特許第6755812号(P6755812)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6755812
(24)【登録日】2020年8月28日
(45)【発行日】2020年9月16日
(54)【発明の名称】相電圧算出装置、及び自動電圧調整器
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/12 20060101AFI20200907BHJP
   G05F 1/14 20060101ALI20200907BHJP
【FI】
   H02J3/12
   G05F1/14 Z
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-20607(P2017-20607)
(22)【出願日】2017年2月7日
(65)【公開番号】特開2018-129919(P2018-129919A)
(43)【公開日】2018年8月16日
【審査請求日】2019年11月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100115749
【弁理士】
【氏名又は名称】谷川 英和
(74)【代理人】
【識別番号】100121223
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 悟道
(72)【発明者】
【氏名】前田 博宣
【審査官】 田中 慎太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−295774(JP,A)
【文献】 特開昭49−127127(JP,A)
【文献】 特開平10−117438(JP,A)
【文献】 特開平8−033351(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0206115(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第1588747(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00−5/00
G05F 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のタップを有する調整変圧器の一次側相電圧と二次側相電圧とを算出する相電圧算出装置であって、
前記調整変圧器の複数の二次側線間電圧を測定する線間電圧測定部と、
前記複数の二次側線間電圧を用いて、二次側相電圧を算出する二次側相電圧算出部と、
一次側相電圧と二次側相電圧との差である差電圧を測定する差電圧測定部と、
前記二次側相電圧算出部によって算出された二次側相電圧と、前記差電圧とを用いて、一次側相電圧を算出する一次側相電圧算出部と、を備えた相電圧算出装置。
【請求項2】
前記二次側相電圧算出部は、次式によって二次側相電圧を算出する、請求項1記載の相電圧算出装置。
2V=2/3×(V2VW+1/2×V2WU
(式中、V2Vは、第2相の二次側相電圧であり、V2VWは、第2相と第3相との間の二次側線間電圧であり、V2WUは、第3相と第1相との間の二次側線間電圧である。)
【請求項3】
前記線間電圧測定部は、3つの二次側線間電圧を測定し、
前記二次側相電圧算出部は、複数の相の二次側相電圧を算出し、
前記差電圧測定部は、複数の相の差電圧を測定し、
前記一次側相電圧算出部は、複数の相の一次側相電圧を算出する、請求項1または請求項2記載の相電圧算出装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか記載の相電圧算出装置と、
前記調整変圧器と、
前記調整変圧器の通電タップを切り替えるタップ切替器と、
前記タップ切替器によって通電タップが切り替えられる際における、前記一次側相電圧算出部によって算出された一次側相電圧の変化量と、前記二次側相電圧算出部によって算出された二次側相電圧の変化量とを用いて送電方向を判定する判定部と、
前記判定部によって判定された送電方向及び前記調整変圧器の電圧に応じて前記タップ切替器を制御するタップ切替制御器と、を備えた自動電圧調整器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変圧器の一次側及び二次側の相電圧を算出する相電圧算出装置、及びその相電圧算出装置を備えた自動電圧調整器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、配電系統において、系統の電圧を設定された範囲に保つために、配電用の自動電圧調整器(SVR)が設置されている。その自動電圧調整器は、例えば、二次側の電圧に応じて調整変圧器の通電タップを切り替えることによって、電圧を自動調整するものである。
