特許第6756263号(P6756263)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6756263
(24)【登録日】2020年8月31日
(45)【発行日】2020年9月16日
(54)【発明の名称】車両の制動制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/00 20060101AFI20200907BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20200907BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20200907BHJP
   B60T 13/74 20060101ALI20200907BHJP
【FI】
   B60T8/00 Z
   B60T8/17 B
   B60T7/12 E
   B60T13/74 G
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-251945(P2016-251945)
(22)【出願日】2016年12月26日
(65)【公開番号】特開2018-103790(P2018-103790A)
(43)【公開日】2018年7月5日
【審査請求日】2019年8月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 紀薫
(72)【発明者】
【氏名】小川 仁
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 信行
【審査官】 的場 眞夢
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−124408(JP,A)
【文献】 特開2016−124407(JP,A)
【文献】 特開2014−024514(JP,A)
【文献】 特開2005−255102(JP,A)
【文献】 特開2009−202618(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12−8/1769
8/32−8/96
13/00−13/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の左右の両輪の各々に対応する電動制動機構が、同電動制動機構のそれぞれに設けられている電動モータの駆動によって、車輪と一体回転する回転体に摩擦材を押し付けることで同車輪に制動力を付与するようにそれぞれ構成されている車両の制動装置に適用され、
前記各電動モータのうち、一方の前記電動モータの駆動を先に開始させ、同一方の電動モータの駆動の開始時点から待機時間が経過したあとに、他方の前記電動モータの駆動を開始させることで、前記各車輪に対する制動力を増大させる制動処理を実施する制動制御部を備えた車両の制動制御装置において、
前記制動制御部は、前記制動処理における前記各電動モータの駆動の開始時点から同各電動モータの駆動の停止時点までの時間である駆動時間を基に、同各電動モータのうち、先に駆動を開始させる前記電動モータを決める
ことを特徴とする車両の制動制御装置。
【請求項2】
前記制動制御部は、車両停止時に実施する前記制動処理、及び、車両走行中に実施する前記制動処理では、前記各電動モータのうち、前記駆動時間が長い方の前記電動モータの駆動を先に開始させる
請求項1に記載の車両の制動制御装置。
【請求項3】
前記電動モータの駆動によって前記摩擦材を前記回転体に押し付けて前記車輪に制動力を付与する場合、前記摩擦材を前記回転体に押し付ける力が大きくなるにつれて前記電動モータに流れる電流値が大きくなるようになっており、
前記制動処理の実施時において、前記電動モータの駆動の開始時点から、前記回転体に前記摩擦材が接触して同電動モータに流れる電流値が規定電流値と等しくなる時点までの時間のことを規定時間とした場合、
前記制動制御部は、
車両走行中に実施する前記制動処理では、
前記一方の電動モータの前記規定時間と前記他方の電動モータの前記規定時間との差分が大きいほど大きい値となるように前記待機時間を設定し、
前記一方の電動モータの駆動を先に開始させ、同一方の電動モータの駆動の開始時点から前記待機時間が経過したあとに、前記他方の電動モータの駆動を開始させる
請求項2に記載の車両の制動制御装置。
【請求項4】
車両のずり下がりが発生しているか否かを判定するずり下がり判定部と、
前記各車輪の回転状態を監視する回転監視部と、を備え、
前記制動制御部は、前記ずり下がり判定部によって車両のずり下がりが発生していると判定されたときに前記制動処理を実施するようになっており、
前記制動制御部は、車両のずり下がりが発生していると判定されたときに実施する前記制動処理では、前記各車輪の双方が回転していることが前記回転監視部によって検出されたときには、前記各電動モータのうち、前記駆動時間が短い方の前記電動モータの駆動を先に開始させる
請求項1〜請求項3のうち何れか一項に記載の車両の制動制御装置。
【請求項5】
車両のずり下がりが発生しているか否かを判定するずり下がり判定部と、
前記各車輪の回転状態を監視する回転監視部と、を備え、
前記制動制御部は、前記ずり下がり判定部によって車両のずり下がりが発生していると判定されたときに前記制動処理を行うようになっており、
前記制動制御部は、車両のずり下がりが発生していると判定されたときに実施する前記制動処理では、前記各車輪のうち一方の車輪は回転している一方で、他方の車輪は回転していないことが前記回転監視部によって検出されたときには、前記各電動モータのうち、前記一方の車輪に対応する前記電動モータの駆動を先に開始させる
請求項1〜請求項3のうち何れか一項に記載の車両の制動制御装置。
【請求項6】
前記各電動モータが駆動する時間を計測する時間計測部を備え、
前記駆動時間は、前回の前記制動処理の実施時での前記時間計測部の計測結果に基づいて決定される
請求項1〜請求項5のうち何れか一項に記載の車両の制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の左右の両輪の各々に対して電動制動機構が設けられている制動装置に適用される車両の制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両の左右の両輪の各々に対して電動制動機構が設けられている制動装置の一例が記載されている。各電動制動機構は、電動モータの駆動によって車輪と一体回転する回転体に摩擦材を押し付けることで、車輪に制動力を付与するようにそれぞれ構成されている。
【0003】
そして、特許文献1に記載の装置では、各車輪に制動力を付与する場合、各電動制動機構のうち、一方の電動制動機構の作動が先に開始され、同一方の電動制動機構の作動の開始時点から待機時間が経過したあとに、他方の電動制動機構の作動が開始されるようになっている。このように両電動制動機構の作動開始のタイミングをずらすことで、一方の電動制動機構の電動モータの起動時における突入電流の発生タイミングと、他方の電動制動機構の電動モータの起動時における突入電流の発生タイミングとが重複しないようにしている。
【0004】
