特許第6754697号(P6754697)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6754697セントロメアDNA配列を含むベクター及びその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6754697
(24)【登録日】2020年8月26日
(45)【発行日】2020年9月16日
(54)【発明の名称】セントロメアDNA配列を含むベクター及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/63 20060101AFI20200907BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20200907BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20200907BHJP
【FI】
   C12N15/63 ZZNA
   C12N1/19
   C12N1/21
【請求項の数】24
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2016-562669(P2016-562669)
(86)(22)【出願日】2015年12月3日
(86)【国際出願番号】JP2015083977
(87)【国際公開番号】WO2016088824
(87)【国際公開日】20160609
【審査請求日】2018年10月26日
(31)【優先権主張番号】特願2014-245429(P2014-245429)
(32)【優先日】2014年12月3日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業「国際基準に適合した次世代抗体医薬等の製造技術のうち高生産宿主構築の効率化基盤技術の開発に係るもの」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西 輝之
(72)【発明者】
【氏名】西山 陶三
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 徹
(72)【発明者】
【氏名】大窪 雄二
【審査官】 川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2014/0244228(US,A1)
【文献】 特開昭61−181385(JP,A)
【文献】 J. Biotechnol., 2011, Vol. 154, pp. 312-320
【文献】 Genet., 1990, Vol. 6, No. 5, pp. 150-154
【文献】 J. Cell Biol., 1991, Vol. 112, No. 2, pp. 191-201
【文献】 Mol. Genet. Genomics, 2010, Vol. 284, pp. 75-94
【文献】 Cell, 2009, Vol. 138, No. 6, pp. 1067-1082
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(c)のいずれかの塩基配列;
(a)配列番号12、15、18、又は21に示す塩基配列
b)配列番号12、15、18、又は21に示す塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列;
c)配列番号12、15、18、又は21に示す塩基配列において、1〜75個の塩基が置換、欠失、挿入及び/又は付加した塩基配列;
を含むベクターであって、前記(b)〜(c)の塩基配列が、セントロメア領域として機能する配列及び/又は自律複製配列を含む、ベクター。
【請求項2】
前記(a)〜(c)のいずれかの塩基配列の上流と下流に位置する塩基配列が、以下の(e)〜(f)のいずれかの塩基配列の対;
(e)上流の塩基配列と下流の塩基配列とが相補的な塩基配列である対
f)上流の塩基配列と下流の塩基配列とが一方の相補的な塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列である対;
をそれぞれ含む、請求項1に記載のベクター。
【請求項3】
前記(a)〜(c)のいずれかに記載の塩基配列のGC含有率を1としたときの、前記(e)〜(f)のいずれかに記載の上流及び/又は下流の塩基配列のGC含有率が0.8以上であり、1.2以下である請求項2に記載のベクター。
【請求項4】
前記(e)〜(f)のいずれかの塩基配列の対において、上流及び/又は下流の塩基配列のGC含有率が41%以下である請求項2又は3に記載のベクター。
【請求項5】
前記(e)〜(f)のいずれかの塩基配列の対において、上流及び下流の塩基配列の少なくとも一方が、コマガタエラ属酵母染色体DNAの塩基配列である、請求項2〜4のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項6】
前記(a)〜(c)のいずれかの塩基配列、並びに、前記(e)〜(f)のいずれかの上流及び下流の塩基配列から選択される少なくとも1つの塩基配列を含む部位が、centromere protein(CENP)と結合能を有する請求項1〜5のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項7】
前記(e)〜(f)のいずれかの塩基配列の対において、上流及び下流の塩基配列がそれぞれ2800塩基以下の塩基配列である、請求項2〜6のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項8】
前記(e)〜(f)のいずれかの塩基配列の対において、上流及び下流の塩基配列がそれぞれ1900〜2800塩基の塩基配列である、請求項7に記載のベクター。
【請求項9】
前記(e)〜(f)のいずれかの塩基配列の対において、上流又は下流の塩基配列が、以下の(h)〜(j)のいずれかの塩基配列;
(h)配列番号13、16、19、又は22に示す塩基配列
i)配列番号13、16、19、又は22に示す塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列;
j)配列番号13、16、19、又は22に示す塩基配列において、1〜200個の塩基が置換、欠失、挿入及び/又は付加した塩基配列;
である、請求項2〜8のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項10】
前記(e)〜(f)のいずれかの塩基配列の対において、上流又は下流の塩基配列が、以下の(l)〜(n)のいずれかの塩基配列;
(l)配列番号14、17、20、又は23に示す塩基配列
m)配列番号14、17、20、又は23に示す塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列;
n)配列番号14、17、20、又は23に示す塩基配列において、1〜200個の塩基が置換、欠失、挿入及び/又は付加した塩基配列;
である、請求項2〜8のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項11】
前記(e)〜(f)のいずれかの塩基配列の対において、上流及び下流の塩基配列が、以下の(p)〜(s)のいずれかの塩基配列の対;
(p)上流に配列番号13に示す塩基配列、及び、下流に配列番号14に示す塩基配列である対;
(q)上流に配列番号16に示す塩基配列、及び、下流に配列番号17に示す塩基配列である対;
(r)上流に配列番号19に示す塩基配列、及び、下流に配列番号20に示す塩基配列である対;
(s)上流に配列番号22に示す塩基配列、及び、下流に配列番号23に示す塩基配列である対;
をそれぞれ含む、請求項2〜8のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項12】
以下の(t)〜(v)のいずれかの塩基配列;
(t)配列番号41、42、85又は86に示す塩基配列
u)配列番号41、42、85又は86に示す塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列;
v)配列番号41若しくは85に示す塩基配列において、1〜10個の塩基が置換、欠失、挿入及び/又は付加した塩基配列、又は配列番号42若しくは86に示す塩基配列において、1〜20個の塩基が置換、欠失、挿入及び/又は付加した塩基配列;
を含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項13】
さらにAutonomous replication sequence(ARS)を含む請求項1〜12のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項14】
自律複製型ベクターである、請求項1〜13のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項15】
前記自律複製型ベクターが、前記(a)〜(c)のいずれかの塩基配列が由来する生物種とは異なる生物種に由来するAutonomous replication sequence(ARS)及び/又はセントロメアDNA配列を更に含む、請求項14に記載のベクター。
【請求項16】
以下の(t)〜(v)のいずれかの塩基配列;
(t)配列番号41、42、85又は86に示す塩基配列
u)配列番号41、42、85又は86に示す塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列;
v)配列番号41若しくは85に示す塩基配列において、1〜10個の塩基が置換、欠失、挿入及び/又は付加した塩基配列、又は配列番号42若しくは86に示す塩基配列において、1〜20個の塩基が置換、欠失、挿入及び/又は付加した塩基配列;
を含むベクターであって、前記(u)〜(v)の塩基配列が、セントロメア領域として機能する配列及び/又は自律複製配列を含む、ベクター。
【請求項17】
以下の(h)〜(j)のいずれかの塩基配列;
(h)配列番号13、16、19、又は22に示す塩基配列
i)配列番号13、16、19、又は22に示す塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列;
j)配列番号13、16、19、又は22に示す塩基配列において、1〜200個の塩基が置換、欠失、挿入及び/又は付加した塩基配列;
を含むベクターであって、前記(i)〜(j)の塩基配列が、セントロメア領域として機能する配列及び/又は自律複製配列を含む、ベクター。
【請求項18】
以下の(l)〜(n)のいずれかの塩基配列;
(l)配列番号14、17、20、又は23に示す塩基配列
m)配列番号14、17、20、又は23に示す塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列;
n)配列番号14、17、20、又は23に示す塩基配列において、1〜200個の塩基が置換、欠失、挿入及び/又は付加した塩基配列;
を含むベクターであって、前記(m)〜(n)の塩基配列が、セントロメア領域として機能する配列及び/又は自律複製配列を含む、ベクター。
【請求項19】
配列番号1〜4のいずれかに示す塩基配列を含むベクター。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれか1項に記載のベクターを細胞に導入する工程を含む、細胞の形質転換法。
【請求項21】
請求項1〜19のいずれか1項に記載のベクターにより細胞を形質転換して得られる形質転換体。
【請求項22】
細胞が酵母又は大腸菌である、請求項21に記載の形質転換体。
【請求項23】
細胞がメタノール資化性酵母である、請求項22に記載の形質転換体。
【請求項24】
メタノール資化性酵母がコマガタエラ属酵母又はオガタエア属酵母である、請求項23に記載の形質転換体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵母のセントロメアDNA配列を含むベクター、及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代シーケンサーの開発等によってヒトだけでなく多くの生物のゲノムが解読され、その他オミクス解析による知見も合わせて塩基配列だけでなくゲノム構造、遺伝子発現情報、エピジェネティックな変化、タンパク質発現情報、細胞内外代謝物変化等も理解できるようになった。産業利用目的でそれらの生物を人為的に操作するために、古くから形質転換による遺伝子組換え、例えば遺伝子断片等のゲノム組込みや自律複製型ベクターが開発されてきており、最近では大規模ゲノム編集、ゲノムシャッフリング、人工染色体といった取り組みが行われている。しかし、ゲノム組込み等のゲノム編集は目的の位置に挿入されない課題やゲノム構造を大きく変化させてしまうことによる予期せぬ影響が懸念されている。また、自律複製型ベクターは大腸菌等の原核生物においては広く利用されているが、酵母などの真核生物においては構築が煩雑であることや、多くの真核生物用自律複製型ベクターにはセントロメアDNA配列が含まれないため不安定であることが課題となっている。
【0003】
そこで出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)においては、この課題を解決するためにセントロメアDNA配列の探索が行われ、DNA配列125bpが特定された(非特許文献1)。また分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)においても、長大なセントロメアDNA配列が特定されている(非特許文献2)。セントロメアDNA配列を含んだ自律複製型ベクターは宿主に応じてプラスミドの状態として用いられるだけでなく、テロメアDNAを付加した人工染色体型として用いる試みがなされている。しかし、宿主を超えてのセントロメアDNA配列の利用は染色体分配を構成するタンパク質等の違いから非常に難しい。古くから産業利用されてきたコマガタエラ・パストリス(Komagataella pastoris)においても自律複製配列はいくつか報告されているものの、セントロメアDNA配列の特定までには至っていなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Trends Genet. 1990; 6: 150-154
【非特許文献2】J Cell Biol. 1991 Jan; 112(2): 191-201.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、宿主細胞での安定性が向上したベクターを提供することを解決すべき課題とする。このようなベクターは、産業利用目的での宿主改良等の各種用途に有用であると期待される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、コマガタエラ・パストリスの染色体DNAの塩基配列の網羅的解析により、コマガタエラ・パストリスが持つ4つの染色体のそれぞれについてセントロメアを構成するDNA配列を特定した。そして該配列又はその一部を含むベクターが宿主において安定的に保持されることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)
以下の(a)〜(d)のいずれかの塩基配列;
(a)配列番号12、15、18、又は21に示す塩基配列;
(b)配列番号12、15、18、又は21に示す塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸の塩基配列;
(c)配列番号12、15、18、又は21に示す塩基配列と85%以上の配列同一性を有する塩基配列;
(d)配列番号12、15、18、又は21に示す塩基配列において、1もしくは複数個の塩基配列が置換、欠失、挿入及び/又は付加した塩基配列;
