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特許6755481追尾アンテナシステム、飛翔体および追尾アンテナ装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6755481
(24)【登録日】2020年8月28日
(45)【発行日】2020年9月16日
(54)【発明の名称】追尾アンテナシステム、飛翔体および追尾アンテナ装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 3/42 20060101AFI20200907BHJP
   H04W 4/029 20180101ALI20200907BHJP
   H01Q 1/28 20060101ALI20200907BHJP
【FI】
   G01S3/42 Z
   H04W4/029
   H01Q1/28
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-49744(P2015-49744)
(22)【出願日】2015年3月12日
(65)【公開番号】特開2016-170030(P2016-170030A)
(43)【公開日】2016年9月23日
【審査請求日】2018年3月9日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、支出負担行為担当官、総務省大臣官房会計課企画官、研究テーマ「能動的3次元通信エリア制御を用いた複数無人航空機による同時観測技術の研究開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504193837
【氏名又は名称】国立大学法人室蘭工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】393031586
【氏名又は名称】株式会社国際電気通信基礎技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100109162
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 將行
(72)【発明者】
【氏名】樋口 健
(72)【発明者】
【氏名】上羽 正純
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 智明
(72)【発明者】
【氏名】有吉 正行
(72)【発明者】
【氏名】矢野 一人
(72)【発明者】
【氏名】北沢 祥一
【審査官】 ▲高▼場 正光
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−321534(JP,A)
【文献】 特許第2719575(JP,B2)
【文献】 特開2014−127751(JP,A)
【文献】 特開2007−112315(JP,A)
【文献】 特開2002−185233(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0083238(US,A1)
【文献】 特開2012−112738(JP,A)
【文献】 特開2000−357986(JP,A)
【文献】 矢野一人 外7名,“複数無人航空機による大型建造物監視のためのアンテナ追尾方式”,電子情報通信学会技術研究報告,日本,一般社団法人電子情報通信学会 The Institute of Electronics,Information and Communication Engineers,2015年 2月11日,Volume 114, Number 449,Pages 1-6,ISSN: 0913-5685
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 3/00 − G01S 3/74
G01S 19/00 − G01S 19/55
H01Q 13/00 − H01Q 13/28
H04B 7/24 − H04B 7/26
H04W 4/00 − H04W 99/00
B64C 1/00 − B64D 47/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
追尾アンテナシステムであって、
複数の飛翔体を備え、
各前記複数の飛翔体は、
自身の位置、速度、姿勢角および姿勢角速度を把握する航法手段と、
