(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、水処理における消毒処理には、一般的に塩素が用いられてきた。しかし、近年、塩素による消毒処理には、殺菌性能に改善の余地があることが明らかとされてきた。そこで、消毒処理対象である、飲料水等の被処理水を十分に殺菌するために、紫外線を用いる技術が検討されてきた。ここで、被処理水に対して紫外線を照射するための紫外線照射装置としては、光源として水銀ランプを搭載した紫外線照射装置が一般的であった。しかし、水銀ランプを搭載した紫外線照射装置では、装置の経年劣化等に起因して、水銀が被処理水に触れるリスクを完全に排除することができなかった。
【0003】
そこで、近年、紫外線光源としてLEDを用いた水処理装置が開発されてきた(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、窓部となる透明部材で仕切られた空間内に、紫外線光源であるLED素子を配置した水処理装置(以下、「第1従来例の水処理装置」とも称する)が開示されている。また、特許文献1には、紫外線光源であるLED素子を水から保護するためのガラス等の透明封止部材を有する水処理装置(以下、「第2従来例の水処理装置」とも称する)が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1に記載された第1従来例の水処理装置では、紫外線光源であるLED素子が設置された空間内にて結露が生じた場合に、剥き出しのLED素子が損傷することがあった。また、上記第2従来例の水処理装置では、水により紫外線光源であるLED素子が損傷することは無いが、LED素子毎に封止材を設けるために、LED素子より照射された紫外光の強度が封止材により弱められ、所望の照射強度を十分に確保することができなかった。
そこで、本発明は、紫外線光源として、封止されていない、いわゆる「剥き出し」状態のLED素子を採用して、LED素子より照射された紫外光の強度を保ちつつ、かかるLED素子が結露により損傷されることを抑制可能な、水処理装置を提供することが目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した。そして、本発明者らは、LED素子から照射した紫外光で被処理水を紫外線処理する水処理装置において、発光面が露出したLED素子を収容するLED素子収容室を設けると共に、かかる収容室内に乾燥気体を流すことで、LED素子より照射された紫外光の強度を保ちつつ、かかるLED素子が結露により損傷されることを抑制可能となりうることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の水処理装置は、LED素子から照射した紫外光で被処理水を紫外線処理する水処理装置であって、被処理水が流れる流路と、透明部材からなる窓部を介して前記流路の外側に配置されたLED素子収容室と、前記LED素子収容室内に配置された複数のLED素子と、を備え、前記LED素子収容室は、乾燥気体の流入口および流出口を有し、前記LED素子は、発光面が前記LED素子収容室内の空間に露出していることを特徴とする。このように、LED素子収容室内に発光面を露出させた状態でLED素子を配置し、さらに、かかるLED素子収容室内に乾燥空気を流すことで、LED素子より照射された紫外光の強度を保ちつつ、かかるLED素子が結露により損傷されることを抑制することが可能となる。
【0008】
また、本発明に係る水処理装置においては、前記LED素子の設置密度が8,000個/m
2以上であることが好ましい。LEDの設置密度が8,000個/m
2以上という高密度であれば、被処理水に対する紫外線の照射強度を一層高めて、水処理装置による殺菌効果を一層高めることができる。
【0009】
また、本発明に係る水処理装置においては、前記LED素子収容室内には、各LED素子を囲繞する集光板が設けられており、前記集光板と前記窓部との間には隙間が設けられていることが好ましい。集光板によりLED素子からの紫外線を集光し、被処理水に対する紫外線の照射強度を更に高めることができる。また、集光板を窓部に接触させず、窓部との間に隙間を設けることで、乾燥気体による結露の防止効果を一層高めることができる。
【0010】
また、本発明に係る水処理装置においては、前記LED素子収容室の前記流路側とは反対側に冷却装置が設けられていることが好ましい。LED素子収容室を裏面側、即ち、流路とは反対側から冷却して、LED素子の短寿命化及び故障を抑制することができる。