を含むベクター。
(2)
前記(a)〜(d)のいずれかの塩基配列の上流と下流に位置する塩基配列が、以下の(e)〜(g)のいずれかの塩基配列の対;
(e)上流の塩基配列と下流の塩基配列とが相補的な塩基配列である対;
(f)上流の塩基配列と下流の塩基配列とがストリンジェントな条件下で相互にハイブリダイズする核酸の塩基配列である対;
(g)上流の塩基配列と下流の塩基配列とが一方の相補的な塩基配列と85%以上の配列同一性を有する塩基配列である対;
をそれぞれ含む、(1)に記載のベクター。
(3)
前記(a)〜(d)のいずれかに記載の塩基配列のGC含有率を1としたときの、前記(e)〜(g)のいずれかに記載の上流及び/又は下流の塩基配列のGC含有率が0.8以上であり、1.2以下である(2)に記載のベクター。
(4)
前記(e)〜(g)のいずれかの塩基配列の対において、上流及び/又は下流の塩基配列のGC含有率が41%以下である(2)又は(3)に記載のベクター。
(5)
前記(e)〜(g)のいずれかの塩基配列の対において、上流及び下流の塩基配列の少なくとも一方が、コマガタエラ属酵母染色体DNAの塩基配列である、(2)〜(4)のいずれか1つに記載のベクター。
(6)
前記(a)〜(d)のいずれかの塩基配列、並びに、前記(e)〜(g)のいずれかの上流及び下流の塩基配列から選択される少なくとも1つの塩基配列を含む部位が、centromere protein(CENP)と結合能を有する(1)〜(5)のいずれか1つに記載のベクター。
(7)
前記(e)〜(g)のいずれかの塩基配列の対において、上流及び下流の塩基配列がそれぞれ2800塩基以下の塩基配列である、(2)〜(6)のいずれか1つに記載のベクター。
(8)
前記(e)〜(g)のいずれかの塩基配列の対において、上流及び下流の塩基配列がそれぞれ1900〜2800塩基の塩基配列である、(7)に記載のベクター。
(9)
前記(e)〜(g)のいずれかの塩基配列の対において、上流又は下流の塩基配列が、以下の(h)〜(k)のいずれかの塩基配列;
(h)配列番号13、16、19、又は22に示す塩基配列;
(i)配列番号13、16、19、又は22に示す塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸の塩基配列;
(j)配列番号13、16、19、又は22に示す塩基配列と85%以上の配列同一性を有する塩基配列;
(k)配列番号13、16、19、又は22に示す塩基配列において、1もしくは複数個の塩基配列が置換、欠失、挿入及び/又は付加した塩基配列;
である、(2)〜(8)のいずれか1つに記載のベクター。
(10)
前記(e)〜(g)のいずれかの塩基配列の対において、上流又は下流の塩基配列が、以下の(l)〜(o)のいずれかの塩基配列;
(l)配列番号14、17、20、又は23に示す塩基配列;
(m)配列番号14、17、20、又は23に示す塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸の塩基配列;
(n)配列番号14、17、20、又は23に示す塩基配列と85%以上の配列同一性を有する塩基配列;
(o)配列番号14、17、20、又は23に示す塩基配列において、1もしくは複数個の塩基配列が置換、欠失、挿入及び/又は付加した塩基配列;
である、(2)〜(8)のいずれか1つに記載のベクター。
(11)
前記(e)〜(g)のいずれかの塩基配列の対において、上流及び下流の塩基配列が、以下の(p)〜(s)のいずれかの塩基配列の対;
(p)上流に配列番号13に示す塩基配列、及び、下流に配列番号14に示す塩基配列である対;
(q)上流に配列番号16に示す塩基配列、及び、下流に配列番号17に示す塩基配列である対;
(r)上流に配列番号19に示す塩基配列、及び、下流に配列番号20に示す塩基配列である対;
(s)上流に配列番号22に示す塩基配列、及び、下流に配列番号23に示す塩基配列である対;
をそれぞれ含む、(2)〜(8)のいずれか1つに記載のベクター。
(12)
以下の(t)〜(w)のいずれかの塩基配列;
(t)配列番号41、42、85又は86に示す塩基配列;
(u)配列番号41、42、85又は86に示す塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸の塩基配列;
(v)配列番号41、42、85又は86に示す塩基配列と85%以上の配列同一性を有する塩基配列;
(w)配列番号41、42、85又は86に示す塩基配列において、1もしくは複数個の塩基が置換、欠失、挿入及び/又は付加した塩基配列;
を含む、(1)〜(11)のいずれか1つに記載のベクター。
(13)
さらにAutonomous replication sequence(ARS)を含む(1)〜(12)のいずれか1つに記載のベクター。
(14)
前記(a)〜(d)のいずれかの塩基配列の、上流(5’末端側)及び/又は下流(3’末端側)に、前記(h)〜(o)のいずれかの塩基配列、より好ましくは前記(h)及び(l)のいずれかの塩基配列、の少なくとも一つを含む、(1)に記載のベクター。
(15)
自律複製型ベクターである、(1)〜(14)のいずれか1つに記載のベクター。
(16)
前記自律複製型ベクターが、前記(a)〜(d)のいずれかの塩基配列が由来する生物種とは異なる生物種に由来するAutonomous replication sequence(ARS)及び/又はセントロメアDNA配列を更に含む、(15)に記載のベクター。
(17)
以下の(t)〜(w)のいずれかの塩基配列;
(t)配列番号41、42、85又は86に示す塩基配列;
(u)配列番号41、42、85又は86に示す塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸の塩基配列;
(v)配列番号41、42、85又は86に示す塩基配列と85%以上の配列同一性を有する塩基配列;
(w)配列番号41、42、85又は86に示す塩基配列において、1もしくは複数個の塩基が置換、欠失、挿入及び/又は付加した塩基配列;
を含むベクター。
(18)
以下の(h)〜(k)のいずれかの塩基配列;
(h)配列番号13、16、19、又は22に示す塩基配列;
(i)配列番号13、16、19、又は22に示す塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸の塩基配列;
(j)配列番号13、16、19、又は22に示す塩基配列と85%以上の配列同一性を有する塩基配列;
(k)配列番号13、16、19、又は22に示す塩基配列において、1もしくは複数個の塩基が置換、欠失、挿入及び/又は付加した塩基配列;
を含むベクター。
(19)
以下の(l)〜(o)のいずれかの塩基配列;
(l)配列番号14、17、20、又は23に示す塩基配列;
(m)配列番号14、17、20、又は23に示す塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸の塩基配列;
(n)配列番号14、17、20、又は23に示す塩基配列と85%以上の配列同一性を有する塩基配列;
(o)配列番号14、17、20、又は23に示す塩基配列において、1もしくは複数個の塩基が置換、欠失、挿入及び/又は付加した塩基配列;
を含むベクター。
(20)
以下の(a)〜(d)のいずれかの塩基配列;
(a)配列番号12、15、18、又は21に示す塩基配列;
(b)配列番号12、15、18、又は21に示す塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸の塩基配列;
(c)配列番号12、15、18、又は21に示す塩基配列と85%以上の配列同一性を有する塩基配列;
(d)配列番号12、15、18、又は21に示す塩基配列において、1もしくは複数個の塩基配列が置換、欠失、挿入及び/又は付加した塩基配列;
を含まない、
(17)〜(19)のいずれか1つに記載のベクター。
(21)
(1)〜(16)のいずれかのベクターではない、(17)〜(19)のいずれか1つに記載のベクター。
(22)
配列番号1〜4のいずれかに示す塩基配列を含むベクター。
(23)
(1)〜(22)のいずれか1つに記載のベクターを細胞に導入する工程を含む、細胞の形質転換法。
(24)
(1)〜(23)のいずれか1つに記載のベクターにより細胞を形質転換して得られる形質転換体。
(25)
細胞が酵母又は大腸菌である、(23)に記載の形質転換法又は(24)に記載の形質転換体。
(26)
細胞がメタノール資化性酵母である、(25)に記載の形質転換法又は形質転換体。
(27)
メタノール資化性酵母がコマガタエラ属酵母又はオガタエア属酵母である、(26)に記載の形質転換法又は形質転換体。
【0008】
本発明において、2つの核酸がストリンジェントな条件下でハイブリダイズするとは例えば以下の意味である。例えば、核酸Xを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃で核酸Yとハイブリダイゼーションを行った後、2倍濃度のSSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウムよりなる)を用い、65℃の条件下でフィルターを洗浄することにより、核酸Yがフィルター上に結合した核酸として取得できる場合に、核酸Yを「核酸Xとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸」と言うことができる。或いは核酸Xと核酸Yとが「ストリンジェントな条件下で相互にハイブリダイズする」ということができる。核酸Yは好ましくは65℃で0.5倍濃度のSSC溶液で洗浄、より好ましくは65℃で0.2倍濃度のSSC溶液で洗浄、更に好ましくは65℃で0.1倍濃度のSSC溶液で前記フィルターを洗浄することによりフィルター上に結合した核酸として取得できる核酸である。基準となる核酸Xは、コロニーまたはプラーク由来の核酸Xであることができる。
【0009】
本発明において塩基配列の配列同一性は、当業者に周知の方法、配列解析ソフトウェア等を使用して求めることができる。例えば、BLASTアルゴリズムのblastnプログラムやFASTAアルゴリズムのfastaプログラムが挙げられる。本発明において、ある評価対象塩基配列の、塩基配列Zとの「配列同一性」とは、塩基配列Zと評価対象塩基配列とを整列(アラインメント)させ、必要に応じてギャップを導入して、両者の塩基一致度が最も高くなるようにしたときの、ギャップ部分も含んだ塩基配列において同一部位に同一の塩基が出現する頻度を%で表示した値である。
【0010】
本発明において塩基の置換、欠失、挿入及び/又は付加に関する「1もしくは複数個」とは、例えば、前記(d)の塩基配列では、配列番号12、15、18、21に示す塩基配列において、1〜500個、1〜400個、1〜300個、1〜200個、1〜190個、1〜160個、1〜130個、1〜100個、1〜75個、1〜50個、1〜25個、1〜20個、1〜15個、1〜10個、1〜7個、1〜5個、1〜4個、1〜3個、又は1もしくは2個をいう。
【0011】
一方、前記(k)の塩基配列又は(o)の塩基配列では、配列番号13、14、16、17、19、20、22、23に示す塩基配列において、例えば、1〜1500個、1〜1000個、1〜500個、1〜400個、1〜395個、1〜380個、1〜350個、1〜325個、1〜300個、1〜295個、1〜250個、1〜225個、1〜200個、1〜175個、1〜150個、1〜125個、1〜100個、1〜75個、1〜50個、1〜25個、1〜20個、1〜15個、1〜10個、1〜7個、1〜5個、1〜4個、1〜3個、又は1もしくは2個をいう。
【0012】
一方、前記(w)の塩基配列では、配列番号41又は85 に示す塩基配列において、例えば、1〜100個、1〜90個、1〜80個、1〜70個、1〜60個、1〜50個、1〜40個、1〜30個、1〜25個、1〜20個、1〜15個、1〜10個、1〜7個、1〜5個、1〜4個、1〜3個、又は1もしくは2個をいう。また、前記(w)の塩基配列では、配列番号42又は86に示す塩基配列において、例えば、1〜210個、1〜200個、1〜190個、1〜180個、1〜170個、1〜160個、1〜150個、1〜140個、1〜130個、1〜120個、1〜110個、1〜100個、1〜90個、1〜80個、1〜70個、1〜60個、1〜50個、1〜40個、1〜30個、1〜25個、1〜20個、1〜15個、1〜10個、1〜7個、1〜5個、1〜4個、1〜3個、又は1もしくは2個をいう。
【0013】
本発明において「核酸」とは、「ポリヌクレオチド」と呼ぶこともでき、DNA又はRNAを指し、典型的にはDNAを指す。
【0014】
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2014-245429号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のベクターは、宿主において安定的に保持されることができる。さらに、本発明のベクターは、宿主において増幅させることができる。したがって、目的化合物の生産等の産業利用目的に応じて、本発明のベクターに更に目的化合物をコードする塩基配列を組み込んだ目的化合物生産用ベクターを用いて、宿主細胞を形質転換することにより、該化合物を効率的に生産させることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を、好ましい実施形態を用いて詳細に説明する。
【0017】
1. セントロメアDNA配列を含むベクター
本発明者らは、コマガタエラ・パストリスの4本の染色体DNAの塩基配列(EMBL (The European Molecular Biology Laboratory) ACCESSION No. FR839628〜FR839631、J. Biotechnol. 154 (4), 312-320 (2011))の網羅的解析により、配列番号1、2、3及び4に示す塩基配列がコマガタエラ・パストリスの4本の染色体DNAに各々分かれて存在していることを見出した。
【0018】
本発明者らは更に配列番号1、2、3及び4に示す塩基配列が以下の特徴的な構造を有することを見出している。
【0019】
配列番号1の塩基配列は、配列番号12に示す塩基配列の上流(5’末端側)に配列番号13に示す塩基配列が連結し、また配列番号12に示す塩基配列の下流(3’末端側)に配列番号13に示す塩基配列と相補的な、配列番号14に示す塩基配列が連結した構造を有する。
【0020】
配列番号2の塩基配列は、配列番号15に示す塩基配列の上流(5’末端側)に配列番号16に示す塩基配列が連結し、また配列番号15に示す塩基配列の下流(3’末端側)に配列番号16に示す塩基配列と相補的な、配列番号17に示す塩基配列が連結した構造を有する。
【0021】
配列番号3の塩基配列は、配列番号18に示す塩基配列の上流(5’末端側)に配列番号19に示す塩基配列が連結し、また配列番号18に示す塩基配列の下流(3’末端側)に配列番号19に示す塩基配列と相補的な、配列番号20に示す塩基配列が連結した構造を有する。
【0022】
配列番号4の塩基配列は、配列番号21に示す塩基配列の上流(5’末端側)に配列番号22に示す塩基配列が連結し、また配列番号21に示す塩基配列の下流(3’末端側)に配列番号22に示す塩基配列と相補的な、配列番号23に示す塩基配列が連結した構造を有する。
【0023】
本発明者らは、上記知見及び実施例に示す実験結果をもとに、本発明のベクターを完成させるに至った。
【0024】
1.1.本発明のベクターの特徴
一態様において、本発明のベクターは、少なくとも以下の(a)〜(d)のいずれかの塩基配列;
(a)配列番号12、15、18、又は21に示す塩基配列;
(b)配列番号12、15、18、又は21に示す塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸の塩基配列;
