(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本実施形態の概要)
初めに、本実施形態の鉛蓄電池の概要について説明する。
本明細書により開示される鉛蓄電池は、複数の電極と電解液とを収容する電槽と、前記電槽の上部に固定される蓋部材と、を備えた鉛蓄電池であって、前記蓋部材は、前記電槽の開口を封口する蓋板と、前記蓋板に貫通して設けられ前記電槽内で生じるガスを排出する筒状の排気筒と、前記排気筒に隣接して配され、前記蓋板の下面に上方に凹んで形成された凹部と、を備え、前記排気筒は、前記凹部内と前記排気筒内とに連通する連通孔を有している。
【0011】
本発明者らは、排気筒の内外間においてガスを流通させる連通孔を設けているにもかかわらず、電解液の液面が過充電などにより上昇すると、排気筒の出口から液滴が外側に漏れだす原因を特定しようと試みた。
そして、発明者らは、排気筒に対する電解液の侵入経路を観察し、液面が上昇して蓋板の下面に接近すると、連通孔の開口領域が小さくなり、開口領域が小さくなった連通孔が、電解液の表面張力によって形成された液膜の影響で塞がれることをつきとめた。そして、排気筒の外側におけるガスの抜け道がなくなってしまうことで排気筒内における電解液の液面が上昇し、電解液が排気筒から外側に漏れてしまうことを特定した。
【0012】
そこで、本発明者らは、排気筒と隣接する位置に蓋板の下面よりも上方に凹んだ凹部を設け、排気筒を構成する壁部に、凹部内と排気筒内とに連通する連通孔を設ける着想に至った。つまり、蓋板の下面よりも高い位置に連通孔を設けることにより、電解液の液面が蓋板の下面に接近した場合においても、電解液の液膜によって連通孔が塞がれてしまうところまで連通孔の開口領域が小さくなることを抑制することができる。つまり、連通孔を通してガスを排気筒の内外間において流通させることができるから、排気筒の内側と排気筒の外側との間において圧力差が生じることを抑制し、排気筒の内外の圧力差に起因して電解液が排気筒の出口から漏れることを抑制することができる。
【0013】
本明細書によって開示される鉛蓄電池は、以下の構成としてもよい。
本明細書により開示される鉛蓄電池の一実施態様として、前記排気筒は、前記排気筒内に向かって突出する突起部を有する構成としてもよい。
【0014】
蓋板よりも高い位置に連通孔が形成されることより、連通孔が排気筒の出口に近づくことになるため、連通孔を通過するガスに伴った電解液の漏れが懸念される。しかしながら、このような構成によると、連通孔を通過した電解液は、排気筒の内側に突出した突起部によって遮られるから、電解液の漏れを抑制できる。
【0015】
また、本明細書により開示される鉛蓄電池の一実施態様として、前記排気筒において前記連通孔を有する壁部は、前記突起部の下面から前記電槽内に向けて下向きに延出されている構成としてもよい。
この構成によると、連通孔を有する壁部と突起部とを利用して突起部の下方空間に凹部を形成することができる。
【0016】
また、本明細書により開示される鉛蓄電池の一実施形態として、前記連通孔を有する前記壁部は、前記突起部の突出端よりも根元側に配されている構成としてもよい。
例えば、一般に広い空間から狭い空間に対して水などが進入する場合、狭い空間内に進入した水は、狭い空間を構成する内側の壁に当たって反射し、狭い空間の出口に集中する。したがって、広い空間である電槽から狭い空間である凹部内に電解液が流れ込む場合も同様に、凹部内に進入した電解液が、凹部の内壁に当たって反射することで連通孔に集中する。そして、連通孔に電解液が集中することにより連通孔から排気筒内に進入する電解液やガスの圧力が高くなり、排気筒内に進入する電解液や連通孔を通して排気筒内に進入するガスに伴う電解液が連通孔から直接上方に跳ね上がってしまう。
ところが、このような構成によると、突起部の突出端が連通孔よりも排気筒内に突出しているから、突起部によってその跳ね上がりを抑制することができる。したがって、例えば、連通孔を有する壁部が突起部の突出端に配されている場合に比べて、連通孔から直接上方に跳ね上がった電解液が排気筒から漏れることを抑制することができる。