把握された前記位置、速度、姿勢角および姿勢角速度を計測情報として地上局に送信するための無線通信手段と、
複数の方向に対して無線信号をそれぞれ送受信可能な複数の機体アンテナと、
対象となる無線通信リンクに対して、複数の前記機体アンテナのうち、所定の条件を満たす利得を有する機体アンテナを選択するためのアンテナ選択手段とを含み、
前記複数の前記機体アンテナは、前記飛翔体の外殻の第1の周のまわりの複数の所定の領域にそれぞれ設けられ、
前記複数の飛翔体との間で無線通信を行うための複数の地上局を備え、
前記複数の地上局の各々は、
指向性を有する追尾アンテナと、
追尾制御指示に応じて、前記複数の飛翔体のうちの対応する飛翔体の方向に前記追尾アンテナの通信指向性を駆動する指向性制御手段を含み、
前記複数の地上局の通信指向性を制御するための前記追尾制御指示を生成するとともに、前記機体アンテナを選択するための制御局をさらに備え、
前記制御局は、複数の前記地上局と複数の前記飛翔体間の周波数帯域幅確保が可能な無線通信リンクを監視して、前記追尾制御指示を前記地上局に対して出力し、
前記制御局は、前記地上局のうち前記飛翔体を追尾する前記追尾アンテナからみて、前記計測情報から推定される見込み角から、複数の前記機体アンテナのうち、利得が最も高いアンテナを選択し、
前記地上局は、前記選択された機体アンテナを指示するための信号を前記飛翔体の前記アンテナ選択手段に対して随時送信する、追尾アンテナシステム。
【請求項2】
記制御局は、前記地上局から伝送される前計測情報に応じて、現在、通信中の機体アンテナの利得が所定レベル以下となった場合に、現在の機体アンテナよりも利得が高い機体アンテナが存在するときは、当該機体アンテナを選択する、請求項1記載の追尾アンテナシステム。
【請求項3】
各前記地上局は、前記飛翔体からの信号の受信信号強度を計測し、前記制御局に送信するための受信信号強度計測手段を備え、
前記制御局は、さらに、前記受信信号強度と前記計測情報の前記飛翔体の位置の情報とに基づき、前記追尾アンテナと前記飛翔体との間の自空間伝搬損失を用いて、所望の周波数帯域幅が確保できなくなる可能性を常時計算し、確保不可能となる前に、各前記地上局にそれぞれ配備される複数の前記追尾アンテナのうちから、必要な周波数帯域幅を確保可能な追尾アンテナに切り換えるハンドオーバー処理を制御するための追尾アンテナ制御手段を含む、請求項1または2記載の追尾アンテナシステム。
【請求項4】
各前記飛翔体は、前記地上局からの信号の受信信号強度を計測し、前記地上局に送信するための受信信号強度計測手段を備え、
前記制御局は、さらに、前記地上局から送信される前記受信信号強度と前記計測情報の前記飛翔体の位置の情報とに基づき、前記追尾アンテナと前記飛翔体との間の自空間伝搬損失を用いて、所望の周波数帯域幅が確保できなくなる可能性を常時計算し、確保不可能となる前に、各前記地上局にそれぞれ配備される複数の前記追尾アンテナのうちから、必要な周波数帯域幅を確保可能な追尾アンテナに切り換えるハンドオーバー処理を制御するための追尾アンテナ制御手段を含む、請求項1または2に記載の追尾アンテナシステム。
【請求項5】
前記複数の機体アンテナは、前記複数の所定の領域にそれぞれ設けられる複数のスロットアンテナである、請求項1〜のいずれか1項に記載の追尾アンテナシステム。
【請求項6】
前記複数の機体アンテナとして、前記飛翔体の外殻の前記第1の周に直交する第2の周のまわりの複数の所定の領域にそれぞれ設けられた複数のスロットアンテナをさらに有する、請求項に記載の追尾アンテナシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛翔体、飛翔体を追尾するための追尾アンテナ装置、および追尾アンテナシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
地震や火災などの災害発生時では、民間報道機関や官省庁などによる初動対応として、無人飛行機やヘリコプタ(撮影用ヘリ)に搭載されたカメラにより現地が撮影され、撮影された映像情報がいち早くリアルタイムで地上局へ伝送されるというような技術が採用される場合がある。このような映像情報は、初動対応の判断源となる重要な情報であるため、映像情報を随時途切れさせることなく伝送することが要求される。
【0003】
