(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第一実施形態]
本発明の第一実施形態に係る接合方法について図面を参照して詳細に説明する。本実施形態に係る接合方法では、突合せ工程と、溶接工程と、配置工程と、摩擦攪拌工程と、除去工程と、を行う。なお、以下の説明における「表面」とは、「裏面」の反対側の面という意味である。
【0016】
突合せ工程は、
図1に示すように、第一金属部材1と第二金属部材2とを突き合わせる工程である。第一金属部材1及び第二金属部材2は、金属製の板状部材である。第一金属部材1及び第二金属部材2の材料は、摩擦攪拌可能な金属であれば特に制限されないが、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、チタン、チタン合金、マグネシウム、マグネシウム合金等から適宜選択すればよい。
第一金属部材1及び第二金属部材2の板厚は同等になっている。第一金属部材1及び第二金属部材2の板厚は適宜設定すればよい。
【0017】
突合せ工程では、第一金属部材1の端面1aと、第二金属部材2の端面2aとを突き合わせて突合せ部J1を形成する。第一金属部材1の表面1bと、第二金属部材2の表面2bとは面一になる。
【0018】
さらに、第一金属部材1及び第二金属部材2の表面1b,2bが上側となるようにして、第一金属部材1及び第二金属部材2の架台Tの上面に載置し、第一金属部材1及び第二金属部材2を治具(図示省略)を用いて架台Tに移動不能に拘束する。
【0019】
溶接工程は、第一金属部材1と第二金属部材2との突合せ部J1を表面側から溶接する工程である。溶接工程において、溶接の種類は特に制限されないが、例えば、MIG溶接、TIG溶接等のアーク溶接やレーザー溶接で行うことができる。
溶接工程では、溶接トーチを突合せ部J1の表面側に近接させ、突合せ部J1に沿って溶接トーチを相対移動させることで、突合せ部J1の表面側を溶接する。
これにより、突合せ部J1の表面側に溶接金属W2が形成される。溶接金属W2は、突合せ部J1の内部に形成されるとともに、突合せ部J1の表面に肉盛りされる。
【0020】
溶接工程後に、第一金属部材1及び第二金属部材2を上下方向にひっくり返して架台Tの上面に載置し、第一金属部材1及び第二金属部材2を治具(図示省略)を用いて架台Tに移動不能に拘束する。このように、第一金属部材1及び第二金属部材2を上下反転させることで、第一金属部材1及び第二金属部材2の裏面1c,2cが上側に配置される。
第一実施形態の架台Tには、直線状の凹溝T1が形成されている。溶接工程では、凹溝T1の直上に突合せ部J1の表側が配置されるように、架台Tに対して第一金属部材1及び第二金属部材2を配置する。
【0021】
なお、溶接工程後に、接合部の温度が低下すると、
図2に示すように、溶接金属W2が収縮するため、第一金属部材1及び第二金属部材2の接合部には、溶接金属W2の反対側(裏面1c,2c側)に向けて凸形状となるように歪みが生じる。すなわち、第一金属部材1及び第二金属部材2の接合部には、溶接金属W2側が窪むように歪みが生じる。このように、溶接工程によって接合部に熱歪みが付与されている。
【0022】
配置工程は、第一金属部材1又は第二金属部材2に補助部材10を配置する工程である。補助部材10は金属製の板状部材である。補助部材10は摩擦攪拌可能な金属であれば特に制限されないが、本実施形態では第一金属部材1及び第二金属部材2と同じ材料になっている。
補助部材10の板厚は、後記する摩擦攪拌工程後の塑性化領域W1(
図7参照)が金属不足にならないように適宜設定する。本実施形態では、補助部材10の板厚は第一金属部材1よりも薄く設定している。なお、補助部材10は本実施形態では板状としているが、他の形状であってもよい。
【0023】
配置工程では、補助部材10の裏面10cと第二金属部材2の裏面2cとを面接触させる。補助部材10は、第二金属部材2(又は第一金属部材1)のみと面接触するように配置する。本実施形態では、補助部材10の端面10aと第二金属部材2の端面2aとが面一となるように配置する。
【0024】
また、第一金属部材1、第二金属部材2及び補助部材10を治具(図示省略)を用いて架台Tに移動不能に拘束する。このとき、第一金属部材1及び第二金属部材2は治具によって架台Tの上面に押さえ付けられるため、第一金属部材1と第二金属部材2とは架台Tの上面に平坦に固定される。
