特許第6756258号(P6756258)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6756258
(24)【登録日】2020年8月31日
(45)【発行日】2020年9月16日
(54)【発明の名称】蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01G 11/26 20130101AFI20200907BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20200907BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20200907BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20200907BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20200907BHJP
   H01M 4/60 20060101ALI20200907BHJP
【FI】
   H01G11/26
   H01G11/30
   H01M10/052
   H01M4/133
   H01M4/13
   H01M4/60
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-244262(P2016-244262)
(22)【出願日】2016年12月16日
(65)【公開番号】特開2018-98439(P2018-98439A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2019年9月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荻原 信宏
(72)【発明者】
【氏名】小澤 由佳
【審査官】 小池 秀介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−162617(JP,A)
【文献】 特開2017−022186(JP,A)
【文献】 特開2016−219204(JP,A)
【文献】 特開2016−076342(JP,A)
【文献】 特開2015−198007(JP,A)
【文献】 特開2012−221754(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G11/00−11/86
H01M4/00−4/62
10/05−10/0587
10/36−10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素質材料を正極活物質として有する正極と、
2以上の芳香族環構造を有するジカルボン酸アニオンである芳香族化合物を含む有機骨格層と、前記カルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層と、を有する層状構造体を負極活物質として有する負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備え、
数式(1)に示すセル設計パラメータαが1.5<α<4.0の範囲を満たす、
蓄電デバイス。
【数1】
【請求項2】
前記セル設計パラメータαが1.6≦α≦3.2の範囲を満たす、請求項1に記載の蓄電デバイス。
【請求項3】
前記正極は、単位面積あたりの前記正極活物質の質量が2.0mg/cm2以上3.2mg/cm2以下の範囲である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス。
【請求項4】
前記負極は、単位面積あたりの前記負極活物質の質量が2.0mg/cm2以上3.8mg/cm2以下の範囲である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の蓄電デバイス。
【請求項5】
前記負極は、化学式(1)〜(3)で示される芳香族ジカルボン酸塩の層状構造体を前記負極活物質として有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の蓄電デバイス。
【化1】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示する発明である本開示は、蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蓄電デバイスとしては、正極活物質を活性炭とし、負極活物質を黒鉛とするリチウムイオンキャパシタが知られている(例えば、非特許文献1〜3参照)。この蓄電デバイスでは、正極活物質量と負極活物質量との質量比が1:1で蓄電デバイスが構成されている。また、蓄電デバイスの負極としては、2以上の芳香族環構造を有するジカルボン酸アニオンである芳香族化合物を含む有機骨格層と、カルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層と、を有する層状構造体を負極活物質に用いたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この層状構造体は、導電性を有さないが、非水系電解液に溶けにくく、結晶構造を保つことにより充放電サイクル特性の安定性をより高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−221754号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J.Power Sources,177(2008)643-651
