(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
[1.第1実施形態]
[1−1.電動工具の全体構成]
図1に示す本実施形態の電動工具1は、充電式インパクトレンチとして構成されている。尚、電動工具1の説明において、上下の方向は、
図1における上下の方向であり、後側は、
図1における左側であり、前側は、
図1における右側である。
【0027】
図1に示すように、電動工具1は、工具本体10と、工具本体10に電力を供給するバッテリパック30と、を備える。
工具本体10は、モータ4や打撃機構6が収容されたハウジング2と、ハウジング2の下部から突出するように形成されたグリップ部3と、を備える。
【0028】
ハウジング2内には、その後部にモータ4が収容されていると共に、モータ4の前方に釣鐘状のハンマケース5が組み付けられている。このハンマケース5内に打撃機構6が収容されている。
【0029】
ハンマケース5内には、後端側に中空部が形成されたスピンドル7が同軸で収容されており、ハンマケース5内の後端側に設けられたボールベアリング8が、このスピンドル7の後端外周を軸支している。スピンドル7におけるボールベアリング8の前方部位には、回転軸に対して点対称で軸支された2つの遊星歯車からなる遊星歯車機構9が、ハンマケース5の後端側内周面に形成されたインターナルギヤ11に噛合している。また、この遊星歯車機構9は、モータ4の出力軸12の先端部に形成されたピニオン13と噛合する。出力軸12は、モータ4のロータ4aに対して同軸に固定されている。
【0030】
そして、打撃機構6は、スピンドル7と、スピンドル7に外装されたハンマ14と、このハンマ14の前方側で軸支されるアンビル15と、ハンマ14を前方へ付勢するコイルバネ16とによって構成される。
【0031】
ハンマ14は、スピンドル7に対して一体回転可能且つ軸方向へ移動可能に連結されており、コイルバネ16により前方(即ち、アンビル15側)に付勢されている。
また、スピンドル7の先端部は、アンビル15の後端に同軸で遊挿されることで回転可能に軸支されている。アンビル15は、ハンマ14による回転力及び打撃力を受けて軸回りに回転するものであり、ハウジング2の先端に設けられた軸受20によって、軸回りに回転自在かつ軸方向に変位不能に支持されている。アンビル15の先端部には、ボルト、ナット等の対象物を回転させる工具要素としてのソケットを装着するための装着部19が形成されている。尚、ソケットの図示は省略されている。
【0032】
そして、モータ4の出力軸12、スピンドル7、ハンマ14、アンビル15、及びアンビル15における装着部19は、いずれも同軸状となるように配置されている。
また、ハンマ14の前端面には、アンビル15に打撃力を与えるための2つの打撃突部17,17が周方向に180°の間隔を隔てて突設されている。一方、アンビル15には、その後端側に、ハンマ14の各打撃突部17,17が当接可能に構成された2つの打撃アーム18,18が周方向に180°の間隔を隔てて形成されている。
【0033】
そして、ハンマ14がコイルバネ16の付勢力でスピンドル7の前端側に付勢・保持されることで、そのハンマ14の各打撃突部17,17がアンビル15の各打撃アーム18,18に当接するようになる。
【0034】
この状態で、モータ4の回転力により遊星歯車機構9を介してスピンドル7が回転すると、ハンマ14がスピンドル7と共に回転し、そのハンマ14の回転力が打撃突部17,17と打撃アーム18,18とを介してアンビル15に伝達される。これにより、アンビル15の先端の装着部19に装着されたソケットが回転する。
【0035】
モータ4の回転方向が、対象物であるボルトやナットを締め付ける方の正転方向である場合には、上記ソケットにより対象物を締め付けることができる。正転方向は、本実施形態では、電動工具1の後端側から前方を見た状態で右回りの方向である。また、モータ4の回転方向が正転方向とは逆の逆転方向である場合には、上記ソケットにより対象物の締め付けを緩めることができる。
【0036】
モータ4の正転時と逆転時との何れにおいても、アンビル15に対して外部からモータ4による回転方向とは反対の方向に所定値以上のトルクが加わると、アンビル15に対するハンマ14の回転力(即ち、トルク)も所定値以上になる。これにより、ハンマ14がコイルバネ16の付勢力に抗して後方に変位し、ハンマ14の各打撃突部17,17がアンビル15の各打撃アーム18,18を乗り越えるようになる。つまり、ハンマ14の各打撃突部17,17がアンビル15の各打撃アーム18,18から一旦外れ、空転する。尚、モータ4の正転時とは、モータ4が正転方向に駆動される場合のことであり、モータ4の逆転時とは、モータ4が逆転方向に駆動される場合のことである。
【0037】
このようにハンマ14の各打撃突部17,17がアンビル15の各打撃アーム18,18を乗り越えると、ハンマ14は、スピンドル7と共に回転しつつコイルバネ16の付勢力で再び前方へ変位し、ハンマ14の各打撃突部17,17がアンビル15の各打撃アーム18,18を回転方向に打撃する。
【0038】
従って、電動工具1においては、アンビル15に対して所定値以上のトルクが加わる毎に、そのアンビル15に対してハンマ14による打撃が繰り返し行われる。そして、ハンマ14の打撃力がアンビル15に間欠的に加えられることにより、モータ4の正転時には、対象物であるボルトやナットを高トルクで締め付けることができ、モータ4の逆転時には、対象物の締め付けを緩めることができる。
【0039】
グリップ部3は、作業者が当該電動工具1を使用する際に把持する部分である。
グリップ部3の上方には、トリガスイッチ21が設けられている。トリガスイッチ21は、作業者によって引き操作されるトリガ21aと、このトリガ21aの引き操作によりオン・オフされると共に、このトリガ21aの操作量(即ち、引き量)に応じて抵抗値が変化するよう構成されたスイッチ本体部21bと、を備える。
【0040】
また、トリガスイッチ21の上側(即ち、ハウジング2の下端側)には、モータ4の回転方向を正転方向又は逆転方向の何れか一方に設定するために使用者により操作される正逆切替スイッチ22が設けられている。
【0041】
更に、ハウジング2の下部前方には、トリガ21aが引き操作されたときに当該電動工具1の前方を光で照射するための照明LED23が設けられている。
また、グリップ部3の下部には、当該電動工具1の動作モード等を設定するための設定部24が設けられている。設定部24には、逆転オートストップ機能の有効/無効を設定するための、
図2に示すモード切替スイッチ54や、その逆転オートストップ機能が有効と無効との何れに設定されているかを使用者に示すための、
図2に示すモードLED55とが、備えられている。逆転オートストップ機能とは、モータ4の逆転時において、モータ4を自動的に停止させる機能である。
