特許第6755495号(P6755495)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6755495コレステロール蓄積疾患治療薬のスクリーニング方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6755495
(24)【登録日】2020年8月28日
(45)【発行日】2020年9月16日
(54)【発明の名称】コレステロール蓄積疾患治療薬のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/04 20060101AFI20200907BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20200907BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20200907BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20200907BHJP
   A61K 35/545 20150101ALN20200907BHJP
   A61P 3/00 20060101ALN20200907BHJP
   C12N 15/86 20060101ALN20200907BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20200907BHJP
   C12N 5/071 20100101ALN20200907BHJP
【FI】
   C12Q1/04
   C12N5/10
   G01N33/15 Z
   G01N33/50 Z
   !A61K35/545
   !A61P3/00
   !C12N15/86 ZZNA
   !C12N15/12
   !C12N5/071
【請求項の数】8
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2018-227036(P2018-227036)
(22)【出願日】2018年12月4日
(62)【分割の表示】特願2015-551538(P2015-551538)の分割
【原出願日】2014年12月3日
(65)【公開番号】特開2019-30341(P2019-30341A)
(43)【公開日】2019年2月28日
【審査請求日】2018年12月25日
(31)【優先権主張番号】特願2013-252174(P2013-252174)
(32)【優先日】2013年12月5日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-135865(P2014-135865)
(32)【優先日】2014年7月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000231453
【氏名又は名称】日本食品化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102015
【弁理士】
【氏名又は名称】大澤 健一
(72)【発明者】
【氏名】江良 択実
(72)【発明者】
【氏名】入江 徹美
【審査官】 小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】 房木ノエミ,センダイウイルスベクターを用いた遺伝子挿入のない疾患由来iPS細胞株の樹立に関する研究,難治性疾患由来外来因子フリー人工多能性幹細胞の委託作製とバンク化に関する研究 平成22年度総括・分担,2011年 3月,p.27-31
【文献】 Nature,2011年 3月10日,Vol.471, No.7337,p.230-234
【文献】 PNAS,2011年 8月23日,Vol.108, No.34,p.14234-14239
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00− 7/08
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライソゾーム病に対する薬剤候補をスクリーニングするための方法であって、以下の工程:
(i)ライソゾーム病患者由来の細胞に、温度感受性センダイウイルスベクターを感染させて該細胞の初期化を行う工程、ここで、該ベクターは、NP遺伝子、アラニン残基(D433A、R434A、およびK437A)を生じる3つの変異を含むP遺伝子、M遺伝子、HN遺伝子およびL遺伝子の各遺伝子からなり、P遺伝子とM遺伝子の間に、3つの初期化遺伝子、KLF4、OCT3/4、およびSOX2をコードする配列をこの順番方向にて搭載する、および
(ii)前記ベクターが感染した細胞を、37℃を超える温度で培養することにより、該細胞から初期化遺伝子を搭載するベクターを除去して、導入遺伝子を含まないiPS細胞を作製する工程、
を含むiPS細胞の作製工程により作製されたiPS細胞を、肝細胞様細胞へと分化させた後、標的物質とともに培養し、次いで、細胞に対する該標的物質の影響を検出すること、
を含むスクリーニング方法。
【請求項2】
前記工程(ii)における培養が、38℃±0.5℃である、請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
ライソゾーム病患者由来の細胞が、皮膚の繊維芽細胞である請求項1または2に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
ライソゾーム病患者由来の細胞が、末梢血由来の細胞である請求項1または2に記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
前記ライソゾーム病が、ニーマンピック病である請求項1〜4のいずれか一つに記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
前記ライソゾーム病が、ニーマンピック病またはGM1ガングリオシドーシスであり、前記標的物質の影響は、細胞のオートファジー機能の異常に対する影響として検出することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載のスクリーニング方法
【請求項7】
前記ライソゾーム病が、ニーマンピック病であり、前記標的物質の影響は、
(a)細胞内コレステロール蓄積の上昇に対する影響、
(b)細胞のオートファジー機能の異常に対する影響、および
(c)細胞内のATP産生の低下に対する影響、
からなる群より選ばれるいずれか一つ以上の影響として検出することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載のスクリーニング方法
【請求項8】
前記標的物質影響は、(a)細胞内コレステロール蓄積の上昇に対する影響、(b)細胞のオートファジー機能の異常に対する影響、および(c)細胞内のATP産生の低下に対する影響として検出することを特徴とする請求項7に記載のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ライソゾーム病などのコレステロール蓄積が原因の疾患を治療するための医薬組成物および方法に関する。より詳細には、本発明は、ヒドロキシプロピル−γ−シクロデキストリンを有効成分として含む、コレステロール蓄積が原因の疾患を治療するための医薬組成物に関する。本発明はまた、ライソゾーム病などのコレステロール蓄積が原因の疾患の治療薬をスクリーニングするための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞内小器官の一つであるライソゾームに関連する酵素が遺伝的に欠損または変異していると、分解または輸送されるべき物質が細胞内外に異物として蓄積してしまう。このような現象によって引き起こされる先天代謝異常疾病はライソゾーム病として知られている。ライソゾーム病の例として、ニーマンピック病やGM1ガングリオシドーシスをあげることができる。
【0003】
ニーマンピック病C型(NPC)は、細胞内でのコレステロールを中心とした脂質の輸送を司る膜タンパク質NPC1あるいはエンドソームでNPC1と共存する分泌性蛋白質NPC2分子の異常によっておこる先天性ライソゾーム病の1つである。患者細胞ではフリーコレステロールや脂質がライソゾーム内に蓄積する。肝、脾腫大と神経症状を特徴とする。幼少期に発症し、肝脾腫や進行性の神経障害が起こり、10歳前後で死亡する希少難病である。本疾患に対する有効な治療法は確立していない。
【0004】
環状オリゴ糖シクロデキストリン(CyDs)は、分子内に疎水性の空洞を有する単分子的ホスト分子である。CyDsの空洞にゲスト分子が取り込まれて包接複合体を形成すると、ゲスト分子の物理化学的性質は様々に変化する。分子カプセルと呼ばれるCyDsの超分子的な包接現象は、多方面で有効利用されている。特に、医薬品開発においては、
製剤特性の改善やドラッグデリバリーシステムの構築などに広く応用されている。
最近、Liuらは、2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HPBCD)をNpc1遺伝子欠損(Npc1−/−)マウスに静脈内投与すると、病状改善や延命に有効であること、HPBCDを脳内に直接投与すると、その改善効果は全身投与に比べて数百倍増大することを報告した(非特許文献1)。これら基礎研究の成果をもとに、米国FDAはNPC患児へのHPBCD(静脈内投与及び髄腔内投与)の人道的使用を特認している。このような背景のもと、日本でも、佐賀大学医学部附属病院で、HPBCD注射剤を院内調製し、NPC患児への治療が始まった。NPC患児へHPBCD(1回2500mg/kg、週1−3回)の静脈内点滴投与を1年以上にわたり継続した結果、患児の肝脾腫の縮小や脳波上の改善に一定の効果が得られたが、神経症状の改善には至っていない。そこで、HPBCDに加えて糖脂質合成阻害剤ミグルスタット(1回50あるいは100mg,1日2回)が併用された。さらに、HPBCDを、血液脳関門を介さず脳内へ直接送達するために、HPBCDの静脈内投与に並行して、髄腔内投与およびOmmayaリザーバーを介した脳室内投与(30mg/kg,週1回)が行われている。HPBCDによる治療は国内初であり、大量投与・長期投与の前例はないので、治療の有効性や有害事象等を精査しながら、治療が継続されている。しかし、副作用の問題もあり国内では未だ一般化していない。
