特許第6754658号(P6754658)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6754658-排気ターボ過給機用タービンの製造方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6754658
(24)【登録日】2020年8月26日
(45)【発行日】2020年9月16日
(54)【発明の名称】排気ターボ過給機用タービンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F02B 39/00 20060101AFI20200907BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20200907BHJP
   F01D 5/04 20060101ALI20200907BHJP
   F02C 7/00 20060101ALI20200907BHJP
   B22C 9/24 20060101ALN20200907BHJP
【FI】
   F02B39/00 Q
   F02B39/00 T
   F01D25/00 X
   F01D5/04
   F02C7/00 D
   !B22C9/24 C
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2016-192492(P2016-192492)
(22)【出願日】2016年9月30日
(65)【公開番号】特開2018-53837(P2018-53837A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2019年8月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】澤下 真人
【審査官】 小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−120409(JP,A)
【文献】 特開2010−270644(JP,A)
【文献】 特開2010−275880(JP,A)
【文献】 特開2012−092815(JP,A)
【文献】 特開2014−169674(JP,A)
【文献】 特開2014−172517(JP,A)
【文献】 特開2016−156302(JP,A)
【文献】 特表2010−521608(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0013521(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 5/04
F02B 39/00
B22C 9/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気ターボ過給機に使用するタービンの製造方法であって、
前記タービンは、その両端に開口した中心穴が空いた状態に製造されており、使用状態において回転軸の一端部が前記中心穴強制的に嵌着される構成において、
前記中心穴が1つの蓋で塞がれた状態の中間品を鋳造又はダイキャストで製造してから、前記蓋を除去して前記中心穴を両端に開口させることを特徴とする、
排気ターボ過給機用タービンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、自動車用等の内燃機関に設ける排気ターボ過給機に使用するタービンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
排気ターボ過給機は、排気ガスで駆動されるタービンによってコンプレッサを回転させるものであり、タービンとコンプレッサとは回転軸によって連結されている。そして、タービンと回転軸との固定手段としては、回転軸の一端部をタービンに形成した穴に強制嵌合するタイプが一般的であるが、特許文献1には、タービンを回転軸にボルト又はナットで締結していると思われる構造が開示されている。他方、従来の強制嵌合方式では、タービンには、一端部のみに開口した袋穴を空けて、この袋穴に回転軸の一端部を強制的に嵌め込んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭58−49691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1はねじ止め方式と推測されるが、ねじ止め方式は、組み立てに手間がかかる問題や、緩みが発生する可能性などがある。これに対して強制嵌合方式は、組み立てを短時間で行えると共に緩みも生じない利点があり、そこで、強制嵌合方式が一般化している。
【0005】
さて、タービンの回転トルクはウエストゲートバルブによって制御されており、制御の応答性(すなわち過給の応答性)を良くするには、できるだけタービンの回転の慣性力が小さいのが好ましく、そのためには、タービンはできるだけ軽量化すべきである。また、タービンは排気ガスに晒されて高温になるため、放熱性もできるだけ良くすべきである。
【0006】
しかし、ねじ式にしても強制嵌合方式にしても、従来のものは軽量化や放熱性が配慮されているとは言い難く、まだ改良の余地があるといえる。
【0007】
本願発明は、このような現状を改善すべく成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、排気ターボ過給機に使用するタービンの製造方法に係るもので、前記タービンは、その両端に開口した中心穴が空いた状態に製造されており、使用状態において回転軸の一端部が前記中心穴に強制的に嵌着される構成において、
前記中心穴が1つの蓋で塞がれた状態の中間品を鋳造又はダイキャストで製造してから、前記蓋を除去して前記中心穴を両端に開口させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本願発明のタービンは、回転軸を強制嵌合する方式でありつつ、中心穴が両端に開口しているため、タービンを軽量化して回転慣性力を低減できる。このため、ウエストゲートバルブを過給制御の応答性を向上できる。従って、自動車用に適用すると、ドライバビリティを向上できる。
【0011】
また、中心穴は排気ガスの排出方向に向いて開口しているため、従来に比べてタービンの放熱面積を増大でき、その結果、放熱性を向上して耐久性の向上に貢献できる。また、回転軸を強制嵌合するに際して、タービンの内部に空気が溜まるとこれが反力として回転軸に作用するが、本願発明では空気がタービンの内部に溜まることはないため、回転軸の強制嵌合をしっかりと行うことができる。
