(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6754617
(24)【登録日】2020年8月26日
(45)【発行日】2020年9月16日
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂成形品および繊維強化樹脂成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 39/24 20060101AFI20200907BHJP
B29C 70/02 20060101ALI20200907BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20200907BHJP
【FI】
B29C39/24
B29C70/02
B29K105:08
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-103883(P2016-103883)
(22)【出願日】2016年5月25日
(65)【公開番号】特開2017-209850(P2017-209850A)
(43)【公開日】2017年11月30日
【審査請求日】2019年3月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】吉田 武
【審査官】
▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】
特表2012−521457(JP,A)
【文献】
特開2004−027235(JP,A)
【文献】
特表2014−516374(JP,A)
【文献】
特表2008−525289(JP,A)
【文献】
特開2008−285560(JP,A)
【文献】
特表2016−508077(JP,A)
【文献】
特開平10−278148(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 39/00 − 39/44
B29C 70/00 − 70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材となるマトリックス樹脂と、前記マトリックス樹脂の内部に充填された繊維と、前記マトリックス樹脂における少なくとも表層部に充填され、粒状に形成された複数の固形充填材と、を備え、
前記固形充填材は、軟質体で形成され、
前記マトリックス樹脂の表面及び当該表面に露出した前記固形充填材の一部がそれぞれ研磨された状態で、前記マトリックス樹脂の表面及び前記研磨された部分の固形充填材にそれぞれ塗膜が形成されていることを特徴とする繊維強化樹脂成形品。
【請求項2】
請求項1に記載の繊維強化樹脂成形品であって、
前記固形充填材の軟質体は、多孔質に形成されていることを特徴とする繊維強化樹脂成形品。
【請求項3】
繊維強化樹脂成形品を製造する製造方法であって、
軟質体を冷却することによって硬化させる冷却工程と、
この硬化した樹脂を粉砕して、粒状の固形充填材を作成する粉砕工程と、
前記粒状の固形充填材を、その固形充填材の一部がマトリックス樹脂の表面に露出するように、マトリックス樹脂の内部に充填する充填工程と、
前記マトリックス樹脂の表面及び当該表面に露出した部分の固形充填材をそれぞれ研磨する研磨工程と、
前記研磨したマトリックス樹脂の表面及び当該表面に露出した部分の固形充填材にそれぞれ塗膜を形成する塗膜形成工程と、
を有することを特徴とする繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法であって、
前記固形充填材の軟質体は、多孔質に形成されていることを特徴とする繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂成形品および繊維強化樹脂成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、繊維強化樹脂成形品においては、剛性を向上させるために、マトリックス樹脂の内部に複数の粒状の固形充填材を充填(埋設)する技術が公知である(例えば、特許文献1参照)。この固形充填材の一例として、内部が中空に形成されたガラスビーズが適用される。
【0003】
