特許第6755488号(P6755488)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6755488-オキソ脂肪酸及び希少脂肪酸の製造法 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6755488
(24)【登録日】2020年8月28日
(45)【発行日】2020年9月16日
(54)【発明の名称】オキソ脂肪酸及び希少脂肪酸の製造法
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/64 20060101AFI20200907BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20200907BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20200907BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20200907BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20200907BHJP
   C12N 9/04 20060101ALI20200907BHJP
   C12N 9/90 20060101ALI20200907BHJP
   C12N 9/88 20060101ALI20200907BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20200907BHJP
【FI】
   C12P7/64ZNA
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N5/10
   C12N9/04 Z
   C12N9/90
   C12N9/88
   !C12N15/31
【請求項の数】8
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2018-23451(P2018-23451)
(22)【出願日】2018年2月13日
(62)【分割の表示】特願2014-514349(P2014-514349)の分割
【原出願日】2012年11月6日
(65)【公開番号】特開2018-99128(P2018-99128A)
(43)【公開日】2018年6月28日
【審査請求日】2018年3月14日
(31)【優先権主張番号】特願2012-108928(P2012-108928)
(32)【優先日】2012年5月10日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ▲1▼2011年11月10日 http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0006291X11020213を通じて発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ▲2▼平成24年2月1日 公益財団法人日本応用酵素協会発行の「日本応用酵素協会誌第46号、第13頁〜第21頁」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ▲3▼平成24年3月5日 公益社団法人日本農芸化学会発行の「日本農芸化学会2012年度大会一般講演トピックス集、第52頁及び第53頁」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ▲4▼平成24年3月5日 https://jsbba.bioweb.ne.jp/jsbba2012/download_pdf.php?p_code=3C23a11を通じて発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ▲5▼平成24年3月24日 日本農芸化学会2012年度(平成24年度)大会、京都女子大学において文書(スライド)をもって発表
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-10549
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】392008541
【氏名又は名称】日東薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100163658
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 順造
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(72)【発明者】
【氏名】小川 順
(72)【発明者】
【氏名】岸野 重信
(72)【発明者】
【氏名】清水 昌
(72)【発明者】
【氏名】米島 靖記
【審査官】 伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−259712(JP,A)
【文献】 岸野重信,微生物を用いた選択的な機能性脂質生産法の確立,独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構平成22年度産業技術研究助成事業研究成果報告書(最終),2012年 4月26日
【文献】 Biochem. Biophys. Res. Commun.2011.11.10, Vol.416 No.1-2, pages 188-193
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
C12N 9/00
C12P 7/00
C12P 1/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
10位にカルボニル基を有し12位にシス型二重結合を有する炭素数18のオキソ脂肪酸から、異性化酵素反応により、10位にカルボニル基を有し11位にトランス型二重結合を有する炭素数18のオキソ脂肪酸を生成させて回収することを含む、該10位にカルボニル基を有し11位にトランス型二重結合を有する炭素数18のオキソ脂肪酸を製造する方法であって、該異性化酵素がラクトバチルス・プランタルム由来のオキソ脂肪酸−イソメラーゼ(CLA-DC)である、方法。
【請求項2】
10位にカルボニル基を有し12位にシス型二重結合を有する炭素数18のオキソ脂肪酸が、10-オキソ-シス-12-オクタデセン酸、10-オキソ-シス-6,シス-12-オクタデカジエン酸、10-オキソ-シス-12,シス-15-オクタデカジエン酸又は10-オキソ-シス-6,シス-12,シス-15-オクタデカトリエン酸である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ラクトバチルス・プランタルムがFERM BP-10549菌株である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
異性化酵素反応を、該酵素を発現する細胞と、10位にカルボニル基を有し12位にシス型二重結合を有する炭素数18のオキソ脂肪酸とを接触させることにより行う、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
細胞が、ラクトバチルス・プランタルム由来の水酸化脂肪酸−デヒドロゲナーゼを発現しない細胞である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
細胞が、大腸菌、枯草菌、酵母、昆虫細胞又は動物細胞である、請求項4又は5記載の方法。
【請求項7】
異性化酵素反応を、該酵素と、10位にカルボニル基を有し12位にシス型二重結合を有する炭素数18のオキソ脂肪酸とを含む緩衝液をインキュベートすることにより行う、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
異性化酵素反応を、ラクトバチルス・プランタルム由来の水酸化脂肪酸−デヒドロゲナーゼの非存在下で行う、請求項7記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪酸の製造法に関する。詳細には、不飽和脂肪酸を原料に、多段階酵素反応、又は、化学的酸化反応と酵素反応法とを組み合わせることを特徴とするオキソ脂肪酸の製造法、及び、オキソ脂肪酸からの希少脂肪酸の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
共役リノール酸(conjugated linoleic acid, CLA)に代表される共役脂肪酸は、脂質代謝改善作用、抗動脈硬化作用、体脂肪減少作用等、様々な生理活性を有することが報告されており(非特許文献1−3)、医薬・機能性食品等を始めとして様々な分野への利用に注目されている機能性脂質である(特許文献1、2)。CLAは、反芻動物の胃に存在する微生物により生成されるため乳製品や肉製品に含まれることや植物油にわずかに存在することが知られているが、その生成の詳細なメカニズムについては知られていない。
【0003】
本発明者らは、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)の菌体内に存在する3種類の酵素(CLA-HY,CLA-DC,CLA-DH)が、リノール酸を共役リノール酸へ変換する反応に必須であることを報告した(特許文献1)。しかしながら、これらの酵素反応における具体的な一連の反応メカニズムや中間体等の存在は明らかになっていなかった。
【0004】
加えて、近年トマトに含有される9−オキソ−オクタデカジエン酸や13−オキソ−オクタデカジエン酸等のオキソ脂肪酸に、脂質代謝改善等の生活習慣病を改善する活性が報告されており(特許文献3、非特許文献4、5)、オキソ脂肪酸の生理活性に対する関心も高まっている。オキソ脂肪酸は、不飽和脂肪酸の特定の位置にカルボニル基を有しているが、分子内に複数存在する二重結合を識別し、特定の位置にカルボニル基を導入する必要があるため、不飽和脂肪酸から機能性オキソ脂肪酸を合成することは困難となっている。また、特定のオキソ脂肪酸から、CLA1、CLA2等を始めとする希少脂肪酸が製造されることも知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−259712号公報
【特許文献2】特開2007−252333号公報
【特許文献3】特開2011−184411号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Ha YL, (1987), Carcinogenesis, vol.8, no.12, p.1881-1887
【非特許文献2】Clement Ip, (1991), Cancer Res., (1991), vol.51, p.6118-6124
【非特許文献3】Kisun NL, (1994), Atherosclerosis, vol.108, p.19-25
【非特許文献4】Kim Y-I,(2011), Mol. Nutr. Food Res., vol.55, p.585-593
【非特許文献5】Kim Y-I,(2012),PLoS ONE, vol.7, no.2, e31317
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、オキソ脂肪酸を効率的に製造する方法の提供、並びに、生産したオキソ脂肪酸から、水酸化脂肪酸、共役脂肪酸及び部分飽和脂肪酸等の希少脂肪酸を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、乳酸菌の不飽和脂肪酸代謝経路の全貌を明らかにし、該代謝系の中間体として、オキソ脂肪酸、水酸化脂肪酸、共役脂肪酸及び部分飽和脂肪酸を見出すとともに、これらの生成に関与する新規酵素(CLA-ER)を同定した。
【0009】
具体的には、本発明者らは、既知の酵素(CLA-HY,CLA-DC,CLA-DH)と新規酵素(CLA-ER)とを用いて、リノール酸からシス-9,トランス-11-共役リノール酸(c9,t11-CLA(CLA1))、トランス-9,トランス-11-共役リノール酸(t9,t11-CLA(CLA2))、オレイン酸、トランス-10-オクタデセン酸(t10-18:1)等が生成される一連のメカニズムを明らかにした(図1参照)。その反応の中間体として、10-オキソ-シス-12-オクタデセン酸(以下、「KetoA」ともいう)、10-オキソオクタデカン酸(以下、「KetoB」ともいう)、10-オキソ-トランス-11-オクタデセン酸(以下、「KetoC」ともいう)等のオキソ脂肪酸が生成されること、さらに、一部の酵素反応(水酸化脂肪酸の酸化反応)の代わりに、クロム酸を用いる化学的酸化法を導入すると、変換効率が顕著に向上することも見出した。
