特許第6755877号(P6755877)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6755877ジチオカーボネート類またはそのセレニウム類似体のビスフェノール類とのエステル交換によるポリカーボネート類を製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6755877
(24)【登録日】2020年8月28日
(45)【発行日】2020年9月16日
(54)【発明の名称】ジチオカーボネート類またはそのセレニウム類似体のビスフェノール類とのエステル交換によるポリカーボネート類を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 64/30 20060101AFI20200907BHJP
【FI】
   C08G64/30
【請求項の数】14
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-543771(P2017-543771)
(86)(22)【出願日】2016年2月15日
(65)【公表番号】特表2018-507299(P2018-507299A)
(43)【公表日】2018年3月15日
(86)【国際出願番号】EP2016053113
(87)【国際公開番号】WO2016131747
(87)【国際公開日】20160825
【審査請求日】2019年1月25日
(31)【優先権主張番号】15155655.2
(32)【優先日】2015年2月18日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515266223
【氏名又は名称】コベストロ、ドイチュラント、アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】COVESTRO DEUTSCHLAND AG
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100104617
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 伸美
(72)【発明者】
【氏名】トーマス、エルンスト、ミューラー
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ、ギュルトラー
(72)【発明者】
【氏名】ニコライ、コルブ
(72)【発明者】
【氏名】ブルクハルト、ケーラー
(72)【発明者】
【氏名】バルター、ライトナー
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、エジュル
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンドラ、グロッセ、ベービング
【審査官】 辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】 特表平11−508636(JP,A)
【文献】 特開平08−269185(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G63/00−64/42
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒の存在下でビスフェノール類をエステル交換試薬と反応させる工程を含んでなるポリカーボネート類を製造する方法であって、該エステル交換試薬が、一般式(I):
【化1】
[式中、
XおよびX‘は、それぞれ独立してSまたはSeであり、並びに
RおよびR’は、それぞれ独立してアルキルまたはアリールであり、
あるいは、RおよびR’は、一緒になってアルキレン鎖であってもよい。]
の化合物を含んでなる、方法。
【請求項2】
前記一般式(I)中のXおよびX‘がSである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
反応の過程で生成された化合物R−X−HおよびR’−X‘−Hが、連続的に除去される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記反応が、第一温度および第一圧力での第一回目の期間において、次に第二温度および第二圧力での第二回目の期間において行われ、ここで、第二温度は第一温度よりさらに高く、第二圧力は第一圧力より低い、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第一温度が150℃〜210℃であり、かつ前記第二温度が210℃〜400℃である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記第一圧力が200mbar〜900mbarであり、かつ前記第二圧力が1mbar〜200mbarである、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
第二温度および第二圧力での前記第二回目の期間において行われる反応が、蒸発押出機、ディスク反応器または蒸発カレンダー内で行われる、請求項4〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記一般式(I)中のRおよびR’が、メチル、エチルまたはフェニルである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記エステル交換試薬がジアルキルジチオカーボネートである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
使用されるポリオール類が、ビスフェノールA、ビスフェノールFまたはビスフェノールTMCを含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記触媒がホスホニウム塩または二環式アミンである、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記触媒が反応の過程にわたり2回以上の分量で添加される、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