【0042】
一方、グリップ部3の下端には、バッテリ29を収容したバッテリパック30が、着脱自在に装着される。このバッテリパック30は、装着時にはグリップ部3の下端に対してその前方側から後方側へとスライドさせることにより装着される。バッテリパック30に収容されたバッテリ29は、例えばリチウムイオン2次電池など、繰り返し充電可能な2次電池である。
【0043】
モータ4は、本実施形態では、U,V,W各相の電機子巻線を備えた3相ブラシレスモータにて構成されている。そして、モータ4には、モータ4の回転位置や回転速度等を検出するためのセンサとして、
図2に示すホールセンサ56が備えられている。モータ4の回転位置や回転速度とは、詳しくは、モータ4におけるロータ4aの回転位置や回転速度である。
【0044】
ホールセンサ56は、磁電変換素子としてホール素子を備える回転位置センサである。そして、ホールセンサ56は、ロータ4aの回転に伴う磁界の変化に基づいて、U,V,Wの相毎の位置検出信号(以下、ホールセンサ信号)Hu,Hv,Hwを出力する。本実施形態において、各ホールセンサ信号Hu,Hv,Hwは、ロータ4aが電気角で180°回転する毎に、ハイとローとに切り替わる。そして、各ホールセンサ信号Hu,Hv,Hwの位相は、電気角で120°ずつずれる。このため、ロータ4aが電気角で60°回転する毎に、ホールセンサ信号Hu,Hv,Hwの何れかにレベル変化エッジが生じる。レベル変化エッジとは、ローからハイへの立ち上がりエッジと、ハイからローへの立ち下がりエッジとの、両方を含む。以下では、レベル変化エッジのことを、単にエッジという。また、ホールセンサ信号Hu,Hv,Hwを総称して、ホールセンサ信号Hと言う。
【0045】
グリップ部3の内部には、バッテリパック30から電力供給を受けて、モータ4を駆動制御する、
図2に示すモータ駆動装置40が設けられている。
[1−2.モータ駆動装置の構成]
図2に示すように、モータ駆動装置40は、駆動回路42と、ゲート回路44と、制御回路46と、レギュレータ48と、を備える。
【0046】
駆動回路42は、バッテリ29から電源供給を受けて、モータ4の各相巻線に電流を流すためのものであり、本実施形態では、6つのスイッチング素子Q1〜Q6を備える3相フルブリッジ回路として構成されている。尚、各スイッチング素子Q1〜Q6は、本実施形態ではMOSFETであるが、バイポーラトランジスタ等、他の種類のスイッチング素子であっても良い。
【0047】
駆動回路42において、3つのスイッチング素子Q1〜Q3は、モータ4の各端子U,V,Wと、バッテリ29の正極側に接続された電源ラインとの間に、いわゆるハイサイドスイッチとして設けられている。また、他の3つのスイッチング素子Q4〜Q6は、モータ4の各端子U,V,Wと、バッテリ29の負極側に接続されたグランドラインとの間に、いわゆるローサイドスイッチとして設けられている。
【0048】
ゲート回路44は、制御回路46から出力された制御信号に従い、駆動回路42内の各スイッチング素子Q1〜Q6をオン/オフさせることで、モータ4の各相巻線に電流を流し、モータ4を回転させるものである。
【0049】
制御回路46は、CPU、ROM、RAM等を中心とするマイクロコンピュータ(以下、マイコン)により構成されている。制御回路46の機能は、マイコンのCPUが非遷移的実体的記録媒体に格納されたプログラムを実行することにより実現される。この例では、上記ROMが、プログラムを格納した非遷移的実体的記録媒体に該当する。また、このプログラムの実行により、プログラムに対応する方法が実行される。尚、制御回路46を構成するマイコンの数は複数でも良い。また、制御回路46の機能を実現する手法は、ソフトウェアに限るものではなく、その機能の一部又は全部を、論理回路やアナログ回路等を組み合わせたハードウェアを用いて実現しても良い。
【0050】
制御回路46には、上述したトリガスイッチ21(詳しくはスイッチ本体部21b)、正逆切替スイッチ22、照明LED23、モード切替スイッチ54、及びモードLED55が接続されている。
【0051】
また、モータ駆動装置40には、バッテリ29からの供給電圧(即ちバッテリ電圧)を検出するバッテリ電圧検出部52も備えられている。そして、制御回路46には、バッテリ電圧検出部52からの検出信号も入力される。
【0052】
更に、モータ駆動装置40において、駆動回路42からバッテリ29の負極側に至る通電経路には、モータ4に流れた電流を検出する電流検出回路54が設けられている。そして、電流検出回路54からの電流検出信号も制御回路46に入力される。
【0053】
制御回路46は、正逆切替スイッチ22からの回転方向設定信号に従って、モータ4を駆動する際の回転方向を、正転方向と逆転方向との何れかに設定する処理を行う。そして、制御回路46は、トリガスイッチ21が操作されると、ホールセンサ56からのホールセンサ信号Hに基づいてモータ4の回転位置及び回転速度を求め、モータ4を、上記回転方向設定信号に従い設定した回転方向に駆動する。
【0054】
また、制御回路46は、モータ4の駆動時には、トリガスイッチ21の操作量に応じてモータ4の速度指令値を設定する。そして、制御回路46は、その速度指令値に従い駆動回路42を構成する各スイッチング素子Q1〜Q6の駆動デューティ比を設定し、その駆動デューティ比に応じた制御信号をゲート回路44に出力することで、モータ4の回転速度を制御する。
【0055】
更に、制御回路46は、こうしたモータ駆動のための制御処理とは別に、例えば、モード切替スイッチ54のオン/オフ状態に従って逆転オートストップ機能の有効/無効を設定する処理や、逆転オートストップ機能を有効にした場合にモードLED55を点灯させる処理等を実行する。また、制御回路46は、モータ駆動時に照明LED23を点灯させる処理等も実行する。
【0056】
一方、レギュレータ48は、バッテリ29から電源供給を受けて、制御回路46を動作させるのに必要な一定の電源電圧Vcc(例えば、直流5V)を生成する。制御回路46は、レギュレータ48から電源電圧Vccが供給されることにより動作する。
【0057】
[1−3.処理の説明]
[1−3−1.モータ駆動処理]
次に、制御回路46にて実行される各種処理のうち、正逆切替スイッチ22にてモータ4の回転方向が逆転方向に設定されている場合に、制御回路46にて実行されるモータ駆動処理について、
図3を用い説明する。つまり、
図3のモータ駆動処理は、モータ4を逆転方向に回転させて、例えば装着部19に装着されたソケットにてボルト若しくはナットを緩める場合に実行される処理である。そして、このモータ駆動処理は、例えば一定時間毎に実行される。
【0058】
図3に示すように、制御回路46は、モータ駆動処理を開始すると、S110にて、トリガスイッチ21が使用者により操作されて、オン状態になっているか否かを判断する。