【0005】
一方、HPBCDは、医薬品の添加剤(溶解補助剤)として認められているが、腎障害が懸念されている。また、肺障害などの事象も報告されており、大量投与や長期投与の場合は、その安全性が問題となっている。従って、HPBCDに代わる、NPCのより安全な治療薬が望まれている。
【0006】
GM1ガングリオシドーシスは、糖加水分解酵素であるライソゾーマル−β−グルコシダーゼの変異が病因となるゴーシェ(Gaucher)病の一つであり、ライソゾーマル−β−ガラクトシダーゼの変異が病因である。ベータガラクトシダーゼが欠損することにより、その基質であるGM1−ガングリオシドやアシアロGM1−ガングリオシドなどの糖脂質が脳や内臓(肝臓、脾臓)などに、またケラタン硫酸などのムコ多糖が骨に蓄積する疾患である。乳児期早期から発症し、痙性対麻痺をはじめ広汎な中枢神経障害、眼底のチェリーレッドスポット、肝脾腫、骨の異常を伴う乳児型(1型)、幼児期から発症し、中枢神経障害が進行する若年型(2型)、さらに学童期から構音障害などの症状が現れ、錐体外路症状が中心となる成人型(3型)の3型がある。
【0007】
これらの疾病に対し、酵素補充療法が現在までの主な治療法となっているが、酵素製剤は中枢神経に到達しにくく脳を含む神経系に対する治療効果が見られないこと、また高価な酵素製剤の点滴治療を生涯にわたって続けなければならないことなどが問題点として挙げられる。従って、これらのライソゾーム病の新たな治療薬が望まれている。
【0008】
人為的にヒト体細胞から産生される人工多能性幹細胞(iPS細胞)は、持続的に無制限に増殖することができ、多分化能(すなわち、インビトロで種々の細胞型を生じさせる能力)を示すように誘導できる。これらの特徴により、iPS細胞は、臨床医学における細胞療法のリソースとして潜在的な用途を有している。リプログラミングとして知られているiPS細胞作製のプロセスは、4つの転写因子、OCT3/4、Sox2、Klf4、およびc−Mycの発現によって引き起こされる。これらの因子は、例えば、胚幹細胞(ES細胞)などの他の多能性幹細胞の多能性の基礎となるコア因子と同じである。ヒト皮膚由来線維芽細胞中でのこれらの4つの因子の過剰発現は、初期のころはレンチウイルスやレトロウイルスベクターによって媒介された。これらの遺伝子発現システムは安定であるが、2つの潜在的な問題があった。一つは、4つの因子をコードする遺伝子が宿主ゲノムに組み込まれることであり、もう一つは、それらが得られたiPS細胞中に残ることである。そのため、生体内で腫瘍形成を促進しうる挿入突然変異の危険性がある。
【0009】
そこで、Cre/loxPを組換え系、アデノウイルスベクター、ピギーバックトランスポゾン、マイクロRNA、またはタンパク質に基づく、効率的かつ安全なリプログラミング方法が開発されているが、低頻度でのiPS細胞コロニーの形成、繰り返し誘導の必要性、および短い長さの外来遺伝子が宿主ゲノム中で保持されるという問題があった。最近の研究では、めったに宿主ゲノムに組み込まないエピソームプラスミドベクターを用いて、血液細胞からのiPS細胞の作製を行うことが報告されているが、効率が低く(〜0.1%)、さらには、4つのリプログラミング因子に加えて、p53ノックダウンとEBNAの一時的な発現が必要である。
【0010】
センダイウイルス(SeV)ベクター技術は、上記の問題を克服するために開発された代替戦略である。センダイウイルスベクターは、宿主ゲノムに組み込まれることなく、目的の遺伝子を発現するマイナス鎖RNAであり、ヒト皮膚由来線維芽細胞や血液細胞からのiPS細胞を効率的に作製するために使用されてきた(非特許文献2、非特許文献3)。センダイウイルスベクターによるiPS細胞コロニーの発生頻度は、レトロウイルスやレンチウイルスベクターを用いた従来の方法で達成されるよりも高い(0.1%対0.01%)。しかし、センダイウイルスは、一ヶ月以上細胞内に残っているので、導入遺伝子を含まないiPS細胞の作製は、長い時間がかかる。近年、センダイウイルスの持続的な細胞複製による制御できないiPS細胞の作製を防ぐために、温度感受性センダイウイルス(TS−SeV)システムが開発された(非特許文献4)。Ts−SeVは、臍帯血細胞や線維芽細胞由来のiPS細胞から、温度上昇により、容易かつ直ちに除去できるが、iPS細胞の作製効率はSeVよりも低い。
また、SeVを用いて、末梢血単球からiPS細胞を作製する方法が報告されている。そこでは、初期化遺伝子であるOct4、Sox2、Klf4、およびc−Mycを持続的に発現するSeVベクターが用いられており、siRNAを使用して細胞からの初期化遺伝子搭載ウィルスベクターの除去が行われている(特許文献1)。
【0011】
皮膚線維芽細胞は、iPS細胞作製に用いる最も一般的な細胞型であるが、皮膚生検は侵襲性であり、子供や皮膚疾患または凝固障害を有する患者にとって理想的ではない。末梢血細胞が好ましいソース細胞であるが、Ts−SeVベクターを用いた、末梢血細胞からのiPS細胞作製については報告されておらず、また、iPS細胞における長期にわたるセンダイウイルスの保持は、これまでの温度感受性SeVを用いる場合の問題として残っている。
【0012】
センダイウイルスを含む方法を用いて得られた、病原性突然変異を保有する患者の体細胞に由来する多数のiPS細胞株は、疾患の表現型を模写することが示されている。よって、これらの細胞株は、細胞治療のためだけでなく、生物医学研究や医薬品開発のための、強力なツールとなる。難病患者から得られた生体材料のサンプルは、疾患の分子メカニズムを研究し、新たな治療薬を開発するために不可欠であるが、そのような患者からのサンプル数は通常限られているので、疾患由来のiPS細胞は、細胞治療のための生体材料の代替または補足源として有用であると期待されている。このように、iPS細胞は現在、細胞源と病気の細胞モデルとして用いられているが、非効率的な作製と細胞内の導入遺伝子の存在によりその使用が制限されている。そこで、より効率的に作製でき、かつ、細胞内に導入遺伝子を含まない安全なiPS細胞の作製方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】WO2012/063817号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Liuら、Proc Natl Acad Sci USA, 106, 2377(2009)
【非特許文献2】房木ら、Proc. Jpn. Acad. Ser. B, Phys. Biol. Sci. 85, 348-362, 2009
【非特許文献3】関ら、Cell Stem Cell 7, 11-14, 2010
【非特許文献4】Banら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 108, 14234-14239, 2011
【非特許文献5】入江ら、J. Phar. Sci., vol 86, No. 2, pp.147-162, 1997
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、ライソゾーム病などのコレステロール蓄積が原因の疾患、例えばニーマンピック病やGM1ガングリオシドーシスを治療するための医薬組成物を提供することを目的とする。
本発明はまた、それらの医薬組成物をスクリーニングするための方法を提供することを目的とし、より具体的には、ライソゾーム病などのコレステロール蓄積が原因の疾患の表現型を模写するiPS細胞株を用いた、該疾患を治療するための医薬組成物のスクリーニング方法を提供することを目的とする。
本発明はまた、前記スクリーニング方法に用いるiPS細胞株を効率よく作製するための方法に関し、より具体的には、特定の初期化因子のみをもつ温度感受性センダイウイルスを用いて前記スクリーニング方法に用いるiPS細胞株を効率よく作製するための方法に関する。
本発明の目的はまた、難治性疾患の有効な細胞モデルである、導入遺伝子を含まないiPS細胞株を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、iPS細胞の作製効率が改善され、かつ細胞内DNAに組み込まれずに容易に細胞からに除去することができる、新たなセンダイウイルスベクター、TS12KOSを開発した。本発明者らはまた、TS12KOSベクターを用いて、難病疾患の患者から、該疾患の表現型を示すiPS細胞株を作製し、該細胞株を用いた疾患の治療薬候補をスクリーニングするための方法を開発した。本発明者らはさらに、そのような方法を用いて、ライソゾーム病などのコレステロール蓄積が原因の疾患、例えばニーマンピック病やGM1ガングリオシドーシを治療するための医薬組成物を見出した。
本発明は以下を含むものである。
【0017】
(1)ヒドロキシプロピル−γ−シクロデキストリンを有効成分として含むことを特徴とする、ライソゾーム病の治療または予防のための医薬組成物。
(2)前記ライソゾーム病が、ニーマンピック病である前記(1)に記載の医薬組成物。
(3)前記ライソゾーム病が、GM1ガングリオシドーシスである前記(1)に記載の医薬組成物。
(4)前記医薬組成物が、注射剤であって長期間投与されることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の医薬組成物。
