特許第6755108号(P6755108)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6755108
(24)【登録日】2020年8月27日
(45)【発行日】2020年9月16日
(54)【発明の名称】水晶振動子
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/19 20060101AFI20200907BHJP
【FI】
   H03H9/19 B
   H03H9/19 C
【請求項の数】10
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-57830(P2016-57830)
(22)【出願日】2016年3月23日
(65)【公開番号】特開2017-175315(P2017-175315A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2018年12月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003018
【氏名又は名称】特許業務法人アドバンス
(72)【発明者】
【氏名】小原 茂
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 徹弥
(72)【発明者】
【氏名】中原 正陽
(72)【発明者】
【氏名】芝崎 友則
(72)【発明者】
【氏名】大井 友貴
(72)【発明者】
【氏名】西村 裕也
【審査官】 ▲高▼橋 徳浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−205032(JP,A)
【文献】 特開2001−211052(JP,A)
【文献】 特開2007−243681(JP,A)
【文献】 特開2009−100375(JP,A)
【文献】 特開昭59−057512(JP,A)
【文献】 特開2004−146963(JP,A)
【文献】 特開昭59−176918(JP,A)
【文献】 特開2003−273693(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/020022(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H3/007−H03H3/10
H03H9/00−H03H9/76
H03B5/30−H03B5/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶の結晶軸であるZ軸を中心にして水晶の結晶軸であるX軸を15度から25度の範囲で回転したX’軸及び前記X’軸を中心にして前記Z軸を33度から35度の範囲で回転したZ’軸に平行な主面を有する平板状で且つ長方形の水晶片と、
前記水晶片の各前記主面に形成される励振電極と、を有し、
前記励振電極は、外形が円形状である第1領域と、前記第1領域の周囲に形成され外形が楕円形状であり前記第1領域よりも厚さが薄い第2領域と、を含み、
前記長方形の水晶片の長辺は前記X’軸と平行に伸び、
前記楕円形状の長軸が、前記長方形の水晶片の長辺方向に対して、−5度から+15度の範囲の方向に伸びる水晶振動子。
【請求項2】
水晶の結晶軸であるZ軸を中心にして水晶の結晶軸であるX軸を15度から25度の範囲で回転したX’軸及び前記X’軸を中心にして前記Z軸を33度から35度の範囲で回転したZ’軸に平行な主面を有する平板状で且つ長方形もしくは正方形の水晶片と、
前記水晶片の前記主面に形成される励振電極と、を有し、
前記励振電極は、外形が円形状である第1領域と、前記第1領域の周囲に形成され外形が楕円形状であり前記第1領域よりも厚さが薄い第2領域と、を含み、
前記長方形の水晶片の長辺は前記Z’軸と平行に、又は前記正方形の水晶片の一辺は前記Z’軸の45度方向に伸び、
前記楕円形状の長軸が、前記長方形の水晶片の長辺方向に対して、又は前記正方形の水晶片の前記Z’軸方向に対して、±5度の範囲の方向に伸びる水晶振動子。
【請求項3】
1本の対角線がZ′軸に対し±10°の範囲にある正方形若しくは長方形、又は1つの辺が前記Z′軸に対し±10°の範囲にある長方形に形成される請求項2に記載の水晶振動子(ただし、正方形、長方形とは、水晶片の角部がR状等である略正方形、略長方形も含む)。
【請求項4】
前記長軸と前記楕円形状の短軸との比が、1.1:1から2.0:1の範囲である請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の水晶振動子。
【請求項5】
前記水晶片は所定の周波数で振動し、
前記楕円形状の中心と前記円形状の中心とは重なり、
前記楕円形状の長半径と前記円形状の半径との差は、前記振動と共に生じる屈曲振動の波長の自然数倍である請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の水晶振動子。
【請求項6】
水晶の結晶軸であるZ軸を中心にして水晶の結晶軸であるX軸を15度から25度の範囲で回転したX’軸及び前記X’軸を中心にして前記Z軸を33度から35度の範囲で回転したZ’軸に平行な主面を有する平板状で且つ正方形の水晶片と、