制御回路46は、トリガスイッチ21がオン状態になっていると判定した場合には、S120にて、ブレーキ指令フラグがセットされているか否かを判定し、ブレーキ指令フラグがセットされていないと判定した場合には、S130に進む。ブレーキ指令フラグは、モータ4をすぐに停止させることを意味するフラグであり、後述するオートストップ検出処理でセットされる。また、フラグをセットするとは、そのフラグの値を例えば「1」にすることである。逆に、フラグをクリアするとは、そのフラグの値を例えば「0」にすることである。
【0059】
制御回路46は、S130では、逆転オートストップフラグがセットされているか否かを判定し、逆転オートストップフラグがセットされていないと判定した場合には、S140に進む。逆転オートストップフラグは、モータ4の逆転時におけるオートストップ動作(即ち、自動停止動作)を実施することを意味するフラグであり、後述するオートストップ検出処理でセットされる。
【0060】
制御回路46は、S140では、トリガスイッチ21の操作量に応じて、モータ4の速度指令値(即ち目標回転速度)を設定し、その速度指令値に従って駆動回路42における各スイッチング素子Q1〜Q6の駆動デューティ比を算出する。そして、制御回路46は、次のS150にて、S140で算出した駆動デューティ比に応じた制御信号をゲート回路44に出力することで、モータ4を駆動する。S140で算出される駆動デューティ比が大きいほど、モータ4に供給される電力が大きくなり、モータ4の出力が大きくなる。そして、制御回路46は、S150の処理を行った後、当該モータ駆動処理を終了する。
【0061】
よって、トリガスイッチ21がオン状態で、且つ、ブレーキ指令フラグ及び逆転オートストップフラグの両方がセットされていない場合には、モータ4がトリガスイッチ21の操作量に応じて駆動されることとなる。
【0062】
また、制御回路46は、S130にて、逆転オートストップフラグがセットされていると判定した場合には、S160に進む。制御回路46は、S160では、モータ4への電力供給を停止してモータ4をフリーラン状態にする。具体的には、駆動回路42におけるスイッチング素子Q1〜Q6を全てオフさせる。そして、制御回路46は、S160の処理を行った後、当該モータ駆動処理を終了する。
【0063】
また、制御回路46は、S120にて、ブレーキ指令フラグがセットされていると判定した場合には、S170に進む。制御回路46は、S170では、モータ4を停止させるために、モータ4にブレーキをかけるブレーキ制御を行う。具体的には、モータ4が発電機として機能するように、駆動回路42におけるスイッチング素子Q1〜Q6のオン/オフを制御する。そして、制御回路46は、S170の処理を行った後、当該モータ駆動処理を終了する。
【0064】
一方、制御回路46は、S110にて、トリガスイッチ21がオン状態になっていない(即ち、オフ状態である)と判定した場合にも、S170に進む。尚、この場合、制御回路46は、ブレーキ指令フラグ及び逆転オートストップフラグをクリアする処理も行う。
【0065】
[1−3−2.オートストップ検出処理]
制御回路46は、正逆切替スイッチ22によりモータ4の回転方向が逆転方向に設定されており、且つ、モード切替スイッチ54により逆転オートストップ機能が有効に設定されており、且つ、トリガスイッチ21がオン状態である場合に、
図4のオートストップ検出処理を行う。つまり、制御回路46は、逆転オートストップ機能が有効に設定されていて、モータ4を逆転方向に駆動する場合に、
図4のオートストップ検出処理を行う。このオートストップ検出処理は、
図3のモータ駆動処理と並行して、例えばマルチタスクのかたちで実行される。
【0066】
図4に示すように、制御回路46は、オートストップ検出処理を開始すると、S210にて、モータ4の起動時(即ち駆動開始時)から所定の起動判別時間T1以内に、モータ回転速度の増減変化が発生したか否かを判定する。モータ回転速度とは、モータ4の回転速度のことである。増減変化とは、増加から減少への変化と、減少から増加への変化との、両方のことである。以下では、モータ回転速度の増減変化のことを、単に、速度増減変化ともいう。
【0067】
具体的には、制御回路46は、S210では、モータ回転速度を監視して速度増減変化を検出する処理(即ち、モータ回転速度の極値を検出する処理)を行い、その速度増減変化を、モータ4の起動時から起動判別時間T1以内に検出したか否かを判定する。尚、S210では、速度増減変化として、
図5における時刻t1に示すように、モータ回転速度の増加から減少への変化(即ち極大値)だけを検出しても良い。
【0068】
そして、制御回路46は、S210にて、モータ4の起動時から起動判別時間T1以内に速度増減変化が発生したと判定した場合には、S220に進む。
制御回路46は、S220では、速度増減変化の前回検出時から所定の判定時間T2以内に、速度増減変化が発生したか否かを判定する。具体的には、制御回路46は、S220では、速度増減変化を検出する処理を行い、その速度増減変化を、前回の検出時から判定時間T2以内に検出したか否かを判定する。
【0069】
そして、制御回路46は、S220にて、判定時間T2以内に速度増減変化が発生したと判定した場合には、再びS220の判定を行う。よって、
図5における時刻t1〜時刻t2の期間に示すように、速度増減変化(即ち、モータ回転速度の極値)が判定時間T2以内毎に繰り返し現れたならば、制御回路46は、S220の処理を繰り返すこととなる。
【0070】
また、制御回路46は、S220にて、判定時間T2以内に速度増減変化が発生しないと判定した場合、つまり、速度増減変化が判定時間T2を超過しても発生しなかった場合には、打撃機構6による打撃が発生しなくなったと判定して、S230に進む。本実施形態における打撃は、ハンマ14によるアンビル15に対する打撃である。
【0071】
制御回路46は、S230では、締め付け固定されていた対象物(即ち、緩める対象物)が緩んだと判定して、逆転オートストップフラグをセットする。そして、制御回路46は、次のS240にて、ホールセンサ信号Hのエッジをカウントするためのホールセンサカウント処理を開始する。
【0072】
尚、ホールセンサカウント処理は、例えば、ホールセンサ信号Hにエッジが生じる毎に起動される割り込み処理として実行される。そして、制御回路46は、
図6に示すように、ホールセンサカウント処理では、S300にて、ホールセンサ信号Hのエッジのカウント値であるホールセンサカウント値をインクリメントし、その後、当該ホールセンサカウント処理を終了する。このため、制御回路46は、
図4のS240では、具体的には、ホールセンサカウント処理の起動を許可する。また、例えば、
図3のS110にてトリガスイッチ21がオフ状態になっていると判定された場合に、ホールセンサカウント値がクリアされると共に、ホールセンサカウント処理の起動が禁止される。
