より大きく80%以下になるように設定することを特徴とする、アスパラガスの水耕栽培方法が提供される。
【0013】
前記養液を用いてアスパラガスを栽培し、若芽を発芽させるアスパラガスの水耕栽培方法は、本発明の好ましい態様である。
【0015】
少なくとも若芽が発芽する際に、気温が20℃以上に保たれているアスパラガスの水耕栽培方法は、本発明の好ましい態様である。
【0016】
前記根の浸漬率が、アスパラガス全株の根の浸漬率であるアスパラガスの水耕栽培方法は、本発明の好ましい態様である。
【0017】
尚、本明細書において「アスパラガスの水耕栽培」は、土壌ではなく、栽培に必要な養分を溶かした水溶液(養液)を用いてのアスパラガスの栽培を意味し、ロックウールを使用しないという点で、上述した非特許文献2のロックウール栽培とは一線を画している。
【0018】
また、「根の浸漬率」とは、水耕栽培開始時点において、アスパラガスが有する貯蔵根のうち最も長い根(最長根と呼ぶ)を基準にし、この最長根が水に浸漬している長さの割合(%)を意味している。「根の浸漬率が100%」とは、地下茎から最長根が発生し始めている部分、即ち、地下茎と最長根の境界と、養液の液面の位置が一致している状態を意味する。
図1に示されている通り、鱗茎は、地下茎と最長根の境界より上に存在するところ、本発明では、養液の液面を根の浸漬率が100%未満となるような位置に設定することで、鱗茎と養液との接触を有効に回避している。
尚、地下茎と最長根の境界より上に液面が位置する場合、根の浸漬率は「100%以上」と表現される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、若芽の発芽率を向上させることができる、アスパラガスの水耕栽培方法が提供される。本発明においてこのような効果が得られる理由は定かではないが、本発明者等は次のように考えている。非特許文献2に記載されているように、アスパラガスは耐水性がない、永年性である、等の理由により養液での栽培に不適であると考えられていた。そのため、養液での栽培方法についてはあまり検討されてこず、アスパラガスのどのような点が養液での栽培に不向きであるのか、具体的なことはわかっていなかった。
【0020】
しかし、本発明者等が非常な努力により研究に研究を重ねた結果、アスパラガスは、鱗茎が過度に養液(特に養液中の水)に接触したときに、発芽しにくくなる傾向にあり、これが「低耐水性」と言われる所以であることがわかった。一方で、根に関しては、多水環境でも全く問題がないこともわかった。
【0021】
上記の新規知見に基づき、本発明者等が、確実に鱗茎と養液との接触を断ちながら根に養水分を充分吸収させることができる条件を鋭意検討したところ、水耕栽培開始時に、根の浸漬率が特定の数値範囲に含まれるように液面の位置を設定することで、鱗茎を養液に接触させることなく根から十分な養水分を吸収させ、その結果、高い確率で発芽させることに成功し、本発明の完成に至った。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】アスパラガスの各部位の名称を説明する概略図である。
図2】本発明の水耕栽培方法を実施するのに適した水耕栽培システムの一例を示す図であり、(A)は、かかるシステムの構成を示す模式図であり、(B)は、かかるシステム内の栽培容器のひとつに苗乃至根株と養液とを入れた様子を示す概略図である。
図3】実施例1〜2および比較例1〜2における苗の固定状況を表す模式図である。
図4】実施例4において、根株の定植の様子を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、養液の液面を所定の位置に設定してアスパラガスを水耕栽培する方法である。アスパラガスは、図1に示すように、地下部と地上部に分けられ、地下部は、地下茎および根からなる。地下茎は複数の鱗茎を有しており、これらの鱗茎から若芽が発芽する。複数年栽培したアスパラガスの地下茎では、地下茎の進行方向後方に過去の茎の痕跡があり、先端に鱗茎が存在する。根は、貯蔵根と吸収根とからなる。貯蔵根は、地下茎から発生する太い根であり、主に同化産物貯蔵の役割を果たすが、養水分の吸収も行う。吸収根は、貯蔵根から発生する細い根であり、養水分を吸収する。
【0024】
