特許第6755506号(P6755506)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6755506
(24)【登録日】2020年8月28日
(45)【発行日】2020年9月16日
(54)【発明の名称】窒化物半導体発光素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/14 20100101AFI20200907BHJP
   H01L 33/04 20100101ALI20200907BHJP
   H01L 33/32 20100101ALI20200907BHJP
   H01S 5/343 20060101ALI20200907BHJP
【FI】
   H01L33/14
   H01L33/04
   H01L33/32
   H01S5/343 610
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-218032(P2015-218032)
(22)【出願日】2015年11月6日
(65)【公開番号】特開2017-92158(P2017-92158A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2018年10月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】特許業務法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 哲也
(72)【発明者】
【氏名】井野 匡貴
(72)【発明者】
【氏名】岩谷 素顕
(72)【発明者】
【氏名】赤▲崎▼ 勇
(72)【発明者】
【氏名】赤木 孝信
(72)【発明者】
【氏名】岩山 章
【審査官】 大和田 有軌
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/129610(WO,A1)
【文献】 特開2003−289176(JP,A)
【文献】 特開平11−186646(JP,A)
【文献】 特開2010−109215(JP,A)
【文献】 特表2006−508550(JP,A)
【文献】 特開2002−319703(JP,A)
【文献】 米国特許第06515308(US,B1)
【文献】 中国特許出願公開第104682195(CN,A)
【文献】 Seong-Ran Jeon, et al.,“GaN tunnel junction as a current aperture in a blue surface-emitting light-emitting diode”,Applied Physics Letters,2002年 3月12日,Vol.80,No.11,p.1933-1935
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00 − 33/64
H01S 5/00 − 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性層の表面側に積層されたp型半導体層の表面側にトンネル接合層が積層された窒化物半導体発光素子であって、
前記トンネル接合層の表面に第一n型半導体層が積層され、
前記p型半導体層の前記トンネル接合層側の表面側の一部、前記一部の表面に積層された前記トンネル接合層、及び前記一部の表面に積層された前記トンネル接合層の表面に積層された前記第一n型半導体層を残して除去され、
除去された領域の前記p型半導体層の表面、及び前記一部と共に残された前記第一n型半導体層の表面に第二n型半導体層が積層され、
前記第一n型半導体層及び前記第二n型半導体層にはn型不純物が添加され、前記第一n型半導体層のn型不純物の濃度は、前記第二n型半導体層より低く、
除去された領域の前記p型半導体層の表面から前記活性層の表面までの層厚に対する、前記第一n型半導体層と、前記トンネル接合層と、除去された前記p型半導体層の前記トンネル接合層側の表面側の厚みとを合わせた層厚の比率が0.9以下であり、
除去された領域の前記p型半導体層の表面から前記活性層の表面までの層厚は130nm以上であることを特徴とする窒化物半導体発光素子。
【請求項2】
活性層の表面側に積層されたp型半導体層の表面側にトンネル接合層を積層する第一工程と、