【0010】
加えて、本発明者らは、本発明で初めて大量供給が可能となったオキソ脂肪酸を原料とし、KetoAからKetoC、KetoCからKetoB、KetoCから10-ヒドロキシ-トランス-11-オクタデセン酸(以下、「HYC」ともいう)、KetoBから10-ヒドロキシ-オクタデカン酸(以下、「HYB」ともいう)、HYCからCLA1又はCLA2、HYBからオレイン酸又はトランス-10-オクタデセン酸、10-ヒドロキシ-シス-12-オクタデセン酸(以下、「HYA」という)からリノール酸又はトランス-10,シス-12−共役リノール酸(t10,c12-CLA(CLA3))が生成されるという、従来知られていなかった反応経路により、水酸化脂肪酸、共役脂肪酸又は部分飽和脂肪酸といった希少脂肪酸を生成することができることも見出した。以上の知見に基づき、本発明が完成された。
【0011】
即ち、本発明は下記のとおりである:
[1]9位にシス型二重結合を有する炭素数18の不飽和脂肪酸から、水和酵素反応により、10位に水酸基を有する炭素数18の水酸化脂肪酸を誘導し、該水酸化脂肪酸から、脱水素酵素反応又は化学的酸化により、10位にカルボニル基を有する炭素数18のオキソ脂肪酸を製造する方法。
[2]9位にシス型二重結合を有する炭素数18の不飽和脂肪酸が、オレイン酸、リノール酸、γ-リノレン酸、α-リノレン酸、ステアリドン酸、シス-9,トランス-11-オクタデカジエン酸又はリシノール酸である[1]の方法。
[3]水和酵素及び脱水素酵素が乳酸菌由来である[1]又は[2]の方法。
[4]乳酸菌が、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)FERM BP-10549菌株である[3]の方法。
[5]10位にカルボニル基を有し12位にシス型二重結合を有する炭素数18のオキソ脂肪酸から、異性化酵素反応により、10位にカルボニル基を有し11位にトランス型二重結合を有する炭素数18のオキソ脂肪酸を製造する方法。
[6]10位にカルボニル基を有し12位にシス型二重結合を有する炭素数18のオキソ脂肪酸が、10-オキソ-シス-12-オクタデセン酸、10-オキソ-シス-6,シス-12-オクタデカジエン酸、10-オキソ-シス-12,シス-15-オクタデカジエン酸又は10-オキソ-シス-6,シス-12,シス-15-オクタデカトリエン酸である、[5]の方法。
[7]異性化酵素が乳酸菌由来である[5]又は[6]の方法。
[8]乳酸菌が、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)FERM BP-10549菌株である[7]の方法。
[9]10位にカルボニル基を有し11位にトランス型二重結合を有する炭素数18のオキソ脂肪酸から飽和化酵素により、10位にカルボニル基を有し11及び12位に二重結合を持たない炭素数18のオキソ脂肪酸を製造する方法。
[10]10位にカルボニル基を有し11位にトランス型二重結合を有する炭素数18のオキソ脂肪酸が、10-オキソ-トランス-11-オクタデセン酸、10-オキソ-シス-6,トランス-11-オクタデカジエン酸、10-オキソ-トランス-11,シス-15-オクタデカジエン酸又は10-オキソ-シス-6,トランス-11,シス-15-オクタデカトリエン酸である、[9]の方法。
[11]飽和化酵素が乳酸菌由来である[9]又は[10]の方法。
[12]乳酸菌が、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)FERM BP-10549菌株である[11]の方法。
[13]以下の(a)〜(c)のいずれかの酵素タンパク質。
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる酵素タンパク質
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失及び/又は置換及び/又は挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつ[9]の飽和化反応を触媒する酵素活性を有するタンパク質
(c)配列番号1に示される塩基配列の相補鎖配列からなる核酸と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列によってコードされ、かつ[9]の飽和化反応を触媒する酵素活性を有するタンパク質
[14][13]の酵素タンパク質をコードする核酸。
[15][14]の核酸を含むベクター。
[16][15]のベクターで形質転換された宿主細胞。
[17][16]の宿主細胞を培養し、該培養物から[13]の酵素タンパク質を回収することを含む、該酵素の製造方法。
[18]飽和化酵素が、[13]のタンパク質である[9]の方法。
[19]10位にカルボニル基を有し11位にトランス型二重結合を有する炭素数18のオキソ脂肪酸から、脱水素酵素反応により、10位に水酸基を有し11位にトランス型二重結合を有する炭素数18の水酸化脂肪酸を製造する方法。
[20]10位にカルボニル基を有し11位にトランス型二重結合を有する炭素数18のオキソ脂肪酸が、10-オキソ-トランス-11-オクタデセン酸、10-オキソ-シス-6,トランス-11-オクタデカジエン酸、10-オキソ-トランス-11,シス-15-オクタデカジエン酸又は10-オキソ-シス-6,トランス-11,シス-15-オクタデカトリエン酸である、[19]の方法。
[21]脱水素酵素が乳酸菌由来である[19]又は[20]の方法。
[22]乳酸菌が、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)FERM BP-10549菌株である[21]の方法。
[23]10位にカルボニル基を有し11及び12位に二重結合を持たない炭素数18のオキソ脂肪酸から、脱水素酵素反応により、10位に水酸基を有し11及び12位に二重結合を持たない炭素数18の水酸化脂肪酸を製造する方法。
[24]10位にカルボニル基を有し11及び12位に二重結合を持たない炭素数18のオキソ脂肪酸が、10-オキソオクタデカン酸、10-オキソ-シス-6-オクタデセン酸、10-オキソ-シス-15-オクタデセン酸又は10-オキソ-シス-6,シス-15-オクタデカジエン酸である、[23]の方法。
[25]脱水素酵素が乳酸菌由来である[23]又は[24]の方法。
[26]乳酸菌が、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)FERM BP-10549菌株である[25]の方法。
[27]10位に水酸基を有し11位にトランス型二重結合を有する炭素数18の水酸化脂肪酸から、脱水酵素反応により、9位にシス型二重結合及び11位にトランス型二重結合を有する共役脂肪酸又は9位及び11位にトランス型二重結合を有する共役脂肪酸を製造する方法。
[28]10位に水酸基を有し11位にトランス型二重結合を有する炭素数18の水酸化脂肪酸が、10-ヒドロキシ-トランス-11-オクタデセン酸、10-ヒドロキシ-シス-6,トランス-11-オクタデカジエン酸、10-ヒドロキシ-トランス-11,シス-15-オクタデカジエン酸又は10-ヒドロキシ-シス-6,トランス-11,シス-15-オクタデカトリエン酸である、[27]の方法。
[29]脱水酵素が乳酸菌由来である[27]又は[28]の方法。
[30]乳酸菌が、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)FERM BP-10549菌株である[29]の方法。
[31]10位に水酸基を有し11及び12位に二重結合を持たない炭素数18の水酸化脂肪酸から、脱水酵素反応により、9位にシス型二重結合を有する部分飽和脂肪酸又は10位にトランス型二重結合を有する部分飽和脂肪酸を製造する方法。
[32]10位に水酸基を有し11及び12位に二重結合を持たない炭素数18の水酸化脂肪酸が、10-ヒドロキシオクタデカン酸、10-ヒドロキシ-シス-6-オクタデセン酸、10-ヒドロキシ-シス-15-オクタデセン酸又は10-ヒドロキシ-シス-6,シス-15-オクタデカジエン酸である、[31]の方法。
[33]脱水酵素が乳酸菌由来である[31]又は[32]の方法。
[34]乳酸菌が、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)FERM BP-10549菌株である[33]の方法。
[35]10位に水酸基を有し12位にシス型二重結合を有する炭素数18の水酸化脂肪酸から、脱水酵素反応により、9位及び12位にシス型二重結合を有する共役脂肪酸又は10位にトランス型二重結合及び12位にシス型二重結合を有する共役脂肪酸を製造する方法。
[36]10位に水酸基を有し12位にシス型二重結合を有する炭素数18の水酸化脂肪酸が、10-ヒドロキシ-シス-12-オクタデセン酸、10-ヒドロキシ-シス-6,シス-12-オクタデカジエン酸、10-ヒドロキシ-シス-12,シス-15-オクタデカジエン酸又は10-ヒドロキシ-シス-6,シス-12,シス-15-オクタデカトリエン酸である、[35]の方法。
[37]脱水酵素が乳酸菌由来である[35]又は[36]の方法。
[38]乳酸菌が、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)FERM BP-10549菌株である[37]の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、従来知られていなかった飽和化酵素(CLA-ER)を見出し、既知の酵素と組み合わせて、乳酸菌の不飽和脂肪酸代謝経路の全貌を明らかにした。そして、多段階的な酵素反応により、オキソ脂肪酸を生成することができること、当該反応の一部を化学的酸化反応に代えることで、より効率的な変換を行うことができ、オキソ脂肪酸を大量に生成することができる。また、オキソ脂肪酸からも、希少脂肪酸を効率的に製造することができ、これらのオキソ脂肪酸、希少脂肪酸等は、医薬・食品・化粧品等の様々な分野で使用される点でも、極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のオキソ脂肪酸及び希少脂肪酸の製造法の全体像を示す図である。出発材料としてリノール酸を用いた場合を例に示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0015】
本発明は、乳酸菌の不飽和脂肪酸代謝経路の各反応を、酵素法にて(また酵素反応の効率が低い反応については、必要に応じて化学的に)適宜組み合わせて行うことにより、オキソ脂肪酸や、水酸化脂肪酸、共役脂肪酸又は部分飽和脂肪酸等の有用な希少脂肪酸を製造する方法を提供する。オーバーオールの反応系の一例を図1に示す。
【0016】
【化1】
【0017】
第1の本発明は、9位にシス型二重結合を有する炭素数18の不飽和脂肪酸(以下、「cis-9不飽和脂肪酸」と略記する場合がある)から、2段階の反応により、10位にカルボニル基を有する炭素数18のオキソ脂肪酸(以下、「10-oxo脂肪酸」と略記する場合がある)を製造する方法を提供する。第1の反応(反応1)では、cis-9不飽和脂肪酸から、水和酵素反応により10位に水酸基を有する炭素数18の水酸化脂肪酸(以下、「10-hydroxy脂肪酸」と略記する場合がある)が生成する。
反応1の「基質」は、9位にシス型二重結合を有する炭素数18の不飽和脂肪酸であれば特に制限されず、例えばモノエン酸(18:1)、ジエン酸(18:2)、トリエン酸(18:3)、テトラエン酸(18:4)、ペンタエン酸(18:5)などが挙げられる。ジエン酸、トリエン酸、又はテトラエン酸がより好ましく、ジエン酸類、又はトリエン酸類が特に好ましい。尚、本明細書において「脂肪酸」という場合、遊離の酸のみならず、エステル体、塩基性化合物との塩等をも包含する。
【0018】
モノエン酸としては、例えば、オレイン酸、リシノール酸等が挙げられる。
ジエン酸としては、例えば、リノール酸(cis-9,cis-12-18:2)、シス-9,トランス-11-オクタデカジエン酸(cis-9,trans-11-18:2)等が挙げられる。
トリエン酸類としては、例えば、α−リノレン酸(cis-9,cis-12,cis-15-18:3)、γ−リノレン酸(cis-6,cis-9,cis-12-18:3)等が挙げられる。
テトラエン酸としては、例えば、ステアリドン酸(cis-6,cis-9,cis-12,cis-15-18:4)等が挙げられる。
【0019】
