(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6755172
(24)【登録日】2020年8月27日
(45)【発行日】2020年9月16日
(54)【発明の名称】床版更新工法
(51)【国際特許分類】
E01D 19/12 20060101AFI20200907BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20200907BHJP
【FI】
E01D19/12
E01D22/00 A
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-251603(P2016-251603)
(22)【出願日】2016年12月26日
(65)【公開番号】特開2018-104970(P2018-104970A)
(43)【公開日】2018年7月5日
【審査請求日】2019年10月25日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)土木学会第71回年次学術講演会 講演概要集(発行日:平成28年8月1日)1081頁〜1082頁、1085頁〜1088頁 (2)土木学会第71回年次学術講演会(発表日:平成28年9月8日 東北大学川内北キャンパス)
(73)【特許権者】
【識別番号】505389695
【氏名又は名称】首都高速道路株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】508036743
【氏名又は名称】株式会社横河ブリッジ
(73)【特許権者】
【識別番号】000200367
【氏名又は名称】川田工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591211917
【氏名又は名称】川田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076369
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 正治
(74)【代理人】
【識別番号】100144749
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 正英
(72)【発明者】
【氏名】田嶋 仁志
(72)【発明者】
【氏名】岸田 政彦
(72)【発明者】
【氏名】石原 陽介
(72)【発明者】
【氏名】峯村 智也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 公紀
(72)【発明者】
【氏名】山内 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】森田 明男
(72)【発明者】
【氏名】山浦 明洋
(72)【発明者】
【氏名】白水 晃生
【審査官】
荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2016−008406(JP,A)
【文献】
特開昭60−138106(JP,A)
【文献】
特開2007−239365(JP,A)
【文献】
特開平02−132206(JP,A)
【文献】
特開平07−216827(JP,A)
【文献】
特開2014−134060(JP,A)
【文献】
特開2007−077630(JP,A)
【文献】
米国特許第4301565(US,A)
【文献】
特開2015−151768(JP,A)
【文献】
特開平06−322715(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 1/00−24/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼橋の既設床版を撤去し、撤去跡に新設床版を設置し、当該新設床版を鋼橋の既設鋼主桁に接合する床版更新工法において、
新設床版を既設鋼主桁に接合する前に、既設鋼主桁を当該既設鋼主桁自身によるたわみを打ち消す量と同等あるいはそれ以上に、鋼主桁を下方より上方に向けてジャッキアップして当該既設鋼主桁に蓄積されているひずみを緩和して応力状態を低減してから、既設床版を橋軸方向と橋軸直角方向に任意サイズに切断して区画し、区画された床版を個別に撤去して撤去跡に新設床版を設置し、その新設床版を既設鋼主桁と接合し、少なくとも当該接合後に前記ジャッキアップを解放する、