【0017】
また、本明細書により開示される鉛蓄電池の一実施形態として、前記排気筒において前記連通孔を有する壁部と対向する対向壁部には、前記連通孔よりも上方の位置に前記突起部が設けられている構成としてもよい。
例えば、上記したように、連通孔から排気筒内に進入する電解液の圧力が高くなると、排気筒内に進入した電解液が、対向壁部に当接した後に上方に跳ね上がる場合がある。ところが、このような構成によると、電解液が対向壁部に当接して上方に跳ね上がったとしても、対向壁部に設けられた突起部によってその跳ね上がりを抑制することができるから、電解液が排気筒から漏れることを抑制することができる。
【0018】
また、本明細書により開示される鉛蓄電池の一実施形態として、前記蓋部材は、前記蓋板の上面には、液滴を前記電槽内に還流させる還流路が設けられており、前記凹部は、前記排気筒の軸線方向から視たときに、前記還流路を避けて形成されている構成としてもよい。
このような構成によると、凹部が、蓋板の上面に形成された還流路を避けて形成されているから、例えば、還流路の下側の位置に凹部が形成され、凹部を構成する壁部が還流路側に突出することに起因して還流路における液滴の流れが悪くなることを防ぐことができる。
【0019】
<実施形態>
本明細書に開示された技術における一実施形態について
図1から
図10を参照して説明する。
鉛蓄電池10は、自動車などの車両用の鉛蓄電池であり、例えば、車両のエンジンルーム内やラゲッジスペース内に設置され、車両に電力を供給するものである。また、鉛蓄電池10は、液式鉛蓄電池であり、
図1から
図3に示すように電池ケース11と、極板群30と、電解液Wと、一対の端子部31とを備えて構成されている。なお、以下の説明において、Y軸方向を、電池ケース11が設置面に対して傾きなく水平に置かれた時の電池ケース11の上下方向とし、X軸方向を、電池ケース11における一対の端子部31の並び方向である左右方向とし、Z軸方向を電池ケース11の前後方向として説明する。
【0020】
電池ケース11は、
図3に示すように、極板群30と電解液Wとを収容する電槽20と、電槽20の上部に組み付けられる蓋部材40とを備えて構成されている。電槽20は、合成樹脂製であって、
図2および
図3に示すように、上方に向けて略矩形状に開口する箱型をなしている。電槽20は、内部に複数枚(本実施形態では5枚)の電槽側隔壁21を有している。電槽側隔壁21は左右方向に概ね等間隔で形成されており、電槽20の内部を電槽側隔壁21によって複数に仕切ることにより、電槽20内に複数(本実施形態では6つ)のセル室22が左右方向に並んで形成されている。各セル室22には、希硫酸からなる電解液Wと、極板群30とがそれぞれ収容されている。
【0021】
極板群30は、
図3に示すように、板状の正極板30P(「電極」の一例)と、板状の負極板30N(「電極」の一例)と、両極板30P,30Nを仕切るセパレータ32とを備えて構成されている。なお、本実施形態においては、電極の一例として板状の極板を用いたが、これに限らず、例えば、電極を円柱状に構成してもよい。
各極板30P,30Nは、格子体に活物質が充填されて構成されており、各極版30P,30N上部には、耳部33が設けられている。耳部33は、ストラップ34を介して、同じ極性の極板30P、30Nをセル室22内にて連結している。なお、正極板30Pの活物質の主成分は二酸化鉛、負極板30Nの活物質の主成分は鉛である。
【0022】
ストラップ34は、左右方向に長い板状とされており、セル室22ごとに正極用ストラップ34Pと負極用ストラップ34Nとがそれぞれ設けられている。隣り合うセル室22のそれぞれのストラップ34同士を、ストラップ34上に形成された接続部35を介して電気的に接続することにより、各セル室22の極板群30が直列に接続されている。
