(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の実施形態を説明するための、熱処理装置及び加熱コイルの一例を示す。
【0015】
図1に示す熱処理装置1は、断面円形状の比較的長尺な棒材であるワークW1を熱処理するものである。ワークW1は、熱処理装置1においてワーク支持部及び移動部を兼ねる搬送機2によって軸方向に水平に搬送される。なお、ワークW1は、棒材に限られず、例えば管材などであってもよく、また、その断面形状についても、円形状に限られず、例えば矩形状などであってもよい。
【0016】
ワークW1を加熱する熱処理装置1の加熱コイル3は、ワークを挿通可能な円環状をなすコイルヘッド10を有し、コイルヘッド10の中心軸を水平として配置されている。軸方向に水平に搬送されるワークW1は、コイルヘッド10の中心軸に沿ってコイルヘッド10に挿通される。加熱コイル3は、搬送されるワークW1に対して、ワークW1の軸方向、つまりはコイルヘッド10の軸方向に相対的に移動される。
【0017】
搬送されるワークW1は、高周波の電力が供給された加熱コイル3のコイルヘッド10を連続的に通過し、コイルヘッド10を通過する過程でコイルヘッド10によって連続的に誘導加熱される。
【0018】
コイルヘッド10は周方向に垂直な断面が中空状であり、コイルヘッド10の内部にはワーク冷却液流路11が設けられており、コイルヘッド10には、ワーク冷却液流路11に流れる冷却液をワークW1に向けて噴射する複数の噴射孔12が設けられている。噴射孔12は、加熱コイル3の相対移動方向後ろ側に向くコイルヘッド10の外面に開口しており、噴射孔12の噴射方向は、コイルヘッド10の中心軸に垂直な面に対してワークW1の搬送方向先側に、つまりは加熱コイル3の相対移動方向後ろ側に傾けられている。
【0019】
噴射孔12から噴射されたワーク冷却液はコイルヘッド10を通過したワークW1の被加熱部位にかかり、ワークW1は、コイルヘッド10による誘導加熱に続き、噴射孔12から噴射されたワーク冷却液によって冷却される。
【0020】
また、コイルヘッド10の内部にはコイル冷却液流路13がさらに設けられている。加熱されたワークW1の輻射熱に晒されるコイルヘッド10は、コイル冷却液流路13に流れるコイル冷却液によって冷却される。
【0021】
図2から
図4は、熱処理装置1及び加熱コイル3の詳細な構成を示す。
【0022】
熱処理装置1は、加熱コイル3を支持するコイル支持部4と、加熱コイル3に電力を供給する電源5と、コイルヘッド10のワーク冷却液流路11にワーク冷却液を供給するワーク冷却液供給部6と、コイルヘッド10のコイル冷却液流路13にコイル冷却液を供給するコイル冷却液供給部7とをさらに備える。
【0023】
加熱コイル3は、上記のとおり、ワークを挿通可能な円環状をなし、周方向に垂直な断面が中空状であるコイルヘッド10を有する。コイルヘッド10は一箇所において周方向に分断されている。そして、加熱コイル3は、コイルヘッド10の分断箇所に形成される一組の開口端部14a,14bに設けられた一組の板部材15a,15bをさらに有する。
【0024】
板部材15aは、ろう付け等によって開口端部14aに接合されて開口端部14aを塞ぐ蓋部20aを含み、板部材15bは、ろう付け等によって開口端部14bに接合されて開口端部14bを塞ぐ蓋部20bを含む。
【0025】
一組の板部材15a,15bは、コイルヘッド10の外径側に向けて互いに平行して延設されており、コイルヘッド10の支持体を兼ね、コイル支持部4に取り付けられている。さらに、コイルヘッド10の支持体としての板部材15a,15bは電源5と電気的に接続されるリードも兼ねており、
図4に示すように、板部材15a,15bの間には絶縁板30が挟み込まれ、板部材15a,15bは絶縁板30によって互いに絶縁されている。
【0026】
