特許第6755854号(P6755854)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6755854二酸化炭素を分離回収するための吸収液、及びそれを用いた二酸化炭素を分離回収する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6755854
(24)【登録日】2020年8月28日
(45)【発行日】2020年9月16日
(54)【発明の名称】二酸化炭素を分離回収するための吸収液、及びそれを用いた二酸化炭素を分離回収する方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/14 20060101AFI20200907BHJP
   B01D 53/62 20060101ALI20200907BHJP
   B01D 53/78 20060101ALI20200907BHJP
   B01D 53/96 20060101ALI20200907BHJP
   C07C 215/08 20060101ALN20200907BHJP
【FI】
   B01D53/14 210
   B01D53/14 220
   B01D53/62ZAB
   B01D53/78
   B01D53/96
   !C07C215/08
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-508318(P2017-508318)
(86)(22)【出願日】2016年3月18日
(86)【国際出願番号】JP2016058715
(87)【国際公開番号】WO2016152782
(87)【国際公開日】20160929
【審査請求日】2018年12月10日
(31)【優先権主張番号】特願2015-64402(P2015-64402)
(32)【優先日】2015年3月26日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、環境調和型製鉄プロセス技術開発(STEP2) 化学吸収技術開発委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】591178012
【氏名又は名称】公益財団法人地球環境産業技術研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チョウドリ フィロツ アラム
(72)【発明者】
【氏名】加藤 次裕
(72)【発明者】
【氏名】松崎 洋市
(72)【発明者】
【氏名】小野田 正巳
【審査官】 佐藤 陽一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−301023(JP,A)
【文献】 特表2009−521313(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0127119(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/14−53/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
【化1】
(式中、R1は、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基、R2及びR3は、それぞれ同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基であって、R1、R2及びR3のすべてが水素原子であることはなく、nは1又は2である。)
で表されるアルカノールアミンの少なくとも1種、
低分子ジオール化合物及び/又はグリセリン、並びに

を含有
前記一般式(1)で表されるアルカノールアミンが、N-イソプロピルアミノエタノール及び2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールの混合アミンであり、
前記低分子ジオール化合物及び/又はグリセリンがエチレングリコールであり、その濃度が10〜20重量%である、
二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を分離回収するための吸収液。
【請求項2】
以下の工程A及びBを含む、二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を分離回収する方法:
請求項1に記載の吸収液を、二酸化炭素を含むガスと接触させ、二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を吸収した吸収液を得る工程A、及び、
前記工程Aで得られた二酸化炭素を吸収した吸収液を加熱して、吸収液から二酸化炭素を脱離して放散させ、放散した二酸化炭素を回収する工程B。