ことを特徴とする床版更新工法。
【請求項2】
請求項1記載の床版更新工法において、
ジャッキアップを段階的に行ってトータルのジャッキアップ量を既設鋼主桁自身によるたわみを打ち消す量と同等あるいはそれ以上のジャッキアップ量にし、トータルのジャッキアップ量になる前に既設床版の橋軸直角方向への切断を行い、トータルジャッキアップ量になってから既設床版の橋軸方向への切断を行う、
ことを特徴とする床版更新工法。
【請求項3】
請求項2記載の床版更新工法において、
既設床版を橋軸直角方向へ切断するときのジャッキアップ量を、後死荷重分のひずみを緩和できる量又は打ち消すことのできる量にし、既設床版を橋軸方向へ切断するときのジャッキアップ量をトータルのジャッキアップ量とする、
ことを特徴とする床版更新工法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の床版更新工法において、
鋼橋の幅員全域に亘って鋼主桁をジャッキアップしてから、当該全域の既設床版を任意サイズに切断して区画し、区画された床版を個別に撤去して撤去跡に新設床版を設置し、その新設床版を既設鋼主桁と接合する、
ことを特徴とする床版更新工法。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の床版更新工法において、
鋼橋の幅員全域を二以上の領域に区分し、鋼主桁のジャッキアップ量を前記領域別に変え、領域ごとに既設床版を任意サイズに切断して区画し、区画された床版を個別に撤去して撤去跡に新設床版を設置し、その新設床版を既設鋼主桁と接合する、
ことを特徴とする床版更新工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼主桁を有する道路の既設床版、例えばRC床版(Reinforced-Concrete床版)を新規の床版、例えば鋼床版に取替える(更新する)工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
床版を更新する際に、道路の幅員全域を更新すること(全幅工法)がよく行われてきたが、この工法は道路の全幅員を同時に更新するため、道路を閉鎖しなければならず、交通量への影響が大きく、物流面への影響も大きいという問題がある。また、交通量が既設橋梁設置時よりも増大し、それに伴って交通荷重が大きくなったこともあり、設計基準も変遷し、その関係で床版厚は以前より厚くなる。この結果、荷重全体が増加したので、以前の基準で設計されたRC床版を、最新の規準で設計したRC床版に更新すると鋼主桁の補強を行う必要が生じる。一方では、床版を更新する際に、鋼主桁の応力が残存している状態では、床版を更新したときに、鋼桁への補強量が増えることが懸念されている。
【0003】
前記問題に対しては、少しでも交通量への影響が少なくなるように、道路の横断面で二分して半幅ずつ施工する分割工法(半幅工法)や、そのための床版が発明されてきた(特許文献1)。半幅工法は鋼橋の一部車線を交通規制し、他の車線を交通解放して、交通規制している側の床版を更新してから、交通規制と交通解放を反対車線に切り替えて、切り替え後に交通規制している側の床版を更新する工法であるため、全幅工法に比して交通量の制約が低減する。ここで、鋼橋とは梁状の鋼主桁や鋼横桁と各種床版からなる構造物をいう。
【0004】
従来、床版を更新する際に、外ケーブルにより鋼主桁の応力を低減する工法が提案されている(特許文献2)。この工法は、ケーブル定着用ブラケットを、桁に、高張力万力を用いて摩擦接合し、橋軸方向にケーブルを配し、このケーブルに緊張力を与えることによって、桁に負の曲げモーメントを生ぜしめるのに必要なプレストレスを導入する工法である。しかし、この工法は、これまで実施されることはほとんどなかった。それは、鋼主桁がもともと曲げ部材として設計されており、圧縮力を与えることで架設時に座屈の可能性が生じるため安全性が低下することや、圧縮力を与えることで床版を切断するときにカッターがかんで施工できないこと、下フランジにブラケットを設けるための施工は万力では許可が下りずに高力ボルトによる摩擦接合を用いれば大掛かりとなるのが理由であった。
【0005】