【0073】
図4に戻り、制御回路46は、次のS250にて、ホールセンサカウント値が所定の設定値Nsに到達したか否かを判定し、ホールセンサカウント値が設定値Nsに到達するまで待つ。そして、制御回路46は、S250にて、ホールセンサカウント値が設定値Nsに到達したと判定すると、S260に進む。また、制御回路46は、S210にて、モータ4の起動時から起動判別時間T1以内に速度増減変化が発生しなかったと判定した場合にも、S260に進む。
【0074】
制御回路46は、S260では、ブレーキ指令フラグをセットし、その後、当該オートストップ検出処理を終了する。
[1−4.作用例]
図7の上段(A)に示すように、壁や金属板等の基材61から突出するボルト63に締め付け固定されたナット65を、緩める場合を例に挙げて、電動工具1の作用を説明する。
図7の例では、ボルト63の先端に、ナット65の脱落を防止するための脱落防止部63aが形成されている。
【0075】
図7の上段(A)に示す状態のナット65を緩める場合、電動工具1の使用者は、正逆切替スイッチ22によりモータ4の回転方向を逆転方向に設定する。更に、使用者は、モード切替スイッチ54により逆転オートストップ機能を有効にしているとする。そして、使用者は、装着部19に装着したソケットをナット65に勘合させ、その状態で、トリガスイッチ21を引き操作すれば良い。
【0076】
すると、制御回路46が
図3におけるS140,S150の処理を行うことにより、モータ4の駆動が開始される。
そして、ナット65は締め付け固定されているため、モータ4の駆動が開始されると、すぐに打撃機構6による最初の打撃が発生し、その後は、
図7の中段(B)に示すようにナット65が緩むまで、打撃が繰り返し発生する。尚、
図7の中段(B)では、ナット65が緩んだことを分かりやすくするために、打撃が発生しなくなった時点におけるナット65と基材61との間隔を、実際よりも大きく表している。
【0077】
ここで、
図5における時刻t1〜時刻t2の期間に示すように、打撃が繰り返し発生している期間においては、モータ回転速度の増減変化が繰り返し発生する。換言すると、モータ回転速度の極大値と極小値とが時系列的に連続して発生する。
【0078】
つまり、ハンマ14の打撃突部17,17がアンビル15の打撃アーム18,18に当たって該打撃アーム18,18を乗り越えようとし始めた時(即ち、1回の打撃の開始時)に、モータ回転速度は極大値となる。その後、打撃突部17,17が打撃アーム18,18を乗り越えた時(即ち、1回の打撃の終了時)に、モータ回転速度は極小値となる。そして、打撃アーム18,18を乗り越えた打撃突部17,17が再び打撃アーム18,18に当たる時(つまり、次の打撃の開始時)に、モータ回転速度は再び極大値となる。このような動作が繰り返される。
【0079】
そして、前述の起動判別時間T1は、モータ4の起動時からモータ回転速度が最初に極大値になるまでの時間(即ち、最初の打撃が始まるまでの時間)の想定値よりも少し長い時間(例えば100ms)に設定されている。尚、想定値とは、設計上想定した値のことである。また、前述の判定時間T2は、打撃が繰り返される場合においてモータ回転速度に極値が現れる時間間隔(即ち、速度増減変化が発生する時間間隔)の想定値よりも少し長い時間(例えば50ms)に設定されている。
【0080】
このため、
図5における時刻t1に示すように、モータ4の起動時から起動判別時間T1以内に、モータ回転速度には、最初の打撃を示す増減変化として、増加から減少への変化(即ち、極大値)が発生する。そして、打撃が繰り返し発生している間は、
図5における時刻t1〜時刻t2の期間に示すように、モータ回転速度には、判定時間T2以内毎に増減変化(即ち、極値)が発生する。
【0081】
よって、制御回路46は、モータ4の駆動を開始してから起動判別時間T1以内に、
図4のS210で「YES」と判定することとなる。制御回路46がS210で「YES」と判定することは、最初の打撃を検出したことに相当する。その後、打撃が繰り返し発生している間、制御回路46は、
図4のS220で繰り返し「YES」と判定することとなる。そして、この時点において、逆転オートストップフラグ及びブレーキ指令フラグは両方ともセットされていないため、制御回路46は、
図3におけるS140,S150の処理を繰り返し実行して、モータ4を駆動することとなる。
【0082】
その後、
図7の中段(B)に示すように、ナット65が緩んで打撃が発生しなくなる。
そして、
図5における時刻t2に示すように、速度増減変化が発生しない時間が判定時間T2を超過すると、制御回路46は、
図4のS220で「NO」と判定し、
図4のS230にて、対象物(即ち、この例ではナット65)が緩んだと判定すると共に、逆転オートストップフラグをセットする。更に、制御回路46は、
図4のS240にて、ホールセンサ信号Hのエッジのカウントを開始する。
【0083】
逆転オートストップフラグがセットされると、制御回路46は、
図3におけるS140,S150の処理を実行しなくなり、その代わりに、
図3におけるS160の処理を実行して、モータ4をフリーラン状態にする。このため、ナット65は、モータ4の惰性回転により、
図7の中段(B)に示す位置から、
図7における右方向に移動していく。
【0084】
そして、
図5における時刻t3に示すように、ホールセンサ信号Hのエッジのカウント値であるホールセンサカウント値が設定値Nsに達すると、制御回路46は、
図4のS250で「YES」と判定して、
図4のS260にてブレーキ指令フラグをセットする。
【0085】
ブレーキ指令フラグがセットされると、制御回路46は、
図3におけるS160の処理を実行しなくなり、その代わりに、
図3におけるS170の処理を実行して、モータ4にブレーキをかけるブレーキ制御を行うことによりモータ4を停止させる。
【0086】
そして、ホールセンサカウント値と比較される上記設定値Nsは、
図7の下段(C)に示すように、ナット65がボルト63の脱落防止部63aに到達する前に、ブレーキ制御が開始されてモータ4が停止する値に設定されている。
【0087】
尚、制御回路46は、起動判別時間T1と判定時間T2との各々を、例えば、電源電圧であるバッテリ電圧と、トリガ操作量との、両方又は一方に応じて、可変設定するように構成されても良い。トリガ操作量とは、トリガスイッチ21の操作量のことである。例えば、制御回路46は、起動判別時間T1と判定時間T2との各々を、バッテリ電圧が大きいほど小さい(即ち短い)値に設定し、トリガ操作量が大きいほど大きい(即ち長い)値に設定するように構成することができる。そして、制御回路46は、バッテリ電圧とトリガ操作量との両方又は一方をパラメータとした計算式あるいはデータマップを用いて、起動判別時間T1と判定時間T2との各々を可変設定するように構成することができる。