そして、ガラスビーズが埋設された繊維強化樹脂成形品の表面を研磨したのち、この研磨した表面に塗料を塗布して塗膜を形成することによって塗膜付き繊維強化樹脂成形品を作成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4478279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、前記ガラスビーズは、ゴム等よりも延性が低く、脆性破壊しやすい。従って、マトリックス樹脂の表面からガラスビーズが突出している状態で、マトリックス樹脂の表面を研磨すると、ガラスビーズが割れるおそれがある。この場合、前述した塗装時に、ガラスビーズの割れ部から中空の内部に塗料が浸入するため、塗膜の表面が微細な凹凸となって、塗膜付き繊維強化樹脂成形品の外観品質が低下するという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、表面に塗膜を形成した場合に塗膜の外観品質が良好となる繊維強化樹脂成形品および繊維強化樹脂成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る繊維強化樹脂成形品は、マトリックス樹脂と、前記マトリックス樹脂の内部に充填された繊維および複数の固形充填材と、を備える。前記固形充填材は、軟質体で形成されている。
前記繊維強化樹脂成形品は、前記マトリックス樹脂の表面及び当該表面に露出した前記固形充填材の一部がそれぞれ研磨された状態で、前記マトリックス樹脂の表面及び前記研磨された部分の固形充填材にそれぞれ塗膜が形成されている。
【0008】
また、繊維強化樹脂成形品の製造方法は、軟質体を冷却することによって硬化させた樹脂を粉砕することによって粒状の固形充填材を作成し、前記粒状の固形充填材および繊維をマトリックス樹脂の内部に充填する。
前記マトリックス樹脂の表面及び当該表面に露出した部分の固形充填材をそれぞれ研磨し、前記研磨したマトリックス樹脂の表面及び当該表面に露出した部分の固形充填材にそれぞれ塗膜を形成する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る繊維強化樹脂成形品および繊維強化樹脂成形品の製造方法によれば、表面に塗膜を形成した場合に塗膜の外観品質が良好となる繊維強化樹脂成形品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る繊維強化樹脂成形品の断面図である。
【
図2】
図2は、
図1の繊維強化樹脂成形品の表層部を拡大した断面図である。
【
図3】
図3は、表面を研磨した後の繊維強化樹脂成形品の断面図である。
【
図4】
図4は、
図3の研磨面の上に塗装を施した塗膜付き繊維強化樹脂成形品の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面とともに詳述する。
[繊維強化樹脂成形品の構成]
まず、
図1,2に示すように、本発明の実施形態に係る繊維強化樹脂成形品1の構成を説明する。
【0012】
繊維強化樹脂成形品1は、マトリックス樹脂3と、マトリックス樹脂3の内部に充填された繊維5と、マトリックス樹脂3における少なくとも表層部に充填され、粒状に形成された複数の固形充填材7と、を備えている。以下、具体的に説明する。
【0013】
母材となるマトリックス樹脂3は、例えばウレタン樹脂等の種々の樹脂が適用可能である。また、繊維5は、例えば、連続する複数の炭素繊維等が適用可能である。
【0014】
固形充填材7は、粒状の軟質体で形成されている。本明細書において、「軟質体」とは、ガラスよりも延性が高い軟らかく弾性を有する物質であり、例えば、ACM(アクリルゴム)などのゴムを含むものとする。固形充填材7を充填する理由は、マトリックス樹脂3の剛性を向上させるためである。固形充填材7は、マトリックス樹脂3における少なくとも表層部9に充填されていればよいが、本実施形態では、マトリックス樹脂3の全体にほぼ均等な間隔をおいて配置した形態を示した。
【0015】
また、固形充填材7の形状は、球殻状、多孔質状、中実状などの各種の中空状の粒状体を適用可能である。本実施形態では、球殻状の固形充填材7を適用したが、これに限定されない。なお、球殻状とは、内方が中空で気体が封入されたバルーン状の形態を示すものとし、完全な球でなくとも多少変形したものも含む。さらに、固形充填材7は、多孔質の軟質体であってもよい。このように固形充填材7は、弾性を有するため、押圧荷重や摩擦力が入力された場合に弾性変形し、破損等の脆性破壊が起こりにくいという性質がある。
【0016】
[繊維強化樹脂成形品の製造方法]
次いで、繊維強化樹脂成形品1の製造方法を手順を追って説明する。
【0017】
(1)まず、固形充填材7の製造方法を説明する。
【0018】
(1−1)冷却工程
