(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6755057
(24)【登録日】2020年8月27日
(45)【発行日】2020年9月16日
(54)【発明の名称】有機性廃棄物処理システム
(51)【国際特許分類】
B09B 5/00 20060101AFI20200907BHJP
B09B 3/00 20060101ALI20200907BHJP
B01D 53/22 20060101ALI20200907BHJP
B01D 61/02 20060101ALI20200907BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20200907BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20200907BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20200907BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20200907BHJP
B01D 71/38 20060101ALI20200907BHJP
B01D 71/40 20060101ALI20200907BHJP
C02F 1/44 20060101ALI20200907BHJP
C02F 3/28 20060101ALI20200907BHJP
B03D 1/14 20060101ALI20200907BHJP
【FI】
B09B5/00 Z
B09B3/00 C
B09B3/00 304Z
B01D53/22
B01D61/02
B01D69/00 500
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/02 500
B01D71/38
B01D71/40
C02F1/44 F
C02F3/28 A
B03D1/14 108
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-200214(P2019-200214)
(22)【出願日】2019年11月1日
【審査請求日】2020年3月10日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518441966
【氏名又は名称】サステイナブルエネルギー開発株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100190621
【弁理士】
【氏名又は名称】崎間 伸洋
(74)【代理人】
【識別番号】100120824
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴本 祥文
(72)【発明者】
【氏名】光山 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敏勝
(72)【発明者】
【氏名】岡田 治
【審査官】
岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−217345(JP,A)
【文献】
特開2012−135705(JP,A)
【文献】
特開2009−119378(JP,A)
【文献】
特開2016−028800(JP,A)
【文献】
特開2014−124614(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 5/00
B09B 3/00
C02F 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性廃棄物を低分子化する亜臨界水処理装置と、
低分子化された有機性廃棄物からメタン生成菌によりバイオガスを生成するメタン発酵装置と、
メタン発酵により生成されたバイオガスから硫化成分を除去する脱硫装置と、
硫化成分を除去したバイオガスから二酸化炭素を取り除くガス精製装置と、
メタン発酵により生成された消化液から有害物質を加圧浮上分離させる固液分離装置と、
消化液からさらに固形分を分離する高度水処理装置とを備え、
前記固液分離装置において有害物質を加圧浮上分離された消化液は、前記亜臨界水処理装置、前記メタン発酵装置又は前記固液分離装置において再利用されることを特徴とする有機性廃棄物処理システム。
【請求項2】
