(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記データ作成部は、前記第1、第2および第3の二次元点群データを作成する際、枕木の正面の壁に沿った平面のZ軸方向をY軸とし、それと直交する方向をX軸とする、請求項1ないし4のいずれかに記載の枕木加工用データ作成システム。
前記レーザスキャナのスキャナ部はスライダに取り付けられ、当該スライダは、前記車両本体に固定されたガイド板上を、当該計測車両の進行方向およびそれと直交する方向に移動可能である、請求項1ないし5のいずれかに記載の枕木加工用データ作成システム。
前記計測車両には、3台のレーザスキャナが搭載されており、それぞれのスキャナ部は、当該計測車両の進行方向と直交する方向に距離を隔て、かつ水平面内の角度が異なる状態で設置されている、請求項1ないし5のいずれかに記載の枕木加工用データ作成システム。
前記データ作成部は、前記第1、第2および第3の三次元点群データから、同一の枕木のデータをそれぞれ取り出し、当該データに識別用の番号を付与する、請求項1ないし4のいずれかに記載の枕木加工用データ作成システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
レーザスキャナを用いて枕木の下面の形状を計測するためには、枕木の側面に対してレーザを斜めから照射する必要がある。更に、レールによってレーザビームが遮られることを考慮すると、複数の位置からレーザビームを照射し、得られた点群データを組み合わせて枕木の形状を再現する必要がある。
【0010】
複数の位置においてスキャンされた点群データを組み合わせる場合、レーザスキャナの位置と姿勢を示すデータが必要となる。その際に問題となるのは、レーザスキャナの位置と姿勢を特定するために用いるGNSS受信機と慣性計測装置の計測誤差である。
【0011】
レーザスキャナにより得られる点群データの計測誤差は1〜2mmであるのに対して、GNSS受信機と慣性計測装置により得られる位置・姿勢データの計測誤差は10cm程度である。従って、レーザスキャナで計測した点群データをそのまま組み合わせても、枕木の形状を特定するデータを作成することはできない。
【0012】
このため現状では、レーザスキャナによって計測された三次元点群データをディスプレイに表示し、作業者が、複数の位置で計測した点群データから該当する部分を切り出して枕木の寸法を計測しているが、枕木の数が膨大であることから、作業に多大の時間を要し、かつ作業者の肉体的・精神的負担も大きい。
【0013】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたもので、複数の地点で計測した点群データを組み合わせて、枕木加工用のデータを自動的に作成できるデータ作成システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため本発明に係る枕木加工用データ作成システムは、 鉄道橋上の軌道を構成する一対のフランジと一対のレールとの間に挿入される複数の枕木の加工用データを作成する枕木加工用データ作成システムであって、
車両本体にレーザスキャナ、GNSS受信機、および慣性計測装置が搭載され、レール上を移動しながら、前記レーザスキャナを用いて軌道までの距離と方向を計測してレーザスキャンデータを取得し、かつ前記GNSS受信機および慣性計測装置を用いて前記車両本体の位置および姿勢に関するデータを取得する計測車両と、
前記レーザスキャナ、GNSS受信機および慣性計測装置で取得されたデータに基づいて枕木加工用データを作成するデータ加工装置と、を備え、
前記レーザスキャナは、スキャナ部を回転させながらパルス状のレーザビームを対象物に放射し、反射光を受信して対象物までの距離を計測するもので、前記スキャナ部は、レーザビームの回転断面が鉛直方向に対して所定の角度を保つように配置され、
前記データ加工装置は、
前記レーザスキャナで取得したレーザスキャンデータを、前記GNSS受信機および慣性計測装置で取得したデータに基づいて、地理座標系で表示された三次元点群データに変換するデータ変換部と、
前記三次元点群データに基づいて、少なくともそれぞれの枕木の厚みを算出して枕木加工用データを作成するデータ作成部と、で構成され、
前記データ変換部は、前記計測車両の進行方向と直交する方向のうち、枕木の正面左側、正面右側および正面中央に対向する地点に設置されたスキャナ部を用いて計測された第1、第2および第3の三次元点群データを作成し、
前記データ作成部は、
前記第1、第2および第3の三次元点群データから、枕木の正面の壁に沿った平面の所定幅の点群データをそれぞれ抽出して、第1、第2および第3の二次元点群データを作成すると共に、