【0012】
さて、タービンは複雑な形状であるため、特殊な合金を使用して鋳造していることが多い。この鋳造においては、高い品質を維持するためには、金属湯が鋳型の空所に均等に流れ込むことが要請される。しかるに、本願発明では、蓋の箇所から金属湯を鋳型に流すことにより、金属湯を鋳型の空所の各部位に等しい速度で流し込むことができるため、鋳込み不良のような問題が生じることはなく、高い品質を確保できる。
【0013】
そして、中間品から蓋を切除すると、中心穴は両端に開口するために、上記した効果を享受できる。従って、本願発明によると、品質に優れて軽量化されたタービンを、容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】(A)は実施形態により製造されたタービンを使用した排気ターボ過給機の要縦断正面図、(B)はタービンの側面図、(C)はタービンの正面図である。
図2】(A)はタービンハウジングと回転軸との分離縦断正面図、(B)(C)はタービンの製造工程での中間品を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、方向を明確にするため前後・左右の文言を使用するが、これは、回転軸の長手方向を左右方向として、これと直交した水平方向を前後方向としている。
【0016】
図1(A),図2(A)に示すように、排気ターボ過給機は、ブレード式のタービン1を備えており、タービン1には回転軸2の一端部が強制嵌合によって固定されている。回転軸2の他端部にはコンプレッサが固定されているが、これは省略している。
【0017】
タービン1は、タービンハウジング3に形成されたタービン室4に配置されており、他方、回転軸2は、中間ハウジング5に形成された軸受け部6に、フローティングメタル7を介して回転自在に保持されている。本実施形態では、タービンハウジング3と中間ハウジング5とは、アルミの鋳造によって一体に製造されている。中間ハウジング5のうちタービンハウジング3と反対側の端部には、図1(A)に一部だけ示すコンプレッサハウジング8が、C形のストッパーリング9を介して抜け不能に嵌まっている。
【0018】
タービンハウジング3には、タービン室4の外周部に連通したタービン側スクロール空間10が形成されており、タービン側スクロール空間10を挟んだ左右両側に、冷却水ジャケット11が形成されている。軸受け部6の上部には、上下方向に貫通したオイル入口12が形成されている。また、軸受け部6の下方には、空洞状のオイル出口空間13が形成されている。更に、軸受け部6の左右両側方には、空洞部14が形成されており、空洞部14は、オイル出口空間13と連通している。
【0019】
軸受け部6のうちコンプレッサハウジング8の側の端部には、金属製の第1オイルシール15を固定している。なお、第1オイルシール15の断面表示(ハッチング)は省略している。また、中間ハウジング5の左端部は大きく開口しており、この大径の開口部にリテーナリング16が固定されており、リテーナリング16と第1オイルシール15との間には、第2オイルシール17が介在している。第2オイルシール17は第1オイルシール15に固定されている。
【0020】
回転軸2のうち、タービンハウジング3の貫通穴(内周穴)3aに嵌まっている一端寄り部位は、フローティングメタル7に嵌まっている部分より大径になっており、この大径部に複数の環状溝18を形成して、環状溝18にオイルシール19を装着している。
【0021】
排気ガスは、タービン側スクロール空間10に周方向から流入して、タービン1を回転駆動する仕事をしてから軸方向に排出される。従って、タービンハウジング3には、タービン室4に連通した排気出口20が、軸方向に向いて開口している。
【0022】
本実施形態では、タービンハウジング3と中間ハウジング5とが一体化しているため、回転軸2及びタービン1は、排気出口20の側からタービン室4に嵌め込む必要がある。そこで、タービン室4の外周はストレート状に形成されて、タービン1を構成するブレード21の稜線も、正面で軸線と平行な部分を有している。
【0023】
そして、タービン1には、その一端と他端とに開口するストレート状の中心穴22が空いており、回転軸2の一端部2aが、中心穴22の端部に、焼き嵌め等の強制嵌合で固定されている。従って、タービン1を軽量化して過給制御の応答性を向上できると共に、表面積の増大によって放熱性も向上できる。
【0024】
タービン1は合金鋼等の金属を用いた鋳造品であり、図2(B)(C)に示すように、他端部が蓋23で塞がれた状態の中間品24を鋳造してから、蓋23を切削加工で切除して製品と成している。この場合、図2(B)の例では、蓋23は、タービン1の他端面に連続した有底筒状に形成されており、フライス加工や旋盤加工で蓋23を除去している。従って、タービン1の他端面の仕上げも同時に行われている。他方、図2(C)に示す例では、蓋23は、その一部がタービン1の内部に入った栓の状態に形成されており、ドリル25によって切除している。従って、図2(C)では、蓋23の切除と中心穴22の精度出しとを同時に行える。
【0025】
いずれにしても、蓋23は中心穴22を塞いでいるため、鋳造に際しては、金属湯が蓋23の箇所を介して鋳型の内部に均等に流れていく。このため、タービン1を高い精度で製造できると共に、品質も安定させることができる。つまり、蓋23の部分が金属湯を均等に流す分配口として機能するため、タービン1を高精度で安定的に製造できるのである。
【0026】
上記の実施形態は、タービンハウジングと中間ハウジングとを一体化しているが、本願発明は、タービンハウジングと中間ハウジングとが別体になっているタイプにも適用できる。従って、タービン1を構成するブレードは様々な形状を採用できる。また、実施形態の中心穴22はストレート穴であったが、中心穴を、異なる内径の部分がある異径穴に形成することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本願発明は、実際に排気ターボ過給機に具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0028】
1 タービン
2 回転軸
3 タービンハウジング
4 タービン室
5 中間ハウジング
6 軸受け部
10 タービン側スクロール空間
14 排気出口
22 中心穴
23 中間品の蓋
24 中間品
図1
図2