一方、地上部は、若芽、親茎、側枝、花、擬葉等からなる。本明細書において、若芽と親茎とは、側枝の有無で区別する。即ち、鱗茎から発芽後、側枝が出てくる前の茎を若芽とし、側枝が出てきた後の茎を親茎とする。
【0025】
本発明は、アスパラガスであればあらゆる品種を栽培対象とする。具体的には、グリーンアスパラガス、例えば、ウェルカム、スーパーウェルカム、グリーンタワー、メリーワシントン500W、ポールトム、ハルキタル、HLA−7(ガインリム)、UC157、UC800、アクセル、カンダホワイト、グリーンフレッツェなど;紫アスパラガス、例えば、はるむらさき、パープルパッション等を挙げることができる。また、後で詳述するが、若芽を遮光することで、ホワイトアスパラガスを栽培することもできる。
【0026】
図2は、本発明の水耕栽培方法を実施するのに適した水耕栽培システムの一例を示す図であり、(A)は、かかるシステムの一例を示す模式図であり、(B)は、栽培容器に苗乃至根株と養液とを入れた様子を示す概略図である。以下、図2を用いて本発明を詳しく説明する。
【0027】
図2に示されているシステム1は、栽培容器2、ポンプ3およびタンク4を備えており、タンク4に貯めてある養液がホースやパイプ等を通じて矢印「←」の方向に流れて循環している。
【0028】
図2(B)に表されているように、本発明では、予めある程度成長させたアスパラガスの苗乃至根株5が栽培対象となる。具体的には、事前に、最長根6が10cm以上、好ましくは10〜15cmになるまで生長させておいたものを、栽培容器2に設置して水耕栽培する。最長根が短すぎると、水耕栽培の途中で、養液の流量等の各種設定や、栽培容器等の各種器具に変更を加えねばならない虞がある。最長根が長すぎると、栽培容器2への固定作業が複雑になる虞がある。尚、最長根6が上記範囲の長さである限り、栽培対象となる苗乃至根株5は、栽培1年目のものでもよく、栽培2年目以降のものでもよい。最長根6が上記数値範囲に達するまでの生長は、公知の方法により行えばよく、例えば1年目の苗乃至根株を栽培対象とする場合であれば、水を含んだバーミキュライト上に播種し、気温、水分、光等の条件をコントロールしながら、最長根が上記数値範囲に達するまで生長させればよい。
【0029】
尚、本明細書において「苗」とは、地下部だけでなく地上部も有している状態のアスパラガスを意味し、「根株」とは地上部が切り取られており、地下部しか有していない状態のアスパラガスを意味する。本発明では、苗と根株のどちらを栽培対象としても構わない。
【0030】
本発明に用いられる養液8は、アスパラガスの生育を直接的および間接的に促進する成分が溶けた水溶液であり、例えばリン、窒素、カリウム、カルシウム、マグネシウム、イオウ、鉄、ホウ素、マンガン、亜鉛、銅、モリブデン、塩素等の元素のうち必要なものが適宜選択されて含まれている水溶液である。具体的な組成は、品種や栽培条件等に応じて適宜決定すればよい。
【0031】
本発明においては、アスパラガスの苗乃至根株5と養液8とを栽培容器2に入れるにあたって、養液8の液面8aの位置を、アスパラガスの苗乃至根株5の根の浸漬率が20%より大きく100%未満になるように、好適には20%より大きく80%以下になるように、特に好適には50%以上80%以下になるように設定することが重要である。養液の液面8aの位置を上記範囲に設定することで、鱗茎7と養液8との接触を極力回避しながら、根から養水分を十分に吸収させることができ、その結果、できるだけ多くの株で発芽させて収穫量の増大を図ることができるからである。
【0032】
一つの容器内にアスパラガスの苗乃至根株5が複数存在する場合には、容器内のアスパラガス全株に対して80%以上の株の根の浸漬率が上記数値範囲を満たしていなければならず、容器内のアスパラガス全株の根の浸漬率が上記数値範囲を満たしていることが好ましい。
【0033】
液面8aの位置の設定は、栽培容器2の深さや苗乃至根株5の固定位置、栽培容器から養液を排出する養液排出口9の位置等を調整することにより行うことができる。尚、図2のように一つのシステム内で複数の栽培容器2,2を使用する場合、栽培容器2の深さ、苗乃至根株5の固定位置、養液排出口9の位置等を容器ごとに変えれば、栽培年数の異なる苗乃至根株を1つのシステム内で同時に水耕栽培することも可能である。
【0034】
