(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6755901
(24)【登録日】2020年8月28日
(45)【発行日】2020年9月16日
(54)【発明の名称】大型ターボ過給式2ストローク圧縮着火型内燃エンジンおよび該エンジンの運転方法
(51)【国際特許分類】
F02D 41/38 20060101AFI20200907BHJP
F02D 19/08 20060101ALI20200907BHJP
F02D 41/02 20060101ALI20200907BHJP
F02D 41/04 20060101ALI20200907BHJP
F02B 61/04 20060101ALI20200907BHJP
F02D 23/02 20060101ALI20200907BHJP
F02D 43/00 20060101ALI20200907BHJP
【FI】
F02D41/38
F02D19/08 C
F02D41/02
F02D41/04
F02B61/04
F02D23/02 H
F02D43/00 301J
F02D43/00 301H
F02D43/00 301W
【請求項の数】17
【外国語出願】
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-114085(P2018-114085)
(22)【出願日】2018年6月15日
(65)【公開番号】特開2019-7482(P2019-7482A)
(43)【公開日】2019年1月17日
【審査請求日】2019年2月1日
(31)【優先権主張番号】PA201770489
(32)【優先日】2017年6月23日
(33)【優先権主張国】DK
(31)【優先権主張番号】PA201770954
(32)【優先日】2017年12月18日
(33)【優先権主張国】DK
(73)【特許権者】
【識別番号】597061332
【氏名又は名称】エムエーエヌ・エナジー・ソリューションズ・フィリアル・アフ・エムエーエヌ・エナジー・ソリューションズ・エスイー・ティスクランド
(74)【代理人】
【識別番号】100127188
【弁理士】
【氏名又は名称】川守田 光紀
(72)【発明者】
【氏名】イェンスン キム
【審査官】
丸山 裕樹
(56)【参考文献】
【文献】
特表2008−502837(JP,A)
【文献】
特表平07−509767(JP,A)
【文献】
特開2008−025445(JP,A)
【文献】
特開2011−112017(JP,A)
【文献】
特開2003−027997(JP,A)
【文献】
特表2016−532050(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D13/00−28/00
41/00−45/00
F02B61/00−79/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン運転中に下死点(Bottom Dead Center:BDC)と上死点(Top Dead Center:TDC)との間を往復するピストン(21)をそれぞれ内部に備える複数のシリンダ(1)と、
燃焼のために前記シリンダ(1)に燃料を噴射するために、前記シリンダ(1)それぞれに付随する1つ以上の燃料弁(30)を備える燃料噴射系と、
前記燃料弁(30)の開閉を制御することによって、前記シリンダ(1)のクランク角に応じて燃料噴射のタイミングを制御するように構成される電子制御ユニット(50)と、
を備え、
前記ピストン(21)は、ピストン棒と、クロスヘッド(23)と、連接棒とを介してクランクシャフト(22)に動作可能に連結され、
前記クランクシャフト(22)は、前記エンジンの運転中に所定の回転速度で回転し、
前記電子制御ユニット(50)は、少なくとも特定の回転速度範囲内の前記エンジンの前記シリンダ(1)の少なくとも1つを、TDC後の6°から10°の間のプリ噴射と、前記プリ噴射の後のゼロ燃料噴射期間と、前記ゼロ燃料噴射期間の後のメイン燃料噴射であってTDC後の12°以降に行われるメイン燃料噴射とを電子制御ユニット(50)によって実行することにより、運転するように構成される、
大型2ストローク圧縮着火型内燃エンジン。
【請求項2】
前記電子制御ユニットは、前記クランクシャフト(22)における、および/または前記クランクシャフトに連結されたプロペラ軸(42)における、および/または前記クランクシャフト(22)を負荷に連結する中間軸におけるねじり震動を低減するように構成される、請求項1に記載のエンジン。
