(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6754653
(24)【登録日】2020年8月26日
(45)【発行日】2020年9月16日
(54)【発明の名称】熱風炉用チェッカーれんがの製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/185 20060101AFI20200907BHJP
C21B 9/04 20060101ALI20200907BHJP
【FI】
C04B35/185
C21B9/04
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-191694(P2016-191694)
(22)【出願日】2016年9月29日
(65)【公開番号】特開2018-52776(P2018-52776A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2019年7月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】特許業務法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒井 博文
(72)【発明者】
【氏名】小出石 吉隆
(72)【発明者】
【氏名】中村 倫
(72)【発明者】
【氏名】田村 佳洋
【審査官】
谷本 怜美
(56)【参考文献】
【文献】
特開2017−65956(JP,A)
【文献】
特開2007−277349(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第103373856(CN,A)
【文献】
中国特許出願公開第102101780(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
C21B 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ムライト原料10〜50質量%、コランダム含有原料20〜60質量%、シリマナイト族鉱物としてアンダルサイト、カイアナイト、及びシリマナイトのうち1種又は2種以上10〜30質量%、及び粘土3〜20質量%からなり、ムライト原料、コランダム含有原料、アンダルサイト、カイアナイト、及び/又はシリマナイトのうち粒径0.2mm以下の原料が5〜20質量%である耐火原料配合物を混練後、成形し、乾燥、焼成する熱風炉用チェッカーれんがの製造方法。
【請求項2】
前記粘土が10〜20質量%である請求項1に記載の熱風炉用チェッカーれんがの製造方法。
【請求項3】
前記耐火原料配合物中のFe2O3が1.5質量%以下、及びNa2Oが1.0質量%以下である請求項1又は請求項2に記載の熱風炉用チェッカーれんがの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱風炉の蓄熱室内に組み込まれる熱風炉用チェッカーれんが(以下、単に「チェッカーれんが」ともいう。)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製銑用の高炉への熱風供給を行うために、熱風炉が用いられている。熱風炉の蓄熱室内には、蓄熱材として、外形が六角柱形状をしたチェッカーれんが(ギッターれんがともいう。)が多数配列され、複数層に重ねて築造されている。チェッカーれんがは、耐火れんが材で形成された六角柱形状の本体を有する。本体の上面及び下面は平行とされている。本体には、断面形状が丸形又は六角形のガス流路が複数、鉛直方向に貫通形成されており、各々は本体の上下面に開口されている。
【0003】
このようなチェッカーれんがでは、ガス流路に高温の燃焼ガスを通過させることで、本体のガス流路以外の耐火れんが材が詰まった部分(壁)に熱を蓄熱することができる。一方、蓄熱した状態でガス流路に冷風を通過させて熱交換させることで、高温の熱風を生成し、高炉に供給することができる。このとき、チェッカーれんがの寸法形状が、ガスと耐火れんが材との熱交換効率に大きな影響を与える。このため、近年では、ガス流路の形状及び壁の厚み等に関する最適化が行われ、孔の数を増やし壁の厚みが小さいものが開発されている。
【0004】
例えば特許文献1には、19個のガス流路を有し、壁の厚みが15mmのチェッカーれんがが開示されている。しかしながら、壁の厚みを薄くすると、従来の製造方法では成形中に成形体に亀裂が生じやすい問題、及び製品の強度が不十分となる問題が生じてくる。