反応1を触媒する水和酵素としては、上記のcis-9不飽和脂肪酸を基質として利用し、10-hydroxy脂肪酸に変換し得る酵素であれば特に制限はないが、例えば、乳酸菌由来の脂肪酸−ヒドラターゼ(CLA-HY)が好ましい。より好ましくは、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)由来のCLA-HYであり、特に好ましくは、L.プランタルムFERM BP-10549菌株由来のCLA-HYである。CLA-HYは、特開2007-259712号公報に記載される方法や、後述の実施例に記載される方法により取得することができる。水和酵素は精製されたものであっても、粗精製されたものであってもよい。あるいは、大腸菌等の菌体に発現させ、その菌体自体を用いても、培養液を用いてもよい。さらには、該酵素は遊離型のものでもよく、各種担体によって固定化されたものでもよい。
【0020】
水和酵素反応は、適当な緩衝液(例えば、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、ホウ酸緩衝液等)中で、基質であるcis-9不飽和脂肪酸と水和酵素とを適当な濃度で混合し、インキュベートすることにより行われ得る。基質濃度は、例えば1〜100g/L、好ましくは10〜50g/L、より好ましくは20〜40g/Lである。水和酵素の添加量は、例えば、0.001〜10mg/ml、好ましくは0.1〜5mg/ml、より好ましくは0.2〜2mg/mlである。
【0021】
反応1には「補因子」を用いてよく、例えば、NADH、NADPHやFADH2等を用いることができる。その添加濃度は水和反応が効率良く進む濃度であればよい。好ましくは0.001〜20mM、より好ましくは0.01〜10mMである。
さらに、酵素反応に「活性化剤」を用いてよく、例えば、モリブデン酸カリウム、モリブデン(VI)酸二ナトリウム無水和物、モリブデン(VI)酸二ナトリウム二水和物、オルトバナジン(V)酸ナトリウム、メタバナジン(V)酸ナトリウム、タングステン(VI)酸カリウム、タングステン(VI)酸ナトリウム無水和物、及びタングステン(VI)酸ナトリウム二水和物からなる群から選ばれる1又は2以上の化合物が挙げられる。その添加濃度は水和反応が効率良く進む濃度であればよい。好ましくは0.1〜20mM、より好ましくは1〜10mMである。
【0022】
反応1は、水和酵素の好適温度、好適pHの範囲内で行うことが望ましい。例えば、反応温度は5〜50℃、好ましくは20〜45℃である。また、反応液のpHとしては、例えば、pH4〜10、好ましくはpH5〜9である。反応時間も特に制限はないが、例えば10分〜72時間、好ましくは30分〜36時間である。
【0023】
本発明の好ましい一実施態様においては、水和酵素は、それをコードする核酸を含む発現ベクターが導入された組換え細胞(例えば、大腸菌、枯草菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞等)の形態で反応系に提供される。この場合、当該細胞の培養に適した液体培地に、基質及び必要に応じて補因子や活性化剤を添加して、当該細胞を培養することにより、水和酵素反応を行うこともできる。
【0024】
【化2】
【0025】
第1の本発明における第2の反応(反応2)では、10-hydroxy脂肪酸から、脱水素酵素反応もしくはクロム酸を用いた化学的酸化により、10位にカルボニル基を有する炭素数18のオキソ脂肪酸(以下、「10-oxo脂肪酸」と略記する場合がある)が生成する。
【0026】
反応2を触媒する脱水素酵素としては、10-hydroxy脂肪酸を基質として利用し、10-oxo脂肪酸に変換し得る酵素であれば特に制限はないが、例えば、乳酸菌由来の水酸化脂肪酸−デヒドロゲナーゼ(CLA-DH)が好ましい。より好ましくは、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)由来のCLA-DHであり、特に好ましくは、L.プランタルムFERM BP-10549菌株由来のCLA-DHである。CLA-DHは、特開2007-259712号公報に記載される方法や、後述の実施例に記載される方法により取得することができる。脱水素酵素は精製されたものであっても、粗精製されたものであってもよい。あるいは、大腸菌等の菌体に発現させ、その菌体自体を用いても、培養液を用いてもよい。さらには、該酵素は遊離型のものでもよく、各種担体によって固定化されたものでもよい。
【0027】
脱水素酵素反応は、適当な緩衝液(例えば、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、ホウ酸緩衝液等)中で、基質である10-hydroxy脂肪酸と脱水素酵素とを適当な濃度で混合し、インキュベートすることにより行われ得る。基質濃度は、例えば1〜100g/L、好ましくは10〜50g/L、より好ましくは20〜40g/Lである。脱水素酵素の添加量は、例えば、0.001〜10mg/ml、好ましくは0.1〜5mg/ml、より好ましくは0.2〜2mg/mlである。
【0028】
反応2には「補因子」を用いてよく、例えば、NAD、NADPやFAD等を用いることができる。その添加濃度は酸化反応が効率良く進む濃度であればよい。好ましくは0.001〜20mM、より好ましくは0.01〜10mMである。
さらに、酵素反応に「活性化剤」を用いてよく、例えば、上記反応1で例示されたのと同様の化合物を、同様の添加濃度で使用することができる。
【0029】
反応2は、脱水素酵素の好適温度、好適pHの範囲内で行うことが望ましい。例えば、反応温度は5〜50℃、好ましくは20〜45℃である。また、反応液のpHとしては、例えば、pH4〜10、好ましくはpH5〜9である。反応時間も特に制限はないが、例えば10分〜72時間、好ましくは30分〜36時間である。
【0030】
本発明の一実施態様においては、脱水素酵素は、それをコードする核酸を含む発現ベクターが導入された組換え細胞(例えば、大腸菌、枯草菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞等)の形態で反応系に提供される。この場合、当該細胞の培養に適した液体培地に、基質及び必要に応じて補因子や活性化剤を添加して、当該細胞を培養することにより、酸化反応を行うこともできる。
【0031】
後述の実施例9及び11に示されるとおり、本発明者らは、脱水素酵素としてL.プランタルムFERM BP-10549菌株由来のCLA-DHを用いた場合、10-hydroxy脂肪酸から10-oxo脂肪酸への変換効率が比較的低いことを見出した。そこで、反応2をクロム酸を用いた化学的酸化に置き換えることにより、極めて高い変換効率を得ることに成功した。従って、第1の本発明において、第2の反応は化学的酸化により行うことがより好ましい。
【0032】
化学的酸化としては、自体公知の方法、例えばクロム酸酸化、好ましくはジョーンズ酸化等が挙げられる。クロム酸としては、無水クロム酸CrO3、クロム酸H2CrO4、二クロム酸H2Cr2O7といった化合物の塩や錯体を使用することができる。
【0033】
【化3】
【0034】
第2の本発明は、10位にカルボニル基を有し12位にシス型二重結合を有する炭素数18のオキソ脂肪酸(以下、「10-oxo,cis-12脂肪酸」と略記する場合がある)から、異性化酵素反応(反応3)により、10位にカルボニル基を有し11位にトランス型二重結合を有する炭素数18のオキソ脂肪酸(以下、「10-oxo,trans-11脂肪酸」と略記する場合がある)を製造する方法を提供する。
反応3の「基質」としては、上記反応1及び2により、9位及び12位にシス型二重結合を有する炭素数18の不飽和脂肪酸から誘導される10-oxo,cis-12脂肪酸であれば特に制限されず、リノール酸から誘導される10-オキソ-シス-12-オクタデセン酸(KetoA)、α−リノレン酸から誘導される10-オキソ-シス-12,シス-15-オクタデカジエン酸(αKetoA)、γ−リノレン酸から誘導される10-オキソ-シス-6,シス-12-オクタデカジエン酸(γKetoA)、ステアリドン酸から誘導される10-オキソ-シス-6, シス-12, シス-15-オクタデカトリエン酸(sKetoA)等が挙げられる。もちろん、当該基質は反応1及び2以外の方法により得られたものであってもよい。
【0035】
反応3を触媒する異性化酵素としては、上記の10-oxo,cis-12脂肪酸を基質として利用し、10-oxo,trans-11脂肪酸に変換し得る酵素であれば特に制限はないが、例えば、乳酸菌由来のオキソ脂肪酸−イソメラーゼ(CLA-DC)が好ましい。より好ましくは、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)由来のCLA-DCであり、特に好ましくは、L.プランタルムFERM BP-10549菌株由来のCLA-DCである。CLA-DCは、特開2007-259712号公報に記載される方法や、後述の実施例に記載される方法により取得することができる。異性化酵素は精製されたものであっても、粗精製されたものであってもよい。あるいは、大腸菌等の菌体に発現させ、その菌体自体を用いても、培養液を用いてもよい。さらには、該酵素は遊離型のものでもよく、各種担体によって固定化されたものでもよい。
【0036】
異性化酵素反応は、適当な緩衝液(例えば、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、ホウ酸緩衝液等)中で、基質である10-oxo,cis-12脂肪酸と異性化酵素とを適当な濃度で混合し、インキュベートすることにより行われ得る。基質濃度は、例えば1〜100g/L、好ましくは10〜50g/L、より好ましくは20〜40g/Lである。異性化酵素の添加量は、例えば、0.001〜10mg/ml、好ましくは0.1〜5mg/ml、より好ましくは0.2〜2mg/mlである。
【0037】
異性化酵素反応には「活性化剤」を用いてよく、例えば、上記反応1で例示されたのと同様の化合物を、同様の添加濃度で使用することができる。
【0038】
反応3は、異性化酵素の好適温度、好適pHの範囲内で行うことが望ましい。例えば、反応温度は5〜50℃、好ましくは20〜45℃である。また、反応液のpHとしては、例えば、pH4〜10、好ましくはpH5〜9である。反応時間も特に制限はないが、例えば10分〜72時間、好ましくは30分〜36時間である。
【0039】
本発明の好ましい一実施態様においては、異性化酵素は、それをコードする核酸を含む発現ベクターが導入された組換え細胞(例えば、大腸菌、枯草菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞等)の形態で反応系に提供される。この場合、当該細胞の培養に適した液体培地に、基質及び必要に応じて活性化剤を添加して、当該細胞を培養することにより、異性化酵素反応を行うこともできる。
【0040】
【化4】
【0041】
第3の本発明は、10位にカルボニル基を有し11位にトランス型二重結合を有する炭素数18のオキソ脂肪酸(10-oxo,trans-11脂肪酸)から、飽和化酵素反応(反応4)により、10位にカルボニル基を有し11及び12位に二重結合を持たない炭素数18のオキソ脂肪酸(以下、「10-oxo,11,12-飽和化脂肪酸」と略記する場合がある)を製造する方法を提供する。
反応4の「基質」としては、上記反応3により生成し得る10-oxo,trans-11脂肪酸であれば特に制限されず、10-オキソ-シス-12-オクタデセン酸(KetoA)から誘導される10-オキソ-トランス-11-オクタデセン酸(KetoC)、10-オキソ-シス-12,シス-15-オクタデカジエン酸(「αKetoA」ともいう)から誘導される10-オキソ-トランス-11,シス-15-オクタデカジエン酸(「αKetoC」ともいう)、10-オキソ-シス-6,シス-12-オクタデカジエン酸(「γKetoA」ともいう)から誘導される10-オキソ-シス-6,トランス-11-オクタデカジエン酸(「γKetoC」ともいう)、10-オキソ-シス-6,シス-12,シス-15-オクタデカトリエン酸(「sKetoA」ともいう)から誘導される10-オキソ-シス-6,トランス-11,シス-15-オクタデカトリエン酸(「sKetoC」ともいう)等が挙げられる。もちろん、当該基質は反応3以外の方法により得られたものであってもよい。
【0042】
反応4を触媒する飽和化酵素としては、上記の10-oxo,trans-11脂肪酸を基質として利用し、10-oxo,11,12-飽和化脂肪酸に変換し得る酵素であれば特に制限はないが、例えば、本発明において単離された乳酸菌由来のオキソ脂肪酸−エノンレダクターゼ(CLA-ER)が好ましい。より好ましくは、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)由来のCLA-ERであり、特に好ましくは、L.プランタルムFERM BP-10549菌株由来のCLA-ERである。
