特許第6754607号(P6754607)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6754607アルコキシシラン変性ポリイミド前駆体溶液、積層体およびフレキシブルデバイスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6754607
(24)【登録日】2020年8月26日
(45)【発行日】2020年9月16日
(54)【発明の名称】アルコキシシラン変性ポリイミド前駆体溶液、積層体およびフレキシブルデバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20200907BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20200907BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20200907BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20200907BHJP
【FI】
   C08G73/10
   B32B9/00 A
   B32B27/34
   H05K1/03 610N
   H05K1/03 630G
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-89135(P2016-89135)
(22)【出願日】2016年4月27日
(65)【公開番号】特開2017-197645(P2017-197645A)
(43)【公開日】2017年11月2日
【審査請求日】2019年3月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100155712
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 尚
(72)【発明者】
【氏名】秋永 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】宇野 真理
(72)【発明者】
【氏名】堀井 越生
【審査官】 中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/123045(WO,A1)
【文献】 特開2015−229691(JP,A)
【文献】 特開2015−136868(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/024457(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/182419(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/00− 73/26
B32B 1/00− 43/00
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ基を含有するアルコキシシラン化合物と、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とパラフェニレンジアミンを主成分とするポリアミド酸を溶媒中で反応させることにより得られるアルコキシシラン変性ポリイミド前駆体溶液のポリイミド前駆体の結合部位の一部をイミド化することにより、
前記ポリイミド前駆体の15〜30%がイミド環であり、85〜70%がアミド酸とし、
前記アルコキシシラン変性ポリイミド前駆体溶液のポリイミド前駆体の結合部位の一部をイミド化する温度が、85〜100℃であり、
前記溶媒の主成分がN−メチル−2−ピロリドンであることを特徴とするアルコキシシラン変性ポリイミド前駆体溶液の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のアルコキシシラン変性ポリイミド前駆体溶液の製造方法によって得られたアルコキシシラン変性ポリイミド前駆体溶液を無機基板上に流延し、熱イミド化することを特徴とするポリイミドフィルムと無機基板との積層体の製造方法。
【請求項3】
前記ポリイミドフィルムの線膨張係数が1〜20ppm/℃である請求項2に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
前記無機基板の厚みが、0.4〜5.0mmであり、
前記ポリイミドフィルムの厚みが、5〜50μmである請求項2または3に記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載のアルコキシシラン変性ポリイミド前駆体溶液の製造方法によって得られたアルコキシシラン変性ポリイミド前駆体溶液をイミド化して得られるポリイミドフィルム上に電子素子を形成することを特徴とするフレキシブルデバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコキシシラン変性ポリイミド前駆体溶液、および、前駆体溶液、積層体並びにフレキシブルデバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄く、軽量で自由に曲げたり折りたたんだりでき、割れにくいフレキシブルデバイスとしては、フレキシブルディスプレイを始めとした様々なデバイスへの応用が考えられている。このようなフレキシブルデバイスの生産方法には様々な選択肢があるが、効率的に大量生産する方法として、ガラス基板上にポリイミド樹脂層を形成した積層体を用いて通常のガラス基板用プロセスでフレキシブルデバイスを生産することが提案されている(特許文献1、非特許文献1)。この積層体を用いるプロセスでは、最終段階でポリイミド樹脂層をガラス基板から分離しポリイミドを基材としたフレキシブルデバイスを得る。