コイル支持部4に取り付けられた板部材15a,15bは水平に配置されており、換言すれば板部材15a,15bの板面は重力方向に向けられている。板部材15a,15bに支持されたコイルヘッド10の中心軸もまた水平とされている。水平に配置された板部材15a,15bには、コイルヘッド10の荷重が板部材15a,15bの板厚方向に負荷される。
【0027】
コイルヘッド10の内部のワーク冷却液流路11は、開口端部14aを塞ぐ板部材15a及び開口端部14bを塞ぐ板部材15bによって周方向に区切られており、一方の開口端部14aから他方の開口端部14bに及ぶ一続きの流路とされている。
【0028】
コイルヘッド10の外周面には、コイルヘッド10の周方向に適宜な間隔をあけて、コイルヘッド10の内部のワーク冷却液流路11にそれぞれ連通する複数のカプラ31が設けられている。
【0029】
複数のカプラ31はワーク冷却液供給部6とそれぞれ接続され、これらのカプラ31をとおしてワーク冷却液供給部6からワーク冷却液流路11にワーク冷却液が供給される。上記のとおり、ワーク冷却液流路11に供給されたワーク冷却液はコイルヘッド10の複数の噴射孔12からワークW1に向けて噴射される。
【0030】
コイルヘッド10の内部のコイル冷却液流路13もまた、開口端部14aを塞ぐ板部材15a及び開口端部14bを塞ぐ板部材15bによって周方向に区切られており、一方の開口端部14aから他方の開口端部14bに及ぶ一続きの流路とされている。
【0031】
開口端部14aを塞ぐ板部材15aの内部には、コイルヘッド10の内部のコイル冷却液流路13に連通する流路18aが設けられており、板部材15aには流路18aに連通するカプラ32が設けられている。
【0032】
開口端部14bを塞ぐ板部材15bの内部にも、コイルヘッド10の内部のコイル冷却液流路13に連通する流路18bが設けられており、板部材15bには流路18bに連通するカプラ33が設けられている。
【0033】
板部材15aのカプラ32はコイル冷却液供給部7と接続され、板部材15aのカプラ32及び流路18aをとおしてコイル冷却液供給部7からコイル冷却液流路13にコイル冷却液が供給される。そして、コイル冷却液流路13を流れたコイル冷却液は、板部材15bの流路18b及びカプラ33をとおして排出される。
【0034】
加熱されたワークW1の輻射熱に晒されるコイルヘッド10は、コイル冷却液流路13を流れるコイル冷却液によって冷却される。さらに、加熱されたワークW1の輻射熱に晒される板部材15a,15bもまた流路18a,18bを流れるコイル冷却液によって冷却される。
【0035】
ワーク冷却液流路11に供給されたワーク冷却液をワークW1に向けて噴射するコイルヘッド10の複数の噴射孔12は、加熱コイル3の相対移動方向後ろ側に向くコイルヘッド10の外面に開口しており、コイルヘッド10の外面において周方向に分散して設けられている。また、噴射孔12が設けられたコイルヘッド10の外面に連なる板部材15aの蓋部20aの外面及び板部材15bの蓋部20bの外面にも少なくとも一つの噴射孔12がそれぞれ設けられている。
【0036】
図5は、板部材15aの蓋部20aの断面を示す。
【0037】
板部材15aの蓋部20aは、コイルヘッド10の内部のワーク冷却液流路11に隣設された凹部21aを有する。蓋部20aの外面に開口して設けられた噴射孔12は、蓋部20aの内部の凹部21aに連通している。ワーク冷却液流路11に供給されたワーク冷却液は、ワーク冷却液流路11に隣設された凹部21aにも流入し、凹部21aに連通している噴射孔12からワークW1に向けて噴射される。
【0038】