無人航空機を代表とする飛翔体を追尾する手法としては、近年普及しているGPS(Global Positioning System)および搭載している無線通信装置によって送信し、それを地上側で追尾アンテナを用いて受信しつづけることによって、無線通信リンクを確保することが一般的になりつつある。
【0004】
しかしながら、この場合、飛翔体側のアンテナが、低利得の無指向アンテナであるときは、無線通信により得られる飛翔体情報はGPS情報であるため、その情報の内容は、位置及び速度に限定されている。
【0005】
一方、たとえば、特許文献1には、高速で移動し且つ急激な方向転換を伴う飛行体に搭載した場合にも、追尾対象を確実に捕捉できるようにしたアンテナ指向制御装置が開示されている。特許文献1に記載の技術では、飛行体に搭載される位置情報検出部は、飛行体の現在位置を検出する(GPS受信装置)。方位検出部は、飛行体の現在向いている水平方位を検出する(地磁気センサ)。基地局位置情報源には、追尾対象となる基地局の緯度・経度を予め登録しておく。アンテナ方位角演算部は、飛行体が現在向いている位置および方位を算出する。基地局方位角演算部は、位置情報検出部と基地局位置情報源より、飛行体から目的の基地局へ指向させるべき方位ベクトルを算出する。目的方位角演算部は、現在向いているアンテナが回転すべき角度を算出する。アンテナ方位角制御部は、目的方位角演算部で算出された角度で指向アンテナが指向するように、アンテナ方位角駆動部を制御する。
【0006】
さらに、特許文献2には、撮影ヘリの送信部から送出される映像情報が別のヘリコプタ(中継用ヘリ)で中継されて地上受信局へ伝送される構成について開示がある。これにより、撮影カバーエリアが拡大され、たとえば200km近く離れた地上局へ伝送することもできる。特許文献2の技術では、撮影機の情報送信装置から送信用データsdが空中線を介して送信され、同送信用データsdが、中継機の中継用送信装置で空中線を介して受信されて地上局へ中継伝送される。情報送信装置では、撮影機の飛行状態を表す撮影機データsaが中継機へ送信されると共に、中継機から飛行状態を表す中継機データsbが取得され、撮影機データsa及び中継機データsbに基づいて、適応的に、空中線の指向特性、送信用データsdの変調方式及び出力レベルが制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−261526号公報
【特許文献2】特開2009−239758号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】井上他,次世代ブロードバンド実現に向けた船舶用アンテナシステム, Journal of the JIME vol.41 , No.6(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、飛翔体側のアンテナが、低利得の無指向アンテナであるときは、必然的に地上側で高利得、即ち比較的大規模な追尾アンテナを用意して送受信を行うこととなり、今後様々な用途が想定される無人航空機そのものは小型で低コストでありながら、各種利用への発展にあたっては、大規模な追尾アンテナを使用しないと高速伝送ができないという問題があった。
【0010】
また、特許文献1に記載されたアンテナ指向制御装置は、相手側が基地局であることを前提として、駆動部の追尾性能内でアンテナの指向性が制御されるものであり、駆動部の追尾性能を超える場合には対応できない。また、本来であれば、小型・軽量化することが望ましい飛翔体側のアンテナ装置が大型化あるいは重量の増加を招いてしまう、という問題がある。
【0011】
さらに、特許文献2に記載された技術では、撮影カバーエリアは拡大されるものの、撮影機の他に、中継機を要する。しかも、飛行体において、空中線の指向性を制御するための構成も必要になるだけでなく、撮影機と中継機の間で、高い捕捉精度を制御処理の前提としている。しかし、実際の運用において常に高い捕捉精度が達成されているとは限らずないため、運用できる環境に制限がある。
【0012】
この発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであって、その目的は、飛翔体からの信号を地上局で追尾しながら受信する構成において、飛翔体側および地上局側の装備を軽量化・簡略化することが可能な追尾アンテナシステム、飛翔体および追尾アンテナ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