【請求項3】
前記工程Bにおいて二酸化炭素を吸収した吸収液を80〜95℃の温度で加熱して二酸化炭素を脱離する、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を分離回収するための吸収液、及び当該吸収液を用いた二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を分離回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化に起因すると考えられている気候変動及び自然災害が、農業生産、住環境、エネルギー消費等に多大な影響を及ぼしている。この地球温暖化は、人類の社会活動が活発になることに付随して増大する二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素、フロン等の温室効果ガスが大気中に増大することが原因と考えられている。その温室効果ガスの中で最も主要なものとして大気中の二酸化炭素が挙げられており、二酸化炭素の大気中への排出量の削減に向けての対策が世界的な課題となっている。
【0003】
二酸化炭素の発生源としては、石炭、重油、天然ガス等を燃料とする火力発電所、コークスで酸化鉄を還元する製鐵所の高炉、銑鉄中の炭素を燃焼して製鋼する製鐵所の転炉、各種製造所におけるボイラー、セメント工場におけるキルン等、更には、ガソリン、重油、軽油等を燃料とする自動車、船舶、航空機等の輸送機器がある。これらのうち、輸送機器以外は定置的な設備であり、二酸化炭素の大気中への排出量を削減する対策を施しやすい設備である。
【0004】
上記で例示される発生源から排出されるガスから二酸化炭素を分離回収する方法としては、従来からいくつかの方法が知られている。
【0005】
例えば、二酸化炭素を含むガスを吸収塔内でアルカノールアミンの水溶液と接触させて二酸化炭素を吸収させる方法が知られている。ここでアルカノールアミンとしては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジグリコールアミン等が知られているが、この中でもモノエタノールアミンが汎用されている。
【0006】
しかし、これらのアルカノールアミンの水溶液を二酸化炭素の吸収液として用いる場合、モノエタノールアミンのような一級アミンは装置の材質の腐食性が高いため、高価な耐食鋼を用いること、吸収液中のアミン濃度を低くすること等が必要となる。また、吸収した二酸化炭素の放散及び回収は、一般的には再生塔内で吸収液を約120℃に加熱することにより行うが、前記のアルカノールアミンでは、吸収塔内における二酸化炭素の吸収量と再生塔内での二酸化炭素の放散量とが十分でないため、結果的に二酸化炭素単位重量当たりの回収に大きなエネルギーが必要となる。
【0007】
二酸化炭素の発生の削減、省エネルギー及び省資源が求められる時代において、二酸化炭素吸収及び回収における大量のエネルギー消費は、当該技術の実用化を阻む大きな要因となっており、より少ないエネルギーでの二酸化炭素の分離回収技術が求められている。
【0008】
そのため、より少ないエネルギーで二酸化炭素の分離回収をするための従来技術として、例えば、特許文献1には、特定のヒンダードアミンの水溶液と大気圧下の燃焼排ガスとを接触させことを特徴とする燃焼排ガス中の二酸化炭素の除去方法が記載されている。その実施例では、ヒンダードアミンとしてN-メチルアミノエタノール及びN-エチルアミノエタノールが記載され、その他のヒンダードアミンとしては、実施例の記載はないが、2-イソプロピルアミノエタノール等のアミンが記載されている。
【0009】
また、特許文献2では、複数種のアルカノールアミンを混合することにより、個々のアミンの特性を活かしつつ、最大限の性能を発揮させる吸収液及び二酸化炭素を吸収させる方法が記載されている。
【0010】
しかし、これらの特許文献で例示される吸収液であっても、分離回収のためのエネルギーを十分に抑制できていない。一方、特許文献3では、比熱の高い水を溶媒とする水溶液に代わって、アルコール等の非水有機化合物を溶媒とする検討も進められている。水の代わりに例えばアルコール類を使用すると比熱が低くなり、且つ不安定なアルキルカーボネートを経由する二酸化炭素の分離回収工程を経ることから、低温放散性の向上等が期待される。しかしながら、そのような組成の吸収液は、二酸化炭素の吸収効率が極めて低く、二酸化炭素の吸収を20℃から25℃といった低温域で実施する必要があり、吸収の際に冷却に要するエネルギーが余分に必要となるという問題がある。
【0011】