通常の発泡ゴムシート(軟質体)を準備し、この発泡ゴムシートを冷却することにより、硬化させる。例えば、ゴムの種類としてACM(アクリルゴム)を用いた場合、冷却温度を−20℃程度に設定することが望ましい。その他のゴムを用いた場合は、そのゴムに適した冷却温度に適宜設定すればよい。
【0019】
(1−2)粉砕工程
この冷却によって硬化した樹脂を粉砕して、粒状の固形充填材7を作成する。具体的には、冷却して硬化させた発泡ゴムシートを粉砕機を用いて粉砕する。この発泡ゴムシートから作成される固形充填材7は、多孔質の軟質体で形成される。
【0020】
(2)次に、繊維強化樹脂成形品1の成形手順を説明する。
【0021】
(2−1)充填工程
充填工程においては、前記粒状の固形充填材7をマトリックス樹脂3の内部に充填する。具体的には、熱硬化性樹脂の場合、軟化状態のマトリックス樹脂3に繊維5と固形充填材7を混ぜ込んで捏ねたのち、この捏ねた軟化状態の樹脂を、加熱した金型の内部に流入させることにより、マトリックス樹脂3を加熱して硬化させる。これにより、硬化したマトリックス樹脂3内に繊維5と固形充填材7が充填された状態となる。なお、
図2に示すように、マトリックス樹脂3の表面4から固形充填材7が露出していると、金型の内面が固形充填材7の露出部分を押圧しながら加熱することにより、球殻状の固形充填材7におけるマトリックス樹脂3の表面4に露出している部分が平坦状に変形する場合がある。
【0022】
(3)次に、塗膜付き繊維強化樹脂成形品11の製造手順を説明する。
(3−1)研磨工程
繊維強化樹脂成形品1の表面4に研磨を施して、
図3に示すように、表面4が研磨面10になった繊維強化樹脂成形品1が形成される。
【0023】
(3−2)塗装工程
図3の研磨面10の上に塗料を塗布すると塗膜付き繊維強化樹脂成形品11が完成する。なお、塗膜13の表面14は研磨面10に沿った平坦な形状になる。
【0024】
以下に、本実施形態による作用効果を説明する。
[1]本実施形態に係る繊維強化樹脂成形品1は、母材となるマトリックス樹脂3と、マトリックス樹脂3の内部に充填された繊維5と、マトリックス樹脂3における少なくとも表層部9に充填され、粒状に形成された複数の固形充填材7と、を備えている。固形充填材7は、軟質体で形成されている。
【0025】
固形充填材7が、ガラスなどよりも延性が高い軟質体で形成されている。このため、マトリックス樹脂3の表面4を研磨する場合、固形充填材7における表面4から露出している部分が研磨時に脆性破壊を起こしにくい。従って、マトリックス樹脂3の研磨面10の上に塗料を塗布したとき、塗膜13の表面14は凹凸が少ない平滑面になるため、表面14の外観品質が良好な塗膜付き繊維強化樹脂成形品11を得ることができる。
【0026】
[2]固形充填材7の軟質体は、多孔質に形成されている。
固形充填材7は多孔質に形成されているため、中実状の固形充填材をマトリックス樹脂3に充填した場合よりも、繊維強化樹脂成形品1の重量を低減することができる。
【0027】
[3]本実施形態に係る繊維強化樹脂成形品1を製造する製造方法は、軟質体を冷却することによって硬化させる冷却工程と、この硬化した樹脂を粉砕して、粒状の固形充填材7を作成する粉砕工程と、粒状の固形充填材7をマトリックス樹脂3の内部に充填する充填工程と、を有する。
【0028】
軟質体は、常温では粉砕が困難であるため、軟質体から粒状の固形充填材7を作成することは困難である。しかし、本実施形態では、軟質体を冷却することによって硬化させる冷却工程を有するため、マトリックス樹脂3の内部に充填される固形充填材7を軟質体にすることが容易にできる。このため、マトリックス樹脂3の表面4を研磨する場合、固形充填材7の露出部分が研磨時に脆性破壊を起こしにくい。従って、マトリックス樹脂3の研磨面10の上に塗料を塗布したとき、塗膜13の表面14は凹凸が少ない平滑面になるため、塗膜13の表面14の外観品質が良好な塗膜付き繊維強化樹脂成形品11を得ることができる。
【0029】
[4]本実施形態に係る繊維強化樹脂成形品1の製造方法に用いる固形充填材7の軟質体は、多孔質に形成されている。
【0030】
固形充填材7は多孔質に形成されるため、中実状の固形充填材をマトリックス樹脂3に充填した場合よりも、繊維強化樹脂成形品1の重量を低減することができる。
【0031】
ところで、本発明は前述の実施形態に例をとって説明したが、この実施形態に限ることなく本発明の要旨を逸脱しない範囲で他の実施形態を各種採用することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 繊維強化樹脂成形品
3 マトリックス樹脂
5 繊維
7 固形充填材
9 表層部