特許第6756039号(P6756039)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6756039
(24)【登録日】2020年8月28日
(45)【発行日】2020年9月16日
(54)【発明の名称】加硫剤組成物及びそれを含むゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 21/00 20060101AFI20200907BHJP
   C08L 65/00 20060101ALI20200907BHJP
   C08K 3/06 20060101ALI20200907BHJP
   C08J 3/21 20060101ALI20200907BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20200907BHJP
【FI】
   C08L21/00
   C08L65/00
   C08K3/06
   C08J3/21CER
   C08J3/21CEZ
   B60C1/00 Z
【請求項の数】13
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2019-512141(P2019-512141)
(86)(22)【出願日】2017年4月14日
(86)【国際出願番号】JP2017015238
(87)【国際公開番号】WO2018189878
(87)【国際公開日】20181018
【審査請求日】2019年9月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000180302
【氏名又は名称】四国化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】天野 貴
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 特開平6−207028(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 21/00
B60C 1/00
C08J 3/21
C08K 3/06
C08L 65/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不溶性硫黄及びジシクロペンタジエン樹脂を含む加硫剤組成物。
【請求項2】
不溶性硫黄100重量部に対し、ジシクロペンタジエン樹脂を0.25〜70重量部の割合で含む請求項1に記載の加硫剤組成物。
【請求項3】
不溶性硫黄100重量部に対し、ゴム成分を200重量部以下の割合で含む請求項1又は2に記載の加硫剤組成物。
【請求項4】
さらにプロセスオイルを含む請求項1、2又は3に記載の加硫剤組成物。
【請求項5】
不溶性硫黄及びジシクロペンタジエン樹脂を混合することを特徴とする加硫剤組成物の製造方法。
【請求項6】
不溶性硫黄、ジシクロペンタジエン樹脂及び溶剤を混合した後、溶剤を除去することを特徴とする請求項5に記載の加硫剤組成物の製造方法。
【請求項7】
ジシクロペンタジエン樹脂を溶剤に溶解して溶液を調製し、この溶液と不溶性硫黄とを混合してスラリーを調製し、このスラリーから溶剤を除去することを特徴とする請求項5又は6に記載の加硫剤組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか1項に記載の製造方法で製造される加硫剤組成物。
【請求項9】
請求項1〜4及び8のいずれか1項に記載の加硫剤組成物、及びゴム成分を含むゴム組成物。
【請求項10】
請求項1〜4及び8のいずれか1項に記載の加硫剤組成物、及びゴム成分を混合することを特徴とするゴム組成物の製造方法。
【請求項11】
請求項9に記載のゴム組成物を加硫した加硫ゴム。
【請求項12】
前記加硫ゴムがタイヤである請求項11に記載の加硫ゴム。
【請求項13】
請求項9に記載のゴム組成物を加硫することを特徴とする加硫ゴムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加硫剤組成物及びそれを含むゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
不溶性硫黄は二硫化炭素に不溶性の硫黄であり、ゴムの加硫剤として使用されている。不溶性硫黄は、可溶性硫黄に比べて、ゴムと混練り後、加硫を終了するまでの工程において、硫黄がゴムの表面に移行して析出するブルーミングを抑制できるため、特にラジアルタイヤの加硫剤として広く使用されている。
【0003】
しかしながら、ゴムの混練り時間を短縮する為に、バンバリーミキサー温度を高くするなどして混練り条件が過酷になると、不溶性硫黄の一部が可溶性硫黄に転移してゴムに溶解するので、ブルーミングが発生する要因となっていた。ブルーミングが発生すると均一にゴムを加硫できず、ゴムの強度不足及び亀裂の原因となる。このことから、加熱時に可溶性硫黄に転移し難い不溶性硫黄、即ち熱安定性の良好な不溶性硫黄の開発が望まれていた。