【0003】
積層体のポリイミド層には、ガラス基板との線膨張係数の差が小さいことや高い耐熱性、表面の平滑性が求められる。一般的なポリイミドの線膨張係数はガラスよりも大きいため、好適な材料は自然と限られたものになる。例えば、特許文献2には、無機基板上に、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とパラフェニレンジアミン、及び4,4”ジアミノパラテルフェニルから得られるポリイミド前駆体の溶液を流延し、熱イミド化して積層体を得る方法が記載されている。一方で、特定構造のポリイミド前駆体溶液には、基板からポリイミド樹脂層が剥離しやすかったり、貯蔵安定性が低かったりするという問題があった。この問題を解決するために、例えば、アミン末端のポリアミド酸にアミノ基を有するアルコキシシランを添加してアルコキシシラン変性ポリイミド前駆体溶液とすることで厚膜でも剥離することなく製膜でき、室温で安定的に保管できるポリアミド酸溶液などが開発されてきた(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2007−512568公報
【特許文献2】特開2012−35583号公報
【特許文献3】国際公開2014/123045号パンフレット
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】真下錠司、フレキシブルデバイス実用化のための常温接合,剥離技術について、機能材料2015年6月号4〜18頁掲載、シーエムシー出版(2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らは特許文献3のポリアミド酸溶液を用いた場合でも、室温で1ヶ月を超えるような貯蔵に耐えられず、粘度低下を起こすことを見出した。
【0007】
本発明は、上記の背景を鑑みてなされたものであり、厚膜でも剥離することなく製膜でき、室温で安定的に保管できるポリイミド前駆体溶液、及び、その前駆体溶液の製造方法、フレキシブルデバイスの生産に好適に用いることのできるポリイミド樹脂と無機基板との積層体の製造方法、積層体を用いたフレキシブルデバイスの製造方法、具体的には1〜20ppm/℃の線膨張係数を有するポリイミド樹脂と無機基板との積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
鋭意検討の結果、上記課題が、アミノ基を含有するアルコキシシラン化合物と、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸とパラフェニレンジアミンを主成分とするアルコキシシラン変性ポリイミド前駆体と溶媒を含有するアルコキシシラン変性ポリイミド前駆体溶液であって、
前記ポリイミド前駆体の15〜30%がイミド化し、85〜70%がアミド酸であることを特徴とするアルコキシシラン変性ポリイミド前駆体溶液により解決できることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明に係るポリイミド前駆体溶液は以下の構成をなす。
1).アミノ基を含有するアルコキシシラン化合物と、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とパラフェニレンジアミンを主成分とするアルコキシシラン変性ポリイミド前駆体と溶媒を含有するアルコキシシラン変性ポリイミド前駆体溶液であって、
前記ポリイミド前駆体の15〜30%がイミド化し、85〜70%がアミド酸であることを特徴とするアルコキシシラン変性ポリイミド前駆体溶液。
【0010】
2).前記アルコキシシラン変性ポリイミド前駆体溶液の水分は、2000ppm以上5000ppm以下であることを特徴とする1)に記載のアルコキシシラン変性ポリイミド前駆体溶液。
【0011】
3).前記溶媒の主成分がアミド系溶媒であることを特徴とする1)または2)に記載のアルコキシシラン変性ポリイミド前駆体溶液。
【0012】
4).前記アルコキシシラン化合物の添加量は、前記アルコキシシラン変性ポリイミド前駆体溶液中に含まれるポリイミド前駆体の重量を100重量部とした場合に、0.01〜0.50重量部である1)〜3)のいずれか1項に記載のアルコキシシラン変性ポリイミド前駆体溶液。
【0013】
5).アミノ基を含有するアルコキシシラン化合物と、3,3’,4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とパラフェニレンジアミンを主成分とするポリアミド酸を溶媒中で反応させることにより得られるアルコキシシラン変性ポリイミド前駆体溶液のポリイミド前駆体の一部をイミド化することにより、
前記ポリイミド前駆体の15〜30%がイミド環であり、85〜70%がアミド酸とすることを特徴とするアルコキシシラン変性ポリイミド前駆体溶液の製造方法。
【0014】
6).1)〜4)のいずれか1項に記載のアルコキシシラン変性ポリイミド前駆体溶液を無機基板上に流延し、熱イミド化することを特徴とするポリイミドフィルムと無機基板との積層体の製造方法。
【0015】
