(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記X層はX線光電子分光法(XPS)により測定される亜鉛(Zn)原子濃度が3〜35atm%、ケイ素(Si)原子濃度が7〜25atm%、アルミニウム(Al)原子濃度が1〜7atm%、酸素(O)原子濃度が50〜70atm%であることを特徴とする請求項1または2に記載の積層フィルム。
フィルム基材の少なくとも片側に、亜鉛化合物と周期律表12族〜14族であって亜鉛以外の元素Aの化合物とを含有するX層を形成する積層フィルムの製造方法であって、ランプヒーターによりフィルム基材表面側より加熱を行うことによって、X層形成時のフィルム基材の最高表面温度を40〜200℃とし、前記ランプヒーターは成膜室内に以下(i)〜(v)のいずれかを満たす形で配置されていることを特徴とする積層フィルムの製造方法。
(i)膜形成機構の巻き出し側にランプヒーター(A)を有し、該ランプヒーター(A)が0°≦ΘA≦45°の角度で照射角度可変なリフレクター(C)を有する
(ii)膜形成機構の巻き取り側にランプヒーター(B)を有し、該ランプヒーター(B)が0°≦ΘB≦60°の角度で照射角度可変なリフレクター(D)を有する
(iii)膜形成機構の巻き出し側にランプヒーター(A)および前記膜形成機構の巻き取り側にランプヒーター(B)を有し、該ランプヒーター(A)が0°≦ΘA≦45°の角度で照射角度可変なリフレクター(C)を有する
(iv)膜形成機構の巻き出し側にランプヒーター(A)および前記膜形成機構の巻き取り側にランプヒーター(B)を有し、該ランプヒーター(B)が0°≦ΘB≦60°の角度で照射角度可変なリフレクター(D)を有する
(v)膜形成機構の巻き出し側にランプヒーター(A)および前記膜形成機構の巻き取り側にランプヒーター(B)を有し、該ランプヒーター(A)が0°≦ΘA≦45°の角度で照射角度可変なリフレクター(C)を有し、該ランプヒーター(B)が0°≦ΘB≦60°の角度で照射角度可変なリフレクター(D)を有する
前記X層を形成するターゲット材料が、亜鉛(Zn)原子濃度が3〜37atm%、ケイ素(Si)原子濃度が5〜20atm%、アルミニウム(Al)原子濃度が1〜7atm%、酸素(O)原子濃度が50〜70atm%の組成であることを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の積層フィルムの製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の積層フィルムの一例を示した断面図である。
【
図2】本発明の積層フィルムの一例を示した断面図である。
【
図3】本発明の積層フィルムを製造するためのスパッタリング装置の一例を示す模式図である。
【
図4】
図3におけるマグネトロンスパッタリングカソード18付近の拡大図の一例である。
【
図5】平行光型リフレクターを備えたランプヒーターの一例を示す模式図である。
【
図6】集光光型リフレクターを備えたランプヒーターの一例を示す模式図である。
【
図7】
図3におけるマグネトロンスパッタリングカソード18付近の拡大図の一例である。
【
図8】本発明の積層フィルムを製造するためのスパッタリング装置の一例を示す模式図である。
【
図9】実施例1におけるX層の組成比率のデプスプロファイルである。
【
図10】実施例1におけるX層の亜鉛Znと元素Aとの含有比率(Zn/A)のデプスプロファイルである。
【
図11】実施例2におけるX層の組成比率のデプスプロファイルである。
【
図12】実施例2におけるX層の亜鉛Znと元素Aとの含有比率(Zn/A)のデプスプロファイルである。
【
図13】実施例3におけるX層の組成比率のデプスプロファイルである。
【
図14】実施例3におけるX層の亜鉛Znと元素Aとの含有比率(Zn/A)のデプスプロファイルである。
【
図15】実施例4におけるX層の組成比率のデプスプロファイルである。
【
図16】実施例4におけるX層の亜鉛Znと元素Aとの含有比率(Zn/A)のデプスプロファイルである。
【
図17】実施例5におけるX層の組成比率のデプスプロファイルである。
【
図18】実施例5におけるX層の亜鉛Znと元素Aとの含有比率(Zn/A)のデプスプロファイルである。
【
図19】比較例1におけるX層の組成比率のデプスプロファイルである。
【
図20】比較例1におけるX層の亜鉛Znと元素Aとの含有比率(Zn/A)のデプスプロファイルである。
【
図21】比較例2におけるX層の組成比率のデプスプロファイルである。
【
図22】比較例2におけるX層の亜鉛Znと元素Aとの含有比率(Zn/A)のデプスプロファイルである。
【
図23】比較例3におけるX層の組成比率のデプスプロファイルである。
【
図24】比較例3におけるX層の亜鉛Znと元素Aとの含有比率(Zn/A)のデプスプロファイルである。
【
図25】比較例4におけるX層の組成比率のデプスプロファイルである。
【
図26】比較例4におけるX層の亜鉛Znと元素Aとの含有比率(Zn/A)のデプスプロファイルである。
【
図28】
図27のグラフの深さ5〜35nmの範囲における拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて説明するが、本発明は、請求項の内容を満足する積層フィルムおよびその製造方法であればよく、この図に限られるものではない。
【0015】
[積層フィルム]
