特許第6755655号(P6755655)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6755655鉄筋コンクリート製の既存筒状壁の耐震補強方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6755655
(24)【登録日】2020年8月28日
(45)【発行日】2020年9月16日
(54)【発明の名称】鉄筋コンクリート製の既存筒状壁の耐震補強方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20200907BHJP
   E04G 21/12 20060101ALI20200907BHJP
【FI】
   E04G23/02 F
   E04G21/12 105A
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-242045(P2015-242045)
(22)【出願日】2015年12月11日
(65)【公開番号】特開2017-106273(P2017-106273A)
(43)【公開日】2017年6月15日
【審査請求日】2018年10月9日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 集会名:新規制基準適合性検査に関する事業者ヒアリング(高浜1、2(3、4)号機(9))、主催者名:原子力規制委員会、開催日:2015年6月11日。
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000156938
【氏名又は名称】関西電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】成原 弘之
(72)【発明者】
【氏名】小野 英雄
(72)【発明者】
【氏名】岸 有三
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 裕
(72)【発明者】
【氏名】永田 公一
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 豪
(72)【発明者】
【氏名】平松 昌子
(72)【発明者】
【氏名】山田 淳
(72)【発明者】
【氏名】片山 誠弥
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 昌文
【審査官】 前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−131968(JP,A)
【文献】 特開2009−108585(JP,A)
【文献】 特開平09−013695(JP,A)
【文献】 特開2003−205995(JP,A)
【文献】 特開2009−001987(JP,A)
【文献】 特開2009−133150(JP,A)
【文献】 特開2001−329699(JP,A)
【文献】 特開昭56−046199(JP,A)
【文献】 特開2002−148380(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E04G 21/12
E04H 7/18−7/20
G21C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間を有する、鉄筋コンクリート製の既存筒状壁の耐震補強方法であって、
前記既存筒状壁の外側表面の既存コンクリートを既存鉄筋よりも深く斫り、前記既存鉄筋を撤去した後に、後施工アンカーを、一端が、斫りによって残された前記既存コンクリートに埋設されるように設置すること、
前記既存コンクリートを斫った部位に、前記既存鉄筋よりも鉄筋量が多く、及び/または、強度が高い、新たな外側鉄筋を配筋すること、
前記新たな外側鉄筋の上に新たな外側コンクリートを打設して、筒状壁補強構造を形成すること、
を含み、
前記既存コンクリートの斫りと前記既存鉄筋の撤去は、前記既存筒状壁の全周にわたって実施され、