前記固液分離装置の後に、排出される固形分中にプラスチックの残留が認められた場合、残留プラスチックを回収し、別途設置の残渣ガス化装置を備え乾留ガスを生成し、高圧ボイラーで燃料として利用する残渣ガス化装置を備えることを特徴とする請求項1に記載の有機性廃棄物処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可燃の産廃処理物からエネルギーの創造に関したものである。メタン発酵の生成及び処理物として電気、熱、肥料及び二酸化炭素を生成できるので、利用分野は多岐に渡る。
【背景技術】
【0002】
今日まで、人類が消費するエネルギーは、そのほとんどの化石燃料を燃焼させるという方法で賄って来た。これらの方法は、いずれも二酸化炭素や燃焼物を環境中に放出するものであった。
【0003】
わが国は、国内の温室効果ガスの排出削減・吸収量の確保により、令和12年度に温室効果ガス排出量を平成25年度比26.0%減という削減目標を定めた。その後、COP21においてパリ協定が採択されたことを踏まえ、平成28年5月に地球温暖化対策計画が閣議決定されたところである。
【0004】
一方、環境省は廃棄物処理法に基づく「廃棄物の減量その他その適正な処理に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るための基本的な方針」を平成28年1月21日に変更し、廃棄物エネルギー利用の観点での目標値を設定するとともに、エネルギー源としての廃棄物の有効利用、廃棄物エネルギーの地域における利活用等の取組を進めることとしている。
【0005】
しかしながら、中小規模の一般廃棄物処理施設では、ノウハウが蓄積されていないことや、コストなどの観点から、廃棄物エネルギーの利活用が十分に行われていないのが現状である。
【0006】
さらに、「人口減少」「少子高齢化」の影響は、自治体の廃棄物行政にも大きな影響を投げかけている。すなわち、現在の人口動態に見合った規模の廃棄物処理施設を将来にわたって維持することは非常に困難である。
【0007】
また、財政逼迫は多くの自治体ですでに顕在化しており、廃棄物処理施設の必要な更新に関わる初期費用や将来にわたる維持管理費、さらには、解体・撤去に要するコストも非常に高額であることなどから、老朽化した処理施設をなんとか温存して、問題の先送りを行なっている自治体も少なくない。
【0008】
また、自治体が現在焼却処理している廃棄物のなかにはプラスチック混合物も多く含まれていることから、単純焼却させた場合の発熱量や有毒ガス等の発生により、炉を傷める要因ともなっている。
【0009】
一方で、プラスチック系の産業廃棄物はこれまで中国等に輸出されていたが、輸入国自体の環境汚染を引き起こすことから輸入自体が禁止されたものの、日本国内での産業廃棄物処理施設ではその全量を処理することができないために、大きな社会課題となっている。自治体は産業廃棄物の処理に関しては一義的な責任は負っていないものの、その処理に関して協力を求められているという側面も併せ持っている。さらにプラスチックを含む可燃性廃棄物の処理が二酸化炭素の排出量増加に連なり全世界規模での大きな社会問題となっている。
【0010】
上記のような産業廃棄物の処理方法は、可燃性の廃棄物を焼却する工程を含む方法であるが、この焼却工程に変えて、嫌気的雰囲気下でメタン生成菌を用いて有機性廃棄物を発酵させてバイオガスを生成させる工程(メタン発酵方法)を利用することが可能である。
【0011】
このメタン発酵方法は、好気性細菌により有機性廃棄物を加水分解及び酸発酵した後、メタン発酵槽内に有機性廃棄物を投入し、新規な水を加えて有機性廃棄物の含水率を調整し、嫌気性細菌であるメタン生成菌を用いて有機物を発酵することにより、有機性廃棄物からバイオガスを発生させる方法である(例えば特許文献1及び2参照)。このようにして生成されたメタンガスは燃料として利用されている。また、メタン発酵方法によって有機性廃棄物から得られる消化液及び固化物は、植物の成長に必要な窒素化合物を多量に含むため、優れた肥料として利用可能である。
【0012】
ところが、従来のメタン発酵方法では、好気性細菌を用いた有機性廃棄物の加水分解及び酸発酵が十分ではなく、有機性廃棄物が良好に低分子化されないため、有機物の消化率があまり高くなかった。
【0013】
また、従来のメタン発酵方法においては、パッケージされた食品廃棄物やプラスチック容器に収容された食品廃棄物を原料とした場合には、そのパッケージやプラスチック容器は細菌により分解や発酵されないため、分解・発酵可能な有機性廃棄物からこれらを除去する必要があり、効率が悪く、コストも増加するといった問題があった。さらに、食品廃棄物は人の味覚に合わせた塩分が含まれており、この塩分濃度は細菌の増殖や発酵に悪影響を及ぼすほど高濃度の場合もある。
