(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
貫通孔が形成された構造部材に耐火被覆を施す場合、貫通孔の小口面にも他の部位と同じ厚さの耐火被覆を形成すると、貫通孔の実質的な有効径が小さくなり、貫通可能な設備材の径が制限されてしまう。一方、貫通孔の径を大きくすると、断面欠損による構造性能の低下が大きくなり、補強材を設けるなどの対策が必要となる。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、貫通孔を大きくすることなく、貫通孔の有効径を拡大し、貫通孔に設置する設備材の大きさの向上を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するため、本発明の設備材の設置方法は、耐火被覆が施される構造部材の貫通孔に設備材を設置する設備材の設置方法であって、前記貫通孔の貫通方向の一方側から前記構造部材に前記耐火被覆を吹付け施工する第一耐火被覆施工工程と、前記第一耐火被覆施工工程によって前記貫通孔の小口面に形成された前記耐火被覆を撤去する撤去工程と、前記貫通方向の他方側から前記構造部材に前記耐火被覆を吹付け施工する第二耐火被覆施工工程と、前記貫通孔に前記設備材を貫通させて設置する設備材設置工程と、を有することを特徴とする。
このような設備材の設置方法によれば、貫通孔の小口面の耐火被覆を薄く形成でき(換言すると貫通孔の有効径を拡大でき)、設備材の大きさの向上を図ることができる。
【0007】
かかる設備材の設置方法であって、前記設備材設置工程の前に、前記貫通孔の小口面の前記耐火被覆を第一被覆厚とし、前記貫通孔の小口面以外の前記耐火被覆を前記第一被覆厚よりも厚い第二被覆厚として管理する耐火被覆管理工程を有することが望ましい。
このような設備材の設置方法によれば、小口面と小口面以外の部位の耐火被覆厚をそれぞれ確認することができる。
【0008】
また、かかる目的を達成するため、本発明の設備材の設置方法は、耐火被覆が施される構造部材の貫通孔に設備材を設置する設備材の設置方法であって、前記貫通孔の貫通方向の一方側から前記構造部材に前記耐火被覆を吹付け施工する第一耐火被覆施工工程と、前記貫通方向の他方側から前記構造部材に前記耐火被覆を吹付け施工する第二耐火被覆施工工程と、前記貫通孔に前記設備材を貫通させて設置する設備材設置工程と、を有し、前記第一耐火被覆施工工程と前記第二耐火被覆施工工程によって前記貫通孔の小口面に吹付けられる前記耐火被覆の厚さを第一被覆厚とし、前記貫通孔の小口面以外に吹付けられる前記耐火被覆の厚さを前記第一被覆厚よりも厚い第二被覆厚としたことを特徴とする。
このような設備材の設置方法よれば、簡易に貫通孔の小口面の耐火被覆を薄く形成でき、設備材の大きさの向上を図ることができる。
【0009】
かかる設備材の設置方法であって、前記第一被覆厚は、実験により耐火性能が確認された前記構造部材の耐火被覆厚であり、前記第二被覆厚は、法律により定められた前記構造部材の耐火被覆厚であってもよい。
このような設備材の設置方法によれば、耐火性能を確保しつつ第一被覆厚を小さく設定することができる。
【0010】
かかる設備材の設置方法であって、前記貫通孔は、円形であり、前記貫通孔の円周の3分割以上の箇所で前記第一被覆厚を管理することが望ましい。
このような設備材の設置方法によれば、第一被覆厚を精度よく管理することができる。
【0011】
かかる設備材の設置方法であって、前記第一被覆厚の管理には、前記耐火被覆に貫入させて厚さを確認する確認具が用いられ、前記確認具を前記耐火被覆に残置した状態で、前記設備材設置工程を実行することが望ましい。
このような設備材の設置方法によれば、施工完了後も目視にて容易に所定の被覆厚が確保されていることを確認できる。
【0012】
かかる設備材の設置方法であって、前記第二耐火被覆施工工程の後、前記貫通孔の小口面に形成された前記耐火被覆を鏝押さえ・整形する整形工程を有することが望ましい。
このような設備材の設置方法によれば、小口面の耐火被覆の形状を改善することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、設備材の大きさの向上を図ることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0016】
以下の実施形態では、本発明の設備材の設置方法を、鉄骨構造建物の鉄骨梁(構造部材に相当)に適用した例について説明する。
