特許第6755503号(P6755503)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6755503
(24)【登録日】2020年8月28日
(45)【発行日】2020年9月16日
(54)【発明の名称】有機質汚泥の脱水方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 11/147 20190101AFI20200907BHJP
   B01D 21/01 20060101ALI20200907BHJP
【FI】
   C02F11/147
   B01D21/01 105
   B01D21/01 107A
   B01D21/01 107Z
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-167449(P2016-167449)
(22)【出願日】2016年8月30日
(65)【公開番号】特開2018-34083(P2018-34083A)
(43)【公開日】2018年3月8日
【審査請求日】2019年7月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000142148
【氏名又は名称】ハイモ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】米本 亮介
(72)【発明者】
【氏名】柴 範行
【審査官】 松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−194550(JP,A)
【文献】 特開2013−215708(JP,A)
【文献】 特開2008−194677(JP,A)
【文献】 特開2014−171981(JP,A)
【文献】 特開2003−145200(JP,A)
【文献】 特開2003−164900(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0238454(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 11/00− 11/20
B01D 21/01
C02F 1/52− 1/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機質汚泥に対して、有機凝結剤を添加し、混合撹拌後、下記一般式(1)及び/又は下記一般式(2)で表されるカチオン性単量体1〜20モル%、下記一般式(3)で表されるアニオン性単量体0〜20モル%、非イオン性単量体60〜99モル%を構成成分とし、且つ前記一般式(1)及び/又は前記一般式(2)で表されるカチオン性単量体モル数をA、前記一般式(3)で表されるアニオン性単量体モル数をBとした時、A−B=0〜10の範囲である、カチオン性あるいは両性高分子凝集剤を添加し、混合撹拌後、カチオン性高分子凝集剤を添加、脱水機にて有機質汚泥を脱水することを特徴とする有機質汚泥の脱水方法。
一般式(1)
は水素又はメチル基、R、Rは炭素数1〜3のアルキルあるいはヒドロキシアルキル基、Rは炭素数1〜3のアルキルあるいはアルコキシル基、7〜20のアルキル基あるいはアリール基、Aは酸素またはNH、Bは炭素数2〜4のアルキレン基を表わす、Xは陰イオンをそれぞれ表わす。
一般式(2)
は水素又はメチル基、R、Rは炭素数1〜3のアルキル基あるいはヒドロキシアルキル基、Xは陰イオンをそれぞれ表わす。
一般式(3)
は水素、メチル基またはカルボキシメチル基、QはSO、CSO、CONHC(CHCHSO、CCOOあるいはCOO、Rは水素またはCOO、YあるいはYは水素または陽イオンをそれぞれ表わす。
【請求項2】
前記カチオン性あるいは両性高分子凝集剤の構成成分が、前記一般式(1)及び/又は前記一般式(2)で表されるカチオン性単量体1〜10モル%、非イオン性単量体90〜99モル%であることを特徴とする請求項1に記載の有機質汚泥の脱水方法。
【請求項3】
前記有機質汚泥が、製紙スラッジであることを特徴とする請求項1あるいは2に記載の有機質の汚泥脱水方法。



























【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機質汚泥の脱水方法に関する。更に詳しくは、有機質汚泥に対し、有機凝結剤を添加、混合撹拌後、カチオン性あるいは両性高分子凝集剤を添加、混合撹拌後、カチオン性高分子凝集剤を添加、脱水機にて脱水する有機質汚泥の脱水方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な汚泥脱水処理には、ポリアクリルアミド(PAM)系カチオン性高分子凝集剤が使用されたり、あるいは無機凝集剤を添加後、カチオン性凝集剤を使用したりする方法が適用されてきた。しかし、製紙工場排水処理や下水・屎尿処理等で発生する有機分比率の高い有機質汚泥を脱水する場合、形成する凝集フロックは強度の低いものしか得られないため、機械的な脱水の工程中に凝集フロックが破壊され、脱水効率が低下する現象が見られた。そこで、引用文献1では、製紙スラッジに対し、アクリルアミドを主体とする構成単位からなる非イオン性水溶性高分子を添加、混合した後、カチオン性及び/または両性高分子凝集剤を添加、混合した後、脱水機により脱水する方法が開示されている。