【0003】
配電系統においては、電力の需給バランスをとるためや、停電を防止するためなどの観点から、複数の系統を連携させることが行われている。そのため、系統の切り替えが行われることにより、自動電圧調整器において逆送電となることがある。
【0004】
また近年、太陽光発電設備や風力発電設備などの自家発電設備が設置され、そのような自家発電設備が分散型電源として配電系統と連携するようになってきている。そのため、分散型電源における発電量が多くなると、順送電であるにも関わらず、自動電圧調整器において逆潮流が発生することがあり、また反対に逆送電であるにも関わらず、自動電圧調整器において順調流となることもあり、送電方向(変電所方向)と自動電圧調整器における潮流方向が一致するとは限らない。
【0005】
そのため、送電方向(変電所方向)を把握しないで自動電圧調整器における潮流方向の情報だけで自動電圧調整を行った場合には、不適切な電圧調整となることが知られている。例えば、順送時には二次側電圧を調整し、逆送時には一次側電圧を調整する完全逆送型SVR(双方向電圧調整方式のSVR)において、順送時に分散型電源による逆潮流が発生したことに応じて一次側電圧を調整するモードに切り替えた場合には、一次側の電圧を上げるように調整した際に、一次側の電圧は変化せずに二次側の電圧が下がる方向に変化することになり、不適切な電圧調整が行われることになる。
【0006】
したがって、自動電圧調整器における調整変圧器のタップ切替時の一次側電圧の変化量と、二次側電圧の変化量とを比較することにより、送電方向を判定することが行われている(例えば、特許文献1参照)。その判定においては、一次側電圧の変化量を知る必要がある。その一次側電圧の変化量としては、通常、調整変圧器の一次側において、計器用変圧器(VT)を用いて測定された結果が用いられる。
なお、送電方向の判定とは異なる目的のため、二次側電圧、及び一次側電圧と二次側電圧との差を用いて、一次側電圧を算出する方法が知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−295774号公報
【特許文献2】特開平10−117438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、自動電圧調整器では、電圧調整のために線間電圧を用いている。一方、上記特許文献2では、二次側相電圧を測定すると共に、一次側相電圧と二次側相電圧との差をも測定し、両測定結果を用いることによって一次側相電圧を算出している。したがって、SVRにおいて、上記特許文献2に記載された技術を用いて一次側相電圧を算出する場合には、電圧調整のために二次側線間電圧を測定すると共に、送電方向の判定のために二次側相電圧も測定する必要があり、多くの計器用変圧器が必要になるという問題があった。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、多くの計器用変圧器を用いなくても一次側相電圧と二次側相電圧とを取得することができる装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明による相電圧算出装置は、複数のタップを有する調整変圧器の一次側相電圧と二次側相電圧とを算出する相電圧算出装置であって、調整変圧器の複数の二次側線間電圧を測定する線間電圧測定部と、複数の二次側線間電圧を用いて、二次側相電圧を算出する二次側相電圧算出部と、一次側相電圧と二次側相電圧との差である差電圧を測定する差電圧測定部と、二次側相電圧算出部によって算出された二次側相電圧と、差電圧とを用いて、一次側相電圧を算出する一次側相電圧算出部と、を備えたものである。
このような構成により、二次側線間電圧を用いて二次側相電圧を算出できるため、二次側相電圧を測定するための計器用変圧器を用いなくてもよいことになる。したがって、より少ない計器用変圧器を用いて、一次側相電圧と二次側相電圧とを取得できるようになる。
【0011】
また、本発明による相電圧算出装置では、二次側相電圧算出部は、次式によって二次側相電圧を算出してもよい。
