特許第6756265号(P6756265)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6756265気流浮上式ガラス体製造装置および気流浮上式ガラス体製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6756265
(24)【登録日】2020年8月31日
(45)【発行日】2020年9月16日
(54)【発明の名称】気流浮上式ガラス体製造装置および気流浮上式ガラス体製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 19/02 20060101AFI20200907BHJP
   C03B 11/00 20060101ALI20200907BHJP
【FI】
   C03B19/02 Z
   C03B11/00 B
   C03B11/00 M
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-253353(P2016-253353)
(22)【出願日】2016年12月27日
(65)【公開番号】特開2018-104240(P2018-104240A)
(43)【公開日】2018年7月5日
【審査請求日】2019年9月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】特許業務法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西本 剛寿
【審査官】 有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−180945(JP,A)
【文献】 特開2010−228984(JP,A)
【文献】 特開2013−136514(JP,A)
【文献】 特開2008−214148(JP,A)
【文献】 特開2009−179532(JP,A)
【文献】 特開2009−107853(JP,A)
【文献】 特開2000−327343(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 19/00−19/10
C03B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟化状態の溶融ガラス塊を滴下させて供給するガラス供給部と、
前記ガラス供給部より滴下された前記溶融ガラス塊を一旦受止めるガラス受け部と、
前記ガラス受け部から前記溶融ガラス塊を受け取り、前記溶融ガラス塊を気流によって浮上させて球状に成形する複数のガラス成形型と、
を備え、
前記ガラス受け部は、
前記溶融ガラス塊を前記ガラス成形型へと案内するシュート部を備え、
前記ガラス受け部を、
複数の前記ガラス成形型のそれぞれに付設した、
ことを特徴とする気流浮上式ガラス体製造装置。
【請求項2】
前記シュート部の前記溶融ガラス塊との接触面の濡れ性を、
前記ガラス受け部の他の部位に比して低くした、
ことを特徴とする請求項1に記載の気流浮上式ガラス体製造装置。
【請求項3】
前記シュート部の前記溶融ガラス塊との接触面の水平方向に対する傾斜角度を、
20°以上80°以下とした、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の気流浮上式ガラス体製造装置。
【請求項4】
前記シュート部の前記溶融ガラス塊との接触面の算術平均粗さRaを、
0.2μm以上5.0μm以下とした、
ことを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか一項に記載の気流浮上式ガラス体製造装置。
【請求項5】
前記シュート部を、
前記ガラス受け部に対して脱着可能とした、
ことを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか一項に記載の気流浮上式ガラス体製造装置。
【請求項6】
前記シュート部の上端位置を、
前記ガラス受け部の本体部の上端位置よりも高くした、
ことを特徴とする請求項1〜請求項5の何れか一項に記載の気流浮上式ガラス体製造装置。
【請求項7】
