(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記拡散源位置推定装置は、前記第1の推定モードにおいて、最も大きい前記濃度情報を示す前記仮想観測点を最初の前記拡散源候補として設定すること、又は、前記仮想拡散源ごとに前記拡散源推定指標を算出し、その中で最も大きい値を示す前記仮想拡散源を拡散源候補として設定する
ことを特徴とする請求項2に記載の拡散源位置推定装置。
前記仮想空間内における前記仮想観測点と前記仮想拡散源の位置情報は、前記仮想空間内の周囲枠の横軸と縦軸が交わる1点を原点として、横軸方向をX軸、縦軸をY軸方向、として示す座標軸情報である
ことを特徴とする請求項1に記載の拡散源位置推定装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
最初に、本発明の特徴を説明する。
拡散源位置の実運用上での推定対象となる工場や化学プラント等は障害物や地形等の影響により分岐、合流、及び渦等が存在する気流場環境となる場合が一般的であり、そのような気流場環境の下では所定エリア内全域での拡散物質の分布傾向(拡散物質の到達範囲の形状や到達範囲内での拡散物質の濃淡)は拡散源位置に強く依存する。このため、所定エリア内全域での拡散物質の分布傾向は拡散源位置を推定する上での重要な情報となる。拡散物質の分布傾向の例を
図10に示す。
【0011】
図10は、複雑気流場における拡散物質の到達範囲の例を示す図である。分岐、合流、及び渦などが存在する気流場の下では拡散源位置が少し変わることで拡散物質の分布傾向が大きく異なる。
図10(a)の場合、拡散源の風下において、障害物の片側に拡散物質が到達しており、
図10(b)の場合、拡散源の風下において、障害物の両側に拡散物質が到達している。拡散源の位置は、
図10(a)の場合よりも
図10(b)の場合の方が若干風上に位置し、かつ、拡散源の位置は、
図10(b)の場合は障害物の軸線の延長線上に位置している。
【0012】
本発明では、実観測点(測定装置)における実測濃度(濃度情報)とそれぞれの実観測点に対応する仮想観測点における仮想拡散源からの影響関数値との比較から、拡散物質の到達範囲の形状、および到達範囲内での拡散物質の相対的な濃淡の一致度を定量化し考慮することとしている。このため、本発明では、拡散物質の拡散源の位置を精度よく推定することができる。
【0013】
本発明を実施するための実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、実施形態に係る拡散源位置推定装置100の構成を示す図である。拡散源位置推定装置100は、処理部(情報処理部)10、記憶部20、入力部31、出力部32、データ取得部33を含んで構成されている。処理部10は、データ取得部(情報取得部)33を介して観測情報を入手する観測情報入手部11、所定のエリアに仮想拡散源を設定する仮想拡散源設定部12、仮想格子設定部13、影響関数算出部14、拡散源推定指標算出部15、拡散源位置推定部16を含んでいる。
【0014】
記憶部20には、観測点における情報21(濃度情報及び位置情報)、仮想拡散源の位置情報22、仮想観測点に与える影響関数23、仮想拡散源ごとの第1の拡散源推定指標24(指標P
m)、仮想拡散源ごとの第2の拡散源推定指標25(指標V
m)、指標P
mおよび指標V
mに基づく拡散源推定指標26(指標Z
m)等が記憶されている。
【0015】
観測情報入手部11は、データ取得部33を介して、各観測装置の測定データを、有線または無線のネットワークを通じて入手し、入手した測定データを記憶部20の観測点における情報21に記憶する。
【0016】
仮想拡散源設定部12は、仮想空間の所定のエリア内の任意位置に、仮想拡散源を複数設定し、設定した位置を記憶部20の仮想拡散源の位置情報22に記憶する。
【0017】
