特許第6755808号(P6755808)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6755808防水シート用ポリ塩化ビニル系樹脂組成物およびポリ塩化ビニル系樹脂防水シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6755808
(24)【登録日】2020年8月28日
(45)【発行日】2020年9月16日
(54)【発明の名称】防水シート用ポリ塩化ビニル系樹脂組成物およびポリ塩化ビニル系樹脂防水シート
(51)【国際特許分類】
   C08L 51/06 20060101AFI20200907BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20200907BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20200907BHJP
   C08L 23/28 20060101ALI20200907BHJP
   C08L 33/04 20060101ALI20200907BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20200907BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20200907BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20200907BHJP
【FI】
   C08L51/06
   C08L21/00
   C08L101/00
   C08L23/28
   C08L33/04
   C08J5/18CEV
   C08J5/04CEY
   B32B27/30 101
【請求項の数】11
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2017-8809(P2017-8809)
(22)【出願日】2017年1月20日
(65)【公開番号】特開2017-132996(P2017-132996A)
(43)【公開日】2017年8月3日
【審査請求日】2019年10月15日
(31)【優先権主張番号】特願2016-10852(P2016-10852)
(32)【優先日】2016年1月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000844
【氏名又は名称】特許業務法人 クレイア特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永木 麻理奈
(72)【発明者】
【氏名】後藤 琢真
(72)【発明者】
【氏名】永橋 祥一
(72)【発明者】
【氏名】下野 圭亮
【審査官】 牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−003686(JP,A)
【文献】 特開2008−013632(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/188971(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L51/00〜51/10
C08J5/00〜5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
30重量%以上98重量%以下の(メタ)アクリル系共重合体に由来する基幹ポリマーと前記基幹ポリマーにグラフトされた2重量%以上70重量%以下の塩化ビニルモノマーまたは塩化ビニル混合モノマーに由来するグラフト鎖とを含み、かつ平均重合度が400以上2500以下である(メタ)アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂(i)を100重量部と、
熱可塑性エラストマー(ii)を40重量部以上150重量部以下と、
高分子系可塑剤(iv)を5重量部以上20重量部以下と、
(メタ)アクリル系粒子(iii)を20重量部以上60重量部以下と、
を含む防水シート用ポリ塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性エラストマー(ii)が、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−一酸化炭素共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル−一酸化炭素共重合体、および塩素化ポリエチレンからなる群から選ばれる、請求項1に記載の防水シート用ポリ塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項3】
前記高分子系可塑剤(iv)が、200mPa・s/25℃以上の粘度を有する、請求項1または2に記載の防水シート用ポリ塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項4】
前記高分子系可塑剤(iv)が8重量部以上である、請求項1から3のいずれか1項に記載の防水シート用ポリ塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1からのいずれか1項に記載の防水シート用ポリ塩化ビニル系樹脂組成物を含むポリ塩化ビニル系樹脂防水シート。
【請求項6】
厚みが1.0mm以上5.0mm以下である、請求項に記載のポリ塩化ビニル系樹脂防水シート。
【請求項7】
前記ポリ塩化ビニル系樹脂組成物の層に積層された被覆層を含み、
前記被覆層が、(メタ)アクリル系樹脂、およびポリ塩化ビニル系樹脂からなる群から選ばれる樹脂を含む樹脂組成物で構成される、請求項5または6に記載のポリ塩化ビニル系樹脂防水シート。
【請求項8】
強化繊維を含む、請求項5から7のいずれか1項に記載のポリ塩化ビニル系樹脂防水シート。
【請求項9】
前記強化繊維を含む補強層と、前記補強層の一方の面に積層された前記ポリ塩化ビニル系樹脂組成物の層と、他方の面に積層された前記ポリ塩化ビニル系樹脂組成物の層または他の層と、を含む、請求項に記載のポリ塩化ビニル系樹脂防水シート。
【請求項10】
屋外に設置して用いられる施工資材である、請求項5から9のいずれか1項に記載のポリ塩化ビニル系樹脂防水シート。
【請求項11】
総厚の20%の肉厚における300nm以上400nm以下の紫外線透過率が5%以下の紫外線バリア性を有する、請求項6に記載のポリ塩化ビニル系樹脂防水シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物およびシートに関する。より具体的には、本発明は、屋外で使用されるポリ塩化ビニル系樹脂防水シートなどの、長期的に耐久性を維持するシートおよびそれに用いられる樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
屋外に施設される防水シートには、一般的に塩化ビニル系樹脂製のものが用いられる。一般的に塩化ビニル系樹脂防水シートは耐久性の問題があり、耐久性を備えさせるための提案が種々なされている。
【0003】
たとえば、特開2000−234005号公報(特許文献1)には、アクリル系共重合体に、塩化ビニル又は塩化ビニルを主成分とするビニルモノマーがグラフト重合してなる防水シート用樹脂が開示されている。また、特開2008−239732号公報(特許文献2)には、屋外で使用されるシートに特定の紫外線吸収剤と光安定剤とを併用することが提案されている。また、特開2009−270290号公報(特許文献3)および特開平11−221878号公報(特許文献4)には、屋外での耐久性(つまり耐候性)を向上させる目的で、表層に顔料と紫外線吸収剤とを含む多層構造の防水シートが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−234005号公報
【特許文献2】特開2008−239732号公報
【特許文献3】特開2009−270290号公報
【特許文献4】特開平11−221878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の防水シート用樹脂を用いて成膜されたシートは、長期間に亘っては高い機械的特性を維持することができないことがあるうえに、熱による接着性が悪いという問題もある。
【0006】
特許文献2に記載のシートは、紫外線による劣化を抑制する効果はある一方、シートからの可塑剤の抜けによって物性低下が生じる問題がある。
【0007】
特許文献3に記載のシートは、表層の柔軟性が乏しいため、低温での施工性に劣る。さらに、ベース層から表層への可塑剤の移行によって物性低下が生じる問題がある。
【0008】
特許文献4に記載のシートは、いずれも、表層の柔軟性が乏しいため、低温での施工性に劣る。さらに、ベース層から表層への可塑剤の移行によって物性低下が生じる問題がある。
【0009】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、より優れた長期耐久性、低温施工性および熱融着性を有するポリ塩化ビニル系樹脂シートおよびそれを与えるポリ塩化ビニル系樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討の結果、所定の(メタ)アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂に、所定量の熱可塑性エラストマー、所定量の(メタ)アクリル系粒子、および所定量の高分子系可塑剤を含ませることによって、上記本発明の目的が達成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、以下の発明を含む。
【0011】
(1)
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物は、(メタ)アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂(i)を100重量部と、熱可塑性エラストマー(ii)を10重量部以上200重量部以下と、高分子系可塑剤(iv)を0.01重量部以上20重量部以下と、を含む。(メタ)アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂は、30重量%以上98重量%以下の(メタ)アクリル系共重合体に由来する基幹ポリマーと、当該基幹ポリマーにグラフトされた2重量%以上70重量%以下の塩化ビニルモノマーまたは塩化ビニル混合モノマーに由来するグラフト鎖とを含み、かつ平均重合度が400以上2500以下である。
【0012】
30重量%以上98重量%以下という量は、(メタ)アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂を合成するために用いられる材料の合計量を100重量%とした場合の比率である。
【0013】
本発明では、(メタ)アクリルグラフト塩化ビニル系(PVC−AG)樹脂(i)を用いることによって、低温でも柔軟性に優れるため、優れた低温施工性が得られる。また、熱可塑性エラストマー(ii)を用いることによって、優れた引張特性、柔軟性および熱融着性が得られる。さらに、高分子系可塑剤(iv)を用いることによって、外部環境または時間経過によって成分または組成の変化が好ましく抑制されて機械的特性が維持されるため、優れた長期耐久性が得られる。
【0014】
高分子系可塑剤(iv)は、23℃、1atm環境下で液体状態であり、たとえば熱可塑性エラストマー(ii)のように可塑化作用のある固体高分子とは区別される。
【0015】
(2)
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物は、(メタ)アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂(i)を100重量部と、熱可塑性エラストマー(ii)を10重量部以上200重量部以下とを含む。(メタ)アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂は、30重量%以上98重量%以下の(メタ)アクリル系共重合体に由来する基幹ポリマーと、当該基幹ポリマーにグラフトされた2重量%以上70重量%以下の塩化ビニルモノマーまたは塩化ビニル混合モノマーに由来するグラフト鎖とを含み、かつ平均重合度が400以上2500以下である。さらに、厚み100μm以上のシート状に成形された場合に、シートの総厚の20%の肉厚における300nm以上400nm以下の紫外線透過率が5%以下の紫外線バリア性を有する。
【0016】