【0004】
従来、不溶性硫黄の熱安定性を改善する手段としては、種々の薬剤を不溶性硫黄に配合することが提案されている。当該薬剤として、例えば、特許文献1には、臭素、ヨウ素及び一塩化硫黄(S2Cl2)が、特許文献2には臭素が、特許文献3には一塩化硫黄が、特許文献4にはピネンが、特許文献5にはドデセン、α−メチルスチレン、インデン、ジシクロペンタジエン等のビニル化合物が、特許文献6にはチアゾール系化合物が、特許文献7にはアミンのハロゲン酸塩化合物が開示されている。しかしながら、これらの従来技術では、不溶性硫黄の熱安定性は、まだ十分に満足できる程度ではなかった。
【0005】
また、特許文献8〜10には、硫黄及びオレフィン(ジシクロペンタジエン等)の反応物をゴムの加硫剤として使用することが開示されているが、これらの加硫剤は、不溶性硫黄を成分とする加硫剤とは異なる。
【0006】
一方で、不溶性硫黄はゴムとの親和性が低く、それがために一般にゴムへの分散性は悪い。特に不溶性硫黄を多量にゴムに配合するとその傾向は強まり、不溶性硫黄の凝集塊が生じる結果、加硫後のゴム物性にばらつきが生じ、ゴム製品の品質が低下する。
【0007】
また、不溶性硫黄は静電気を帯びやすく、不溶性硫黄の粒子同士の接触及び摩擦、或いはゴムへの配合時の計量装置及び混練設備との接触及び摩擦によって帯電し、装置や設備に対する付着が発生したり、流動性が悪くなるなどの現像が発生していた。このような計量装置等への付着は、硫黄配合量の変動を招き、これを解消する必要があることから作業性や生産性が低下することがある。特に自動計量装置においては付着性の大きい不溶性硫黄を使用すると、その取扱いが困難になることが多かった。
【0008】
このような問題を解決するため、例えば、特許文献11にはオイルに陰イオン性又は非イオン性の界面活性剤を0.5〜10重量%混合し、これを不溶性硫黄に添加して加硫剤とする方法が、特許文献12にはポリエチレングリコールエーテル類等の非イオン性界面活性剤を不溶性硫黄に添加する方法が、特許文献13にはリン酸エステル系非イオン性界面活性剤を不溶性硫黄に添加する方法が、特許文献14には脂肪酸アミド系帯電防止剤を不溶性硫黄に添加する方法が開示されている。
【0009】
また、ゴム中での不溶性硫黄の分散性を改良することを目的として、特許文献15には、不溶性硫黄を液体状ポリ(シス−イソプレン)中に分散させた粒子状硫黄分散体が開示され、特許文献16には、不溶性硫黄に、ゴムを0.1〜30重量パーセント溶解させたオイルを、全量の0.5〜30重量パーセントになるように加えたゴム分散性改良剤が開示され、特許文献17には、不溶性硫黄の粒子の表面にゴムのコーティング膜を形成し、該コーティング膜を、一塩化硫黄等で架橋させた高分散性不溶性硫黄が開示されている。
【0010】
しかしながら、これらの従来技術では、不溶性硫黄の分散性及び付着性の改善はまだ十分に満足できる程度ではなかった。
【0011】
また、特許文献18には、ジシクロペンタジエンモノマーをオレフィン系変性剤と共に熱重合させて、分子量、分子量分布、色を制御したジシクロペンタジエン樹脂を製造する方法が開示されている。また、この樹脂が、接着剤、インキ、ワニスに使用される他、加硫前のゴム材料の性質及び取扱い特性を改善する為に、ゴム加工におけるグリーン・タック促進剤としても使用され得る点が開示されている。
【0012】
特許文献19の表1には、ジシクロペンタジエン樹脂、硫黄等をゴムに配合し、加硫して得られる低硬度ゴムロール用ゴム組成物が開示されている。特許文献20の実施例4には、ジエン系ゴム、モノメタクリル酸亜鉛、カーボンブラック、不溶性硫黄及びジシクロペンタジエン樹脂を含むジエン系ゴム組成物が開示されている。しかし、特許文献18〜20には、不溶性硫黄とジシクロペンタジエン樹脂とを含む混合物を加硫剤として使用することについて開示されていない。
【0013】
ところで、これらの文献によれば、ジシクロペンタジエン樹脂は、ゴムの添加剤として使用され、未加硫ゴムと加硫ゴムの特性改良や改善に有用とされている。しかしながら、ジシクロペンタジエン樹脂が、加硫剤、特に不溶性硫黄の熱安定性やゴム中における分散性を改善する点について開示及び示唆はない。なお、特許文献19においては、ジシクロペンタジエン樹脂等の配合量が、ゴム100重量部に対して5〜40重量部とされている(請求項2等)。また、加硫剤(硫黄、ペルオキシド等)の配合量に関する説明はなされていないが、実施例においては、ゴム100重量部に対して硫黄が1.5重量部の割合で使用されている。
【0014】
一方、特許文献20においては、ジシクロペンタジエン樹脂の配合量が、ゴム100重量部に対して0.5〜8重量部とされている(請求項1等)。そして、特許文献19の場合と同様に、加硫剤(不溶性硫黄)の配合量に関する説明はなされていないが、実施例においては、ゴム100重量部に対して不溶性硫黄が4重量部の割合で使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】英国特許第646916号明細書
