【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、環境省、未来のあるべき社会・ライフスタイルを創造する技術イノベーション事業委託業務、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施形態に係る半導体装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、いずれも本開示の一具体例を示すものである。したがって、以下の実施形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本開示を限定する趣旨ではない。よって、以下の実施形態における構成要素のうち、本開示の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0014】
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。したがって、例えば、各図において縮尺などは必ずしも一致しない。また、各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。また、以下の実施形態において、略平行などの「略」を用いた表現を用いている。例えば、略平行は、完全に平行であることを意味するだけでなく、実質的に平行である、すなわち、例えば数%程度の差異を含むことも意味する。他の「略」を用いた表現についても同様である。
【0015】
また、本明細書において、「上方」及び「下方」という用語は、絶対的な空間認識における上方向(鉛直上方)及び下方向(鉛直下方)を指すものではなく、積層構造における積層順を基に相対的な位置関係により規定される用語として用いる。また、「上方」及び「下方」という用語は、2つの構成要素が互いに間隔を空けて配置されて2つの構成要素の間に別の構成要素が存在する場合のみならず、2つの構成要素が互いに密着して配置されて2つの構成要素が接する場合にも適用される。
【0016】
また、AlGaNとは、3元混晶Al
xGa
1−xN(xはある値、但し0≦x≦1)のことを表す。以下、多元混晶はそれぞれの構成元素記号の配列、例えばAlInN、GaInNなどでもって略記される。例えば、窒化物半導体Al
xGa
1−x−yIn
yN(x、yはある値、但し0≦x≦1、0≦y≦1)はAlGaInNと略記される。
【0017】
(第1の実施形態)
以下、本開示の第1の実施形態に係る半導体装置について、添付の図面を参照して説明する。
【0018】
[構成及び製造方法]
図1は、本実施形態に係る半導体装置12の断面図である。
【0019】
図1に示すように、本実施形態の半導体装置12は、n型GaNよりなる基板1と、基板1の主面上にn型のGaNよりなるドリフト層2とを備える。ドリフト層2の一部には、溝部10が形成されている。
【0020】
半導体装置12は、さらに、ドリフト層2の上方に順に形成された、第1の下地層3と、ブロック層4と、第2の下地層5とを備える。半導体装置12は、さらに、第2の下地層5、ブロック層4及び第1の下地層3を貫通し、ドリフト層2にまで達する第1の開口部の一例であるゲート開口部9を有する。
【0021】
半導体装置12は、さらに、ゲート開口部9を覆うように形成された電子走行層の一例である第1の再成長層6、及び、電子供給層の一例である第2の再成長層7をこの順で備える。第1の再成長層6の、第2の再成長層7との界面の近傍には、チャネルとなる二次元電子ガス層8が形成される。半導体装置12は、さらに、第2の再成長層7の上方のゲート開口部9が位置する位置に形成されたゲート電極Gを備える。
【0022】
半導体装置12は、さらに、溝部10に対応する位置において、第2の再成長層7、第1の再成長層6、第2の下地層5及びブロック層4を貫通し、第1の下地層3にまで達する第2の開口部の一例であるソース開口部11を有する。半導体装置12は、さらに、ソース開口部11を覆うように形成され、第1の下地層3と第2の再成長層7とに接するソース電極Sを備える。また、半導体装置12は、基板1の裏面上に形成されたドレイン電極Dを備える。このように、本実施形態に係る半導体装置12は、いわゆる縦型の電界効果トランジスタである。
【0023】
ゲート開口部9と溝部10とは、平面視において、互いに離れた位置に設けられている。ソース電極Sとゲート電極Gとは、平面視において離間して設けられている。また、ソース電極Sは、ソース開口部11の側面において二次元電子ガス層8に接触している。なお、半導体装置12を備えるチップの平面レイアウトの一例については、後で第5の実施形態で説明する。
【0024】
本実施形態では、溝部10の底面10bは、ゲート開口部9の底面9bよりも基板1の主面に近い。具体的には、溝部10におけるソース電極Sの直下にあるドリフト層2と第1の下地層3との界面は、ゲート開口部9におけるゲート電極Gの直下にあるドリフト層2と第1の再成長層6との界面よりも基板1の主面に近い位置にある。
【0025】
以下では、半導体装置12を構成する各層(各部材)の具体的な構成について詳細に説明する。
【0026】
基板1は、互いに背向する第1の主面及び第2の主面を有し、第1の導電型を有する。第1の主面は、ドリフト層2が形成される側の主面である。第1の主面の面方位は、(0001)(すなわちc面)である。第2の主面は、ドレイン電極Dが形成される側の主面(裏面)である。本実施形態では、第1の導電型は、n
+型である。つまり、基板1には、n型のドーパントが過剰に添加されている(いわゆるn
+である)。
【0027】
なお、p型、n型は、半導体層の導電型を示し、n
+とは、半導体層にn型ドーパントが過剰に添加された状態、いわゆるヘビードープを表す。また、n
−とは、半導体層にn型ドーパントが過少に添加された状態、いわゆるライトドープを表す。n型、n
+型又はn
−型の逆導電型は、p型、p
+型又はp
−型である。
【0028】
ドリフト層2は、基板1の第1の主面上に形成され、かつ、第1の導電型の第1の窒化物半導体よりなる窒化物半導体層である。例えば、ドリフト層2は、層厚が8μmであり、かつ、n型の導電型のGaNよりなる。ドリフト層2は、基板1の第1の主面上に結晶成長させることで形成される。結晶成長は、例えば有機金属気相エピタキシャル成長法(MOVPE法)により行われる。なお、第1の下地層3、ブロック層4及び第2の下地層5も同様である。
【0029】
ドリフト層2のドナー濃度は、例えば1×10
15cm
−3以上かつ1×10
17cm
−3以下の範囲の所定の値である。また、ドリフト層2の炭素(C)濃度は、1×10
15cm