【0014】
このような問題を解決する方法として、有機性廃棄物の低分子化及び減容化に亜臨界水処理を用いた方法が開発された(例えば特許文献3参照)。亜臨界水処理は、水の臨界温度以下の高温であり、飽和水蒸気圧以上の高圧である高温高圧下で液体状の亜臨界水に接触させることで、有機性廃棄物を可溶化する方法であり、従来の低分子化処理では分解できなかったパッケージやプラスチック容器を分解することができる方法である。そのため、パッケージされた食品廃棄物やプラスチック容器に収容された食品廃棄物を低分子化する場合であっても、パッケージやプラスチック容器を除去することなく、食品廃棄物とともに可溶化させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開昭50−135279号公報
【特許文献2】特開2002−119937号公報
【特許文献3】特開2003−117526号公報
【特許文献4】特許第5792450号
【特許文献5】特許第6327993号
【特許文献6】特許第6377087号
【特許文献7】特許第5796136号
【特許文献8】特許第6120427号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、このような亜臨界水処理により有機性廃棄物を単に可溶化するだけでは、有機性廃棄物からのエネルギーの生成効率はそれほど高くはなく、実用性を考慮すると問題を有するものであった。また、従来技術においては、発酵残渣の処理についても、実用上課題を有するものであった。
【0017】
そこで、本発明は、上記のような状況に鑑みてなされたもので、有機性廃棄物からバイオガスを高効率で生成して発電のエネルギー源とするとともに、発酵残渣及び消化液を適切に処理することにより廃棄物を殆ど生じない有機性廃棄物処理システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決するために、バイオマス技術を活用して有機性廃棄物からエネルギーや有価副産物を作り出す有機性廃棄物処理システムについて鋭意研究を行った結果、メタン発酵の原料である有機性廃棄物を予め低分子化することにより、高効率でメタン発酵を行うとともに、メタン発酵で生成されたバイオガスから二酸化炭素を選択的に分離することによって、汎用の天然ガス発電機による発電を可能とし、さらに、得られた二酸化炭素、発酵残渣及び消化液を有効利用することにより、廃棄物を殆ど生じない、本発明の有機性廃棄物処理システムを発明するに至った。
【0019】
したがって、本発明の有機性廃棄物処理システムは、
有機性廃棄物を低分子化する亜臨界水処理装置と、
低分子化された有機性廃棄物からメタン生成菌によりバイオガスを生成するメタン発酵装置と、
メタン発酵により生成されたバイオガスから
硫化成分を除去する脱硫装置と、
硫化成分を除去したバイオガスから二酸化炭素を取り除くガス精製装置と、
メタン発酵により生成された消化液から有害物質を加圧浮上分離させる固液分離装置と
、
消化液からさらに固形分を分離する高度水処理装置とを備え
、
前記固液分離装置において有害物質を加圧浮上分離された消化液は、前記亜臨界水処理装置、前記メタン発酵装置又は前記固液分離装置において再利用されることを特徴としている。
【0022】
加えて、プラスチックが本システムで完全分離出来ず固液分離装置で残った場合、プラスチックを乾留装置(残渣ガス化装置)でガス化し、高圧ボイラーの燃料として再利用することが可能である。すなわち、本発明においては、前記
固液分離装置の後に、排出される固形分中にプラスチックの残留が認められた場合、残留プラスチックを回収し、別途設置の残渣ガス化装置を備え乾留ガスを生成し、高圧ボイラーで燃料として利用する残渣ガス化装置を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の有機性廃棄物処理システムによれば、有機性廃棄物からバイオガスを高効率で生成して発電のエネルギー源とするとともに、発酵残渣及び消化液を適切に処理することにより廃棄物を殆ど生じることなく、有機性廃棄物を処理することができる。すなわち、本発明の有機性廃棄物処理システムによれば、バイオ技術を駆使することにより、地球環境に悪影響を及ぼさないで、エネルギー及び有価物を創造することができる。さらには、これらの仕組みを導入することにより、完全な自己完結エネルギーリサイクル社会を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の有機性廃棄物処理システムの全体フローを示した概念図である。