【0043】
本発明の新規酵素「CLA-ER」は、
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる酵素タンパク質、
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失及び/又は置換及び/又は挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつ上記反応4を触媒する酵素活性を有するタンパク質、あるいは
(c)配列番号1に示される塩基配列の相補鎖配列からなる核酸と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列によってコードされ、かつ上記反応4を触媒する酵素活性を有するタンパク質である。
【0044】
上記(b)に関し、より具体的には、(i)配列番号2に示されるアミノ酸配列中の1〜20個、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜数(5、4、3もしくは2)個のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、(ii)配列番号2に示されるアミノ酸配列に1〜20個、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜数(5、4、3もしくは2)個のアミノ酸が付加したアミノ酸配列、(iii)配列番号2に示されるアミノ酸配列に1〜20個、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜数(5、4、3もしくは2)個のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、(iv)配列番号2に示されるアミノ酸配列中の1〜20個、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜数(5、4、3もしくは2)個のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、又は(v)それらを組み合わせたアミノ酸配列を含むタンパク質が挙げられる。性質の似たアミノ酸(例えば、グリシンとアラニン、バリンとロイシンとイソロイシン、セリンとトレオニン、アスパラギン酸とグルタミン酸、アスパラギンとグルタミン、リシンとアルギニン、システインとメチオニン、フェニルアラニンとチロシン等)同士の置換等であれば、さらに多くの個数の置換等がありうる。
上記のようにアミノ酸が欠失、置換又は挿入されている場合、その欠失、置換、挿入の位置は、上記酵素活性が保持される限り、特に限定されない。
【0045】
上記(c)において「ストリンジェントな条件」とは、同一性が高いヌクレオチド配列同士、例えば70、80、90、95又は99%以上の同一性を有するヌクレオチド配列同士がハイブリダイズし、それより同一性が低いヌクレオチド配列同士がハイブリダイズしない条件、具体的には通常のサザンハイブリダイゼーションの洗浄条件である60℃、1xSSC、0.1%SDS、好ましくは、0.1xSSC、0.1%SDS、さらに好ましくは、68℃、0.1xSSC、0.1%SDSに相当する塩濃度及び温度で、1回、より好ましくは2〜3回洗浄する条件等が挙げられる。
【0046】
CLA-ERは、例えば、L.プランタルムFERM BP-10549株の菌体や培養液から、自体公知のタンパク質分離精製技術により単離することができる。あるいは、実施例2に記載された方法に従ってCLA-ERををコードする遺伝子を単離し、適当なベクターにサブクローニングし、大腸菌などの適当な宿主に導入して培養し、組換えタンパク質として製造することもできる。CLA-ERは精製されたものであっても、粗精製されたものであってもよい。あるいは、大腸菌等の菌体に発現させ、その菌体自体を用いても、培養液を用いてもよい。さらには、該酵素は遊離型のものでもよく、各種担体によって固定化されたものでもよい。
【0047】
本発明のCLA-ERをコードする核酸を含むベクターは、目的(例えば、タンパク質の発現)に応じて、ベクターを導入する宿主細胞に適したものを適宜選択し、使用することができる。発現ベクターである場合、適切なプロモーターに機能可能に連結された本発明の核酸を含み、好ましくは本発明の核酸の下流に転写終結シグナル、すなわちターミネーター領域を含む。さらに、形質転換体を選択するための選択マーカー遺伝子(薬剤耐性遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)も含むこともできる。また、発現したタンパク質の分離・精製に有用なタグ配列をコードする配列等を含んでもよい。また、ベクターは、対象宿主細胞のゲノムに組み込まれるものであってもよい。そして、本発明のベクターは、コンピテント細胞法、プロトプラスト法、リン酸カルシウム共沈法等、自体公知の形質転換法で、対象宿主細胞内に導入することができる。
【0048】
本発明において「宿主細胞」は、本発明のCLA-ERをコードする核酸を含むベクターを発現できれば任意の細胞でよく、細菌、酵母、真菌及び高等真核細胞等が挙げられる。細菌の例としては、バチルス又はストレプトマイセス等のグラム陽性菌又は大腸菌等のグラム陰性菌が挙げられる。CLA-ERをコードする核酸を含むベクターが導入された組換え細胞は、宿主細胞に適した自体公知の方法により培養することができる。
【0049】
本発明のCLA-ERの「精製」は、自体公知の方法、例えば、遠心分離等で集菌した菌体を、超音波又はガラスビーズ等で摩砕した後、遠心分離等により細胞片等の固形物を除き、粗酵素液を調製し、さらに、硫安、硫酸ナトリウム等による塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、アフィニテイクロマトグラフィー等のクロマトグラフ法、ゲル電気泳動法等を用いることができる。
【0050】
飽和化酵素反応は、適当な緩衝液(例えば、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、ホウ酸緩衝液等)中で、基質である10-oxo,trans-11脂肪酸と飽和化酵素とを適当な濃度で混合し、インキュベートすることにより行われ得る。基質濃度は、例えば1〜100g/L、好ましくは10〜50g/L、より好ましくは20〜40g/Lである。飽和化酵素の添加量は、例えば、0.001〜10mg/ml、好ましくは0.1〜5mg/ml、より好ましくは0.2〜2mg/mlである。
【0051】
反応4には「補因子」を用いてよく、例えば、NADH等を用いることができる。その添加濃度は酸化反応が効率良く進む濃度であればよい。好ましくは0.001〜20mM、より好ましくは0.01〜10mMである。
さらに、酵素反応に「活性化剤」を用いてよく、例えば、上記反応1で例示されたのと同様の化合物を、同様の添加濃度で使用することができる。
【0052】
反応4は、飽和化酵素の好適温度、好適pHの範囲内で行うことが望ましい。例えば、反応温度は5〜50℃、好ましくは20〜45℃である。また、反応液のpHとしては、例えば、pH4〜10、好ましくはpH5〜9である。反応時間も特に制限はないが、例えば10分〜72時間、好ましくは30分〜36時間である。
【0053】
本発明の好ましい一実施態様においては、飽和化酵素は、それをコードする核酸を含む発現ベクターが導入された組換え細胞(例えば、大腸菌、枯草菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞等)の形態で反応系に提供される。この場合、当該細胞の培養に適した液体培地に、基質及び必要に応じて活性化剤を添加して、当該細胞を培養することにより、飽和化酵素反応を行うこともできる。
【0054】
【化5】
【0055】
第4の本発明は、10位にカルボニル基を有し11位にトランス型二重結合を有する炭素数18のオキソ脂肪酸(10-oxo,trans-11脂肪酸)から、脱水素酵素反応(反応5)により、10位に水酸基を有し11位にトランス型二重結合を有する炭素数18の水酸化脂肪酸(以下、「10-hydroxy,trans-11脂肪酸」と略記する場合がある)を製造する方法、又は、10位にカルボニル基を有し11及び12位に二重結合を持たない炭素数18のオキソ脂肪酸(10-oxo,11,12-飽和化脂肪酸)から、脱水素酵素反応(反応6)により、10位に水酸基を有し11及び12位に二重結合を持たない炭素数18の水酸化脂肪酸(以下、「10-hydroxy,11,12-飽和化脂肪酸」と略記する場合がある)を製造する方法を提供する。
反応5の「基質」としては、上記反応3により生成し得る10-oxo,trans-11脂肪酸であれば特に制限されず、10-オキソ-シス-12-オクタデセン酸(KetoA)から誘導される10-オキソ-トランス-11-オクタデセン酸(KetoC)、10-オキソ-シス-12,シス-15-オクタデカジエン酸(「αKetoA」ともいう)から誘導される10-オキソ-トランス-11,シス-15-オクタデカジエン酸(「αKetoC」ともいう)、10-オキソ-シス-6,シス-12-オクタデカジエン酸(「γKetoA」ともいう)から誘導される10-オキソ-シス-6,トランス-11-オクタデカジエン酸(「γKetoC」ともいう)、10-オキソ-シス-6,シス-12,シス-15-オクタデカトリエン酸(「sKetoA」ともいう)から誘導される10-オキソ-シス-6,トランス-11,シス-15-オクタデカトリエン酸(「sKetoC」ともいう)等が挙げられる。もちろん、当該基質は反応3以外の方法により得られたものであってもよい。
一方、反応6の「基質」としては、上記反応4により生成し得る10-oxo,11,12-飽和化脂肪酸であれば特に制限されず、10-オキソ-トランス-11-オクタデセン酸(KetoC)から誘導される10-オキソオクタデカン酸(KetoB)、10-オキソ-トランス-11,シス-15-オクタデカジエン酸(αKetoC)から誘導される10-オキソ-シス-15-オクタデセン酸(「αKetoB」ともいう)、10-オキソ-シス-6,トランス-11-オクタデカジエン酸(γKetoC)から誘導される10-オキソ-シス-6-オクタデセン酸(「γKetoB」ともいう)、10-オキソ-シス-6,トランス-11,シス-15-オクタデカトリエン酸(sKetoC)から誘導される10-オキソ-シス-6,シス-15-オクタデカジエン酸(「sKetoB」ともいう)等が挙げられる。もちろん、当該基質は反応4以外の方法により得られたものであってもよい。
【0056】
反応5又は反応6を触媒する脱水素酵素としては、10-oxo,trans-11脂肪酸又は10-oxo,11,12-飽和化脂肪酸を基質として利用し、10-hydroxy,trans-11脂肪酸又は10-hydroxy,11,12-飽和化脂肪酸に変換し得る酵素であれば特に制限はないが、例えば、乳酸菌由来の水酸化脂肪酸−デヒドロゲナーゼ(CLA-DH)が好ましい。より好ましくは、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)由来のCLA-DHであり、特に好ましくは、L.プランタルムFERM BP-10549菌株由来のCLA-DHである。CLA-DHは、上記反応2における酸化反応を触媒するが、逆反応として、反応5又は反応6の還元反応を触媒することもできる。
脱水素酵素は精製されたものであっても、粗精製されたものであってもよい。あるいは、大腸菌等の菌体に発現させ、その菌体自体を用いても、培養液を用いてもよい。さらには、該酵素は遊離型のものでもよく、各種担体によって固定化されたものでもよい。
【0057】
脱水素酵素による還元反応は、適当な緩衝液(例えば、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、ホウ酸緩衝液等)中で、基質である10-oxo,trans-11脂肪酸又は10-oxo,11,12-飽和化脂肪酸と脱水素酵素とを適当な濃度で混合し、インキュベートすることにより行われ得る。基質濃度は、例えば1〜100g/L、好ましくは10〜50g/L、より好ましくは20〜40g/Lである。脱水素酵素の添加量は、例えば、0.001〜10mg/ml、好ましくは0.1〜5mg/ml、より好ましくは0.2〜2mg/mlである。
【0058】
反応5及び反応6には「補因子」を用いてよく、例えば、NADH、NADPHやFADH2等を用いることができる。その添加濃度は還元反応が効率良く進む濃度であればよい。好ましくは0.001〜20mM、より好ましくは0.01〜10mMである。
さらに、酵素反応に「活性化剤」を用いてよく、例えば、上記反応1で例示されたのと同様の化合物を、同様の添加濃度で使用することができる。