−3以上かつ2×10
17cm
−3以下の範囲の所定の値である。
【0030】
本実施形態では、ドリフト層2は、溝部10を有する。溝部10は、ドリフト層2の上面から所定の深さまでを除去することで形成される。例えば、溝部10は、ドリフト層2の平面視における所定の領域をドライエッチングにより除去することで形成される。
【0031】
溝部10は、基板1の第1の主面に対して傾斜した斜めの側面10aと、基板1の第1の主面に略平行な底面10bとを有する。なお、側面10aは、基板1の第1の主面に対して直交していてもよい。溝部10の底面10bは、ゲート開口部9の底面9bよりも基板1の第1の主面に近い位置に位置している。すなわち、底面10bから基板1の第1の主面までの距離は、底面9bから基板1の第1の主面までの距離より短い。本実施形態では、溝部10の深さは、ゲート開口部9のドリフト層2における深さよりも深い。
【0032】
溝部10は、平面視において、ゲート電極G(又はゲート開口部9)とは異なる位置に形成されている。具体的には、溝部10は、平面視において、ソース電極Sと重なる位置に形成されている。溝部10は、ゲート開口部9とは離間して、ソース電極Sの直下の位置に形成されている。
【0033】
第1の下地層3は、ドリフト層2の上方に形成された下地層である。本実施形態では、第1の下地層3は、ドリフト層2上に形成されている。具体的には、第1の下地層3は、ドリフト層2の上面、並びに、溝部10の側面10a及び底面10b上に形成されている。
【0034】
第1の下地層3は、第1の導電型とは逆導電型の第2の導電型の第5の窒化物半導体よりなる窒化物半導体層である。例えば、第1の下地層3は、層厚が400nmであり、かつ、p型の導電型のGaNよりなる。
【0035】
p型の導電型を有する第1の下地層3は、例えばMgを添加したGaNを結晶成長することにより形成されている。第1の下地層3は、アンドープのGaN(無添加(intrinsic)GaN、以下i−GaNという)を形成し、その後、i−GaNに対してMgをイオン注入することにより形成されてもよい。
【0036】
なお、第1の下地層3は、p型に限らず、半絶縁性又は絶縁性を有してもよい。第1の下地層3が半絶縁性又は絶縁性を有するようにするには、例えば第1の下地層3に鉄(Fe)を添加すればよい。
【0037】
ブロック層4は、第1の再成長層(電子走行層)6と第1の下地層3との間に配置されている。具体的には、ブロック層4は、第1の下地層3上に配置されている。ブロック層4は、絶縁性又は半絶縁性である窒化物半導体より形成されている。例えば、ブロック層4は、層厚が200nmであり、かつ、n型の導電型のGaNよりなる。ブロック層4に含まれる炭素(C)濃度は、例えば3×10
17cm
−3以上であり、1×10
18cm
−3以上でもよい。
【0038】
ブロック層4を構成する材料としては、絶縁性又は半絶縁性を有する材料であればどのような材料を用いてもよい。このとき、ブロック層4に含まれるn型不純物となる珪素(Si)又は酸素(O)の濃度は、炭素(C)の濃度に比べて低く、例えば5×10
16cm
−3以下である。珪素又は酸素の濃度は、2×10
16cm
−3以下でもよい。なお、ブロック層4は、i−GaNにマグネシウム(Mg)、鉄(Fe)又はホウ素(B)などのイオン注入で形成されてもよい。また、注入するイオンは、i−GaNを高抵抗化できるイオン種であれば上記以外のイオン種でもよい。
【0039】
ブロック層4は、寄生npn構造の発生を抑制することができるため、当該寄生npn構造による誤動作の影響を低減することができる。半導体装置12がブロック層4を備えない場合には、ソース電極Sとドレイン電極Dとの間には、結晶再成長で形成された第1の再成長層6、第2の再成長層7、第2の下地層5(n型)/第1の下地層3(p型)/ドリフト層2(n型)という積層構造を有する。この積層構造は、寄生npn構造(寄生バイポーラトランジスタ)となっている。半導体装置12がオフ状態の時、第1の下地層3に電流が流れると、この寄生バイポーラトランジスタがオンしてしまい、半導体装置12の耐圧を低下させる場合がある。その場合、半導体装置12の誤動作が生じやすい。なお、寄生バイポーラトランジスタの影響が十分に小さい場合、半導体装置12は、ブロック層4を備えなくてもよい。
【0040】
第2の下地層5は、第1の再成長層(電子走行層)6と、第1の下地層3との間に配置されている。第2の下地層5は、具体的には、ブロック層4上に配置された窒化物半導体層である。第2の下地層5は、例えば、層厚が20nmであり、Al組成が0.2であるAlGaN(Al
0.2Ga
0.8N)よりなる。第2の下地層5は、第1の下地層3からのp型不純物(Mgなど)の拡散を抑制する機能を有する。
【0041】
なお、第2の下地層5のAl組成は0.2に限定されず、他のAl組成であってもよい。例えば、第2の下地層5のAl組成の範囲は、0.12以上かつ0.30以下の範囲であってもよい。
【0042】
本実施形態では、
図1に示すように、第2の下地層5の上面から、第2の下地層5、ブロック層4及び第1の下地層3を貫通し、ドリフト層2にまで達する凹状のゲート開口部9が形成されている。ゲート開口部9は、平面視において溝部10と異なる位置に形成されている。
【0043】
ゲート開口部9は、基板1の第1の主面に対して傾斜した斜めの側面9aと、基板1の第1の主面に略平行な底面9bとを有する。ゲート開口部9は、基板1から遠ざかる程、開口面積が大きくなるように形成されている。例えば、ゲート開口部9の断面形状は、逆台形状である。
【0044】
ゲート開口部9は、基板1の第1の主面上に、ドリフト層2(ドリフト層2の形成後に溝部10を形成する)から第2の下地層5までを順に形成した後、部分的にドリフト層2を露出させるように、第2の下地層5、ブロック層4及び第1の下地層3をエッチングにより除去することで形成される。ゲート開口部9は、例えば、フォトリソグラフィによるパターニング、及び、ドライエッチングなどによって所定形状に形成される。
【0045】
第1の再成長層6は、ゲート開口部9を覆うように形成された、第2の窒化物半導体よりなる電子走行層の一例である。第1の再成長層6は、例えば、層厚が100nmであり、GaNよりなる。第1の再成長層6の膜厚は、略一定である。このため、第1の再成長層6は、ゲート開口部9の表面に沿って凹状に形成されている。
【0046】
具体的には、第1の再成長層6は、第2の下地層5の上面と、ゲート開口部9の側面9a及び底面9bとに接触して配置されている。より具体的には、第1の再成長層6は、ゲート開口部9において、第2の下地層5、ブロック層4及び第1の下地層3の各々の端面と接触し、かつ、ゲート開口部9に露出したドリフト層2の露出面(ゲート開口部9の底面9b)とに接触している。