【
図2】本発明の有機性廃棄物処理システムにおける有機性廃棄物供給工程及び亜臨界水処理装置の一実施形態を示す概念図である。
【
図3】本発明の有機性廃棄物処理システムにおけるメタン発酵装置の一実施形態を示す概念図である。
【
図4】本発明の有機性廃棄物処理システムにおける脱硫装置の一実施形態を示す概念図である。
【
図5】本発明の有機性廃棄物処理システムにおけるガス精製装置の一実施形態を示す概念図である。
【
図6】本発明の有機性廃棄物処理システムにおける固液分離装置の一実施形態を示す概念図である。
【
図7】本発明の有機性廃棄物処理システムにおける高度水処理装置の一実施形態を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は下記の実施形態に限定されるものではない。
【0026】
図1は、本発明の有機性廃棄物処理システムの全体フローを示した概念図である。本発明の有機性廃棄物処理システムにおいては、まず、
図1に示されたように、有機性廃棄物1を亜臨界水処理装置2に投入して亜臨界水処理することにより、性状や形状が均一なメタン発酵原料とする。次いで、このメタン発酵原料をメタン発酵装置3に移し、20日程度かけてメタン生成菌により発酵させ、バイオガスと消化液を生成する。生成されたバイオガスは、脱硫装置4により硫化成分を除去し、さらに、ガス精製装置5により二酸化炭素を除去して、可燃性ガスに精製される。このようにして得られた可燃性ガスは、天然ガスと同等の熱量を持つため、汎用の天然ガス用の発電機6の良好なエネルギー源として供給できる。
【0027】
一方、メタン発酵により生成された消化液には、発酵残渣が混ざっているため、固液分離装置7を用いることにより消化液から発酵残渣を分離する。分離された発酵残渣には、分解途中の有機成分が多く含まれていることから、この発酵残渣を肥料として有効利用することができる。また、分離された消化液には、分離し得る成分が未だ溶解しているため、高度水処理装置8においてこの消化液から固形分をさらに分離し、この固形分を固液分離装置7に戻すことにより、排水基準を満たすレベルまで消化液を処理する。なお、本発明の有機性廃棄物処理システムにおいては、亜臨界水処理装置2、メタン発酵装置3又は固液分離装置7における水分量を適切な範囲に調整する必要があるが、この水分調節に高度水処理装置8で処理された消化液を再利用することも可能である。
【0028】
このように、本発明の有機性廃棄物処理システムによれば、有機性廃棄物からバイオガスを高効率で生成するとともに、排水基準を満たすまで消化液を処理し、発酵残渣を肥料とすることを可能としている。以下、
図2〜8を参照して本発明の有機性廃棄物処理システムにおける各ステップをより詳細に説明する。
【0029】
<有機性廃棄物供給>
図2は、本発明の有機性廃棄物処理システムにおける有機性廃棄物供給工程及び亜臨界水処理装置の一実施形態を示す概念図である。
図2で示されているように、有機性廃棄物1は、パッカー車11、アームロール車12等の収集車を利用して受入室等に搬入される。搬入された有機性廃棄物1は、一旦ヤードに仮置きされてもよく、必要に応じてローダー13や移動コンベア14を用いて、本発明の有機性廃棄物処理システムにおける亜臨界処理装置2へ投入される。なお、図中のMはモーターを意味し、装置内で有機性廃棄物を移動させ又は攪拌するために設けられている。
【0030】
<亜臨界水処理装置>
本発明の有機性廃棄物処理システムにおいては、有機性廃棄物1を亜臨界水処理装置2に投入して亜臨界水処理することにより、メタン発酵前に有機性廃棄物1を低分子化させ、性状や形状が均一なメタン発酵原料としている。このようなメタン発酵原料により、極めて短時間で有機性廃棄物1からバイオガスを良好に生成することが可能となる。本発明における有機性廃棄物1の低分子化は、具体的には、炭水化物、タンパク質、脂肪等をそれぞれ糖類、アミノ酸、高級脂肪酸等に分解する工程である。本発明に利用可能な亜臨界水処理装置としては、例えば特許文献4〜6に記載の装置が挙げられる。
【0031】
本発明の有機性廃棄物処理システムにおける亜臨界水処理とは、水の臨界温度以下の高温であり、かつ、飽和水蒸気圧以上の高圧である高温高圧(例えば200℃、20気圧)下で液体状の亜臨界水を有機物に接触させて低分子化する方法である。この亜臨界水は、誘電率が15〜45と、低極性溶媒の誘電率と同等であるため、多くの有機物を溶解することができ、しかも、イオン積が10
−12〜10
−11mol
2/kg