7).前記ポリイミドフィルムの線膨張係数が1〜20ppm/℃である6)記載の積層体の製造方法。
【0016】
8).前記無機基板の厚みが、0.4〜5.0mmであり、
前記ポリイミドフィルムの厚みが、5〜50μmである6)または7)に記載の積層体の製造方法。
【0017】
9). 1)〜4)のいずれか1項に記載のアルコキシシラン変性ポリイミド前駆体溶液をイミド化して得られるポリイミドフィルム上に電子素子を形成することを特徴とするフレキシブルデバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、厚膜でも剥離することなく製膜でき、室温で安定的に保管できるポリイミド前駆体溶液、及びフレキシブルデバイスの生産に好適に用いることのできるポリイミド樹脂と無機基板との積層体の製造方法、積層体を用いたフレキシブルデバイスの製造方法、具体的には1〜20ppm/℃の線膨張係数を有するポリイミド樹脂と無機基板との積層体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明について詳細に説明するが、これらは本発明の一態様であり、本発明はこれらの内容に限定されない。
【0020】
<ポリアミド酸中のアミド酸部位のイミド基への変換>
ポリイミド前駆体の15〜30%がイミド化し、85〜70%がアミド酸であることを特徴とするアルコキシシラン変性ポリイミド前駆体溶液(以下、単に「溶液」ともいう)について説明する。ポリイミド前駆体の15〜30%及び85〜70%の%は、モル%を意味する。
通常、ポリイミド前駆体は一般式(I)で表されるように、ポリアミド酸からなる構造を有しているが、本発明のアルコキシシラン変性ポリイミド前駆体溶液のポリイミド前駆体は、ポリアミド酸の一部が一般式(II)のようにイミド化し、イミド環になっており、残りが一般式(III)のようなアミド酸である。
言い換えると、本発明のアルコキシシラン変性ポリイミド前駆体は、一般式(II)の構造を15〜30%、一般式(III)の構造を85〜70%有する。
【0021】
【化1】
【0022】
【化2】
【0023】
【化3】
【0024】
(但し、Xは4価の有機基、Yは2価の有機基または、アミノ基を有するアルコキシシラン化合物の残基)
イミド化率を15%以上にすることで、加水分解を抑制し室温で安定的に保管するが可能となる。一方で、イミド化率が30%以上となると、アルコキシシラン変性ポリイミド前駆体溶液が増粘を起こすため好ましくない。この増粘は、アルコキシシラン変性ポリイミド前駆体の溶解性の低下によるものと考えられる。
【0025】
本発明のアルコキシシラン変性ポリイミド前駆体溶液は、いくつかの方法で得ることが可能である。例えば、ポリアミド酸を重合後70〜100℃程度で1〜24時間加熱処理(クッキング)を行うことでアミド酸部位の一部を熱イミド化させることができる。加熱操作を行うとアミド酸の解離、及び系中の水との反応による酸無水物の失活を促進し分子量低下も同時に起こるが、温度と時間の両方を変化させることで、任意のイミド化率のポリイミド前駆体を得ることが可能となる。
【0026】
他にも、無水酢酸など脱水剤を一定量添加する方法や、イミド結合を含むモノマー(テトラカルボン酸二無水物、ジアミン)を一定割合で共重合する方法もある。
【0027】
始めに挙げたクッキングによりイミド化させる方法は水が副生するのみであり量産化する上では簡便であり好ましい。
【0028】
<アルコキシシラン変性ポリイミド前駆体溶液>
アルコキシシラン変性ポリイミド前駆体溶液は、アミノ基を含有するアルコキシシラン化合物とポリアミド酸を溶液中で反応させることにより得られる。また、ポリアミド酸は芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物とを溶媒中で反応させることで得られる。
【0029】
ポリアミド酸の原料及び重合方法については後述するが、本発明では、貯蔵安定性を向上させる目的からポリアミド酸末端がカルボキシル基よりもアミノ基で占められている比率を高い方が好ましい。
【0030】
アミノ基を有するアルコキシシラン化合物による変性は、ポリアミド酸が溶媒に溶解したポリアミド酸溶液に、アミノ基を有するアルコキシシラン化合物を添加し、反応させることで行われる。アミノ基を有するアルコキシシラン化合物としては、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、2−アミノフェニルトリメトキシシラン、3−アミノフェニルトリメトキシシラン等があげられる。
【0031】
これらのアミノ基を含有するアルコキシシラン化合物のポリアミド酸100重量部に対する配合割合は、0.01〜0.50重量部であることが好ましく、0.01〜0.05重量部であることがより好ましく、ワニス保管時の粘度変化を抑制する点から0.01〜0.03重量部であることがさらに好ましい。
【0032】
アミノ基を含有するアルコキシシラン化合物の配合割合を0.01重量部以上とすることで、無機基板に対する剥離抑制効果は十分に発揮される。アミノ基を含有するアルコキシシラン化合物の配合割合が0.50重量部以下であるとポリアミド酸の分子量が十分に保たれるため、脆化などの問題が生じない。さらに0.05重量部以下であると、アルコキシシラン化合物を添加後の粘度変化も小さくなる。また、未反応分が多い場合には、徐々にポリアミド酸と反応して粘度が低下したり、アルコキシシラン同士で縮合してゲル化したりする。アミノ基を含有するアルコキシシラン化合物の添加量を必要最低限に抑えることで、基板からポリイミドフィルムの剥離は抑制しながらもワニス保管時には減粘やゲル化などの余計な副反応を抑制することができる。