【0025】
また、第一実施形態の架台Tには、直線状の凹溝T1が形成されている。配置工程では、凹溝T1の直上に突合せ部J1の表側が配置されるように、架台Tに対して第一金属部材1及び第二金属部材2を配置する。これにより、突合せ部J1の表側に形成された溶接金属W2の肉盛り部は、凹溝T1内に入り込むため、溶接金属W2の肉盛り部が架台Tの上面に当たるのを防ぐことができる。したがって、架台Tの上面に第一金属部材1及び第二金属部材2を平坦に配置することができる。
なお、架台Tに凹溝T1を設けることなく、架台Tの上面に複数の板材を間隔を空けて配置し、板材同士の間に第一金属部材1及び第二金属部材2を載置してもよい。この構成では、板材同士の間に溶接金属W2を配置し、板材同士の間に溶接金属W2の肉盛り部を入り込ませることができる。
また、溶接工程後に溶接金属W2の肉盛り部を切除してもよい。この構成では、架台Tの上面に凹溝T1を形成しなくてもよい。
【0026】
摩擦攪拌工程は、
図4に示すように、接合用回転ツールFを用いて第一金属部材1と第二金属部材2との突合せ部J1を裏面側から摩擦攪拌によって接合する工程である。接合用回転ツールFは、連結部F1と、攪拌ピンF2とで構成されている。接合用回転ツールFは、特許請求の範囲の「回転ツール」に相当する。接合用回転ツールFは、例えば工具鋼で形成されている。連結部F1は、摩擦攪拌装置の回転軸(図示省略)に連結される部位である。連結部F1は円柱状を呈している。
【0027】
攪拌ピンF2は、連結部F1から垂下しており、連結部F1と同軸になっている。攪拌ピンF2は連結部F1から離間するにつれて先細りになっている。攪拌ピンF2の外周面には螺旋溝が刻設されている。本実施形態では、接合用回転ツールFを左回転させるため、螺旋溝は、基端から先端に向かうにつれて右回りに形成されている。言い換えると、螺旋溝は、螺旋溝を基端から先端に向けてなぞると上から見て右回りに形成されている。
【0028】
なお、接合用回転ツールFを右回転させる場合は、螺旋溝を基端から先端に向かうにつれて左回りに形成することが好ましい。言い換えると、この場合の螺旋溝は、螺旋溝を基端から先端に向けてなぞると上から見て左回りに形成されている。螺旋溝をこのように設定することで、摩擦攪拌の際に塑性流動化した金属が螺旋溝によって攪拌ピンF2の先端側に導かれる。これにより、被接合金属部材(第一金属部材1、第二金属部材2及び補助部材10)の外部に溢れ出る金属の量を少なくすることができる。螺旋溝は省略してもよい。
【0029】
接合用回転ツールFは、マシニングセンタ等の摩擦攪拌装置に取り付けてもよいが、例えば、先端にスピンドルユニット等の回転手段を備えたアームロボットに取り付けてもよい。
【0030】
摩擦攪拌工程では、補助部材10の表面10bから突合せ部J1に左回転させた攪拌ピンF2のみを挿入し、被接合金属部材と連結部F1とは離間させつつ相対移動させる。言い換えると、攪拌ピンF2の基端部は露出させた状態で摩擦攪拌接合を行う。
そして、第一金属部材1、第二金属部材2及び補助部材10と攪拌ピンF2とを接触させた状態で、突合せ部J1に沿って
図4の手前側から奥側に向けて接合用回転ツールFを相対移動させる。本実施形態では、接合用回転ツールFの進行方向左側に補助部材10が位置するように接合用回転ツールFの進行方向を設定する。
【0031】
接合用回転ツールFの回転方向及び進行方向は前記したものに限定されるものではなく適宜設定すればよい。例えば、接合用回転ツールFの進行方向左側に補助部材10を配置しつつ、接合用回転ツールFを右回転させてもよい。もしくは、接合用回転ツールFの進行方向右側に補助部材10を配置しつつ、接合用回転ツールFを左右いずれかに回転させてもよい。接合用回転ツールFの回転方向等の条件と補助部材10の好ましい位置関係については後記する。
【0032】
攪拌ピンF2の挿入深さは、攪拌ピンF2と突合せ部J1とを接触させつつ、第一金属部材1及び第二金属部材2の板厚等に応じて適宜設定すればよい。これにより、突合せ部J1が摩擦攪拌接合される。接合用回転ツールFの移動軌跡には塑性化領域W1が形成される。摩擦攪拌工程後は、
図5に示すように、補助部材10の端部にバリVが形成される。