本発明者らは、屈曲に対してもガスバリア性が低下しにくく、透明性に優れかつ高度なガスバリア性を発現する積層フィルムを得ることを目的として鋭意検討を重ね、フィルム基材の少なくとも片面に、亜鉛化合物と周期律表12族〜14族であって亜鉛以外の元素Aの化合物とを含有するX層を有する積層フィルムであって、該X層における亜鉛Znと元素Aとの含有比率(Zn/A)を平坦部におけるX層の亜鉛Znと元素Aとの含有比率(Zn/A)で除したとき、少なくとも1.15を超えて3.00未満となる値を有する位置が存在し、該位置が表層部および/または界面部に存在する構成としたところ、前記課題を解決することを見出したものである。なお、以下では積層フィルムをガスバリア性フィルムと記載することもある。また、X層をガスバリア層と記載することもある。
【0016】
ガスバリア層に含まれる亜鉛化合物は、酸化亜鉛、硫化亜鉛、窒化亜鉛、それらの混合物等が用いられることが好ましく、ガスバリア性の観点から、酸化亜鉛および/または硫化亜鉛がより好ましい。光学特性の観点から、酸化亜鉛がさらに好ましい。
【0017】
ガスバリア層には亜鉛化合物と周期律表12族〜14族であって亜鉛以外の元素Aの化合物とを含有することが好ましい。ガスバリア層に含まれる元素Aは周期律表12族〜14族に属する亜鉛以外の元素であれば特に限定されず、ケイ素、アルミニウム、ガリウム、インジウムおよびスズからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素が含まれていても構わない。ガスバリア層に元素Aが含有される形態としては、酸化物、窒化物、酸化窒化物、炭化物などに限定されないが、ガスバリア性などの観点から、酸化物、窒化物、酸化窒化物として存在することが好ましい。非晶質膜を形成することやガスバリア性の観点から、元素Aは少なくともケイ素を含むことが好ましく、該ケイ素が酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化窒化ケイ素および炭化ケイ素からなる群より選ばれる少なくとも1つのケイ素化合物として含有されていることがより好ましい。
【0018】
上述のとおりガスバリア層は亜鉛化合物と周期律表12族〜14族であって亜鉛以外の元素Aの化合物とを含有していれば、上記以外の無機化合物が含まれていても構わない。例えば、ガスバリア層にチタン,ニオブ,タンタル,ジルコニウム等の元素の酸化物、窒化物、硫化物等、またはそれらの混合物が含まれていても構わない。
【0019】
本発明において、ガスバリア層の最表面を実施例の項に記載の条件でエッチングした後の表面を表層基準面とする。次に、当該表層基準面からフィルム基材方向に実施例の項に記載の条件でエッチングしながら組成分析を行ったとき、はじめてZnの含有比率が1.0atm%以下となった面を界面基準面とする。このとき、表層基準面から界面基準面までの膜厚をガスバリア層全体の膜厚とする。
【0020】
また、含有比率を算出する場合には、実施例の項に記載の方法で評価を行った原子数比を用いる。
【0021】
このとき、表層基準面からフィルム基材方向に向かって膜厚がガスバリア層全体の膜厚の0%以上20%以下の部分をガスバリア層の表層部(
図27中(A))と規定する。同様に界面基準面からガスバリア層表面方向に向かって膜厚がガスバリア層全体の膜厚の0%以上40%以下の部分をガスバリア層の界面部(
図27中(B))と規定する。ここで、ガスバリア層全体の膜厚については上述した通り、表層基準面から界面基準面までの膜厚である。
【0022】
本発明のガスバリア性フィルムは、フィルム基材の少なくとも片側に、亜鉛化合物と周期律表12族〜14族であって亜鉛以外の元素Aの化合物とを含有するガスバリア層を有するガスバリア性フィルムであって、該ガスバリア層における亜鉛Znと元素Aとの含有比率(Zn/A)を平坦部(
図27中および
図28(D))におけるガスバリア層の亜鉛Znと元素Aとの含有比率(Zn/A)で除したとき、少なくとも1.15を超えて3.00未満となる値を有する位置(
図27中(C))が存在し、該位置が表層部および/または界面部に存在することが好ましい。該位置が表層部に存在する場合の領域は
図27中(E)を、該位置が界面部に存在する場合の領域は
図27中(F)を指す。ここで、ガスバリア層における亜鉛Znと元素Aとの含有比率(Zn/A)を平坦部におけるガスバリア層の亜鉛Znと元素Aとの含有比率(Zn/A)で除したとき、少なくとも1.15を超えて3.00未満となる値を有する位置が存在するとは、ガスバリア層を表層基準面からフィルム基材方向に向かって実施例の項に記載のエッチング条件によって界面基準面までエッチングしながら組成分析を行っていき、得られたガスバリア層の亜鉛Znと元素Aとの含有比率(Zn/A)を後述する平坦部におけるガスバリア層の亜鉛Znと元素Aとの含有比率(Zn/A)で除したとき、1.15を超えて3.00未満となる値を有する位置が存在することをいう。また、1.15を超えて3.00未満となる値を有する位置が表層部および/または界面部に存在するとは、1.15を超えて3.00未満となる値を有する位置が前述の表層部および/または界面部に存在することをいう。
【0023】
以下、ガスバリア層中に周期律表12族〜14族であって亜鉛以外の元素Aとなりうる元素が複数存在する場合は、含有比率の最も多い元素を元素Aとして計算を行うこととする。
【0024】