【0017】
===実施形態===
<<鉄骨梁の構成について>>
図1は、本実施形態に用いられている鉄骨梁10の構成を示す正面図である。
図2は、
図1のA−A断面図である。以下の説明においては、鉄骨梁10を
図1のように正面から見たときに、上下となる方向を上下方向(鉛直方向)、左右となる方向を長手方向、
図1において紙面に対し直交しフランジの幅方向となる方向を単に幅方向として示す。
【0018】
図1、
図2に示すように、本実施形態の鉄骨梁10は、スラブ20の下に設けられており、上下に間隔を隔てるとともに互いに対向する板状の上フランジ12及び下フランジ14と、上フランジ12と下フランジ14とを、幅方向の中央にて上下に繋ぐ板状のウェブ16とが一体をなすH形鋼である。ウェブ16には、空調用または換気用のダクトや配管用のスリーブ管等の設備材を挿通するために、幅方向、すなわちウェブ16の一方側の表面16aから他方側の表面16bまで貫通する貫通孔18が設けられている。つまり、鉄骨梁10における幅方向(ウェブ16の板厚方向)が、貫通孔18の貫通方向に相当する。図に示すように、鉄骨梁10の高さ(所謂梁せい)をHとし、貫通孔18の直径をhとする。
【0019】
<<耐火被覆について>>
上述したような鉄骨梁10において、耐火性能を向上させるため、表面を耐火被覆材(例えば吹付けロックウール)で規定の厚さに被覆することが建築基準法で定められている。例えば、吹付けロックウール(以下、単にロックウールという)の場合には、1時間耐火の場合25mm、2時間耐火の場合45mm、3時間耐火の場合60mmの厚さにて被覆することが規定されている。
【0020】
しかしながら、貫通孔18の小口面18aにも上述した厚さの耐火被覆を設けると、貫通孔18の有効径が小さくなってしまう。貫通孔18の径を大きくすると、断面欠損による構造性能の低下が大きくなり、補強材を設けるなどの対策が必要となる。
【0021】
そこで、本実施形態では、貫通孔18の小口面18aの耐火被覆の被覆厚(第一被覆厚に相当)を、小口面18a以外の耐火被覆の被覆厚(第二被覆厚に相当)よりも薄く形成するようにしている。これにより、貫通孔18の径を大きくすることなく貫通孔18の有効径を拡大し、貫通孔18に設置する設備材(後述する設備配管40)の大きさの向上を図っている。
【0022】
<<施工方法について>>
図3は、鉄骨梁及び設備材の施工方法の概略フロー図である。
【0023】
まず、
図1、
図2に示したような貫通孔18を有する鉄骨梁10を工場にて製作する(S10)。そして、製作した鉄骨梁10を建設現場へ運搬し(S20)、建設現場にて鉄骨梁10を柱等とともに建て方を行なう(S30)。その後、
図1、
図2のように鉄骨梁10の上にスラブ20を設ける。
【0024】
その後、鉄骨梁10の表面にロックウールなどの耐火被覆材(後述する耐火被覆30)を形成し、貫通孔18に設備材(後述する設備配管40)を設置する(S40)。
【0025】
<耐火被覆形成及び設備材の設置について>
(比較例)
図4は、比較例における耐火被覆形成及び設備材の設置方法を示すフロー図であり、
図5A〜
図5Eは、比較例における耐火被覆形成及び設備材の設置方法の工程断面図である。なお、
図5A〜
図5Eにおいて左側の図は幅方向に沿った断面図であり、右側の図は長手方向に沿った断面図(鉄骨梁10の幅方向の中心位置の断面)である。
【0026】
まず、
図5Aのように設けられた鉄骨梁10に、幅方向の一方側(ウェブ16の表面16a側)から耐火被覆30(ロックウール)を吹付け施工する(
図4:S401)。これにより、
図5Bに示すように、鉄骨梁10の表面16a側(幅方向の一方側)に、耐火被覆30が形成される。なお、ここでは、耐火被覆30を1時間耐火の25mmの被覆厚で形成することとする。
【0027】
次に、幅方向の他方側(ウェブ16の表面16b側)から鉄骨梁10に耐火被覆30を吹付け施工する(
図4:S402)。これにより、
図5Cに示すように、鉄骨梁10の表面16b側(幅方向の他方側)にも耐火被覆30が形成される。貫通孔18の小口面18aには、ステップS401とステップS402によって、他の部位と同等の厚さの耐火被覆30が形成される。なお、必要に応じて、貫通孔18の小口面18aに対して、垂直に耐火被覆30の吹付けを行なう。
【0028】
このようにして鉄骨梁10に耐火被覆30を施した後、一般部(ウェブ16、上フランジ12、下フランジ14)、及び、貫通孔18の小口面18aの耐火被覆30を、必要に応じて、鏝押さえ・整形する(