蓋部20aの外面に開口して設けられる噴射孔12は、例えば以下のようにして形成することができる。まず、凹部21aが予め形成された板部材15aの蓋部20aをろう付け等によって開口端部14aに接合して開口端部14aを塞ぐ。その後に、凹部21に達する噴射孔12を蓋部20aに形成する。蓋部20aをろう付け等によって開口端部14aに接合した後に噴射孔12を形成するようにすれば、蓋部20aと開口端部14aとの接合によって噴射孔12が塞がれることがない。また、蓋部20aを開口端部14aに接合した後に噴射孔12を形成するようにすれば、開口端部14a及び蓋部20aの両方の外面に跨る噴射孔12も形成することが可能となる。
【0039】
板部材15bの蓋部20bもまた、コイルヘッド10の内部のワーク冷却液流路11に隣設された凹部21b(
図4参照)を有し、蓋部20bの外面に開口して設けられた噴射孔12は、蓋部20bの内部の凹部21bに連通している。ワーク冷却液流路11に供給されたワーク冷却液は、ワーク冷却液流路11に隣設された凹部21bにも流入し、凹部21bに連通している噴射孔12からワークW1に向けて噴射される。
【0040】
以上の熱処理装置1及び加熱コイル3によれば、コイルヘッド10の分断箇所に形成される開口端部14a,14bを塞ぐ板部材15a,15bの蓋部20a,20bそれぞれの外面にも噴射孔12が設けられているので、ワークW1の冷却を周方向に均一化でき、ワークW1に熱処理欠陥が生じることを抑制することができる。
【0041】
また、蓋部20a,20bそれぞれの外面にも噴射孔12が設けられることにより、コイルヘッド10の支持体としての板部材15a,15bの厚みを蓋部20a,20bを含めて厚くし、板部材15a,15bの剛性を高めることができる。これにより、板厚方向に負荷されるコイルヘッド10の荷重によって板部材15a,15bが撓むことを抑制してコイルヘッド10の変位を抑制することができ、コイルヘッド10とワークW1との間のギャップの変化に伴うワークW1の局所的な過加熱又は加熱不足に起因してワークW1に熱処理欠陥が生じることを抑制することができる。
【0042】
特に、本例では板部材15a,15bは電源5と接続されるリードも兼ねており、板部材15a,15bは、ワークW1の輻射熱に加えて板部材15a,15bに生じるジュール熱によっても加熱される。このため、板部材15a,15bが軟化する可能性もあるが、上記のとおり、板部材15a,15bを厚くして剛性を高めることができ、軟化した場合の剛性の低下を厚みによって補うことができる。
【0043】
また、板部材15a,15bは、板部材15a,15bの内部の流路18a,18bを流れるコイル冷却液によって冷却され、板部材15a,15bを厚くすることによって流路18a,18bを太くすることができる。これにより、コイル冷却液の流量を確保して板部材15a,15bの冷却効率を高めることができ、剛性の低下をまねく板部材15a,15bの軟化を抑制することができる。
【0044】
なお、焼入れなどの熱処理においては、加熱されたワークの被加熱部位を速やかに冷却することが肝要である。本例においては、コイルヘッド10によって加熱されたワークW1の被加熱部位はコイルヘッド10の複数の噴射孔12から噴射された冷却液によって冷却され、噴射孔12の噴射方向がコイルヘッド10の中心軸に垂直な面に対してワークW1の搬送方向先側に向けて傾けられていることから、コイルヘッド10の内周側に配置された噴射孔12から噴射された冷却液ほど、コイルヘッド10の近傍にてワークW1の被加熱部位にかかる。
【0045】
したがって、蓋部20aの外面に設けられる噴射孔12は、少なくとも蓋部20aの外面の内周側の領域に設けられていることが好ましく、噴射孔12が連通する蓋部20aの内部の凹部21aは、蓋部20aをコイルヘッド10の内周側と外周側とに領域区分した場合における少なくとも内周側の領域に設けられていることが好ましい。
【0046】
蓋部20bの外面に設けられる噴射孔12についても同様であり、少なくとも蓋部20bの外面の内周側の領域に設けられていることが好ましく、噴射孔12が連通する蓋部20bの内部の凹部21bもまた、蓋部20bをコイルヘッド10の内周側と外周側とに領域区分した場合における少なくとも内周側の領域に設けられていることが好ましい。