2V=2/3×(V2VW+1/2×V2WU
(式中、V2Vは、第2相の二次側相電圧であり、V2VWは、第2相と第3相との間の二次側線間電圧であり、V2WUは、第3相と第1相との間の二次側線間電圧である。)
このような構成により、上記式を用いることによって、二次側線間電圧から二次側相電圧を算出することができる。
【0012】
また、本発明による相電圧算出装置では、線間電圧測定部は、3つの二次側線間電圧を測定し、二次側相電圧算出部は、複数の相の二次側相電圧を算出し、差電圧測定部は、複数の相の差電圧を測定し、一次側相電圧算出部は、複数の相の一次側相電圧を算出してもよい。
このような構成により、複数の相の一次側相電圧を算出できる。そして、例えば、そのようにして算出された複数の相の一次側相電圧を用いて送電方向の判定を行うことによって、より精度の高い判定を行うことができるようになる。
【0013】
また、本発明による自動電圧調整器は、相電圧算出装置と、調整変圧器と、調整変圧器の通電タップを切り替えるタップ切替器と、タップ切替器によって通電タップが切り替えられる際における、一次側相電圧算出部によって算出された一次側相電圧の変化量と、二次側相電圧算出部によって算出された二次側相電圧の変化量とを用いて送電方向を判定する判定部と、判定部によって判定された送電方向及び調整変圧器の電圧に応じてタップ切替器を制御するタップ切替制御器と、を備えたものである。
このような構成により、相電圧算出装置によって算出された一次側相電圧と二次側相電圧とを用いて、自動電圧調整器における送電方向の判定を行うことができる。通常、自動電圧調整器においては、線間電圧を用いて電圧調整が行われるため、線間電圧が測定される。したがって、そのようにして測定される二次側線間電圧を用いて一次側相電圧と二次側相電圧とを算出することにより、相電圧の測定用の計器用変圧器を別途、備えることなく、送電方向の判定を行うことができるようになる。
【発明の効果】
【0014】
本発明による相電圧算出装置等によれば、少ない個数の計器用変圧器を用いて、一次側相電圧及び二次側相電圧を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態における自動電圧調整器の構成を示すブロック図
図2】同実施の形態における相電圧算出装置の動作を示すフローチャート
図3】同実施の形態における調整変圧器を示す図
図4】同実施の形態におけるタップ切替器の構成の一例を示す図
図5】同実施の形態における電圧の計測と電圧の算出とに関する説明図
図6】同実施の形態における一次側電圧と二次側電圧とを示すベクトル図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明による相電圧算出装置、及びその相電圧算出装置を備えた自動電圧調整器について、実施の形態を用いて説明する。なお、以下の実施の形態において、同じ符号を付した構成要素は同一または相当するものであり、再度の説明を省略することがある。本実施の形態による自動電圧調整器は、調整変圧器の二次側相電圧を、二次側線間電圧を用いて算出すると共に、一次側相電圧を、算出した二次側相電圧、及び一次側相電圧と二次側相電圧との差を用いて算出する相電圧算出装置を備えたものである。
【0017】
図1は、本実施の形態による自動電圧調整器1の構成を示すブロック図である。本実施の形態による自動電圧調整器1は、調整変圧器11と、タップ切替器12と、タップ切替制御器13と、判定部14と、相電圧算出装置2とを備える。相電圧算出装置2は、調整変圧器11の一次側相電圧と二次側相電圧とを算出するものであり、線間電圧測定部21と、二次側相電圧算出部22と、差電圧測定部23と、一次側相電圧算出部24とを備える。なお、自動電圧調整器1は、例えば、順送時には二次側電圧を調整し、逆送時には通電タップを固定する逆送時タップ固定型SVRであってもよく、順送時には二次側電圧を調整し、逆送時には一次側電圧を調整する完全逆送型SVR(双方向電圧調整方式のSVR)であってもよく、その他の方式によるSVRであってもよい。
【0018】
調整変圧器11は、複数のタップを有しており、一次側は一次側配電線4に接続され、二次側は二次側配電線5に接続されている。なお、各配電線4,5は、U,V,W三相の配電線である。また、調整変圧器11は、通常、一次側に複数のタップを有している。その複数のタップのうち、通電に使用されるタップを通電タップと呼ぶことにする。調整変圧器11は、図3で示されるように、各相の変圧器がスター結線されたものであってもよい。本実施の形態では、その場合について主に説明する。各相の変圧器は、例えば、単巻変圧器であってもよい。