【0088】
また、ホールセンサカウント値と比較される上記設定値Nsについても、制御回路46は、例えば、使用者による設定用スイッチの操作やパーソナルコンピュータ等の外部機器からの指令に応じて、可変設定するように構成されても良い。
【0089】
[1−5.効果]
以上のような第1実施形態の電動工具1によれば、以下の効果を奏する。
(1a)制御回路46は、モータ4を逆転方向に駆動し始めてから、
図4のS220で「NO」と判定すると、即ち打撃が発生しなくなったと判定すると、対象物が緩んだと判定して、ホールセンサ信号Hのエッジのカウントを開始する。そして、制御回路46は、この時点から所定期間の間(即ち、ホールセンサカウント値が設定値Nsに達するまでの間)、モータ4への電力供給を停止してモータ4をフリーラン状態にし、その後、モータ4にブレーキをかけてモータ4を停止させる。
【0090】
つまり、制御回路46は、対象物が緩んだと判定すると、所定期間だけ待ってからモータ4にブレーキをかける。特に、制御回路46は、対象物が緩んだと判定してからモータ4にブレーキをかけるまでの待ち期間(以下、ブレーキ待ち期間)において、モータ4を駆動し続けるのではなく、フリーラン状態にしている。
【0091】
よって、電動工具1を用いて、例えば
図7に示したナット65を緩める場合に、仮に、設定値Nsが大きめに設定されていて、モータ4がフリーラン状態にされるブレーキ待ち期間において、ナット65がボルト63の脱落防止部63aに当たったとしても、その脱落防止部63aにナット65が当たる勢いは小さくなる。このため、脱落防止部63aを破損させてしまうことが抑制される。また、ボルト63に脱落防止部63aが設けられておらず、ブレーキ待ち期間において、ナット65がボルト63の先端から抜けたとしても、ナット65が抜け出る勢いは小さくなる。このため、ナット65を紛失してしまう可能性が低くなる。
【0092】
そして、脱落防止部63aの破損やナット65の紛失を抑制することができるため、上記設定値Nsを大きめに設定して、ブレーキ待ち期間をある程度長い期間に設定することができる。よって、ナット65を手で緩めることが困難になったりせず、また、ナット65を締め付け固定位置から所望の戻り量だけ移動させるのに、手で多く回す必要もなくなる。
【0093】
つまり、この電動工具では、ブレーキ待ち期間を長めに設定したとしても、脱落防止部63aへのダメージや、ナット65がボルト63から抜け出る時の勢いを、低減することができる。よって、ブレーキ待ち期間を長めに設定することで、ナット65の戻り量が不足してしまうことを回避することができる。同様に、例えば木ネジ等を緩める場合にも、その木ねじが固定元の基材から勢いよく抜け出てしまうことや、所望の戻り量が得られなくなることを、回避することができる。
【0094】
以上のことから、電動工具1によれば、ナットやネジ類を緩める場合の利便性を高めることができる。
(1b)ブレーキ待ち期間は、ホールセンサカウント値が設定値Nsに達するまでの期間であり、つまりは、設定値Nsによって決まる設定回転量だけモータ4が回転する期間である。このため、緩める対象物の戻り量を安定させ易い。尚、設定回転量は、本実施形態では、電気角で「60°×設定値Ns」である。電気角の60°は、ホールセンサ信号Hにおけるエッジの発生間隔である。
【0095】
(1c)制御回路46は、モータ4を逆転方向に駆動し始めてから、打撃が発生しなくなったと判定すると、対象物が緩んだと判定する。このため、対象物が緩んだことの判定精度を高くすることができる。そして、制御回路46は、打撃の発生によって現れる特定の現象としての速度増減変化が判定時間T2以内に発生しないと判定すると、打撃が発生しなくなったと判定する。このため、打撃が発生しなくなったことを正しく判定することができる。
【0096】
更に、特定の現象として速度増減変化を検出するため、打撃を検出するために振動センサや音センサ等の特別なセンサを設けなくても、打撃が発生しなくなったことを判定することができる。
【0097】
対比例として、例えば、電動工具1に振動センサや音センサ等の打撃検出用センサを設け、制御回路46は、その打撃検出用センサの出力値が所定値以上になると、打撃が発生したと判定するように構成しても良い。そして、この場合、制御回路46は、打撃検出用センサの出力値が所定値以上という現象が、判定時間T2以内に発生しないと判定すると、打撃が発生しなくなったと判定する、というように構成することができる。但し、この対比例の場合には、打撃検出用センサが必要となる。
【0098】
尚、第1実施形態では、アンビル15が、打撃機構6における出力部に相当し、正逆切替スイッチ22が、回転方向設定部に相当し、トリガスイッチ21が、操作部に相当する。そして、制御回路46が、制御部に相当する。また、制御回路46は、判定部にも相当する。つまり、制御回路46は、判定部としても機能する。そして、
図4におけるS210,S220,S230が、判定部としての処理に相当する。
【0099】
[2.第2実施形態]
第2実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、相違点について以下に説明する。尚、電動工具の符号としては、第1実施形態と同じ“1”を用いる。また、符号“1”以外についても、第1実施形態と同じ符号は、第1実施形態と同一の構成や処理を示すものであって、先行する説明を参照する。そして、これらのことは、後述する他の実施形態についても同様である。
【0100】
[2−1.第1実施形態との相違点]
第2実施形態の電動工具1では、第1実施形態と比較すると、制御回路46が、
図4のオートストップ検出処理に代えて、
図8のオートストップ検出処理を行う。
【0101】
図8のオートストップ検出処理は、
図4のオートストップ検出処理と比較すると、下記の[2−1−1],[2−1−2]の事項が異なる。
[2−1−1]
S240が削除されており、その代わりに、S215が設けられている。制御回路46は、S210で「YES」と判定した場合に、S215に進み、そのS215にて、S240と同じ処理、即ち、ホールセンサカウント処理を開始する処理を行う。そして、その後、S220に進む。
【0102】
[2−1−2]
S225が追加されている。制御回路46は、S220で「YES」と判定した場合に、そのS225に進み、ホールセンサカウント値を0にリセットする。そして、その後、再びS220の判定を行う。S225でホールセンサカウント値がリセットされると、ホールセンサ信号Hのエッジのカウントが最初から開始(即ちリスタート)されることとなる。
【0103】
[2−2.効果]
以上のような第2実施形態の電動工具1によれば、第1実施形態について述べた効果に加えて、以下の効果を奏する。
【0104】
制御回路46は、