【0047】
図6は、本発明の実施形態を説明するための、熱処理装置及び加熱コイルの他の例を示す。
【0048】
図6に示すワークW2は、クランクシャフトであって、ワークW2の軸方向に間隔をあけて設けられ且つワークW2の中心軸上に配置された一対のジャーナルW2aと、一対のジャーナルW2aの間でワークW2の軸方向に間隔をあけて設けられた複数のクランクアームW2bと、隣り合うクランクアームW2bの間に設けられ且つワークW2の中心軸から外れて配置された複数の偏芯ピンW2cとを有する。
【0049】
そして、熱処理装置101は、ワークW2の偏芯ピンW2cを熱処理するものである。熱処理装置101のワーク支持部102は、ワークW2の中心軸を水平に配置してワークW2の一対のジャーナルW2aを支持している。また、ワーク支持部102は移動部を兼ねており、ワーク支持部102によって支持されたワークW2は軸方向に水平に移動される。
【0050】
偏芯ピンW2cを加熱する熱処理装置101の加熱コイル103は、ワークを挿通可能な円環状をなすコイルヘッド110を有し、コイルヘッド110の中心軸を水平として配置されている。偏芯ピンW2cは、コイルヘッド110の中心軸に沿ってコイルヘッド110に挿通される。移動される偏芯ピンW2cに対して、加熱コイル103は、偏芯ピンW2cの軸方向、つまりはコイルヘッド110の軸方向に相対的に移動される。
【0051】
偏芯ピンW2cは、高周波の電力が供給された加熱コイル103のコイルヘッド110を連続的に通過し、コイルヘッド110を通過する過程でコイルヘッド110によって連続的に誘導加熱される。
【0052】
コイルヘッド110は周方向に垂直な断面が中空状であり、コイルヘッド110の内部にはワーク冷却液流路111が設けられており、コイルヘッド110には、ワーク冷却液流路111に流れる冷却液を偏芯ピンW2cに向けて噴射する複数の噴射孔112が設けられている。複数の噴射孔112は、加熱コイル103の相対移動方向後ろ側に向くコイルヘッド110の外面に開口しており、噴射孔112の噴射方向は、コイルヘッド110の中心軸に垂直な面に対して偏芯ピンW2cの移動方向先側に、つまりは加熱コイル103の相対移動方向後ろ側に傾けられている。
【0053】
噴射孔112から噴射されたワーク冷却液はコイルヘッド110を通過した偏芯ピンW2cの被加熱部位にかかり、偏芯ピンW2cは、コイルヘッド110による誘導加熱に続き、噴射孔112から噴射されたワーク冷却液によって冷却される。
【0054】
また、コイルヘッド110の内部にはコイル冷却液流路113がさらに設けられている。加熱された偏芯ピンW2cの輻射熱に晒されるコイルヘッド110は、コイル冷却液流路113に流れるコイル冷却液によって冷却される。
【0055】
図7から
図10は、熱処理装置101及び加熱コイル103の詳細な構成を示す。
【0056】
熱処理装置101は、加熱コイル103を支持するコイル支持部104をさらに備える。また、図示は省略するが、熱処理装置101は、加熱コイル103に電力を供給する電源、及びコイルヘッド110のワーク冷却液流路111にワーク冷却液を供給するワーク冷却液供給部、並びにコイルヘッド110のコイル冷却液流路113にコイル冷却液を供給するコイル冷却液供給部も備える。
【0057】
加熱コイル103は、上記のとおり、ワークを挿通可能な円環状をなし、周方向に垂直な断面が中空状であるコイルヘッド110を有する。コイルヘッド110は、二箇所において周方向に分断されており、半円弧状の第1コイルヘッド部分110aと、半円弧状の第2コイルヘッド部分110bとによって構成されている。
【0058】