【特許文献2】英国特許第652421号明細書
【特許文献3】米国特許第2460365号明細書
【特許文献4】米国特許第2462146号明細書
【特許文献5】英国特許第802964号明細書
【特許文献6】特開平6−115910号公報
【特許文献7】特開平6−144807号公報
【特許文献8】特開平2−75640号公報
【特許文献9】特開昭63−048343号公報
【特許文献10】特開昭62−084133号公報
【特許文献11】特開昭49−93294号公報
【特許文献12】特開昭47−9031号公報
【特許文献13】特開平9−132672号公報
【特許文献14】特開2001−89596号公報
【特許文献15】特開昭61−227904号公報
【特許文献16】特開昭61−19643号公報
【特許文献17】特開平7−309609号公報
【特許文献18】特開平8−48723号公報
【特許文献19】特開平7−62157号公報
【特許文献20】特開2009−242579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、加硫剤成分として不溶性硫黄を含み、不溶性硫黄の熱安定性が高められ、ゴム中における分散性に優れ、且つ、装置等への付着性が低減された加硫剤組成物を提供することを目的とする。また、この加硫剤組成物を含むゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討をした結果、不溶性硫黄とジシクロペンタジエン樹脂を含む加硫剤組成物とすることにより、所期の目的を達成し得ることを見出した。更に検討を加えることにより本発明を完成するに至った。
【0018】
即ち、本発明は、以下の加硫剤組成物、それを含むゴム組成物、加硫ゴム、及びそれらの製造方法を提供する。
【0019】
項1 不溶性硫黄及びジシクロペンタジエン樹脂を含む加硫剤組成物。
【0020】
項2 不溶性硫黄100重量部に対し、ジシクロペンタジエン樹脂を0.25〜70重量部の割合で含む項1に記載の加硫剤組成物。
【0021】
項3 不溶性硫黄100重量部に対し、ゴム成分を200重量部以下の割合で含む項1又は2に記載の加硫剤組成物。
【0022】
項4 さらにプロセスオイルを含む項1、2又は3に記載の加硫剤組成物。
【0023】
項5 不溶性硫黄及びジシクロペンタジエン樹脂を混合することを特徴とする加硫剤組成物の製造方法。
【0024】
項6 不溶性硫黄、ジシクロペンタジエン樹脂及び溶剤を混合した後、溶剤を除去することを特徴とする項5に記載の加硫剤組成物の製造方法。
【0025】
項7 ジシクロペンタジエン樹脂を溶剤に溶解して溶液を調製し、この溶液と不溶性硫黄とを混合してスラリーを調製し、このスラリーから溶剤を除去することを特徴とする項5又は6に記載の加硫剤組成物の製造方法。
【0026】
項8 項5〜7のいずれか1項に記載の製造方法で製造される加硫剤組成物。
【0027】
項9 項1〜4及び8のいずれか1項に記載の加硫剤組成物、及びゴム成分を含むゴム組成物。
【0028】
項10 項1〜4及び8のいずれか1項に記載の加硫剤組成物、及びゴム成分を混合することを特徴とするゴム組成物の製造方法。
【0029】
項11 項9に記載のゴム組成物を加硫した加硫ゴム。
【0030】
項12 前記加硫ゴムがタイヤである項11に記載の加硫ゴム。
【0031】
項13 項9に記載のゴム組成物を加硫することを特徴とする加硫ゴムの製造方法。
【発明の効果】
【0032】
本発明の加硫剤組成物は、不溶性硫黄の熱安定性に優れ、ゴム中での不溶性硫黄の分散性に優れ、ゴムと配合する時に装置等へ不溶性硫黄の付着を抑制することができる。
【0033】
また、本発明の加硫剤組成物及びゴムを含むゴム組成物は、加硫前の工程(ゴムとの混練り、貯蔵、加工作業等の工程)におけるスコーチ特性が良好であり(スコーチタイムが長い)、可塑性が維持され加工性(成形性)に優れている。
【0034】
さらに、本発明の加硫剤組成物を含むゴム組成物を加硫した加硫ゴムは、上記の特性に起因してゴムの加硫が均一になるため、高い強度(引張り強さ及び引張り伸び)を有している。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.加硫剤組成物
本発明の加硫剤組成物は、不溶性硫黄及びジシクロペンタジエン樹脂(以下、「DCPD樹脂」と表記することもある。)を含むことを特徴とする。この加硫剤組成物では、不溶性硫黄が熱安定性に優れるため可溶性硫黄への転位が抑制されるとともに、不溶性硫黄のゴムへの分散性が優れ、不溶性硫黄の流動性が向上するため装置等への付着を抑制することができる。加硫剤組成物は、ゴム成分に配合する加硫剤として使用することができる。
【0036】