前記トンネル接合層の表面に第一n型半導体層を積層する第三工程と、
前記p型半導体層の前記トンネル接合層側の表面側の一部、前記一部に積層された前記トンネル接合層、及び前記一部に積層された前記トンネル接合層の表面に積層された第一n型半導体層を残してエッチングで除去する第二工程と、
除去された領域の前記p型半導体層の表面、及び前記一部と共に残された前記第一n型半導体層の表面に第二n型半導体層を積層する第四工程と、
を備え、
前記第一n型半導体層及び前記第二n型半導体層にはn型不純物が添加され、前記第一n型半導体層のn型不純物の濃度が前記第二n型半導体層より低く、
前記第二工程でエッチングされた領域の前記p型半導体層の表面から前記活性層の表面までの層厚に対する、前記第一n型半導体層と、前記トンネル接合層と、前記第二工程で除去された前記p型半導体層の前記トンネル接合層側の表面側の厚みとを合わせた層厚の比率が0.9以下であり、
前記第二工程でエッチングされた領域の前記p型半導体層の表面から前記活性層の表面までの層厚は130nm以上であることを特徴とする窒化物半導体発光素子の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は窒化物半導体発光素子及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に半導体発光素子に金属の電極を設けて縦方向に電流を流すと電流の大部分は電極の直下に向けて流れる。このため、半導体発光素子は電流が流れることによって生じた光の大部分が電極に遮られ、発光した光を素子の外に有効に取り出すことができない。このため、面発光レーザやマイクロLEDを実現するために、素子に電流が流れやすい領域(以下、低抵抗領域という)と、その周囲に電流の流れにくい領域(以下、高抵抗領域という)とを設けて、素子の周囲から素子の内方向に電流が流れる電流狭窄構造を形成する必要がある。
【0003】
そこで、半導体発光素子に円環状をなした電極を形成して、円環状に形成された電極の内側に向けて電流が集まり半導体発光素子内部に流れるようにする。詳しくは、円環状に形成された電極の内側に低抵抗領域を形成し、円環状に形成された電極の直下及び外側に高抵抗領域を形成する。すると、円環状に形成された電極の内側に向けて集まった電流が半導体発光素子内部に設けられた活性層に向けて流れて半導体発光素子の活性層で発光する。こうして、半導体発光素子の活性層で発光した光は電極に遮られることなく素子の外に取り出すことができる。
【0004】
非特許文献1は従来の窒化物半導体発光素子を開示している。この窒化物半導体発光素子は逆バイアス電圧を印加した際のトンネル接合及び通常のpn接合のそれぞれの特性の違いを利用して、電流が集まる電流狭窄構造を実現している。
【0005】
ここで、トンネル接合及び通常のpn接合のそれぞれの特性の違いを説明する。通常のpn接合はダイオード特性によりp型半導体層及びn型半導体層を挟み逆バイアス電圧を印加しても電流が流れない。これに対して、トンネル接合はp型半導体層及びn型半導体層を挟み逆バイアス電圧を印加すると電流が流れる。詳しくは、トンネル接合は通常のpn接合に比べてp型半導体層及びn型半導体層のそれぞれにp型不純物及びn型不純物が高濃度に添加されたpn接合である。これにより、トンネル接合は通常のpn接合に比べてp型半導体層とn型半導体層との界面近傍に形成される空乏層の層厚が薄くなる。こうして、トンネル接合はp型半導体層及びn型半導体層を挟み逆バイアス電圧を印加するとキャリア(電子及びホール(正孔))が空乏層を通り抜ける(トンネルする)ことができる。つまり、トンネル接合はn型半導体層からp型半導体層に向けて電流を流すことができる。
【0006】
非特許文献1の従来の窒化物半導体発光素子はLEDや面発光レーザ等の光デバイス層構造である、n型半導体層、活性層、及びp型半導体層を積層して結晶成長で形成されている。そして、p型半導体層の表面側に窒化物半導体のトンネル接合層を結晶成長で形成している。詳しくは、トンネル接合層はp型不純物を高濃度に添加したp++型半導体層(p++とはp型不純物が高濃度に添加された状態を意味する。以下同じ)及びn型不純物を高濃度に添加したn++型半導体層(n++とはn型不純物が高濃度に添加された状態を意味する。以下同じ)を積層して結晶成長で形成されている。
【0007】