【0023】
蓋部材40は、
図1および
図3に示すように、電槽20に対して上方から組み付けて固定されるものであって、中蓋60と、中蓋60に対して上方から組み付けられる上蓋80とを備える。
中蓋60は、合成樹脂製であって、
図4および
図5に示すように、平面視略矩形状の蓋板61と、蓋板61を囲むように蓋板61の外周縁に形成されたフランジ部62とを備えて構成されている。なお、
図4は、上蓋80を外した状態で中蓋60を上方から見た平面図、
図5は、中蓋60を下方から見た底面図である。
【0024】
蓋板61は、電槽20の上面を封口可能な大きさとされている。蓋板61は、
図5に示すように、その下面に、フランジ部62に沿った形態の周壁63と、周壁63の内面に連なって形成された複数の蓋側隔壁64とを有している。
【0025】
周壁63は、蓋板61の下面から下方に向けて突出した形態とされており、この周壁63は、電槽20の開口縁部に対応するように略矩形状に形成されている。
蓋側隔壁64は、周壁63と同様に、蓋板61の下面から下方に向けて突出しており、各蓋側隔壁64は、電槽20の各電槽側隔壁21に対応するように周壁63の内側を仕切った形態とされている。そして、周壁63を電槽20の開口縁部上に重ねると共に、蓋側隔壁64を電槽20の電槽側隔壁21上に重ね、これらを熱溶着により接合することにより、周壁63と電槽20との間、蓋側隔壁64と電槽側隔壁21との間の気密性が確保されている。
【0026】
また、蓋板61は、
図1、
図4に示すように、高低差を付けた形状とされており、低面部65と、高面部66と、台状部67とを備えて構成されている。低面部65は、蓋板61の後縁部と前部とに設けられており、低面部65のうち、前部の左右両側には、一対の端子部31が配されている。一対の端子部31のうち、一方が正極側端子部31Pとされ、他方が負極側端子部31Nとされている。
正極側端子部31Pと、負極側端子部31Nは、同一形状であるため、以下、負極側端子部31Nを例にとって説明する。
【0027】
負極側端子部31Nは、
図3に示すように、略円筒状のブッシング36と、ブッシング36内に嵌合された極柱37とを備えて構成されている。
ブッシング36は鉛合金等の金属からなり、
図3に示すように、低面部65に対して一体に形成された筒型の装着部68内に埋設されて一体に固定されている。ブッシング36の上半分は、図示しないハーネス端子が接続される端子接続部38とされており、ブッシング36が装着部68に対して固定された状態では、端子接続部38は、低面部65から上方に突出している。
【0028】
極柱37は鉛合金等の金属からなり、ブッシング36に比べて長い略円柱形状とされている。極柱37の上半分はブッシング36内に嵌合されており、極柱37の上端部は、ブッシング36に対して溶接により接合されている。一方、極柱37の下半分は、ブッシング36の下面から下方に突出しており、極柱37の下端部は極板群30のストラップ34に接合されている。
【0029】
高面部66は、正極側端子部31Pと負極側端子部31Nとの間に配されており、高面部66の上面は、一対の端子部31の上面よりも高い位置に設定されている。したがって、仮に、金属部材などが鉛蓄電池10上に置かれたとしても、正極側端子部31Pと負極側端子部31Nとが金属部材などによって短絡することを抑制できるようになっている。
【0030】
台状部67は、
図4に示すように、平面視略矩形状をなしており、蓋板61の前後方向中央部よりもやや後方に偏心した位置に形成されている。台状部67は、電槽20の各セル室22を横断するように左右方向に横長に形成されており、台状部67の上面67Aは、低面部65よりも高く、高面部66より低い位置に設定されている。
台状部67の後部には、セル室22ごとに形成された注液孔69が左右方向に横並びに配置されている。各注液孔69は、台状部67を上下に貫通して形成されており、この注液孔69を通して電槽20の各セル室22内に電解液Wが注液される。
【0031】
