特許第6755619号(P6755619)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6755619
(24)【登録日】2020年8月28日
(45)【発行日】2020年9月16日
(54)【発明の名称】車両用ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 7/12 20060101AFI20200907BHJP
【FI】
   B60T7/12 A
   B60T7/12 C
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-126399(P2016-126399)
(22)【出願日】2016年6月27日
(65)【公開番号】特開2018-1774(P2018-1774A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2019年5月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105980
【弁理士】
【氏名又は名称】梁瀬 右司
(74)【代理人】
【識別番号】100105935
【弁理士】
【氏名又は名称】振角 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100178995
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 陽介
(72)【発明者】
【氏名】山下 真司
【審査官】 羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−193699(JP,A)
【文献】 特開2007−112391(JP,A)
【文献】 特開2006−111208(JP,A)
【文献】 特開2000−247216(JP,A)
【文献】 特開2000−177551(JP,A)
【文献】 特開昭64−060457(JP,A)
【文献】 特開昭61−287846(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12−8/1769
B60T 8/32−8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキペダルの操作なしに、車両を停車状態に保つのに必要な所定のブレーキ液圧をブレーキ手段により発生する車両用ブレーキ装置において、
停車状態からの車両の動き出しを検出する検出手段と、
車両を停車状態に保つために前記ブレーキ手段が前記所定のブレーキ液圧を保持するよう前記ブレーキ手段の加圧制御を繰り返す制御手段とを備え、
前記制御手段は、
前記検出手段が車両の動き出しを検出したときに前記ブレーキ手段の加圧制御を実行し、
停車状態での先行車との車間距離に応じて前記加圧制御の繰り返し頻度を変更することを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキペダルの操作なしに、車両を停車状態に保つのに必要な所定のブレーキ液圧をブレーキ手段により発生する車両用ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自車と先行車との車間距離である実車間距離を検出し、その実車間距離を所定の目標車間距離に保ちつつ先行車に追従して走行する追従走行制御システムが従来から知られており、このようなシステムでは、先行車が減速して実車間距離が減少したときには制動力を車輪に与えるブレーキ手段を自動的に動作させて自車を減速させ、先行車が加速して車間距離が増大したときには制動力を解除して自動的に自車も加速するように構成されている。
【0003】
さらに、この種のシステムにおいて、特許文献1に記載のように、先行車の停車に追従して自車両も自動停止するように、ブレーキ手段を制御することも行われており、この場合、自車両を停車状態に保持可能なブレーキ液圧を発生するように、ブレーキ手段が制御されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−39182号公報(段落0014−0015,段落0042−0043、図8参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記した特許文献1に記載のように、追従走行制御システムにおいて、ブレーキペダルの操作なしに、車両を停車状態に保つのに必要な所定のブレーキ液圧をブレーキ手段により発生する場合、通常、ブレーキ手段を構成するバルブ等からのブレーキ液圧の漏れがあるため、ブレーキ手段の加圧制御を繰り返すことにより、ブレーキ手段が所定のブレーキ液圧を保持するようにしている。
【0006】