前記理由等もあって、これまで、床版を更新する際に、鋼主桁の応力改善を行うことはほとんどなく、鋼主桁に作用する応力がその許容応力を超過すれば鋼主桁を補強しているのが現状である。場合によっては、許容たわみを越える場合もあり、その場合も鋼主桁を補強して対処しているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015−151768号公報
【特許文献2】特開平6−322715号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の解決課題は、鋼橋の床版更新において、鋼橋の横断面を分割して床版を更新する場合に、鋼主桁を補強することなく簡易に、効率良く施工できるようにすること、短期間での施工を可能として交通規制の影響を極力少なくすることにある。また、鋼主桁の応力改善を図ることで、鋼主桁への補強をなくしたり、補強量を削減したりすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題解決に先立って、合成桁及び非合成桁の構造及び構築工法に着目した。合成桁は鋼主桁の上にコンクリート床版(RC床版)が設置され、スタッドで連結固定して、RC床版が位置ずれしないようにしてある。非合成桁は鋼主桁の上にRC床版が設置されているが、鋼主桁とRC床版がスタッドで連結固定されないため、RC床版は合成桁に比して位置ずれし易い。合成桁の場合も、非合成桁の場合も、RC床版の上には舗装が施工され、高欄が設置されている。
【0009】
合成桁の場合も、非合成桁の場合も、鋼主桁、床版、舗装、高欄(図示しない)の総合荷重(δall)により、鋼主桁、床版、舗装が下方にたわむことが予想される。一般に、合成桁、非合成桁いずれの場合も、支間長がその輸送可能な部材長を越えるため、部材と部材を現場にて接合する現場継手が必要となる。このため、構築時に、鋼主桁の下の横断面の幅方向に、例えば、ベント(支保工)を現場継手部に配置し、工場製作時に前記予想されるたわみ分を上方に反り返らせた状態として製作し(キャンバーを付与し)、その位置で仮受けする。この状態を、鋼主桁に作用する荷重がないことから、無応力状態と呼ぶ。この状態で鋼主桁の現場接合を行う。その後に、前記支保工を撤去すると鋼主桁の死荷重分のたわみが鋼主桁に生じる。このときは鋼主桁に鋼主桁の死荷重相当の応力が作用する。
【0010】
合成桁の場合は、前記キャンバー付与された鋼主桁を架設後、ベントを解放し、鋼主桁がその自重でたわんだ状態で、鋼主桁の上にコンクリートを打設してRC床版を構築する。なお、このときの鋼主桁のたわみを前死荷重と呼ぶ。前死荷重=δ1(鋼主桁の荷重)+δ2(床版の荷重)である。RC床版が硬化すれば鋼主桁と合成される。この合成以降に舗装が施工され高欄が設置される。この舗装及び高欄等鋼主桁とRC床版が合成された後、載荷される死荷重を後死荷重と呼ぶ。舗装の荷重をδ3、高欄の荷重をδ4とすると、製作時に付与するたわみ分(総合死荷重)δall=δ1+δ2+δ3+δ4となる。この量をキャンバー(上げこし量)と呼ぶ。
【0011】
非合成桁の場合は、前記キャンバー付与後、床版と鋼主桁との合成作用を考慮しないので、前死荷重、後死荷重といった分け方はしないのが一般的である。また、床版と鋼主桁が重ね梁のように挙動するので、鋼主桁と床版が同じ材料で同じ断面であっても、たわみが増え、応力も大きくなることが一般的である。
【0012】
本発明の床版更新工法は、合成桁、非合成桁のいずれの場合も、鋼橋の既設床版を撤去し、撤去跡に新設床版を設置し、当該新設床版を鋼橋の既設鋼主桁に接合する床版更新工法であり、新設床版を既設鋼主桁に接合する前に、既設鋼主桁を当該既設鋼主桁自身によるたわみを打ち消す以上に鋼主桁を下方より上方に向けてジャッキアップ(強制押上げ)して当該既設鋼主桁に蓄積されているひずみを緩和して応力状態を低減してから、既設床版を橋軸方向と橋軸直角方向に切断して任意サイズに区画し、区画された床版を個別に撤去し、撤去跡に新設床版を設置して、その新設床版を既設鋼主桁と接合し、少なくとも当該接合後にジャッキアップを解放することを特徴とする工法である。既設床版を供用しながら新設床版に更新する工法の場合、既設床版にジャッキアップによる引張力をそれほど与えないための床版更新工法では、ジャッキアップを段階的に行ってトータルのジャッキアップ量を既設鋼主桁自身によるたわみを打ち消す量と同等あるいはそれ以上のジャッキアップ量にし、トータルのジャッキアップ量になる前に既設床版の橋軸直角方向への切断を行い、トータルジャッキアップ量になってから既設床版の橋軸方向への切断を行うこともできる。この場合、既設床版を橋軸直角方向へ切断するときのジャッキアップ量を、後死荷重分のひずみを緩和できる量又は打ち消すことのできる量にし、既設床版を橋軸方向へ切断するときのジャッキアップ量をトータルのジャッキアップ量とするのが望ましい。