そして、電動制動機構が作動している状況下において突入電流の発生終了後では、電動モータに流れる電流値が停止判定電流値以上になると、車輪に付与する制動力が規定制動力に達したと判断できるため、電動モータの駆動が停止される。なお、このように電動制動機構の作動によって車輪に制動力を付与すべく電動モータの駆動が開始される時点から、電流値が停止判定電流値以上になったために同電動モータの駆動が停止される時点までの時間の長さのことを「駆動時間」という。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016−124408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電動制動機構の上記駆動時間は、同機構の構成部品の製造誤差や組み立て誤差、及び、摩擦材の摩耗度合いなどに起因して異なる。すなわち、駆動時間は、電動制動機構毎に異なることがある。
【0007】
特許文献1に記載の制動装置では、先に作動を開始させる電動制動機構は予め決まっている。そのため、各電動制動機構のうち、あとに作動を開始する電動制動機構の電動モータの駆動時間が、先に作動を開始する電動制動機構の電動モータの駆動時間よりも長い場合、制動装置の作動開始から同装置の作動終了までに要する時間が長くなってしまい、制動装置の制御性が低下してしまうおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための車両の制動制御装置は、車両の左右の両輪の各々に対応する電動制動機構が、同電動制動機構のそれぞれに設けられている電動モータの駆動によって、車輪と一体回転する回転体に摩擦材を押し付けることで同車輪に制動力を付与するようにそれぞれ構成されている車両の制動装置に適用される装置である。この車両の制動制御装置は、各電動モータのうち、一方の電動モータの駆動を先に開始させ、同一方の電動モータの駆動の開始時点から待機時間が経過したあとに、他方の電動モータの駆動を開始させることで、各車輪に対する制動力を増大させる制動処理を実施する制動制御部を備えている。このような前提の車両の制動制御装置において、制動制御部は、制動処理における各電動モータの駆動の開始時点から同各電動モータの駆動の停止時点までの時間である駆動時間を基に、同各電動モータのうち、先に駆動を開始させる前記電動モータを決める。
【0009】
上記構成によれば、制動処理では、各電動制動機構の電動モータのうち、他方の電動制動機構の電動モータの駆動開始を、一方の電動制動機構の電動モータの駆動開始よりも待機時間だけ遅らせている。そのため、一方の電動制動機構の電動モータでの突入電流の発生タイミングと、他方の電動制動機構の電動モータでの突入電流の発生タイミングとが重複しないようにすることができる。
【0010】
電動制動機構の駆動時間は、同機構の構成部品の製造誤差や組み立て誤差、及び、摩擦材の摩耗度合いなどに起因して異なる。言い換えると、ある1つの電動制動機構では、電動モータの駆動時間はあまり変わらないことが推測される。
【0011】
そこで、上記構成では、制動処理によって各電動制動機構の電動モータを駆動させる場合、各電動モータの駆動時間を基に、先に作動させる電動モータ(すなわち、上記でいう一方の電動モータ)を決めるようにしている。そのため、制動処理では先に駆動を開始させる電動モータが予め決まっている場合と比較し、制動装置の制御性を高めることができる。
【0012】
なお、制動処理は、車両停止時に実施されることもあれば、車両走行中に実施されることもある。そして、制動制御部は、車両停止時に実施する制動処理、及び、車両走行中に実施する制動処理では、各電動モータのうち、駆動時間が長い方の電動モータの駆動を先に開始させることが好ましい。この構成によれば、駆動時間が長い方の電動モータの駆動開始が、駆動時間が短い方の電動モータの駆動開始よりもあとになることがなくなる。そのため、制動処理の実施時間が長くなることを抑制できる。
【0013】
ところで、電動モータの駆動によって摩擦材を回転体に押し付けて車輪に制動力を付与する場合、摩擦材を回転体に押し付ける力が大きくなるにつれて電動モータに流れる電流値が大きくなる。そして、制動処理の実施時において、電動モータの駆動の開始時点から、回転体に摩擦材が接触して同電動モータに流れる電流値が規定電流値と等しくなる時点までの時間のことを規定時間とする。この場合、制動制御部は、車両走行中に実施する制動処理では、上記一方の電動モータの規定時間と他方の電動モータの規定時間との差分が大きいほど大きい値となるように待機時間を設定し、一方の電動モータの駆動を先に開始させ、同一方の電動モータの駆動の開始時点から待機時間が経過したあとに、他方の電動モータの駆動を開始させることが好ましい。
【0014】
車両走行中に制動処理を実施する場合において、右輪への制動力の付与開始のタイミングと左輪への制動力の付与開始のタイミングとの乖離が大きいと、当該乖離に起因するヨーモーメントが車両に一時的に発生し、車両挙動の安定性が一時的に低下するおそれがある。この点、上記構成では、車両走行中に実施する制動処理では、まず、上記一方の電動モータの規定時間と上記他方の電動モータの規定時間との差分が大きいほど大きい値となるように待機時間が設定され、この上で、各電動モータの駆動が個別に制御される。そのため、先に駆動を開始する一方の電動モータに流れる電流値が規定電流値と等しくなるタイミングと、あとに駆動を開始する他方の電動モータに流れる電流値が規定電流値と等しくなるタイミングとの乖離が大きくなることを抑制できる。すなわち、一方の電動制動機構に対応する車輪に制動力が付与され始めるタイミングと、他方の電動制動機構に対応する車輪に制動力が付与され始めるタイミングとの乖離が大きくなることを抑制できる。したがって、車両走行中に制動処理を実施する場合に、上記乖離に起因するヨーモーメントが車両に一時的に発生してしまうことを抑制できる。
【0015】
上記車両の制動制御装置は、車両のずり下がりが発生しているか否かを判定するずり下がり判定部と、各車輪の回転状態を監視する回転監視部と、を備え、ずり下がり判定部によって車両のずり下がりが発生していると判定されたときに、制動制御部が制動処理を実施するようになっていることがある。この場合、制動制御部は、車両のずり下がりが発生していると判定されたときに実施する制動処理では、各車輪の双方が回転していることが回転監視部によって検出されたときには、各電動モータのうち、駆動時間が短い方の電動モータの駆動を先に開始させることが好ましい。
【0016】
上記構成によれば、車両のずり下がりが発生し、各車輪の双方の回転が検出されているときには、各電動モータのうち、駆動時間の短い方の電動モータの駆動が、駆動時間の長い方の電動モータの駆動よりも先に開始される。そのため、駆動時間の長い方の電動モータの駆動を先に開始させる場合と比較し、制動処理を実施することで車両の制動力を早期に増大させることができる。すなわち、車両のずり下がりを早期に停止させることができる。
【0017】
一方、制動制御部は、車両のずり下がりが発生していると判定されたときに実施する制動処理では、各車輪のうち一方の車輪は回転している一方で、他方の車輪は回転していないことが回転監視部によって検出されたときには、各電動モータのうち、一方の車輪に対応する電動モータの駆動を先に開始させることが好ましい。