【非特許文献2】J.Power Sources,196(2011)10490-10495
【非特許文献3】Electrochim.Acta.,86(2012)282-286
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の非特許文献1〜3の蓄電デバイスでは、負極がリチウム金属析出溶解電位に対して0.05Vと近く、負極の電極容量に対して制限(例えば1/5以下など)をかけなければならないなど、エネルギー密度が低い問題があった。また、上述の特許文献1の蓄電デバイスでは、充放電サイクル特性の安定性をより高めることができるものの、エネルギー密度を高めることも求められていた。
【0006】
本明細書で開示する蓄電デバイスは、このような課題に鑑みなされたものであり、エネルギー密度をより高めることができる蓄電デバイスを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、正極に炭素質材料の活物質を用い、負極に芳香族ジカルボン酸金属塩の層状構造体の活物質を用い、所定のセル設計パラメータαの範囲で蓄電デバイスを構成すると、単位質量あたりのエネルギー密度をより高めることができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本明細書で開示する蓄電デバイスは、
炭素質材料を正極活物質として有する正極と、
2以上の芳香族環構造を有するジカルボン酸アニオンである芳香族化合物を含む有機骨格層と、前記カルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層と、を有する層状構造体を負極活物質として有する負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備え、
数式(1)に示すセル設計パラメータαが1.5<α<4.0の範囲を満たすものである。
【0009】
【数1】
【発明の効果】
【0010】
本明細書で開示する蓄電デバイスでは、エネルギー密度をより高めることができる。このような効果が得られる理由は、例えば、芳香族ジカルボン酸塩を含む層状構造体は、リチウム金属析出溶解電位基準で0.5V〜1.0Vで動作することができ、炭素質材料の正極と組み合わせることによって、高電圧(例えば4V)とすることができる。また、セル設計パラメータαが所定範囲を満たすことによって、エネルギー密度を更に高めることができるためであると推察される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】蓄電デバイス20の一例を示す模式図。
図2】活性炭活物質を含む正極の単極充放電カーブ。
図3】2、6−ナフタレンジカルボン酸ジリチウム負極の単極充放電カーブ。
図4】4、4’−ビフェニルジカルボン酸ジリチウム負極の単極充放電カーブ。
図5】セル設計パラメータαと容量維持率との関係図。
図6】セル設計パラメータαと単位質量あたりのエネルギー密度との関係図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書で開示する蓄電デバイスは、正極と、負極と、イオン伝導媒体とを備えている。正極は、炭素質材料を正極活物質として有する。この正極は、電気二重層容量を発現する炭素質材料を正極活物質として含むものとしてもよい。負極は、リチウムイオンを吸蔵放出する層状構造体を負極活物質として含む。この負極活物質は、2以上の芳香族環構造を有するジカルボン酸アニオンを含む芳香族ジカルボン酸塩の層状構造体であるものとしてもよい。また、イオン伝導媒体は、正極と負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するものである。この蓄電デバイスは、電気二重層容量を発現するキャパシタ用正極と、リチウムイオンを吸蔵放出するリチウムイオン二次電池用負極とを組み合わせたハイブリッドキャパシタ(リチウムイオンキャパシタ)である。
【0013】
本開示の蓄電デバイスにおいて、正極は、例えば、リチウムイオンキャパシタなどに用いられている公知の正極を用いてもよい。正極は、正極活物質として炭素質材料を含む。炭素質材料としては、特に限定されるものではないが、例えば、活性炭類、コークス類、ガラス状炭素類、黒鉛類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維類、カーボンナノチューブ類、ポリアセン類などが挙げられる。このうち、高比表面積を示す活性炭類が好ましい。炭素材料としての活性炭は、比表面積が1000m2/g以上であることが好ましく、1500m2/g以上であることがより好ましい。比表面積が1000m2/g以上では、放電容量をより高めることができる。この活性炭の比表面積は、作製の容易性から3000m2/g以下であることが好ましく、2000m2/g以下であることがより好ましい。なお、正極では、イオン伝導媒体に含まれるアニオン及びカチオンの少なくとも一方を吸着・脱離して蓄電するものと考えられるが、さらに、非水系電解液に含まれるアニオン及びカチオンの少なくとも一方を挿入・脱離して蓄電するものとしてもよい。