得られた反応生成物にジアリールカーボネートまたはジアルキルカーボネートを添加する工程をさらに含んでなる、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ポリカーボネート類の製造のための、エステル交換試薬としての、一般式(I):
【化2】
[式中、
XおよびX‘は、SまたはSeであり、並びに
RおよびR’は、それぞれ独立してアルキルまたはアリールであり、
あるいは、RおよびR’は、一緒になってアルキレン鎖であってもよい。]
の化合物の使用であって、
前記ポリカーボネート類が、触媒の存在下で、ビスフェノール類を前記一般式(I)のエステル交換試薬と反応させることを含んでなる方法により得られる、使用
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒の存在下でビスフェノール類をジチオカーボネート類またはそのセレニウム類似体と反応させることを含んでなる、芳香族ポリカーボネート類を製造する方法に関する。さらに、本発明は、ポリカーボネート類の製造のための、ジチオカーボネート類またはそのセレニウム類似体のエステル交換試薬としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ビスフェノールAに基づくポリカーボネートに対する技術的関心および工業的関心は非常に高い。ポリカーボネートは、通常、界面法によるビスフェノールAのホスゲン化またはジアリールカーボネート類(特にジフェニルカーボネート)の融解物中のビスフェノールAとの触媒的エステル交換によって製造される。
【0003】
界面法において、複数段階の反応では、少なくとも1つの溶媒中のホスゲンを芳香族ジオールのアルカリ性水溶液と反応させる。ポリカーボネートは、有機溶媒中の溶液として得られる。ポリマー溶液の後処理(Aufarbeitung)には、溶媒の再利用が含まれ、排水流を発生させる。
【0004】
メルトエステル交換反応法によるポリカーボネートの生産は、例えば、US5,399,659およびUS5,340,905に記載されている。芳香族ポリカーボネートは、発生する副産物を連続的に除去するために種々の触媒ならびに異なる温度および圧力を用いて、芳香族ジオール類(例えば、ビスフェノールA)およびジアリールカーボネート類(例えば、ジフェニルカーボネート)から開始して調製される。
【0005】
メルトエステル交換法で使用するジアリールカーボネートは、ジアルキルカーボネートをフェノール類とエステル交換させることによって工業的に調製することができる。
【0006】
例えば、EP0781760A1には、触媒の存在下で、ジアルキルカーボネートを芳香族ヒドロキシル化合物と反応させ、ジアルキルカーボネートおよび芳香族ヒドロキシル化合物を当該反応へ再利用しながら、反応において生成されたジアリールカーボネート、アルコール性副産物、ジアルキルカーボネートおよび芳香族ヒドロキシル化合物を連続的に除去することによる、芳香族カーボネート類の連続的製造方法が記載されている。
【0007】
WO−A2004/016577A1には、反応器配置での複数の個別的かつ直列接続された反応領域における、触媒の存在下での、ジアルキルカーボネートおよび芳香族ヒドロキシル化合物からジアリールカーボネート類を製造する方法であって、最終反応領域の蒸気流の凝縮で得られた凝縮の熱が、第一反応領域に導入される液体流を加熱することに使用される方法が記載されている。 しかしながら、この方法の不利な点は、複雑な反応器の配置である。加えて、この方法ではエネルギー統合を改善する必要があり、かつそれは反応の方法のセクションのみに限定されている。後処理のための後続工程は記載されていない。
【0008】
ジアルキルカーボネート類をフェノール類と直接反応させることによる不利な点は、カーボネートによってフェノール系OH基がアルキル化される傾向にあることである。この場合は、相当するメチルエーテルが生成されるようなジメチルカーボネートのフェノール類との反応において特にあてはまる。この副反応は、とりわけ、Catal. Commun. 33(2013)20−23において記載されている。このため、ジアルキルカーボネート類は、芳香族ポリカーボネートを生成するためのビスフェノールAの重縮合に直接使用されず、第一にモノフェノール類と反応させてジアリールカーボネート類を生成する。これは、例えば、旭化成法(Asahi-Prozess)において達成されていて、それはGreen Chem.5(2003)497-507において詳細に記載されている。
【0009】
炭酸のエステル類またはチオエステル類をアルキレングリコール類と反応させることによる脂肪族ポリカーボネート類の生産はWO97/03104A1から既知である。
【発明の概要】
【0010】
従って、本発明により提起された課題は、界面法と比較して必要な反応工程および後処理工程が少なく、かつ重縮合で生成された副産物が先行技術で記載された反応の場合より容易に除去される、芳香族ポリカーボネート類の改善された製造方法を提供することである。
【0011】
そのため、当該課題は、触媒の存在下でビスフェノール類をエステル交換試薬と反応させる工程を含んでなるポリカーボネート類を製造する方法であって、当該エステル交換試薬が、一般式(I):
【化1】
[式中、
XおよびX‘は、それぞれ独立してSまたはSe、好ましくはSであり、並びに
RおよびR’は、それぞれ独立してアルキルまたはアリールであり、あるいは
RおよびR’は、一緒になってアルキレン鎖であってもよい。]
の化合物を含んでなる、方法によって解決される。
【0012】
脂肪族カーボネート類のエステル交換による芳香族ポリカーボネート類の調製でのフェノール類のアルキル化は、顕著な副反応である一方で、本発明による方法は、芳香族ポリカーボネート類が副反応なく製造されるという利点を提供する。
【0013】
反応において生成されるチオール類またはセレノール類は、反応混合物または最終生成物から蒸留によって除去することができる。
【0014】
