特許第6754609号(P6754609)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6754609-感温性粘着剤 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6754609
(24)【登録日】2020年8月26日
(45)【発行日】2020年9月16日
(54)【発明の名称】感温性粘着剤
(51)【国際特許分類】
   C09J 201/00 20060101AFI20200907BHJP
   C09J 133/06 20060101ALI20200907BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20200907BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20200907BHJP
   H01F 41/04 20060101ALI20200907BHJP
   C04B 35/632 20060101ALI20200907BHJP
   H01C 7/10 20060101ALN20200907BHJP
【FI】
   C09J201/00
   C09J133/06
   C09J7/38
   H01G4/30 517
   H01G4/30 311A
   H01F41/04 B
   C04B35/632
   !H01C7/10
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-98695(P2016-98695)
(22)【出願日】2016年5月17日
(65)【公開番号】特開2017-206595(P2017-206595A)
(43)【公開日】2017年11月24日
【審査請求日】2019年5月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000111085
【氏名又は名称】ニッタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104318
【弁理士】
【氏名又は名称】深井 敏和
(74)【代理人】
【識別番号】100182796
【弁理士】
【氏名又は名称】津島 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100181308
【弁理士】
【氏名又は名称】早稲田 茂之
(72)【発明者】
【氏名】西尾 智博
【審査官】 田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/172979(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/077115(WO,A1)
【文献】 特開2000−351951(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/141294(WO,A1)
【文献】 特開2011−236291(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
C04B 35/632
H01F 41/04
H01G 4/30
H01C 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点未満の温度で結晶化し、かつ前記融点以上の温度で流動性を示す側鎖結晶性の第1ポリマーと、
ガラス転移温度(Tg)が23℃以下である非結晶性の第2ポリマーと、を含有する、セラミック部品製造用の感温性粘着剤であって、
前記第1ポリマーの重量平均分子量が、300000〜900000であり、
前記第2ポリマーの重量平均分子量が、300000〜900000であり、
23℃以上45℃未満の全温度範囲における貯蔵弾性率G’が1×106〜2×107Paであり、かつ60℃以上100℃以下の全温度範囲における貯蔵弾性率G’が1×104〜1×105Paであり、
23℃以上45℃未満の全温度範囲で被加工物を仮固定し、かつ60℃以上100℃以下の全温度範囲で前記被加工物を剥離する、感温性粘着剤。
【請求項2】
前記第2ポリマーの含有量が、第1ポリマー100重量部に対して1〜100重量部である、請求項1に記載の感温性粘着剤。
【請求項3】
前記融点が、45℃以上60℃未満である、請求項1または2に記載の感温性粘着剤。
【請求項4】
前記第1ポリマーは、炭素数22以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートをモノマー成分として含む、請求項1〜3のいずれかに記載の感温性粘着剤。
【請求項5】
前記第2ポリマーは、炭素数2〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリレートをモノマー成分として含む、請求項1〜4のいずれかに記載の感温性粘着剤。
【請求項6】
前記第1ポリマーは、前記第2ポリマーと同じ炭素数2〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリレートをモノマー成分としてさらに含む、請求項4または5に記載の感温性粘着剤。