【0014】
正極は、例えば上述した正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。導電材は、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水溶性ポリマーであるカルボキシメチルセルロース(CMC)などのセルロース系バインダや、ポリビニルアルコール(PVA)、スチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることがより好ましい。この水溶性ポリマーは、電極合材の全体に対して2質量%以上15質量%以下、より好ましくは8質量%以下の範囲で添加されることが好ましい。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどを用いることができる。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1〜500μmのものが用いられる。
【0015】
この蓄電デバイスにおいて、負極は、2以上の芳香族環構造を有するジカルボン酸アニオンを含む芳香族ジカルボン酸塩の層状構造体であるものとしてもよい。この層状構造体は、2以上の芳香族環構造を有するジカルボン酸アニオンである芳香族化合物を含む有機骨格層と、カルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを有する層状構造体を負極活物質として含む。この層状構造体は、化学式(1)に示す構造を有するものとしてもよい。化学式(1)において、Rは、2以上の芳香族環構造を有する。このRは、例えば、ビフェニルなど2以上の芳香族環が結合した芳香族多環構造としてもよいし、ナフタレンやアントラセン、ピレンなど2以上の芳香族環が縮合した縮合多環構造としてもよい。また、芳香族化合物は、5以下の芳香族環構造を有するものが好ましい。芳香族環構造が5以下ではエネルギー密度をより高めることができるからである。この芳香族環は、五員環や六員環、八員環としてもよく、六員環が好ましい。この有機骨格層は、ジカルボン酸アニオンのうちカルボン酸の一方と他方とが芳香族環構造の対角位置に結合されている芳香族化合物を含むものとするのが好ましい。こうすれば、有機骨格層とアルカリ金属元素層とによる層状構造を形成しやすい。カルボン酸が結合されている対角位置とは、一方のカルボン酸の結合位置から他方のカルボン酸の結合位置までが最も遠い位置としてもよく、例えば芳香族環構造がベンゼンであれば1,4位(パラ位)が挙げられ、ナフタレンであれば2,6位が挙げられ、ピレンであれば2,7位が挙げられる。
【0016】
また、層状構造体は、式(2)〜(4)のうちいずれか1以上の芳香族化合物を備えているものとしてもよい。但し、式(2)〜(4)において、aは1以上5以下の整数、bは0以上3以下の整数であることが好ましい。aが1以上5以下では、有機骨格層の大きさが好適であり、充放電容量をより高めることができる。また、bが0以上3以下では、有機骨格層の大きさが好適であり、充放電容量をより高めることができる。この式(2)〜(4)において、これらの芳香族化合物は、その構造中に置換基、ヘテロ原子を有してもよい。具体的には、芳香族化合物の水素の代わりに、ハロゲン、鎖状又は環状のアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、スルホニル基、アミノ基、シアノ基、カルボニル基、アシル基、アミド基、水酸基を置換基として持っていてもよいし、芳香族化合物の炭素の代わりに、窒素、硫黄、酸素が導入された構造であってもよい。また、元素Aは、アルカリ金属元素層を構成するアルカリ金属であり、Li、Na及びKなどのうちいずれか1以上としてもよく、このうちLiが好ましい。具体的には、芳香族化合物は、化学式(5)、(6)に示す、2、6−ナフタレンジカルボン酸ジリチウムや4,4’−ビフェニルジカルボン酸ジリチウムとすることが好ましい。なお、このアルカリ金属元素層に含まれるアルカリ金属元素は、層状構造体の骨格を形成することから、充放電に伴うイオン移動には関与しないもの、すなわち、充放電時に吸蔵放出されないものと推察される。エネルギー貯蔵メカニズムにおいては、層状構造体の有機骨格層はレドックス(e-)サイトとして機能する一方、アルカリ金属元素層はキャリアである金属イオンの吸蔵サイト(アルカリ金属イオン吸蔵サイト)として機能するものと考えられる。
【0017】
【化1】
【0018】
【化2】
【0019】
【化3】
【0020】