本発明では、(メタ)アクリルグラフト塩化ビニル系(PVC−AG)樹脂(i)を用いることによって、低温でも柔軟性に優れるため、優れた低温施工性が得られる。また、熱可塑性エラストマー(ii)を用いることによって、優れた引張特性、柔軟性および熱融着性が得られる。さらに、所定厚みにおける紫外線透過率を5%以下とする紫外線バリア性により、優れた耐久性を得ることができる。したがって、紫外線による劣化が紫外線バリア層の表面(つまり紫外線が入射する面)付近のみにとどまりポリ塩化ビニル系樹脂シートの大部分で劣化を免れるため、当該シート全体として機械的特性を維持することができる。したがって、ポリ塩化ビニル系樹脂シートに優れた長期耐候性が具わる。
【0017】
(3)
上記(1)または(2)のポリ塩化ビニル系樹脂組成物は、熱可塑性エラストマー(ii)が、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−一酸化炭素共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル−一酸化炭素共重合体、および塩素化ポリエチレンからなる群から選ばれてよい。
【0018】
これによって、より優れた引張特性、柔軟性および熱融着性が得られる。
【0019】
(4)
上記(1)から(3)のいずれかのポリ塩化ビニル系樹脂組成物は、(メタ)アクリル系粒子を含んでよい。
【0020】
これによって、より優れた低温施工性が得られる。
【0021】
(5)
上記(1)から(4)のいずれかのポリ塩化ビニル系樹脂組成物は、高分子系可塑剤(iv)が、200mPa・s/25℃以上の粘度を有してよい。
【0022】
これによって、より優れた長期耐久性を得ることができる。
なお、上記(5)における粘度とは、JIS Z8803に準拠して得られる粘度である。
【0023】
(6)
上記(1)および(3)から(5)のいずれかのポリ塩化ビニル系樹脂組成物は、厚み100μm以上のシート状に成形された場合に、シート総厚の20%の肉厚において、300nm以上400nm以下の紫外線透過率が5%以下の紫外線バリア性を有してよい。
【0024】
これによって、紫外線に対する優れた耐久性を得ることができる。したがって、紫外線による劣化が紫外線バリア層の表面(つまり紫外線が入射する面)付近のみにとどまりポリ塩化ビニル系樹脂シートの大部分で劣化を免れるため、当該シート全体として機械的特性を維持することができる。したがって、ポリ塩化ビニル系樹脂シートに優れた長期耐候性が具わる。
【0025】
(7)
上記(1)および(3)から(6)のいずれかのポリ塩化ビニル系樹脂組成物は、高分子系可塑剤(iv)が8重量部以上であってよい。
【0026】
これによって、より優れた熱融着性を得ることができる。
【0027】
(8)
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂シートは、上記(1)から(7)のいずれかの塩化ビニル系樹脂組成物を含むシートである。
【0028】
これによって、優れた低温施工性、引張特性、柔軟性、熱融着性、および長期耐久性が具わったポリ塩化ビニル系樹脂シートとなる。
【0029】
(9)
上記(8)のポリ塩化ビニル系樹脂シートは、厚みが1.0mm以上5.0mm以下であってよい。
【0030】
これによって、シートに、より優れた低温施工性が具わる。
【0031】
(10)
上記(8)または(9)のポリ塩化ビニル系樹脂シートは、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物の層に積層された被覆層を含んでよい。この場合、被覆層は、(メタ)アクリル系樹脂、およびポリ塩化ビニル系樹脂からなる群から選ばれる樹脂を含む樹脂組成物で構成される。
【0032】
これによって、被覆層に、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物の層とは別の特性を具えさせることができる。
【0033】
(11)
上記(8)から(10)のいずれかのポリ塩化ビニル系樹脂シートは、強化繊維を含んでよい。
(12)
上記(11)のポリ塩化ビニル系樹脂シートは、強化繊維を含む補強層と、補強層の一方の面に積層されたポリ塩化ビニル系樹脂組成物の層と、他方の面に積層されたポリ塩化ビニル系樹脂組成物の層または他の層と、を含んでよい。
【0034】
これらによって、ポリ塩化ビニル系樹脂シートに、良好な強度および寸法安定性が具わる。
【0035】
(13)
上記(7)から(12)のいずれかのポリ塩化ビニル系樹脂シートは、屋外に設置して用いられる施工資材であってよい。
【0036】
このように、本発明のポリ塩化ビニル系樹脂シートは、優れた低温施工性、引張特性、柔軟性、熱融着性、および長期耐久性を有するため、より厳しい外部環境である屋外に設置される施工資材として使用される場合に優れた施工特性および劣化抑制効果がより用に発揮される。このため、施工面に対する再施工の回数を低減することができる。したがって、特に専用金具を使用して施工する場合、長期的には、再施工の都度必要となる専用金具の打ち込み箇所の増加を抑えることができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、より優れた長期耐久性、低温施工性および熱融着性を有するポリ塩化ビニル系樹脂シートおよびそれを与えるポリ塩化ビニル系樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明のポリ塩化ビニル系樹脂防水シートの一例の模式的断面図である。
図2】本発明のポリ塩化ビニル系樹脂防水シートの一例の模式的断面図である。
図3】本発明のポリ塩化ビニル系樹脂防水シートの一例の模式的断面図である。
図4】本発明のポリ塩化ビニル系樹脂防水シートの一例の模式的断面図である。
図5】本発明のポリ塩化ビニル系樹脂防水シートの一例の模式的断面図である。
図6】本発明のポリ塩化ビニル系樹脂防水シートの一例の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
[1.ポリ塩化ビニル系樹脂組成物]
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂シートを与えるポリ塩化ビニル系樹脂組成物は、(メタ)アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂(i)、熱可塑性エラストマー(ii)、および高分子系可塑剤(iv)を必須成分として含み、さらに、(メタ)アクリル系粒子(iii)、紫外線遮蔽剤および無機充填剤の少なくともいずれかを含んでいてもよく、さらに、強化繊維を含んでいてもよい。あるいは、本発明のポリ塩化ビニル系樹脂シートを与えるポリ塩化ビニル系樹脂組成物は、(メタ)アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂(i)および熱可塑性エラストマー(ii)を必須成分として含み、さらに、高分子系可塑剤(iv)、(メタ)アクリル系粒子(iii)、紫外線遮蔽剤および無機充填剤の少なくともいずれかを含んでいてもよく、さらに、強化繊維を含んでいてもよい。
【0040】
[1−1.(メタ)アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂(PVC−AG樹脂)]
(メタ)アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂は、(メタ)アクリル系共重合体の基幹ポリマーと、塩化ビニルモノマーの重合体グラフト鎖とを含んで構成されるグラフト共重合体、および、(メタ)アクリル系共重合体の基幹ポリマーと、塩化ビニル混合モノマー(塩化ビニルモノマーと塩化ビニルモノマー以外のモノマーとの混合モノマーをいう)の重合体グラフト鎖とを含んで構成されるグラフト共重合体(これら(メタ)アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂(i)をPVC−AG樹脂(i)と称呼する場合がある)である。PVC−AG樹脂(i)を用いることは、常温(23℃)と低温(たとえば0℃以下)とで柔軟性の変化が小さいうえに柔軟性そのものを高めやすく、かつ優れた施工安定性が容易に得られる点で、好ましい。
【0041】
PVC−AG樹脂(i)は、平均重合度が400以上2500以下である。平均重合度が400以上であることは、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物の成形体の機械的特性を確保しやすい点で好ましく、2500以下であることは、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物の成形性を確保しやすい点で好ましい。これらの効果をより好ましく得る観点から、平均重合度はたとえば600以上1300以下、好ましくは620以上1300以下であってよい。
なお、平均重合度とは、塩化ビニル系樹脂をテトラヒドロフラン(THF)に溶解させ、濾過により不溶成分を除去した後、濾液中のTHFを乾燥除去して得た樹脂を試料とし、JIS K−6721「塩化ビニル樹脂試験方法」に準拠して測定した平均重合度を意味する。
【0042】
[1−1−1.基幹ポリマー]
PVC−AG樹脂(i)の基幹ポリマーを与える(メタ)アクリル系共重合体の量は、PVC−AG樹脂(i)中、30重量%以上80重量%以下であってよい。当該量が上記下限値以上であることは、低温での優れた柔軟性を得る点で好ましく、上記上限以下であることは、優れた成形性を得る点で好ましい。これらの特性をより好ましく得る観点から、(メタ)アクリル系共重合体の量は、35重量%以上、好ましくは40重量%以上、75重量%以下、好ましくは70重量%以下であってよい。
【0043】
PVC−AG樹脂(i)の基幹ポリマーを構成する(メタ)アクリル系共重合体は、共重合性モノマー成分として(メタ)アクリル系モノマー成分と、多官能モノマー成分とを含む。
【0044】
基幹ポリマーの共重合性モノマー成分である(メタ)アクリル系モノマー成分には、ガラス転移温度が−140℃以上、−20℃以下の単独重合体を与えることができるアルキル(メタ)アクリレートモノマーを含むことが好ましい。このように、PVC−AG樹脂(i)の基幹ポリマーを構成する(メタ)アクリル系共重合体に比較的ガラス転移温度が低い成分を含むことによって、低温での柔軟性がより高くなる。
【0045】
基幹ポリマーの共重合性モノマー成分である、上記(メタ)アクリル系モノマー成分には、さらに、−140℃以上、−20℃以下のガラス転移温度の単独重合体を与えることができる上記のアルキル(メタ)アクリレートモノマーとは異なる第2の(メタ)アクリレートモノマーを含まなくてもよいし含んでもよい。この第2の(メタ)アクリレートモノマーは、上記の多官能モノマーとは異なるモノマーである。
【0046】
ガラス転移温度が−140℃以上、−20℃以下の単独重合体を与えることができるアルキル(メタ)アクリレートモノマーとしては、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、sec−ブチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、イソノニルアクリレート、n−デシルアクリレート、n−オクチルメタクリレート、n−ノニルメタクリレート、n−デシルメタクリレート、及びラウリルメタクリレート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。上記アルキル(メタ)アクリレートモノマーは、(メタ)アクリロイル基を1個有することが好ましく、単官能のアルキル(メタ)アクリレートモノマーであることが好ましい。上記アルキル(メタ)アクリレートモノマーは、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0047】
第2の(メタ)アクリレートモノマー(上記アルキル(メタ)アクリレートモノマーとは異なる第2の(メタ)アクリレートモノマー)としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチルアクリレート、sec−ブチルアクリレート、n−ペンチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、クミルアクリレート、n−ヘプチルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、2−メチルヘプチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、n−ノニルメタクリレート、2−メチルオクチルメタクリレート、2−エチルヘプチルメタクリレート、n−デシルメタクリレート、2−メチルノニルメタクリレート、2−エチルオクチルメタクリレート、及びラウリル(メタ)アクリレート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0048】
第2の(メタ)アクリレートモノマーの単独重合体のガラス転移温度も、−140℃以上、−20℃以下であってよい。これによって、低温での高い柔軟性をより容易に得ることができる。しかしながら、本発明では、上記第2の(メタ)アクリレートモノマーの単独重合体のガラス転移温度が、−140℃未満であることも、−20℃を超えることも許容する。