図8におけるS215とS225の処理を行うため、
図9における時刻t1〜時刻t2の期間に示すように、打撃の発生によって現れる速度増減変化を検出する毎に、ホールセンサ信号Hのエッジのカウント(即ち、モータ4の回転量の計測)を最初から開始することとなる。
【0105】
このため、ブレーキ待ち期間は、
図8のS230にて対象物が緩んだと判定されたとき(即ち、
図9の時刻t2)から、ホールセンサカウント値が設定値Nsに達するまでの期間となるが、ホールセンサカウント値のカウント開始タイミングは、打撃に伴う速度増減変化が最後に発生したとき(即ち、
図9の時刻te)となる。よって、打撃に伴う速度増減変化が最後に発生したときからのモータ4の回転量が設定回転量になったタイミングを、ブレーキ待ち期間の終了タイミングとすることができる。
【0106】
つまり、速度増減変化が最後に現れてから、対象物が緩んだと判定(即ち、打撃が発生しなくなったと判定)されるまでには、判定時間T2だけ遅れることとなるが、その判定時間T2におけるモータ4の回転量(即ち、
図9の時刻teから時刻t2までの回転量)も加味して、ブレーキ待ち期間の終了タイミングを定めることができる。よって、緩める対象物の戻り量を一層安定させ易い。
【0107】
更に、制御回路46は、打撃の発生によって現れる速度増減変化として、少なくとも、減少から増加への変化を検出する。モータ回転速度の減少から増加への変化(即ち極小値)は、1回の打撃の終了時に現れる打撃終了現象に相当する。このため、少なくとも各打撃の終了時毎に、ホールセンサ信号Hのエッジのカウントが最初から開始される。
【0108】
よって、最後の打撃が終了したとき(即ち、打撃によって対象物が緩んだとき)からのモータ4の回転量が設定回転量になったタイミングを、ブレーキ待ち期間の終了タイミングとすることができる。このため、緩める対象物の戻り量をより一層安定させ易い。尚、制御回路46が検出する速度増減変化としては、増加から減少への変化と、減少から増加への変化との、一方だけでも良いが、少なくとも、減少から増加への変化を検出するように構成することで、対象物の戻り量を安定させ易くなる。
【0109】
[3.第3実施形態]
[3−1.第1実施形態との相違点]
第3実施形態の電動工具1では、第1実施形態と比較すると、制御回路46が、
図4のオートストップ検出処理に代えて、
図10のオートストップ検出処理を行う。
【0110】
図10のオートストップ検出処理は、
図4のオートストップ検出処理と比較すると、S240,S250の代わりに、S235,S245,S255が設けられている。
図10に示すように、制御回路46は、オートストップ検出処理では、S230の処理を行った後、S235に進む。
【0111】
制御回路46は、S235では、ブレーキ待ち期間の長さである待ち時間Twを、現時点の(即ち、対象物が緩んだと判定したときの)モータ回転速度に基づいて算出する。そして、その算出した待ち時間Twを、後述するS255での判定に用いる判定値として設定する。
【0112】
具体的には、制御回路46は、モータ回転速度から待ち時間Twを算出するための計算式であって、モータ回転速度が大きいほど待ち時間Twの算出値が小さい(即ち短い)値となる計算式を備えている。そして、制御回路46は、モータ回転速度を検出し、その検出値を上記計算式に代入することで、待ち時間Twを算出する。この計算式は、モータ回転速度に対して待ち時間Twが反比例するような式でも良い。また、制御回路46は、モータ回転速度と待ち時間Twとの対応関係を表すデータマップを用いて、待ち時間Twを算出するようになっていても良い。
【0113】
尚、モータ回転速度は、ホールセンサ信号にエッジが発生した時間間隔から検出することができる。また、待ち時間TWを算出するのに用いるモータ回転速度は、S220で「NO」と判定したときに検出しても良い。
【0114】
また変形例として、制御回路46は、S235では、例えば、現時点のバッテリ電圧や駆動デューティ比等、モータ回転速度に関連する物理量から、現在のモータ回転速度を推定し、その推定値を用いて、待ち時間Twを算出するように構成されても良い。
【0115】
また、他の変形例として、制御回路46は、S235では、モータ回転速度の検出値又は推定値に代えて、上記物理量に基づいて、待ち時間Twを算出しても良い。例えば、制御回路46は、バッテリ電圧が大きいほど、また、駆動デューティ比が大きいほど、待ち時間Twの算出値が小さい値となるように設定された計算式又はデータマップを用いて、待ち時間Twを算出するように構成することができる。待ち時間Twを算出するのに用いる物理量としては、バッテリ電圧と駆動デューティ比との両方であっても良いし、一方であっても良い。また、他の物理量を加えても良い。
【0116】
制御回路46は、S235の処理を行った後、S245に進み、時間を計測するための計時処理を開始する。
尚、計時処理は、例えば、一定時間毎に起動されるタイマ割り込み処理として実行される。そして、制御回路46は、
図11に示すように、計時処理では、S310にて、時間の計測値に相当するタイマ値をインクリメントし、その後、当該計時処理を終了する。このため、制御回路46は、
図10のS245では、具体的には、計時処理の起動を許可する。また、例えば、
図3のS110にてトリガスイッチ21がオフ状態になっていると判定された場合に、タイマ値がクリアされると共に、計時処理の起動が禁止される。
【0117】
図10に戻り、制御回路46は、次のS255にて、S245で計測を開始した時間の計測値が、S235で設定した待ち時間Twに到達したか否かを判定する。具体的には、計時処理でカウントアップされるタイマ値が、待ち時間Twに相当する値に到達したか否かを判定する。待ち時間Twに相当する値とは、待ち時間Twを、計時処理の実行周期で割った値である。
【0118】
そして、制御回路46は、S255では、時間の計測値が待ち時間Twに到達したと判定するまで待ち、時間の計測値が待ち時間Twに到達したと判定すると、S260に進んで、ブレーキ指令フラグをセットする。
【0119】
尚、制御回路46は、
図6のホールセンサカウント処理は実行しない。
このような第3実施形態において、制御回路46は、
図12における時刻t2に示すように、速度増減変化が発生しない時間が判定時間T2を超過して、対象物が緩んだと判定すると、モータ4をフリーラン状態にすると共に、時間の計測を開始する。そして、時間の計測値が待ち時間Twに到達すると、
図12における時刻t3に示すように、モータ4にブレーキをかけてモータ4を停止させる。
【0120】
[3−2.効果]
第3実施形態の電動工具1において、ブレーキ待ち期間は、待ち時間Twが経過するまでの期間である。このため、ブレーキ待ち期間を時間で管理することができる。よって、ホールセンサ信号Hのエッジをカウントするための処理を行わなくても済む。