図4:S403)。
【0029】
その後、
図5Dに示すように、耐火被覆30形成後の貫通孔18の開口径(有効径:以下ではDとする)を計測して確認する(
図4:S404)。これにより、小口面18aの耐火被覆30の被覆厚を算出することができる。すなわち、耐火被覆30の形成前の貫通孔18の径はh(
図1、
図2参照)であるので、小口面18aの耐火被覆30の被覆厚をdとすると、
d=(h−D)/2・・・・(式1)
となる。そして、算出した被覆厚dが規定厚さ(例えば25mm)以上であることを確認する。
【0030】
最後に、
図5Eに示すように、貫通孔18に設備配管40´を挿入して設備配管40´を設置する(S405)。
【0031】
この比較例の場合、貫通孔18の小口面18aにも他の部位とほぼ同じ厚さの耐火被覆30が形成されている。これにより貫通孔18の有効径が小さくなり、設備配管40´の大きさ(径)も小さくなってしまう。
【0032】
また、比較例における耐火被覆30の被覆厚の算出(式1)は、貫通孔18の小口面18aに均一な厚さで耐火被覆30が施されることを前提としている。このため、例えば、貫通孔18の中心位置と、耐火被覆30形成後の開口の中心位置がずれているような場合、式1の結果から被覆厚dが規定厚さ以上であっても、規定厚さよりも薄い部分が存在するおそれがある。よって、被覆厚を確実に管理できないおそれがある。
【0033】
(本実施形態)
図6は、本実施形態における耐火被覆形成及び設備材の設置方法を示すフロー図であり、
図7A〜
図7Eは、本実施形態における耐火被覆形成及び設備材の設置方法の工程断面図である。なお、
図7A〜
図7Eにおいて左側の図は幅方向に沿った断面図であり、右側の図は長手方向に沿った断面図(鉄骨梁10の幅方向の中心部分の断面)である。
【0034】
まず、
図7Aのように設けられた鉄骨梁10に、幅方向(貫通方向)の一方側(ウェブ16の表面16a側)から耐火被覆30(ロックウール)を吹付け施工する(
図6:S41)。これにより、
図7Bに示すように、鉄骨梁10の表面16a側(幅方向の一方側)に、耐火被覆30が形成される。
【0035】
ここで、
図7Cに示すように、ステップS41によって貫通孔18の小口面18aに付着した耐火被覆30を作業者の手で撤去する(
図6:S42)。なお、この耐火被覆30の撤去は、作業者の手には限られず、道具などを使って行ってもよい。
【0036】
次に、幅方向(貫通方向)の他方側(ウェブ16の表面16b側)から鉄骨梁10に耐火被覆30を吹付け施工する(
図6:S43)。これにより、
図7Dに示すように、鉄骨梁10の表面16b側(幅方向の他方側)にも耐火被覆30が形成される。なお、ステップS42において、貫通孔18の小口面18aの耐火被覆30を撤去しているため、ステップS43後の小口面18aの耐火被覆30の被覆厚は、比較例のステップS402後の小口面18aの耐火被覆30の被覆厚よりも小さく(薄く)なる。つまり、貫通孔18の小口面18aの耐火被覆30の被覆厚は、小口面18a以外の部位の被覆厚よりも薄く形成される。ただし、この小口面18aの耐火被覆30の被覆厚は、耐火実験により耐火性能を確保可能であることが確認された厚さ(例えば10mm)以上とする。これにより、耐火性能を確保しつつ被覆厚を小さく設定することができる。
【0037】
耐火被覆30の形成後、貫通孔18の小口面18aの耐火被覆30を、鏝(コテ)押さえ・整形する(
図6:S44)。これにより、小口面の耐火被覆30の形状を改善することができる。必要に応じて、一般部(ウェブ16、上フランジ12、下フランジ14)も、鏝押さえ・整形する。
【0038】
その後、貫通孔18の小口面18aの耐火被覆30に厚さ確認用の確認具32を植え込む(
図6:S45)。本実施形態では、
図7Eに示すように、貫通孔18の円周を3分割した箇所(3箇所)に確認具32を植え込んでいる。なお、
図7Eにおいて確認具32(黒色の三角形)は、植え込みの様子をイメージしたものであり、確認具32の構成(形状)を表すものではない。確認具32は、耐火実験により耐火性能を確保可能であることが確認された長さ(ここでは10mm)の貫入部(例えばピン形状の部位)を有している。この確認具32の貫入部を小口面18aの耐火被覆30に貫入させて、先端が小口面18aに当接しなければ、耐火被覆30の被覆厚が10mmよりも大きいことを確認できる。確認具32を植え込む位置は3箇所には限られず、2箇所でもよいし、4箇所以上であってもよい。確認箇所が多いほど(確認具を植え込む箇所が多いほど)被覆厚を精度よく管理することができるため、少なくとも3箇所以上であることが望ましい。これにより、比較例よりも被覆厚を精度よく管理することができる。