【0018】
(5)難治性疾患に対する薬剤候補をスクリーニングするための方法であって、
以下の工程:(i)難治性疾患患者由来の細胞に、温度感受性センダイウイルスベクターを感染させて該細胞の初期化を行う工程、ここで、該ベクターは、NP遺伝子、アラニン残基(D433A、R434A、およびK437A)を生じる3つの変異を含むP遺伝子、M遺伝子、HN遺伝子およびL遺伝子の各遺伝子からなり、P遺伝子とM遺伝子の間に、3つの初期化遺伝子、KLF4、OCT3/4、およびSOX2をコードする配列をこの順番方向にて搭載する、および(ii)前記ベクターが感染した細胞を、37℃を超える温度で培養することにより、該細胞から初期化遺伝子を搭載するベクターを除去して、導入遺伝子を含まないiPS細胞を作製する工程、を含むiPS細胞の作製工程により作製されたiPS細胞を、任意の系譜へと分化させた後、標的物質とともに培養し、次いで、細胞に対する該標的物質の影響を検出すること、
を含むスクリーニング方法。
(6)前記工程(ii)における培養が、38℃±0.5℃である、前記(5)に記載のスクリーニング方法。
(7)難治性疾患患者由来の細胞が、皮膚の繊維芽細胞である前記(5)または(6)に記載のスクリーニング方法。
(8)難治性疾患患者由来の細胞が、末梢血由来の細胞である前記(5)または(6)に記載のスクリーニング方法。
(9)前記難治性疾患がライソゾーム病である前記(5)から(8)のいずれか一つに記載のスクリーニング方法。
(10)前記ライソゾーム病が、ニーマンピック病またはGM1ガングリオシドーシスである前記(9)に記載のスクリーニング方法。
【0019】
(11)(i)ライソゾーム病患者由来の細胞に、温度感受性センダイウイルスベクターを感染させて該細胞の初期化を行う工程、ここで、該ベクターは、NP遺伝子、アラニン残基(D433A、R434A、およびK437A)を生じる3つの変異を含むP遺伝子、M遺伝子、HN遺伝子およびL遺伝子の各遺伝子からなり、P遺伝子とM遺伝子の間に、3つの初期化遺伝子、KLF4、OCT3/4、およびSOX2をコードする配列をこの順番方向にて搭載する、および
(ii)前記ベクターが感染した細胞を、37℃を超える温度で培養することにより、該細胞から初期化遺伝子を搭載するベクターを除去して、導入遺伝子を含まないiPS細胞を作製する工程、
を含む工程により作製されるライソゾーム病患者由来のiPS細胞。
(12)ライソゾーム病患者由来の細胞が、皮膚の繊維芽細胞である前記(11)に記載のiPS細胞。
(13)ライソゾーム病患者由来の細胞が、末梢血由来の細胞である前記(11)に記載のiPS細胞。
(14)前記ライソゾーム病が、ニーマンピック病またはGM1ガングリオシドーシスである前記(11)〜(13)のいずれか一つに記載のiPS細胞。
(15)前記ライソゾーム病がニーマンピック病であり、NPC1遺伝子およびNPC2遺伝子に変異を有する前記(14)に記載のiPS細胞。
(16)前記ライソゾーム病がニーマンピック病であり、肝細胞様細胞に分化させた場合に以下の表現型:
(a)細胞内コレステロール蓄積が上昇している、
(b)細胞のオートファジー機能が損なわれている、および
(c)細胞内のATP産生が低下している、
を示す、前記(15)に記載のiPS細胞。
【発明の効果】
【0020】
本発明のヒドロキシプロピル−γ−シクロデキストリンを有効成分として含有する組成物は、ライソゾーム病、特にはニーマンピック病またはGM−1ガングリオシドーシスの表現型を模写するiPS細胞に対して有効であり、また、それらの疾病の治療薬として有効である。
また、本発明の温度感受性センダイウイルスベクターを用いた方法により難治性疾患患者からの細胞から効率よくiPS細胞を作製でき、作製されたiPS細胞は疾患の表現型を模写するとともに導入遺伝子を含まない。このiPS細胞を用いれば、疾患の薬剤候補が容易にスクリーニングできる。さらに、作製されたiPS細胞そのものも癌化することなく安全である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】従来のベクターと本発明の温度感受性センダイウイルス(TS−SeV)ベクター、TS12KOSの概略構造の比較を示す。TS12KOSベクターは、RNAポリメラーゼ関連遺伝子(P)に三点の突然変異を含み、KOS方向に、KLF4(K)、OCT3/4(O)、およびSOX2(S)のコード配列をもつ。HNL/TS15 c−Mycのベクターは、大きなポリメラーゼ(L)遺伝子に2のさらなる変異、L1361CとL1558Iをもち、赤血球凝集素−ノイラミニダーゼ(HN)遺伝子とL遺伝子の間に挿入された外来性c−MycのcDNA配列をもつ。従来のベクターは、3つの初期化因子をそれぞれのベクターにもつ。
図2】ヒト皮膚由来線維芽細胞からのiPS細胞作製の結果を示す。N1、N2、およびN3は、個々の健康なボランティアを示している。実験は三連で実施した(平均±SD)。*P<0.01、TS12KOSベクター対従来のベクター、スチューデントのt検定。
図3】iPS細胞作製において37℃から36℃への温度変化を行った期間を示している。データは、3回のそれぞれの実験の平均±SDである。**P<0.02、#P<0.05、スチューデントのt検定。
図4】ヒト線維芽細胞由来iPS細胞における37℃から38℃への温度変化後の、SeVベクター除去のネスティドRT−PCR分析の結果を示す。継代(1または2)後のベクターが除去されたクローン数を示している。
図5】ヒト末梢血細胞からのiPS細胞作製の結果を示す。実験は三連で実施した(平均±SD)。(A)N1、N2、およびN3は、個々の健康なボランティアを示している。*P<0.01、TS12KOSベクター対従来のベクター、スチューデントのt検定。(B)37℃から38℃への温度変化後の、SeVベクター除去のネスティドRT−PCR分析の結果を示す。継代(1または2)後のベクターが除去されたクローン数を示している。
図6】TS12KOSベクターで形成されたiPS細胞株由来の代表的な奇形腫の組織形態を示す。ヘマトキシリンおよびエオシン染色した結果である。3つ全ての胚葉の子孫が、奇形腫において観察された。iPS細胞株はヒト線維芽細胞、BJ由来である。CE:立方上皮(外胚葉)、G:腺構造(内胚葉)、M:筋肉組織(中胚葉)、C:軟骨(中胚葉)。スケールバーは100μm。
図7】ニーマンピック病C型患者由来のiPS細胞株の位相コントラスト像を示している。免疫蛍光およびアルカリホスファターゼ(AP)染色。iPS細胞株である、NPC5−1およびNPC5−2、およびNPC6−1およびNPC6−2は、それぞれ、NPC患者であるNPC5およびNPC6由来である。スケールバーは200μm。
図8】ニーマンピック病C型患者由来のiPS細胞のセンダイウイルスおよびヒトES細胞マーカーのRT−PCR分析の結果を示している。NPC5およびNPC6は、それぞれ、NPC患者であるNPC5およびNPC6由来である。201B7:対照のヒトiPS細胞株。SeV(+):7日目のSeV感染したヒト線維芽細胞。SeV:センダイウイルスの最初のRT−PCR。Nested:センダイウイルスについてネスティドRT−PCR。
図9】NPC−iPSC由来の奇形腫の組織学的分析。ヘマトキシリンおよびエオシン染色した結果を示す。CE:立方上皮(外胚葉)、G:腺構造(内胚葉)、M:筋肉組織(中胚葉)、C:軟骨(中胚葉)、MP:メラニン色素(外胚葉)。スケールバーは100μm。
図10】NPC由来iPS細胞株のNPC1遺伝子における変異の確認。患者NPC5からのiPS細胞株では、変異、2000 C>T(S667L)および3482 G>A(C1161L)が観察された(左パネル)。一方、患者NPC6からのiPS細胞株では、3263 A>G(Y1088C)および581から592ヌクレオチド領域がG残基に置換されてフレームシフトを起こしている短い欠失変異の両方が観察された(右パネル)。変異は矢印で示した。
図11】NPC由来iPS細胞の肝細胞様細胞への分化の経路を示している。経路は3つの期間に分割される:0日目から4日目の内胚葉分化、4日目から11日目の肝分化、および11日目から18日目の肝成熟。培養条件は、期間毎に下に記載する。細胞は4日目と11日目の両方で採取して、記載の条件で再播種した。
図12】NPC−iPS細胞由来のHLCsの細胞サイズを示している。
図13】NPC−iPS細胞由来のHLCs中のコレステロール蓄積を示している。遊離コレステロールは、フィリピン染色で検出し(上パネル)、相対強度は、正常iPS細胞株、N1−12に対して算出した(下のグラフ)。データは3つの独立した実験の平均±SDである。*P<0.01、図中のNPC−iPS細胞株対図中のiPS細胞株、スチューデントのt検定。スケールバーは100μm。
図14】iPS細胞株由来のHLCs中のATPレベルを示している。実験は三連で実施した(平均±SD)。*P<0.01、#Pは<0.05、図中のNPC−iPS細胞株対図中の正常iPS細胞株。スチューデントのt検定。
図15】微小管関連タンパク質1軽鎖3(LC3)の発現を示している。*P<0.01、#P<0.05、図中のNPC−iPS細胞株対正常iPS細胞株、N1−12およびN3−2。スチューデントのt検定。発現レベルは、各iPS細胞株でのα−チューブリンの発現に対して標準化した。
図16】不溶性p62の発現レベルを示している。
図17】P62の免疫蛍光染色の結果である。P62の異常な凝集は、NPC由来HLCs中で顕著に存在していた(上のパネル)。凝集した顆粒を計数し、結果を図にまとめた(下パネル)。40以上の顆粒を有する細胞の割合は、正常HLCsと比較して、NPC由来HLCsで増加していた。核染色:ヘキスト33258。スケールバーは25μm。