ガラス供給部によって溶融ガラス塊を滴下させて、複数のガラス成形型に対して前記溶融ガラス塊を順次供給し、前記ガラス成形型において、前記溶融ガラス塊を気流によって浮上させて球状に成形して球状ガラス体を製造する気流浮上式ガラス体製造方法であって、
前記ガラス成形型ごとに付設したシュート部によって、前記ガラス供給部より滴下された前記溶融ガラス塊を一旦受止めた後、前記溶融ガラス塊を前記シュート部から前記ガラス成形型へ供給する、
ことを特徴とする気流浮上式ガラス体製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気流によって溶融ガラス塊を浮上させながら球状ガラス体を形成する、気流浮上式ガラス体製造装置および気流浮上式ガラス体製造方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、光通信用レンズ、デジタルカメラ、携帯電話等に装着される撮像レンズや、DVD、CD等の光磁気ディスク用プレーヤに装着されるピックアップレンズ等は、プリフォームとして作成された球状のガラス体(以下、球状ガラス体と呼ぶ)を研磨加工することによって製造される。
そして近年、これらの撮像レンズやピックアップレンズ等においては、コスト低減の要望が増々高まっており、研磨工程の短縮化を図ることによって、球状ガラス体を短時間で大量に生産し、コスト低減を実現する方法が種々検討されている。
【0003】
従来、精度の高い球状ガラス体を製造する方法としては、材料となる溶融ガラス塊を、気流によって浮上させながら球状に成形しつつ冷却する方法(以下、「気流浮上式ガラス体製造方法」と呼ぶ)が知られており、特許文献1にその技術が開示されている。
特許文献1に示された気流浮上式ガラス体製造方法は、上方に向けて開口する逆円錐状の内周面を有し、当該内周面の頂点(下端)付近に気体噴出孔が形成されたガラス成形型を用意し、当該気体噴出孔より噴出される気流によって溶融ガラス塊を浮上および回転させながら冷却することにより、球状ガラス体を精度良く製造するものである。
【0004】
また、特許文献1には、このような気流浮上式ガラス体製造方法を具現化する製造装置(以下、「気流浮上式ガラス体製造装置」と呼ぶ)の一例が開示されている。
特許文献1に示された気流浮上式ガラス体製造装置は、水平旋回する旋回テーブルと、当該旋回テーブルの周縁部に沿って立設固定される複数のガラス成形型と、ガラス成形型の上方に位置して溶融ガラス塊を一旦受けるシュートを備え、落下する溶融ガラス塊をシュートで一旦受けた後にガラス成形型へと案内供給する構成として、球状ガラス体を連続的に生産することを可能とするものである。
【0005】
そして、特許文献1に示された従来の気流浮上式ガラス体製造方法および気流浮上式ガラス体製造装置によれば、精度の高い球状ガラス体を短時間で大量に生産することが可能になり、当該球状ガラス体を基に製造される撮像レンズやピックアップレンズなどのコスト低減が可能になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−228984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の気流浮上式ガラス体製造方法および気流浮上式ガラス体製造装置においては、溶融ガラス塊をシュート上に滴下させてガラス成形型に供給する際に、シュート上での溶融ガラス塊の跳ね方がバラつくため、溶融ガラス塊のガラス成形型への供給位置や供給タイミングがバラつくこととなっていた。
そして、従来の気流浮上式ガラス体製造方法および気流浮上式ガラス体製造装置においては、溶融ガラス塊のガラス成形型への供給タイミングのバラツキを吸収するために、溶融ガラス塊の滴下間隔を平均化して旋回テーブルの旋回速度を定めていた。
【0008】
このため、従来の気流浮上式ガラス体製造方法および気流浮上式ガラス体製造装置では、溶融ガラス塊のガラス成形型への供給位置のバラツキを抑制しなければ、溶融ガラス塊の滴下間隔や旋回テーブルの旋回速度(即ち、球状ガラス体の製造速度)を上げることが難しいという問題があった。そして、従来の気流浮上式ガラス体成形装置では、1.3sec/個程度の製造速度は実現可能であるものの、1.3sec/個を超えるような製造速度の高速化に対応することが困難であった。
【0009】