【0047】
第2の再成長層7は、第1の再成長層6の上方に形成され、かつ、第1の再成長層6を構成する第2の窒化物半導体よりバンドギャップが大きい第3の窒化物半導体よりなる電子供給層の一例である。第2の再成長層7は、具体的には、第1の再成長層6上に配置されている。第2の再成長層7は、例えば、層厚が1nmのAlNよりなる第1の層と、層厚が50nmの、Al組成が0.2であるAlGaNよりなる第2の層とからなる。
【0048】
なお、第2の再成長層7におけるAlGaNよりなる第2の層のAl組成は0.2に限定されず、他のAl組成であってもよい。第2の再成長層7のAl組成の範囲は、0.12以上かつ0.30以下の範囲であってもよい。
【0049】
AlNよりなる第1の層が第1の再成長層6に接する。AlNよりなる第1の層と第1の再成長層6との界面、より正確には第1の再成長層6における、AlNよりなる第1の層との界面の近傍には、チャネルとなる二次元電子ガス層8が形成される。
【0050】
二次元電子ガス層8は、第1の再成長層(電子走行層)6の内部で、かつ、第1の再成長層6と第2の再成長層7との界面近傍に形成されるチャネル層の一例である。半導体装置12の通常動作においては、二次元電子ガス層8に電流が流れる。
【0051】
第1の再成長層6及び第2の再成長層7は、ゲート開口部9を設けた後、結晶再成長により、ゲート開口部9を覆うように形成される。結晶再成長は、例えば有機金属気相エピタキシャル成長法(MOVPE法)により行われる。
【0052】
本実施形態では、
図1に示すように、第2の再成長層7の上面から、第2の再成長層7、第1の再成長層6、第2の下地層5及びブロック層4を貫通し、第1の下地層3にまで達するソース開口部(第2の開口部)11が形成されている。
【0053】
ソース開口部11は、基板1の第1の主面に対して傾斜した斜めの側面11aと、基板1の第1の主面に略平行な底面11bとを有する。なお、側面11aは、基板1の第1の主面に対して直交していてもよい。ソース開口部11の断面形状は、例えば逆台形であるが、これに限定されない。
【0054】
ゲート電極Gは、第2の再成長層7の上方で、かつ、ゲート開口部9の位置する位置に形成されている。具体的には、ゲート電極Gは、第2の再成長層7上に、ゲート開口部9の凹形状に沿って形成されている。
【0055】
ゲート電極Gは、金属などの導電性の材料を用いて形成されている。例えば、ゲート電極Gは、n型の導電型を有する窒化物半導体に対してショットキー接触をする材料を用いて形成されている。当該材料として、例えば、ニッケル(Ni)若しくはNiを含む合金又は化合物(いわゆるNi系材料)、タングステンシリサイド(WSi)、金(Au)などを用いることができる。ゲート電極Gは、例えば、スパッタ又は蒸着などによって成膜した導電膜をパターニングすることにより形成される。
【0056】
ソース電極Sは、ソース開口部11を覆うように配置され、ゲート電極Gと離間し、二次元電子ガス層(チャネル層)及び第1の下地層3に接触している。具体的には、ソース電極Sは、第2の再成長層7から、ソース開口部11の側面11a及びソース開口部11の底面11bの全てを覆うように形成されている。より具体的には、ソース電極Sは、ソース開口部11の側面11aで、第2の再成長層7、第1の再成長層6、第2の下地層5及びブロック層4に接している。
【0057】
ソース電極Sは、金属などの導電性の材料を用いて形成されている。ソース電極Sの材料としては、例えば、Ti/Alなどのn型の導電型を有する窒化物半導体に対してオーミック接触をする材料を用いることができる。ソース電極Sは、例えば、スパッタ又は蒸着などによって成膜した導電膜をパターニングすることにより形成される。
【0058】
ドレイン電極Dは、基板1の第2の主面(裏面)上に配置される。ドレイン電極Dは、金属などの導電性の材料を用いて形成されている。ドレイン電極Dの材料としては、例えば、n型の導電型の窒化物半導体に対してオーミック接触をする材料を用いることができる。ドレイン電極Dは、例えば、スパッタ又は蒸着などによって導電膜を成膜することで形成される。
【0059】
[アバランシェエネルギー耐量]
ここで、本実施形態に係る半導体装置12に関し、アバランシェエネルギー耐量が大幅に向上することについて、
図2A、
図2B、
図3A及び
図3Bを用いて以下に説明する。
【0060】
図2Aは、本実施形態に係る半導体装置12を流れる電流経路を示す断面図である。
図2Bは、本実施形態に係る半導体装置12のドレイン電流IDとドレイン電圧VDとの関係を示す図である。具体的には、
図2Bでは、ソース電極Sとドレイン電極Dとの間に電圧を印加した場合の、ドレイン電極Dを流れる電流(ドレイン電流ID)と印加した電圧(ドレイン電圧VD)との関係を示している。
【0061】
また、比較例として、ドリフト層2が溝部10を有しない場合の半導体装置13を例に挙げて説明する。
図3Aは、比較例に係る半導体装置13を流れる電流経路を示す断面図である。
図3Bは、比較例に係る半導体装置13のドレイン電流IDとドレイン電圧VDとの関係を示す図である。
【0062】
図2A、
図2B、
図3A及び
図3Bにおいて、ソース電極Sとドレイン電極Dとの間に電圧を印加した場合におけるドレイン電流IDのうち、ドレイン電極Dからゲート開口部9直下の二次元電子ガス層8を経由してソース電極Sへ流れる電流をIDSgで表している。また、ドレイン電極Dから第1の下地層3を経由してソース電極Sへ流れる電流をIDSdで表している。なお、
図2A及び
図3Aで示す白抜きの矢印は、電子の向きを表しており、電流は矢印の反対向きに流れる。また、
図2B及び
図3Bにおいて、IDSgが流れ始めるドレイン電圧をVDSgで表し、IDSdが流れ始める電圧をVDSdで表す。なお、
図2A及び
図3Aにおいて、煩雑さを避けるため、層を表す符号の一部を省略している。
【0063】
図2B及び
図3Bに示すグラフより、VDSgを超えるドレイン電圧においては、IDSgが急激に増大することが分かる。また、VDSdを超えるドレイン電圧においては、IDSdが急激に増大することが分かる。これら急激に増大する電流はアバランシェ電流と呼ばれる電流であり、VDSg及びVDSdは降伏電圧と呼ばれる電圧である。
【0064】
本実施形態に係る半導体装置12では、