【請求項7】
前記第1ポリマーおよび前記第2ポリマーはいずれも、同じ極性モノマーをモノマー成分としてさらに含む、請求項4〜6のいずれかに記載の感温性粘着剤。
【請求項8】
前記セラミック部品が、積層セラミックコンデンサである、請求項1〜7のいずれかに記載の感温性粘着剤。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の感温性粘着剤を含む、感温性粘着シート。
【請求項10】
フィルム状の基材と、
前記基材の少なくとも片面に積層されており請求項1〜8のいずれかに記載の感温性粘着剤を含む粘着剤層と、を備える、感温性粘着テープ。
【請求項11】
請求項10に記載の感温性粘着テープを、セラミックグリーンシート積層体に前記粘着剤層を向けた状態で、前記セラミックグリーンシート積層体と台座との間に介在させる工程と、
前記感温性粘着テープの温度を前記融点以上の温度にした後に前記融点未満の温度にし、前記感温性粘着テープを介して前記台座に前記セラミックグリーンシート積層体を仮固定する工程と、
前記セラミックグリーンシート積層体をカットして複数の生チップを形成する工程と、
前記感温性粘着テープの温度を前記融点以上の温度にし、前記複数の生チップを前記感温性粘着テープから剥離する工程と、を備える、セラミック部品の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載のセラミック部品の製造方法で得られる生チップを焼成してセラミックチップを得、前記セラミックチップの端面に外部電極を形成して積層セラミックコンデンサを得る、積層セラミックコンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仮固定材として使用することができる感温性粘着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
仮固定材は、積層セラミックコンデンサの製造工程などで使用されるが、従来の仮固定材は、ダイシング加工時の発熱で柔らかくなりやすく、カット時に被加工物のズレや沈み込みが発生するため、カット精度が悪い。このような問題を解決するため、仮固定材には被加工物を安定した状態で仮固定できることが要求される。
【0003】
また、仮固定材には、被加工物を簡単に剥離できることも要求される。具体例を挙げると、仮固定材としてワックスが知られている(例えば、特許文献1参照)。
しかし、ワックスは、固定力が低下しにくいため、ワックスで被加工物を仮固定すると、被加工物を剥離しにくく、しかも剥離した被加工物にワックスが残るので洗浄工程も必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−69324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、被加工物を安定した状態で仮固定することができ、かつ被加工物を簡単に剥離することができる感温性粘着剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の構成からなる解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
(1)融点未満の温度で結晶化し、かつ前記融点以上の温度で流動性を示す側鎖結晶性の第1ポリマーと、ガラス転移温度(Tg)が23℃以下である非結晶性の第2ポリマーと、を含有する、感温性粘着剤。
(2)前記第2ポリマーの含有量が、第1ポリマー100重量部に対して1〜100重量部である、前記(1)に記載の感温性粘着剤。
(3)23℃以上45℃未満における貯蔵弾性率G’が1×106〜2×107Paであり、かつ60℃以上における貯蔵弾性率G’が1×104〜1×105Paである、前記(1)または(2)に記載の感温性粘着剤。
(4)前記融点が、45℃以上60℃未満である、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の感温性粘着剤。
(5)前記第1ポリマーは、炭素数22以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートをモノマー成分として含む、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の感温性粘着剤。
(6)前記第2ポリマーは、炭素数2〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリレートをモノマー成分として含む、前記(1)〜(5)のいずれかに記載の感温性粘着剤。
(7)前記第1ポリマーは、前記第2ポリマーと同じ炭素数2〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリレートをモノマー成分としてさらに含む、前記(5)または(6)に記載の感温性粘着剤。
(8)前記第1ポリマーおよび前記第2ポリマーはいずれも、同じ極性モノマーをモノマー成分としてさらに含む、前記(5)〜(7)のいずれかに記載の感温性粘着剤。
(9)セラミック部品製造用である、前記(1)〜(8)のいずれかに記載の感温性粘着剤。