同様に、本発明の方法は、ジアリールカーボネート類が固体である一方で、短鎖S,S’−ジアルキルジチオカーボネート類は室温で液体であるという利点を有する。フェノール類をS,S’−ジアルキルジチオカーボネート類中に溶解することができるため、物質の液体状態によって、反応開始時の混合物の加工が単純化される。
【0015】
ジチオカーボネート類に基づくポリカーボネート類を製造する方法は、ポリカーボネートの調製の点だけでなく、ジチオカーボネートの調製の点でも有利である。例えば、ジアルキルジチオカーボネート類は、相当するアルカンチオール化合物のホスゲン化によるジアルキルカーボネート類に類似して調製することができる。同様に既知であるのが、触媒を用いた環式ジチオカーボネート類の合成(Tetrahedron Lett. 34(1974)2899−2900)およびセレニウムを用いた、COおよび相当するチオール類からの直鎖状ジチオカーボネート類の無触媒合成(Synlett 10(2005)1535-1538)である。式(I)のジチオカーボネート類のホスゲンに基づく調製は、チオ化合物がとりわけ、より低い融点、より低いモル質量、より低いモル容量を有するため、ジアリールカーボネート類のホスゲンに基づく調製より有利である。式(I)のジチオカーボネート類のホスゲンを含まない調製は、ジアルキルカーボネートからジアリールカーボネートへのエステル交換工程が無く済まされるため、既知のジアリールカーボネート類のホスゲンを含まない調製より有利である。ジアルキルジチオカーボネート類は、ジアルキルカーボネート類と対照的に、ジアリールカーボネートへのエステル交換無くポリカーボネート類の調製に直接使用することができる。
【発明の具体的説明】
【0016】
本明細書において、用語「ポリカーボネート類」には、オリゴマーおよびポリマー両方のポリカーボネート化合物が含まれる。本発明による方法で得られたポリマーポリカーボネート類は、好ましくは18000〜80000g/mol、より好ましくは19000〜50000g/molの数平均分子量Mを有する。数平均分子量は、ポリスチレン標準に対するTHFにおけるゲル透過クロマトグラフィーによって測定することができる。
【0017】
一般式(I)中において、XおよびX‘はそれぞれ独立してSまたはSe、好ましくはSである。
【0018】
一般式(I)の好適な化合物の例は、式中、RおよびR’がそれぞれ独立して直鎖状または分岐状の、置換されていてもよいC〜C34−アルキル、または置換されていてもよいC〜C34−アリール、好ましくはC〜C−アルキルまたはC〜C10−アリール、より好ましくはC−アルキル、C−アルキルまたはC−アリールであるものである。RおよびR’は、同一でも異なっていてもよい。RおよびR’は、好ましくは同一である。
【0019】
RおよびR’基は、一緒になって置換されていてもよいC〜C12−アルキレン鎖であってもよい。
【0020】
式(I)中のC−アルキルは、メチル、C−アルキルは、エチルおよびC−アリールは、フェニルである。
【0021】
また、式(I)中のC〜C−アルキルは、例えば、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、1−メチルブチル、2−メチルブチル、3−メチルブチル、ネオペンチル、1−エチルプロピル、シクロヘキシル、シクロペンチル、n−ヘキシル、1,1−ジメチルプロピル、1,2−ジメチルプロピル、1−メチルペンチル、2−メチルペンチル、3−メチルペンチル、4−メチルペンチル、1,1−ジメチルブチル、1,2−ジメチルブチル、1,3−ジメチルブチル、2,2−ジメチルブチル、2,3−ジメチルブチル、3,3−ジメチルブチル、1−エチルブチル、2−エチルブチル、1,1,2−トリメチルプロピル、1,2,2−トリメチルプロピル、1−エチル−1−メチルプロピルまたは1−エチル−2−メチルプロピルであり;また、C〜C34−アルキルは、例えば、n−ヘプチルおよびn−オクチル、ピナシル、アダマンチル、異性化メンチル類、n−ノニル、n−デシル、n−ドデシル、n−トリデシル、n−テトラデシル、n−ヘキサデシルまたはn−オクタデシルである。同じことが対応するアルキル基(例えば、アラルキル基またはアルキルアリール基)にも当てはまる。対応するヒドロキシアルキル基またはアラルキル/アルキルアリール基中のアルキレン基は、例えば、前述のアルキル基に対応するアルキレン基を表す。
【0022】
アリールは、5〜34個の環原子を有する、炭素環式芳香族の、ヘテロ原子で置換されていてもよい基である。アラルキル基としても知られるアリールアルキル基の芳香族部分およびより複雑な基(例えば、アリールカルボニル基)のアリール構成要素にも同様のことが当てはまる。
【0023】
アリールアルキルおよびアラルキルは、それぞれ独立して、上記で定義されたアリール基によって一置換、多置換または全置換されていてもよい、直鎖状、環式、分岐状または非分岐状の、上記で定義されたアルキル基を表す。
【0024】
一般式(I)の特に好ましい化合物は、ジメチルジチオカーボネート、ジエチルジチオカーボネートおよびジフェニルジチオカーボネートである。
【0025】
式(I)の化合物は、ジアルキルまたはジアリールカーボネート類に相当する方法で調製することができる。ジアルキルまたはジアリールカーボネート類調製の既知の方法は、例えば、溶媒なしの圧力下での気相ホスゲン化または液相ホスゲン化(EP2586787A1)、界面ホスゲン化、酸化的カルボニル化(US2003/055199A)、直接カルボニル化 (WO2008/044575A1)または環状カーボネート類のエステル交換によるカルボニル化(例えば、WO2007/069529、WO2008/065874)である。ジアルキルおよびジアリールカーボネート類の調製に好適な触媒は、既知であり、式(I)の化合物の調製に使用することができる。
【0026】
本発明によれば、ポリカーボネート類調製用の式(I)によるエステル交換試薬は、ビスフェノール類と、好ましくは式(II):
【化2】
[式中、
およびRは、それぞれ独立して、H、C−C18−アルキル、C−C18−アルコキシ、ClまたはBr等のハロゲン、あるいは置換されていてもよいアリールまたはアラルキル、好ましくはHまたはC−C12−アルキル、より好ましくはHまたはC−C−アルキルおよび最も好ましくはHまたはメチルを表し、かつ、