本発明は、斯かる現状の問題点に鑑みてなされたものであり、溶融ガラス塊のガラス成形型への供給位置のバラツキを抑制し、球状ガラス体の製造速度の増大を実現する気流浮上式ガラス体製造装置および気流浮上式ガラス体製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0011】
即ち、本発明に係る気流浮上式ガラス体製造装置は、軟化状態の溶融ガラス塊を滴下させて供給するガラス供給部と、前記ガラス供給部より滴下された前記溶融ガラス塊を一旦受止めるガラス受け部と、前記ガラス受け部から前記溶融ガラス塊を受け取り、前記溶融ガラス塊を気流によって浮上させて球状に成形する複数のガラス成形型と、を備え、前記ガラス受け部は、前記溶融ガラス塊を前記ガラス成形型へと案内するシュート部を備え、前記ガラス受け部を、複数の前記ガラス成形型のそれぞれに付設したことを特徴とする。
このような構成の気流浮上式ガラス体製造装置によれば、溶融ガラス塊のガラス成形型への供給位置のバラツキを抑制することができ、これにより、球状ガラス体の製造速度を速めることができる。
【0012】
また、本発明に係る気流浮上式ガラス体製造装置は、前記シュート部の前記溶融ガラス塊との接触面の濡れ性を、前記ガラス受け部の他の部位に比して低くしたことを特徴とする。
このような構成の気流浮上式ガラス体製造装置によれば、溶融ガラス塊がシュート部表面に付着(凝着)することを抑制し、溶融ガラス塊をガラス成形型に確実に供給することができる。
【0013】
また、本発明に係る気流浮上式ガラス体製造装置は、前記シュート部の前記溶融ガラス塊との接触面の水平方向に対する傾斜角度を、20°以上80°以下としたことを特徴とする。
このような構成の気流浮上式ガラス体製造装置によれば、シュート部で跳ねた溶融ガラス塊を確実に供給位置へ導くことができる。
【0014】
また、本発明に係る気流浮上式ガラス体製造装置は、前記シュート部の前記溶融ガラス塊との接触面の算術平均粗さRaを、0.2μm以上5.0μm以下としたことを特徴とする。
このような構成の気流浮上式ガラス体製造装置によれば、溶融ガラス塊がシュート部表面に付着(凝着)することを抑制し、溶融ガラス塊をガラス成形型に確実に供給することができる。
【0015】
また、本発明に係る気流浮上式ガラス体製造装置は、前記シュート部を、前記ガラス受け部に対して脱着可能としたことを特徴とする。
このような構成の気流浮上式ガラス体製造装置によれば、シュート部が劣化したときに、シュート部のみを交換することが可能になり、気流浮上式ガラス体製造装置におけるメンテナンスの容易化、およびランニングコストの低減を図ることができる。
【0016】
また、本発明に係る気流浮上式ガラス体製造装置は、前記シュート部の上端位置を、前記ガラス受け部の本体部の上端位置よりも高くしたことを特徴とする。
このような構成の気流浮上式ガラス体製造装置によれば、溶融ガラスをシュート部で受け止めやすくなり、溶融ガラス塊を確実にガラス成形型へ導くことができる。
【0017】
また、本発明に係る気流浮上式ガラス体製造方法は、ガラス供給部によって溶融ガラス塊を滴下させて、複数のガラス成形型に対して前記溶融ガラス塊を順次供給し、前記ガラス成形型において、前記溶融ガラス塊を気流によって浮上させて球状に成形して球状ガラス体を製造する気流浮上式ガラス体製造方法であって、前記ガラス成形型ごとに付設したシュート部によって、前記ガラス供給部より滴下された前記溶融ガラス塊を一旦受止めた後、前記溶融ガラス塊を前記シュート部から前記ガラス成形型へ供給することを特徴とする。
このような構成の気流浮上式ガラス体製造方法によれば、溶融ガラス塊のガラス成形型への供給位置のバラツキを抑制することができ、これにより、球状ガラス体の製造速度を速めることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、以下に示すような効果を奏する。
本発明に係る気流浮上式ガラス体製造装置および気流浮上式ガラス体製造方法によれば、溶融ガラス塊のガラス成形型への供給位置のバラツキを抑制し、球状ガラス体の製造速度を速めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る気流浮上式ガラス体製造装置の全体構成を示す断面模式図。
図2】投入位置におけるガラス成形型近傍の構成を示した拡大断面模式図。
図3】ガラス受け部を示す模式図、(A)平面模式図、(B)図3(A)におけるX−X断面模式図。