また、特許文献4及び5においては二相分離系の吸収液も提案されている。この吸収液においては、二酸化炭素のような酸性化合物を吸収した吸収液が、酸性化合物に富む相と酸性化合物に乏しい相とに分離する。これをデカンテーション装置等により酸性化合物に富む相を分離し、酸性化合物に富む相のみから酸性化合物を放散させることによって加温する吸収液量を減らし、放散時に必要なエネルギーを減らそうとするものである。しかしながら、酸性化合物に乏しい相にも酸性化合物は相当量残っており、回収効率の悪さは否定できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第2871334号公報
【特許文献2】特許第5452222号公報
【特許文献3】特開2012-236165号公報
【特許文献4】特表2009-529420号公報
【特許文献5】特開2010-207809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、高い効率で、且つ低いエネルギーコストで二酸化炭素を分離回収できる吸収液及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、吸収液が特定のアルカノールアミンの少なくとも1種、低分子ジオール化合物及び/又はグリセリン並びに水を含有することにより、二酸化炭素の低温条件下での放散速度及び放散率が向上し、二酸化炭素を含むガスから、効率的に二酸化炭素を分離回収できることを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに検討を行い、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、以下の二酸化炭素を分離回収するための吸収液、及び二酸化炭素を分離回収する方法を提供するものである。
【0016】
項1.一般式(1):
【0017】
【化1】
(式中、R1は、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基、R2及びR3は、それぞれ同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基であって、R1、R2及びR3のすべてが水素原子であることはなく、nは1又は2である。)
で表されるアルカノールアミンの少なくとも1種、
低分子ジオール化合物及び/又はグリセリン、並びに

を含有する、
二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を分離回収するための吸収液。
項2.R1が、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基又はn-ブチル基であり、R2及びR3が、それぞれ同一又は異なって、水素原子又はメチル基であり、nが1又は2である、項1に記載の吸収液。
項3.前記一般式(1)で表されるアルカノールアミンが、
(I) R1が、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基又はn-ブチル基であり、R2及びR3が水素原子であり、nが1又は2であるアルカノールアミン、及び
(II) R1が水素原子であり、R2及びR3がメチル基であり、nが1であるアルカノールアミン
の混合アミンである、項1又は2に記載の吸収液。
項4.前記一般式(1)で表わされるアルカノールアミンが、N-イソプロピルアミノエタノール及び2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールの混合アミンである、項3に記載の吸収液。
項5.前記低分子ジオール化合物及び/又はグリセリンの濃度が5〜30重量%である、項1〜4のいずれか一項に記載の吸収液。
項6.前記低分子ジオール化合物及び/又はグリセリンがエチレングリコールであり、その濃度が5〜20重量%である、項1〜4のいずれか一項に記載の吸収液。
項7.以下の工程A及びBを含む、二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を分離回収する方法:
項1〜6のいずれか一項に記載の吸収液を、二酸化炭素を含むガスと接触させ、二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を吸収した吸収液を得る工程A、及び、
前記工程Aで得られた二酸化炭素を吸収した吸収液を加熱して、吸収液から二酸化炭素を脱離して放散させ、放散した二酸化炭素を回収する工程B。