仮想格子設定部13は、後記する第2の推定モードにおいて、後記する第1の推定モードで特定された、「拡散源候補」を中心とする、格子点が配される矩形格子を構築し、それぞれの格子点に「仮想拡散源」を設定し、これを記憶部20の仮想拡散源の位置情報22に記憶する。
【0018】
影響関数算出部14は、影響関数値を算出し、これを記憶部20の仮想観測点に与える影響関数値23に記憶する。影響関数値は、仮想拡散源の位置情報および仮想空間内における観測点の位置情報(観測装置の位置情報)と、仮想拡散源から拡散物質が仮想拡散を開始してからの経過時間とから算出される。詳細な影響関数値の算出方法は後記する。
【0019】
拡散源推定指標算出部15は、それぞれの仮想観測点に与える影響関数値23と、それぞれの仮想観測点における濃度情報と、を用いて、統計的手法により仮想拡散源ごとに、仮想拡散物質の到達範囲の一致度を示す指標P
mと仮想拡散物質の相対的な濃淡の一致度を示す指標V
mと、を算出し、これを記憶部20の第1の拡散源推定指標24、第2の拡散源推定指標25に記憶する。そして、拡散源推定指標算出部15は、第1の拡散源推定指標24から第2の拡散源推定指標25を該当計算ステップで評価対象となる仮想拡散源における値同士で正規化した上で減算して指標Z
mを算出し、これを記憶部20の拡散源推定指標26に記憶する。
【0020】
拡散源位置推定部16は、拡散源推定指標26が最大となる仮想拡散源を特定する。
【0021】
以上の構成において、処理部10は、所定のエリアを模擬した仮想空間を構築し、仮想空間内において、仮想空間内に観測装置に対応する仮想観測点と仮想拡散物質を拡散する複数の仮想拡散源と、を配置する。配置後、統計的手法により、仮想拡散物質が仮想観測点に与える影響度の大きさを示す拡散源推定指標(指標Z
m)を仮想拡散源ごとに求め、拡散源推定指標が最大化されるまで、仮想拡散源の配置位置を再配置して拡散源推定指標を算出する処理を繰返し、拡散源推定指標が最大化された位置を拡散源として推定する。
【0022】
すなわち、本実施形態では、仮想空間内に、実在する観測装置と、拡散物質を仮想的に拡散する仮想拡散源と、を配置する。配置後、統計的手法に基づいて仮想拡散源と観測地点における濃度情報とに基づいて拡散源候補を求め、仮想拡散源を再配置して再度拡散源候補を求めて拡散源候補の値が大きくなっていく方向が拡散源の存在する方向と仮定する。そして、拡散源候補の値が更新されなくなるまでこの処理を繰返し、更新されなくなった際の拡散源候補の位置を拡散源(拡散源位置)として推定する。これにより、拡散物質の拡散源位置を精度よく推定することができる。
【0023】
以下、具体例を用いて説明する。
拡散源位置推定装置100は、第1の推定モードと第2の推定モードとを有する。
<第1の推定モード>
第1の推定モードは、所定のエリア内において拡散源位置がどの辺りにあるかを絞り込むモードである。
【0024】
図2は、第1の推定モードにおける実際の所定のエリアに対応する仮想空間の例を示す図である。適宜
図1を参照して説明する。実空間の所定のエリア内において、ある地点から大気中に拡散される拡散物質が放出されているとする。しかし、最初は所定のエリア内のどこから拡散物質が放出されているか、つまり拡散源位置がわからない状況である。
【0025】
(S1)所定のエリア内の任意の位置に、実際の観測情報(大気中の拡散物質の濃度情報)を測定するための観測装置を設置する。観測装置の設置数は、最低2個以上とする。
図2の例では、5個の観測装置(観測装置1〜観測装置5)が所定のエリア内に設置されている。観測情報入手部11が、各観測装置の測定データを、有線または無線のネットワークを通じて、入手する。
【0026】
(S2)実際の所定のエリアに対応する仮想空間を構築する。その際、
図2に示すように、所定のエリア内の特定位置を原点(0,0)として設定し、実際の所定のエリア内に設置する。各観測装置の位置情報(原点からのX軸、Y軸の位置情報)を仮想空間内に設定する。すなわち、処理部10は、所定エリアを模擬した仮想空間を構築する。仮想空間は、周囲枠の横軸と縦軸が交わる1点を原点として、横軸方向をX軸、縦軸をY軸方向、として示す座標軸情報を有する。