苗乃至根株5の固定は、水耕栽培で作物を固定する際に適用される公知の手段により行えばよく、図示していないが、例えば発泡スチロールに穴をあけたものや樹脂製ネットを所望の高さに固定し、その上に苗乃至根株5をまっすぐに設置することにより行えばよい。また、苗乃至根株5が非常に発達した根を有する場合には、図2(B)に表されているように一つ一つの苗乃至根株5を寝かせるようにして栽培容器2内に並べるだけで固定することもできる。このとき、それぞれの苗乃至根株5の間に樹脂製ネットなどの仕切り板を立てて、養液8のスムーズな流れを確保するようにすることが好ましい。
【0035】
ところで、本発明においては、図2で表されているように、ポンプ3を使って養液をシステム内に循環させながら水耕栽培を行ってもよく、あるいは、図示していないが、養液を循環させずに適宜のタイミングで容器内の養液を取替ながら水耕栽培を行ってもよいが、養分等が均等に行きわたる、養液交換の手間を省くことができる等の理由により、循環させながら水耕栽培をすることが好ましく、特に、湛液水耕栽培をすることが好ましい。養液を循環させて水耕栽培をする場合、原則として、栽培期間を通じて液面の位置を維持する必要があり、言い換えると、容器底面と液面との距離(以下、これを「養液の水深」と呼ぶことがある。)を水耕栽培開始時から終了時までほぼ一定に維持する必要がある。
【0036】
ただし、本発明の方法により長年に亘って水耕栽培を続ける場合等においては、養液の水深を維持しているうちに、根の発達により根の浸漬率が徐々に変化し、養水分の吸収量が不十分となる株が増えてくることがある。よって、そのような場合には、栽培の途中で液面の位置を再度設定しなおすことが好ましい。勿論、再設定時の液面も、根の浸漬率が上述した数値範囲に含まれる位置に設定するとよい。再設定するタイミングの目安としては、容器内に存在する全株のうち、上記数値範囲の根の浸漬率を有する株が80%未満となったときが好ましい。再設定は、養液の水深や栽培中のアスパラガスの固定位置、養液排出口9の位置等を調整することにより行えばよい。
【0037】
このように、本発明においては、アスパラガスの苗乃至根株5と養液8とを準備し、栽培容器2内における養液の液面8aを所望の位置に設定すれば、水耕栽培を行うことができるのだが、以下の条件を設定し、あるいは以下の設備を使用することが好適である。
【0038】
水耕栽培時の気温は、品種や成長段階等に応じて適宜決定されるが、より良好な発芽率を実現する観点から、少なくとも若芽が発芽する際に20℃以上に保たれていることが好ましく、栽培期間を通じて20℃以上に保たれていることが特に好ましい。気温の上限は、栽培期間を通じて、例えば40℃以下、特に30℃以下が好ましい。
【0039】
光条件としては、土壌での栽培においてアスパラガスが各成長段階で必要とする光量と同量の光が確保できていればよく、蛍光ランプやLEDランプ等の光照射手段を用いてもよいし、光源を自然光のみとしてもよい。
【0040】
ただし、所謂ホワイトアスパラガスを収穫したい場合には、公知の方法により、若芽に光があたらないようにしなくてはならない。遮光手段としては、例えば、若芽が発芽してくるであろう部分に遮光ボックスを設置する、ハウス内で本発明の水耕栽培を行っている場合であればハウス全体を遮光シートで覆う、等がある。
【0041】
養液中に酸素もしくは窒素もしくは両方をバブリングすることで溶存酸素量を2〜8mg/Lに変化させた際に、発芽率および発芽数に変化は無かった(データは示さない)ことから、養液中の酸素条件に関しては、本発明に各段の条件はなく、公知の方法により酸素を供給してもよいが、しなくてもよい。
【0042】
図2(B)を参照し、本発明においては、栽培容器2内に設置した苗乃至根株5を遮光フィルム10で覆うことが好ましい。栽培容器2内にコケや藻が発生することを防ぐためである。コケや藻が発生し、これらが養液とともにシステム内を流れると、ポンプ故障の原因となる。遮光フィルムには、若芽の伸長を妨げないように、切込みを入れておくことが好ましい。
【0043】
また、本発明においては、ストレーナーを使用して、コケや藻、千切れた根の一部等がポンプに到達するのを防ぐことが好ましい。ストレーナーとしては公知の物を使用すればよい。ストレーナーは、任意の場所に設ければよく、例えば、タンク4の養液流出口付近に設ければよい。
