(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記界面と前記陽極との間の第1距離と、前記界面と前記陰極との間の第2距離とが、前記発光中心から発せられた光が前記マイクロキャビティ構造によって共振するような光路長となっている
請求項1または請求項2に記載の有機電界発光素子。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示を実施するための形態について、図面を参照して詳細に説明する。以下に説明する実施の形態は、いずれも本開示の好ましい一具体例を示すものである。したがって、以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態などは、一例であって本開示を限定する主旨ではない。よって、以下の実施の形態における構成要素のうち、本開示の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。なお、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。また、各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0013】
<1.実施の形態>
[構成]
図1は、本開示の一実施の形態に係る有機電界発光装置1の概略構成例を表したものである。
図2は、有機電界発光装置1に設けられた各画素11に含まれる副画素12の回路構成の一例を表したものである。有機電界発光装置1は、例えば、有機電界発光パネル10、コントローラ20およびドライバ30を備えている。ドライバ30は、例えば、有機電界発光パネル10の外縁部分に実装されている。有機電界発光パネル10は、行列状に配置された複数の画素11を有している。コントローラ20およびドライバ30は、外部から入力された映像信号Dinおよび同期信号Tinに基づいて、有機電界発光パネル10(複数の画素11)を駆動する。
【0014】
(有機電界発光パネル10)
有機電界発光パネル10は、コントローラ20およびドライバ30によって各画素11がアクティブマトリクス駆動されることにより、外部から入力された映像信号Dinおよび同期信号Tinに基づく画像を表示する。有機電界発光パネル10は、行方向に延在する複数の走査線WSLと、列方向に延在する複数の信号線DTL
と、行方向に延在する複数の電源線DSLと、行列状に配置された複数の画素11とを有している。
【0015】
走査線WSLは、各画素11の選択に用いられるものであり、各画素11を所定の単位(例えば画素行)ごとに選択する選択パルスを各画素11に供給するものである。信号線DTLは、映像信号Dinに応じた信号電圧Vsigの、各画素11への供給に用いられるものであり、信号電圧Vsigを含むデータパルスを各画素11に供給するものである。電源線DSLは、各画素11に電力を供給するものである。
【0016】
各画素11は、例えば、赤色光を発する副画素12、緑色光を発する副画素12、および青色光を発する副画素12を含んで構成されている。なお、各画素11は、例えば、さらに、他の色(例えば、白色や、黄色など)を発する副画素12を含んで構成されていてもよい。各画素11において、複数の副画素12は、例えば、所定の方向に一列に並んで配置されている。
【0017】
各信号線DTLは、後述の水平セレクタ31の出力端に接続されている。各画素列には、例えば、複数の信号線DTLが1本ずつ、割り当てられている。各走査線WSLは、後述のライトスキャナ32の出力端に接続されている。各画素行には、例えば、複数の走査線WSLが1本ずつ、割り当てられている。各電源線DSLは、電源の出力端に接続されている。各画素行には、例えば、複数の電源線DSLが1本ずつ、割り当てられている。
【0018】
各副画素12は、画素回路12−1と、有機電界発光素子12−2とを有している。有機電界発光素子12−2の構成については、後に詳述する。
【0019】
画素回路12−1は、有機電界発光素子12−2の発光・消光を制御する。画素回路12−1は、後述の書込走査によって各副画素12に書き込んだ電圧を保持する機能を有している。画素回路12−1は、例えば、駆動トランジスタTr1、書込トランジスタTr2および保持容量Csを含んで構成されている。
【0020】
書込トランジスタTr2は、駆動トランジスタTr1のゲートに対する、映像信号Dinに対応した信号電圧Vsigの印加を制御する。具体的には、書込トランジスタTr2は、信号線DTLの電圧をサンプリングするとともに、サンプリングにより得られた電圧を駆動トランジスタTr1のゲートに書き込む。駆動トランジスタTr1は、有機電界発光素子12−2に直列に接続されている。駆動トランジスタTr1は、有機電界発光素子12−2を駆動する。駆動トランジスタTr1は、書込トランジスタTr2によってサンプリングされた電圧の大きさに応じて有機電界発光素子12−2に流れる電流を制御する。保持容量Csは、駆動トランジスタTr1のゲート−ソース間に所定の電圧を保持するものである。保持容量Csは、所定の期間中に駆動トランジスタTr1のゲート−ソース間電圧Vgsを一定に保持する役割を有する。なお、画素回路12−1は、上述の2Tr1Cの回路に対して各種容量やトランジスタを付加した回路構成となっていてもよいし、上述の2Tr1Cの回路構成とは異なる回路構成となっていてもよい。
【0021】
各信号線DTLは、後述の水平セレクタ31の出力端と、書込トランジスタTr2のソースまたはドレインとに接続されている。各走査線WSLは、後述のライトスキャナ32の出力端と、書込トランジスタTr2のゲートとに接続されている。各電源線DSLは、電源回路と、駆動トランジスタTr1のソースまたはドレインに接続されている。
【0022】
書込トランジスタTr2のゲートは、走査線WSLに接続されている。書込トランジスタTr2のソースまたはドレインが信号線DTLに接続されている。書込トランジスタTr2のソースおよびドレインのうち信号線DTLに未接続の端子が駆動トランジスタTr1のゲートに接続されている。駆動トランジスタTr1のソースまたはドレインが電源線DSLに接続されている。駆動トランジスタTr1のソースおよびドレインのうち電源線DSLに未接続の端子が有機電界発光素子21−2の陽極21に接続されている。保持容量Csの一端が駆動トランジスタTr1のゲートに接続されている。保持容量Csの他端が駆動トランジスタTr1のソースおよびドレインのうち有機電界発光素子21−2側の端子に接続されている。
【0023】
(ドライバ30)
ドライバ30は、例えば、水平セレクタ31およびライトスキャナ32を有している。水平セレクタ31は、例えば、制御信号の入力に応じて(同期して)、コントローラ20から入力されたアナログの信号電圧Vsigを、各信号線DTLに印加する。ライトスキャナ32は、複数の副画素12を所定の単位ごとに走査する。
