特許第6755909号(P6755909)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日亜鋼業株式会社の特許一覧

特許6755909亜鉛めっき異形棒鋼材の製造方法および製造システム
<>
  • 特許6755909-亜鉛めっき異形棒鋼材の製造方法および製造システム 図000002
  • 特許6755909-亜鉛めっき異形棒鋼材の製造方法および製造システム 図000003
  • 特許6755909-亜鉛めっき異形棒鋼材の製造方法および製造システム 図000004
  • 特許6755909-亜鉛めっき異形棒鋼材の製造方法および製造システム 図000005
  • 特許6755909-亜鉛めっき異形棒鋼材の製造方法および製造システム 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6755909
(24)【登録日】2020年8月28日
(45)【発行日】2020年9月16日
(54)【発明の名称】亜鉛めっき異形棒鋼材の製造方法および製造システム
(51)【国際特許分類】
   C23C 2/06 20060101AFI20200907BHJP
   C23C 2/38 20060101ALI20200907BHJP
【FI】
   C23C2/06
   C23C2/38
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-156976(P2018-156976)
(22)【出願日】2018年8月24日
(65)【公開番号】特開2020-29606(P2020-29606A)
(43)【公開日】2020年2月27日
【審査請求日】2019年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226068
【氏名又は名称】日亜鋼業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高間 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】田中 文武
(72)【発明者】
【氏名】加治 靖
(72)【発明者】
【氏名】重松 峰彦
(72)【発明者】
【氏名】三浦 義大
(72)【発明者】
【氏名】林田 旭弘
【審査官】 萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−322574(JP,A)
【文献】 特開2006−283178(JP,A)
【文献】 特開2013−221196(JP,A)
【文献】 特開2003−166041(JP,A)
【文献】 特開2009−024210(JP,A)
【文献】 特開平11−006047(JP,A)
【文献】 特開2001−107213(JP,A)
【文献】 特開2001−207250(JP,A)
【文献】 特開2006−082468(JP,A)
【文献】 特開2011−140866(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0201288(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/00−2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄系の異形棒鋼材を繰出供給源から牽引してめっきを行い、亜鉛めっき異形棒鋼材を製造する方法であって、
前記異形棒鋼材を、浴温が420℃以上500℃以下のめっき浴に6秒以上60秒以下の浸漬時間で浸漬する浸漬工程と、
前記浸漬工程において浸漬された前記異形棒鋼材を8m/min〜15m/minの引上速度で垂直に引き上げる引上工程と、
前記引上工程において引き上げられた前記異形棒鋼材を冷却する冷却工程と、
を含み、
前記亜鉛めっき異形棒鋼材は前記異形棒鋼材が、亜鉛を含むめっき層で被覆されており、直径が6mm以上13mm以下であ
前記めっき層は、前記異形棒鋼材の上に形成されたZn−Fe合金層と、該Zn−Fe合金層の上に形成されたZn層と、からなり、