(10)前記セラミック部品が、積層セラミックコンデンサである、前記(9)に記載の感温性粘着剤。
(11)前記(1)〜(10)のいずれかに記載の感温性粘着剤を含む、感温性粘着シート。
(12)フィルム状の基材と、前記基材の少なくとも片面に積層されており前記(1)〜(10)のいずれかに記載の感温性粘着剤を含む粘着剤層と、を備える、感温性粘着テープ。
(13)前記(12)に記載の感温性粘着テープを、セラミックグリーンシート積層体に前記粘着剤層を向けた状態で、前記セラミックグリーンシート積層体と台座との間に介在させる工程と、前記感温性粘着テープの温度を前記融点以上の温度にした後に前記融点未満の温度にし、前記感温性粘着テープを介して前記台座に前記セラミックグリーンシート積層体を仮固定する工程と、前記セラミックグリーンシート積層体をカットして複数の生チップを形成する工程と、前記感温性粘着テープの温度を前記融点以上の温度にし、前記複数の生チップを前記感温性粘着テープから剥離する工程と、を備える、セラミック部品の製造方法。
(14)前記(13)に記載のセラミック部品の製造方法で得られる生チップを焼成してセラミックチップを得、前記セラミックチップの端面に外部電極を形成して積層セラミックコンデンサを得る、積層セラミックコンデンサの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、被加工物を安定した状態で仮固定することができ、かつ被加工物を簡単に剥離することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例における貯蔵弾性率G’の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<感温性粘着剤>
以下、本発明の一実施形態に係る感温性粘着剤について詳細に説明する。
本実施形態の感温性粘着剤は、側鎖結晶性の第1ポリマーおよび非結晶性の第2ポリマーを含有する。
【0010】
(第1ポリマー)
第1ポリマーは、融点を有するポリマーである。融点とは、ある平衡プロセスにより、最初は秩序ある配列に整合されていた重合体の特定部分が無秩序状態になる温度であり、示差熱走査熱量計(DSC)によって10℃/分の測定条件で測定して得られる値のことを意味するものとする。
【0011】
第1ポリマーは、上述した融点未満の温度で結晶化し、かつ融点以上の温度では相転移して流動性を示す。すなわち、第1ポリマーは、温度変化に対応して結晶状態と流動状態とを可逆的に起こす感温性を有する。これにより、感温性粘着剤の温度を融点以上の温度にして第1ポリマーを流動させると、感温性粘着剤が被着体の表面に存在する微細な凹凸形状に追従するようになる。そして、この状態の感温性粘着剤を融点未満の温度に冷却すると、第1ポリマーが結晶化することによっていわゆるアンカー効果が発現し、その結果、被着体を高い固定力で仮固定することができる。さらに、感温性粘着剤を融点以上の温度に加熱すると、第1ポリマーが流動性を示すことによって感温性粘着剤の凝集力が低下するので、上述した固定力を十分に低下させることができ、被着体を感温性粘着剤から剥離することができる。したがって、本実施形態の感温性粘着剤は、ワックスと同じような使用方法で被加工物を仮固定することができる。
【0012】
本実施形態の感温性粘着剤は、その温度を融点以上の温度にした後に融点未満の温度にしたとき、言い換えれば第1ポリマーを流動状態から結晶状態にしたとき、被加工物を仮固定できる割合で第1ポリマーを含有する。
【0013】
第1ポリマーは、炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートをモノマー成分として含む。炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートは、その炭素数16以上の直鎖状アルキル基が第1ポリマーにおける側鎖結晶性部位として機能する。すなわち、第1ポリマーは、側鎖に炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する櫛形のポリマーであり、この側鎖が分子間力などによって秩序ある配列に整合されることにより結晶化する。
【0014】
炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。例示した(メタ)アクリレートは、1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。(メタ)アクリレートとは、アクリレートまたはメタクリレートのことを意味するものとする。
【0015】
炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートにおいて、直鎖状アルキル基の好ましい炭素数は22以上である。言い換えれば、第1ポリマーは、炭素数22以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートをモノマー成分として含むのがよい。なお、炭素数の上限値は、好ましくは50であるが、これに限定されるものではない。炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートは、モノマー成分中に好ましくは50重量%以上、より好ましくは50〜75重量%の割合で含まれる。
