【文献】
J. Biol. Chem., 2013, Vol.288, No.1, p.393-400
【文献】
J. Biol. Chem., 2004, Vol.279, No.13, p.12102-12109
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記異種アミノ酸配列が、免疫グロブリン定常領域およびその部分、トランスフェリンおよびその断片、ヒト絨毛性ゴナドトロピンのC末端ペプチド、XTENとして知られている大きな流体力学体積を有する溶媒和ランダム鎖、ホモアミノ酸リピート(HAP)、プロリンーアラニン−セリンリピート(PAS)、アルブミン、アファミン、α−フェトプロテイン、ビタミンD結合タンパク質、生理条件下でアルブミンまたは免疫グロブリン定常領域に結合することができるポリペプチド、ならびにこれらの組合せからなる群から選択されるポリペプチドを含むまたはポリペプチドからなる、請求項5に記載のポリペプチド。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書を通して、文脈上別段の意味を要しない限り、「含む(comprise)」という単語、または「含む(comprises)」もしくは「含む(comprising)」などの変形は、明記される要素もしくは整数または要素もしくは整数の群を含むことを意味するが、他の要素もしくは整数または要素もしくは整数の群を除外することを意味しないことが理解される。
【0018】
本明細書において、以前の刊行物(もしくはそれから派生した情報)、または公知の事項に関する言及は、以前の刊行物(もしくはそれから派生した情報)、または公知の事項が、本明細書が関連する努力の分野における共通の一般知識の一部を形成することの認諾でも自認でもいずれの形態の示唆でもなく、またそのように解釈されるべきでない。
【0019】
本明細書で言及される全ての刊行物は、全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0020】
本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈上他に明確に指示されない限り、複数の態様を含むことに留意しなければならない。したがって、例えば、「薬剤(an agent)」への言及は、単一薬剤、ならびに2つ以上の薬剤も含み;「分子(a molecule)」への言及は、単一分子、ならびに2個以上の分子も含み;以下同様である。
【0021】
VWF
本明細書で使用される「フォン・ヴィレブランド因子」または「VWF」という用語は、野生型VWFの生物学的活性、特に第VIII因子に結合する能力を有する任意のポリペプチドを指す。野生型VWFをコードする遺伝子は、推定分子量310000Daを有する2813アミノ酸のプレ−プロポリペプチドに翻訳される9kbのmRNAに転写される。プレ−プロポリペプチドは、22アミノ酸のシグナルペプチド、741アミノ酸のプロ−ポリペプチドおよび成熟サブユニットを含む。N末端からの741アミノ酸のプロポリペプチドの切断は、2050アミノ酸からなる成熟VWFを生じる。VWFプレ−プロポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号2に示す。特に指示しない限り、本明細書におけるVWF残基のアミノ酸の番号付けは、VWF分子が配列番号2のすべての残基を含む必要がない場合であっても、配列番号2を参照する。成熟VWFのアミノ酸配列を配列番号
4に示す。本明細書で使用される「VWF」という用語は、特に指示しない限り、VWFの成熟形態を指す。
【0022】
野生型VWFのプロポリペプチドは、以下の順序で配置された複数のドメインを含む:
D1−D2−D’−D3−A1−A2−A3−D4−B1−B2−B3−C1−C2−CK
【0023】
D1およびD2ドメインは、切断されて成熟VWFを生じるプロペプチドを表す。D’−D3ドメインは、第VIII因子との結合を担うアミノ酸を包含する。野生型VWFのD’−D3ドメインの少なくとも一部のアミノ酸配列を配列番号3に示す。カルボキシ末端90残基は、タンパク質の「システインノット」スーパーファミリーと相同である「CK」ドメインを含む。これらのファミリーメンバーは、ジスルフィド結合を通して二量体化する傾向がある。
【0024】
好ましくは、野生型VWFは、配列番号
4に示される成熟VWFのアミノ酸配列を含む。また、VWFの生物学的活性、特にFVIIIに結合する能力が保持されている限り、VWFの付加、挿入、N末端、C末端または内部欠失も包含される。欠失を有するVWFが野生型VWFの生物学的活性の少なくとも10%、好ましくは少なくとも25%、より好ましくは少なくとも50%、最も好ましくは少なくとも75%を保持する場合、生物学的活性は本発明の意味において保持される。野生型VWFの生物学的活性は、リストセチン補因子活性のための方法(Federici ABら2004.Haematologica 89:77〜85)、VWFと血小板糖タンパク質複合体Ib−V−IXのGP Ibαの結合(Suckerら2006 Clin Appl Thromb Hemost.12:305〜310)またはコラーゲン結合アッセイ(Kallas&Talpsep.2001.Annals of Hematology 80:466〜471)を用いることによって、当業者により決定され得る。VWFの生物学的活性がFVIIIに結合する能力である場合、これをいくつかの方法で測定することができるが、好ましくは本明細書の例1に記載されるように測定する。
【0025】
第VIII因子
「血液凝固第VIII因子」、「第VIII因子」および「FVIII」という用語は、本明細書において互換的に使用される。「血液凝固第VIII因子」は、野生型血液凝固FVIIIならびに野生型血液凝固FVIIIの凝血促進活性を有する野生型血液凝固FVIIIの誘導体を含む。誘導体は、野生型FVIIIのアミノ酸配列と比較して、欠失、挿入および/または付加を有し得る。FVIIIという用語は、FVIIIのタンパク質分解的にプロセシングされた形態、例えば重鎖および軽鎖を含む活性化前の形態を含む。Bドメイン欠失FVIIIを含む、血漿由来および組換えFVIIIが含まれる。市販製品の例としては、Advate(登録商標)、Kogenate(登録商標)、Xyntha(登録商標)、Loctate(登録商標)およびNovoeight(登録商標)が挙げられる。
【0026】
「FVIII」という用語は、野生型第VIII因子の生物学的活性の少なくとも25%、より好ましくは少なくとも50%、最も好ましくは少なくとも75%を有する任意のFVIII変異体または突然変異体を含む。
【0027】