前記新たな外側鉄筋は横筋を含み、該横筋の一部は、前記後施工アンカーの上に載置される、鉄筋コンクリート製の既存筒状壁の耐震補強方法。
【請求項2】
前記後施工アンカーの、前記一端とは反対側の他端は、上方に向けて折り曲げられてフックが形成され、
前記横筋の一部は、前記フックの前記既存コンクリート側に載置されること、
を更に含む、請求項1に記載の鉄筋コンクリート製の既存筒状壁の耐震補強方法。
【請求項3】
前記既存筒状壁の上側の外側表面に対して、前記既存コンクリートの斫りと前記既存鉄筋の撤去を行い、前記新たな外側鉄筋は外側縦筋を含み、
前記既存筒状壁の下側の内側表面に対して、新たな内側縦筋を配筋し、その上に内側コンクリートを増し打ちし、前記外側縦筋の下端と、前記内側縦筋の上端が、上下方向にオーバーラップしていること、
を更に含む、請求項1または2に記載の鉄筋コンクリート製の既存筒状壁の耐震補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート製の既存筒状壁の耐震補強方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築構造物の壁面として、鉄筋コンクリートで作製された壁が多用されている。このような、鉄筋コンクリート製の壁を耐震補強するための、様々な方法が、一般に行われている。
【0003】
例えば、図3に示されるような、コンクリート製の壁を耐震補強した構造30が、特許文献1に開示されている。本構造30においては、既存のコンクリート製の壁31が、モルタルなどの充填材よりなる充填層32、充填層32を介してコンクリート製の壁31に水平アンカーで固定された補強鋼板33、及び、補強鋼板33の外側に仕上げ剤を塗布して形成された外装層34による構造によって、補強されている。
【0004】
また、非特許文献1には、既存の鉄筋コンクリート製の壁を、コンクリートを増し打ちすることにより耐震補強する、「既存耐震壁の増打ちによる補強」が記載されている。図4に、この種の補強方法を示す。図4(a)は、既存の鉄筋コンクリート製の壁40の側断面図である。既存の鉄筋コンクリート製の壁40は、本例において、コンクリート41と、縦筋42aと横筋42bにより構成される格子状の配筋42を備えている。
【0005】
このような既存の鉄筋コンクリート製の壁40に対し、まず、図4(b)に示されるように、その表面43を部分的に目荒らしする。また、目荒らしした表面43に、シアコネクターやアンカー44などを設ける。
【0006】
その後、図4(c)に示されるように、縦筋45aと横筋45bにより構成される、格子状の新たな配筋45を、目荒らしした表面43上に設置してアンカー44に結束し、型枠を、表面43と型枠が配筋45を挟み込むように設置した後に、表面43と型枠の間にコンクリート46を増し打ちする。
【0007】
このような補強方法は、一般的な建築構造物に対して用いられることが多い。一般的な建築構造物の壁は、その上下左右が、柱や梁などの周辺フレームで囲われている。コンクリート46が増し打ちされた部位に設置された新たな配筋45は、図示しない後施工アンカーを介して、周辺フレームに定着されている。このように、アンカー44や後施工アンカーなどにより、コンクリート46の増し打ちにより形成された壁は、既存の壁40や周辺フレームに一体化されている。
【0008】
増し打ちされたコンクリート46の厚さは、既存の鉄筋コンクリート製の壁40の厚さと同等以上とすることが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−329699号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】一般社団法人日本建築防災協会「既存鉄筋コンクリート建築物の耐震改修設計指針・同解説」、2001年改訂版、93−97ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1や、非特許文献1に記載された、既存の鉄筋コンクリート製の壁の補強構造や方法においては、壁の増し打ちにより耐震強度が増加する一方で、壁の重量も、増し打ちした分だけ増加する。