前記第1の二次元点群データに基づいて枕木の左辺の厚みを算出し、前記第2の二次元点群データに基づいて枕木の右辺の厚みを算出し、前記第3の二次元点群データに基づいて枕木の上辺の長さを算出することを特徴とする。
【0015】
ここで、前記データ作成部は、前記第1の二次元点群データの上辺、下辺および左辺に沿って直線を引くと共に、それぞれの直線の位置と傾きを、直線から所定の範囲内にある点群データを用いて最小二乗法により補正し、当該補正された左辺の直線が、上辺および下辺の直線で挟まれる区間の距離を算出し、当該算出された値を左辺の厚みとすることが好ましい。
【0016】
また前記データ作成部は、前記第2の二次元点群データの上辺、下辺および右辺に沿って直線を引くと共に、それぞれの直線の位置と傾きを、直線から所定の範囲内にある点群データを用いて最小二乗法により補正し、当該補正された右辺の直線が、上辺および下辺の直線で挟まれる区間の距離を算出し、当該算出された値を右辺の厚みとすることが好ましい。
【0017】
前記データ作成部は、前記第3の二次元点群データの上辺に沿って直線を引くと共に、当該直線の位置と傾きを、直線から所定の範囲内にある点群データを用いて最小二乗法により補正し、当該補正された直線の長さが、予め用意した長さのうちいずれに近いか判定し、最も近いと判定した値を前記上辺の長さとすることが好ましい。
【0018】
前記データ作成部は、前記第1、第2および第3の二次元点群データを作成する際、枕木の正面の壁に沿った平面のZ軸方向をY軸とし、それと直交する方向をX軸とすることが好ましい。
【0019】
前記レーザスキャナのスキャナ部はスライダに取り付けられ、当該スライダは、前記車両本体に固定されたガイド板上を、当該計測車両の進行方向およびそれと直交する方向に移動可能であることが好ましい。
【0020】
前記計測車両には、3台のレーザスキャナが搭載されており、それぞれのスキャナ部は、当該計測車両の進行方向と直交する方向に距離を隔て、かつ水平面内の角度が異なる状態で設置されていることが好ましい。
【0021】
更に、前記データ作成部は、前記第1、第2および第3の三次元点群データから、同一の枕木のデータをそれぞれ取り出し、当該データに識別用の番号を付与することが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る枕木加工用データ作成システムによれば、データ作成用のプログラムを用いて枕木加工用のデータの大半を自動的に作成できるため、データ作成に要する時間を大幅に削減でき、更には、データ作成に従事する作業者の肉体的・精神的負担を軽減できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態に係る枕木加工用データ作成システムについて、図面を参照しながら説明する。
【0025】
<鉄道橋上の軌道の構造>
本発明に係る枕木加工用データ作成システムは、鉄道橋上の軌道に設置された枕木を取り換える際に必要なデータを作成するものである。従って、枕木加工用データ作成システムの構成について説明する前に、枕木を含む鉄道橋上の軌道の構造について説明する必要がある。
【0026】
図1(a)は鉄道橋上の軌道の構造物を示す平面図、
図1(b)は、
図1(a)の構造物をX−X線で切断した正面図である。また
図2は、
図1(a)のうちフランジ上に設置された枕木の一部を側面から見た図である。
【0027】
枕木11は、軌道を構成する一対のフランジ12Lと12Rを跨ぐように設置され、枕木11の上には一対のレール13L、13Rが設置されている。
図1(b)に示すようにレール13L、13Rは、それぞれ締結具14によって枕木11に固定されている。
【0028】
枕木11は、受け台15を介してフランジ12L、12Rに取り付けられている。
図2に示すように、受け台15はフランジ12L、12Rの上面に溶接されており、それぞれの枕木11は、ボルトとナットを用いて受け台14に固定されている。以降、フランジ12L、12Rを総称してフランジ12ともいう。同様に、レール13L、13Rを総称してレール13ともいう。
【0029】
なお、
図1(a)については、見易さを考慮して、それぞれの枕木11に取り付けられたレールの締結具14を省略している。また、鉄道橋の軌道の下には、図示した構造物以外に橋脚の梁等があるが、これらは本発明との関係が乏しいため、図では省略している。
【0030】
枕木11には木材、コンクリートまたは合成木材が用いられるが、鉄道橋上の軌道で用いる枕木の材料としては、耐振動性に優れた合成木材が好ましい。ここで、合成木材とは、ガラス長繊維を長手方向に引き揃えて埋設した熱硬化性の樹脂発泡体であり、例えば、積水化学工業株式会社製、商品名「エスロンネオランバーFFU」等が使用可能である。