【0011】
また、本発明に係る水処理装置においては、前記流路を構成する部材と前記窓部を構成する透明部材との間、および、前記窓部を構成する透明部材と前記LED素子収容室を構成する部材との間には、それぞれ、シール部材が配置されていることが好ましい。窓部を構成する透明部材の片面側だけでなく、両側でシールすることにより、水処理装置の信頼性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水処理装置によれば、LED素子より照射された紫外光の強度を保ちつつ、かかるLED素子が結露により損傷されることを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明による水処理装置の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。本発明の水処理装置は、例えば、浄水場等の大型設備や小型のウォーターサーバー、下水処理場、及び超純水製造設備等に搭載可能であり、飲料水の殺菌処理のために用いることができる。
【0015】
(水処理装置)
図1に、本発明の一実施形態による水処理装置の概略構成図を示す。
図1に示す水処理装置100は、LED素子から照射した紫外光で被処理水を紫外線処理する水処理装置である。そして、水処理装置100は、被処理水が流れる流路10と、窓部20を介して流路10の外側に配置されたLED素子収容室30と、LED素子収容室30内に配置された複数のLED素子31と、を備える。さらに、LED素子収容室30は、乾燥気体の流入口34および流出口35を有する。さらにまた、LED素子31は、発光面がLED素子収容室30内の空間に露出している。水処理装置100は、流路10を通じて流れてきた被処理水に対して、LED素子収容室30内のLED素子31より出射された紫外光を照射して、殺菌処理する。得られた処理水は、例えば、飲料水として飲料水供給のための各種設備に対して送水されうる。
【0016】
以下、水処理装置100を構成する各機能部についてより詳細に説明する。なお、以下では、水処理装置100に被処理水が流入する側を前段側と称し、水処理装置100から処理水が流出する側を後段側と称する。
【0017】
流路10は、例えばSUS管でありうる内管11及び外管12を備える二重管構造部13の内部に形成されうる。ここで、内管11は、内管11の外周側に設けられた外管12により囲僥される。また、外管12は、処理水の流出口(図示しない)を、特に限定されることなく、例えば、外周面内に有する。そして、内管11の軸線方向一方側の端縁と、窓部20との間に隙間が設けられている。かかる隙間は、任意の変位防止部材14により画定されうる。変位防止部材14は、内管11の軸線方向一方側の端縁と、窓部20との間の隙間16を画定できる限りにおいて特に限定されることなく、例えば、インローフランジやロックピン等により形成されうる。よって、
図1に示す変位防止部材14は、詳細には図示しないが、内管11を所定位置に保持して窓部20との間の隙間を画定しうるインロー凸部を有するインローフランジでありうる。もちろん、変位防止部材14はインローフランジに限定されることなく、例えば、インロー凸部を有さない通常のフランジであっても良い。この場合、例えば、内管が軸線方向上側から下側に向かって押さえられて、変位防止部材のテーパー状の内周面の内径が内管の外径と一致する位置にて、それ以上軸線方向下側に移動しないように保持されるような構造とすることで、内管と窓部との間の隙間を画定することができる。
【0018】
さらに、外管12は、軸線方向の窓部20側端部がフランジを有しうる。そして、インローフランジとして図示する変位防止部材14と外管12端部のフランジとが相互に固定されて内管11よりも軸線方向一方側まで延在している。特に、変位防止部材14は窓部20を保持するとともに窓部20と液密に連結されている。なお、
図1では変位防止部材14と外管12とを別部材として図示するが、これらは1つの部材として具現されていても良い。即ち、外管12が、内管11を囲僥すると共に、内管11の軸線方向一方側の端縁と、窓部20との間の隙間16を画定するための構造を備えていても良い。
【0019】
そして、これらの内管11、外管12、及び、任意の変位防止部材14により、流路10、及び流路10を経て窓部20からの紫外光により処理された処理水を流入させる処理水流路15が形成される。
【0020】