【0016】
モノマー成分には、炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートと共重合し得る他のモノマーが含まれていてもよい。他のモノマーとしては、例えば、炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリレート、極性モノマーなどが挙げられる。
【0017】
炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリレートは、第1ポリマーにおける凝集成分として機能する。炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリレートにおいて、アルキル基の好ましい炭素数は2〜8である。このような比較的長いアルキル基を有する(メタ)アクリレートをモノマー成分として含むと、高温での剥離性が向上する傾向にある。
【0018】
炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。例示した(メタ)アクリレートは、1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリレートは、モノマー成分中に好ましくは50重量%以下、より好ましくは20〜45重量%の割合で含まれる。なお、上述した炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートは、モノマー成分中に炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリレートよりも多い割合で含まれるのがよい。
【0019】
極性モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などのカルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシル基を有するエチレン性不飽和単量体などが挙げられる。例示した極性モノマーは、1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。極性モノマーは、モノマー成分中に好ましくは10重量%以下、より好ましくは1〜10重量%の割合で含まれる。
【0020】
第1ポリマーの好ましい組成としては、ベヘニルアクリレート50〜75重量%、ブチルアクリレート20〜45重量%、2−ヒドロキシエチルアクリレート5重量%である。
【0021】
モノマー成分の重合方法としては、例えば、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法などが挙げられる。溶液重合法を採用する場合には、モノマー成分と溶媒とを混合し、必要に応じて重合開始剤、連鎖移動剤などを添加して、撹拌しながら40〜90℃程度で2〜10時間程度反応させればよい。
【0022】
第1ポリマーの重量平均分子量は、好ましくは100000以上、より好ましくは300000〜900000、さらに好ましくは400000〜700000である。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、得られた測定値をポリスチレン換算した値である。
【0023】
第1ポリマーの融点は、好ましくは45℃以上60℃未満である。融点は、モノマー成分の組成などを変えることによって調整することができる。
【0024】
(第2ポリマー)
第2ポリマーは、ガラス転移温度(Tg)が23℃以下、好ましくは0℃以下、より好ましくは−20℃以下である非結晶性のポリマーである。このような第2ポリマーを含有する本実施形態の感温性粘着剤は、被加工物を安定した状態で仮固定することができ、かつ被加工物を簡単に剥離することができる。具体的に説明すると、例えば、本実施形態の感温性粘着剤を積層セラミックコンデンサの製造工程における仮固定材として使用すると、ダイシング加工時の発熱により感温性粘着剤は40℃程度になる。このような加工時の発熱により感温性粘着剤が柔らかくなるのを抑制するには、例えば、第1ポリマーの側鎖の長さを長くしたり、側鎖の量を多くすることによって、第1ポリマーの融点を高くし、ダイシング加工の温度域における弾性率を高くすればよい。
【0025】
ここで、感温性粘着剤が、第2ポリマーを含有せずに第1ポリマーのみで構成されているときには、上述のようにして第1ポリマーの融点を高くし、ダイシング加工の温度域における弾性率を高くすると、室温(23℃)での弾性率も高くなりやすい。室温(23℃)での弾性率が高くなると、被加工物に対する固定力が低下するおそれがある。感温性粘着剤を、第1ポリマーのみで構成するのではなく、第1、第2ポリマーをそれぞれ含有する構成にすると、上述のようにしてダイシング加工の温度域における弾性率を高くしても、室温での弾性率が高くなるのを抑制することができる。その結果、室温からダイシング加工の温度(40℃程度)まで十分な固定力を維持することが可能となる。また、加工時の発熱に対して高い弾性率を維持することができ、加工時の発熱で感温性粘着剤が柔らかくなるのを抑制することができる。したがって、カット時における被加工物のズレや沈み込みの発生を抑制することができ、カット精度を向上させることができる。さらに、感温性粘着剤の温度を融点以上の温度にすれば、第1ポリマーが流動性を示すことによって感温性粘着剤の凝集力が低下するので、剥離した被加工物に感温性粘着剤が残る、いわゆる糊残りが発生するのを抑制しつつ被加工物を簡単に剥離することができる。