【0033】
除去工程は、
図6に示すように、補助部材10を第二金属部材2から除去する工程である。除去工程では、例えば手作業により、補助部材10を第二金属部材2から離間する方向に折り曲げて第二金属部材2から除去する。これにより、
図7に示すように、第一金属部材1と第二金属部材2とが接合される。
【0034】
なお、摩擦攪拌工程後に、接合部の温度が低下すると、塑性化領域W1の金属が収縮するため、第一金属部材1及び第二金属部材2の接合部には、塑性化領域W1側の反対側に向けて凸形状となるように歪みが生じる。すなわち、第一金属部材1及び第二金属部材2の接合部には、塑性化領域W1側が窪むように歪みが生じる。
第一実施形態の接合方法では、摩擦攪拌工程の前に、溶接工程によって接合部に溶接金属W2の反対側(裏面1c,2c側)に向けて凸形状となるように熱歪みが付与されている。したがって、摩擦攪拌工程において接合部に歪みが生じることで、第一金属部材1と第二金属部材2とは平坦になる。
【0035】
また、接合部の温度が低下して、塑性化領域W1の金属が収縮すると、接合部において塑性化領域W1の反対側(裏面側)となる部位に隙間が形成され、接合部に溶接欠陥(Kissing Bond)が形成される虞がある。しかしながら、第一実施形態の接合方法では、摩擦攪拌工程の前に、接合部の裏面側が溶接されているため、接合部に溶接欠陥が生じるのを防ぐことができる。
【0036】
また、第一実施形態の摩擦攪拌工程では、溶接工程において突合せ部J1の表面側に形成された溶接金属W2と、摩擦攪拌工程において突合せ部J1の裏面側に形成された塑性化領域W1とが接触するように、攪拌ピンF2の挿入深さが設定されている。
【0037】
以上説明した第一実施形態に係る接合方法によれば、
図5に示すように、第一金属部材1と第二金属部材2とが接合されるとともに、第一金属部材1及び第二金属部材2に加え、補助部材10も同時に摩擦攪拌接合することにより、接合部(塑性化領域W1)の金属不足を防ぐことができる。また、第一実施形態によれば、第一金属部材1及び第二金属部材2の両方ではなく、片側のみに補助部材10を配置するだけで金属不足を防ぐことができる。
【0038】
また、第一実施形態では、
図1に示すように、表面側から突合せ部J1に溶接工程を行った後に、
図4に示すように、裏面側から突合せ部J1に摩擦攪拌工程を行うことで、摩擦攪拌工程前に、溶接工程によって接合部に予め熱歪みを付与している。これにより、接合された第一金属部材1及び第二金属部材2が摩擦攪拌工程後に屈曲するのを防ぐとともに、水密性及び気密性に優れた接合部を形成することができる。また、第一金属部材1及び第二金属部材2の接合強度を高めることができる。
【0039】
また、第一実施形態では、
図6に示すように、摩擦攪拌工程によって補助部材10にバリVが形成されるが、除去工程において補助部材10ごと取り除くことができる。これにより、バリを除去する作業を容易に行うことができる。
図5に示すように、摩擦攪拌工程後は補助部材10の端面が突合せ部J1に向かうにつれて板厚が薄くなるように傾斜している。補助部材10は除去装置等を用いてもよいが、本実施形態では手作業で容易に補助部材10を取り除くことができる。
【0040】
ここで、第一実施形態に係る接合方法では、補助部材10を第一金属部材1及び第二金属部材2よりも薄く設定しているため、従来のようにショルダ部を金属部材に押し込みながら摩擦攪拌を行うと、ショルダ部と補助部材10との接触により補助部材10が外部に飛ばされてしまい接合部の金属不足を補うことができない。しかし、第一実施形態では、接合用回転ツールFの攪拌ピンF2のみを第一金属部材1、第二金属部材2及び補助部材10に接触させつつ摩擦攪拌を行うため、補助部材10が外部に飛ばされることなく接合部の金属不足を補うことができる。また、ショルダ部を接触させる場合に比べて摩擦攪拌装置に作用する負荷を低減することができる。
【0041】
第一実施形態では、
図4に示すように、接合用回転ツールFのシアー側(advancing side:回転ツールの外周における接線速度に回転ツールの移動速度が加算される側)が他方側(接合中心線Xよりも右側)となるように接合用回転ツールFの移動方向と回転方向を設定している。接合用回転ツールFの回転方向及び進行方向は前記したものに限定されるものではなく適宜設定すればよい。