そして、この窒化物半導体発光素子は結晶成長装置から一旦取り出されてエッチングされている。詳しくは、電流を流したい領域のみトンネル接合層を残し、電流を流したくない領域のトンネル接合層をエッチングして除去し、p型半導体層を露出させる。さらに、この窒化物半導体発光素子は再び結晶成長装置に投入されて、n型半導体層を積層して結晶成長して形成されている。詳しくは、この窒化物半導体発光素子はトンネル接合層の表面、及びエッチングで露出したp型半導体層の表面にn型半導体層であるn−GaN層を積層して結晶成長して形成されている。つまり、トンネル接合層をn型半導体層で埋め込む。こうして、この窒化物半導体発光素子はエッチングによりトンネル接合を除去してp型半導体層が露出した領域に通常のpn接合が形成されている。このように、ある領域のみにトンネル接合を残し、さらにそのトンネル接合を結晶成長によって埋め込んだ構造をを埋め込みトンネル接合という。
【0008】
この窒化物半導体発光素子は逆バイアス電圧が印加されると、トンネル接合が形成された領域にのみ電流が流れ、通常のpn接合が形成された領域はn側半導体層からp型半導体層へ電流が流れない。こうして、この窒化物半導体発光素子はトンネル接合及び通常のpn接合を利用して電流狭窄構造を実現している。つまり、この窒化物半導体発光素子はホールに比べ移動度が高く有効質量が小さい電子の供給源であるn型半導体層をp型半導体層の上に積層することによって、トンネル接合及び通常のpn接合を利用して電流狭窄構造を形成している。これにより、この窒化物半導体発光素子は電子に比べ移動度が低く有効質量が大きいホールの供給源であるp型半導体の層厚を抑えることができる。このため、この窒化物半導体発光素子は素子の電気抵抗を抑えることができるため、素子に電流を良好に流すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献1】S.R.Jeon,et al,、"GaN tunnel junction as a current aperture in a blue surface−emitting light−emitting diode"、Applied Physics Letter、(米国)、2002年1月14日、Vol.80,Number11,p.1933−1935
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、この窒化物半導体発光素子は逆バイアス電圧が印加されると、通常のpn接合が形成された、電流を流したくない領域にリーク電流が流れることがわかっている。これは、電流を流したくない領域のトンネル接合を除去する際に行うドライエッチングによって、p型半導体層とn型半導体層とのpn接合界面であって活性層の存在する側の界面に何らかのダメージが与えられたと考えられる。
【0011】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、素子の品質が良好な窒化物半導体発光素子及びその製造方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
活性層の表面側に積層されたp型半導体層の表面側にトンネル接合層が積層された窒化物半導体発光素子であって、
前記トンネル接合層の表面に第一n型半導体層が積層され、
前記p型半導体層の前記トンネル接合層側の表面側の一部、前記一部の表面に積層された前記トンネル接合層、及び前記一部の表面に積層された前記トンネル接合層の表面に積層された前記第一n型半導体層を残して除去された、
除去された領域の前記p型半導体層の表面、及び前記一部と共に残された前記第一n型半導体層の表面に第二n型半導体層が積層され、
前記第一n型半導体層及び前記第二n型半導体層にはn型不純物が添加され、前記第一n型半導体層のn型不純物の濃度は、前記第二n型半導体層より低く、
除去された領域の前記p型半導体層の表面から前記活性層の表面までの層厚に対する、前記第一n型半導体層と、前記トンネル接合層と、除去された前記p型半導体層の前記トンネル接合層側の表面側の厚みとを合わせた層厚の比率が0.9以下であり、
除去された領域の前記p型半導体層の表面から前記活性層の表面までの層厚は130nm以上であることを特徴とする。
【0013】