(c)配列番号12、15、18、又は21に示す塩基配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、最も好ましくは99%以上の配列同一性を有する塩基配列;
(d)配列番号12、15、18、又は21に示す塩基配列において、1もしくは複数個の塩基が置換、欠失、挿入及び/又は付加した塩基配列;
を含む。
【0025】
他の態様において、本発明のベクターは、以下の(t)〜(w)のいずれかの塩基配列;
(t)配列番号41若しくは42に示す塩基配列、又は配列番号41若しくは42に示す塩基配列に相補的な配列である配列番号85若しくは86に示す塩基配列、好ましくは配列番号41若しくは42に示す塩基配列;
(u)配列番号41、42、85、又は86、好ましくは配列番号41又は42に示す塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸の塩基配列;
(v)配列番号41、42、85又は86、好ましくは配列番号41又は42に示す塩基配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、最も好ましくは99%以上の配列同一性を有する塩基配列;
(w)配列番号41、42、85又は86、好ましくは配列番号41又は42に示す塩基配列において、1もしくは複数個の塩基が置換、欠失、挿入及び/又は付加した塩基配列;
を含む。
【0026】
本態様に係るベクターは、好ましくは、自律複製能を有するベクターとして利用可能である。
【0027】
(w)の塩基配列の例として、配列番号41又は85或いは前記(u)又は(v)(ただし配列番号41、42、85又は86に示す塩基配列が、配列番号41又は85に示す塩基配列である場合)、好ましくは配列番号41或いは前記(u)又は(v)(ただし配列番号41、42、85又は86に示す塩基配列が、配列番号41に示す塩基配列である場合)、特に好ましくは配列番号41の塩基配列のうち、第N塩基から開始する連続したm個の塩基からなる部分塩基配列(ここでmは5塩基以上、好ましくは10塩基以上かつ(111−N+1)塩基以下の整数であり、Nは1〜107、好ましくは1〜102までの整数)が挙げられる。mは、例えば、5、6、7、8、9、10、11、12…(111−N+1)のうちいずれか1つであってよく、Nは1、2、3、4、…107のうちいずれか1つであってよい。同様に、(w)の塩基配列の例として、配列番号42又は86或いは前記(u)又は(v)(ただし配列番号41、42、85又は86に示す塩基配列が、配列番号42又は86に示す塩基配列である場合)、好ましくは配列番号42或いは前記(u)又は(v)(ただし配列番号41、42、85又は86に示す塩基配列が、配列番号42に示す塩基配列である場合)、特に好ましくは配列番号42の塩基配列のうち、第N'塩基から開始する連続したm'個の塩基からなる部分塩基配列(ここでm'は5塩基以上、好ましくは10塩基以上かつ(218−N'+1)塩基以下の整数であり、N'は1〜214、好ましくは1〜209までの整数)が挙げられる。m'は、例えば、5、6、7、8、9、10、11、12…(218−N'+1)のうちいずれか1つであってよく、N'は1、2、3、4、…214のうちいずれか1つであってよい。
【0028】
他の態様において、本発明のベクターは、以下の(h)〜(k)のいずれかの塩基配列;
(h)配列番号13、16、19、又は22に示す塩基配列;
(i)配列番号13、16、19、又は22に示す塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸の塩基配列;
(j)配列番号13、16、19、又は22に示す塩基配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、最も好ましくは99%以上の配列同一性を有する塩基配列;
(k)配列番号13、16、19、又は22に示す塩基配列において、1もしくは複数個の塩基が置換、欠失、挿入及び/又は付加した塩基配列;
を含む。
【0029】
本態様に係るベクターは、好ましくは、自律複製能を有するベクターとして利用可能である。
【0030】
さらに他の態様において、本発明のベクターは、以下の(l)〜(o)のいずれかの塩基配列;
(l)配列番号14、17、20、又は23に示す塩基配列;
(m)配列番号14、17、20、又は23に示す塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸の塩基配列;
(n)配列番号14、17、20、又は23に示す塩基配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、最も好ましくは99%以上の配列同一性を有する塩基配列;
(o)配列番号14、17、20、又は23に示す塩基配列において、1もしくは複数個の塩基が置換、欠失、挿入及び/又は付加した塩基配列;
を含む。
【0031】
本態様に係るベクターは、好ましくは、自律複製能を有するベクターとして利用可能である。
【0032】
本発明のベクターは以下の (特徴1)〜(特徴2)のうち好ましくは1つ、より好ましくは2つを備える。
【0033】
(特徴1) 本発明のベクター、例えば上記(a)〜(d)のいずれかの塩基配列を含むベクターは、宿主において安定的に保持されることができる。「安定的に保持される」とは、宿主細胞に導入された場合に、該宿主細胞の継代培養を経ても宿主細胞内に保持されることを意味する。本発明のベクターは、例えば上記(a)〜(d)のいずれかの塩基配列を含まないベクターに対して、安定的に保持されることができる。ベクターが安定的に保持されるかは、限定されないが、例えば実施例4に記載の様に、ベクターにレポーター遺伝子を導入し、細胞分裂に伴うレポーター遺伝子の発現強度の変化を測定することで確かめることができる。或いは、実施例11又は12に記載の様に、マーカー遺伝子を含むベクターを形質転換した宿主を非選択下で継代培養した後に、マーカー遺伝子が維持される頻度を調べることで確かめることができる。
【0034】
目的化合物の生産等の産業利用目的に応じて、本発明のベクターに更に目的化合物をコードする塩基配列を組み込んだ目的化合物生産用ベクターを用いて、宿主細胞を形質転換することにより、該化合物を安定的かつ効率的に生産させることが可能となる。
【0035】
実施例4の実験において確認されている通り、(a)〜(d)のいずれかの塩基配列を少なくとも含むベクターは、宿主細胞中で安定的に維持される。(a)〜(d)のいずれかの塩基配列からなる核酸は、宿主細胞の細胞周期における染色体の安定化に寄与するセントロメアDNAとして利用可能であると推定される。
【0036】
(特徴2) 本発明のベクターは、好ましくは自律複製型ベクターである。本発明のベクターが自律複製型であれば、宿主生物のゲノム配列やゲノム構造を変化させること無く、宿主改良を行うことが可能である。
【0037】
本発明において自律複製型ベクターとは宿主の染色体とは独立に複製されるベクターであって、宿主染色体に組み込まれなくとも宿主内で複製されるベクターを指す。
【0038】
前記(d)の塩基配列としては特に、
(d1)配列番号12、15、18、又は21に示す塩基配列において、1〜200個、1〜190個、1〜160個、1〜130個、1〜100個、1〜75個、1〜50個、1〜25個、1〜20個、1〜15個、1〜10個、1〜7個、1〜5個、1〜4個、1〜3個、又は1もしくは2個の塩基が置換、欠失、挿入及び/又は付加した塩基配列;
(d2)配列番号12、15、18、又は21に示す塩基配列において、5’端及び/又は3’端に、合計で1もしくは複数個の塩基が付加した塩基配列;
(d3)配列番号12、15、18、又は21に示す塩基配列において、5’端及び/又は3’端から連続する、合計で1もしくは複数個の塩基が欠失した塩基配列;或いは
(d4)前記(b)又は(c)の塩基配列の部分塩基配列であって、且つ、配列番号12、15、18、又は21に示す塩基配列において、1もしくは複数個の塩基配列が置換、欠失、挿入及び/又は付加した塩基配列
が好ましい。
【0039】
1.2.本発明のベクターのより好ましい特徴
本発明のベクターのより好ましい実施形態は、
前記(a)〜(d)のいずれかの塩基配列の上流(5’末端側)と下流(3’末端側)に位置する塩基配列が、以下の(e)〜(g)のいずれかの塩基配列の対;
(e)上流の塩基配列と下流の塩基配列とが相補的な塩基配列である対;
(f)上流の塩基配列と下流の塩基配列とがストリンジェントな条件下で相互にハイブリダイズする核酸の塩基配列である対;
(g)上流の塩基配列と下流の塩基配列とが一方の相補的な塩基配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、最も好ましくは99%以上の配列同一性を有する塩基配列である対;
をそれぞれ含むことを特徴とする。
【0040】
以下、説明の便宜上、前記(e)〜(g)のいずれかの塩基配列の対において、上流の塩基配列を「塩基配列A」、下流の塩基配列を「塩基配列B」と称する場合がある。
【0041】
特に好ましくは、塩基配列Aと塩基配列Bとの対は、前記(e)の対である。
【0042】
配列番号13、14、16、17、19、20、22、23、41、又は42、例えば配列番号16、17、19、20、41、又は42、特に配列番号16、19、41、又は42に示す塩基配列は、コマガタエラ・パストリスにおける自律複製配列(Autonomous replication sequence)(ARS)を含んでいることが確認されている。従って、前記塩基配列A及び/又は前記塩基配列Bとして後述する(h)〜(o)の塩基配列の少なくとも一つを用いる場合、本発明のこの実施形態のベクターは、酵母、例えばコマガタエラ属の株、好ましくはコマガタエラ・パストリスの株における自律複製型ベクターとして利用することができる。
【0043】
本発明のこの実施形態のベクターは、上記の特徴1及び特徴2、並びに下記の特徴3のうち少なくとも1つを備えることが好ましく、より好ましくは少なくとも特徴1と特徴2を備え、特に好ましくは特徴1〜3のいずれも備える。
【0044】
(特徴3) 本発明のベクターは、好ましくは、centromere protein(CENP)との結合能を有し、より好ましくは、本発明のベクターを構成する核酸分子のうち、前記(a)〜(d)のいずれかの塩基配列、並びに、前記(e)〜(g)のいずれかの上流及び下流の塩基配列から選択される少なくとも1つの塩基配列を含む部位がCENPとの結合能を有する。CENPとは真核生物の染色体のセントロメア領域に含まれる、セントロメア特異的タンパク質の一群である。前記(a)〜(d)のいずれかの塩基配列、並びに、前記(e)〜(g)のいずれかの塩基配列は、いずれもコマガタエラ・パストリスの染色体DNAのうちセントロメアを構成する領域の塩基配列又はそれと等価な塩基配列であるから、本発明のベクターのうちこれらの塩基配列から選択される少なくとも1つの塩基配列を含む部位はCENPと結合能を有すると考えられる。CENPのうちCENP-Aはセントロメア領域に特異的に局在するヒストンH3バリアントであり、ヒト、酵母等に共通して存在する。すなわち、本発明のベクターの前記部位は、好ましくは、コマガタエラ・パストリス及び他の酵母、並びに他の真核生物におけるCENP-A等のCENPとの結合能を有する。具体的には、本発明のベクターを構成する核酸分子のうち、配列番号12〜23のうち何れかで示される塩基配列を含む部位が、CENPとの結合能を有することが実施例から裏付けられる。
【0045】
本発明のこの実施形態のベクターにおいて、塩基配列Aが、前記(a)〜(d)のいずれかの塩基配列よりも上流に位置しているとは、塩基配列Aの3’末端の塩基(塩基1とする)が、前記(a)〜(d)のいずれかの塩基配列の5’末端の塩基(塩基2とする)よりも上流側に位置していることを指し、塩基1と塩基2とは隣接していてもよいし、塩基1と塩基2との間に任意の塩基数、例えば1〜1000、好ましくは1〜100、より好ましくは1〜10の塩基配列が介在していてもよい。
【0046】
本発明のこの実施形態のベクターにおいて、塩基配列Bが、前記(a)〜(d)のいずれかの塩基配列よりも下流に位置しているとは、前記(a)〜(d)のいずれかの塩基配列の3’末端の塩基(塩基3とする)が、塩基配列Bの5’末端の塩基(塩基4とする)よりも上流側に位置していることを指し、塩基3と塩基4とは隣接していてもよいし、塩基3と塩基4との間に任意の塩基数、例えば1〜1000、好ましくは1〜100、より好ましくは1〜10の塩基配列が介在していてもよい。
【0047】
本発明のこの実施形態のベクターでは、好ましくは、前記(a)〜(d)のいずれかに記載の塩基配列のGC含有率を1としたときの、前記塩基配列A及び/又は前記塩基配列BのGC含有率の下限が0.8であり、上限が1.2である。また、好ましくは前記塩基配列A及び/又は前記塩基配列BのGC含有率が41%以下である。
【0048】
本発明のこの実施形態のベクターでは、前記塩基配列A及び前記塩基配列Bの塩基数は特に限定されないが、好ましくはそれぞれ2800塩基以下であり、より好ましくはそれぞれ1900塩基以上である。
【0049】
本発明のこの実施形態のベクターでは、好ましくは、前記塩基配列A及び前記塩基配列Bの少なくとも一方が、コマガタエラ属酵母染色体DNA、例えばコマガタエラ・パストリス染色体DNAの部分塩基配列である。
【0050】
本発明のこの実施形態のベクターでは、好ましくは前記塩基配列A及び前記塩基配列Bの一方、より好ましくは前記塩基配列Aが、以下の(h)〜(k)のいずれかの塩基配列;
(h)配列番号13、16、19、又は22に示す塩基配列;
(i)配列番号13、16、19、又は22に示す塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸の塩基配列;
(j)配列番号13、16、19、又は22に示す塩基配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、最も好ましくは99%以上の配列同一性を有する塩基配列;
(k)配列番号13、16、19、又は22に示す塩基配列において、1もしくは複数個の塩基が置換、欠失、挿入及び/又は付加した塩基配列;
である。
【0051】
前記(h)〜(k)の塩基配列は、好ましくは、本発明のベクターに自律複製能を付与する塩基配列である。前記(h)〜(k)の塩基配列の各説明において「配列番号13、16、19、又は22に示す塩基配列」は好ましくは「配列番号16又は19に示す塩基配列」である。
【0052】
前記(k)の塩基配列としては特に、
(k1)配列番号13、16、19、又は22に示す塩基配列において、1〜400個、1〜375個、1〜350個、1〜325個、1〜295個、1〜250個、1〜225個、1〜200個、1〜175個、1〜150個、1〜125個、1〜100個、1〜75個、1〜50個、1〜25個、1〜20個、1〜15個、1〜10個、1〜7個、1〜5個、1〜4個、1〜3個、又は1もしくは2個の塩基が置換、欠失、挿入及び/又は付加した塩基配列;
(k2)配列番号13、16、19、又は22に示す塩基配列において、5’端及び/又は3’端に、特に5’端に、合計で1もしくは複数個の塩基が付加した塩基配列;
(k3)配列番号13、16、19、又は22に示す塩基配列において連続する、例えば5’端及び/又は3’端から連続する、特に5’端から連続する、合計で1もしくは複数個の塩基が欠失した塩基配列;或いは
(k5)前記(i)又は(j)の塩基配列の部分塩基配列であって、且つ、配列番号13、16、19、又は22に示す塩基配列において、1もしくは複数個の塩基配列が置換、欠失、挿入及び/又は付加した塩基配列
が好ましい。
【0053】