【0033】
末端の大部分がアミノ基であるポリアミド酸にアミノ基を含むアルコキシシラン化合物を添加すると、ポリアミド酸溶液の粘度が下がる。発明者らは、これはポリアミド酸中のアミド結合が解離した際に再生した酸無水物基とアルコキシシラン化合物のアミノ基が反応し、変性反応が進行するとともに、ポリアミド酸の分子量が低下するためだと推定している。反応温度は、酸二無水物基と水との反応を抑制しつつ変性反応が進行しやすくなることから、0℃以上80℃以下であることが好ましく、20℃以上60℃以下であることがより好ましい。
【0034】
ポリアミド酸の種類や濃度にもよるが、酸無水物の濃度が小さいため変性反応は遅く、反応温度が低いと粘度が一定となるまでに5日程度要する場合がある。ポリアミド酸の種類や溶媒が異なる場合には反応温度ごとに時間ごとの粘度変化を記録し、適当な反応温度を選択すれば良い。
【0035】
このようにして、一部の末端をアルコキシシランに変性することで、無機基板上に塗った場合に加熱時のポリイミドフィルムの剥離(デラミ、発泡)を抑制できる。
【0036】
<ポリアミド酸の原料>
ポリアミド酸の原料にはテトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分が用いられる。前述のように、イミド化率が15〜30%となるようにイミド結合を含むテトラカルボン酸成分又はジアミン成分を用いても良い。
【0037】
1〜20ppm/℃の線膨張係数を有するポリイミドフィルムと無機基板との積層体を得るためには、テトラカルボン酸二無水物成分としては3,3’,4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、BPDAと略記することもある。)を主成分とすることが好ましく、ジアミン成分としては下記式(1)を主成分とする芳香族ジアミンを用いることが好ましい。
【0038】
【化4】
【0039】
(式中nは、1〜3の任意の数である)
式(1)の芳香族ジアミンは、パラフェニレンジアミン(以下PDAと略記することもある。)、4,4’−ジアミノベンジジン、及び4,4”−ジアミノパラテルフェニル(以下、DATPと略記することもある。)である。これらの芳香族ジアミンの中でも、入手性の良いことからPDAが好ましい。
【0040】
芳香族テトラカルボン酸二無水物は、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とすることが好ましい。3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、直線性の高い芳香族ジアミンとを含むアルコキシシラン変性ポリイミド前駆体を用いることで、低いCTEなどのフレキシブルデバイス基板に好適な特性を付与することができる。
【0041】
さらに、本発明の特性を損なわない範囲で、PDA、4,4’−ジアミノベンジジン、及びDATP以外の芳香族テトラカルボン酸二無水物を用いても良いし、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物以外の芳香族ジアミンを用いても良い。例えば、次の芳香族テトラカルボン酸二無水物や芳香族ジアミンを、ポリアミド酸の原料全体に対してそれぞれ5モル%以下併用しても良い。芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸無水物、9,9−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物、9,9’−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]フルオレン二無水物、3,3′,4,4′−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、2,3,5,6−ピリジンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、4,4′−スルホニルジフタル酸二無水物、パラテルフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、メタテルフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。上記酸二無水物の芳香環には、アルキル基置換および/またはハロゲン置換された部位を有していても良い。芳香族ジアミンとしては、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、1,5−(4‐アミノフェノキシ)ペンタン、1,3−ビス(4‐アミノフェノキシ)−2,2−ジメチルプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン及びビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン等が挙げられる。
【0042】
<ポリアミド酸の重合方法>
本発明に用いるポリアミド酸は、溶液重合により製造可能である。すなわち、原料である1種または2種以上のテトラカルボン酸二無水物成分、及び1種または2種以上のジアミン成分を使用し、有機極性溶媒中で重合してポリイミド前駆体であるポリアミド酸溶液を得る。