一般的な建築構造物であれば、上記のように壁の上下左右は周辺フレームで囲われており、増し打ちされた部分をアンカーなどにより周辺フレームに固定することにより、増加した重量を周辺フレームによっても負担することが可能である。したがって、耐震強度の増加分が壁の自重、すなわち必要耐震強度の増加分を上回るため、上記のような従来の構造、方法でも、十分に耐震性を向上させることが可能である。しかし、例えば図5に示されるような、内部空間51を有する鉄筋コンクリート製の筒状壁50のように、柱や梁などの周辺フレームに囲われていないために自重を支持するだけの壁に対して、従来の増し打ちによる補強を施工しても、耐震強度の増加分と壁の自重、すなわち必要耐震強度の増加分が相殺し、結果的に耐震補強の効果を得にくいという問題がある。
【0012】
また、上記の筒状壁50のような壁においては、上記のように、柱や梁などの周辺フレームによって囲われていないため、従来の増し打ちによる補強において追加される鉄筋を、既存の躯体に有効に定着することができない。このような要因においても、従来の構造、方法は、上記の筒状壁50のような壁においては、耐震補強の効果を得にくい。
【0013】
また、上記の筒状壁50のような壁は、原子力発電所において、内部空間51に原子炉を格納し、原子炉が発する放射線の外部への漏れを防ぐために使用されていることがある。このような筒状壁50に対し、放射線の遮蔽性を更に高めるため、筒状壁50の上部に、新たに鉄筋コンクリート製の屋根スラブを構築し、内部空間51を閉塞することがある。構造物に作用する地震力は、地上からの高さが高いほど加速度が大きいため、屋根スラブを設置すると、それにより増加する自重は、筒状壁50の脚部へ作用する地震力を増加させる。屋根スラブの設置に伴う耐震補強を上記のような従来の方法によって施工すると、屋根スラブの重量に加えて、壁の増し打ちされた部位の重量が筒状壁50に更に加わる。また、屋根スラブの設置と壁の増し打ち補強により、構造物全体の重心が施工前より高くなる。これらの要因により、地震時において、筒状壁50の破損、崩壊や、筒状壁50の脚部が浮き上がることによる転倒の危険性が高まる。
【0014】
また、筒状壁50の内部空間51に原子炉及び原子炉格納容器等の発電機器が設置されていると、内部空間51の温度は外気よりも高くなる。この、筒状壁50の内外の温度差により、筒状壁50の躯体には温度勾配が生じるが、筒状壁50は周方向に閉鎖された断面形状を有するために変形が拘束され、結果として、コンクリートの線膨張係数に応じて、筒状壁50の躯体内部には、図6に示されるような温度応力が発生する。図6によれば、筒状壁50の脚部近傍を除き、筒状壁50の周方向、径方向ともに、温度の高い筒状壁50の内面側には圧縮応力が、温度の低い外面側には引っ張り応力が生じる。他方、筒状壁50の脚部近傍においては、基礎の固定度が高いために、径方向軸に対して内面側には引っ張り応力が、外面側には圧縮応力が生じる。上記のような、一般的な建築物を対象とする補強方法においては、このような温度応力が常時作用している状態での耐震性能を、効果的に高めることができない。
【0015】
本発明の課題は、効果的に耐震性を高めることが可能な、鉄筋コンクリート製の既存筒状壁の補強方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。すなわち、本発明は、上方に向けて開放されている内部空間を有する、鉄筋コンクリート製の既存筒状壁の補強方法であって、前記既存筒状壁の外側表面の既存コンクリートを既存鉄筋よりも深く斫り、前記既存鉄筋を撤去すること、前記既存コンクリートを斫った部位に、前記既存鉄筋よりも鉄筋量が多く、及び/または、強度が高い、新たな外側鉄筋を配筋すること、前記新たな外側鉄筋の上に新たな外側コンクリートを打設して、筒状壁補強構造を形成すること、を含む、鉄筋コンクリート製の既存筒状壁の補強方法を提供する。