前記水晶片の前記主面に形成される励振電極と、を有し、
各前記励振電極は、外形が円形状である第1領域と、前記第1領域の周囲に形成され前記第1領域よりも厚さが薄い第2領域と、を含み、
前記正方形の水晶片の一辺は前記Z’軸と平行に、もしくは前記Z’軸の45度方向に伸び、
前記第2領域の外形は、前記X’軸が伸びる方向に対して−5度から+15度の範囲の方向に長軸が伸びる第1楕円形状と、前記Z’軸が伸びる方向に対して±5度の範囲の方向に長軸が伸びる第2楕円形状と、が合成された形状に形成される水晶振動子。
【請求項7】
前記第1楕円形状の長軸と短軸との比が、1.1:1から2.0:1の範囲であり、前記第2楕円形状の長軸と短軸との比が、1.1:1から2.0:1の範囲である請求項6に記載の水晶振動子。
【請求項8】
前記水晶片は所定の周波数で振動し、
前記第1楕円形状の中心と、前記第2楕円形状の中心と、前記円形状の中心とは重なり、
前記第1楕円形状の長半径と前記円形状の半径との差及び前記第2楕円形状の長半径と前記円形状の半径との差は、それぞれ前記振動と共に生じる屈曲振動の波長の自然数倍である請求項6又は請求項7に記載の水晶振動子。
【請求項9】
前記第1領域の厚さは、前記水晶片の厚さに対して0.02%から0.13%の範囲内である請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の水晶振動子。
【請求項10】
前記第1領域と前記第2領域との厚さの差が前記第2領域の厚さに対して1/4倍から1倍の範囲内に形成される請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の水晶振動子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2回回転カットの水晶片が用いられた水晶振動子に関する。
【背景技術】
【0002】
水晶を結晶軸であるZ軸を中心にして水晶の結晶軸であるX軸をφ度回転したX’軸及びX’軸を中心にしてZ軸をθ度回転したZ’軸に平行に切断して形成される2回回転カットの水晶片が用いられた2回回転水晶振動子が知られている。特許文献1では、例えばφが約22度であり、θが約34度であるSCカットの水晶振動子が示されている。このような2回回転水晶振動子はATカット水晶振動子に比べて熱衝撃特性が良好であり80℃前後の比較的高温でゼロ温度係数を示すため、例えば80℃程度の一定温度に加熱した恒温槽に収納して安定度の高い水晶発振器として使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−243890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に示されるような2回回転振動子では、輪郭系、屈曲系の副振動が主振動に結合して温度変化による急峻な周波数変化及びクリスタルインピーダンス(CI)の変化を生じやすいという問題があった。また、2回回転水晶振動子とATカットの水晶振動子とは互いに振動モードが異なるため、2回回転水晶振動子にATカットの水晶振動子の技術をそのまま用いて副振動を抑えることも難しい。
【0005】
そこで、本発明では、副振動と主振動との結合を抑え、CI値が低く抑えられた水晶振動子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1観点の水晶振動子は、水晶の結晶軸であるZ軸を中心にして水晶の結晶軸であるX軸を15度から25度の範囲で回転したX’軸及びX’軸を中心にしてZ軸を33度から35度の範囲で回転したZ’軸に平行な主面を有する平板状の水晶片と、水晶片の各主面に形成される励振電極と、を有する。励振電極は、外形が円形状である第1領域と、第1領域の周囲に形成され外形が楕円形状であり第1領域よりも厚さが薄い第2領域と、を含み、楕円形状の長軸が、X’軸が伸びる方向に対して−5度から+15度の範囲の方向に伸びる。
【0007】
第2観点の水晶振動子は、水晶の結晶軸であるZ軸を中心にして水晶の結晶軸であるX軸を15度から25度の範囲で回転したX’軸及びX’軸を中心にしてZ軸を33度から35度の範囲で回転したZ’軸に平行な主面を有する平板状の水晶片と、水晶片の主面に形成される励振電極と、を有する。励振電極は、外形が円形状である第1領域と、第1領域の周囲に形成され外形が楕円形状であり第1領域よりも厚さが薄い第2領域と、を含み、楕円形状の長軸が、Z’軸が伸びる方向に対して±5度の範囲の方向に伸びる。
【0008】
第3観点の水晶振動子は、第1観点及び第2観点において、水晶片が、1本の対角線がZ′軸に対し±10°の範囲にある正方形若しくは長方形、又は1つの辺が前記Z′軸に対し±10°の範囲にある正方形若しくは長方形に形成される(ただし、正方形、長方形とは、水晶片の角部がR状等の略正方形、略長方形も含む)。なお、ここで±10°と述べている理由は、この範囲であれば本発明でいう励振電極を特定の位置で配置した上で、さらに、水晶片を支持する際の影響を低減できかつ水晶片の加工が容易な水晶片を選択できる。
【0009】
第4観点の水晶振動子は、第1観点から第3観点において、長軸と楕円形状の短軸との比が、1.1:1から2.0:1の範囲である。
【0010】