(k3)の配列の例として、(k4)配列番号13、16、19、又は22の連続する、例えば5’端及び/又は3’端から連続する、1〜5、1〜10、1〜25、1〜50、1〜75、1〜100、1〜125、1〜150、1〜175、1〜200、1〜225、1〜250、1〜275、1〜300、1〜350、1〜400、1〜450、又は1〜500塩基からなる部分塩基配列が挙げられる。(k4)の配列の例として、例えば配列番号41の連続する1〜5、1〜10、1〜25、1〜30、1〜40、1〜50、1〜60、1〜70、1〜80、1〜90、若しくは1〜100塩基、又は配列番号42の連続する1〜5、1〜10、1〜25、1〜30、1〜40、1〜50、1〜60、1〜70、1〜80、1〜90、1〜100塩基、1〜110塩基、1〜120塩基、1〜130塩基、1〜140塩基、1〜150塩基、1〜160塩基、1〜170塩基、1〜180塩基、1〜190塩基、1〜200塩基、若しくは1〜210塩基からなる部分塩基配列、特に配列番号41又は42の塩基配列が挙げられる。(k4)の配列の好ましい例として、配列番号41の塩基配列のうち、第N塩基から開始する連続したm個の塩基からなる部分塩基配列(ここでmは5塩基以上、好ましくは10塩基以上かつ(111−N+1)塩基以下の整数であり、Nは1〜107、好ましくは102までの整数)が挙げられる。mは、例えば、5、6、7、8、9、10、11、12…(111−N+1)のうちいずれか1つであってよく、Nは1、2、3、4、…107のうちいずれか1つであってよい。同様に、(k4)の塩基配列の例として、配列番号42の塩基配列のうち、第N'塩基から開始する連続したm'個の塩基からなる部分塩基配列(ここでm'は5塩基以上、好ましくは10塩基以上かつ(218−N'+1)塩基以下の整数であり、N'は1〜214、好ましくは1〜209までの整数)が挙げられる。m'は、例えば、5、6、7、8、9、10、11、12…(218−N'+1)のうちいずれか1つであってよく、N'は1、2、3、4、…214のうちいずれか1つであってよい。
【0054】
(k5)の配列の例として、(k6)前記(i)又は(j)の塩基配列の連続する、例えば5’端及び/又は3’端から連続する、1〜10、1〜25、1〜50、1〜75、1〜100、1〜125、1〜150、1〜175、1〜200、1〜225、1〜250、1〜275、1〜300、1〜350、1〜400、1〜450、又は1〜500塩基からなる部分塩基配列が挙げられる。
【0055】
前記(a)〜(d)のいずれかの塩基配列において「配列番号12、15、18、又は21」が「配列番号12」である場合には、前記(h)〜(k)のいずれかの塩基配列において「配列番号13、16、19、又は22」が「配列番号13」であることが好ましいが、特に限定されない。
【0056】
前記(a)〜(d)のいずれかの塩基配列において「配列番号12、15、18、又は21」が「配列番号15」である場合には、前記(h)〜(k)のいずれかの塩基配列において「配列番号13、16、19、又は22」が「配列番号16」であることが好ましいが、特に限定されない。
【0057】
前記(a)〜(d)のいずれかの塩基配列において「配列番号12、15、18、又は21」が「配列番号18」である場合には、前記(h)〜(k)のいずれかの塩基配列において「配列番号13、16、19、又は22」が「配列番号19」であることが好ましいが、特に限定されない。
【0058】
前記(a)〜(d)のいずれかの塩基配列において「配列番号12、15、18、又は21」が「配列番号21」である場合には、前記(h)〜(k)のいずれかの塩基配列において「配列番号13、16、19、又は22」が「配列番号22」であることが好ましいが、特に限定されない。
【0059】
本発明のこの実施形態のベクターでは、好ましくは前記塩基配列A及び前記塩基配列Bの一方、より好ましくは前記塩基配列Bが、以下の(l)〜(o)のいずれかの塩基配列;
(l)配列番号14、17、20、又は23に示す塩基配列;
(m)配列番号14、17、20、又は23に示す塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸の塩基配列;
(n)配列番号14、17、20、又は23に示す塩基配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、最も好ましくは99%以上の配列同一性を有する塩基配列;
(o)配列番号14、17、20、又は23に示す塩基配列において、1もしくは複数個の塩基が置換、欠失、挿入及び/又は付加した塩基配列;
である。
【0060】
前記(l)〜(o)の塩基配列は、好ましくは、本発明のベクターに自律複製能を付与する塩基配列である。前記(l)〜(o)の塩基配列の各説明において「配列番号14、17、20、又は23に示す塩基配列」は好ましくは「配列番号17又は20に示す塩基配列」である。
【0061】
前記(o)の塩基配列としては特に、
(o1)配列番号14、17、20、又は23に示す塩基配列において、1〜400個、1〜375個、1〜350個、1〜325個、1〜295個、1〜250個、1〜225個、1〜200個、1〜175個、1〜150個、1〜125個、1〜100個、1〜75個、1〜50個、1〜25個、1〜20個、1〜15個、1〜10個、1〜7個、1〜5個、1〜4個、1〜3個、又は1もしくは2個の塩基が置換、欠失、挿入及び/又は付加した塩基配列;
(o2)配列番号14、17、20、又は23に示す塩基配列において、5’端及び/又は3’端に、特に3’端に、合計で1もしくは複数個の塩基が付加した塩基配列;
(o3)配列番号14、17、20、又は23に示す塩基配列において、5’端及び/又は3’端から連続する、特に3’端から連続する、合計で1もしくは複数個の塩基が欠失した塩基配列;或いは
(o5)前記(m)又は(n)の塩基配列の部分塩基配列であって、且つ、配列番号14、17、20、又は23に示す塩基配列において、1もしくは複数個の塩基配列が置換、欠失、挿入及び/又は付加した塩基配列
が好ましい。
【0062】
(o3)の配列の例として、(o4)配列番号14、17、20、又は23の連続する、例えば5’端及び/又は3’端から連続する、1〜5、1〜10、1〜25、1〜50、1〜75、1〜100、1〜125、1〜150、1〜175、1〜200、1〜225、1〜250、1〜275、1〜300、1〜350、1〜400、1〜450、又は1〜500塩基からなる部分塩基配列が挙げられる。(o4)の配列の例として、例えば配列番号85の連続する1〜5、1〜10、1〜25、1〜30、1〜40、1〜50、1〜60、1〜70、1〜80、1〜90、若しくは1〜100塩基、又は配列番号86の連続する1〜5、1〜10、1〜25、1〜30、1〜40、1〜50、1〜60、1〜70、1〜80、1〜90、1〜100塩基、1〜110塩基、1〜120塩基、1〜130塩基、1〜140塩基、1〜150塩基、1〜160塩基、1〜170塩基、1〜180塩基、1〜190塩基、1〜200塩基、若しくは1〜210塩基からなる部分塩基配列、特に配列番号85又は86の塩基配列が挙げられる。(o4)の配列の好ましい例として、配列番号85の塩基配列のうち、第N塩基から開始する連続したm個の塩基からなる部分塩基配列(ここでmは5塩基以上、好ましくは10塩基以上かつ(111−N+1)塩基以下の整数であり、Nは1〜102までの整数)が挙げられる。mは、例えば、5、6、7、8、9、10、11、12…(111−N+1)のうちいずれか1つであってよく、Nは1、2、3、4、…107のうちいずれか1つであってよい。同様に、(o4)の塩基配列の例として、配列番号86の塩基配列のうち、第N'塩基から開始する連続したm'個の塩基からなる部分塩基配列(ここでm'は5塩基以上、好ましくは10塩基以上かつ(218−N'+1)塩基以下の整数であり、N'は1〜209までの整数)が挙げられる。m'は、例えば、5、6、7、8、9、10、11、12…(218−N'+1)のうちいずれか1つであってよく、N'は1、2、3、4、…214のうちいずれか1つであってよい。
【0063】
(o5)の配列の例として、(o6)前記(m)又は(n)の塩基配列の連続する、例えば5’端及び/又は3’端から連続する、1〜5、1〜10、1〜25、1〜50、1〜75、1〜100、1〜125、1〜150、1〜175、1〜200、1〜225、1〜250、1〜275、1〜300、1〜350、1〜400、1〜450、又は1〜500塩基からなる部分塩基配列が挙げられる。
【0064】
前記(a)〜(d)のいずれかの塩基配列において「配列番号12、15、18、又は21」が「配列番号12」である場合には、前記(l)〜(o)のいずれかの塩基配列において「配列番号14、17、20、又は23」が「配列番号14」であることが好ましいが、特に限定されない。
【0065】
前記(a)〜(d)のいずれかの塩基配列において「配列番号12、15、18、又は21」が「配列番号15」である場合には、前記(l)〜(o)のいずれかの塩基配列において「配列番号14、17、20、又は23」が「配列番号17」であることが好ましいが、特に限定されない。
【0066】
前記(a)〜(d)のいずれかの塩基配列において「配列番号12、15、18、又は21」が「配列番号18」である場合には、前記(l)〜(o)のいずれかの塩基配列において「配列番号14、17、20、又は23」が「配列番号20」であることが好ましいが、特に限定されない。
【0067】
前記(a)〜(d)のいずれかの塩基配列において「配列番号12、15、18、又は21」が「配列番号21」である場合には、前記(l)〜(o)のいずれかの塩基配列において「配列番号14、17、20、又は23」が「配列番号23」であることが好ましいが、特に限定されない。
【0068】
本発明のこの実施形態のベクターでは、好ましくは前記塩基配列A及び前記塩基配列Bの一方、より好ましくは前記塩基配列Aが、以下の(t)〜(w)のいずれかの塩基配列;
(t)配列番号41、42、85、又は86、好ましくは配列番号41又は42に示す塩基配列;
(u)配列番号41、42、85、又は86、好ましくは配列番号41又は42に示す塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸の塩基配列;
(v)配列番号41、42、85、又は86、好ましくは配列番号41又は42に示す塩基配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、最も好ましくは99%以上の配列同一性を有する塩基配列;
(w)配列番号41、42、85、又は86、好ましくは配列番号41又は42に示す塩基配列において、1もしくは複数個の塩基が置換、欠失、挿入及び/又は付加した塩基配列;
である。(t)〜(w)の塩基配列は、上記のいずれかの配列、例えば(a)〜(d)のいずれかの塩基配列、(e)〜(g)のいずれかの塩基配列の対を構成する上流及び/又は下流の塩基配列、前記(h)〜(o)のいずれかの塩基配列の全体又は部分配列として含まれてもよいし、これらの配列とは別に含まれてもよい。
【0069】
前記(t)〜(w)の塩基配列は、好ましくは、本発明のベクターに自律複製能を付与する塩基配列である。
【0070】
前記(w)の塩基配列は、前記(u)又は(v)の部分塩基配列であって、且つ、配列番号41、42、85、又は86に示す塩基配列において、1もしくは複数個の塩基配列が置換、欠失、挿入及び/又は付加した塩基配列も包含する。
【0071】
(w)の塩基配列の例として、配列番号41又は85或いは前記(u)又は(v)(ただし配列番号41、42、85又は86に示す塩基配列が、配列番号41又は85に示す塩基配列である場合)、好ましくは配列番号41或いは前記(u)又は(v)(ただし配列番号41、42、85又は86に示す塩基配列が、配列番号41に示す塩基配列である場合)、特に好ましくは配列番号41の塩基配列のうち、第N塩基から開始する連続したm個の塩基からなる部分塩基配列(ここでmは5塩基以上、好ましくは10塩基以上かつ(111−N+1)塩基以下の整数であり、Nは1〜107、好ましくは102までの整数)が挙げられる。mは、例えば、5、6、7、8、9、10、11、12…(111−N+1)のうちいずれか1つであってよく、Nは1、2、3、4、…107のうちいずれか1つであってよい。同様に、(w)の塩基配列の例として、配列番号42又は86或いは前記(u)又は(v)(ただし配列番号41、42、85又は86に示す塩基配列が、配列番号42又は86に示す塩基配列である場合)、好ましくは配列番号42或いは前記(u)又は(v)(ただし配列番号41、42、85又は86に示す塩基配列が、配列番号42に示す塩基配列である場合)、特に好ましくは配列番号42の塩基配列のうち、第N'塩基から開始する連続したm'個の塩基からなる部分塩基配列(ここでm'は5塩基以上、好ましくは10塩基以上かつ(218−N'+1)塩基以下の整数であり、N'は1〜214、好ましくは209までの整数)が挙げられる。m'は、例えば、5、6、7、8、9、10、11、12…(218−N'+1)のうちいずれか1つであってよく、N'は1、2、3、4、…214のうちいずれか1つであってよい。
【0072】
この実施形態において、塩基配列Bは、好ましくは、
配列番号41又は42に示す塩基配列に相補的な塩基配列;
配列番号41又は42に示す塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸の塩基配列;
配列番号41又は42に示す塩基配列に相補的な塩基配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、最も好ましくは99%以上の配列同一性を有する塩基配列;
である。
【0073】
前記塩基配列A及び前記塩基配列Bの特に好ましい組み合わせは、以下の(p)〜(s)のいずれかの塩基配列の対;
(p)上流に配列番号13に示す塩基配列、及び、下流に配列番号14に示す塩基配列である対;
(q)上流に配列番号16に示す塩基配列、及び、下流に配列番号17に示す塩基配列である対、又は上流に配列番号41に示す配列を含む塩基配列、及び下流に配列番号41に示す配列を含む塩基配列に相補的な塩基配列である対;
(r)上流に配列番号19に示す塩基配列、及び、下流に配列番号20に示す塩基配列である対、又は上流に配列番号42に示す配列を含む塩基配列、及び下流に配列番号42に示す配列を含む塩基配列に相補的な塩基配列である対;
(s)上流に配列番号22に示す塩基配列、及び、下流に配列番号23に示す塩基配列である対;
である。
【0074】
前記(a)〜(d)のいずれかの塩基配列において「配列番号12、15、18、又は21」が「配列番号12」である場合には、前記塩基配列A及び前記塩基配列B が前記(p)の対であることが好ましいが、特に限定されない。
【0075】
前記(a)〜(d)のいずれかの塩基配列において「配列番号12、15、18、又は21」が「配列番号15」である場合には、前記塩基配列A及び前記塩基配列B が前記(q)の対であることが好ましいが、特に限定されない。
【0076】
前記(a)〜(d)のいずれかの塩基配列において「配列番号12、15、18、又は21」が「配列番号18」である場合には、前記塩基配列A及び前記塩基配列B が前記(r)の対であることが好ましいが、特に限定されない。
【0077】
前記(a)〜(d)のいずれかの塩基配列において「配列番号12、15、18、又は21」が「配列番号21」である場合には、前記塩基配列A及び前記塩基配列B が前記(s)の対であることが好ましいが、特に限定されない。
【0078】
1.3.本発明のベクターの他の好ましい実施形態
本発明のベクターのより好ましい実施形態は、
前記(a)〜(d)のいずれかの塩基配列の、上流(5’末端側)及び/又は下流(3’末端側)に、前記(h)〜(o)のいずれかの塩基配列の少なくとも一つを含むベクターである。
【0079】