このとき、ブレーキ液圧を常時検出する液圧センサを設け、この液圧センサによりブレーキ液圧が所定値に低下したことが検出されるごとにブレーキ手段を加圧制御したり、或いは、このような液圧センサを設けずに、予め設定された一定時間ごとにモータによりポンプを駆動してブレーキ手段を加圧制御したりすることが従来行われている。
【0007】
しかし、前者のように液圧センサによるブレーキ液圧の低下を検出するには、ホイルシリンダに近い液圧経路の下流側に液圧センサを設ける必要があり、液圧センサの設置場所が制限される上、液圧センサのコストがかかるという問題がある。一方、後者のように一定時間ごとにブレーキ手段を加圧制御する場合、液圧センサを設ける必要はない反面、ブレーキ液圧が低下しても、停車状態を維持できるにもかかわらずブレーキ手段の加圧制御が実行されることがあり、不必要な加圧制御が行われる結果、ポンプを駆動するモータの寿命低下を招くという問題がある。
【0008】
本発明は、液圧センサを追加することなく、ブレーキ手段の加圧制御の頻度を減らしても、ブレーキペダルの操作なしに、車両を停車状態に保つことができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するために、本発明の車両用ブレーキ装置は、ブレーキペダルの操作なしに、車両を停車状態に保つのに必要な所定のブレーキ液圧をブレーキ手段により発生する車両用ブレーキ装置において、停車状態からの車両の動き出しを検出する検出手段と、車両を停車状態に保つために前記ブレーキ手段が前記所定のブレーキ液圧を保持するよう前記ブレーキ手段の加圧制御を繰り返す制御手段とを備え、前記制御手段は、前記検出手段が車両の動き出しを検出したときに前記ブレーキ手段の加圧制御を実行し、停車状態での先行車との車間距離に応じて前記加圧制御の繰り返し頻度を変更することを特徴している。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、停車状態からの車両の動き出しを検出手段により検出したときに、制御手段によりブレーキ手段の加圧制御を実行するため、従来のように、ホイルシリンダに近い液圧経路の下流側に液圧センサを追加する必要がないことからコストの上昇を招くことを防止でき、必要なときにだけブレーキ手段を加圧制御することで、バルブのブレーキ液圧の漏れを見込んだマージンも小さくすることが可能になり、加圧制御の頻度を少なくしてバルブ等の寿命の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る車両用ブレーキ装置の一実施形態のブロック図である。
図2図1の動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る車両用ブレーキ装置を、定速走行・車間距離制御(ACC:Adaptive Cruise Control)機能および電動駐車ブレーキ(EPB:Electronic Parking Brake)機能を備えた車両に適用した一実施形態について、図1および図2を参照して詳細に説明する。
【0014】
本実施形態の車両用ブレーキ装置1は、図1に示すように構成されている。すなわち、図1に示すように、ブレーキペダル2にマスタシリンダ3が連結され、このマスタシリンダ3は、ブレーキ液が貯留されたリザーバタンク4に接続されるとともに、液圧経路5を介してブレーキアクチュエータ6に接続されており、運転者によるブレーキペダル2の踏み込み量に応じたブレーキ液圧を、ブレーキアクチュエータ6を介して各車輪のブレーキに供給する。なお、リザーバタンク4は、液圧経路7を介してブレーキアクチュエータ6に接続されている。
【0015】
このブレーキアクチュエータ6は、右前輪に装着された右前輪ブレーキの前輪用ホイルシリンダおよび左前輪に装着された左前輪ブレーキの前輪用ホイルシリンダと、マスタシリンダ3とを接続する液圧経路や複数の電磁バルブを備えるとともに、右後輪8Rに装着された右後輪ブレーキの後輪用ホイルシリンダおよび左後輪8Lに装着された左後輪ブレーキの後輪用ホイルシリンダと、マスタシリンダ3とを接続する液圧経路9R,9Lや複数の電磁バルブのほか、ポンプおよびこれを駆動するモータを備える。
【0016】
そして、運転者によりブレーキペダル2が踏み込まれると、その踏み込み量に応じたブレーキ液圧がマスタシリンダ3において発生し、このブレーキ液圧がブレーキアクチュエータ6の液圧経路、バルブを介して前輪、後輪の各ホイルシリンダに伝達され、各輪に対応するホイルシリンダに伝達されたブレーキ液圧に応じた制動力で、左右前輪のブレーキおよび左右後輪のブレーキ10R,10Lに通常の制動をかける。
【0017】