Zは、ヘテロ原子を含有していてもよいその他の芳香族環と縮合され得る、単一結合、−SO−、−CO−、−O−、−S−、C−C−アルキレン、C−C−アルキリデンまたはC−C12−アリーレンを表す。]
と反応させる。
【0027】
本発明による方法に使用できるそのような化合物の例は、ハイドロキノン、レゾルシノール、ジヒドロキシジフェニル、ビス (ヒドロキシフェニル)アルカン類、ビス(ヒドロキシフェニル)シクロアルカン類、ビス(ヒドロキシフェニル)スルフィド類、ビス(ヒドロキシフェニル) エーテル類、ビス(ヒドロキシフェニル) ケトン類、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン類、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホキシド類、α,α'-ビス(ヒドロキシフェニル)ジイソプロピルベンゼン類、ならびにそれらのアルキル化、環アルキル化および環ハロゲン化の化合物等のジヒドロキシジアリールアルカン類である。
【0028】
ビスフェノール類の例は、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルプロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA(BPA))、2,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルブタン、1,3−ビス[2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロピル]ベンゼン(ビスフェノールM)、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルブタン、1,3−ビス[2−(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−2−プロピル]ベンゼン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンおよび1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(ビスフェノールTMC)である。
【0029】
特に好ましいビスフェノール類は、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA(BPA))、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンおよび1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(ビスフェノールTMC)である。
【0030】
好適なビスフェノール類は、US2999835A、US3148172A、US2991273A、US3271367A、US4982014AおよびUS2999846A、ドイツ公開明細書DE1570703A、DE2063050A、DE2036052A、DE2211956AおよびDE3832396A、フランス特許FR1561518A、H. Schnellによるモノグラフ、Chemistry and Physics of Polycarbonates, Interscience Publishers, New York 1964, p. 28ff; p.102ffおよびD.G. Legrand, J.T. Bendlerによるモノグラフ、Handbook of Polycarbonate Science and Technology, Marcel Dekker New York 2000, p. 72ffにも記載されている。
【0031】
好ましくは、式(I)の化合物およびビスフェノールは、少なくとも1:1、より好ましくは1:1〜2:1のモル比で本発明による方法に使用される。
【0032】
好適な触媒の例は、無機塩基化合物または有機塩基化合物、例えば、水酸化物、カーボネート、ハリド、フェノキシド、ジフェノキシド、フルオリド、アセテート、ホスフェート、リン酸水素およびボロネートの群から選択された、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩およびマグネシウム塩、またさらに、窒素塩基およびリン塩基、例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム、酢酸テトラメチルアンモニウム、フッ化テトラメチルアンモニウム、ボロン酸テトラフェニルテトラメチルアンモニウム、フッ化テトラフェニルホスホニウム、ボロン酸テトラフェニルテトラフェニルホスホニウム、水酸化ジメチルジフェニルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、1,8−ジザアザビシクロ[5.4.0]ウンデ−7−セン(DBU)、1,5−ジザアザビシクロ[4.3.0]ノ−5−ネン(DBN)、およびグアニジン系、例えば、1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]デ−5−セン、7−フェニル−1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]デ−5−セン、7−メチル−1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]デ−5−セン、7,7’−ヘキシリデンジ−1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]デ−5−セン、7,7’−デシリデンジ−1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]デ−5−セン、7,7’−ドデシリデンジ−1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]デ−5−セン、およびホスファゼン類、例えば、tert−オクチルイミノトリス(ジメチルアミノ)ホスホラン(ホスファゼン系P1−t−oct)、tert−ブチルイミノトリス(ジメチルアミノ)ホスホラン(ホスファゼン系P1−t−ブチル)および2−tert−ブチルイミノ−2−ジエチルアミノ−1,3−ジメチルパーヒドロ−1,3,2−ジアザ−2−ホスホラン(BEMP)およびトリアルキルプロホスファトラン類(Trialkylprophosphatranes )等のリン含有かご形分子、例えば、トリメチル-, トリエチル−,トリイソブチル−,トリベンジル−またはトリ−4−メトキシベンジルプロホスファトラン、および1,8−ビス(ジメチルアミノ)ナフタレンまたは1,8−ビス(ヘキサメチルトリアミノホスファゼニル)ナフタレン等のプロトン・スポンジである。