【0027】
(S3)仮想拡散源設定部12は、仮想空間の所定のエリア内の任意位置に、仮想拡散源を複数設定する。
図2に示す例では、所定のエリア内に4個の仮想拡散源(仮想拡散源1〜4)が設定されている。すなわち、処理部10は、仮想空間内に、観測装置に相当する仮想観測点と、任意の位置に拡散物質に相当する仮想拡散物質を拡散させる複数の仮想拡散源を配置する。
【0028】
影響関数算出部14は、それぞれの仮想拡散源における影響関数値を算出する。影響関数値は、前記したように、仮想拡散源の位置情報および仮想観測点の位置情報と、仮想拡散源から前記拡散物質が仮想拡散を開始してからの経過時間から算出される。
図2において、例えば仮想拡散源1に対して、観測装置1〜5上における影響関数値がそれぞれ算出される。
【0029】
すなわち、処理部10は、大気拡散計算モデルを用いて、仮想拡散源から拡散した仮想拡散物質に関して、仮想観測点における濃度情報を求めるものである。影響関数値を求めるためには、その計算条件として地形情報および気象情報に加えて、拡散源情報(位置および排出量)が必要となる。ただし、拡散源情報については分かっていないので、拡散源情報(位置および排出量)については仮の値を用いる。なお、前記大気拡散計算モデルには、プルーム・パフモデルや、セル内粒子法、ラグランジュ型粒子モデルなどが知られている。
【0030】
なお、仮想拡散物質が拡散開始してから仮想空間内で仮想拡散物質の濃度(影響関数)が時間変化している段階においては、仮想拡散物が拡散開始してからの経過時間を考慮した非定常モデルを使用し、仮想空間内で気象条件や仮想拡散物質の放出量などが変化しない状況で仮想拡散物質の濃度(影響関数)が時間変化しないようになるまで拡散開始してから十分に時間が経過したとみなせる段階においては、経過時間を必要としない定常モデルを使用する。
【0031】
(S4)(S1)で得られた計測した各観測装置の濃度情報と、前記(S3)で得られた影響関数値を用いて、それぞれの仮想拡散源において拡散源推定指標算出部15は、拡散源推定指標を算出する。拡散源推定指標は、以下の2つの量(指標P
m、指標V
m)を求めて、それらの値を主成分分析という統計学の計算手法を用いることで求める。指標P
m、指標V
mを以下に示す。
【0032】
観測装置の濃度情報≠0、かつ、前記濃度情報の位置に対応した影響関数値≠0となる観測点数と、観測装置の濃度情報=0、かつ、前記濃度情報の位置に対応した影響関数の値=0となる観測点数との和を全観測点数で除した値:指標P
m
さらに、現在のステップ(第1の推定モード)で設定された仮想拡散源における指標P
mの集合全体での平均0、分散1となるように正規化したP
m*を求める。ここで、指標P
mおよび指標P
m*は、拡散物質および仮想拡散物質の到達範囲の一致度を示す指標である。
【0033】
観測装置の濃度情報≠0、かつ、濃度情報の位置に対応した影響関数の値≠0となる影響関数値を対応する濃度情報で除した値を必要に応じて常用対数などで変換した値の集合の分散:指標V
m
さらに、現在のステップ(第1の推定モード)で設定された仮想拡散源における指標V
mの集合全体での平均0、分散1となるように正規化したV
m*を求める。ここで、指標V
mおよび指標V
m*は、拡散物質および仮想拡散物質の相対的な濃淡の一致度を示す指標である。
【0034】
そして、拡散源推定指標算出部15は、次式で指標Z
mを求める。
Z
m=P
m*−V
m*
図2に示す例では、仮想拡散源1〜4のそれぞれにおいて、前記拡散源推定指標を算出する。その中で、拡散源推定指標の値が最大となるものを特定し、次ステップの拡散源位置候補である「拡散源候補」として設定する。
【0035】
図3は、仮想空間における拡散源候補の設定の例を示す図である。
図3の例では、仮想拡散源1の拡散源推定指標が最大の値を示したとする。
【0036】
(S5)拡散源位置推定部16は、それ以外の仮想拡散源(
図3に示す仮想拡散源2〜4)は、拡散源位置候補から除外する。