前記Zn−Fe合金層の厚さと前記Zn層の厚さとの比は1:1〜1:6の範囲であり、めっきによるZnの付着量が550g/m以上である
ことを特徴とする製造方法
【請求項2】
請求項1に記載した製造方法において、
前記亜鉛めっき異形棒鋼材の表面の凸部の高さが、前記異形棒鋼材の表面の凸部の高さの0.5〜1.0倍である
ことを特徴とする製造方法
【請求項3】
請求項1または2に記載した製造方法において、
前記亜鉛めっき異形棒鋼材表面の凹部の前記めっき層の厚さと凸部の前記めっき層の厚さとの比が、1:0.8〜1:1.2の範囲である
ことを特徴とする製造方法
【請求項4】
鉄系の異形棒鋼材を繰出供給源から牽引してめっきを行い、亜鉛めっき異形棒鋼材を製造する製造システムであって、
浴温が420℃以上500℃以下であり前記異形棒鋼材が浸漬されるめっき浴と、
前記めっき浴から引き上げられた前記異形棒鋼材を冷却する冷却手段と、
前記めっき浴への浸漬と前記冷却手段による冷却とを連続せしめて行うように前記異形棒鋼材を牽引する牽引手段であって、前記異形棒鋼材が前記めっき浴に6秒以上60秒以下の浸漬時間で浸漬され、浸漬された前記異形棒鋼材がm/min〜15m/minの引上速度で垂直に引き上げられるように、前記異形棒鋼材を牽引する牽引手段と、
を含み、
前記亜鉛めっき異形棒鋼材は、前記異形棒鋼材が、亜鉛を含むめっき層で被覆されており、直径が6mm以上13mm以下であり、
前記めっき層は、前記異形棒鋼材の上に形成されたZn−Fe合金層と、該Zn−Fe合金層の上に形成されたZn層と、からなり、
前記Zn−Fe合金層の厚さと前記Zn層の厚さとの比は1:1〜1:6の範囲であり、めっきによるZnの付着量が550g/m以上である
ことを特徴とする製造システム。
【請求項5】
請求項4に記載した製造システムにおいて、
前記亜鉛めっき異形棒鋼材の表面の凸部の高さが、前記異形棒鋼材の表面の凸部の高さの0.5〜1.0倍である
ことを特徴とする製造システム
【請求項6】
請求項4または5に記載した製造システムにおいて、
前記亜鉛めっき異形棒鋼材表面の凹部の前記めっき層の厚さと凸部の前記めっき層の厚さとの比が、1:0.8〜1:1.2の範囲である
ことを特徴とする製造システム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄系の異形棒鋼材が亜鉛を含むめっき層で被覆された亜鉛めっき異形棒鋼材の製造方法および製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、鉄筋コンクリートなどに用いられる鉄系の異形棒鋼を溶融亜鉛浴に浸漬させてめっきをして亜鉛めっき異形棒鋼を製造する方法が知られている。そのような製造方法として、めっきの必要な付着量を得るために、めっき浴への浸漬時間を長くすることによって、めっきの主成分であるZnと母材の主成分であるFeとのZn−Fe合金層を成長させてこの層を厚くさせる方法がある。
【0003】
しかし、Zn−Fe合金層は脆く、剥離や割れが生じやすいため、Zn−Fe合金層が厚くなると亜鉛めっき異形棒鋼の加工性が悪くなるという問題がある。そこで、めっきの付着量を十分に得て、めっき層の剥離や割れを防止できるようにめっきする異形棒鋼の製造方法が、例えば、特許文献1に示されている。
【0004】
特許文献1に示されている、Zn−Al系合金めっき異形棒鋼の製造方法では、Al、Ni、Zn等を所定の組成比で含む420℃〜490℃の第1のめっき浴に、異形棒鋼を浸漬した後、組成比が第1のめっき浴とは異なる第2のめっき浴に異形棒鋼を浸漬することにより、めっきされた異形棒鋼が製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5961433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の製造方法では、異形棒鋼を異なる2種類のめっき浴に浸漬するので、煩雑である。また、各めっき浴では、Zn、Al、Niの3種類の金属が含まれるので、めっき浴の調整に手間がかかる。
【0007】