【0043】
テトラカルボン酸二水物類の総モル数を、芳香族ジアミン類の総モル数で除したモル比は、好ましくは0.980以上1.000未満であり、より好ましくは0.995以上0.998以下である。モル比を1.000未満とすることでポリアミド酸末端がアミノ基で占められる割合が酸無水物基で占められる割合よりも高くなり、貯蔵安定性を改善することができる。この効果は、モル比を小さくすることでさらに改善するが、0.998以下では大幅には改善しない。一方で、強靭なポリイミドフィルムを得るためにはモル比を1.000に近づけ十分に分子量を高める必要がある。モル比が0.980以上であれば、丈夫なポリイミドフィルムが得られる。また、好ましくはモル比を0.998以上として、保管時やイミド化時の分子量低下に備えるべきである。
【0044】
ポリアミド酸を合成するための好ましい溶媒は、アミド系溶媒すなわちN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、などである。これら溶媒を適宜選択して用いることによって、ポリアミド酸溶液の特性、及び、無機基板上でイミド化した後のポリイミドフィルムの特性を制御することができる。上記溶媒は、主成分がアミド系溶媒であることが好ましい。例えば溶媒全体の重量を100重量部とした場合にアミド系溶媒の重量が50〜100重量部であることが好ましく、70〜100重量部であることがより好ましい。
【0045】
本発明者らの検討では、溶媒にN,N−ジメチルアセトアミドを用いた場合には、ポリアミド酸の貯蔵安定性が悪くなり、ポリイミドフィルムの線膨張係数は高くなる。溶媒にN−メチル−2−ピロリドンを用いた場合には、ポリアミド酸溶液の貯蔵安定性が高く、ポリイミドフィルムの線膨張係数はより低くなる。貯蔵安定性に関してはN−メチル−2−ピロリドンを用いた方がより優れた特性が得られるが、線膨張係数等の特性に関してはどちらか一方が優れている訳ではない。例えば、ポリイミドフィルムがより硬いことが好ましいならばN−メチル−2−ピロリドンを用い、ポリイミドフィルムが柔らかいことが好ましいならばN,N−ジメチルアセトアミドを用いる等のような目的とする用途ごとに好適な溶媒を選択するべきである。
【0046】
反応装置には、反応温度を制御するための温度調整装置を備えていることが好ましい。ポリアミド酸を重合する際の反応温度として0℃以上80℃以下が好ましく、さらに、20℃以上60℃以下であることが、重合の逆反応であるアミド結合の解離を抑制し、しかもポリアミド酸の粘度が上昇しやすいことから好ましい。
【0047】
また、本発明では重合後にイミド化率の調整を目的としてクッキングすることが好ましい。温度と時間を調整することでイミド化率が15〜30%(ポリイミド前駆体の15〜30%がイミド環)であるポリイミド前駆体を得ることが出来る。温度として70〜100℃が好ましく、85〜100℃がより好ましい。70℃より低い温度では、イミド化にかかる時間が非常に長くなるため好ましくない。100℃より高い温度ではイミド化や分子量低下が非常に早く進み、時間で調整することが難しくなるため、好ましくない。85℃以上100℃以下であるとクッキング時間の調整でイミド化を目標とする数値にすることができるため、より好ましい。高粘度の系では加熱や冷却に10分以上時間を要することが珍しくないため、時間としては微調整が1〜24時間であることが好ましい。前述の通り、加熱処理をおこなうことでアミド酸の解離、及び系中の水との反応による酸無水物の失活も促進されるため、予めその後の操作に適した粘度とイミド化率を同時に達成にするためにテトラカルボン酸二水物類と芳香族ジアミン類のモル比は検討しておくことが好ましい。重合反応とクッキングは分けて行うことが好ましいが、最初から反応温度を70〜100℃にして重合反応とクッキングを一括して行うことも可能である。
【0048】
ポリアミド酸溶液中のポリアミド酸の重量%は、有機溶媒中にポリアミド酸が5〜30重量%、好ましくは8〜25重量%、更に好ましくは、10〜20重量%溶解されているのが、未溶解原料の異常重合に起因するゲル化を抑制し、しかも、ポリアミド酸の粘度が上昇しやすいことから好ましい。
【0049】
<アルコキシシラン変性ポリイミド前駆体溶液の水分>
前記アルコキシシラン変性ポリイミド前駆体溶液中の水分は、2000ppm以上5000ppm以下であることが好ましい。水分が5000ppm以下であれば貯蔵安定性向上の効果が十分に発揮されるため好ましい。溶液中の水分は、原料由来と作業環境由来に分けることができる。水分を減らすために様々な方法があるが、余分な工程や過剰な設備を用いて必要以上に減らすことも、コストアップになるため好ましくない。分子構造と濃度に依存するが、本発明ではポリイミド前駆体がイミド化することで相当量の水が生成する。例えば、BPDAとPDAからなる固形分濃度15%のポリアミド酸溶液が30%イミド化すると溶液の水分量は約4000ppm増加する。それ以下に水分を減らすためにはコストアップが伴うため好ましくない。
【0050】
水分を減らす方法として、原料の保管を厳密に行って水分の混入を避け、反応雰囲気を乾燥空気、乾燥窒素等で置換することが効果的である。更に減圧下で処理しても良い。
【0051】
<アルコキシシラン変性ポリイミド前駆体溶液の流延・熱イミド化>
ポリイミドフィルムと無機基板とからなる積層体は、前述したアルコキシシラン変性ポリイミド前駆体溶液を、無機基板上に流延し、熱イミド化することで製造することができる。
【0052】