【0019】
タップ切替器12は、タップ切替制御器13から出力されるタップ切替指令に応じて、調整変圧器11の通電タップを切り替える。図4は、ある相における単巻変圧器11aと、その単巻変圧器11aの通電タップを切り替えるタップ切替器12aとの構成の一例を示す図である。単巻変圧器11aの二次側は、タップtp5に接続され、一次側は、タップ切替器12aによって、タップtp1〜tp9のいずれかに接続される。タップ切替器12aによって接続されたタップが通電タップとなる。単巻変圧器11aは、一次側電圧V1を二次側電圧V2に変圧する。なお、図4では、タップtp2のスイッチが投入されているため、タップtp9からタップtp5までが分路巻線となり、タップtp5からタップtp2までが直列巻線となって、一次側に対して二次側が降圧されることになる。投入されるタップの位置、すなわち通電タップを切り替えることにより、出力側の電圧を調整することができる。なお、タップtp2の下方に存在する抵抗は、タップの切り替え時に用いられる限流抵抗である。タップ切替器12は、相ごとに通電タップの切り替えを行い、その通電タップの切り替えを三相が連動するように行う。
【0020】
タップ切替制御器13は、調整変圧器11の電圧の計測結果に応じてタップ切替器12を制御する。タップ切替制御器13は、順送時には、調整変圧器11の二次側線間電圧を目標電圧に保つようにタップ切替器12を制御する。そのため、タップ切替制御器13は、調整変圧器11の二次側線間電圧を用いて、タップ切替指令をタップ切替器12に出力してもよい。その二次側線間電圧として、タップ切替制御器13は、線間電圧測定部21が有する計器用変圧器の出力電圧を用いてもよい。また、タップ切替制御器13は、例えば、二次側線間電圧を測定する計器用変圧器の出力端子間に直列接続されている電圧調整継電器(90リレー)と、二次側配電線5を流れる負荷電流を検出する変流器の出力が入力される線路電圧降下補償器(LDC)とを備えていてもよい。自動電圧調整器1が逆送時タップ固定型SVRである場合には、タップ切替制御器13は、逆送時に、通電タップを固定してもよい。また、自動電圧調整器1が完全逆送型SVRである場合には、タップ切替制御器13は、逆送時に、調整変圧器11の一次側電圧を目標電圧に保つようにタップ切替器12を制御してもよい。その一次側電圧は、調整変圧器11の一次側で測定された線間電圧であってもよい。したがって、完全逆送型SVRである場合には、自動電圧調整器1は、一次側線間電圧を測定するために用いられる計器用変圧器を備えていてもよい。一次側の電圧調整を行う場合に、タップ切替制御器13は、一次側電流を用いて予測された、一次側配電線4における電圧降下を用いて補正した一次側電圧が目標電圧となるように制御してもよい。一次側の電圧降下の予測に用いられる一次側電流は、調整変圧器11の一次側において変流器を用いて測定されたものであってもよい。このように、完全逆送型SVRである場合には、自動電圧調整器1は、二次側の電圧調整のために用いられる構成と同様の構成を、一次側にも有していてもよい。なお、タップ切替制御器13は、送電方向が順送であるのか、逆送であるのかを、判定部14の判定結果を用いて判断してもよい。すなわちタップ切替制御器13は、判定結果である送電方向と、調整変圧器11の電圧とに応じてタップ切替制御を行ってもよい。また、タップ切替制御器13は、1つの線間電圧を用いて通電タップの切り替え制御を行ってもよく、複数の線間電圧を用いて通電タップの切り替え制御を行ってもよい。後者の場合には、タップ切替制御器13は、例えば、複数の線間電圧の代表値が目標電圧に保たれるように制御を行ってもよい。代表値は、例えば、平均値や中央値等であってもよい。また、複数の線間電圧は、2つの線間電圧であってもよく、3つの線間電圧であってもよい。
【0021】