この窒化物半導体発光素子はp型半導体層の除去する厚みを抑えることによって、活性層にエッチングによるダメージが侵入することを抑えることができる。このため、この窒化物半導体発光素子は素子の品質を良好にすることができ、電流を流したい領域以外に流れるリーク電流を抑えることができる。この窒化物半導体発光素子は第二n型半導体層の表面平坦性を良好にすることができる。このため、この窒化物半導体発光素子は素子で発光した光が散乱することを抑えることができる。この窒化物半導体発光素子は活性層にエッチングによるダメージが侵入することを抑えることができる。このため、この窒化物半導体発光素子は素子の品質を良好にすることができ、電流を流したい領域以外に流れるリーク電流を抑えることができる。
【0014】
また、本発明の窒化物半導体発光素子の製造方法は、
活性層の表面側に積層されたp型半導体層の表面側にトンネル接合層を積層する第一工程と、
前記トンネル接合層の表面に第一n型半導体層を積層する第三工程と、
前記p型半導体層の前記トンネル接合層側の表面側の一部、前記一部に積層された前記トンネル接合層、及び前記一部に積層された前記トンネル接合層の表面に積層された第一n型半導体層を残してエッチングで除去する第二工程と、
除去された領域の前記p型半導体層の表面、及び前記一部と共に残された前記第一n型半導体層の表面に第二n型半導体層を積層する第四工程と、
を備え、
前記第一n型半導体層及び前記第二n型半導体層にはn型不純物が添加され、前記第一n型半導体層のn型不純物の濃度が前記第二n型半導体層より低く、
前記第二工程でエッチングされた領域の前記p型半導体層の表面から前記活性層の表面までの層厚に対する、前記第一n型半導体層と、前記トンネル接合層と、前記第二工程で除去された前記p型半導体層の前記トンネル接合層側の表面側の厚みとを合わせた層厚の比率が0.9以下であり、
前記第二工程でエッチングされた領域の前記p型半導体層の表面から前記活性層の表面までの層厚は130nm以上である。
【0015】
この窒化物半導体発光素子の製造方法は第2工程においてp型半導体層の除去する厚みを抑えることによって、活性層にエッチングによるダメージが侵入することを抑えることができる。このため、この窒化物半導体発光素子の製造方法は素子の品質を良好にすることができ、電流を流したい領域以外に流れるリーク電流を抑えることができる。この窒化物半導体発光素子の製造方法は第二n型半導体層の表面平坦性を良好にすることができる。このため、この窒化物半導体発光素子の製造方法は素子で発光した光が散乱することを抑えることができる。この窒化物半導体発光素子の製造方法は活性層にエッチングによるダメージが侵入することを抑えることができる。このため、この窒化物半導体発光素子の製造方法は素子の品質を良好にすることができ、電流を流したい領域以外に流れるリーク電流を抑えることができる。
【0016】
したがって、本発明の窒化物半導体発光素子及びその製造方法は素子の品質を良好にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1〜3及び比較例1、2の窒化物半導体発光素子の層の構造を示す模式図である。
図2】実施例1、2及び比較例1、2の窒化物半導体発光素子の電流−電圧特性を示す図である。
図3】実施例3、及び比較例3の素子の表面のAFM像を示す図であって、(A)は比較例3の素子の表面を示し、(B)は実施例1の素子の表面を示す。
図4】比較例3の窒化物半導体発光素子の層の構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明における好ましい実施の形態を説明する。
【0023】
次に、本発明の窒化物半導体発光素子とその製造方法を具体化した実施例1〜3について、図面を参照しつつ説明する。
【0024】
<実施例1〜3、及び比較例1〜3>
【0025】
実施例1、2及び比較例1、2の窒化物半導体発光素子は、図1に示すように、基板側n−GaN層10、活性層であるGaInN量子井戸活性層11、p型半導体層であるp−AlGaN層12、p型半導体層であるp−GaN層13、トンネル接合層14、第一n型半導体層である第一n−GaN層15、及び第二n型半導体層である第二n−GaN層16を備えている。
【0026】