好ましくは、各前記地上局は、前記飛翔体からの信号の受信信号強度を計測し、前記制御局に送信するための受信信号強度計測手段を備え、前記制御局は、さらに、前記受信信号強度と前記計測情報の前記飛翔体の位置の情報とに基づき、前記追尾アンテナと前記飛翔体との間の自空間伝搬損失を用いて、所望の周波数帯域幅が確保できなくなる可能性を常時計算し、確保不可能となる前に、各前記地上局にそれぞれ配備される複数の前記追尾アンテナのうちから、必要な周波数帯域幅を確保可能な追尾アンテナに切り換えるハンドオーバー処理を制御するための追尾アンテナ制御手段を含む。
好ましくは、各前記飛翔体は、前記地上局からの信号の受信信号強度を計測し、前記地上局に送信するための受信信号強度計測手段を備え、前記制御局は、さらに、前記地上局から送信される前記受信信号強度と前記計測情報の前記飛翔体の位置の情報とに基づき、前記追尾アンテナと前記飛翔体との間の自空間伝搬損失を用いて、所望の周波数帯域幅が確保できなくなる可能性を常時計算し、確保不可能となる前に、各前記地上局にそれぞれ配備される複数の前記追尾アンテナのうちから、必要な周波数帯域幅を確保可能な追尾アンテナに切り換えるハンドオーバー処理を制御するための追尾アンテナ制御手段を含む。
【0014】
好ましくは、制御局は、地上局から伝送される計測情報に応じて、現在、通信中の機体アンテナの利得が所定レベル以下となった場合に、現在の機体アンテナよりも利得が高い機体アンテナが存在するときは、当該機体アンテナを選択する。
【0015】
好ましくは、各地上局は、飛翔体からの信号の受信信号強度を計測し、制御局に送信するための受信信号強度計測手段を備え、制御局は、さらに、受信信号強度と計測情報の飛翔体の位置の情報とに基づき、追尾アンテナと飛翔体との間の自遊空間伝搬損失を用いて、所望の周波数帯域幅が確保できなくなる可能性を常時計算し、確保不可能となる前に、各地上局にそれぞれ配備される複数の追尾アンテナのうちから、必要な周波数帯域幅を確保可能な追尾アンテナに切り換えるハンドオーバー処理を制御するための追尾アンテナ制御手段を含む
好ましくは、各飛翔体は、地上局からの信号の受信信号強度を計測し、地上局に送信するための受信信号強度計測手段を備え、制御局は、さらに、地上局から送信される受信信号強度と計測情報の飛翔体の位置の情報とに基づき、追尾アンテナと飛翔体との間の自遊空間伝搬損失を用いて、所望の周波数帯域幅が確保できなくなる可能性を常時計算し、確保不可能となる前に、各地上局にそれぞれ配備される複数の追尾アンテナのうちから、必要な周波数帯域幅を確保可能な追尾アンテナに切り換えるハンドオーバー処理を制御するための追尾アンテナ制御手段を含む。
【0016】
好ましくは、複数の機体アンテナは、複数の所定の領域にそれぞれ設けられる複数のスロットアンテナである。
【0017】
好ましくは、複数の機体アンテナとして、飛翔体の外殻の第1の周に直交する第2の周のまわりの複数の所定の領域にそれぞれ設けられた複数のスロットアンテナをさらに有する
【発明の効果】
【0021】
この発明の追尾アンテナシステム、飛翔体および追尾アンテナ装置によれば、飛翔体側および地上局側の装備を軽量化・簡略化することが可能である。
【0022】
また、飛翔体の姿勢や位置に応じて、安定した無線通信リンクを維持することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本実施の形態の追尾アンテナ装置を含む無線通信システムの構成を示す概念図である。
図2】本実施の形態の無人航空機100の構成を説明するための図である。
図3】システムサーバ300の構成を説明するための機能ブロック図である。
図4】システムサーバ300により、無人航空機100.1を追尾する際の地上局200およびシステムサーバ300の処理の概念を説明するための図である。
図5】無線航空機100、地上局200およびシステムサーバ300の処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態の追尾アンテナ装置を含む無線通信システムについて、図に従って説明する。なお、以下の実施の形態において、同じ符号を付した構成要素および処理工程は、同一または相当するものであり、必要でない場合は、その説明は繰り返さない。
【0025】
なお、以下では、特に限定されないが、たとえば、飛翔体である移動局は無人航空機(UAV:Unmanned Air Vehicle)であるものとして説明する。ただし、たとえば、無人ヘリコプター、ドローンなどでもよい。