上記のような構成によれば、既存筒状壁の外側表面の既存コンクリートを既存鉄筋よりも深く斫り、既存鉄筋を撤去した後、既存鉄筋よりも鉄筋量が多く、及び/または、強度が高い、新たな外側鉄筋を配筋するため、重量の増加を低減しながら、筒状壁を補強することができる。これにより、地震時における、筒状壁補強構造の破損、崩壊、転倒を効果的に防止し、耐震性を高めることが可能となる。
また、上記のような構成によれば、補強される部位においては、その外部表面が、全面にわたりコンクリートが斫られて目荒らしされた状態となっている。すなわち、従来の方法に比べると目荒らし面の面積や凹凸の度合いが大きくなり、打継面の付着強度が高くなるため、単位面積当たりのアンカーの設置数や、アンカーの径を軽減することが可能である。これにより、施工費をより低減することができる。
【0017】
前記既存コンクリートの斫りと前記既存鉄筋の撤去は、前記既存筒状壁の全周にわたって実施され、前記新たな外側鉄筋は横筋を含み、該横筋は、前記既存コンクリートが斫られた、前記既存筒状壁の全周にわたって、連続して配筋されてもよい。
上記のような構成によれば、新たな外側鉄筋の横筋を、既存の躯体に定着せずとも、耐震性を高めることができるため、周辺フレームがなくとも、効果的に耐震性を高めることができる。
また、既存筒状壁の外側を、全周にわたって、引張応力に対抗できる鉄筋を配して補強するため、この鉄筋が、筒状壁の内部の温度が外部の温度よりも高い状態で生じる、上記の温度応力による、筒状壁の周方向への膨張を拘束するタガとして作用し、これにより、筒状壁補強構造の外側表面に生じる、コンクリートのひび割れを防止することができる。
【0018】
前記既存筒状壁の上側の外側表面に対して、前記既存コンクリートの斫りと前記既存鉄筋の撤去を行い、前記新たな外側鉄筋は外側縦筋を含み、前記既存筒状壁の下側の内側表面に対して、新たな内側縦筋を配筋し、その上に内側コンクリートを増し打ちし、前記外側縦筋の下端と、前記内側縦筋の上端が、上下方向にオーバーラップしていること、を更に含んでもよい。
上記のような構成によれば、外側縦筋の下端と、内側縦筋の上端が、上下方向にオーバーラップしている補強区間が設けられているため、筒状壁の上部の、外側の斫り後打ち補強部分から、筒状壁の下部の、内側の増し打ち補強部分への連続的な補強が可能となり、周辺フレームがなくとも、効果的に耐震性を高めることができる。
また、筒状壁の内部の温度が外部の温度よりも高い状態で生じる、上記の温度応力に関し、筒状壁の上側においては、引張応力の作用する外側の鉄筋の鉄筋量が多く、及び/または、強度が高くなるように補強しており、更に、筒状壁の下側、例えば脚部近傍においては、内側コンクリートが増し打ちされており内側鉄筋が追加して配筋されている。これにより、筒状壁の各部位において、引張抵抗に効果のある補強筋を、作用する曲げモーメントの引張応力側に配することが可能となり、温度応力に対する補強を効果的に行うことができる。
また、筒状壁の下側の重量が増し打ち補強によってより重くなることで、筒状壁の上側の重量を下側の重量よりも相対的に軽くして上側と下側の重量配分が変更されているため、筒状壁補強構造の地震応答をより低減し、かつ、地震時の基礎の浮上りや基礎からの引き抜きに対する抵抗を増し、転倒を防止することができる。更に、筒状壁の上部に屋根スラブを設置した場合においては、屋根スラブの設置による重量増加により、筒状壁補強構造の脚部に作用する地震時のせん断力も増加するが、これに対する筒状壁補強構造の脚部の水平せん断耐力を増加させることも可能である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、効果的に耐震性を高めることが可能な、鉄筋コンクリート製の既存筒状壁の補強方法を、提供することが可能となる。
【0020】
好ましい様態では、施工に係る費用を低減することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態として示した鉄筋コンクリート製の既存筒状壁の補強方法を示す部分拡大図である。