2と、水素イオンと水酸化物イオンに分離する割合が大きいため、強い加水分解作用を有する。なお、室温、大気圧下の水の誘電率は約80であり、大気温度約25℃下ではイオン積は10
−14mol
2/kg
2である。
【0032】
また、亜臨界水処理は、上記のような強い加水分解作用によって、ポリプロピレンやポリエチレン等のプラスチックも分解することができるため、通常嫌気性細菌や好気性細菌では加水分解できない、紙類、ビニール、プラスチック、発泡スチロール、感染性医療廃棄物、化学繊維を含む衣類、パッケージされたままの廃棄食品等も低分子化することができる。
【0033】
本発明において低分子化された有機性廃棄物は、可溶化率が50%以上であり、好ましくは可溶化率が70%以上であり、より好ましくは可溶化率が85%以上である。ここで、この可溶化率とは、メタン発酵に用いられる全有機物に対する可溶性有機物の比率であり、数値が高いほど有機物の低分子化が進んでいることを示している。
【0034】
また、本発明の有機性廃棄物処理システムにおける亜臨界水処理はその性質上バッチ処理となるが、本発明においては数バッチ/日の割合で実施することができる。さらには、本発明における亜臨界水処理装置2には、高温高圧の水蒸気を供給するために、高圧ボイラー15を備えてもよい。また、この高圧ボイラー15への給水は、水道水だけではなく、消化液を再利用することも可能である。
【0035】
<メタン発酵装置>
次に、上記のように亜臨界水処理装置2により低分子化された有機性廃棄物1をメタン発酵原料とし、メタン発酵装置3において、メタン発酵を行い、バイオガスと消化液とを生成する。
図3は、本発明の有機性廃棄物処理システムにおけるメタン発酵装置3の一実施形態を示す概念図である。本発明におけるメタン発酵装置3は、例えば、上流側から、処理物貯槽21と、メタン発酵槽22と、消化液受槽23とを備えた装置である。上記の亜臨界水処理装置2により低分子化された有機性廃棄物1は、処理物貯槽21において含水率を調整された後に、必要量をメタン発酵槽22に送られる。なお、図中のMはモーターを意味し、メタン発酵槽内で有機性廃棄物を穏やかに攪拌するために設けられており、また、Pはポンプを意味し、各槽から混合液を送り出すために設けられている。
【0036】
本発明におけるメタン発酵装置3の処理物貯槽21は、亜臨界水処理装置2において低分子化された有機性廃棄物1と、水道水又は以前のメタン発酵で生成された消化液とを、含水率が90%以上となるように混合して混合液を調製するためのものである。また、この処理物貯槽21には、強力な攪拌手段が備えられており、メタン発酵槽22へ供給する混合液を十分に混合することができる。
【0037】
亜臨界水処理装置2により低分子化された有機性廃棄物1は、処理物貯槽21に投入される際には、通常含水率が20〜30%である。本発明においては、水道水や以前生成された消化液を加えることによって、この含水率を90%以上に調整する。一般的なメタン発酵には、固形分濃度6〜10%(含水率90〜94%)の有機性廃棄物を対象とした湿式発酵と、固形分濃度25〜45%(含水率55〜75%)の有機性廃棄物を対象とした乾式発酵があるが、本発明においては、装置のメンテナンスコストが低く、以前生成された消化液を再利用することが可能な湿式発酵を用いている。
【0038】
以前生成された消化液は、後述の固液分離装置7又は高度水処理装置8において処理され、再利用された消化液である。そのため、消化液中には、メタン生成菌や有機性廃棄物の未消化物が含まれていてもよい。さらに、処理物貯槽21において混合・攪拌された低分子化有機性廃棄物と消化液との混合液は、有機性廃棄物の低分子化処理や収集・保管等の間に生成された有機酸によって、pHが酸性に傾いている。
【0039】
さらに、本発明においては、食品廃棄物中に含まれる塩分の濃度が処理物貯槽21において水や消化液によって希釈されるため、メタン発酵槽22におけるメタン発酵に影響を及ぼすことがなくなる。
【0040】
次いで、このようにして含水率が調整された低分子化有機性廃棄物1を、必要に応じて連続的にメタン発酵槽22に供給し、20日程度かけてメタン発酵槽22内においてメタン生成菌によるメタン発酵を行う。本発明におけるメタン発酵装置3のメタン発酵槽22は、嫌気性細菌であるメタン生成菌を用いるため、槽内を嫌気性環境とし、槽外から酸素が入り込まないような密閉性を有した構造であることが必須である。そのため、メタン発酵槽22は、密閉式円筒形の鋼板製であるものが好ましい。
【0041】