以上説明した第1の推定モードの処理について、
図4を参照してさらに説明する。
【0037】
図4は、拡散源位置推定装置の第1の推定モードの処理(その1)を示すフローチャートである。処理部10は、観測情報を入手し(S11)、所定エリアを模擬した仮想空間を構築し(S12)、仮想拡散源を設定する(S13)。そして、処理部10は、仮想拡散源ごとに影響関数値を算出し(S14)、仮想拡散源ごとに拡散源推定指標である指標Z
mを算出する(S15)。
【0038】
処理部10は、算出した拡散源推定指標の内、最大のものを「拡散源候補」として設定し(S16)、「拡散源候補」以外の仮想拡散源を「拡散源位置」の候補から除外する(S17)し、第1の推定モードの処理を終了する。
【0039】
図5は、拡散源位置推定装置の第1の推定モードの処理(その2)を示すフローチャートである。
図5は、第1の推定モードの処理の変形例である。
図5に示すように、処理部10は、観測情報を入手後(S11)、観測濃度が最大となる観測点の位置を「拡散源候補」として設定してもよい(S16A)。これにより、処理時間の短縮を図ることができる。
【0040】
<第2の推定モード>
第2の推定モードは、第1の推定モードでの「拡散源候補」に基づいて、さらに所定エリア内の拡散源位置を推定するモードである。
【0041】
図6は、第2の推定モードにおける拡散源候補の設定の例を示す図である。
(S1A)仮想格子設定部13は、第1の推定モードで特定された、「拡散源候補」を中心とする、格子点が配される矩形格子を構築し、それぞれの前記格子点に「仮想拡散源」を設定する。次に、影響関数算出部14は、それぞれの仮想拡散源における影響関数値を算出する。そして、拡散源推定指標算出部15は、それぞれの前記仮想拡散源において拡散源推定指標を算出する。
【0042】
(S2A)拡散源位置推定部16は、算出された第2の仮想発生源全てにおける拡散源推定指標および拡散源候補の拡散源推定指標を比較して、拡散源推定指標が最大となる仮想拡散源の位置を特定する。
図6に示す例においては、右上の仮想拡散源3における拡散源推定指標が最大(最大仮想拡散源)であったとする。
【0043】
ここで、
図6においては拡散源候補と最大仮想拡散源が一致しない場合の例であるが、この場合は、拡散源候補と最大仮想拡散源が一致するまで、最大仮想拡散源を拡散源候補に置き換えて、拡散源候補が中心となるように仮想格子および仮想拡散源を再設定し、再設定した拡散源候補および仮想拡散源を評価対象として拡散源推定指標を求めるステップを繰り返し、拡散源候補と最大仮想拡散源が一致した位置を「拡散源位置」として推定することになる。
図6においては、前記の関係となり、右上の仮想拡散源3における拡散源推定指標が最大となったため、仮想拡散源3が中心となるように仮想格子を再設定する(
図7参照)。
【0044】
図7は、第2の推定モードにおける拡散源候補の再設定の例を示す図である。
(S3A)仮想拡散源設定部12は、前記(S2A)で拡散源推定指標が最大となった「仮想拡散源(=最大仮想拡散源)」を、「拡散源候補」に置換する。それ以外の仮想拡散源および再設定前の拡散源候補は、拡散源位置候補から除外する。以後の拡散源推定指標の算出において、前記拡散源位置候補から除外された仮想拡散源および置換前の拡散源候補は、拡散源推定指標の計算対象外とする。
【0045】
この(S1A)〜(S3A)の流れを繰返す。以下のループ脱出条件が成立するまで、「最大仮想拡散源」を「拡散源候補」に置換して、この流れを繰返す。
(ループ脱出条件):「拡散源候補」と「最大仮想拡散源」が一致する。
図7においては、
図6と同様に、右上の仮想拡散源3における拡散源推定指標が最大(最大仮想拡散源)であったとする。
【0046】
図8は、第2の推定モードにおける拡散源位置と推定した例を示す図である。
(S4A)
図8において、置換された拡散源候補における拡散源推定指標が最大となったとき、つまり、ループ脱出条件が成立したとき、拡散源位置推定部16は、この位置が拡散物質の「拡散源位置」であると推定し、第2の推定モードの処理を終了する。