図2】本発明の実施形態として示した鉄筋コンクリート製の既存筒状壁の補強方法によって補強された補強構造の、(a)は斜視図、(b)は図2(a)の一部省略したA−A´断面図である。
図3】従来の補強構造の断面図である。
図4】従来の補強方法を示す部分拡大図である。
図5】本発明の実施形態として示した鉄筋コンクリート製の既存筒状壁の補強方法において、補強対象となる筒状壁の斜視図である。
図6】内部空間に原子炉を設置した場合の、筒状壁の温度応力分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0023】
図5は、本発明の実施形態として示した鉄筋コンクリート製の既存筒状壁の補強方法において、補強対象となる既存筒状壁50の斜視図である。
【0024】
既存筒状壁50は円筒形の鉄筋コンクリート製の壁であり、上方に向けて開放されている内部空間51を有している。既存筒状壁50は、外気に面している表面である外側表面52と、内部空間51に面している表面である内側表面53を備えている。このような既存筒状壁50は、例えば原子力発電所において、内部空間51内に原子炉を格納し、原子炉からの放射線を遮断するための遮断壁として用いられることがある。この場合、既存筒状壁50は、例えば50m程度の高さと、1m程度の厚さを有している。
【0025】
このような既存筒状壁50は、基本的には自重を支持する程度の強度があれば十分であり、したがって、梁や柱の周辺フレームを有していない場合が多い。
【0026】
図1(a)は、既存筒状壁50の断面の部分拡大図である。
【0027】
図1(a)に示される既存筒状壁50の、紙面方向右側の表面が外側表面52であり、左側の表面が内側表面53である。既存筒状壁50は、既存コンクリート54と、既存コンクリート54の内部に配筋された、内側鉄筋55と外側鉄筋56を備えている。内側鉄筋55は、縦筋55aと横筋55bからなる格子状の鉄筋であり、既存筒状壁50の厚さ方向において、内側表面53寄りに設置されている。外側鉄筋56は、縦筋56aと横筋56bからなる格子状の鉄筋であり、既存筒状壁50の厚さ方向において、外側表面52寄りに設置されている。
【0028】
次に、鉄筋コンクリート製の既存筒状壁の補強構造1を施工する方法について説明する。
【0029】
まず、既存筒状壁50の上側、すなわち、既存筒状壁50の上端から既存筒状壁50の高さの半分以上の範囲の外側表面52に対し、図1(b)、(c)を用いて以下に説明する、斫り後打ち補強を実施する。
【0030】
斫り後打ち補強においては、図1(b)に示すように、既存筒状壁50の外側表面52の既存コンクリート54を既存の外側鉄筋56よりも深く斫り、外側鉄筋56を撤去する。この、既存コンクリート54の斫りと既存の外側鉄筋56の撤去は、既存筒状壁50の全周にわたって実施される。既存コンクリート54が斫られた部位の、外側の表面である斫り面2には、既存コンクリート54の斫りにより、全面的に凹凸が形成される。
【0031】
既存コンクリート54は、既存の外側鉄筋56よりも深く、望ましくは既存筒状壁50の厚さの半分未満の深さで斫られる。
【0032】
そして、斫り面2に対して、後施工アンカー3を、その一端が、斫りによって残された既存コンクリート54に埋設されるように設置する。後施工アンカー3の他端は短く垂直に折り曲げられて、フック3aを形成しており、後施工アンカー3は、フック3aが上方を向くように設置される。
【0033】
更に、図1(c)に示されるように、斫り面2上に、縦筋(外側縦筋)4aと横筋4bを備える格子状の、新たな外側鉄筋4を配筋する。新たな外側鉄筋4は、撤去した、既存の外側鉄筋56よりも鉄筋量が多く、及び/または、強度が高い鉄筋である。すなわち、鉄筋間のピッチは既存の外側鉄筋56よりも狭く、また、鉄筋の太さは既存の外側鉄筋56よりも太くなっている。新たな外側鉄筋4の縦筋4aは、既存筒状壁50の上側、すなわち、既存筒状壁50の上端から既存筒状壁50の高さの半分以上の範囲にわたって伸びるように配筋される。新たな外側鉄筋4の横筋4bは、既存筒状壁50の全周にわたって、斫り面2の上で連続するように、配筋される。一部の横筋4bが、後施工アンカー3の上に載置されるように、なおかつ、フック3aの内側面に接するように、新たな外側鉄筋4は配置され、後施工アンカー3と新たな外側鉄筋4は結束される。