【0121】
また、制御回路46は、待ち時間Twを、モータ回転速度、あるいは、モータ回転速度に関連する物理量(例えば、バッテリ電圧や駆動デューティ比)に基づいて設定する。このため、緩める対象物の戻り量を安定させ易い。
【0122】
尚、第3実施形態において、制御回路46は、時間設定部にも相当する。つまり、制御回路46は、時間設定部としても機能する。そして、
図10におけるS235が、時間設定部としての処理に相当する。
【0123】
[4.第4実施形態]
[4−1.第3実施形態との相違点]
第4実施形態の電動工具1では、第3実施形態と比較すると、制御回路46が、モータ4に流れた電流(以下、モータ電流)に基づいて打撃を検出する点が異なる。
【0124】
図14における時刻t1〜時刻t2の期間に示すように、打撃が繰り返し発生している期間においては、モータ電流の増減変化が繰り返し発生する。換言すると、モータ電流の極小値と極大値とが時系列的に連続して発生する。つまり、1回の打撃の開始時に、モータ電流は極小値となる。その後、1回の打撃の終了時に、モータ電流は極大値となる。そして、次の打撃の開始時に、モータ電流は再び極小値となる。このような動作が繰り返される。尚、
図14において、モータ電流が最初に極小値となる時刻t1は、最初の打撃の開始タイミングであるが、その時刻t1よりも前に発生しているモータ電流の極大値は、打撃によるものではなく、通電開始の突入電流による極大値である。また、以下では、モータ電流の増減変化のことを、単に、電流増減変化ともいう。
【0125】
このため、制御回路46は、
図10のオートストップ検出処理に代えて、
図13のオートストップ検出処理を行う。
図13のオートストップ検出処理は、
図10のオートストップ検出処理と比較すると、S210,S220の代わりに、S410,S420が設けられている。
【0126】
図13に示すように、制御回路46は、オートストップ検出処理を開始すると、S410にて、モータ4の起動時から前述の起動判別時間T1以内に、電流増減変化のうち、減少から増加への変化(即ち、モータ電流の極小値)が発生したか否かを判定する。
【0127】
具体的には、制御回路46は、S410では、モータ電流を監視して、モータ電流の減少から増加への変化を検出する処理を行い、その減少から増加への変化を、モータ4の起動時から起動判別時間T1以内に検出したか否かを判定する。
【0128】
そして、制御回路46は、S410にて、モータ4の起動時から起動判別時間T1以内にモータ電流の減少から増加への変化が発生したと判定した場合には、S420に進む。また、制御回路46は、S410にて、モータ4の起動時から起動判別時間T1以内にモータ電流の減少から増加への変化が発生しなかったと判定した場合には、前述のS260に進む。
【0129】
制御回路46は、S420では、電流増減変化の前回検出時から前述の判定時間T2以内に、電流増減変化が発生したか否かを判定する。電流増減変化の前回検出時としては、S410で「YES」と判定した時点、即ち、S410でモータ電流の減少から増加への変化を検出した時点、も含まれる。
【0130】
具体的には、制御回路46は、S420では、モータ電流を監視して電流増減変化を検出する処理(即ち、モータ電流の極値を検出する処理)を行い、その電流増減変化を、前回の検出時から判定時間T2以内に検出したか否かを判定する。
【0131】
そして、制御回路46は、S420にて、判定時間T2以内に電流増減変化が発生したと判定した場合には、再びS420の判定を行う。よって、
図14における時刻t1〜時刻t2の期間に示すように、電流増減変化(即ち、モータ電流の極値)が判定時間T2以内毎に繰り返し現れたならば、制御回路46は、S420の処理を繰り返すこととなる。
【0132】
また、制御回路46は、S420にて、判定時間T2以内に電流増減変化が発生しないと判定した場合、つまり、電流増減変化が判定時間T2を超過しても発生しなかった場合には、打撃が発生しなくなったと判定して、S230に進む。そして、S230では、対象物が緩んだと判定して逆転オートストップフラグをセットする。
【0133】
[4−2.効果]
制御回路46は、
図14における時刻t2に示すように、電流増減変化が発生しない時間が判定時間T2を超過すると、対象物が緩んだと判定して、モータ4をフリーラン状態にすると共に、時間の計測を開始する。そして、時間の計測値が待ち時間Twに到達すると、
図14における時刻t3に示すように、モータ4にブレーキをかけてモータ4を停止させる。このような第4実施形態によっても、第3実施形態と同様の効果が得られる。
【0134】
また、モータ電流に基づいて打撃を検出することは、第1〜第3実施形態の各々に対しても適用することができる。その場合、
図4,
図8,
図10の各々におけるS210,S220の処理を、
図13におけるS410,S420の処理に置き換えれば良い。
【0135】
尚、第4実施形態では、
図13におけるS410,S420,S230が、判定部としての処理に相当する。そして、速度増減変化が、打撃の発生によって現れる検出対象の現象に相当する。また、
図8におけるS210,S220を、
図13におけるS410,S420に置き換えたとしても、もちろん第2実施形態と同様の効果が得られる。S420では、打撃の発生によって現れる電流増減変化として、少なくとも打撃終了現象としての、増加から減少への変化(即ち極大値)を検出するからである。
【0136】
[5.第5実施形態]
[5−1.第1実施形態との相違点]
第5実施形態の電動工具1では、第1実施形態と比較すると、制御回路46が、
図4のオートストップ検出処理に代えて、
図15のオートストップ検出処理を行う。
【0137】
図15のオートストップ検出処理は、
図4のオートストップ検出処理と比較すると、S210,S220の代わりに、S510が設けられている。
図15に示すように、制御回路46は、オートストップ検出処理を開始すると、S510にて、モータ回転速度が所定の緩み判定値を超えたか否かを判定し、モータ回転速度が緩み判定値を超えるまで待つ。そして、制御回路46は、S510にて、モータ回転速度が緩み判定値を超えたと判定すると、S230に進み、対象物が緩んだと判定して、逆転オートストップフラグをセットする。その後の処理は第1実施形態と同じである。
【0138】
つまり、制御回路46は、
図16における時刻t2に示すように、モータ回転速度が緩み判定値を超えた場合に、対象物が緩んだと判定して、ホールセンサ信号Hのエッジのカウントを開始すると共に、モータ4をフリーラン状態にする。そして、制御回路46は、
図16における時刻t3に示すように、ホールセンサカウント値が設定値Nsに到達すると、モータ4にブレーキをかけてモータ4を停止させる。
【0139】
尚、