以上説明した第2の推定モードの処理について、
図9を参照してさらに説明する。
【0047】
図9は、拡散源位置推定装置の第2の推定モードの処理を示すフローチャートである。処理部10は、観測情報を入手し(S21)、拡散源候補を中心に格子点が配される矩形格子を構築し(S22)、矩形格子のそれぞれの格子点に仮想拡散源を再配置する(S23)。
【0048】
処理部10は、全ての仮想拡散源ごとに影響関数値を算出し(S24)、拡散源候補および全ての仮想拡散源における拡散源推定指標を算出し(S25)、仮想拡散源のうち、算出された拡散源推定指標が最大のものを「最大仮想拡散源」として推定する(S26)。
【0049】
処理部10は、「拡散源候補」と「最大仮想拡散源」が一致するか否かを判定し(S27)、一致しない場合(S27,No)、「最大仮想拡散源」を「拡散源候補」に置換し(S29)、S22に戻る。一方、「拡散源候補」と「最大仮想拡散源」が一致する場合(S27,Yes)、「拡散源候補」の位置を「拡散源位置」と推定し(S28)、第2の推定モードを終了する。
【0050】
以上、拡散源位置推定装置100について説明したが、計算例について次に示す。
(計算例)
図11は、所定エリア内の仮想拡散源の位置を示す図である。
図11には、仮想拡散源を4つ配置し、その周辺に観測点1〜15を配置している。各観測点での
計測した各観測点の濃度情報と、影響関数値を用いて、それぞれの仮想拡散源において拡散源推定指標算出部15は、拡散源推定指標を算出する。表1には、各観測点(ガス濃度センサ)の配置座標一覧と観測値を示す。表2には、各観測点の位置座標一覧を示す。
【0053】
そして、各仮想拡散源における各観測点上における影響関数の値を求め、求めた影響関数値の一覧を表3に示す。
【表3】
【0054】
次に、各仮想拡散源番号m(ここでは1〜4)について、3つの量(指標P
m,V
m,Z
m)を求めて、それらの値を主成分分析という統計学の計算手法を用いることで拡散源推定指標を求める手順について示す。
【0055】
指標P
mは、前記したように、観測装置の濃度情報≠0、かつ、前記濃度情報の位置に対応した影響関数値≠0となる観測点数と、観測装置の濃度情報=0、かつ、前記濃度情報の位置に対応した影響関数の値=0となる観測点数との和を、全観測点数で除した値である。ここで、指標P
mは、拡散物質および仮想拡散物質の到達範囲の一致度を示す指標である。
【0056】
指標V
mは、前記したように、ある仮想拡散源において、観測装置の濃度情報≠0、かつ、濃度情報の位置に対応した影響関数の値≠0となる影響関数値を対応する濃度情報で除した値を常用対数で変換した値の集合の分散である。ここで、指標V
mは、拡散物質および仮想拡散物質の相対的な濃淡の一致度を示す指標である。
【0057】
(指標P
m,V
mの算出)
ここでは、仮想拡散源1(仮想拡散源番号m=1)についてP
1,V
1を求める例を示す。表1から観測値を、表3から仮想拡散源1の影響関数の値を抜き出したものを表4に示す。
【表4】
【0058】
P
1については、単純に表4の値を比較して、数え上げて全観測点数で除することで、求めることができる。観測値=0かつ、影響関数の値=0を満たす観測点は、観測点1,5,10,および13の4点であり、観測値≠0かつ、影響関数の値≠0を満たす観測点数は、観測点3,4,7,8,9,11,12,および14の8点となる。
従って、P
1=(4+8)/15=12/15となる。
【0059】
V
1については、まず、観測値≠0かつ、影響関数の値≠0となるのは、P
1を導出した際に見たように、観測点3,4,7,8,9,11,12,および14の8点である。これらの観測点における影響関数の値/観測値を常用対数変換した値の集合を調べ、その分散(統計学の指標)がV
1になる。集合は以下となる。
(0.380,-0.332,0.020,-0.568,-0.418,-0.368,1.959,0.247)