【0024】
(コントローラ20)
次に、コントローラ20について説明する。コントローラ20は、例えば、外部から入力されたデジタルの映像信号Dinに対して所定の補正を行い、それにより得られた映像信号に基づいて、信号電圧Vsigを生成する。コントローラ20は、例えば、生成した信号電圧Vsigを水平セレクタ31に出力する。コントローラ20は、例えば、外部から入力された同期信号Tinに応じて(同期して)、ドライバ30内の各回路に対して制御信号を出力する。
【0025】
次に、
図3、
図4、
図5を参照して、有機電界発光素子12−2について説明する。
図3は、有機電界発光パネル10の概略構成例を表したものである。
図4は、
図3の有機電界発光パネル10のA−A線での断面構成例を表したものである。
図5は、
図3の有機電界発光パネル10のB−B線での断面構成例を表したものである。
【0026】
有機電界発光パネル10は、行列状に配置された複数の画素11を有している。各画素11は、例えば、上述したように、赤色光を発する副画素12(12R)、緑色光を発する副画素12(12G)、および青色光を発する副画素12(12B)を含んで構成されている。副画素12Rが本開示の「赤色画素」の一具体例に相当する。副画素12Gが本開示の「緑色画素」の一具体例に相当する。副画素12Bが本開示の「青色画素」の一具体例に相当する。
【0027】
副画素12Rは、赤色の光を発する有機電界発光素子12−2(12r)を含んで構成されている。副画素12Gは、緑色の光を発する有機電界発光素子12−2(12g)を含んで構成されている。副画素12Bは、青色の光を発する有機電界発光素子12−2(12b)を含んで構成されている。副画素12R,12G,12Bは、例えば、ストライプ配列となっている。各画素11において、例えば、副画素12R,12G,12Bが、列方向に並んで配置されている。さらに、各画素行において、例えば、同一色の光を発する複数の副画素12が、行方向に並んで配置されている。
【0028】
有機電界発光パネル10は、基板14上に、行方向に延在する複数のラインバンク13と、列方向に延在する複数のバンク15とを有している。複数のラインバンク13および複数のバンク15は、各副画素12Rを区画する。複数のラインバンク13は、各画素11において、各副画素12を区画する。複数のバンク15は、各画素行において、各画素11を区画する。つまり、複数の副画素12は、複数のラインバンク13および複数のバンク15によって区画されている。各バンク15は、列方向において互いに隣接する2つのラインバンク13の間に設けられている。各バンク15の両端部が、列方向において互いに隣接する2つのラインバンク13に連結されている。
【0029】
基板14は、例えば、各有機電界発光素子12−2や各ラインバンク13などを支持する基材と、基材上に設けられた配線層とによって構成されている。基板14内の基材は、例えば、無アルカリガラス、ソーダガラス、無蛍光ガラス、燐酸系ガラス、硼酸系ガラスまたは石英などによって形成されている。基板14内の基材は、例えば、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエチレン、ポリエステル、シリコーン系樹脂、またはアルミナなどによって形成されていてもよい。基板14内の配線層には、例えば、各画素11の画素回路12−1が形成されている。
【0030】
ラインバンク13およびバンク15は、例えば、絶縁性の有機材料によって形成されている。絶縁性の有機材料としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ノボラック型フェノール樹脂などが挙げられる。ラインバンク13およびバンク15は、例えば、耐熱性、溶媒に対する耐性を持つ絶縁性樹脂によって形成されていることが好ましい。ラインバンク13およびバンク15は、例えば、絶縁性樹脂をフォトリソグラフィおよび現像によって所望のパターンに加工することによって形成される。ラインバンク13の断面形状は、例えば、
図4に示したような順テーパ型であってもよく、裾が狭くなった逆テーパ型であってもよい。
【0031】
互いに平行で、かつ互いに隣接する2つのラインバンク13および両端のバンク15によって囲まれた領域が、溝部16なっている。各副画素12において、各有機電界発光素子12−2は、互いに平行で、かつ互いに隣接する2つのラインバンク13の間隙に1つずつ配置されている。つまり、各副画素12において、各有機電界発光素子12−2は、溝部16の中に1つずつ配置されている。
【0032】
各有機電界発光素子12−2は、例えば、陽極21、正孔注入層22、正孔輸送層23、有機発光層24、電子輸送層25、電子注入層26および陰極27を基板14側からこの順に備えたものである。正孔注入層22および正孔輸送層23のうち少なくとも正孔輸送層23が本開示の「第1有機層」の一具体例に相当する。有機発光層24が本開示の「発光層」の一具体例に相当する。電子輸送層25および電子注入層26のうち少なくとも電子輸送層25が本開示の「第2有機層」の一具体例に相当する。正孔注入層22は、正孔注入効率を高めるための層である。正孔輸送層23は、陽極21から注入された正孔を有機発光層24へ輸送するための層である。有機発光層24は、電子と正孔との再結合により、所定の色の光を発する層である。電子輸送層25は、陰極27から注入された電子を有機発光層24へ輸送するための層である。電子注入層26は、電子注入効率を高めるための層である。正孔注入層22および電子注入層26のうち少なくとも一方が省略されていてもよい。各有機電界発光素子12−2は、上述以外の層をさらに有していてもよい。
【0033】
陽極21は、例えば、基板14の上に形成されている。陽極21は、透光性を有する透明電極であって、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)又はIZO(Indium Zinc Oxide)等の透明導電性材料からなる透明導電膜が用いられる。なお、陽極21は、透明電極に限るものではなく、例えば、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、アルミニウムもしくは銀の合金等、または、反射性を有する反射電極であってもよい。陽極21は、反射電極と透明電極とが積層されたものであってもよい。
【0034】
正孔輸送層23は、陽極21から注入された正孔を有機発光層24へ輸送する機能を有する。正孔輸送層23は、例えば、塗布膜である。正孔輸送層23は、例えば、正孔輸送性を有する有機材料(以下、「正孔輸送性材料23M」と称する。)を溶質の主成分とする溶液を塗布および乾燥することにより形成されている。正孔輸送層23は、正孔輸送性材料23Mを主成分として含んで構成されている。また、溶質である正孔輸送性材料12Mは、不溶化する機能を有している。不溶化する機能とは、架橋性基又は熱解離可溶性基などの不溶化基が、熱あるいは紫外光等の照射もしくはその組み合わせにより、化学変化し、有機溶媒や水に対し不溶化する機能のことをいう。従って、正孔輸送層12は、不溶化された正孔輸送層である。