【0013】
本発明の床版更新工法は、既設鋼橋の幅員全域に亘って交通規制して床版を更新する全幅更新工法にも、鋼橋の幅員全域を二以上の領域に区分し、一部領域を交通規制し、他の領域を交通解放して、交通規制している領域(先行側領域)の床版更新をしてから、交通規制と交通解放を他の領域に切り替えて、切り替え後に交通規制している領域(後行側領域)の床版を更新する領域別更新工法にも適用できる。
【0014】
前記全幅更新工法の場合は、鋼橋の幅員全域に亘ってジャッキアップしてから、当該全域の既設床版を任意サイズに切断して区画し、区画された床版を個別に撤去し、撤去跡に新設床版を設置し、その新設床版を既設鋼主桁と接合する。前記領域別更新工法の場合は、鋼橋の幅員全域を二以上の領域に区分し、鋼主桁のジャッキアップ量を前記領域別に変え、領域ごとに既設床版を任意サイズに切断して区画し、区画された床版を個別に撤去し、撤去跡に新設床版を設置し、その新設床版を既設鋼主桁と接合する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の床版更新工法は次の効果がある。
(1)鋼主桁に蓄積されていたひずみを低減した既存の鋼主桁と、ひずみのない新設床版とを接合するので、鋼主桁への補強作業が不要となったり、削減されたりし、作業効率の良い工法となる。
(2)鋼主桁に蓄積されているひずみを低減するとか、逆のひずみ、つまり支間中央部の下フランジのひずみに圧縮側のひずみを、上フランジ側に引張側のひずみを与えた状態で新設床版と接合すると、鋼主桁への補強作業がより不要或いはより削減されることとなり作業効率が向上する。更に、更新後の橋梁全体の重さも補強材を使用しない分だけ抑制される工法となる。つまり、死活荷重合成桁や、予め、鋼主桁に逆にひずみを与えた合成桁となる。
ここで、一般の活荷重合成桁が、鋼主桁と床版が合成される以降の荷重が交通荷重である活荷重が主となることから、活荷重合成桁と呼ばれる。一方、死活荷重合成桁とは、鋼主桁と床版が合成されるのが前死荷重状態であることから、前死荷重に対しても鋼主桁と床版との合成断面で有効である。このため、応力やひずみ、たわみが同じ断面であれば活荷重合成桁よりも小さくなる。つまり、ある程度荷重が増えても、補強することなく現状の断面で抵抗できる可能性がある。一般に、鋼床版桁や場所打ちのコンクリート桁は死活荷重合成桁である。
(3)床版に蓄積されているひずみを低減してから既設床版を橋軸直角方向に垂直に切断するので切断作業が容易になる。鋼主桁を切断する場合も同様である。
(4)ジャッキアップを段階的に行ってトータルのジャッキアップ量を既設鋼主桁自身によるたわみを打ち消す量と同等あるいはそれ以上のジャッキアップ量にし、トータルのジャッキアップ量になる前に既設床版の橋軸直角方向への切断を行い、トータルジャッキアップ量になってから既設床版の橋軸方向への切断を行えば、既設床版の橋軸直角方向への切断と、既設床版の橋軸方向への切断を、夫々の切断に適した応力状態で行うことができ床版にそれほどジャッキアップによる引張力をあたえることなく切断することができる。
(5)既設床版を橋軸直角方向へ切断するときのジャッキアップ量を、後死荷重分のひずみを緩和できる量又は打ち消すことのできる量にし、既設床版を橋軸方向へ切断するときのジャッキアップ量をトータルのジャッキアップ量にした場合も、夫々の切断を、夫々の切断に適した応力状態で行うことができ、床版にそれほどジャッキアップによる引張力をあたえることなく切断することができる。
(6)鋼橋を二以上の領域に分けて施工する場合、ジャッキアップ量を、施工領域の鋼主桁に多く、未施工側の鋼主桁に少なくすれば、未施工側の床版に加わる押し上げ量が抑制され、当該床版に亀裂、損傷等が生じにくくなり、未施工側を走行する自動車の安全が確保される。
(7)更新する床版にコンクリート床版を適用する場合、鋼主桁をジャッキアップした後、コンクリート床版を鋼主桁上に設置し橋軸方向に連続した状態で、鋼主桁と接続し、その後ジャッキアップを解放すれば、コンクリート床版に圧縮力が作用し、ひび割れの発生を低減することができ、床版の耐久性向上に期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】(a)は通常の車両走行状態の正面図、(b)は側面図、(c)は床版の区画説明図。