先ず、基板側n−GaN層10を窒化ガリウム(GaN)基板(図示せず)やサファイア基板(図示せず)等の表面側(表は図1における上側である、以下同じ。)に低温堆積緩衝層(図示せず)を介して形成したGaNテンプレート(図示せず)の表面側に積層して形成する。基板側n−GaN層10は層の厚みが2μmである。次に、GaInN量子井戸活性層11を基板側n−GaN層10の表面に積層して形成する。次に、p−AlGaN層12をGaInN量子井戸活性層11の表面に積層して形成する。p−AlGaN層12は層の厚みが10nmである。次に、p−GaN層13をp−AlGaN層12の表面に積層して形成する。p−GaN層13は層の厚みが160nmである。p−GaN層13はp型不純物であるMgの添加濃度が2×1019cm-3である。
【0027】
次に、トンネル接合層14をp−GaN層13の表面側に積層して形成する(第一工程)。トンネル接合層14は、p++−GaInN層14A、及びn++−GaN層14Bを有している。p++−GaInN層14Aはp−GaN層13の表面に積層され形成されている。p++−GaInN層14Aは層の厚みが2nmである。p++−GaInN層14Aはp型不純物であるMgの添加濃度が1×1020cm-3である。n++−GaN層14Bはp++−GaInN層14Aの表面に積層され形成されている。n++−GaN層14Bは層の厚みが15nmである。n++−GaN層14Bはn型不純物であるSiの添加濃度が3×1020cm-3である。つまり、GaInN量子井戸活性層11の表面側に積層されたp−GaN層13の表面側にトンネル接合層14が積層されている。こうして、トンネル接合層14をp−GaN層13の表面側に積層して形成する第一工程を終了する。
【0028】
次に、第一n−GaN層15をトンネル接合層14の表面側に積層して形成する(第三工程)。第一n−GaN層15はn++−GaN層14Bの表面に積層され形成されている。つまり、第一n−GaN層15はトンネル接合層14の表面側に積層され形成されている。第一n−GaN層15は層の厚みが58nmである。第一n−GaN層15はn型不純物であるSiの添加濃度が2×1018cm-3である。第一n−GaN層15はn型不純物であるSiの添加濃度が後述する第二n−GaN層16のSiの添加濃度より低い。これにより、素子の表面平坦性を良好にすることができる。実施例1、2、及び比較例1、2の窒化物半導体発光素子のサンプルは第一n−GaN層15の表面からGaInN量子井戸活性層11の表面までの層厚が245nmである。こうして、第一n−GaN層15をトンネル接合層14の表面側に積層して形成する第三工程を終了する。第三工程は第一工程及び後述する第二工程の内、少なくとも第一工程を実行した後に実行される。
【0029】
ここで一旦、基板を結晶成長装置から取り出す。そして、以下に示す手順で第一メサ構造20を形成する(第二工程)。詳しくは、第一メサ構造20は電流を流したい領域のみを残して第一n−GaN層15、トンネル接合層14、及びp−GaN層13のトンネル接合層14側の表面側がエッチングで除去されて形成される。第一メサ構造20はフォトリソグラフィー及びドライエッチングを用いて形成される。第一メサ構造20は表側からの平面視において、直径10μmの円形形状をなしている。第一メサ構造20は円盤状をなして、周囲に比べて表方向に突出した形状である。つまり、第一n−GaN層15、及びトンネル接合層14は第一メサ構造20の円形形状の内側に存在し、第一メサ構造20の円形形状の外側の領域に存在しない。また、p−GaN層13は第一メサ構造20の円形形状の外側の領域の表面側がエッチングで除去されている。つまり、p−GaN層13は層の途中の表面が露出している。こうして、電流を流したい領域のみを残して第一n−GaN層15、トンネル接合層14、及びp−GaN層13のトンネル接合層14側の表面側をエッチングで除去して第一メサ構造20を形成する第二工程を終了する。
【0030】
このとき、第一n−GaN層15の表面からエッチングで除去して露出したp−GaN層13の層の途中の表面までの層厚を以下、層厚Aという。また、エッチングで除去して露出したp−GaN層13の層の途中の表面からGaInN量子井戸活性層11の表面までの層厚を以下、層厚Bという。
【0031】