図2Bに示すように、VDSgの方がVDSdよりも大きい。すなわち、半導体装置12では、ゲート開口部9の直下の二次元電子ガス層8を経由する電流IDSgに基づく降伏電圧が、ソース電極Sの直下の第1の下地層3を流れる電流IDSdに基づく降伏電圧よりも大きい。このことは、半導体装置12においてドレイン電圧VDを大きくした場合に、ソース電極Sの直下の第1の下地層3とドレイン電極Dとの間で降伏が生じてアバランシェ電流が流れることを意味する。
【0065】
本実施形態に係る半導体装置12では、ソース電極Sの直下方向において、ドリフト層2に溝部10が形成されており、溝部10の底面10bがゲート開口部9の底面9bよりも基板1に近い。つまり、ソース電極S(ソース開口部11)の直下方向におけるドリフト層2の厚みが、ゲート電極G(ゲート開口部9)の直下方向におけるドリフト層2の厚みより短くなる。このため、ゲート電極Gの直下における電界集中が緩和され、電流IDSdが電流IDSgよりも流れやすくなる。したがって、電流IDSgが流れる電圧VDSgより低い電圧VDSdで電流IDSdが流れる。
【0066】
一方、比較例に係る半導体装置13では、
図3Bに示すように、VDSdの方がVDSgよりも大きい。すなわち、半導体装置13では、ソース電極Sの直下の第1の下地層3を流れる電流IDSdに基づく降伏電圧が、ゲート開口部9の直下の二次元電子ガス層8を経由する電流IDSgに基づく降伏電圧よりも大きい。このことは、半導体装置13においてドレイン電圧VDを大きくした場合に、ゲート開口部9の直下の二次元電子ガス層8を経由して降伏が生じてアバランシェ電流が流れることを意味する。
【0067】
ここで、ソース電極Sからゲート開口部9の直下の二次元電子ガス層8を経由してドレイン電極Dへ電流IDSgが流れる場合を考える。二次元電子ガス層8の層厚は、ドリフト層2と第1の下地層3との間のpn接合の長さよりも小さいので、二次元電子ガス層8の電流パスの大きさは、ドリフト層2と第1の下地層3との間のpn接合の電流パスの大きさよりも小さくなる。したがって、仮にIDSdとIDSgとが等しい大きさであった場合には、二次元電子ガス層8を流れる電流IDSgの電流密度は、ドリフト層2と第1の下地層3との間のpn接合を流れる電流IDSdの電流密度よりも大きくなる。この場合、二次元電子ガス層8において生じるエネルギー密度は、ドリフト層2と第1の下地層3との間のpn接合において生じるエネルギー密度よりも大きくなる。
【0068】
逆にいえば、ソース電極Sの直下の第1の下地層3とドレイン電極Dとの間で降伏が生じてアバランシェ電流が流れた方が、半導体装置12に生じるエネルギー密度を小さくでき、アバランシェエネルギー耐量が増大する。
【0069】
本実施形態に係る半導体装置12では、
図2A及び
図2Bで示したように、ソース電極Sの直下の第1の下地層3とドレイン電極Dとの間で降伏が生じてアバランシェ電流が流れる。一方、比較例に係る半導体装置13では、
図3A及び
図3Bで示したように、ソース電極Sとドレイン電極Dとの間で、ゲート開口部9の直下の二次元電子ガス層8を介して降伏が生じてアバランシェ電流が流れる。そのため、本実施形態に係る半導体装置12は、比較例に係る半導体装置13よりも大きなアバランシェエネルギー耐量を有することになる。
【0070】
すなわち、本実施形態に係る半導体装置12では、アバランシェエネルギー耐量が大幅に向上する。
【0071】
[アバランシェ降伏電圧とソース電極の底面の長さ及び溝部の底面の長さとの関係]
ここで、
図1に示すように、本実施形態に係る半導体装置12では、ソース開口部11の底面11bの長さよりも溝部10の底面10bの長さが大きい。これにより、アバランシェ電流が流れるpn接合(第1の下地層3とドリフト層2との界面)の面積をより大きくできる。このため、半導体装置12の内部におけるエネルギー密度を低減することができ、アバランシェエネルギー耐量をより大きくすることができる。
【0072】
以下では、アバランシェ降伏電圧と、ソース電極Sの底面(ソース開口部11の底面11b)の長さ及び溝部10の底面10bの長さとの関係について、
図4A及び
図4Bを用いて詳細に説明する。
【0073】
図4Aは、本実施形態に係る半導体装置12のソース電極Sの底面の長さLsと溝部10の底面10bの長さLbとの関係を示す断面図である。
図4Bは、本実施形態に係る半導体装置12における、アバランシェ降伏電圧と、ソース電極Sの底面の長さLs及び溝部10の底面10bの長さLbとの関係を示す図である。なお、
図4A及び
図4Bにおいて、Lsは、ソース電極Sの底面の長さ、すなわち、ソース開口部11の底面11bの長さを表している。Lbは、溝部10の底面10bの長さを表している。なお、
図4Aにおいて、煩雑さを避けるため、層を表す符号の一部を省略している。また、一例として、Ls=5μmとしている。
【0074】
図4Bに示すように、Lbが5μm以上の場合、すなわち、溝部10の底面10bの長さLbをソース電極Sの底面の長さLs以上としたとき、アバランシェ降伏電圧が増加しているのが分かる。これは、溝部10の底面10bの長さLbが大きい程、ドリフト層2と第1の下地層3との間のpn接合の面積が大きくなってアバランシェ電流の密度を下げることができ、アバランシェエネルギー耐量を大きくできるためである。
【0075】
このことから、半導体装置12では、溝部10の底面10bの長さLbをソース電極Sの底面の長さLsと同じにする、又は、Lsより長くすることで、アバランシェ降伏電圧を大きくすることが可能になることが分かる。
【0076】
[効果など]
以上のように、本実施形態に係る半導体装置12は、互いに背向する第1の主面及び第2の主面を有する、第1の導電型の基板1と、基板1の第1の主面上に形成され、かつ、一部に溝部10を有する第1の導電型の第1の窒化物半導体よりなるドリフト層2と、ドリフト層2の上方に形成された第1の下地層3と、平面視において溝部10と異なる位置において第1の下地層3を貫通し、かつ、ドリフト層2にまで達するゲート開口部9と、ゲート開口部9を覆うように形成された、第2の窒化物半導体よりなる第1の再成長層6と、第1の再成長層6の上方に形成され、かつ、第2の窒化物半導体よりバンドギャップが大きい第3の窒化物半導体よりなる第2の再成長層7と、第1の再成長層6の内部で、かつ、第1の再成長層6と第2の再成長層7との界面近傍に形成される二次元電子ガス層(チャネル層)8と、第1の再成長層6及び第2の再成長層7を貫通し、第1の下地層3にまで達するソース開口部11と、第2の再成長層7の上方で、かつ、ゲート開口部9が位置する位置に形成されたゲート電極Gと、ソース開口部11を覆うように形成され、ゲート電極Gとは離間し、かつ、二次元電子ガス層8及び第1の下地層3に接するソース電極Sと、基板1の第2の主面上に形成されたドレイン電極Dと、を備え、溝部10の底面10bは、ゲート開口部9の底面9bよりも基板1の第1の主面に近い。