非限定的な例として、FVIII分子は、APC切断を防止するまたは減少させるFVIII突然変異体(Amano 1998.Thromb.Haemost.79:557〜563)、A2ドメインをさらに安定化するFVIII突然変異体(国際公開第97/40145号パンフレット)、発現が増加したFVIII突然変異体(Swaroopら1997.JBC 272:24121〜24124)、免疫原性が低下したFVIII突然変異体(Lollar 1999.Thromb.Haemost.82:505〜508)、異なって発現した重鎖および軽鎖から再構成されたFVIII(Ohら、1999.Exp.Mol.Med.31:95〜100)、FVIII様HSPG(ヘパラン硫酸プロテオグリカン)および/またはLRP(低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質)の異化をもたらす受容体との結合が減少したFVIII突然変異体(Ananyevaら2001.TCM、11:251〜257)、ジスルフィド結合安定化FVIII変異体(Galeら、2006.J.Thromb.Hemost.4:1315〜1322)、分泌特性が改善したFVIII突然変異体(Miaoら、2004:Blood 103:3412〜3419)、補因子比活性が増加したFVIII突然変異体(Wakabayashiら、2005.Biochemistry 44:10298〜304)、生合成および分泌が改善し、ERシャペロン相互作用が減少し、ER−ゴルジ輸送が改善し、活性化または不活性化に対する耐性が増加し、半減期が改善したFVIII突然変異体(Pipe 2004.Sem.Thromb.Hemost.30:227〜237)が挙げられる。別の特に好ましい例は、Zollnerら、2013、Thrombosis Research、132:280〜287に記載される組換え型のFVIIIである。これらのFVIII突然変異体および変異体の全ては、全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0028】
好ましくは、FVIIIが配列番号14に示されるFVIIIの全長配列を含む。また、FVIIIの生物学的活性が保持されている限り、FVIIIの付加、挿入、置換、N末端、C末端または内部欠失も包含される。改変を有するFVIIIが野生型FVIIIの生物学的活性の少なくとも10%、好ましくは少なくとも25%、より好ましくは少なくとも50%、最も好ましくは少なくとも75%を保持する場合、生物学的活性は本発明の意味において保持される。FVIIIの生物学的活性は、以下に記載されるように当業者によって決定され得る。
【0029】
FVIIIの生物学的活性を決定するための適切な試験は、例えば、一段階もしくは二段階凝固アッセイ(Rizzaら1982.Coagulation assay of FVIII:C and FIXa in Bloom ed.The Hemophilias.NY Churchchill Livingston 1992)または発色基質FVIII:Cアッセイ(S.Rosen、1984.Scand J Haematol 33:139〜145、補遺)である。これらの参考文献の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0030】
ヒト血液凝固FVIIIの成熟野生型形態のアミノ酸配列を配列番号14に示す。特定の配列のアミノ酸位置への言及は、FVIII野生型タンパク質における前記アミノ酸の位置を意味し、言及される配列中の他の位置の突然変異、例えば欠失、挿入および/または置換の存在を排除しない。例えば、配列番号14を参照する「Glu2004」における突然変異は、改変ホモログにおいて配列番号14の1位〜2332位の1個または複数のアミノ酸が欠けていることを除外しない。
【0031】
上記の定義内の「FVIII」および/または「VWF」にはまた、ある個体から別の個体に存在し、発生し得る天然対立遺伝子変異も含まれる。上記の定義内の「FVIII」および/または「VWF」にはさらに、FVIIIおよび/またはVWFの変異体が含まれる。このような変異体は、野生型配列とは1つまたは複数のアミノ酸残基が異なる。このような違いの例としては、保存的アミノ酸置換、すなわち類似の特徴を有するアミノ酸の群、例えば(1)小型アミノ酸、(2)酸性アミノ酸、(3)極性アミノ酸、(4)塩基性アミノ酸、(5)疎水性アミノ酸、および(6)芳香族アミノ酸の中の置換が挙げられ得る。このような保存的置換の例を表1に示す。
【表1】
【0032】
改変VWF
本発明の改変VWFは、野生型VWFのアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列を有する。本発明によると、改変VWFは、配列番号3に示される野生型VWFのD’−D3ドメインのアミノ酸配列と比較して、D’−D3ドメイン内に少なくとも1つのアミノ酸置換を有する。
【0033】
改変VWFのD’−D3ドメインのアミノ酸配列は、配列番号3に対して1つまたは複数のアミノ酸置換を有することができる。改変VWFのD’−D3ドメインのアミノ酸配列は、好ましくは配列番号3に対して1つまたは2つまたは3つのアミノ酸置換を有する。
【0034】
改変VWFが、配列番号3の320位の改変を含むことが好ましい。この位置のVがAで置換されていることも好ましい。さらに好ましい形態では、改変VWFが、320位の改変に加えて、配列番号3の1位および/または3位、好ましくは1位と3位の両方でも改変されている。
【0035】
配列番号3の1位のSが、G、P、V、E、Y、AおよびLからなる群から選択されるアミノ酸で置換されていることが好ましい。
【0036】
配列番号3の3位のSが、Y、I、M、V、F、H、RおよびWからなる群から選択されるアミノ酸で置換されていることも好ましい。
【0037】
好ましい置換の組合せには、S764P/S766W/V1083A、S764G/S766Y/V1083A、S764E/S766Y/V1083A、N1011S/V1083A/K1181E、S766Y/V1083A、V805/Q1158LおよびK912E/T1088Sが含まれる。
【0038】
本発明の一態様によると、FVIIIに対する本発明のポリペプチドの結合親和性は、配列番号3の改変を除いて同じアミノ酸配列を有する参照ポリペプチドの結合親和性よりも高い。
【0039】
第VIII因子分子に対するVWF分子の結合親和性は、当技術分野で用いられる結合アッセイによって決定することができる。例えば、VWF分子を固体支持体上に固定化し、増加する濃度の第VIII因子を適用し、一定時間インキュベートし、洗浄後、結合した第VIII因子を発色アッセイで決定する。次いで、親和定数または解離定数を、スキャチャード解析または別の適切な方法によって決定することができる。フォン・ヴィレブランド因子に対するヒト第VIII因子の結合親和性を決定する方法は、Vlotら(1995)、Blood、第85巻、第11号、3150〜3157に記載されている。しかしながら、好ましくは、第VIII因子に対するVWFの親和性を本出願の例1に記載されるように決定する。
【0040】
解離定数を含む親和性の本明細書中のいかなる指標も、好ましくは、本発明の改変VWFまたは本発明のポリペプチドとFVIIIの結合を指す。FVIIIの一本鎖のアミノ酸配列を配列番号14に示す。
【0041】
VWFとFVIIIの相互作用は、典型的には高い結合速度を有するので、解離定数の変化は解離速度の変化に大きく依存する。したがって、VWFとFVIIIの会合を増加させることにおける主な焦点は、FVIIIとVWFの間の解離速度を低下させる努力を伴う。好ましくは、野生型VWFとFVIIIと比較した改変VWFとFVIIIの解離速度が、少なくとも2倍低い、より好ましくは少なくとも5倍低い、好ましくは少なくとも10倍低い、より好ましくは少なくとも20倍低い。
【0042】