【0031】
枕木11の厚みは、レール13の勾配や曲率に応じて変わっている。例えば、レール13がカーブした場所では、外側のレールが内側のレールよりも高くなるように、枕木11の左右の厚みを変えている。
【0032】
従って枕木11を取り替える際には、設置される場所に応じて枕木の左右の厚みを調節する必要がある。本発明では、後述する計測車両を用いて枕木の形状を計測し、その計測データから枕木の左右の厚みを算出している。そして取り換え用の枕木11を作製する際に、左右の厚みを変えることによって枕木の上面の高さを調節している。
【0033】
具体的には、枕木11と同じ長さと幅を有し、かつ厚みが枕木よりも若干薄い直方体状の原木を用意し、算出された左辺と右辺の厚みに応じて、底面に原木と同じ材料で作製された板状のパッキン110を貼り付けて取り替え用の枕木を作製している。
【0034】
図1(b)を参照し、取り換え用の枕木を作製する際に必要となるデータについて説明する。まず枕木11の長手方向の長さL1が必要である。現在、使用されている枕木の長さは、2400mm、2600mm、2800mmまたは3000mmのいずれかであるため、計測により、これらの長さのいずれに近いかが分かれば、長さL1を特定することができる。
【0035】
次に、枕木の左辺と右辺の厚みT1、T2が必要である。上述したように、枕木の左右の厚みは、左辺と右辺の厚みの計測値に基づき、原木に、不足する厚みの板状のパッキン110を貼り付けることにより調節される。
【0036】
枕木11の底面には凹状や凸状の段差部111が形成されている場合が多く、また段差部111の位置や幅は枕木によって異なっている。
図1(b)に示すように、枕木11の中央に段差部111が形成されている場合、左辺および右辺から段差部111が形成されている位置までの距離L2およびL3を求めれば、取り替え用の枕木を作製するために必要なデータ(L1、L2、L3、T1、T2)が全て分かる。
【0037】
なお、段差部111の厚みは原木の厚みと同一となり、設置されている枕木の厚みと異なる場合があるが、枕木としての機能に影響しないため、問題となることはない。また上述の説明では、枕木の厚みを調節する際に、板状のパッキンを底面に貼り付けるとしたが、原木の底面を削ることによって厚みを調節してもよい。
【0038】
<枕木加工用データ作成システムの構成>
次に、
図3および
図4を参照して、本発明の実施の形態に係る枕木加工用データ作成システムについて説明する。
【0039】
図3は、本実施の形態に係る枕木加工用データ作成システムの基本的な構成を示すブロック図である。枕木加工用データ作成システム1は、線路上を移動しながら必要なデータを収集する計測車両2と、計測車両2で収集されたデータに基づいて、枕木加工用データを作成するデータ加工装置3とで構成されている。
【0040】
枕木加工用データ作成システム1について説明する前に、枕木加工用データを作成する際の基本的なステップを説明する。本発明では、以下の3段階のステップにより枕木加工用データを作成している。
【0041】
最初に、計測車両2に搭載されたレーザスキャナ21を用いて、レール13上を走行しながら線路周辺の構造物までの距離と角度を計測して、レーザスキャンデータG1を取得する(第1のステップ)。
【0042】
次に、レーザスキャンデータG1を、計測車両2に搭載されたGNSS受信機22および慣性計測装置23を用いて取得したデータに基づいて、地理座標系で表示された三次元点群データG2に変換する(第2のステップ)。
【0043】
最後に、三次元点群データG2から、隣接するレールとフランジを含む個々の枕木のデータを切り出し、当該データに基づいて枕木の長さと厚みを算出し、枕木を識別するデータと合わせて枕木加工用データを作成する(第3のステップ)。
【0044】
本発明では、レーザスキャナ21によって得られる三次元点群データに基づいて枕木加工用データを作成する際に、枕木の特性を活用している。
【0045】
前述したように、取り替え用の枕木は、幅および長さが定まった直方体状の原木の底面に、板状のパッキンを貼り付けて作製する。枕木の上辺の長さは決まっているため、枕木の左辺および右辺の厚みがわかれば、底面を除く枕木の断面形状を再現できる。本発明では、3つの地点で計測した三次元点群データを用いて、枕木の上辺の長さと、左辺および右辺の厚みを求めている。以下に、その概要を説明する。
【0046】
枕木の正面左側(または正面右側)を斜めにレーザスキャンして得られる三次元点群データのうち枕木の正面の壁に沿った平面の所定幅(例えば±3cm、計6cm)の点群データを抽出し、枕木の正面の壁に沿った平面のZ軸方向をY軸とし、それと直交する方向をX軸とする第1(または第2)の二次元点群データを作成する。