【0059】
反応5及び反応6は、脱水素酵素の好適温度、好適pHの範囲内で行うことが望ましい。例えば、反応温度は5〜50℃、好ましくは20〜45℃である。また、反応液のpHとしては、例えば、pH4〜10、好ましくはpH5〜9である。反応時間も特に制限はないが、例えば10分〜72時間、好ましくは30分〜36時間である。
【0060】
本発明の好ましい一実施態様においては、脱水素酵素は、それをコードする核酸を含む発現ベクターが導入された組換え細胞(例えば、大腸菌、枯草菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞等)の形態で反応系に提供される。この場合、当該細胞の培養に適した液体培地に、基質及び必要に応じて補因子や活性化剤を添加して、当該細胞を培養することにより、還元反応を行うこともできる。
【0061】
【化6】
【0062】
第5の本発明は、10位に水酸基を有し11位にトランス型二重結合を有する炭素数18の水酸化脂肪酸(10-hydroxy,trans-11脂肪酸)から、脱水酵素反応(反応7)により、9位にシス型二重結合及び11位にトランス型二重結合を有する共役脂肪酸(以下、「cis-9,trans-11共役脂肪酸」と略記する場合がある)もしくは9位及び11位にトランス型二重結合を有する共役脂肪酸(以下、「trans-9,trans-11共役脂肪酸」と略記する場合がある)を製造する方法、10位に水酸基を有し11及び12位に二重結合を持たない炭素数18の水酸化脂肪酸(10-hydroxy,11,12-飽和化脂肪酸)から、脱水酵素反応(反応8)により、9位にシス型二重結合を有する部分飽和脂肪酸(以下、「cis-9部分飽和脂肪酸」と略記する場合がある)もしくは10位にトランス型二重結合を有する部分飽和脂肪酸(以下、「trans-10部分飽和脂肪酸」と略記する場合がある)、又は10位に水酸基を有し12位にシス型二重結合を有する炭素数18の水酸化脂肪酸(以下、「10-hydroxy,cis-12脂肪酸」と略記する場合がある)から、脱水酵素反応(反応9)により、9位及び12位にシス型二重結合を有する不飽和脂肪酸(以下、「cis-9,cis-12不飽和脂肪酸」と略記する場合がある)もしくは10位にトランス型二重結合及び12位にシス型二重結合を有する共役脂肪酸(以下、「trans-10,cis-12共役脂肪酸」と略記する場合がある)を製造する方法を提供する。
反応7の「基質」としては、上記反応5により生成し得る10-hydroxy,trans-11脂肪酸であれば特に制限されず、10-オキソ-トランス-11-オクタデセン酸(KetoC)から誘導される10-ヒドロキシ-トランス-11-オクタデセン酸(HYC)、10-オキソ-トランス-11,シス-15-オクタデカジエン酸(αKetoC)から誘導される10-ヒドロキシ-トランス-11,シス-15-オクタデカジエン酸(「αHYC」ともいう)、10-オキソ-シス-6,トランス-11-オクタデカジエン酸(γKetoC)から誘導される10-ヒドロキシ-シス-6,トランス-11-オクタデカジエン酸(「γHYC」ともいう)、10-オキソ-シス-6,トランス-11,シス-15-オクタデカトリエン酸(sKetoC)から誘導される10-ヒドロキシ-シス-6,トランス-11,シス-15-オクタデカトリエン酸(「sHYC」ともいう)等が挙げられる。もちろん、当該基質は反応5以外の方法により得られたものであってもよい。
反応8の「基質」としては、上記反応6により生成し得る10-hydroxy,11,12-飽和化脂肪酸であれば特に制限されず、10-オキソオクタデカン酸(KetoB)から誘導される10-ヒドロキシオクタデカン酸(HYB)、10-オキソ-シス-15-オクタデセン酸(αKetoB)から誘導される10-ヒドロキシ-シス-15-オクタデセン酸(「αHYB」ともいう)、10-オキソ-シス-6-オクタデセン酸(γKetoB)から誘導される10-ヒドロキシ-シス-6-オクタデカセン酸(「γHYB」ともいう)、10-オキソ-シス-6,シス-15-オクタデカジエン酸(sKetoB)から誘導される10-ヒドロキシ-シス-6,シス-15-オクタデカジエン酸(「sHYB」ともいう)等が挙げられる。もちろん、当該基質は反応6以外の方法により得られたものであってもよい。
反応9の「基質」としては、例えば、9位及び12位にシス型二重結合を有する不飽和脂肪酸から、上記反応1により生成し得る10-hydroxy,cis-12脂肪酸であれば特に制限されず、リノール酸から誘導される10-ヒドロキシ-シス-12-オクタデセン酸(HYA)、α-リノレン酸から誘導される10-ヒドロキシ-シス-12,シス-15-オクタデカジエン酸(「αHYA」ともいう)、γ-リノレン酸から誘導される10-ヒドロキシ-シス-6,シス-12-オクタデカジエン酸(「γHYA」ともいう)、ステアリドン酸から誘導される10-ヒドロキシ-シス-6,シス-12,シス-15-オクタデカトリエン酸(「sHYA」ともいう)等が挙げられる。もちろん、当該基質は反応1以外の方法により得られたものであってもよい。
【0063】
反応7〜9を触媒する脱水酵素としては、上記の10-hydroxy,trans-11脂肪酸、10-hydroxy,11,12-飽和化脂肪酸又は10-hydroxy,cis-12脂肪酸を基質として利用し、cis-9,trans-11共役脂肪酸もしくはtrans-9,trans-11共役脂肪酸、cis-9部分飽和脂肪酸もしくはtrans-10部分飽和脂肪酸、又はcis-9,cis-12不飽和脂肪酸もしくはtrans-10,cis-12共役脂肪酸に変換し得る酵素であれば特に制限はないが、例えば、乳酸菌由来の脂肪酸−ヒドラターゼ(CLA-HY)が好ましい。より好ましくは、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)由来のCLA-HYであり、特に好ましくは、L.プランタルムFERM BP-10549菌株由来のCLA-HYである。CLA-HYは、上記反応1における水和反応を触媒するが、逆反応として、反応7〜9の脱水反応を触媒することもできる。
脱水酵素は精製されたものであっても、粗精製されたものであってもよい。あるいは、大腸菌等の菌体に発現させ、その菌体自体を用いても、培養液を用いてもよい。さらには、該酵素は遊離型のものでもよく、各種担体によって固定化されたものでもよい。
【0064】
脱水酵素反応は、適当な緩衝液(例えば、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、ホウ酸緩衝液等)中で、基質である10-hydroxy,trans-11脂肪酸、10-hydroxy,trans-11,12-飽和化脂肪酸又は10-hydroxy,cis-12脂肪酸と脱水酵素とを適当な濃度で混合し、インキュベートすることにより行われ得る。基質濃度は、例えば1〜100g/L、好ましくは10〜50g/L、より好ましくは20〜40g/Lである。脱水酵素の添加量は、例えば、0.001〜10mg/ml、好ましくは0.1〜5mg/ml、より好ましくは0.2〜2mg/mlである。
【0065】
反応7〜9には「補因子」を用いてよく、例えば、NADH、NADPHやFADH2等を用いることができる。その添加濃度は脱水反応が効率良く進む濃度であればよい。好ましくは0.001〜20mM、より好ましくは0.01〜10mMである。
さらに、酵素反応に「活性化剤」を用いてよく、例えば、上記反応1で例示されたのと同様の化合物を、同様の添加濃度で使用することができる。
【0066】
反応7〜9は、脱水酵素の好適温度、好適pHの範囲内で行うことが望ましい。例えば、反応温度は5〜50℃、好ましくは20〜45℃である。また、反応液のpHとしては、例えば、pH4〜10、好ましくはpH5〜9である。反応時間も特に制限はないが、例えば10分〜72時間、好ましくは30分〜36時間である。
【0067】
本発明の好ましい一実施態様においては、脱水酵素は、それをコードする核酸を含む発現ベクターが導入された組換え細胞(例えば、大腸菌、枯草菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞等)の形態で反応系に提供される。この場合、当該細胞の培養に適した液体培地に、基質及び必要に応じて補因子や活性化剤を添加して、当該細胞を培養することにより、脱水反応を行うこともできる。
【0068】
本発明で得られるオキソ脂肪酸、水酸化脂肪酸、共役脂肪酸又は部分飽和脂肪酸(以下、包括して「オキソ脂肪酸等」という)は、従来公知の生理活性に基づいて、例えば、医薬、食品、化粧料に配合して使用され得る。
オキソ脂肪酸等を含有する医薬の剤型としては、散在、顆粒剤、丸剤、ソフトカプセル、ハードカプセル、錠剤、チュアブル錠、速崩錠、シロップ、液剤、懸濁剤、座剤、軟膏、クリーム剤、ゲル剤、粘付剤、吸入剤、注射剤等が挙げられる。これらの製剤は常法に従って調製されるが、オキソ脂肪酸等は水に難溶性であるため、植物性油、動物性油等の非親水性有機溶媒に溶解するか又は、乳化剤、分散剤もしくは界面活性剤等とともに、ホモジナイザー(高圧ホモジナイザー)を用いて水溶液中に分散、乳化させて用いる。
【0069】
製剤化のために用いることができる添加剤には、例えば大豆油、サフラー油、オリーブ油、胚芽油、ひまわり油、牛脂、いわし油等の動植物性油、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール等の多価アルコール、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等の界面活性剤、精製水、乳糖、デンプン、結晶セルロース、D−マンニトール、レシチン、アラビアガム、ソルビトール液、糖液等の賦形剤、甘味料、着色料、pH調整剤、香料等を挙げることができる。なお、液体製剤は、服用時に水又は他の適当な媒体に溶解又は懸濁する形であってもよい。また、錠剤、顆粒剤は周知の方法でコーティングしても良い。
【0070】
注射剤の形で投与する場合には、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、経皮、関節内、滑液嚢内、胞膜内、骨膜内、舌下、口腔内等に投与することが好ましく、特に静脈内投与又は腹腔内投与が好ましい。静脈内投与は、点滴投与、ボーラス投与のいずれであってもよい。
【0071】
本発明で得られるオキソ脂肪酸等を含有する「食品」の形態としては、例えば、サプリメント(散在、顆粒剤、ソフトカプセル、ハードカプセル、錠剤、チュアブル錠、速崩錠、シロップ、液剤等)、飲料(お茶、炭酸飲料、乳酸飲料、スポーツ飲料等)、菓子(グミ、ゼリー、ガム、チョコレート、クッキー、キャンデー等)、油、油脂食品(マヨネーズ、ドレッシング、バター、クリーム、マーガリン等)等が挙げられる。
【0072】
上記食品には、必要に応じて各種栄養素、各種ビタミン類(ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK等)、各種ミネラル類(マグネシウム、亜鉛、鉄、ナトリウム、カリウム、セレン等)、食物繊維、分散剤、乳化剤等の安定剤、甘味料、呈味成分(クエン酸、リンゴ酸等)、フレーバー、ローヤルゼリー、プロポリス、アガリクス等を配合することができる。
【0073】
本発明で得られるオキソ脂肪酸等を含有する「化粧料」としては、クリーム、乳液、ローション、マイクロエマルジョンエッセンス、入浴剤などが挙げられ、香料等を混合してもよい。
【0074】
以下の実施例により本発明をより具体的に説明するが、実施例は本発明の単なる例示にすぎず、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【実施例1】
【0075】
ラクトバチルス・プランタルムFERM BP-10549の培養方法
4℃にて保管している2%寒天を含むMRS高層培地よりラクトバチルス・プランタルムFERM BP-10549を15 ml のMRS液体培地(Difco製; pH 6.5)に植菌し、28℃で20時間、120 rpmにて前培養を行った。本培養は、以下に示すリノール酸溶液を7.7 ml含む550 ml のMRS液体培地に前培養を全量植菌し、28℃で24時間、120 rpmにて行った。リノール酸溶液は、50 mgのリノール酸に10 mgの牛血清アルブミンを加え、1 mlの0.1 Mリン酸カリウムバッファー(pH 6.5)に懸濁し、10分間の超音波により均一にした後、0.45 μmのフィルターを用い除菌したものを用いた。培養後、3,000 rpm、4℃にて10分間遠心分離することにより集菌し、ラクトバチルス・プランタルムFERM BP-10549の菌体を得た。