図18】NPC由来HLCs中の遊離コレステロール蓄積の低減に対する一連のヒドロキシプロピルシクロデキストリンの効果を確認した結果を示す。フィリピン染色の結果を上パネルに、IN CELL ANALYZERの分析結果を下パネルに示す。データは、3つの独立した実験の平均±SDである。*P<0.01、#P<0.05。各NPC由来HLCの非処置対処置。スチューデントのt検定。スケールバーは50μm。
図19】NPC由来HLCs中の遊離コレステロール蓄積の低減に対するHPBCDとHPGCDの用量効果を示した図である。*P<0.01。各NPC由来HLCの非処置対処置。スチューデントのt検定。
図20】NPC由来iPS細胞の分化における遊離コレステロール蓄積の低減に対するHPBCDの効果を確認した結果を示す。実験デザインを上パネルに、フィリピン染色の結果を下グラフに示す。実験は三連で実施した(平均±SD)。*P<0.01、#P<0.05。非処置対処置。スチューデントのt検定。
図21】NPC−iPS細胞株由来のHLCsのATPレベルに対するヒドロキシプロピルシクロデキストリンの効果を確認した結果である。データは、3回の独立した実験の平均±SDである。#P<0.05。非処置対処置。スチューデントのt検定。
図22】NPC−iPS細胞株由来のHLCsのLC3発現レベルに対するヒドロキシプロピルシクロデキストリンの効果を確認した結果である。1mMのHPBCDで4日間処置。1mMのHPGCDで4日間処置。発現レベルは、各iPS細胞株におけるα−チューブリン発現で標準化した。
図23】NPC−iPS細胞株由来のHLCsのp62発現レベルに対するヒドロキシプロピルシクロデキストリンの効果を確認した結果である。
図24】NPC−iPS細胞株由来のHLCsをヒドロキシプロピルシクロデキストリンで処置した場合の不溶性P62凝集物をもつHLCsの割合を示した図である。β:1mMのHPBCDで4日間処置。γ:1mMのHPGCDで4日間処置。
図25】ヒドロキシプロピルシクロデキストリンで処置したNPC−iPS細胞株由来のHLCsをクラスター分析した結果である。
図26】ヒドロキシプロピルシクロデキストリンで処置したNPC−iPS細胞株由来のHLCsを主成分分析(PCA:principal component analysis)した結果である。
図27】正常人由来HLCとNPC由来HLCを比較した、マイクロアレイ分析の結果を示している。四角に囲まれた分子は、正常人由来のHLCに対して、NPC由来HLCにおいて顕著に変化したシグネチャー分子である(p<0.05)。上パネルが、NPCにおいて顕著にダウンレギュレートした分子を示しており、下パネルが、NPCにおいて顕著にアップレギュレートした分子を示している。
図28】HPCBDまたはHPGCD処理による影響をみたマイクロアレイ分析の結果を示している。上パネルが、HPBCD処理による影響を、下パネルが、HPGCD処理による影響を見たものである。四角に囲まれた分子は、HPCBDまたはHPGCD処理により、顕著に変化したシグネチャー分子である(p<0.05)。
図29】HPCBDまたはHPGCD処理により顕著に変化した遺伝子の階層クラスター分析の結果を示している。左パネルは、HPBCD処理によって変化したシグネチャー分子を含む遺伝子を、右パネルは、HPGCD処理によって変化したシグネチャー分子を含む遺伝子を示している。
図30】HPGCD処理したモデルマウス(NPCマウス)の血清マーカー(ALTおよびAST)を確認した結果である。
図31】HPGCD処理したモデルマウス(NPCマウス)の肝臓の組織学的分析結果である。矢印は脂肪が蓄積された状態を示している。上パネル(x200)、下パネル(x400)。スケールバー:50 μm。
図32】HPGCD処理したモデルマウス(NPCマウス)の小脳中部の組織学的分析結果である。プリキンエ細胞の欠失(矢印)が、HPGCD処理により回復している。上パネルがH&E染色したものであり、下パネルが、calbindinで免疫染色したものである。
図33】モデルマウス(NPCマウス)の生存に対する、HPGCD処理の効果を確認した結果である。
図34】HPBCGとHPGCDの急性毒性を試験した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下に記載の態様に限定されるものではない。
本発明においてiPS細胞を製造するために使用する初期化遺伝子を搭載するベクターは、センダイウイルス(SeV)由来のNP遺伝子、P遺伝子およびL遺伝子を有し、F遺伝子を欠損させた温度感受性センダイウイルス(TS−SeV)ベクターである。L遺伝子内に、アラニン残基(D433A、R434A、およびK437A)を生じる3つの変異を含む。これらの3つの変異をもつセンダイウイルスベクター(SeV)は、37℃でGFPの適度な発現を示すが、38℃を超える温度では弱い発現を示すという特徴をもつ。本発明で用いるベクターは、さらに、P遺伝子とM遺伝子の間に、3つの初期化遺伝子、KLF4(K)、OCT3/4(O)、およびSOX2(S)をコードする配列を、KOS方向にて、搭載することを特徴とする。これにより、難治性疾患患者由来の細胞であっても、効率よく初期化できるとともに、ウイルスベクターの除去を容易に行える。
【0023】
センダイウイルスベクターは、センダイウイルスのゲノムに任意の遺伝子を挿入するか、センダイウイルスの遺伝子を任意の遺伝子と置き換えることによって、該遺伝子を発現させることができる遺伝子導入・発現ベクターである。センダイウイルスはNP、P、M、HN、F及びLの各遺伝子を有し、同ウイルスのNP、PおよびL遺伝子はセンダイウイルスの転写、複製に関与する遺伝子であり、一方、M、FおよびNH遺伝子は、ウイルス粒子形成に関与する遺伝子である。したがって、F遺伝子を欠損させたセンダイウイルスベクターは、細胞に感染した後に単独では新規のウイルス粒子を形成できず、非伝播性となる。
【0024】
なお、本発明で用いるTS−Sevベクターは、温度感受性に寄与するL遺伝子内の3つの変異、およびKOS方向にてP遺伝子とM遺伝子の間に搭載された3つの初期化遺伝子、KLF4(K)、OCT3/4(O)、およびSOX2(S)を有し、ウイルス粒子形成能を欠失しているという性質を有する限り、他の変異や変更を加えたセンダイウイルスを用いることも可能である。
【0025】
本発明で用いるSeVに挿入する初期化遺伝子は、ヒト、マウスあるいは任意の哺乳動物のOct3/4、Sox2、Klf4の各遺伝子を、特定の配列の順番で含むことを特徴とする。また、それ以外の腫瘍形成に関わる初期化遺伝子、例えば、c−Myc遺伝子やL−Myc遺伝子を含んでもよいが、好ましくは、初期化遺伝子として、Oct3/4、Sox2、Klf4のみを含み、それ以外の腫瘍形成活性を持つ遺伝子を含まない。
上記の特徴を有する、TS−SeVベクターは、公知の方法を用いて作製することができる。
【0026】
細胞の初期化は、ウイルス粒子形態の初期化遺伝子を搭載したTS−SeVベクターを、初期化の対象となる分化細胞に感染させる。この初期化の対象となる細胞としては、難治性疾患の患者由来の細胞であり、好ましくは、皮膚の繊維芽細胞または末梢血由来の細胞である。末梢血由来の細胞としては、Tリンパ球細胞と単球細胞のいずれでも良い。末梢血は、皮膚繊維芽細胞に比べて、より低侵襲性であり、小児患者や皮膚疾患または凝固障害を有する患者にも適している。本発明のTS−SeVベクターを用いて、皮膚線維芽細胞では「〜4%」、および末梢血細胞では「〜2%」という高効率でiPS細胞を作製できる。
本発明のTS−SeVベクターの細胞への感染、感染し初期化した細胞の培養、処理、選別等の操作は、定法に従って行うことができる。
また、本発明のTS−SeVベクターを用いて細胞を初期化した場合は、導入した遺伝子あるいはその一部が染色体の不特定部位に挿入されることはない。さらに、本発明のTS−SeVベクターの一態様は、腫瘍形成活性があるc−Myc遺伝子やL−Myc遺伝子も用いていない。このため、得られたiPS細胞はがん化を引き起こす恐れがなく極めて安全である。
【0027】
初期化遺伝子を搭載するベクターの除去は、細胞の培養温度をシフト(上昇)させることにより行うことができる。例えば37℃で培養し継代している細胞を、37℃を超える温度、好ましくは、37℃を超え39℃以下の温度、より好ましくは38℃±0.5℃、さらに好ましくは38℃に温度を上げることにより、ベクターを完全に除去できる。37℃を超える温度での培養期間は、ベクターの除去ができれば特に制限がないが、日数で示せば、例えば、2〜20日間、好ましくは、2〜15日間、さらに好ましくは3〜5日間、一方、継代数で示せば、好ましくは1〜3継代、さらに好ましくは1〜2継代である。初期化した細胞を、37℃を超える温度で処理した後、単一クローンを分離することにより、ベクターが完全に除去されたクローンを取得できる。ベクター除去の確認は、定法により、例えばRT−PCRにより、ベクター中の任意の遺伝子の検出することにより行うことができる。このように、本発明のTS−SeVベクターを用いれば、iPS細胞コロニーを単離してから1週間以内という短い期間に、導入遺伝子を含まないiPS細胞を作製できる。また、SeVベクターを使用していない従来の技術とは異なり、この系は複数の感染サイクルを要求せず、さらに、iPS細胞の作製効率は、例えば、レトロウイルス、レンチウイルス、またはプラスミドベクターのような技術用いて得られた場合の20〜100倍である。
【0028】
本発明のTS−SeVを用いて、難治性疾患患者の細胞から作製したiPS細胞は、疾患の特徴(表現型)を示すことができる。表現型は、作製したiPS細胞を所望の細胞系譜へと分化誘導することにより確認できる。iPS細胞の分化誘導は、定法に従って行うことができる。例えば、肝系譜への分化誘導は、作製したiPS細胞を、肝細胞分化誘導培地で培養することにより行える。このように分化誘導した細胞は、細胞が由来する疾患の特徴(表現型)を示す。例えば、ニーマンピック病C型患者由来のiPS細胞から誘導された肝細胞様細胞は、コレステロールを蓄積し、その結果、機能障害を示す。機能障害としては、オートファジーやATP産生の機能障害をあげることができる。他の例としては、GM−1ガングリオシドーシス患者由来のiPS細胞から誘導された肝様細胞は、オートファジーの異常という特徴(表現型)を示す。