【0047】
上述の第1(または第2)の二次元点群データを用い、枕木の上辺、下辺および左辺(または右辺)に沿って直線を引くと共に、それぞれの直線の位置を最小二乗法により補正する。そして補正された左辺(または右辺)の直線が、上辺および下辺の直線で挟まれる区間の距離を算出し、左辺(または右辺)の厚みとする。
【0048】
一方、枕木を正面中央からレーザスキャンすることにより得られる三次元点群データから、上述と同様の方法によって第3の二次元点群データを作成する。その第3の二次元点群データを用いて枕木の上辺の長さを特定する。
【0049】
前述したように、枕木は、2400mm、2600mm、2800mm、または30000mmのいずれかの長さの原木を用いているため、直線の長さが、これらのいずれに近いかを判定することによって枕木の長さを特定することができる。
【0050】
特定された長さの枕木の上辺の直線の左右の端に、算出された長さ(厚み)の左辺と右辺の直線を、上辺と直交する状態で付加することにより、枕木の断面形状を示す四角形のデータが得られる。
【0051】
レーザスキャナのスキャナ部211を枕木11の中央に対向するように設置し、レーザビームの回転断面が枕木と平行になる状態でスキャンした場合、枕木の上辺に関する十分な密度の点群データを得ることができるが、枕木の左辺および右辺に関する十分な密度の点群データを得ることができない。
【0052】
一方、スキャナ部211を枕木11の正面左側に対向するように設置し、レーザビームの回転断面を枕木に対して傾けてスキャンした場合、枕木の左辺に関する十分な密度の点群データを得ることができるが、枕木の右辺に関する十分な密度の点群データを得ることはできない。
【0053】
逆に、スキャナ部211を枕木11の正面右側に対向するように設置し、レーザビームの回転断面を枕木に対して傾けてスキャンした場合、枕木の右辺に関する十分な密度の点群データを得ることができるが、枕木の左辺に関する十分な密度の点群データを得ることはできない。
【0054】
そこで本発明では、枕木に対してスキャナ部211を3つの地点に設置し、枕木の左辺の厚みについては、枕木の正面左側に対向するスキャナ部により得られた点群データを用いて算出し、枕木の右辺の厚みについては、正面右側に対向するスキャナ部により得られた点群データを用いて算出し、上辺の長さについては、正面中央に対向するスキャナ部により得られた点群データを用いて算出する。
【0055】
このようにして得られた左辺および右辺の厚みならびに上辺の長さのデータを用いることにより、正確な寸法の枕木を再現できる。
【0056】
なお、レールや移動止め板等の障害物によって、枕木の底面に形成された段差部111に関する十分な点群データを得られない場合があるため、現状では、計測した三次元点群データから、枕木の加工に必要な全てのデータを作成することは難しい。
【0057】
<計測車両の構成と機能>
次に、上記第1のステップを実現する計測車両2の構成と機能について説明する。
【0058】
図3に示すように、計測車両2は、レーザスキャナ21、GNSS受信機22、慣性計測装置23、レーザスキャンデータ記憶部24および計測データ記憶部25で構成されている。図示しないが、レーザスキャンデータ記憶部24および計測データ記憶部25は、磁気ディスク装置または不揮発性メモリを内蔵したデータロガーで構成されている。
【0059】
図4に計測車両2の外観を示す。計測車両2はレール13上を走行するもので、車両本体26の左右の側面には車輪261が取り付けられている。また車両本体26の上面には四角形状のフレーム262が取り付けられ、その頂部には、計測車両2の進行方向およびそれと直交する方向に張り出したガイド板27が取り付けられている。計測車両2は、シャーシ263に内蔵されたモータによって車輪261を回転させることによりレール13上を移動する。
【0060】
ガイド板27の上面には、レール13と平行および直交する二方向に移動可能なスライダ28が取り付けられており、その上に慣性計測装置23およびGNSS受信機のアンテナ221を支持する支持台29が取り付けられている。
【0061】
支持台29は、回転テーブル291、傾斜テーブル292および旋回テーブル293で構成され、旋回テーブル293の下部には、レーザスキャナ21のスキャナ部211が取り付けられている。
【0062】
回転テーブル291の回転角度、傾斜テーブル292の傾斜角度および旋回テーブル293の旋回角度を制御することによって、スキャナ部211から放射されるレーザビームLBの回転断面の向きと傾きを変えることができる。
【0063】