不溶性硫黄とは、一般に159℃以上の溶融硫黄を急冷させた時に生ずる高分子状の硫黄であり、20℃で二硫化炭素に不溶である硫黄を意味する。粉体の場合は、その平均粒子径が、通常、0.1〜300μm、好ましくは1〜50μm、より好ましくは5〜25μmである。平均粒子径は、レーザー回折法の粒度分布測定装置を用いて測定できる。
【0037】
DCPD樹脂とは、ナフサを分解して得られるC5留分中の、シクロペンタジエン(以下、「CPD」と表記することもある。)のダイマーであるジシクロペンタジエン(以下、「DCPD」と表記することもある。)を、重合させて得られる樹脂状物(重合体)であり、石油系炭化水素樹脂(石油樹脂)に分類される物質である。
【0038】
具体的には、DCPD(式(II))を加熱すると、スキーム(1)及び同(2)に示されるディールズ−アルダー(Diels-Alder)反応が競争的に起こる。即ち、DCPDは、重合時の加熱された状態においては、CPD(式(I))に分解しており(可逆反応)、CPDとDCPDとの反応(可逆反応)により得られる重合物(式(III))も生成する(石油学会誌 J. Japan Petrol. Inst., VOL. 27, No. 1, 26-30(1984)を参照)。
【0039】
【化1】
【0040】
DCPDを重合させる際には、通常、触媒が使用される。得られる重合物に所望の特性を付与するために、種々の触媒系(重合触媒)が使用されている。なお、重合触媒の種類によって、重合のメカニズムが異なり、異なる重合物を与える。
【0041】
具体的には、式(IIa)で示される重合物と、式(IIb)で示される重合物は、前記の式(II)で示されるDCPDに由来し、式(IIIa)で示される重合物と、式(IIIb)で示される重合物は、前記の式(III)で示される重合物に由来する。また、式(IIa)で示される重合物と、式(IIIa)で示される重合物は、開環型の重合物であり、式(IIb)で示される重合物と、式(IIIb)で示される重合物は、ビニレン型の重合物である(特公昭41-20111号公報を参照)。
【0042】
【化2】
【0043】
DCPD樹脂とは、上記のようにDCPDに由来する構造を主体とする樹脂(重合体)であり、具体的には、DCPDの重合体、又は、DCPDとこれと重合可能なオレフィン化合物との共重合体が例示される。DCPD樹脂は、樹脂の総重量のうち、DCPDを通常30重量%以上、さらには50重量%以上、特に70重量%以上含んでいることが好ましい。
【0044】
DCPD樹脂は、DCPD及び必要に応じ他の重合可能なオレフィン化合物から、公知の重合方法及び重合条件を用いて製造することができる。
【0045】
DCPDと重合可能なオレフィン化合物としては、例えば、1−ブテン、2−ブテン、イソブチレン、1−ペンテン、2−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、2−メチル−2−ブテン等のオレフィン系炭化水素;ブタジエン、イソプレン等のジオレフィン系炭化水素;及びスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等のビニル置換芳香族炭化水素;酢酸ビニル;アクリル酸エステル;無水マレイン酸;フェノール等が挙げられる。これらのオレフィン化合物は、適当な触媒の存在下にDCPDと共重合させることができる。例えば、DCPDの重合時に、当該オレフィン化合物又はそのオリゴマーを共存させたり、DCPDを重合して得られたDCPD樹脂に、当該オレフィン化合物又はそのオリゴマーを添加するなどして、種々のDCPD樹脂を製造することができる。
【0046】
また、DCPD樹脂の重合体分子中の二重結合を、水素化(水添)により飽和させることにより、透明性、耐熱性、耐候性等に優れたグレードのDCPD樹脂(水添DCPD樹脂)を製造することができる。DCPD樹脂には、水添DCPD樹脂も含まれる。
【0047】
DCPDを重合させるに当たって、重合方法や重合条件を適宜選択、設定することにより、液状のDCPD樹脂から軟化点の高い固体のDCPD樹脂まで、幅広いグレードのDCPD樹脂を製造することができる。通常は軟化点が100℃以上の固体(淡黄色)のDCPD樹脂が挙げられる。
【0048】
DCPD樹脂は、他のC5系石油樹脂やC9系石油樹脂と比べて不飽和度が高く、反応性に富み、乾性油、アルキド樹脂、ロジン誘導体等と共に加熱すると容易に硬化する。また、この高い反応性に加え、高い軟化点を有するにも拘わらず分子量が小さく、溶融粘度が低いところから、化学変性が行い易く、先の共重合と合わせて、更に多様なグレードのDCPD樹脂の製造が可能である。
【0049】
例えば、エステル基や水酸基を重合体分子中に有する変性タイプのDCPD樹脂は、アルコール、ケトン、エステル類等の溶剤に対する溶解性や、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂等との相溶性が改善されている。
【0050】