実施例では、配列番号13、14、16、17、19、20、22、23、41、又は42、例えば配列番号16、17、19、20、41、又は42、特に配列番号16、19、41、又は42に示す塩基配列が、コマガタエラ・パストリスにおける自律複製配列(Autonomous replication sequence)(ARS)を含んでいることが確認されている。従ってこれらの塩基配列と同一又は等価な前記(h)〜(o)のいずれかの塩基配列の少なくとも一つを含む本発明のベクターは、自律複製型ベクターとして利用することができる。
【0080】
前記(a)〜(d)のいずれかの塩基配列、並びに、前記(h)〜(o)のいずれかの塩基配列は、いずれもコマガタエラ・パストリスの染色体DNAのうちセントロメアを構成する領域の塩基配列又はそれと等価な塩基配列であるから、本発明のベクターのうちこれらの塩基配列から選択される少なくとも1つの塩基配列を含む部位はCENPと結合能を有すると考えられる。
【0081】
この実施形態のベクターは、更に好ましくは、前記(a)〜(d)のいずれかの塩基配列の上流に、前記(h)〜(k)のいずれかの塩基配列の少なくとも1つが含まれる。
【0082】
この実施形態のベクターは、更に好ましくは、前記(a)〜(d)のいずれかの塩基配列の下流に、前記(l)〜(o)のいずれかの塩基配列の少なくとも1つが含まれる。
【0083】
この実施形態のベクターにおいて、前記(a)〜(d)のいずれかの塩基配列と、前記(h)〜(o)のいずれかの塩基配列とは直接隣接していてもよく、間に任意の塩基数、例えば1〜1000、好ましくは1〜100、より好ましくは1〜10の塩基配列が介在していてもよい。
【0084】
前記(h)〜(o)のいずれかの塩基配列の好適な実施形態は上記1.2において説明した通りである。
【0085】
1.4.本発明のベクターの他の特徴
本発明のベクターは、宿主細胞に導入して宿主細胞にベクターを保持させるのに用いることができる。
【0086】
本発明のベクターは、宿主細胞に導入させ、形質転換後の宿主細胞にて核酸や目的遺伝子等を発現させる用途に使用可能なものであればよく、現実に当該用途に用いられている必要はない。
【0087】
本発明において「ベクター」とは核酸分子であって、上記の塩基配列X(上記1.1、1.2及び1.3において詳述した前記(a)〜(d)のいずれかの塩基配列、前記(e)〜(g)のいずれかの塩基配列の対を構成する上流及び/又は下流の塩基配列、前記(h)〜(o)及び(t)〜(w)のいずれかの塩基配列、或いは、これらの塩基配列のうち複数が連結(適当な長さの他の塩基配列を介して連結する場合を含む)した塩基配列を説明するために「塩基配列X」と称する)を含む。本発明のベクターは、塩基配列Xに加えて、外来遺伝子又は内在性遺伝子の塩基配列等も含むことができる。ここで「外来遺伝子」とは、宿主細胞が本来的には有さず人為的にベクター中に組み込まれる遺伝子を指し、「内在性遺伝子」とは、宿主細胞が染色体DNAまたは細胞質DNAとして本来的に含む遺伝子であるが該遺伝子の機能をベクターに付与する目的で、或いは、該遺伝子の増強された発現を達成する目的で人為的にベクター中に組み込まれる遺伝子を指す。本発明のベクターは、さらに、外来遺伝子又は内在性遺伝子の塩基配列に加えて、またこれらの塩基配列に替えて、1つ以上の制限酵素認識部位を含むクローニングサイト、選択マーカー遺伝子(栄養要求性相補遺伝子、薬剤耐性遺伝子など)の塩基配列、レポーター遺伝子の塩基配列、及び/又は大腸菌等における複製起点等の自律複製配列(Autonomous replication sequence)(ARS)を含むことができる。クローニングサイトはレポーター遺伝子内に存在してもよく、これにより、レポーター遺伝子の機能の有無を調べることで、クローニングサイトへの遺伝子導入の有無を決定してもよい。本発明のベクターはさらに、プロモーター及びターミネーター等の調節配列、Clontech社のIn-FusionクローニングシステムやNew England Biolabs社のGibson Assembly システム等を利用するためのオーバーラップ領域も含むことができる。本発明のベクターは更に、宿主に応じて、塩基配列Xが由来する生物種とは異なる生物種に由来するセントロメアDNA配列、テロメアDNA配列を含むことができる。
【0088】
外来遺伝子又は内在性遺伝子は、物質生産等の目的で導入される遺伝子であり、典型的には目的ポリペプチドをコードする核酸である。外来遺伝子又は内在性遺伝子は発現カセットに挿入された形態でベクター中に含めることができる。「発現カセット」とは、外来遺伝子又は内在性遺伝子を含み、それをポリペプチドとして発現可能な状態にすることのできる発現システムをいう。「発現可能な状態」とは、当該発現カセットに含まれる外来遺伝子又は内在性遺伝子が、形質転換体内で発現可能なように、遺伝子発現に必要なエレメントの制御下に配置されている状態をいう。遺伝子発現に必要なエレメントには、例えば下記のプロモーター、下記のターミネーター等が挙げられる。
【0089】
本発明のベクターに含まれ得る選択マーカー遺伝子の例として、例えば、アンピシリン、Zeocin(商標)、カナマイシン、テトラサイクリン、及びクロラムフェニコール等の薬剤耐性遺伝子が挙げられる。本発明のベクターは、異なる薬剤での選択を可能とするために、二以上の選択マーカーを含んでもよい。本発明のベクターに含まれ得るレポーター遺伝子の例として、LacZ、ルシフェラーゼ、及び緑色蛍光タンパク質(GFP)等が挙げられる。本発明のベクターに含まれ得るプロモーターの例として、酵母種由来のGAPプロモーター(グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼプロモーター)、AOX(アルコールオキシダーゼ)プロモーター、MOX(メタノールオキシダーゼ)プロモーター、及びFMD(ギ酸デヒドロゲナーゼ)プロモーター等が挙げられる。本発明のベクターに含まれ得るターミネーターの例として、酵母種由来のAOXターミネーター、MOXターミネーター、ADH1(アルコールデヒドロゲナーゼ1)のターミネーター、及びGAL10ターミネーター等が挙げられる。
【0090】
本発明において自律複製配列(Autonomous replication sequence)(ARS)とは、原核生物(大腸菌、細菌、放線菌、真正細菌、古細菌、ラン藻等)、ウィルス(DNAウィルス、RNAウィルス等)、真核生物(菌類、藻類、原生動物、酵母、植物、動物、鳥類、家禽、哺乳類、ヒト、マウス等)、好ましくは真核生物、例えばコマガタエラ・パストリス等の酵母の複製起点のことであり、複製が開始される塩基配列の領域である。本発明のベクターは、例えば異なる種における自律複製配列を二以上含んでもよい。本発明のベクターに含まれ得る自律複製配列の例として、上記の(t)〜(w)のいずれかの塩基配列が挙げられる。
【0091】
本発明においてセントロメアDNA配列とは、動原体と呼ばれる構造を形成し、紡錘体が結合する塩基配列である。例えばヒトにおいて、染色体の長腕と短腕が交差する領域であり、染色体のほぼ中央に位置することからセントロメア領域とも呼ばれる。
【0092】
本発明においてテロメアDNA配列とは、通常染色体DNAの末端部分に存在する塩基配列の反復構造を指し、細胞分裂時の染色体の複製に伴う損傷を防ぎ安定性を維持する働きを有している。テロメアDNAを含むYACベクターの製法としては、クローン化したテロメアDNA配列を相同組換えにより導入し、染色体を短縮する手法(テロメアトランケーション)が挙げられる(Itzhakiら,Nature Genet.(USA),第2巻,p.283−287,1992年)。
【0093】
外来遺伝子又は内在性遺伝子がコードする目的ポリペプチドとしては、タンパク質、融合タンパク質、抗体、サイトカイン、酵素等が挙げられる。
【0094】
本発明のベクターは環状ベクター、直鎖状ベクター、プラスミド、人工染色体等であることができる。
【0095】
本発明においてベクターとは人為的に構築された核酸分子である。本発明のベクターを構成する核酸分子は、通常DNA、好ましくは二本鎖DNAであり、環状であっても、直鎖状であってもよい。本発明のベクターは、通常は、上記の塩基配列Xを含む核酸断片、或いは上記の塩基配列Xからなる核酸断片が、その両端又は一端に、例えば制限酵素認識部位を介して、1又は複数の、上記で挙げたような他の機能的核酸断片と連結されて構成される。
【0096】
本発明での「ベクター」の範囲には、上記のクローニングサイト、選択マーカー遺伝子の塩基配列、レポーター遺伝子の塩基配列、ARS、調節配列、オーバーラップ領域、外来遺伝子又は内在性遺伝子の塩基配列、セントロメアDNA配列、テロメアDNA配列等が既に付加されている形態だけでなく、これらの配列を付加可能な形態(例えば、これらの配列を付加可能な1つ以上の制限酵素認識部位を含むクローニングサイトを含む形態)の核酸分子も包含される。
【0097】
本発明のベクターはゲノム組込み型ベクターであってもよいし、自律複製型ベクターであってもよいが、好ましくは自律複製型ベクターである。本発明のゲノム組込み型ベクターは、上記の塩基配列Xをゲノム組み込み型ベクターに組み込むことにより作製することができる。
【0098】
本発明のベクターは、上記の塩基配列Xを任意のベクターに組み込むことにより作製することができる。塩基配列Xを組み込むベクターは、酵母、例えばコマガタエラ属の株、好ましくはコマガタエラ・パストリスの株における自律複製配列を有さないベクターであっても、酵母における自律複製配列を有するベクターであってもよい。酵母における自律複製配列を含むベクターの例として、YRpベクター又はYCpベクターが挙げられる。YRpベクターとは、酵母のARS配列を有するベクターを指し、YCpベクターとは、酵母のセントロメア配列及びARS配列を有するベクターを指す。したがって、上記塩基配列Xを酵母における自律複製配列を有さないベクターに加えることで、該ベクターをYRp又はYCpベクターとすることができる。また、上記塩基配列XをYRp又はYCpベクターに加えることで、他の宿主におけるベクターの自律複製及び安定化を促すことができる。
【0099】
上記の塩基配列Xを組み込むベクターは特に限定されないが、例えばYEpベクター、YRpベクター、YCpベクター、pPICHOLI(http://www.mobitec.com/cms/products/bio/04_vector_sys/p_picholi_shuttle_vector.html)、pHIP(Journal of General Microbioiogy (1992), 138, 2405-2416. Chromosomal targeting of replicating plasmids in the yeast Hansenula polymorpha)、pHRP(pHIPについて挙げた前記文献参照)、pHARS(Molecular and General Genetics MGG February 1986, Volume 202, Issue 2, pp 302-308, Transformation of the methylotrophic yeast Hansenula polymorpha by autonomous replication and integration vectors)、大腸菌由来プラスミドベクター(pUC18、pUC19、pBR322、pBluescript、pQE)、枯草菌由来プラスミドベクター(pHY300PLK、pMTLBS72)等を使用することができる。これらの他のベクターへの組み込み方法は特に限定されないが、上記の塩基配列Xを含み、両端に制限酵素認識部位を含む核酸断片を、他のベクターにおける対応する制限酵素認識部位を含むクローニングサイトに挿入する方法や、Clontech社のIn-FusionクローニングシステムやNew England Biolabs社のGibson Assembly システム等を使用することにより可能である。
【0100】
本発明のベクターを自律複製型ベクターとするためには、宿主に応じた自律複製配列(ARS)をベクター中に含めることができる。ただし、上記の塩基配列Xのなかに、宿主にとり自律複製配列として機能する配列が含まれる場合には、自律複製配列を別途ベクター中に組み込む必要はない。本発明の実施例では、配列番号12〜23、41、又は42、好ましくは配列番号16、17、19、20、41、又は42、さらに好ましくは配列番号16、19、41、又は42のうち何れかで示される塩基配列が、コマガタエラ・パストリスにおけるARSを含んでいることが確認されており、配列番号12〜23、41、又は42、例えば配列番号16、17、19、20、41、又は42、特に配列番号16、19、41、又は42のうち何れかで示される塩基配列を含むベクターはコマガタエラ・パストリス等のコマガタエラ属酵母を含む酵母での自律複製型ベクターとして利用可能であることは少なくとも実験的に確認されている。
【0101】
形質転換後の本発明のベクターは、宿主細胞内で自律複製型として存在している事が好ましいが、染色体に組み込まれている状態でもよい。
【0102】
本発明のベクターは、人工染色体ベクターの形態であることもできる。酵母人工染色体ベクター(YACベクター)は、一般に、セントロメアDNA配列、テロメアDNA配列、自律複製配列(ARS)を含む。
【0103】
実施例において、配列番号12、15、18又は21の塩基配列、或いは、配列番号12の塩基配列の上流又は下流の少なくとも一方に配列番号13及び14のうち一方が付加された塩基配列、配列番号15の塩基配列の上流又は下流の少なくとも一方に配列番号16及び17のうち一方が付加された塩基配列、配列番号18の塩基配列の上流又は下流の少なくとも一方に配列番号19及び20のうち一方が付加された塩基配列、配列番号21の塩基配列の上流又は下流の少なくとも一方に配列番号22及び23のうち一方が付加された塩基配列が、コマガタエラ・パストリス等のコマガタエラ属酵母を含む酵母でのセントロメアDNA配列として機能するとともに、ARSとしても機能することが確認されている。このため人工染色体ベクターにおいて、前記(a)〜(d)のいずれかの塩基配列、或いは、前記(a)〜(d)のいずれかの塩基配列の上流及び/又は下流に前記(h)〜(o)のいずれかの塩基配列の少なくとも1つが付加された塩基配列を、セントロメアDNA配列及びARSとして利用し、ベクターの両端にテロメアDNA配列とを組み込み、必要に応じて更に選択マーカーとを組み込むことでYACベクターを形成することができる。
【0104】
本発明のベクターは、好ましくは、複数の生物種の宿主細胞において自律複製可能な自律複製ベクターである。このような自律複製ベクターとしては、前記(a)〜(d)のいずれかの塩基配列を含み、更に、前記(a)〜(d)のいずれかの塩基配列が由来する生物種とは異なる生物種に由来するARS及び/又はセントロメアDNA配列を含むベクターが挙げられる。具体的には、本発明のベクターをコマガタエラ・パストリスで自律複製可能であるだけでなく、他の種、或いは他の属を宿主として自律複製可能なベクターとするために考えられる手段としては、例えば上記塩基配列Xを含むベクターにヒト染色体のセントロメアDNA配列をクローニングしてヒト人工染色体として利用したり、上記塩基配列Xを含むベクターにオガタエア属酵母のARSやセントロメアDNA配列をクローニングして両属種での自律複製型ベクターとして利用したり、上記塩基配列Xを含むベクターに出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)や分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)のARSやセントロメアDNA配列をクローニングして両属種での自律複製型ベクターとして利用したり、上記塩基配列Xを含むベクターにコマガタエラ・パストリスのセントロメアを構成するタンパク質群をコードする遺伝子群をクローニングして他属種での自律複製型ベクターとして利用したりすることが考えられる。また、本実施例のように大腸菌の自律複製型ベクターと組み合わせることも可能である。