【
図2】(a)は本発明の床版更新工法における規制前作業(Step1:縦桁、横桁改造)の正面図、(b)は側面図。
【
図3】(a)は本発明の床版更新工法における規制前作業(Step2:支持桁架設)の正面図、(b)は側面図。
【
図4】(a)は本発明の床版更新工法における規制前作業(Step3:1次ジャッキアップ)の正面図、(b)は側面図。
【
図5】(a)は本発明の床版更新工法における規制前作業(Step4:補強部材設置・主桁水平切断・仮添接)の正面図、(b)は側面図。
【
図6】(a)は本発明の床版更新工法における規制時先行側作業(Step5:先行側2次ジャッキアップ・先行側橋軸直角方向床版切断・先行側補強部材設置)の正面図、(b)は側面図。
【
図7】本発明の床版更新工法における規制時先行側作業(Step6:橋軸方向床版切断・既設床版撤去)の正面図。
【
図8】本発明の床版更新工法における規制時先行側作業(Step7:新設床版設置・仮舗装)の正面図。
【
図9】本発明の床版更新工法における規制時後行側作業(Step8:後行側3次ジャッキアップ・後行側橋軸直角方向床版切断・後行側補強部材設置)の正面図。
【
図11】(a)は本発明の床版更新工法における後行側作業(Step9:既設床版撤去作業の正面図、(b)は後行側作業(Step10:新設床版設置・仮舗装)の側面図。
【
図12】(a)は本発明の床版更新工法における後行側作業(Step11:ジャッキアップの解放・補強部材撤去・支持桁撤去・本舗装作業の正面図、(b)は側面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の床版更新工法は、既設鋼主桁を当該既設鋼主桁自身によるたわみを打ち消す以上にジャッキアップして当該既設鋼主桁に蓄積されているひずみを緩和し、応力状態を低減してから、既設床版を切断することに特徴があるため、本発明の実施形態の説明に先立って鋼主桁の応力(ひずみ)とたわみの関係を
図13に基づいて説明する。
【0018】
図13は鋼主桁のひずみ(応力)−たわみ曲線の図である。
図13では縦軸Yに鋼主桁の応力σ又はひずみεを示し、横軸Xに鋼主桁のたわみδを示す。通常、σ:応力、E:ヤング率、ε:ひずみは、σ=Eεの関係にある。従来の床版更新では、既設床版の切断を少なくとも前死荷重が鋼主桁に加わっている状態で行っている。本発明は、既設床版を更新する前に、既設鋼主桁を前死荷重相当分以上にジャッキアップして、既設鋼主桁自身の荷重による当該鋼主桁のたわみ(
図13のδ1)を打ち消し、当該既設鋼主桁に蓄積されているひずみを緩和して応力状態を
図13のε1以下、δ1以下に低減してから、既設床版を橋軸方向(
図1(c)のZ−Z方向)又は/及び橋軸直角方向(
図1(c)のA−A方向、B−B方向)に更新し鋼主桁と接合した後、ジャッキアップを解放することに特徴がある。以下に、本発明の実施形態を説明する。
【0019】
(実施形態1:合成桁の鋼主桁を水平切断する半幅更新工法)
この実施形態は合成桁を半幅更新する場合であり、既設鋼主桁のウエブを水平切断して、当該鋼主桁の上フランジ側と床版を下フランジ側から分離する場合である。この工法では、
図1(a)(b)のように車両が走行している状態(片側車線を交通規制する前)の作業(規制前作業)をしてから、片側交通規制して規制側の床版を先に更新し(先行側作業を行い)、その後に片側交通規制を入れ替えて、入れ替え後の規制側の床版を更新する(後行側作業を行う)場合の例である。
【0020】
(規制前作業)
(1)Step1:仮設縦桁、新設横桁の設置
図1(a)の鋼橋は鋼主桁1が3本の場合である。この場合、半幅施工では一方の施工側の鋼主桁が1本となって既設床版2が不安定になるため、
図2(a)(b)に示すように、既設床版2の下方に仮受縦桁3をし、主桁1の間に新設横桁4を設置する。
【0021】
(2)Step2:支持桁又は支保工の設置
図3(a)(b)に示すように、鋼主桁1の下方に支持桁5を架設する。この場合、反力台6、横桁7を設ける。支持桁5に代えてベント(支保工)を設置することも、架設桁を設置することもできる。支保工の設置、架設桁の設置は通常の方法で設置する。