【0026】
以下に説明するように、本実施の形態の無線通信システムは、ある空域を飛行する複数の無人航空機と地上の追尾アンテナによって構成される無線通信システムであって、地上から無人航空機を追尾する複数の追尾アンテナを備えている。無人航空機は、切替型の複数の高利得アンテナおよびハイブリッド慣性航法装置を搭載する。そして、無人飛行機は、計測した当該航空機の位置、速度、姿勢情報を地上に伝送し、この情報を用いて、地上局側の制御システム(システムサーバ)は、使用する地上追尾アンテナ及び当該航空機のアンテナを所定の伝送速度が維持可能となるように使用する地上追尾アンテナおよび航空機側での切替型アンテナを選定する。
[実施の形態]
図1は、本実施の形態の追尾アンテナ装置を含む無線通信システムの構成を示す概念図である。
【0027】
空中や海上など、地上局から見通しの良い領域で無線通信を行う場合、高利得の指向性アンテナで移動局を追尾する方法により到達距離を長くできる。
【0028】
大規模な災害・事故発生時には当該エリアの情報を可能な限り同時に広く、リアルタイムで撮影、入手する必要がある。この場合、複数の無人航空機100.1〜100.2(以下、総称する場合は「無人航空機100」と呼ぶ)での撮影した画像を地上で受信する必要があり、このため1つの無人航空機に対して1つの追尾アンテナを用いて高速伝送に必要な周波数帯域幅を確保可能な無線通信リンクを確保することになる。
【0029】
なお、以下では、説明の簡単のために、無人航空機は、2機であるものとして説明するが、その数は、より多くてもよい。
【0030】
図1においては、地上局200.1〜200.M(以下、総称する場合は「地上局200」と呼ぶ。)は、追尾アンテナ装置を有し、無人航空機100.1〜100.2の方向にアンテナを指向させることが可能である。地上局200.1〜200.Mは、それぞれ、対応する指向性アンテナ10.1〜10.M(M:自然数。以下、総称する場合は「指向性アンテナ10」と呼ぶ)により、移動局と無線通信をするものとする。指向性アンテナ10.1〜10.Mの指向性の範囲を、図1では、ビーム方向BM.1〜BM.Mとして示す。また、無人航空機100.1〜100.2は、後に詳しく説明するように、高利得アンテナ120を備える。
【0031】
システムサーバ300は、無人航空機100.1〜100.2から地上局200.1〜200.M経由で伝送される無人航空機100.1〜100.2の位置・姿勢情報と、地上局200.1〜200.Mで受信する無人航空機100.1〜100.2の信号強度の情報に基づいて、目的とする通信に必要な周波数帯域幅確保が可能な無線通信リンクを監視し、後に説明するように、無人航空機100.1〜100.2と無線通信を接続し追尾する地上局を、地上局200.1〜200.Mのうちから、随時、選択し、選択した地上局、たとえば、地上局200.1および200.Mの追尾方向の制御を行う。
【0032】
地上局200.1および200.Mでは、それぞれ、システムサーバ300からの追尾方向の制御信号に応じて、追尾アンテナ制御部20.1および20.Mが、駆動部30.1および30.Mをそれぞれ制御し駆動して、指向性アンテナ10.1および10.Mの方向を制御する。指向性の駆動方法としては、たとえば、2軸以上の軸数を有するジンバル機構により駆動される構成としてもよいし、あるいは、アレーアンテナとして電子的に指向性を制御してもよい。
(無人航空機100の構成)
前述したように、従来、無人航空機には、ホイップアンテナを代表とする全方位の低利得アンテナが使用されることが多い。これにより、無人航空機に搭載したGPS受信機より計測した情報を地上追尾アンテナ側に送信することにより、当該地上追尾アンテナの位置関係から対象無人航空機の相対、方位角を計算し、対象無人航空機を追尾可能とする構成をとる場合があった。
【0033】
図2は、本実施の形態の無人航空機100の構成を説明するための図である。
【0034】
図2を参照して、図2(a)に示すように、無人航空機100の円筒形状の胴体110のまわりに、ホイップアンテナより高利得なアンテナ、たとえば、スロットアンテナ120.1〜120.3(以下、総称する場合は「アンテナ120」と呼ぶ)が、3個設けられている。スロットアンテナ120.1〜120.3は、胴体形状に適合したアンテナ形状をもつ。なお、スロットアンテナの個数は、3個よりも多くてもよい。
【0035】