無機基板としては、ガラス基板や各種金属基板があげられるが、ガラス基板が好適である。ガラス基板には、ソーダライムガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス等が使用されている。特に、薄膜トランジスタの製造工程では無アルカリガラスが一般的に使用されているため、無機基板としては無アルカリガラスがより好ましい。用いる無機基板の厚みとしては、0.4〜5.0mmが好ましい。無機基板が0.4mmより薄いと無機基板のハンドリングが困難になるため、好ましくない。また、無機基板が5.0mmより厚いと基板の熱容量が大きくなり加熱・冷却工程での生産性が低下するため好ましくない。
【0053】
溶液の流延方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、グラビアコート法、スピンコート法、シルクスクリーン法、ディップコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ダイコート法等の公知の流延方法を挙げることが出来る。
【0054】
アルコキシシラン変性ポリイミド前駆体溶液としては、前述の反応液をそのまま用いても良いが、必要に応じて溶媒を除去あるいは加えても良い。ポリイミド前駆体溶液に用いることができる溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、の他に、例えば、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリド、アセトニトリル、アセトン、テトラヒドロフランが挙げられる。また、補助溶剤として、キシレン、トルエン、ベンゼン、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、1,2−ビス−(2−メトキシエトキシ)エタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル、ブチルセロソルブ、ブチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールメチルエーテル、及び、プロピレングリコールメチルエーテルアセテートを併用してもかまわない。
【0055】
ポリイミド前駆体溶液には、必要に応じてイミド化触媒、無機微粒子等を加えても良い。
【0056】
イミド化触媒としては、3級アミンを用いることが好ましい。3級アミンとしては複素環式の3級アミンが更に好ましい。複素環式の3級アミンの好ましい具体例としては、ピリジン、2,5−ジエチルピリジン、ピコリン、キノリン、イソキノリンなどを挙げることができる。イミド化剤の使用量は、ポリイミド前駆体の反応部位に対して0.01〜2.00当量、特に0.02〜1.20当量であることが好ましい。イミド化触媒が0.01当量より少ない場合は、触媒の効果が十分に得られないため、好ましくない。2.00当量より多い場合は、反応に関与しない触媒の割合が増えるため、費用の面で好ましくない。
【0057】
無機微粒子としては、微粒子状の二酸化ケイ素(シリカ)粉末、酸化アルミニウム粉末等の無機酸化物粉末、及び微粒子状の炭酸カルシウム粉末、リン酸カルシウム粉末等の無機塩粉末を挙げることができる。本発明の分野ではこれらの無機微粒子の粗大な粒が次工程以降での欠陥の原因となる可能性があるため、これらの無機微粒子は、均一に分散されることが好ましい。
【0058】
熱イミド化は、脱水閉環剤等を作用させずに加熱だけでイミド化反応を進行させる方法である。このときの加熱温度、及び、加熱時間は適宜決めることができ、例えば、以下のようにすれば良い。先ず、溶剤を揮発させるため、温度100〜200℃で3〜120分加熱する。加熱雰囲気は空気下、減圧下、又は窒素等の不活性ガス中で行うことができる。また、加熱装置としては、熱風オーブン、赤外オーブン、真空オーブン、ホットプレート等の公知の装置を用いることができる。次に、さらにイミド化を進めるため、温度200〜500℃で3分〜300分加熱する。この時の加熱条件は低温から徐々に高温にするのが好ましい。また、最高温度は300〜500℃の範囲が好ましい。最高温度が300℃より低いと、熱イミド化が進行しにくくなり、得られたポリイミドフィルムの力学特性が悪化するため、好ましくない。最高温度が500℃より高いと、ポリイミドの熱劣化が進行し、特性が悪化するため好ましくない。
【0059】
従来のポリアミド酸溶液を用いた場合は、ポリアミド酸の種類や厚み、無機基板の種類や表面状態、及び加熱時に加熱条件、加熱方法によっては、加熱処理の際に無機基板よりポリイミドフィルムが自然に剥離しやすい。しかし、アルコキシシラン変性ポリイミド前駆体溶液を用いれば、自然剥離を抑制し、プロセスウィンドウを大きく広げることができる。
【0060】
ポリイミドフィルムの厚みは、5〜50μmであることが好ましく、更に好ましくは10〜50μmである。
ポリイミドフィルムの厚みが5μm以上であれば、基板フィルムとして必要な機械強度が確保できる。また、ポリイミドフィルムの厚みが50μm以下だと、加熱条件の調整だけで、ポリイミドフィルムと無機基板の積層体を自然剥離せずに得ることができる。
ポリイミドフィルムの厚みが5μm以下だと、基板フィルムとして必要な機械強度の確保が困難になるため、好ましくない。ポリイミドフィルムの厚みが50μm以上だと、前述した自然剥離等で積層体を安定して得ることが困難になるため、好ましくない。本発明により得られた積層体は、貯蔵安定性・プロセス整合性に優れており、公知の液晶パネル用薄膜トランジスタプロセスによるフレキシブルデバイスの製造に好適に用いることができる。