項8.前記工程Bにおいて二酸化炭素を吸収した吸収液を80〜95℃の温度で加熱して二酸化炭素を脱離する、項7に記載の方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、同じアミン組成の水溶液からなる吸収液に対し、より低温条件下での二酸化炭素の放散が可能となる。また、本発明によれば、二酸化炭素をより低いエネルギー消費量で回収することが可能である。これにより二酸化炭素の分離回収に要するエネルギーは低減され、効率的且つ低エネルギー消費量で二酸化炭素を回収することができる。また、低温条件下での二酸化炭素の放散能力を大幅に改善したことにより、従来、廃棄されていた所謂、低品位廃熱の利用を可能とし、二酸化炭素の分離回収に要するエネルギーを大幅に削減することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に述べる。
【0020】
<二酸化炭素を分離回収するための吸収液>
本発明の吸収液は、一般式(1):
【0021】
【化2】
【0022】
(式中、R1は、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基、R2及びR3は、それぞれ同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基であって、R1、R2及びR3のすべてが水素原子であることはなく、nは1又は2である。)
で表わされるアルカノールアミンの少なくとも1種、低分子ジオール化合物及び/又はグリセリン並びに水を含有する。
【0023】
前記一般式(1)におけるR1は、水素原子、及び炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖状アルキル基のいずれであってもよく、具体的には、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基等が挙げられる。これらの中でも、水素原子、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基及びn-ブチル基が好ましく、イソプロピル基がより好ましい。
【0024】
前記一般式(1)におけるnは、1又は2であり、1がより好ましい。
【0025】
前記一般式(1)におけるR2及びR3は、水素原子、及び炭素数1〜3の直鎖又は分岐鎖状アルキル基のいずれであってもよく、具体的には、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基及びイソプルピル基が挙げられる。これらの中でも、水素原子及びメチル基が好ましい。
【0026】
前記一般式(1)で表される具体的なアルカノールアミンとしては、N-エチルアミノエタノール、N-n-プロピルアミノエタノール、N-イソプロピルアミノエタノール、N-n-ブチルアミノエタノール、2-アミノ-1-プロパノール、N-イソブチルアミノエタノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、3-エチルアミノ-1-プロパノール、3-n-プロピルアミノ-1-プロパノール、3-イソプロピルアミノ-1-プロパノール、3-n-ブチルアミノ-1-プロパノール、3-イソブチルアミノ-1-プロパノール等が挙げられ、これらは工業的にも使用することができる。
【0027】
本発明の吸収液は、前記一般式(1)で表されるアルカノールアミンを少なくとも1種含有していればよく、複数種のアルカノールアミンからなる混合アミンを含有していてもよい。
【0028】
そのような混合アミンとしては、例えば、(I) R1が、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基又はn-ブチル基であり、R2及びR3が水素原子であり、nが1又は2であるアルカノールアミン、及び
(II) R1が水素原子であり、R2及びR3がメチル基であり、nが1であるアルカノールアミンの混合アミンを挙げることができる。その中でもN-イソプロピルアミノエタノール及び2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールの混合アミンが好ましい。
【0029】
以下、本発明の吸収液のアルカノールアミンの総量について述べる。
【0030】
一般的にはアミン成分の濃度が高い方が単位液容量あたりの二酸化炭素の吸収量、吸収速度、脱離量及び脱離速度が大きく、エネルギー消費、プラント設備の大きさ及び効率からは望ましいが、重量濃度として70%を越える場合、活性剤としての水の効果が減少するためか二酸化炭素の吸収量の低下、アミン成分の混合性の低下、粘度の上昇等の問題が生じるとされている。
【0031】
本発明の吸収液においても、アミン成分の混合性の低下、粘度の上昇等の問題より、アルカノールアミンの総量は60重量%以下が好ましい。また、実用的な吸収性能及び脱離性能の点から30%重量以上が好ましい。本発明においてアルカノールアミンの吸収液中の総量は、好ましくは30〜60重量%、より好ましくは30〜55重量%、特に好ましくは40〜55重量%が選択される。
【0032】