【0039】
また、一般部(ウェブ16、上フランジ12、下フランジ14)にも確認具32と同様の確認具(ただし貫入部の長さが25mmのもの)を植え込んでもよい。これにより、小口面18aの耐火被覆30の被覆厚を10mmとして管理でき、小口面18a以外の耐火被覆30の被覆厚を25mmとして管理でき、小口面18aと小口面18a以外の部位の耐火被覆30の被覆厚をそれぞれ確認することができる。
【0040】
最後に、
図7Fに示すように、貫通孔18に設備配管40を挿入して(貫通させて)設備配管40を設置する(S46)。なお、
図7Fでは、確認具32の記載を省略しているが、設備配管40の設置は確認具32を耐火被覆30に残置したまま行う。このように、確認具32を残置することにより、施工完了後も目視にて容易に所定の被覆厚(ここでは10mm)が確保されていることを確認できる。
【0041】
以上、説明したように、本実施形態では、貫通孔18が設けられた鉄骨梁10に、幅方向の一方側(表面16a側)から耐火被覆30(ロックウール)を吹付け施工するステップS41(第一耐火被覆工程)と、貫通孔18の小口面18aに形成された耐火被覆30を撤去するステップS42(撤去工程)と、幅方向の他方側(表面16b側)から耐火被覆30(ロックウール)を吹付け施工するステップS43(第二耐火被覆工程)と、貫通孔18に設備配管40を貫通させて配置するステップS46(設備配置工程)を有している。
【0042】
これにより、比較例よりも貫通孔18の小口面18aにおける耐火被覆30の被覆厚を薄くすることができ、比較例よりも貫通孔18の有効径を拡大することができる。よって、貫通孔18に設置する設備配管40の大きさ(径)を、比較例の設備配管40´の大きさ(径)よりも大きくすることが可能である。
【0043】
===その他の実施形態について===
上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである
<鉄骨梁について>
前述の実施形態では、構造部材を鉄骨梁10としたが、これに限らず、表面を耐火被覆しなければならず、且つ、貫通孔を有する構造部材であれば構わない。例えば、ステンレスやアルミニウム合金などの金属材料を用いた他の耐火被覆構造部材にも適用可能である。また、例えば、柱にも適用可能である。また、前述の実施形態では、構造部材(鉄骨梁10)の断面形状をH形としたが、これに限らず、I形やT形であってもよい。
【0044】
<耐火被覆材について>
前述の実施形態では、耐火被覆30を吹付ロックウールとしたが、これに限らず、セラミック系や石膏系などの他の耐火被覆材料であってもよい。
【0045】
<耐火被覆材の施工方法について>
前述の実施形態では、鉄骨梁10の一方側(表面16b側)に耐火被覆30を吹付け施工した後、貫通孔18の小口面18aに付着した耐火被覆30を撤去していたが、これには限られない。例えば、比較例(
図4)のステップ402において、小口面18aに対して垂直に吹付けを行うことで小口面18aの被覆厚を他の部位と同じになるように調整している場合、この吹付けを省略するようにしてもよい。すなわち、鉄骨梁10の幅方向の一方側からと他方側からの2回の耐火被覆30の吹付けによって小口面18aに吹付けられる耐火被覆30の量(単位被覆面積当たり)が、各吹付けによって鉄骨梁10の片面に吹付けられる耐火被覆30の量(単位被覆面積当たり)よりも少なくなるようにすればよい。なお、上記2回の吹付けにおいて、耐火被覆30は、小口面18a以外には垂直に当たり、小口面18aには斜めに当たるので、自ずと小口面18aに吹付けられる耐火被覆30の量は(他の部位よりも)少なくなる。このようにすることで、小口面18aの耐火被覆30の被覆厚を、簡易に、他の部位(小口面18a以外の部位)よりも薄く形成することができる。
【0046】
<貫通孔について>
前述の実施形態では、貫通孔18の形状は円形であったがこれには限られない。例えば、楕円であってもよいし、多角形であってもよい。また、前述の実施形態では鉄骨梁10に形成された貫通孔18の数は1つであったがこれに限らず、貫通孔18が複数形成されていてもよい。