なお、レーザスキャナ21の本体およびGNSS受信機22の本体、更にレーザスキャンデータ記憶部24および計測データ記憶部25は、車両本体26の上部に設置された直方体状のシャーシ263に収容されている。またスキャナ部211、GNSS受信機のアンテナ221および慣性計測装置23とシャーシ263の間はケーブルで接続されているが、図では煩雑さを避けるために省略している。
【0064】
次に、レーザスキャナ21、GNSS受信機22および慣性計測装置23について説明する。レーザスキャナ21は、旋回テーブル293の下方に取り付けられた、360度連続回転式のスキャナ部211から所定の時間間隔でパルス状のレーザビームLBを発射し、レーザビームLBがレーザ発射部分と対象物の間を往復する時間で計測点までの距離を計測する。また、スキャナ部211の取り付け角度と回転方向によって方向角を得ることができる。結果として、レーザが照射された各計測点の極座標で表された位置データを得ることができる。
【0065】
スキャナ部211によってレーザビームLBを回転させながら計測車両2がレール上を走行すると、レーザビームLBが螺旋状の軌跡を辿りながら走行方向に移動し、構造物までの距離と方向を示すデータが連続して得られる。このようにして得られた計測点までの距離と方向を示すデータの集まりであるレーザスキャンデータG1は、計測時刻と共に、レーザスキャンデータ記憶部24に記憶される。
【0066】
GNSS受信機22は、複数の人工衛星のそれぞれから発信された測位信号の搬送波を観測し、この搬送波の観測情報に基づいて、GNSS受信機22のアンテナ221の位置を、三次元座標で表された位置情報として取得する。
【0067】
慣性計測装置(通常、“Inertial Measurement Unit”と呼ばれる)23は、運動を司る3軸の角度(または角速度)と加速度を計測する装置である。慣性計測装置23は、基本的に、3軸のジャイロと3方向の加速度計によって三次元の角速度と加速度を求める。
【0068】
GNSS受信機22で取得された位置情報のデータと、慣性計測装置23で計測された角度(または角速度)と加速度のデータは、計測時刻と共に計測データ記憶部25に記憶される。
【0069】
<レーザビームの走査方向とスキャナ部の設置位置>
次に、
図5を参照して、レーザスキャナ21によるレーザビームLBの走査方向とスキャナ部211の設置位置について説明する。
図5は、レール13上を移動する計測車両2を上方から見た図である。なお、図では、ガイド板27、スライダ28、支持台29およびスキャナ部211だけを標示し、他の部材は省略している。
【0070】
本実施の形態では、計測対象である枕木の構造的な特性を考慮してスキャナ部211の設置位置を定めている。具体的には、
図5に太い破線の楕円で示したように、レーザビームLBの回転断面が鉛直方向に対して20度傾いた状態でスキャナ部211を設置している。
【0071】
枕木加工用データの作成においては、各枕木11の上辺および下辺の高さデータと左辺および右辺の位置データが必要となる。一方、枕木11は長手方向がレールと直交するように設置され、かつ多数の枕木11がほぼ等間隔に設置されている。このような構造物に対し、レーザビームLBを用いて枕木11の下辺の高さデータを得るためには、レーザビームLBの回転断面を鉛直方向に対して傾ける必要がある。
【0072】
しかし、レーザビームLBの回転断面の傾斜角度が大きすぎると、手前の枕木が邪魔になってレーザビームLBが枕木の下辺まで届かない。以上の点を考慮し、本実施の形態では、レーザビームLBの回転断面を鉛直方向に対して20度傾けている。
【0073】
更に、本実施の形態では、
図5に2点鎖線で示したように、スキャナ部211をレール13と直交する方向に移動させると共に、枕木11に対して傾け、3つの位置(P1、P2、P3)において水平方向の角度を変えた状態(0°、±45°)でスキャナ部211を動作させて、3つの三次元点群データを得ている。
【0074】
スキャナ部211を計測車両2の進行方向と直交する方向の任意の位置に設置してレーザビームLBを回転走査した場合、レール13が影となってその下に位置する枕木11の上辺と下辺のデータを計測できなくなる。
【0075】
本実施の形態では、上述の問題点を解決するために、スキャナ部211を計測車両2の進行方向と直交する方向(白抜きの矢印で示す)に移動させ、その地点でレーザビームLBを回転走査してレール13の同一位置において3つのレーザスキャンデータを取得している。そして、レール13が邪魔になって枕木11の上辺および下辺のデータを取得できない箇所については、他の地点で計測したレーザスキャンデータを用いて枕木加工用データを作成している。
【0076】