【0042】
例えば、接合用回転ツールFの回転速度が遅い場合では、フロー側(retreating side:回転ツールの外周における接線速度から回転ツールの移動速度が減算される側)に比べてシアー側の方が塑性流動材の温度が上昇しやすくなるため、塑性化領域W1外のシアー側にバリVが多く発生する傾向にある。
一方、例えば、接合用回転ツールFの回転速度が速い場合、シアー側の方が塑性流動材の温度が上昇するものの、回転速度が速い分、塑性化領域W1外のフロー側にバリVが多く発生する傾向にある。
【0043】
第一実施形態では、接合用回転ツールFの回転速度を速く設定しているため、
図5に示すように、塑性化領域W1外のフロー側にバリVが多く発生する傾向にある。つまり、補助部材10側にバリVを集約させることができる。また、接合用回転ツールFの回転速度を速く設定することにより、接合用回転ツールFの移動速度(送り速度)を高めることができる。これにより、接合サイクルを短くすることができる。
【0044】
摩擦攪拌工程の際に、
図4に示すように、接合用回転ツールFの進行方向のどちら側にバリVが発生するかは接合条件によって異なる。当該接合条件とは、接合用回転ツールFの回転速度、回転方向、移動速度(送り速度)、攪拌ピンF2の傾斜角度(テーパー角度)、第一金属部材1、第二金属部材2及び補助部材10の材質、補助部材10の厚さ等の各要素とこれらの要素の組合せで決定される。接合条件に応じて、バリVが発生する側又はバリVが多く発生する側が、接合中心線Xに対して補助部材10が第一金属部材1及び第二金属部材2と多く面接触している側となるように設定すれば、バリを除去する作業を容易に行うことができるため好ましい。
【0045】
[第二実施形態]
次に、第二実施形態に係る接合方法について説明する。第二実施形態に係る接合方法は、
図8に示すように、第一金属部材1及び第二金属部材2の両方と接触するように補助部材10を配置する点で第一実施形態と相違する。また、接合用回転ツールFの回転方向も第一実施形態と相違する。第二実施形態に係る接合方法では、第一実施形態と相違する部分を中心に説明する。
【0046】
第二実施形態に係る接合方法は、突合せ工程と、溶接工程と、配置工程と、摩擦攪拌工程と、除去工程とを行う。第二実施形態の突合せ工程及び溶接工程は、第一実施形態と同じであるため説明を省略する。
【0047】
溶接工程において突合せ部J1を表面側から溶接した後に、第一金属部材1及び第二金属部材2を上下方向にひっくり返して架台Tの上面に拘束する。なお、溶接工程後に、接合部の温度が低下すると、接合部には、溶接金属W2の反対側(裏面1c,2c側)に向けて凸形状となるように歪みが生じる。このように、溶接工程によって接合部に熱歪みが付与されている。
【0048】
第二実施形態の配置工程は、
図8に示すように、第一金属部材1の裏面1c及び第二金属部材2の裏面2cと補助部材10の裏面10cとを面接触させる工程である。補助部材10の板厚は、後記する摩擦攪拌工程後の塑性化領域W1が金属不足にならないように適宜設定する。
第二実施形態の配置工程では、補助部材10の中央が概ね突合せ部J1に位置するように配置する。
【0049】
摩擦攪拌工程は、
図9に示すように、接合用回転ツールFを用いて第一金属部材1と第二金属部材2との突合せ部J1を摩擦攪拌によって接合する工程である。
第二実施形態では、接合用回転ツールFを右回転させるため、攪拌ピンF2の螺旋溝は基端から先端に向かうにつれて左回りに形成されている。
【0050】
第二実施形態の摩擦攪拌工程では、右回転させた攪拌ピンF2を補助部材10の表面10bから挿入し、突合せ部J1に達するように攪拌ピンF2の挿入深さを設定する。
第二実施形態の摩擦攪拌工程では、突合せ部J1に右回転させた攪拌ピンF2のみを挿入し、被接合金属部材と連結部F1とは離間させつつ移動させる。言い換えると、攪拌ピンF2の基端部は露出させた状態で摩擦攪拌接合を行う。
そして、第一金属部材1、第二金属部材2及び補助部材10と攪拌ピンF2とを接触させた状態で、突合せ部J1に沿って接合用回転ツールFを
図9の手前側から奥側に向けて相対移動させる。これにより、突合せ部J1が摩擦攪拌接合される。接合用回転ツールFの移動軌跡には塑性化領域W1が形成される。