第5観点の水晶振動子は、第1観点から第3観点において、水晶片が所定の周波数で振動し、楕円形状の中心と円形状の中心とは重なり、楕円形状の長半径と円形状の半径との差が振動と共に生じる不要振動の波長の自然数倍である。
【0011】
第6観点の水晶振動子は、水晶の結晶軸であるZ軸を中心にして水晶の結晶軸であるX軸を15度から25度の範囲で回転したX’軸及びX’軸を中心にしてZ軸を33度から35度の範囲で回転したZ’軸に平行な主面を有する平板状の水晶片と、水晶片の主面に形成される励振電極と、を有する。各励振電極は、外形が円形状である第1領域と、第1領域の周囲に形成され第1領域よりも厚さが薄い第2領域と、を含み、第2領域の外形が、X’軸が伸びる方向に対して−5度から+15度の範囲の方向に長軸が伸びる第1楕円形状と、Z’軸が伸びる方向に対して±5度の範囲の方向に長軸が伸びる第2楕円形状と、が合成された形状に形成される。
【0012】
第7観点の水晶振動子は、第6観点において、第1楕円形状の長軸と短軸との比が、1.1:1から2.0:1の範囲であり、第2楕円形状の長軸と短軸との比が、1.1:1から2.0:1の範囲である。
【0013】
第8観点の水晶振動子は、第6観点及び第7観点において、水晶片が所定の周波数で振動し、第1楕円形状の中心と、第2楕円形状の中心と、円形状の中心とが重なり、第1楕円形状の長半径と円形状の半径との差及び第2楕円形状の長半径と円形状の半径との差が、それぞれ振動と共に生じる不要振動の波長の自然数倍である。
【0014】
第9観点の水晶振動子は、第1観点から第8観点において、励振電極の厚さが、水晶片の厚さに対して0.02%から0.13%の範囲内である。
【0015】
第10観点の水晶振動子は、第1観点から第9観点において、第1領域と第2領域との厚さの差が第2領域の厚さに対して1/4倍から1倍の範囲内に形成される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の水晶振動子によれば、副振動と主振動との結合を抑え、CI値が低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】2回回転カットの水晶片110の説明図である。
図2】(a)は、水晶振動子100の平面図である。 (b)は、図2(a)のA−A断面図である。
図3】(a)は、励振電極が単層である場合のCI値の温度変化が示されたグラフである。 (b)は、長軸が短軸の1.1倍である二重電極を有する水晶振動子を30MHzで発振させた場合のCI値の温度変化が示されたグラフである。 (c)は、長軸が短軸の1.12倍である二重電極を有する水晶振動子を60MHzで発振させた場合のCI値の温度変化が示されたグラフである。
図4】(a)は、水晶振動子100aの概略平面図である。 (b)は、水晶振動子100bの概略平面図である。
図5】(a)は、水晶振動子200aの平面図である。 (b)は、水晶振動子200bの平面図である。
図6】(a)は、励振電極320の平面図である。 (b)は、水晶振動子300aの平面図である。 (c)は、水晶振動子300bの平面図である。
図7】(a)は、水晶振動子400の平面図である。 (b)は、図7(a)のB−B断面図である。
図8】(a)は、水晶振動子500の平面図である。 (b)は、図8(a)のB−B断面図である。 (c)は、不要振動の波長と周波数との関係を示したグラフである。
図9】(a)は、傾斜長さが50μmの場合におけるCI値の温度変化が示されたグラフである。 (b)は、傾斜長さが55μmの場合におけるCI値の温度変化が示されたグラフである。 (c)は、傾斜長さが400μmの場合におけるCI値の温度変化が示されたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明の範囲は以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。
【0019】
(第1実施形態)
<水晶振動子100の構成>
図1は、2回回転カットの水晶片110の説明図である。図1では、水晶の結晶軸がX軸、Y軸、Z軸として表されている。2回回転カットの水晶片110は、水晶の結晶軸であるZ軸を中心にして水晶の結晶軸であるX軸をφ度回転したX’軸、及びX’軸を中心にしてZ軸をθ度回転したZ’軸に平行に水晶が切断されることにより形成される。そのため、2回回転カットの水晶片110は、X’Z’面が主面となるように形成される。また、図1では、X’軸及びZ’軸に垂直なY’軸が示されている。
【0020】
図1に示されるような2回回転カットの水晶片は、φが約22度でありθが約34度であるSCカットの水晶片、φが約19度でありθが約34度であるITカットの水晶片、及びφが約15度でありθが34.33度であるFCカットの水晶片等が知られている。これらの水晶片はφが15度から25度の間でありθが33度から35度の間である。以下の説明では、φが15度から25度の間でありθが33度から35度の間である2回回転カットの水晶片が用いられているとして説明する。
【0021】