上記第2の(メタ)アクリレートモノマーは、アルキル基を有していなくてもよい。上記第2の(メタ)アクリレートモノマーは、(メタ)アクリロイル基を1個有することが好ましく、単官能の(メタ)アクリレートモノマーであることが好ましい。上記第2の(メタ)アクリレートモノマーは、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0049】
基幹ポリマーの別の共重合性モノマー成分である多官能モノマーとしては、例えば、ジ(メタ)アクリレート及びトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。上記ジ(メタ)アクリレートとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート及びトリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。上記トリ(メタ)アクリレートとしては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート及びペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0050】
また、上記多官能モノマーの他の例としては、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジアリルフタレート、ジアリルマレート、ジアリルフマレート、ジアリルサクシネート、トリアリルイソシアヌレート等のジアリル化合物もしくはトリアリル化合物、ジビニルベンゼン、ブタジエン等のジビニル化合物等が挙げられる。これら以外の多官能モノマーを用いてもよい。上記多官能モノマーは、不飽和二重結合を2個以上有することが好ましい。上記多官能モノマーは1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0051】
基幹ポリマーの共重合性モノマー成分のうち、上記(メタ)アクリル系モノマー成分中、−140℃以上、−20℃以下の単独重合体を与えることができるアルキル(メタ)アクリレートモノマーの含有量は50重量%以上、100重量%以下、第2の(メタ)アクリレートモノマーの含有量は0重量%または0重量%超、50重量%以下であってよい。上記アルキル(メタ)アクリレートモノマーの含有量を50重量%以上とすることは、成形体の低温での柔軟性をより良好とする観点で好ましい。成形体の低温での柔軟性をより一層良好とする観点からは、上記(メタ)アクリル系モノマー成分中、−140℃以上、−20℃以下の単独重合体を与えることができるアルキル(メタ)アクリレートモノマーの含有量は60重量%以上、100重量%以下、第2の(メタ)アクリレートモノマーの含有量は0重量%または0重量%超、40重量%以下であってよい。
【0052】
基幹ポリマーは、上記(メタ)アクリル系モノマー成分100重量部に対し、上記多官能モノマー0.01重量部以上、30重量部以下を反応させることにより得られるものであってよい。各共重合性モノマー成分の使用量を上記の範囲内とすることによって、樹脂の製造効率が良好となる。樹脂の製造効率をより一層良好にする観点からは、上記(メタ)アクリル系共重合体は、上記(メタ)アクリル系モノマー成分100重量部と、多官能モノマー0.1重量部以上、10重量部以下とを反応させることにより得ることがより好ましい。
【0053】
[1−1−2.グラフト鎖]
PVC−AG樹脂(i)のグラフト鎖を与える重合性モノマーは、塩化ビニルモノマーのみであってもよいし、または塩化ビニル混合モノマー(塩化ビニルモノマーと、塩化ビニルモノマー以外の共重合性モノマーとの混合モノマー)であってもよい。
【0054】
PVC−AG樹脂(i)のグラフト鎖を与える塩化ビニルモノマーまたは塩化ビニル混合モノマーの量は、PVC−AG樹脂(i)中、20重量%以上70重量%以下であってよい。当該量が上記下限値以上であることは、優れた成形性を得る点で好ましく、上記上限値以下であることは、低温での優れた柔軟性を得る点で好ましい。これらの特性をより好ましく得る観点から、(塩化ビニルモノマーまたは塩化ビニル混合モノマーの量は、25重量%以上、好ましくは30重量%以上、65重量%以下、好ましくは60重量%以下であってよい。
【0055】
塩化ビニルモノマー以外の共重合性モノマーは、1種または複数種が組み合わされて用いられてよい。塩化ビニルモノマー以外の共重合性モノマーとしては、スチレン化合物、ジエン化合物、(メタ)アクリル酸アミド、ビニル化合物、不飽和ジカルボン酸ジエステル及びグリシジル化合物等が挙げられる。
【0056】
上記スチレン化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−tertブトキシスチレン及びクロロメチルスチレン等が挙げられる。上記ジエン化合物としては、ブタジエン、2,3−ジメチルブタジエン及びイソプレン等が挙げられる。上記(メタ)アクリル酸アミドとしては、(メタ)アクリル酸−アミド、N,N−ジメチルアミド及びN,N−プロピルアミド等が挙げられる。上記ビニル化合物としては、(メタ)アクリル酸−アニリド、(メタ)アクリロニトリル、アクロレイン、塩化ビニリデン、N−ビニルピロリドン及び酢酸ビニル等が挙げられる。上記不飽和ジカルボン酸ジエステルとしては、マレイン酸ジエチル、フマル酸ジエチル及びイタコン酸ジエチル等が挙げられる。上記グリシジル化合物としては、グリシジル(メタ)アクリレート、α−エチルグリシジル(メタ)アクリレート、α−n−プロピルグリシジル(メタ)アクリレート、α−n−ブチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシブチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシヘプチル(メタ)アクリレート、α−エチル−6,7−エポキシヘプチル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、ビニルグリシジルエーテル、o−ビニルベンジルグリシジルエーテル、m−ビニルベンジルグリシジルエーテル、p−ビニルベンジルグリシジルエーテル、α−メチル−o−ビニルベンジルグリシジルエーテル、α−メチル−m−ビニルベンジルグリシジルエーテル、α−メチル−p−ビニルベンジルグリシジルエーテル、2,3−ジグリシジルオキシメチルスチレン、2,4−ジグリシジルオキシメチルスチレン、2,5−ジグリシジルオキシメチルスチレン、2,6−ジグリシジルオキシメチルスチレン、2,3,4−トリグリシジルオキシメチルスチレン、2,3,5−トリグリシジルオキシメチルスチレン、2,3,6−トリグリシジルオキシメチルスチレン、3,4,5−トリグリシジルオキシメチルスチレン、及び2,4,6−トリグリシジルオキシメチルスチレン等が挙げられる。
【0057】
[1−1−3.PVC−AG樹脂(i)の構造]
PVC−AG樹脂(i)の形態および構造としては特に限定されないが、たとえば、粒子の形態を有しかつ、基幹ポリマーがコアを構成しグラフト鎖がシェルを構成するコアシェル構造を有する場合、樹脂粒子が安定である点、および成形体の強度性能の向上が図られる点で好ましい。
【0058】
PVC−AG樹脂(i)がコアシェル構造の粒子である場合、基幹ポリマーである(メタ)アクリル系共重合体によって構成されるコア自体がさらにコアシェル構造を有することによって、全体として多重コアシェル(たとえば二重コアシェル)を構成していてもよいし、コア自体がコアシェル構造を有しなくてもよい。
PVC−AG樹脂(i)のコア自体がさらなるコアシェル構造を有する場合、当該さらなるコアシェル構造のコア(サブコア)およびシェル(サブシェル)は、それぞれ、上述したアクリル系コアの共重合性モノマー成分から選択される成分の重合体であってよい。このうち、サブコアを構成する重合体は、サブシェルを構成する重合体よりも低温環境下で柔軟であるものが選択されることが好ましい。一例として、サブコアが2−エチルヘキシルアクリレートの重合体で構成され、サブシェルがn−ブチルアクリレートの重合体で構成されるコアシェル構造が挙げられる。
【0059】
なお、PVC−AG樹脂(i)のコアシェル構造は、シェルを構成するグラフト鎖(塩化ビニルモノマーの重合体グラフト鎖または塩化ビニル混合モノマーの重合体グラフト鎖)がシェル部分のみに存在している必要はなく、グラフト鎖はシェル部分を構成しつつもPVC−AG樹脂(i)全体にわたって存在し、コアに相当する部分に(メタ)アクリル系共重合体が分散している態様であってよい。
【0060】
PVC−AG樹脂(i)は、その基幹ポリマーを構成するための(メタ)アクリル系共重合体が多い程柔軟性に優れる傾向にある。特に、PVC−AG樹脂(i)の基幹ポリマーを構成するための(メタ)アクリル系共重合体が2−エチルヘキシルアクリレートを主成分とする(具体的には、コア全体を構成する(メタ)アクリル系共重合体の50重量%超、好ましくは60重量%以上、より好ましくは65重量%以上、たとえば70重量%を占める)場合にこの傾向が好ましく得られる。
PVC−AG樹脂(i)がコアシェル構造を有し、かつコア自体がさらなるコアシェル構造を有し、サブコアが2−エチルヘキシルアクリレート重合体で構成される場合も同様であり、コア全体に対して、サブコアを構成する2−エチルヘキシルアクリレート重合体が50重量%超(サブシェルが50重量%未満)、好ましくは60重量%以上、より好ましくは65重量%以上、たとえば70重量%を占める場合に上記の傾向が好ましく得られる。
【0061】
[1−1−4.PVC−AG樹脂(i)の合成]
PVC−AG樹脂(i)は、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などいずれの重合法で得られたものであってもよい。
PVC−AG樹脂(i)は、基幹ポリマーを構成するための(メタ)アクリル系共重合体を30重量%以上80重量%以下と、グラフト側鎖を構成するための塩化ビニルモノマーを20重量%以上70重量%以下と、を共重合させることにより得られるものである。または、上記ポリ塩化ビニル系樹脂は、基幹ポリマーを構成するための(メタ)アクリル系共重合体を30重量%以上、80重量%以下と、グラフト側鎖を構成するための塩化ビニルモノマー及び塩化ビニルモノマー以外の共重合性モノマーを合計20重量%以上、70重量%以下と、を共重合させることにより得られるものであってよい。これによって、低温でのより優れた柔軟性とより優れた成形性とを両立することができる。
【0062】
低温でのより一層優れた柔軟性とより一層優れた成形性とを両立する観点からは、PVC−AG樹脂(i)は、(メタ)アクリル系共重合体35重量%以上、75重量%以下と、塩化ビニルモノマー25重量%以上、65重量%以下とを共重合させることにより得ることが好ましく、または、(メタ)アクリル系共重合体35重量%以上、75重量%以下と、塩化ビニルモノマー及び塩化ビニルモノマー以外の共重合性モノマーを合計25重量%以上、65重量%以下とを共重合させることにより得られることが好ましい。
【0063】
上記(メタ)アクリレート系重合体を得る際、並びに上記(メタ)アクリレート系重合体と上記塩化ビニルモノマー等とを重合させる際には、重合開始剤を用いることが好ましい。上記重合開始剤は特に限定されない。上記重合開始剤は、モノマー成分に可溶である油溶性のフリーラジカルを発生する化合物であることが好ましい。上記重合開始剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0064】
上記重合開始剤は、ラジカル重合開始剤であることが好ましい。上記重合開始剤としては、有機パーオキサイド化合物及びアゾ化合物等が挙げられる。これら以外の重合開始剤を用いてもよい。上記有機パーオキサイド化合物としては、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシピバレート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジオクチルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート及びα−クミルパーオキシネオデカノエート等が挙げられる。上記アゾ化合物としては、2,2−アゾビスイソブチロニトリル及び2,2−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル等が挙げられる。
【0065】
上記(メタ)アクリレート系重合体を得る際に、並びに上記(メタ)アクリレート系重合体と上記塩化ビニルモノマー等とを重合させる際に、分散剤を用いることが好ましい。該分散剤は、モノマー成分の液滴を懸濁及び分散させ、分散を安定化させる役割を有する。上記分散剤は1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