なお、第二実施形態では、接合用回転ツールFを高速回転しているため、バリVはシアー側に比べてフロー側の方に多く発生する傾向にある。
【0051】
除去工程は、
図10に示すように、摩擦攪拌工程によって分断された補助部材10を第一金属部材1及び第二金属部材2から除去する工程である。除去工程では、補助部材10,10を第一金属部材1及び第二金属部材2から離間する方向にそれぞれ折り曲げて除去する。
【0052】
なお、摩擦攪拌工程後に、接合部に歪みが生じるが、摩擦攪拌工程の前に、溶接工程によって接合部に予め熱歪みが付与されているため、
図11に示すように、第一金属部材1と第二金属部材2とは平坦になる。また、摩擦攪拌工程において、突合せ部J1の表面側を摩擦攪拌する前に、突合せ部J1の裏面側が溶接されているため、接合部に溶接欠陥が生じるのを防ぐことができる。
【0053】
以上説明した第二実施形態に係る接合方法によれば、
図10に示すように、第一金属部材1と第二金属部材2とが接合されるとともに、第一金属部材1及び第二金属部材2に加え、補助部材10も同時に摩擦攪拌接合することにより、接合部(塑性化領域W1)の金属不足を防ぐことができる。また、第一金属部材1及び第二金属部材2の両方に跨るように補助部材10を配置するため、接合部の金属不足をより確実に防ぐことができるとともに、金属をバランスよく補充することができる。
【0054】
また、第二実施形態では、
図8に示すように、表面側から突合せ部J1に溶接工程を行った後に、
図9に示すように、裏面側から突合せ部J1に摩擦攪拌工程を行うことで、摩擦攪拌工程前に、溶接工程によって接合部に予め熱歪みを付与している。これにより、接合された第一金属部材1及び第二金属部材2が摩擦攪拌工程後に屈曲するのを防ぐとともに、水密性及び気密性に優れた接合部を形成することができる。また、第一金属部材1及び第二金属部材2の接合強度を高めることができる。
【0055】
また、第二実施形態によれば、
図10に示すように、摩擦攪拌工程によって分断された補助部材10にそれぞれバリVが形成されるが、除去工程において補助部材10ごと取り除くことができる。これにより、バリVを除去する作業を容易に行うことができる。
【0056】
[第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態に係る接合方法について説明する。
図12に示すように、第三実施形態に係る接合方法では、配置工程において補助部材10を第一金属部材1及び第二金属部材2の両方に配置しつつ、補助部材10に対する第一金属部材1と第二金属部材2との接触割合を変更する点で第一実施形態と相違する。また、接合用回転ツールFの回転方向も第一実施形態と相違する。第三実施形態に係る接合方法では、第一実施形態と相違する点を中心に説明する。
【0057】
第三実施形態に係る接合方法は、突合せ工程と、溶接工程と、配置工程と、摩擦攪拌工程と、除去工程とを行う。第三実施形態の突合せ工程及び溶接工程は、第一実施形態と同じであるため説明を省略する。
【0058】
溶接工程において突合せ部J1を表面側から溶接した後に、第一金属部材1及び第二金属部材2を上下方向にひっくり返して架台Tの上面に拘束する。なお、溶接工程後に、接合部の温度が低下すると、接合部には、溶接金属W2の反対側(裏面1c,2c側)に向けて凸形状となるように歪みが生じる。このように、溶接工程によって接合部に熱歪みが付与されている。
【0059】
第三実施形態の配置工程は、
図12に示すように、第一金属部材1の裏面1c及び第二金属部材2の裏面2cと補助部材10の裏面10cとを面接触させる工程である。
第三実施形態の配置工程では、補助部材10の9割程度を第一金属部材1に配置し、残りの1割程度を第二金属部材2に配置する。つまり、突合せ部J1に対して補助部材10がわずかに第二金属部材2側に突出するように配置する。
第三実施形態において、補助部材10の配置位置は、補助部材10が第一金属部材1及び第二金属部材2の両方に面接触するように配置するとともに、後記する除去工程を行った際に第二金属部材2側(補助部材10との接触面積が少ない側)に補助部材10が残存しないように調節する。
【0060】
摩擦攪拌工程は、
図13に示すように、接合用回転ツールFを用いて第一金属部材1と第二金属部材2との突合せ部J1を摩擦攪拌によって接合する工程である。