【0026】
第2ポリマーのガラス転移温度(Tg)の下限値は、好ましくは−100℃である。ガラス転移温度(Tg)は、後述する実施例に記載の測定方法で測定して得られる値である。ガラス転移温度(Tg)は、例えば、第2ポリマーの組成などを変えることによって調整することができる。
【0027】
第2ポリマーは、上述した炭素数1〜8、好ましくは炭素数2〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリレートをモノマー成分として含むのがよい。第2ポリマーは、モノマー成分のうち炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリレートの割合を最も多くするのがよい。第2ポリマーは、上述した極性モノマーをモノマー成分としてさらに含むのがよい。
【0028】
第2ポリマーの好ましい組成としては、ブチルアクリレート90〜99重量%、2−ヒドロキシエチルアクリレート1〜10重量%である。
【0029】
モノマー成分の重合方法としては、上述した第1ポリマーで例示したのと同じ方法が挙げられる。第2ポリマーの重量平均分子量は、好ましくは100000以上、より好ましくは300000〜900000、さらに好ましくは400000〜700000である。
【0030】
第2ポリマーが炭素数2〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリレートをモノマー成分として含むとき、上述した第1ポリマーは、第2ポリマーと同じ炭素数2〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリレートをモノマー成分としてさらに含むのがよい。このような構成によれば、第1、第2ポリマーの互いの相溶性を向上させることができる。同様の観点から、第1、第2ポリマーはいずれも、同じ極性モノマーをモノマー成分としてさらに含むのがよい。
【0031】
第2ポリマーの含有量は、第1ポリマー100重量部に対して、好ましくは1〜100重量部、より好ましくは10〜100重量部、さらに好ましくは20〜100重量部である。
【0032】
一方、本実施形態の感温性粘着剤は、23℃以上45℃未満における貯蔵弾性率G’が1×106〜2×107Paであり、かつ60℃以上、好ましくは60〜100℃における貯蔵弾性率G’が1×104〜1×105Paであるのがよい。このような構成によれば、例えば、本実施形態の感温性粘着剤を積層セラミックコンデンサの製造工程における仮固定材として使用したときには、加工時の発熱に対して高い弾性率を維持することができ、加工時の発熱で感温性粘着剤が柔らかくなるのを抑制することができる。また、60℃以上に感温性粘着剤を加熱すれば、感温性粘着テープの固定力が十分に低下するので、被加工物を簡単に剥離することができる。
【0033】
貯蔵弾性率G’は、後述する実施例に記載の測定方法で測定して得られる値である。貯蔵弾性率G’は、例えば、第1、第2ポリマーの組成などを変えることによって調整することができる。
【0034】
本実施形態の感温性粘着剤は、架橋剤をさらに含有していてもよい。架橋剤としては、例えば、金属キレート化合物、アジリジン化合物、イソシアネート化合物、エポキシ化合物などが挙げられる。
【0035】
架橋剤は、第1、第2ポリマーの合計100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.5〜5重量部の割合で含まれる。
【0036】
架橋反応は、感温性粘着剤に架橋剤を加えた後、加熱することによって行うことができる。加熱条件としては、温度が90〜110℃程度であり、時間が1分〜20分程度である。
【0037】
上述した本実施形態の感温性粘着剤は、例えば、セラミック部品製造用の仮固定材として使用することができる。セラミック部品としては、例えば、積層セラミックコンデンサ、セラミックインダクタ、セラミックバリスタなどが挙げられる。
【0038】
感温性粘着剤の使用形態は、特に限定されず、例えば、そのまま使用してもよいし、下記で説明するように、粘着シート、粘着テープなどの形態で使用してもよい。
【0039】
<感温性粘着シート>
本実施形態の感温性粘着シートは、上述した感温性粘着剤を含むものであり、基材レスのシート状である。感温性粘着シートの厚さは、好ましくは10〜400μmである。
【0040】
感温性粘着シートの表面には、離型フィルムを積層してもよい。離型フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートなどからなるフィルムの表面に、シリコーンなどの離型剤を塗布したものが挙げられる。離型フィルムの厚さは、好ましくは5〜500μm、より好ましくは25〜250μmである。離型フィルムは、感温性粘着シートの使用時に剥離される。