判定部14は、送電方向(変電所方向)に関する判定を行う。すなわち、判定部14は、変電所が一次側にあるのか、または二次側にあるのかを判定する。変電所が一次側にあると判定された場合には送電方向が順送電となり、変電所が二次側にあると判定された場合には送電方向が逆送電となる。判定部14は、タップ切替器12によって通電タップが切り替えられる際における、一次側相電圧の変化量と二次側相電圧の変化量とを用いて送電方向を判定する。判定部14は、一次側相電圧算出部24によって算出された一次側相電圧と、二次側相電圧算出部22によって算出された二次側相電圧とを用いて、一次側相電圧の変化量と二次側相電圧の変化量とを求めることができる。一次側相電圧の変化量と二次側相電圧の変化量とを用いて送電方向を判定するとは、一次側相電圧の変化量と二次側相電圧の変化量との大小を比較することによって、送電方向(変電所方向)を判定することであってもよい。通常、タップ切替に応じた電圧変動は、変電所の存在する電源側では小さくなり、変電所の存在しない負荷側で大きくなるからである。なお、その判定方法を改良した方法が、例えば、上記特許文献1等に記載されている。タップ切替時の一次側相電圧の変化量と二次側相電圧の変化量との大小を用いて送電方向を判定する方法はすでに公知であり、その詳細な説明を省略する。
【0022】
線間電圧測定部21は、調整変圧器11の複数の二次側線間電圧を測定する。複数の二次側線間電圧を測定するとは、線間電圧測定部21が、3つの相の複数の異なる対に対応する二次側線間電圧をそれぞれ測定することである。線間電圧測定部21は、2つの二次側線間電圧を測定してもよく、3つの二次側線間電圧を測定してもよい。本実施の形態では、前者の場合について主に説明する。特に、図5で示されるように、線間電圧測定部21が、二次側のV相とW相との間の線間電圧と、二次側のW相とU相との間の線間電圧とをそれぞれ計器用変圧器を用いて測定する場合について主に説明する。線間電圧測定部21によって測定される線間電圧は、時間変動する値である。線間電圧測定部21によって測定された二次側線間電圧は、タップ切替制御器13において、二次側の電圧調整のために用いられてもよい。その場合には、瞬時値である二次側線間電圧を用いて算出された実効値が電圧調整に用いられてもよい。
【0023】
二次側相電圧算出部22は、線間電圧測定部21によって測定された複数の二次側線間電圧を用いて、二次側相電圧を算出する。二次側相電圧算出部22は、1つの相の二次側相電圧を算出してもよく、または、複数の相の二次側相電圧を算出してもよい。ここでは、1つの相の二次側相電圧が算出される場合について主に説明し、複数の相の二次側相電圧が算出される場合については後述する。その二次側相電圧の相は、差電圧測定部23が測定する差電圧の相と同じであることが好適である。二次側線間電圧から二次側相電圧を算出する方法について、図6のベクトル図を用いて説明する。図6のベクトル図において、一次側の三相を1U,1V,1Wとし、二次側の三相を2U,2V,2Wとしている。なお、U,V,Wの各相をそれぞれ、第1相、第2相、第3相と呼ぶこともある。また、図6では、測定される電圧を実線で示しており、算出される電圧を破線で示している。配電系統の三相交流の線間電圧ベクトルが、仮想中性点(図中のN)を重心とした閉じた三角形であると仮定すると、2V相の相電圧に対応するベクトルV2Vは、次式のようになる。
【数1】
【0024】
また、電圧の瞬時値は、フェーザの実数軸に対応するため、線間電圧の瞬時値の加算、減算のみで相電圧を求めることができ、ベクトル演算は不要であることから、時間変動する2V相の相電圧は、次式のように算出することができる。
2V=2/3×(V2VW+1/2×V2WU
【0025】
ここで、V2VWは、第2相と第3相との間の二次側線間電圧であり、V2WUは、第3相と第1相との間の二次側線間電圧である。すなわち、V2VWは、2W相を基準とした2V相の電圧である二次側線間電圧であり、V2WUは、2U相を基準とした2W相の電圧である二次側線間電圧である。なお、上式の右辺は、線間電圧ベクトルが、仮想中性点(図中のN)を重心とした閉じた三角形であると仮定した場合に、様々な式に変形することが可能である。上式の右辺は、例えば、第1相と第2相との間の二次側線間電圧V2UV、及び第2相と第3相との間の二次側線間電圧V2VWを用いて表現することもでき、また、第1相と第2相との間の二次側線間電圧V2UV、及び第3相と第1相との間の二次側線間電圧V2WUを用いて表現することもできる。したがって、そのような上式の右辺と同等の式も、上式に含まれると考えてもよい。また、上式の右辺に含まれる二次側線間電圧は、線間電圧測定部21によって測定されたものであってもよく、または、その測定された線間電圧から算出されたものであってもよい。
【0026】