尚、ラクトバチルス・プランタルムFERM BP-10549株は、平成18年(2006)年3月7日より独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(IPOD, AIST)(現 独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター (IPOD, NITE));〒305-8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6に寄託されている。
【実施例2】
【0076】
配列番号2で表されるアミノ酸配列を有する酵素(CLA-ER:オキソ脂肪酸−エノンレダクターゼ)の遺伝子のクローニング
(1) ゲノムDNAの取得
ラクトバチルス・プランタルムFERM BP-10549の湿菌体14 gを180 mlのTENバッファー(10 mM Tris-HCl (pH 7.5); 1 mM EDTA; 10 mM NaCl)に懸濁した。これに9 mlのSETバッファー(20% Sucrose; 50 mM EDTA; 50 mM Tris-HCl (pH 7.5))、135 mgのリゾチームを加え37℃で10分間インキュベートしたのち、90 mlのTENバッファー、9 mlの25% SDS、18 mlの5 M NaCl、180 mlのフェノール、32 mlのクロロホルムを加えゆっくりと完全に混合した。その後、3,500 x gにて20分間室温にて遠心分離し、上層を回収した。続いて、上層と等量のクロロホルムを加え完全に混合し、3,500 x gにて20分間室温にて遠心分離し、上層を回収した。これに等量のエタノールを加え、完全に混合し、3,500 x gにて20分間室温にて遠心分離した。得られた沈殿を20分間真空デシケーターにて乾燥した後、少量のTEバッファー(10 mM Tris-HCl (pH 8.0); 1 mM EDTA)に溶解した。これに20 μlのRNaseA溶液を添加し、37℃で15時間インキュベートした後、1.2 mlのクロロホルムを加え、3,500 x gにて20分間室温にて遠心分離し上層を回収した。これに6 mlのクロロホルムを加え、3,500 x gにて20分間室温にて遠心分離し、上層を回収した。さらに6 mlのイソプロパノールを加え完全に混合した後、30分室温にてインキュベートし、3,500 x gにて20分間室温にて遠心分離した。得られた沈殿物を70%エタノールにて洗浄した後、真空デシケーターにて乾燥し、TEバッファーに溶解し、ゲノムDNAを得た。
【0077】
(2) PCRによるCLA-ER遺伝子の取得
公表されているラクトバチルス・プランタルムWCFS1株の全ゲノム遺伝子配列においてCLA-DCのすぐ下流に存在するopen-reading-frame (ORF)をターゲットにした。該ORFの開始コドンの5'側9〜28塩基上流の配列をもとに、センスプライマー(配列番号3)を、また、終止コドンの3'側13〜31塩基下流の配列を基にアンチセンスプライマー(配列番号4)を設計した。これらのプライマーを用い、ラクトバチルス・プランタルムFERM BP-10549のゲノムDNAを鋳型とし、PCRを行った。PCRの結果増幅された遺伝子断片約0.7 kbpの塩基配列の解読を行った結果、本遺伝子断片には開始コドンATGから始まり終止コドンTAAで終わる654 bpの一つのORF(配列番号1)が含まれていることが判明し、本遺伝子をCLA-ER遺伝子とした。本CLA-ER遺伝子は配列番号2に示す217残基のアミノ酸からなるタンパク質をコードしていた。
【実施例3】
【0078】
(CLA-ER)の大腸菌での発現
大腸菌発現用ベクターpET101/D-TOPO (Invitrogen)とロゼッタ2(DE3)株からなる宿主ベクター系を用いた。ラクトバチルス・プランタルムFERM BP-10549のCLA-ER遺伝子の開始コドンATGの前にCACCを付加し、開始コドンならびにそれを含む3'末端側23塩基の配列に基づいて設計したセンスプライマー(配列番号5)と、終止コドンのTAAを削除した5'末端側26塩基の配列に基づいて設計したアンチセンスプライマー(配列番号6)を用い、ラクトバチルス・プランタルムFERM BP-10549のゲノムDNAを鋳型としてPCRを行った。PCRの結果増幅された約0.6 kbpの遺伝子断片をpET101/D-TOPOに挿入し、発現ベクター(pCLA-ER)を構築した。pCLA-ERをロゼッタ2(DE3)株に形質転換し、形質転換株ロゼッタ/pCLA-ER株を得た。得られたロゼッタ/pCLA-ER株を1 mgアンピシリンを含む10 ml LB培地(1%バクトトリプトン(Difco)、0.5%酵母エキス、1%塩化ナトリウムを含む培地(pH 7.0))にて37℃、15時間、300 rpmで好気的に培養し、前培養とした。これを75 mgアンピシリンを含む750 ml LB培地に前培養液10 ml植菌し、2時間、37℃、100 rpmで好気的に培養した後、1 M IPTGを750 μl添加し、さらに20℃にて15時間、100 rpmで好気的に培養した。培養後3,000 rpmにて10分間遠心分離し、ロゼッタ/pCLA-ER株の湿菌体を得た。飽和化酵素は、CLA-ER発現形質転換大腸菌を用いた。
【実施例4】
【0079】
各形質転換大腸菌の調製法
岸野らの報告(Biochemical and Biophysical Research Communications 416(2011)188-193)に基づき、CLA-HY, CLA-DH, CLA-DC各発現形質転換大腸菌を作製した。水和酵素及び脱水酵素はCLA-HY発現形質転換大腸菌、異性化酵素はCLA-DC発現形質転換大腸菌及び、脱水素酵素はCLA-DH発現形質転換大腸菌を用いた。
【実施例5】
【0080】
脱水酵素形質転換大腸菌からの脱水酵素の精製
培養により得られた菌体を3 mlのバッファーC(40 mM イミダゾール、50 mM リン酸カリウムバッファー(pH 8.0)、0.5 M NaCl)に懸濁し、超音波により菌体を破砕した。破砕後、10,000 x gにて60分間4℃にて超遠心分離し、上層を回収した。続いてFPLCを用いてアフィニティーカラム(HisTrap HP)及び透析(透析液は50 mM リン酸カリウムバッファー(pH 6.5))により精製を行った。
【実施例6】
【0081】
脱水素酵素形質転換大腸菌からの脱水素酵素の精製
培養により得られた菌体を3 mlのBugBuster Master Mix(Novagen)に懸濁し、室温で20分間インキュベートした。インキュベート後、10,000 x gにて60分間4℃にて超遠心分離し、上層を回収した。続いてFPLCを用いてゲル濾過カラム(Superdex 200 Hiload 26/60)、イオン交換カラム(MonoQ 10/100)、ゲル濾過カラム(Superdex 200 10/300)及び透析(透析液はバッファーC)により精製を行った。
【実施例7】
【0082】
大腸菌で発現させた水和酵素を用いたリノール酸からHYAの生成
水和酵素誘導形質転換大腸菌を用いリノール酸からHYAの生成試験を行った。反応液は、水和酵素誘導形質転換大腸菌(湿菌体重量 3 g)、NADH (600 mg)、FAD (15 mg)、リノール酸 (5 g)、BSA(1 g)を含む100 mM リン酸カリウムバッファー(pH 6.5)で全量を160 mlとした。反応は、37℃にて、酸素吸着剤アネロパック(三菱化学)存在下で嫌気的に36時間、120 rpmで振とうしながら行った。反応後、反応液(160 ml)に対して1.6 mlの5N HCl、200 mlのクロロホルム、200 mlのメタノールを加えスターラーで撹拌し、クロロホルム層を回収した。さらに残液に対し150 mlのクロロホルムを加えよく撹拌し、再度クロロホルム層を回収した。回収したクロロホルム層をまとめてロータリーエバポレーターにて濃縮し、反応産物及び未反応の基質を抽出した。抽出物の一部を用いてメチルエステル化した後にガスクロマトグラフィーにてHYAの純度を評価した。その結果、抽出物の約80%がHYAであることを確認した。
【実施例8】
【0083】
実施例7より得られた抽出物(HYAを含む混合物)からHYAの精製
実施例7より得られた抽出物(HYAを含む混合物)の10倍重量のシリカゲル(Wakogel(R)C-100)をヘキサンで膨潤させガラスカラムに詰め、硫酸ナトリウム(無水)を重層した。ヘキサン:ジエチルエーテル=8:2の溶出液で実施例7より得られた抽出物(HYAを含む混合物)を懸濁し、カラムにアプライした。溶出液を流速約2 mlで流し、カラムから出てきた溶液をフラクションに分けて回収した。回収した各フラクションをLC/MS及びガスクロマトグラフィーにより分析し、未反応の基質や菌体由来の脂質を除去した後、溶出液をヘキサン:ジエチルエーテル=6:4に変更し、さらに溶出させた。回収した各フラクションをLC/MS及びガスクロマトグラフィーにより分析し、HYAのみが含まれたフラクションを集めてロータリーエバポレーターにて濃縮した。得られた最終生成物の一部を用いてメチルエステル化した後に、ガスクロマトグラフィーにてHYAの純度を評価した。その結果、純度98%以上のHYAを得た。
【実施例9】
【0084】
大腸菌で発現させたCLA-DHを用いたHYAからKetoAの生成
実施例6により得られた精製脱水素酵素を用いHYAからKetoA生成試験を行った。反応液は、精製脱水素酵素 (酵素量83μg)、0.5 mM NAD+、0.01 mM FAD、0.1% HYAを含む20 mM リン酸カリウムバッファー(pH 8.0)で全量を1 mlとした。反応は、37℃にて、酸素吸着剤アネロパック(三菱化学)存在下で嫌気的に4時間、120 rpmで振とうしながら行った。反応後、反応液よりブライダイヤー法にて脂質を抽出しメチルエステル化した後ガスクロマトグラフィーにてKetoAの生成を評価した。その結果、HYAからKetoA(0.06 mg)の生成を確認した。
【実施例10】
【0085】
無水クロム酸(CrO3)を用いたHYAからKetoAの生成
無水クロム酸2.67 gに硫酸2.3 ml、水7.7 mlを加えた物を、アセトンを90 ml加えてクロム酸溶液を作製した。三角フラスコに、2 gのHYAと、40 mlのアセトンを加え、氷上にてスターラーで撹拌しながら上記のクロム酸溶液を1滴ずつ加えた。溶液が青色から抹茶色になったらクロム酸溶液の滴下をやめ、イソプロピルアルコールを用いて反応を停止した。析出した沈殿をろ紙を用いて濾過し、分液ロートに入れさらにジエチルエーテルを150 ml及びミリQ水300 mlを加えてよく振り、ジエチルエーテル層を数回ミリQ水で洗浄した。洗浄後のジエチルエーテル層に硫酸ナトリウム(無水)を適量加えて撹拌し残存水分を除去した。添加した無水硫酸ナトリウムをろ紙を用いて濾過し、得られたジエチルエーテル層をロータリーエバポレーターにて濃縮し、反応産物及び未反応の基質を抽出した。抽出物の一部を用いてLC/MSにてKetoAの純度を評価した。その結果、抽出物の約95%がKetoAであることを確認した。
【実施例11】
【0086】
無水クロム酸を用いたKetoA生産と、大腸菌で発現させたCLA-DHを用いたKetoA生産の比較
精製脱水素酵素を用いたKetoA生産法は、1 mgのHYAを含む1 mlの反応系から0.06 mgのKetoAが生成したことより、変換効率は6%であった。
それに対し無水クロム酸を用いたKetoA生産法は、2 gのHYAから抽出した全脂肪酸のうち約95%がKetoAであったことより、変換率は約95%となり、大幅なKetoA生産効率の向上に成功した。
【実施例12】
【0087】
実施例10より得られた抽出物(KetoAを含む混合物)からKetoAの精製
実施例10より得られた抽出物(KetoAを含む混合物)の20〜30倍重量のシリカゲル(Wakogel(R)C-100)をヘキサンで膨潤させガラスカラムに詰め、硫酸ナトリウム(無水)を重層した。ヘキサン:ジエチルエーテル=8:2の溶出液で実施例10より得られた抽出物(KetoAを含む混合物)を懸濁し、カラムにアプライした。溶出液を流速約2 mlで流し、カラムから出てきた溶液をフラクションに分けて回収した。回収した各フラクションをLC/MS及びガスクロマトグラフィーにより分析し、KetoAのみが含まれたフラクションを集めてロータリーエバポレーターにて濃縮した。得られた最終生成物の一部を用いてメチルエステル化した後に、ガスクロマトグラフィーにてKetoAの純度を評価した。その結果、純度98%以上のKetoAを得た。
【実施例13】
【0088】
大腸菌で発現させた水和酵素を用いたα-リノレン酸からαHYAの生成