このとき、ブレーキペダル2の踏み込み操作の有無に応じてブレーキペダルスイッチ(図示せず)がオン、オフし、ブレーキペダルスイッチのオン、オフ信号がCAN(Controller Area Network)通信の通信バス12を介して、後に詳述する電動駐車ブレーキ(EPB)の制御を司るEPBECU(Electronic Control Unit)13に入力される。そして、EPBECU13は、運転者によりインストルメントパネル等に配置されたEPBスイッチ14のオン操作に基づきEPBアクチュエータ15を制御し、左右後輪のブレーキ10R,10Lに所定の制動力を発生させて自動で駐車ブレーキをかける。
【0018】
EPBECU13による駐車ブレーキの基本的な構成は、周知の電動駐車ブレーキ技術を応用したものであり、駐車ブレーキスイッチであるEPBスイッチ14のオン操作によりEPBモータ(図示せず)が駆動され、EPBアクチュエータ15を構成するEPBモータの出力軸が一方向に回転し、この出力軸の回転によりケーブル16が所定の張力で引っ張られて、左右後輪のブレーキ10R,10Lに所定の制動力を発生させるようになっている。
【0019】
また、図1に示すように、自車両の横滑りを防止制御するためのVSC(Vehicle Stability Control)ECU18が設けられ、滑りやすい路面でのコーナリング中などに発生する自車両の横すべりが、図示しないGセンサ等により検知され、VSCECU18によりブレーキアクチュエータ6に制御指令が出力され、左右の前輪および後輪のブレーキのブレーキ液圧がそれぞれ個別に制御されると同時に、VSCECU18により図示しないエンジンECUに制御指令が出力されてエンジン出力が制御される。
【0020】
さらに、図1に示すように、定速走行・車間距離制御を行うためのACCECU19が設けられ、レーザレーダ21により自車両と先行車との車間距離が検出され、車速センサ22により自車両の車速が検出され、これら検出された車間距離および自車両の車速に基づき、ACCECU19により、先行車との車間距離を設定値に保持しつつ設定速度で走行するように、エンジンECUに制御指令が出力されてエンジン制御が行われるとともに、VSCECU18に制御指令が出力されてブレーキ制御が行われる。
【0021】
このとき、先行車が停車したときには、自車両が先行車に衝突しないように所定の距離をあけて停車するようにVSCECU18に制御指令が出力され、運転者がブレーキペダルの操作をしなくてもブレーキアクチュエータ6によりブレーキ液圧が前輪および後輪の各ブレーキに加えられて自動停車される。ここで、VSCECU18、ブレーキアクチュエータ6、左右前輪のブレーキおよび左右後輪のブレーキ10R,10Lが、本発明におけるブレーキ手段に相当する。
【0022】
このように、VSCECU18により、運転者がブレーキペダルの操作をしなくても、ブレーキアクチュエータ6によりブレーキ液圧を前輪および後輪の各ブレーキに加えて自動停車する際に、例えば図2に示すように、ブレーキ液圧として初期値Psを加えたときに、ブレーキアクチュエータ6を構成する各バルブには固有の液圧の漏れがあり、このバルブの漏れに起因して、時間の経過とともにブレーキ液圧が初期値Psから図2中の「最小ライン」および「最大ライン」のように低下する。この場合、予め実験的にバルブの漏れ特性を調べてその平均値Apを導出しておき、平均値Apからの偏差3σをとって「最小ライン」、「最大ライン」がそれぞれ設定される。
【0023】
そして、ブレーキアクチュエータ6のホイルシリンダに近い液圧経路の下流側には液圧センサが設けられていないため、ブレーキアクチュエータ6の各バルブの漏れを保証するために、一定時間ごとにVSCECU18によりブレーキアクチュエータ6のポンプ駆動用モータが制御されて初期値Psになるようにブレーキ液圧の加圧制御が繰り返し行われる。
【0024】
このとき、従来の手法であれば、安全を見越して「最大ライン」を超える5σの偏差を保証値ラインが設定され、バルブの漏れを保証するためのブレーキ液圧が、この保証値ラインに沿って初期値Psから追加加圧を行うべき加圧閾値Ptにまで低下する時間taが求められ、VSCECU18により、時間taごとにブレーキアクチュエータ6が制御されて初期値Psになるようにブレーキ液圧の加圧制御が繰り返されるのに対し、本実施形態では、図2中の最大ラインに沿って初期値Psから追加加圧を行うべき加圧閾値Ptにまで低下する時間tbが求められ、VSCECU18により、時間tbごとにブレーキアクチュエータ6が制御されて初期値Psになるようにブレーキ液圧の加圧制御が繰り返される。
【0025】
このように、本実施形態では、運転者がブレーキペダルの操作をしなくても、ブレーキアクチュエータ6によりブレーキ液圧を前輪および後輪の各ブレーキに加えて自動停車する場合に、従来よりも長い時間tb(>ta)ごとに、VSCECU18によりブレーキアクチュエータ6のポンプ駆動用モータが制御されてブレーキ液圧の加圧制御が行われるため、追加加圧の頻度が少なくなり、ブレーキアクチュエータ6のポンプ駆動用モータの長寿命化を図ることができる。