このとき、平坦部におけるガスバリア層の亜鉛Znと元素Aとの含有比率(Zn/A)について以下に説明する。まず、ガスバリア層を表層基準面からフィルム基材方向に向かって実施例の項に記載の条件により界面基準面までエッチングしながら組成分析を行っていき、得られたガスバリア層の亜鉛Znと元素Aとの含有比率(Zn/A)の各点から、上下に隣り合う2点の亜鉛Znと元素Aとの含有比率(Zn/A)の平均値が最も小さくなるように連続する3点を選び、その3点の平均値を平坦部(
図27および
図28中(D))におけるガスバリア層の亜鉛Znと元素Aとの含有比率(Zn/A)とする。ここで、当該3点はそれぞれの点の亜鉛Znと元素Aとの含有比率(Zn/A)が3点の亜鉛Znと元素Aとの含有比率(Zn/A)の平均値±0.1以内を満たすように選ぶこととする。
【0025】
表層部および界面部全ての測定点において、亜鉛Znと元素Aとの含有比率(Zn/A)を平坦部におけるガスバリア層の亜鉛Znと元素Aとの含有比率(Zn/A)で除したときの値が1.15以下である場合、深さ方向の組成が均一に近くなるため屈曲性または色味の向上効果が得られない場合がある。一方、表層部および界面部全ての測定点において、亜鉛Znと元素Aとの含有比率(Zn/A)を平坦部におけるガスバリア層の亜鉛Znと元素Aとの含有比率(Zn/A)で除したときの値が3.00以上である場合、深さ方向における組成傾斜が大きくなることで所望のガスバリア性が得られない場合がある。
【0026】
表層部および/または界面部に、亜鉛Znと元素Aとの含有比率(Zn/A)を平坦部の亜鉛Znと元素Aとの含有比率(Zn/A)で除したとき、1.15を超えて3.00未満となる値を有する位置が存在すれば、表層部または界面部以外の領域にそれらを満たす値が存在しても構わない。
【0027】
また、ガスバリア層における亜鉛Znと元素Aとの含有比率(Zn/A)を平坦部におけるガスバリア層の亜鉛Znと元素Aとの含有比率(Zn/A)で除したとき、1.15を超えて3.00未満となる値を有する膜厚がガスバリア層全体の膜厚に占める割合が5〜50%であることが好ましい。
【0028】
ここで、ガスバリア層における亜鉛Znと元素Aとの含有比率(Zn/A)を平坦部におけるガスバリア層の亜鉛Znと元素Aとの含有比率(Zn/A)で除したとき、1.15を超えて3.00未満となる値を有する膜厚がガスバリア層全体の膜厚に占める割合が5〜50%であるとは、上述した方法により得られたガスバリア層における亜鉛Znと元素Aとの含有比率(Zn/A)を平坦部におけるガスバリア層の亜鉛Znと元素Aとの含有比率(Zn/A)で除した値について、隣り合う2点以上の亜鉛Znと元素Aとの含有比率(Zn/A)がすべて1.15を超えて3.00未満であればそれらの1.15を超えて3.00未満である連続する点を厚み方向に結んだ直線で形成されるガスバリア層の厚みを1.15を超えて3.00未満となる値を有する膜厚とし、当該1.15を超えて3.00未満となる値を有する膜厚がガスバリア層全体の膜厚に占める割合が5〜50%であることをいう。ガスバリア層中に1.15を超えて3.00未満となる値を有する膜厚が複数観察されたときは、それらの複数の膜厚を合計した値を1.15を超えて3.00未満となる膜厚とする。
【0029】
1.15を超えて3.00未満となる値を有する膜厚がガスバリア層全体の膜厚の5%よりも小さいと深さ方向の組成が均一に近くなるため屈曲性または色味の向上効果が得られない場合がある。また、1.15を超えて3.00未満となる値を有する膜厚がガスバリア層全体の膜厚の50%よりも大きいと深さ方向における組成傾斜が大きくなることで所望のガスバリア性が得られない場合がある。
【0030】
ガスバリア層の厚みは、10〜500nmが好ましく、30〜300nmがより好ましい。ガスバリア層の厚みが10nmよりも薄くなると、十分にガスバリア性が確保できない箇所が生じる場合がある。また、500nmよりも厚くなると、層内に残留する応力が大きくなるため、曲げや外部からの衝撃によってガスバリア層にクラックが発生しやすくなり、ガスバリア性が低下する場合がある。
【0031】
ガスバリア層の組成比率は、亜鉛(Zn)原子濃度が3〜35atm%、ケイ素(Si)原子濃度が7〜25atm%、アルミニウム(Al)原子濃度が1〜7atm%、酸素(O)原子濃度が50〜70atm%の範囲にあることが好ましい。
【0032】
亜鉛原子濃度が3atm%よりも少ない、またはケイ素原子濃度が25atm%よりも多いと、ガスバリア層を柔軟性の高い膜質にする亜鉛原子の割合が少なくなるため、ガスバリア性フィルムの柔軟性が損なわれる場合がある。亜鉛原子濃度が35atm%よりも多い、またはケイ素原子濃度が7atm%よりも少ないと、ケイ素原子の割合が少なくなることでガスバリア層は結晶膜になりやすく、クラックが入りやすくなる場合がある。アルミニウム原子濃度が1atm%よりも少ないと、酸化亜鉛と二酸化ケイ素の親和性が損なわれるため、ガスバリア層には空隙や欠陥が生じやすくなる場合がある。また、アルミニウム原子濃度が7atm%よりも多いと、酸化亜鉛と二酸化ケイ素の親和性が過剰に高くなるため、熱や外部からの応力に対してクラックが生じやすくなる場合がある。酸素原子濃度が50atm%よりも少ないと、亜鉛、ケイ素、アルミニウムは酸化不足となり、光線透過率が低下する場合がある。また、酸素原子濃度が70atm%よりも多いと、酸素が過剰に取り込まれているため、空隙や欠陥が増加し、ガスバリア性が低下する場合がある。
【0033】
[組成比率の深さ方向分析]