なお、支持桁とは対象となる鋼主桁の下方に支持されるものであり、上部にジャッキを設けることのできる空間を保持して支持され、支間部で鋼主桁の下部をジャッキ等で支持する、いわば重ね梁の機能を有する仮設の梁のことをいう。
架設桁は、対象となる橋梁側の両側端部の橋脚あるいは橋台の前に支保工を設け、その両側の支保工上に梁状の構造物を対象とする鋼主桁の下方にジャッキ等を設けることのできる空間を保持した位置に設け、鋼主桁を架設桁上方に設けたジャッキ等で支持できる仮設構造物をいう。
【0022】
(3)Step3:1次ジャッキアップ
Step1、2の後に、
図4(a)(b)のように、油圧ジャッキ8により、3本の鋼主桁1をジャッキアップ(1次ジャッキアップ)して、鋼主桁1に蓄積されている後死荷重相当分の応力(ひずみ)を低減する。後死荷重以上のジャッキアップをすると既設床版2に引っ張り力が生じてクラックが発生し、車両の走行に危険を招くので1次ジャッキアップは床版設置以降に鋼主桁に載荷される死荷重である後死荷重以内に収めるのが望ましい。前記切断箇所に補強部材9を仮添接する。ジャッキアップは必要なジャッキアップ量を段階的に行っても一度に行ってもよい(以下同じ)。
【0023】
(4)Step4:主桁水平切断・仮添接
前記1次ジャッキアップ状態で、
図5(a)(b)のように、鋼主桁1をその軸方向に水平に切断して、既設床版2及び主桁1の上フランジ側を下フランジ側から分離する。
【0024】
(先行側作業)
前記規制前作業終了後に片側車線を交通規制し、その規制側の床版を更新する、この更新作業(先行側作業)は次のようにして行うことができる。
【0025】
(5)Step5:2次ジャッキアップ・橋軸直角方向床版切断
Step4の後に、
図6(a)(b)のように、3本の鋼主桁1を1次ジャッキアップの状態よりも更にジャッキアップ(2次ジャッキアップ)して前死荷重相当分の応力を打消して、先行側の鋼主桁1の下フランジに蓄積されているひずみを解放する。この場合、3本の鋼主桁1の2次ジャッキアップ量G1、G2、G3は、G1側からG3側に次第に少なくするのが望ましい。ジャッキアップ量の一例としては、G1を鋼主桁1の前死荷重変形量の80%とし、これを基準として、他の鋼主桁1にアップリフトが生じないように配分を決める。例えばG1:100%、G2:62.5%、G3:25%程度の割合でジャッキアップするのが望ましい。この理由として、ジャッキアップ量を前死荷重以上に行うと走行側の床版にも引張力が生じひび割れが生じ走行性が低下することのないよう配慮するためである。前記2次ジャッキアップの状態で、
図1(c)のように、先行側の既設床版2及び鋼主桁1を橋軸直角方向(
図1(c)の仮想線A−A方向)に切断して任意のサイズの先行側区画床版10とする。
【0026】
(6)Step6:橋軸方向床版切断、既設床版撤去
Step5で区画された先行側区画床版10を
図7、
図10(a)のように撤去する。先行側区画床版10の撤去跡に新設床版11を設置する。新設床版11は鋼床版、プレキャストRC床版、プレキャストPC床版のいずれでもよい。また、場所打ちコンクリート床版を適用してもよい。そして最終的に主桁とRC床版やPC床版はモルタルやコンクリート等の間詰め材により、鋼床版は高力ボルトや溶接により主桁と接合される。
【0027】
(7)Step7:新設床版設置・仮舗装
Step6の先行側区画床版10の撤去、新設床版11の設置を繰り返してから、
図8、
図10(b)のように、新設床版11の上に仮舗装をする。
【0028】
(後行側作業)
Step7の先行側作業終了後に、交通規制を反対側に切り替えてから、当該交通規制側の床版更新作業(後行側作業)を次のようにして行う。
【0029】
(8)Step8:3次ジャッキアップ・橋軸直角方向床版切断
3本の鋼主桁1を3次ジャッキアップして3本の主桁1を押し上げて前死荷重相当分の応力を打消して、後行側の主桁1の下フランジに蓄積されているひずみを解放する。3次ジャッキアップ量G1、G2、G3は後行側の主桁1に多く、先行側の主桁1に少なくする。例えば、G3を主桁1の前死荷重量の80%とし、これを基準として、他の主桁1にアップリフトが生じないように配分を決める。例えば、G3:100%、G2:62.5%、G1:25%程度の割合でジャッキアップするのが望ましい。この理由として、ジャッキアップ量はG1側で多くの量を行っており、同じ量を行うとなると、G1側が高くなり走行性に支障をきたす可能性が生じるためである。よって、ジャッキアップ量は、1次から3次までを足し合わせて最終的に全鋼主桁の量がほぼ同じ量、あるいはキャンバー量に対してほぼ同じ割合となるようにすることが望ましい。3次ジャッキアップの状態で、