DCPD樹脂は、その高い反応性を利用して、天然ゴムや合成ゴムの耐亀裂性や粘着性等の改善、塗料の乾燥性、耐水・耐アルカリ性、密着性等を改善する為の添加剤として使用されている。
【0051】
例えば、ロジン変性品や水添物は、感圧接着剤やホットメルト接着剤用の粘着付与剤として優れた性能を発揮する。一方、マレイン化−エステル変性樹脂等、重合体分子中に極性基を導入したものは、オフセットインキの成分として好適である。また、特にエステル基や水酸基を重合体分子中に有するDCPD樹脂は、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂塗料の密着性、耐水性、塗膜硬度等の改善を図る為の添加剤として好適である(「2016年版 16716の化学商品、化学工業日報社、2016年1月26日発行、1189-1190頁」参照)。
【0052】
DCPD樹脂は、重量平均分子量が100〜1500、さらに250〜1000であり、軟化点(JIS K−2207 環球式)が50〜200℃、さらに90〜170℃であり、比重(20℃)が1〜1.2g/cm、さらに1.05〜1.15g/cmであり、臭素価(ASTM D−1158−57T)が20〜180g/100g、さらに100〜180g/100gであり、酸価(JIS K−2501)が0.1mgKOH/g以下の特性を有するDCPD樹脂を包含する。
【0053】
より具体的には、市販されているDCPD樹脂の例として、日本ゼオン社製の商品名「クイントン1000シリーズ「(脂環族系炭化水素樹脂)、丸善石油化学社製の商品名「マルカレッツMシリーズ」(脂環族系炭化水素樹脂)、出光興産社製の商品名「アイマーブ」(芳香族共重合系の水添石油樹脂)、東燃ゼネラル石油社製の商品名「T−REZ Hシリーズ」(水添炭化水素樹脂)等が挙げられる。
【0054】
加硫剤組成物に含まれる不溶性硫黄及びDCPD樹脂の配合割合は特に限定されない。不溶性硫黄の熱安定性、ゴムへの分散性、及び不溶性硫黄の付着防止の観点から、DCPD樹脂の配合量は、不溶性硫黄100重量部に対し、通常0.25〜70重量部、好ましくは1〜60重量部、より好ましくは2.5〜50重量部、さらに好ましくは5〜45重量部、特に好ましくは10〜40重量部である。
【0055】
加硫剤組成物は、不溶性硫黄及びDCPD樹脂に加えて、さらにプロセスオイルを含めることができる。
【0056】
プロセスオイルは、本技術分野で通常使用できるものであれば特に限定されない。例えば、鉱物油系(パラフィン系プロセスオイル/ナフテン系プロセスオイル/芳香族系プロセスオイル/流動パラフィン/ペトロタム/ギルソナイト/石油アスファルト);植物油系(ひまし油/なたね油/あまに油/綿実油/大豆油/パーム油/やし油/ロジンパインオイル/トール油);サブ(ファクチス);脂肪酸及び脂肪酸誘導体等のゴム用プロセスオイルが挙げられる。これらから選ばれる1種又は2種以上を使用することができる。好ましくは、鉱物油系(パラフィン系、ナフテン系等のゴム用プロセスオイル等)等のプロセスオイルである。
【0057】
加硫剤組成物にプロセスオイルを含む場合、プロセスオイルの配合割合は特に限定されない。不溶性硫黄の飛散や帯電の抑制、ゴムへの分散性、計量装置等への付着防止等の観点から、プロセスオイルは、不溶性硫黄100重量部に対し、通常60重量部以下、好ましくは2.5〜35重量部程度、より好ましくは5〜35重量部、特に好ましくは10〜30重量部である。
【0058】
加硫剤組成物は、さらに必要に応じ、他の添加剤(例えば、ゴム成分、シリカ等)を含めることができる。
【0059】
他の添加剤としてゴム成分を配合する場合、ゴム成分の配合割合は、加硫剤組成物のゴムへの分散性、計量装置等への付着防止等の観点から、ゴム成分は、不溶性硫黄100重量部に対し、通常200重量部以下、好ましくは1〜100重量部程度、より好ましくは1〜20重量部、特に好ましくは1〜2.5重量部である。ゴム成分としては、例えば、後述するゴム組成物に含まれるゴム成分に列挙されたものが挙げられる。
【0060】
加硫剤組成物は、不溶性硫黄及びDCPD樹脂を混合することにより製造することができる。必要に応じ上記の他の添加剤も混合することができる。製造方法として、例えば、不溶性硫黄及びDCPD樹脂をそれぞれ粉体の状態で混合する方法、或いは、不溶性硫黄、DCPD樹脂、及び溶剤を混合した後、当該溶剤を除去する方法が挙げられる。溶剤としてはDCPD樹脂を溶解し得る有機溶剤が挙げられ、典型的には、二硫化炭素、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。このうち、好ましくは二硫化炭素である。
【0061】
上記製造方法のうち、不溶性硫黄の熱安定性、ゴムへの不溶性硫黄の分散性、計量装置等への不溶性硫黄の付着防止、より均一な混合、不溶性硫黄とDCPD樹脂の高い接触効率等の観点から、後者の方法、即ち、不溶性硫黄、DCPD樹脂、及び溶剤を混合した後、当該溶剤を除去する方法を用いて製造することが好ましい。