水和酵素誘導形質転換大腸菌を用いα-リノレン酸からαHYAの生成試験を行った。反応液は、水和酵素誘導形質転換大腸菌(湿菌体重量 0.7 g)、NADH (33 mg)、FAD (0.8 mg)、α-リノレン酸(1 g)、BSA(0.2 g)を含む100 mM リン酸カリウムバッファー(pH 6.5)で全量を10 mlとした。反応は、37℃にて、酸素吸着剤アネロパック(三菱化学)存在下で嫌気的に63時間、225 rpmで振とうしながら行った。反応後、10 mlのクロロホルム、10 mlのメタノールを加え撹拌し、クロロホルム層を回収した。さらに残液に対し10 mlのクロロホルムを加えよく撹拌し、再度クロロホルム層を回収した。回収したクロロホルム層をまとめてロータリーエバポレーターにて濃縮し、反応産物及び未反応の基質を抽出した。抽出物の一部を用いてメチルエステル化した後にガスクロマトグラフィーにてαHYAの純度を評価した。その結果、抽出物の約35%がαHYAであることを確認した。
【実施例14】
【0089】
実施例13より得られた抽出物(αHYAを含む混合物)からαHYAの精製
実施例13より得られた抽出物(αHYAを含む混合物)の20〜30倍重量のシリカゲル(Wakogel(R)C-100)をヘキサンで膨潤させガラスカラムに詰め、硫酸ナトリウム(無水)を重層した。ヘキサン:ジエチルエーテル=8:2の溶出液で実施例13より得られた抽出物(αHYAを含む混合物)を懸濁し、カラムにアプライした。溶出液を流速約3 mlで流し、カラムから出てきた溶液をフラクションに分けて回収した。回収した各フラクションをLC/MS及びガスクロマトグラフィーにより分析し、未反応の基質や菌体由来の脂質を除去した後、溶出液をヘキサン:ジエチルエーテル=6:4に変更し、さらに溶出させた。回収した各フラクションをLC/MS及びガスクロマトグラフィーにより分析し、αHYAのみが含まれたフラクションを集めてロータリーエバポレーターにて濃縮した。得られた最終生成物の一部を用いてメチルエステル化した後に、ガスクロマトグラフィーにてαHYAの純度を評価した。その結果、純度99%以上のαHYAを得た。
【実施例15】
【0090】
無水クロム酸(CrO3)を用いたαHYAからαKetoAの生成
無水クロム酸2.67 gに硫酸2.3 ml、水7.7 mlを加えた物を、アセトンを90 ml加えてクロム酸溶液を作製した。三角フラスコに、2 gのαHYAと、40 mlのアセトンを加え、氷上にてスターラーで撹拌しながら上記のクロム酸溶液を1滴ずつ加えた。溶液が青色から抹茶色になったらクロム酸溶液の滴下をやめ、イソプロピルアルコールを用いて反応を停止した。析出した沈殿をろ紙を用いて濾過し、分液ロートに入れさらにジエチルエーテルを150 ml及びミリQ水300 mlを加えてよく振り、ジエチルエーテル層を数回ミリQ水で洗浄した。洗浄後のジエチルエーテル層に硫酸ナトリウム(無水)を適量加えて撹拌し残存水分を除去した。添加した無水硫酸ナトリウムをろ紙を用いて濾過し、得られたジエチルエーテル層をロータリーエバポレーターにて濃縮し、反応産物及び未反応の基質を抽出した。抽出物の一部を用いてLC/MSにてαKetoAの純度を評価した。その結果、抽出物の約80%がαKetoAであることを確認した。
【実施例16】
【0091】
実施例15より得られた抽出物(αKetoAを含む混合物)からαKetoAの精製
実施例15より得られた抽出物(αKetoAを含む混合物)の20〜30倍重量のシリカゲル(Wakogel(R)C-100)をヘキサンで膨潤させガラスカラムに詰め、硫酸ナトリウム(無水)を重層した。ヘキサン:ジエチルエーテル=8:2の溶出液で実施例15より得られた抽出物(αKetoAを含む混合物)を懸濁し、カラムにアプライした。溶出液を流速約2 mlで流し、カラムから出てきた溶液をフラクションに分けて回収した。回収した各フラクションをLC/MS及びガスクロマトグラフィーにより分析し、αKetoAのみが含まれたフラクションを集めてロータリーエバポレーターにて濃縮した。得られた最終生成物の一部を用いてメチルエステル化した後に、ガスクロマトグラフィーにてαKetoAの純度を評価した。その結果、純度98%以上のαKetoAを得た。
【実施例17】
【0092】
大腸菌で発現させた水和酵素を用いたγ-リノレン酸からγHYAの生成
水和酵素誘導形質転換大腸菌を用いγ-リノレン酸からγHYAの生成試験を行った。反応液は、水和酵素誘導形質転換大腸菌(湿菌体重量 0.7 g)、NADH (33 mg)、FAD (0.8 mg)、γ-リノレン酸(1 g)、BSA(0.2 g)を含む100 mM リン酸カリウムバッファー(pH 6.5)で全量を10 mlとした。反応は、37℃にて、酸素吸着剤アネロパック(三菱化学)存在下で嫌気的に63時間、225 rpmで振とうしながら行った。反応後、10 mlのクロロホルム、10 mlのメタノールを加え撹拌し、クロロホルム層を回収した。さらに残液に対し10 mlのクロロホルムを加えよく撹拌し、再度クロロホルム層を回収した。回収したクロロホルム層をまとめてロータリーエバポレーターにて濃縮し、反応産物及び未反応の基質を抽出した。抽出物の一部を用いてメチルエステル化した後にガスクロマトグラフィーにてγHYAの純度を評価した。その結果、抽出物の約85%がγHYAであることを確認した。
【実施例18】
【0093】
実施例17より得られた抽出物(γHYAを含む混合物)からγHYAの精製
実施例17より得られた抽出物(γHYAを含む混合物)の20〜30倍重量のシリカゲル(Wakogel(R)C-100)をヘキサンで膨潤させガラスカラムに詰め、硫酸ナトリウム(無水)を重層した。ヘキサン:ジエチルエーテル=8:2の溶出液で実施例17より得られた抽出物(γHYAを含む混合物)を懸濁し、カラムにアプライした。溶出液を流速約3 mlで流し、カラムから出てきた溶液をフラクションに分けて回収した。回収した各フラクションをLC/MS及びガスクロマトグラフィーにより分析し、未反応の基質や菌体由来の脂質を除去した後、溶出液をヘキサン:ジエチルエーテル=6:4に変更し、さらに溶出させた。回収した各フラクションをLC/MS及びガスクロマトグラフィーにより分析し、γHYAのみが含まれたフラクションを集めてロータリーエバポレーターにて濃縮した。得られた最終生成物の一部を用いてメチルエステル化した後に、ガスクロマトグラフィーにてγHYAの純度を評価した。その結果、純度99%以上のγHYAを得た。
【実施例19】
【0094】
無水クロム酸(CrO3)を用いたγHYAからγKetoAの生成
無水クロム酸2.67 gに硫酸2.3 ml、水7.7 mlを加えた物を、アセトンを90 ml加えてクロム酸溶液を作製した。三角フラスコに、2 gのγHYAと、40 mlのアセトンを加え、氷上にてスターラーで撹拌しながら上記のクロム酸溶液を1滴ずつ加えた。溶液が青色から抹茶色になったらクロム酸溶液の滴下をやめ、イソプロピルアルコールを用いて反応を停止した。析出した沈殿をろ紙を用いて濾過し、分液ロートに入れさらにジエチルエーテルを150 ml及びミリQ水300 mlを加えてよく振り、ジエチルエーテル層を数回ミリQ水で洗浄した。洗浄後のジエチルエーテル層に硫酸ナトリウム(無水)を適量加えて撹拌し残存水分を除去した。添加した無水硫酸ナトリウムをろ紙を用いて濾過し、得られたジエチルエーテル層をロータリーエバポレーターにて濃縮し、反応産物及び未反応の基質を抽出した。抽出物の一部を用いてLC/MSにてγKetoAの純度を評価した。その結果、抽出物の約95%がγKetoAであることを確認した。
【実施例20】
【0095】
大腸菌で発現させた水和酵素を用いたステアリドン酸からsHYAの生成
水和酵素誘導形質転換大腸菌を用いステアリドン酸からsHYAの生成試験を行った。反応液は、水和酵素誘導形質転換大腸菌(湿菌体重量 0.7 g)、NADH (33 mg)、FAD (0.8 mg)、ステアリドン酸(0.2 g)、BSA(40 mg)を含む100 mM リン酸カリウムバッファー(pH 6.5)で全量を10 mlとした。反応は、37℃にて、酸素吸着剤アネロパック(三菱化学)存在下で嫌気的に63時間、225 rpmで振とうしながら行った。反応後、10 mlのクロロホルム、10 mlのメタノールを加え撹拌し、クロロホルム層を回収した。さらに残液に対し10 mlのクロロホルムを加えよく撹拌し、再度クロロホルム層を回収した。回収したクロロホルム層をまとめてロータリーエバポレーターにて濃縮し、反応産物及び未反応の基質を抽出した。抽出物の一部を用いてメチルエステル化した後にガスクロマトグラフィーにてsHYAの純度を評価した。その結果、抽出物の約50%がsHYAであることを確認した。
【実施例21】
【0096】
大腸菌で発現させた水和酵素を用いたリシノール酸から10,12-ジヒドロキシオクタデカン酸(rHYA)の生成
水和酵素誘導形質転換大腸菌を用いリシノール酸からrHYAの生成試験を行った。反応液は、水和酵素誘導形質転換大腸菌(湿菌体重量 0.7 g)、NADH (33 mg)、FAD (0.8 mg)、リシノール酸(1 g)、BSA(0.2 g)を含む100 mM リン酸カリウムバッファー(pH 6.5)で全量を10 mlとした。反応は、37℃にて、酸素吸着剤アネロパック(三菱化学)存在下で嫌気的に63時間、225 rpmで振とうしながら行った。反応後、10 mlのクロロホルム、10 mlのメタノールを加え撹拌し、クロロホルム層を回収した。さらに残液に対し10 mlのクロロホルムを加えよく撹拌し、再度クロロホルム層を回収した。回収したクロロホルム層をまとめてロータリーエバポレーターにて濃縮し、反応産物及び未反応の基質を抽出した。抽出物の一部を用いてメチルエステル化した後にガスクロマトグラフィーにてrHYAの純度を評価した。その結果、抽出物の約95%がrHYAであることを確認した。
【実施例22】
【0097】
大腸菌で発現させた異性化酵素を用いたKetoAからKetoCの生成
KetoA (1 g)、BSA(0.2 g)、100 mM リン酸カリウムバッファー(pH 7.5)(4 ml)を超音波にて乳化後、試験管10本に分注した。各々の試験管に2 ml/gの100 mM リン酸カリウムバッファー(pH 7.5)で懸濁した異性化酵素発現形質転換大腸菌を添加し、全量を1 mlとした。反応は、37℃にて、酸素吸着剤アネロパック(三菱化学)存在下で嫌気的に15時間、225 rpmで振とうしながら行った。反応後、各々の試験管に2 mlのメタノールを加えVortexで撹拌、遠心分離後上澄みを回収した。さらに残渣に対し2 mlのメタノールを加えVortexで撹拌し、遠心分離後再度上澄みを回収した。回収した上澄みをまとめてロータリーエバポレーターにて濃縮した。濃縮液に1 mlの蒸留水と3 mlのヘキサンを加えてVortexで撹拌、遠心分離後ヘキサン層を回収した。反応産物及び未反応の基質を抽出した。さらに残液に対し3 mlのヘキサンを加えよく撹拌し、遠心分離後再度ヘキサン層を回収した。回収したヘキサン層をまとめてロータリーエバポレーターにて濃縮し、反応産物及び未反応の基質を抽出した。抽出物の一部を用いてメチルエステル化した後にガスクロマトグラフィーにてKetoCの純度を評価した。その結果、抽出物の約56%がKetoCであることを確認した。
【実施例23】
【0098】
HPLCを用いたKetoCの精製
野村化学社製のDevelosil C30-UG-3 (10 X 150 mm)を用い、移動相はアセトニトリル:水:酢酸(80:20:0.002)、流速3.5 ml/min、カラム温度は30℃、検出は225 nmの吸収でモニターした。上記実施例24で得られた混合物を、メタノールを用いて100 mg/mlとなるように溶解し、0.15 mlをカラムにアプライした。保持時間7.5分あたりで溶出されてくるKetoCのピークのみを分取した。分取した溶液をまとめてエバポレーターにて溶出液を除去した。得られた最終生成物の一部を用いてメチルエステル化した後に、ガスクロマトグラフィー及びLC/MSにてKetoCの純度を評価した。その結果、純度98%以上で
KetoCを得た。
【実施例24】
【0099】
大腸菌で発現させた異性化酵素を用いたαKetoAからαKetoCの生成
αKetoA (0.5 g)、BSA(0.1 g)、100 mM リン酸カリウムバッファー(pH 7.5)(2 ml)を超音波にて乳化後、試験管4本に分注した。各々の試験管に2 ml/gの100 mM リン酸カリウムバッファー(pH 7.5)で懸濁した異性化酵素発現形質転換大腸菌を0.5 mlずつ添加し、全量を1 mlとした。反応は、37℃にて、酸素吸着剤アネロパック(三菱化学)存在下で嫌気的に15時間、225 rpmで振とうしながら行った。反応後、各々の試験管に2 mlのメタノールを加えVortexで撹拌、遠心分離後上澄みを回収した。さらに残渣に対し2 mlのメタノールを加えVortexで撹拌し、遠心分離後再度上澄みを回収した。回収した上澄みをまとめてロータリーエバポレーターにて濃縮した。濃縮液に1 mlの蒸留水と3 mlのヘキサンを加えてVortexで撹拌、遠心分離後ヘキサン層を回収した。反応産物及び未反応の基質を抽出した。さらに残液に対し3 mlのヘキサンを加えよく撹拌し、遠心分離後再度ヘキサン層を回収した。回収したヘキサン層をまとめてロータリーエバポレーターにて濃縮し、反応産物及び未反応の基質を抽出した。抽出物の一部を用いて高速液体クロマトグラフィーにてαKetoCの純度を評価した。その結果、抽出物の約65%がαKetoCであることを確認した。