ここで、「スロットアンテナ」とは、長手方向に約1/2波長、幅3/4波長の大きさの金属板(または金属箔、網)の中央に、幅1/2波長、高さ約0.01波長程度のスロットを設けたものである。スロットの長辺の中央の2点、あるいは中央から少しずらした位置に給電する。多数のループアンテナをスタックにしたものと同じ形になり、利得が高い。特に、図2(a)に示した形状のものは、金属板を円筒形に丸めたシリンドリカル・スロットアンテナと呼ばれる。
【0036】
図2(a)では、無人航空機100の胴体の一部が、円筒形状であることから、このようなシリンドリカル・スロットアンテナを、円筒形状の中心軸C−C´のまわりに複数配置した構成となっている。したがって、無人航空機100の胴体全周を覆う形で、複数のスロットアンテナを取り付け、機体軸まわりに、ホイップアンテナよりも数dB以上の高利得化を図ることができる。
【0037】
ただし、飛翔体がより一般的な形状であれば、このように、円筒形状の軸の周りに配置する構成に必ずしも限定されない。すなわち、飛翔体の外形形状に合わせて、航空力学的に許容できる範囲で、極力、多くの方向、望ましくは全方向からの電波を受信し、あるいは、逆に電波を送信できるように、スロットアンテナを配置した構成とすることができる。たとえば、外殻が球形形状のドローンであれば、外殻の第1の周(たとえば、定常状態で水平な周)のまわりの所定の複数領域に、複数のスロットアンテナを設け、この第1の周に直交する第2の周のまわりの所定の複数領域に、複数のスロットアンテナを設ける構成とすることも可能である。
【0038】
飛行にあたって、空気抵抗が大きく影響するような無人航空機では、スロットアンテナのような板状アンテナを上述のように、機体の胴体を覆うように設けることが望ましい。ただし、ドローンのように、機体の空気抵抗の影響が比較的低い場合は、モノポールあるいはダイポールアンテナのような線状アンテナを、機体から突き出るように設けて、複数のアンテナを組み合わせて、機体から見てあらゆる方向に所定以上の利得が確保できるように構成することも可能である。
【0039】
図2(b)は、無人航空機100の機能ブロック図である。
【0040】
無人航空機100は、図2(a)に示したような構成を有するアンテナ120と、アンテナ120のアンテナのうち、無線リンクに使用するアンテナを選択するための高周波スイッチ124と、選択されたアンテナにより通信を行うための無線部122と、無人航空機100の飛行の制御や通信の制御を行うための搭載コンピュータ128と、無人航空機100の位置や姿勢を計測するためのGPSおよびジャイロを含むハイブリッド航法装置126と、上空からの画像(静止画、動画)を撮影するための撮像装置130とを含む。
【0041】
高周波スイッチ124については、切替えによる損失を発生させないために、例えば高周波用のリレーや半導体スイッチを用い,搭載コンピュータ128の指示によりアンテナを切り替える。
【0042】
ハイブリッド航法装置126により計測された無人航空機100の位置、速度、姿勢角(ヨー角、ロール角、ピッチ角)、姿勢角速度の情報は、計測情報として、選択されたアンテナから地上局に対して、たとえば、一定時間間隔で送信される。また、地上局からの指示に従って、撮像装置130で撮影された画像データも、同様にして、選択されたアンテナから地上局に対して送信される。
【0043】
なお、選択されたアンテナ120からの受信電波強度の情報を、無線部122が計測し、搭載コンピュータ128の制御にしたがって、選択されたアンテナから地上局200に対して送信し、さらに、受信電波強度の情報を地上局200からシステムサーバ300に伝送する構成としてもよい。あるいは、無人航空機100からの信号の受信電波強度については、地上局200で計測して、受信電波強度の情報を地上局200からシステムサーバ300に伝送する構成としてもよい。以下では、地上局200側で、受信電波強度を測定するものとして説明する。
【0044】
高周波スイッチ124により、アンテナ120のうちの特定のアンテナを選択する方法としては、たとえば、以下のような方法のいずれかを用いて、あるいは、必要に応じて、制御モードを切り替えて行うことができる。
【0045】
1)地上局200からの制御により、複数のアンテナ120.1〜120.L(L:自然数)のうちから、地上局200との間の無線リンクとして、最も利得が高くなるアンテナを随時選択する。なお、この制御は、無人航空機100側が地上局の位置の情報を予め記憶するなどすることで、地上局からの制御ではなく、搭載コンピュータ128により、無人航空機側で自律的に行ってもよい。