【0041】
<感温性粘着テープ>
本実施形態の感温性粘着テープは、フィルム状の基材と、基材の少なくとも片面に積層されている粘着剤層とを備えている。フィルム状とは、フィルム状のみに限定されるものではなく、本実施形態の効果を損なわない限りにおいて、フィルム状ないしシート状をも含む概念である。
【0042】
基材の構成材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンエチルアクリレート共重合体、エチレンポリプロピレン共重合体、ポリ塩化ビニルなどの合成樹脂が挙げられる。
【0043】
基材の構造は、単層構造または多層構造のいずれであってもよい。基材の厚さは、好ましくは5〜500μm、より好ましくは25〜250μmである。基材は、粘着剤層に対する密着性を高めるうえで、表面処理が施されていてもよい。表面処理としては、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理、ブラスト処理、ケミカルエッチング処理、プライマー処理などが挙げられる。
【0044】
基材の少なくとも片面に積層されている粘着剤層は、上述した感温性粘着剤を含むものである。粘着剤層を基材の少なくとも片面に積層するには、例えば、感温性粘着剤に溶剤を加えて塗布液を調製し、得られた塗布液をコーターなどで基材の片面または両面に塗布して乾燥させればよい。コーターとしては、例えば、ナイフコーター、ロールコーター、カレンダーコーター、コンマコーター、グラビアコーター、ロッドコーターなどが挙げられる。
【0045】
粘着剤層の厚さは、好ましくは5〜60μm、より好ましくは10〜60μm、さらに好ましくは10〜50μmである。
【0046】
基材の両面に粘着剤層を積層する場合には、片面の粘着剤層と他面の粘着剤層は、互いの厚さ、組成などが、同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、片面の粘着剤層が上述した感温性粘着剤からなる限り、他面の粘着剤層は特に限定されない。他面の粘着剤層は、例えば、感圧性接着剤で構成することもできる。感圧性接着剤としては、例えば、天然ゴム接着剤、合成ゴム接着剤、スチレン−ブタジエンラテックスベース接着剤、アクリル系接着剤などが挙げられる。
【0047】
感温性粘着テープの表面には、離型フィルムを積層してもよい。離型フィルムとしては、上述した感温性粘着シートで例示したのと同じものが挙げられる。離型フィルムは感温性粘着テープの使用時に剥離される。
【0048】
<セラミック部品の製造方法・積層セラミックコンデンサの製造方法>
次に、本発明の一実施形態に係るセラミック部品の製造方法および積層セラミックコンデンサの製造方法について説明する。本実施形態のセラミック部品の製造方法は、上述した感温性粘着テープを使用するとともに、以下の(i)〜(iv)の工程を備えている。また、本実施形態の積層セラミックコンデンサの製造方法は、以下の(v)の工程をさらに備えている。
【0049】
(i)感温性粘着テープを、セラミックグリーンシート積層体に粘着剤層を向けた状態で、セラミックグリーンシート積層体と台座との間に介在させる。
(ii)感温性粘着テープの温度を融点以上の温度にした後に融点未満の温度にし、感温性粘着テープを介して台座にセラミックグリーンシート積層体を仮固定する。
(iii)セラミックグリーンシート積層体をカットして複数の生チップを形成する。
(iv)感温性粘着テープの温度を融点以上の温度にし、複数の生チップを感温性粘着テープから剥離する。
(v)得られた生チップを焼成してセラミックチップを得、セラミックチップの端面に外部電極を形成して積層セラミックコンデンサを得る。
【0050】
上述した(i)〜(v)の工程のうち、(iii)の工程は、いわゆるダイシング加工である。本実施形態によれば、上述した感温性粘着テープを使用することから、室温(23℃)から(iii)の工程におけるダイシング加工の温度(40℃程度)まで十分な固定力を維持することができる。また、(iii)の工程では、ダイシング加工時の発熱により感温性粘着剤が40℃程度になったとしても、粘着剤層が柔らかくなるのを抑制することができ、優れたカット精度でセラミックグリーンシート積層体をカットすることができる。(iv)の工程では、感温性粘着テープの温度を融点以上の温度にすれば、感温性粘着テープの固定力が十分に低下するので、複数の生チップをスムーズに感温性粘着テープから剥離することができ、結果として歩留りよくセラミック部品および積層セラミックコンデンサを得ることができる。(iv)の工程は、60〜80℃で行うのがよい。
【0051】
なお、(i)の工程におけるセラミックグリーンシート積層体は、セラミック粉末のスラリーをドクターブレードで薄く延ばしてセラミックグリーンシートを形成し、このセラミックグリーンシートの表面に複数の電極を印刷した後、複数のセラミックグリーンシートを積層一体化して得られる。
【0052】
(ii)の工程において感温性粘着テープを台座に固定する方法としては、例えば、感温性粘着テープの基材と、台座との間に所定の粘着剤や接着剤を介在させて固定する方法や、吸着機構などの固定手段を備えた台座を採用する方法などが挙げられる。また、感温性粘着テープの構成が、基材の両面に粘着剤層が積層されている両面テープである場合には、セラミックグリーンシート積層体を固定している片面の粘着剤層と反対の他面の粘着剤層を介して台座に固定することもできる。