本発明は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、加工性に優れた亜鉛めっき異形棒鋼材を簡単に製造できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、この発明では、切断によって亜鉛めっき異形棒鋼とされる亜鉛めっき異形棒鋼材を、めっき浴への浸漬時間およびめっき浴からの引き上げ速度、ならびに、めっき浴の温度を調整し、Zn−Fe合金層とZn層との厚さの比が1:1〜1:6となるようにした。
【0009】
具体的に、本出願の発明は、鉄系の異形棒鋼材を繰出供給源から牽引してめっきを行い、亜鉛めっき異形棒鋼材を製造する方法であって、前記異形棒鋼材を、浴温が420℃以上500℃以下のめっき浴に6秒以上60秒以下の浸漬時間で浸漬する浸漬工程と、前記浸漬工程において浸漬された前記異形棒鋼材を8m/min〜15m/minの引上速度で垂直に引き上げる引上工程と、前記引上工程において引き上げられた前記異形棒鋼材を冷却する冷却工程と、を含み、前記亜鉛めっき異形棒鋼材は前記異形棒鋼材が、亜鉛を含むめっき層で被覆されており、直径が6mm以上13mm以下であ、前記めっき層は、前記異形棒鋼材の上に形成されたZn−Fe合金層と、該Zn−Fe合金層の上に形成されたZn層と、からなり、前記Zn−Fe合金層の厚さと該Zn層の厚さとの比は1:1〜1:6の範囲であり、めっきによるZnの付着量が550g/m以上であることを特徴とする。
【0010】
これによれば、亜鉛めっき異形棒鋼材は、めっき層はZn−Fe合金層とZn層とからなるので、めっきにはZn以外の金属を必要としない。したがって、めっきするために複数の種類の金属を必要とする合金めっき異形棒鋼と比較して、簡単に製造できる。
【0011】
また、亜鉛めっき異形棒鋼材は、めっき層におけるZn−Fe合金層とZn層との厚さの比が1:1〜1:6の範囲であることから、めっき層はZn層が占める体積の割合が大きい。Zn層は、Zn−Fe合金層に比べて展性および延性に富むことから、めっき層を構成する各層の厚さの比が上記範囲にある亜鉛めっき異形棒鋼材は、加工性に優れる
【0012】
実施形態では、前記亜鉛めっき異形棒鋼材の表面の凸部の高さが、前記異形棒鋼材の表面の凸部の高さの0.5〜1.0倍である。
【0013】
これによれば、亜鉛めっき異形棒鋼材は、表面の凸部の高さが異形棒鋼材の表面の高さの0.5〜1.0倍であるので、亜鉛めっき異形棒鋼材は、異形棒鋼材の表面の凹凸が維持されている。したがって、亜鉛めっき異形棒鋼材は、凹凸の効果、例えばコンクリートとの噛み合いの効果など、を発揮できる。
【0014】
一実施形態では、前記亜鉛めっき異形棒鋼材表面の凹部の前記めっき層の厚さと凸部の前記めっき層の厚さとの比が、1:0.8〜1:1.2の範囲である。
【0015】
これによれば、亜鉛めっき異形棒鋼材は、凹部のめっき層の厚さと凸部のめっき層の厚さとの比は上記範囲内にあるので、両者は略等しい。すなわち、亜鉛めっき異形棒鋼材は、めっき層の厚さが凹部と凸部とで略同じであり、凹凸が維持されている。したがって、亜鉛めっき異形棒鋼材は、上記と同様に、凹凸の効果、例えばコンクリートとの噛み合いの効果など、を発揮できる
【0016】
ころで、従来の異形棒鋼のめっき方法においては、あらかじめ所定の長さに切断され、曲げ加工や溶接加工がされた異形棒鋼に対してめっき処理がなされる。しかし、そのような方法では、めっきされた異形棒鋼にはすでに前記の加工がなされているので、使用用途が限定され、汎用性がない。
【0017】
本発明によれば、所定の長さに切断されていない異形棒鋼材を、繰出供給源から牽引してめっきを行うので、めっきされた亜鉛めっき異形棒鋼材は、用途に応じて切断して後加工することができ、汎用性がある。
【0018】
また、異形棒鋼材のめっき浴への浸漬時間およびめっき浴からの引き上げ速度、ならびに、めっき浴の温度を調整することよって、簡単にZn−Fe合金層とZn層との厚さの比およびめっきによるZnの付着量を目的とする範囲になるようにすることができる。さらに、浸漬工程では、母材をZn以外の金属を必要としないめっき浴に、異形棒鋼材を一回のみ浸漬するので、複数種類の金属を含むめっき浴に複数回浸漬する方法に比べて、簡単である。
【0019】