【0046】
2)地上局からの制御により、複数のアンテナ120.1〜120.L(L:自然数)のうちから、地上局との間の無線リンクとして、現在、通信中のアンテナの利得が所定レベル以下となった場合に、現在のアンテナよりも利得が高いアンテナが存在するときは、そのアンテナを選択する。なお、この制御も、地上局からの制御ではなく、搭載コンピュータ128により、無人航空機側で自律的に行ってもよい。
【0047】
なお、以下では、地上局からの制御により、最も利得が高くなるアンテナが随時選択されるものとして説明する。
【0048】
したがって、高利得アンテナの選択は、地上からのコマンドにより実行され、特に限定されないが、複数の高利得アンテナのうち、最も利得が高くなるアンテナとして選択された1つのみが使用されるものとする。ここで、「最も利得が高くなるアンテナ」とは、たとえば、地上の追尾アンテナからみて、無人飛行機100の位置・姿勢・速度から推定される見込み角から、最も高利得となるアンテナが選択されるものとすることができる。
【0049】
図3は、システムサーバ300の構成を説明するための機能ブロック図である。システムサーバ300は、周知のコンピュータシステムと同様に構成され、記憶装置に格納されたプログラムに基づいて、CPU(Central Processing Unit)などの演算装置が、演算処理を行うことで、図3に示すような各機能を実行するものとする。
【0050】
システムサーバ300は、地上局200(図3では、例示的に地上局200.m−1および200.mを示す)との間で通信するための通信インタフェース(以下、通信I/F)302と、無人航空機100から送信され地上局200で受信されて伝送されてきた無人航空機100の位置、速度、姿勢角、姿勢角速度の情報を取得する位置・姿勢情報取得部304と、位置・姿勢情報取得部304からの情報により、地上局200の各々が、無人航空機100を追尾する方向を制御するための追尾方向制御信号を生成する追尾方向制御部306とを備える。追尾方向制御部306は、無人航空機100において高利得となるアンテナ120を選択するために、無人航空機100側から送信されてくる無人航空機100の位置、速度、姿勢角及び姿勢角速度等の情報を用いて、追尾を担当している地上追尾アンテナ10との相対姿勢角より、最大利得となるアンテナを選択する指示を、追尾方向制御信号として併せて生成する。追尾方向制御信号は、それぞれ、対応する地上局200に伝送される。
【0051】
システムサーバ300は、さらに、地上局200と無人航空機100との間の通信の受信信号強度に関する情報を地上局200から取得する信号強度情報取得部304と、信号強度情報取得部304からの情報により、無人航空機100の追尾を担当する追尾アンテナを備えた地上局の選択を制御するための追尾アンテナ変更指示信号を生成する追尾アンテナ制御部312とを備える。追尾アンテナ変更指示信号は、それぞれ、対応する地上局200に伝送される。
【0052】
追尾アンテナ制御部312は、無人航空機100から送信され、地上追尾アンテナ10で受信される電波の強度およびGPS位置情報等により算出可能な自由空間伝搬損失の値を用いて、所望の周波数帯域幅が確保できなくなる可能性を常時計算し、確保不可能となる前に、地上局200に配備している複数の追尾アンテナ10のうち、必要な周波数帯域幅を確保可能な追尾アンテナに切り換えるための処理を実行する。
【0053】
システムサーバ300は、さらに、無人航空機100からの撮像情報を地上局200経由で受信する撮像データ取得部320と、取得した撮像データを格納するための記憶装置322とを備える。
【0054】
なお、システムサーバ300は、複数の無人航空機100および複数の追尾アンテナ10の組合せを集中管理するために1つのサーバーとして設置されてもよいし、あるいは分散配置された複数のサーバーによって構成されてもよい。
【0055】
図4は、システムサーバ300により、無人航空機100.1を追尾する際の地上局200およびシステムサーバ300の処理の概念を説明するための図である。
【0056】
また、図5は、図4に示した概念を実行するための無線航空機100、地上局200およびシステムサーバ300の処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【0057】