【0018】
上記構成によれば、車両のずり下がりが発生しているものの、各車輪のうち、一方の車輪は回転している一方で、他方の車輪は回転していないときには、制動処理の実施によって、一方の車輪に付与する制動力を、他方の車輪に付与する制動力よりも先に増大させることができる。そのため、回転している車輪の回転を早期に停止させることができ、ひいては、車両のずり下がりを早期に停止させることができる。
【0019】
なお、車両の制動制御装置は、各電動モータが駆動する時間を計測する時間計測部を備えるようにしてもよい。この場合、駆動時間は、前回の制動処理の実施時での時間計測部の計測結果に基づいて決定される時間とすることが好ましい。このように前回の制動処理の実施時での時間計測の結果に基づいた駆動時間を用いることにより、各電動モータのうち、駆動時間が長い方の電動モータを正確に判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】車両の制動制御装置の一実施形態である制御装置を備える駐車制動装置と、常用制動装置とを示す模式図。
図2】同制御装置の機能構成と、同制御装置によって作動が制御される電動制動機構の断面構造の概略とを示す図。
図3】同電動制動機構の電動モータに流れる電流値の推移を示すタイミングチャート。
図4】車両停止時や車両走行中に制動処理を行うために実行される処理ルーチンを示すフローチャート。
図5】車両のずり下がりが発生していると判定されたことを契機に制動処理を行うために実行される処理ルーチンを示すフローチャート(前半部分)。
図6】車両のずり下がりが発生していると判定されたことを契機に制動処理を行うために実行される処理ルーチンを示すフローチャート(後半部分)。
図7】待機時間を決定するために実行される処理ルーチンを示すフローチャート。
図8】(a),(b)は車両停止時に制動処理を実施する場合のタイミングチャート。
図9】(a),(b)は車両走行中に制動処理を実施する場合のタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、車両の制動制御装置の一実施形態を図1図9に従って説明する。
図1には、本実施形態の制動制御装置としての制御装置50を備える制動装置の一例である駐車制動装置20と、常用制動装置10とが図示されている。図1に示すように、駐車制動装置20には、左右の両後輪RL,RRの各々に対して電動制動機構21L,21Rが設けられている。各電動制動機構21L,21Rには、ホイールシリンダ28がそれぞれ設けられている。これらホイールシリンダ28内には、常用制動装置10によってブレーキ液が供給される。すなわち、ホイールシリンダ28内の液圧は、常用制動装置10の作動によって調整することができる。
【0022】
常用制動装置10は、ブレーキペダル11が駆動連結されている液圧発生装置12と、液圧発生装置12と各ホイールシリンダ28との間に配置されている制動アクチュエータ13とを有している。車両の運転者によってブレーキペダル11が操作されると、液圧発生装置12からは、ブレーキペダル11の操作量に応じた量のブレーキ液が各ホイールシリンダ28内に供給される。制動アクチュエータ13は、液圧発生装置12に設けられているマスタ室121とホイールシリンダ28との間に差圧を発生させるべく作動するようになっている。
【0023】
次に、図1及び図2を参照し、電動制動機構21L,21Rについて説明する。
図1及び図2に示すように、電動制動機構21L,21Rは、後輪RL,RRと一体に回転する回転体の一例であるブレーキディスク22と、ブレーキディスク22の車両幅方向の両側に配置される一対のブレーキパッド23,24とを備えている。ブレーキパッド23,24は、裏板25と、裏板25に固定されている摩擦材26とを有している。そして、ブレーキパッド23,24がブレーキディスク22に接近し、摩擦材26がブレーキディスク22に押し付けられているときには、摩擦材26をブレーキディスク22に押し付ける力である押圧力に相当する制動力が、後輪RL,RRに付与される。すなわち、押圧力を大きくすることで後輪RL,RRに付与する制動力を大きくすることができる。
【0024】
また、図2に示すように、電動制動機構21L,21Rには、ブレーキディスク22に近づく方向及び離れる方向に相対移動可能な状態で両ブレーキパッド23,24を支持するキャリパ27が設けられている。両ブレーキパッド23,24のうち、ブレーキパッド23はブレーキディスク22よりも車両幅方向内側に位置しており、キャリパ27におけるブレーキパッド23よりも車両幅方向内側には、ホイールシリンダ28が設けられている。ホイールシリンダ28は、車両幅方向内側が閉塞され、車両幅方向外側が開口する有底略円筒形状のシリンダ本体29と、車両幅方向に摺動可能な状態でシリンダ本体29に支持されているピストン30とを有している。
【0025】
ピストン30は、車両幅方向外側が閉塞され、車両幅方向内側が開口する有底略筒状をなしており、シリンダ本体29の開口がピストン30によって閉塞されている。そして、ピストン30及びシリンダ本体29によってシリンダ室31が区画形成されており、このシリンダ室31には常用制動装置10からブレーキ液が供給されるようになっている。そのため、シリンダ室31の液圧が高くなり、ピストン30が図中左側である車両幅方向外側に摺動すると、ピストン30に押されることで両ブレーキパッド23,24がブレーキディスク22に近づく。一方、シリンダ室31の液圧が低くなり、ピストン30が図中右側である車両幅方向内側に摺動すると、ピストン30による両ブレーキパッド23,24の押圧が解消され、両ブレーキパッド23,24がブレーキディスク22から離れる。
【0026】
また、電動制動機構21L,21Rには、出力軸401を正逆両方向に回転させることのできる電動モータ40と、電動モータ40の出力軸401の回転速度を減速して出力する減速機構41と、減速機構41に連結され、車両幅方向に進退移動するナット42とが設けられている。
【0027】
減速機構41は、シリンダ本体29の外部に配置されている複数のギヤ411を有している。そして、電動モータ40が駆動すると、各ギヤ411は、出力軸401の回転方向に準じた方向にそれぞれ回転する。また、シリンダ本体29の底壁291の中央には車両幅方向に貫通する貫通孔292が形成されており、減速機構41には、底壁291の貫通孔292内に挿通されているロッド部材412が設けられている。このロッド部材412は、ギヤ411の回転に応じた回転が可能な状態でシリンダ本体29の底壁291に支持されている。そして、ロッド部材412においてシリンダ本体29内に位置する部位の周面には雄ねじ加工が施されている。
【0028】
ナット42は、シリンダ室31内、より具体的にはピストン30の内側に配置されている。このナット42の内周面には雌ねじ加工が施されており、ナット42はロッド部材412に螺合されている。そのため、電動モータ40の駆動によってロッド部材412が回転することで、ナット42が車両幅方向の一方側又は他方側に移動する。すなわち、ロッド部材412及びナット42により、電動モータ40の回転運動が直線運動に変換してピストン30に伝達される。そして、こうした電動モータ40の駆動に起因する電動制動機構21L,21Rの作動によって、摩擦材26をブレーキディスク22に押し付ける力である押圧力、すなわち後輪RL,RRに制動力を付与することができる。