前記低分子ジオール化合物としては、炭素数2〜8の脂肪族ジオール化合物(例えば、エチレングリール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール等)等を挙げることができ、好ましくはエチレングリコールである。
【0033】
本発明の吸収液は、低分子ジオール化合物及びグリセリンの少なくとも一方を含有していればよく、低分子ジオール化合物が含まれる場合は低分子ジオール化合物を1種単独又は複数種を組み合わせて使用することができる。低分子ジオール化合物及びグリセリンの中でもエチレングリコールが好ましい。なお、本発明の吸収液中における低分子ジオール化合物及びグリセリンの総量は、5〜30重量%とすることが好ましく、5〜20重量%とすることがより好ましい。
【0034】
本発明の吸収液は、水を含有する。
【0035】
本発明の吸収液における水の含有量は、特に限定的なものではなく、残部を水とすることができる。
【0036】
なお、本発明の吸収液における水は、特に限定されず、蒸留水、イオン交換水、水道水、地下水等を適宜用いることができる。
【0037】
また、本発明の吸収液は、一般式(1)で表されるアルカノールアミン、低分子ジオール、グリセリン及び水以外の成分を、必要に応じて、本発明の効果を阻害しない範囲で含んでいてもよい。その他の成分としては、液体の化学的又は物理的安定性を確保するための安定剤(例えば、酸化防止剤等の副反応抑制剤)、本発明の溶液を用いる装置又は設備の材質の劣化を防ぐための防止剤(例えば、腐食防止剤)、消泡剤(例えば、界面活性剤)等が挙げられる。これらその他の成分の含有量は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば特に制限的なものではない。
【0038】
二酸化炭素を含むガスとしては、例えば、重油、天然ガス等を燃料とする火力発電所、製造所のボイラーあるいはセメント工場のキルン、コークスで酸化鉄を還元する製鐵所の高炉、銑鉄中の炭素を燃焼して製鋼する同じく製鉄所の転炉等からの排ガス等が挙げられる。該ガス中の二酸化炭素濃度は特に限定されず、通常5〜30体積%程度、特に10〜20体積%程度であればよい。かかる二酸化炭素濃度範囲では、本発明の作用効果が好適に発揮される。なお、二酸化炭素を含むガスには、二酸化炭素以外に水蒸気、CO等の発生源に由来する不純物ガスが含まれていてもよい。
【0039】
<二酸化炭素の吸収及び回収方法>
本発明の二酸化炭素の分離回収方法は、前記吸収液を、二酸化炭素を含むガスと接触させ、二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を吸収した吸収液を得る工程A、及び工程Aで得られた二酸化炭素を吸収した吸収液を加熱して、吸収液から二酸化炭素を脱離して放散させ、放散した二酸化炭素を回収する工程Bを含むことを特徴とする。
【0040】
(工程A:二酸化炭素の吸収工程)
本発明によれば、吸収液に二酸化炭素を含むガスを接触させることにより、二酸化炭素を吸収液に吸収させることができる。吸収液に二酸化炭素を含むガスを接触吸収させる方法は特に限定されず、例えば、吸収液中に二酸化炭素を含むガスをバブリングさせて吸収する方法、二酸化炭素を含むガス気流中に吸収液を霧状に降らす方法(噴霧乃至スプレー方式)、磁製又は金属網製の充填材の入った吸収塔内で二酸化炭素を含むガスと吸収液とを向流接触させる方法等が挙げられる。
【0041】
二酸化炭素を含むガス中の二酸化炭素を吸収液に吸収させる時の温度は、通常60℃程度以下で行われ、好ましくは50℃程度以下、より好ましくは20〜45℃程度で行うことができる。
【0042】
二酸化炭素を含むガス中の二酸化炭素を吸収液に吸収させる時の温度が低いほど二酸化炭素の吸収量は増加するが、どこまで温度を下げるかは二酸化炭素を含むガスのガス温度、熱回収目標等によって決定される。アミンによる二酸化炭素の吸収は発熱反応であり、低温条件下での二酸化炭素の吸収量を上げようとすると、吸収液を冷却する為のエネルギーが必要となってしまうことから、二酸化炭素の吸収工程は通常40℃前後で行われる。
【0043】
二酸化炭素の吸収工程は、通常ほぼ大気圧下で行われる。二酸化炭素の吸収性能を高めるため、加圧下で行うこともできるが、加圧のためのエネルギー消費を抑える観点から、大気圧下で行うのが好ましい。
【0044】
(工程B:二酸化炭素の放散及び回収工程)
本発明によれば、前記工程Aで得られた二酸化炭素を吸収した吸収液を加熱することによって二酸化炭素を放散し、放散された純粋又は高濃度の二酸化炭素を回収することができる。
【0045】
二酸化炭素を吸収した吸収液から二酸化炭素を脱離して放散させる方法としては、例えば、吸収液を加熱して釜で泡立てて脱離する方法、棚段塔、スプレー塔、磁製又は金属網製の充填材の入った脱離塔内で液界面を広げて加熱する方法等が挙げられる。これらの方法により、吸収液中においては重炭酸イオンで存在する二酸化炭素が分子型の二酸化炭素として脱離し、放散される。