本発明におけるガスバリア層中の組成比率はX線分光法(XPS)やラザフォード後方散乱分析(RBS)等の一般的な組成分析手法により評価することができる。XPSによる深さ方向分析の一例を以下に示す。
【0034】
アルゴンイオンを用いて実施例の項に記載の条件でスパッタエッチングを行うことにより、ガスバリア層最表面からフィルム基材方向に向けて、組成比率を算出する。Znの組成比率が初めて1.0atm%以下となったところで分析を終了する。
【0035】
[アンカーコート層]
本発明のガスバリア性フィルムおよびその製造方法に適用されるフィルム基材の表面には、ガスバリア層との密着性の向上を目的として
図2に示すようにアンカーコート層を形成することが好ましい。
【0036】
得られたガスバリア性フィルムのフィルム基材とガスバリア層との間に、アンカーコート層を有することにより、フィルム基材に直接ガスバリア層を形成した場合よりもガスバリア層の平坦性が向上し、ガスバリア性が向上することやフィルム基材上に直接ガスバリア層を施した場合よりもガスバリア性フィルムの柔軟性が向上する。
【0037】
このアンカーコート層に用いられるアンカーコート層の材料としては、ポリエステル樹脂、イソシアネート樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ビニル変性樹脂、エポキシ樹脂、変性スチレン樹脂、変性シリコン樹脂、およびアルキルチタネート等が挙げられ、これらを1または2種以上併せて使用することもできる。本発明に用いるアンカーコート層の材料としては耐溶剤性の観点から主剤と硬化剤とからなる二液硬化型樹脂が好ましく、ガスバリア性、耐水性の観点からポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂を主剤として使用することがより好ましい。硬化剤としてはガスバリア性、透明性などの特性を阻害しない範囲内であれば、特に限定されることはなく、イソシアネート系、エポキシ系などの一般的な硬化剤を使用することができる。これらのアンカーコート層には、既知の添加剤を含有させることもできる。
【0038】
本発明に用いるアンカーコート層の厚みは、0.3〜10μmが好ましい。層の厚みが0.3μmより薄くなると、フィルム基材の凹凸の影響を受けて、ガスバリア層の表面粗さが大きくなる可能性があり、ガスバリア性が低下する場合がある。層の厚みが10μmより厚くなると、アンカーコート層の層内に残留する応力が大きくなることによってフィルム基材が反り、ガスバリア層にクラックが発生するため、ガスバリア性が低下する場合がある。従って、アンカーコート層の厚みは0.3〜10μmが好ましい。さらに、フレキシブル性を確保する観点から0.5〜3μmがより好ましい。
【0039】
フィルム基材の表面にアンカーコート層を形成する方法としては上記のアンカーコート層の材料に溶剤、希釈剤等を加えて塗剤とした後、ロールコート、グラビアコート、ナイフコート、ディップコート、スプレーコート等の方法によりフィルム基材上にコーティングして塗膜を形成し、溶剤、希釈剤等を乾燥除去することによりアンカーコート層を形成することができる。塗膜の乾燥方法は、熱ロール接触法、熱媒(空気、オイルなど)接触法、赤外線加熱法、マイクロ波加熱法等が利用できる。中でも、本発明の好ましいアンカーコート層の厚みである0.3〜10μmの厚みの層を塗工するに好適な手法として、グラビアコート法が好ましい。
【0040】
[フィルム基材]
本発明で用いられるフィルム基材は、有機高分子化合物を含むフィルム基材であれば特に限定されず、例えば、ポリエチレンあるいはポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレートあるいはポリエチレンナフタレート等のポリエステル、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、エチレン酢酸ビニル共重合体のケン化物、ポリアクリロニトリル、ポリアセタール等の各種ポリマーを含むフィルムなどを使用することができる。フィルム基材を構成するポリマーは、ホモポリマー、コポリマーのいずれでもよいし、また、単独のポリマーであってもよいし複数のポリマーをブレンドして用いてもよい。
【0041】
なお、巻き取り式でフィルム基材表面に連続的に効率良く成膜処理を施すことができる観点から、フィルム基材はロール状であることが好ましい。
【0042】
また、フィルム基材として、単層フィルム、あるいは、2層以上の、例えば、共押し出し法で製膜したフィルムや、一軸方向あるいは二軸方向に延伸されたフィルム等を使用してもよい。薄膜を形成する面には、密着性を良くするために、コロナ処理、イオンボンバード処理、溶剤処理、粗面化処理、および、有機物または無機物あるいはそれらの混合物で構成されるアンカーコート層の形成処理といった前処理が施されていても構わない。また、薄膜を形成する面と反対面には、フィルムの巻き取り時の滑り性の向上および、薄膜を形成した後にフィルムを巻き取る際に薄膜との摩擦を軽減することを目的として、有機物や無機物あるいはこれらの混合物のコーティング層が施されていても構わない。使用するフィルム基材の厚みは特に限定されないが、成膜時のフィルム基材の熱負けやハンドリング等の観点より、10〜200μmであることが好ましい。
【0043】
[ガスバリア性フィルムの製造方法]