【請求項3】
前記負荷は、船舶(40)を推進するためのプロペラ(44)である、請求項2に記載のエンジン。
【請求項4】
前記クランクシャフト(42)は、船舶(40)を推進するためのプロペラ(44)に主軸(42)によって連結される、請求項2または3に記載のエンジン。
【請求項5】
前記電子制御ユニット(50)は、前記特定の回転速度範囲中に増加する負荷下で前記エンジンを運転する間に、前記シリンダの少なくとも1つに対し、TDC以降の少なくとも1回のプリ噴射と、その後のメイン燃料噴射とを前記電子制御ユニット(50)によって実行することにより、前記エンジンを運転するように構成される、請求項1から4のいずれかに記載のエンジン。
【請求項6】
前記電子制御ユニット(50)は、少なくとも、前記エンジンを前記特定の回転速度範囲内で運転している間に、前記メイン燃料噴射を、TDC後の13°より遅く実行するように構成される、請求項1から5のいずれかに記載のエンジン。
【請求項7】
前記電子制御ユニット(50)は、少なくとも、前記エンジンを前記特定の回転速度範囲内で運転している間に、前記メイン燃料噴射を、TDC後の15°より遅く実行するように構成される、請求項1から5のいずれかに記載のエンジン。
【請求項8】
前記少なくとも1回のプリ噴射は、エンジン全負荷時の前記メイン燃料噴射において噴射される燃料の量よりかなり少ない燃料噴射量で行われる、請求項1から7のいずれかに記載のエンジン。
【請求項9】
前記電子制御ユニット(50)は、前記メイン燃料噴射時の前記シリンダ(1)内の温度が、TDC時の前記シリンダ内の温度とほぼ等しくなるようにするために十分な燃料量をプリ噴射するように構成される、請求項1から8のいずれかに記載のエンジン。
【請求項10】
前記電子制御ユニット(50)は、前記プリ噴射中に着火液を噴射することにより、前記TDC後に前記プリ噴射を行うように構成される、請求項1から9のいずれかに記載のエンジン。
【請求項11】
前記メイン燃料噴射用の燃料は気体燃料であり、前記プリ噴射用の燃料は着火液であり、前記着火液は前記メイン燃料噴射と同時にも噴射される、請求項1から10のいずれかに記載のエンジン。
【請求項12】
大型2ストローク圧縮着火型内燃エンジンを運転する方法であって、
前記エンジンは、
・ エンジン運転中に下死点(Bottom Dead Center:BDC)と上死点(Top Dead Center:TDC)との間を往復するピストン(21)をそれぞれ内部に備える複数のシリンダ(1)と、
・ 燃焼のために前記シリンダ(1)に燃料を噴射するために、前記シリンダ(1)それぞれに付随する1つ以上の燃料弁(30)を備える燃料噴射系とを備え、
・ 前記ピストン(21)は、ピストン棒と、クロスヘッド(23)と、連接棒とを介してクランクシャフト(22)に動作可能に連結され、
前記クランクシャフト(22)は、前記エンジンの運転中に所定の回転速度で回転する、
エンジンであり、
前記方法は、前記エンジンの前記シリンダ(1)の少なくとも1つを、少なくとも特定の回転速度範囲において、TDC後の6°から10°の間のプリ噴射と、前記プリ噴射の後のゼロ燃料噴射期間と、前記ゼロ燃料噴射期間の後のメイン燃料噴射であってTDC後の12°以降に行われるメイン燃料噴射とを実行することにより、運転することを含む、方法。
【請求項13】
前記メイン燃料噴射は、TDC後の13°より遅く実行される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記エンジンが前記特定の回転速度範囲外で運転されているとき、前記燃料噴射は前記メイン燃料噴射よりも早く実行される、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記プリ噴射は、エンジン全負荷時の前記メイン燃料噴射において噴射される燃料の量よりかなり少ない燃料噴射量で行われる、請求項12から14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記メイン燃料噴射時の前記シリンダ内の温度が、TDC時の前記シリンダ内の温度とほぼ等しくなるようにするために十分な燃料量をプリ噴射することをさらに含む、請求項12から15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