第三実施形態では、接合用回転ツールFを右回転させるため、攪拌ピンF2の螺旋溝は基端から先端に向かうにつれて左回りに形成されている。
【0061】
第三実施形態の摩擦攪拌工程では、右回転させた攪拌ピンF2を補助部材10の表面10bから挿入し、突合せ部J1に達するように攪拌ピンF2の挿入深さを設定する。
第三実施形態の摩擦攪拌工程では、突合せ部J1に右回転させた攪拌ピンF2のみを挿入し、被接合金属部材と連結部F1とは離間させつつ移動させる。言い換えると、攪拌ピンF2の基端部は露出させた状態で摩擦攪拌接合を行う。
そして、第一金属部材1、第二金属部材2及び補助部材10と攪拌ピンF2とを接触させた状態で、突合せ部J1に沿って接合用回転ツールFを
図13の手前側から奥側に向けて相対移動させる。これにより、突合せ部J1が摩擦攪拌接合される。接合用回転ツールFの移動軌跡には塑性化領域W1が形成される。
なお、第三実施形態では、接合用回転ツールFの進行方向右側に補助部材10が位置するように接合用回転ツールFの進行方向を設定する。第三実施形態では、接合用回転ツールFを高速回転しているため、バリVはシアー側に比べてフロー側の方に多く発生する傾向にある。そして、第三実施形態では、第一金属部材1側がフロー側となるため、補助部材10に多くのバリVが発生する。
【0062】
除去工程は、
図14に示すように、補助部材10を第一金属部材1から除去する工程である。除去工程では、例えば手作業により、補助部材10を第一金属部材1から離間する方向に折り曲げて第一金属部材1から除去する。
【0063】
なお、摩擦攪拌工程後に、接合部に歪みが生じるが、摩擦攪拌工程の前に、溶接工程によって接合部に予め熱歪みが付与されているため、
図15に示すように、第一金属部材1と第二金属部材2とは平坦になる。また、摩擦攪拌工程において、突合せ部J1の表面側を摩擦攪拌する前に、突合せ部J1の裏面側が溶接されているため、接合部に溶接欠陥が生じるのを防ぐことができる。
【0064】
以上説明した第三実施形態に係る接合方法によれば、第一金属部材1と第二金属部材2とが平面状に接合されるとともに、第一金属部材1及び第二金属部材2に加え、補助部材10も同時に摩擦攪拌接合することにより、接合部(塑性化領域W1)の金属不足を防ぐことができる。
【0065】
また、第三実施形態では、
図12に示すように、表面側から突合せ部J1に溶接工程を行った後に、
図13に示すように、裏面側から突合せ部J1に摩擦攪拌工程を行うことで、摩擦攪拌工程前に、溶接工程によって接合部に予め熱歪みを付与している。これにより、接合された第一金属部材1及び第二金属部材2が摩擦攪拌工程後に屈曲するのを防ぐとともに、水密性及び気密性に優れた接合部を形成することができる。また、第一金属部材1及び第二金属部材2の接合強度を高めることができる。
【0066】
また、第三実施形態の接合条件によれば、
図13に示すように、接合用回転ツールFの回転速度を速く設定しているため、フロー側にバリVが多く発生する傾向にある。つまり、第三実施形態ではバリVが補助部材10のうち第一金属部材1側に多く形成されるように接合用回転ツールFの回転方向及び進行方向等(接合条件)を設定している。
これにより、補助部材10に形成されたバリVは、除去工程において補助部材10ごと除去されるため、バリを除去する作業をより容易に行うことができる。
また、摩擦攪拌工程後は、補助部材10の端面が突合せ部J1に向かうにつれて板厚が薄くなるように傾斜している。補助部材10は除去装置等を用いてもよいが、第三実施形態では、手作業で容易に補助部材10を容易に取り除くことができる。
【0067】
ここで、前記した第二実施形態の除去工程では、突合せ部J1を挟んで両側にある補助部材10,10を除去する必要がある。しかし、第三実施形態では摩擦攪拌工程後に第二金属部材2側(補助部材10との接触面積が少ない側)に補助部材10が残存しないように補助部材10の配置位置を調節しているため、除去工程では片側の補助部材10を除去するだけでよい。これにより除去工程の作業手間を少なくすることができる。また、配置工程では、突合せ部J1を挟んで第二金属部材2側(他方側)にわずかに補助部材10を突出させる分、接合部の金属不足をバランス良く、かつ、より確実に防ぐことができる。