本発明におけるガスバリア性フィルムの製造方法は、フィルム基材の少なくとも片側に、亜鉛化合物と周期律表12族〜14族であって亜鉛以外の元素Aの化合物とを含有するガスバリア層を形成するガスバリア性フィルムの製造方法であって、フィルム基材表面側より加熱を行うことによって、ガスバリア層形成時のフィルム基材の最高表面温度を40〜200℃とすることにより形成するものであることが好ましい。
【0044】
本発明におけるガスバリア層は、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、CVD法などの膜形成機構を用いることによって形成できる。これらの方法の中でも、安価、簡便かつ所望の層の性質を得られる手法として、スパッタリング法が好ましい。また、スパッタリング法は枚葉式、巻き取り式などいずれの方法で行ってもよいが、所望のガスバリア性フィルムを得やすい方法として、巻き取り式で行うのが好ましい。
図3、8にロール・ツー・ロール式スパッタリング装置の一例を示す。以下スパッタリング法を例に記載する。
【0045】
本発明におけるガスバリア層は、スパッタリング時にフィルム基材表面側より加熱を行うことによって、フィルム基材の最高表面温度を40〜200℃とすることにより得ることが好ましい。かかる条件を適用することにより、スパッタリングを行う際にガスバリア層を形成するスパッタ粒子がフィルム基材の表面に均一に拡散することにより、ガスバリア層の緻密化を図ることができ、類似構成でこれまで達成不可能であった高いガスバリア性が得られるとともにガスバリア層中の組成を制御することができる。ここで、フィルム基材の表面とは、フィルムにおいてガスバリア層を形成する表面をいう。なお、スパッタリングを行う際にガスバリア層を形成するスパッタ粒子がフィルム基材の表面に均一に拡散することを「粒子の表面拡散性」と略記することもある。
【0046】
スパッタリング時にフィルム基材表面側より加熱を行うことによって、フィルム基材の最高表面温度を40〜200℃とすることで、粒子の表面拡散性が向上し、これによりガスバリア層の緻密化を図ることが可能となることから好ましい。フィルム基材の最高表面温度とは、熱電対をフィルム基材表面に貼り付けてデータロガーを用いてガスバリア層形成時におけるフィルム基材の表面温度を測定した際に、最も高い到達温度のことをいう。
【0047】
フィルム基材の最高表面温度が40℃より低いと、十分な粒子の表面拡散性の向上効果が得られず、ガスバリア性が不十分となる場合がある。一方、フィルム基材の最高表面温度が200℃より高いと、フィルム基材に溶融変形が生じ、ガスバリア性フィルムとして使用することができなくなる場合がある。フィルム基材の最高表面温度は、ガスバリア性やフィルムの熱負けを抑制する観点より、100〜180℃に調節することがより好ましく、100〜150℃であることがさらに好ましい。ガスバリア層の緻密化を効果的に図る観点から、ガスバリア層の界面部成膜時に最高表面温度が現れることが好ましい。
【0048】
フィルム基材表面を加熱する手法としては、例えばランプヒーターにより加熱する手法が挙げられる。加熱する手法としては、フィルム基材をフィルム表面側から加熱することができればランプヒーターに限らないが、粒子の表面拡散性を効果的に向上させることができる観点より、ランプヒーターが好ましい。さらに、フィルム基材をフィルム表面側から加熱する際には、フィルムの熱負けを抑える観点から、フィルム基材の裏面側を冷却することが好ましい。
【0049】
本発明で用いられるランプヒーターは、0.8〜2.5μmにピーク波長をもつ赤外(IR)ヒーターであることが好ましい。0.8〜2.5μmにピーク波長をもつ赤外ヒーターとは、投入電力の85%以上が赤外線に変換され、900〜2,800℃程度の発熱体から放射する光を利用するヒーターである。0.8μmより小さなピーク波長をもつヒーターであると、照射エネルギーが強く、基材表面にダメージを与える場合がある。一方、2.5μmよりも大きなピーク波長をもつヒーターであると照射エネルギーが小さく、目的温度までフィルム基材が加熱されない場合や効率的にフィルム基材が加熱されない等の場合がある。加熱効率等の観点より、ピーク波長が0.8〜1.8μmのランプヒーターであることがより好ましい。
【0050】
本発明で用いられるランプヒーターは、赤外ヒーターの中でもハロゲンランプヒーターやセラミックヒーター、石英管ヒーター、カーボンヒーター等を用いることができる。ハロゲンランプヒーターは、近赤外領域にピーク波長を有する光源であり、電気エネルギーを熱エネルギーに変換し、固体の温度を上げて、その温度に相当する放射を利用する熱放射光源である。真空チャンバー内で使用可能、照射エネルギーの立ち上がり、立ち下がりが速い、パーティクルの発生が少ない等の観点よりハロゲンランプヒーターを用いることが好ましい。また、0.8〜2.5μmにピーク波長を持つハロゲンランプヒーターであることがより好ましい。
【0051】
本発明で用いられるランプヒーターは成膜室内に以下のいずれかを満たす形で配置されることが好ましい。
(i)前記膜形成機構の巻き出し側にランプヒーター(A)を有し、該ランプヒーター(A)が照射角度可変のリフレクター(C)を有する
(ii)前記膜形成機構の巻き取り側にランプヒーター(B)を有し、該ランプヒーター(B)が照射角度可変のリフレクター(D)を有する
(iii)前記膜形成機構の巻き出し側にランプヒーター(A)および前記膜形成機構の巻き取り側にランプヒーター(B)を有し、該ランプヒーター(A)が照射角度可変のリフレクター(C)を有する