そして、加熱コイル103は、コイルヘッド110の一方の分断箇所に形成される一組の開口端部114a,114bに設けられた一組の板部材115a,115bと、他方の分断箇所に形成される一組の開口端部116a,116bに設けられた一組の板部材117a,117bとをさらに有する。
【0059】
板部材115aは、開口端部114aに接合されて開口端部114aを塞ぐ蓋部120aを含み、板部材115bは、開口端部114bに接合されて開口端部114bを塞ぐ蓋部120bを含む。また、板部材117aは、開口端部116aに接合されて開口端部116aを塞ぐ蓋部122aを含み、板部材117bは、開口端部116bに接合されて開口端部116bを塞ぐ蓋部122bを含む。
【0060】
一組の板部材115a,115bは、コイルヘッド110の外径側に向けて互いに平行して延設されており、コイルヘッド110の支持体を兼ね、コイル支持部104に取り付けられている。さらに、コイルヘッド110の支持体としての板部材115a,115bは電源と電気的に接続されるリードも兼ねており、
図9に示すように、板部材115a,115bの間には絶縁板130が挟み込まれ、板部材115a,115bは絶縁板130によって互いに絶縁されている。
【0061】
もう一組の板部材117a,117bもまた、コイルヘッド110の外径側に向けて互いに平行して延設されている。ただし、板部材117a,117bは、互いに接触して第1コイルヘッド部分110aと第2コイルヘッド部分110bとを電気的に接続する接続部とされており、例えばボルト及びナットを用いて分離可能に締結されている。
【0062】
コイル支持部104に取り付けられた板部材115a,115bは水平に配置されており、換言すれば板部材115a,115bの板面は重力方向に向けられている。板部材115a,115bに支持されたコイルヘッド110の中心軸もまた水平とされている。水平に配置された板部材115a,115bには、コイルヘッド110の荷重が板部材115a,115bの板厚方向に負荷される。
【0063】
また、板部材115a,115bは、板部材115a,115b毎に設定される水平な回動軸まわりにそれぞれ回動可能にコイル支持部104に支持されている。板部材117a,117bの締結が解除された状態で板部材115a,115bがそれぞれ回動されることにより、板部材117a,117bが互いに接触し又は離間するようにして、コイルヘッド110を構成する第1コイルヘッド部分110a及び第2コイルヘッド部分110bが開閉される。
【0064】
第1コイルヘッド部分110a及び第2コイルヘッド部分110bが開かれた状態で、偏芯ピンW2cがコイルヘッド110の中心軸上に配置され、偏芯ピンW2cがコイルヘッド110の中心軸上に配置された後、第1コイルヘッド部分110a及び第2コイルヘッド部分110bが閉じられる。これにより、偏芯ピンW2cがコイルヘッド110の中心軸に沿ってコイルヘッド110に挿通される。
【0065】
コイルヘッド110の内部のワーク冷却液流路111は、板部材115a,115b及び板部材117a,117bによって周方向に区切られており、第1コイルヘッド部分110aの内部で板部材115aによって塞がれた開口端部114aから板部材117aによって塞がれた開口端部116aに及ぶ第1ワーク冷却液流路111aと、第2コイルヘッド部分110bの内部で板部材115bによって塞がれた開口端部114bから板部材117bによって塞がれた開口端部116bに及ぶ第2ワーク冷却液流路111bとによって構成されている。
【0066】
カプラ131をとおしてワーク冷却液供給部からワーク冷却液流路111(第1ワーク冷却液流路111a及び第2ワーク冷却液流路111b)に供給されたワーク冷却液はコイルヘッド110の複数の噴射孔112から偏芯ピンW2cに向けて噴射される。
【0067】
コイルヘッド110の内部のコイル冷却液流路113もまた、板部材115a,115b及び板部材117a,117bによって周方向に区切られている。
【0068】