【0026】
さらに、本実施形態では、運転者がブレーキペダルの操作をしなくても自動停車する場合に、上記した時間tbごとの加圧制御に加えて、停車状態の車両の動き出しを検知して、動き出しがあれば、直ちにVSCECU18によりブレーキアクチュエータ6が制御されてブレーキ液圧の加圧制御が行われるようになっている。
【0027】
すなわち、レーザレーダ21およびACCECU19により検出される停車中の先行車との車間距離が変化するかどうか、および/または、車速センサ22により自車両の車速がゼロ状態から上昇したかどうかにより、自車両の動き出しの有無が検出され、自車両の動き出しが検出されると、ACCECU19からVSCECU18に制御指令が出力され、VSCECU18によりブレーキアクチュエータ6が制御されてブレーキ液圧の加圧制御が行われ、自車両を停車状態に保つために各車輪のブレーキが所定のブレーキ液圧を保持するようブレーキアクチュエータ6による加圧制御が行われる。ここで、ACCECU19、レーザレーダ21および/または車速センサ22により本発明の検出手段が構成され、VSCECU18により本発明の制御手段が構成されている。
【0028】
したがって、上記した実施形態によれば、運転者がブレーキペダルの操作をしなくてもブレーキアクチュエータ6によりブレーキ液圧が前輪および後輪の各ブレーキに加えて自動停車する場合に、停車状態からの自車両の動き出しが検出されると、VSCECU18によりブレーキアクチュエータ6が制御されてブレーキ液圧が加圧制御されるため、従来のように、ホイルシリンダに近い液圧経路の下流側に液圧センサを追加する必要がないことから、コストの上昇を招くこともなく安価になる。
【0029】
さらに、停車状態からの自車両の動き出しを検出したときに加圧制御することにより、図2中の最大ラインに沿って初期値Psから追加加圧を行うべき加圧閾値Ptにまで低下する時間tbごとにブレーキ液圧の加圧制御を繰り返せばよく、図2中のマージンの大きな保証値ラインを考慮する必要がなくなり、従来よりも長い時間tbごとの加圧制御によって、加圧制御の頻度を少なくでき、従来に比べて、ブレーキアクチュエータ6のバルブの長寿命化を図ることができる。
【0030】
また、他の実施形態として、例えば運転者によるブレーキペダルの操作なしに自車両が自動停車したときに、レーザレーダ21により検出されるそのときの先行車との間の車間距離に応じて、加圧制御の頻度を変えるようにしてもよい。すなわち、自車両が停車したときの車間距離が大きい場合、先行車との間には距離的なゆとりがあって運転者が余裕をもってブレーキ操作を行える状態にあることから、図2に示すバルブの漏れ特性の平均値Apから偏差3σの最大値ラインよりも緩い偏差2σのラインを設定し直し、この偏差2σのラインに沿って、ブレーキ液圧が初期値Psから追加加圧を行うべき加圧閾値Ptにまで低下する時間tc(図2参照)ごとに加圧制御を行うようにしてもよい。こうすると、時間tbよりも長い時間tcごとに加圧制御が行われることになり、ブレーキアクチュエータ6のポンプ駆動用モータの更なる長寿命化を図ることが可能になる。なお、自車両が停車したときの車間距離が小さい場合には、図2に示す平均値Apから偏差4σや6σ以上のラインを設定し直せばよい。
【0031】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行なうことが可能である。
【0032】
例えば、上記した実施形態では、レーザレーダ21により検出される車間距離の変化、および/または車速センサ22による自車両の車速の変化から、先行車の動き出しを検知するようにしたが、レーザレーダ21に代えて車載カメラによる撮影画像に基づき自車両の動き出しを検出するようにしてもよい。
【0033】
また、上記した実施形態では、運転者がブレーキペダルの操作をしなくても自動停車する場合に、図2に示す時間tbごとの加圧制御に加えて、停車状態の自車両の動き出しを検知して、動き出しがあればVSCECU18によりブレーキアクチュエータ6を制御してブレーキ液圧の加圧制御を行う場合について説明したが、時間tbごとの加圧制御を行わずに、停車状態の自車両の動き出しがあるときにVSCECU18によるブレーキ液圧の加圧制御のみを行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0034】
1 …ブレーキ装置
6 …ブレーキアクチュエータ(ブレーキ手段)
10R,10L …後輪のブレーキ(ブレーキ手段)
18 …VSCECU(ブレーキ手段、制御手段)
19 …ACCECU(検出手段)
21 …レーザレーダ(検出手段)
22 …車速センサ(検出手段)
図1
図2