【0044】
更にまた、アレロパシー物質の影響を最大限に抑制するという観点から、活性炭を使用することが好ましい。詳述すると、そもそも本発明は、養液でアスパラガスを栽培するため、土壌で栽培する場合よりもアスパラガスがアレロパシー物質の影響を受けにくくなっているが、より確実にアレロパシー物質の影響を排除するために、アレロパシー物質を除去する手段を設けることが好ましい。そして、非特許文献1にも記載されているように、アスパラガスの放出するアレロパシー物質は活性炭によく吸着することから、アレロパシー物質除去手段として、活性炭を使用することが好ましいのである。活性炭は、任意の場所に設ければ良く、上述したストレーナーの出口やポンプの出口などに、活性炭を充填した吸着器を設けるなどして利用すれば良い。
【0045】
本発明においては、養液のEC値(電気伝導率、Electrical Conductivity)とpHを随時測定しながら水耕栽培を行うことが好ましい。これらの値は、養液中の組成の変化やCO濃度の変化を確認するための指標であり、これらの値の変化により、養液取替の適切なタイミングを知ることができるからである。
【0046】
尚、養液をシステム内に循環させながら水耕栽培を行う場合でも、非循環式より頻度は少ないものの、養液を取り替えなくてはいけないことがある。例えば何周期にもわたって同じ株のアスパラガスを栽培し、繰り返し若芽を収穫する場合がそうである。この場合は、一般に、タンク4内の養液を取り換えることになるわけだが、養液取替によりアスパラガスに与えるストレスを最小限に抑制する観点から、システム内にタンクを二つ予め並列に組み込んでおき、まずは一方のタンクに養液を満たして水耕栽培を行い、養液取替の時期になったら、他方のタンクに養液を満たして流路を切り替えた後、1つめのタンクの養液を交換するという方法を採ることが好ましい。
【0047】
上述のような条件や設備を必要に応じて適宜選択しながら、本発明では、アスパラガスを養液により栽培し、発芽させ、若芽を所望の長さになるまで生長させ、かかる若芽を収穫する。収穫の時期に特に制限はなく、詳述すると、一般的には、若芽の長さが27〜28cmとなったときに摘み取ることが多いが、もっと短い段階で摘み取ってもよく、あるいは、商品価値を高めるために、長く伸びてから摘み取ってもよい。尚、短い段階で摘み取られた若芽は、所謂ミニアスパラガスとして市場に流通することがある。
【0048】
翌年以降も同じ株を本発明の方法で水耕栽培したい場合には、収穫の際に、若芽を少なくとも1本残しておき、かかる若芽を生育させることが好ましい。根に養分を十分に蓄えさせ、翌年以降の栽培に備えるためである。本発明では、根の発達を妨げるロックウールを使用しておらず、また、アレロパシーの影響も抑制されているので、このように長期に亘って栽培を続けることが可能である。勿論、本段落の記載は、本発明をアスパラガスの短期間栽培(例えば、栽培期間2か月以内)に適用することを妨げるものではない。
【0049】
これまで、図2を参照しながら本発明を説明してきたが、本発明が必ず図2のシステムにより実施されなくてはならないわけではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、システムに適宜の設計変更を加えてよい。例えば、栽培容器やポンプ、タンクの数を変える等してよい。
【実施例】
【0050】
以下、実施例および比較例を参照して本発明をさらに説明する。本発明の技術的範囲は、これらによって限定されるものではない。
【0051】
<実施例1〜2、比較例1〜2>
ビニールハウス内に、2つの水路状の栽培用容器(幅60cm×長さ320cm×高さ14cm)、ポンプ、200リットルタンクを用いて、図2(A)に示すような水耕栽培システムを設えた。気温は25℃に設定した。光源は植物栽培用蛍光灯(ビオルックスHG、NEC製)を用いた。
【0052】
この水耕栽培システム内に、流量10リットル/minで養液(ファームエース1号と2号をメーカー推奨の処方で混合、OATアグリオ株式会社)を還流させたところ、養液の水深は11cmとなった。
【0053】
一方の栽培容器に、実施例1として、ウェルカムの苗(1年生、最長根10〜15cm、12株)を根の浸漬率が80%となるような位置に固定し、定植した。更に、同じ栽培容器に、実施例2として、ウェルカムの苗(1年生、最長根10〜15cm、12株)を根の浸漬率が50%となるような位置に固定し、定植した。