メタン生産菌は嫌気性細菌であるため、メタン発酵槽22においては、メタン発酵が均一に進むように、含水率が調整された低分子化有機性廃棄物1を穏やかに撹拌すればよく、激しく撹拌して混合液の嫌気的環境を乱してはならない。なお、含水率が調整された低分子化有機性廃棄物1をメタン発酵槽22に供給した直後は、メタン発酵槽22内に酸素が含まれているため、好気性細菌により酸素が消費されて、嫌気的環境になってからメタン発酵が開始される。
【0042】
また、メタン発酵槽22は、メタン生成菌を増殖させ、有機物をメタン発酵させる温度を維持するために温度調節手段を備え、さらに、槽内の内容物を穏やかに攪拌するための攪拌手段を備えている。メタン生産菌は嫌気性細菌であるため、メタン発酵槽22内の嫌気的環境を乱さないような穏やかな撹拌を必要とする。具体的なメタン発酵槽の攪拌手段としては、ドラフトチューブ内にスクリュー式ポンプを設けたもの、ガスリフトを利用したもの(無動力メタン発酵槽)、撹拌径の大きなもの等が挙げられる。
【0043】
本発明において利用されるメタン生成菌は、高温環境(約55℃)で分解速度が高まる高温発酵用のメタン生成菌であっても、中温環境(約35℃)で分解速度が高まる中温発酵用のメタン生成菌であってもよい。高温発酵用メタン生成菌は、菌の種類が少なく、発酵温度にするためのエネルギーが多く必要となるものの、メタン生成時間が短く、メタン生成量が多いため、本発明においては高温発酵用メタン生成菌を用いることが好ましい。
【0044】
また、本発明においては、メタン発酵槽にpH測定手段又は酸化還元電位測定手段を設けて、含水率が調整された低分子化有機性廃棄物のメタン発酵中のpH又は酸化還元電位を測定し、適切な数値に制御することが好ましい。pHは7〜8の中性が好適であり、pHが低すぎると、メタン生成菌の増殖速度が低下し、バイオガスの生成量が低下してしまう。そのため、pHが低すぎる場合には、酸性に傾いた原料の供給量を減らすことにより、pHを7〜8にする。ただし、これでも中性にならない場合には、低分子化有機性廃棄物中に重曹を添加してpHを制御する。一方、pHが高すぎる場合には、酸性に傾いた原料の供給量を増やすことによりpHを7〜8にする。また、酸化還元電位は−0.33V以下が好適であり、酸化還元電位が高すぎると、嫌気性細菌であるメタン生成菌による発酵が進まなくなってしまう。
【0045】
上記のようなメタン発酵により、排水処理すべき消化液を再利用しつつ、消化率85%以上という高効率で、低分子化された有機性廃棄物からバイオガスを生成することができる。また、本発明においては、処理物貯槽21において、含水率が調整された低分子化有機性廃棄物を予め調製することにより、メタン発酵槽22におけるメタン発酵の終了に連動して、消化液受槽23への消化液の排出と、処理物貯槽21からの混合液の供給とを自動化してもよく、これにより、連続的なメタン発酵を実施することができる。
【0046】
本発明の有機性廃棄物処理システムにおいては、後述の消化液処理に適用する消化液を一時的に保管するために、上記のメタン発酵槽22で生成された消化液を消化液受槽23に貯蔵してもよい。この段階の消化液には、まだ分離可能な有機性成分等が含まれており、このままでは排水基準を満たさないことが多い。
【0047】
<脱硫装置>
本発明においては、発電の効率を上げるために、上記のメタン発酵により得られたバイオガスから硫化成分を除去する脱硫装置4を併設することが好ましい。上記のメタン発酵装置3において生成されたバイオガスには、硫化成分が含まれているため、後の発電において、この硫化成分の含有が問題となる。
図4は、本発明の有機性廃棄物処理システムにおける脱硫装置4の一実施形態を示す概念図である。
【0048】
本発明における脱硫装置4は、例えば、上流側から、クーラー31、脱硫塔32及びガスホルダー33から構成される。本発明における脱硫装置4においては、まず、バイオガスをクーラー31に通すことにより、上記のメタン発酵装置で生成されたバイオガスを常温まで冷却させる。次いで、冷却されたバイオガスを脱硫塔32内に誘導し、硫化成分を除去する。このようにして脱硫されたバイオガスは、ガスホルダー33内で一時貯留される。
【0049】
<ガス精製装置>
メタン発酵により生成されるバイオガスは、通常、メタン濃度が40〜70%の範囲であるとともに、高濃度の二酸化炭素を含むため、発電を行うためには特殊なバイオガス発電機が必要となる。この種の発電機は、販売領域が狭く大量生産されていないことから、非常に高額となっている。そこで、本発明においては、二酸化炭素選択透過膜を備えたガス精製装置を用いてバイオガスから二酸化炭素を除去してメタンリッチガスに変換することにより、ガスエンジンと発電機とを組み合わせた天然ガスエンジンを発電設備として活用することを可能としている。