図2(a)は、水晶振動子100の平面図である。水晶振動子100は、水晶片110と、励振電極120と、引出電極121と、を有している。水晶片110は長辺がZ’軸方向に伸び、短辺がX’軸方向に伸びる長方形の平板状に形成されている。角板状の水晶振動子は外形の形状を整えることが容易であり、製造コストを低く抑えることができるため好ましい。
【0022】
水晶片110の主面表裏(+Y’軸側及び−Y’軸側の各面)にはそれぞれ励振電極120が形成されている。各励振電極120は同形状でありY’軸方向に互いに重なるように形成されている。励振電極120は、外形が円形状である第1領域120aと、第1領域120aの周囲に形成され第1領域120aよりも厚さが薄く外形が楕円形状である第2領域120bと、を含んでいる。励振電極120は、第1領域120aの中心と第2領域120bの中心とが重なるように形成されている。また、励振電極120からは水晶片110の+Z’軸側の辺にそれぞれ引出電極121が引き出されている。
【0023】
従来、水晶振動子の小型化に伴って水晶片の角板化が進んでいたが、電気定数の良化を目的として励振電極の面積を広く取るために励振電極の形状も角型に形成していた。しかし角型の励振電極では屈曲系の副振動と水晶片の端面からの反射波とがカップリングし易く、CI値の変動及び増加の原因ともなっていた。これに対して、励振電極が円形に形成される場合には、水晶片の端面からの反射波を抑えることができ、カップリングを防ぐことができるため、CI値の変動及び増加を防ぐことができる。さらに、励振電極が楕円形状に形成される場合には、励振電極の面積を広くして電気定数の良化を図ると共に円形状の励振電極と同様にCI値の変動及び増加を防ぐことができるため好ましい。
【0024】
励振電極120の第2領域120bは長軸がZ’軸方向に伸び、短軸がX’軸方向に伸びるように形成されている。図2(a)では、第2領域120bの長軸の長さがZA、第2領域120bの短軸の長さがXA、第2領域120bの長半径と第1領域120aの半径との差がZDとして示されている。ここで、長軸の長さZAが短軸の長さXAの1.1倍から2.0倍の範囲である場合には、CI値の変動及び増加が抑えられる傾向にあるため好ましい。
【0025】
図2(b)は、図2(a)のA−A断面図である。図2(b)では、水晶片110の厚さをYAとし、励振電極120の第1領域120aの厚さをYB1とし、励振電極120の第2領域120bの厚さをYB2としている。また、励振電極120は第1層122及び第2層123の2つの電極層が重ね合わされて形成される2重電極である。励振電極120の第1領域120aは第1層122及び第2層123により形成され、第2領域120bは第2層123により形成されている。そのため、第1層122の厚さは厚さYB1から厚さYB2を引いた値であり、第2層123の厚さは厚さYB2である。
【0026】
励振電極120の厚さである厚さYB1は700Åから3000Åの間に形成されることが好ましく、特に1200Åから1600Åの間の厚さに形成されることが好ましい。励振電極は薄すぎると電極として機能せず主振動を閉じ込めることができなくなり、厚すぎると電極の質量が増すことによりCI値の増大及びCI値の変動を招くことになるためである。また、厚さYAと厚さYB1との間には好ましい関係があり、厚さYB1が厚さYAの0.02%から0.13%の間の値を取る場合にCI値の変動が少なく、好ましい。水晶振動子の発振周波数は水晶片の厚さに反比例するので厚さYAは水晶振動子100の発振周波数に応じて決められる。そのため、厚さYB1は、厚さYAに応じて厚さYAの0.02%から0.13%の間であり700Åから3000Åの間の値を取るように決められる。さらに、第1領域120aと第2領域120bとの厚さの差(YB1−YB2)が、第2領域120bの厚さYB2に対して1/4倍から1倍の範囲内に形成される場合にはCI値の増大及びCI値の変動を抑えることができるため好ましい。なお、図2の例ではZ′方向に沿う辺を長辺とし、X′方向に沿う辺を短辺とし、X′方向に沿う一辺に引出電極121を設けた例を示したが、Z′方向に沿う短辺とし、X′方向に沿う辺を長辺とし、Z′方向に沿う一辺に引出電極121を設けた例、すなわち、図2の構造をX′−Z′面で90度回転させた構造でも良い。
【0027】
<二重電極について>
水晶振動子100では、二重電極を形成することによりCI値を低減させている。以下に二重電極の効果について説明する。
【0028】
図3(a)は、励振電極が単層である場合のCI値の温度変化が示されたグラフである。横軸には水晶振動子の温度が示され、縦軸にはCI値が示されている。ただし、図3の各図では各実験において目安となる共通な基準のCI値をRと表記し、図3(a)ではRに対し100Ωずつの目盛を付してCIを説明している。図3(a)では、9つの水晶振動子のCI値の温度変化が示されている。また、図3(a)では、Amm角の水晶片に厚さが1400Åであり直径が0.6Ammの励振電極が蒸着法により形成された水晶振動子が30MHzで発振させた場合の結果が示されている。
【0029】
図3(a)では、水晶振動片によってCI値の温度変化の傾向が大きく異なり、CI値が安定していないことが分かる。例えば、2回回転水晶振動子が用いられると考えられる温度である80℃において、最も低いCI値は約(R+50)Ωであり、最も高いCI値は約(R+850)Ωである。すなわち、図3(a)の水晶振動子では、80℃において約800Ωの変動が生じ得ることを示している。