上記分散剤は特に限定されない。上記分散剤の好ましい例としては、ポリ(メタ)アクリル酸塩、(メタ)アクリル酸塩/アルキルアクリレート共重合体、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリ酢酸ビニル及びその部分けん化物、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、デンプン、並びに無水マレイン酸/スチレン共重合体等が挙げられる。上記分散剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
重合に用いる成分(重合可能な成分)100重量部に対して、上記分散剤の使用量(含有量)は好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは1重量部以上、更に好ましくは3重量部以上、好ましくは20重量部以下、より好ましくは10重量部以下である。
【0066】
[1−2.熱可塑性エラストマー(ii)]
熱可塑性エラストマー(ii)は、ポリ塩化ビニル系樹脂シートの引張特性および柔軟性を良好とするため、ならびに、ポリ塩化ビニル系樹脂防水シートなどの防水資材の溶剤溶着性または熱融着性を高めるために含まれる。特に、総厚が薄膜化されたポリ塩化ビニル系樹脂防水シートなどの防水資材の溶剤溶着性または熱融着性を確保する場合に有用である。熱可塑性エラストマー(ii)は1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。熱可塑性エラストマー(ii)は、後述の(メタ)アクリル系粒子(iii)とは区別される。
【0067】
熱可塑性エラストマー(ii)の持つ機械的物性の付与効果をより一層良好に発揮する観点からは、熱可塑性エラストマー(ii)は、PVC−AG樹脂(i)と相溶可能であることが好ましい。本明細書において、「相溶可能」とは、PVC−AG樹脂(i)に対して、加熱成形時に均一分散することを意味する。
【0068】
熱可塑性エラストマー(ii)としては、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(NBR)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−酢酸ビニル−一酸化炭素共重合体(EVACO)、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル−一酸化炭素共重合体、アクリルゴム(アクリル酸エステル−2−クロロエチルビニルエーテル共重合体(ACM)、アクリル酸エステル−アクリロニトリル共重合体(ANM)など)、塩素化ポリエチレン、ポリウレタン、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー(塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体など)、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。熱可塑性エラストマー(ii)は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。熱融着性、柔軟性、及び引張破断伸びをより一層良好にする観点からは、熱可塑性エラストマー(ii)は、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−一酸化炭素共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル−一酸化炭素共重合体、および塩素化ポリエチレンであることが好ましい。これらの好ましい熱可塑性エラストマーを用いる場合に、好ましい熱可塑性エラストマーは、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0069】
常温(23℃)での柔軟性、及び引張破断伸びをより一層良好にする観点からは、熱可塑性エラストマー(ii)は、塩素化ポリエチレンであることが好ましい。
熱融着性、常温(23℃)での柔軟性、低温(たとえば0℃以下)での柔軟性、及び引張破断伸びをより一層良好にする観点からは、熱可塑性エラストマー(ii)は、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−一酸化炭素共重合体、又は、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル−一酸化炭素共重合体であることが好ましい。中でも、耐候性をより一層良好にする観点からは、熱可塑性エラストマー(ii)は、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル−一酸化炭素共重合体であることが好ましく、エチレン−(メタ)アクリル酸n−ブチル−一酸化炭素共重合体であることが好ましい。
【0070】
上記ポリ塩化ビニル系樹脂組成物において、PVC−AG樹脂(i)100重量部に対して、熱可塑性エラストマー(ii)の含有量は10重量部以上、200重量部以下であってよい。上記ポリ塩化ビニル系樹脂組成物において、PVC−AG樹脂(i)100重量部に対して、熱可塑性エラストマー(ii)の含有量は好ましくは20重量部以上、より好ましくは40重量部以上であり、好ましくは150重量部以下である。熱可塑性エラストマー(ii)の含有量が上記下限以上であると、熱可塑性エラストマー(ii)による柔軟性、熱融着性、溶剤溶着強度、および伸びなどの改質効果がより一層良好になる。熱可塑性エラストマー(ii)の含有量が上記上限以下であると、PVC−AG樹脂(i)による柔軟性がより一層良好になる。
【0071】
熱可塑性エラストマー(ii)は、低分子可塑剤と異なり移行または抜けが起こらないため、機械的特性の低下をより有効に防止することができる。
【0072】
また、熱可塑性エラストマー(ii)は、可塑剤の使用量を低減または完全排除することができる。本発明ではポリ塩化ビニル系樹脂としてPVC−AG樹脂(i)を用いるため、熱可塑性エラストマー(ii)を用いることによって、可塑剤の含有量を0重量%にしても良好な柔軟性を得ることができる。つまり、良好な柔軟性を得ることができるとともに、機械的特性の低下も有効に防止することができる。
【0073】
[1−3.(メタ)アクリル系粒子(iii)]
(メタ)アクリル系粒子(iii)は、特に低温での柔軟性を向上させて良好な低温施工性を得るために含まれてよい。(メタ)アクリル系粒子(iii)は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。(メタ)アクリル系粒子(iii)とは、(メタ)アクリル化合物から得られる粒子であり、より具体的には(メタ)アクリルゴム粒子である。
【0074】
(メタ)アクリル系粒子(iii)としては、カルボン酸変性(メタ)アクリルゴム、エポキシ変性(メタ)アクリルゴム、塩素化(メタ)アクリルゴム、シリコーン変性(メタ)アクリルゴムなどが挙げられる。
また、(メタ)アクリル系粒子(iii)は、架橋構造を有するコア部と、単量体成分がコア部にグラフト重合した重合体を主成分とするシェル部からなるコアシェル型グラフト共重合体であってよい。コア部は、たとえば、(メタ)アクリル酸エステル、ブタジエンおよびスチレン−ブタジエンからなる群から選ばれる少なくとも一つの単量体成分を含んで構成される架橋ゴムであってよく、シェル部は、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、芳香族アルケニル化合物およびシアン化ビニルからなる群から選ばれる少なくとも一つの単量体成分がコア部にグラフト重合した重合体であってよい。柔軟性をより良好に得る観点から、コアシェル型グラフト共重合体中、コア部の含有量がシェル部の含有量よりも大きいことが好ましい。
【0075】
コアシェル型グラフト共重合体のより具体的な例としては、ブチルアクリレートの架橋ゴム粒子に、メチルメタクリレートをグラフト共重合させて得られるアクリル系グラフト共重合体;ブタジエンまたはスチレン−ブタジエンの架橋ゴム粒子に、メチルメタクリレートおよび必要に応じてスチレンをグラフト共重合させて得られるメチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体(MCS樹脂);ブチルアクリレートの架橋ゴム粒子にアクリロニトリルおよびスチレンをグラフト共重合させて得られるASAなどが挙げられる。
【0076】
(メタ)アクリル系粒子(iii)が含まれる場合、その含有量は、PVC−AG樹脂(i)100重量部に対して、たとえば0重量部超80重量部以下であってよい。上記下限値超であることは、低温柔軟性および伸びの向上効果を良好に得る点で好ましく、上記上限値以下であることは、成形性を良好に得る点で好ましい。これらの特性をより良好に得る観点から、(メタ)アクリル系粒子(iii)の含有量は、PVC−AG樹脂(i)100重量部に対して、20重量部以上60重量部以下であることがより好ましい。
【0077】
[1−4.高分子系可塑剤(iv)]
高分子系可塑剤(iv)は、長期耐久性を損なわずに可塑化による柔軟性を得るため、または当該柔軟性と熱融着性とを得るために含まれる。高分子系可塑剤(iv)としては、重量平均分子量500以上、より好ましくは500以上10000以下の可塑剤であることが好ましい。分子量と粘度との間には相関があり、後述の粘度となる分子量であることがより好ましい。重量平均分子量が上記下限値以上であることは、可塑剤の保留性が良好で抜けまたは移行が起こりにくい点で好ましく、上記上限値以下であることは、可塑化能を発揮し易い点で好ましい。なお、重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定法(標準物質:ポリスチレン)によるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)を指すものとする。
【0078】
具体的には、高分子系可塑剤(iv)としてポリエステル系可塑剤などが挙げられる。ポリエステル系可塑剤は、多価アルコールおよび多価カルボン酸、ならびに、一価アルコールおよび/または一塩基酸から得られるポリエステルである。多価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロピレングリコール、1,5−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどのグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなどが挙げられる。多価カルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、ドデカンジカルボン酸などの飽和脂肪族二塩基酸、マレイン酸、フマル酸などの不飽和脂肪族二塩基酸、またはフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族二塩基酸などの二塩基酸などが挙げられる。一価アルコールとしては、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、アミルアルコール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール(2EH)、ノニルアルコール、イソノニルアルコール(INA)、デシルアルコール、イソデシルアルコール、ウンデシルアルコール(UA)、ドデシルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコールなどが挙げられる。一塩基酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、アラギン酸、ベヘン酸等の飽和脂肪族一塩基酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の不飽和脂肪族一塩基酸、安息香酸、トルイル酸、ケイ皮酸、ナフトエ酸等の芳香族一塩基酸などが挙げられる。より好ましくは、一般式 A−D−[−G−D−]n −A (ただし、Aは封鎖剤(一価アルコールまたは一価カルボン酸)、Dは二塩基酸、Gはグリコール、nは1以上の整数を表す)で表されるポリエステル系可塑剤が挙げられる。
これら高分子系可塑剤(iv)は単独または複数のブレンドで用いることができる。
【0079】
高分子系可塑剤(iv)が含まれる場合、その含有量は、PVC−AG樹脂(i)100重量部に対して、0.01重量部以上20重量部以下である。可塑剤の含有量が上記下限値以上であることは、可塑化能を発揮させやすい点で好ましい。可塑剤の含有量が上記上限値以下であることは、常温(23℃)での破断強度が良好でありシート全体としての強度に優れる点で好ましい。
さらに、高分子系可塑剤(iv)の含有量は、PVC−AG樹脂(i)100重量部に対して8重量部以上、好ましくは10重量部以上であってもよい。これによって、熱可塑性エラストマー(ii)固有の熱融着性能の大小によらず、ポリ塩化ビニル系樹脂シートが良好な熱融着性を得ることができる。
【0080】