更に、枕木11の長手方向の壁面には、一定の間隔を隔てて移動止め板(図示せず)が取り付けられており、移動止め板が取り付けられた場所では、枕木の下辺の点群データを取得することができない。
【0077】
そのような事態を考慮し、
図5に示すように、スライダ28を操作して、支持台29をガイド板27の反対側に移動させ、更に、回転テーブル291を回転させて(
図4参照)、スキャナ部211を計測車両2の移動方向(太い矢印)と同じ方向に向け、移動止め板が取り付けられた面とは反対側の壁面の下辺の点群データを取得できるようにしている。
【0078】
このように、本実施の形態では、枕木11の構造的な特性を考慮して、スキャナ部211の設置位置と方向を定めることにより、枕木加工用のデータを確実に取得できるようにしている。
【0079】
<データ作成装置の構成と機能>
次に、上述の第2のステップと第3のステップを実現するデータ作成装置3の構成と機能について説明する。
図3に示すように、データ作成装置3は、位置・姿勢算出部31、データ変換部33および枕木加工用データ作成部35を備えている。またデータ作成装置3は作成されたデータを記憶する位置・姿勢データ記憶部32、三次元点群データ記憶部34および枕木加工用データ記憶部36を備えている。
【0080】
図示しないが、データ作成装置3のブロックのうち位置・姿勢算出部31、データ変換部33および枕木加工用データ作成部35の各機能は、CPU、ROM、RAM、ディスプレイ、キーボード、マウス、磁気ディスク装置を備えたコンピュータを用いて実現される。コンピュータの構成および機能については広く知られているため、ここでは説明を省略する。
【0081】
次に、データ作成装置3における処理について説明する。最初に、レーザスキャナ21で計測されたレーザスキャンデータG1を、直交する3軸で表される地理座標系の三次元点群データG2に変換する手順(第2のステップ)を説明する。
【0082】
計測車両2のレーザスキャンデータ記憶部24および計測データ記憶部25に格納された計測データは、通信ボード(図示せず)を介して、もしくはメモリーカード等を用いて計測車両2の磁気ディスク装置(図示せず)から読み出され、データ作成装置3のデータ変換部33および位置・姿勢算出部31にそれぞれ転送される。
【0083】
位置・姿勢算出部31は、各計測時刻における計測車両2の位置および姿勢角を特定の座標系(本実施の形態では地理座標系)で算出する。具体的には、位置・姿勢算出部31は、計測データ記憶部25から、GNSS受信機22で取得した計測車両2の緯度、経度および高さのデータ、ならびに慣性計測装置23で計測した角度(または角速度)および角加速度のデータを読み出し、これらのデータに基づいて、各時刻における計測車両2の位置および姿勢角(ロール角、ピッチ角、ヨー角)を算出する。
【0084】
地理座標系は世界測地系でも任意座標のいずれでもよく、例えば、最初に観測した、任意の位置の構造物のレーザ照射点を(x,y,z)=(0,0,0)としてもよい。算出された計測車両2の位置および姿勢のデータは、位置・姿勢データ記憶部32に記憶される。
【0085】
データ変換部33は、読み出したデータに基づいて各時刻における構造物のレーザスキャンデータG1を、地理座標系の三次元点群データG2に変換する。極座標で表されたレーザスキャンデータG1を、計測車両2の位置および姿勢のデータに基づいて、地理座標系で表された三次元点群データG2に変換する演算式は、例えば特開2009−204615号公報に記載されているように広く知られているため、ここでは説明を省略する。データ変換部33で作成された地理座標系の三次元点群データG2は、三次元点群データ記憶部34に記憶される。
【0086】
次に、
図6のフローチャートを参照して、地理座標系に変換された三次元点群データG2に基づいて枕木加工用データG3を作成する手順(第3のステップ)を説明する。
【0087】
第3のステップでは、三次元点群データG2から
図1に2点鎖線で囲った領域Rのデータを枕木毎に切り出し、切り出した三次元点群データに基づいて枕木加工用データを作成する。なお、以後の処理は、データ作成装置を構成する磁気ディスク装置に格納されたデータ作成用プログラムを読み出してCPUで実行することにより実現される。
【0088】
最初に、枕木加工用データ作成部(以降、単に「データ作成部」という)35は、三次元点群データ記憶部34に格納された三次元点群データG2を読み出し、個々の枕木の位置を特定すると共に、特定した各枕木に識別用の番号を付与する(ステップS1)。
【0089】
具体的には、三次元点群データG2から枕木11のデータを取り出す。取り出したデータは、枕木の上面を頂点とし、フランジの上面を底とする櫛歯状のデータとなる。この櫛歯状のデータの凸部は枕木に対応しているため、