VWFとFVIIIからなる複合体の解離定数は、好ましくは0.2nmol/L以下、より好ましくは0.175nmol/L以下、より好ましくは0.15nmol/L以下、より好ましくは0.125nmol/L以下、より好ましくは0.1nmol/L以下、より好ましくは0.05nmol/L以下、最も好ましくは0.01nmol/L以下である。
【0043】
本発明のポリペプチドと配列番号14の第VIII因子の複合体の解離定数KDは、典型的には、参照ポリペプチド(例えば、配列番号4のポリペプチド)と配列番号14の第VIII因子の複合体の解離定数KDの90%未満である。本発明のポリペプチドと配列番号14の第VIII因子の複合体の解離定数KDは、参照ポリペプチド(例えば、配列番号4のポリペプチド)と配列番号14の第VIII因子の複合体の解離定数KDの、好ましくは75%未満、より好ましくは50%未満、より好ましくは25%未満、より好ましくは10%未満である、より好ましくは5%未満である。
【0044】
参照ポリペプチドは、そのアミノ酸配列が、VWFのD’−D3ドメイン内の突然変異を除いて、本発明のポリペプチドの配列と同一であるポリペプチドである。すなわち、参照ポリペプチドは、好ましくは、本発明のポリペプチドと同一のアミノ酸配列を有するが、但し、参照ポリペプチド中のD’−D3ドメインは、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる。換言すれば、本発明のポリペプチドと参照ポリペプチドの間の配列の唯一の違いは、D’−D3ドメインのアミノ酸配列にある。参照ポリペプチドは、好ましくは、本発明のポリペプチドと同じ条件下で調製されている。
【0045】
半減期延長部分
本発明のポリペプチドは、改変VWFからなっていてもよい。別の実施形態では、本発明のポリペプチドが、半減期延長部分をさらに含み得る。半減期延長部分は、切断されたVWFと融合した異種アミノ酸配列であり得る。あるいは、半減期延長部分は、ペプチド結合とは異なる共有結合によって、切断されたVWFを含むポリペプチドと化学的に結合していてもよい。
【0046】
本発明の一定の実施形態では、本発明のポリペプチドの半減期が、化学修飾、例えばポリエチレングリコール(PEG化)、グリコシル化PEG、ヒドロキシエチルデンプン(HES化)、ポリシアル酸、エラスチン様ポリペプチド、ヘパロサンポリマーまたはヒアルロン酸などの半減期延長部分の結合によって延長される。別の実施形態では、本発明のポリペプチドが、化学リンカーを介してアルブミンなどのHLEPとコンジュゲートしている。このコンジュゲーション技術の原理は、Conjuchem LLC(例えば、米国特許第7256253号明細書参照)によって例示的様式で記載されている。
【0047】
半減期増強ポリペプチド(HLEP)
好ましくは、半減期延長部分が半減期延長ポリペプチド(HLEP)であり、より好ましくは、HLEPがアルブミンまたはその断片、免疫グロブリン定常領域およびその部分、例えばFc断片、大きな流体力学体積を有する溶媒和ランダム鎖(例えば、XTEN(Schellenbergerら2009;Nature Biotechnol.27:1186〜1190)、ホモアミノ酸リピート(HAP)またはプロリンアラニンセリンリピート(PAS)、アファミン(afamin)、α−フェトプロテイン、ビタミンD結合タンパク質、トランスフェリンまたはその変異体、ヒト絨毛性ゴナドトロピン−βサブユニットのカルボキシル末端ペプチド(CTP)、生理条件下でアルブミンまたは免疫グロブリン定常領域に結合することができるポリペプチドまたは脂質から選択される。
【0048】
本明細書で使用される「半減期増強ポリペプチド」は、好ましくは、アルブミン、アルブミンファミリーのメンバー、免疫グロブリンGの定常領域およびその断片、生理条件下でアルブミン、アルブミンファミリーのメンバーおよび免疫グロブリン定常領域の一部に結合することができる領域およびポリペプチドからなる群から選択される。これは、本明細書に記載される全長半減期増強タンパク質(例えば、アルブミン、アルブミンファミリーのメンバーまたは免疫グロブリンGの定常領域)あるいは凝固因子の治療活性または生物学的活性を安定化または延長することができるその1つまたは複数の断片であり得る。HLEP断片がHLEPなしのそれぞれのポリペプチドと比較して少なくとも25%の機能的半減期延長を提供する限り、このような断片は10以上のアミノ酸長であってもよく、または少なくとも約15、少なくとも約20、少なくとも約25、少なくとも約30、少なくとも約50、少なくとも約100、もしくはそれ以上の連続のHLEP配列からのアミノ酸を含んでもよく、またはそれぞれのHLEPの特定のドメインの一部または全部を含んでもよい。
【0049】
本発明のポリペプチドのHLEP部分は、野生型HLEPの変異体であってもよい。「変異体」という用語は、保存的または非保存的のいずれかの挿入、欠失および置換を含み、このような変化は切断されたVWFのFVIII結合活性を実質的に変化させない。
【0050】
特に、本発明の提案されるVWF HLEP融合構築物は、HLEPの天然多型変異体およびHLEPの断片を含み得る。HLEPは、任意の脊椎動物、特に任意の哺乳動物、例えばヒト、サル、ウシ、ヒツジまたはブタに由来し得る。非哺乳動物HLEPには、それだけに限らないが、メンドリおよびサケが含まれる。
【0051】
一実施形態では、ポリペプチドが以下の構造を有する:
mVWF−L1−H、[式1]
(式中、mVWFは改変VWFであり、L1は化学結合またはリンカー配列であり、HはHLEPである)。
【0052】
L1は、互いに等しくても異なっていてもよい1個または複数のアミノ酸、例えば1〜50、1〜30、1〜20、1〜15、1〜10、1〜5または1〜3(例えば、1、2もしくは3)個のアミノ酸からなる化学結合またはリンカー配列であり得る。通常、リンカー配列は野生型VWFの対応する位置には存在しない。L1に存在する適切なアミノ酸の例としては、GlyおよびSerが挙げられる。リンカーは非免疫原性であるべきであり、切断不能なリンカーであっても、切断可能なリンカーであってもよい。切断不能なリンカーは、国際公開第2007/090584号パンフレットに例示されるように、交互のグリシンおよびセリン残基で構成され得る。本発明の別の実施形態では、切断されたVWF部分とアルブミン部分との間のペプチドリンカーが、ヒトタンパク質の天然のドメイン間リンカーとして働くペプチド配列からなる。好ましくは、その自然の環境におけるこのようなペプチド配列は、この配列に対する自然な耐性を想定することができるように、タンパク質表面に近接して位置し、免疫系に接近可能である。例は国際公開第2007/090584号パンフレットに示されている。切断可能なリンカー配列は、例えば国際公開第2013/120939号パンフレットに記載されている。
【0053】
好ましいHLEP配列は以下に記載される。同様に、それぞれのHLEPの正確な「N末端アミノ酸」もしくは正確な「C末端アミノ酸」との融合体、またはHLEPの1個もしくは複数のアミノ酸のN末端欠失を含むそれぞれのHLEPの「N末端部分」もしくは「C末端部分」との融合体も本発明に包含される。ポリペプチドは2つ以上のHLEP配列、例えば2つまたは3つのHLEP配列を含み得る。これらの複数のHLEP配列を、直列に、例えば逐次反復としてVWFのC末端部分に融合することができる。