図16における時刻t2より前に示すように、締め付け固定状態にあった対象物が打撃によって緩むと、モータ回転速度は増大し続けると考えられる。このため、緩み判定値は、対象物が緩んだ場合にモータ回転速度が到達する値に設定される。また、
図16において、時刻t2までの「緩み検出期間」とは、モータ4の逆転方向の駆動が開始されてから、対象物が緩んだと判定されるまでの期間である。
【0140】
また、制御回路46は、緩み判定値を、例えば、バッテリ電圧とトリガ操作量との両方又は一方に応じて、可変設定するように構成されても良い。例えば、制御回路46は、バッテリ電圧が大きいほど、またトリガ操作量が大きいほど、緩み判定値を大きい値に設定するように構成することができる。そして、制御回路46は、バッテリ電圧とトリガ操作量との両方又は一方をパラメータとした計算式あるいはデータマップを用いて、緩み判定値を可変設定するように構成することができる。
【0141】
[5−2.効果]
以上のような第5実施形態の電動工具1によっても、第1実施形態について述べた上記(1a),(1b)と同様の効果を奏する。また、第5実施形態の制御回路46は、モータの回転速度が緩み判定値を超えた場合に、対象物が緩んだと判定する。このため、対象物が緩んだことを簡単に判定することができ、高い判定精度も得られる。
【0142】
尚、第5実施形態では、
図15におけるS510,S230が、判定部としての処理に相当する。
また、
図15におけるS510の処理は、第3実施形態に対しても適用することができる。つまり、
図10におけるS210,S220の処理を、
図15におけるS510の処理に置き換えても良い。
【0143】
[6.第6実施形態]
第1〜第5実施形態の各々において、制御回路46は、
図3のS160では、
図3にて()内に記載しているように、モータ4への出力を、低デューティ出力としても良い。低デューティ出力とは、S140で算出された駆動デューティ比よりも小さい駆動デューティ比に応じた制御信号をゲート回路44に出力することである。詳しくは、スイッチング素子Q1〜Q6が、その小さい駆動デューティ比で駆動されるようにして、モータ4に供給する電力を、S140,S150の処理が実行される場合よりも低下させる、ということである。
【0144】
このように構成した場合、制御回路46は、ブレーキ待ち期間の間は、モータ4への供給電力をブレーキ待ち期間の前よりも低下させ、その後、モータ4にブレーキをかけることとなる。
【0145】
そして、このような第6実施形態によっても、第1〜第5実施形態について述べた効果と同様の効果が得られる。
[7.第7実施形態]
第1〜第5実施形態の各々において、制御回路46は、
図3のS160では、
図3にて{}内に記載しているように、モータ4に対して緩いブレーキをかけても良い。緩いブレーキとは、
図3のS170でモータ4にかけるブレーキよりも緩いブレーキであり、モータ4が停止に至る制動力よりも小さい制動力のブレーキである。
【0146】
このように構成した場合、制御回路46は、ブレーキ待ち期間の間は、モータ4に弱いブレーキをかけ、その後、モータ4に強いブレーキをかけてモータ4を停止させることとなる。
【0147】
そして、このような第7実施形態によっても、第1〜第5実施形態について述べた効果と同様の効果が得られる。
[8.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得る。また、前述の数値も一例であり他の値でも良い。
【0148】
例えば、第1〜第3実施形態におけるオートストップ検出処理のS210とS220では、
図5,
図9,
図12における一点鎖線で示すように、モータ回転速度が閾値Rth以上(例えば4000rpm以上)であることを条件に、速度増減変化を検出するようになっていても良い。同様に、第4実施形態におけるオートストップ検出処理のS410,S420では、
図14における一点鎖線で示すように、モータ電流が閾値Ith以上であることを条件に、電流増減変化を検出するようになっていても良い。閾値Rth,Ithは、例えば有効な打撃が発生する場合の最低値に設定することができる。このように構成すれば、打撃の検出精度及び打撃が発生しなくなったことの検出精度を上げることができる。
【0149】
また、第1〜第3実施形態におけるオートストップ検出処理のS220では、
図5,
図9,
図12における二点鎖線で示すように、前回検出した速度増減変化の極値から所定値ΔR以上の差がある極値となる速度増減変化を、検出対象とするようになっていても良い。同様に、第4実施形態におけるオートストップ検出処理のS420では、
図14における二点鎖線で示すように、前回検出した電流増減変化の極値から所定値ΔI以上の差がある極値となる電流増減変化を、検出対象とするようになっていても良い。所定値ΔR,ΔIは、例えば有効な打撃が発生する場合の最低値に設定することができる。このように構成すれば、打撃の検出精度及び打撃が発生しなくなったことの検出精度を上げることができる。
【0150】
打撃機構としては、ハンマがアンビルに衝突することで打撃を発生させるものに限らず、例えば、ケースとスピンドルとの相対回転により生じる油圧を利用して、出力部としてのスピンドルに打撃を与えるように構成された、いわゆるオイルユニットであっても良い。打撃機構が出力部に与える打撃は、瞬間的なトルクとも言える。尚、このようなオイルユニットは、例えば、特開2006−289596号公報や、特開2005−219139号公報や、特開2002−59371号公報等に開示されている。
【0151】
電動工具としては、充電式インパクトレンチに限らず、例えばインパクトドライバ等、モータにより駆動される打撃機構を備えたものであれば良い。また、モータ4は、3相ブラシレスモータにて構成されるものとして説明したが、打撃機構を駆動可能なモータであれば良い。また、電動工具は、充電式のものに限らず、コードを介して電力の供給を受けるものであっても良い。
【0152】
上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしても良い。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしても良い。また、上記実施形態の構成の一部を省略しても良い。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換しても良い。尚、特許請求の範囲に記載した文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【0153】
また、上述した電動工具の他、当該電動工具を構成要素とするシステム、当該電動工具としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実態的記録媒体、電動工具のモータ制御方法など、種々の形態で本開示を実現することもできる。