【0077】
これによれば、ソース電極Sの直下における溝部10の底面10b(すなわち第1の下地層3の底面)から基板1までの距離が、ゲート開口部9の底面9bから基板1までの距離より短いので、アバランシェ電流を二次元電子ガス層8に流さずに、ソース電極Sの直下における第1の下地層3とドリフト層2とによって形成されるpnダイオードに流すことができる。そのため、半導体装置12に対し、誘導性負荷を設けた場合、誘導性負荷に溜まったエネルギーを二次元電子ガス層8よりも非常に大きな体積で消費することができ、大幅にエネルギー密度を低減することができる。その結果、本実施形態によれば、アバランシェエネルギー耐量が大きく、高耐圧の半導体装置12が得られる。
【0078】
また、例えば、本実施形態に係る半導体装置12では、第1の下地層3は、第1の導電型とは逆導電型である第2の導電型の第5の窒化物半導体よりなる。具体的には、第1の下地層3は、p型の窒化物半導体を用いて形成されている。
【0079】
これにより、第1の下地層3とドリフト層2とでpn接合のダイオードを形成することができるので、半導体装置12の耐圧を高めることができる。
【0080】
なお、本実施形態において、ドリフト層2から第2の再成長層7までの各層の層厚については上記に限られず、アバランシェエネルギー耐量が高い半導体装置12が得られる範囲において層厚を適宜設定することができる。また、Ls=5μmとしたが、上記に限られず、アバランシェエネルギー耐量が高い半導体装置12が得られる範囲において適宜設定することができる。
【0081】
なお、本実施形態において、第2の再成長層7は、層厚が1nmのAlNよりなる第1の層と、層厚が50nmのAlGaNよりなる第2の層からなる積層構造である例について説明したが、これに限らない。第2の再成長層7は、AlGaNよりなる単層でも二次元電子ガス層8が形成されるので、上記と同様の効果が得られる。
【0082】
(第1の変形例)
続いて、第1の実施形態の第1変形例について、
図5を用いて説明する。
【0083】
図5は、本変形例に係る半導体装置12aの断面図である。
図5に示すように、本変形例に係る半導体装置12aは、第1の実施形態に係る半導体装置12と比較して、ゲート電極Gの代わりに、ゲート電極G1を備える点が相違する。以下では、第1の実施形態との相違点を中心に説明し、共通点の説明を省略又は簡略化する。
【0084】
本変形例において、半導体装置12aが有するゲート電極G1の両端(ゲート端、ゲート電極Gの端)の位置は、ゲート開口部9の内側に位置している。この場合、半導体装置12aの閾値は、ゲート開口部9の側面9aに沿った部分(側壁部)のみで決めることができる。
【0085】
このような構成においては、アバランシェエネルギー耐量が高い半導体装置12aが得られるとともに、平坦部(ゲート開口部9の底面9bに沿った部分)のキャリア濃度を大きくすることができるため、半導体装置12aのオン抵抗を低減できる。
【0086】
(第2の変形例)
続いて、第1の実施形態の第2変形例について、
図6を用いて説明する。
【0087】
図6は、本変形例に係る半導体装置12bの断面図である。
図6に示すように、本変形例に係る半導体装置12bは、第1の実施形態に係る半導体装置12と比較して、ゲート電極G及び第1の再成長層6の代わりに、ゲート電極G2及び第1の再成長層6bを備える点が相違する。以下では、第1の実施形態との相違点を中心に説明し、共通点の説明を省略又は簡略化する。
【0088】
本変形例においては、ゲート電極G2のゲート端がゲート開口部9の外側に位置している。具体的には、ゲート電極G2の幅LGは、ゲート開口部9の幅より大きい。なお、ゲート開口部9の幅は、
図6に示す断面において、側面9aの上端同士の横方向(基板1の主面に平行な方向)における距離に相当する。この場合、半導体装置12bの閾値は、ゲート開口部9の側面9aに沿った部分(側壁部)、及び、ゲート開口部9の底面9bに沿った部分(平坦部)のうち、閾値が大きい方で決まる。
【0089】
本変形例に係る半導体装置12bでは、第1の再成長層6bの、基板1の第1の主面に平行な方向の層厚Ltが、基板1の第1の主面に垂直な方向の層厚Lrよりも大きい。すなわち、Lr<Ltである。これにより、半導体装置12bの閾値は、ゲート開口部9の平坦部で決められる。
【0090】
このようにすることで、p型の導電型を有する第1の下地層3と二次元電子ガス層8との間の距離を大きくすることができる。そのため、ゲート開口部9の側壁部における二次元電子ガス層8が第1の下地層3からの影響により空乏化するのを低減できる。したがって、ゲート開口部9の側壁部におけるチャネルの閾値を低減することができる。
【0091】
このようにして、本変形例に係る半導体装置12bの閾値を、ゲート開口部9の平坦部によって決めることができる。
【0092】
また、本変形例によれば、アバランシェエネルギー耐量が大きい半導体装置12bが得られるとともに、以下に示す2つの利点を有する。
【0093】
第1の利点として、ゲート開口部9の側壁部において、二次元電子ガス層8の空乏化を低減できるので、チャネルのキャリア濃度の低下を抑制することができる。そのため、p型である第1の下地層3からの空乏層の狭窄を抑制でき、半導体装置12bのオン抵抗を低減できる。
【0094】
第2の利点として、第1の再成長層6bの、基板1の第1の主面に垂直な方向の層厚Lrの値が小さいので、第1の再成長層6bを形成した以降のプロセスにおいて開口深さを小さくできる。開口深さを小さくすることで、プロセス時間を短縮でき、ゲート電極G2のカバレッジも良好にできる。
【0095】
すなわち、本変形例に係る半導体装置12bによれば、Lr<Ltとすることで、プロセスを容易にしつつ、オン抵抗を低減することが可能になる。
【0096】
(第2の実施形態)
続いて、第2の実施形態について説明する。
【0097】
図7は、本実施形態に係る半導体装置15の断面図である。
図7に示すように、本実施形態に係る半導体装置15は、第1の実施形態に係る半導体装置12と比較して、ゲート電極Gと第2の再成長層7との間に第3の再成長層14を備える点が相違する。以下では、第1の実施形態との相違点を中心に説明し、共通点の説明を省略又は簡略化する。
【0098】