高分子系可塑剤(iv)の粘度は、200mPa・s/25℃以上であってよい。好ましくは、高分子系可塑剤(iv)の粘度は、200mPa・s/25℃以上10000mPa・s/25℃以下であってよい。当該粘度が上記下限値以上であることは、抜けまたは移行を抑制する点で好ましく、上記上限値以下であることは、可塑化能を発揮し易い点で好ましい。上記の特性をより良好に得る観点から、高分子系可塑剤(iv)の粘度は、さらに1000mPa・s/25℃以上10000mPa・s/25℃以下であることが好ましい。
【0081】
[1−5.紫外線遮蔽剤]
紫外線遮蔽剤は、顔料、紫外線吸収剤、および無機系紫外線遮蔽剤を含む。紫外線遮蔽剤を用いる場合は顔料を必須とし、紫外線吸収剤および無機系紫外線遮蔽剤は顔料と併用して用いられることが好ましい。紫外線遮蔽剤を含ませることによって、ポリ塩化ビニル系樹脂層自体を紫外線バリア層として機能させることができる。以下、紫外線遮蔽剤を含む場合のポリ塩化ビニル系樹脂層を紫外線バリア層と記載する場合がある。
【0082】
顔料としては、カーボンブラック、ホワイトカーボン;フタロシアニン系、イソインドリノン系、ペリレン系、アゾ系、縮合アゾ系、キナクリドン系、アンスラキノン系、アニリンブラック系、トリフェニルメタン系、ジオキサジン系、酸化チタン系、酸化鉄系、酸化クロム系、クロム酸鉛系、スピネル型焼成系、ジケトピロロピロール系、酸化マンガン−酸化ビスマス複合塩系、酸化マンガン−イットリウム複合塩系、酸化鉄−酸化クロム複合塩系などの顔料が挙げられる。顔料は、1種または複数種の組み合わせで用いられてよい。
【0083】
顔料が含まれる場合、その含量は、所望の紫外線透過性能を得られるよう、紫外線バリア層の厚みに応じて適宜調整されるが、紫外線バリア層を構成する樹脂組成物(100重量%)中、たとえば1重量%以上10重量%以下、好ましくは2重量%以上5重量%以下であってよい。顔料の含量が上記下限値以上であることは、所望の紫外線透過率を達成するために必要な層厚寸法の肥大化を抑制する効果、ならびに、ポリ塩化ビニル系樹脂シートの機械的特性の低下を抑制する効果を良好に得る点で好ましく、上記上限値以下であることは、使用量に対する当該効果を効率的に得る点および加工性の点で好ましい。
【0084】
紫外線吸収剤としては、フェニルサレシレ−ト、p−tert−ブチルフェニルサリシレ−ト、p−オクチルフェニルサリシレ−トなどのサリチル酸系;2,4−ギヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系;2−(2’−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2’−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾールなどのベンゾトリアゾ−ル系;2−エチルへキシル−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレ−ト、エチル−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレ−トなどのシアノアクリレ−ト系の有機系紫外線吸収剤が挙げられる。紫外線吸収剤は、1種または複数種の組み合わせで用いられてよい。
【0085】
紫外線吸収剤が含まれる場合、その含量は、所望の紫外線透過性能を得られるよう、紫外線バリア層の厚みに応じて適宜調整されるが、紫外線バリア層を構成する樹脂組成物(100重量%)に対してたとえば0.05重量%以上0.6重量%以下、好ましくは0.1重量%以上0.6重量%以下であってよい。紫外線吸収剤の含量が上記下限値以上であることは、所望の紫外線透過率を達成するために必要な層厚寸法の肥大化を抑制する効果、ならびに、ポリ塩化ビニル系樹脂シートの機械的特性の低下を抑制する効果を良好に得る点で好ましく、上記上限値以下であることは、使用量に対する当該効果を効率的に得る点、およびブリードまたはブルームの発生を防止する点で好ましい。
【0086】
無機系紫外線遮蔽剤としては、酸化亜鉛、酸化チタン、炭酸カルシウム、酸化セリウム、シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、ゼオライト、グラファイトなどが挙げられる。無機充填剤としては、1種または複数種の組み合わせで用いられてよい。
【0087】
特に、熱可塑性エラストマー(ii)としてエチレン−酢酸ビニル−一酸化炭素共重合体を用いた場合は、エチレン−酢酸ビニル−一酸化炭素共重合体の脱酢酸による分解を防止し引張伸びを良好に保つ観点から、紫外線遮蔽剤を用いることが特に有用である。
【0088】
[1−6.無機充填剤]
無機充填剤としては、上述した無機系紫外線遮蔽剤と、紫外線遮蔽効果のない無機物との両方を含む。たとえば、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化亜鉛、炭酸亜鉛、硫化亜鉛、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムなどの金属酸化物または金属水酸化物;アルミナけい酸ナトリウム、ハイドロカルマイト、けい酸アルミニウム、けい酸マグネシウム、けい酸カルシウム、ゼオライト等のけい酸金属塩;活性白土、タルク、クレイ、ベンガラ、アスベスト、三酸化アンチモン、シリカ、ガラスビーズ、マイカ、セリサイト、ガラスフレーク、アスベスト、ウオラストナイト、チタン酸カリウム、PMF、石膏繊維、ゾノライト、MOS、ガラス繊維、炭素繊維などが挙げられる。無機充填剤は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。
【0089】
無機充填剤が含まれる場合、その含有量(上述の無機系紫外線遮蔽剤と、紫外線遮蔽効果のない無機物との合計量)は、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物(100重量%)中、たとえば2重量%以上80重量%以下、好ましくは5重量%以上50重量%以下、より好ましくは8重量%以上30重量%以下であってよい。無機充填剤の含有量が上記下限値以上であることは、ポリ塩化ビニル系樹脂シートの強度向上の点で好ましく、さらに、無機充填剤が上述の無機系紫外線遮蔽剤にも該当する場合は、紫外線バリア性を向上させてポリ塩化ビニル系樹脂シートの耐候性をより良好に得る点で好ましい。また、無機充填剤の含有量が上記上限値以下であることは、強度および伸びを良好に得る点で好ましい。
【0090】
[1−7.その他]
なお、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物には上述した成分の他、滑剤、加工助剤、安定剤、安定化助剤、光安定剤、および酸化防止剤などが含まれてもよい。
【0091】
滑剤としては、たとえば、ステアリン酸等の脂肪酸類;脂肪酸エステル類;オレフィンワックス類等が挙げられる。これらの滑剤は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。
【0092】
加工助剤としては、たとえば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート系モノマーの単独重合体もしくは共重合体;上記(メタ)アクリレート系モノマーとスチレン、ビニルトルエン、アクリロニトリル等のビニル系モノマーとの共重合体等が挙げられる。これらの加工助剤は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。
【0093】
安定剤としては、たとえば、ジブチル錫マレート、ジオクチル錫ラウレート等の有機錫系安定剤;鉛白、塩基性亜硫酸鉛、二塩基性亜硫酸鉛、三塩基性硫酸鉛、二塩基性亜燐酸鉛、シリカゲル共沈硅酸鉛、ステアリン酸鉛、安息香酸鉛、二塩基性ステアリン酸鉛、ナフテン酸鉛等の鉛系安定剤;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸系安定剤などが挙げられる。これらの安定剤は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。
【0094】
安定化助剤としては、たとえば、リン酸エステル等が挙げられる。これらの安定化助剤は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。
【0095】
光安定剤としては、たとえば、ヒンダードアミン系光安定剤等が挙げられる。これらの光安定剤は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。
【0096】
上述のポリ塩化ビニル系樹脂組成物は、長期耐性を良好に確保する観点から、上述した高分子系可塑剤以外の可塑剤を実質的に含まないことが好ましい。含まないことが好まし可塑剤としては、フタル酸エステル系可塑剤、アジピン酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、エポキシ化植物油系可塑剤、テトラヒドロフタル酸系可塑剤、アゼライン酸系可塑剤、セバチン酸系可塑剤、ステアリン酸系可塑剤、クエン酸系可塑剤、トリメリット酸系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、ビフェニレンポリカルボン酸系可塑剤、エポキシ化植物油系可塑剤などが挙げられるが、このうち、特に、分子量500以上の可塑剤(トリメリット酸系可塑剤およびエポキシ化植物油系可塑剤など)を除く低分子可塑剤は、抜けまたは移行が起こりやすいため、実質的に含まないことがより好ましい。実質的に含まないとは、完全に排除されることつまり全く含まない(含量が0重量%)ことが好ましいが、上述の本発明の長期耐久性を損なわない程度の極微量(たとえば、当該低分子可塑剤を含む層を構成する樹脂組成物100重量%中、0重量%超4重量%以下、好ましくは3重量%以下)が混入している態様も許容する。
【0097】
[2.ポリ塩化ビニル系樹脂シート]
本発明のポリ塩化ビニル樹脂シートは、上述のポリ塩化ビニル系樹脂組成物から成形することができる。ポリ塩化ビニル系樹脂シートは、柔軟性が求められるとともに、使用時または保存時に自然環境(光、温度、水分などによる負荷)に晒されうるシートであればよい。たとえば、施工シートおよび役物などの施工資材(好ましくは防水シートおよび防水などの防水資材);合皮生地、エナメル生地、化粧シートなどの生地材が挙げられる。
【0098】
[2−1.物性]
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂シートは、所望の長期耐久性、低温施工性および熱融着性を奏する各種物性を有していることが好ましい。
【0099】
長期耐久性の観点からは、たとえば、劣化条件に付された後の機械的特性が、当該劣化条件に付される前の当該機械的特性をできるだけ維持することが好ましい。具体例として、紫外線照射強度75mW/cmで600時間(10年相当の紫外線照射量に相当)の劣化条件に供された後の引張破断伸び(200mm/分は、たとえば150%以上、好ましくは200%以上、より好ましくは300%以上であってよい。これによって、好ましい割れ耐性が具わる。引張破断伸びの範囲内の上限は特に限定されないが、施工面への追従性などを考慮するとたとえば1000%であってよい。
なお、引張破断伸びは、JIS K6251に準拠したダンベル8号形試験片を用い、試験室の標準温度及び標準湿度に従って、湿度を調節した環境下での状態調節を行った後、破断時伸びを測定して得られる。より具体的には、引張破断伸び(%)は、引張条件200mm/分、初期つかみ間距離30mm、23℃の条件下、初期つかみ間距離に対するつかみ間距離の増加量の割合(%)として得てよい。なお、成形後のシートが強化繊維(後述)を含む場合は、強化繊維破断時の伸びではなく、強化繊維破断後も樹脂部分が伸び続け、当該樹脂部分が破断したときの伸びを引張破断伸びとする。
【0100】
低温施工性の観点からは、5℃での貯蔵弾性率が2×10Pa以上5×10Pa以下、好ましくは2×10Pa以上4×10Pa以下、より好ましくは2×10Pa以上3×10Pa以下であってもよい。貯蔵弾性率が上記下限値以上であることは、適度なコシによって施工性に優れる点で好ましく、上記上限値以下であることは、低温環境下でも適度な柔軟性によって施工性に優れる点で好ましい。
なお、貯蔵弾性率は、JIS K 7244−4に準拠して得られる測定値である。
【0101】
熱融着性の観点からは、熱融着(押し付け荷重2kg)後に常温に冷却した試験片を速度100mm/分で剥離した場合の剥離応力(mN)を当該試験片の幅(mm)で除して得られる剥離強度(mN/mm)が、2000mN/mm以上、好ましくは3000mN/mm以上であってよい。これによって、良好な接着性(熱融着強度)が得られる。
【0102】
耐風圧の観点からは、熱劣化試験で促進劣化された場合の240時間における引張強度が、1MPa以上、好ましくは3MPa以上、より好ましくは5MPa以上であってよい。これによって、台風などによる強風での負圧負荷による破断を防ぐことができる。