【0050】
図5は、本発明の有機性廃棄物処理システムにおけるガス精製装置5の一実施形態を示す概念図である。本発明におけるガス精製装置5は、上記の脱硫装置4におけるガスホルダー33内に貯留されたバイオガスから二酸化炭素を選択的に除去し、ブロア41を介して発電機42へバイオガスを供給する機能を有している。なお、余剰のバイオガスが発生した場合には、運転管理上、ガスフレア43により余剰ガスを安全に燃焼することができる。
【0051】
本発明におけるガス精製装置5は、バイオガス中の二酸化炭素の透過を制御する機能を有するものであり、この二酸化炭素選択透過膜としては、例えば特許文献7において開示されたCO
2促進輸送膜を用いることができる。このCO
2促進輸送膜は、親水性ポリマーのゲル膜中にCO
2キャリアとCO
2水和反応触媒を含んで構成される分離機能膜を備えている。上記のCO
2キャリアは、CO
2と選択的に反応するセシウムやルビジウム等のアルカリ金属の炭酸塩、重炭酸塩、水酸化物を含んで構成されたものである。また、上記のCO
2水和反応触媒は、100℃以上の温度下で触媒活性を有するもの、または、融点が200℃以上であるものであり、例えば、亜テルル酸化合物、亜セレン酸化合物、亜ヒ酸化合物、オルトケイ酸化合物、モリブデン酸化合物等を含んで構成されたものである。さらには、ゲル膜としては、ハイドロゲルが用いられ、さらには、ポリビニルアルコール−ポリアクリル酸塩共重合体ゲル膜が用いられている。
【0052】
このようなCO
2促進輸送膜においては、CO
2キャリアと反応しないメタンガス等の可燃ガスは溶解・拡散機構のみでしか透過しない。これに対して、CO
2は溶解・拡散機構による物理透過に加えて、CO
2キャリアとの反応生成物としても透過するため、透過速度が促進される。そのため、このCO
2促進輸送膜によれば、メタンガス等の可燃性ガスに比べて分離係数が極めて大きいCO
2を選択的に分離することができる。したがって、本発明の有機性廃棄物処理システムにおいては、このようなCO
2促進輸送膜を備えたガス精製装置5を用いることにより、メタン発酵により生成されたバイオガスから二酸化炭素を取り除くことを可能としている。
【0053】
また、このようにして膜分離された二酸化炭素は、純度が高く、通常のトリジェネレーションで用いられるエンジン排ガスとは異なり、SOxやNOxを含まない良質なものであるため、そのまま大気放散させずに、植物工場等において有効活用することが好ましい。
【0054】
<固液分離装置>
メタン発酵装置3において生成された消化液は、発酵残渣を多く含んでいるため、この消化液から発酵残渣を分離する必要がある。
図6は、本発明の有機性廃棄物処理システムにおける固液分離装置7の一実施形態を示す概念図である。なお、図中のMはモーターを意味し、固液分離装置の各槽内で消化液を攪拌するために設けられており、また、Pはポンプを意味し、各槽から溶液を送り出すために設けられている。
【0055】
本発明における固液分離装置7は、例えば、硫酸貯槽51、脱水助済溶解槽52、反応槽・脱水機53、脱水ろ液槽54、凝集反応槽55、無機凝集剤56、加圧浮上槽57から構成される。
【0056】
この固液分離装置7では、
図6左側の前半部において発酵残渣の分離を行っている。具体的には、まず、メタン発酵後の消化液を反応槽・脱水機53に移す。この際、脱水助剤溶解槽52内で水道水又は消化液に攪拌溶解させた脱水助剤を添加してもよく、必要に応じて、硫酸貯槽51に貯留された硫酸を添加して、消化液のpHを適切な範囲としてもよい。この反応槽・脱水機53においては、消化液を適切に攪拌した後、固形分を分離する。また、この反応槽・脱水機53において、後述の工程で得られた消化液から再度固形分を分離することも可能である。固形分として分離された発酵残渣には、分解途中の有機成分が多く含まれていることから、この発酵残渣を肥料として有効利用することができる。
【0057】
次いで、固形分が分離された消化液を脱水ろ過槽54に一時的に貯留させた後に、凝集反応槽55へ移し、ここで、必要に応じてこの消化液に無機凝集剤56を添加する。この処理から続く加圧浮上処理工程を
図6右側の後半部において示す。本発明における加圧浮上槽57としては、例えば特許文献8において開示された加圧浮上装置を用いることができる。
【0058】