【0046】
吸収液から二酸化炭素を脱離して放散させる際、吸収液として従来の水溶液を用いた場合では吸収液を100〜120℃程度とする。吸収液の温度が高いほど二酸化炭素の放散量は増加するが、温度を上げると吸収液の加熱に要するエネルギーが増すため、その温度は二酸化炭素を含むガスを排出するプロセスにおけるガス温度、熱回収目標等によって決定される。
【0047】
本発明によれば、吸収液から二酸化炭素を脱離して放散させる際、吸収液を70〜120℃程度とすることができ、70〜95℃とすることもでき、放散塔の設計を最適化すること等により、いわゆる低品位廃熱を利用して80〜95℃の低温域で充分な放散量を得ることができる。
【0048】
工程Bにおいて二酸化炭素を脱離して放散した後の吸収液は、再び前記工程Aに送り、循環再利用(リサイクル)することができる。
【0049】
<作用>
本発明によれば、二酸化炭素を含むガスからの高い二酸化炭素の回収量を概ね維持しつつ、二酸化炭素を吸収した吸収液からの、低温条件下における二酸化炭素の放散量を向上させることができる。特に、本発明によれば、80〜95℃という従来に比べ極めて低い温度条件でも十分な放散量を得ることが可能である。
【0050】
さらに、二酸化炭素の放散速度及び二酸化炭素の吸収量に対する放散量(以下、本明細書中で「放散率」と記載することがある。)を高められるため、より低いエネルギーコストで二酸化炭素を回収することができる。このようにして回収された二酸化炭素は、通常99体積%以上と極めて純度が高いものであり、化学産業あるいは食品産業に用いることができる。また、現在実用化が検討されているEOR (Enhanced Oil Recovery)及びCCS (Carbon dioxide Capture and Storage)における地下隔離に供することも可能である。
【実施例】
【0051】
本発明について、実施例を挙げて更に詳細に説明する。ただし、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0052】
実施例の説明においては、各種アルカノールアミン、低分子ジオール化合物、及びグリセリンについて、以下の定義に基づいて使用する。
EGL:エチレングリコール
Gly:グリセリン
1,2-PD:1,2-プロパンジオール
1,3-PD:1,3-プロパンジオール
1,2-BD:1,2-ブタンジオール
1,4-BD:1,4-ブタンジオール
TEG:トリエチレングリコール
IPAE:N-イソプロピルアミノエタノール
AMP:2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール
EAE:N-エチルアミノエタノール
NBAE:N-n-ブチルアミノエタノール
2A1P:2-アミノ-1-プロパノール
【0053】
実施例1
エチレングリコール、水及びIPAEを10:35:55の重量比で混合し、吸収液を得た。
【0054】
実施例2
エチレングリコール、水及びIPAEを20:25:55の重量比で混合し、吸収液を得た。
【0055】
実施例3
エチレングリコール、水、IPAE及びAMPを10:30:45:15の重量比で混合し、吸収液を得た。
【0056】
実施例4
エチレングリコール、水、IPAE及びAMPを10:35:47.5:7.5の重量比で混合し、吸収液を得た。
【0057】
実施例5
エチレングリコール、水、IPAE及びAMPを20:25:45:10の重量比で混合し、吸収液を得た。
【0058】
実施例6
エチレングリコール、水、IPAE及びAMPを10:35:42.5:12.5の重量比で混合し、吸収液を得た。
【0059】
実施例7
エチレングリコール、水、IPAE及びAMPを5:40:40:15の重量比で混合し、吸収液を得た。
【0060】
実施例8
グリセリン、水、IPAE及びAMPを5:40:40:15の重量比で混合し、吸収液を得た。
【0061】
実施例9〜実施例10
エチレングリコール、水、IPAE及びAMPを10:35:40:15の重量比で混合し、吸収液を得た。
【0062】
実施例11〜実施例14
エチレングリコール、水、IPAE及びAMPを20:25:40:15の重量比で混合し、吸収液を得た。
【0063】
実施例15
エチレングリコール、水、IPAE及びAMPを25:20:40:15の重量比で混合し、吸収液を得た。
【0064】
実施例16
1,2-プロパンジオール、水、IPAE及びAMPを10:35:40:15の重量比で混合し、吸収液を得た。
【0065】
実施例17
1,2-ブタンジオール、水、IPAE及びAMPを10:35:40:15の重量比で混合し、吸収液を得た。
【0066】
実施例18