【0053】
(iii)の工程におけるカットは、セラミックグリーンシート積層体を複数の生チップにカットできる限り特に限定されるものはなく、切断刃による押し切りであってもよいし、回転刃によるカットであってもよい。
【0054】
本実施形態のセラミック部品の製造方法は、上述した積層セラミックコンデンサの他、例えば、セラミックインダクタ、セラミックバリスタなどの他のセラミック部品についても適用することができる。
【0055】
以下、合成例および実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の合成例および実施例のみに限定されるものではない。
【0056】
(合成例1〜3)
まず、表1に示すモノマーを表1に示す割合で反応容器に加えてモノマー混合物を得た。表1に示すモノマーは、以下のとおりである。
C22A:ベヘニルアクリレート
C4A:ブチルアクリレート
HEA:2−ヒドロキシエチルアクリレート
【0057】
次に、重合開始剤として日油社製の「パーブチルND」をモノマー混合物100重量部に対して0.5重量部、酢酸エチルをモノマー混合物100重量部に対して230重量部の割合で反応容器にそれぞれ加えて混合液を得た。
【0058】
そして、得られた混合液を55℃で4時間撹拌することによって各モノマーを共重合させてポリマーを得た。得られたポリマーのうち、合成例1〜2で得られたポリマーが第1ポリマー、合成例3で得られたポリマーが第2ポリマーに相当する。
【0059】
合成例1〜3で得られたポリマーの重量平均分子量、合成例1〜2で得られたポリマーの融点を表1に示す。なお、重量平均分子量は、GPCで測定して得られた測定値をポリスチレン換算した値である。融点は、DSCを使用して10℃/分の測定条件で測定した値である。
【0060】
合成例3で得られたポリマーについては、ガラス転移温度(Tg)を測定した。測定方法を以下に示すとともに、その結果を表1に示す。
【0061】
(ガラス転移温度(Tg))
サーモサイエンティフィック(Thermo Scientific)社製の動的粘弾性測定装置「HAAKE MARSIII」を使用して、20Hz、5℃/分、−100〜400℃の昇温過程でtanδを測定し、得られたtanδのピーク温度からガラス転移温度(Tg)を求めた。
【0062】
【表1】
【0063】
[実施例1〜3および比較例1〜2]
<感温性粘着テープの作製>
まず、合成例1〜3で得られた各ポリマーを表2に示す組み合わせ、および割合で使用した。すなわち、実施例1〜3については、合成例1で得られたポリマー100重量部に対して、合成例3で得られたポリマーを実施例1では25重量部、実施例2では50重量部、実施例3では100重量部の割合でそれぞれ混合した。また、比較例1は、合成例1で得られたポリマーのみを使用した。比較例2は、合成例2で得られたポリマーのみを使用した。
【0064】
次に、ポリマー100重量部に対して架橋剤を2.5重量部の割合で混合し、感温性粘着剤を得た。なお、架橋剤は、日本ポリウレタン工業社製のイソシアネート化合物「コロネートL−45E」を使用した。
【0065】
次に、得られた感温性粘着剤を酢酸エチルによって固形分濃度が30重量%となるように調整し、塗布液を得た。得られた塗布液を厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートからなるフィルム状の基材の片面に塗布した。そして、100℃×10分の条件で架橋反応を行い、基材の片面に厚さ40μmの表2に示す粘着剤層が積層されている感温性粘着テープを得た。
【0066】
【表2】
【0067】
<評価>
実施例1〜3および比較例1〜2で得られた各感温性粘着テープについて、貯蔵弾性率G’を測定した。測定方法を以下に示すとともに、その結果を図1に示す。
【0068】
(貯蔵弾性率G’)
サーモサイエンティフィック(Thermo Scientific)社製の動的粘弾性測定装置「HAAKE MARSIII」を使用して、1Hz、5℃/分、0〜200℃の昇温過程で測定した。
【0069】
表1に示すように、合成例1のポリマーは、合成例2のポリマーよりもベヘニルアクリレート(C22A)の量が多いことから、合成例2のポリマーよりも側鎖の量が多く、それに起因して融点が高くなっている。そして、図1から明らかなように、合成例1のポリマーを使用した比較例1は、合成例2のポリマーを使用した比較例2よりも40℃の貯蔵弾性率G’が高くなっているものの、室温(23℃)での貯蔵弾性率G’も高くなっている。
【0070】
これに対し、第1ポリマーである合成例1に加えて第2ポリマーである合成例3のポリマーも含有する実施例1〜3はいずれも、室温での貯蔵弾性率G’が比較例1よりも低いにもかかわらず、40℃の貯蔵弾性率G’が比較例2よりも高くなっている。したがって、このような実施例1〜3に係る感温性粘着テープを仮固定材として使用すれば、被加工物を安定した状態で仮固定でき、かつ被加工物を簡単に剥離できることが期待できる。
図1