【0034】
その上で、型枠を、斫り面2と型枠が新たな外側鉄筋4を挟み込むように設置した後、斫り面2と型枠の間に、新たな外側コンクリート5を打設する。外側コンクリート5の打設後に、外側コンクリート5を養生して、脱型する。
【0035】
次に、既存筒状壁50の下側、すなわち、既存筒状壁50の下端から既存筒状壁50の高さの半分以上の範囲の内側表面53に対し、増し打ち補強を実施する。すなわち、既存筒状壁50の下側の内側においては、図1(b)に示したような、既存コンクリート54の深い斫りと既存の内側鉄筋55の撤去を行わずに、内側表面53の上に、新たな鉄筋とコンクリートを増設する。
【0036】
具体的には、まず、内側表面53上に、縦筋と横筋を備える格子状の新たな内側縦筋を配筋する。新たな内側鉄筋の縦筋は、既存筒状壁50の下側、すなわち、既存筒状壁50の下端から既存筒状壁50の高さの半分以上の範囲にわたって伸びるように、配筋される。結果として、既存筒状壁50の上側に設置された、新たな外側鉄筋4の縦筋4aの下端よりも、新たな内側鉄筋の縦筋の上端が高くなり、その各々の下端と上端が、上下方向にオーバーラップしている。
【0037】
その上で、新たな内側鉄筋を囲むように型枠を設置した後、内側表面53と型枠の間に新たな内側コンクリートを打設し、養生後に脱型する。
【0038】
図2は、図5に示される既存筒状壁50が上記のような方法によって補強された、鉄筋コンクリート製の既存筒状壁50の補強構造1の、(a)は斜視図、(b)は図2(a)の一部省略したA−A´断面図である。図2(a)は、既存筒状壁50を上記のような方法によって補強した補強構造1に対して、屋根スラブ10を架設して内部空間51を閉じた建築構造物を示すものである。
【0039】
補強構造1は、既存部11、外側斫り後打ち補強部12、及び、内側増し打ち補強部13を備えている。
【0040】
既存部11は、既存筒状壁50の構造の一部を撤去することによって形成されている。具体的には、既存部11は、既存筒状壁50の上側において、図1(b)に示したように、外側表面52の既存コンクリート54が、既存の外側鉄筋56よりも深く、望ましくは既存筒状壁50の厚さの半分未満の深さで斫られ、既存の外側鉄筋56が撤去されることによって、形成されている。
【0041】
外側斫り後打ち補強部12は、既存筒状壁50の上側の、既存コンクリート54が斫られ、既存の外側鉄筋56が撤去された部位に形成されている。
【0042】
外側斫り後打ち補強部12は、図1(c)に示されるように、新たな外側鉄筋4と、新たな外側コンクリート5を備えている。上記のように、新たな外側鉄筋4は、撤去された既存の外側鉄筋56よりも鉄筋量が多く、及び/または、強度が高くなるように、形成されている。すなわち、鉄筋間のピッチは既存の外側鉄筋56よりも狭く、また、鉄筋の太さは既存の外側鉄筋56よりも太くなっている。
【0043】
既存筒状壁50の上側の、既存コンクリート54の斫りと既存の外側鉄筋56の撤去は、既存筒状壁50の全周にわたって実施されており、結果として、外側斫り後打ち補強部12は、図2(a)に示されるように、補強構造1の上側の全周にわたって形成されている。外側斫り後打ち補強部12内の、新たな外側鉄筋4の横筋4bは、既存コンクリート54が斫られた、既存部11の全周にわたって、連続するように、配筋されている。
【0044】
図1(c)に示されるように、新たな外側コンクリート5は、新たな外側鉄筋4を埋設するように打設されている。
【0045】
また、図1(c)に示されるように、後施工アンカー3が、既存部11と外側斫り後打ち補強部12を締結するように、設置されている。新たな外側鉄筋4は、フック3aが設けられた後施工アンカー3の上に載置されて結束されることにより、既存部11に固定されている。
【0046】