開口端部114aを塞ぐ板部材115aの内部には、第1コイルヘッド部分110aの内部のコイル冷却液流路113に連通する流路118aが設けられており、板部材115aには流路118aに連通するカプラ132が設けられている。また、開口端部116aを塞ぐ板部材117aの内部には、第1コイルヘッド部分110aの内部のコイル冷却液流路113に連通する流路119aが設けられており、板部材117aには流路119aに連通するカプラ133が設けられている。
【0069】
板部材115aのカプラ132はコイル冷却液供給部と接続され、板部材115aのカプラ132及び流路118aをとおしてコイル冷却液供給部から第1コイルヘッド部分110aの内部のコイル冷却液流路113にコイル冷却液が供給される。そして、コイル冷却液流路113を流れたコイル冷却液は、板部材117aの流路119a及びカプラ133をとおして排出される。なお、板部材117aのカプラ133がコイル冷却液供給部と接続され、板部材117aのカプラ133側から第1コイルヘッド部分110aの内部のコイル冷却液流路113にコイル冷却液が供給されてもよい。
【0070】
開口端部114bを塞ぐ板部材115bの内部にも、第2コイルヘッド部分110bの内部のコイル冷却液流路113に連通する流路118bが設けられており、板部材115bには流路118bに連通するカプラ132が設けられている。また、開口端部116bを塞ぐ板部材117bの内部には、第2コイルヘッド部分110bの内部のコイル冷却液流路113に連通する流路119bが設けられており、板部材117bには流路119bに連通するカプラ133が設けられている。
【0071】
板部材115bのカプラ132はコイル冷却液供給部と接続され、板部材115bのカプラ132及び流路118bをとおしてコイル冷却液供給部から第2コイルヘッド部分110bの内部のコイル冷却液流路113にコイル冷却液が供給される。そして、第2コイル冷却液流路113を流れたコイル冷却液は、板部材117bの流路119b及びカプラ133をとおして排出される。なお、板部材117bのカプラ133がコイル冷却液供給部と接続され、板部材117bのカプラ133側から第2コイルヘッド部分110bの内部のコイル冷却液流路113にコイル冷却液が供給されてもよい。
【0072】
加熱された偏芯ピンW2cの輻射熱に晒されるコイルヘッド110は、コイル冷却液流路113を流れるコイル冷却液によって冷却される。さらに、加熱された偏芯ピンW2cの輻射熱に晒される板部材115a,115bもまた流路118a,118bを流れるコイル冷却液によって冷却され、板部材117a,117bもまた流路119a,119bを流れるコイル冷却液によって冷却される。
【0073】
ワーク冷却液流路111に供給されたワーク冷却液を偏芯ピンW2cに向けて噴射するコイルヘッド110の複数の噴射孔112は、加熱コイル103の相対移動方向後ろ側に向くコイルヘッド110の外面に開口しており、コイルヘッド110の外面において周方向に分散して設けられている。また、噴射孔112が設けられたコイルヘッド110の外面に連なる板部材115aの蓋部120aの外面及び板部材115bの蓋部120bの外面、並びに板部材117aの蓋部122aの外面及び板部材117bの蓋部122bの外面にも少なくとも一つの噴射孔112がそれぞれ設けられている。
【0074】
図11は、板部材115aの蓋部120aの断面を示す。
【0075】
板部材115aの蓋部120aは、第1コイルヘッド部分110aの内部の第1ワーク冷却液流路111aに隣設された凹部121aを有する。蓋部120aの外面に開口して設けられた噴射孔112は、蓋部120aの内部の凹部121aに連通している。第1ワーク冷却液流路111aに供給されたワーク冷却液は、第1ワーク冷却液流路111aに隣設された凹部121aにも流入し、凹部121aに連通している噴射孔112から偏芯ピンW2cに向けて噴射される。