負極は、例えば、負極活物質である層状構造体とその他の材料とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。負極に用いられる導電材、結着材などは、それぞれ正極で例示したものを用いることができる。また、負極は、層状構造体と導電材とを含む負極合材を、集電体上に形成した後、不活性雰囲気中で250℃以上450℃以下の温度範囲で焼成処理されているものとしてもよい。こうすれば、結晶構造をより好適なものとすることができ、芳香族化合物のπ電子相互作用が高まり、電子の授受が容易となるなどして、充放電特性をより高めることができる。
【0021】
この蓄電デバイスにおいて、イオン伝導媒体は、例えば、支持塩(支持電解質)と有機溶媒とを含む非水系電解液としてもよい。支持塩としては、例えば、LiPF6,LiClO4,LiAsF6,LiBF4,Li(CF3SO22N,LiN(C25SO22などのリチウム塩などが挙げられる。これらの支持塩は、単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。支持塩の濃度としては、0.1〜2.0Mであることが好ましく、0.8〜1.2Mであることがより好ましい。有機溶媒としては、例えば、非プロトン性の有機溶媒を用いることができる。このような有機溶媒としては、例えば環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状エステル、環状エーテル、鎖状エーテル等が挙げられる。環状カーボネートとしては、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等がある。鎖状カーボネートとしては、例えばジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等がある。環状エステルカーボネートとしては、例えばガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトン等がある。環状エーテルとしては、例えばテトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等がある。鎖状エーテルとしては、例えばジメトキシエタン、エチレングリコールジメチルエーテル等がある。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。また、非水系電解液としては、そのほかにアセトニトリル、プロピルニトリルなどのニトリル系溶媒やイオン液体、ゲル電解質などを用いてもよい。あるいは、イオン伝導媒体としては、固体のイオン伝導性ポリマーや、ポリマーと支持塩とで構成されるポリマーゲル、無機固体電解質、有機ポリマー電解質と無機固体電解質の混合材料、有機バインダーによって結着された無機固体粉末などを利用することもできる。
【0022】
この蓄電デバイスは、正極と負極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、蓄電デバイスの使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されるものではないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の微多孔フィルムが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複合して用いてもよい。
【0023】
この蓄電デバイスは、数式(1)に示すセル設計パラメータαが1.5<α<4.0の範囲を満たすものである。セル設計パラメータαがこの範囲を満たすと、単位質量あたりのエネルギー密度(Wh/kg)を、例えば、70Wh/kg以上など、より高めることができる。この蓄電デバイスは、セル設計パラメータαが、1.6≦α≦3.2の範囲を満たすことがより好ましい。正極は、このセル設計パラメータαにおいて、単位面積あたりの正極活物質の質量wpが2.0mg/cm2以上3.2mg/cm2以下の範囲であることが好ましい。また、正極容量密度Cpは、60mAh/g以上80mAh/g以下の範囲であることが好ましい。また、負極は、このセル設計パラメータαにおいて、単位面積あたりの負極活物質の質量wnが2.0mg/cm2以上3.8mg/cm2以下の範囲であることが好ましい。また、負極容量密度Cnは、180mAh/g以上240mAh/g以下の範囲であることが好ましい。このような範囲では、セル設計パラメータαをより好適な範囲とすることができる。
【0024】
この蓄電デバイスの形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。図1は、上述した実施形態の蓄電デバイス20の一例を示す模式図である。この蓄電デバイス20は、カップ形状の電池ケース21と、正極活物質を有しこの電池ケース21の下部に設けられた正極22と、負極活物質を有し正極22に対してセパレータ24を介して対向する位置に設けられた負極23と、絶縁材により形成されたガスケット25と、電池ケース21の開口部に配設されガスケット25を介して電池ケース21を密封する封口板26と、を備えている。この蓄電デバイス20は、正極22と負極23との間の空間にイオン伝導媒体27が満たされている。この蓄電デバイス20において、正極22は炭素質材料の正極活物質を有し、負極23は芳香族ジカルボン酸金属塩の層状構造体を負極活物質として有する。また、この蓄電デバイス20は、上記セル設計パラメータαが1.5<α<4.0の範囲を満たすものである。