図2(b)に示されるように、内側増し打ち補強部13は、既存部11の下側、すなわち、既存部11の下端から既存部11の高さの半分以上の範囲において、既存部11の内側表面上に、すなわち、既存筒状壁50の内側表面53上に形成されている。内側増し打ち補強部13は、外側斫り後打ち補強部12とは異なり、その設置に伴い、既存コンクリート54を深く斫り、既存の内側鉄筋55を撤去することなく、内側表面53上に形成されている。
【0047】
内側増し打ち補強部13は、図示しない新たな内側縦筋と、新たな内側コンクリートを備えている。新たな内側鉄筋は、内側表面53の上に配筋されている。この新たな内側鉄筋上に内側コンクリートを増し打ちすることで、内側増し打ち補強部13は作製されている。
【0048】
図2(b)に示されるように、外側斫り後打ち補強部12の下端は、内側増し打ち補強部13の上端よりも低い高さに位置している。これにより、外側斫り後打ち補強部12内に配筋されている、新たな外側鉄筋4の縦筋4aと、内側増し打ち補強部13内に配筋されている、新たな内側鉄筋の縦筋は、その各々の下端と上端が、上下方向にオーバーラップするように設置されている。
【0049】
内側増し打ち補強部13の下端である脚部13aは、上方から基礎に接する下方に向けて、次第に壁の厚さが厚くなるように、テーパー状に形成されている。
【0050】
次に、上記の補強構造1の作用、効果について説明する。
【0051】
上記のような補強構造1においては、図1に示すように、補強構造1の上側の外側斫り後打ち補強部12において、既存筒状壁50の外側表面52の既存コンクリート54を既存の外側鉄筋56よりも深く斫り、既存の外側鉄筋56を撤去した後、新たな外側鉄筋4が配筋されている。この新たな外側鉄筋4は、既存の外側鉄筋56よりも鉄筋量が多く、及び/または、強度が高いものである。
【0052】
場合によっては、補強構造1の上側の、斫り後打ち補強実施後の壁の厚さを、既存筒状壁50よりも薄くすることが可能である。これにより、重量の増加を低減する補強が可能となり、地震時における、筒状壁の破損、崩壊、転倒を効果的に防止し、耐震性を高めることができる。
【0053】
また、補強構造1の下側の内側増し打ち補強部13においては、既存筒状壁50の下側の内側表面53は、外側斫り後打ち補強部12のようにコンクリートを深く斫り既存の鉄筋を撤去することなく、内側表面53上に新たな内側縦筋と、新たな内側コンクリートを設置することにより、形成されている。このように、補強構造1の下側の重量が増し打ち補強によってより重くなることで、補強構造1の上側の重量を下側の重量よりも相対的に軽くして、重心の高さが低くなるように、上側と下側の重量配分が変更されているため、補強構造1の地震応答をより低減し、かつ、地震時の基礎の浮上りや基礎からの引き抜きに対する抵抗を増し、転倒を防止することができる。
【0054】
また、内側増し打ち補強部13の下端である脚部13aは、上方から基礎に接する下方に向けて、次第に壁の厚さが厚くなるように、テーパー状に形成されている。これにより、さらに効果的に転倒を防止して耐震性を高めることが可能である。
【0055】
また、補強構造1は、上記のように、既存筒状壁50よりも重心の高さが低くなっている。したがって、耐震性を損なわずに、屋根スラブ10を設置することが可能である。更に、内側増し打ち補強部13の水平方向のせん断剛性を、増し打ち補強により増大させて、地震応答解析において、屋根スラブ10を設置した構造体全体としての固有周期を、屋根スラブ10のない補強前の既存筒状壁50の固有周期と同等にとどめ、また、補強構造1頂部における応答変位も補強前と同等程度にすることで、さらに効果的に耐震性を高めることが可能である。
【0056】
また、内部空間51の温度が外部の温度よりも高い状態で生じる、上記の温度応力に関し、上記の補強構造1では、補強構造1の上側においては、引張応力の作用する新たな外側鉄筋4の鉄筋量が多く、及び/または、強度が高くなるように補強されており、更に、補強構造1の下側においては、内側コンクリートが増し打ちされ、内側鉄筋が追加して配筋されている。これにより、補強構造1の各部位において、引張抵抗に効果のある補強筋を、作用する曲げモーメントの引張応力側に配することが可能となり、温度応力に対する補強を効果的に行うことができる。