着火液のプリ噴射と、その後のメイン燃料噴射とを実行することをさらに含み、
前記メイン燃料噴射は、気体燃料と少量の着火液とを噴射することを含む、請求項12から16のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、クロスヘッドを有する大型ターボ過給式2ストローク圧縮着火型内燃エンジン、およびそのようなエンジンを運転する方法に関する。
【0002】
クロスヘッドを有する大型ターボ過給式2ストローク圧縮着火型内燃エンジンは、典型的には、コンテナ船などの大型外航船または発電所における原動機として使用される。
【0003】
特に外航船内で運転される場合、ねじり震動の制御が困難になりうる。このようなねじり震動は、エンジンをプロペラに連結するプロペラ軸がねじれに対して比較的柔軟であり、このねじれに対して比較的柔軟な仕組みが、エンジンから変動する接線方向の圧力(トルク)を受けることによって生じる。この、エンジンからの変動する接線方向の圧力は、各シリンダにおけるサイクル工程によって生じ、クランクシャフトの回転ごとに繰り返される。この、各シリンダにおけるサイクル工程により、クランクシャフトのトルクが大きく変動する。このトルクは圧縮時は負であり、膨張時は正である。これを
図5に示す。
図5では、1個のシリンダからのシリンダ圧力PおよびトルクQを実線で示し、6個のシリンダからの合成トルクを点線で示している。1回転にわたって複数のシリンダを分散させることで、クランクシャフトのトルクの変動は減少するものの、まだ顕著である。震動応力レベルは、直接的または間接的に測定するか、あるいはエンジンおよびその関連する構造の数学的モデルを用いて予測または計算することができる。エンジンによって駆動または加振される1つ以上の装備を含む個々のエンジンの場合、1つ以上の構成要素レベルの震動応力は、例えばエンジン回転速度や、エンジンの運転モードを規定する様々な運転パラメータに基づいて計算できる。計算された震動応力レベルは所定の制限値と比較でき、制限値を超える場合は適切な処置をとることができる。
【0004】
震動応力レベルには、縦および横(またはせん断)震動およびねじり震動によって誘発される応力レベルが含まれる。ある構成要素における震動応力レベルが大きすぎる場合、その構成要素の損傷のおそれがあり、ひいてはその構成要素が故障してエンジンおよび/または装備全体に致命的な結果となる可能性がある。そのため、震動応力レベルを安全性限界より低く保つ必要がある。
【0005】
船舶において、エンジンからの震動はエンジン自体やプロペラ軸に留まらず、船体の他の部分にも伝達される。この震動は、震動として知覚されたり、可聴騒音を生じて船員や乗客に不快感を与えたりする場合がある。そのため、震動応力レベルを快適限界より低く保つことが望ましい。
【0006】
エンジンの主軸(プロペラ軸を含む)におけるねじり震動は、エンジン回転速度の高調波を含む複数の周波数により構成される。エンジンの主軸におけるねじり振動の周波数は、エンジンの回転速度に関連する。一般に、k個のシリンダを備えるエンジンでは、エンジン回転速度の第k高調波と、その倍数および場合によっては約数が周波数スペクトルに含まれ、各周波数によって対応するねじり振動がエンジンの主軸に生じる。一部の周波数のねじり震動は、他の周波数のねじり振動より大きい。合計振動レベルを所定の制限値より低く保つ必要があり、また、選択された(またはすべての)周波数において振動レベルを所定の制限値より低く保つ必要がある。これらのレベルは周波数ごとに固有に設定できる。
【0007】
6個のシリンダを備えるエンジンに関する
図5の例では、1回転ごとに、クランクシャフトのトルクが負になる6つの期間が事実上存在する。なお、これは単なる例であり、すべてのエンジンが、トルクが負になる期間を有するわけではないことに留意されたい。これはエンジンの連結方法による。シリンダ数の多いエンジンは、クランクトルクが負になる期間を有しない。同様に、5個のシリンダを備えるエンジンは1回転ごとに5つの期間を有し、7個のシリンダを備えるエンジンは1回転ごとに7つの期間を有する、などである。負荷−駆動軸−エンジン系におけるねじり震動の問題は、4、5、6、および7シリンダエンジンにおいて言及されている。これらの振動は重大であり、エンジンと負荷(例えばプロペラ)間の駆動軸の柔軟性を考慮すると、エンジンとプロペラの慣性と、それらを連結する柔軟な軸により、共振が発生する。共振に近づくと、トルク変動による加振が非常に大きくなる。