第3の再成長層14は、第2の再成長層(電子供給層)7とゲート電極Gとの間に配置され、第1の導電型とは逆導電型である第2の導電型の第4の窒化物半導体よりなるコントロール層の一例である。具体的には、第3の再成長層14は、p型の導電型を有するAlGaNから形成されている。半導体装置15は、p型AlGaNよりなる第3の再成長層14を設けることにより、第3の再成長層14の直下における、チャネルである二次元電子ガス層8のポテンシャルエネルギーを大きくすることができる。そのため、半導体装置15の閾値を増大させることができ、半導体装置15をノーマリーオフにすることができる。第3の再成長層14は、半導体装置15の閾値を増大させることができるので、閾値を制御する意味でコントロール層と呼ばれる。
【0099】
なお、第3の再成長層14としては、p型AlGaNに限らず、他のp型窒化物半導体、例えばp型GaN、p型AlGaInNを用いてもよい。この場合においても、第3の再成長層14の直下における二次元電子ガス層8のポテンシャルエネルギーを大きくすることができる。
【0100】
また、第3の再成長層14としては、p型AlGaNの代わりに、SiN又はSiO
2のような絶縁膜を用いても、第3の再成長層14の直下における二次元電子ガス層8のポテンシャルエネルギーを大きくすることができる。つまり、半導体装置15は、第3の再成長層14の代わりに、第2の再成長層7とゲート電極Gとの間に配置された絶縁性のコントロール層を備えてもよい。
【0101】
そのため、第3の再成長層14に関しp型窒化物半導体や絶縁膜を用いた場合、半導体装置15の閾値を増大させることができ、半導体装置15をノーマリーオフにすることができる。要するに、第3の再成長層14に用いる材料として、チャネルのポテンシャルエネルギーを大きくできる効果がある材料であれば何を用いてもよい。
【0102】
以上のように、本実施形態に係る半導体装置15は、第2の再成長層7とゲート電極Gとの間に配置され、第1の導電型とは逆導電型である第2の導電型の第4の窒化物半導体よりなる第3の再成長層14を、さらに備える。
【0103】
これにより、半導体装置15の閾値を増大させることができるので、半導体装置100をノーマリーオフ動作で動作させることができる。
【0104】
また、本実施形態によれば、アバランシェエネルギー耐量が高い半導体装置15が得られることはいうまでもない。
【0105】
なお、第1の実施形態の第1の変形例に係る半導体装置12aと同様、半導体装置15についても、ゲート電極Gの両端の位置が、ゲート開口部9の内側に位置してもよい。また、第3の再成長層14の両端の位置が、ゲート開口部9の内側に位置してもよい。このようにすることで、半導体装置15の閾値は、ゲート開口部9の側壁部のみで決めることができる。
【0106】
(第3の実施形態)
続いて、第3の実施形態について説明する。
【0107】
図8は、本実施形態に係る半導体装置17の断面図である。
図8に示すように、本実施形態に係る半導体装置17は、第1の実施形態に係る半導体装置12と比較して、ソース電極Sが第1のソース電極S1及び第2のソース電極S2を備える点と、第1の下地層3に貫通孔16が形成されている点とが相違する。他の点については、第1の実施形態の半導体装置12と同様である。以下では、第1の実施形態との相違点を中心に説明し、共通点の説明を省略又は簡略化する。
【0108】
本実施形態では、
図8に示すように、第1の下地層3には、複数の貫通孔16が形成されている。なお、貫通孔16の個数は1つでもよい。複数の貫通孔16の各々は、ソース開口部11の底面よりドリフト層2にまで達する。つまり、複数の貫通孔16は、平面視において、溝部10内で、かつ、ソース開口部11内に形成されている。複数の貫通孔16には、第2のソース電極S2が充填されている。
【0109】
ソース電極Sは、第1のソース電極S1と第2のソース電極S2との多層構造を有する。第1のソース電極S1は、二次元電子ガス層(チャネル層)8に接している。具体的には、
図8に示すように、第1のソース電極S1は、ソース開口部11の側面11aに沿って形成されている。第1のソース電極S1は、第2の再成長層7、第1の再成長層6、第2の下地層5及びブロック層4の各々の端面と接触している。
【0110】
第1のソース電極S1は、金属などの導電性の材料を用いて形成されている。第1のソース電極S1の材料は、例えば、Ti/Alなどのn型窒化物半導体とオーミック接触する金属を用いることができる。第1のソース電極S1は、例えば、スパッタ又は蒸着などによって成膜した導電膜をパターニングすることにより形成される。
【0111】
第2のソース電極S2は、ドリフト層2に接している。具体的には、第2のソース電極S2は、貫通孔16内部に充填され、貫通孔16を介してドリフト層2に接している。第2のソース電極S2は、さらに、第1の下地層3に接している。具体的には、第2のソース電極S2は、ソース開口部11の底面11bと貫通孔16とで第1の下地層3に接している。また、第1のソース電極S1と第2のソース電極S2とは、電気的に接続されている。
【0112】
第2のソース電極S2は、金属などの導電性の材料を用いて形成されている。本実施形態では、第2のソース電極S2は、第1のソース電極S1とは異なる材料で構成されている。例えば、第2のソース電極S2は、Pd、Ni、Au、Ptなどを含んでおり、第1の下地層3とはオーミック接触している。第2のソース電極S2は、ドリフト層2とショットキー接続している。第2のソース電極S2は、例えば、スパッタ又は蒸着などによって成膜した導電膜をパターニングすることにより形成される。
【0113】
以上のように、本実施形態に係る半導体装置17では、第1の下地層3は、ソース開口部11の底面11bよりドリフト層2にまで達する貫通孔16を有し、ソース電極Sは、さらに、貫通孔16を介してドリフト層2に接する。
【0114】
これにより、本実施形態に係る半導体装置17では、溝部10の底面10bにおいて、ドレイン電極Dとソース電極Sとの間にダイオードが形成される。このダイオードは、p型の第1の下地層3とn型のドリフト層2とによるpn接合と、第2のソース電極S2とドリフト層2とによるショットキー接合とが混在した構成になる。
【0115】
これにより、ドレイン電極Dとソース電極Sとの間に形成されるダイオードにおいて、順方向電流が流れる場合に動作電圧を低くでき、逆方向電流が流れる場合に耐圧を大きくすることができる。
【0116】
また、例えば、半導体装置17では、ソース電極Sは、二次元電子ガス層8に接する第1のソース電極S1と、第1のソース電極S1とは異なる材料で構成され、ドリフト層2に接する第2のソース電極S2とを有する。具体的には、半導体装置17では、第2のソース電極S2は、第1の下地層3に接する。
【0117】