【0029】
次に、図1及び図2を参照し、駐車制動装置20の制御構成について説明する。
図1及び図2に示すように、駐車制動装置20の制御装置50には、各後輪RL,RRに個別対応する複数(本実施形態では2つ)の車輪速度センサ101L,101Rが電気的に接続されている。車輪速度センサ101L,101Rは、対応する後輪RL,RRの回転速度である車輪速度VWに応じた信号を出力する。また、制御装置50には、車室に設けられている操作部102が電気的に接続されている。操作部102は、駐車制動装置20の作動によって後輪RL,RRに制動力を付与する際にオン操作される一方、駐車制動装置20の作動によって後輪RL,RRに制動力を付与する状態を解除する際にオフ操作されるものである。そして、操作部102は、オン操作されたときにオン操作信号を制御装置50に出力し、オフ操作されたときにはオフ操作信号を制御装置50に出力する。
【0030】
また、制御装置50は、駐車制動装置20を作動させるための機能部として、制動制御部51、時間計測部52、記憶部53、回転監視部54及びずり下がり判定部55を有している。
【0031】
制動制御部51は、操作部102からオン操作信号が入力されたときには、各電動制動機構21L,21Rを作動させて後輪RL,RRに制動力を付与する制動処理を行う。一方、制動制御部51は、操作部102からオフ操作信号が入力されたときには、各電動制動機構21L,21Rを作動させることで、後輪RL,RRに制動力を付与している状態を解除する制動解除処理を行う。
【0032】
図3を参照し、制動処理によって電動制動機構21L,21Rを作動させる際に電動モータ40に流れる電流値Imtの推移について説明する。なお、図3には、摩擦材26がブレーキディスク22から離れている状態から電動モータ40を駆動させる場合が図示されている。
【0033】
図3に示すように、第1のタイミングt11で電動モータ40の駆動が開始されると、電動モータ40に流れる電流値Imtが急上昇する。このように電動モータ40の駆動初期に流れる大きな電流値Imtのことを「突入電流」といい、突入電流が発生する電動モータ40の駆動初期のことを「突入電流発生期間TRM1」という。そして、突入電流発生期間TRM1の終了タイミングである第2のタイミングt12から第3のタイミングt13までの期間では、摩擦材26がブレーキディスク22に未だ接触しておらず、電動モータ40にかかる負荷が小さいため、電流値Imtは大きくならない。第3のタイミングt13になると、摩擦材26がブレーキディスク22に接触し、電動モータ40にかかる負荷が徐々に大きくなる。そのため、第3のタイミングt13からは、電流値Imtが大きくなる。そして、電流値Imtが規定電流値ImtTh2に達する第4のタイミングt14で、後輪RL,RRに制動力が付与されるようになったと判断することができる。なお、電動モータ40の駆動が開始される第1のタイミングt11から電流値Imtが規定電流値ImtTh2に達する第4のタイミングt14までの時間の長さのことを「規定時間TM1」という。また、規定電流値ImtTh2は、摩擦材26がブレーキディスク22に接触しておらず、電動モータ40にかかる負荷が小さいときの電流値Imtよりも大きい値に設定されている。
【0034】
第4のタイミングt14以降も電流値Imtが大きくなると、後輪RL,RRに対する制動力も大きくなる。そして、第5のタイミングt15で、電流値Imtが規定電流値ImtTh2よりも大きい停止判定電流値ImtTh1に達すると、後輪RL,RRに十分な制動力が付与されていると判断できるため、電動モータ40の駆動が停止する。なお、電動モータ40の駆動が開始される第1のタイミングt11から電流値Imtが停止判定電流値ImtTh1に達する第5のタイミングt15までの時間の長さのことを「駆動時間TM2」という。
【0035】
上述したように、電動モータ40の起動時には突入電流が発生する。そのため、制動制御部51は、制動処理時及び制動解除処理時では、各電動制動機構21L,21Rのうち、一方の電動制動機構の作動を先に開始させ、一方の電動制動機構の作動の開始時点から待機時間TSが経過したあとに、他方の電動制動機構の作動を開始させる。このため、一方の電動制動機構の電動モータ40での突入電流の発生タイミングと、他方の電動制動機構の電動モータ40での突入電流の発生タイミングとが重複しないようにすることができる。
【0036】
なお、運転者によって操作部102がオン操作される場合としては、例えば、車両が停止して当該停止状態を維持する場合、及び、車両走行時に運転者がブレーキペダル11を操作しても車両が減速されない場合を挙げることができる。すなわち、制動処理は、車両停止時、及び、車両走行中の双方で行われることがある。
【0037】
また、制動処理によって各後輪RL,RRに制動力が付与されている状況下において、摩擦材26をブレーキディスク22に押し付ける押圧力が小さくなることがある。このとき、車両が坂路で停止していた場合、上記押圧力が小さくなったことを契機に車両のずり下がりが発生することがある。本実施形態では、このような車両のずり下がりが発生したときには、各後輪RL,RRに対する制動力を増大させて当該ずり下がりを停止させるべく制動処理が再度行われることがある。
【0038】
図2に戻り、時間計測部52は、制動制御部51が制動処理を行っているときに、上記規定時間TM1及び駆動時間TM2を電動制動機構21L,21R毎に計測する。そして、時間計測部52は、制動処理が終了すると、計測した各電動制動機構21L,21Rにおける電動モータ40の規定時間TM1及び駆動時間TM2を記憶部53に記憶する。
【0039】
回転監視部54は、制動制御部51による制動処理の実施によって各後輪RL,RRに制動力が付与されている状況下において、各後輪RL,RRの回転状態を監視する。例えば、回転監視部54は、各車輪速度センサ101L,101Rからの信号を基に、各後輪RL,RRの回転状態(例えば、各後輪RL,RRの車輪速度VW)を個別に監視している。そして、回転監視部54は、各後輪RL,RRのうち少なくとも1つの後輪の回転を検出したときには、その旨をずり下がり判定部55及び制動制御部51に出力する。
【0040】
ずり下がり判定部55は、制動制御部51による制動処理の実施によって各後輪RL,RRに制動力が付与されている状況下であっても、車両の移動を検知したときに車両のずり下がりが発生していると判定する。すなわち、ずり下がり判定部55は、各後輪RL,RRのうち少なくとも1つの後輪の回転を検出した旨が回転監視部54から入力されているときに、ずり下がりが発生していると判定することができる。そして、ずり下がり判定部55は、ずり下がりが発生していると判定したときにはその旨を制動制御部51に出力する。
【0041】
次に、図4を参照し、電動モータ40の駆動に起因する制動力が各後輪RL,RRに付与されてない状況下で制動処理を行うときに制動制御部51が実行する処理ルーチンについて説明する。なお、この処理ルーチンは、車両が停止して当該停止の状態を維持すべく制動処理を行う場合、及び、車両走行中で電動モータ40の駆動によって各後輪RL,RRに制動力を付与する場合に実行される。