【0008】
ねじり震動の問題を軽減するために、ばねまたは粘性型トーショナルダンパが用いられる。しかしながら、トーショナルダンパを用いるとコストがかなり増大する。また、トーショナルダンパを使用しても、これらのエンジンには禁止回転速度範囲、すなわち、連続運転が禁止される速度範囲があることが多い。これは、軸に高い応力がかかると耐用期間が短くなるからである。
【0009】
WO2005/124132は、燃料噴射量を徐々に増加させて大型2ストロークディーゼルエンジンの燃料噴射系を制御することによって、ねじり震動を減少させる方法を開示している。燃料噴射を徐々に増加させることで、ねじり震動がいくらか減少するが、この効果は、特定の速度範囲においてねじり振動の問題が最も大きいエンジン、例えば5シリンダエンジンには十分ではない。
【0010】
本願発明者らによるシミュレーションと測定により、着火/燃焼を遅延させると、シリンダ圧力にある意味で影響する、すなわち、特定の重要なトルク変動の程度が大きく減少することが分かった。したがって、燃料噴射を遅延させることでねじり加振を減少させることができる。しかしながら、燃料噴射を上死点(Top Dead Center:TDC)後のクランク角10°時点より遅延させることは、ディーゼルノックの発生のため通常は不可能である。
【0011】
上記を鑑みて、本発明は、前述の問題を克服または少なくとも軽減するために、少なくとも任意のRPM帯域において、非常に遅いタイミングの燃料噴射遅延によって運転可能な大型2ストローク圧縮着火型エンジンを提供することを目的とする。
【0012】
前記およびその他の目的は、独立請求項に示す特徴により達成される。さらなる実施の形態は、従属請求項、明細書、および図面により明らかにされる。
【0013】
第1の態様によると、大型2ストローク圧縮着火型内燃エンジンが提供される。前記大型2ストローク圧縮着火型内燃エンジンは、エンジン運転中に下死点(Bottom Dead Center:BDC)と上死点(Top Dead Center:TDC)との間を往復するピストンをそれぞれ内部に備える複数のシリンダと、燃焼のために前記シリンダに燃料を噴射するために、前記シリンダそれぞれに付随する1つ以上の燃料弁を備える燃料噴射系と、前記燃料弁の開閉を制御することによって、前記シリンダのクランク角に応じて燃料噴射のタイミングを制御するように構成される電子制御ユニットと、を備え、前記ピストンは、ピストン棒と、クロスヘッドと、連接棒とを介してクランクシャフトに動作可能に連結され、前記クランクシャフトは、前記エンジンの運転中に所定の回転速度で回転し、前記電子制御ユニットは、少なくとも特定の回転速度範囲内の前記エンジンの前記シリンダの少なくとも1つを、TDC以降の少なくとも1回のプリ噴射と、その後のゼロ燃料噴射期間と、その後の遅延メイン噴射とを電子制御ユニットによって実行することによる遅延燃料噴射により、運転するように構成される。
【0014】
燃焼室内の圧力と温度は、ノックの発生に影響する。燃焼を遅延させると、燃焼室内の空気の膨張により温度と圧力の両方が下がる。TDC後、すなわちTDC=ゼロ後に少なくとも1回のプリ噴射を実行することで、燃焼室内の温度がより高いレベルに維持され、ディーゼルノック発生のおそれなく、メイン噴射の最大許容遅延をより遅くすることができる。
【0015】
この文脈における遅延燃料噴射はメイン燃料噴射イベントであり、パイロット噴射ではない。メイン燃料噴射イベントとは、実質的な量の燃料噴射であり、所望のエンジン負荷におけるエンジンの運転に必要な動力を提供する。パイロット噴射とは、少量の燃料噴射であり、所望の負荷に対するエンジンの運転を維持することはできない。このメイン燃料噴射イベントは、ねじり震動が生じる特定の回転速度範囲外における燃料噴射よりも遅く行われる。プリ噴射イベントの後にゼロ噴射の期間があり、その後にメイン噴射イベントが行われる。
【0016】
したがって、問題の(特定の)速度範囲(RPM範囲)では、エンジンは特定のモードで運転される。このモードは低ねじり震動(Torsional Vibration:TV)モードと呼ぶことができる。問題の速度範囲より下の速度範囲と、問題の速度範囲より上の速度範囲では、エンジンはいくつかの「通常」運転モードの1つで運転される。通常運転モードは、例えば国際海事機関(International Marine Organization:IMO)の二次規制(tier II)または三次規制(tier III)の排出量に一致する運転モードである。