一方、上蓋80は、合成樹脂製であって、
図1に示すように、中蓋60の台状部67に対して上方から装着されている。また、上蓋80は、
図6に示すように、中蓋60の台状部67とほぼ同じ外周形状とされており、略矩形平板状の上蓋本体81の外周縁に外周壁82が設けられた形態とされている。なお、
図6は、上蓋80を下方から見た底面図である。
【0032】
また、蓋部材40は、
図3に示すように、中蓋60と上蓋80との間に、複数の排気筒42と電池ケース11の外部空間Sと連通する排気空間43と、複数の閉空間41とを有している。
複数の閉空間41は、
図4および
図6に示すように、台状部67の各注液孔69に対してそれぞれ設けられた複数の囲壁44によって構成されており、複数の囲壁44は、各前壁44Aが左右方向に一直線になるように左右方向に連なって配されている。また、各囲壁44は、注液孔69を囲むようにして台状部67から上方に向けて立ち上がる枠型状の中蓋側囲壁70と、上蓋80から下方に向けて延びる枠型状の複数の上蓋側囲壁83とを上下に重ねることで構成されている。そして、上蓋側囲壁83と中蓋側囲壁70とが熱溶着により接合されることで、囲壁44における上蓋側囲壁83と中蓋側囲壁70との間の気密性が確保されている。
【0033】
複数の排気筒42は、
図4に示すように、電槽20の各セル室22と対応するように左右方向に複数並んで設けられており、各排気筒42は、4つの板状の壁部によって角筒状に形成されている。また、排気筒42は、
図10に示すように、蓋板61の台状部67を上下方向に貫通してセル室22内に臨むように形成された角筒状の中蓋側筒部71の上に、上蓋80の上蓋本体81から下方に向けて角筒状に延びる上蓋側筒部84を重ねることで構成されている。そして、中蓋側筒部71と上蓋側筒部84とが熱溶着により接合されることで、中蓋側筒部71と上蓋側筒部84との間の気密性が確保されている。
【0034】
排気筒42のうち上蓋側筒部84によって構成される部分には、排気空間43と排気筒42内とを連通させる排気孔45が形成されている。つまり、排気筒42の内部空間は、セル室22内に連通すると共に排気空間43内に連通しており、各セル室22において発生するガスは、排気筒42を通った後、排気筒42の出口である排気孔45を通して排気空間43に排出されるようになっている。
【0035】
また、各排気筒42は、
図5および
図10に示すように、排気筒42を構成する4つの壁部のうち左右両側の一方の壁部である有孔壁部42Aに排気筒42の内外を連通させる連通孔46をそれぞれ有している。各連通孔46は、排気筒42の有孔壁部42Aを左右方向に貫通した形態で排気筒42の下端部から上方に向けて真っ直ぐ延びるスリット状に形成されている。連通孔46は、過充電などによる電解液Wの液面上昇時に、排気筒42の内外間でガスおよび電解液Wを流通させることにより排気筒42の内外で圧力差が生じることを抑制する。これにより、電解液Wの液面上昇時に排気筒42の内外において圧力差が生じることに起因して、排気筒42内における電解液Wの液面が上昇し易くなることを抑制し、排気筒42から排気孔45を通して電解液Wが漏れ易くなることを抑制することができるようになっている。
【0036】
また、排気筒42は、
図10に示すように、その内面に複数(本実施形態では2つ)の突起部47を有している。複数の突起部47は、排気筒42の壁部のうち、有孔壁部42Aと左右方向に対向する対向壁部42Bと、有孔壁部42Aとにおいて上下方向に位置ずれした状態でそれぞれ1つずつ配されている。
【0037】
また、有孔壁部42Aに設けられた突起部47である第1突起部47Aは、蓋板61における台状部67よりも上方に配されており、対向壁部42Bに設けられた突起部47である第2突起部47Bは、第1突起部47Aよりもさらに上方に配されている。
【0038】
つまり、排気筒42内は、
図10に示すように、複数の突起部47によって左右方向に蛇行した状態となっており、セル室22から上方に跳ね上がった電解液Wが排気筒42の上部まで入り込み難い構成となっている。