次に、トンネル接合層14を有する第一メサ構造20を埋め込む(第四工程)。詳しくは、基板を再び結晶成長装置に投入して結晶を再成長させる。先ず、第二n−GaN層16を第一メサ構造20、及び層の途中の表面が露出しているp−GaN層13の表面に積層して結晶成長させて形成する。つまり、第二n−GaN層16は第一n−GaN層15の表面側に積層され形成されている。第二n−GaN層16は層の厚みが160nmである。第二n−GaN層16はn型不純物であるSiの添加濃度が1×1019cm-3である。こうして、トンネル接合層14を有する第一メサ構造20を埋め込む第四工程を終了する。第四工程は第一工程、第二工程、及び第三工程のそれぞれを実行した後に実行される。そして、n++−GaN層17を第二n−GaN層16の表面に積層して結晶成長して形成する。n++−GaN層17は層の厚みが10nmである。n++−GaN層17はn型不純物であるSiの添加濃度が1×1020cm-3である。こうして、基板を再び結晶成長装置に投入し、第二n−GaN層16及びn++−GaN層17を積層して結晶を再成長させる工程を含む、結晶成長する工程を終了する。
【0032】
次に、こうして層構造を形成した基板を用いて素子形成を行う。先ず、第二n−GaN層16によって素子内に埋め込まれた第一メサ構造20を中心にして直径50μmの第二メサ構造21を形成して素子を分離する。第二メサ構造21は円盤状をなして、周囲に比べて表方向に突出した形状である。詳しくは、第二メサ構造21はエッチングして形成される。第二メサ構造21は円形形状の外側の領域をエッチングで除去する。また、基板側n−GaN層10は第二メサ構造21の円形形状の外側の領域の表面側がエッチングで除去されている。つまり、基板側n−GaN層10は層の途中の表面が露出している。
【0033】
次に、第二メサ構造21を形成した素子にアニール処理を行い、埋め込まれたp−AlGaN層12、p−GaN層13、及びトンネル接合層14のp++−GaInN層14Aを活性化させる。ここで、活性化とはp型不純物であるMgに結合しているHを離脱させてMgを活性化させ、Mgが添加されたp−AlGaN層12、p−GaN層13、及びトンネル接合層14のp++−GaInN層14Aの電気伝導性を向上させることである。
【0034】
次に、電極を形成する。詳しくは、円環状をなした第一電極22を素子の最表面に位置するn++−GaN層17の表面の外周部に形成する。また、円環状をなした第二電極23を第二メサ構造21の円環状の外側に位置する基板側n−GaN層10の表面の外周部に形成する。なお、必要に応じて、SiO2などの絶縁層を用いてパッド電極を設けても良い。こうして実施例1、2、及び比較例1、2の窒化物半導体発光素子のサンプルが完成する。
【0035】
実施例1、2、及び比較例1、2の窒化物半導体発光素子のサンプルは、表1に示すように、層厚Aをそれぞれ90nm,115nm,145nm,及び180nmに変えている。また、実施例1、2、及び比較例1、2の窒化物半導体発光素子のサンプルは層厚Bがそれぞれ155nm,130nm,100nm,及び65nmである。また、実施例1、2、及び比較例1、2の窒化物半導体発光素子のサンプルは層厚Bに対する層厚Aの比率(A/B)がそれぞれおよそ0.6,0.9,1.5,2.8である。
【0036】
【表1】
【0037】
実施例1、2、及び比較例1、2の窒化物半導体発光素子のサンプルのそれぞれに電圧を印加して、電流−電圧特性を測定した。適切な電流狭窄構造が形成されていれば、立ち上がり電圧である3V付近から電流が流れ始め、電流が流れると同時にトンネル接合層14を有した第一メサ構造20の直下に位置するGaInN量子井戸活性層11のみが発光する。また、リーク電流が流れる場合、印加する電圧が0Vから上昇すると直ちに電流が流れ始めるが、最初は発光しない。つまり、無駄な電流であるリーク電流が流れる。そして、印加する電圧をさらに大きくして、さらに電流を流す。すると、印加する電圧が3Vを超えたところで初めてGaInN量子井戸活性層11に電流が流れて、始めてGaInN量子井戸活性層11が発光する。素子に無駄な電流であるリーク電流が多く流れると、発光効率が大幅に低下して、素子の寿命も短くなる。
【0038】
図2に、実施例1、2、及び比較例1、2の窒化物半導体発光素子のサンプルのそれぞれの電流−電圧特性を測定した結果を示す。層厚Bに対する層厚Aの比率が0.9以下である実施例1、2の窒化物半導体発光素子のサンプルはリーク電流が観測されなかった。また、層厚Bに対する層厚Aの比率が1.5以上である比較例1、2の窒化物半導体発光素子のサンプルはリーク電流が観測された。つまり、第二工程でエッチングされた領域のp−GaN層13の表面からGaInN量子井戸活性層11の表面までの層厚Bに対する層厚Aの比率が0.9以下であればリーク電流が流れない素子が実現できることがわかった。