【0062】
より具体的には、加硫剤組成物は、DCPD樹脂を溶剤(例えば、二硫化炭素)に溶解して溶液を調製して、この溶液を不溶性硫黄に噴霧した後に溶剤を除去することにより、又は、この溶液に不溶性硫黄を投入しスラリーを調製した後に溶剤を除去することにより製造することができる。溶剤を除去する方法は、例えば、加熱及び/又は減圧の手段により溶剤を揮発させて除去する方法が挙げられる。
【0063】
加硫剤組成物がプロセスオイルを含む場合には、例えば、上記で調製されたスラリーとプロセスオイルとを混合し、得られた混合物から溶剤を除去することにより製造することができる。或いは、上記で製造された不溶性硫黄及びDCPD樹脂を含む加硫剤組成物とプロセスオイルとを混合することにより製造することができる。混合の方法は、例えば、プラネタリーミキサー等を用いて撹拌する方法が挙げられる。
【0064】
上記の製造方法は、安全性の見地から、窒素、アルゴン等の不活性ガスの雰囲気下で実施することが好ましい。
【0065】
2.ゴム組成物及び加硫ゴム
本発明のゴム組成物は、ゴム成分、上記の加硫剤組成物、及び必要に応じ他の成分を含む加硫処理する前のゴム組成物を意味する。
【0066】
ゴム成分としては特に限定されず、例えば、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、エチレン−プロピレンゴム(EPM、EPDM)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X−IIR)、クロロプレンゴム(CR)、シリコ−ンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM)、多硫化ゴム(T)、塩素化ポリエチレン(CPE)、ポリウレタン(U)、ハイパロン、エチレン−酢酸ビニル−アクリル酸エステルゴム、エピクロルヒドリンゴム、アクリルゴム等が挙げられる。これらのうち1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0067】
ゴム組成物における、ゴム成分及び加硫剤組成物のそれぞれの配合量は特に限定されない。加硫剤組成物の配合割合は、ゴム成分100重量部に対して、通常0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜8重量部、より好ましくは1〜6重量部である。
【0068】
ゴム組成物は、必要に応じて他の成分を含んでいてもよく、他の成分として、例えば、他の加硫剤(ペルオキシド等)、加硫促進剤(アルデヒド−アンモニア系、アルデヒド−アミン系、グアニジン系、チオウレア系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チウラム系、チジオカルバミン酸塩系、キサントゲン酸塩系等);加硫促進助剤(酸化亜鉛、酸化マグネシウム、鉛丹、水酸化カルシウム、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、アミン類、ジエチレングリコール等、特に酸化亜鉛、ステアリン酸等)、補強剤又は充填剤(タルク、クレー、カ−ボンブラック、ホワイトカ−ボン、グラファイト、炭酸カルシウム、珪酸カルシウム、水酸化マグネシウム等)、老化防止剤(アミン系、フェノール系、硫黄系、リン系等)、軟化剤又は可塑剤(鉱物油系、植物油系、合成樹脂系、ジオクチルフタレート、ジオクチルセバケート等)等が挙げられる。
【0069】
特に、タイヤ用ゴム組成物を製造する場合には、加硫促進剤としてスルフェンアミド系等、加硫促進助剤として酸化亜鉛、ステアリン酸等、補強剤又は充填剤としてカ−ボンブラック等、老化防止剤としてアミン系等、軟化剤又は可塑剤として鉱物油系等を用いることが好ましい。
【0070】
ゴム組成物が他の成分を含む場合、当該他の成分の配合割合は特に限定されない。典型的には、例えば、ゴム成分100重量部に対して、加硫促進剤は、通常、0.1〜5重量部程度、加硫促進助剤については、通常、1〜15重量部程度、補強剤又は充填剤については、通常、20〜100重量部程度、老化防止剤については、通常、0.5〜4重量部程度、軟化剤又は可塑剤については、通常、2〜20重量部程度である。
【0071】
ゴム組成物は、ゴム成分、加硫剤組成物、及び必要に応じ他の成分を、混練機(ニーダー、バンバリーミキサー等)、オープンロール等を用いる一般的な方法で混練りすることにより製造することができる。さらに、製造されたゴム組成物を、各成分の種類と配合割合に応じた好適な加硫温度で加硫することにより加硫ゴムを得ることができる。加硫は、例えば、150〜170℃で、1分〜30分程度の条件で実施することができる。
【0072】
本発明のゴム組成物は、ゴム成分に、不溶性硫黄及びDCPD樹脂を含む加硫剤組成物を配合しているため、ゴム成分中において不溶性硫黄の分散性に優れ、さらにスコーチ特性も良好であり、ブルーミングの抑制が期待される。また、ゴム組成物を加硫して得られる加硫ゴムは、良好な機械的特性(引張り強さ及び引張り伸び等)を有している。