【0017】
メイン燃料噴射イベントを大きく遅延させると、ねじり震動の量が大きく低減される。
【0018】
第1の態様の第1の可能な実装によると、電子制御ユニットは、メイン噴射を、好ましくはTDC後の12°より遅く、より好ましくはTDC後の13°より遅く、さらに好ましくはTDC後の14°より遅く、最も好ましくはTDC後の15°よりも遅く実行するように構成される。これは燃料噴射イベントを開始する角度である。
【0019】
一般的に従来技術では、メイン燃料噴射イベントは、TDC前の極めて小さい角度(例えば1〜2度)とTDC後の数度(例えば1〜6度)との間の任意の角度に設定される。これは燃料噴射イベントを開始する角度である。燃料噴射イベントの「通常の」開始角度は、エネルギー効率と(例えばNOxの)排出量の両方について最適な角度である。
【0020】
第1の態様の第2の可能な実装によると、少なくとも1回のプリ噴射は、エンジン全負荷時のメイン噴射において噴射される燃料の量よりかなり少ない燃料噴射量で行われる。
【0021】
第1の態様の第3の可能な実装によると、少なくとも1回のプリ噴射は、すべてのエンジン負荷においてほぼ同じ燃料量で行われる。
【0022】
第1の態様の第4の可能な実装によると、電子制御ユニットは、遅延メイン噴射時のシリンダ内の温度が、TDC時のシリンダ内の温度とほぼ等しくなるようにするために十分な燃料量をプリ噴射するように構成される。
【0023】
第1の態様の第5の可能な実装によると、メイン噴射用の燃料は気体燃料であり、プリ噴射用の燃料は着火液であり、着火液はメイン噴射と同時にも噴射される。
【0024】
第1の態様の第6の可能な実装によると、電子制御ユニットは、クランクシャフトにおける、および/またはプロペラ軸における、および/またはクランクシャフトを負荷に連結する中間軸におけるねじり震動を低減するように構成される。
【0025】
第1の態様の第7の可能な実装によると、負荷は、船舶を推進するためのプロペラである。
【0026】
第1の態様の第8の可能な実装によると、クランクシャフトは、船舶を推進するためのプロペラに主軸によって連結される。
【0027】
第1の態様の第9の可能な実装によると、電子制御ユニットは、特定の回転速度範囲中に負荷下でエンジンを運転する間に、シリンダの少なくとも1つに対し、TDC後の少なくとも1回のプリ噴射と、その後のメイン噴射とを電子制御ユニットによって実行することによる遅延燃料噴射により、エンジンを運転するように構成される。
【0028】
第2の態様によると、大型2ストローク圧縮着火型内燃エンジンを運転する方法が提供される。前記大型2ストローク圧縮着火型内燃エンジンは、エンジン運転中に下死点(Bottom Dead Center:BDC)と上死点(Top Dead Center:TDC)との間を往復するピストンをそれぞれ内部に備える複数のシリンダと、燃焼のために前記シリンダに燃料を噴射するために、前記シリンダそれぞれに付随する1つ以上の燃料弁を備える燃料噴射系と、を備え、前記ピストンは、ピストン棒と、クロスヘッドと、連接棒とを介してクランクシャフトに動作可能に連結され、前記クランクシャフトは、前記エンジンの運転中に所定の回転速度で回転する。前記方法は、少なくとも特定の回転速度範囲において、遅延燃料噴射により、TDC後の少なくとも1回のプリ噴射と、その後のゼロ燃料噴射期間と、その後の遅延メイン燃料噴射とを実行することを含む。
【0029】
第2の態様の第1の可能な実装によると、メイン噴射は、好ましくはTDC後の12°より遅く、より好ましくはTDC後の13°より遅く、さらに好ましくはTDC後の14°より遅く、最も好ましくはTDC後の15°よりも遅く実行される。
【0030】
第2の態様の第2の可能な実装によると、少なくとも1回のプリ噴射は、エンジン全負荷時のメイン噴射において噴射される燃料の量よりかなり少ない燃料噴射量で行われる。
【0031】
第2の態様の第3の可能な実装によると、方法は、遅延メイン噴射時のシリンダ内の温度が、TDC時のシリンダ内の温度とほぼ等しくなるようにするために十分な燃料量をプリ噴射することを含む。
【0032】