【0039】
一方、排気空間43は、
図6、
図7および
図9に示すように、電槽20のセル室22ごとに設けられた複数の排気通路48と、複数の排気通路48に連なる共通通路49と、共通通路49の左右両側に配された一括排気部50によって構成されている。
【0040】
排気通路48は、台状部67から上方に延びて設けられた中蓋側通路壁72と、上蓋本体81から下方に延びて設けられた上蓋側通路壁85とを上下に重ねて構成された通路壁51の間に設けられており、排気通路48の経路は、排気筒42の排気孔45の位置を始点として、排気筒42の前側および側方に隣接して配された後、左右に蛇行しながら後方向に延びている。なお、排気通路48は、中蓋側通路壁72と上蓋側通路壁85とが熱溶着によって接合されることで気密性が確保された通路となっている。
【0041】
共通通路49は、
図7および
図9に示すように、各排気通路48の後端部に連なるようにして、囲壁44の前壁44Aと、通路壁51の後壁51Aとの間に形成されている。また、共通通路49は、
図6および
図9に示すように、囲壁44の前壁44Aから前方に突出する突出部84Aによって左右方向に蛇行して延びる形態とされており、共通通路49の左右方向両端部には、一括排気部50がそれぞれ設けられている。
【0042】
一括排気部50は、
図4および
図6に示すように、中蓋60の台状部67に略円筒状に設けられた中蓋側排気部74と、上蓋80に略円筒状に設けられた上蓋側排気部86とを上下に重ねることで構成されている。そして、中蓋側排気部74と上蓋側排気部86とが熱溶着によって接合されることより中蓋側排気部74と上蓋側排気部86との間の気密性が確保されている。
【0043】
また、一括排気部50を構成する上蓋側排気部86には、図示しない多孔質フィルタが収納されており、この多孔質フィルタによって、水蒸気や酸ミストの外部空間Sへの放出や外部スパークの侵入が抑制されている。また、上蓋側排気部86の上端部は、上蓋80に設けられた円筒型の排気ダクト87を通して外部に開口している。つまり、電槽20の各セル室22で発生したガスは、まず、各排気筒42を通して排気通路48へ排出される。そして、排気通路48に排出されたガスは、共通通路49を通って一括排気部50に流れ込み、最終的には、排気ダクト87から外部空間Sに排気されるようになっている。なお、一括排気部50は、使用環境に応じて、左右のいずれも開放して使用してもよく、また、左右のいずれか一方のみを開放し、他方を図示しない栓により封止して使用できる。
【0044】
また、中蓋60は、
図4、
図5および
図10に示すように、電槽20の各セル室22に対応して左右方向に並ぶ複数(本実施形態では6つ)の還流孔75を有している。各還流孔75は、蓋板61の台状部67を上下に貫通して形成されており、各還流孔75は、セル室22内と排気空間43とに連通している。また、還流孔75は、
図7に示すように、排気通路48における排気筒42側の端部に配置されており、排気通路48のうち共通通路49から最も遠い位置に配されている。
【0045】
また、排気通路48を構成する台状部67の上面67Aは、
図3および
図10に示すように、還流孔75に近づくほど下方に向けて傾斜する還流路76とされており、
図4に示すように、この還流路76の下端部に還流孔75が配されている。
すなわち、セル室22で発生したガスに含まれる水分は、ガスが排気通路48を通過する際に、排気通路48内にて結露し、結露した液滴は、還流路76を伝って還流孔75まで流れることで、還流孔75を通じて各セル室22内に還流されるようになっている。これにより、電槽20内の電解液Wの減少が抑制されている。
【0046】
また、中蓋60の蓋板61における台状部67は、
図5および
図10に示すように、各還流孔75を囲うようにして左右方向に横並びに形成された複数の還流筒77を有している。各還流筒77は、