【0005】
また、特許文献2には、コークス炉の蓄熱れんがであるが、スリットタイプで壁の厚みが11mmのものが開示されている。この蓄熱れんがの製造方法として、その段落0043に「ボールミルで粉砕したムライトとコランダムを主材としてAl
2O
3量75wt%のハイアルミナ質蓄熱レンガを製作した。原料配合構成は粗粒(1.5〜0.8mm)、中粒(0.8〜0.08mm)、細粒(<0.08mm)を1:2:2の比率としたもので、別にフリントクレイ3wt%、水分4wt%を添加したもので、350トンのフリクションプレスにて成形した」ことが記載されている。
【0006】
しかしながら、特許文献2の原料配合構成で特許文献1のチェッカーれんがを製造しようとすると、成形時に成形体に亀裂が生じる問題や焼成後の強度が不十分な問題がある。すなわち、チェッカーれんがの製造方法では成形時に孔を形成するために六角柱又は円柱の芯棒を使用することになるが、壁の厚みが薄いため成形後にこれらの芯棒を成形体から抜く際に壁が崩れたり、あるいは亀裂が生じたりする問題がある。また、特許文献2の蓄熱れんがは厚み14.5〜18mmの長方形の枠を有しており、この枠によって強度が維持できるが、特許文献1のチェッカーれんがの場合には、全ての壁の厚みが15mmと薄いため、ハンドリング時の欠け等の破損が生じやすく、製品自体の強度を高める必要もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014−118614号公報
【特許文献2】特開平7−172940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、成形時の亀裂が発生することなく、しかも製品の強度が十分な熱風炉用チェッカーれんがの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
成形時の強度を向上するためには耐火原料配合物への粘土の使用が有効であるが、その反面、焼成収縮が大きくなり亀裂が入る問題がある。本発明者らはシリマナイト族鉱物を併用することで焼成中の亀裂が防止できることを知見した。その結果、壁の厚みが薄くても成形時の亀裂の発生がなく、しかも製品の強度が十分あるチェッカーれんがの製造方法に想到した。
【0010】
すなわち、本発明の熱風炉用チェッカーれんがの製造方法は、ムライト原料10〜50質量%、コランダム含有原料20〜60質量%、シリマナイト族鉱物としてアンダルサイト、カイアナイト、及びシリマナイトのうち1種又は2種以上10〜30質量%、及び粘土3〜20質量%からなり、ムライト原料、コランダム含有原料、アンダルサイト、カイアナイト、及び/又はシリマナイトのうち粒径0.2mm以下の原料が5〜20質量%である耐火原料配合物を混練後、成形し、乾燥、焼成するもので、特に耐火原料配合物の構成に特徴がある。以下、本発明による耐火原料配合物の構成について詳しく説明する。
【0011】
コランダム含有原料は耐クリープ性向上及び強度発現のために20〜60質量%で使用する。コランダム含有原料が20質量%未満では耐クリープ及び強度が不十分となり、60質量%を超えると耐スポーリング性が低下する。
【0012】
ムライト原料は、耐クリープ性及び耐スポーリング性向上のために10〜50質量%で使用する。ムライト原料が10質量%未満では耐クリープ性及び耐スポーリング性が不十分となり、50質量%を超えると耐スポーリング性の向上効果は変わらず逆に原料費のコストアップとなる。
【0013】
ムライト原料、コランダム含有原料、アンダルサイト、カイアナイト、及び/又はシリマナイトのうち粒径0.2mm以下の原料は成形時の充填性を高めることで組織を緻密化し焼成後のれんがのボロツキや欠けを防止するために5〜20質量%使用する。この粒径0.2mm以下の原料が5質量%未満では、焼成後に壁部のエッジ部のボロツキや欠けが発生し、20質量%を超えると組織が緻密になりすぎて耐スポーリング性が低下する。
【0014】
シリマナイト族鉱物としてアンダルサイト、カイアナイト、あるいはシリマナイトは、それ自身が焼成中に膨張することから、粘土の使用による焼成中のれんがの収縮を抑制することで焼成収縮による亀裂の発生を抑制する効果がある。シリマナイト族鉱物としてアンダルサイト、カイアナイト、及びシリマナイトのうち1種又は2種以上は10〜30質量%で使用する。これらのシリマナイト族鉱物が10質量%未満では焼成亀裂の抑制効果が不十分であり、30質量%を超えると熱膨張率が高くなり過ぎて耐スポーリング性が不十分となる。