第2の態様の第4の可能な実装によると、方法は、着火液のプリ噴射と、その後のメイン噴射とを実行することをさらに含み、メイン噴射は、気体燃料と少量の着火液とを噴射することを含む。
【0033】
第2の態様の第5の可能な実装によると、電子制御ユニットは、エンジンが特定の回転速度範囲内で運転されているときに、シリンダの少なくとも1つに対してTDC後にパイロット噴射を行い、エンジンが特定の回転速度範囲外で運転されているときより遅く、当該シリンダにメイン燃料噴射イベントを開始するように構成される。
【0034】
第2の態様の第6の可能な実装によると、メイン燃料噴射イベントの遅い開始は、好ましくはTDC後の12°より遅く、より好ましくはTDC後の13°より遅く、さらに好ましくはTDC後の14°より遅く、最も好ましくはTDC後の15°より遅い。
【0035】
第2の態様の第7の可能な実装によると、エンジンが特定の回転速度範囲外で運転されているとき、燃料噴射すなわちメイン燃料噴射は遅延メイン燃料噴射よりも早く実行される。
【0036】
本発明における上記の態様およびその他の態様を、以下に説明する実施形態により明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0037】
以下に示す本開示の詳細な説明において、図面に示す例示的実施形態を参照して、本発明をより詳細に説明する。
【
図1】一例示的実施形態に係る大型ターボ過給式2ストローク圧縮着火型エンジンの前部および一方の側部を示す立面図である。
【
図2】
図1のエンジンの後部および他方の側部を示す立面図である。
【
図3】
図1に係るエンジンをその吸気系および排気系と共に示す模式図である。
【
図4】
図1から
図3のエンジンを備える船舶を部分的に切り開いた側面図である。
【
図5】
図1から
図3のエンジンによって発生したトルク変動を示す図である。
【
図6】
図1から
図3のエンジンによって発生したトルク変動の影響を示す図である。
【
図7】従来技術のエンジンおよび
図1から
図3に係るエンジンの燃焼室の温度と圧力を示す図である。
【
図8】エンジンおよび運転方法の一例示的実施形態における燃料噴射イベントの例を示す図である。
【0038】
以下の詳細な説明において、大型2ストローク圧縮着火型エンジンと、大型2ストローク圧縮着火型エンジンを運転する方法を、例示的実施形態によって説明する。
図1から
図3は、クランクシャフト22、連接棒、クロスヘッド23、およびピストン棒を備える大型低速ターボ過給式2ストロークディーゼルエンジンを示している。
図3は、大型低速ターボ過給式2ストロークディーゼルエンジンをその吸気系および排気系と共に示す模式図である。この例示的実施形態において、エンジンは6個のシリンダ1を一列に備えている。大型ターボ過給式2ストロークディーゼルエンジンは一般に、5本から16本のシリンダを一列に備える。これらのシリンダはエンジンフレーム24によって担持される。ねじり震動の問題は特に5シリンダエンジン、6シリンダエンジン、および7シリンダエンジンに関連する。このエンジンは、例えば、外洋船舶のメインエンジンとして、または発電所において発電機を回すための固定式エンジンとして用いられる。このようなエンジンの全出力は、例えば、5,000kWから110,000kWにまで及ぶ。
【0039】
このエンジンは、シリンダ1の下部領域に環状に配置された複数のピストン制御ポートとしての掃気ポート19と、シリンダ1の上部の排気弁4とを備える、2ストロークユニフロー型のディーゼル(圧縮着火型)エンジンである。したがって、燃焼室内の流れは常に下から上へであり、このエンジンはいわゆるユニフロー型である。掃気は、掃気受け2から各シリンダ1の掃気ポート19へと送られる。シリンダ1内の往復ピストン21により、燃焼室14内の掃気が圧縮される。燃料が、シリンダカバー26に設けられる2個または3個の燃料弁30を介して燃焼室14に噴射される。燃料噴射のタイミングは、信号線(
図3に点線で示す)を介して燃料弁30に接続された電子制御ユニット50によって制御される。続いて燃焼が起こり、排気ガスが生じる。排気弁4が開くと、排気ガスは、当該シリンダ1に付随する排気ダクト20を通って排気受け3へと流れ、第1の排気導管18を通ってターボ過給機5のタービン6に進み、そこから第2の排気導管7を通って流れ出る。タービン6は、吸気口10を介して給気される圧縮機9を軸8によって駆動する。
【0040】