【0042】
図4に示すように、本処理ルーチンにおいて、制動制御部51は、待機時間TSを決定する決定処理を行う(ステップS11)。この決定処理については図7を用いて後述する。続いて、制動制御部51は、記憶部53から前回の制動処理の実施時における各電動制動機構21L,21Rの駆動時間TDL,TDRを読み出し、右側の電動制動機構21Rの駆動時間TDRが左側の電動制動機構21Lの駆動時間TDL以上であるか否かを判定する(ステップS12)。左側の電動制動機構21Lの駆動時間TDLは、前回の制動処理時における電動制動機構21Lの電動モータ40の駆動時間TM2(図3参照)のことである。同様に、右側の電動制動機構21Rの駆動時間TDRは、前回の制動処理時における電動制動機構21Rの電動モータ40の駆動時間TM2(図3参照)のことである。前回の制動処理時における、駆動時間TDRが駆動時間TDLよりも長い場合、今回の制動処理でも、右側の電動制動機構21Rの駆動時間TDRが左側の電動制動機構21Lの駆動時間TDLよりも長くなることが予測される。一方、前回の制動処理時における、駆動時間TDLが駆動時間TDRよりも長い場合、今回の制動処理でも、左側の電動制動機構21Lの駆動時間TDLが右側の電動制動機構21Rの駆動時間TDRよりも長くなることが予測される。
【0043】
そのため、駆動時間TDRが駆動時間TDL未満である場合(ステップS12:NO)、制動制御部51は、左側の電動制動機構21Lの作動、すなわち電動制動機構21Lの電動モータ40の駆動を開始させる(ステップS13)。続いて、制動制御部51は、左側の電動制動機構21Lの作動の開始時点からの経過時間が上記ステップS11で決定した待機時間TSに達したか否かを判定する(ステップS14)。経過時間が待機時間TSに達していない場合(ステップS14:NO)、制動制御部51は、経過時間が待機時間TSに達するまでステップS14の判定処理を繰り返す。一方、経過時間が待機時間TSに達した場合(ステップS14:YES)、制動制御部51は、右側の電動制動機構21Rの作動、すなわち電動制動機構21Rの電動モータ40の駆動を開始させ(ステップS15)、その後、その処理を後述するステップS19に移行する。
【0044】
その一方で、ステップS12において、前回の制動処理時における、右側の電動制動機構21Rの駆動時間TDRが左側の電動制動機構21Lの駆動時間TDL以上である場合(YES)、制動制御部51は、右側の電動制動機構21Rの作動、すなわち電動制動機構21Rの電動モータ40の駆動を開始させる(ステップS16)。続いて、制動制御部51は、右側の電動制動機構21Rの作動の開始時点からの経過時間が上記ステップS11で決定した待機時間TSに達したか否かを判定する(ステップS17)。経過時間が待機時間TSに達していない場合(ステップS17:NO)、制動制御部51は、経過時間が待機時間TSに達するまでステップS17の判定処理を繰り返す。一方、経過時間が待機時間TSに達した場合(ステップS17:YES)、制動制御部51は、左側の電動制動機構21Lの作動、すなわち電動制動機構21Lの電動モータ40の駆動を開始させ(ステップS18)、その後、その処理を後述するステップS19に移行する。
【0045】
ステップS19において、制動制御部51は、あとに作動を開始させた方の電動制動機構の電動モータ40での突入電流の発生タイミングが経過したか否かを判定する。突入電流の発生タイミングが未だ経過していない場合(ステップS19:NO)、制動制御部51は、当該発生タイミングが経過するまでステップS19の判定処理を繰り返す。一方、突入電流の発生タイミングが経過した場合(ステップS19:YES)、制動制御部51は、その処理を次のステップS20に移行する。
【0046】
ステップS20において、制動制御部51は、右側の電動制動機構21Rの電動モータ40に流れる電流値Imtが停止判定電流値ImtTh1以上であるか否かを判定する。電流値Imtが停止判定電流値ImtTh1以上である場合(ステップS20:YES)、制動制御部51は、右側の電動制動機構21Rの作動を停止させ、すなわち電動制動機構21Rの電動モータ40の駆動を停止させ(ステップS21)、その後、その処理を後述するステップS22に移行する。一方、電流値Imtが停止判定電流値ImtTh1未満である場合(ステップS20:NO)、制動制御部51は、ステップS21の処理を実施することなく、その処理を次のステップS22に移行する。
【0047】
ステップS22において、制動制御部51は、左側の電動制動機構21Lの電動モータ40に流れる電流値Imtが停止判定電流値ImtTh1以上であるか否かを判定する。電流値Imtが停止判定電流値ImtTh1以上である場合(ステップS22:YES)、制動制御部51は、左側の電動制動機構21Lの作動を停止させ、すなわち電動制動機構21Lの電動モータ40の駆動を停止させ(ステップS23)、その後、その処理を後述するステップS24に移行する。一方、電流値Imtが停止判定電流値ImtTh1未満である場合(ステップS22:NO)、制動制御部51は、ステップS23の処理を実施することなく、その処理を次のステップS24に移行する。
【0048】
ステップS24において、制動制御部51は、両電動制動機構21L,21Rの作動が停止しているか否かを判定する。両電動制動機構21L,21Rのうち、少なくとも1つの電動制動機構が未だ作動している場合(ステップS24:NO)、制動制御部51は、その処理を前述したステップS20に移行する。一方、両電動制動機構21L,21Rの作動が既に停止している場合(ステップS24:YES)、制動制御部51は、本処理ルーチンを終了して制動処理の実施を終了する。
【0049】
次に、図5及び図6を参照し、車両のずり下がりが発生していると判定した旨が制動制御部51に入力されたために制動制御部51が実行する処理ルーチンについて説明する。
図5に示すように、本処理ルーチンにおいて、制動制御部51は、待機時間TSを決定する決定処理を行う(ステップS31)。この決定処理については図7を用いて後述する。続いて、制動制御部51は、左右の両後輪RL,RRの回転が検出されているか否かを判定する(ステップS32)。両後輪RL,RRのうち、一方の後輪の回転は検出されているものの、他方の後輪の回転は検出されていない場合(ステップS32:NO)、制動制御部51は、その処理を後述するステップS40に移行する(図6参照)。一方、両後輪RL,RRの回転が検出されている場合(ステップS32:YES)、制動制御部51は、その処理を次のステップS33に移行する。
【0050】
ステップS33において、制動制御部51は、記憶部53から前回の制動処理の実施時における各電動制動機構21L,21Rの駆動時間TDL,TDRを読み出し、右側の電動制動機構21Rの駆動時間TDRが左側の電動制動機構21Lの駆動時間TDL以上であるか否かを判定する。駆動時間TDRが駆動時間TDL未満である場合(ステップS33:NO)、制動制御部51は、右側の電動制動機構21Rの作動、すなわち電動制動機構21Rの電動モータ40の駆動を開始させる(ステップS34)。続いて、制動制御部51は、右側の電動制動機構21Rの作動の開始時点からの経過時間が上記ステップS31で決定した待機時間TSに達したか否かを判定する(ステップS35)。経過時間が待機時間TSに達していない場合(ステップS35:NO)、制動制御部51は、経過時間が待機時間TSに達するまでステップS35の判定処理を繰り返す。一方、経過時間が待機時間TSに達した場合(ステップS35:YES)、制動制御部51は、左側の電動制動機構21Lの作動、すなわち電動制動機構21Lの電動モータ40の駆動を開始させ(ステップS36)、その後、その処理を後述するステップS47に移行する。