【0039】
また、表1に示すように、実施例1、2の窒化物半導体発光素子のサンプルは層厚Bがそれぞれ155nm、130nmである。つまり、第二工程でエッチングされた領域のp−GaN層13の表面からGaInN量子井戸活性層11の表面までの層厚Bが130nm以上あればリーク電流が生じない。
【0040】
層厚Bに対する層厚Aの比率がリーク電流の有無に影響を与える理由は以下のとおりである。エッチングはプラズマによるドライエッチングである。このため、素子をエッチングすると、エッチングのプラズマによるダメージが素子の表面から素子の内部に侵入する。つまり、エッチングの時間が長いほど、すなわち、層厚Aが厚いほど、素子の内部のGaInN量子井戸活性層11へ侵入するエッチングによるダメージが蓄積し増加する。また、エッチングされた表面がGaInN量子井戸活性層11の表面から遠い距離であるほど、すなわち、層厚Bが厚いほど、素子の内部のGaInN量子井戸活性層11へ侵入するエッチングによるダメージは軽減する。このことから、層厚Bに対する層厚Aの比率が小さいほど、素子の内部のGaInN量子井戸活性層11へ侵入するエッチングによるダメージは小さくなり、リーク電流を大幅に抑制することができる。
【0041】
さらに、層厚Bが薄くなるほどGaInN量子井戸活性層11へ侵入するエッチングによるダメージが急激に大きくなると考えられる。このことから、層厚Bが130nm以上であれば、より効果的にリーク電流を抑制することができると考えられる。
【0042】
ここで、トンネル接合層14の表面に第二n−GaN層16に比べてSiの添加濃度が低い第一n−GaN層15を設けた実施例3、及びトンネル接合層14の表面に第一n−GaN層15を設けない比較例3のそれぞれの素子の表面を原子間力顕微鏡(AFM)で観察した結果を図3(A)、(B)に示す。詳しくは、図3(A)はトンネル接合層14の表面に第一n−GaN層15を設けず、トンネル接合層14を第二n−GaN層116で埋め込んだ比較例3の第一メサ構造120の表面側に位置するn++−GaN層117の表面を示している(図4参照。)。また、図3(B)はトンネル接合層14の表面に第一n−GaN層15を設けて、トンネル接合層14及び第一n−GaN層15を第二n−GaN層16で埋め込んだ実施例3の第一メサ構造20の表面側に位置するn++−GaN層17の表面を示している(図1参照。)。
【0043】
比較例3のサンプルは、図3(A)、図4に示すように、第一メサ構造120の表面側に位置する素子の表面であるn++−GaN層117の表面に複数の結晶欠陥(ピット)が形成されている。また、比較例3のサンプルは素子の表面段差のRMS(二乗平均平方根)の値が1.5nmである。これに対して、実施例3のサンプルは、図1図3(B)に示すように、第一メサ構造20の表面側に位置する素子の表面であるn++−GaN層17の表面に結晶欠陥(ピット)が形成されていない。また、実施例3のサンプルは素子の表面段差のRMS(二乗平均平方根)の値が0.3nmである。つまり、第二n−GaN層16に比べてSiの添加濃度が低い第一n−GaN層15をトンネル接合層14の表面側に設けることによって、素子の表面に形成される穴(ピット)の数を大幅に低減でき、さらに、素子の表面平坦性を改善できることがわかった。
【0044】
また、第一n−GaN層15は電流を流したくない領域のトンネル接合層14をエッチングで除去した後にトンネル接合層14の表面、及びエッチングによって層の途中の表面が露出したp−GaN層13の表面に積層して形成しても素子の表面に形成される穴(ピット)の数を大幅に低減でき、さらに、素子の表面平坦性を改善できることもわかっている。つまり、トンネル接合層14の表面側に第二n−GaN層16に比べてSiの添加濃度が低い第一n−GaN層15が存在すれば良い。このことから、第三工程は第一工程及び第二工程の内、少なくとも第一工程を実行した後に実行されれば良い。
【0045】
このように、この窒化物半導体発光素子はp−GaN層13の除去する厚みを抑えることによって、GaInN量子井戸活性層11にエッチングによるダメージが侵入することを抑えることができる。このため、この窒化物半導体発光素子は素子の品質を良好にすることができ、電流を流したい領域以外に流れるリーク電流を抑えることができる。
【0046】