難治性疾患患者由来のiPS細胞から分化誘導された細胞は、疾患の細胞モデルとなるので、研究や薬剤候補のスクリーニングのための強力なツールとなる。
例えば、下記の実施例で詳細に記載するが、2−ヒドロキシ−γ−シクロデキストリン(HPGCD)と2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HPBCD)はともに、NPC由来の肝細胞様細胞中に蓄積したコレステロールを取り除き、肝細胞様細胞の機能を回復した。このことは、HPGCDがNPCの治療のための有望な新たな候補であることを示している。
【0029】
本発明の医薬組成物は、ヒドロキシプロピル−γ−シクロデキストリンを有効成分として含有し、ライソゾーム病の治療薬として用いることができる。ライソゾーム病としては、例えば、ニーマンピック病、Tay−sachs病、シアリドーシスまたはGM−1ガングリオシドーシスをあげることができる。
以下で示すように、HPGCDは、ニーマンピック病の表現型を示す、NPC患者由来iPS細胞から分化誘導された肝細胞様細胞に対して、HPBCDと同等以上の活性を示した。一方、2−ヒドロキシ−α−シクロデキストリン(HPACD)は、全く活性を示さなかった。この結果は、培養細胞を用いたHPBCDとHPGCDのコレステロール溶解活性を確認した報告(非特許文献5)において、HPGCDの効果は、HPBCDに比べて数十分の1以下であるという結果から考えると、驚くべき事である。
薬剤候補のための最も重要な要件の一つは、内因性細胞傷害性がないことやそれが許容可能な低いレベルであることである。シクロデキストリンと細胞膜との間の相互作用が、このような細胞損傷の初期段階である。単離された赤血球のin vitroでの溶解活性は、各シクロデキストリンの毒性の指標となるが、ヒドロキシプロピルシクロデキストリンの溶血活性は、HPBCD>HPACD>HPGCDの順である(非特許文献5)。これまでの研究で、ラットへの急性静脈内投与において、γ-シクロデキストリンは、α-またはβ-シクロデキストリンよりも安全であることが示されており、集団の50%に対する致死(LD50値)を示す静脈内投与量は、α-、β-、およびγ-シクロデキストリンでそれぞれ、1000、788、および>3750mg/kgであると報告されている。従って、HPGCDは、ニーマンピック病の治療薬として、HPBCDに比べて優れている。
【0030】
本発明の組成物は、これに限定されないが、好ましくは、注射用製剤の形態をとる。本発明の注射用製剤は、静脈内、筋肉内、あるいは皮下等に投与することができる。また本発明の医薬組成物は、水溶性製剤または凍結乾燥製剤のいずれの形態をとることができ、好ましくは、水性注射剤、または凍結乾燥した用時溶解型注射剤をあげることができる。
【0031】
本発明の組成物は、通常注射剤に用いられる糖類、防腐剤、安定化剤、静電防止剤を含んでもよい。本発明の組成物はまた、薬理学的に許容できるpH調整剤を含有することができる。本発明に用いられるpH調整剤は、医薬用途に使用でき、薬理学的に許容できる物質であれば特に限定されるものではないが、好ましくは水酸化ナトリウム、炭酸緩衝液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液及び塩酸である。これらのpH調整剤は1種単独でも、2種以上を混合して用いてもよい。本発明の組成物はまた、浸透圧調整剤または等張化剤を含むことができ、例えば、塩化ナトリウムやデキストロース等の少なくとも1種を含むことができる。
【0032】
本発明の医薬組成物の有効投与量は、疾患の種類、病気の程度、治療方針、体重、年齢、性別及び患者の(遺伝的)人種的背景に依存して適宜選択できるが、薬学的有効量は、一般に、臨床上観察される症状、病気の進行の度合い等の要因に基づいて決定される。1日あたりの投与量は、例えば、0.1g/kg〜10g/kg(体重60kgの成人では、3g〜600g)、好ましくは0.2g/kg〜10g/kg、より好ましくは0.2g/kg〜5g/kg、さらに好ましくは0.2g/k〜2g/kg、である。投与は、1回で投与しても複数回に分けて投与してもよく、また、点滴等により時間をかけて連続的に投与してもよいが、好ましくは点滴により数時間以上、例えば、数時間〜約10時間をかけて投与するのがよい。また、投与は、連日であっても間歇投与であってもよく、投与対象の状態に応じて適宜選択できるが、好ましくは、間歇投与である。例えば、1回あたり、0.5g/kg〜10g/kgを、週に1〜3回投与することも可能である。
また、本発明の医薬組成物は、安全性に優れているので長期に投与可能である。つまり、本発明の医薬組成物が対象とするライソゾーム病は遺伝病であり、患者が生存する限り投与が必要となる場合が多い。本発明の医薬組成物は、安全性に優れているので、そのような使用に特に優れている。本発明の医薬品が投与可能な期間は、特に限定されないが、本発明の医薬品は、例えば、少なくとも数週間以上、好ましくは数ヶ月以上、より好ましくは複数年以上に渡るような、長期間に渡って投与できる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
1.材料と方法
(1)センダイウイルス(SeV)ベクターの作製
温度感受性センダイウイルスベクターの作成および製造は、Banらの報告(非特許文献4)に従って行った。Oct3/4、Sox2、Klf4およびc-Mycのをもつ従来のタイプのSeVベクターもまた、房木らの報告(非特許文献2)に従って作成した。TS12ベクターを作成するために、D433A、R434AおよびK437Aを含む3つの変異をポリメラーゼ関連遺伝子(P)に導入した。TS15ベクターを作成するために、他の2つの変異、L1361CおよびL1558Iを、TS12のポリメラーゼ関連遺伝子(L)に挿入した。「スリーインワン」ベクターは、ヒトKLF4、OCT3/4、およびSOX2遺伝子を、図1Aに記載されるように、その順にて、PとM遺伝子のコード領域の間に挿入した。各遺伝子は、E(エンド)、I(介在)およびS(スタート)配列によって挟み込んだ。
【0034】
(2)ヒトiPS細胞の維持
ヒトiPS細胞は、20%KNOCKOUT(商標)血清代替物(KSR、Invitrogen社)、2mMのL-グルタミン(ライフテクノロジーズ)、0.1mMの非必須アミノ酸(NEAA、SIGMA)、0.1mMの2 - メルカプトエタノール(SIGMA)、0.5%ペニシリンおよびストレプトマイシン(ナカライテスク、日本)および5 ng/mlの塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF、WAKO、日本)を補充したDMEM/F12(SIGMA)を含有するヒトiPS培地中でMMC処理したMEFフィーダー細胞上で維持した。
【0035】
(3)肝細胞様細胞への分化
肝細胞様細胞(HLC)誘導のために、iPS培養液を、セミコンフルエントヒトiPS細胞の培地から、2%のB27(ライフテクノロジー)、100ng/mlのアクチビンAおよび1mMの酪酸ナトリウム(NAB、シグマ)を補ったRPMI1640を含む胚性内胚葉分化培地へ切り替えた。NaBの濃度は、2日目に0.5mMに変更した。4日目に細胞を収集して、20%KSR、1mMのグルタミン、 1mMのNEAA、0.1mMの2-メルカプトエタノール(SIGMA)、1%のジメチルスルホキシド(DMSO、 SIGMA)を補ったDMEMを含有する肝分化培地中のマトリゲルでコートしたディッシュ上に再播種した。CXCR4発現を4日目にFACSによって調べた。11日目に細胞を収集し、8.3%のFBS、8.3%のトリプトースリン酸ブロス(SIGMA)、10mMのヒドロコルチゾン21-ヘミスクシネート(SIGMA)、1mMのインスリン(SIGMA)、2mMのグルタミン、 10ng/mlの肝細胞増殖因子(HGF、R&D)および20ng/mlのオンコスタチンM(OSM、R&D)を補充したL15培地(SIGMA)を含有する肝成熟培地中で再培養した。18日目に、細胞を様々な実験に使用した。ヒドロキシプロピルシクロデキストリン処置は、HLCsを、0.1mMまたは1mMのヒドロキシプロピルシクロデキストリンとともに4日間培養した。アネキシンおよびTUNEL染色のために、HLCsを、18日目から、それぞれ、4日間または1週間培養した。
【0036】
(4)核型分析
染色体のGバンド分析は、日本ジーン研究所株式会社(仙台)に依頼して、製造業者の手順に従って行った。
【0037】
(5)テラトーマ形成
MEFフィーダー層上で増殖させた、健康なボランティアおよび患者由来のiPS細胞株を、コラゲナーゼIV処理により回収し、NOD-SCID免疫不全マウスの精巣に注射した。触知可能な腫瘍が、注射後約8〜12週間で観察された。腫瘍試料を集め、10%ホルマリンで固定し、パラフィン包埋し、標準的な手順に従ってヘマトキシリン-エオシン染色処理した。
【0038】
(6)RNAの単離とPCR
総RNAを、セパゾール(登録商標)スーパーG試薬(ナカライテスク、日本)を用いて精製した。総RNAを、スーパースクリプトIII(Invitrogen)およびランダムプライマー(Invitrogen社)を用いてDNAに転写した。浜崎ら(Stem Cells, 30, 2437-2449, 2012)に記載の方法に従って、QuickTaq(商標)(TOYOBO、日本)を用いてRT-PCRを行った。Oct3/4、Sox2、Klf4およびc-Mycのために用いたプライマーは、内因性遺伝子の発現を検出するが、導入遺伝子は検出しないように設計した。センダイウイルスゲノムを検出するために、ネスティドRT-PCRを行った。プライマー配列および増幅条件を下記表1に記載する(上から配列番号1〜配列番号48とする。)。