【0054】
更に、他方の栽培容器に、比較例1として、ウェルカムの苗(1年生、最長根10〜15cm、10株)を根の浸漬率が100%以上となるような位置に固定し、定植し、鱗茎を養液に充分に浸漬させた。更に、同じ栽培容器に、比較例2として、ウェルカムの苗(1年生、最長根10〜15cm、12株)を根の浸漬率が20%となるような位置に固定し、定植した。
【0055】
各栽培容器における苗の固定の状態を、図3で模式的に表した。
【0056】
10日間、養液の水深、養液の流量および気温を維持したまま水耕栽培を行い、その後、発芽率を調査した。結果は表1に示した。
【0057】
尚、発芽率を調査した後も引き続き水耕栽培を続け、花がつくか否かを確認した。その結果、花がついた株とつかない株は、いずれの試験区においてもほぼ均等に存在しており、雌雄の不均等による実験結果への影響はなかったことが確認された。
【表1】
【0058】
表1において「定植株数」とは本実施例で生育したアスパラガスの株数を意味する。「発芽株数」とは、若芽が発芽したアスパラガスの株数を意味する。「総発芽数」とは、発芽した若芽の数を意味する。「発芽率(%)」は、定植株数に対して発芽株数が占める割合を意味する。
【0059】
<実施例3>
ビニールハウス内に、水路状の栽培用容器(幅22cm×長さ130cm×高さ11cm)を二つ、ポンプ、200Lタンクを用いて、図2(A)に示すような水耕栽培システムを設えた。気温を20℃以上に設定した。光源は自然光のみとした。
【0060】
この水耕栽培システム内に、流量6リットル/minで水道水を還流させたところ、養液の水深は6cmとなった。
【0061】
一方の栽培容器αに、ウェルカムの根株(4年生、最長根25〜35cm、61株)を固定し、定植した。根株には、雌雄がほぼ均等に含まれていた。根株の固定は、図2(B)で模式的に表されているように寝かせるようにして並べて行った。全ての株において、根の浸漬率は20%より大きく80%以下であった。
【0062】
同様の方法で、他方の栽培容器βに、ウェルカムの根株(4年生、最長根25〜35cm、62株)を固定し、定植した。根株には、雌雄がほぼ均等に含まれていた。全ての株において、根の浸漬率は20%より大きく80%以下であった。
【0063】
両方の栽培容器α、βの上面をスリット入りの遮光フィルム(商品名:らくはぎマルチ、三菱樹脂アグリドリーム株式会社製)で覆ったのち、30日間、養液の水深、養液の流量および気温を維持したまま水耕栽培を行い、その後、発芽率を調査した。結果は表2に示した。
【0064】
<実施例4>
実施例3と同じビニールハウス内に、水路状の栽培用容器(幅22cm×長さ130cm×高さ6.5cm)を二つ、ポンプ、200Lタンクを用いて、図2(A)に示すような水耕栽培システムを設えた。気温を20℃以上に設定した。光源は自然光のみとした。
【0065】
この水耕栽培システム内に、流量6リットル/minで水道水を還流させたところ、養液の水深は6cmとなった。
【0066】
一方の栽培容器αに、ウェルカムの根株(4年生、最長根25〜35cm、47株)を固定し、定植した。根株の固定は、図4で表されているように寝かせるようにして並べて行った。根株には、雌雄がほぼ均等に含まれていた。全ての株において、根の浸漬率は80%より大きく100%未満であった。
【0067】
同様の方法で、他方の栽培容器βに、ウェルカムの根株(4年生、最長根25〜35cm、50株)を固定し、定植した。根株には、雌雄がほぼ均等に含まれていた。全ての株において、根の浸漬率は80%より大きく100%未満であった。
【0068】
両方の栽培容器α、βの上面をスリット入りの遮光フィルム(商品名:らくはぎマルチ、三菱樹脂アグリドリーム株式会社製)で覆ったのち、30日間、養液の水深、養液の流量および気温を維持したまま水耕栽培を行い、その後、発芽率を調査した。結果は表2に示した。
【0069】
【表2】
【符号の説明】
【0070】
1;システム 2;栽培容器 3;ポンプ 4;タンク
5;苗乃至根株(この場合は根株) 6;最長根 7;鱗茎 8;養液 8a;液面
9;養液排出口 10;遮光フィルム
図1
図2
図3
図4