【0015】
粘土は成形時に成形体の強度を高め亀裂を防止するためと焼成後の強度発現のために3〜20質量%使用する。粘土が3質量%未満では成形体の強度が不十分なため成形体に亀裂が発生し、20質量%を超えると焼成収縮が大きくなり焼成時に亀裂が発生する。焼成後の強度をさらに高くしたい場合、粘土は10質量%以上、すなわち10〜20質量%使用することが好ましい。
【0016】
さらに本発明においては、粘土の多量使用による過焼結を防止するために、耐火原料配合物中のFe
2O
3を1.5質量%以下、及びNa
2Oを1.0質量%以下とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、成形時の亀裂が発生することなく、しかも製品の強度が十分な熱風炉用チェッカーれんがを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明により製造するチェッカーれんがの一例を示す斜視図である。
【
図2】
図1のチェッカーれんがから切り出すサンプルの形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明において耐火原料配合物に使用するコランダム含有原料としては、コランダムを50質量%以上含有する原料のうち1種以上を使用することができる。例えば電融アルミナ、焼結アルミナ、ボーキサイト、焼バンケツ、仮焼アルミナ及びれんが屑のうち1種以上を使用することができる。
【0020】
ムライト原料としては、通常の耐火物の原料として市販されているものを使用することができ、例えば合成ムライト、電融ムライト、あるいは焼結ムライトなどを使用することができる。ムライトは、不純物としてコランダムあるいはクリストバライトを含むことがあり、ムライト純度が85%以上のものを使用することが好ましい。
【0021】
粘土としては、通常の耐火物の原料として市販されているものを使用することができ、例えばSiO
2含有量が40〜70質量%、Al
2O
3含有量が20〜30質量%のものなどを使用することができる。
【0022】
シリマナイト族鉱物としては、シリマナイト、アンダルサイト及びカイアナイトのうち1種又は2種以上を使用する。これらのシリマナイト族鉱物の熱膨張率はいずれも、ムライト、シャモット、及びアルミナの熱膨張率より大きいので、粘土の使用による焼成中のれんがの収縮を抑制することで焼成収縮による亀裂の発生を抑制する効果がある。これらの原料は、天然から採掘される鉱物であり、それらを精製して使用することができる。より耐クリープ性を確保したい場合には、不純物としての酸化鉄(Fe
2O
3)が約2質量%以下、好ましくは1質量%以下とすることもできる。
【0023】
なお、上記以外の原料でも悪影響を及ぼさない範囲で耐火原料配合物に使用することができ、例えばろう石、珪石、溶融シリカ、シャモット等は10質量%以下、好ましくは5質量%以下で使用可能である。
【0024】
本発明のチェッカーれんがの製造方法では、以上の構成を有する耐火原料配合物を使用し、後は一般的なチェッカーれんがの製造方法を採用することができる。すなわち、耐火原料配合物にバインダーを添加して混練、成形、乾燥後、1300〜1600℃で焼成することができる。
【0025】
そして本発明によれば、熱風炉で使用されている公知形状のチェッカーれんがのほか、より熱交換効率に優れる薄壁のチェッカーれんが、例えば壁の厚みが10mm以上15mm未満で、孔の数が7〜37個程度のチェッカーれんがを問題なく製造することができる。
【実施例】
【0026】
表1及び表2に示す耐火原料配合物に水系のバインダーを添加して混練し、プレス機で
図1に示すチェッカーれんがを成形し、乾燥後、1400℃で焼成した。
図1のチェッカーれんがは、壁の厚みTが11mm、れんがの高さHが130mm、れんがの1辺(六角形状の外形の1辺)の長さLが130mm、孔の数が19個である。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
コランダム含有原料として使用した焼バンケツは、コランダムが80質量%のものを使用した。同じくコランダム含有原料として使用したれんが屑は、コランダムが50質量%、鉱物相としてのムライトが40質量%のものを使用した。ムライト原料として使用した合成ムライトは、鉱物としてのムライトが92質量%のものを使用した。シリマナイト族鉱物としてのアンダルサイトはAl
2O