【0051】
その一方で、ステップS33において、駆動時間TDRが駆動時間TDL以上である場合(YES)、制動制御部51は、左側の電動制動機構21Lの作動、すなわち電動制動機構21Lの電動モータ40の駆動を開始させる(ステップS37)。続いて、制動制御部51は、左側の電動制動機構21Lの作動の開始時点からの経過時間が上記ステップS31で決定した待機時間TSに達したか否かを判定する(ステップS38)。経過時間が待機時間TSに達していない場合(ステップS38:NO)、制動制御部51は、経過時間が待機時間TSに達するまでステップS38の判定処理を繰り返す。一方、経過時間が待機時間TSに達した場合(ステップS38:YES)、制動制御部51は、右側の電動制動機構21Rの作動、すなわち電動制動機構21Rの電動モータ40の駆動を開始させ(ステップS39)、その後、その処理を後述するステップS47に移行する。
【0052】
図6に示すように、ステップS40において、制動制御部51は、左後輪RLの回転が検出されているか否かを判定する。左後輪RLの回転が検出されている場合(ステップS40:YES)、制動制御部51は、左側の電動制動機構21Lの作動、すなわち電動制動機構21Lの電動モータ40の駆動を開始させる(ステップS41)。続いて、制動制御部51は、左側の電動制動機構21Lの作動の開始時点からの経過時間が上記ステップS31で決定した待機時間TSに達したか否かを判定する(ステップS42)。経過時間が待機時間TSに達していない場合(ステップS42:NO)、制動制御部51は、経過時間が待機時間TSに達するまでステップS42の判定処理を繰り返す。一方、経過時間が待機時間TSに達した場合(ステップS42:YES)、制動制御部51は、右側の電動制動機構21Rの作動、すなわち電動制動機構21Rの電動モータ40の駆動を開始させ(ステップS43)、その後、その処理を後述するステップS47に移行する。
【0053】
一方、左後輪RLの回転が検出されていない場合(ステップS40:NO)、右後輪RRの回転が検出されているため、制動制御部51は、右側の電動制動機構21Rの作動、すなわち電動制動機構21Rの電動モータ40の駆動を開始させる(ステップS44)。続いて、制動制御部51は、右側の電動制動機構21Rの作動の開始時点からの経過時間が上記ステップS31で決定した待機時間TSに達したか否かを判定する(ステップS45)。経過時間が待機時間TSに達していない場合(ステップS45:NO)、制動制御部51は、経過時間が待機時間TSに達するまでステップS45の判定処理を繰り返す。一方、経過時間が待機時間TSに達した場合(ステップS45:YES)、制動制御部51は、左側の電動制動機構21Lの作動、すなわち電動制動機構21Lの電動モータ40の駆動を開始させ(ステップS46)、その後、その処理を後述するステップS47に移行する。
【0054】
図5に示すように、ステップS47において、制動制御部51は、あとに作動を開始させた方の電動制動機構の電動モータ40での突入電流の発生タイミングが経過したか否かを判定する。突入電流の発生タイミングが未だ経過していない場合(ステップS47:NO)、制動制御部51は、当該発生タイミングが経過するまでステップS47の判定処理を繰り返す。一方、突入電流の発生タイミングが経過した場合(ステップS47:YES)、制動制御部51は、その処理を次のステップS48に移行する。
【0055】
ステップS48において、制動制御部51は、右側の電動制動機構21Rの電動モータ40に流れる電流値Imtが停止判定電流値ImtTh1以上であるか否かを判定する。電流値Imtが停止判定電流値ImtTh1以上である場合(ステップS48:YES)、制動制御部51は、右側の電動制動機構21Rの作動を停止させ、すなわち電動制動機構21Rの電動モータ40の駆動を停止させ(ステップS49)、その後、その処理を後述するステップS50に移行する。一方、電流値Imtが停止判定電流値ImtTh1未満である場合(ステップS48:NO)、制動制御部51は、ステップS49の処理を実施することなく、その処理を次のステップS50に移行する。
【0056】
ステップS50において、制動制御部51は、左側の電動制動機構21Lの電動モータ40に流れる電流値Imtが停止判定電流値ImtTh1以上であるか否かを判定する。電流値Imtが停止判定電流値ImtTh1以上である場合(ステップS50:YES)、制動制御部51は、左側の電動制動機構21Lの作動を停止させ、すなわち電動制動機構21Lの電動モータ40の駆動を停止させ(ステップS51)、その後、その処理を後述するステップS52に移行する。一方、電流値Imtが停止判定電流値ImtTh1未満である場合(ステップS50:NO)、制動制御部51は、ステップS51の処理を実施することなく、その処理を次のステップS52に移行する。
【0057】
ステップS52において、制動制御部51は、両電動制動機構21L,21Rの作動が停止しているか否かを判定する。両電動制動機構21L,21Rのうち、少なくとも1つの電動制動機構が未だ作動している場合(ステップS52:NO)、制動制御部51は、その処理を前述したステップS48に移行する。一方、両電動制動機構21L,21Rの作動が既に停止している場合(ステップS52:YES)、制動制御部51は、本処理ルーチンを終了して制動処理の実施を終了する。
【0058】
次に、図7を参照し、上記ステップS11,S31の待機時間TSの決定処理(処理ルーチン)について説明する。
図7に示すように、本処理ルーチンにおいて、制動制御部51は、今回の制動処理が車両走行中に実施するものであるのか否かを判定する(ステップS61)。今回の制動処理が車両走行中に実施するものではない場合(ステップS61:NO)、制動制御部51は、待機時間TSを基準待機時間TSBと等しくし(ステップS62)、本処理ルーチンを終了する。すなわち、本実施形態では、車両停止時に実施する制動処理、及び、車両のずり下がりが発生していると判定されたときに実施する制動処理では、待機時間TSが基準待機時間TSBと等しくされる。この基準待機時間TSBは、先に作動を開始する電動制動機構の電動モータ40での突入電流の発生タイミングと、あとに作動を開始する電動制動機構の電動モータ40での突入電流の発生タイミングとが重複しないようにすることのできる待機時間の最小値、又は同最小値よりも僅かに長い時間に設定されている。
【0059】