二次側線間電圧V2VW,V2WUが線間電圧測定部21によって測定される場合には、二次側相電圧算出部22は、それらの二次側線間電圧を用いることによって、二次側相電圧V2Vを算出することができる。なお、線間電圧測定部21によって測定された二次側線間電圧V2VW,V2WUは時間変動する値であるため、二次側相電圧V2Vも時間変動する値となる。
【0027】
差電圧測定部23は、調整変圧器11の一次側相電圧と二次側相電圧との差である差電圧を測定する。その一次側相電圧と二次側相電圧とは、同じ相の相電圧である。本実施の形態では、差電圧測定部23が、図5で示されるように、一次側の1V相の相電圧と、二次側の2V相の相電圧との差電圧を計器用変圧器を用いて測定する場合について主に説明する。差電圧測定部23によって、例えば、図6で示されるベクトルV1V2Vに相当する電圧が算出されることになる。この差電圧も、時間変動する値である。
【0028】
一次側相電圧算出部24は、二次側相電圧算出部22によって算出された二次側相電圧と、差電圧測定部23によって測定された差電圧とを用いて、一次側相電圧を算出する。ここで、1V相の一次側相電圧のベクトルV1Vと、2V相の二次側相電圧のベクトルV2Vと、V相の差電圧のベクトルV1V2Vとの関係は、次式のようになる。
【数2】
【0029】
したがって、一次側相電圧算出部24は、時間変動する1V相の相電圧を、次式のように算出することができる。
1V=V2V+V1V2V
なお、上式の右辺の第1項V2Vは、二次側相電圧算出部22によって算出される二次側相電圧であり、V1V2Vは、差電圧測定部23によって測定される差電圧であるため、一次側相電圧算出部24は、算出された二次側相電圧と、測定された差電圧とを加算することにより、一次側相電圧を算出することができる。また、一次側相電圧算出部24は、上記のように一次側相電圧を算出してもよく、1U相の一次側相電圧V1Uを算出してもよく、1W相の一次側相電圧V1Wを算出してもよく、または、それらの任意の2以上の組み合わせの一次側相電圧を算出してもよい。
【0030】
判定部14は、例えば、二次側相電圧算出部22によって算出された二次側相電圧V2Vと、一次側相電圧算出部24によって算出された一次側相電圧V1Vとを用いて、タップ切替時の電圧の変化量が一次側と二次側とのどちら側で大きいかを判断することによって、送電方向の判定を行うことができる。例えば、二次側相電圧算出部22と一次側相電圧算出部24とによって、1つの相の相電圧がそれぞれ算出された場合には、判定部14は、その相の相電圧を用いて判定を行ってもよい。なお、その判定方法はすでに公知である。また、二次側相電圧V2V、一次側相電圧V1Vはそれぞれ時間変動する値であるため、判定部14は、所定の瞬時値等を用いて判定を行ってもよい。判定部14は、例えば、相電圧のピーク値を用いて判定を行ってもよく、ピーク値以外の値(例えば、ピークピーク値(peak-to-peak value)など)を用いて判定を行ってもよい。
【0031】
なお、相電圧算出装置2は、判定部14による判定時にのみ、すなわちタップ切替時にのみ、二次側相電圧の算出と一次側相電圧の算出とを行ってもよく、または、タップ切替時であるかどうかに関わらず、二次側相電圧の算出と一次側相電圧の算出とを行ってもよい。
【0032】
次に、相電圧算出装置2の動作の一例について、図2のフローチャートを用いて説明する。
(ステップS101)線間電圧測定部21は、複数の二次側線間電圧を測定する。なお、二次側線間電圧の測定は継続して行われるため、複数の二次側線間電圧を測定するとは、複数の二次側線間電圧の測定を開始することであると考えてもよい。
【0033】
(ステップS102)二次側相電圧算出部22は、複数の二次側線間電圧を用いて、二次側相電圧を算出する。この二次側相電圧の算出も継続して行われるため、二次側相電圧を算出するとは、二次側相電圧の算出を開始することであると考えてもよい。
【0034】
(ステップS103)差電圧測定部23は、一次側相電圧と二次側相電圧との差電圧を測定する。その一次側相電圧と、二次側相電圧とは、同じ相の電圧である。また、その相と、ステップS102で算出される二次側相電圧の相とは一致していてもよい。この差電圧の測定も継続して行われるため、差電圧を測定するとは、差電圧の測定を開始することであると考えてもよい。
【0035】
(ステップS104)一次側相電圧算出部24は、二次側相電圧算出部22によって算出された二次側相電圧と、差電圧測定部23によって測定された差電圧とを用いて、一次側相電圧を算出する。この一次側相電圧の算出も継続して行われるため、一次側相電圧を算出するとは、一次側相電圧の算出を開始することであると考えてもよい。