【0105】
本発明のベクターは実施例で示される通り、宿主細胞中で安定的に維持され得るが、選択マーカーとの組み合わせやベクターサイズを調整することによって安定性を更に向上させることもできる。例えば、ベクター上の選択マーカーが脱落した場合に生育が遅くなる又は死滅するように設計することで、ベクターの安定性を向上させることができる。
【0106】
本発明のベクターは実施例で示される通り、宿主細胞中で安定的に維持され得るが、脱落させることもできる。例えば、脱落は、非選択培地において継代培養を行うことで達成される。
【0107】
本発明のベクターの作製方法は特に限定されないが、例えば全合成法、PCR法、Clontech社のIn-FusionクローニングシステムやNew England Biolabs社のGibson Assembly システム等を使用することができる。
【0108】
2. 形質転換体
本発明はまた、上記1.に記載の本発明のベクターを細胞に導入する工程を含む、細胞の形質転換法に関する。
【0109】
本発明はまた、上記1.に記載の本発明のベクターにより細胞を形質転換して得られる形質転換体に関する。
【0110】
ベクターが導入され形質転換される細胞は「宿主細胞」、「宿主」又は「形質転換体」と呼ばれる。本明細書では形質転換前及び後の宿主細胞を単に「細胞」と呼ぶ場合がある。
【0111】
宿主として用いる細胞はベクターを導入することの出来る細胞であれば特に限定されない。
【0112】
形質転換に用いる宿主細胞としては、酵母、細菌、真菌、昆虫細胞、または動物細胞などが挙げられ、酵母が好ましく、メタノール資化性酵母がより好ましい。
【0113】
一般に、メタノール資化性酵母は、唯一の炭素源としてメタノールを利用して培養可能な酵母と定義されるが、本来メタノール資化性酵母であったが、人為的な改変あるいは変異によりメタノール資化性能を喪失した酵母も、本発明におけるメタノール資化性酵母に包含される。
【0114】
メタノール資化性酵母としては、ピキア(Pichia)属、オガタエア(Ogataea)属、キャンディダ(Candida)属、トルロプシス(Torulopsis)属、コマガタエラ(Komagataella)属などに属する酵母が挙げられる。ピキア(Pichia)属ではピキア・メタノリカ(Pichia methanolica)、オガタエア(Ogataea)属ではオガタエア・アングスタ(Ogataea angusta)、オガタエア・ポリモルファ(Ogataea polymorpha)、オガタエア・パラポリモルファ(Ogataea parapolymorpha)、オガタエア・ミヌータ(Ogataea minuta)、キャンディダ(Candida)属ではキャンディダ・ボイディニ(Candida boidinii)、コマガタエラ(Komagataella)属ではコマガタエラ・パストリス(Komagataella pastoris)、コマガタエラ・ファフィ(Komagataella phaffii)などが好ましい例として挙げられる。
【0115】
上記のメタノール資化性酵母のなかでも、コマガタエラ属酵母又はオガタエア属酵母が特に好ましい。
【0116】
コマガタエラ(Komagataella)属酵母としては、コマガタエラ・パストリス(Komagataella pastoris)、コマガタエラ・ファフィ(Komagataella phaffii)が好ましい。コマガタエラ・パストリスおよびコマガタエラ・ファフィはどちらもピキア・パストリス(Pichia pastoris)の別名を有する。
【0117】
具体的に宿主として使用できる株として、コマガタエラ・パストリスATCC76273(Y-11430、CBS7435)、コマガタエラ・パストリスX-33などの株が挙げられる。これらの株は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションやLife technologies社等から入手することができる。
【0118】
オガタエア(Ogataea)属酵母としては、オガタエア・アングスタ(Ogataea angusta)、オガタエア・ポリモルファ(Ogataea polymorpha)、オガタエア・パラポリモルファ(Ogataea parapolymorpha)が好ましい。これら3つは近縁種であり、いずれも、別名ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、または別名ピキア・アングスタ(Pichia angusta)でも表される。
【0119】
具体的に使用できる株として、オガタエア・アングスタNCYC495(ATCC14754)、オガタエア・ポリモルファ8V(ATCC34438)、オガタエア・パラポリモルファDL-1(ATCC26012)などの株が挙げられる。これらの株は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション等から入手することができる。
【0120】
また、本発明においては、これらコマガタエラ属酵母やオガタエア属酵母の株からの誘導株も使用でき、例えばヒスチジン要求性であればコマガタエラ・パストリスGS115株(Life technologies社より入手可能)、ロイシン要求性株であれば、NCYC495由来のBY4329、8V由来のBY5242、DL-1由来のBY5243(これらはNational BioResource Projectから分譲可能)などが挙げられる。本発明においては、これらの株からの誘導株等も使用できる。
【0121】
本発明において、「形質転換体」とは、上記ベクターを細胞に導入することによって得られた、形質転換された細胞を指す。ベクターを宿主細胞へ導入する方法は公知の方法を適宜用いることができ、例えば宿主として酵母細胞を用いる場合、エレクトロポレーション法、酢酸リチウム法、スフェロプラスト法などが挙げられるが特にこれらに限定されるものではない。例えば、コマガタエラ・パストリスの形質転換法としては、High efficiency transformation by electroporation of Pichia pastoris pretreated with lithium acetate and dithiothreitol(Biotechniques. 2004 Jan;36(1):152-4.)に記載されているエレクトロポレーション法が一般的である。
【0122】
ベクターを宿主細胞に導入して形質転換する場合、栄養要求性相補遺伝子または薬剤耐性遺伝子などの選択マーカー遺伝子を含むベクターを用いることが好ましい。選択マーカーは特に限定されない。例えば宿主細胞として酵母を用いる場合は、選択マーカー遺伝子としてURA3遺伝子、LEU2遺伝子、ADE1遺伝子、HIS4遺伝子、ARG4遺伝子などの栄養要求性相補遺伝子を含むベクターを用い、それぞれウラシル、ロイシン、アデニン、ヒスチジン、アルギニンの栄養要求性株を宿主として形質転換を行い、原栄養株表現型の回復により形質転換体を選択することができる。また、選択マーカー遺伝子としてG418耐性遺伝子、Zeocin(商標)耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子などの薬剤耐性遺伝子を含むベクターを用いる場合、それぞれG418、Zeocin(商標)、ハイグロマイシンを含む培地上における耐性により形質転換体を選択することができる。なお、酵母宿主を作製するときに用いる栄養要求性選択マーカーは、宿主において該選択マーカーが破壊されていない場合は、用いることができない。この場合、宿主において該選択マーカーを破壊すればよく、方法は当業者には公知の方法を用いることができる。
【0123】
形質転換体の1細胞に導入されるベクターのコピー数は特に限定されない。1細胞あたり1コピーでも良いし、2コピー以上の多コピー体として存在していてもよい。1コピー体は環状ベクター、直鎖状ベクター、人工染色体として存在する状態でもよいし、宿主由来の染色体に組み込まれた状態でもよい。2コピー以上の多コピー体は、全て環状ベクター、直鎖状ベクター、人工染色体として存在する状態でもよいし、全て宿主由来の染色体に組み込まれた状態でもよいし、両方の状態が同時に起こっていてもよい。
【0124】
2コピー以上の多コピー体は、同一のベクターを2コピー以上保有する多コピー体であっても、異なるベクターを1コピー以上ずつ保有する多コピー体であってもよい。
【0125】
形質転換体に導入されるベクターは、直鎖状ベクターの状態で形質転換して宿主細胞内にて環化されて環状ベクターとして存在してもよいし、環状ベクターの状態で形質転換して宿主細胞内にて切断されて直鎖状ベクターとして存在してもよい。
【0126】
形質転換体の培養条件は特に限定されず、形質転換体に応じて適宜選択すればよい。該培養においては、形質転換体が資化しうる栄養源を含む培地であれば何でも使用できる。該栄養源としては、グルコース、シュークロース、マルトース等の糖類、乳酸、酢酸、クエン酸、プロピオン酸等の有機酸類、メタノール、エタノール、グリセロール等のアルコール類、パラフィン等の炭化水素類、大豆油、菜種油等の油類、またはこれらの混合物等の炭素源、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、尿素、酵母エキス、肉エキス、ペプトン、コーンスチープリカー等の窒素源、更に、その他の無機塩、ビタミン類等の栄養源を適宜混合・配合した通常の培地を用いることができる。
【0127】
本発明のベクターは、目的の生産物を製造するために用いることができる。「目的の生産物」とは、本発明のベクターが導入された形質転換体が生産する生産物であって、例えば抗生物質、カロテノイドやビタミン等の二次代謝物質、タンパク質、融合タンパク質、医薬品、抗体、サイトカイン、酵素等を指す。
【0128】
例えば、本発明のベクターを細胞に導入することによって得られた形質転換体を、培養することで宿主中または培養液中に目的の生産物を蓄積させ、回収することができる。目的の生産物の回収方法については、公知の精製法を適当に組み合わせて用いることができる。
【0129】
本発明のベクターは、所望の物質をスクリーニングするために用いることができる。例えば、CRISPR-Cas9等のゲノム編集用酵素や変異型DNAポリメラーゼ、cDNA又はsiRNAライブラリ、目的生産タンパク質の改変遺伝子ライブラリ、プロモーターライブラリ、ターミネーターライブラリ、非翻訳領域ライブラリ、タグライブラリ等を含むベクターを用いて所望の物質をスクリーニングすることができる。
【0130】
更に、本発明のベクターは、形質転換体を用いずとも、無細胞タンパク質合成系のような生体外のタンパク質合成にも用いることができる。
【実施例】
【0131】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。なお、以下の実施例において用いた組換えDNA技術に関する詳細な操作方法などは、次の成書に記載されている:
Molecular Cloning 2nd Edition(Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)、Current Protocolsin Molecular Biology(Greene Publishing Associates and Wiley-Interscience)、Current Protocols in Molecular Biology(Greene Publishing Associates and Wiley-Interscience)。
【0132】
また、以下の実施例において、酵母の形質転換に用いるプラスミドは、構築したベクターを大腸菌E. coli DH5αコンピテントセル(タカラバイオ社製)もしくは大腸菌E. coli HST08 Premium コンピテントセル(タカラバイオ社製)にそれぞれ導入し、得られた形質転換体を培養して増幅することによって調製した。プラスミド保持株からのプラスミドの調製は、QIAprep spin miniprep kit(QIAGEN社製)を用いて行った。
【0133】
ベクターの構築において利用したセントロメアDNA配列1(配列番号1)、セントロメアDNA配列2(配列番号2)、セントロメアDNA配列3(配列番号3)、セントロメアDNA配列4(配列番号4)はコマガタエラ・パストリスATCC76273株の染色体DNA(塩基配列はEMBL (The European Molecular Biology Laboratory) ACCESSION No. FR839628〜FR839631に記載)混合物をテンプレートにしてセントロメアDNA配列1はプライマー3(配列番号8)、セントロメアDNA配列2はプライマー4(配列番号9)、セントロメアDNA配列3はプライマー5(配列番号10)、セントロメアDNA配列4はプライマー6(配列番号11)、を用いてPCRで調製した。
【0134】
ベクターの構築において利用した、プロモーターで制御されたZeocin(商標)耐性遺伝子(配列番号5)は合成DNAをテンプレートにしてPCRで調製した。ベクターの構築において利用した、プロモーターで制御されたGFP遺伝子(配列番号32)は合成DNAをテンプレートにしてPCRで調製した。
【0135】
PCRにはPrime STAR HS DNA Polymerase(タカラバイオ社製)等を用い、反応条件は添付のマニュアルに記載の方法で行った。染色体DNAの調製は、コマガタエラ・パストリスATCC76273株からGenとるくん(商標)(タカラバイオ社製)等を用いて、これに記載の条件で実施した。
【0136】
実施例1: Zeocin(商標)耐性遺伝子を含むベクターの構築
Zeocin(商標)耐性遺伝子(配列番号5)の上流にHindIII認識配列とNotI認識配列、下流にEcoRI認識配列を付加したDNA断片を、配列番号5からなるDNA断片をテンプレートとしプライマー1および2(配列番号6および7)を用いたPCRにより調製し、これをpUC19 (タカラバイオ社製、Code No. 3219)のHindIII-EcoRIサイト間に挿入して、pUC-Zを調製した。
【0137】
実施例2: GFP遺伝子を含むベクターの構築
GFP遺伝子(配列番号32)の上流にHindIII認識配列とNotI認識配列、下流にEcoRI認識配列を付加したDNA断片を、配列番号32からなるDNA断片をテンプレートとしプライマー15および16(配列番号33および34)を用いたPCRにより調製し、これをpUC19のHindIII-EcoRIサイト間に挿入して、pUC-Gを調製した。
【0138】
実施例3: 配列番号12、15、18、21を含む自律複製型ベクターの構築
配列番号12の上流及び下流にNotI認識配列を付加したDNA断片を、配列番号1からなるDNA断片をテンプレートとしプライマー7及び8(配列番号24及び25)を用いたPCRにより調製し、これをpUC-GのNotIサイト間に挿入して、pUC-G-KNT1を調製した。
【0139】
配列番号15の上流及び下流にNotI認識配列を付加したDNA断片を、配列番号2からなるDNA断片をテンプレートとしプライマー9及び10(配列番号26及び27)を用いたPCRにより調製し、これをpUC-GのNotIサイト間に挿入して、pUC-G-KNT2を調製した。
【0140】
配列番号18の上流及び下流にNotI認識配列を付加したDNA断片を、配列番号3からなるDNA断片をテンプレートとしプライマー11及び12(配列番号28及び29)を用いたPCRにより調製し、これをpUC-GのNotIサイト間に挿入して、pUC-G-KNT3を調製した。
【0141】
配列番号21の上流及び下流にNotI認識配列を付加したDNA断片を、配列番号4からなるDNA断片をテンプレートとしプライマー13及び14(配列番号30及び31)を用いたPCRにより調製し、これをpUC-GのNotIサイト間に挿入して、pUC-G-KNT4を調製した。