【0054】
HLEPとしてのアルブミン
「ヒト血清アルブミン」(HSA)および「ヒトアルブミン」(HA)および「アルブミン」(ALB)という用語は、本出願において互換的に使用される。「アルブミン」および「血清アルブミン」という用語はより広く、ヒト血清アルブミン(およびその断片および変異体)ならびに他の種のアルブミン(およびその断片および変異体)を包含する。
【0055】
本明細書で使用される場合、「アルブミン」は、アルブミンの1つまたは複数の機能的活性(例えば、生物学的活性)を有する、アルブミンポリペプチドもしくはアミノ酸配列、またはアルブミン断片もしくは変異体を総称する。特に、「アルブミン」は、ヒトアルブミンもしくはその断片、特に本明細書中で配列番号16として示されるヒトアルブミンの成熟形態、または他の脊椎動物のアルブミンもしくはその断片、またはこれらの分子もしくはその断片の類似体もしくは変異体を指す。
【0056】
特に、本発明の提案されるポリペプチドは、ヒトアルブミンの天然および非天然の多型変異体ならびにヒトアルブミンの断片を含み得る。一般的に言うと、アルブミン断片または変異体は、少なくとも10アミノ酸長、好ましくは少なくとも40アミノ酸長、最も好ましくは70アミノ酸長超である。
【0057】
本発明の好ましい実施形態には、FcRn受容体への結合が増強された本発明のポリペプチドのHLEPとして使用されるアルブミン変異体が含まれる。このようなアルブミン変異体は、野生型アルブミンとの切断されたVWF融合体と比較して長い切断されたVWFアルブミン変異体融合タンパク質の血漿半減期をもたらし得る。変異体には、その開示が相互参照により組み込まれる国際公開第2014072481号パンフレット、国際公開第2012150319号パンフレット、国際公開第2013135896号パンフレット、国際公開第2011124718号パンフレット、国際公開第2011051489号パンフレットおよび国際公開第2012059486号パンフレットに記載されるものが含まれる。
【0058】
本発明のポリペプチドのアルブミン部分は、HAまたはその保存的改変の少なくとも1つのサブドメインまたはドメインを含み得る。
【0059】
HLEPとしての免疫グロブリン
免疫グロブリンG(IgG)定常領域(Fc)は、治療用タンパク質の半減期を増加させることが当技術分野において知られている(Dumont J Aら2006、BioDrugs 20:151〜160)。重鎖のIgG定常領域は、3つのドメイン(CH1〜CH3)およびヒンジ領域からなる。免疫グロブリン配列は、任意の哺乳動物由来、またはそれぞれサブクラスIgG1、IgG2、IgG3もしくはIgG4由来であり得る。抗原結合ドメインを含まないIgGおよびIgG断片もHLEPとして使用され得る。治療用ポリペプチド部分は、好ましくは切断可能でさえあり得る抗体のヒンジ領域またはペプチドリンカーを介してIgGまたはIgG断片に連結される。いくつかの特許および特許出願は、治療用タンパク質のインビボ半減期を増強するための治療用タンパク質と免疫グロブリン定常領域の融合を記載している。米国特許出願公開第2004/0087778号明細書および国際公開第2005/001025号パンフレットは、インビボで迅速に排除される、Fcドメインまたは免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部と、ペプチドの半減期を増加させる生物学的に活性なペプチドの融合タンパク質を記載している。生物学的活性増強、循環半減期の延長およびより高い溶解度を達成したFc−IFN−β融合タンパク質が記載された(国際公開第2006/000448号パンフレット)。血清半減期が延長し、インビボ効力が増加したFc−EPOタンパク質(国際公開第2005/063808号パンフレット)、ならびに全て半減期増強特性を有するG−CSF(国際公開第2003/076567号パンフレット)、グルカゴン様ペプチド−1(国際公開第2005/000892号パンフレット)、凝固因子(国際公開第2004/101740号パンフレット)およびインターロイキン−10(米国特許第6403077号明細書)とのFc融合体が開示された。
【0060】
本発明により使用することができる種々のHLEPは、その開示が相互参照により本明細書に含まれる国際公開第2013/120939号パンフレットに詳細に記載されている。
【0061】
リンカー配列
本発明によると、治療用ポリペプチド部分を、ペプチドリンカーによってHLEP部分に結合させることができる。リンカーは非免疫原性であるべきであり、切断不能なリンカーであっても、切断可能なリンカーであってもよい。
【0062】
切断不能なリンカーは、国際公開第2007/090584号パンフレットに例示されるように、交互のグリシンおよびセリン残基で構成され得る。
【0063】
本発明の別の実施形態では、VWF部分とアルブミン部分との間のペプチドリンカーが、ヒトタンパク質の天然のドメイン間リンカーとして働くペプチド配列からなる。好ましくは、その自然の環境におけるこのようなペプチド配列は、この配列に対する自然な耐性を想定することができるように、タンパク質表面に近接して位置し、免疫系に接近可能である。例は国際公開第2007/090584号パンフレットに示されている。
【0064】
切断可能なリンカーは、プロテアーゼによる切断を可能にするのに十分に柔軟でなければならない。好ましい実施形態では、融合タンパク質が改変FVIIIである場合、リンカーの切断が融合タンパク質内のFVIIIの活性化と同程度に速く進行する。
【0065】
切断可能なリンカーは、好ましくは、
(a)治療用ポリペプチドの活性化の間にタンパク質分解的に切断されるタンパク質分解性切断部位を含む場合、投与される治療用ポリペプチド自体、
(b)治療用ポリペプチドの関与により活性化もしくは形成されるプロテアーゼによって切断される基質ポリペプチド、または
(c)凝固もしくは線維素溶解に関与するポリペプチド
に由来する配列を含む。
【0066】
より好ましい実施形態では、リンカー領域が、発現された融合タンパク質の新生抗原特性のリスクを低下させるはずであるVWFの配列を含む。
【0067】
リンカーペプチドは、好ましくは凝固系のプロテアーゼ、例えばFIIa、FIXa、FXa、FXIa、FXIIaおよびFVIIaによって切断可能である。
【0068】
治療用ポリペプチド、切断可能なリンカーおよびHLEPの代表的な組合せには、国際公開第2007/090584号パンフレット(例えば表2および
図4)および国際公開第2007/144173号パンフレット(例えば表3aおよび3b)に列挙される構築物が含まれるが、これらに限定されない。
【0069】
別の実施形態では、本発明のポリペプチドまたは本発明のポリペプチドと複合体化したFVIIIの機能的半減期が、野生型VWFの機能的半減期もしくは野生型VWFと複合体化したFVIIIの機能的半減期、または上で定義される参照ポリペプチドと比較して延長されている。増加は15%以上、例えば少なくとも20%または少なくとも50%であり得る。また、このような機能的半減期値は、改変VWFまたはFVIIIと改変VWFの複合体を投与した後に、前記哺乳動物から異なる時間間隔で採取された血液試料においてインビトロで測定することができる。
【0070】