【0036】
なお、ステップS102で算出された二次側相電圧と、ステップS104で算出された一次側相電圧とを用いて、送電方向の判定が行われる。その判定が行われた後に、線間電圧測定部21による二次側線間電圧の測定や、二次側相電圧算出部22による二次側相電圧の算出、差電圧測定部23による差電圧の測定、一次側相電圧算出部24による一次側相電圧の算出は終了されてもよい。また、図2のフローチャートにおける処理の順序は一例であり、同様の結果が得られるのであれば、各ステップの順序を変更してもよい。
【0037】
また、上記実施の形態では、1つの相について相電圧の算出が行われる場合について主に説明したが、そうでなくてもよい。複数の相について相電圧の算出が行われてもよい。その場合には、線間電圧測定部21は、3つの二次側線間電圧を測定し、二次側相電圧算出部22は、複数の相の二次側相電圧を算出し、差電圧測定部23は、複数の相の差電圧を測定し、一次側相電圧算出部24は、複数の相の一次側相電圧を算出してもよい。なお、3つの二次側線間電圧は、二次側のすべての相間の線間電圧のことである。また、複数の相は、2つの相であってもよく、3つの相であってもよい。また、二次側相電圧算出部22が二次側相電圧を算出する複数の相と、差電圧測定部23が差電圧を測定する複数の相と、一次側相電圧算出部24が一次側相電圧を算出する複数の相とは同じであってもよい。なお、3つの二次側線間電圧を用いて複数の二次側相電圧を算出する場合に、二次側相電圧算出部22は、各二次側相電圧の算出に、それぞれ異なる二次側線間電圧の組み合わせを用いることが好適である。例えば、二次側相電圧算出部22は、次式のようにして3つの相の二次側相電圧を算出してもよい。
2U=2/3×(V2UV+1/2×V2VW
2V=2/3×(V2VW+1/2×V2WU
2W=2/3×(V2WU+1/2×V2UV
【0038】
上記のように、複数の相に関する一次側相電圧と二次側相電圧とが算出された場合には、判定部14は、相ごとに判定を行ってもよい。そして、判定部14は、例えば、多数決によって最終的な判定結果を特定してもよい。そのようにすることで、より精度の高い判定が可能となる。また、判定部14は、例えば、相ごとの判定結果が一致する場合に、その判定結果を用い、相ごとの判定結果が一致しない場合、すなわち、少なくとも1つの相の判定結果が、他の相の判定結果と異なる場合に、その判定結果を用いなくてもよい。相ごとの判定結果が一致しない場合には、判定部14は、相ごとの判定結果が一致した判定結果のうち、最新の判定結果を、その時点の判定結果としてもよい。そのようにすることで、精度の低い判定結果を用いないことになり、結果として、精度の高い判定が可能となる。なお、そのように過去の判定結果を用いる場合には、少なくとも最新の判定結果が図示しない記録媒体で記憶されていてもよい。その判定結果は、相ごとの判定結果が一致した場合における判定結果である。なお、すべての相に関する一次側相電圧と二次側相電圧とが算出される場合には、線間電圧測定部21が3つの線間電圧を測定し、差電圧測定部23がすべての相の差電圧をすることが好適である。精度の高い相電圧の算出を実現できるからである。一方、線間電圧測定部21が2つの二次側線間電圧を測定し、差電圧測定部23が2つの差電圧を測定した場合であっても、すべての相に関する一次側相電圧と二次側相電圧との算出を行うことができる。2つの二次側線間電圧が測定された場合には、その2つの二次側線間電圧を用いて残りの1つの二次側線間電圧を算出することができ、また、2つの差電圧を用いて2つの一次側相電圧が算出された場合には、その2つの一次側相電圧を用いて残りの1つの一次側相電圧を算出することができるからである。
【0039】
以上のように、本実施の形態による自動電圧調整器1によれば、二次側線間電圧を用いて二次側相電圧を算出することができ、その二次側相電圧と差電圧とを用いて一次側相電圧を算出することができるため、二次側相電圧を測定するための計器用変圧器を用いなくてもよいことになる。また、通常、SVRにおける電圧調整には線間電圧が用いられるため、自動電圧調整器1は、相電圧を算出するかどうかに関わらず、線間電圧測定部21を有していることになる。したがって、本実施の形態による自動電圧調整器1では、その線間電圧測定部21を有効利用することによって、送電方向の判定に必要な一次側相電圧や二次側相電圧を算出でき、測定した二次側相電圧と差電圧とを用いて一次側相電圧を算出する場合(すなわち、上記特許文献2の場合)と比較して、より少ない個数の計器用変圧器を用いて一次側相電圧と二次側相電圧とを取得できる。また、その一次側相電圧と二次側相電圧とを用いて、送電方向を判定することができ、その判定結果を用いてタップ切替制御を行うことによって、SVRにおけるより適切な電圧調整を実現することができる。