本発明における加圧浮上槽57は、消化液中に懸濁している成分や溶解している成分に超微細気泡を付着させて見掛け比重を小さくすることにより、懸濁成分又は溶解成分を消化液から浮上分離させる装置である。ここで、本発明における加圧浮上槽57について詳細に説明する。まず、加圧浮上槽57においては、上流側の凝集反応槽55から消化液が供給される。そして、加圧浮上槽57内に消化液が所定量以上に貯留されると、この消化液に対して超微細気泡を下方より送り出すことにより、消化液中に懸濁している成分や溶解している成分に超微細気泡を付着させる。なお、この超微細気泡は、空気を加圧溶解した水を再び大気圧下に開放することにより、水中に発生されたものであり、直径が0.3〜1nm程度のものである。この超微細気泡の付着によって、懸濁成分や溶解成分が液面まで浮上させられ、消化液から分離される。このようにして浮上分離される成分には、有害重金属類が含まれることから、この工程を経ることにより有害重金属類が除去された消化液が得られる。
【0059】
したがって、本発明の有機性廃棄物処理システムにおける固液分離装置7には、このような加圧浮上槽57を備えることにより、消化液中に溶解している有害重金属を超微細気泡の界面に吸着させて分離することができる。なお、ここで得られた消化液は、次の高度水処理装置においてさらに分離されるが、この段階で亜臨界水処理装置2やメタン発酵装置3において再利用されてもよい。
【0060】
<残渣ガス化装置>
本発明の有機性廃棄物処理システムにおける固液分離装置においては、反応槽・脱水機53から排出される固形分中に万が一不充分な分解状態でのプラスチック成分が含まれる場合は、
図2に示されているように、それらを高圧ボイラー15に接続した残渣ガス化装置16に投入する。残渣ガス化装置16でプラスチック成分から乾留ガスを抽出し、高圧ボイラーで燃焼することで熱利用する。このことで、本発明の有機性廃棄物処理システム外への廃棄物を完全に無くすることが可能となる。
【0061】
<高度水処理装置>
本発明においては、上記のようにして固液分離装置7において処理された消化液をさらに膜分離生物処理を施すことにより、消化液に含まれる有効成分を再度分離し、肥料等として活用する。
図7は、本発明の有機性廃棄物処理システムにおける高度水処理装置8の一実施形態を示す概念図である。なお、図中のPはポンプを意味し、各槽から溶液を送り出すために設けられている。固液分離装置7の加圧浮上槽57から送られた消化液は、曝気槽61及び膜分離槽62において微細気泡に接触させることにより不溶成分を除去する。次いで、不溶成分を除去した消化液は、逆浸透原水槽63に一旦貯蔵された後、逆浸透装置64において固形分と消化液に分離される。ここで分離された固形分は肥料として利用され、消化液は、排水基準を満たすレベルであれば廃棄処理してもよいが、循環水槽65に貯蔵された後に、前述の亜臨界水処理装置2、メタン発酵装置3又は固液分離装置7に送られて再利用される。
【0062】
以上のように、本発明の有機性廃棄物処理システムによれば、有機性廃棄物からバイオガスを高効率で生成して発電のエネルギー源とするとともに、発酵残渣及び消化液を適切に処理することにより廃棄物を殆ど生じることなく、有機性廃棄物を処理することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 有機性廃棄物
2 亜臨界水処理装置
3 メタン発酵装置
4 脱硫装置
5 ガス精製装置
6 発電機
7 固液分離装置
8 高度水処理装置
11 パッカー車
12 アームロール車
13 ローダー
14 移動コンベア
15 高圧ボイラー
16 残渣ガス化装置
21 処理物貯槽
22 メタン発酵槽
23 消化液受槽
31 クーラー
32 脱硫塔
33 ガスホルダー
41 ブロア
42 発電機
43 ガスフレア
51 硫酸貯槽
52 脱水助剤溶解槽
53 反応槽・脱水機
54 脱水ろ過槽
55 凝集反応槽
56 無機凝集剤
57 加圧浮上槽
61 曝気槽
62 膜分離槽
63 逆浸透原水槽
64 逆浸透装置
65 循環水槽
【要約】
【課題】有機性廃棄物からバイオガスを高効率で生成して発電のエネルギー源とするとともに、発酵残渣及び消化液を適切に処理することにより廃棄物を殆ど生じない有機性廃棄物処理システムを提供する。
【解決手段】有機性廃棄物処理システムにおいて、有機性廃棄物を低分子化する亜臨界水処理装置と、低分子化された有機性廃棄物からメタン生成菌によりバイオガスを生成するメタン発酵装置と、メタン発酵により生成されたバイオガスから二酸化炭素を取り除くガス精製装置と、メタン発酵により生成された消化液から有害物質を加圧浮上分離させる固液分離装置とを備える。
【選択図】
図1