【0142】
実施例4: 形質転換酵母の取得、蛍光測定
実施例2で構築したGFP遺伝子を含むベクターpUC-G及び実施例3で構築したセントロメアDNA中心配列を含むベクターpUC-G-KNT1、pUC-G-KNT2、pUC-G-KNT3、pUC-G-KNT4を用いて、以下のようにコマガタエラ・パストリスを形質転換した。
【0143】
コマガタエラ・パストリスATCC76273株を3mlのYPD培地(1% yeast extract bacto(Difco社製)、2% polypeptone(日本製薬社製)、2% glucose)に接種し、30℃で一晩振盪培養して、前培養液を得た。得られた前培養液500μlを50mlのYPD培地に接種し、OD600が1〜1.5になるまで30℃で振盪培養後、集菌(3000×g、10分、20℃)し、250μlの1M DTT(終濃度25mM)を含む10mlの50mMリン酸カリウムバッファー,pH7.5に再懸濁した。
【0144】
この懸濁液を30℃で15分インキュベート後、集菌(3000×g、10分、20℃)し、予め氷冷した50mlのSTMバッファー(270mMスクロース, 10mM Tris-HCl, 1mM塩化マグネシウム, pH7.5)で洗浄した。洗浄液を集菌(3000×g、10分、4℃)し、25mlの氷冷STMバッファーで再度洗浄したのち、集菌(3000×g、10分、4℃)した。最終的に、250μlの氷冷STMバッファーに懸濁し、これをコンピテントセル溶液とした。
【0145】
このコンピテントセル溶液60μlとpUC-G溶液5μl(ベクター量として1 μg)又はpUC-G-KNT1溶液5μl(同1 μg)又はpUC-G-KNT2溶液5μl(同1μg)又はpUC-G-KNT3溶液5μl(同1 μg)又はpUC-G-KNT4溶液5μl(同1 μg)を混合し、エレクトロポレーション用キュベット(ディスポキュベット電極,電極間隔2mm;ビーエム機器社製)に移し入れ、7.5kV/cm、25μF、200Ωに供した後、菌体を1mlのYPD培地で懸濁し、30℃で2時間静置した。2時間静置後、集菌(3000×g、5分、室温)し、上清を廃棄した。残った菌体を30℃のYNB培地(0.17% Yeast Nitrogen Base Without Amino Acid(Difco社製))で再懸濁し、FACS(Fluorescence Activated Cell Sorting)法を用いて蛍光を発する形質転換細胞を収集した。収集した細胞を30℃で2時間静置培養中に蛍光顕微鏡により観察したところ、pUC-Gの形質転換体は蛍光の低下が確認されたのに対し、pUC-G-KNT1、pUC-G-KNT2、pUC-G-KNT3、pUC-G-KNT4の形質転換体は蛍光が維持されていることが確認された。これはつまり、配列番号12、15、18、21からなる核酸が、宿主中におけるベクターの安定性に対して効果を発揮していることを示している。
【0146】
実施例5: セントロメアDNA配列を含む自律複製型ベクターの構築
配列番号1の上流及び下流にNotI認識配列を付加したDNA断片を、配列番号1からなるDNA断片をテンプレートとしプライマー3(配列番号8)を用いたPCRにより調製し、これをpUC-ZのNotIサイト間に挿入して、pUC-Z-CEN1を調製した。
【0147】
配列番号2の上流及び下流にNotI認識配列を付加したDNA断片を、配列番号2からなるDNA断片をテンプレートとしプライマー4(配列番号9)を用いたPCRにより調製し、これをpUC-ZのNotIサイト間に挿入して、pUC-Z-CEN2を調製した。
【0148】
配列番号3の上流及び下流にNotI認識配列を付加したDNA断片を、配列番号3からなるDNA断片をテンプレートとしプライマー5(配列番号10)を用いたPCRにより調製し、これをpUC-ZのNotIサイト間に挿入して、pUC-Z-CEN3を調製した。
【0149】
配列番号4の上流及び下流にNotI認識配列を付加したDNA断片を、配列番号4からなるDNA断片をテンプレートとしプライマー6(配列番号11)を用いたPCRにより調製し、これをpUC-ZのNotIサイト間に挿入して、pUC-Z-CEN4を調製した。
【0150】
配列番号1は配列番号12に示す塩基配列の上流に配列番号13に示す塩基配列が存在し、また配列番号12に示す塩基配列の下流に配列番号13に示す塩基配列と相補的な塩基配列(配列番号14)が存在するように設計されている。
【0151】
配列番号2は配列番号15に示す塩基配列の上流に配列番号16に示す塩基配列が存在し、また配列番号15に示す塩基配列の下流に配列番号16に示す塩基配列と相補的な塩基配列(配列番号17)が存在するように設計されている。
【0152】
配列番号3は配列番号18に示す塩基配列の上流に配列番号19に示す塩基配列が存在し、また配列番号18に示す塩基配列の下流に配列番号19に示す塩基配列と相補的な塩基配列(配列番号20)が存在するように設計されている。
【0153】
配列番号4は配列番号21に示す塩基配列の上流に配列番号22に示す塩基配列が存在し、また配列番号21に示す塩基配列の下流に配列番号22に示す塩基配列と相補的な塩基配列(配列番号23)が存在するように設計されている。
【0154】
配列番号13のDNA配列の上流及び下流にNotI認識配列を付加したDNA断片を、配列番号1からなるDNA断片をテンプレートとしプライマー3及び17(配列番号8及び35)を用いたPCRにより調製し、これをpUC-ZのNotIサイト間に挿入して、pUC-Z-Comp1を調製した。
【0155】
配列番号16のDNA配列の上流及び下流にNotI認識配列を付加したDNA断片を、配列番号2からなるDNA断片をテンプレートとしプライマー4及び18(配列番号9及び36)を用いたPCRにより調製し、これをpUC-ZのNotIサイト間に挿入して、pUC-Z-Comp2を調製した。
【0156】
配列番号19のDNA配列の上流及び下流にNotI認識配列を付加したDNA断片を、配列番号3からなるDNA断片をテンプレートとしプライマー5及び19(配列番号10及び37)を用いたPCRにより調製し、これをpUC-ZのNotIサイト間に挿入して、pUC-Z-Comp3を調製した。
【0157】
配列番号22のDNA配列の上流及び下流にNotI認識配列を付加したDNA断片を、配列番号4からなるDNA断片をテンプレートとしプライマー6及び20(配列番号11及び38)を用いたPCRにより調製し、これをpUC-ZのNotIサイト間に挿入して、pUC-Z-Comp4を調製した。
【0158】
配列番号12に示す塩基配列の上流に配列番号13に示す塩基配列が存在するDNA配列の上流及び下流にNotI認識配列を付加したDNA断片を、配列番号1からなるDNA断片をテンプレートとしプライマー3及び8(配列番号8及び25)を用いたPCRにより調製し、これをpUC-ZのNotIサイト間に挿入して、pUC-Z-Comp1KNT1を調製した。
【0159】
配列番号15に示す塩基配列の上流に配列番号16に示す塩基配列が存在するDNA配列の上流及び下流にNotI認識配列を付加したDNA断片を、配列番号2からなるDNA断片をテンプレートとしプライマー4及び10(配列番号9及び27)を用いたPCRにより調製し、これをpUC-ZのNotIサイト間に挿入して、pUC-Z-Comp2KNT2を調製した。
【0160】
配列番号18に示す塩基配列の上流に配列番号19に示す塩基配列が存在するDNA配列の上流及び下流にNotI認識配列を付加したDNA断片を、配列番号3からなるDNA断片をテンプレートとしプライマー5及び12(配列番号10及び29)を用いたPCRにより調製し、これをpUC-ZのNotIサイト間に挿入して、pUC-Z-Comp3KNT3を調製した。
【0161】
配列番号21に示す塩基配列の上流に配列番号22に示す塩基配列が存在するDNA配列の上流及び下流にNotI認識配列を付加したDNA断片を、配列番号4からなるDNA断片をテンプレートとしプライマー6及び14(配列番号11及び31)を用いたPCRにより調製し、これをpUC-ZのNotIサイト間に挿入して、pUC-Z-Comp4KNT4を調製した。
【0162】
実施例6: 形質転換酵母の取得
実施例1で構築したZeocin(商標)耐性遺伝子を含むベクターpUC-Z及び実施例5で構築したセントロメアDNA配列を含むベクターpUC-Z-CEN1、pUC-Z-CEN2、pUC-Z-CEN3、pUC-Z-CEN4、pUC-Z-Comp1、pUC-Z-Comp2、pUC-Z-Comp3、pUC-Z-Comp4、pUC-Z-Comp1KNT1、pUC-Z-Comp2KNT2、pUC-Z-Comp3KNT3、pUC-Z-Comp4KNT4を用いて、以下のようにコマガタエラ・パストリスを形質転換した。
【0163】
コマガタエラ・パストリスATCC76273株を3mlのYPD培地(1% yeast extract bacto(Difco社製)、2% polypeptone(日本製薬社製)、2% glucose)に接種し、30℃で一晩振盪培養して、前培養液を得た。得られた前培養液500μlを50mlのYPD培地に接種し、OD600が1〜1.5になるまで30℃で振盪培養後、集菌(3000×g、10分、20℃)し、250μlの1M DTT(終濃度25mM)を含む10mlの50mMリン酸カリウムバッファー,pH7.5に再懸濁した。
【0164】
この懸濁液を30℃で15分インキュベート後、集菌(3000×g、10分、20℃)し、予め氷冷した50mlのSTMバッファー(270mMスクロース, 10mM Tris-HCl, 1mM塩化マグネシウム, pH7.5)で洗浄した。洗浄液を集菌(3000×g、10分、4℃)し、25mlの氷冷STMバッファーで再度洗浄したのち、集菌(3000×g、10分、4℃)した。最終的に、250μlの氷冷STMバッファーに懸濁し、これをコンピテントセル溶液とした。
【0165】
このコンピテントセル溶液60μlとベクター溶液1μl(ベクター量として100 ng)を混合し、エレクトロポレーション用キュベット(ディスポキュベット電極,電極間隔2mm;ビーエム機器社製)に移し入れ、7.5kV/cm、25μF、200Ωに供した後、菌体を1mlのYPD培地で懸濁し、30℃で1時間静置した。1時間静置後、集菌(3000×g、5分、室温)し、上清861μlを廃棄した。残った溶液200μlで再懸濁し、YPDZeocin(商標)選択寒天プレート(1% yeast extract bacto(Difco社製)、2% polypeptone(日本製薬社製)、2% glucose、1.5%アガロース、0.01%Zeocin(商標) (Life Technologies社製))に100μl塗布し、30℃、3日間の静置培養で生育する株を選択し、形質転換効率(ベクター1μgあたりのコロニー数、cfu/μg)を算出した(表1)。
【0166】
その結果、pUC-Zの形質転換効率に対して、pUC-Z-CEN1、pUC-Z-CEN2、pUC-Z-CEN3、pUC-Z-CEN4、pUC-Z-Comp1、pUC-Z-Comp2、pUC-Z-Comp3、pUC-Z-Comp4、pUC-Z-Comp1KNT1、pUC-Z-Comp2KNT2、pUC-Z-Comp3KNT3、pUC-Z-Comp4KNT4は明らかに高い形質転換効率を示した。pUC-Zは自律複製配列を持たないため形質転換が起こらなかったと考えられ、pUC-Z-CEN1、pUC-Z-CEN2、pUC-Z-CEN3、pUC-Z-CEN4、pUC-Z-Comp1、pUC-Z-Comp2、pUC-Z-Comp3、pUC-Z-Comp4、pUC-Z-Comp1KNT1、pUC-Z-Comp2KNT2、pUC-Z-Comp3KNT3、pUC-Z-Comp4KNT4は自律複製配列を有するため自律複製型プラスミドとして形質転換酵母細胞に存在できることから、形質転換効率が向上したと考えられる。
【0167】
【表1】
【0168】
実施例7: プラスミド保持確認
実施例6で得られた12種の形質転換酵母について、それぞれ10株のコロニー菌体から、Easy Yeast Plasmid Isolation Kit(クロンテック社製)を用いてプラスミド溶液を調製した。続いて、得られたプラスミド溶液をE. coli HST08 Premium コンピテントセル(タカラバイオ社製)に導入したところ、pUC-Z-CEN1、pUC-Z-CEN2、pUC-Z-CEN3、pUC-Z-CEN4、pUC-Z-Comp1、pUC-Z-Comp2、pUC-Z-Comp3、pUC-Z-Comp4、pUC-Z-Comp1KNT1、pUC-Z-Comp2KNT2、pUC-Z-Comp3KNT3、pUC-Z-Comp4KNT4によって形質転換された酵母由来のサンプルからは全てLBAmp選択寒天プレート(1% Trypton(ナカライテスク社製)、1% 塩化ナトリウム、0.5% yeast extract bacto(Difco社製)、0.01%アンピシリンナトリウム(和光純薬工業社製))上にE. coliコロニーが出現した。またそのE. coliコロニーからプラスミドを調製したところ、調製されたプラスミドが、酵母に導入したpUC-Z-CEN1、pUC-Z-CEN2、pUC-Z-CEN3、pUC-Z-CEN4、pUC-Z-Comp1、pUC-Z-Comp2、pUC-Z-Comp3、pUC-Z-Comp4、pUC-Z-Comp1KNT1、pUC-Z-Comp2KNT2、pUC-Z-Comp3KNT3、pUC-Z-Comp4KNT4であること、及びそれ以外の宿主由来の配列が存在しない事を配列解析によって確認した。これはつまり、pUC-Z-CEN1、pUC-Z-CEN2、pUC-Z-CEN3、pUC-Z-CEN4、pUC-Z-Comp1、pUC-Z-Comp2、pUC-Z-Comp3、pUC-Z-Comp4、pUC-Z-Comp1KNT1、pUC-Z-Comp2KNT2、pUC-Z-Comp3KNT3、pUC-Z-Comp4KNT4は自律複製配列を有するため自律複製型プラスミドとして形質転換酵母細胞に存在していることを示唆している。
【0169】
実施例8: Zeocin(商標)耐性遺伝子及び調節配列を含むベクターの構築
ハンゼヌラ酵母のMOXターミネーターであるTmox配列(配列番号82)の上流に、上流から下流に向かって、HindIII認識配列、NotI認識配列、BamHI認識配列、SpeI認識配列、MunI認識配列、BglII認識配列、及びXbaI認識配列、Tmox配列の下流に、上流から下流に向かって、XbaI認識配列、EcoRI認識配列を付加したDNA断片を、オガタエア・ポリモルファ8V(ATCC34438)株の染色体DNAをテンプレートとして、プライマー23及び24(配列番号74及び75)を用いたPCRにより増幅し、これをpUC19 (タカラバイオ社製、Code No. 3219)のHindIII-EcoRIサイト間に挿入して、pUC_Tmoxを調製した。
【0170】
HpPgap(配列番号83)の上流及び下流にEcoRI認識配列を付加したDNA断片を、オガタエア・ポリモルファ8V(ATCC34438)株の染色体DNAをテンプレートとして、プライマー27及び28(配列番号78及び79)を用いたPCRにより増幅し、これをpUC_TmoxのMunIサイト間に挿入して、pUC_HpPgap_Tmoxを調製した。EcoRI切断末端とMunI切断末端はLigation可能であるため、EcoRI認識配列を付加した上記DNA断片をpUC_TmoxのMunIサイト間に挿入することが可能である。なお、Ligationされた部位はEcoRIでは切断されない。
【0171】
ハンゼヌラ酵母のGAPプロモーターであるHpPgap(配列番号83)の上流及び下流にBamHI認識配列を付加したDNA断片を、オガタエア・ポリモルファ8V(ATCC34438)株の染色体DNAをテンプレートとして、プライマー25及び26(配列番号76及び77)を用いたPCRにより増幅し、これをpUC_HpPgap_TmoxのBamHIサイト間に挿入して、pUC_HpPgap_HpPgap_Tmoxを調製した。