引用文献2では、無機凝集剤を添加した後に、ノニオン性又はアニオン性高分子凝集剤と、該ノニオン性又はアニオン性高分子凝集剤と同量以上の両性高分子凝集剤とを含有し、前記ノニオン性又はアニオン性高分子凝集剤中のアニオン構成単位が20モル%以下である高分子凝集剤を添加する方法が開示されている。しかし、この方法では、添加した無機凝集剤の成分が脱水ケーキ中に多量に含まれることになり、灰分として廃棄物量が増大するため問題となっている。そこで、無機凝集剤は使用せず、有機凝結剤を適用する方法が検討されてきた。又、これらの方法は二液を使用する方法であるが、改良処方として三液を使用する処方も考案されている。
引用文献3では、有機凝結剤を添加後、ノニオン及び/又はアニオン性高分子凝集剤を添加、カチオン性高分子凝集剤を添加する方法が開示され、強度なフロックが形成されある程度の脱水効率の向上が認められている。しかし、これら前記方法よりも更なる高い効率で脱水できる処方が要望されている。
【0003】
【特許文献1】特開2008−194677号公報
【特許文献2】特開2005−013815号公報
【特許文献3】特開2008−194550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、有機質汚泥を脱水する方法を提供すること、更に詳しくは有機分比率の高い有機質汚泥に対し、無機凝結剤を使用することなく、高い脱水効率が得られる有機質汚泥の脱水方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、下記に記載するような知見に因り発明を完成するに至った。即ち、有機質汚泥に対し、有機凝結剤を添加、混合撹拌後、カチオン性あるいは両性高分子凝集剤を添加、混合撹拌後、カチオン性高分子凝集剤を添加することで処理効果が優れることを見出した。
【発明の効果】
【0006】
本発明における脱水方法は、有機分比率の高い有機質汚泥に対して、高い脱水性を得ることができ、無機凝集剤を使用しないため廃棄物量を増大させることがない方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明における脱水方法は、有機質汚泥に対して、一液目として有機凝結剤を添加する。有機凝結剤としては、一般的に使用されているものが使用可能であり、例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート系高分子、ジアリルアミン系高分子、縮合系ポリアミン等が挙げられる。ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート系高分子を製造する際に使用する、カチオン性単量体のうち三級アミノ基含有カチオン性単量体の例としてはジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドおよびこれらの塩等が挙げられ、四級アンモニウム塩基含有カチオン性単量体の例として、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、(メタ)アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、(メタ)アクリロイルオキシ2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド等が挙げられる。これらカチオン性単量体単独での重合体、カチオン性単量体二種以上の重合体、カチオン性単量体と非イオン性単量体との共重合体でも良い。非イオン性単量体として、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、酢酸ビニル、アクリロニトリル、アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、ジアセトンアクリルアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、アクリロイルモルホリン等が挙げられ、これらの中で一種以上のものとカチオン性単量体との共重合体を使用できる。重量平均分子量は、1万〜300万の範囲が好ましい。
【0008】
更にこれらのジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート系高分子は、カチオン性構成単位の効果を阻害しない範囲でアニオン性単量体を使用しても良い。アニオン性単量体としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、2−アクリルアミド−2−メチルスルフォン酸、マレイン酸、及びこれらの塩が挙げられる。
【0009】
又、ジアリルアミン系高分子として、アリルアミン、ジアリルメチルアミンおよびこれらの塩、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド等が挙げられる。
これらカチオン性単量体の共重合モル比は、任意のものが使用されるがカチオン性単量体30モル%以上含有されていることが好ましく、50モル%以上が更に好ましい。重量平均分子量は、1万〜300万の範囲が好ましい。
【0010】
縮合系ポリアミン系高分子としては、モノメチルアミン、ジメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミンなどとエピクロロヒドリンとの縮合物、あるいは、上記脂肪族アミン/エピクロロヒドリン縮合物をさらにエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンあるいはヘキサメチレンジアミンと縮合させたものなどが挙げられる。これら重縮合系高分子の重量平均分子量は、1000〜10万の範囲が好ましい。更にその他のカチオン性高分子として、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリアミジン等を利用しても良く、これらは一般的に使用される範囲の重量平均分子量のものが使用される。
【0011】
前記ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート系高分子、ジアリルアミン系高分子、縮合系ポリアミン等の高分子を二種以上組み合わせて使用することも可能である。
【0012】
本発明における脱水方法の本質は、無機凝集剤を使用せずに、有機凝結剤を使用するものであるが、有機凝結剤の効果を阻害しない範囲で無機凝集剤を添加することは差し支えない。無機凝集剤としては硫酸バンド、ポリ塩化アルミニウム、ポリ鉄等の一般的なものが使用される。
【0013】
二液目として添加する、カチオン性あるいは両性高分子凝集剤としては、下記一般式(1)及び/又は下記一般式(2)で表されるカチオン性単量体1〜20モル%、下記一般式(3)で表されるアニオン性単量体0〜20モル%、非イオン性単量体60〜99モル%を構成成分とするカチオン性あるいは両性高分子凝集剤を使用する。
一般式(1)
は水素又はメチル基、R、Rは炭素数1〜3のアルキルあるいはヒドロキシアルキル基、Rは炭素数1〜3のアルキルあるいはアルコキシル基、7〜20のアルキル基あるいはアリール基、Aは酸素またはNH、Bは炭素数2〜4のアルキレン基を表わす、Xは陰イオンをそれぞれ表わす。
一般式(2)
は水素又はメチル基、R、Rは炭素数1〜3のアルキル基あるいはヒドロキシアルキル基、Xは陰イオンをそれぞれ表わす。
一般式(3)
は水素、メチル基またはカルボキシメチル基、QはSO、CSO、CONHC(CHCHSO、CCOOあるいはCOO、Rは水素またはCOO、YあるいはYは水素または陽イオンをそれぞれ表わす。
【0014】
一般式(1)で表されるカチオン性単量体として、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートあるいはジメチルアミノプロピルアクリルアミドの塩化メチルや塩化エチルなど低級アルキル基のハロゲン化物による四級化物である。例えば、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、(メタ)アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド等である。又、一般式(2)で表されるカチオン性単量体は、ジアリルメチルアンモニウムクロリド、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド等がある。一般式(3)で表されるアニオン性単量体としては、(メタ)アクリル酸あるいはそのナトリウム塩等のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩、マレイン酸あるいはそのアルカリ金属塩、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のアクリルアミドアルカンスルホン酸あるいはそのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩等が挙げられる。
【0015】