【0035】
正孔輸送層23の原料(材料)である正孔輸送性材料23Mは、例えば、アリールアミン誘導体、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、ブタジエン化合物、ポリスチレン誘導体、ヒドラゾン誘導体、トリフェニルメタン誘導体、テトラフェニルベンジン誘導体等、または、これらの組み合わせからなる材料である。正孔輸送性材料23Mは、さらに、例えば、溶解性および不溶化の機能のために、その分子構造中に、可溶性基と、熱解離可溶性基、架橋性基または脱離性保護基などの不溶化基とを有している。
【0036】
有機発光層24は、正孔と電子との再結合により、所定の色の光を発する機能を有する。有機発光層24は、例えば、塗布膜である。有機発光層24は、正孔と電子との再結合により励起子を生成し発光する有機材料(以下、「有機発光材料24M」と称する。)を溶質の主成分とする溶液の塗布および乾燥により形成されている。有機発光層24は、有機発光材料24Mを主成分として含んで構成されている。副画素12Rに含まれる有機電界発光素子12rでは、有機発光材料24Mが赤色有機発光材料を含んで構成されている。副画素12Gに含まれる有機電界発光素子12gでは、有機発光材料24Mが緑色有機発光材料を含んで構成されている。副画素12Bに含まれる有機電界発光素子12bでは、有機発光材料24Mが青色有機発光材料を含んで構成されている。
【0037】
有機発光層24は、例えば、単層の有機発光層、または、積層された複数の有機発光層によって構成されている。有機発光層24が積層された複数の有機発光層によって構成されている場合には、有機発光層24は、例えば、主成分が互いに共通の複数の有機発光層を積層したものである。このとき、複数の有機発光層は、ともに、塗布膜である。複数の有機発光層は、ともに、有機発光材料24Mを溶質の主成分とする溶液の塗布および乾燥により形成されている。
【0038】
有機発光層24の原料(材料)である有機発光材料24Mは、例えば、ドーパント材料単独であってもよいが、より好ましくは、ホスト材料とドーパント材料との組み合わせがよい。つまり、有機発光層24は、有機発光材料24Mとして、ホスト材料およびドーパント材料を含んで構成されていることが好ましい。ホスト材料は、主に電子又は正孔の電荷輸送の機能を担っており、ドーパント材料は、発光の機能を担っている。ホスト材料およびドーパント材料は1種類のみに限られるものではなく、2種類以上の組み合わせであってもよい。ドーパント材料の量は、ホスト材料に対して、0.01重量%以上30重量%以下であるとよく、より好ましくは、0.01重量%以上10重量%以下である。
【0039】
有機発光層24のホスト材料としては、例えば、アミン化合物、縮合多環芳香族化合物、ヘテロ環化合物が用いられる。アミン化合物としては、例えば、モノアミン誘導体、ジアミン誘導体、トリアミン誘導体、テトラアミン誘導体が用いられる。縮合多環芳香族化合物としては、例えば、アントラセン誘導体、ナフタレン誘導体、ナフタセン誘導体、フェナントレン誘導体、クリセン誘導体、フルオランテン誘導体、トリフェニレン誘導体、ペンタセン誘導体、または、ペリレン誘導体等が挙げられる。ヘテロ環化合物としては、例えば、カルバゾール誘導体、フラン誘導体、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、イミダゾール誘導体、ピラゾール誘導体、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピロール誘導体、インドール誘導体、アザインドール誘導体、アザカルバゾール、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、または、フタロシアニン誘導体等が挙げられる。
【0040】
また、有機発光層24のドーパント材料としては、例えば、ピレン誘導体、フルオランテン誘導体、アリールアセチレン誘導体、フルオレン誘導体、ペリレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、アントラセン誘導体、または、クリセン誘導体が用いられる。また、有機発光層24のドーパント材料としては、金属錯体が用いられてもよい。金属錯体としては、例えば、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、オスミウム(Os)、金(Au)、レニウム(Re)、もしくは、ルテニウム(Ru)等の金属原子と配位子とを有するものが挙げられる。
【0041】
副画素12Rに含まれる有機電界発光素子12rでは、有機発光材料24Mは、電子移動度が正孔移動度よりも大きな有機発光材料によって構成されている。つまり、有機電界発光素子12rに含まれる有機発光材料24Mは、電子輸送性の高い材料であり、かつ、電子移動度が正孔移動度よりも大きな材料である。従って、有機電界発光素子12rでは、発光領域12Aが正孔輸送層23側に位置する。なお、有機電界発光素子12rにおいて、発光領域12Aが正孔輸送層23との界面付近に位置していてもよい。
【0042】
副画素12Gに含まれる有機電界発光素子12gでは、有機発光材料24Mは、電子移動度が正孔移動度よりも大きな有機発光材料によって構成されている。つまり、有機電界発光素子12gに含まれる有機発光材料24Mは、電子輸送性の高い材料であり、かつ、電子移動度が正孔移動度よりも大きな材料である。従って、有機電界発光素子12gでは、発光領域12Aが正孔輸送層23側に位置する。なお、有機電界発光素子12gにおいて、発光領域12Aが正孔輸送層23との界面付近に位置していてもよい。
【0043】
副画素12Bに含まれる有機電界発光素子12
bでは、有機発光材料24Mは、正孔移動度が電子移動度よりも大きな有機発光材料によって構成されている。つまり、有機電界発光素子12bに含まれる有機発光材料24Mは、正孔輸送性の高い材料であり、かつ、
正孔移動度が
電子移動度よりも大きな材料である。従って、有機電界発光素子12bでは、発光領域12Aが電子輸送層25側に位置する。なお、有機電界発光素子12bにおいて、発光領域12Aが電子輸送層25との界面付近に位置していてもよい。
【0044】
「発光領域12Aが電子輸送層25側に位置する」とは、例えば、
図6Aに示したように、有機発光層24内の発光領域12Aの50%以上が、電子輸送層25が配置されている側の領域に存在していることを指している。「発光領域が正孔輸送層23側に位置する」とは、例えば、
図6Bに示したように、有機発光層24内の発光領域12Aの50%以上が、正孔輸送層23が配置されている側の領域に存在していることを指している。
【0045】