【0060】
集合の分散Vは、式(1)で示される。
【数1】
ここで、nは要素数、μは集合の平均値である。
【0061】
従って、V
1=0.585となる。
なお、n=8であり、μ=0.115である。
以上より、仮想拡散源1についてP
1,V
1が求められた。
【0062】
以下、他の仮想拡散源についても同様に求めると
現在のステップで評価対象の仮想拡散源である仮想拡散源1〜4までのP
mの集合である(P
1,P
2,P
3,P
4)は、
(12/15,13/15,13/15,14/15)
である。
現在のステップで評価対象の仮想拡散源である仮想拡散源1〜4までのV
mの集合である(V
1,V
2,V
3,V
4)は、
(0.585,0.780,1.489,0.692)
である。
【0063】
次に、集合を分散1、平均0の集合となるように正規化し、(P
1*,P
2*,P
3*,P
4*)、(V
1*,V
2*,V
3*,V
4*)を、式(2)、式(3)より求める。
【数2】
【0065】
以上より、具体的な数値を当てはめると、
現在のステップで評価対象の仮想拡散源である仮想拡散源1〜4までの指標P
m*の集合である(P
1*,P
2*,P
3*,P
4*)は、
(-1.414,0.0000,0.0000,1.414)
である。
現在のステップで評価対象の仮想拡散源である仮想拡散源1〜4までの指標V
m*の集合である(V
1*,V
2*,V
3*,V
4*)は、
(-0.850,-0.300,1.699,-0.549)
である。
【0066】
(指標Z
mの算出)
指標Z
mを、式(4)より求める。
【数4】
式(4)において、指標P
m*がより大きいほど、拡散物質および仮想拡散物質の到達範囲の一致度が高いことを示し、指標V
m*がより小さいほど、拡散物質と仮想拡散物質の相対的な濃淡の一致度が高いことを示す。従って、指標P
m*が大きく、かつ、指標V
m*が小さいほど、拡散源推定指標である指標Z
mは大きくなり、指標Z
mが大きいほど、対応する仮想拡散源が拡散源位置に近いことを示す。
【0067】
式(4)に具体的な数値を当てはめると、
現在のステップで評価対象の仮想拡散源である仮想拡散源1〜4までの指標Z
mの集合である(Z
1,Z
2,Z
3,Z
4)は、
(-0.565,0.300,-1.699,1.964)
である。
指標Z
mの集合の中で拡散源推定指標が最大となるものを、次ステップ(例えば、第2の推定モード)の格子設定の中心格子(拡散源候補)として定める。前記の拡散源推定指標の中で最大となるものはZ
4であるので、仮想拡散源4が拡散源候補として定められる。
【0068】
(六フッ化硫黄の拡散実験を用いた検証)
次に、非特許文献1に示す日本原子力研究所によって1985年11月6日15:00-16:30に実施された筑波山周辺域での六フッ化硫黄の拡散実験(筑波山東麓で気流分岐発生)における観測値を使用した、実施形態に係る拡散源位置推定装置100による拡散源位置を示す計算例を、比較例とともに説明する。比較例の推定方式は、特許文献1に示す最小残差法を用いて拡散源の位置を推定する方式である。なお、本実施形態の手法および比較例の手法は、ともに、影響関数値の算出に、「かくさんすけっと」(登録商標)詳細数値計算機能((株)日立パワーソリューションズ)を用いた。
【0069】
[非特許文献1]角田道夫,林隆,安達隆史 共著,“大気拡散実験データVol.3 TSUKUBA84,TSUKUBA85”日本原子力研究所,(1988年)
【0070】
図12は、実観測点(〇および●)、筑波山山頂(▲)、拡散実験における実際の拡散源の位置(◇)を示す配置構成図である。拡散実験の所定エリアは、筑波山山頂を中心点に東西方向および南北方向それぞれが15000mの領域である。便宜的に東西方向をX座標(正の方向を東とする)として、南北方向をY座標(正の方向を北とする)として設定した。本拡散実験においては、所定エリア内に実観測点は41点存在し、41点ある実観測点のうち実測濃度が最大となる実測点を●で、それ以外の実観測点を〇で示した。