なお、図4においては、時刻t=t1において追尾アンテナ10.mにより、無人航空機100.1を追尾していた状態から、時刻t=t1+Δにおいて、無人航空機100.1が移動したことで、追尾アンテナ10.m−1により、無人航空機100.1を追尾する状態に移行する際の概念を示している。
【0058】
図4および図5を参照して、まず、システムサーバ300において、それまでに無人航空機100から受信している計測情報に基づいて、追尾方向制御部306が追尾方向制御信号を生成して、地上局200に対して送信し(S100)、追尾アンテナ制御部312が追尾を担当する追尾アンテナの変更が必要であるかを算出して(S102でY)であれば、追尾アンテナ変更指示として、地上局200へ送信する(S104)。
【0059】
なお、初期設定としては、たとえば、全ての地上局200からの情報に基づいて、システムサーバ300が、追尾方向制御信号および追尾アンテナ変更指示信号を算出するものとすることができる。
【0060】
地上局200は、システムサーバ300からの追尾方向制御信号や追尾アンテナ変更指示信号の制御信号を受信し(S200)、追尾アンテナ変更指示がされている場合(S202)は、追尾アンテナを切り替えるためのハンドオーバー処理を実行し(S204)、追尾方向制御信号に応じて、追尾アンテナの指向方向の制御を実行する(S206)。
【0061】
地上局200は、さらに、無人航空機100に対して、アンテナ120のうちから利得が所定の条件を満たすアンテナを選択する指示や、撮像情報の送信を指示する制御信号を、送信する(S208)。
【0062】
無人航空機100では、搭載コンピュータ128が、ハイブリッド完成航法装置から位置や姿勢等の情報を取得し(S300)、S208で地上局200から送信された制御信号を受信する(S302)。
【0063】
無人航空機100では、さらに、地上局200からの指示に基づく搭載コンピュータ128の制御により、高周波スイッチ124によりアンテナ120のうちの1つのアンテナの選択を行う(S304)。
【0064】
続いて、無人航空機100では、自身の位置や姿勢等に関する情報を地上局200に対して送信し(S306)、地上局200からの指示に応じて、撮像情報を地上局200に対して送信する(S308)。
【0065】
一方、地上局200では、無人航空機100からの位置や姿勢等に関する情報を受信し(S210)、併せて、無人航空機100からの信号の地上局200での受信強度に関する情報を取得し(S212)、無人航空機100からの撮像情報を受信して(S214)、無人航空機100から受信した情報をシステムサーバ300に伝送する(S216)。
【0066】
システムサーバ300では、地上局200からステップS216で送信された信号を受信して(S106)、地上局200に対する追尾方向制御信号および追尾アンテナ変更指示信号を算出する(S108)。
【0067】
以上のように、本実施の形態の追尾アンテナシステム、飛翔体および追尾アンテナ装置によれば、災害・事故発生等によるある空域を飛行する無人航空機と地上追尾アンテナによる無線通信において、無人航空機側においてはその姿勢に依存することなく、地上の追尾アンテナとのリンクを確保するのに最適な利得のアンテナを選択することができる。
【0068】
また、地上側でも無人航空機を小規模な追尾アンテナにより確実な追尾を実現し、高速伝送可能な無線通信リンクを維持することが可能である。
【0069】
今回開示された実施の形態は、本発明を具体的に実施するための構成の例示であって、本発明の技術的範囲を制限するものではない。本発明の技術的範囲は、実施の形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示されるものであり、特許請求の範囲の文言上の範囲および均等の意味の範囲内での変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0070】
10.1〜10.M 指向性アンテナ、30.1〜30.M 駆動部、100.1,100.2 無人航空機、120 アンテナ、200.1〜200.M 地上局、122 無線部、124 高周波スイッチ、126 ハイブリッド慣性航法装置、128 搭載コンピュータ、130 撮像装置、300 システムサーバ、302 通信I/F、304 位置・姿勢情報取得部、306 追尾方向制御部、310 信号強度情報取得部、312 追尾アンテナ制御部、320 撮像データ取得部、322 記憶装置。
図1
図2
図3
図4
図5