「発光領域12Aが電子輸送層25との界面付近に位置する」とは、例えば、
図6Cに示したように、有機発光層24内の発光領域12Aの90%以上が、電子輸送層25が配置されている側に存在していることを指している。「発光領域12Aが正孔輸送層23との界面付近に位置する」とは、例えば、
図6Dに示したように、有機発光層24内の発光領域12Aの90%以上が、正孔輸送層23が配置されている側の領域に存在していることを指している。なお、
図6A〜
図6Dには、発光領域12Aの一例が示されている。例えば、発光領域のピーク(発光中心12a)が有機発光層24の界面ではなく、有機発光層24内に位置している場合もある。なお、発光領域12Aのプロファイルやピーク(発光中心12a)の位置を変化させる方法としては、例えば、有機発光層24に含まれるホスト材料とドーパント材料の比率を調整する方法がある。
【0046】
電子輸送層25は、陰極27から注入された電子を有機発光層24へ輸送する機能を有する。電子輸送層25は、例えば、蒸着膜またはスパッタ膜である。電子輸送層25は、電子輸送性を有する有機材料(以下、「電子輸送性材料25M」と称する。)主成分として含んで構成されている。電子輸送層25は、正孔ブロック性および励起子失活を防ぐのに適した、広いエネルギーギャップを有する有機材料によって構成されていることが好ましい。電子輸送層25は、電子輸送層25のエネルギーギャップが有機発光層24のエネルギーギャップよりも大きい有機材料によって構成されている。
【0047】
エネルギーギャップとは、HOMO(最高被占準位,Highest occupied molecular orbital)エネルギー準位と、LUMO(最低空準位,Lowest unoccupied molecular orbital) エネルギー準位とのエネルギー差を指す。エネルギーギャップは、バンドギャップとも言う。HOMO準位の測定法としては、例えば、大気中光電子分光法、電気化学的手法(サイクリックボルタメトリー)、又は、光電子分光法(PES)等が挙げられる。一方、LUMO準位の測定法としては、例えば、逆光電子分光法(IPES)、又は、光吸収分光法により吸収端から求めたエネルギーギャップとHOMO準位とから算出する方法等が挙げられる。また、それぞれの準位を、分子起動法計算を用いて、HOMO準位及びLUMO準位順位を算出する手法を用いてもよい。
【0048】
電子輸送層25は、有機発光層24と陰極27との間に介在し、陰極27から注入された電子を有機発光層24へ輸送する機能を有する。なお、電子輸送層25は、さらに、有機発光層24から陰極27への電荷(本実施の形態では正孔)の突き抜けを抑制する電荷ブロック機能や、有機発光層24の励起状態の消光を抑制する機能等を有していることが好ましい。電子輸送層25の原料(材料)である電子輸送性材料25Mは、例えば、分子内にヘテロ原子を1個以上含有する芳香族ヘテロ環化合物である。芳香族ヘテロ環化合物としては、例えば、ピリジン環、ピリミジン環、トリアジン環、ベンズイミダゾール環、フェナントロリン環、キナゾリン環等を骨格に含む化合物が挙げられる。また、電子輸送層25は、電子輸送性を有する金属を含んでもよい。電子輸送層25は、電子輸送性を有する金属を含むことで、電子輸送層25の電子輸送性を向上できる。電子輸送層25に含まれる金属としては、例えば、バリウム(Ba)、リチウム(Li)、カルシウム(Ca)、カリウム(K)、セシウム(Cs)、ナトリウム(Na)、ルビジウム(Rb)、イットリビウム(Yb)等を用いることができる。
【0049】
陰極27は、例えば、光反射性を有する反射電極であり、例えば反射性を有する金属材料を用いて形成された金属電極である。陰極27の材料としては、例えば、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、銀(Ag)、アルミニウム−リチウム合金、マグネシウム−銀合金等が用いられる。なお、陰極27は、反射電極に限るものではなく、陽極21と同様に、ITO膜等の透明電極であってもよい。基板14及び陽極21が透光性を有し、陰極27が反射性を有する場合には、有機電界発光素子12−2は、基板14側から光が放出するボトムエミッション構造となっている。陽極21が反射性を有し、陰極27が透光性を有する場合には、有機電界発光素子12−2は、トップエミッション構造となっている。
【0050】
有機電界発光パネル10は、さらに、例えば、各有機電界発光素子12−2を封止する封止層28を有していてもよい。封止層28は、例えば、各有機電界発光素子12−2の陰極27の表面に接して設けられている。
【0051】
次に、本実施の形態に係る有機電界発光素子12−2の特徴について、比較例を交えて説明する。
図7は、有機電界発光素子12−2を副画素12の種類ごとに模式的に表したものである。
図8は、
図7の有機電界発光素子12−2における各層の膜厚の一例を表したものである。
図9は、比較例に係る有機電界発光素子における各層の膜厚の一例を表したものである。
図10、
図11は、キャビティの次数と光取り出し強度との関係の一例を表したものである。
図12は、有機電界発光素子12−2の強度マップの一例を表したものである。
図12(A)は、赤色の副画素12Rの有機電界発光素子12−2の強度マップの一例を表したものである。
図12(B)は、緑色の副画素12Rの有機電界発光素子12−2の強度マップの一例を表したものである。
図12(C)は、青色の副画素12Rの有機電界発光素子12−2の強度マップの一例を表したものである。
図13は、
図12の強度マップの数値の一例を表したものである。
【0052】
副画素12R、副画素12Gおよび副画素12Bにおいて、有機電界発光素子12−2には、マイクロキャビティ構造が設けられている。
図7の左端には、副画素12Rの有機電界発光素子12−2に設けられているマイクロキャビティ構造Crが例示されている。
図7の中央には、副画素12Gの有機電界発光素子12−2に設けられているマイクロキャビティ構造Cgが例示されている。
図7のマイクロキャビティ構造Cr,Cgにおいて、正孔注入層22および正孔輸送層23からなる層が本開示の「第1有機層」の一具体例に相当する。
図7のマイクロキャビティ構造Cr,Cgにおいて、電子輸送層25および電子注入層26からなる層が本開示の「第2有機層」の一具体例に相当する。なお、
図7において、正孔注入層22が省略されていてもよい。また、
図7において、電子注入層26が省略されていてもよい。また、
図7のマイクロキャビティ構造Cr,Cgにおいて、正孔注入層22の全体もしくは一部が無機材料によって構成されている場合には、正孔注入層22および正孔輸送層23からなる層のうち、有機材料によって構成されている箇所が本開示の「第1有機層」の一具体例に相当する。