図10に示すように、台状部67から下方に延びるとともに下方に開口する角筒型をなしており、鉛蓄電池10に対して振動が加わった際に、セル室22内から跳ね上がる電解液Wが還流孔75を通して排気通路48内に入り込むこと抑制している。
【0047】
また、還流筒77は、
図5および
図10に示すように、排気筒42の対向壁部42Bを還流筒77の一部として共用することで排気筒42と左右方向に隣り合った配置とされており、排気筒42の前壁と還流筒77の前壁、排気筒42の後壁と還流筒77の後壁とは面一状に連なっている。また、還流筒77の前後方向の長さ寸法は排気筒42側に向かうほどやや幅狭に形成されている。
【0048】
さて、排気筒42において連通孔46が設けられた有孔壁部42Aのうち第1突起部47Aよりも下側に配された下側壁部52は、
図10に示すように、第1突起部47Aの突出端よりも根元側である第1突起部47Aの左右方向略中央部の位置から下方に設けられており、第1突起部47Aの下方空間には、第1突起部47Aと、下側壁部52と、台状部67とが連なることにより、台状部67の下面67Bよりも上方に凹んだ凹部78が構成されている。
【0049】
言い換えると、排気筒42は、第1突起部47Aよりも下側を構成する排気筒42が、第1突起部47Aよりも上側を構成する排気筒42よりも細く構成され、排気筒42の下側が細くなったことで、第1突起部47Aの下方で、かつ排気筒42における下側壁部52の外側に台状部67の下面67Bよりも上方に凹んだ凹部78が形成されている。
【0050】
また、凹部78は、
図10に示すように、その前後方向の長さ寸法が排気筒42の前後方向の長さ寸法とほぼ同じ寸法に設定されていると共に、その左右方向の長さ寸法が、排気筒42における上側と下側との左右方向の長さ寸法の差とほぼ同じに設定されている。つまり、凹部78は、台状部67を排気筒42の軸線方向である上下方向から視た場合に、還流路76を避けた位置に形成されている。
【0051】
一方、連通孔46は、
図10に示すように、凹部78内と排気筒42内とを左右方向に連通するように凹部78内にまで亘って形成されており、排気筒42において第1突起部47Aよりも下側の部分は、凹部78の奥部である上端位置から下端部までが連通孔46によって上下方向に開口した形態とされている。すなわち、連通孔46は、中蓋60の蓋板61における台状部67の下面67Bよりも上方の高さ位置において凹部78内と排気筒42内とに連通している。
【0052】
本実施形態は、以上のような構成であって、続いて、鉛蓄電池10の作用および効果について説明する。
通常、電槽20のセル室22で発生したガスは、排気筒42を通って、排気通路48に排出され、その後、共通通路49、一括排気部50を経由して、排気ダクト87から外部空間Sに排気される。
【0053】
ところで、例えば、連通孔の上端位置が蓋板における台状部の下面の高さ位置に設定されている場合、過充電により上昇した電解液の液面が中蓋付近まで上昇すると、連通孔の開口領域が小さくなり、開口領域が小さくなった連通孔が、電解液の表面張力によって形成された液膜の影響により塞がれる虞がある。連通孔が塞がれてしまうと排気筒の外側におけるガスの抜け道がなくなってしまうことで排気筒の内外で圧力差が生じ、排気筒からの電解液の液漏れが懸念される。
【0054】
ところが、本実施形態の鉛蓄電池10は、排気筒42の下側壁部52の外側に台状部67の下面67Bよりも上方に凹んだ凹部78が形成され、連通孔46が凹部78内と排気筒42内とを左右方向に連通するように凹部78内にまで亘って形成されている。
【0055】
すなわち、本実施形態では、連通孔46が、蓋板61における台状部67の下面67Bよりも上方の高い位置において凹部78内と排気筒42内とを連通させているから、例えば、