【0033】
これら触媒は、好ましくは、ビスフェノール1molに対して1〜10−8molの量で使用される。
【0034】
触媒は、2つ以上の触媒による組み合わせで使用してもよい。
【0035】
反応の完了後、触媒は生成物に残しても、または除去しても、中性化してもまたは遮蔽してもよい。1または複数の触媒は生成物に残されていることが好ましい。
【0036】
本発明による方法で得られる芳香族ポリカーボネート類は、少量の分岐試剤の使用を通した制御された方法で分岐されてもよい。好適な分岐試剤は:フロログルシノール、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,3,5−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタン、トリ(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス[4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキシル]プロパン、2,4−ビス(4−ヒドロキシフェニルイソプロピル)フェノール、2,6−ビス(2−ヒドロキシ−5’−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(2,4−ジヒドロキシフェニル)プロパン、ヘキサ(4−(4−ヒドロキシフェニルイソプロピル)フェニル)オルソテレフタレート、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)メタン、テトラ(4−(4−ヒドロキシフェニルイソプロピル)フェノキシ)メタン、イサチンビスクレゾール、ペンタエリスリトール、2,4−ジヒドロキシ安息香酸、トリメシン酸、シアヌル酸、1,4−ビス(4’,4”−ジヒドロキシトリフェニル)メチル)ベンゼンおよびα,α’,α’’−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3,4−トリイソプロペニルベンゼンである。特に好ましいのは、1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタン(THPE)およびイサチンビスクレゾール(TBK)である。
【0037】
これら分岐試剤は、方法において任意の所望する工程で添加することができる。例えば、低分子量ポリカーボネート類調製の第一段階において、添加を行うことができる。同様に、低分子量ポリカーボネート類のメルトエステル交換において、第二段階にて、添加を行い、高分子量ポリカーボネート類を生成することができる。
【0038】
本発明により得られるポリカーボネート類は、連鎖停止剤を含有していてもよい。相当する連鎖停止剤は、とりわけ、EP335214AおよびDE3007934Aから知られている。連鎖停止剤の例は、フェノール等のモノフェノール類、クレゾール類、p−tert−ブチルフェノール、p−n−オクチルフェノール、p−イソオクチルフェノール、p−n−ノニルフェノールおよびp−イソノニルフェノール等のアルキルフェノール類、p−クロロフェノール、2,4−ジクロロフェノール、p−ブロモフェノールおよび2,4,6−トリブロモフェノール等のハロフェノール類、同様にp−クミルフェノールである。特に好ましいのは、フェノールおよびp−クミルフェノールである。
【0039】
本発明の態様およびさらなる側面は、以下に概説する。文脈からその反対が明確でない限り、所望によりそれらを互いに組み合わせることができる。
【0040】
本発明による方法の好ましい態様において、反応の過程で生成されたチオール類および/またはセレノール類は、連続的に除去される。特に、S,S’−ジメチルジチオカーボネートおよび/またはS,S’−ジエチルジチオカーボネートの使用の場合、反応によってメタンチオールおよびエタンチオールがそれぞれ発生するが、ガス状のチオールの蒸留的除去によって除去を行うことができる。同様に、S,S’−ジフェニルジチオカーボネートの使用の場合でも、反応によってチオフェノールが発生するが、チオフェノールを蒸留的除去によって除去を行うことが可能である。
【0041】
本発明による方法のさらなる態様において、反応は、第一温度および第一圧力で第一回目の期間、次に第二温度および第二圧力で第二回目の期間行われ、ここで第二温度は第一温度よりさらに高く、第二圧力は第一圧力より低い。
【0042】
理論に拘束されることなく、反応の第一工程において、主に低分子量ポリカーボネート類が生成され、第二工程において、これら低分子量ポリカーボネート類は縮合されて高分子量ポリカーボネートが生成されることが推測される。反応の第二段階における温度の上昇および圧力の低下は、独立して、一度、複数の工程にてまたは段階的方法にて達成し得る。含まれているのは、特に、反応がさらなる温度およびさらなる圧力等で少なくとも1回のさらなる時間に行われる、複数段階方法である。好ましくは、このさらなる方法工程での温度は、第一の2つの温度より高く、かつ圧力は、第一の2つの圧力より低い。
【0043】
好ましくは、第一温度は、150℃〜210℃、かつ第二温度は、210℃〜400℃である。より好ましくは、第一温度は、175℃〜205℃である。これに独立して、250℃〜350℃の第二温度が好ましい。
【0044】