本発明の別の実施形態では、本発明のポリペプチドまたは本発明のポリペプチドと複合体化したFVIIIが、野生型VWFもしくは野生型VWFと複合体化したFVIII、または上で定義される参照ポリペプチドと比較して改善されたインビボ回収率を示す。インビボ回収率は、例えば正常動物または血友病Aの動物モデル、例えばFVIIIノックアウトマウスにおいてインビボで決定することができ、対応する野生型VWFまたは上で定義される参照ポリペプチドと比較して、静脈内投与直後(5〜10分)に循環中の抗原または活性アッセイによってFVIIIの割合増加が見られると予想される。
【0071】
インビボ回収率は、好ましくは、野生型VWFと複合体化したFVIIIまたは上で定義される参照ポリペプチドと比較して、少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20%、さらにより好ましくは少なくとも40%増加する。
【0072】
ポリヌクレオチド
本発明はさらに、本出願に記載されているように、改変VWFまたは前記改変VWFを含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに関する。「1個または複数のポリヌクレオチド」という用語は、一般に、未改変RNAもしくはDNAまたは改変RNAもしくはDNAであり得る任意のポリリボヌクレオチドまたはポリデオキシリボヌクレオチドを指す。ポリヌクレオチドは一本鎖または二本鎖DNA、一本鎖または二本鎖RNAであり得る。本明細書で使用される場合、「1個または複数のポリヌクレオチド」という用語はまた、1個または複数の改変塩基および/または異常塩基(イノシンなど)を含むDNAまたはRNAも含む。当業者に公知の多くの有用な目的を果たす種々の改変をDNAおよびRNAに対して行うことができることが認識されるであろう。「1個または複数のポリヌクレオチド」という用語は、本明細書で使用される場合、ポリヌクレオチドの化学的、酵素的または代謝的に改変された形態、ならびに例えば単純および複雑な細胞を含むウイルスおよび細胞に特有のDNAおよびRNAの化学的形態を包含する。
【0073】
当業者であれば、遺伝暗号の縮重のために、所与のポリペプチドが異なるポリヌクレオチドによってコードされ得ることを理解するであろう。これらの「変異体」は、本発明に包含される。
【0074】
好ましくは、本発明のポリヌクレオチドは、単離されたポリヌクレオチドである。「単離された」ポリヌクレオチドという用語は、それだけに限らないが、他の染色体および染色体外のDNAおよびRNAなどの他の核酸配列を実質的に含まないポリヌクレオチドを指す。単離されたポリヌクレオチドは、宿主細胞から精製され得る。当業者に公知の慣用的な核酸精製方法を使用して、単離されたポリヌクレオチドを得ることができる。この用語は、組換えポリヌクレオチドおよび化学的に合成されたポリヌクレオチドも含む。
【0075】
本発明はさらに、本発明の改変VWFまたは改変VWFを含む本発明のポリペプチドを共にコードするポリヌクレオチドの群に関する。群中の第1のポリヌクレオチドは、改変VWFのN末端部分をコードし得、第2のポリヌクレオチドは、改変VWFのC末端部分をコードし得る。
【0076】
本発明のさらに別の態様は、本発明によるポリヌクレオチドを含むプラスミドまたはベクターである。好ましくは、プラスミドまたはベクターが発現ベクターである。特定の実施形態では、ベクターが、ヒト遺伝子治療に使用するための導入ベクターである。
【0077】
本発明はまた、上記のポリヌクレオチド群を含むプラスミドまたはベクターの群に関する。第1のプラスミドまたはベクターは前記第1のポリヌクレオチドを含み得、第2のプラスミドまたはベクターは前記第2のポリヌクレオチドを含み得る。あるいは、2つの別個のプロモーター配列または1つのプロモーターおよび成熟VWFの産生を増強するために例えばフリンの発現を指示するために使用され得る配列内リボソーム進入部位(IRES)エレメントを使用して、両方のコード配列を1つの発現ベクターにクローニングする。
【0078】
本発明のさらに別の態様は、本発明のポリヌクレオチド、プラスミドまたはベクター、あるいは本明細書に記載されるポリヌクレオチドの群またはプラスミドもしくはベクターの群を含む宿主細胞である。
【0079】
本発明の宿主細胞は、本発明の一部である、改変VWFまたは前記改変VWFを含むポリペプチドを生成する方法に使用することができる。この方法は、
(a)本発明の宿主細胞を、所望の改変タンパク質が発現されるような条件下で培養するステップと;
(b)場合により、所望の改変タンパク質を宿主細胞または培養培地から回収するステップと
を含む。
【0080】
本発明の改変VWFまたは改変VWFを含むポリペプチドを80%以上の純度、より好ましくは95%以上の純度に精製することが好ましく、混入している巨大分子、特に他のタンパク質および核酸に関して99.9%超の純度であり、感染性および発熱性物質を含まない薬学的に純粋な状態が特に好ましい。好ましくは、本発明の単離もしくは精製された改変VWFまたは本発明のポリペプチドは、他の非関連ポリペプチドを実質的に含まない。
【0081】
本発明の種々の生成物は医薬品として有用である。したがって、本発明は、本明細書に記載される改変VWFもしくは前記改変VWFを含むポリペプチド、本発明のポリヌクレオチド、または本発明のプラスミドもしくはベクターを含む医薬組成物に関する。
【0082】
本発明はまた、血友病AもしくはBまたはVWDなどの血液凝固障害を患っている個体を治療する方法に関する。本方法は、有効量の本明細書に記載される(i)FVIIIおよび改変VWFもしくは改変VWFを含むポリペプチドまたは(ii)FVIIIと改変VWFの複合体、または(iii)FVIIIと改変VWFを含むポリペプチドの複合体を前記個体に投与するステップを含む。別の実施形態では、本方法は、有効量の本発明のポリヌクレオチドまたは本発明のプラスミドもしくはベクターを個体に投与するステップを含む。あるいは、本方法は、有効量の本明細書に記載される本発明の宿主細胞を個体に投与するステップを含み得る。
【0083】
改変ポリペプチドの発現
適切な宿主細胞中での高レベルでの組換え突然変異タンパク質の生成には、上記改変ポリヌクレオチド、典型的にはcDNAの、当業者に公知の方法により種々の発現系で増殖させることができる組換え発現ベクター中での適切な調節エレメントと合わせた効率的な転写単位への組み立てが必要である。効率的な転写調節エレメントは、それらの天然宿主としての動物細胞を有するウイルスから、または動物細胞の染色体DNAから誘導され得る。好ましくは、シミアンウイルス40、アデノウイルス、BKポリオーマウイルス、ヒトサイトメガロウイルスもしくはラウス肉腫ウイルスの長い末端反復に由来するプロモーター−エンハンサーの組合せ、またはβ−アクチンもしくはGRP78などの動物細胞における強力に構成的に転写される遺伝子を含むプロモーター−エンハンサーの組合せを使用することができる。cDNAから転写される安定な高レベルのmRNAを達成するために、転写単位は、その3’近位部分に、転写終止ポリアデニル化配列をコードするDNA領域を含むべきである。好ましくは、この配列は、シミアンウイルス40初期転写領域、ウサギβグロビン遺伝子、またはヒト組織プラスミノーゲンアクチベーター遺伝子に由来する。
【0084】