【0030】
図3(b)は、長軸が短軸の1.1倍である二重電極を有する水晶振動子を30MHzで発振させた場合のCI値の温度変化が示されたグラフである。図3(b)では、5つの水晶振動子のCI値の温度変化が示されており、縦軸には50Ω間隔で目盛が付されている。図3(b)の水晶振動子は、第1領域が直径0.75Bmmの円形状、第2領域が長軸の長さ1.1Bmm、短軸の長さBmmの楕円形状であり長軸がZ’軸に平行である二重電極として形成された励振電極を有している。
【0031】
図3(b)では、概ねCI値が(R−200)Ωから(R−150)Ωの間に収まっている。また、例えば、2回回転水晶振動子が用いられると考えられる温度である80℃において、最も低いCI値は(R−189.4)Ωであり、最も高いCI値は(R−159.7)Ωである。すなわち、図3(b)の水晶振動子では、80℃においてCI値に29.7Ωの変動が生じ得ることを示している。
【0032】
図3(c)は、長軸が短軸の1.12倍である二重電極を有する水晶振動子を60MHzで発振させた場合のCI値の温度変化が示されたグラフである。図3(c)では、36の水晶振動子のCI値の温度変化が示されており、縦軸には50Ω間隔で目盛が付されている。図3(c)の水晶振動子は、第1領域が直径Cmmの円形状、第2領域が長軸の長さ1.344×Cmm、短軸の長さ1.2×Cmmの楕円形状であり長軸がZ’軸に平行である二重電極として形成された励振電極を有している。
【0033】
図3(c)では、概ねCI値が(R−200)Ωから(R−150)Ωの間に収まっている。また、例えば、2回回転水晶振動子が用いられると考えられる温度である80℃において、最も低いCI値は(R−202.92)Ωであり、最も高いCI値は(R−147.84)Ωである。すなわち、図3(c)の水晶振動子では、80℃においてCI値に54.98Ωの変動が生じ得ることを示している。
【0034】
図3(b)及び図3(c)に示されるような二重電極として形成される励振電極を有する水晶振動子は、図3(a)に示されるような単層の励振電極に比べてCI値が低く、変動も少ないことが分かる。
【0035】
<第2領域の長軸が伸びる方向について>
図4(a)は、水晶振動子100aの概略平面図である。水晶振動子100aは、水晶片110aと励振電極120とを有している。水晶振動子100aにはその他にも引出電極等が形成されるが、図4(a)では、水晶片110aと励振電極120のみが示されている。
【0036】
励振電極の外形の形状は楕円形状が好ましいが、励振電極の長軸がZ’軸方向に伸びる場合にはZ’軸方向に伝わる副振動である屈曲振動を抑えることができ、これによってCI値の上昇を抑えることができる。また、励振電極120の長軸の伸びる方向は、Z’軸から反時計回りの方向の回転の角度をα1、Z’軸から時計回りの方向の回転の角度をα2とすると、α1及びα2が5度の範囲内の方向であれば屈曲振動を抑えることができるという効果を得やすい。すなわち、反時計回りの方向をプラス方向、時計回りの方向をマイナス方向とすると、励振電極の長軸が、Z’軸が伸びる方向に対して±5度の範囲の方向に伸びる場合に好ましい。
【0037】
図4(b)は、水晶振動子100bの概略平面図である。水晶振動子100bは、水晶片110bと励振電極220とを有している。水晶振動子100bにはその他にも引出電極等が形成されるが、図4(b)では、水晶片110b及び励振電極220のみが示されている。励振電極220は第1領域120a及び第2領域120cを有する二重電極であり、第1領域120aは円形に形成され、第2領域120cは長軸がX’軸方向に伸びる楕円形状に形成されている。また、水晶片110bは長辺がX’軸方向に伸びる矩形形状に形成されている。
【0038】
励振電極220のように励振電極の長軸がX’軸方向に伸びる場合には、副振動の屈曲振動や端面反射を抑えることができるため、CI値の上昇を抑えることができる。また水晶片のX′軸に対し―5度から+15度の範囲、すなわち(図4(b)のβ1、β2で示す範囲)に励振電極の長軸が伸びる場合にはCI値の上昇を抑えることができる。
【0039】
(第2実施形態)
水晶片及び励振電極は様々な形状に形成することができる。以下に、水晶片及び励振電極の変形例について説明する。
【0040】
<水晶振動子200a及び水晶振動子200bの構成>
図5(a)は、水晶振動子200aの平面図である。水晶振動子200aは、正方形状の平面を有する水晶片210と、水晶片210の両主面に形成される励振電極120と、各励振電極120から引き出される引出電極221aと、を有している。水晶片110(図2(a)参照)は長方形状に形成されていたが、短辺及び長辺の長さが等しい正方形状に形成されても形状を整えることが容易であり製造コストを低く抑えることができるため好ましい。水晶片210は、Z’軸に平行な1本の対角線211を有しており、励振電極120の第2領域120bの長軸が対角線211に沿うように形成されている。励振電極の面積は大きいほど電気定数が安定するため好ましいが、励振電極120が対角線211に沿って形成されることにより、決められた大きさの水晶片210において励振電極120の面積を大きく形成することができるため好ましい。また、水晶振動子200aでは、引出電極221aが水晶片210の+X’軸側及び−X’軸側の水晶片210の対角線上の角にそれぞれ引き出されている。