図7の右端には、副画素12Bの有機電界発光素子12−2に設けられているマイクロキャビティ構造Cbが例示されている。マイクロキャビティ構造Cr,Cg,Cbは、例えば、陽極21と陰極27との間で生じる光の共振を利用し、特定波長の光を増強させる効果を有する。有機発光層24から発せられた光は、陽極21と陰極27との間で多重反射する。このとき、有機発光層24から発せられた光のうちの特定の波長成分が強められる。
【0053】
本実施の形態では、副画素12R、副画素12Gおよび副画素12Bから射出される光の波長は、それぞれ異なる。そのため、陽極21と陰極27との間の光路長は、各色の発光スペクトルピーク波長に対応している。マイクロキャビティ構造Cr,Cg,Cbにより、有機発光層24から出射された光は、陽極21と陰極27との間で所定の光学長の範囲内で反射を繰り返し、光路長に対応した特定の波長の光は共振して増強される一方、光路長に対応しない波長の光は弱められる。その結果、外部に取り出される光のスペクトルが急峻でかつ高強度になり、輝度および色純度が向上する。
【0054】
マイクロキャビティ構造では、膜厚が大きくなるにつれて、1次干渉(ファーストキャビティ)、2次干渉(セカンドキャビティ)、3次干渉(サードキャビティ)などが発生する。マイクロキャビティ構造Cr,Cgは、セカンドキャビティが生じる光路長を有している。一方、マイクロキャビティ構造Cbは、サードキャビティが生じる光路長を有している。マイクロキャビティ構造Crにおいて、陽極21と陰極27との間の距離Lrが、副画素12Rの有機発光層24から出射される光(赤色光)の波長においてセカンドキャビティが生じる光路長となっている。また、マイクロキャビティ構造Cgにおいて、陽極21と陰極27との間の距離Lgが、副画素12Gの有機発光層24から出射される光(緑色光)の波長においてセカンドキャビティが生じる光路長となっている。また、マイクロキャビティ構造Cbにおいて、陽極21と陰極27との間の距離Lgが、副画素12Bの有機発光層24から出射される光(青色光)の波長においてサードキャビティが生じる光路長となっている。
【0055】
本実施の形態では、副画素12R、副画素12Gおよび副画素12Bにおいて、電子輸送層25は、互いに共通の層で構成されている。例えば、副画素12R、副画素12Gおよび副画素12Bにおいて、電子輸送層25は、蒸着やスパッタなどによって一括成膜されている。副画素12Rおよび副画素12Gにおいて、正孔注入層22、正孔輸送層23、有機発光層24、電子輸送層25および電子注入層26は、陽極21と陰極27との間の距離Lr,Lgが、セカンドキャビティが生じる光路長となるように調整された膜厚となっている。また、副画素12Bにおいて、正孔注入層22、正孔輸送層23、有機発光層24、電子輸送層25および電子注入層26は、陽極21と陰極27との間の距離Lbが、サードキャビティが生じる光路長となるように調整された膜厚となっている。
【0056】
有機電界発光素子の設計では、陽極21と発光中心24aとの距離や、陰極27と発光中心24aとの距離が非常に重要である。これらの距離の基準点は、厳密には発光再結合が起こる位置である。
【0057】
図8には、副画素12Rおよび副画素12Gにおいて発光中心24aが有機発光層24内の正孔輸送層23側に位置するとともに、副画素12Bにおいて発光中心24aが有機発光層24内の電子輸送層25側に位置しているときの、各層の膜厚の一例が示されている。
図8において、膜厚の単位はnmである。
図8の上段には、マイクロキャビティ構造Crにおいて、発光中心24aの上部に相当する箇所(上部層)の理想的な膜厚と、発光中心24aの下部に相当する箇所(下部層)の理想的な膜厚とが例示されている。
【0058】
副画素12Rにおいて、上部層の膜厚Lr1が理想的には250nmとなっており、下部層の膜厚Lr2が理想的には60nmとなっている。膜厚Lr1が本開示の「第2距離」の一具体例に対応し、膜厚Lr2が本開示の「第1距離」の一具体例に対応する。膜厚Lr1,Lr2は、発光中心24aから発せられた光がマイクロキャビティ構造Crによって共振するような光路長となっている。また、副画素12Gにおいて、上部層の膜厚Lg1が理想的には215nmとなっており、下部層の膜厚Lg2が理想的には50nmとなっている。膜厚Lg1,Lg2は、発光中心24aから発せられた光がマイクロキャビティ構造Cgによって共振するような光路長となっている。膜厚Lg1が本開示の「第2距離」の一具体例に対応し、膜厚Lg2が本開示の「第1距離」の一具体例に対応する。副画素12Bにおいて、上部層の膜厚Lb1が理想的には170nmとなっており、下部層の膜厚Lb2が理想的には180nmとなっている。膜厚Lb1,Lb2は、発光中心24aから発せられた光がマイクロキャビティ構造Cbによって共振するような光路長となっている。
【0059】
また、
図8の下段には、有機電界発光素子12−2に含まれる各層の膜厚が例示されている。各副画素12において、電子輸送層25および電子注入層24は、蒸着やスパッタなどによって一括成膜されたものであり、電子輸送層25および電子注入層24の合計膜厚が170nmとなっている。副画素12rにおいて、有機発光層24の膜厚が80nmとなっており、正孔輸送層23および正孔注入層22の合計膜厚が60nmとなっている。また、副画素12gにおいて、有機発光層24の膜厚が45nmとなっており、正孔輸送層23および正孔注入層22の合計膜厚が50nmとなっている。また、副画素12bにおいて、有機発光層24の膜厚が50nmとなっており、正孔輸送層23および正孔注入層22の合計膜厚が130nmとなっている。
【0060】
図8から、各副画素12において、有機発光層24の膜厚が塗布に適した膜厚(45nm〜80nm)となっており、さらに、正孔輸送層23および正孔注入層22の合計膜厚も塗布に適した膜厚(50nm〜130nm)となっていることがわかる。
【0061】
図9には、比較例に係る各副画素における膜厚が例示されている。
図9には、各色の副画素において発光中心が有機発光層内の正孔輸送層側に位置しているときの、各層の膜厚の一例が示されている。
図9において、膜厚の単位はnmである。
図9の上段には、各色の副画素のマイクロキャビティ構造において、発光中心の上部に相当する箇所(上部層)の理想的な膜厚と、発光中心の下部に相当する箇所(下部層)の理想的な膜厚とが例示されている。また、
図9の下段には、有機電界発光素子に含まれる各層の膜厚が例示されている。
図9において、青色の副画素における正孔輸送層23および正孔注入層22の合計膜厚が、塗布に適した膜厚よりも厚くなっている。そのため、青色の副画素において、発光中心を、有機発光層内の正孔輸送層側に配置することは、塗布の観点からは不適切であることがわかる。
【0062】
ところで、マイクロキャビティ構造におけるキャビティの次数を決める際に、従来のシミュレーションでは、干渉効果のみが考慮されていた。そのため、