第一圧力が200mbar〜900mbar、かつ第二圧力が1mbar〜200mbarであることが同様に好ましい。より好ましくは、第一圧力は250mbar〜600mbarである。これに独立して、≦10mbarの第二圧力が好ましい。
【0045】
例えば、ポリカーボネート合成は、ジチオカーボネートを融解物中でビスフェノールとエステル交換することによって次のように行うことができる:第一段階において、ジチオカーボネートとの、ビスフェノールおよび触媒の溶融は、0.01〜3時間以内に、900〜200mbar、好ましくは600〜400mbarの減圧下で、170〜210℃の温度にて行われ、低分子量オリゴマーが生成される。反応の第二段階において、高分子量ポリカーボネートの調製は、0.01〜5時間以内に、10mbar以下の減圧下で、210〜400℃、好ましくは250〜350℃の温度にて行われる。
【0046】
本発明による方法は、回分式または連続的に、例えば、撹拌タンク、薄膜蒸発器、流下膜式蒸発器、撹拌タンクカスケード、押出機、混練機、単純ディスク反応器または高粘度ディスク反応器内で行うことができる。
【0047】
同様に、第二温度および第二圧力での第二期間に行われる反応は、蒸発押出機、ディスク反応器または蒸発カレンダー内で行うことが可能である。
【0048】
本発明による方法のさらなる態様において、使用するビスフェノールは、ビスフェノールA、ビスフェノールFおよび/またはビスフェノールTMCである。
【0049】
本発明による方法のさらなる態様において、一般式(I)中におけるRおよびR’は、メチル、エチルまたはフェニルである。特に好ましいのは、ジメチルジチオカーボネートである。
【0050】
本発明による方法のさらなる態様において、一般式(I)の化合物は、ジアルキルジチオカーボネート、好ましくはジメチルジチオカーボネートまたはジエチルジチオカーボネートである。
【0051】
本発明による方法のさらなる態様において、触媒は、ホスホニウム塩または二環式アミンである。
【0052】
好ましいホスホニウム塩は、一般式(III):
【化3】
[式中、
、R2、およびRは、それぞれ独立して、同一または異なるC〜C18−アルキレン、C〜C10−アリールまたはC〜C−シクロアルキルであってもよく、かつ、Xは、対応する酸塩基ペアH+X→HXが、<11のpKを有する陰イオンであってもよい。]
のものである。
【0053】
特に好ましいホスホニウム塩は、フッ化テトラフェニルホスホニウム、ホウ酸テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルおよびテトラフェニルホスホニウムフェノキシド、特にテトラフェニルホスホニウムフェノキシドである。
【0054】
特に好ましい触媒は、テトラフェニルホスホニウムフェノキシドおよびDBUである。
【0055】
本発明による方法のさらなる態様において、触媒は、反応の過程にわたり、2回以上の分量で添加される。例えば、触媒を3回の等しい分量で添加することができる。
【0056】
本発明による方法のさらなる態様において、ジアリールカーボネートまたはジアルキルカーボネートを、得られた反応生成物に添加する工程がさらに含まれてなる。代替の態様において、ジアリールカーボネートまたはジアルキルカーボネートは、式(I)の化合物のビスフェノールとの反応の開始または過程において添加される。この様にすると、予め得られたポリカーボネートの分子量はさらに増加させることができる。加えて、ポリカーボネート中のチオエステルおよびOH基の含有量は減少する。好ましくは、使用されるジアリールカーボネートは、ジフェニルカーボネート(DPC)である。ジアリールカーボネートまたはジアルキルカーボネートの量は、例えば、元々使用していたビスフェノールの量に対して、5mol%〜15mol%であってもよい。
【0057】
同様に、本発明は、ポリカーボネート類調製用のエステル交換試薬としての、一般式(I):
【化4】
[式中、
XおよびX‘は、SまたはSe、好ましくはSであり、並びに
RおよびR’は、それぞれ独立してアルキルまたはアリールであり、あるいは
RおよびR’は、一緒になってアルキレン鎖であってもよい。]
の化合物の使用にも関する。RおよびR’の定義に関しては、本発明による方法に関連して上記の言及を参照することとする。エステル交換試薬としてS,S’−ジアルキルジチオカーボネート類、特にS,S’−ジメチルジチオカーボネートまたはS,S’−ジエチルジチオカーボネート、またはS,S’−ジアリールジチオカーボネート類、特にS,S’−ジフェニルジチオカーボネートを使用することが好ましい。
【実施例】
【0058】
本発明を以下の実施例および比較例によって、それに制限されることなく、より詳細に説明する。
【0059】
使用したエステル交換試薬:
ジメチルジチオカーボネート S,S’−ジメチルジチオカーボネート
ジメチルカーボネート O,O’−ジメチルカーボネート
使用したビスフェノール:
ビスフェノールA 2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン
参照物質として使用したポリカーボネート類:
マクロロン(商標) M=13900g/molの数平均分子量および2.4の 多分散性を有する、Bayer MaterialScience AGからの ビスフェノールAに基づく芳香族ホモポリカーボネート。
【0060】
ビスフェノールAのジメチルジチオカーボネートとの重合反応によって、潜在的末端基として式(Xa):
【化5】
に示される遊離OH基および/または式(Xb):
【化6】
に示される非対称チオエステル、および/または式(Xc):
【化7】
に示されるアルキル化フェノール基を含有する、直鎖状ポリカーボネートが生成される。
【0061】
ジフェニルカーボネート(実施例3参照)の添加の場合、得られるのは、潜在的末端基として、追加的または排他的に、式(Xd):
【化8】
の単官能性フェノール基を含有するポリカーボネートである。
【0062】
直鎖状ポリマー分子は、通常、式(Xa)〜(Xd)の2つの末端基を含有し、ここで各分子は2つの同一または2つの異なる末端基を含有し得る。
【0063】