【0041】
図5(b)は、水晶振動子200bの平面図である。水晶振動子200bは、正方形状の平面を有する水晶片210と、水晶片210の両主面に形成される励振電極120と、各励振電極120から引き出される引出電極221bと、を有している。引出電極221bは励振電極120の+Z’軸側及び−Z’軸側の水晶片210の角に引き出されている。図5(a)、(b)いずれの場合も、水晶片の対角線の角部で水晶片を保持しているので、水晶片を安定して保持出来る。ただし、保持位置はこれに限られない。また、図5(a)、(b)の例では水晶片の対角線がZ′軸に平行になり、従って、水晶片の角部がZ′軸やX軸上に位置する例を示したが、支持の影響等を考慮して、水晶片の対角線がZ′軸に対し非平行かつ±10度の範囲の好適な位置関係、すなわち、水晶片の角部がZ′軸やX軸から所定角度ずれた線上に位置する場合もある。
【0042】
<水晶振動子300a及び水晶振動子300bの構成>
図6(a)は、励振電極320の平面図である。励振電極320は、図4(a)に示される励振電極120と、図4(b)に示される励振電極220とを互いの中心を合わせて重ね合わせた形状に形成されている。すなわち、励振電極320は、第1領域120aを有し、第2領域が第2領域120bと第2領域120cとの中心を合わせて重ねた形状に形成されている。第2領域120bの長軸の長さをZB、短軸の長さをXB、第2領域120cの長軸の長さをXC、短軸の長さをZCとすると、図2(a)に示される励振電極120と同様に、第2領域120bの長軸の長さZBは短軸の長さXBの1.1倍から2.0倍の範囲となり、第2領域120cの長軸の長さXCは短軸の長さZCの1.1倍から2.0倍の範囲となるように励振電極320が形成されている。第2領域120bと第2領域120cとの短軸同士及び長軸同士の長さは、同じであっても異なっていても良い。
【0043】
励振電極120のように長軸がZ’軸に平行である場合にはZ’軸方向に伝わる副振動である屈曲振動を抑えることができ、励振電極220のように長軸がX’軸に平行である場合には主振動の反射波や、副振動である屈曲振動と端面反射を抑えることができる。励振電極320は、Z’軸方向に長軸が伸びる楕円形状とX’軸方向に長軸が伸びる楕円形状とが合成された形状に形成されることにより、励振電極120と励振電極220との特徴を併せ持っている。
【0044】
図6(b)は、水晶振動子300aの平面図である。水晶振動子300aは、水晶片310aと、水晶片310aの両主面に形成される励振電極320と、各励振電極320からそれぞれ引き出される引出電極321aと、を有している。図6(b)では、長さZBと長さXCとが同じ長さであり、水晶片310aが正方形の平面を有しており、水晶片310aの各辺がZ’軸又はX’軸に平行となるように形成されている場合の例が示されている。また、引出電極321aは、水晶片310aの対角線上である水晶片310aの+X’軸側の−Z’軸側の角及び−X’軸側の+Z’軸側の角に励振電極320からそれぞれ引き出されている。
【0045】
図6(c)は、水晶振動子300bの平面図である。水晶振動子300bは、水晶片310bと、水晶片310bの両主面に形成される励振電極320と、各励振電極320からそれぞれ引き出される引出電極321bと、を有している。図6(c)では、長さZBと長さXCとが同じ長さであり、水晶片310bが正方形の平面を有しており、水晶片310bの対角線がZ’軸及びX’軸に平行となるように形成されている。また、引出電極321bは、励振電極320から水晶片310bの+Z’軸側の角及び−Z’軸側の角にそれぞれ引き出されている。
【0046】
水晶振動子300bでは、水晶片310bの対角線がZ’軸又はX’軸に平行に形成されている。これにより、励振電極の面積を広く形成することができるため好ましい。なお、図6(b)の例では水晶片の1つの辺がZ′軸に平行になる例を示し、図6(b)の例では水晶片の1つの対角線がZ′軸又はX軸に平行になる例を示した。しかし、支持の影響等を考慮して、水晶片の1つの辺や1つの対角線がZ′軸に対し非平行かつ±10度の範囲の好適な位置関係、すなわち、水晶片の角部がZ′軸やX軸から所定角度ずれた線上に位置する場合もある。
【0047】
<水晶振動子400の構成>
図7(a)は、水晶振動子400の平面図である。水晶振動子400は、水晶片110と、励振電極420と、引出電極121と、を有しており、励振電極420は外形が円形状である第1領域420aと、第1領域420aの周囲に形成され第1領域420aよりも厚さが薄く外形が楕円形状である第2領域420bと、を含んでいる。第2領域420bは第2領域120b(図2(a)参照)と同じく長軸がZ’軸方向に伸び、短軸がX’軸方向に伸びるように形成されており、第2領域420bの長軸の長さがZA、第2領域420bの短軸の長さがXA、第2領域420bの長半径と第1領域420aの半径との差がZDとして示されており、長軸の長さZAが短軸の長さXAの1.1倍から2.0倍の範囲になるように形成されている。
【0048】