また、この窒化物半導体発光素子の製造方法は第二工程においてp−GaN層13の除去する厚みを抑えることによって、GaInN量子井戸活性層11にエッチングによるダメージが侵入することを抑えることができる。このため、この窒化物半導体発光素子の製造方法は素子の品質を良好にすることができ、電流を流したい領域以外に流れるリーク電流を抑えることができる。
【0047】
したがって、本発明の窒化物半導体発光素子及びその製造方法は素子の品質を良好にすることができる。
【0048】
また、この窒化物半導体発光素子において、エッチングされた領域のp−GaN層13の表面からGaInN量子井戸活性層11の表面までの層厚Bは130nm以上である。このため、この窒化物半導体発光素子はGaInN量子井戸活性層11にエッチングによるダメージが侵入することを抑えることができる。このため、この窒化物半導体発光素子は素子の品質を良好にすることができ、電流を流したい領域以外に流れるリーク電流を抑えることができる。
【0049】
また、この窒化物半導体発光素子は、トンネル接合層14の表面側に積層された第一n−GaN層15と、第一n−GaN層15の表面側に積層された第一n−GaN層15とを備え、第一n−GaN層15のn型不純物の濃度が第二n−GaN層16より低い。このため、この窒化物半導体発光素子は素子の表面平坦性を良好にすることができる。このため、この窒化物半導体発光素子は素子で発光した光を散乱させることなく素子の外に取り出すことができる。
【0050】
また、この窒化物半導体発光素子の製造方法は、第二工程でエッチングされた領域のp−GaN層13の表面からGaInN量子井戸活性層11の表面までの層厚Bは130nm以上である。このため、この窒化物半導体発光素子の製造方法はGaInN量子井戸活性層11にエッチングによるダメージが侵入することを抑えることができる。このため、この窒化物半導体発光素子の製造方法は素子の品質を良好にすることができ、電流を流したい領域以外に流れるリーク電流を抑えることができる。
【0051】
また、この窒化物半導体発光素子の製造方法は、第一工程及び第二工程の内、少なくとも第一工程を実行した後に実行され、トンネル接合層14の表面側に第一n−GaN層15を積層する第三工程と、第一工程、第二工程、及び第三工程のそれぞれを実行した後に実行され、第一n−GaN層15の表面側に第二n−GaN層16を積層する第四工程とを備え、第一n−GaN層15のn型不純物の濃度が第二n−GaN層16より低い。このため、この窒化物半導体発光素子の製造方法は素子の表面平坦性を良好にすることができる。このため、この窒化物半導体発光素子の製造方法は素子で発光した光を散乱させることなく素子の外に取り出すことができる。
【0052】
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例1〜3に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)実施例1、2では、トンネル接合層の裏面側は一般的な青色LED構造であるが、これに限らず、基板側n−GaN層の裏面側に、多層膜反射鏡等を設けて面発光レーザ構造としても良い。これにより、面発光レーザ構造においても本発明によるリーク電流が効果的に抑制された埋め込みトンネル接合により十分な電流狭窄が可能になり、高性能青色面発光レーザが実現できる。この場合、トンネル接合層における光の吸収を抑えるために、共振内部に存在する光定在波の節の部分にトンネル接合層を配置すると良い。
(2)実施例1、2では、p型不純物としてMgを用いているが、これに限らず、p型不純物である、Zn,Be、Ca、Sr、及びBa等であってもよい。
(3)実施例1、2では、n型不純物としてSiを用いているが、これに限らず、n型不純物である、Ge等であってもよい。
(4)実施例1、2では、GaInN量子井戸活性層の表面にp−AlGaN層を積層して形成しているが、これに限らず、GaInN量子井戸活性層の表面にp−AlGaN層を積層して形成しなくても良い。
(5)実施例1、2では、窒化ガリウム基板やサファイア基板を用いているが、これに限らず、AlN基板等の他の基板を用いてもよい。
【符号の説明】
【0053】
11…GaInN量子井戸活性層
12…p−AlGaN層(p型半導体層)
13…p−GaN層(p型半導体層)
14…トンネル接合層
15…第一n−GaN層(第一n型半導体層)
16…第二n−GaN層(第二n型半導体層)
図1
図2
図3
図4