流路10を経て窓部20に当たった水流は、窓部20の表面に沿って流れつつ、窓部20を介してLED素子収容室30からの紫外光の照射を受ける。このようにして、流路10を経て水処理装置100内に流入した被処理水が紫外線処理されて処理水となる。そして、かかる処理水が、窓部20の表面に沿って内管11や外管12、及び変位防止部材14の内壁面方向に流れ、隙間16を経て、内管11、外管12、及び変位防止部材14により画定される処理水流路15に到達する。その後、処理水は、処理水流路15を経て、外管12の外周面内に設けられた流出口を介して水処理装置100外へと流出する。
【0021】
窓部20は、例えば、紫外光の透過率が高い透明材料であることが望ましく、例えば、石英ガラス(SiO
2)やサファイアガラス(Al
2O
3)やフッ素系樹脂等のような透明部材からなる。中でも、耐久性、透過性の観点から、石英ガラスが好ましい。窓部20は、上述した内管11及び外管12により形成される二重管構造部13の軸線方向一方側(
図1では、下側)に設けられている。さらに、窓部20を介した流路10の外側には、LED素子収容室30が配置されている。
【0022】
LED素子収容室30は、複数のLED素子31を含む。そして、これらのLED素子31は、発光面がLED素子収容室30内の空間に露出している。ここで、本明細書において、「LED素子の発光面が露出している」とは、サファイア基板等の基板上にLED構造のエピタキシャル層等が積層されてなる発光面が、レンズ及び/又は封止材等の、発光に直接的には寄与しない構造部により被覆されていない状態であることを意味する。そして、これらの発光面がLED素子収容室30内の空間に露出した複数のLED素子31より出射された紫外光が、内管11内を流れる被処理水に対して、照射される。
【0023】
LED素子31は、例えば、波長が、200nm以上、より好ましくは240nm以上、300nm以下、より好ましくは285nm以下の紫外線を照射する素子でありうる。紫外光の中でも、かかる波長域の紫外光は殺菌力が高い。
【0024】
さらに、複数のLED素子31は、特に限定されることなく、例えば、LED基板32に対して固定された状態で配置されうる。さらに、LED素子収容室30内における複数のLED素子31の設置密度は、好ましくは8,000個/m
2以上である。LED素子収容室30内で、8,000個/m
2以上といった高密度でLED素子を配置すれば、紫外線の照射強度を高めることができ、水処理装置100の殺菌性能を向上させうる。本発明では、複数のLED素子31を、発光面がLED素子収容室30内の空間に露出させた状態で配置させるという構造を採用したからこそ、LED素子をこのような高密度で配置することが可能となった。
【0025】
LED素子収容室30は、LED素子収容室画定フランジ33、窓部20、及びLED基板32により囲僥されてなる。さらに、LED基板32は、乾燥気体をLED素子収容室30内に流入させる乾燥気体流入口34を有する。また、LED素子収容室画定フランジ33は、水処理装置100の軸線方向でLED素子収容室30を画定する壁部内に、少なくとも1つ、好ましくは複数の乾燥気体流出口35を備える。
ここで、本明細書において「乾燥気体」とは、露点温度が水処理装置100の設置環境周囲の空気の露点温度以下である空気を意味し、より具体的には、露点0℃以下の空気でありうる。更に、乾燥気体の温度は、特に限定されることなく、室温(JISZ 8703)でありうる。乾燥気体流入口34を介してLED素子収容室30内へと流入した乾燥気体は、窓部20に当たって、窓部20に沿って流れて、最終的に乾燥気体流出口35から排気される。このように、LED素子収容室30内を乾燥気体が流通する構造とすることで、LED素子が結露により損傷を受けることを抑制することができる。
【0026】
さらに、LED素子収容室30内には、各LED素子31を囲繞する集光板36が設けられており、かかる集光板36と窓部20との間には隙間が設けられていることが好ましい。まず、LED素子31が、例えば、リフレクタ等でありうる集光板36を有していれば、LED素子31から発せられる紫外線を集光し、被処理水に対する紫外線の照射強度を更に高めることができる。ここで、集光板36の形状は、窓部20との間隔及び窓部20の面積、厚み等を考慮して任意に最適化することができる。なお、リフレクタ等の集光板36は、リフレクタマウントのような集光板保持部材37を介して保持されうる。
【0027】