一方、今回の制動処理が車両走行中に実施するものである場合(ステップS61:YES)、制動制御部51は、記憶部53から前回の制動処理の実施時における各電動制動機構21L,21Rの規定時間TDAL,TDARを読み出す(ステップS63)。左側の電動制動機構21Lの規定時間TDALは、前回の制動処理時における電動制動機構21Lの電動モータ40の規定時間TM1(図3参照)のことである。同様に、右側の電動制動機構21Rの規定時間TDARは、前回の制動処理時における電動制動機構21Rの電動モータ40の規定時間TM1(図3参照)のことである。そして、制動制御部51は、記憶部53から読み出した各規定時間TDAL,TDARの差分ΔTDA(=|TDAL−TDAR|)を演算する(ステップS64)。続いて、制動制御部51は、演算した差分ΔTDAを用い、待機時間TSの演算処理を行う(ステップS65)。例えば、制動制御部51は、演算処理では、差分ΔTDAと基準待機時間TSBとを比較し、差分ΔTDAが基準待機時間TSB以下であるときには、待機時間TSを基準待機時間TSBと等しくする。一方、制動制御部51は、差分ΔTDAが基準待機時間TSBよりも大きいときには、待機時間TSを差分ΔTDAと等しくする。これにより、車両走行中に実施する制動処理では、制動処理の前回の実施時における上記差分ΔTDAが基準待機時間TSB以上である場合、当該差分ΔTDAが大きいほど大きくなるように待機時間TSが演算される。このように待機時間TSを演算した後、制動制御部51は、本処理ルーチンを終了する。
【0060】
次に、図8を参照し、車両停止時に操作部102がオン操作されたときにおける作用を効果とともに説明する。
図8(a),(b)に示すように、車両が停止している第1のタイミングt21で操作部102がオン操作される。図8に示す例では、前回の制動処理の実施時における、右側の電動制動機構21Rの駆動時間TDRが左側の電動制動機構21Lの駆動時間TDLよりも長かったため、第1のタイミングt21では、右側の電動制動機構21Rの電動モータ40の駆動が開始される。そして、第1のタイミングt21から待機時間TS(=基準待機時間TSB)が経過した第2のタイミングt22で、左側の電動制動機構21Lの電動モータ40の駆動が開始される。
【0061】
その後の第3のタイミングt23で、両電動制動機構21L,21Rのうち、あとに作動を開始した左側の電動制動機構21Lの電動モータ40に流れる電流値Imtが大きくなり始める。そのため、第3のタイミングt23以降では、左側の電動制動機構21Lで、摩擦材26をブレーキディスク22に押し付ける押圧力が徐々に大きくなる。そして、その後の第5のタイミングt25で、左側の電動制動機構21Lの電動モータ40に流れる電流値Imtが停止判定電流値ImtTh1以上になるため、電動モータ40の駆動が停止される。すなわち、左側の電動制動機構21Lの作動が停止され、左後輪RLに対する制動力が保持されるようになる。
【0062】
一方、右側の電動制動機構21Rでは、第3のタイミングt23よりもあとであって且つ第5のタイミングt25よりも前の第4のタイミングt24で、両電動制動機構21L,21Rのうち、先に作動を開始した右側の電動制動機構21Rの電動モータ40に流れる電流値Imtが大きくなり始める。そして、第5のタイミングt25よりもあとの第6のタイミングt26で、右側の電動制動機構21Rの電動モータ40に流れる電流値Imtが停止判定電流値ImtTh1以上になるため、電動モータ40の駆動が停止される。すなわち、右側の電動制動機構21Rの作動が停止され、右後輪RRに対する制動力が保持されるようになる。
【0063】
電動制動機構21L,21Rの駆動時間TDL,TDRは、電動制動機構21L,21Rの各構成部品の製造誤差や組み立て誤差、及び、摩擦材26の摩耗度合いなどに起因した値となる。言い換えると、1つの電動制動機構では、前回の制動処理での駆動時間と次回の制動処理での駆動時間とはほぼ同じになることが推測される。そこで、本実施形態では、前回の制動処理での駆動時間TDL,TDRを基に、先に作動を開始させる電動制動機構を決めている。具体的には、車両停止時に実施する制動処理では、前回の制動処理での駆動時間TDL,TDRが長い方の電動制動機構(図8に示す例では、右側の電動制動機構21R)を先に作動させるようにしている。そのため、前回の制動処理での駆動時間TDL,TDRが短い方の電動制動機構(図8に示す例では、左側の電動制動機構21L)を先に作動させる場合と比較し、制動処理の実施時間を短くすることができる。
【0064】
次に、図9を参照し、車両走行中に操作部102がオン操作されたときにおける作用を効果とともに説明する。
図9(a),(b)に示すように、車両が走行中の第1のタイミングt31で操作部102がオン操作される。図9に示す例でも、前回の制動処理の実施時における、右側の電動制動機構21Rの駆動時間TDRが左側の電動制動機構21Lの駆動時間TDLよりも長かったため、第1のタイミングt31では、右側の電動制動機構21Rの電動モータ40の駆動が開始される。そして、第1のタイミングt31から待機時間TS(>基準待機時間TSB)が経過した第2のタイミングt32で、左側の電動制動機構21Lの電動モータ40の駆動が開始される。
【0065】
なお、このように車両走行中に制動処理を行う場合、待機時間TSは、前回の制動処理の実施時における上記差分ΔTDAを基に決定されている。そのため、先に作動を開始した左側の電動制動機構21Lの電動モータ40に流れる電流値Imtが規定電流値ImtTh2に達するタイミングを、あとに作動を開始した右側の電動制動機構21Rの電動モータ40に流れる電流値Imtが規定電流値ImtTh2に達するタイミングに近づけることができる。図9に示す例では、待機時間TSが前回の制動処理の実施時における上記差分ΔTDAと等しくなっており、先に作動を開始した左側の電動制動機構21Lの電動モータ40に流れる電流値Imtが規定電流値ImtTh2に達する第3のタイミングt33で、あとに作動を開始した右側の電動制動機構21Rの電動モータ40に流れる電流値Imtが規定電流値ImtTh2に達するようになっている。
【0066】
すなわち、本実施形態では、先に作動を開始した左側の電動制動機構21Lの作動によって左後輪RLに制動力が付与され始めるタイミングと、あとに作動を開始した右側の電動制動機構21Rの作動によって右後輪RRに制動力が付与され始めるタイミングとの乖離が大きくなることを抑制できる。したがって、車両走行中に制動処理を実施する場合に、上記乖離に起因するヨーモーメントが車両に一時的に発生してしまうことを抑制できる。
【0067】
次に、制動処理を実施して後輪RL,RRに制動力が付与されている状況下で車両のずり下がりが発生していると判定された場合の作用を効果とともに説明する。なお、前提として、前回の制動処理の実施時における、右側の電動制動機構21Rの駆動時間TDRが左側の電動制動機構21Lの駆動時間TDLよりも長かったものとする。
【0068】
車両が坂路で停止しているときに、制動解除処理が実施されていないにも拘わらず後輪RL,RRに対する制動力が低下し、車両のずり下がりが発生することがある。このように車両のずり下がりが発生していると判定されると、制動処理を再度行うことで、各後輪RL,RRに対する制動力を大きくし、ずり下がりを停止させることとなる。
【0069】