各サンプルを重水素化されたクロロホルムに溶解させ、Bruker分光計(AV400、400MHz)で分析した。ビスフェノールAの官能化の程度は、H NMR分光法によって測定した。この目的のために、異なる共振の強度を、互いについて統合した。
【0064】
統合に使用したH NMRスペクトル(TMS=0ppmに基づく)における相対共振は、以下のとおりである;
I1:1.59:繰り返しビスフェノールA単位のCH
I2:2.32:非対称チオエステル(Xb)のCH
I3:3.69:アルキル化フェノール(Xc)のCH
I4:6.57〜6.60および6.96〜6.99:ビスフェノールAおよび直接結合した遊離OH基(Xa)を有する末端ビスフェノールA単位のフェニル環のCH基
I5:7.07〜7.09および7.16〜7.18:ビスフェノールA系繰り返し単位および直接結合した遊離OH基(Xa)を有しない末端ビスフェノールA単位のフェニル環の芳香族CH基。
【0065】
ビスフェノールA単位の官能化の程度に対する数字は、使用されたビスフェノールA中で転換されたフェノール基の割合に基づき、mol%で付与される。相対強度を考慮して、値を以下の通り計算した。
官能化の程度=I5/(I4+I5)
【0066】
結果として得られたポリマーの数平均分子量Mおよび重量平均分子量Mは、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)によって測定した。DIN55672−1の手順は次の通りであった:「ゲル透過クロマトグラフィー、パート1−溶出剤としてテトラヒドロフラン」(PSS Polymer ServiceからのSECurity GPC System 、流速1.0ml/分;カラム:2×PSS SDV linear M、8×300mm、5μm;RID検出器)。キャリブレーションのために、既知のモル質量のポリスチレンサンプルを使用した。
【0067】
ビスフェノールのエステル交換試薬との反応は、還流冷却器付きのシュレンク管内で行われた。シュレンク管を、閉ループ制御によって指定された温度で保たれた電気加熱マントルで外部から加熱した。反応混合物を、反応混合物内で磁気撹拌バーによって撹拌した。
【0068】
実施例1:1段階方法におけるビスフェノールAのジメチルジチオカーボネートとの反応
還流冷却器付き100mlシュレンク管中、ビスフェノールA(5.71g,25.0mmol)に、ジメチルジチオカーボネート(3.05g,25.0mmol)およびテトラフェニルホスホニウムフェノキシド(216mg,使用したカーボネートに対して2.0mol%)を添加した。続いて、反応混合物を、6時間750mbarの圧力で200℃まで電気加熱マントルで加熱した。6.62gの粘性物質を得た。
芳香族水素(5.5〜8.5ppm)の領域でのH NMR分析によってビスフェノールAの75%官能化が示された。
生成物のGPC分析によって、M=570g/molの数平均分子量および3.53の多分散性が示された。
【0069】
実施例2:2段階方法におけるビスフェノールAのジメチルジチオカーボネートとの反応
還流冷却器付き100mlシュレンク管中、ビスフェノールA(5.71g,25.0mmol)に、ジメチルジチオカーボネート(4.88g,40.0mmol)およびテトラフェニルホスホニウムフェノキシド(85mg,使用したカーボネートに対して2.0mol%)を添加した。続いて、反応混合物を2段階で加熱した。第一に、混合物を、1時間500mbarの圧力で還流下にて250℃まで加熱した。続いて、還流冷却器を蒸留システムと交換した。反応混合物を依然として250℃まで加熱し、この過程で、第一に、アルゴン流が1時間反応混合物を通過し、次いで圧力を30分間10mbarに低減させた。続いて、容器を閉じ、反応混合物を、2時間<1mbarの圧力で300℃まで加熱した。この過程で、褐色がかった沈殿物が容器の上部壁に昇華した。収率を測定することはできなかった。
芳香族水素領域(5.5〜8.5ppm)におけるH NMR分析によって、ビスフェノールAの完全官能化が示された。
生成物のGPC分析によって、M=1700g/molの数平均分子量および1.94の多分散性が示された。
【0070】
実施例3:2段階方法におけるビスフェノールAのジメチルジチオカーボネートとの反応ならびに生成物中のチオエステルおよびOH基の含有量を減少させるためのジフェニルカーボネートの添加
重合
還流冷却器付き100mlシュレンク管中、ビスフェノールA(5.71g,25.0 mmol)に、ジメチルジチオカーボネート(4.27g,35.0mmol)およびテトラフェニルホスホニウムフェノキシド(76mg,使用したカーボネートに対して0.5mol%)を添加した。続いて、反応混合物を複数の段階で加熱した。第一に、混合物を、1時間400mbarの圧力で還流下にて220℃まで加熱した。続いて、還流冷却器を蒸留システムと交換した。反応混合物を、1時間10mbarの圧力で加熱し、220℃から260℃へ、次に300℃へとそれぞれの場合において20分後に温度を段階的に上昇させた。
【0071】
ジアリールカーボネートまたはジアルキルカーボネートの添加
次いで、ジフェニルカーボネート(DPC,428mg,2mmol)を添加した。続いて、容器を閉じ、反応混合物を、1時間<1mbarの圧力で300℃まで加熱した。
芳香族水素領域(5.5〜8.5ppm)におけるH NMR分析によって、第一反応工程後にビスフェノールAの85%官能化が示された。生成物のH NMR分析は、全ての面においてマクロロン(商標)に対応したものであった。
生成物のGPC分析によって、M=11 300g/molの数平均分子量および4.340の多分散性が示された。
5.62gのポリカーボネートが得られた(収率87.8%)。
【0072】
例4(比較例):ビスフェノールAのジメチルカーボネートとの反応
還流冷却器付き100mlシュレンク管中、ビスフェノールA(5.71g,25.0mmol)に、ジメチルカーボネート(3.15g,35.0mmol)およびテトラフェニルホスホニウムフェノキシド(76mg,使用したカーボネートに対して0.5mol%)を添加した。続いて、反応混合物を、400mbarの圧力で加熱した。強い還流を観察し、フラスコ中に白色固体の同様の生成があった。反応混合物の温度は、1時間以内に最高温度73℃に上昇した。