二液目に添加する高分子凝集剤がカチオン性の場合、カチオン性単量体のモル数は1〜10モル%の範囲であり、両性の場合、カチオン性単量体のモル数をA、アニオン性単量体のモル数をBとした時、A−Bが0〜10の範囲であることが必須である。これは、一液目に添加する有機凝結剤により有機質汚泥中の懸濁粒子の有するアニオン電荷を低下させる中和作用が有効に作用し、二液目に添加するカチオン性あるいは両性高分子凝集剤により、中和された懸濁粒子を捕捉、三液目に添加するカチオン性高分子凝集剤により、形成されたフロック間に作用し、更に大きなフロックを形成させる。この時、二液目に添加するカチオン性高分子凝集剤のカチオン性単量体のモル数は、微カチオンである必要がある。微カチオンとはカチオン性単量体のモル数が1〜10モル%の範囲であり、1〜8モル%であることが好ましい。両性高分子凝集剤の場合は、分子内あるいは分子間イオンコンプレックスが形成される結果、カチオン性基がアニオン性基によって消費されることから、カチオン性単量体のモル数をA、アニオン性単量体のモル数をBとした時、A−Bが0〜10になることが必須であることを見出したものである。即ち、カチオン性高分子凝集剤のカチオン性単量体が1〜10モル%の場合と、両性高分子凝集剤のカチオン性単量体とアニオン性単量体のモル数の差が0〜10の範囲である場合に本発明の脱水方法として適用すると同等の作用、効果が得られる。
【0016】
二液目に添加するカチオン性高分子凝集剤のカチオン性単量体モル数が10モル%より大きい場合、あるいは両性高分子凝集剤のカチオン性単量体のモル数とアニオン性単量体のモル数の差が、10より大きい場合は中和された懸濁粒子の捕捉効果が低いと考えられる。三液目に添加するカチオン性高分子凝集剤によりフロック間に作用し、更に大きなフロックを形成させるためには、二液目のカチオン性単量体のモル数が極めて重要な要因となる。この三液を添加処理することにより、スクリュープレス型脱水機やロータリープレス脱水機等の様な機械的な脱水工程中において大きなせん断力が掛かっても強固、且つある程度の大きなフロックを維持することができる結果、高い脱水効率が得られることが推測される。尚、二液目に添加する高分子凝集剤として、本発明で規定するカチオン性高分子凝集剤と両性高分子凝集剤を併用しても差し支えない。
【0017】
二液目に添加するカチオン性あるいは両性高分子凝集剤の製品形態は特に制限はなく、公知の方法により製造することができる。例えば、水溶液重合、油中水型エマルジョン重合、油中水型分散重合、塩水中分散重合等によって重合した後、水溶液、塩水中分散液、油中水型エマルジョンあるいは粉末等、任意の製品形態にすることができる。
【0018】
これら前記の種々の重合は、常法により実施する。例えば、窒素雰囲気下にて、重合開始剤、例えば2、2’−アゾビス(アミジノプロパン)二塩化水素化物又は2、2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩化水素化物のような水溶性アゾ系重合開始剤、あるいは過硫酸アンモニウム及び亜硫酸水素ナトリウム併用のような水溶性レドックス系重合開始剤を添加し、撹拌下あるいは無攪拌下ラジカル重合を行う。
【0019】
又、重合時に構造改質剤、即ち、高分子を構造変性する架橋性単量体を使用しても良い。この架橋性単量体は、単量体総量に対し質量で0.5〜200ppmの範囲で存在させる。架橋性単量体の例としては、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、トリアリルアミン、ジメタクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸ジエチレングリコール、ジメタクリル酸トリエチレングリコール、ジメタクリル酸テトラエチレングリコール、ジメタクリル酸−1,3−ブチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、N−ビニル(メタ)アクリルアミド、N−メチルアリルアクリルアミド、アクリル酸グリシジル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、アクロレイン、グリオキザール、ビニルトリメトキシシランなどがあるが、この場合の架橋剤としては、水溶性ポリビニル化合物がより好ましく、最も好ましいのは、N,N−メチレンビス(メタ)アクリルアミドである。又、ギ酸ナトリウム、イソプロピルアルコール、メタリルスルホン酸ナトリウム等の連鎖移動剤を併用することも架橋性を調節する手法として効果的である。添加率としては、単量体総量に対し0.001〜1.0質量%、好ましくは0.01〜0.1質量%存在させる。
【0020】
本発明における二液目に添加するカチオン性あるいは両性高分子凝集剤の分子量は重量平均分子量で400万〜1000万の範囲であり、600万〜1000万が好ましい。400万より低いと凝集力が低下する結果、一液目の有機凝結剤添加によってアニオン電荷が中和された懸濁粒子の捕捉効果が弱まる。一方、1000万より高いと形成フロックが大きくなり過ぎ、水分を過多に取り込んだ結果、脱水効果が低下するためである。又、二液目に添加するカチオン性あるいは両性高分子凝集剤の4質量%食塩水中に高分子濃度が0.5質量%になるように完全溶解したときの25℃において回転粘度計にて測定した塩水溶液粘度は、30〜120mPa・sの範囲であり、60〜120mPa・sが好ましい。