【0076】
板部材115bの蓋部120bもまた、第2コイルヘッド部分110bの内部の第2ワーク冷却液流路111bに隣設された凹部121b(
図9参照)を有し、蓋部120bの外面に開口して設けられた噴射孔112は、蓋部120bの内部の凹部121bに連通している。第2ワーク冷却液流路111bに供給されたワーク冷却液は、第2ワーク冷却液流路111bに隣設された凹部121bにも流入し、凹部121bに連通している噴射孔12から偏芯ピンW2cに向けて噴射される。
【0077】
図12は、板部材117aの蓋部122aの断面を示す。
【0078】
板部材117aの蓋部122aは、第1コイルヘッド部分110aの内部の第1ワーク冷却液流路111aに隣設された凹部123aを有する。蓋部122aの外面に開口して設けられた噴射孔112は、蓋部122aの内部の凹部123aに連通している。第1ワーク冷却液流路111aに供給されたワーク冷却液は、第1ワーク冷却液流路111aに隣設された凹部123aにも流入し、凹部123aに連通している噴射孔112から偏芯ピンW2cに向けて噴射される。
【0079】
板部材117bの蓋部122bもまた、第2コイルヘッド部分110bの内部の第2ワーク冷却液流路111bに隣設された凹部123b(
図10参照)を有し、蓋部122bの外面に開口して設けられた噴射孔112は、蓋部122bの内部の凹部123bに連通している。第2ワーク冷却液流路111bに供給されたワーク冷却液は、第2ワーク冷却液流路111bに隣設された凹部123bにも流入し、凹部123bに連通している噴射孔12から偏芯ピンW2cに向けて噴射される。
【0080】
以上の熱処理装置101及び加熱コイル103によれば、コイルヘッド110の分断箇所に形成される開口端部114a,114b,116a,116bを塞ぐ板部材115a,115b,117a,117bの蓋部120a,120b,122a,122bそれぞれの外面にも噴射孔112が設けられているので、偏芯ピンW2cの冷却を周方向に均一化でき、偏芯ピンW2cに熱処理欠陥が生じることを抑制することができる。
【0081】
また、蓋部120a,120bそれぞれの外面にも噴射孔112が設けられることにより、コイルヘッド110の支持体としての板部材115a,115bの厚みを蓋部120a,120bを含めて厚くし、板部材115a,115bの剛性を高めることができる。これにより、板厚方向に負荷されるコイルヘッド110の荷重によって板部材115a,115bが撓むことを抑制してコイルヘッド110の変位を抑制することができ、コイルヘッド110と偏芯ピンW2cとの間のギャップの変化に伴う偏芯ピンW2cの局所的な過加熱又は加熱不足に起因して偏芯ピンW2cに熱処理欠陥が生じることを抑制することができる。
【0082】
特に、本例では板部材115a,115bは電源と接続されるリードも兼ねており、板部材115a,115bは、偏芯ピンW2cの輻射熱に加えて板部材115a,115bに生じるジュール熱によっても加熱される。このため、板部材115a,115bが軟化する可能性もあるが、上記のとおり、板部材115a,115bを厚くして剛性を高めることができ、軟化した場合の剛性の低下を厚みによって補うことができる。
【0083】
また、板部材115a,115bは、板部材115a,115bの内部の流路118a,118bを流れるコイル冷却液によって冷却され、板部材115a,115bを厚くすることによって流路118a,118bを太くすることができる。これにより、コイル冷却液の流量を確保して板部材115a,115bの冷却効率を高めることができ、剛性の低下をまねく板部材115a,115bの軟化を抑制することができる。
【0084】
無論、開口端部116a,116bそれぞれの外面にも噴射孔112が設けられることから、板部材117a,117bの厚みを蓋部122a,122bを含めて厚くしてもよい。