図1に示すように、それぞれの凸部に識別用の番号を付与する。
【0090】
番号を付与する方法として、
図1に示すように、予めレール13の任意の箇所に反射シール16を貼っておき、反射シール16からのレーザスキャンデータを検出した位置の枕木11を先頭として番号を付与すれば、枕木との番号の照合を簡単に行うことができる。
【0091】
前述したように、三次元点群データ記憶部34には、個々の枕木について3つの地点(
図5のP1、P2、P3)でレーザスキャンした三次元点群データが格納されている。枕木の設置間隔が50cm程度であるのに対してGNSS受信機22で取得したスキャナ部の位置データの誤差は10cm程度であるため、三次元点群データG2の位置データによって、3つの地点でスキャンした点群データを関連付け、それぞれの点群データG2に同一の枕木の番号を付与して区別する。
【0092】
次に、データ作成部35は、1番目の番号を付与した枕木について、
図1に示すように、枕木の周辺を含む三次元点群データを切り出す(ステップS2)。引き続きデータ作成部35は、切り出した三次元点群データから後述の手順により枕木の左辺と右辺の厚みT1、T2、ならびに枕木の長さL1のデータをそれぞれ算出する(ステップS3)。
【0093】
データ作成部35は、番号が付与された順に枕木のデータを切り出してステップS2およびS3の処理を繰り返し(ステップS4においてNo)、算出された枕木の左辺と右辺の厚みデータT1、T2、ならびに枕木の長さデータL1を、枕木の番号毎に列記した表を作成する(ステップS5)。作成された表のデータは、枕木加工用データ記憶部36に格納される。
【0094】
次に、
図7〜
図10を参照して、ステップS2で切り出した三次元点群データから枕木の左辺と右辺の厚みT1,T2ならびに枕木の長さL1を求める手順を説明する。
図7に、本実施の形態で計測した枕木の形状を示す。
【0095】
最初に、
図8を参照して、枕木の左辺の厚みT1を求める方法について説明する。
図5のP2の位置、すなわち枕木の正面左側に設置され、かつレーザビームの回転断面が枕木の正面から左に45度傾いているスキャナ部211を用いて得られた三次元点群データG2から枕木の正面の壁に沿った平面の所定幅(本実施の形態では±3cm)の点群データを抽出する。
【0096】
次に、抽出した三次元点群データを、枕木の正面の壁に沿った平面のZ軸方向をY軸とし、それと直交する方向をX軸とする二次元点群データに変換する。
図8(a)にこのようにして変換された二次元点群データを示す。
【0097】
図中の符号は、フランジ12L、レール13L、13Rおよび受け台15のそれぞれの位置を示す。また符号16は、レール間に取り付けられた脱線防止用ガードの外形を示す。
図7には表示されていないが、レール13Lと13Rの間には、一定間隔で脱線防止ガード16が設けられている。
【0098】
次に、
図8(b)に示すように、作成された二次元点群データのうち枕木の上辺に沿うように直線S1を引く。直線の引き方としては、Y座標の点群データの数を一定間隔毎(例えば1mm毎)に数え、その数が閾値を超える、もしくは閾値以下となる点の座標値を見つけ、その座標値において水平方向に直線を引く。直線S1の左右の端は、直線に沿った点群データのX座標の最小値と最大値によって決定する。
【0099】
次に、
図8(c)に示すように、直線S1から所定の距離内(例えば1cm以内)にある点群データ(枠A1内の点群データ)を用い、最小二乗法により直線Sの位置と角度を補正する。なお、最小二乗法による位置と角度の補正方法については、一般に広く知られているため、ここでは説明を省略する。
【0100】
枕木の左辺および下辺についても、上辺と同様の方法により、辺に沿って直線S2およびS3を引き、更に最小二乗法により直線の位置と角度を補正する(
図8(d)(e)参照)。なお、下辺の直線を求める場合に使用する二次元点群データは、受け台15より外側(左側)の点群データを用いる。
【0101】
最後に、
図8(f)に示すように、このようにして補正した上辺、左辺および下辺の直線(S1、S2、S3)の座標から、左辺の直線S2が、上辺および下辺の直線S1、S3と交わる点間の距離を算出し、算出した値を左辺の厚みT1とする。
【0102】
左辺の厚みT1の求め方として、最小二乗法により補正された直線S2の上端と下端の座標から、直線S2の距離を算出することも可能であるが、点群データの密度によっては誤差が生じる場合がある。これに対し、直線S1、S2およびS3の交点を用いた場合、点群データの密度に関係なく交点間の距離を算出できるため、高い精度で厚みT1を求めることができる。
【0103】
次に、
図9を参照して、枕木の右辺の厚みT2の求め方を説明する。
図9(a)に示す二次元点群データは、