【0061】
このようにポリイミド前駆体の溶液を無機基板上に流延し、熱イミド化することによって、さらにポリイミド前駆体骨格に特定の構造を選択することで線膨張係数が1〜20ppm/℃であるポリイミドフィルムと無機基板とからなる積層体を得ることができる。そしてこの積層体を用いることで、優れた特性を有するフレキシブルデバイスを得ることができる。
【0062】
<電子素子形成・剥離>
本発明の積層体を用いることで、優れた特性を有するフレキシブルデバイスを得ることができる。すなわち、本発明の積層体のポリイミドフィルム上に、電子素子を形成し、その後、該ポリイミドフィルムを無機基板から剥離することでフレキシブルデバイスを得ることができる。さらに、上記工程は、既存の無機基板を使用した生産装置をそのまま使用できるという利点があり、フラットパネルディスプレイ、電子ペーパーなどの電子デバイスの分野で有効に使用でき、大量生産にも適している。無機基板から剥離する方法には、公知の方法を用いることができる。例えば、手で引き剥がしても良いし、駆動ロール、ロボット等の機械装置を用いて引き剥がしても良い。更には、無機基板とポリイミドフィルムの間に剥離層を設ける方法でも良い。また、例えば、多数の溝を有する無機基板上に酸化シリコン膜を形成し、エッチング液を浸潤させることによって剥離する方法、及び無機基板上に非晶質シリコン層を設けレーザー光によって分離させる方法を挙げることが出来る。
【0063】
本発明のフレキシブルデバイスは、ポリイミドフィルムが優れた耐熱性と低線膨張係数を有しており、また軽量性、耐衝撃性に優れるだけでなく、反りが改善されたという優れた特性を有している。特に反りに関しては、無機基板と同等の低線膨張係数を有するポリイミドフィルムを無機基板上に直接、流延、積層する方法を採用することにより、反りが改善されたフレキシブルデバイスを得ることができる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。ただし、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で実施形態の変更が可能である
(特性の評価方法)
(水分)
容量滴定カールフィッシャー水分計 890タイトランド(メトロームジャパン株式会社製)を用いて、JIS K0068の容量滴定法に準じて溶液中の水分を測定した。ただし、滴定溶剤中に樹脂が析出する場合は、アクアミクロンGEX(三菱化学株式会社製)とN−メチルピロリドンの1:4の混合溶液を滴定溶剤として用いた。
【0065】
(粘度)
粘度計 RE−215/U(東機産業株式会社製)を用い、JIS K7117−2:1999に準じて粘度を測定した。付属の恒温槽を23.0℃に設定し、測定温度は常に一定にした。
【0066】
(ポリイミド前駆体のイミド化率)
アルコキシシラン変性ポリイミド前駆体のイミド化率は1H−NMR測定により求めた。試料を重ジメチルスルホキシド(DMSO−d6)に溶解させ、VARIAN社製VNMR600により、1H−NMRスペクトルを得た。7〜9ppm付近は芳香族1H由来のピーク(A)であり、10〜11ppmはアミド結合由来のピーク(B)である。すべてがアミド結合であるポリアミド酸であるとき積分比は原料であるテトラカルボン酸二無水物類と芳香族ジアミン類から求めることができるので、以下の式からポリイミド前駆体のイミド化率は求められる。
[イミド化率](%)=100−[ポリアミド酸であるときの積分比]×[ピーク(B)の積分値]/[ピーク(A)の積分値]×100
【0067】
(線膨張係数)
線膨張係数は、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製TMA/SS7100を用い、引張荷重法による熱機械分析で評価した。実施例のポリイミド積層体からポリイミド層を剥がして、10mm×3mmの試料を作製し、長辺に29.4mNの荷重を加え、10℃/minで20℃から500℃まで一旦昇温させた後、20℃まで冷却し、さらに500℃まで10℃/minで昇温したときの、2回目の昇温時の100℃〜300℃の範囲における単位温度あたりの試料の歪の変化量を線膨張係数とした。
【0068】
[合成例1]
<ポリアミド酸溶液の製造>
アンカー型攪拌翼、低圧蒸気で加熱できるジャケットおよび、窒素導入管を備えた容積200LのSUS304製反応槽に、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと称することがある)を122.16kg入れ、パラフェニレンジアミン(以下、PDAと称することがある)を6.230kg、4,4'‐ジアミノジフェニルエーテル(以下、ODAと称することがある)を0.093kg加え、10.00kgのNMPで側面に付着した原料を洗い流し、溶液を50.0℃に加熱しながら窒素を20L/分でフローさせた窒素雰囲気下で30分間攪拌した。
【0069】
原料が均一に溶解したことを確認した後、BPDA17.000kgを加え、原料が完全に溶解するまで窒素雰囲気下で10分間攪拌しながら、溶液の温度を約85℃に調整した。粘度を確認しながら85℃の温度で7時間50分加熱と撹拌を続け、粘度19.0Pa・sを示す粘調なポリイミド前駆体溶液を得た。
【0070】