なお、引張強度は、JIS K6251に準拠したダンベル8号形試験片を用い、試験室の標準温度及び標準湿度に従って、湿度を調節した環境下での状態調節を行った後、破断時強度を測定して得られる。なお、成形後のシートが強化繊維(後述)を含む場合は、強化繊維破断時の伸びではなく、強化繊維破断後も樹脂部分が伸び続け、当該樹脂部分が破断したときの強度を引張強度とする。
【0103】
さらにポリ塩化ビニル系樹脂シートは、紫外線遮蔽剤を含むことによって、紫外線バリア層が、シート総厚の20%の肉厚において、300nm以上400nm以下の紫外線透過率にして5%以下、好ましくは2%以下、より好ましくは1%以下の紫外線バリア性を有することが好ましい。これによって、紫外線による劣化が紫外線バリア層の表面(つまり紫外線が入射する面)付近のみにとどまりポリ塩化ビニル系樹脂シートの大部分で劣化を免れるため、当該シート全体として機械的特性の低下を抑制することができる。したがって、ポリ塩化ビニル系樹脂シート全体としての機械的特性が良好に維持され、優れた耐久性が備わる。
なお、上述のようにポリ塩化ビニル系樹脂層に紫外線遮蔽剤を含ませることで当該ポリ塩化ビニル系樹脂層自体を紫外線バリア層として機能させてもよいし、ポリ塩化ビニル系樹脂層の被覆層(後述)に紫外線遮蔽剤を含ませることで当該被覆層を紫外線バリア層として機能させてもよい。さらに、紫外線遮蔽剤は、ポリ塩化ビニル系樹脂層と被覆層とのいずれか一方のみに含まれてもよいし、両方に含まれてもよい。
【0104】
[2−2.層構成]
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂シートは、上述のPVC−AG樹脂(i)、熱可塑性エラストマー(ii)、および高分子系可塑剤(iv)を含む本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物の成形層(後述図1から図6におけるポリ塩化ビニル系樹脂層200,200a)を少なくとも含む。ポリ塩化ビニル系樹脂シートが施工資材である場合、施工時において溶剤溶着または熱溶着によって施工面に接着することができる。
【0105】
図1から図6に、便宜上、本発明のポリ塩化ビニル系樹脂シートが施工シートの一例の防水シートである場合を挙げ、その模式的断面図を示す。以下、図面に基づいて説明するが、以下の説明は、ポリ塩化ビニル系樹脂シートが防水シート以外のシートである場合にも同様に適用される。
【0106】
図1に示すポリ塩化ビニル系樹脂防水シート100は、本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物で構成されるポリ塩化ビニル系樹脂層200のみで構成されている。
図2に示すポリ塩化ビニル系樹脂防水シート100aは、本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物に強化繊維(後述)を含むポリ塩化ビニル系樹脂層200aのみで構成されている。ポリ塩化ビニル系樹脂層200aは、強化繊維を含む補強層210の少なくも一方の面に本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物(強化繊維なし)の層220が積層された態様で構成されている。したがって、補強層210の一方の面に本発明の本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物(強化繊維なし)の層220が積層され、他方の面に本発明の本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物(強化繊維なし)の層220(図2の態様)または他の層(後述図6の態様)が積層されてよい。図2に示された態様では、補強層210の両方に本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物(強化繊維なし)の層220が設けられている。この場合、本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物(強化繊維なし)の層220の一方と他方とは、異なる組成のポリ塩化ビニル系樹脂組成物で構成されることで、それぞれ異なる機能を付してよい。一方のポリ塩化ビニル系樹脂組成物(強化繊維なし)の層220は、たとえば熱可塑性エラストマーを他方よりも多く含ませるなどにより、施工時において、施工面に溶剤溶着または熱溶着による接着層としてより適するように機能させることができる。さらにこの場合において、他方のポリ塩化ビニル系樹脂組成物(強化繊維なし)の層220は、紫外線遮蔽剤を含ませることにより、バリア層として機能させることができる。
【0107】
図3に示すポリ塩化ビニル系樹脂防水シート100bは、ポリ塩化ビニル系樹脂層200に、他の樹脂で構成される被覆層310が積層されている。被覆層310は、施工時における表側に位置する。図4に示すポリ塩化ビニル系樹脂防水シート100cは、ポリ塩化ビニル系樹脂層200に、被覆層310に加え、被覆層310とは反対側に、他の層として他の樹脂で構成される裏層320とが積層されている。裏層320は、施工面に接着させられるための、接着性樹脂組成物で構成された接着層であってもよいし、本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物ではないポリ塩化ビニル系樹脂組成物(上述の低分子可塑剤を含んでもよい)で構成された層であってもよいし、それらの積層であってもよい。図5に示すポリ塩化ビニル系樹脂防水シート100dは、ポリ塩化ビニル系樹脂層200aに被覆層310が積層されている。図6に示すポリ塩化ビニル系樹脂防水シート100eは、ポリ塩化ビニル系樹脂層200aに、他の層として他の樹脂で構成される裏層320が積層されている。図示された態様では、補強層210の一方の面に本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物(強化繊維なし)の層220が設けられ、他方の面に裏層320が積層されている。
これらの態様において、被覆層310および裏層320は、上述の物性を損なわないように積層される。
【0108】
なお、図示された態様の他、ポリ塩化ビニル系樹脂層200に他の樹脂で構成される内部層が内在していてもよい。また、被覆層310、裏層320および内部層は、単層であってもよいし、複層であってもよい。
【0109】
ポリ塩化ビニル系樹脂防水シート100におけるポリ塩化ビニル系樹脂層200、ポリ塩化ビニル系樹脂防水シート100aにおける他方のポリ塩化ビニル系樹脂組成物(強化繊維なし)の層220、ポリ塩化ビニル系樹脂防水シート100b,100c,100dにおける被覆層310は、紫外線遮蔽剤を含有することで、紫外線バリア層として機能させることもできる。
【0110】
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂防水シート100,100a,〜,100eのように、上述のポリ塩化ビニル系樹脂層200,200aと他の層(上述の例では、被覆層310、裏層320、および内部層)との積層体として構成される場合、当該他の層が占める厚みの合計は、上記の物性(特に引張破断伸び)を損なわないようにする観点から、ポリ塩化ビニル系樹脂防水シート100,100a,〜,100e全体の厚みのたとえば20%以下であることが好ましい。他の層によって付加されうる特性(たとえば紫外線バリア性など)を確保しやすくする観点から、当該他の層が占める厚みの合計は、1%以上であることが好ましい。
【0111】
[2−3.ポリ塩化ビニル系樹脂層]
ポリ塩化ビニル系樹脂層200,200aは、上述のポリ塩化ビニル系樹脂組成物の成形物を含んで構成される。
【0112】
[2−3−1.強化繊維]
ポリ塩化ビニル系樹脂層は、強化繊維を含んでよい。強化繊維を含むポリ塩化ビニル系樹脂層200aでは、ポリ塩化ビニル系樹脂層が強化繊維で強化されている。強化繊維を含む層である補強層210では、強化繊維にポリ塩化ビニル系樹脂組成物が含浸されていてもよいし、含浸されていなくてもよい。強化繊維を含むことによって、ポリ塩化ビニル系樹脂シートの強度および寸法安定性の向上効果が得られる。特に、総厚が薄膜化されたポリ塩化ビニル系樹脂シートの強度を確保する場合に有用である。
【0113】
強化繊維の形態としては特に限定されず、たとえば、トウ、クロス、チョップドファイバー、連続繊維などの繊維の方向を一方向に引き揃えた形態;連続繊維を経緯にして織物とした形態;トウの方向を一方向に引き揃え横糸補助糸で保持した形態;繊維の方向を一方向に引き揃えた複数の繊維シートを、それぞれ繊維の方向が異なるように重ね補助糸でステッチして留めたマルチアキシャルワープニットの形態;および、繊維の不織布の形態などが挙げられる。
【0114】
繊維は、PAN (ポリアクリロニトリル) 系炭素繊維およびピッチ系炭素繊維などの炭素繊維;スチール繊維などの金属繊維;ガラス繊維、セラミックス繊維、ボロン繊維などの無機繊維;ならびに、アラミド、ポリエステル、ポリエチレン、ナイロン、ビニロン、ポリアセタール、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール、高強度ポリプロピレンなどの有機繊維;ケナフ、麻などの天然繊維が挙げられる。これらの繊維は、単独または複数種の組み合わせで使用されてよい。
【0115】
上述の繊維の中でも、伸びが良好で繰り返し荷重に対して強いことから、ポリエステルクロスが特に好ましい。
【0116】
[2−3−2.厚み]
ポリ塩化ビニル系樹脂層200,200aの厚みは、低温柔軟性を確保しやすくする観点、または、当該観点とともに、良好な溶剤溶着性または熱融着性を得やすくする観点から、ポリ塩化ビニル系樹脂シートの総厚の80%以上であることが好ましい。
【0117】
[2−4.被覆層]
図3から図5に示したようにポリ塩化ビニル系樹脂防水シート100b,100c,100dが被覆層310を有する場合において、被覆層310が紫外線遮蔽剤を含む場合、被覆層310を構成する樹脂組成物中に含ませることができる紫外線遮蔽剤の具体例としては、上述のポリ塩化ビニル系樹脂組成物に含んでよい紫外線遮蔽剤として述べたものが挙げられる。被覆層310を構成する樹脂組成物中の紫外線遮蔽剤の含量は、上述のポリ塩化ビニル系樹脂層中に含んでよい量と同様である。
【0118】
また、被覆層310には上述した無機充填材を含ませることもできる。無機充填材の具体例としては、上述のポリ塩化ビニル系樹脂層に含んでよい無機充填材として述べたものが挙げられる。被覆層310を構成する樹脂組成物中の無機充填材の含量は、上述のポリ塩化ビニル系樹脂層中に含んでよい量と同様である。
【0119】
被覆層310を構成する樹脂は、(メタ)アクリル系樹脂およびポリ塩化ビニル系樹脂からなる群から選ばれる樹脂を含んでよい。
【0120】
(メタ)アクリル系樹脂としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチルからなる群から選ばれる(メタ)アクリル酸系モノマー成分で構成される単独重合体または共重合体であってよい。あるいは、(メタ)アクリル系樹脂は、上記の(メタ)アクリル酸系モノマーの単独重合体または共重合体を主鎖として、(メタ)アクリル系モノマー以外のモノマー(以下、その他のモノマーと記載する。)の重合体側鎖が導入されているグラフト共重合体であってもよい。その他のモノマーとしては、スチレン、アクリロニトリル、塩化ビニル、酢酸ビニルなどが挙げられる。これらの(メタ)アクリル系樹脂は、1種または複数種のブレンドで用いられてよい。その他のモノマーの重合体側鎖は、柔軟性等を考慮して、(メタ)アクリル酸系モノマーの単独重合体または共重合体(主鎖)100重量部に対してたとえば60重量部以下であってよい。
【0121】
被覆層310の柔軟性をより好ましく得る観点からは、(メタ)アクリル系樹脂は、塩素を含むモノマー(たとえば塩化ビニルモノマー)成分を共重合成分として実質的に含んでいないことが好ましい。塩素を含むモノマー成分を共重合成分として実質的に含んでいないとは、塩素を含むモノマー成分を全く含まない(含量が0重量部)態様に加え、柔軟性を損なわない程度に微量(たとえば、(メタ)アクリル酸系モノマーの単独重合体または共重合体100重量部に対して0重量部超、1重量部以下、好ましくは0.5重量部以下)共重合している態様も許容する。したがって、(メタ)アクリル系樹脂は、好ましくは、(メタ)アクリル酸系モノマー成分で構成される単独重合体および共重合体、ならびに、当該単独重合体および共重合体を主鎖として、スチレン、アクリロニトリルおよび酢酸ビニルからなる群から選ばれる他のモノマーの重合体がグラフト側鎖として導入されているグラフト共重合体である。この場合も、(メタ)アクリル系樹脂は、1種または複数種のブレンドで用いられてよい。
【0122】