【0073】
これより、本発明の加硫剤組成物は、各種ゴム成分の加硫剤として有用であり、例えば、高い硬度が要求されるゴム材料(特に、タイヤ用ゴム、免震ゴム、制振ゴム、コンベヤベルト等)を製造するための加硫剤として好適に用いることができる。
【実施例】
【0074】
以下、本発明を実施例及び比較例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例の表中に示された数値は、特に断りのない限り、重量部を意味する。
【0075】
実施例及び比較例において使用した原料は、以下のとおりである。
・不溶性硫黄:四国化成工業社製、品名「ミュークロン」
・ジシクロペンタジエン樹脂:丸善石油化学社製、品名「マルカレッツ M−845A」
・ジシクロペンタジエン:和光純薬工業社製、試薬
・天然ゴム:野村貿易社製、マレーシア産、品名「SMR−CV60」
・酸化亜鉛(亜鉛華):正同化学工業社製、酸化亜鉛(2種)
・ステアリン酸:日油社製
・カーボンブラック:東海カーボン社製、品名「シースト 3」
・プロセスオイル:出光興産社製、品名「ダイアナ プロセスオイルNR 26」
・加硫促進剤:三新化学工業社製、品名「サンセラー NS−G」
また、実施例及び比較例において実施した評価試験は、以下のとおりである。
【0076】
[熱安定性試験]
120℃の温度に設定したオイルバス中に、ミネラルオイル(出光興産社製、品名「ダフニー オイルCP 15N」)20mlを入れた試験管を浸漬し、試験管中のミネラルオイル温度が120℃になった時点で、試験管に不溶性硫黄が1gとなるように加硫剤組成物を投入して15分間加熱した。
【0077】
次いで、試験管をオイルバスから取り出して氷水中に浸漬して冷却し、続いて、試験管中の不溶物を二硫化炭素で洗浄し、可溶性硫黄を二硫化炭素に溶解させた後、濾過、乾燥して、粉末状の不溶性硫黄を秤量し、次式により不溶性硫黄の残存率を算出した。この残存率が大きい程、熱安定性が優れているものと判定した。
【0078】
残存率(%)=〔加熱、洗浄後の不溶性硫黄分(g)/加硫剤組成物(g)〕×〔100/加硫剤組成物中の不溶性硫黄の含有量(重量%)〕×100
【0079】
[分散性試験]
天然ゴム100重量部に、カーボンブラックを5重量部の配合割合で加えて混練りしたもの210gを、50±5℃に設定したミキシングロール(2本ロール)のロールに巻きつけ、続いて、不溶性硫黄が60gとなるように加硫剤組成物を添加した。
【0080】
次いで、3分間混練りして切り返しを2回行い、更に2分間混練りを継続して、厚さ4mmのシート状のゴム組成物を取り出し、5cm×15cmのサイズに切り出した試験片を作成した。
【0081】
このシート状の試験片を5枚重ねて、試験片の切断面(2cm×15cm)の中央部(2cm×10cm)の領域に存在する、長径が0.5mm以上のサイズの加硫剤組成物の凝集塊の個数を、目視にて測定した。この数が少ない程、ゴムに対する分散性が優れているものと判定した。
【0082】
[付着性試験]
加硫剤組成物300gをステンレスボウル(直径26cm×深さ7.5cm)に入れ、ステンレスボウルを水平方向に20回回転させた後、ステンレスボウルをゆっくりと180度傾けて(逆さにして)、加硫剤組成物をステンレスボウルから排出した。
【0083】
次いで、ステンレスボウルの内壁に付着した加硫剤組成物の重量を測定し、次式により付着率を算出した(n=10)。この付着率が小さい程、付着性が抑制されていると共に、流動性が優れているものと判定した。
【0084】
付着率(%)=〔容器に付着した加硫剤組成物の重量(g)/300(g)〕×100
【0085】
[ムーニースコーチタイムの測定]
表1記載の成分のうち、加硫剤組成物と加硫促進剤以外の成分を、容量10リットルの密閉型ミキサにて、10分間混練りした。続いて、加硫剤組成物と加硫促進剤を加えて8分間混練り後、ミキシングロール(2本ロール)にて、シート状のゴム組成物を製造した。
【0086】
このゴム組成物について、「JIS K 6300−1」に規定された方法に準拠して、ムーニースコーチタイムを測定した。このムーニースコーチタイムについては、後述する比較例2の値を100とした場合の相対値に換算して示した。
【0087】
ムーニースコーチタイムは、未加硫ゴムのスコーチ(注:初期加硫、早期加硫または焼けとも云う)時間を示し、この数値が小さいほど、ゴム組成物(配合ゴム)が、貯蔵中または混練り、カレンダー、押出し、その他の加硫工程以前の加工作業中に加硫を起こし、その結果、可塑性が減少して弾性が増し、加工性(成形性)が低下するおそれがあると判定される。従って、ムーニースコーチタイムの数値は大きいほど好ましい。
【0088】
[加硫ゴムの強度測定]
ゴム組成物から得られた加硫物(加硫条件:160℃×10分)について、「JIS K6251」に準拠して、引張り強さ(MPa)と引張り伸び(%)を測定した。得られた測定値については、後述する比較例2の値を100とした場合の相対値に換算して示した。