【0025】
以上詳述した蓄電デバイスでは、エネルギー密度をより高めることができる。このような効果が得られる理由は、例えば、芳香族ジカルボン酸塩を含む層状構造体は、リチウム金属析出溶解電位基準で0.5V〜1.0Vで動作することができ、炭素質材料の正極と組み合わせることによって、高電圧(例えば4V)とすることができる。また、セル設計パラメータαが所定範囲を満たすことによって、エネルギー密度を更に高めることができるためであると推察される。なお、非特許文献1〜3に記載された蓄電デバイスのセル設計パラメータαを計算すると、活性炭正極の電気容量がおよそ70〜80mAh/gであり、黒鉛負極は350mAh/gであるから、α=(350(mAh/g)/1(mg/cm2))/(70(mAh/g)/1(mg/cm2))=5であり、本開示の蓄電デバイスのセル設計パラメータαの範囲外である。
【0026】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0027】
以下には、蓄電デバイスを具体的に実施した例を実験例として説明する。実験例2〜4、8〜10が実施例に相当し、実験例1、5〜7、11、12が比較例に相当する。
【0028】
[実験例1]
(2、6−ナフタレンジカルボン酸ジリチウムの層状構造体の合成)
2、6−ナフタレンジカルボン酸ジリチウム(Naphとも称する)の構造を有する層状構造体(式(5))を合成した。この層状構造体の合成には、出発原料として2、6−ナフタレンジカルボン酸および水酸化リチウム1水和物(LiOH・H2O)を用いた。まず、水酸化リチウム1水和物(0.556g)にメタノール(100mL)を加え、撹拌した。水酸化リチウム1水和物を溶解したのち、2、6−ナフタレンジカルボン酸(1.0g)を加え1時間撹拌した。撹拌後溶媒を除去し、真空下150℃で16時間乾燥することにより、白色の粉末試料を得た。
【0029】
(負極の作製)
得られた粉末試料を73.9質量%、粒子状炭素導電材としてカーボンブラック(東海カーボン製TB5500)を13.0質量%、水溶性ポリマーであるカルボキシメチルセルロース(CMC、ダイセルファインケム、CMCダイセル1120)を5.2質量%、スチレンブタジエン共重合体(SBR、日本ゼオン製BM−400B)を7.8質量%混合し、分散剤として水を適量添加、分散してスラリー状合材とした。このスラリー状合材を10μm厚の銅箔集電体に単位面積当たりのNaph活物質が2.15mg/cm2となるように均一に塗布し、加熱乾燥させて塗布シートを作製した。その後、塗布シートを加圧プレス処理し、10cm2の面積に打ち抜いて円盤状の負極とした。
【0030】
(活性炭正極の作製)
ヤシ殻活性炭(クラレケミカル製YP−50F)を83.0質量%、粒子状炭素導電材としてカーボンブラック(東海カーボン製、TB5500)を10.7質量%、水溶性ポリマーであるカルボキシメチルセルロース(CMC、ダイセルファインケム、CMCダイセル1120)を4.0質量%、スチレンブタジエン共重合体(SBR、日本ゼオン製BM−400B)を2.3質量%混合し、分散剤として水を適量添加、分散してスラリー状合材とした。このスラリー状合材を15μm厚のアルミニウム箔集電体に単位面積当たりの活性炭活物質が4.11mg/cm2となるように均一に塗布し、加熱乾燥させて塗布シートを作製した。その後、塗布シートを加圧プレス処理し、10cm2の面積に打ち抜いて円盤状の正極とした。その後、この正極をアルゴン不活性雰囲気下で300℃、12時間焼成を行った。
【0031】
(蓄電デバイスの作製)
エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートを体積比で30:40:30の割合で混合した非水溶媒にヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を1.0mol/Lになるように添加して非水電解液を作製した。上記作製したNaph負極と、活性炭正極との間に上記非水電解液を含浸させたセパレータ(東レ東燃製)を挟んで実験例1の蓄電デバイスを作製した。この負極は、事前に、以下の処理を施したものを用いた。この負極は、Naph電極を作用極とし、リチウム金属箔(厚み300μm)を対極として、両電極の間に上記非水電解液を含浸させたセパレータ(東レ東燃製)を挟んで二極式セルを作製し、20℃の温度環境下、0.3mAで0.5Vまで還元したあと、0.075mAで1.5Vまで酸化させ、電極の容量密度を算出し、その容量密度の半分まで還元させた。
【0032】
[実験例2〜6]
正極の活性炭活物質を単位面積あたり3.11mg/cm2とした以外は実験例1と同様の工程を経て得られたものを実験例2の蓄電デバイスとした。また、正極の活性炭活物質を単位面積あたり2.00mg/cm2とした以外は実験例1と同様の工程を経て得られたものを実験例3の蓄電デバイスとした。また、負極のNaph活物質を単位面積あたり3.75mg/cm2とし、正極の活性炭活物質を単位面積あたり3.11mg/cm2とした以外は実験例1と同様の工程を経て得られたものを実験例4の蓄電デバイスとした。また、負極のNaph活物質を単位面積あたり6.40mg/cm2とし、正極の活性炭活物質を単位面積あたり3.11mg/cm2とした以外は実験例1と同様の工程を経て得られたものを実験例5の蓄電デバイスとした。また、負極のNaph活物質を単位面積あたり7.55mg/cm2とし、正極の活性炭活物質を単位面積あたり3.11mg/cm2とした以外は実験例1と同様の工程を経て得られたものを実験例6の蓄電デバイスとした。