図7(b)は、図7(a)のB−B断面図である。水晶振動子400では、水晶振動子100と同様に、水晶片110の厚さをYAとし、励振電極420の第1領域420aの厚さをYB1とし、励振電極420の第2領域420bの厚さをYB2としている。また、励振電極420は第1層122及び第2層123の2つの電極層が重ね合わされて形成される2重電極であるが、励振電極120(図2(b)参照)とは異なり第1領域420aにおいて第1層122が第2層123の上に形成されている。
【0049】
励振電極が二重電極として形成される水晶振動子では、水晶振動子100において水晶振動子400のように第1領域420aの第1層122及び第2層123の形成の順番を替えて形成しても、励振電極の外形の形状が変わらなければ水晶振動子100と同様にCI値を低減し、CI値の変動を抑えることができる。
【0050】
(第2実施形態)
励振電極の周囲に表面が傾いている傾斜部が形成されることによっても、屈曲振動の反射波を抑制することができる。以下に、傾斜部が形成された水晶振動子について説明する。
【0051】
<水晶振動子500の構成>
図8(a)は、水晶振動子500の平面図である。水晶振動子500は、水晶片110と、励振電極520と、引出電極121と、を有している。励振電極520は図2(a)に示される励振電極120と同じ楕円形状に形成されているが、第1領域520a及び第2領域520bの外周に傾斜が形成されている点が励振電極120とは異なっている。
【0052】
励振電極520の第1領域520aは、厚さが一定である平坦部524aと平坦部524aの周囲に形成され内周側から外周側にかけて厚さが薄くなる傾斜部525aとを有している。また、励振電極520の第2領域520bは、厚さが一定である平坦部524bと平坦部524bの周囲に形成され内周側から外周側にかけて厚さが薄くなる傾斜部525bとを有している。図8(a)では、励振電極520の点線の内側が平坦部524a及び平坦部524bであり、点線の外側が傾斜部525a及び傾斜部525bとして示されている。
【0053】
図8(b)は、図8(a)のB−B断面図である。励振電極520は、平坦部524aの厚さがYB1に形成されている。また、第1領域520aでは、傾斜部525aにおいて内周側から外周側にかけての長さ(傾斜長さ)が長さZFの範囲で厚さが薄くなるように形成されている。また、第2領域520bでは、平坦部524bの厚さがYB2に形成され、傾斜部525bにおいて内周側から外周側にかけての長さ(傾斜長さ)が長さZEの範囲で厚さが薄くなるように形成されている。励振電極520では、傾斜部525aの傾斜長さZF及び傾斜部525bの傾斜長さZEが不要振動の波長の1/2よりも大きい場合に不要振動の発生を抑えCI値を低減することができる。また、傾斜部525a、平坦部524b、及び傾斜部525bの全体を励振電極520の傾斜部として考えることができる。そのため、傾斜部525a、平坦部524b、及び傾斜部525bの電極長手方向の長さをZGとすると、長さZGが不要振動の波長の自然数倍となる場合に不要振動の発生を抑えCI値を低減することができる。
【0054】
図8(c)は、不要振動の波長と周波数との関係を示したグラフである。図8(c)では、横軸に水晶振動子の周波数(MHz)が示され、縦軸に不要振動の波長(μm)が示されている。主振動に伴って発生する不要振動には、屈曲振動、輪郭すべり振動、伸長振動等の様々な振動がある。図8(c)には、一点鎖線で屈曲振動が示され、実線で輪郭すべり振動が示され、点線で伸長振動が示されている。
【0055】
2回回転水晶振動子では、不要振動のなかで屈曲振動が最もCI値に影響を及ぼすため、屈曲振動を抑えることがCI値の低減のために重要になる。例えば、水晶振動子の発振周波数が30MHzである場合に屈曲振動は108μmの波長を有する。そのため、長さZE及び長さZFを屈曲振動の波長の半分である54μm以上とすれば、屈曲振動の発生を大きく抑えることができる。また、輪郭すべり振動及び伸長振動等の他の不要振動も、それらの波長が屈曲振動の波長が近いため、屈曲振動のための上記傾斜部により抑制できる。
【0056】
<傾斜長さについて>
Amm角の水晶片に厚さが1400Åであり直径0.6Ammの単層の励振電極を形成し、30MHzで発振させた場合に、傾斜長さを変えてCI値と温度との関係を測定して求めた結果を図9(a)から図9(c)に示す。以下に、傾斜部が形成されていない図3(a)の水晶振動子と図9(a)から図9(c)の水晶振動子とを比較しながら、励振電極に傾斜部を形成することの効果について説明する。
【0057】
図9(a)は、傾斜長さが50μmの場合におけるCI値の温度変化が示されたグラフである。図9(a)では3つの水晶振動子についてCI値の温度変化が示されており、縦軸には50Ω間隔で目盛が付されている。各水晶振動子の励振電極の傾斜長さは50μmである。図9(a)では、CI値が概ね(R−100)ΩからRΩの範囲内に収まっている。特に2回回転水晶振動子で使用されると考えられる80℃の温度において、最も低いCI値は(R−77.94)Ωであり、最も高いCI値は(R−58.89)Ωである。すなわち、図9(a)の水晶振動子では、80℃において18.05Ωの変動が生じている。これらの結果は、図3(a)に示される水晶振動子と比べた場合に、傾斜部を形成することによりCI値が大きく低下すると共に安定することを示している。