グリセリン、水、IPAE及びAMPを10:35:40:15の重量比で混合し、吸収液を得た。
【0067】
実施例19
1,2-ブタンジオール、水、IPAE及びAMPを20:25:40:15の重量比で混合し、吸収液を得た。
【0068】
実施例20
1,3-プロパンジオール、水、IPAE及びAMPを20:25:40:15の重量比で混合し、吸収液を得た。
【0069】
実施例21
1,4-ブタンジオール、水、IPAE及びAMPを20:25:40:15の重量比で混合し、吸収液を得た。
【0070】
実施例22
トリエチレングリコール、水、IPAE及びAMPを20:25:40:15の重量比で混合し、吸収液を得た。
【0071】
実施例23
エチレングリコール、水、IPAE及びAMPを20:35:35:10の重量比で混合し、吸収液を得た。
【0072】
実施例24
エチレングリコール、水、IPAE及EAEを20:25:40:15の重量比で混合し、吸収液を得た。
【0073】
実施例25
エチレングリコール、水、IPAE及びNBAEを20:25:40:15の重量比で混合し、吸収液を得た。
【0074】
実施例26
エチレングリコール、水、IPAE及び2A1Pを20:25:40:15の重量比で混合し、吸収液を得た。
【0075】
比較例1
水及びIPAEを45:55の重量比で混合し、吸収液を得た。
【0076】
比較例2
水及びIPAE及びAMPを45:40:15の重量比で混合し、吸収液を得た。
【0077】
比較例3
水及びIPAE及びAMPを45:40:15の重量比で混合し、吸収液を得た。
【0078】
比較例4
水及びIPAE及びEAEを45:40:15の重量比で混合し、吸収液を得た。
【0079】
比較例5
水及びIPAE及びNBAEを45:40:15の重量比で混合し、吸収液を得た。
【0080】
比較例6
水及びIPAE及び2A1Pを45:40:15の重量比で混合し、吸収液を得た。
【0081】
上記の実施例及び比較例において使用したアルカノールアミン、低分子ジオール化合物及びグリセリンは東京化成工業株式会社等の試薬メーカー品であり、一般純度品を用いている。IPAEは広栄化学工業株式会社製を用いており、純度は99%以上である。水は、イオン交換水を用いた。
【0082】
試験例1
実施例及び比較例における吸収液について、二酸化炭素の吸収量、放散量及び放散速度の測定を行った。測定は、炭酸ガスボンベ(純度99.9%)及び窒素ガスボンベ(純度99.9%)、炭酸ガス流量コントローラー及び窒素ガス流量コントローラー、ガラス製反応容器(0.5 L)、撹拌翼及び温度調整器、ガス流量計、チラー、並びに二酸化炭素濃度計(YOKOGAWA製IR100)を順次接続した二酸化炭素吸収放散装置を用いて行った。
【0083】
ガラス製反応容器の周囲は、電気式ヒーターで覆い、温度調整器によりガラス製反応容器内の吸収液の温度を任意に制御する仕様とした。
【0084】
ガラス製反応容器内に0.1 Lの吸収液を加えた後、窒素ガスによりガラス製反応容器内上部の気体を置換した。ガラス製反応容器内の吸収液を40℃に保持し、700 rpmの回転速度で充分撹拌しながら0.14 L/分の流量の炭酸ガス及び0.56 L/分の流量の窒素ガスをガラス製反応容器内の吸収液に吹き込んで前記工程Aを開始し、2時間継続した。
【0085】
前記工程Aが終了した後、そのままガラス製反応容器内の吸収液を80℃〜95℃に加熱して前記工程Bを開始し、2時間継続した。
【0086】
前記工程A及びBにおいて、ガラス製反応容器からの排出ガスを二酸化炭素濃度計により分析した。吸収液への二酸化炭素の溶解量、すなわち吸収量は、二酸化炭素濃度計から得られる二酸化炭素濃度の経時変化から求めた。加熱による吸収液からの二酸化炭素の放散量は、前記工程Aの開始2時間後における二酸化炭素の吸収量から、前記工程Bの開始2時間後における二酸化炭素溶解量を引いた値として定義した。吸収液からの二酸化炭素の放散速度は、前記工程Bにおいて二酸化炭素の放散開始後10分間における単位時間当たりの二酸化炭素の吸収量の変化として定義した。
【0087】
実施例及び比較例における吸収液の組成並びに測定結果を表1に示す。
【0088】
実施例の吸収液は、比較例の吸収液に比べ、二酸化炭素の放散速度及び放散率が共に優位に高い性能を示した。
【0089】
以上の結果から、前記一般式(1)で表されるアルカノールアミンの少なくとも1種、低分子ジオール化合物及び/又はグリセリン、並びに水を含有する、二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を分離回収するための吸収液は、二酸化炭素の放散速度及び放散率の点で、従来の水溶液に対して優れた性能を示しており、特に低温条件下での放散性能が優れる吸収液として期待できる。
【0090】
【表1-1】
【0091】
【表1-2】