【0089】
引張り強さについては、数値が大きいほど優れていると判定される。一方、引張り伸びについては、用途により判定が異なるが、加硫剤組成物が加硫剤として使用されるタイヤ用のゴムの引張り伸びについては、数値が大きいほど優れていると判定される。
【0090】
〔実施例1〕
ジシクロペンタジエン樹脂2.5重量部を、二硫化炭素230重量部に溶解させ、続いて、不溶性硫黄100重量部を加えて混合して、スラリー(不溶性硫黄の濃度:30重量%)を調製した。次いで、このスラリーを65℃にて1時間加熱し、二硫化炭素を揮発させて、ジシクロペンタジエン樹脂を含有する加硫剤組成物を製造した。この加硫剤組成物について評価試験を行った。得られた試験結果を表1に示す。
【0091】
〔実施例2〜6〕
ジシクロペンタジエン樹脂の使用量を、表1記載の配合割合(重量部)となるように設定した以外は、実施例1の場合と同様にして加硫剤組成物を調製し、評価試験を行った。得られた試験結果を表1に示す。
【0092】
〔実施例7〕
実施例4において調製した加硫剤組成物を使用し、この加硫剤組成物115重量部と、プロセスオイル25重量部とを、プラネタリーミキサーにて30分間攪拌混合して、加硫剤組成物(オイル処理品)を製造した。この加硫剤組成物について評価試験を行った。得られた試験結果を表1に示す。
【0093】
〔比較例1〕
不溶性硫黄のみを加硫剤として用い、実施例1と同様にして評価試験を行った。得られた試験結果を表1に示す。
【0094】
〔比較例2〕
不溶性硫黄100重量部とプロセスオイル25重量部とを、実施例7と同様にして、プラネタリーミキサーにて30分間攪拌混合して、加硫剤組成物(オイル処理品)を製造した。この加硫剤組成物について評価試験を行った。得られた試験結果を表1に示す。なお、ムーニースコーチタイム、引張り強さと、引張り伸びについては、各々100として示した。
【0095】
〔比較例3〕
ジシクロペンタジエン樹脂の代わりにジシクロペンタジエンを使用した以外は、実施例4と同様にして、ジシクロペンタジエンを含有する加硫剤組成物を製造した。この加硫剤組成物について評価試験を行った。得られた試験結果を表1に示す。
【0096】
〔比較例4〕
不溶性硫黄のみを加硫剤として用い、天然ゴム100重量部に対してジシクロペンタジエン樹脂0.525重量部を添加すること以外は、比較例1と同様にして評価試験を行った。得られた試験結果を表1に示す。
【0097】
なお、分散性試験の評価に関しては、天然ゴム100重量部に、カーボンブラックを5重量部及びジシクロペンタジエン樹脂4.5重量部を添加して混練りを行った。
【0098】
【表1】
【0099】
(1)ジシクロペンタジエン樹脂を配合した加硫剤組成物を用いた場合(実施例1〜6)は、ジシクロペンタジエン樹脂を配合していない加硫剤組成物を用いた場合(比較例1及び2)に比べて、不溶性硫黄の熱安定性及び分散性により優れ、付着性も大きく抑制されており、また、ゴム組成物のスコーチ特性も改善し、加硫ゴムの引張り強さ及び引張り伸びも改善している。
(2)実施例1〜6の試験結果によれば、加硫剤組成物中のジシクロペンタジエン樹脂の配合割合が増加するに従い、全ての評価試験の結果が向上している。特に、ジシクロペンタジエン樹脂の配合割合が、不溶性硫黄100重量部に対し15、20及び40重量部の場合(実施例4〜6)には、いずれの評価試験においても特に優れた結果が得られている。
(3)加硫剤組成物にプロセスオイルを含む場合(実施例7)は、プロセスオイルを含まない場合(実施例4)に比べて、不溶性硫黄の熱安定性はやや低下するものの、他の特性については良好な結果が得られている。
(4)ジシクロペンタジエン樹脂を配合した加硫剤組成物を用いた場合(実施例4)は、当該樹脂と同配合量のジシクロペンタジエン(モノマー)を配合した加硫剤組成物を用いた場合(比較例3)に比べて、全ての評価試験で顕著に優れた結果が得られている。
(5)不溶性硫黄100重量部に対してジシクロペンタジエン樹脂が15重量部の配合割合になるように、ジシクロペンタジエン樹脂を不溶性硫黄に配合した場合(実施例4)と、ジシクロペンタジエン樹脂を天然ゴムに配合した場合(比較例4)とを比べると、前者はゴム組成物のスコーチ特性、加硫ゴムの引張り強さ及び引張り伸びが顕著に優れている。また、不溶性硫黄のゴムへの分散性も飛躍的に向上している。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の加硫剤組成物は、不溶性硫黄及びジシクロペンタジエン樹脂を含むことを特徴とする。この加硫剤組成物は、不溶性硫黄が優れた熱安定性を有し可溶性硫黄への転位が抑制されるとともに、不溶性硫黄のゴム中での分散性が優れ、不溶性硫黄の流動性が向上するため装置等への付着を抑制することができる。そのため、ゴムの加硫剤として好適に用いることができる。