【0021】
三液目として、カチオン性高分子凝集剤を添加する。これは、一般的に使用されているものが使用される。二液目で添加するカチオン性あるいは両性高分子凝集剤と同じ系統のカチオン性高分子凝集剤を使用することが好ましい。即ち、前記一般式(1)及び/又は前記一般式(2)で表されるカチオン性単量体、非イオン性単量体を構成成分とするカチオン性高分子凝集剤を使用する。一般式(1)及び/又は一般式(2)で表されるカチオン性単量体10〜100モル%、非イオン性単量体0〜90モル%の範囲であるが、一般式(1)及び/又は一般式(2)で表されるカチオン性単量体は10〜50モル%が好ましく、10〜40モル%更に好ましい。前記一般式(3)で表されるアニオン性単量体を高分子凝集剤の効果を阻害しない範囲で含んでいても差し支えなく、好ましくは10モル%以下、更に好ましくは5モル%以下である。
【0022】
本発明における三液目に添加するカチオン性高分子凝集剤の分子量は重量平均分子量で400万〜1500万であり、500万〜1500万が好ましい。400万より低いと二液目のカチオン性あるいは両性高分子凝集剤添加により形成されたフロック間に作用する力が弱まり、1500万より高いとフロック間に水分を過多に取り込んだ結果、脱水効果が低下するためである。
【0023】
本発明における有機凝結剤、二液目のカチオン性あるいは両性高分子凝集剤、及び三液目のカチオン性高分子凝集剤は、それぞれ原液のまま添加しても良いが、有機質汚泥への分散性を考慮すると、水で任意の割合で希釈または溶解して使用することが好ましい。水溶液濃度は、0.05〜0.3質量%が好ましい。添加率は、汚泥のSS濃度などにより異なるが、汚泥に対して通常1〜50ppm、好ましくは2〜25ppmとするのが望ましい。
【0024】
本発明における脱水方法は、有機質汚泥に対し、有機凝結剤、カチオン性あるいは両性高分子凝集剤及びカチオン性高分子凝集剤の三液を使用するものである。これら三液をこの順序で添加することにより有機質汚泥、特に製紙スラッジの脱水処理効果が優れるものである。これらのうち、一液でも添加されない場合、あるいは添加順序が異なると脱水処理効果は低下する。従来、特開 2008-194677号公報や、特開2008-194550号公報で開示されている様に、始めに添加する高分子凝集剤としては、一般的にノニオン性あるいはアニオン性が使用されてきた。これは、有機質汚泥、特に製紙スラッジは、アニオン性のコロイド性物質の含有量が少なく、パルプの様な不安定な懸濁物質が多く存在する結果、非イオン性水溶性高分子中のポリアクリルアミド構成単位が水素結合作用を発現させ、パルプ繊維を架橋吸着的に凝集させる機構が考えられていたためである。又、最後にカチオン性高分子凝集剤を添加するために、始めにカチオン性あるいは両性高分子凝集剤を使用しても大きな効果が得られないと推測されていたためである。これに対して、本発明における脱水方法では、始めに添加する高分子凝集剤は、ノニオン性あるいはアニオン性の高分子凝集剤ではなく、ある特定の組成を有するカチオン性あるいは両性高分子凝集剤を添加すると脱水効果が優れることを見出し発明に至ったものである。
【0025】
有機質汚泥とは、脱水がより困難な有機分比率の高い汚泥である。特に本発明における脱水方法が有効な有機質汚泥とは、具体的には有機物の指標となる汚泥のVSS(浮遊物質中の強熱減量、質量%対SS)が45質量%以上の汚泥である。近年の有機質汚泥では、VSSやVTS(蒸発残留物中の強熱減量、質量%対TS)が増加する傾向にあり、これらに対応できる脱水方法が要望されており、特にVSSが50質量%以上において本発明の効果が顕著である。尚、汚泥の各種測定値は、定法(下水試験方法)に基づく測定による。適用可能な具体例としては、製紙工場排水処理により発生する製紙スラッジ、下水処理により発生する下水汚泥、屎尿処理汚泥等が挙げられる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例によって本発明を更に詳しく説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に制約されるものではない。
【0027】
一液目に使用する市販の有機凝結剤を用意した。それぞれの試料の組成、物性を表1に示す。又、二液目及び三液目で使用する市販のPAM系高分子凝集剤を用意した。それぞれの試料の組成、物性を表2に示す。
【0028】
(表1)
【0029】
(表2)
DMQ;アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド
DMAZ;アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロリド
AAC;アクリル酸、AAM;アクリルアミド
形態:P;粉末、D;塩水液中分散液、E;油中水型エマルジョン
【0030】
(実施例1)
製紙工場より発生する製紙スラッジ汚泥(pH:6.9、SS:8750ppm、VSS:59.8質量%/SS、TS:9750ppm)についてスクリュープレス脱水機を対象にした凝集試験および圧搾試験を実施した。当現場では、当該汚泥を対象とした脱水処方として、有機凝結剤10ppm+ノニオン性高分子凝集剤8ppm+カチオン性高分子凝集剤16ppmの三液処方が適用(添加率は何れも対汚泥)されており、最適添加率であることが判明している。この汚泥200mLをポリビーカーに取り、前記表−1の有機凝結剤、前記表−2の各種高分子凝集剤をそれぞれ0.2質量%に清水にて希釈したものを対汚泥に所定量添加し、撹拌して試験を実施した。一液目として有機凝結剤G−1を対汚泥10ppm添加しスパチュラにて40回撹拌後、二液目に高分子凝集剤試料CN−1を対汚泥8ppm添加しスパチュラで50回撹拌した後、三液目に高分子凝集剤C−1を対汚泥16ppm添加しスパチュラで50回撹拌した後、ビーカー移し替え撹拌6回を実施し、生成したフロックの大きさを観察後、40メッシュのナイロン濾布により濾過、10秒後の濾過量を測定した。又、濾過した凝集物をプレス圧4kg/cmで脱水してそのケーキ径を測定した後、脱水ケーキを105℃の乾燥機により15時間乾燥することによりケーキ含水率を求めた。
【0031】
(実施例2〜10)
実施例1と同様な汚泥を対象に同様な操作により、試験を実施した。結果を表3に示す。
【0032】
(比較例1〜9)
実施例1と同様な汚泥を対象に同様な操作により、本発明の範囲外の方法において試験を実施した。結果を表3に示す。
【0033】
(表3)
【0034】
本発明における脱水方法の実施例では、非常に強固な凝集フロック生成及び濾過速度の向上が確認されると共に、脱水ケーキに関する水切れの良さの指標であるプレス脱水後のケーキ径が小さくなると共にケーキ含水率の低下が得られた。一方、本発明の脱水方法とは異なる試料あるいは異なる添加順序の場合は、実施例と比べて10秒後濾過量が少なく、ケーキ含水率は高い値を示した。又、二液目に添加する高分子凝集剤が、比較例8や9の様にカチオン性単量体10モル%を超えるカチオン性高分子凝集剤の場合や、比較例5〜7の様にカチオン性単量体モル数とアニオン性単量体モル数との規定が、本発明における規定の範囲外となる場合も脱水効果が低下を示した。又、ノニオン性やアニオン性高分子凝集剤添加でも効果は低下を示した。
【0035】
(実施例11)
製紙工場より発生する製紙スラッジ汚泥(pH:7.0、SS:23000ppm、VSS:68.5質量%/SS、TS:24250ppm)についてスクリュープレス脱水機を対象にした凝集試験および圧搾試験を実施した。当現場では、当該汚泥を対象とした脱水処方として、有機凝結剤10ppm+ノニオン性高分子凝集剤12ppm+カチオン性高分子凝集剤24ppmの三液処方が適用(添加率は何れも対汚泥)されており、最適添加率であることが判明している。この汚泥200mLをポリビーカーに取り、前記表−1の有機凝結剤、前記表−2の各種高分子凝集剤をそれぞれ0.2質量%に清水にて希釈したものを対汚泥に所定量添加し、撹拌して試験を実施した。一液目として有機凝結剤G−1を対汚泥10ppm添加しスパチュラにて40回撹拌後、二液目に高分子凝集剤試料CN−1を12ppm添加しスパチュラで50回撹拌した後、高分子凝集剤C−1を対汚泥24ppm添加しスパチュラで50回撹拌した後、ビーカー移し替え撹拌6回を実施し、生成したフロックの大きさを観察後、40メッシュのナイロン濾布により、10秒後の濾過量を測定した。又、濾過した凝集物をプレス圧4kg/cmで脱水してそのケーキ径を測定した後、脱水ケーキを105℃の乾燥機により15時間乾燥することによりケーキ含水率を求めた。
【0036】
(実施例12〜19)
実施例11と同様な汚泥を対象に同様な操作により、試験を実施した。結果を表4に示す。
【0037】
(比較例10〜17)
実施例11と同様な汚泥を対象に同様な操作により、本発明の範囲外の方法において試験を実施した。結果を表4に示す。
【0038】
(表4)
【0039】
本発明における脱水方法を用いた実施例では、ケーキ含水率が低下し脱水性が優れることが分かった。一方、本発明における脱水方法の範囲外の比較例では、実施例に比べて10秒後濾過量が少なく、ケーキ含水率が高くなり、脱水効果が低下することが分かった。二液目に添加する高分子凝集剤が、ノニオン性やアニオン性の場合においても効果が低下を示した。又、比較例16や17の様にカチオン性単量体20モル%のカチオン性高分子凝集剤添加時でも脱水効果は低下を示した。