このように、本実施形態に係る半導体装置17では、トランジスタのソース電極(第1のソース電極S1)とダイオードのアノード電極(第2のソース電極S2)とが、2種類の金属で形成されている。すなわち、第1のソース電極S1は、n型窒化物半導体に対してオーミック接触し、第2のソース電極S2(アノード電極)は、p型である第1の下地層3に対してオーミック接触となるような金属を用いている。
【0118】
これにより、半導体装置17では、第1のソース電極S1としてチャネル(二次元電子ガス層8)に対してオーミック接触を形成し低抵抗化を実現すると同時に、第1の下地層3に対してコンタクト抵抗が小さい接触ができる。このため、第1の下地層3からの空乏層も効率的に伸ばすことができ、半導体装置17の高耐圧化が可能になる。これにより、半導体装置17の更なる高耐圧化を実現することができる。
【0119】
なお、半導体装置17の代わりに、以下に示す第1の変形例、第2の変形例又は第3の変形例に係る半導体装置を用いても、半導体装置17と同様の効果が得られる。以下では、本実施形態の変形例について図面を用いて説明する。各変形例において、第3の実施形態との相違点を中心に説明し、共通点の説明を省略又は簡略化する。
【0120】
(第1の変形例)
続いて、第3の実施形態の第1の変形例について、
図9を用いて説明する。
【0121】
図9は、本変形例に係る半導体装置18の断面図である。本変形例に係る半導体装置18は、第3の実施形態に係る半導体装置17と比較して、第1のソース電極S1と第2のソース電極S2とが同じ材料で形成されている点が相違する。すなわち、
図9に示すように、ソース電極Sは、第1の実施の形態と同様に、同一の材料を用いて一体に形成されている。具体的には、ソース電極S(第1のソース電極S1及び第2のソース電極S2)は、Ti/Alを用いて形成されている。この構成によれば、ソース電極Sを一工程で形成することができるので、工程を削減でき、半導体装置18の低コスト化を実現することができる。
【0122】
(第2の変形例)
続いて、第3の実施形態の第2の変形例について、
図10を用いて説明する。
【0123】
図10は、本変形例に係る半導体装置19の断面図である。本変形例に係る半導体装置19は、第3の実施形態に係る半導体装置17と比較して、ゲート電極Gと第2の再成長層7との間に第3の再成長層14を備える点が相違する。第3の再成長層14は、第2の実施形態に係る半導体装置15が備える第3の再成長層14と同じであり、例えば、p型のAlGaNから形成されている。
【0124】
本変形例では、第3の再成長層14としてp型窒化物半導体を用いているので、半導体装置19の閾値を増大させることができ、半導体装置19をノーマリーオフにすることができる。
【0125】
(第3の変形例)
続いて、第3の実施形態の第3の変形例について、
図11を用いて説明する。
【0126】
図11は、本変形例に係る半導体装置20の断面図である。本変形例に係る半導体装置20は、第3の実施形態の第2の変形例に係る半導体装置19と比較して、第1のソース電極S1と第2のソース電極S2とが同じ材料で形成されている点が相違する。すなわち、
図11に示すように、ソース電極Sは、第1の実施の形態と同様に、同一の材料を用いて一体に形成されている。本変形例は、第3の実施の形態の第1の変形例と第2の変形例とを組み合わせたものに相当する。
【0127】
なお、第3の実施形態及びその変形例に係る半導体装置17〜20において、貫通孔16は、1つのみ形成されていてもよいが、2つ以上形成されている。これにより、貫通孔16によって分割された第1の下地層3(p型)から空乏層を伸ばしやすくなるため、リーク電流が増加せず、高い耐圧を確保できる。なお、貫通孔16の幅は、例えば0.5μm以上かつ10μm以下であり、好ましくは、1μm以上かつ5μm以下でもよい。また、複数の貫通孔16によって離散的に形成される第1の下地層3の幅は、例えば0.5μm以上かつ10μm以下であり、好ましくは1μm以上かつ5μm以下でもよい。
【0128】
(第4の実施形態)
続いて、第4の実施形態について説明する。
【0129】
図12は、本実施形態に係る半導体装置22の断面図である。
図12に示すように、本実施形態に係る半導体装置22は、第1の実施形態に係る半導体装置12と比較して、イオン注入により形成された注入層21を備える点が相違する。以下では、第1の実施形態との相違点を中心に説明し、共通点の説明を省略又は簡略化する。
【0130】
注入層21は、ソース電極Sの直下に位置する第1の下地層3及びドリフト層2の一部にイオンが注入されることで形成された層である。例えば、第1の下地層3に対して、ソース電極S直下の部分をドリフト層2に至るまでイオン注入をすることで、注入層21を形成する。注入層21は、p型の導電型を有する。
【0131】
具体的には、基板1上に、ドリフト層2から第2の下地層5までの各層を順に結晶成長により形成した後、第1の下地層3の所定領域(ソース電極Sの直下の領域)にイオン注入を行う。なお、ドリフト層2と第1の下地層3とを結晶成長により形成した後にイオン注入を行い、その後、ブロック層4及び第2の下地層5を形成してもよい。また、イオン注入は、ゲート開口部9を形成する前に行うが、ゲート開口部9を形成した後に行ってもよい。
【0132】
本実施形態では、注入層21を形成することで、ドリフト層2に溝部10を形成する。すなわち、ドリフト層2の一部領域を所定の深さまで除去するのではなく、当該領域に所定の深さまでイオン注入を行うことで、溝部10を形成する。具体的には、イオン注入された領域(注入層21)と、イオン注入されていない領域(ドリフト層2)との界面が、溝部10の側面10a及び底面10bに対応する。
【0133】
したがって、注入層21にかかるイオン注入領域の先端は、溝部10の底面10bに相当し、ゲート開口部9の底面9b、すなわち、ゲート電極Gの直下にあるドリフト層2と第1の再成長層6との界面よりも基板1の第1の主面に近い位置に位置している。なお、イオン注入のイオン種は、p型のドーパントとなる元素であれば特に限定されず、例えばMg、Fe、Cなどを用いることができる。
【0134】
以上のように、本実施形態に係る半導体装置22では、第1の下地層3のうちソース電極Sの直下の部分は、イオン注入されている。
【0135】
これにより、ドリフト層2の結晶成長に続いて、第1の下地層3、ブロック層4及び第2の下地層5を連続して結晶成長させることができる。これにより、結晶再成長を第1の再成長層6以降の1回に減らすことができ、半導体装置22の低コスト化が実現できる。
【0136】
また、アバランシェエネルギー耐量が高い半導体装置22が得られることはいうまでもない。
【0137】
(変形例)
ここで、第4の実施形態の第1の変形例について、
図13を用いて説明する。
【0138】