図10に示すように、電解液Wの液面が台状部67の下面67B付近であるULの高さ位置まで上昇した場合においても、電解液Wの液膜によって連通孔46が塞がれてしまうところまで連通孔46の開口領域が小さくなることを抑制し、連通孔46を通してガスを排気筒42の内外間で流通させることができる。これにより、排気筒42の内側と排気筒42の外側との間で圧力差が生じることに起因して排気筒42内の液面が上昇することを抑制することができ、排気筒42から電解液Wの液漏れが発生することを抑制することができる。
【0056】
また、本実施形態によると、台状部67を上下方向から視たときに、凹部78が還流路76を避けた位置に形成され、凹部78を構成する壁部が還流路76内に突出しないようになっているから、例えば、還流路の下側の位置に凹部が形成され、凹部を構成する壁部が還流路側に突出することに起因して、還流路における液滴の流れが悪くなることを防ぐことができる。
【0057】
ところで、本実施形態の場合、台状部67の下面67Bよりも高い位置に連通孔46が形成されている。このため、連通孔46が排気筒42の排気孔45に近づくことに起因して排気筒42からの電解液Wの漏れが懸念される。
また、一般に広い空間から狭い空間に対して水などが進入する場合、狭い空間内に進入した水は、狭い空間を構成する内側の壁に当たって反射し、狭い空間の出口に集中する。したがって、例えば、台状部67の下面67B付近まで電解液Wの液面が上昇した状態で鉛蓄電池10に振動が伝わり、広い空間である電槽20から狭い空間である凹部78内に電解液が流れ込むと、凹部78内に進入した電解液Wが凹部78の内壁に当たって反射し、電解液Wが連通孔46に集中する。そして、連通孔46から排気筒42内に進入する電解液Wやガスの圧力が高くなり、排気筒42内に進入する電解液Wや連通孔46を通して排気筒内に進入するガスに伴う電解液Wが連通孔46から直接上方に跳ね上がったり、電解液Wが排気筒42の対向壁部42Bに当接した後に上方に跳ね上がったりすることに起因した電解液Wの漏れが懸念される。
【0058】
ところが、本実施形態によると、排気筒42内における連通孔46の直上には、第1突起部47Aが連通孔46よりも排気筒42の内側に突出した形態で配されており、排気筒42内における対向壁部42Bには、第1突起部47Aよりも上方の高い位置に第2突起部47Bが形成されている。
つまり、連通孔46から排気筒42内に進入する電解液Wやガスの圧力が高くなって、排気筒42内に勢いよく進入した電解液Wが上方に向けて直接跳ね上がる場合には、第1突起部47Aによってその跳ね上がりが抑制され、電解液Wが連通孔46から勢いよく対向壁部42Bに当接し、電解液Wの飛沫が対向壁部42Bを介して上方に跳ね上がった場合には、第2突起部47Bによってその跳ね上がりを抑制することができる。これにより、連通孔46から排気筒42内に勢いよく進入する電解液Wが排気筒42から排気孔45を通して排気通路48に漏れてしまうことを抑制することができる。
【0059】
<他の実施形態>
本明細書で開示される技術は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような種々の態様も含まれる。
(1)上記実施形態では、排気筒42は、第1突起部47Aと第2突起部47Bの2つの突起部47を有する構成とした。しかしながら、これに限らず、排気筒42は、1つの突起部を有する構成にしてもよく、3つ以上の突起部を有する構成にしても良い。また、排気筒を長くするなどして突起部を有さない構成にしてもよい。
【0060】
(2)上記実施形態では、連通孔46を有する下側壁部52が、第1突起部47Aの突出端よりも根元側に配されている構成とした。しかしながら、これに限らず、第1突起部よりも上方に別途突起部を設けるなどして下側壁部が第1突起部の突出端に配される構成にしてもよい。
(3)上記実施形態では、連通孔46を下側壁部52の上端から下端に亘って形成した構成にした。しかしながら、これに限らず、連通孔を下側壁部の上端部にのみ形成した構成にしてもよい。
(4)上記実施形態では、排気筒42を角筒状に構成にした。しかしながら、これに限らず、排気筒を円筒状に構成してもよい。