図5のP3の位置にあるスキャナ部211を用いて得られた三次元点群データから、
図8(a)で示した方法と同様の方法で作成したデータである。
【0104】
図8(b)および(c)を用いて説明した方法と同様の方法により、
図9(a)の二次元点群データの上辺、右辺および下辺に沿って直線(S4、S5、S6)を引き、更に、最小二乗法により直線の位置と傾きを補正する。
図9(b)に、二次元点群データに直線S4、S5およびS6、枠A4、A5およびA6を記入した状態を示す。
【0105】
更に、
図8(f)を用いて説明した方法と同様の方法により、右辺の直線S5が上辺および下辺の直線S4、S6と交わる点間の距離を算出し、算出した値を右辺の厚みT2とする。
図9(c)に、
図8(f)の左辺の厚みT1を右辺の厚みT2に置き換えた図面を示す。
【0106】
次に、
図10を参照して、上辺の長さL1の求め方を説明する。
図10(a)に示す二次元点群データは、
図5のP1の位置にあるスキャナ部211を用いて得られた三次元点群データから、
図8(a)に示した方法と同様の方法で作成した点群データである。
【0107】
上辺に沿った直線S7の引き方は、
図8(b)で示した直線の引き方とは異なっている。
図10(a)に示すように、レーザビームLBが枕木11の長手方向と平行にスキャンされるため、点群データは上辺と平行な線となり、Y軸方向の密度が小さい。Y座標の点群データの数を所定の間隔(例えば1mm)で数えると、
図10(a)の右側に示すように、上辺に対応する座標の点群データの数が最大となるので、このY座標においてX軸に平行に直線を引く。
図10(b)に、上辺に沿って引かれた直線S7を示す。
【0108】
次に、
図8で説明したのと同様の方法で、直線S7に隣接した枠A7を設け、この枠内の点群データを用いて、最小二乗法により直線S7の位置と傾きを補正する。補正された直線S7の両端の座標値から直線S7の長さを算出する。
【0109】
上辺の長さL1の求め方は、左辺や右辺の長さの求め方と異なる。前述したように、枕木に使用される原木の長さは、2400mm、2600mm、2800mmまたは3000mmのいずれかであり、これ以外の長さの原木が使用されることはない。
【0110】
直線S7の位置と傾きを補正するまでの手順は、左辺や右辺における厚みの求め方と同じであるが、補正された直線S7の長さは、上述した4種類の長さのいずれかに近いはずであるため、算出された直線Sの長さに最も近い値を、上辺の長さとする。
図10(c)に示すように、算出した直線の長さは2602mmであり、この値に最も近い値は2600mmであるため、上辺の長さL1は2600mmとなる。
【0111】
最後に、このようにして算出もしくは特定した上辺の長さL1、左辺および右辺の厚みT1およびT2を用いることにより、下辺を除く枕木の断面形状を再現できる。具体的には、
図10(d)に示すように、長さ2600mmの上辺の直線S7の左端に、直線S7と直交する状態で、算出した左辺の厚みT1の直線S2を引き、同様に、直線S7の右端に、直線S7と直交する状態で、算出した右辺の厚みT2の直線S5を引く。更に、直線S2の下端と直線S5の下端を直線で結ぶと、枕木の断面形状が再現される。
【0112】
前述したように、下辺については、スキャナ部211の設置位置によって、レールや移動止め板等が影となって三次元点群データを取得できない場合があるため、左辺や右辺における厚みの求め方をそのまま適用することはできない。
【0113】
しかし、スキャナ部211の位置や姿勢によっては、段差部111の位置を示す三次元点群データを取得できる場合がある。この場合には、左辺の厚みT1を求めた場合と同様の方法で、段差部111の位置を示す値L2およびL3を求めれば、底面を含めた枕木の断面形状を再現でき、枕木の作製に必要な全てのデータH1、H2、H3、T1およびT2を取得できる。
【0114】
以上説明したように、本発明に係るデータ作成システムを用いれば、データ作成用プログラムを用いて、枕木の加工に必要な左辺および右辺の厚み、ならびに上辺の長さを自動的に算出できるため、枕木加工用のデータ作成に要する時間を大幅に削減できる。また、それに伴い、データ作成に作業者の手を煩わす割合が減るため、作業者の肉体的・精神的負担を軽減できる。
【0115】
なお、本実施の形態では、1台のスキャナ部の位置を変えることにより3つの地点における三次元点群データを取得したが、計測車両に3台のレーザスキャナを搭載し、それぞれのスキャナ部を同時に動作させるようにすれば、レーザスキャンデータの取得に要する時間を大幅に削減できる。現状では、レーザスキャナが高価であるため、コスト面で問題があるが、レーザスキャンの価格が低下すれば、採用する価値は十分にある。