【0057】
また、外側斫り後打ち補強部12において、新たな外側鉄筋4の横筋4bは、既存コンクリートが斫られた、既存部11の全周にわたって、連続するように配筋されている。これにより、新たな外側鉄筋4の横筋4bを、既存の躯体に定着せずとも、耐震性を高めることができる。更に、外側斫り後打ち補強部12内に配筋されている、新たな外側鉄筋4の縦筋4aと、内側増し打ち補強部13内に配筋されている、新たな内側鉄筋の縦筋は、その各々の下端と上端が、上下方向にオーバーラップするように設置されているため、補強構造1の上側の外側斫り後打ち補強部12から、補強構造1の下側の内側増し打ち補強部13への連続的な補強が可能となる。これらの要因により、周辺フレームがなくとも、効果的に耐震性を高めることができる。
【0058】
また、この新たな外側鉄筋4の横筋4bは、内部空間51の温度が外部の温度よりも高い状態で生じる、上記の温度応力による、補強構造1の周方向への膨張を拘束するタガとして作用し、これにより、補強構造1の外側表面に生じる、コンクリートのひび割れを防止することができる。
【0059】
また、既存筒状壁50の下側の壁を、増し打ち補強により厚くするため、内部空間51に原子炉を設置した場合には、筒状壁の外側で作業を行う作業者の活動領域である地表近辺への、放射線の遮蔽性をより高めることが可能となる。
【0060】
また、図4に示される方法においては、壁40の表面は部分的に目荒らしされているが、これに対し、上記のような補強構造1によれば、外側斫り後打ち補強部12において補強される部位は、全面にわたりコンクリートが斫られて目荒らしされた状態となっている。すなわち、従来の方法に比べると目荒らし面の面積や凹凸の度合いが大きくなり、打継面の付着強度が高くなるため、斫り面2における単位面積当たりのアンカー3の設置数や、アンカー3の径を軽減することが可能である。これにより、施工費をより低減することができる。
【0061】
なお、上記の実施形態においては、外側斫り後打ち補強部12の、新たな外側鉄筋4の横筋4bは、既存コンクリートが斫られた、既存部11の全周にわたって、連続するように、配筋されているが、この横筋4bは、全周にわたって連続した1本の鉄筋でなくともよく、例えば、複数の鉄筋が、重ね継手などによって接合されたものであってもよい。
【0062】
また、上記の実施形態においては、既存筒状壁50は円筒形であるが、この形状は水平方向の断面形状が閉鎖された形状であればよく、したがって、四角形、六角形、八角形などの多角形であってもよい。
【0063】
また、上記の実施形態においては、補強構造1を施工するに当たり、外側斫り後打ち補強部12を内側増し打ち補強部13の前に施工したが、これに限られない。例えば、内側増し打ち補強部13を外側斫り後打ち補強部12の前に施工してもよいし、同時に施工してもよい。
【0064】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明したが、当該技術分野における通常の知識を有する者であればこれから様々な変形及び均等な実施の形態が可能であることが理解できるであろう。
【0065】
よって、本発明の権利範囲はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載される本発明の基本概念を用いた当業者の様々な変形や改良形態も本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0066】
1 鉄筋コンクリート製の既存筒状壁の補強構造
2 斫り面
3 後施工アンカー
4 新たな外側鉄筋
4a 縦筋(外側縦筋)
4b 横筋
5 新たな外側コンクリート
10 屋根スラブ
11 既存部
12 外側斫り後打ち補強部
13 内側増し打ち補強部
50 既存筒状壁
51 内部空間
52 外側表面
53 内側表面
54 既存コンクリート
55 既存の内側鉄筋
56 既存の外側鉄筋
図1
図2
図3
図4
図5
図6