本出願の他の発明は、鉄系の異形棒鋼材を繰出供給源から牽引してめっきを行い、亜鉛めっき異形棒鋼材を製造する製造システムであって、浴温が420℃以上500℃以下であり前記異形棒鋼材が浸漬されるめっき浴と、前記めっき浴から引き上げられた前記異形棒鋼材を冷却する冷却手段と、前記めっき浴への浸漬と前記冷却手段による冷却とを連続せしめて行うように前記異形棒鋼材を牽引する牽引手段であって、前記異形棒鋼材が前記めっき浴に6秒以上60秒以下の浸漬時間で浸漬され、浸漬された前記異形棒鋼材がm/min〜15m/minの引上速度で垂直に引き上げられるように、前記異形棒鋼材を牽引する牽引手段と、を含み、前記亜鉛めっき異形棒鋼材は、前記異形棒鋼材が、亜鉛を含むめっき層で被覆されており、直径が6mm以上13mm以下であり、前記めっき層は、前記異形棒鋼材の上に形成されたZn−Fe合金層と、該Zn−Fe合金層の上に形成されたZn層と、からなり、前記Zn−Fe合金層の厚さと前記Zn層の厚さとの比は1:1〜1:6の範囲であり、めっきによるZnの付着量が550g/m以上であることを特徴とする。
【0020】
本発明によれば、前記の亜鉛めっき異形棒鋼材の製造方法を実施することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明によると、加工性に優れた亜鉛めっき異形棒鋼材を簡単な方法で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】亜鉛めっき異形棒鋼材を示す。
図2】亜鉛めっき異形棒鋼材の製造システムを示す。
図3】実施例1の亜鉛めっき異形棒鋼材の凸部におけるFe地(母材)およびめっき層の軸線方向断面の光学顕微鏡による1000倍拡大画像である。
図4】実施例2の亜鉛めっき異形棒鋼材の凹部および凸部におけるFe地(母材)及びめっき層の軸線方向断面の光学顕微鏡による50倍拡大画像である。
図5】比較例の亜鉛めっき異形棒鋼の凸部における図3相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
<亜鉛めっき異形棒鋼材>
図1は、実施形態に係る亜鉛めっき異形棒鋼材1を示す。
【0024】
亜鉛めっき異形棒鋼材1は、例えば、長さ1700〜3600mでありコイル状に巻かれている。亜鉛めっき異形棒鋼材1の径は4mm〜13mmであり、例えば10mmである。
【0025】
亜鉛めっき異形棒鋼材1は、図1に示すように、その表面に、突起1a(凸部)を有している。突起1aは、亜鉛めっき異形棒鋼材1の軸線方向に沿って延びて形成されている部分と、亜鉛めっき異形棒鋼材1の軸線周りにらせん状に形成されている部分とからなる。軸線方向に隣接するらせん状の突起1a,1aの間には、溝1b(凹部)が構成されている。
【0026】
亜鉛めっき異形棒鋼材1は、鉄系母材である異形棒鋼材2(以下、母材という)が亜鉛を含むめっき層3で被覆されてなる。めっき層3は、母材2の上に形成されたZn−Fe合金層3aと、Zn−Fe合金層3aの上に形成されたZn層3bと、からなる。Zn−Fe合金層3aの厚さとZn層3bとの厚さの比は、1:1〜1:6の範囲であり、好ましくは1:2〜1:6の範囲である。また、めっきによるZnの付着量は550g/m以上である。
【0027】
また、突起1aの高さ(溝1bの最も低い部分を基準とした高さ)は、めっきによって母材2の突起の高さとは異なっているが、その高さの倍率は、母材2の突起の高さに対して、0.5倍以上であり、好ましくは、0.5〜1.0倍、より好ましくは、0.8〜1.0倍である。
【0028】
また、突起1aのめっき層3の厚さは、溝1bのめっき層3の厚さの0.8倍以上である。好ましくは、溝1bのめっき層3の厚さと突起1aのめっき層3の厚さとの比は、1:0.8〜1:1.2の範囲である。なお、溝1bのめっき層3の厚さは、溝1bの幅方向で異なるが、溝1bの幅方向中央部の厚さを意味するものとする。
【0029】
以上説明したように、めっき層3におけるZn−Fe合金層3aとZn層3bとの厚さの比が1:1〜1:6の範囲であることから、めっき層3はZn層3bが占める体積の割合が大きい。Zn層3bは、Zn−Fe合金層3aに比べて展性および延性に富むことから、めっき層3を構成する各層の厚さの比が上記範囲にある亜鉛めっき異形棒鋼材1は、加工性がよい。
【0030】