【0071】
図13は、比較例の仮想放出地点の設定(その1)を示す配置図である。
図14は、比較例の仮想放出地点の設定(その2)を示す配置図である。
図15は、比較例の仮想放出地点の設定(その3)を示す配置図である。
図16は、比較例の仮想拡散源の設定(その4)を示す配置図である。
図17は、比較例の仮想放出地点の設定(その5)を示す配置図である。
図13から
図17を参照して、仮想放出地点の絞り込みについて説明する。なお、
図13から
図17において仮想放出地点は×で示す。また、特許文献1の「仮想放出地点」は、「仮想拡散源」に対応する。
【0072】
図13に示すように、実際の拡散源の位置は不明であるので、実観測点を網羅するように、筑波山山頂を中心に南北・東西それぞれ4500m間隔で1段目(その1)の仮想格子を設定し、格子点上に9点の仮想放出地点を設定した。それぞれの仮想放出地点において、実観測点上での影響関数値を求める。実測濃度(濃度情報)と実観測点に対応する仮想観測点上における仮想拡散源からの影響関数値との残差ノルムが最小となる仮想放出地点を中心に、南北・東西それぞれが1段目の半分の大きさ(2250m)となるように仮想放出地点を設定し(
図14参照、その2)、この施行を5段目の仮想格子の設定まで繰り返し、5段目の仮想格子上において設定される仮想放出地点(
図17参照、その5)のうち残差ノルムが最小となる仮想放出地点を放出地点として推定した。
【0073】
比較例における実施例では2段目(その2)の試行で実際の拡散源の近傍の仮想放出地点で残差が最小となったものの、3段目(その3)の施行以降で残差が最小となる仮想放出地点の位置は実際の拡散源から離れていき、最終的には実測濃度が最大となる実観測点の近傍の仮想放出地点で残差が最小となり、この位置が放出地点として推定された。
【0074】
その結果、筑波山東麓盆地の北側にある山脈の山頂付近を発生源位置と推定した。その推定位置は、実際の発生源(拡散源位置)から2416m離れた位置であった。
【0075】
この理由として、拡散源位置からの影響関数値と実観測点(測定装置)における実測濃度(濃度情報)の所定エリア内全域での分布傾向が異なっていても、所定エリア内で相対的に大きくなる箇所のみがおおよそ一致した場合に残差が小さくなりやすいという先行技術の定式化に起因する課題点によるものと考えられる。
【0076】
次に実施形態に係る拡散源位置推定装置100による拡散源位置を示す計算例である。
図18は、実施形態に係る拡散源位置の推定に至るまでに設定された仮想拡散源の位置を示す配置図である。
図19は、
図18の四角太線部分の領域(X,Y座標が6000mから12000mの領域)を拡大し、かつ拡散源候補の推移を示した説明図である。
図18および
図19において仮想拡散源は×で示されている。
【0077】
本実施形態において、
図5に従い、実測濃度が最大となる実観測点の位置を拡散源候補として、
図9に従い、東西・南北方向がそれぞれ400mの矩形格子を用いて計算を実施したところ、実際の拡散源の位置の近傍を拡散源位置として推定した。
【0078】
その結果、筑波山東麓の盆地内を発生源位置と推定できた。実際の発生源から217m離れた位置を発生源位置として推定できた。このように、比較例の推定方式と比較して、本実施形態の拡散源位置推定装置100によれば、拡散物質の拡散源の位置を精度よく推定することができる。
【0079】
図5に従うと、本願において最初に定義される拡散源候補は、比較例の実施例において放出地点として推定された位置の近傍であり、結果的に、比較例の2段目(その2)から5段目(その5)における残差ノルムが最小となる仮想拡散源の推移と本願の
図9における各計算ステップにおける拡散源候補の推移は真逆の経路をとることで、本願においては実際の拡散源の位置の近傍を拡散源位置として推定したことになり、本実施例においては比較例における課題が解決されているものと考えられる。
【0080】