図1(c)のように、先行側の既設床版2及び鋼主桁1を橋軸直角方向(
図1(c)の仮想線B−B方向)に切断して任意のサイズに区画して後行側区画床版12とする。
【0030】
(9)Step9:既設床版撤去
Step8で区画された後行側区画床版12を
図11(a)のように撤去する。
【0031】
(10)Step10:新設床版設置・仮舗装
図11(b)のように、後行側区画床版12の撤去跡に新設床版11を設置する。
【0032】
前記Step8〜10の側面図はStep5〜7の側面図と同じであるため省略する。
【0033】
前記Step1〜10の作業により、全ての既設床版が新設床版に更新された後は、前記ジャッキアップの解放、支持桁5もしくは支保工の撤去、本舗装を行って床版更新は完了となる。
【0034】
(実施形態2:合成桁の主桁を水平切断しない半幅更新)
この実施形態は、合成桁の主桁を水平切断せずに半幅更新する場合である。この場合は、実施形態1のStep4の主桁水平切断作業、仮添接が不要となるが、それ以外のステップの作業は実施形態1の場合と同様に行う。なお、主桁水平切断作業を行わない代わりに、いずれかのステップにおいて、既設床版2を鋼主桁1からブレーカー等で斫り作業などして鋼主桁1から分離する必要がある。
【0035】
(実施形態3:非合成桁の半幅更新)
この実施形態は、非合成桁を半幅更新する場合である。この半幅更新も基本的には実施形態1の場合と同様に規制前作業、先行側作業、後行側作業を行うが、非合成桁は鋼主桁と床版が合成桁に比して分離し易い構造であるため、鋼主桁1をその軸方向に水平に切断する作業は行う必要はなく、その他の作業は実施形態2の場合と同様の作業を行う。
【0036】
(実施形態4:合成桁又は非合成桁の全幅更新)
この実施形態は合成桁又は非合成桁の床版を全幅に亘って更新する全幅更新の場合である。この全幅更新では交互に交通規制して交互に床版更新するのではなく、全幅に亘って交通規制して全幅の床版を更新する工法である。いずれの桁の場合も、1次ジャッキアップは行うが、2次ジャッキアップ、3次ジャッキアップを行う必要はない。理由として、更新作業中に一般車両を走行させる必要がないため、床版へのひび割れに配慮する必要がないためである。合成桁の場合は実施形態1のStep4の鋼主桁水平切断、仮添接を行うことなく、鋼主桁全体をジャッキアップした状態で、実施形態1の他のステップの作業を行う。非合成桁の場合は鋼主桁全体をジャッキアップした状態で、実施形態3と同様の作業を行って床版更新する。
【0037】
(実施形態5:段階的ジャッキアップ)
本発明の床版更新工法は、前記したような工法であるが、本発明では前記ジャッキアップを段階に行って、トータルのジャッキアップ量を既設鋼主桁自身によるたわみを打ち消す量と同等あるいはそれ以上のジャッキアップ量にし、トータルのジャッキアップ量になる前の所望のジャッキアップ量で既設床版の橋軸直角方向への切断を行い、トータルジャッキアップ量になってから既設床版の橋軸方向への切断を行うこともできる。既設床版を橋軸直角方向へ切断するときのジャッキアップ量は、後死荷重分のひずみを緩和できる量又は打ち消すことのできる量にし、既設床版を橋軸方向へ切断するときのジャッキアップ量をトータルのジャッキアップ量とすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
前記実施形態の作業工程、作業手順は本発明の一例である。それら作業工程、作業手順は本発明の課題を解決可能な範囲で変更可能である。例えば、必要に応じて他のステップを付加することもあり、一部のステップを削除することもある。また、ステップの前後が入れ替わる場合もある。
【0039】
前記実施形態の半幅施工は、鋼橋を横断面方向(横幅方向)に二つの領域に区分し、交互に交通規制して施工する場合であるが、本発明では鋼橋を横断面方向(幅員方向)に二つの領域に区分する場合に限られず、車線が多い場合(鋼橋の横幅が広い場合)は三以上の領域に区分して施工することもできる。
【符号の説明】
【0040】
1 (既設)鋼主桁
2 (既設)床版
3 仮受縦桁
4 新設横桁
5 支持桁或いは支保工
6 反力台
7 横桁
8 油圧ジャッキ
9 補強部材
10 先行側区画床版
11 新設床版
12 後行側区画床版
13 支間長