図10に示したように、キャビティの次数が大きくなるにつれて、光取り出し効率が大幅に減っていくことがわかる。従って、光取り出し効率の観点からは、キャビティの次数を1次にすることが好ましく、2次や3次にすることは好ましくないことがわかる。一方で、本願の発明者は、マイクロキャビティ構造におけるキャビティの次数を決めるには、干渉効果だけでなく、金属消光も考慮すべきことを見出した。そこで、本願の発明者は、干渉効果と金属消光とを考慮したシミュレーションによって、光取り出し効率と、マイクロキャビティ構造におけるキャビティの次数との関係を導出した。その結果を
図11に示した。
図11から、副画素12Rおよび副画素12Gにおいては、キャビティの次数を1次にするよりも、2次にすることが好ましいことがわかる。さらに、
図11から、副画素12Bにおいては、キャビティの次数を1次にするよりも、3次にすることが好ましいことがわかる。なお、副画素12Bにおいて、キャビティの次数を2次にしたときの光取り出し効率がキャビティの次数を3次にしたときの光取り出し効率よりも小さくなるのは、おそらく、金属消光の影響が他の副画素12R,12Gと比べて長距離に及ぶためであると思われる。
【0063】
図12(A)、
図12(B)、
図12(C)には、横軸を下部層の膜厚とし、縦軸を上部層の膜厚としたときの強度マップ(光取り出し効率の大きさマップ)が示されている。
図13には、
図12(A)、
図12(B)、
図12(C)に示した光取り出し効率における最大値を100%としたときの、各次数におけるピーク値の割合が示されている。
【0064】
図12(A)、
図12(B)、
図12(C)において、2次のキャビティが2箇所存在していることがわかる。また、
図12(A)、
図12(B)、
図12(C)において、3次のキャビティが3箇所存在していることがわかる。
図12(A)、
図12(B)、
図12(C)からは、下部層の膜厚が薄く、上層の膜厚が厚くなるときの方が、下部層の膜厚が厚く、上層の膜厚が薄くなるときと比べて、2次のキャビティにおける光取り出し効率が高くなっていることがわかる。また、
図12(A)、
図12(B)、
図12(C)からは、下部層の膜厚が2番目に薄く、上層の膜厚も2番目に薄いときに、3次のキャビティにおける光取り出し効率が最も高くなることがわかる。また、2次のキャビティにおける光取り出し効率と、3次のキャビティにおける光取り出し効率とを対比すると、副画素12Rおよび副画素12Gにおいては、2次のキャビティにおける光取り出し効率の方が、3次のキャビティにおける光取り出し効率よりも高くなっていることがわかる。その一方で、副画素12Bにおいては、3次のキャビティにおける光取り出し効率の方が、2次のキャビティにおける光取り出し効率よりも高くなっていることがわかる。
【0065】
以上のことから、マイクロキャビティ構造Cr,Cgは、光取り出し効率の観点からは、セカンドキャビティが生じる光路長を有していることが好ましい。一方、マイクロキャビティ構造Cbは、光取り出し効率の観点からは、サードキャビティが生じる光路長を有していることが好ましい。
【0066】
図14は、本実施の形態に係る有機電界発光素子12−2において、発光中心12aの位置と光取り出し強度との関係の一例を表したものである。
図15は、比較例に係る有機電界発光素子において、キャビティの次数と光取り出し強度との関係の一例を表したものである。
図16は、正孔輸送層23の吸収係数kと光取り出し強度との関係の一例を表したものである。吸収係数kは、例えば、数10nm〜数100nmの薄膜にも対応可能な分光エリプソメータを用いて導出することが可能である。
【0067】
図14には、有機発光層24に接する正孔輸送層23の吸収係数kが0.06のときの副画素12Rおよび副画素12Gの発光中心12aの位置と光取り出し強度との関係の一例が示されている。
図15には、有機発光層24に接する正孔輸送層23の吸収係数kがゼロのときの副画素12Rおよび副画素12Gの発光中心12aの位置と光取り出し強度との関係の一例が示されている。
図14、
図15では、マイクロキャビティ構造Cr,Cgの共振点が、有機発光層24の界面(具体的には、有機発光層24と正孔輸送層23との界面)の位置となっている。
図16には、副画素12Rおよび副画素12Gにおいて、正孔輸送層23の吸収係数kと、有機発光層24と正孔輸送層23との界面における光取り出し強度との関係が例示されている。
【0068】
ところで、正孔輸送層23の吸収係数kは、実際にはゼロではなく、材料によって様々な値を採り得る。副画素12Rおよび副画素12Gのうち、少なくとも一方の副画素12の正孔輸送層23は、通常、吸収係数kが0.
01以上0.
06以下の材料で構成されている。そのため、発光中心12aが有機発光層24と正孔輸送層23との界面にある場合、正孔輸送層23の吸収係数kによって、発光の近接場エネルギーに損失が発生する。その結果、光取り出し効率が低下するおそれがある。
【0069】
そこで、本実施の形態に係る有機電界発光素子12−2では、吸収係数kが0.
01以上0.
06以下の材料で構成された正孔輸送層23を有する副画素12の有機発光層24は、例えば、
図14に示したように、当該有機発光層24の、正孔輸送層23側の界面から、当該有機発光層24の厚さを1としたときの0より大きく0.4以下の厚さの分だけ後退した位置に発光中心12a(第1発光中心)を有している。これにより、発光中心12aが有機発光層24と正孔輸送層23との界面にある場合よりも、光取り出し効率が向上する。また、吸収係数kが0.
01以上0.
06以下の材料で構成された正孔輸送層23を有する副画素12の有機発光層24は、例えば、
図14に示したように、当該有機発光層24の、正孔輸送層23側の界面から、当該有機発光層24の厚さを1としたときの0.1以上0.2以下の厚さの分だけ後退した位置に発光中心12a(第1発光中心)を有していることがより好ましい。このようにした場合には、光取り出し効率が最も向上する。
【0070】
図16には、正孔輸送層23の吸収係数kを0から徐々に大きくしていくと、有機発光層24と正孔輸送層23との界面における光取り出し強度が徐々に小さくなっていく様子が示されている(図中の黒丸)。これは、正孔輸送層23の吸収係数kによって、発光の近接場エネルギーに損失が発生しているためである。その一方で、光取り出し強度が最大となる箇所(図中の白丸)は、有機発光層24と正孔輸送層23との界面から、当該有機発光層24の厚さを1としたときの0.1以上0.2以下の厚さの分だけ後退した位置にある。このように、発光中心12aを、有機発光層24と正孔輸送層23との界面(つまり共振点)から少し離れた箇所に配置することにより、光取り出し強度を最大化することができることがわかる。
【0071】
[効果]
次に、本実施の形態の有機電界発光パネル10およびそれを備えた有機電界発光装置1の効果について説明する。
【0072】
従来から、有機電界発光素子の光取り出し効率を向上するための試みが非常に多くなされている。光取り出し効率を高めることで、消費電力を低減することができるからである。光取り出し効率を高める手段の1つとしてマイクロキャビティ効果を利用することが考えられる。しかし、