次いで、cDNAを改変FVIIIおよび/またはVWFタンパク質の発現のための適切な宿主細胞株のゲノムに組み込む。好ましくは、正しい折り畳み、ジスルフィド結合形成、アスパラギン結合グリコシル化および他の翻訳後修飾ならびに培養培地への分泌を確実にするために、この細胞株は脊椎動物起源の動物細胞株であるべきである。他の翻訳後修飾の例は、新生ポリペプチド鎖のチロシンO−硫酸化およびタンパク質分解プロセシングである。使用することができる細胞株の例は、サルCOS細胞、マウスL細胞、マウスC127細胞、ハムスターBHK−21細胞、ヒト胚腎臓293細胞およびハムスターCHO細胞である。
【0085】
対応するcDNAをコードする組換え発現ベクターを、いくつかの異なる方法で動物細胞株に導入することができる。例えば、組換え発現ベクターを、異なる動物ウイルスに基づくベクターから作製することができる。これらの例は、バキュロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、好ましくはウシパピローマウイルスに基づくベクターである。
【0086】
対応するDNAをコードする転写単位を、組換えDNAをそのゲノムに組み込んだ特定の細胞クローンの単離を容易にするために、これらの細胞において優性選択マーカーとして機能し得る別の組換え遺伝子と共に動物細胞に導入することもできる。このタイプの優性選択マーカー遺伝子の例は、ゲンタマイシン耐性(G418)を付与するTn5アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ、ハイグロマイシン耐性を付与するハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ、およびピューロマイシン耐性を付与するピューロマイシンアセチルトランスフェラーゼである。このような選択マーカーをコードする組換え発現ベクターは、所望のタンパク質のcDNAをコードするベクターと同じベクター上に存在することができる、または宿主細胞のゲノムに同時に導入され、組み込まれる別個のベクター上にコードされ、しばしば異なる転写単位間の緊密な物理的結合をもたらし得る。
【0087】
所望のタンパク質のcDNAと共に使用することができる他のタイプの選択マーカー遺伝子は、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(dhfr)をコードする種々の転写単位に基づく。内因性dhfr活性を欠く細胞、好ましくはCHO細胞(DUKX−B11、DG−44)にこのタイプの遺伝子を導入した後、これらをヌクレオシド欠損培地で増殖させることが可能である。このような培地の例は、ヒポキサンチン、チミジンおよびグリシンを含まないHam’s F12である。これらのdhfr遺伝子を、FVIII cDNA転写単位と共に、同じベクター上または異なるベクター上に連結された上記のタイプのCHO細胞に導入し、組換えタンパク質を産生するdhfr陽性細胞株を作製することができる。
【0088】
上記細胞株を細胞傷害性dhfr阻害剤メトトレキサートの存在下で増殖させると、メトトレキサートに耐性のある新しい細胞株が出現するだろう。これらの細胞株は、増幅した数の連結dhfrおよび所望のタンパク質の転写単位のために、増加した速度で組換えタンパク質を産生し得る。これらの細胞株を増加する濃度のメトトレキサート(1〜10000nM)で増殖させると、非常に高い速度で所望のタンパク質を産生する新しい細胞株を得ることができる。
【0089】
所望のタンパク質を産生する上記の細胞株を、懸濁培養または種々の固体支持体のいずれかで大規模に増殖させることができる。これらの支持体の例は、デキストランもしくはコラーゲンマトリックスに基づくマイクロキャリア、または中空繊維もしくは種々のセラミック材料の形態の固体支持体である。細胞懸濁培養またはマイクロキャリア上で増殖させる場合、上記細胞株の培養を、槽培養として、または長期間にわたる馴化培地の連続生産による灌流培養として行うことができる。したがって、本発明によると、上記細胞株は、所望の組換え突然変異タンパク質を生成するための工業プロセスの開発に非常に適している。
【0090】
精製および製剤
上記のタイプの分泌細胞の培地中に蓄積する組換え改変VWFタンパク質を、細胞培養培地中の所望のタンパク質と他の物質との間のサイズ、電荷、疎水性、溶解性、特異的親和性等の差異を利用する方法を含む種々の生化学的およびクロマトグラフィー方法によって濃縮および精製することができる。
【0091】
このような精製の一例は、組換え突然変異タンパク質のモノクローナル抗体への、例えば、HLEP、好ましくはヒトアルブミンに向けられた、または固体支持体上に固定化されたそれぞれの凝固因子に向けられた吸着である。改変VWFの支持体への吸着、洗浄および脱着の後、タンパク質を、上記の特性に基づいて種々のクロマトグラフィー技術によってさらに精製することができる。
【0092】
精製ステップの順序は、例えば、ステップの能力および選択性、支持体の安定性または他の側面によって選択される。好ましい精製ステップには、それだけに限らないが、イオン交換クロマトグラフィーステップ、免疫アフィニティークロマトグラフィーステップ、アフィニティークロマトグラフィーステップ、疎水性相互作用クロマトグラフィーステップ、色素クロマトグラフィーステップ、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーステップ、マルチモードクロマトグラフィー(multimodal chromatography)ステップおよびサイズ排除クロマトグラフィーステップが含まれる。
【0093】
ウイルス汚染の理論上のリスクを最小化するために、ウイルスの有効な不活性化または排除を提供する追加のステップをプロセスに含めることができる。このようなステップは、例えば、液体または固体状態での熱処理、溶媒および/または界面活性剤による処理、可視またはUVスペクトルの放射線、γ線照射、あるいはナノ濾過である。
【0094】
本発明の改変ポリヌクレオチド(例えば、DNA)を、ヒト遺伝子治療における使用のための導入ベクターに組み込んでもよい。
【0095】
本明細書に記載される種々の実施形態を互いに組み合わせることができる。本発明をその以下の例においてさらに詳細に記載する。本発明の特定の実施形態のこの説明は、添付の図面と関連して行う。
【0096】
本発明に記載される改変VWFを、治療的使用のために医薬製剤に製剤化することができる。精製タンパク質を、慣用的な生理学的に適合性の水性緩衝液に溶解してもよく、場合により、これに医薬賦形剤を添加して医薬製剤を得てもよい。
【0097】
このような医薬担体および賦形剤、ならびに適切な医薬製剤は、当技術分野で周知である(例えば、「Pharmaceutical Formulation Development of Peptides and Proteins」、Frokjaerら、Taylor&Francis(2000)または「Handbook of Pharmaceutical Excipients」、第3版、Kibbeら、Pharmaceutical Press(2000)参照)。標準的な医薬製剤技術は、当業者に周知である(例えば、2005 Physicians’Desk Reference(登録商標)、Thomson Healthcare:Montvale、NJ、2004;Remington:The Science and Practice of Pharmacy、第20版、Gennaroら、Lipsincott Williams&Wilkins編:Philadelphia、PA、2000参照)。特に、本発明のポリペプチド変異体を含む医薬組成物は、凍結乾燥形態または安定な液体形態に製剤化され得る。ポリペプチド変異体は、当技術分野で公知の種々の手順によって凍結乾燥することができる。凍結乾燥製剤は、注射のための滅菌水または滅菌生理食塩水などの1種または複数の薬学的に許容される希釈剤の添加によって、使用前に再構成される。