さらに、集光板36の軸線方向最上部と窓部20との間には隙間が存在することが好ましい。集光板36と窓部20との間に隙間が存在すれば、LED素子収容室30内での乾燥気体の流動性を高めて、乾燥気体による結露の防止効果を一層高めることができる。かかる隙間の大きさは任意に定めることができるが、0.5mm以上1.0mm以下であることが好ましい。隙間の大きさが0.5mm以上であれば、集光板36による集光効果を十分に確保することができるからである。さらに、隙間の大きさが1.0mm以下であれば、乾燥気体による結露の防止効果を十分に高めることができるからである。
【0028】
ここで、窓部20を構成する透明部材は、上述した変位防止部材14及びLED素子収容室画定フランジ33により、上記軸線方向で両側から保持される。そして、これらの変位防止部材14及びLED素子収容室画定フランジ33、さらには、外管12の端部に形成されたフランジは、相互に固定されうる。かかる固定方法は、特に限定されることなく、例えば、
図1に示すようなボルト23及びナット24を介した一般的な固定方法でありうる。
【0029】
好ましくは、変位防止部材14と窓部20を構成する透明部材との間には第1シール部材21が、窓部20を構成する透明部材とLED素子収容室画定フランジ33との間には第2シール部材22が、それぞれ配置される。第1シール部材21は変位防止部材14と窓部20とにより軸線方向で上下から押圧され、変位防止部材14及び窓部20の間の接続の密閉性を高める。また、第2シール部材は窓部20とLED素子収容室画定フランジ33とにより軸線方向で上下から押圧され、窓部20及びLED素子収容室画定フランジ33の間の接続の密閉性を高める。
このように、透明部材が流路10側だけでなく、両側でシールされていれば水処理装置100の信頼性を向上させることができる。被処理水がLED素子収容室30内に漏れ出した場合には、水処理装置100が故障するため、このような厳重な密閉構造を形成することで、LED素子収容室30内への水の侵入を防止することができるからである。
【0030】
さらに、水処理装置100は、LED素子収容室30の流路10側とは反対側に冷却装置40を備えることが好ましい。ここで、冷却装置40は、冷却板内に設けられた冷却室41及び冷却水ライン42により構成されうる。上述した通り、水処理装置100は、LED素子収容室30内に乾燥気体を流すことを特徴とする装置である。このため、水処理装置100では、流路10を流れる被処理水を利用してLED素子31を冷却することはできない。また、上述した通り、水処理装置100では、LED素子31の発光面がレンズや封止材等によって保護されることなく、LED素子収容室30内の空間に露出している。このため、水処理装置100では、LED素子収容室30内に直接冷却水を導入することによってLED素子31を冷却することもできない。そこで、本発明では、LED素子収容室30の流路10側とは反対側に冷却装置40を設けることにより、LED素子31を冷却することが可能となる。このようにして、LED素子31を冷却することで、LED素子31を長寿命化すると共に、故障の発生を抑制することが可能となる。
【0031】
そして、冷却水ライン42は、図示しないが、外管12に接続され、冷却室41に対して冷却水として処理水を供給しうる。冷却室41を循環した冷却水としての処理水は、図示しない冷却水排水ラインを経て、外管12から流出する処理水に合流されうる。ここで、冷却水ライン42が外管12に対して接続されていれば、冷却室41に対する給水のための別途の動力を設置することなく、LED素子31を冷却することが可能となる。よって、かかる構成によれば、水処理装置100による水処理効率を一層向上させることができる。
【0032】
以上、一例を用いて本発明の水処理装置について説明してきたが、本発明の水処理装置は上記一例に限定されない。すなわち、本発明の水処理装置には、適宜変更を加えることができる。
具体的には、例えば、上記一例では、冷却室41はLED基板32を支持する板状の部材である冷却板内の空隙として説明した。しかし、冷却室は、渦巻き形状の管の内部空間として設けられていても良い。冷却室を係る構造とすることで、LED素子の冷却効率を一層向上しうる。
【0033】
また、上記一例では、流路10が内管11、外管12、及び、任意の変位防止部材14により形成され、これらの管及び部材の軸線方向の一端部に窓部20が配置され、かかる窓部20を隔ててLED素子収容室30が配置される構造を説明してきた。しかし、本発明の水処理装置において、窓部が流路に沿って、例えば流路を形成する管内に配置され、かかる窓部を介してLED素子からの紫外光が照射される構造を採用することももちろん可能である。