このとき、両後輪RL,RRが回転していることが検出されている場合、両電動制動機構21L,21Rのうち、駆動時間が長くなりにくい方の電動制動機構(この場合、左側の電動制動機構21L)の作動が先に開始される。そして、左側の電動制動機構21Lの作動の開始時点からの経過時間が待機時間TS(=基準待機時間TSB)に達すると、駆動時間が長くなりやすい方の電動制動機構(この場合、右側の電動制動機構21R)の作動が開始される。そのため、駆動時間の長い方の電動制動機構である右側の電動制動機構21Rの作動を先に開始させる場合と比較し、車両の制動力を早期に増大させることができる。すなわち、車両のずり下がりを早期に停止させることができる。
【0070】
一方、両後輪RL,RRのうち、一方の後輪(例えば、右後輪RR)の回転は検出されているものの、他方の後輪(例えば、左後輪RL)の回転は検出されていない場合、一方の後輪に対応する電動制動機構(この場合、右側の電動制動機構21R)の作動が先に開始される。そして、一方の後輪に対応する電動制動機構の作動の開始時点からの経過時間が待機時間TS(=基準待機時間TSB)に達すると、他方の後輪に対応する電動制動機構(この場合、左側の電動制動機構21L)の作動が開始される。すなわち、回転が検出されている一方の後輪に対する制動力を早期に増大させることができるため、一方の後輪の回転を早期に停止させることができ、ひいては、車両のずり下がりを早期に停止させることができる。
【0071】
なお、上記実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・車両走行中に制動処理を行う場合、前回の制動処理の実施時における上記差分ΔTDA以外の他のパラメータを用いて待機時間TSを決定するようにしてもよい。例えば、制動処理の実施中では、電動モータ40の駆動の開始時点から所定時間が経過した時点の電流値Imtである所定電流値ImtFを取得しておく。なお、所定時間は、摩擦材26がブレーキディスク22に確実に押し付けられているような時間に予め設定される。この場合、電動モータ40の駆動の開始時点から車輪に対する制動力が所定制動力に達する時点までの時間が短いほど、所定電流値ImtFは大きくなりやすい。
【0072】
そのため、次回の制動処理が車両走行中に実施される場合、前回の制動処理の実施時における、右側の電動制動機構21Rの所定電流値ImtFと、左側の電動制動機構21Lの所定電流値ImtFとの差分を基に、待機時間TSを演算するようにしてもよい。このような制御構成であっても、先に作動を開始した電動制動機構の作動によって後輪に制動力が付与され始めるタイミングと、あとに作動を開始した電動制動機構の作動によって後輪に制動力が付与され始めるタイミングとの乖離が大きくなることの抑制が可能である。
【0073】
・電動制動機構を常用ブレーキとして用いる技術も知られている。この場合、運転者によってブレーキペダル11が操作されたときには、各電動制動機構の作動によって後輪RL,RRに制動力を付与することとなる。この場合でも、左後輪RLへの制動力の付与開始タイミングと右後輪RRへの制動力の付与開始タイミングとの乖離が大きいと、車両制動によって車両挙動の安定性が一時的に低下するおそれがある。そこで、この場合であっても、車両走行中に各電動制動機構を作動させて後輪RL,RRに制動力を付与するときには、前回の各電動制動機構の作動時における上記差分ΔTDAを基に、待機時間TSを演算するようにしてもよい。
【0074】
・上記実施形態では、前回の制動処理時に取得した各電動制動機構21L,21Rの規定時間TDAL,TDARの差分ΔTDAを基に、待機時間TSを演算するようにしている。待機時間TSの演算に用いる各規定時間TDAL,TDARは、前回の制動処理時に取得した規定時間でなくてもよい。例えば、実験などで各電動制動機構21L,21Rの規定時間TDAL,TDARを予め取得しておき、制動処理を実施するときには、当該各規定時間TDAL,TDARの差分ΔTDAを基に、待機時間TSを演算するようにしてもよい。また、各規定時間TDAL,TDARは、前々回の制動処理時に取得した値であってもよい。さらに、各規定時間TDAL,TDARは、今回の制動処理の実施以前で実施された各制動処理時に取得した各規定時間の平均値であってもよい。
【0075】
・車両走行中に制動処理を行う場合であっても、待機時間TSを、予め設定された一定値(例えば、基準待機時間TSB)で固定してもよい。
・車両のずり下がりが発生したために制動処理を行う場合にあっては、両後輪RL,RRのうち、一方の後輪は回転しているものの、他方の後輪は回転していないときであっても、前回の制動処理の実施時における駆動時間の短い方の電動制動機構の作動を先に開始させるようにしてもよい。
【0076】
・車両のずり下がりが発生していると判定され、且つ、両後輪RL,RRのうち、一方の後輪は回転しているものの、他方の後輪は回転していないときの制動処理では、一方の後輪に対応する電動制動機構を作動させることで一方の後輪に対する制動力を増大させるのであれば、他方の後輪に対応する電動制動機構を作動させなくてもよい。
【0077】
・上記実施形態では、前回の制動処理時に取得した各電動モータ40の駆動時間TDL,TDRを基に、各電動モータ40のうち、先に駆動を開始させる電動モータを決めるようにしている。しかし、先に駆動を開始させる電動モータを決めるための駆動時間は、前回の制動処理時に取得した駆動時間でなくてもよい。例えば、実験などで各電動モータ40の駆動時間TDL,TDRを予め取得しておき、制動処理では、当該駆動時間TDL,TDRを基に、先に駆動を開始させる電動モータを決めるようにしてもよい。また、制動処理では、前々回の制動処理時に取得した各電動モータ40の駆動時間TDL,TDRを基に、先に駆動を開始させる電動モータを決めるようにしてもよい。さらに、制動処理では、以前に実施された各制動処理時に取得した各電動モータ40の駆動時間の平均値を基に、先に駆動を開始させる電動モータを決めるようにしてもよい。
【0078】
・制御装置50が後輪RL,RRの車輪速度VWを取得することができるのであれば、車輪速度センサ101L,101Rは、制御装置50に電気的に接続されていなくてもよい。例えば、他の制御装置50を経由して、後輪RL,RRの車輪速度VWが制御装置50に入力されるようにしてもよい。また、車載の複数の制御装置(制御装置50も含む)間でデータ通信を行うための通信バスが車両に設けられている場合、制御装置50は、通信バスを介して後輪RL,RRの車輪速度VWを取得するようにしてもよい。
【0079】
・電動制動機構は、自身が有する電動モータの駆動によって車輪に制動力を付与することができるものであれば、上記実施形態で説明した機構以外の他の構成のものであってもよい。例えば、電動制動機構は、車輪と一体回転する回転体としてブレーキドラムを有するとともに、電動モータの駆動によってブレーキドラムに摩擦材を押し付けることで車輪に制動力を付与することのできる、いわゆるドラム式の電動制動機構であってもよい。
【符号の説明】
【0080】
20…駐車制動装置、21L,21R…電動制動機構、22…回転体の一例であるブレーキディスク、26…摩擦材、40…電動モータ、50…制動制御装置としての制御装置、51…制動制御部、52…時間計測部、54…回転監視部、55…ずり下がり判定部、RL,RR…後輪。
図1
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