【0040】
なお、上記実施の形態では、相電圧算出装置2によって算出された一次側相電圧が自動電圧調整器1において送電方向の判定のために用いられる場合について説明したが、そうでなくてもよい。相電圧算出装置2によって算出された一次側相電圧は、自動電圧調整器1における送電方向の判定以外の目的のために用いられてもよい。
【0041】
また、上記実施の形態において、各処理または各機能は、単一の装置または単一のシステムによって集中処理されることによって実現されてもよく、または、複数の装置または複数のシステムによって分散処理されることによって実現されてもよい。
【0042】
また、上記実施の形態において、各構成要素間で行われる情報の受け渡しは、例えば、その情報の受け渡しを行う2個の構成要素が物理的に異なるものである場合には、一方の構成要素による情報の出力と、他方の構成要素による情報の受け付けとによって行われてもよく、または、その情報の受け渡しを行う2個の構成要素が物理的に同じものである場合には、一方の構成要素に対応する処理のフェーズから、他方の構成要素に対応する処理のフェーズに移ることによって行われてもよい。
【0043】
また、上記実施の形態において、各構成要素が実行する処理に関係する情報、例えば、各構成要素が受け付けたり、取得したり、選択したり、生成したり、送信したり、受信したりした情報や、各構成要素が処理で用いる閾値や数式、アドレス等の情報等は、上記説明で明記していなくても、図示しない記録媒体において、一時的に、または長期にわたって保持されていてもよい。また、その図示しない記録媒体への情報の蓄積を、各構成要素、または、図示しない蓄積部が行ってもよい。また、その図示しない記録媒体からの情報の読み出しを、各構成要素、または、図示しない読み出し部が行ってもよい。
【0044】
また、上記実施の形態において、各構成要素等で用いられる情報、例えば、各構成要素が処理で用いる閾値やアドレス、各種の設定値等の情報がユーザによって変更されてもよい場合には、上記説明で明記していなくても、ユーザが適宜、それらの情報を変更できるようにしてもよく、または、そうでなくてもよい。それらの情報をユーザが変更可能な場合には、その変更は、例えば、ユーザからの変更指示を受け付ける図示しない受付部と、その変更指示に応じて情報を変更する図示しない変更部とによって実現されてもよい。その図示しない受付部による変更指示の受け付けは、例えば、入力デバイスからの受け付けでもよく、通信回線を介して送信された情報の受信でもよく、所定の記録媒体から読み出された情報の受け付けでもよい。
【0045】
また、上記実施の形態で説明した各構成要素のうち、ソフトウェアにより実現可能な構成要素については、プログラムを実行することによって実現されてもよい。例えば、ハードディスクや半導体メモリ等の記録媒体に記録されたソフトウェア・プログラムをCPU等のプログラム実行部が読み出して実行することによって、各構成要素が実現され得る。その実行時に、プログラム実行部は、記憶部や記録媒体にアクセスしながらプログラムを実行してもよい。また、そのプログラムは、サーバなどからダウンロードされることによって実行されてもよく、所定の記録媒体(例えば、磁気ディスクや半導体メモリなど)に記録されたプログラムが読み出されることによって実行されてもよい。
【0046】
また、本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上より、本発明による相電圧算出装置等によれば、少ない個数の計器用変圧器を用いて、一次側相電圧と二次側相電圧とを取得できるという効果が得られ、例えば、自動電圧調整器において一次側相電圧と二次側相電圧を算出する装置等として有用である。
【符号の説明】
【0048】
1 自動電圧調整器
2 相電圧算出装置
11 調整変圧器
12 タップ切替器
13 タップ切替制御器
14 判定部
21 線間電圧測定部
22 二次側相電圧算出部
23 差電圧測定部
24 一次側相電圧算出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6