【0039】
【表1】
【0040】
(7)ゲノム配列決定
NPC由来iPS細胞株におけるNPC1遺伝子の変異は、ダイレクト配列決定によって確認した。抽出したゲノムDNAをPCRによって増幅し、得られたPCR生成物をABI PRISM(商標)310ジェネティックアナライザー(Applied Biosystems社)により配列決定した。配列決定プライマーおよび増幅条件を下記表2に記載する(上から配列番号49〜配列番号56とする。)。
【0041】
【表2】
【0042】
(8)細胞染色および免疫細胞化学
アルカリホスファターゼ染色は白血球アルカリホスファターゼキット(SIGMA)を用いて行った。免疫細胞化学のために、細胞を、4%パラホルムアルデヒドを含むPBSにて、4℃で30分間固定した。核に局在する分子の検出のために、サンプルを、室温(RT)で15分間、0.2%のトリトンX-100で処理した。細胞を2%のFBSを含むPBSで3回洗浄し、次いで、一次抗体とともに2%のFBSを含むPBS中で、4℃で一晩インキュベートした。核は、ヨウ化プロピジウム(PI、WAKO、日本)および1 mg/mlのヘキスト33258 (Invitrogen)で染色した。一次および二次抗体のリストを、下記の表3に記載する。フィリピン染色のために、サンプルを、固定後3回PBSで洗浄し、1.5 mg/mlのグリシンを含むPBS中で、室温にて10分間インキュベートした。次いで、試料を、10%のFBSおよび50 mg/mlのフィリピン(SIGMA)を含有するPBSで処理した。データは、UV吸収(360/460)により算出し、IN CELL ANALYZER 6000(GEヘルスケア)のデベロッパーツールボックスソフトウェア(Developer Toolbox software)を用いて分析した。不溶性P62顆粒の数は、 IN CELL ANALYZER 6000(GEヘルスケア)で計数した。グリコーゲン蓄積を調べるために、肝細胞様細胞の過ヨウ素酸シッフ(PAS)染色を、PAS染色溶液(武藤化学薬品、東京、日本)を用いて、製造業者の手順書に従って行った。
【0043】
【表3】
【0044】
(9)イムノブロット解析
タンパク質溶解物をSDS-PAGEによって分離し、PVDF膜に転写した。LC3-IおよびLC3-IIを、抗LC3抗体(セル・シグナリング)によって検出した。データはα-チューブリン発現によって標準化した。HLCsをRIPA緩衝液に溶解した後に、不溶性P62は試料の遠心分離後ペレットとして回収した。
【0045】
(10)アルブミン産生分析
肝細胞様細胞のアルブミン産生を、製造業者の手順書に従って、ヒトアルブミンELISA定量キット(ベチルE80-129)により測定した。データは、試料中のアルブミン陽性のパーセンテージに対して標準化した。
【0046】
(11)セルサイズ分析
アルブミン陽性細胞の細胞サイズを、IN CELL ANALYZER 6000(GEヘルスケア)のデベロッパーツールボックスソフトウェアによって計算した。
【0047】
(12)インドシアニングリーン(ICG)分析
分化18日目の培養細胞を、37℃で30分間、1 mg/mlのICGで処理した。細胞をPBSで3回洗浄し、陽性細胞を分析した。次いで、細胞を5分間培地でインキュベートし、再び分析した。
【0048】
(13)ATPの測定
iPS細胞株に由来する肝細胞様細胞を、24時間、グルコースの非存在下でDMEM培地で培養し、次いで、6時間、10%FBSおよび高グルコースを含有するDMEM培地中で培養した。 ATPを、製造業者の手順書に従って、ATP測定キット(TOYO INK)により測定した。
【0049】
(14)MitoTrackersによるミトコンドリア染色
iPS細胞株に由来する肝細胞様細胞を、20分間、100nMのMitoTracker red CMXRos(モレキュラープローブ)の存在下で培養し、そしてFACSによって分析した。HLCsは、製造業者の手順書(Molecular Probe社)に従って、JC-1で染色した。JC-1染色の赤と緑の蛍光強度は、IN CELL ANALYZER 6000(GEヘルスケア)のデベロッパーツールボックスソフトウェアで測定した。
【0050】
(15)TUNEL染色
TUNEL染色は、製造業者の手順書に従って、APO-BrdUのTUNELアッセイキット(Invitrogen)により実施した。
【0051】
(16)アンモニア除去および尿素分泌活性
HLCsは、2日間、1mMの塩化アンモニウムを含む培地で培養した。上清を回収し、次いで、製造業者の手順書に従って、アンモニアおよび尿素の濃度を、それぞれ、アンモニアアッセイキット(SIGMA)および尿素比色アッセイキット(バイオビジョン)によって測定した。
【0052】
(17)シクロデキストリン
平均置換度5.0の2-ヒドロキシプロピル-α-シクロデキストリン(HPACD)、平均置換度4.7の2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HPBCD)、および平均置換度6.4の2-ヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリン(HPGCD)は、日本食品化工(東京、日本)から入手した。
【0053】
(18)抗体染色およびFACS分析
分化したiPS細胞は、4日目に回収し、ビオチン結合マウス抗ヒトCXCR4抗体(R&D Systems)およびストレプトアビジン-アロフィコシアニン(SA-APC、eBioscience社)で染色した。アポトーシス細胞および死細胞の割合は、アネキシン(ベックマン・コールター)および7-アミノ-アクチノマイシンD(7-AAD、ベックマン・コールター)を用いたフローサイトメーターで測定した。
【0054】
2.結果
実施例1:ベクターの作製
4つの初期化因子(OCT3/4、SOX2、KLF4およびc-MYC)の配列をそれぞれもつ温度感受性センダイウイルス(SeV)ベクターを用いてiPS細胞を作成した。
本発明者らは、iPS細胞の作製効率を向上させ、細胞内にベクターが残っている時間を減少させるために、上記の因子のうち3つ、KLF4(K)、OCT3(O)およびSOX2(S)をタンデムにKOS方向につないだコード配列をもつ新しいTs-SeVベクター、TS12KOSを作成した(図1)。TS12KOSベクターは、センダイウイルスRNAポリメラーゼのコンポーネントである、リン酸化タンパク質のラージタンパク質(L)結合ドメイン内にアラニン残基(D433A、R434A、およびK437A)を生じる3つの変異を含む。これらの3つの変異をもつSeVは、37℃でGFPの適度な発現を示すが、38℃を超える温度では弱い発現を示す。
【0055】
実施例2:TS-SeVベクターを用いたiPS細胞の作製
健康なボランティアおよび患者からの線維芽細胞は、発明者の各所属機関の倫理委員会によって承認されたプロトコルの下でインフォームドコンセント後に、皮膚生検の組織片から単離し作製した。皮膚サンプルを、10%のウシ胎児血清(FBS)を補充したダルベッコ改変必須培地(DMEM、ライフテクノロジーズ)中で細かく刻み、培養した。線維芽細胞が出現した後、それをiPS細胞誘導に用いた。
末梢血液細胞からのiPS細胞形成のために、単核細胞(MNCs)をFicall勾配によって単離した。 Tリンパ球を刺激するために、MNCsは、5日間IL-2とともに抗CD3抗体でコーティングしたディッシュ上で培養した。
iPS細胞は、ヒト皮膚由来線維芽細胞および刺激したTリンパ球から、関らの報告(2010)に従って作製した。簡単に述べると、48ウェルプレートのウェルあたり1×105のヒトMNCsと、6ウェルプレートのウェルあたり5×105細胞のヒト線維芽細胞を、感染1日前に播種し、次いで、3、10および30を含む多数の感染度(MOI)でセンダイウイルス(SeVの)ベクターを感染させた。血液細胞は2日間培養後、線維芽細胞は7日間培養後、感染した細胞をトリプシンにより採取し、マイトマイシンC(MMC)で処理したマウス胚線維芽(MEF)フィーダー細胞上で60mmディッシュ当たり5× 104個の細胞にて再播種した。翌日、培地を、ヒトiPS細胞培地に交換した。新しいセンダイウイルス感染培養物を1週間36 ℃で培養した。感染18〜25日後に、コロニーをつり上げ、ヒトiPS細胞培地中で再び培養した。センダイウイルスを除くために、iPS細胞の1または2継代で、培養温度を37℃から38℃に変更した。
【0056】
まず、健康なボランティアのヒト皮膚線維芽細胞からのiPS細胞の作製効率をTS12KOSと従来のSeVベクターで比較した(図2)。誘導後28日目に、アルカリホスファターゼ(AP)陽性染色を示し、ヒト胚性幹(ES)様の形態を示すコロニー数をカウントした。iPS細胞の作製効率が、従来のベクターに比べて、TS12KOSベクターを用いた場合に有意に高かった。
【0057】
次いで、ヒト線維芽細胞からのiPS細胞作製に対する温度変化の効果を調べた。培養温度は、感染後最初の2週間、37℃から36°に変化させた場合、コロニー作製効率は高いまま維持されたが、感染後3週間以上、温度を下げた状態を継続したときは、効率は有意に減少した(図3)。また、温度変化は、後の期間よりも感染後の第1および第2週が、より有効であった。したがって、最初の1週間のみの温度低下を以下の実験に用いた。
【0058】
実施例3:作製したiPS細胞の分析