圧縮機9は、給気を加圧して、給気受け2に至る給気導管11へと送る。導管11内の掃気は、給気を冷却するためのインタークーラー12を通って送られる。冷却された給気は、補助ブロワ16を介して給気受け2へと送られる。補助ブロワ16は電気モータ17によって駆動され、低負荷または部分負荷状態の給気を加圧する。負荷がより高い場合、ターボ過給機圧縮機9は十分な圧縮掃気を送り、補助ブロワ16は逆止弁15を介して迂回される。
【0041】
シリンダ1はシリンダライナ13内に形成される。シリンダライナ13はシリンダフレーム25によって担持され、シリンダフレーム25はエンジンフレーム24によって支持される。
【0042】
ピストンエンジンにおいて、死点とは、ピストンがクランクシャフトから最も遠いまたは最も近いときのピストンの位置である。前者は上死点(Top Dead Center:TDC)と呼ばれ、後者は下死点(Bottom Dead Center:BDC)と呼ばれる。
【0043】
図4は、大型船舶40に搭載された
図1から
図3のエンジンを示している。エンジン1は、船舶40の船尾に比較的近いエンジンルームに搭載されている。エンジンは、プロペラ軸42によって、船尾に設置されたプロペラ44に連結される。プロペラ軸42とエンジンの間にトーショナルダンパ(図示せず)を設置することができる。
【0044】
図5は、エンジンサイクル中の各シリンダにおけるサイクル工程のためエンジンによって生じるトルク変動を示すグラフである。エンジンサイクルを横軸に角度として示している。このトルクは圧縮時は負であり、膨張時は正である。
図5では、1個のシリンダからのシリンダ圧力P(バール、縦軸に示す)およびトルクQを実線で示し、6個のシリンダからの合成トルクを点線で示している。点線から、トルク変動が顕著であり、実際、6シリンダエンジンの1回転ごとに6回、トルクがゼロをわずかに下回ることが明示されている。
【0045】
図6は、従来技術のエンジンの回転速度(RPM)に対する、ねじり震動/予測値の影響の大きさを駆動軸への応力(MPa)で示したグラフである。
【0046】
グラフは、46RPM周辺にピークがあることを示している。46RPM周辺に大きなピークがあることから、およそ42PRMと49RPMの間、すなわち、2本の縦の破線の間に禁止回転速度範囲が設定される。ねじり震動によって特にピーク周囲で生じる駆動軸への応力の大きさは、メイン燃料噴射を遅延させる(小さいプリ噴射を先に行うことにより可能になる)ことによって低減できる。
【0047】
このグラフは、RPMに依存する2つの応力限界を2本の一点鎖線で示している。下の鎖線より下の応力レベルでは、連続運転が許容される。上の鎖線より上の応力レベルは許容不可である。下の鎖線と上の鎖線の間の応力レベルは、限定期間内で許容される。
【0048】
図6の例に示す2本の縦の破線間の、およそ42RPMから49RPMの回転速度範囲は、ねじり震動レベルが問題と見なされる特定の回転速度範囲である。この特定の回転速度範囲はエンジンによって異なり、エンジン設計、シリンダ数、主軸42の特性、および主軸42の負荷に依存する。したがって、この問題の回転速度範囲は、エンジンの全体的なエンジン回転速度範囲内で様々な範囲と位置をとる可能性がある。エンジンの電子制御ユニット50は、当該エンジンに関連付けられた特定の(問題の)速度範囲において異なるモードでエンジンを運転するように構成される。この異なるモードは、低ねじり震動モードと呼ぶことができる。この特定の速度範囲外では、エンジンは従来の運転モードで運転される。このモードでは一般に、国際海事機関(International Marine Organization:IMO)の二次規制(tier II)または三次規制(tier III)によって規定されるものなどの特定の排出量を順守しつつ、最適な燃料効率を確実にするように運転される。一方、低ねじり震動モードは、燃料効率はそれほど重視せず、排出量の閾値を順守する。
【0049】
図7および
図8は、1個のシリンダの燃料噴射イベントのタイミングを示している。破線は、従来技術のエンジン(および特定の回転速度範囲外での「通常の」エンジン運転)の(燃料噴射)イベントを示し、実線は、本開示によるエンジンおよび方法のイベントを示している。
図7において、Pと標示される線は燃焼室14内の圧力を示し、Tと標示される線は燃焼室14内の温度を示している。横軸にはTDCに対するクランク角が角度単位で示され、縦軸には燃焼室内の圧力がバール単位で示される。