芳香族水素領域(5.5〜8.5ppm)におけるH NMRによる生成物混合物の分析によって、反応混合物は、未転換ジメチルカーボネートだけでなく、主として(>60%)の未転換ビスフェノールAを含有していることが示された。
【0073】
【表1】
【0074】
実施例1〜3を比較例4と比較したところ、エステル交換試薬として炭酸二カルコゲニドを使用することでオリゴマーのポリカーボネート(実施例1)またはポリマーのポリカーボネート(実施例2および3)が得られる一方で、エステル交換試薬としてジメチルカーボネートを使用した場合(比較例4)では、ビスフェノールAを低い収量でジメチルカーボネートと反応させてポリカーボネートが得られなかったことが示された。
【0075】
実施例5:2段階方法でのビスフェノールAのジメチルジチオカーボネートとの反応
還流冷却器付き100mlシュレンク管中、ビスフェノールA(5.71g,25.0mmol)に、ジメチルジチオカーボネート(4.88g,40.0mmol)およびテトラフェニルホスホニウムフェノキシド(85mg,使用したカーボネートに対して0.5mol%)を添加した。続いて、反応混合物を複数の段階で加熱した。第一に、混合物を、1時間400mbarの圧力で還流下にて220℃まで加熱した。続いて、還流冷却器を蒸留システムと交換した。反応混合物を、1時間10mbarの圧力で加熱し、220℃から260℃へ、次に300℃へとそれぞれの場合において20分後に温度を段階的に上昇させた。続いて、容器を閉じ、反応混合物を、1時間<1mbarの圧力で300℃まで加熱した。5.85gのポリカーボネートを得た(収率91.4%)。
生成物のGPC分析によって、M=10 000g/molの数平均分子量および2.92の多分散性が示された。
芳香族水素領域(5.5〜8.5ppm)におけるH NMR分析によって、第一反応工程後にビスフェノールAの90%官能化が示された。生成物のH NMR分析は、全ての顕著な面においてマクロロン(商標)に対応したものであった。
得られたポリカーボネートのマクロロン(商標)と比較したゲル透過クロマトグラム(GPC)を図1に示す。曲線1がマクロロン(商標)、曲線2が本発明によるポリマーサンプルである。
【0076】
実施例6:2段階方法でのビスフェノールAのジメチルジチオカーボネートとの反応
還流冷却器付き100mlシュレンク管中、ビスフェノールA(5.71g,25.0mmol)に、ジメチルジチオカーボネート(4.88g,40.0mmol)および1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデ−7−セン(DBU,60mg,使用したカーボネートに対して1.0mol%)を添加した。続いて、反応混合物を複数の段階で加熱した。第一に、混合物を、1時間500mbarの圧力で還流下にて250℃まで加熱した。続いて、還流冷却器を蒸留システムと交換した。反応混合物を、1時間10mbarの圧力で加熱し、この過程で反応混合物を、第一に、30分間250℃まで加熱し、次にさらに30分間300℃まで加熱した。続いて、容器を閉じ、反応混合物を、1時間<1mbarの圧力で300℃まで加熱した。6.31gのポリカーボネートを得た(収率98.6%)。
生成物のGPC分析によって、M=3700g/molの数平均分子量および2.37の多分散性が示された。
芳香族水素領域(5.5〜8.5ppm)におけるH NMR分析によって、第一反応工程後にビスフェノールAの90%官能化が示された。生成物のH NMR分析は、全ての顕著な面においてマクロロン(商標)に対応したものであった。
【0077】
【表2】
【0078】
実施例3、5および6を比較したところ、炭酸二カルコゲニドのビスフェノールAとの反応には、触媒としてテトラアリールホスホニウムアリレート(実施例3および5)および二環式アミン化合物(実施例6)を使用することが可能であることが示された。
【0079】
実施例7:2段階方法でのビスフェノールAのジメチルジチオカーボネートとの反応
還流冷却器付き100mlシュレンク管中、ビスフェノールA(5.71g,25.0mmol)に、ジメチルジチオカーボネート(4.88g,40.0mmol)およびテトラフェニルホスホニウムフェノキシド(85mg,使用したカーボネートに対して0.5mol%)を添加した。続いて、反応混合物を複数の段階で加熱した。第一に、混合物を、1時間750mbarの圧力で還流下にて200℃まで加熱した。続いて、還流冷却器を蒸留システムと交換した。反応混合物を、1時間10mbarの圧力で加熱し、この過程で温度は、30分間200℃に保ち、続けて、250℃へ、次に300℃へそれぞれの場合において15分間、温度を段階的に上昇させた。続いて、容器を閉じ、反応混合物を、1時間<1mbarの圧力で300℃まで加熱した。5.56gのポリカーボネートを得た(収率86.9%)。
生成物のGPC分析によって、M=6500g/molの数平均分子量および2.48の多分散性が示された。
芳香族水素領域(5.5〜8.5ppm)におけるH NMR分析によって、第一反応工程後にビスフェノールAの80%官能化が示された。生成物のH NMR分析は、全ての顕著な面においてマクロロン(商標)に対応したものであった。
【0080】
【表3】
【0081】
実施例5および7を比較したところ、炭酸二カルコゲニドのビスフェノールAとの反応には、異なる温度および圧力レベルの使用が可能であることが示された。
【0082】
図2は、マクロロン(商標)(曲線3)と種々の反応時間(曲線4:2時間、曲線5:3時間)後のDPCの添加なくビスフェノールAのジメチルジチオカーボネートとの重合から得られた反応生成物(実施例5)および種々の反応時間(曲線6:2時間、DPCの添加直前;曲線7:3時間、完全重合後)後での2時間の反応時間後の、DPCを添加した反応から得られた反応生成物(実施例3)のゲル透過クロマトグラムの比較を示した図である。 DPC添加の結果としての分子量増加は明白である。
【図面の簡単な説明】
【0083】
図1
図2
図1
図2