(iv)前記膜形成機構の巻き出し側にランプヒーター(A)および前記膜形成機構の巻き取り側にランプヒーター(B)を有し、該ランプヒーター(B)が照射角度可変のリフレクター(D)を有する
(v)前記膜形成機構の巻き出し側にランプヒーター(A)および前記膜形成機構の巻き取り側にランプヒーター(B)を有し、該ランプヒーター(A)が照射角度可変のリフレクター(C)を有し、該ランプヒーター(B)が照射角度可変のリフレクター(D)を有する。
【0052】
照射角度可変のリフレクターとは、
図4においてマグネトロンスパッタリングカソード18の基準面から、ランプヒーター(A)17に関しては0°≦Θ
A≦90°、ランプヒーター(B)19に関しては0°≦Θ
B≦90°の角度でそれぞれ照射角度可変可能なリフレクターであることが好ましい。Θ
A、Θ
Bはそれぞれランプヒーター(A)、ランプヒーター(B)の照射角度を表し、マグネトロンスパッタリングカソード18の最表面を0°(基準面)とし、それぞれ
図4中の矢印方向に照射角度を可変とするものである。
【0053】
膜形成機構の巻き出し側に照射角度可変のリフレクター(C)を有するランプヒーター(A)を備えることで、薄膜形成初期の膜組成等の膜構造を制御することが可能となるため好ましい。薄膜形成初期の膜組成等の膜構造を効果的に制御するという観点より、巻き出し側のランプヒーター(A)のリフレクター(C)の照射角度は0°≦Θ
A≦45°であることがより好ましい。
【0054】
膜形成機構の巻き取り側に照射角度可変のリフレクター(D)を有するランプヒーター(B)を備えることで、深さ方向の膜質に傾斜を加えることが可能となるため好ましい。これらの観点より、巻き取り側のランプヒーター(B)のリフレクター(D)は0°≦Θ
B≦60°であることがより好ましい。
【0055】
前記膜形成機構の巻き出し側にランプヒーター(A)および前記膜形成機構の巻き取り側にランプヒーター(B)を有し、該ランプヒーター(A)が照射角度可変のリフレクター(C)を有する、または該ランプヒーター(B)が照射角度可変のリフレクター(D)を有することで、ランプヒーター(A)により薄膜形成初期の膜構造を制御することが可能となり、さらにランプヒーター(B)により薄膜の深さ方向の膜質制御や薄膜最表層の制御が可能となるため好ましい。
【0056】
前記膜形成機構の巻き出し側にランプヒーター(A)および前記膜形成機構の巻き取り側にランプヒーター(B)を有し、該ランプヒーター(A)が照射角度可変のリフレクター(C)を有る、または該ランプヒーター(B)が照射角度可変のリフレクター(D)を有することで、ランプヒーター(A)により薄膜形成初期の膜構造を制御することが可能となり、さらにランプヒーター(B)により薄膜の深さ方向の膜質制御や薄膜最表層の制御が可能となるうえ、薄膜の深さ方向の膜質制御をより容易に行うことが可能となるため好ましい。
【0057】
ランプヒーターに備え付けられているリフレクターは、平行光型リフレクター、集光型リフレクター、パラボラ型リフレクターなどが一般的なものとして考えられるが、フィルム基材が熱負けしにくく加熱できるものであればどのようなタイプのものでも構わない。平行光型リフレクターとは、
図5のように、一定面積を均一に照射することが可能なリフレクターである。平行型リフレクターを備えたランプヒーターを複数台並列させることで、広い面積を均一に加熱することが可能となるため好ましい。ただし、
図5中では、図の簡略化のため、ランプヒーター21から基材フィルムに直接照射される光は省略している。集光型リフレクターとは、
図6のように、光をライン状に集光することが可能なリフレクターであり、フィルム基材の一部分のみを素早く加熱したい場合に適している。ただし、
図6中では、図の簡略化のため、ランプヒーター26からフィルム基材に直接照射される光は省略している。また、パラボラ型リフレクターとは、広範囲を均一に照射することが可能なリフレクターであり、平行光型よりも広い範囲を照射することが可能なため、広い範囲を均一に照射する必要があるが、ランプヒーターを設置するスペースが狭く、平行光型リフレクターを備えたランプヒーターを複数台設置することが困難な場合等に適している。大きさの限られた成膜室内でフィルム基材表面を効率的かつ均一に加熱するには、指向性の低い平行光型リフレクターやパラボラ型リフレクターを用いることが好ましい。
【0058】
本発明で使用するターゲット材料の組成比率は、亜鉛(Zn)原子濃度が3〜37atm%、ケイ素(Si)原子濃度が5〜20atm%、アルミニウム(Al)原子濃度が1〜7atm%、酸素(O)原子濃度が50〜70atm%の組成であることが好ましい。亜鉛原子濃度が3atm%よりも少ない、またはケイ素原子濃度が20atm%よりも多いと、ガスバリア層を柔軟性の高い膜質にする亜鉛原子の割合が少なくなるため、ガスバリア層を形成した際にガスバリア性フィルムの柔軟性が損なわれる場合がある。かかる観点から、亜鉛原子濃度は、5atm%以上であることがより好ましい。亜鉛原子濃度が37atm%よりも多い、またはケイ素原子濃度が5atm%よりも少ないと、ケイ素原子の割合が少なくなることで形成されるガスバリア層は結晶膜になりやすく、クラックが入りやすくなる場合がある。かかる観点から、亜鉛原子濃度は、36.5atm%以下であることがより好ましい。また、同様の観点からケイ素原子濃度は、7atm%以上であることがより好ましい。アルミニウム原子濃度が1atm%よりも少ないと、ターゲット材料の導電性が損なわれるため、DCスパッタリングを行うことができなくなる場合がある。また、アルミニウム原子濃度が7atm%よりも多いと、ガスバリア層を形成した際に、酸化亜鉛と二酸化ケイ素の親和性が過剰に高くなるため、熱や外部からの応力に対してクラックが生じやすくなる場合がある。酸素原子濃度が50atm%よりも少ないと、形成されるガスバリア層は酸化不足になりやすく、光線透過率が低下する場合がある。酸素原子濃度が70atm%よりも多いと、ガスバリア層を形成する際に酸素が過剰に取り込まれやすくなるため、空隙や欠陥が増加し、ガスバリア性が低下する場合がある。