図9に示したように、干渉効果のみを考慮した光学計算では、2次以上のキャビティを利用すると、光取り出し効率がむしろ低下してしまう。
【0073】
一方、本実施の形態では、赤色の画素12Rおよび緑色の画素12Gのマイクロキャビティ構造は、それぞれ、セカンドキャビティが生じる光路長を有している。一方、青色の画素12Bのマイクロキャビティ構造は、サードキャビティが生じる光路長を有している。これは、干渉効果だけでなく金属消光の効果も考慮した光学計算では、
図10に示したように、光取り出し効率は干渉効果だけでなく金属消光の効果にも依存しているためである。
図10によると、赤色の画素12Rおよび緑色の画素12Gでは、2次のキャビティを利用すると、光取り出し効率が最大となり、青色の画素12Bでは、3次のキャビティを利用すると、光取り出し効率が最大となる。従って、セカンドキャビティが生じる光路長(共振器長)となるように、赤色の画素12Rおよび緑色の画素12Gのマイクロキャビティ構造を構成し、サードキャビティが生じる光路長(共振器長)となるように、青色の画素12Bのマイクロキャビティ構造を構成することにより、干渉効果だけでなく金属消光の影響も緩和され、光取り出し効率を向上させることができる。その結果、有機電界発光素子12−2の素子性能を向上させることができる。
【0074】
また、本実施の形態では、副画素12Rおよび副画素12Gにおいて、陽極21と陰極27との間の距離Lr,Lgが、セカンドキャビティが生じる光路長となっている。つまり、正孔注入層22、正孔輸送層23、有機発光層24、電子輸送層25および電子注入層26が、副画素12Rおよび副画素12Gにおいて、陽極21と陰極27との間の距離Lr,Lgが、セカンドキャビティが生じる光路長となるように調整された膜厚となっている。さらに、副画素12Bにおいて、陽極21と陰極27との間の距離Lbが、サードキャビティが生じる光路長となっている。つまり、正孔注入層22、正孔輸送層23、有機発光層24、電子輸送層25および電子注入層26が、副画素12Bにおいて、陽極21と陰極27との間の距離Lbが、サードキャビティが生じる光路長となるように調整された膜厚となっている。これにより、光取り出し効率を向上させることができる。その結果、有機電界発光素子12−2の素子性能を向上させることができる。また、このときに、副画素12R、副画素12Gおよび副画素12Bにおいて、電子輸送層25の膜厚を共通にすることができる。その結果、副画素12R、副画素12Gおよび副画素12Bにおいて、電子輸送層25を、互いに共通の層で構成することができる。
【0075】
また、本実施の形態では、副画素12R、副画素12Gおよび副画素12Bにおいて、電子輸送層25を、互いに共通の層で構成することができる。これにより、電子輸送層24を、マスクを使わずに一括成膜で形成することができる。その結果、電子輸送層24を、副画素12R、副画素12Gおよび副画素12Bにおいて共通の蒸着膜またはスパッタ膜とすることができる。
【0076】
また、本実施の形態では、副画素12Rおよび副画素12Gにおいて発光中心24aが有機発光層24内の正孔輸送層23側に配置されるとともに、副画素12Bにおいて発光中心24aが有機発光層24内の電子輸送層25側に配置されている。これにより、例えば、
図8に示したように、各副画素12において、有機発光層24の膜厚を塗布に適した膜厚(45nm〜80nm)にすることができ、さらに、正孔輸送層23および正孔注入層22の合計膜厚も塗布に適した膜厚(50nm〜130nm)にすることができる。その結果、各副画素12における有機電界発光素子12−2を塗布型の素子とすることができるので、有機電界発光パネル10を安価に大型化することができる。
【0077】
ところで、低コストで大型化パネルの製造が容易な塗布型デバイスで光取出しを最大化させることが望まれている。塗布型デバイスとは、例えば、正孔輸送層23や有機発光層24を塗布で形成し、電子輸送層25を、RGB画素に対して一括で形成した有機発光素子12−2を指している。塗布型デバイスでは、マスクパターン技術が不要なため、大型かつ安価なパネルを製造することができる。
【0078】
しかし、上記塗布型デバイスでは、電子輸送層25が一括で形成される。そのため、電子輸送層25の膜厚を、発光効率が最も低く電力の最大律速となる青色の画素12Bに最適化した膜厚に設計することになる。しかし、そのようにした場合には、赤色の画素12Rと、緑色の画素12Gにおける光取出しが低下してしまうという問題がある。
【0079】
一方、本実施の形態では、吸収係数kが0.
01以上0.
06以下の材料で構成された正孔輸送層23による消光の影響の最も大きな箇所である界面から、有機発光層24の厚さを1としたときの0より大きく0.4以下の厚さの分だけ後退した位置が発光中心12aとなっている。これにより、正孔輸送層23による消光の影響を避けつつ、共振点からのズレに起因する強度の低下を低く抑えることができる。その結果、有機電界発光素子の素子性能(光取出し効率)を向上させることができる。
【0080】
また、本実施の形態では、吸収係数kが0.
01以上0.
06以下の材料で構成された正孔輸送層23による消光の影響の最も大きな箇所である界面から、有機発光層24の厚さを1としたときの0.1以上0.2以下の厚さの分だけ後退した位置が発光中心12aとなっている。これにより、正孔輸送層23による消光の影響を避けつつ、共振点からのズレに起因する強度の低下をより一層低く抑えることができる。その結果、有機電界発光素子の素子性能(光取出し効率)をより一層向上させることができる。
【0081】
<2.適用例>
[適用例その1]
以下では、上記実施の形態で説明した有機電界発光装置1の適用例について説明する。有機電界発光装置1は、テレビジョン装置、デジタルカメラ、ノート型パーソナルコンピュータ、シート状のパーソナルコンピュータ、携帯電話等の携帯端末装置あるいはビデオカメラなど、外部から入力された映像信号あるいは内部で生成した映像信号を、画像あるいは映像として表示するあらゆる分野の電子機器の表示装置に適用することが可能である。
【0082】
図17は、本適用例に係る電子機器2の外観を斜視的に表したものである。電子機器3は、例えば、筐体310の主面に表示面320を備えたシート状のパーソナルコンピュータである。電子機器2は、電子機器2の表示面320に、有機電界発光装置1を備えている。有機電界発光装置1は、有機電界表示パネル10が外側を向くように配置されている。本適用例では、有機電界発光装置1が表示面320に設けられているので、発光効率の高い電子機器2を実現することができる。
【0083】
[適用例その2]
以下では、上記実施の形態で説明した有機電界発光素子12−2の適用例について説明する。有機電界発光素子12−2は、卓上用もしくは床置き用の照明装置、または、室内用の照明装置など、あらゆる分野の照明装置の光源に適用することが可能である。