図8において、実線は、プリ噴射イベントと、その後のゼロ燃料噴射期間と、その後の立ち上がりから開始されるメイン燃料噴射イベントを示している。点線は、従来技術のエンジンのメイン燃料噴射イベントを示している。このイベントも立ち上がりから開始され、本開示によるメイン燃料噴射イベントよりもかなり早く行われる。
【0050】
従来技術のエンジンおよび方法の例において、燃料噴射はTDC後の5°まで遅延される。TDC0と、5°での燃料噴射との間に、燃焼室14内の温度と圧力の両方が低下する。TDC後の5°において燃料が噴射され、この時点から、燃焼室の温度はそれぞれの最大値に達するまで上昇する。
【0051】
本開示によるエンジンの一例において、電子制御ユニット50が燃料弁30を操作することにより、小さいプリ噴射が実行される。このプリ噴射はTDC0以降に実行される。好ましくは、プリ噴射はTDC後の6°から10°の間、さらに好ましくは約7°から8°、最も好ましくはTDC後の約8°において実行される。プリ噴射は、その後のメイン噴射と比べて少量の燃料による燃料噴射である。このプリ噴射では、燃焼室14内の温度が、TDC後の約10°まで、TDC0における温度を大きく下回らないようにするために十分な量の燃料を噴射する。その後、ゼロ噴射期間後にメイン噴射が実行される。メイン噴射は電子制御ユニット50によって制御される。プリ噴射は、1回の噴射としても、一連の複数回の小さいプリ噴射としてもよく、電子制御ユニット50は一実施形態においてそれに応じて構成される。一実施形態において、メイン噴射(の開始)はTDC後の最大25°まで遅延される。好ましくは、メイン噴射はTDC後の少なくとも12°、より好ましくはTDC後の少なくとも13°、さらに好ましくはTDC後の少なくとも14°、最も好ましくはTDC後の少なくとも15°において実行される。プリ噴射をTDC時点またはTDC直後に行えば、メイン噴射のタイミングを20°から25°まで遅らせても(当該角度において開始しても)ディーゼルノックや他の燃焼の問題が生じないことが、テストやシミュレーションによって示されている。
【0052】
噴射の遅延は一般的に燃料効率を損なうため、通常は、ねじり震動や共振の問題のあるエンジン回転速度の範囲にのみ適用される。したがって電子制御ユニット50は、一実施形態において、ねじり振動の問題に関連するエンジンの所定の速度範囲のみにおいて、プリ噴射と遅延されたメイン噴射を適用する。もちろん、二重噴射(プリ噴射とその後の遅いタイミングのメイン噴射)は、NOx排出量の削減などの他の目的に用いることもできる。
【0053】
本開示に係るエンジンおよび方法によると、メイン噴射イベント(の開始)をTDC後の10°よりもさらに遅延させることができ、これによってねじり予測値を低減し、エンジン−軸−負荷系におけるねじり震動に関連する問題を軽減することができる。重くコストの高い(ねじり)振動ダンパを節約でき、エンジン禁止回転速度範囲を縮小または回避して、すべての回転速度で自由にエンジンを運転することができる。
【0054】
本開示によるエンジンおよび方法は、船舶用ディーゼルや重油など従来の燃料や、気体燃料などの代替燃料にも用いることができる。
【0055】
気体燃料の場合、プリ噴射は一般的に船舶用ディーゼルなどの着火液で実行される。メイン噴射は、少量の着火液と主要量の気体燃料による噴射となる。
【0056】
一実施形態によると、エンジンの各シリンダは異なるサイクル工程で動作させてもよい。したがって、プリ噴射とその後の遅いタイミングのメイン噴射を1つ以上の選択したシリンダに適用し、他のシリンダはサイクルごとに1回の燃料噴射による従来のサイクルで動作させてもよい。
【0057】
一実施形態において、燃料の種類はシリンダごとに異なる。
【0058】
上記の様々な実施形態によって本発明を説明したが、開示した実施形態に対する他の変形は、図面、開示内容、および添付の特許請求の範囲を検討することにより、請求項記載の発明を実施する際に当業者により理解され行われることのできるものである。特許請求の範囲において、「有する、備える」という文言はその他の要素またはステップを排除せず、単数表現は複数を排除しない。特定の手段が相互に異なる従属請求項に列挙されているという事実のみでは、これらの手段の組み合わせが有効に使用されないことにはならない。
【0059】
特許請求の範囲における参照符号は、その範囲を限定するものと解釈してはならない。