TS12KOSベクターが従来のSeVベクターよりも容易にiPS細胞から除去されたかどうかを判断するためにウイルスRNAのネスティドRT-PCR(nested RT-PCR)分析を行った。個々のコロニーを広げて、様々な継代で、3日間、37℃から38℃へと温度をシフトした。従来のSeV感染では、継代1または2での温度上昇は、ウイルス除去を誘導しなかった。これに対して、TS12KOSベクターの場合、継代1または2での温度上昇は、それぞれ、84%および65%がウイルスゲノム陰性のiPS細胞様クローンであった(図4)。これらの結果は、TS12KOSベクターが、iPS細胞形成効率やiPS細胞からのウイルスの除去の両方の点で、従来のSeVベクターよりも優れていることを示している。
【0059】
実施例4:ヒト末梢血細胞からのiPS細胞の作製
一つの目標は、ヒト末梢血細胞からiPS細胞を形成するための、安全で効率的なベクターの開発である。抗CD3抗体とインターロイキン2の両方で末梢Tリンパ球を刺激し、次いで、各種SeVベクターを感染させ、iPS細胞を作製した。iPS細胞の作製は、従来のSeVベクターよりもTS12KOSベクターを用いた時に有意に効率的であった(図5A)。従来のSeV感染では、継代1または2での37℃から38℃への温度変化はいずれも、iPS細胞株からのベクターの排除を誘導しなかった。これに対し、TS12KOSベクターを同じ条件で用いた場合は、それぞれ、ウイルスゲノムが陰性であるクローンは65%および47%であった(図5B)。従って、線維芽細胞を用いて得られた結果と同様に、末梢Tリンパ球由来のiPS様細胞からのTS12KOSベクターの除去も、従来のSeVベクターについて観察されたよりも早かった。
【0060】
TS12KOSベクターによって誘導された皮膚線維芽細胞および末梢血細胞から形成されたコロニーは、典型的なES細胞様形態を示し、多能性の典型的なマーカーのセットを発現した(データ示さず)。これらのiPS細胞株は、温度を上昇し、10継代以上培養した後でさえ、通常の46のXY核型を持っていた(データ示さず)。クローン株の多能性を確認するために、一つの細胞株を免疫不全マウスの精巣に移植した。 移植の12週間後、試験したiPS細胞株は、奇形腫を形成し、それは、三胚葉の全ての種類の誘導物を含んでいた(図6)。すなわち、TS12KOSベクターで形成したiPS細胞株がiPS細胞の基準を満たしていた。
【0061】
実施例5:疾患の表現型を示すiPS細胞株の作製
細胞モデルとしての疾患由来iPS細胞の利用を確認するために、NPC1とNPC2遺伝子の変異に関連するライソゾーム蓄積症であるニーマン・ピック病C型(NPC)を標的とした。NPC1はエンドソームおよびライソゾーム間のトランスポーターとして機能し、NPC2は、NPC1と共同して、細胞内の分子を輸送する。NPC1とNPC2遺伝子の変異は、この輸送システムを乱し、ライソゾームにおける遊離コレステロールと糖脂質の蓄積をもたらす。TS12KOSベクターを用いて、異なるNPC1変異を持つ二人の患者の皮膚の線維芽細胞からiPS細胞株を作製した。これらの患者からのiPS細胞の作製効率は、健康なボランティアからのものと同様であった。NPC由来のiPS細胞株は、ES細胞様形態を示し(図7)、多能性マーカーのセットを発現した(図8)。ネスティドRT-PCR分析より、iPS細胞株はSeVに関して陰性であった(図8)。
次いで、奇形腫形成を評価することによってNPC由来のiPS細胞株の分化能を調べた。組織学的分析の結果、分析した奇形腫は、立方上皮、メラニン色素、軟骨、筋肉、および様々な腺構造などの3つ全ての胚細胞層(全ての三胚葉)の子孫からなっていた(図9)。また、作製したiPS細胞株は、正常な核型46XYと46XXを有していた(データ示さず)。NPC1遺伝子における突然変異はDNA配列決定により確認した(図10)。従ってNPC由来iPS細胞株は、iPS細胞のための基準を満たしていた。
【0062】
実施例6:NPC由来iPS細胞株の分析
肝臓の肥大は、NPC患者の主な症状の一つであり、疾患の重症のものは、肝機能障害や肝不全になる。肝細胞系譜上のNpc1欠損の影響を調べるために、NPC由来iPS細胞株を、アルブミンを発現している肝細胞様細胞へと分化させた。以前の研究より、アクチビンA処理が、マウスES細胞を胚性内胚葉細胞及び肝細胞様細胞(HLCs)に選択的に分化させること、および、内胚葉表面マーカーであるCxcr4は、内胚葉の分化を検出するために使用できることができることが証明されているので、これらに基づいて、培養条件を改変し、ヒトiPS細胞から容易にHLCsを作成した(図11)。分化18日目に、HLCsは、α-フェトプロテイン(全細胞の〜65%)、アルブミン(全細胞の〜約80%)、およびその他の肝マーカーを発現し(データ示さず)、そして、インドシアニングリーン(ICG)を吸収し、グリコーゲンを貯蔵した(データ示さず)。Cxcr4陽性細胞のパーセンテージとして算出した胚性内胚葉様細胞の作製率、およびアルブミン陽性細胞のパーセンテージとマーカーの発現から算出した肝臓分化効率は、通常のiPS細胞とNPC由来のiPS細胞株との間で同様であった。対照的に、NPC由来のHLCsの細胞の大きさは、対照のHLCsのそれよりも大きかった(図12)。NPC患者において、エンドソームからライソゾームへの脂質輸送の障害は、ライソゾームでの遊離コレステロールの蓄積をもたらす。従って、これらの細胞内での遊離コレステロールを検出するためにフィリピン染色を行い、コレステロール蓄積のレベルを評価した。健康なボランティアからの対照HLCSsでは、陽性染色細胞の数はごくわずかであったが、対照的に、NPC由来HLCsでは異常なレベルのコレステロール蓄積が検出された(図13)。このことは、これらの細胞がNPCの細胞表現型を映し出していることを示している。
【0063】
次に、正常なiPS細胞株およびNPC-iPS細胞株に由来するHLCsの種々の機能を調べた。肝細胞機能の指標である、ICGの取り込みおよび放出、グリコーゲン貯蔵、アルブミン産生、尿素分泌、またはアンモニア除去の点で違いは検出できなかった(データ示さず)。NPC-HLCs中のATPレベルは、対照のHLCsに比べて有意に低かった(図14)。それにもかかわらず、NPC-HLCsのアポトーシスは、対照のそれと比較して悪化していなかった(データ示さず)。次いで、ミトコンドリアの膜電位を調べるために、特異的MitoTracker染色試薬であるJC-1およびCMXRosを用いた。JC-1は、ミトコンドリア内で濃縮されて通常のミトコンドリア膜電位で凝集するので、高い赤/緑蛍光強度比を生じる。ミトコンドリア膜電位の減少は、JC-1の凝集に影響を与え、高赤/緑蛍光強度比を減少させる。また、CMXRosは、通常の膜電位でミトコンドリア内に蓄積する。正常とNPC由来HLCsの間で、JC-1またはCMXRosの染色パターンの違いを検出することができなかった(データ示さず)。
【0064】
細胞のオートファジーは、ライソゾーム蓄積症では損なわれている。2つの方法を用いて、対照とNPC由来HLCsにおけるオートファジー経路をモニターした。まず、オートファジーのマーカータンパク質である、微小管関連タンパク質1軽鎖3(LC3)の発現を調べた。LC3のC末端処理は、LC-Iを生じ、それはオートファゴソーム形成の開始によりLC-IIへと修飾される。次いで、オートファジーフラックス(autophagic flux)を評価するためにp62/SQSTM1(P62)の発現を測定した。P62は、LC3に結合し、そしてライソゾームに融合すると分解されるので、オートファジーフラックスの機能障害は、不溶性P62の蓄積および凝集を引き起こす。LC3-IIおよび不溶性P62タンパク質の発現レベルは、正常HLCsよりもNPC-HLCsが高かった(図15および図16)。また、過度のP62凝集が、通常のHLCsと比較してNPC由来のHLCsで顕著に観察された(図17)。これらの結果は、オートファジーは、NPC由来HLCsでアップレギュレートされており、オートファジーフラックスは、NPC由来HLCsで損なわれたことを示唆している。
【0065】
実施例7:コレステロール蓄積および細胞機能の回復における種々のシクロデキストリン処置の効果
上記のように、NPC由来のiPS細胞はNPCの表現型を示しているので、NPCの治療のための薬剤候補をスクリーニングするためのin vitro系を提供する。NPCのiPS細胞由来のHLCsで極端なコレステロール蓄積が観察されることは、それを用いて、このプロセスにおける様々な薬物治療の効果を調べることを可能とする。
2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HPBCD)は、NPC1欠損の細胞内のコレステロールの蓄積の低減に有効であると報告されているので、異なる空洞サイズの一連の2-ヒドロキシプロピル-シクロデキストリンを用いて、正常細胞株およびNPC-iPS細胞株に由来するHLCsを処置して効果を確認した。HLCsを4日間、各ヒドロキシプロピル−シクロデキストリン1mMと共に培養した後、フィリピン染色し、次いで、IN CELL ANALYZER(GEヘルスケア)を用いて分析した。本発明のNPC-HLCsを用いた実験で、観察されたコレステロール蓄積が、HPBCD処置で有意に減少した(図18)。興味深い事に、2-ヒドロキシプロピル-α-シクロデキストリン(HPACD)は、コレステロール蓄積に影響を示さなかったが、一方、2-ヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリン(HPGCD)は、HPBCDで観察されたのと同程度で、コレステロール蓄積を減少した。
HLCsの大きさは、HPBCDとHPGCD での処置によって減少した(データ示さず)。NPC由来HLCsに対する、種々の濃度のHPBCDまたはHPGCDの効果を確認した。HPBCDまたはHPGCDと共に4日間培養し、その後、フィリピン染色し、次いで、IN CELL ANALYZERで分析した。低濃度(100μM)のHPBCDとHPGCDは、コレステロールの蓄積を低減させる効果はなかった(図19)。次に、HPBCDでHLCへと分化中の細胞を処置したところ、肝分化における中間段階で有効であった(図20)。