また、亜鉛めっき異形棒鋼材1の表面の突起1aの高さが、母材2の表面の突起の高さの0.5倍以上であり、突起1aのめっき層3の厚さは、溝1bのめっき層3の厚さの0.8倍以上である。これによって、亜鉛めっき異形棒鋼材1は、母材2の表面の凹凸が維持されている。したがって、亜鉛めっき異形棒鋼材1は、凹凸の効果、例えばコンクリートとの噛み合いの効果など、を発揮できる。
【0031】
また、亜鉛めっき異形棒鋼材1は、あらかじめ所定の長さに切断され曲げ加工等された上でめっき処理がなされる従来の異形棒鋼と同様の用途に用いることができる。しかも、コイル状に巻かれており、用途に応じて切断して後加工することができるので、上記従来の異形棒鋼と比べて汎用性がある。
【0032】
<亜鉛めっき異形棒鋼材の製造方法および製造システム>
図2は実施形態に係る亜鉛めっき異形棒鋼材1の製造システムSを示す。図2において、4は母材2が巻かれたコイル(繰出供給源)、5は酸洗槽、6はフラックス槽、7は乾燥炉、8はZn浴(めっき浴)、9は水冷槽(冷却手段)、10は巻取機(牽引手段)である。
【0033】
製造システムSでは、母材2を、繰出供給源であるコイル4から巻取機10で牽引してめっきを行って亜鉛めっき異形棒鋼材1を製造する。以下、具体的に説明する。
【0034】
−浸漬工程−
コイル4より繰り出された母材2は、酸洗槽5での酸洗い、フラックス槽6でのフラックス処理と乾燥炉7での乾燥を経て、Zn浴8に浸漬される。このとき母材2の表面の上にはZn浴8のZnが付着し、母材2を構成するFeとめっきによるZnとの間で反応が起こり、母材2の上にはZn−Fe合金層3aが形成される。
【0035】
ここで、Zn−Fe合金層3aの厚さは、Zn浴8の温度と浸漬時間とによって決定される。Zn浴8の温度は、Zn−Fe合金層3aの厚さをZn層3bの厚さに対して1:1〜1:6の範囲の比になるようにするという理由から、420℃〜500℃が好ましく、430℃〜460℃がより好ましい。
【0036】
また、同じ理由から、浸漬時間は、6秒以上60秒以下が好ましく、15秒以上30秒以下がより好ましい。図2に示すように、浸漬は、巻取機10で牽引される母材2の一部分で行われるので、浸漬時間は、巻取機10によって母材2を牽引する速度および母材2の浸漬される部分の長さによって調整される。
【0037】
−引上工程−
浸漬によって表面上にZn−Fe合金層3aが形成された母材2は、その後引き上げられる。このとき、Zn−Fe合金層3aの上には、溶融Znが付着しており、流れ落ちずに付着したまま持ち上げられる溶融ZnがZn−Fe合金層3aの上にZn層3bを形成する。
【0038】
ここで、母材2の引き上げ速度が速いほど付着したままとなる溶融Znの量が多くなり、その結果、Zn層3bが厚くなる。母材2を引き上げる引き上げ速度は、めっきによるZnの付着量を550g/m以上にするという理由から、5m/min〜30m/minが好ましく、8m/min〜15m/minがより好ましい。引き上げ速度は、巻取機10によって母材2を牽引する速度によって調整される。
【0039】
−冷却工程−
引き上げられた母材2は、ターンローラ11(引上手段)に捲回されて水冷槽9で水冷される。これによって、母材2が亜鉛めっきされた亜鉛めっき異形棒鋼材1が得られる。
【0040】
そして、亜鉛めっき異形棒鋼材1は、巻取機10によってコイル状に巻き取られる。
【0041】
以上説明したように、実施形態に係る製造方法では、コイル状に巻かれた母材2を牽引してめっきを行い、めっきされた亜鉛めっき異形棒鋼材1は、再びコイル状に巻き取られるので、用途に応じて切断して後加工することができ、汎用性がある。
【0042】
また、母材2のZn浴8への浸漬時間およびZn浴8からの引き上げ速度、ならびに、Zn浴8の温度を調整することよって、簡単にZn−Fe合金層3aとZn層3bとの厚さの比およびめっきによるZnの付着量を目的とする範囲になるようにすることができる。さらに、浸漬工程では、Zn浴8に母材2を一回のみ浸漬するので、複数の種類の金属を含むZn浴に複数回浸漬する方法に比べて、簡単である。
【0043】
また、製造システムSによって、以上説明した亜鉛めっき異形棒鋼材1の製造方法を実施することができる。