【0033】
[実験例7]
(4,4’−ビフェニルジカルボン酸ジリチウムの層状構造体の合成)
4,4’−ビフェニルジカルボン酸ジリチウム(Bphとも称する)の構造を有する層状構造体(式(6))を合成した。この層状構造体の合成には、出発原料として4,4’−ビフェニルジカルボン酸および水酸化リチウム1水和物(LiOH・H2O)を用いた。まず、水酸化リチウム1水和物にメタノールを加え、撹拌した。水酸化リチウム1水和物を溶解したのち、4,4’−ビフェニルジカルボン酸を加え1時間撹拌した。撹拌後溶媒を除去し、真空下150℃で16時間乾燥することにより白色の粉末試料を得た。
【0034】
Naph活物質の代わりにBph活物質を用いて負極を作製した。負極のBph活物質を単位面積あたり2.05mg/cm2とし、正極活性炭の活物質を単位面積あたり4.11mg/cm2とした以外は実験例1と同様の工程を経て得られたものを実験例7の蓄電デバイスとした。
【0035】
[実験例8〜12]
正極の活性炭活物質を単位面積あたり3.11mg/cm2とした以外は実験例7と同様の工程を経て得られたものを実験例8の蓄電デバイスとした。また、正極の活性炭活物質を単位面積あたり2.00mg/cm2とした以外は実験例7と同様の工程を経て得られたものを実験例9の蓄電デバイスとした。また、負極のBph活物質を単位面積あたり3.74mg/cm2とし、正極の活性炭活物質を単位面積あたり3.11mg/cm2とした以外は実験例7と同様の工程を経て得られたものを実験例10の蓄電デバイスとした。また、負極のBph活物質を単位面積あたり5.92mg/cm2とし、正極の活性炭活物質を単位面積あたり3.11mg/cm2とした以外は実験例7と同様の工程を経て得られたものを実験例11の蓄電デバイスとした。また、負極のBph活物質を単位面積あたり7.69mg/cm2とし、正極の活性炭活物質を単位面積あたり3.11mg/cm2とした以外は実験例7と同様の工程を経て得られたものを実験例12の蓄電デバイスとした。
【0036】
[二極式評価セルによる単極の評価]
上述した活性炭正極、Naph負極及びBph負極に対して、リチウム金属箔(厚み300μm)を対極として、両電極の間に上記非水電解液を含浸させたセパレータ(東レ東燃製)を挟んで二極式セルを作製して、20℃の温度環境下で単極の評価を行った。活性炭正極は下限電圧を2.3V及び上限電圧4.6Vとし、Naph負極及びBph負極は下限電圧を0.5V及び上限電圧1.5Vとして10サイクルの充放電試験を行った。10サイクル目の容量密度(mAh/g)を各活物質の容量密度とし、単位面積あたりの活物質量(mg/cm2)を用い、以下に示すセル設計パラメータαを算出した。
【0037】
【数1】
【0038】
(充放電特性評価)
上記作製した蓄電デバイスを20℃の温度環境下、0.3mAで3.4Vまで充電したあと、0.3mAで1.5Vまで放電させた。この充放電操作を5回行った。この5サイクル目の放電容量から単位質量あたりのエネルギー密度(Wh/kg)を求めた。また、20℃の温度環境下、上記条件で100サイクルの連続充放電試験を行い、容量維持率を検討した。この充放電操作の1回目の充電容量をQ(1st)、100回目の充電容量をQ(100th)とし、Q(100th)/Q(1st)×100を100サイクル後の容量維持率(%)とした。
【0039】
(結果と考察)
上記作製した蓄電デバイスの詳細と、セル設計パラメータα、単位質量あたりのエネルギー密度(Wh/kg)、充放電サイクルでの容量維持率(%)を表1にまとめた。また、図5は、セル設計パラメータαと容量維持率との関係図である。図6は、セル設計パラメータαと単位質量あたりのエネルギー密度との関係図である。表1に示すように、正極活物質を炭素質材料とし、負極活物質を芳香族ジカルボン酸塩の層状構造体としたときに、セル設計パラメータαが1.5<α<4.0の範囲を満たす、より好ましくは、1.6≦α≦3.2の範囲を満たすと、70Wh/kg以上という高いエネルギー密度を示すことが明らかとなった(図6)。また、このセル設計パラメータαの範囲内では、充放電サイクルの容量維持率も、80%以上など高い値を示し、高いサイクル特性を示すことがわかった。また、正極活物質量wpは、2.0〜3.2mg/cm2の範囲が好ましく、負極活物質量wnは、2.0〜3.8mg/cm2の範囲が好ましいことがわかった。
【0040】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0041】
本明細書で開示する蓄電デバイスは、電池産業に利用可能である。
【符号の説明】
【0042】
20 蓄電デバイス、21 電池ケース、22 正極、23 負極、24 セパレータ、25 ガスケット、26 封口板、27 イオン伝導媒体。
図1
図2
図3
図4
図5
図6