【0059】
[用途]
本発明のガスバリア性フィルムは高いガスバリア性を有するため、食品や電子機器等の包装材料として好適に用いることができる。また、高いガスバリア性を利用して、太陽電池、電子ペーパー、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレーなどの電子部材用途にも好適に用いることができる。
【実施例】
【0060】
[評価方法]
(1)組成比率の深さ方向分析
ガスバリア層の組成分析は、X線光電子分光法(XPS)により行った。アルゴンイオンを用いてスパッタエッチングを行うことにより、ガスバリア層最表面からフィルム基材方向に向けて、1回のエッチングごとに組成比率を分析した。最表面の組成比率を分析した後に、エッチングおよび組成比率の分析を繰り返し行い、Znの組成比率が1.0atm%以下となったところで分析を終了した。なお、各実施例・比較例を以下のエッチング条件でエッチングすると、1回のエッチングあたり約2nmをエッチングすることになった。XPS法の測定条件は下記の通りとした。
・装置 :ESCA 5800(アルバックファイ社製)
・励起X線 :monochromatic AlKα
・X線出力 :300W
・X線径 :800μm
・光電子脱出角度 :45°
・Arイオンエッチング :2.0kV、10mPa
・1回のエッチング時間 :3.0min。
【0061】
(2)水蒸気透過率測定
温度40℃、湿度90%RH、測定面積50cm
2の条件で、英国、テクノロックス(Technolox)社製の水蒸気透過率測定装置(機種名:DELTAPERM(登録商標))を使用して測定した。サンプル数は水準当たり2サンプル行った。2サンプルの測定を行い得たデータを平均し、小数点第2位を四捨五入し、当該水準における平均値を求め、その値を水蒸気透過度(g/(m
2・24hr・atm))とした。
【0062】
(3)色調
CIE規格(1976年)に基づき、分光測色形CM−2600d(コニカミノルタセンシング(株)製)を用いて、透過色のb
*値を測定した。光源はD65を使用し、角度2°の条件で測定した。
【0063】
(4)屈曲試験
縦10cm、横10cmの試験片を切り出し、ガスバリア層を内側にして、曲げ半径3mm、曲げ角度180°にて10,000回屈曲を繰り返し行った。屈曲試験後の試験片の水蒸気透過率を測定した。試験回数は各水準について2枚ずつ行った。
【0064】
(5)フィルム基材の最高表面温度測定
フィルム基材表面に熱電対をカプトンテープにて貼り付けてガスバリア層の形成を行うことで、フィルム基材の表面温度をデータロガーにて測定した。熱電対は、DATAPAQ社製Kタイプ熱電対(PA0210)を使用した。また、データロガーは、DATAPAQ社製データロガー(DQ1863−S)を使用した。真空中の使用であるため、データロガーはDATAPAQ社製真空プロセス用耐熱ケース(TB7400C)に入れて使用した。測定中に得られた最も高い到達温度をフィルム基材の最高表面温度測定とした。
【0065】
(実施例1)
[芳香族環構造を有するポリウレタン化合物の合成]
5リットルの4つ口フラスコに、ビスフェノールAジグリシジルエーテルアクリル酸付加物(共栄社化学社製、商品名:エポキシエステル3000A)を300質量部、酢酸エチル710質量部を入れ、内温60℃になるよう加温した。合成触媒としてジラウリン酸ジ−n−ブチル錫0.2質量部を添加し、攪拌しながらジシクロヘキシルメタン4,4’−ジイソシアネート(東京化成工業社製)200質量部を1時間かけて滴下した。滴下終了後2時間反応を続行し、続いてジエチレングリコール(和光純薬工業社製)25質量部を1時間かけて滴下した。滴下後5時間反応を続行し、重量平均分子量20,000の芳香族環構造を有するポリウレタン化合物を得た。
【0066】
[アンカーコート層の形成]
フィルム基材として、厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製“ルミラー”(登録商標)U48)を用いた。
【0067】
アンカーコート層形成用の塗液として、前記ポリウレタン化合物を150質量部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(共栄社化学社製、商品名:ライトアクリレートDPE−6A)を20質量部、1−ヒドロキシ−シクロヘキシルフェニルーケトン(BASFジャパン社製、商品名:IRGACURE 184)を5質量部、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン(信越シリコーン社製、商品名:KBM−503)を3質量部、酢酸エチルを170質量部、トルエンを350質量部、シクロヘキサノンを170質量部配合して塗液を調整した。次いで、塗液をフィルム基材上にマイクログラビアコーター(グラビア線番150UR、グラビア回転比100%)で塗布、100℃で1分間乾燥し、乾燥後、下記条件にて紫外線処理を施して厚み1,000nmのアンカーコート層を設けた。