【0044】
(その他の実施形態)
上記実施形態において、亜鉛めっき異形棒鋼材1のめっきによるZnの付着量は550g/m以上としたが、使用目的によっては300g/m以上550g/m未満としてもよい。
【実施例】
【0045】
異形コイル鉄筋を母材とし、この母材に図2に示す製造システムによってめっきをして、亜鉛めっきされた亜鉛めっき異形棒鋼材を製造した。以下の実施例1および2では、直径の異なる2種類の母材にめっきし、亜鉛めっき異形棒鋼材を製造した。
【0046】
<実施例1>
母材および亜鉛めっき異形棒鋼材の直径は6mm、めっき用金属はZn、引き上げ速度は10m/min、Zn浴温度は450℃、浸漬時間は25秒とした。
【0047】
図3は、実施例で製造された亜鉛めっき異形棒鋼材の突起の断面を光学顕微鏡によって撮像した1000倍拡大の画像である。
【0048】
この実施例で製造された亜鉛めっき異形棒鋼材では、めっきによるZn付着量は621g/mであった。また、めっき層におけるZn−Fe合金層の厚さとZn層の厚さとの比は、1:3〜1:6であった。亜鉛めっき異形棒鋼材の突起の高さは、母材の突起の高さの0.7倍であった。
【0049】
<実施例2>
この実施例では、母材および亜鉛めっき異形棒鋼材の直径を10mmとしたこと以外は、実施例1と同様の条件で亜鉛めっき異形棒鋼材を製造した。
【0050】
図4は、亜鉛めっき異形棒鋼材の突起と溝を含む断面を光学顕微鏡によって撮像した50倍拡大の画像である。
【0051】
この実施例で製造された亜鉛めっき異形棒鋼材では、めっきによるZn付着量は675g/mであった。めっき層におけるZn−Fe合金層の厚さとZn層の厚さとの比は、1:1〜1:1.5であった。また、亜鉛めっき異形棒鋼材の突起の高さは、母材の突起の高さの0.9倍であった。また、亜鉛めっき異形棒鋼材の突起のめっき層の厚さと、溝の幅方向中央のめっき層の厚さとの比は、1:0.8〜1:1.2であった。
【0052】
<比較例>
比較例では、実施例1と同じ直径(6mm)の母材を300mmの長さに切断し、定尺の異形棒鋼とした上で、この異形棒鋼を、温度480℃のZn浴に40秒の浸漬時間で浸漬し、めっきした。
【0053】
図5は、比較例で製造された亜鉛めっき異形棒鋼の突起の断面を光学顕微鏡によって撮像した1000倍拡大の画像である。
【0054】
比較例で製造された亜鉛めっき異形棒鋼のめっきによるZn付着量は576g/mであった。また、めっき層におけるZn−Fe合金層の厚さとZn層の厚さとの比は、1:0.4〜1:0.8であった。
【0055】
以上のように、実施例1の亜鉛めっき異形棒鋼材のめっき層は、Zn−Fe合金層の厚さが、Zn層の厚さに対して1/6〜1/3である。また、実施例2の亜鉛めっき異形棒鋼材のめっき層は、Zn−Fe合金層の厚さが、Zn層の厚さに対して1/1.5〜1/1である。これに対して、比較例の亜鉛めっき異形棒鋼のめっき層は、Zn−Fe合金層の厚さが、Zn層の厚さに対して1/0.8〜1/0.4である。このように、各実施例の亜鉛めっき異形棒鋼材のZn−Fe合金層のZn層に対する相対的な厚さは、比較例の亜鉛めっき異形棒鋼のZn−Fe合金層のZn層に対する相対的な厚さと比較してかなり薄い。したがって、各実施例の亜鉛めっき異形棒鋼材の方が、比較例の亜鉛めっき異形棒鋼よりも加工性に優れている。
【0056】
また、実施例1で製造された亜鉛めっき異形棒鋼材は、突起の高さは、母材の突起の高さの0.7倍であり、実施例2で製造された亜鉛めっき異形棒鋼材は、突起の高さは、母材の突起の高さの0.9倍であった。このように、各実施例で製造された亜鉛めっき異形棒鋼材は、母材の表面の凹凸が維持されている。したがって、各実施例で製造された亜鉛めっき異形棒鋼材は、凹凸の効果、例えばコンクリートとの噛み合いの効果など、を発揮できる。
【符号の説明】
【0057】
S 亜鉛めっき異形棒鋼材の製造システム
1 亜鉛めっき異形棒鋼材
1a 突起(凸部)
1b 溝(凹部)
2 母材(異形棒鋼材)
3 めっき層
3a Zn−Fe合金層
3b Zn層
4 コイル(繰出供給源)
8 Zn浴(めっき浴)
9 水冷槽(冷却手段)
10 巻取機(牽引手段)
11 ターンローラ(引上手段)
図1
図2
図3
図4
図5