【0098】
組成物の製剤は、任意の薬学的に適切な投与手段によって個体に送達される。種々の送達系が知られており、任意の簡便な経路によって組成物を投与するために使用することができる。好ましくは、本発明の組成物を全身投与する。全身的使用のために、本発明のタンパク質を、慣用的な方法によって非経口(例えば、静脈内、皮下、筋肉内、腹腔内、脳内、肺内、鼻腔内もしくは経皮)または経腸(例えば、経口、膣もしくは直腸)送達用に製剤化する。最も優先的な投与経路は、静脈内投与および皮下投与である。製剤は、注入またはボーラス注射によって連続的に投与することができる。いくつかの製剤は徐放系を包含する。
【0099】
本発明のタンパク質は、治療上有効用量(耐え難い有害な副作用を生じる用量に達することなく治療される状態または適応症の重症度または広がりを予防または軽減しながら、所望の効果を生じるのに十分な用量を意味する)で患者に投与される。正確な用量は、例えば製剤および投与様式などの多くの因子に依存し、それぞれの適応症についての前臨床試験および臨床試験で決定されなければならない。
【0100】
本発明の医薬組成物は、単独で、または他の治療剤と併せて投与することができる。これらの薬剤を同じ医薬品の一部として組み込むことができる。このような薬剤の一例は、改変VWFとFVIIIの組合せである。
【0101】
本明細書で言及される配列の要約を表2に示す。
【表2】
【0102】
例
例1
改善されたFVIII結合を有するvWF突然変異体
背景
上および同時係属中の国際特許出願番号PCT/AU2015/050369に論じられるように、循環FVIIIの大部分はVWFとの複合体である。ヒトでは、FVIIIは、VWFの非存在下および存在下でそれぞれ約2時間および16時間のt1/2で血液から除去される。VWFはFVIII半減期の増加をもたらすが、これはまた自身の半減期によって指示されるt1/2に上限を設定する。米国特許第8575104号明細書は、VWF−アルブミン融合タンパク質を開示している。この融合タンパク質は、げっ歯類モデルにおいて野生型VWFよりも5倍長い半減期を有する。この融合タンパク質とFVIIIの間の安定した複合体は、FVIIIに追加の半減期利益を与えることができる。FVIII/vWF相互作用の平衡結合定数は高いが、結合速度論が迅速であり、VWF−アルブミン融合タンパク質との複合体中のFVIIIは、注入時に内因性vWFと迅速に交換する。したがって、FVIIIとVWF−アルブミン融合体の解離速度が、FVIIIと天然VWFの解離速度と実質的に同等である場合、VWF−アルブミン融合体の使用は、FVIIIの半減期の実質的な増加をもたらさない。
【0103】
したがって、VWF−アルブミン融合体のより長い半減期を利用してFVIIIの半減期を延長させるためには、FVIIIとVWF−アルブミン融合体の解離速度を低下させることが必要である。VWFレベルが正常であるがVWFがFVIIIと会合する能力がひどく低下している2Nフォン・ヴィレブランド病の患者で行われた測定を利用したモデリング研究から、FVIII半減期の臨床的に関連する改善を提供するためには少なくとも5倍の解離速度の低下が要求されると推定されている。FVIII VWF−アルブミン融合体解離速度の低下とFVIII半減期の増加との間の仮定される関係を表3に示す。
【表3】
【0104】
FVIII VWF−アルブミン融合体解離速度を低下させる努力において、突然変異VWF−アルブミン融合タンパク質が有意に遅いFVIII解離速度を提供し、それによってVWF−アルブミン融合タンパク質との安定な会合を通してFVIIIの半減期を延長させる実行可能な選択肢を提供することができるかどうかを評価するための実験を行った。
【0105】
PCT/AU2015/050369に記載されている研究の延長において、D3ドメインの改変に重点を置いて、さらなる突然変異および突然変異の組合せを調査した。これらの実験では、組換え型のFVIIIを使用した。このFVIIIは、Zollnerら、2013、Thrombosis Research、132:280〜287に記載されている。
【0106】
方法
ヒトフォン・ヴィレブランド因子(vWF;アミノ酸(aa)764〜1242(配列番号2);GenBank受託番号NP_000543に基づく)のD’およびD3ドメインをコードする合成コドン最適化cDNAを、GeneART AG(Regensberg、ドイツ)から得た。これを、グリシンセリンリンカーを介して自身のシグナルペプチド(aa1〜22)をコードするために5’末端でおよびヒト血清アルブミン(HAS)をコードするために3’末端で改変した。開始メチオニンの上流にKozakコンセンサス配列(GCCACC)およびオープンリーディングフレームの3’末端にダブル終止コドン(TGA)を有するpcDNA3.1哺乳動物発現ベクター(Invitrogen、米国)に構築物(Hu−vWF[764−1270]−HSA)を指向的にクローニングし、プラスミド配列を自動配列決定により確認した。次いで、この発現プラスミドを鋳型として使用して、標準的なPCR技術を用いて一重、二重または三重残基変化を生じさせ、構築物をpcDNA3.1にクローニングし、上記のように配列決定した。C末端FLAGタグ(DYKDDDDK)を有するHu−vWFのD1およびD2ドメイン(aa1〜762)をコードする第2のコドン最適化cDNAも合成し、GeneArtから得た;これを上記のようにpcDNA3.1にクローニングし、配列決定した。
【0107】
一過的哺乳動物発現のために、Freestyle TM 293懸濁細胞(Invitrogen)を5ml Freestyle Expression培地(Invitrogen)中で1.1×10
6細胞/mlまで増殖させた。293Fectin(Invitrogen)トランスフェクション試薬7μLを、Opti−MEM I培地(Invitrogen)167μLと5分間プレインキュベートし、次いで、野生型/突然変異体Hu−vWF[764−1242]−HSAをコードするプラスミドDNA2.5μgとHu−vWF[1−762]−FLAGをコードするプラスミドDNA2.5μgに添加し、混合物をさらに20分間インキュベートした。DNA−293Fectin複合体を、250rpmの振盪インキュベーター内で37℃、8%CO
2で6日間培養した細胞に添加した。培養上清を2000rpmで5分間の遠心分離によって回収し、分析のために4℃で保存した。
【0108】
マウス抗HSA抗体を、標準NHS/EDCカップリング化学を用いてCM5チップ上に固定化した。典型的には、固定化レベルは約14000RUであった。vWF−HSAの各突然変異体を、0.1〜1μg/mlに及ぶ種々の濃度で2分間、各フローセル内の単一スポット上に捕捉した。捕捉レベルは100〜200RUに及んだ。抗HSAが固定化されているが、vWF−HSAが捕捉されていない隣接スポットを参照として使用した。捕捉は、FVIII結合分析の前にサイクル毎に行った。