【0058】
図9(b)は、傾斜長さが55μmの場合におけるCI値の温度変化が示されたグラフである。図9(b)では、7つの水晶振動子についてCI値の温度変化が示されており、縦軸には50Ω間隔で目盛が付されている。図9(b)に示されている各水晶振動子の励振電極の傾斜長さは55μmである。すなわち、図9(a)の水晶振動子とは、励振電極の傾斜長さが異なっている。図9(b)では、CI値が概ね(R−150)Ωから(R−100)Ωの範囲内に収まっている。特に2回回転水晶振動子で使用されると考えられる80℃の温度において、最も低いCI値は(R−140.11)Ωであり、最も高いCI値は(R−120.23)Ωである。すなわち、図9(b)の水晶振動子では、80℃において19.88Ωの変動が生じている。
【0059】
図9(b)の水晶振動子は図9(a)の水晶振動子と同様に図3(a)の水晶振動子に比べて傾斜部を形成することによりCI値が大きく低下すると共に安定することを示している。また、図9(b)の水晶振動子は図9(a)の水晶振動子に比べてCI値が全体的に50Ω前後低下しているように見える。この結果は、図9(b)の水晶振動子が図9(a)の水晶振動子よりも傾斜長さが長いことに起因していると考えられる。さらに、傾斜長さが5μm違うだけでCI値が50Ω近く低下したのは、図9(a)では30MHzでは屈曲振動の波長の1/2である54mよりも傾斜長さが短く、屈曲振動が十分に抑えられていないが、図9(b)では屈曲振動の波長の1/2である54mよりも傾斜長さが長く、屈曲振動がある程度抑えられるようになったためであると考えられる。
【0060】
図9(c)は、傾斜長さが400μmの場合におけるCI値の温度変化が示されたグラフである。図9(c)では、6つの水晶振動子についてCI値の温度変化が示されており、縦軸には50Ω間隔で目盛が付されている。図9(c)に示されている各水晶振動子の励振電極の傾斜長さは400μmである。図9(c)では、CI値が概ね(R−200)Ωから(R−150)Ωの範囲内に収まっている。特に2回回転水晶振動子で使用されると考えられる80℃の温度において、最も低いCI値は(R−201.3)Ωであり、最も高いCI値は(R−189.4)Ωである。すなわち、図9(c)の水晶振動子では、80℃において11.9Ωの変動が生じている。
【0061】
図9(c)の水晶振動子は、図3(a)、図9(a)、及び図9(b)の水晶振動子に比べてCI値が低く及びCI値の変動も小さい。これらの結果は、傾斜長さを長く形成したことに起因すると考えられる。また、図9(c)の水晶振動子では、30MHzでは屈曲振動の波長の1/2である54μmよりも傾斜長さが長いため、十分に屈曲振動が抑えられていると考えられる。
【0062】
図9(c)に示されるような水晶振動子は、例えば、金属板からフォトリソグラフィ技術及びウエットエッチング技術により形成される金属製マスクを用いる方法により形成することができる。具体的には、金属板の厚み方向のエッチングと共にサイドエッチングが進む性質を利用して得られるオーバーハング形状のマスク、又は開口寸法が少しずつ小さくなる多数の薄いマスクを積層しこれらをスポット溶接して1枚のマスクとして形成されるマスクである。これらオーバーハング形状のマスク又は多数の薄いマスクを積層したマスクを用いることにより図9(c)の水晶振動子を形成することができる。また、図8(b)に示されるような傾斜部を有する二重電極も、同様の方法により形成することができる。
【0063】
以上、本発明の最適な実施形態について詳細に説明したが、当業者に明らかなように、本発明はその技術的範囲内において実施形態に様々な変更・変形を加えて実施することができる。また、上記の実施形態は様々に組み合わせて実施されても良い。
【符号の説明】
【0064】
100、100a、100b、200a、200b、300a、300b、400、500 … 水晶振動子
110、110a、110b、210、310a、310b … 水晶片
120、220、320、420 … 励振電極
120a、420a、520a … 第1領域
120b、120c、420b、520b … 第2領域
121、221a、221b、321a、321b … 引出電極
122 … 第1層、123 … 第2層
524a、524b … 平坦部
525a、525b … 傾斜部
XA … 第2領域120bの短軸の長さ
XB … 第2領域120bの短軸の長さ
XC … 第2領域120cの長軸の長さ
YA … 水晶片110の厚さ
YB1 … 励振電極120の第1領域120aの厚さ
YB2 … 励振電極120の第2領域120bの厚さ
ZA … 第2領域120bの長軸の長さ
ZB … 第2領域120bの長軸の長さ
ZC … 第2領域120cの短軸の長さ
ZD … 第2領域120bの長半径と第1領域120aの半径との差
ZE … 傾斜部525aの傾斜長さ
ZF … 傾斜部525bの傾斜長さ
ZG … 傾斜部525a、平坦部524b、及び傾斜部525bの電極長手方向の長さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9