【0068】
紫外線処理装置:LH10−10Q−G(フュージョンUVシステムズ・ジャパン社製)
導入ガス:N
2(窒素イナートBOX)
紫外線発生源:マイクロ波方式無電極ランプ
積算光量:400mJ/cm
2
試料温調:室温。
【0069】
[ガスバリア層の形成]
フィルム基材にアンカーコート層を形成した側に、酸化亜鉛/二酸化ケイ素/酸化アルミニウムの質量比が77/20/3であるスパッタリングターゲットを用い、アルゴンガスおよび酸素ガスによるスパッタリングを実施し、ガスバリア層を設けた(ガスバリア層の厚み:50nmとした)。
【0070】
具体的な操作は以下のとおりである。
図3に示す構造の巻き取り式スパッタリング装置4を使用してガスバリア性フィルムを得た。IRヒーターの配置は
図4のように設置した。
【0071】
まず、マグネトロンスパッタリングカソード18上に酸化亜鉛、二酸化ケイ素、酸化アルミニウムを含有する混合物で、酸化亜鉛/二酸化ケイ素/酸化アルミニウムの組成質量比が77/20/3であるスパッタリングターゲットを設置した巻き取り式スパッタリング装置4の巻き取り室の中で、巻き出しロール8にアンカーコート層を設けた前記フィルム基材7をセットし、巻き出した後に張力センサーロール9およびガイドロール10、11を介して、温度0℃の温調ロール12に通した。次に、1.0×10
−3Paに達するまで真空引きを行い、その後、減圧度2.0×10
−1Paとなるように酸素ガス分圧10%としてアルゴンガスおよび酸素ガスを導入し、前記フィルム基材7をランプヒーター17、19にて加熱を行いながら、直流電源により投入電力3,000Wをマグネトロンスパッタリングカソード18に印加することにより、アルゴン・酸素ガスプラズマを発生させ、スパッタリングにより前記フィルム基材7の表面上にガスバリア層を形成した。ランプヒーターは岩崎電気社平行光型照射器IRE370−Mを用い、
図4におけるリフレクターの角度はΘ
A=12°、Θ
B=12°とした。ランプヒーターの出力はフィルム基材7の最高表面温度が150℃となるように調整した。その後、ガイドロール13、14および張力センサーロール15を介して巻き取りロール16に巻き取った。
【0072】
続いて、得られたガスバリア性フィルムから試験片を切り出し、XPSによる深さ方向の組成分析、水蒸気透過率、色調、耐屈曲性の評価を実施した。結果を
図9、10、表1に示す。
【0073】
(実施例2)
リフレクターの角度をΘ
A=45°、Θ
B=45°とした以外は実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。結果を
図11、12、表1に示す。
【0074】
(実施例3)
フィルム基材の最高表面温度が110℃となるようにランプヒーターの出力を調整した以外は実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。結果を
図13、14、表1に示す。
【0075】
(実施例4)
ランプヒーターの配置を
図7のようにし、リフレクターの角度をΘ
A=12°とした以外は実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。結果を
図15、16、表1に示す。
【0076】
(実施例5)
図8に示す構造の巻き取り式スパッタリング装置30を使用し、ランプヒーターの配置を
図5のようにした以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。結果を
図17、18、表1に示す。
【0077】
(比較例1)
図3に示す構造の巻き取り式スパッタリング装置4のランプヒーター17、19を取り外して使用し、温調ロール15の温度を0℃とした以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。結果を
図19、20、表1に示す。
【0078】
(比較例2)
温調ロールの温度を100℃とした以外は、比較例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。結果を
図21、22、表1に示す。
【0079】
(比較例3)
酸化亜鉛/二酸化ケイ素/酸化アルミニウムの質量比が58/39/4であるスパッタリングターゲットを用いた以外は、比較例1と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。結果を
図23、24、表1に示す。
【0080】
(比較例4)
酸化亜鉛/二酸化ケイ素/酸化アルミニウムの質量比が58/39/4であるスパッタリングターゲットを用いた以外は、比較例2と同様にしてガスバリア性フィルムを得た。結果を
図25、26、表1に示す。
【0081】
実施例1〜5は、屈曲試験前後でガスバリア性は同等であり良好であり、かつ色調も良好である。一方で比較例1,2は屈曲性試験前後のガスバリア性に変化がないものの、色調が高く黄色味が生じる。比較例3,4は、色調は良好であるが、屈曲試験後のガスバリア性は不良である。つまり、本発明の構成を有することで屈曲に対してもガスバリア性が低下しにくく、透明性に優れかつ高度なガスバリア性を発現するガスバリア性フィルムを得ることができる。
【0082】
【表1】