3含有量が60質量%、SiO
2含有量が37質量%のものを、カイアナイトはAl
2O
3含有量が58質量%、SiO
2含有量が39質量%のものを、シリマナイトはAl
2O
3含有量が75質量%、SiO
2含有量が20質量%のものを使用した。粘土は、Al
2O
3含有量が25質量%、SiO
2含有量が55質量%のものを使用した。
【0030】
上述のとおり表1及び表2に示す耐火原料配合物に水系のバインダーを添加して混練し、プレス機で
図1に示すチェッカーれんがを成形し、乾燥後、1400℃で焼成したが、この際、成形時の亀裂と焼成後の外観を評価した。
成形時の亀裂は、10個成形した後の表面の状態を目視で観察し1個でも亀裂があれば×とし、亀裂がないものを○とした。
焼成後の外観は、前記の10個成形したれんがを焼成した後の表面の状態を目視で観察し1個でも亀裂又は壁部のボロツキがあれば×とし、亀裂又は壁部のボロツキがないものを○とした。
【0031】
また、焼成後の
図1のチェッカーれんがから
図2のサンプルを切り出し、圧縮強さを測定するとともに、クリープ試験及びスポーリング試験を行った。
図2のサンプルの寸法は、A、B及びCが74mmで、高さが60mmである。
圧縮強さはJIS−R2206に従い測定した。
クリープ試験はJIS−R2658に従い1300℃で5時間、0.2MPaの条件で実施し、クリープ値が1%以下のものを○とし、1%を超えるものを×とした。
スポーリング試験はJIS−R2657に従い800℃加熱後の水冷法により、20回実施し、20回後でも剥落がないものを○、20回までに剥落のあったものを×とした。
なお、焼成後に亀裂が入った比較例では、亀裂が入っていないれんがの圧縮強さのみを測定し、スポーリング試験とクリープ試験は行っていない。
【0032】
実施例1から実施例3はアンダルサイトの使用量が異なる場合であるがいずれも良好であった。これに対して比較例1はアンダルサイトの使用量が5質量%と本発明の下限値を下回っており、焼成後に10個中5個のれんがに亀裂が発生した。また、比較例2はアンダルサイトの使用量が35質量%と本発明の上限値を超えておりスポーリング試験では17回で剥落し、耐スポーリング性に問題があった。
【0033】
実施例4から実施例7は粘土の使用量が異なる場合であるがいずれも良好であった。なお、実施例4は成形時及び焼成後の亀裂は発生しなかったが成形中に亀裂が入らないように成形中の取り扱いに注意が必要であった。また、実施例4の焼成後の強度は実用上問題ないレベルではあるがやや低くなった。これに対して、比較例3は粘土の使用量が1質量%と本発明の下限値を下回っており、成形時の強度不足のため成形後に10個中4個のれんがに亀裂が発生し、焼成後には10個中6個のれんがに亀裂が発生した。また、亀裂のないれんがの圧縮強さを測定したところ30MPaと低強度で実用上問題のあるレベルであった。一方、比較例4は粘土の使用量が25質量%と本発明の上限を超えており、焼成収縮が大きすぎるため焼成後に10個中3個のれんがに亀裂が発生した。
【0034】
実施例8から実施例10は粒径0.2mm以下のムライト原料の使用量が異なる場合であるがいずれも良好な結果となった。これに対して、比較例5は粒径0.2mm以下のムライト原料を使用しない場合であり、焼成後の圧縮強さは十分あるが、焼成後のれんがの10個中5個に壁部のエッジ部にボロツキや欠けが発生した。また、比較例6は粒径0.2mm以下のムライト原料の使用量が25質量%と本発明の上限を超えており、組織が緻密になりすぎてスポーリング試験では18回で剥落し耐スポーリン性に問題があった。
【0035】
実施例11はシリマナイト族鉱物としてカイヤナイトを、実施例12はシリマナイト族鉱物としてシリマナイトをそれぞれ使用した場合であるが、アンダルサイトを使用した場合と同様に良好な結果となった。
【0036】
実施例13と実施例14は粒径0.2mm以下のコランダム含有原料として焼バンケツを使用した場合、実施例15は粒径0.2mm以下の原料として焼バンケツと合成ムライトとを、実施例16は粒径0.2mm以下の原料として焼バンケツと合成ムライトとアンダリュサイトを、併用した場合であるが、いずれも粒径0.2mm以下のムライト原料を単独で使用した場合と同様に、組織が緻密になり焼成後のれんがのボロツキや欠けもなく良好であった。
【0037】
次に、実施例4及び実施例7と同じ耐火原料配合物を使用して
図1において壁の厚みが15mm及び10mmのチェッカーれんがの製造を行ったところ、成形後及び焼成後の亀裂はなく良好であった。