以上説明した拡散源位置推定装置100は、次の特徴を有する。
所定のエリアにおいて大気中に拡散した拡散物質の拡散源の位置を推定する拡散源位置推定装置100であって、所定エリアに配置された複数の観測装置から拡散物質の濃度情報を取得するデータ取得部33と、処理部10と、を備える。
【0081】
処理部10は、所定のエリアを模擬した仮想空間を構築し(S12)、仮想空間内において、仮想空間内に観測装置に対応する仮想観測点と仮想拡散物質を拡散させる複数の仮想拡散源と、を配置し(S13)、統計的手法により、仮想拡散物質の現況再現性の高さを示す拡散源推定指標(指標Z
m)を仮想拡散源ごとに求め(S15)、拡散源推定指標が最大化されるまで、仮想拡散源の配置位置を再配置して拡散源推定指標を算出する処理を繰返し(S22〜S27)、拡散源推定指標が最大化された位置を拡散源として推定する(S28)。これにより、拡散物質の拡散源の位置を精度よく推定することができる。
【0082】
処理部10は、第1の推定モードにおいて、所定の方法により仮想拡散源の中の一つを拡散源候補として設定し(S16)、第2の推定モードにおいて、拡散源候補を中心とする矩形格子を構築し(S22)、それぞれの矩形格子の格子点に仮想拡散源を再配置し(S23)、拡散源候補における拡散源推定指標を再算出するとともに(S25)、再配置された仮想拡散源ごとに拡散源推定指標を算出して最大のものを最大仮想拡散源として推定し(S26)、最大仮想拡散源と拡散源候補が一致するまで、最大仮想拡散源を拡散源候補に置換して仮想拡散源の再配置処理から繰り返すことにより(S27)拡散源推定指標が最大化される位置を推定する(S28)。
【0083】
データ取得部33は、濃度情報を取得し、処理部10は、少なくとも仮想観測点における濃度情報及び位置情報(S11)と、仮想拡散源の位置情報と、を使用し、大気拡散計算モデルにより、それぞれの仮想拡散源がそれぞれの仮想観測点に与える影響関数値を算出し(S14)、それぞれの影響関数値と、それぞれの仮想観測点における濃度情報と、を用いて、統計的手法により仮想拡散源ごとに、仮想拡散物質の到達範囲の一致度を示す第1の拡散源推定指標(指標P
m)と仮想拡散物質の相対的な濃淡の一致度を示す第2の拡散源推定指標(指標V
m)と、を算出し、第1の拡散源推定指標から第2の拡散源推定指標を減算して拡散源推定指標(指標Z
m)を算出する(S15)。
【0084】
拡散源位置推定装置100は、第1の推定モードにおいて、最も大きい濃度情報を示す仮想観測点を最初の拡散源候補として設定すること、又は、仮想拡散源ごとに拡散源推定指標を算出し、その中で最も大きい値を示す仮想拡散源を拡散源候補として設定する。
【0085】
仮想空間内における仮想観測点と仮想拡散源の位置情報は、仮想空間内の周囲枠の横軸と縦軸が交わる1点を原点として、横軸方向をX軸、縦軸をY軸方向、として示す座標軸情報である(
図2参照)。
【0086】
本実施形態の拡散源位置推定装置100によれば、仮想拡散源からの影響関数と実観測点(測定装置)における実測濃度(濃度情報)の拡散物質の到達範囲の形状、および到達範囲内での拡散物質の相対的な濃淡の一致度を定量化し考慮することで、拡散物質の拡散源の位置を精度よく推定することができる。
【解決手段】拡散源位置推定装置100は、所定のエリアにおいて大気中に拡散した拡散物質の拡散源の位置を推定する拡散源位置推定装置であって、所定エリアに配置された複数の観測装置から拡散物質の濃度情報を取得するデータ取得部33と、取得したデータを処理する処理部10と、を備え、処理部10は、所定のエリアを模擬した仮想空間を構築し、仮想空間内において、仮想空間内に観測装置に対応する仮想観測点と仮想拡散物質を拡散する複数の仮想拡散源と、を配置し、統計的手法により、仮想拡散物質が仮想観測点に与える影響度の大きさを示す拡散源推定指標を仮想拡散源ごとに求め、拡散源推定指標が最大化されるまで、仮想拡散源の配置位置を再配置して拡散源推定指標を算出する処理を繰返し、拡散源推定指標が最大化された位置を拡散源として推定する。