【0109】
最初の実験を、中性pHで設定して、上位親和性および解離速度が改善したvWF−HSA突然変異体についての一連の突然変異をスクリーニングした。第VIII因子を、5、1および1.25nMで使用中の全てのスポットおよび全てのフローセル上で無作為に、二連で注入した。このスクリーニングの結果を表4に示す。
【表4】
【0110】
例2
詳細な動態解析
pH7での詳細な動態解析を対照を含む上位2つの候補物質について設定したその後の実験を精製物質を用いて行った。vWF−HASタンパク質を、Capture Select(商標)ヒトアルブミン親和性樹脂を用いて精製し、vWF−HAS二量体を調製物サイズ排除クロマトグラフィーによってさらに精製した。次いで、精製物質を分析前に4℃で保存した。前と同様にvWF−HAS二量体の捕捉を行い、次いで、第VIII因子を1、0.5、0.25、0.125および0.06nMで注射した。同様の様式で、対照を含む上位2つの候補物質についての詳細な動態解析をpH5.5で設定し、第VIII因子を相互作用に最も適した種々の濃度で注入した。
【0111】
全ての実験を通して、緩衝液ブランクも全ての捕捉タンパク質に注入した。第VIII因子の会合および解離を、「スクリーニング」実験中にそれぞれ3分間監視した。CSL627の会合を5分間監視し、解離を中性pHでの「詳細な動態解析」実験の間に20分間および60分間監視した。pH5.5で、第VIII因子の会合および解離を、相互作用に最も適した種々の時間枠で監視した。
【0112】
解離期間後、表面を25mMのグリシンpH2.6の45秒間の注入で再生した。泳動用緩衝液は、全体を通して、10mMのHEPES、150mMのNaCl、10mMのクエン酸ナトリウム、2.5mMのCaCl
2、0.1%のBSA、pH7.3およびpH5.5であり、流量は30μl/分であった。各相互作用を37℃で少なくとも2回(n=2)測定した。
【0113】
参照スポットへの結合に対する応答を、vWF−HSA捕捉スポットの応答から差し引いた。ブランク注入からの応答を、他の全ての試料の応答から差し引いて、二重参照センサーグラムを作成した。二重参照センサーグラムを、質量輸送制限の項を含む1:1動態モデルに適合させた。会合速度および解離速度を、包括的に適合させ、Rmaxを局所的に適合させた。結果を表5および表6に示し、
図1〜
図3に示す。
【表5】
【表6】
【0114】
例3
さらなる動態解析
簡単な方法:
HASに融合した天然vWF(Hu−vWF[1−1242]−HAS)のD1D2D’D3領域をコードする単一DNS構築物を用いて生成した上位候補タンパク質について、pH7およびpH5.5でのさらに詳細な動態解析を設定するその後の実験を行った。これまでのように、この構築物を、一重、二重または三重残基変更を行うための鋳型として使用した。これまでのように、vWF−HAS二量体のトランスフェクションおよび精製を行った。
【0115】
マウス抗HSA抗体を、標準NHS/EDCカップリング化学を用いてCM5チップ上に固定化した。典型的には、固定化レベルは約14000RUであった。D’D3−HSAの各二量体突然変異体を、0.2〜0.7μg/mlに及ぶ種々の濃度で2分間、各フローセル内の単一スポット上に捕捉した。捕捉レベルは50〜250RUに及んだ。抗HSAが固定化されているが、D’D3−HSAが捕捉されていない隣接スポットを参照として使用した。捕捉は、FVIII(CSL627)結合分析の前にサイクル毎に行った。
【0116】
CSL627を、全てのフローセルの全てのスポット上で無作為に、二連で注入した。中性pHで、CSL627を1、0.5、0.25、0.125および0.06nMで注入した。会合を5分間監視し、解離を20分間、ならびに1nM濃度で1時間監視した。緩衝液ブランクも注入した。pH5.5で、CSL627を、起こる相互作用に最も適した種々の濃度および時間枠で注入した。
【0117】
解離期間後、表面を25mMのグリシンpH2.6の45秒間の注入で再生した。泳動用緩衝液は、全体を通して、10mMのHEPES、150mMのNaCl、10mMのクエン酸ナトリウム、2.5mMのCaCl
2、0.1%のBSA、pH7.3およびpH5.5であり、流量は30μl/分であった。各相互作用を37℃で4回(n=4)測定した。
【0118】
参照スポットへの結合に対する応答を、vWF−HSA捕捉スポットの応答から差し引いた。ブランク注入からの応答を、他の全ての試料の応答から差し引いて、二重参照センサーグラムを作成した。二重参照センサーグラムを、質量輸送制限の項を含む1:1動態モデルに適合させた。会合速度および解離速度を、包括的に適合させ、Rmaxを局所的に適合させた。
【0119】
結果を表7および8ならびに
図4および5に示す。
【表7】
【表8】
【0120】
例4
PK分析およびFVIII半減期への影響
方法
Hu vWF D’D3−FP S764E;S766Y変異体を発現する安定なCHO由来細胞株を、標準的な実験方法を用いて作製した。材料を、10Lバイオリアクターで安定な細胞株から作製し、vWF D’D3−FP S764E;S766Y二量体を前記のように精製した。
【0121】
野生型およびvWF D’D3−FP S764E;S766Y変異体のFVIIIレベルに対する相対的な影響を評価するために、CDラット(3匹の動物/群)に、表9に示される用量で組換えFVIII(200IU/kgのCSL627)とvWF−FPタンパク質の組合せを与えた。静脈内投与の0、3、8、24、48、56および72時間後に血漿試料を採取し、Asserachrom FVIII:Ag ELISAを用いてFVIIIレベルを測定した。次いで、このデータを用いて、表9に示されるFVIII半減期および平均滞留時間を決定した。
【表9】
【0122】
結論:
最初のスクリーニングから、突然変異:S764P、S766W、V1083A(PWA突然変異体と呼ばれる)およびS764G、S766Y、V1083A(GYA突然変異体と呼ばれる)を有するD’D3−HSAは、第VIII因子に対して最も強い親和性および最も遅い解離速度を有するようであった。
【0123】
中性pHでは、CSL627(因子VIII)に対する親和性および解離速度が最も改善されたvWF D’D3−HSA突然変異二量体は、5pMのKDおよび10
−5 1/秒の解離速度を有するS764G/S766Y/V1083A(GYA)、S764E/S766Y/V1083A(EYA)およびS766Y/V1083A(YA)である。これは、野生型二量体と比較して、親和性が約20倍改善され、解離速度が40倍改善されている。
【0124】
酸性pHでは、CSL627に対する親和性および解離速度が最も改善されたvWF D’D3−HSA突然変異体二量体は、500pMのKDおよび10
−31/秒の解離速度を有するEYAであった。これに基づいて、EYAについての親和性および解離速度の改善は、野生型二量体と比較して、それぞれ約100倍および少なくとも10倍である。
【0125】
EYA二量体は、中性pHと酸性pHの両方で、S764P/S766Iと同様の動態速度およびCSL627に対する親和性を有するようであった。