【0066】
NPC由来HLCsは、異常に低いATPレベルおよび異常なオートファジーを示したので、次いで、シクロデキストリン処置がこれらの異常を回復することができるかどうかを検討した。HLCsを4日間、1mMのヒドロキシプロピル−シクロデキストリンと共に培養し、ATPレベル、LC3の発現レベル、およびp62の発現レベルと不溶性p62顆粒を確認した。その結果、HPBCDとHPGCDを用いた処置は、ATPレベル(図21)およびオートファジー機能(図22〜24)の両者を回復した。図22に示されるように、LC3の発現レベルは、HPBCDとHPGCDによる処置によって正常なレベルに回復し、このことはオートファジーの異常な誘導を回復したことを示している。図23に示されるように、HPBCDとHPGCDによる処置によって、不溶性p62の量が減少した。また、図24に示されるように、HPBCDとHPGCDによる処置によって、40顆粒を超える不溶性p62凝集物を持つHLCsの割合が大きく減少した。これらのことは、オートファジーフラックスの障害を回復したことを示している。このことは、NPC-iPS細胞株由来のHLCsは、薬剤候補を評価するために有用であることを示している。また、HPBCDに加えてHPGCDも、NPCの治療のための薬剤候補であることを示している。
【0067】
実施例8:NPC由来HLCsに対するHPBCDとHPGCDの作用
NPC由来HLCsに対するHPBCDとHPGCDの効果(ATPレベルの回復とオートファジー機能の回復)の作用機序が同じであるかを確認するために、HPBCDとHPGCDで処置したHLCsのマイクロアレイ分析(クラスター分析および主成分分析(PCA:principal component analysis))を行った。図11の方法によって誘導した肝様細胞(HLCs)を、4日間、HPBCDまたはHPGCDを加えて培養した(HPCDを添加しないものを対照とした)。そのRNAを抽出してDNAマイクロアレイにて網羅的遺伝子発現を解析した。具体的には以下の手順で行った。
それぞれの条件で培養したiPS由来のHLCsからの全RNAの250 ng を、3’IVT Express kit(Affymetrix)を用いて製造元のプロトコルに従い、ビオチンで標識したフラグメント化した。次いで、サンプルを GeneChip(登録商標) Human Genome U133 Plus 2.0 (Affymetrix)にハイブリダイズし、アレイは、GeneChip(登録商標) Scanner 3000(Affymetrix)でスキャンした。データは、GeneSpring GX 12.5 software (Agilent technologies)を用いて解析した。各チップは、測定値の平均に対して標準化した。NPCと正常細胞の間において、遺伝子の発現が 1.5 倍を超えて変化しているものを、異なっていると判断した。発現が変化した遺伝子のプロファイルを互いに比較することにより、NPC由来HLCsにおいて、共通するアップレギュレートした遺伝子およびダウンレギュレートした遺伝子を特定した。遺伝子セット強化分析(gene set enrichment analysis:GSEA)(BROADINSTITUTE)を用いてジーンオントロジー(gene ontology)の生物学的プロセスを強化した。これは、NPC由来HLCsの共通するアップレギュレートした遺伝子またはダウンレギュレートした遺伝子、さらには、HPBCDおよびHPGCD処理における異なった遺伝子発現を示す。統計分析のために1000回実施し、5倍以上で出現した遺伝子を含むジーンオントロジーの生物学的プロセスを強化するアルゴリズムを用いた。ジーンオントロジーの生物学的プロセスを選択し、そして、p-値ランキングに基づいてのみ記述した。p値が <0.05 または <0.1とは、それぞれ、正常またはHPBCD処理に対して、NPCまたはHPGCD処理が顕著に変化していることを意味する。次いで、階層クラスター分析を行い、生物プロセスにおいて顕著な遺伝子を同定した。
【0068】
正常(N1)、NPC-5(A114)、およびNPC-6(A225)のそれぞれの繊維芽細胞(fibro)、iPS細胞、およびそれに由来するHLCsの、HPCD不存在、HPBCDまたはHPGCDの存在おけるクラスター分析の結果を図25、PCA分析の結果を図26に示す。これより、HPGCDは、HPBCDとは異なるメカニズムで作用していることが判る。
【0069】
上記の分析の結果確認された、NPC由来HLCsにおいて変化したシグネチャー分子を図27に示す。上パネルが、NPCにおいて顕著にダウンレギュレートした分子を示しており、下パネルが、NPCにおいて顕著にアップレギュレートした分子を示している。
【0070】
HPBCDまたはHPGCD処理による、前記シグネチャー分子の発現に対する影響を確認した。結果を図28に示す。上パネルが、HPBCD処理による影響を、下パネルが、HPGCD処理による影響を見たものである。
【0071】
HPCBDまたはHPGCD処理により顕著に変化する遺伝子を階層クラスター分析により確認した。結果を図29に示す。図28において四角に囲まれたシグネチャー分子の遺伝子のデータセットは、ユークリッド距離メトリクスに従ってクラスターされた。HPGCD処理によって変化したシグネチャー分子の発現パターンは、HPBCD処理によるものよりは、正常人由来のHLCsのそれに近かった。
【0072】
実施例9:NPCモデルマウスに対するHPGCD処理の影響
NPC由来HLCsにおけるコレステロール蓄積に対するHBGCDの影響を、NPCモデルマウスを用いて確認した。モデルマウス(NPCマウス)は、Npc1遺伝子の自然突然変異により、コレステロールのライソゾームからERへの輸送が欠損している。このモデルマウスはまた、肝臓や脳へのコレステロール蓄積を伴うヒト疾患と同様の症状を示す。このモデルマウスは、肝臓損傷と神経機能不全を示し、治療無しには12週齢で死亡する。
4週齢のNPCマウスを、4週齢を開始として、1週間毎に、HPCGD(4000 mg/kg)で処理し、8.5週目にサンプルを採取した(全5回処理)。対照は生理食塩水を処理した。実験は2回(1回目:n=6、2回目:n=4)繰り返した。
【0073】
肝臓損傷のマーカーである、血清中のAST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)およびALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)を測定したところ、HPGCD処理により、顕著に著しく減少していた。結果を図30に示す。組織学的分析の結果、HPGCD処理によりNPCマウスの肝臓は、顕著に形態が改善されていた(図31)。また、HPGCD処理により、NPCマウスの小脳中部のプルキンエ細胞の欠失も回復していた(図32)。
また、HPGCD処理したNPCマウスでは、異常なオートファジーも回復し、加えて、HPGCD処理したNPCマウスの肝臓および脳では、LC3および不溶性p62の発現レベルが正常レベルに回復していた(データ示さず)。
HPGCD処理によるNPCマウスの生存率に対する効果を確認するために、モデルマウスに対して、4週齢から、1週間毎にHPGCDを投与した(HPGCD投与群:n=6、対照(生理食塩水投与群):n=6)。生存カーブを確認したところ、顕著な生存率の改善が見られた。結果を図33に示す。
【0074】
実施例10:HPBCGとHPGCDの毒性試験
HPGCDの優れた安全性を確認するために、正常マウスに対する急性毒性を試験した。8週齢のマウス(n=10)の皮下組織に、14.4 mM のHPBCDとHPGCDをそれぞれ19.18ml/g で投与し、生存率を確認した。HPBCDを投与したマウスでは、投与後72時間で殆ど死亡したが、HPGCDを投与したマウスでは、死亡は確認されなかった。
【0075】
本明細書に記載した上記の結果は、導入遺伝子のないiPS細胞株は、難治性疾患に有効な細胞モデルであることを示している。
本発明者らはまた、これまでに、TS12KOSベクターを含むSeVベクターを使用して、難治性疾患の100人を超える患者から1000以上のiPS細胞株を作製した。例を表4に示す。なお、表中のMiyoshi Myopasyは、改良した本発明のTS12KOベクターではなく、以前のベクターを用いている。これらの患者から作製した全てのiPS細胞株は、ES細胞様コロニー形態を示し、多能性マーカーのセットを発現した(データは示さず)。また、樹立された全てのiPS細胞株のSeV陰性状態は、ネスティドRT-PCRにより確認した(データ示さず)。このことは、これらの作製した細胞株がリプログラミングに使用される導入遺伝子を保有しないことを示している。
【0076】
【表4】
【0077】
上記の記載は、本発明の目的及び対象を単に説明するものであり、添付の特許請求の範囲を限定するものではない。添付の特許請求の範囲から離れることなしに、記載された実施態様に対しての、種々の変更及び置換は、本明細書に記載された教示より当業者にとって明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明のiPS細胞およびスクリーニング方法は、難治性疾患の治療薬をスクリーニングするための用いることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図9
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図26
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図31
図32
図33
図34
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]