ポリ塩化ビニル系樹脂としては、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリエチレン、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−エチレン共重合体、塩化ビニル−プロピレン共重合体、塩化ビニル−スチレン共重合体、塩化ビニル−イソブチレン共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−スチレン−無水マレイン酸三元共重合体、塩化ビニル−スチレン−アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル−ブタジエン共重合体、塩化ビニル−イソプレン共重合体、塩化ビニル−塩素化プロピレン共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン−酢酸ビニル三元共重合体、塩化ビニル−マレイン酸エステル共重合体、塩化ビニル−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル−各種ビニルエーテル共重合体などが挙げられる。
【0123】
ポリ塩化ビニル系樹脂は、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などいずれの重合法で得られたものであってもよい。
ポリ塩化ビニル系樹脂が共重合体である場合、共重合体の態様としては限定されず、ランダム共重合、交互共重合、ブロック共重合、およびグラフト共重合を問わない。
上記のポリ塩化ビニル系樹脂は、1種または複数種のブレンドで用いられてよい。
【0124】
とくにポリ塩化ビニル系樹脂がグラフト共重合の態様である場合、ポリ塩化ビニル系樹脂は、(メタ)アリルグラフト塩化ビニル系(PVC−AG)樹脂およびエチレン−酢酸ビニルグラフト塩化ビニル系(PVC−TG)樹脂からなる群から選ばれるグラフト塩化ビニル系樹脂であってよい。これによって、被覆層310の柔軟性をより好ましく得ることができる。
【0125】
(メタ)アクリルグラフト塩化ビニル系(PVC−AG)樹脂(i)は、上述のポリ塩化ビニル系樹脂層の成分として記載したものと同様である。
【0126】
エチレン−酢酸ビニルグラフト塩化ビニル系(PVC−TG)樹脂は、エチレン−酢酸ビニル共重合体の基幹ポリマーと、塩化ビニルモノマーの重合体グラフト鎖とを含んで構成されるグラフト共重合体、および、(エチレン−酢酸ビニル共重合体の基幹ポリマーと、塩化ビニル混合モノマー(塩化ビニルモノマーと塩化ビニルモノマー以外のモノマーとの混合モノマーをいう)の重合体グラフト鎖とを含んで構成されるグラフト共重合体である。基幹ポリマーがエチレン−酢酸ビニル共重合体であることを除いて上述したPVC−AG樹脂(i)と同様である。
【0127】
PVC−TG樹脂の基幹ポリマーを与えるエチレン-酢酸ビニル共重合体の量は、35重量部以上80重量部以下である。当該量が上記下限値以上であることは、ポリ塩化ビニル系樹脂層の柔軟性を高めてポリ塩化ビニル系樹脂成形体の耐劣化性を向上させる点、および低温柔軟性を維持する点などで好ましく、上記上限値以下であることは、ポリ塩化ビニル系樹脂層の成形性を得やすい点で好ましい。これらの特性をより好ましく得る観点から、エチレン-酢酸ビニル共重合体の量は、40重量部以上75重量部以下であってよい。
【0128】
PVC−TG樹脂の基幹ポリマーを構成するエチレン-酢酸ビニル共重合体としては特に限定されない。たとえば、エチレン−酢酸ビニル共重合体は、エチレン−酢酸ビニル共重合体に対する酢酸ビニル由来の構成単位の重量比がたとえば1.5重量%以上40重量%以下であってよい。酢酸ビニルの構成単位の重量比が上記下限値以上であることは、ゴム弾性を高めてポリ塩化ビニル系樹脂層の柔軟性を高める点、および低温柔軟性を維持する点などで好ましく、上記上限値以下であることは、良好なハンドリング性および加工性を得る点で好ましい。これらの特性を好ましく得る観点から、酢酸ビニルの構成単位の重量比は、10重量%以上35重量%以下であることが好ましい。
なお、エチレン-酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル含有量はJIS K 6924に準拠して測定することができる。
【0129】
また、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物層と同様に、被覆層310には可塑剤を実質的に含まないことが好ましい。これによって、可塑剤の抜けによる機械的特性の低下を抑制することができる。
【0130】
[2−5.総厚]
ポリ塩化ビニル系樹脂防水シート100,100a,〜,100e全体の厚みは、たとえば1.0mm以上5.0mm以下であってよい。上記下限値以上であることは、ポリ塩化ビニル系樹脂層による柔軟性を確保しやすくし且つ強度を確保する観点、または当該観点とともに良好な溶剤溶着性または熱融着性を得やすくする観点で好ましく、上記上限値以下であることは、ポリ塩化ビニル系樹脂防水シート100,100a,〜,100eの重量を最小限にして良好な施工性を得る観点から好ましい。これらの特性をより良好に得る観点から、ポリ塩化ビニル系樹脂防水シートの厚みは、好ましくは1.0mm以上3.0mm以下、より好ましくは1.0mm以上2.0mm以下、さらに好ましくは1.0mm以上1.5mmであってよい。
【0131】
[2−6.製造]
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂シートへの成形法は、当業者が容易に選択することができる。たとえばポリ塩化ビニル系樹脂防水シートは、カレンダー法または押出法などによってシート成形することで得ることができる。ポリ塩化ビニル系樹脂防水シートが複層構造である場合、それぞれの層を構成する樹脂組成物を調製した後、たとえば、PVC−AG樹脂(i)と熱可塑性エラストマー(ii)とを含むポリ塩化ビニル系樹脂組成物をカレンダー法、押出法などによってシート成形し、他の層を構成する樹脂組成物をカレンダー法により積層して一体化してもよいし、それぞれの樹脂組成物を予め個別にカレンダー法または押出法によりシート成形し、その後、ラミネート法などの積層方法で積層一体化してもよい。また、それぞれの樹脂組成物を共押出によって多層化してもよい。ポリ塩化ビニル系樹脂防水役物は、プレス成形などによって、出隅入隅などの屈曲形状または角形状に合わせて成形されてよい。屈曲形状または角形状に対応する部分は、防水シートと接合部分よりも厚肉に形成されてよい。
【0132】
[2−7.使用]
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂シートは、劣化抑制効果を有するため、長期使用に付される用途で用いられることができる。
たとえば、屋外のように熱および/または紫外線に曝露される環境で用いられる施工資材である場合に有用である。本発明のポリ塩化ビニル系樹脂シートが施工シートである場合、その施工においては、少なくとも熱融着が行われる。具体的には、施工面の被覆において、接着剤を裏面に塗布して施工面に貼り付けてもよいし、溶剤で裏面を溶解させて溶剤溶着により施工面に貼り付けてもよいし、専用金具および電磁誘導加熱機の組み合わせまたは温風溶接機を用いて熱融着により施工面に固定してもよい。シート同士の接合においては、溶剤溶着または熱融着を行うことができる。本発明の塩化ビニル系樹脂組成物は、長期耐候性によって、施工面に対する再施工の回数を低減することができる。したがって、特に専用金具を使用して施工する場合、長期的には、再施工の都度必要となる専用金具の打ち込み箇所の増加を抑えることができる。
また、本発明の塩化ビニル系樹脂シートが生地材である場合は、たとえば基布の表面に積層された態様で、鞄、靴、服、家具などに加工されてよい。
【実施例】
【0133】
以下、実施例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の発明に限定されるものではない。
実施例1から実施例15、および比較例1において、以下のようにアクリルグラフト塩化ビニル系樹脂組成物(a)およびアクリルグラフト塩化ビニル系樹脂シート(b)を製造した。アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂組成物(a)の配合を表1および表3に、アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂シート(b)の製造条件および物性評価の結果を表2および表4に示す。
【0134】
[実施例1]
<ポリ塩化ビニル系樹脂組成物−アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂組成物(a)の製造>
(メタ)アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂(i)として、アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂(PVC−AG40、積水化学社製、40重量%のアクリル系共重合体と、60重量%の塩化ビニルモノマーとのグラフト重合体、平均重合度640)と、スズ安定剤(TVS#KK8570、日東化成社製)と、熱可塑性エラストマー(ii)としてエチレン−アクリル酸n−ブチル−一酸化炭素共重合体(エルバロイHP441、三井デュポンポリケミカル社製)および塩素化ポリエチレン(タイリン6000、ダウ・ケミカル社製)と、(メタ)アクリル系粒子(iii)としてアクリルゴム(KM357P、ダウ・ケミカル社製)と、高分子系可塑剤(iv)として(PN−7550、ADEKA社製、粘度4850 mPa・s/25℃)と、顔料(カーボンブラックと酸化チタンとを含む混合物)と、炭酸カルシウムと、酸化防止剤としてフェノール系酸化防止剤(Irganox1010、BASFジャパン社製)と、紫外線吸収剤として2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール(Viosorb550、共同薬品社製)と、滑剤(wax−OP、クラリアントケミカルズ社製)を下記の表1に示す配合量で混合して、アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂組成物(a)を得た。
【0135】
<ポリ塩化ビニル系樹脂防水シート−アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂シート(b)の製造>
得られたアクリルグラフト塩化ビニル系樹脂組成物(a)を、異方向2軸コニカル押出機を用いて下記の表2に示す条件(成形樹脂温度および製膜厚さ)で押出成形し、図1に相当する層構成のアクリルグラフト塩化ビニル系樹脂シート(b)を得た。
【0136】
[実施例2]
アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂組成物(a)の製造において、高分子系可塑剤(iv)、顔料、炭酸カルシウム、酸化防止剤量および紫外線吸収剤の添加量を表1のとおりに変更し、アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂シート(b)の製造において、製膜厚さを表2のとおりに変更したことを除き、実施例1と同様にして、アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂組成物(a)、および図1に相当する層構成のアクリルグラフト塩化ビニル系樹脂シート(b)を得た。
【0137】
[実施例3]
アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂組成物(a)の製造において、高分子系可塑剤(iv)、顔料、炭酸カルシウムおよび酸化防止剤量の添加量を表1のとおりに変更し、アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂シート(b)の製造において、製膜厚さを表2のとおりに変更したことを除き、実施例1と同様にして、アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂組成物(a)、および図1に相当する層構成のアクリルグラフト塩化ビニル系樹脂シート(b)を得た。
【0138】
[実施例4]
アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂組成物(a)の製造において、高分子系可塑剤(iv)、顔料、炭酸カルシウムおよび紫外線吸収剤の添加量を表1のとおりに変更し、アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂シート(b)の製造において、強化繊維としてポリエステルクロス(ESW33130、倉敷紡績社製)を用いたことを除き、実施例1と同様にして、アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂組成物(a)、および図2に相当する層構成のアクリルグラフト塩化ビニル系樹脂シート(b)を得た。
【0139】
[実施例5]
アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂組成物(a)の製造において、熱可塑性エラストマー(ii)をエチレン−酢酸ビニル−一酸化炭素共重合体(エルバロイ742、三井・デュポンポリケミカル社製)および塩素化ポリエチレンに変更し、高分子系可塑剤(iv)、顔料、炭酸カルシウム、酸化防止剤および紫外線吸収剤の添加量を表1のとおりに変更し、アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂シート(b)の製造において、製膜厚さを表2の通りに変更したことを除き、実施例4と同様にして、アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂組成物(a)、および図2に相当する層構成のアクリルグラフト塩化ビニル系樹脂シート(b)を得た。
【0140】
[実施例6]
アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂組成物(a)の製造において、熱可塑性エラストマー(ii)をエチレン−酢酸ビニル−一酸化炭素共重合体(エルバロイ742、三井・デュポンポリケミカル社製)および塩素化ポリエチレンに変更し、高分子系可塑剤(iv)、顔料、炭酸カルシウム、酸化防止剤および紫外線吸収剤の添加量を表1のとおりに変更し、アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂シート(b)の製造において、アクリル系樹脂(クラレ製アクリル樹脂、商品名パラペットSA1000−CW001)100重量部と紫外線遮蔽剤(鉄・クロム酸化物系化合物および酸化チタンの混合物)11重量部とを含む被覆層用樹脂組成物を共押出し、それぞれの製膜厚さを表2のとおりとしたこと以外は実施例4と同様にして、アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂組成物(a)、および図5に相当する層構成のアクリルグラフト塩化ビニル系樹脂シート(b)を得た。
【0141】
[実施例7]
アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂組成物(a)の製造において、高分子系可塑剤(iv)、顔料、炭酸カルシウムおよび酸化防止剤の添加量を表1のとおりに変更し、アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂シート(b)の製造において、製膜厚さを表2のとおりに変更したことを除き、実施例1と同様にして、アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂組成物(a)、および図1に相当する層構成のアクリルグラフト塩化ビニル系樹脂シート(b)を得た。
【0142】
[実施例8]
アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂組成物(a)の製造において、熱可塑性エラストマー(ii)としてのエチレン−アクリル酸n−ブチル−一酸化炭素共重合体および塩素化ポリエチレン、ならびにアクリル系粒子(iii)の添加量を表1のとおりに変更し、高分子可塑剤(iv)および紫外線吸収剤を添加せず、アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂シート(b)の製造において、製膜厚さを表2のとおりに変更したことを除き、実施例1と同様にして、アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂組成物(a)、および図1に相当する層構成のアクリルグラフト塩化ビニル系樹脂シート(b)を得た。
【0143】
[実施例9]
アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂組成物(a)の製造において、アクリル系粒子(iii)を添加せず、アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂シート(b)の製造において、製膜厚さを表4のとおりに変更したことを除き、実施例8と同様にして、アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂組成物(a)、および図1に相当する層構成のアクリルグラフト塩化ビニル系樹脂シート(b)を得た。
【0144】
[実施例10]
アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂組成物(a)の製造において、炭酸カルシウムの添加量を表3のとおりに変更し、アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂シート(b)の製造において、製膜厚さを表4のとおりに変更したことを除き、実施例8と同様にして、アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂組成物(a)、および図1に相当する層構成のアクリルグラフト塩化ビニル系樹脂シート(b)を得た。
【0145】
[実施例11]
アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂組成物(a)の製造において、炭酸カルシウムの添加量を表3のとおりに変更し、アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂シート(b)の製造において、製膜厚さを表4のとおりに変更したことを除き、実施例9と同様にして、アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂組成物(a)、および図1に相当する層構成のアクリルグラフト塩化ビニル系樹脂シート(b)を得た。
【0146】
[実施例12]
アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂シート(b)の製造において、強化繊維としてポリエステルクロスにアクリルグラフト塩化ビニル系樹脂組成物(a)を用い、製膜厚さを表4のとおりに変更したことを除き、実施例11と同様にして、アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂組成物(a)、および図2に相当する層構成のアクリルグラフト塩化ビニル系樹脂シート(b)を得た。
【0147】
[実施例13]
アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂シート(b)の製造において、製膜厚さを表4のとおりに変更したことを除き、実施例11と同様にして、アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂組成物(a)、および図1に相当する層構成のアクリルグラフト塩化ビニル系樹脂シート(b)を得た。
【0148】
[実施例14]
アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂組成物(a)の製造において、顔料の添加量を表3のとおりに変更したことを除き、実施例13と同様にして、アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂組成物(a)、および図1に相当する層構成のアクリルグラフト塩化ビニル系樹脂シート(b)を得た。
【0149】
[実施例15]
アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂組成物(a)の製造において、炭酸カルシウムの添加量を表3のとおりに変更し、アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂シート(b)の製造において、製膜厚さを表4のとおりに変更したことを除き、実施例14と同様にして、アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂組成物(a)、および図1に相当する層構成のアクリルグラフト塩化ビニル系樹脂シート(b)を得た。
【0150】
[比較例1]
アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂組成物(a)の製造に代えて、(非アクリルグラフト)ストレート塩化ビニル系樹脂TS1300S(積水化学工業社製)と、スズ安定剤(TVS#KK8570、日東化成社製)と、低分子可塑剤DOP(フタル酸ビス(2−エチルヘキシル))と、炭酸カルシウムと、酸化防止剤としてフェノール系酸化防止剤(Irganox1010、BASFジャパン社製)と、滑剤(wax−OP、クラリアントケミカルズ社製)を下記の表3に示す配合量で混合して、塩化ビニル系樹脂組成物を得た。
アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂シート(b)の製造に代えて、上述の(非アクリルグラフト)塩化ビニル系樹脂組成物を用い、表4に示す条件(成形樹脂温度および製膜厚さ)としたことを除き、実施例4と同様にして塩化ビニル系樹脂シートを得た。
【0151】
[物性評価]
(1)引張破断伸びの評価
アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂シート(b)について、JIS K 6251−8号ダンベルを用いて、200mm/minの速度で引張試験を実施した。破断伸びはチャック間(初期30mm)の伸びとして算出した。
【0152】
(2)低温柔軟性の評価
アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂シート(b)について、試験温度5℃で動的粘弾性測定を行い、貯蔵弾性率を測定した。
【0153】
(3)接着性(熱融着強度)の評価
熱融着:幅20mmに切り出したアクリルグラフト塩化ビニル系樹脂シート(b)に熱風(220−300℃)を当て押し付け荷重2kgで圧着した圧着体を常温(23℃)に冷却した。冷却後に、100mm/minの速度で引張試験を実施し、破断の様子を観察した。剥離せずに破断した場合には、接着性(熱融着強度)に優れていると評価できる。
【0154】
(4)UV透過率の評価
アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂シート(b)の総厚の20%の厚みのシートサンプルを用意し、紫外線透過率(島津製作所社製分光光度計、型番UV-1800を用いて、このシートサンプルの300nm以上400nm以下の紫外線透過率の測定を行った。なお、表2において×で示した結果は、紫外線透過率が5%を超えたことを表す。
【0155】
(5)紫外線照射による劣化の評価
アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂シート(b)についてメタルウェザー試験機(ダイプラ・ウィンテス製)を用いて、UV照射強度75mW/cm(ウシオ社製照度計UVD-365PD+UIT-101で測定)の条件で600時間のUV照射を行った。照射後サンプルについて引張破断伸びを評価(1)の方法により測定した。
【0156】
【表1】
【0157】
【表2】
【0158】
【表3】
【0159】
【表4】
【0160】
本発明の好ましい実施形態は上記の通りであるが、本発明はそれらのみに限定されるものではなく、本発明の趣旨から逸脱することのない様々な実施形態が他になされる。
【0161】
本明細書におけるポリ塩化ビニル系樹脂防水シート100,100a,100b,100c,100d,100eは請求項中の「ポリ塩化ビニル系樹脂シート」に相当し、ポリ塩化ビニル系樹脂層200,200aは「ポリ塩化ビニル系樹脂組成物の層」に相当し、補強層210は「補強層」に相当し、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物(強化繊維なし)の層220は「補強層の一方の面に積層されたポリ塩化ビニル系樹脂」「補強層の…他方の面に積層されたポリ塩化ビニル系樹脂組成物の層」に相当し、被覆層310は「被覆層」に相当し、裏層320は「補強層の…他方の面に積層された…他の層」に相当する。
【産業上の利用可能性】
【0162】
本発明は、屋内および屋外を問わず使用時または保存時に自然環境(光、温度、水分などによる負荷)に晒されうるシートに利用される。たとえば、施工シートおよび役物などの施工資材(好ましくは防水シートおよび防水役物などの防水資材);合皮生地、エナメル生地、化粧シートなどの生地材に利用されてよい。
【符号の説明】
【0163】
100,100a,100b,100c,100d,100e…ポリ塩化ビニル系樹脂防水シート(ポリ塩化ビニル系樹脂シート)
200,200a…ポリ塩化ビニル系樹脂層(ポリ塩化ビニル系樹脂組成物の層)
210…補強層
220…ポリ塩化ビニル系樹脂組成物(強化繊維なし)の層(補強層の一方の面に積層されたポリ塩化ビニル系樹脂組成物の層、他方の面に積層されたポリ塩化ビニル系樹脂組成物の層)
310…被覆層
320…裏層(他方の面に積層された他の層)
図1
図2
図3
図4
図5
図6