【実施例25】
【0100】
HPLCを用いたαKetoCの精製
野村化学社製のDevelosil C30-UG-5を用い、移動相はアセトニトリル:水:酢酸(60:40:0.002)、流速10 ml/min、カラム温度は30℃、検出は210 nmと233 nmの吸収でモニターした。上記実施例26で得られた混合物を、メタノールを用いて100 mg/mlとなるように溶解し、0.17 mlをカラムにアプライした。リサイクルシステムを用い溶出されてくるαKetoCのピークのみを分取した。分取した溶液をまとめてエバポレーターにて溶出液を除去した。得られた最終生成物の一部を用いてメチルエステル化した後に、ガスクロマトグラフィー及びLC/MSにてαKetoCの純度を評価した。その結果、純度98%以上でαKetoCを得た。
【実施例26】
【0101】
大腸菌で発現させた異性化酵素を用いたγKetoAからγKetoCの生成
γKetoA (0.5 g)、BSA(0.1 g)、100 mM リン酸カリウムバッファー(pH 7.5)(2 ml)を超音波にて乳化後、試験管4本に分注した。各々の試験管に2 ml/gの100 mM リン酸カリウムバッファー(pH 7.5)で懸濁した異性化酵素発現形質転換大腸菌を0.5 mlずつ添加し、全量を1 mlとした。反応は、37℃にて、酸素吸着剤アネロパック(三菱化学)存在下で嫌気的に15時間、225 rpmで振とうしながら行った。反応後、各々の試験管に2 mlのメタノールを加えVortexで撹拌、遠心分離後上澄みを回収した。さらに残渣に対し2 mlのメタノールを加えVortexで撹拌し、遠心分離後再度上澄みを回収した。回収した上澄みをまとめてロータリーエバポレーターにて濃縮した。濃縮液に1 mlの蒸留水と3 mlのヘキサンを加えてVortexで撹拌、遠心分離後ヘキサン層を回収した。反応産物及び未反応の基質を抽出した。さらに残液に対し3 mlのヘキサンを加えよく撹拌し、遠心分離後再度ヘキサン層を回収した。回収したヘキサン層をまとめてロータリーエバポレーターにて濃縮し、反応産物及び未反応の基質を抽出した。抽出物の一部を用いてLC/MSにてγKetoCの純度を評価した。その結果、抽出物の約95%がγKetoCであることを確認した。
【実施例27】
【0102】
HPLCを用いたγKetoCの精製
野村化学社製のDevelosil C30-UG-5を用い、移動相はアセトニトリル:水:酢酸(60:40:0.002)、流速10 ml/min、カラム温度は30℃、検出は210 nmと233 nmの吸収でモニターした。上記実施例26で得られた混合物を、メタノールを用いて100 mg/mlとなるように溶解し、0.17 mlをカラムにアプライした。リサイクルシステムを用い溶出されてくるγKetoCのピークのみを分取した。分取した溶液をまとめてエバポレーターにて溶出液を除去した。得られた最終生成物の一部を用いてメチルエステル化した後に、ガスクロマトグラフィー及びLC/MSにてγKetoCの純度を評価した。その結果、純度96%以上でγKetoCを得た。
【実施例28】
【0103】
大腸菌で発現させた異性化酵素を用いたKetoAからKetoCの生成
KetoA (1 g)、BSA(0.2 g)、100 mM リン酸カリウムバッファー(pH 7.5)(4 ml)を超音波にて乳化後、試験管10本に分注した。各々の試験管に2 ml/gの100 mM リン酸カリウムバッファー(pH 7.5)で懸濁した異性化酵素発現形質転換大腸菌を添加し、全量を1 mlとした。反応は、37℃にて、酸素吸着剤アネロパック(三菱化学)存在下で嫌気的に15時間、225 rpmで振とうしながら行った。反応後、各々の試験管に2 mlのメタノールを加えVortexで撹拌、遠心分離後上澄みを回収した。さらに残渣に対し2 mlのメタノールを加えVortexで撹拌し、遠心分離後再度上澄みを回収した。回収した上澄みをまとめてロータリーエバポレーターにて濃縮した。濃縮液に1 mlの蒸留水と3 mlのヘキサンを加えてVortexで撹拌、遠心分離後ヘキサン層を回収した。反応産物及び未反応の基質を抽出した。さらに残液に対し3 mlのヘキサンを加えよく撹拌し、遠心分離後再度ヘキサン層を回収した。回収したヘキサン層をまとめてロータリーエバポレーターにて濃縮し、反応産物及び未反応の基質を抽出した。抽出物の一部を用いてメチルエステル化した後にガスクロマトグラフィーにてKetoCの純度を評価した。その結果、抽出物の約56%がKetoCであることを確認した。
【実施例29】
【0104】
HPLCを用いたKetoCの精製
野村化学社製のDevelosil C30-UG-3 (10 X 150 mm)を用い、移動相はアセトニトリル:水:酢酸(80:20:0.002)、流速3.5 ml/min、カラム温度は30℃、検出は225 nmの吸収でモニターした。上記実施例28で得られた混合物を、メタノールを用いて100 mg/mlとなるように溶解し、0.15 mlをカラムにアプライした。保持時間7.5分あたりで溶出されてくるKetoCのピークのみを分取した。分取した溶液をまとめてエバポレーターにて溶出液を除去した。得られた最終生成物の一部を用いてメチルエステル化した後に、ガスクロマトグラフィー及びLC/MSにてKetoCの純度を評価した。その結果、純度98%以上でKetoCを得た。
【実施例30】
【0105】
大腸菌で発現させた飽和化酵素を用いたKetoCからKetoBの生成
飽和化酵素を用いKetoB生成試験を行った。反応液は、飽和化酵素誘導形質転換大腸菌(湿菌体重量 33 mg)、0.5 mM NADH、0.01 mM FAD、KetoC(5.2 mg)、1 mg BSAを含む100 mM リン酸カリウムバッファー(pH 6.5)で全量を1 mlとした。反応は、37℃にて、酸素吸着剤アネロパック(三菱化学)存在下で嫌気的に17時間、200 rpmで振とうしながら行った。反応後、反応液よりブライダイヤー法にて脂質を抽出し、メチルエステル化した後にガスクロマトグラフィーにてKetoBの生成を評価した。その結果、変換率30%でKetoBが生成していることを明らかにした。
【実施例31】
【0106】
大腸菌で発現させた異性化酵素及び飽和化酵素を用いたαKetoAからαKetoBの生成
異性化酵素及び飽和化酵素を用いαKetoB生成試験を行った。反応液は、異性化酵素誘導形質転換大腸菌(湿菌体重量 80 mg)、飽和化酵素誘導形質転換大腸菌(湿菌体重量 80 mg)、0.5 mM NADH、0.01 mM FAD、αKetoA(2 mg)、0.4 mg BSAを含む100 mM リン酸カリウムバッファー(pH 7.5)で全量を1 mlとした。反応は、37℃にて、酸素吸着剤アネロパック(三菱化学)存在下で嫌気的に18時間、225 rpmで振とうしながら行った。反応後、反応液よりブライダイヤー法にて脂質を抽出し、メチルエステル化した後にガスクロマトグラフィーにてαKetoBの生成を評価した。その結果、変換率99%でαKetoBが生成していることを明らかにした。
【実施例32】
【0107】
大腸菌で発現させた脱水素酵素を用いたKetoCからHYCの生成
実施例6より得られた精製脱水素酵素を用いHYC生成試験を行った。反応液は、精製脱水素酵素(酵素量83 μg)、0.5 mM NADH、0.01 mM FAD、 0.005% KetoCを含む20 mM リン酸カリウムバッファー(pH 6.5)で全量を0.8 mlとした。反応は、37℃にて、酸素吸着剤アネロパック(三菱化学)存在下で嫌気的に4時間、120 rpmで振とうしながら行った。反応後、反応液よりブライダイヤー法にて脂質を抽出し、メチルエステル化した後にガスクロマトグラフィーにてにてHYCの生成を評価した。その結果、KetoCからHYC(0.02 mg)の生成を確認した。
【実施例33】
【0108】
大腸菌で発現させた脱水素酵素を用いたKetoBからHYBの生成
脱水素酵素を用いHYB生成試験を行った。反応液は、脱水素酵素誘導形質転換大腸菌(湿菌体重量 50 mg)、0.5 mM NADH、0.01 mM FAD、0.02% KetoBを含む20 mM リン酸カリウムバッファー(pH 6.5)で全量を1 mlとした。反応は、37℃にて、酸素吸着剤アネロパック(三菱化学)存在下で嫌気的に4時間、120 rpmで振とうしながら行った。反応後、反応液よりブライダイヤー法にて脂質を抽出し、メチルエステル化した後にガスクロマトグラフィーにてHYBの生成を評価した。その結果、KetoBからHYB(0.08 mg)の生成を確認した。
【実施例34】
【0109】
大腸菌で発現させた脱水酵素を用いたHYCからCLA1及びCLA2の生成
実施例5より得られた精製脱水酵素を用いCLA1及びCLA2生成試験を行った。反応液は、精製脱水酵素(酵素量300 μg)、0.5 mM NADH、0.01 mM FAD、0.035% HYCを含む20 mM リン酸カリウムバッファー(pH 6.5)で全量を0.8 mlとした。反応は、37℃にて、酸素吸着剤アネロパック(三菱化学)存在下で嫌気的に4時間、120 rpmで振とうしながら行った。反応後、反応液よりブライダイヤー法にて脂質を抽出し、メチルエステル化した後にガスクロマトグラフィーにてCLA1及びCLA2の生成を評価した。その結果、HYCからCLA1(0.05 mg)及びCLA2(0.15 mg)の生成を確認した。
【実施例35】
【0110】
大腸菌で発現させた脱水酵素を用いたHYBからオレイン酸及びtrans-10-オクタデセン酸の生成
脱水酵素を用いオレイン酸及びtrans-10-オクタデセン酸生成試験を行った。反応液は、脱水酵素誘導形質転換大腸菌(湿菌体50 mg)、0.5 mM NADH、0.01 mM FAD、0.2% HYBを含む20 mM リン酸カリウムバッファー(pH 6.5)で全量を1 mlとした。反応は、37℃にて、酸素吸着剤アネロパック(三菱化学)存在下で嫌気的に4時間、120 rpmで振とうしながら行った。反応後、反応液よりブライダイヤー法にて脂質を抽出し、メチルエステル化した後にガスクロマトグラフィーにてオレイン酸及びtrans-10-オクタデセン酸の生成を評価した。その結果、HYBからオレイン酸(0.02 mg)及びtrans-10-オクタデセン酸(0.1 mg)の生成を確認した。
【実施例36】
【0111】
大腸菌で発現させた脱水酵素を用いたHYAからリノール酸及びCLA3の生成
脱水酵素を用いリノール酸及びtrans-10,cis-12-CLA生成試験を行った。反応液は、脱水酵素誘導形質転換大腸菌(湿菌体50 mg)、0.5 mM NADH、0.01 mM FAD、0.07% HYAを含む20 mM リン酸カリウムバッファー(pH 6.5)で全量を1 mlとした。反応は、37℃にて、酸素吸着剤アネロパック(三菱化学)存在下で嫌気的に4時間、120 rpmで振とうしながら行った。反応後、反応液よりブライダイヤー法にて脂質を抽出し、メチルエステル化した後にガスクロマトグラフィーにてリノール酸及びCLA3の生成を評価した。その結果、HYAからリノール酸(0.26 mg)及びtrans-10,cis-12-CLA (0.07 mg)の生成を確認した。
【0112】
本発明を好ましい態様を強調して説明してきたが、好ましい態様が変更され得ることは当業者にとって自明である。
ここで述べられた特許及び特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、ここに引用されたことによって、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
【0113】
本出願は、日本で出願された特願2012-108928(出願日:2012年5月10日)を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明の方法によれば、様々なオキソ脂肪酸を効率的に製造することができるため、当該オキソ脂肪酸の医薬・食品等様々な分野への適用が可能となる。また、本発明の方法によれば、オキソ脂肪酸を原料として、様々な希少脂肪酸の製造が可能となる点でも極めて有用である。
図1
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]