図13は、本変形例に係る半導体装置23の断面図である。本変形例に係る半導体装置23は、第4の実施形態に係る半導体装置22と比較して、ゲート電極Gと第2の再成長層7との間に第3の再成長層14を備える点が相違する。第3の再成長層14は、第2の実施形態に係る半導体装置15が備える第3の再成長層14と同じであり、例えば、p型のAlGaNから形成されている。
【0139】
本変形例では、第3の再成長層14としてp型窒化物半導体を用いているので、半導体装置23の閾値を増大させることができ、半導体装置23をノーマリーオフにすることができる。
【0140】
また、アバランシェエネルギー耐量が高い半導体装置23が得られることはいうまでもない。
【0141】
(第5の実施形態)
続いて、本開示の第5の実施形態に係る半導体装置27について、
図14を用いて説明する。
図14は、本実施形態に係る半導体装置27の上面及び当該上面を拡大した図である。
【0142】
図14に示す半導体装置27は、例えば、第1の実施形態に係る半導体装置12を1つのチップに複数個配列して集積させたものである。
図14に示すように、半導体装置27は、複数の半導体装置12と、ソースパッド25と、ゲートパッド26と、ドレインパッド(図示せず)とを備える。
【0143】
図14の(a)は、半導体装置27の上面におけるソースパッド25及びゲートパッド26の配置を示す図である。
図14の(b)は、
図14の(a)の拡大図であり、ソースパッド25を透視した図である。ドレインパッド(図示せず)は、半導体装置27の裏面に形成されている。なお、
図14の(b)におけるI−I線における断面図は、
図1に示す半導体装置12の断面図と同じである。
【0144】
図14の(a)及び(b)に示すように、ソースパッド25は、平面視形状がコの字状(横向きの略U字状)に設けられている。また、
図14の(b)に示すように、ソースパッド25が覆う範囲内には、複数のコンタクトホール24が配置されている。コンタクトホール24には、ソース電極Sが設けられ、ソースパッド25と導通している。
【0145】
また、ゲートパッド26は、ソースパッド25に両側が挟まれるように設けられている。ゲートパッド26は、ゲート電極Gと導通している。なお、
図14の(b)において、ソースパッド25は、太い破線で示されている。
【0146】
また、図示しないが、ドレインパッドは、ドレイン電極Dと導通している。
【0147】
なお、ソース電極S及びゲート電極G、並びに、ソース開口部11(破線)は、
図14の(b)の紙面上下方向に長く伸びている。すなわち、ソース電極S及びゲート電極G並びにソース開口部11の平面レイアウトは、いわゆるフィンガー型のレイアウトである。ソース電極S、ゲート電極G及びソース開口部11の長手方向(
図14の(a)及び(b)の紙面の下から上へ向かう方向)は、<11−20>方向である。なお、方向を示す括弧<>の中のマイナス(−)は、バーを表す。
【0148】
(変形例)
ここで、本開示の第5の実施形態の変形例に係る半導体装置28について、
図15を用いて説明する。
図15は、本変形例に係る半導体装置28の上面及び当該上面の一部を拡大した図である。
【0149】
半導体装置28は、例えば、第2の実施形態に係る半導体装置15を1つのチップに複数個配列して集積させたものである。
図15に示すように、半導体装置28は、複数の半導体装置12と、ソースパッド25と、ゲートパッド26と、ドレインパッド(図示せず)とを備える。
【0150】
図15の(a)は、半導体装置28の上面におけるソースパッド25及びゲートパッド26の配置を示す図であり、ソースパッド25を透視した図である。
図15の(b)は、
図15の(a)の一部拡大図である。ドレインパッド(図示せず)は、半導体装置28の裏面に形成されている。なお、
図15の(a)において、ソースパッド25は、太い破線で示されている。
図15の(a)におけるVII−VII線における断面図は、
図7に示す半導体装置15の断面図と同じである。
【0151】
本変形例に係る半導体装置28は、第5の実施形態に係る半導体装置27と比較して、ソース電極S及びゲート電極Gの形状が相違する。具体的には、半導体装置28では、ソース電極Sとゲート電極Gとが六角形に配置されている。なお、
図15の(b)に示すように、ゲート電極G、ゲート開口部9(破線)及び第3の再成長層14は、ソース電極S及びソース開口部11(破線)を囲むように配置され、1つのセル29を構成している。
【0152】
図15の(a)に示すように、セル29の配置構造は、いわゆる最密充填構造である。
図15の(a)及び(b)の紙面の下から上へ向かう方向で、かつ、ソース電極Sの六角形の辺に沿う方向は、<11−20>方向である。
【0153】
なお、ソース電極Sはソースパッド25に導通し、ゲート電極Gはゲートパッド26に導通している。また、ドレインパッド(図示せず)は、ドレイン電極Dと導通している。
【0154】
本実施形態及びその変形例では、
図14の(b)において、I−I線における断面図は、
図1に示す半導体装置12の断面図であるとしたが、半導体装置12に限らず、半導体装置15、半導体装置17〜20、又は半導体装置22、23であってもよい。また、
図15の(a)において、VII−VII線における断面図は、
図7に示す半導体装置15としたが、半導体装置15に限らず、半導体装置12、半導体装置17〜20、又は半導体装置22、23であってもよい。
【0155】
また、上記の実施形態において、ソース電極S、ゲート電極G及びソース開口部11の長手方向を<11−20>方向としたが、<1−100>方向とすることも可能である。
【0156】
また、上記実施形態において、基板1の面方位を(0001)面としたが、(0001)面に限らず、極性を有する面であればどのような面を用いてもよい。
【0157】
(その他)
以上、本発明に係る半導体装置について、上記の実施形態及び変形例に基づいて説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。
【0158】
例えば、上記の各実施形態では、第1の導電型がn、n
+又はn
−型であり、第2の導電型がp、p
+又はp
−型である例について示したが、これに限らない。第1の導電型がp、p
+又はp
−型であり、第2の導電型がn、n
+又はn
−型でもよい。
【0159】
その他、各実施形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で各実施形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本開示に含まれる。