【0172】
Zeocin(商標)耐性遺伝子(配列番号5の681位〜1535位の塩基配列)の上流及び下流にEcoRI認識配列を付加したDNA断片を、配列番号5の681位〜1535位の塩基配列からなるDNA断片をテンプレートとし、プライマー29及び30(配列番号80及び81)を用いたPCRにより調製し、これをpUC_HpPgap_HpPgap_TmoxのEcoRIサイト間に挿入して、pUC_HpPgap_HpPgap_Tmox_Zeo(以下、本ベクターを単に「pUC-Z2」とも称する)を調製した。pUC-Z2は、pUC19のHindIII及びEcoRIサイト間に配列番号84からなる塩基配列を含むベクターである。
【0173】
実施例9:自律複製配列の特定
本実施例では、Comp2及びComp3内の自律複製配列の特定を行った。
【0174】
まず、Comp2(配列番号16、全長2699塩基対)の約1-2400bpを基準に約300bpずつ短縮した各塩基配列の上流及び下流に制限酵素認識配列を含むDNA断片を、配列番号2からなるDNA断片をテンプレートとしプライマーを用いたPCRにより調製し、これをpUC-Z2の制限酵素部位に挿入して、ベクターを調製した。ベクターに挿入した配列、断片の増幅に用いたプライマーの配列、及び増幅した配列のベクターへの挿入に用いた制限酵素を以下の表2に示す。
【0175】
また、Comp3(配列番号19、全長2649塩基対)についても同様に、1-2400bpから約300bpずつ短くした塩基配列の上流及び下流に制限酵素認識配列を含むDNA断片を、配列番号3からなるDNA断片をテンプレートとしプライマーを用いたPCRにより調製し、これをpUC-Z2の制限酵素部位に挿入して、ベクターを調製した。ベクターに挿入した配列、断片の増幅に用いたプライマーの配列、及び増幅した配列のベクターへの挿入に用いた制限酵素を以下の表2に示す。
【0176】
【表2】
【0177】
実施例6に記載の方法に従って、これらのベクターをコマガタエラ・パストリスに形質転換し、形質転換効率(cfu/μg)を算出し、形質転換効率が100以上である場合を+、100未満である場合を−とした(表3)。
【0178】
その結果、Comp2については、いずれの配列を含むベクターでも高い形質転換効率が認められたことから、配列番号16の1-291位の塩基配列中に自律複製配列が存在することが示唆された。
【0179】
Comp3については、1-300位の配列を除くいずれの配列の含むベクターでも高い形質転換効率が認められたことから、配列番号19の300-600位の塩基配列中に自律複製配列が存在することが示唆された。
【0180】
【表3】
【0181】
続いて、Comp2(配列番号16)の1-111位(Comp2_1-111)、84-213位(Comp2_84-213)、191-291位(Comp2_191-291)、84-2699位(Comp2_84-2699)の塩基配列の上流及び下流に制限酵素認識配列を含むDNA断片を、配列番号2からなるDNA断片をテンプレートとしプライマーを用いたPCRにより増幅し、これをpUC-Z2の制限酵素認識部位に挿入して、ベクターを調製した。ベクターに挿入した配列、断片の増幅に用いたプライマーの配列、及び増幅した配列のベクターへの挿入に用いた制限酵素を以下の表4に示す。
【0182】
また、Comp3(配列番号19)についても、268-404位(Comp3_268-404)、383-503位(Comp3_383-503)、480-600位(Comp3_500-600)、268-503位(Comp3_268-503)、383-600位(Comp3_383-600)、480-2649位(Comp3_480-2649)の塩基配列の上流及び下流に制限酵素認識配列を含むDNA断片を、配列番号3からなるDNA断片をテンプレートとしてプライマーを用いたPCRにより増幅し、これをpUC-Z2の制限酵素部位に挿入して、ベクターを調製した。ベクターに挿入した配列、断片の増幅に用いたプライマーの配列、及び増幅した配列のベクターへの挿入に用いた制限酵素を以下の表4に示す。
【0183】
【表4】
【0184】
実施例6に記載の方法に従って、これらのベクターをコマガタエラ・パストリスに形質転換し、形質転換効率(cfu/μg)を算出し、形質転換効率が100以上である場合を+、100未満である場合を−とした(表5)。
【0185】
その結果、Comp2については、Comp2_1-111を含むベクターにおいてのみ高い形質転換効率が認められたことから、配列番号16の1-111位の塩基配列(配列番号41)中に自律複製配列が存在することが示唆された。一方、Comp2_84-2699を含むベクターでは形質転換効率が極めて低く、これは配列番号16の1-111位の塩基配列(配列番号41)中の自律複製配列以外に、Comp2内に自律複製配列が存在しないことを示唆している。
【0186】
Comp3については、Comp3_383-600を含むベクターにおいてのみ高い形質転換効率が認められたことから、配列番号19の383-600位の塩基配列(配列番号42)中に自律複製配列が存在することが示唆された。一方、Comp3_480-2699では形質転換効率が極めて低く、これは配列番号19の383-600位の塩基配列(配列番号42)中の自律複製配列以外に、Comp3内に自律複製配列が存在しないことを示唆している。
【0187】
【表5】
【0188】
実施例10: 自律複製配列と他の配列を組合せた場合の形質転換効率の確認
自律複製配列と他の配列を含むベクターの形質転換効率を調べるために、以下のベクターを調製した。
【0189】
配列番号16のDNA配列の1-111 bp(配列番号41)の上流及び下流にHindIIII認識配列を付加したDNA断片を、配列番号2からなるDNA断片をテンプレートとしプライマー21及び22(配列番号39及び40)を用いたPCRにより調製し、これをpUC-Z2のHindIIIサイト間に挿入して、pUC-Z2-ARS2を調製した。
【0190】
配列番号1の上流及び下流にNotI認識配列を付加したDNA断片を、配列番号1からなるDNA断片をテンプレートとしプライマー3(配列番号8)を用いたPCRにより調製し、これをpUC-Z2-ARS2のNotIサイト間に挿入して、pUC-Z2-ARS2-CEN1を調製した。
【0191】
配列番号3の上流及び下流にNotI認識配列を付加したDNA断片を、配列番号3からなるDNA断片をテンプレートとしプライマー5(配列番号10)を用いたPCRにより調製し、これをpUC-Z2-ARS2のNotIサイト間に挿入して、pUC-Z2-ARS2-CEN3を調製した。
【0192】
配列番号4の上流及び下流にNotI認識配列を付加したDNA断片を、配列番号4からなるDNA断片をテンプレートとしプライマー6(配列番号11)を用いたPCRにより調製し、これをpUC-Z2-ARS2のNotIサイト間に挿入して、pUC-Z2-ARS2-CEN4を調製した。
【0193】
配列番号13のDNA配列の上流及び下流にNotI認識配列を付加したDNA断片を、配列番号1からなるDNA断片をテンプレートとしプライマー3及び17(配列番号8及び35)を用いたPCRにより調製し、これをpUC-Z2-ARS2のNotIサイト間に挿入して、pUC-Z2-ARS2-Comp1を調製した。
【0194】
配列番号19のDNA配列の上流及び下流にNotI認識配列を付加したDNA断片を、配列番号3からなるDNA断片をテンプレートとしプライマー5及び19(配列番号10及び37)を用いたPCRにより調製し、これをpUC-Z2-ARS2のNotIサイト間に挿入して、pUC-Z2-ARS2-Comp3を調製した。
【0195】
配列番号22のDNA配列の上流及び下流にNotI認識配列を付加したDNA断片を、配列番号4からなるDNA断片をテンプレートとしプライマー6及び20(配列番号11及び38)を用いたPCRにより調製し、これをpUC-Z2-ARS2のNotIサイト間に挿入して、pUC-Z2-ARS2-Comp4を調製した。
【0196】
配列番号12に示す塩基配列の上流に配列番号13に示す塩基配列が存在するDNA配列の上流及び下流にNotI認識配列を付加したDNA断片を、配列番号1からなるDNA断片をテンプレートとしプライマー3及び8(配列番号8及び25)を用いたPCRにより調製し、これをpUC-Z2-ARS2のNotIサイト間に挿入して、pUC-Z2-ARS2-Comp1KNT1を調製した。
【0197】
配列番号18に示す塩基配列の上流に配列番号19に示す塩基配列が存在するDNA配列の上流及び下流にNotI認識配列を付加したDNA断片を、配列番号3からなるDNA断片をテンプレートとしプライマー5及び12(配列番号10及び29)を用いたPCRにより調製し、これをpUC-Z2-ARS2のNotIサイト間に挿入して、pUC-Z2-ARS2-Comp3KNT3を調製した。
【0198】
配列番号21に示す塩基配列の上流に配列番号22に示す塩基配列が存在するDNA配列の上流及び下流にNotI認識配列を付加したDNA断片を、配列番号4からなるDNA断片をテンプレートとしプライマー6及び14(配列番号11及び31)を用いたPCRにより調製し、これをpUC-Z2-ARS2のNotIサイト間に挿入して、pUC-Z2-ARS2-Comp4KNT4を調製した。
【0199】
実施例6に記載の方法に従って、これらのベクターをコマガタエラ・パストリスに形質転換し、形質転換効率(cfu/μg)を算出し、形質転換効率が100以上である場合を+、100未満である場合を−とした(表6)。
【0200】
その結果、いずれのベクターについても高い形質転換効率が認められたことから、ARS2に加えて、CEN1、CEN3、CEN4、Comp1、Comp3、Comp4、Comp1KNT1、Comp3KNT3、又はComp4KNT4を含むベクターが自律複製活性を有することが示された。
【0201】
これらのベクターについて、実施例7に記載の方法に従ってプラスミド保持確認を行ったところ、E.coli内で保持されており、いずれのベクターも自律複製型プラスミドとして形質転換酵母細胞に存在していることが示唆された。
【0202】
【表6】
【0203】
実施例11: プラスミドの安定性確認
実施例6で得られた形質転換酵母を3mlのYPD培地に接種し、30℃で一晩振盪培養した。次にこの培養液3μlを新しい3mlのYPD培地に接種し、30℃で一晩振盪培養した。この操作を3回(3晩)繰り返した後、最終的に得られた培養液を希釈後、YPD寒天プレート(1% yeast extract bacto(Difco社製)、2% polypeptone(日本製薬社製)、2% glucose、1.5%アガロース)に塗布した。30℃、3日間の静置培養で生育してきた株を96株選択し、YPD寒天プレート及びYPDZeocin(商標)選択寒天プレートに接種して、30℃で一晩静置培養した。
【0204】
その結果、pUC-Z-Comp1又はpUC-Z-Comp2又はpUC-Z-Comp3又はpUC-Z-Comp4によって形質転換された酵母由来のサンプルに対しpUC-Z-Comp1KNT1又はpUC-Z-Comp2KNT2又はpUC-Z-Comp3KNT3又はpUC-Z-Comp4KNT4によって形質転換された酵母由来のサンプルは両方のプレートにて生育してきたコロニー数が明らかに多かった(表7)。これは実施例4でも示したように配列番号12、15、18、21がベクターの安定性に対して効果を発揮していることを示している。また、pUC-Z-Comp1KNT1又はpUC-Z-Comp2KNT2又はpUC-Z-Comp3KNT3又はpUC-Z-Comp4KNT4によって形質転換された酵母由来のサンプルに対しpUC-Z-CEN1又はpUC-Z-CEN2又はpUC-Z-CEN3又はpUC-Z-CEN4によって形質転換された酵母由来のサンプルは両方のプレートにて生育してきたコロニー数が明らかに多かった(表7)。これはつまり、セントロメアDNA中心配列の上流と下流が相補的な塩基配列となることによって特段の安定性効果が発揮されることを示しており、選択圧のない状態における継代培養においても、プラスミドベクターがセントロメアDNA配列を有することにより安定的に保持されていることを示している。
【0205】
尚、実施例7と同様に、生育した酵母からプラスミドを調製し、E. coli HST08 Premium コンピテントセルに導入したところ、LBAmp選択寒天プレート(1% Trypton(ナカライテスク社製)、1% 塩化ナトリウム、0.5% yeast extract bacto(Difco社製)、0.01%アンピシリンナトリウム(和光純薬工業社製))上にE. coliコロニーが出現したことを確認し、またそのE. coliコロニーからプラスミドを調製したところ、調製されたプラスミドが、酵母に導入したベクターと同一であることを確認している。
【0206】
【表7】
【0207】
実施例12: 自律複製配列と他の配列を組み合わせた場合のプラスミドの安定性確認
実施例10で調製したpUC-Z2-ARS2、pUC-Z2-ARS2-CEN1、pUC-Z2-ARS2-CEN4、pUC-Z2-ARS2-Comp1、pUC-Z2-ARS2-Comp4、pUC-Z2-ARS2-Comp1KNT1、pUC-Z2-ARS2-Comp4KNT4を用いて、実施例6に従って形質転換酵母を調製した。
【0208】
続いて、この形質転換酵母を用いて、実施例11に従ってプラスミドの安定性確認を行った。
【0209】
結果を表8に示す。pUC-Z2-ARS2によって形質転換された酵母由来のサンプルは両方のプレートにて生育してきたコロニーは存在しなかった。これは、自律複製配列のみでは選択圧のない状態における継代培養においてプラスミドベクターが安定的に保持されないことを示している。
【0210】
一方、pUC-Z2-ARS2-Comp1KNT1又はpUC-Z2-ARS2-Comp4KNT4によって形質転換された酵母由来のサンプルは両方のプレートにて生育してきたコロニー数が明らかに多かった。これは実施例4でも示したように、配列番号12、21がベクターの安定性に対して効果を発揮していることを示している。また、pUC-Z2-ARS2-CEN1又はpUC-Z2-ARS2-CEN4によって形質転換された酵母由来のサンプルは両方のプレートにて生育してきたコロニー数がさらに多かった。これは、実施例4、11でも示したように、セントロメアDNA中心配列の上流と下流が相補的な塩基配列となることによって特段の安定性効果が発揮されることを示しており、選択圧のない状態における継代培養においても、プラスミドベクターがセントロメアDNA配列を有することにより安定的に保持されていることを示している。
【0211】
【表8】
【0212】
実施例13:pUC-Z2ベクターがpUC-Zベクターと同等であることの確認
pUC-Zの代わりに実施例8で調製したpUC-Z2を用いて、実施例5に従ってベクターを調製し、これらについて、実施例6〜7及び実施例11に従って試験したところ、いずれも、pUC-Z2を用いた場合でもpUC-Zを用いた場合と同様の結果が得られた。
【0213】
実施例14:配列番号5と配列番号5の681位〜1535位が同等であることの確認
配列番号5の塩基配列の代わりに配列番号5の681位〜1535位の塩基配列を用いて、実施例1及び5に従ってベクターを調製し、これらについて、実施例6〜7及び実施例11に従って試験したところ、いずれも、配列番号5の681位〜1535位の塩基配列を用いた場合でも配列番号5の塩基配列を用いた場合と同様の結果が得られた。
【0214】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]