なお、このポリイミド前駆体溶液におけるジアミン化合物およびテトラカルボン酸二無水物の仕込み濃度は全反応液に対して15重量%であり、テトラカルボン酸二無水物の総モル数を、ジアミンの総モル数で除したモル比は、0.995である。ポリアミド酸の分子量を測定したところMw=67000であった。
【0071】
<アルコキシシラン化合物による変性>
この反応溶液を水浴で速やかに冷却し、溶液の温度を約50℃に調整した。次に、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(以下、γ―APSと称することがある)の1%NMP溶液を1.17kg加え、2時間攪拌した。なお、この反応におけるアルコキシシラン化合物成分の配合割合は、ポリアミド酸100重量部に対して0.050重量部である。
【0072】
[実施例1]
合成例1で得られたポリアミド酸(アルコキシシラン変性ポリイミド前駆体)溶液にアクリル系レベリング剤 DISPARON LF−1980(楠本化成製)の1%NMP溶液を0.47kg加え、さらに固形分濃度が13.1重量%となるようにNMPを加えた希釈した。この様にして、粘度が7290mPa・sであり水分が2700ppmであるアルコキシシラン変性ポリイミド前駆体溶液を得た。この試料の1H−NMRスペクトルを測定したところ、ピーク(B)の積分値]/[ピーク(A)の積分値]は0.1649であった。ポリアミド酸であるときの積分比は0.1996であるため、イミド化率は17%であった。得たれた溶液を密栓したガラス瓶で23℃55%RHの環境に31日間保管して再度粘度を測定すると7580mPa・s(+4.0%)になっていた。
【0073】
<ポリイミド積層体の製造>
得られたポリイミド前駆体酸溶液を、両辺150mm、厚さ0.7mmの正方形の無アルカリガラス板(コーニング社製 イーグルXG)上にバーコーターで乾燥後の厚みが20μmになるように流延し、熱風オーブン内で120℃にて30分乾燥した。その後、かかる無アルカリガラス板を、窒素雰囲気下で20℃から180℃まで4℃/分で昇温し、30分保持し、さらに450℃まで4℃/分で昇温し、450℃で10分間加熱した。これにより、ポリイミド層の厚みが20μmのポリイミド積層体を得た。得られた積層体を観察するとポリイミドフィルムと無アルカリガラス板との間に気泡や浮きは観察されず、加熱中に自然に剥離することはなかった。無アルカリガラス板からポリイミドフィルムを引き剥がすことが可能であった。ポリイミドフィルムの評価結果について表1に示す。
【0074】
[合成例2]
<ポリアミド酸溶液の製造>
ポリテトラフルオロエチレン製シール栓付き攪拌器、攪拌翼、および、窒素導入管を備えた容積2Lのガラス製セパラブルフラスコに、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)を850.0g入れ、PDAを40.0g、ODAを0.6g加え、溶液を油浴で50.0℃に加熱しながら窒素雰囲気下で30分間攪拌した。
【0075】
原料が均一に溶解したことを確認した後、BPDA109.4gを加え、原料が完全に溶解するまで窒素雰囲気下で10分間攪拌しながら、溶液の温度を約80℃に調整した。さらに粘度を確認しながら80℃の温度で2時間30分加熱と撹拌を続け、23℃で粘度106.4Pa・sを示す粘調なポリアミド酸溶液を得た。
【0076】
なお、このポリアミド酸溶液におけるジアミン化合物およびテトラカルボン酸二無水物の仕込み濃度は全反応液に対して15重量%であり、テトラカルボン酸二無水物の総モル数を、ジアミンの総モル数で除したモル比は、0.998である。ポリアミド酸の分子量を測定したところMw=129000であった。
【0077】
<アルコキシシラン化合物による変性>
この反応溶液を水浴で速やかに冷却し、溶液の温度を約50℃に調整した。次に、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(以下、γ―APSと称することがある)の1%DMAc溶液を7.5g加え、2時間攪拌した。なお、この反応におけるアルコキシシラン化合物成分の配合割合は、ポリアミド酸100重量部に対して0.050重量部である。
【0078】
[比較例1]
合成例2で得られたアルコキシシラン変性ポリイミド前駆体溶液に固形分濃度が11.7重量%となるようにDMAcを加えた希釈した。この様にして、粘度が13470mPa・sであり水分が1100ppmであるアルコキシシラン変性ポリイミド前駆体溶液を得た。この試料の1H−NMRスペクトルを測定したところ、ピーク(B)の積分値]/[ピーク(A)の積分値]は0.1786であった。ポリアミド酸であるときの積分比は0.1994であるため、イミド化率は10%であった。
【0079】
得たれた溶液を密栓したガラス瓶で23℃55%RHの環境に31日間保管して再度粘度を測定すると12100mPa・s(−10.2%)になっていた。得られた溶液を用いて、実施例1と同様にしてポリイミド積層体を得た。これにより、ポリイミド層の厚みが20μmのポリイミド積層体を得た。得られた積層体を観察するとポリイミドフィルムと無アルカリガラス板との間に気泡や浮きは観察されず、加熱中に自然に剥離することはなかった。無アルカリガラス板からポリイミドフィルムを引き剥がすことが可能であった。ポリイミドフィルムの評価結果について表1に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
上記の通り、イミド化率の高い実施例1で粘度変化が小さくなり、貯蔵安定性が改善している。