【0084】
図18は、有機電界発光素子12−2が適用される室内用の照明装置の外観を表したものである。この照明装置は、例えば、1または複数の有機電界発光素子12−2を含んで構成された照明部410を有している。照明部410は、建造物の天井420に適宜の個数および間隔で配置されている。なお、照明部410は、用途に応じて、天井420に限らず、壁430または床(図示せず)など任意の場所に設置することが可能である。
【0085】
これらの照明装置では、有機電界発光素子12−2からの光により、照明が行われる。これにより、発光効率の高い照明装置を実現することができる。
【0086】
以上、実施の形態を挙げて本開示を説明したが、本開示は実施の形態に限定されるものではなく、種々変形が可能である。例えば、上記実施の形態では、基板14上に複数のラインバンク13および複数のバンク15が設けられていたが、それらの代わりに、副画素12ごとに1つずつピクセルバンクが設けられていてもよい。
【0087】
また、例えば、上記実施の形態では、赤色の画素12Rおよび緑色の画素12Gのマイクロキャビティ構造が、それぞれ、セカンドキャビティが生じる光路長を有していた。さらに、青色の画素12Bのマイクロキャビティ構造が、サードキャビティが生じる光路長を有していた。しかし、上記実施の形態において、赤色の画素12R、緑色の画素12Gおよび青色の画素12Bのマイクロキャビティ構造が、それぞれ、上記とは異なる組み合わせになっていてもよい。例えば、上記実施の形態において、赤色の画素12R、緑色の画素12Gおよび青色の画素12Bのマイクロキャビティ構造が、それぞれ、ファーストキャビティ、または、セカンドキャビティが生じる光路長を有していてもよい。
【0088】
なお、本明細書中に記載された効果は、あくまで例示である。本開示の効果は、本明細書中に記載された効果に限定されるものではない。本開示が、本明細書中に記載された効果以外の効果を持っていてもよい。
【0089】
また、例えば、本開示は以下のような構成を取ることができる。
(1)
陽極と、発光層を含む有機層と、陰極とをこの順に備えた有機電界発光素子であって、
前記有機層において、前記発光層と前記陽極との間にある第1有機層が、吸収係数が0.01以上0.06以下の材料で構成された正孔輸送層を含み、
前記発光層は、当該発光層の、前記陽極側の界面から、当該発光層の厚さを1としたときの0より大きく0.35未満の厚さの分だけ後退した位置に発光中心を有し、
当該有機電界発光素子は、前記界面の位置が共振点となるマイクロキャビティ構造を有する
有機電界発光素子。
(2)
前記発光層は、当該発光層の、前記陽極側の界面から、当該発光層の厚さを1としたときの0.1以上、0.2以下の厚さの分だけ後退した位置に前記発光中心を有する
(1)に記載の有機電界発光素子。
(3)
前記界面と前記陽極との間の第1距離と、前記界面と前記陰極との間の第2距離とが、前記発光中心から発せられた光が前記マイクロキャビティ構造によって共振するような光路長となっている
(1)または(2)に記載の有機電界発光素子。
(4)
前記有機層において、前記発光層と前記陰極との間にある第2有機層は、蒸着膜またはスパッタ膜であり、
前記発光層および前記第1有機層は、塗布膜である
(1)から(3)のいずれか一項に記載の有機電界発光素子。
(5)
前記正孔輸送層は、不溶化された正孔輸送層である
(1)から(4)のいずれか一項に記載の有機電界発光素子。
(6)
赤色画素、緑色画素および青色画素を備え、
前記赤色画素、前記緑色画素および前記青色画素は、それぞれ、陽極と、発光層を含む有機層と、陰極とをこの順に備えた有機電界発光素子を有し、
前記赤色画素および前記緑色画素のうち、少なくとも一方の画素の前記有機層において、前記発光層と前記陽極との間にある第1有機層が、吸収係数が0.01以上0.06以下の材料で構成された正孔輸送層を含み、
前記正孔輸送層を有する画素における前記発光層は、当該発光層の、前記正孔輸送層側の界面から、当該発光層の厚さを1としたときの0より大きく0.35未満の厚さの分だけ後退した位置に第1発光中心を有し、
前記正孔輸送層を有する画素における前記有機電界発光素子は、前記界面の位置が共振点となるマイクロキャビティ構造を有する
有機電界発光パネル。
(7)
前記有機層において、前記発光層と前記陰極との間にある第2有機層が、電子輸送層を含み、
前記電子輸送層は、蒸着膜またはスパッタ膜であり、
前記発光層および前記第1有機層は、塗布膜である
(6)に記載の有機電界発光パネル。
(8)
前記赤色画素、前記緑色画素および前記青色画素において、前記電子輸送層は、互いに共通の層で構成されている
(7)に記載の有機電界発光パネル。
(9)
前記青色画素において、前記発光層は、当該発光層の、前記電子輸送層側の位置に第2発光中心を有する
(7)または(8)に記載の有機電界発光パネル。
(10)
有機電界発光パネルと、
前記有機電界発光パネルを駆動する駆動回路と
を備え、
前記有機電界発光パネルは、赤色画素、緑色画素および青色画素を有し、
前記赤色画素、前記緑色画素および前記青色画素は、それぞれ、陽極と、発光層を含む有機層と、陰極とをこの順に備えた有機電界発光素子を有し、
前記赤色画素、前記緑色画素および前記青色画素のうち、少なくとも一方の画素の前記有機層において、前記発光層と前記陽極との間にある第1有機層が、吸収係数が0.01以上0.06以下の材料で構成された正孔輸送層を含み、
前記正孔輸送層を有する画素における前記発光層は、当該発光層の、前記正孔輸送層側の界面から、当該発光層の厚さを1としたときの0より大きく0.35未満の厚さの分だけ後退した位置に発光中心を有し、
前記正孔輸送層を有する画素における前記有機電界発光素子は、前記界面の位置が共振点となるマイクロキャビティ構造を有する
有機電界発光装置。
(11)
有機電界発光装置を備え、
前記有機電界発光装置は、
有機電界発光パネルと、
前記有機電界発光パネルを駆動する駆動回路と
を有し、
前記有機電界発光パネルは、赤色画素、緑色画素および青色画素を有し、
前記赤色画素、前記緑色画素および前記青色画素は、それぞれ、陽極と、発光層を含む有機層と、陰極とをこの順に備えた有機電界発光素子を有し、
前記赤色画素、前記緑色画素および前記青色画素のうち、少なくとも一方の画素の前記有機層において、前記発光層と前記陽極との間にある第1有機層が、吸収係数が0.01以上0.06以下の材料で構成された正孔輸送層を含み、
前記正孔輸送層を有する画素における前記発光層は、当該発光層の、前記正孔輸送層側の界面から、当該発光層の厚さを1としたときの0より大きく0.35未満の厚さの分だけ後退した位置に発光中心を有し、
前記正孔輸送層を有する画素における前記有機電界発光素子は、前記界面の位置が共振点となるマイクロキャビティ構造を有する
電子機器。