図4】ガラス成形型に対するガラス受け部の装着状態を示す部分断面模式図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施形態について説明する。
尚、以下では説明の便宜上、図1に示す矢印Vの方向を気流浮上式ガラス体製造装置の上方向と規定し、矢印Vの反対方向を下方向と規定する(図2図4においても同様とする)。
【0021】
まず始めに、本発明の一実施形態に係る気流浮上式ガラス体製造装置の全体構成について、図1図4を用いて説明する。
図1に示す如く、本発明の一実施形態に係る気流浮上式ガラス体製造装置1(以下、単に製造装置1と記載する)は、球状ガラス体Gを高速度で連続的に大量生産するための装置であり、ガラス供給部10、旋回ベース部20、ガラス成形部30、気体供給部40、ガラス受け部50等により構成される。
【0022】
球状ガラス体Gは、例えば、約1.0mm以上10.0mm以下の直径からなる球形状のガラス体であって、撮像レンズやピックアップレンズなどを製造する際のプリフォームとして利用されるものである。
そして、製造装置1では、このような直径サイズからなる球状ガラス体Gを、一個の球状ガラス体Gにおける実測直径の最大値と最小値の差が約50μm以下となる高精度で製造する。
【0023】
ガラス供給部10は、軟化状態のガラス塊(以下、溶融ガラス塊Gaと記載する)を、ガラス成形部30(より詳しくは、後述するガラス成形型31内)に供給するための部位である。
ガラス供給部10は、一端部を下方に向けて配設される白金ノズル11と、検出手段12などにより構成される。検出手段12は、例えば赤外線センサーなどによって構成され、白金ノズル11の直下に配設される。
【0024】
そして、白金ノズル11より滴下された溶融ガラス塊Gaは、検出手段12より照射される赤外線12aの照射域を通過した後、ガラス成形型31内に投入される。
このとき、滴下された溶融ガラス塊Gaは、ガラス受け部50によって一旦受止められた後、ガラス成形型31内の所定の位置へと案内される。
【0025】
尚、検出手段12によって検出された、溶融ガラス塊Gaが滴下するタイミングに関する電気信号は、図示しない制御装置へと送信され、後述する旋回テーブル21の回転速度を制御するのに利用される。
【0026】
旋回ベース部20は、製造装置1の基体を構成する部位であり、旋回テーブル21、および旋回シャフト22等により構成される。
【0027】
旋回テーブル21は、略円盤形状に構築された構造体からなり、水平で、かつ、周縁部の一部(例えば、図1中における左端部)がガラス供給部10の直下(以下、「投入位置」と記載する)に位置するように配置される。
【0028】
旋回シャフト22は、丸棒形状の部材からなり、旋回テーブル21の中央下方において、上下方向に向けて配置される。
【0029】
旋回シャフト22の下端部には、サーボモータや減速機等からなる図示しない駆動機構部が連結されており、前記駆動機構部によって、旋回シャフト22は軸心を中心にして回転駆動される。これにより、旋回テーブル21は、旋回シャフト22を中心にして回転駆動される。
【0030】
尚、旋回テーブル21の回転速度(即ち、ガラス成形型31の移動速度)は、検出手段12によって検出された溶融ガラス塊Gaの滴下タイミングに基づき制御される。
【0031】
ガラス成形部30は、ガラス供給部10から供給される溶融ガラスを成形する部位であり、ガラス成形型31、支持部材32等によって構成されている。
【0032】
図1および図2に示す如く、支持部材32は、旋回テーブル21上面の周縁部において、前記周縁部に沿って等間隔に複数配置されている。
そして、ガラス成形部30では、ガラス成形型31を、支持部材32によって、図2に示す矢印Bの方向に回動可能に支持している。そして、ガラス成形部30は、図示しない回動機構部によって、ガラス成形型31を所定のタイミングで往復回動させる構成としている。
【0033】
ガラス成形型31は、例えば円柱形状の部材により形成され、その内部には、図2に示すように、略円錐形状の貫通孔31aが同軸上に穿孔されている。
【0034】
図1および図2に示す如く、ガラス成形型31は、「投入位置(ガラス供給部10の下方の位置)」では、図示しない回動機構部によって、上下方向に向く姿勢(即ち「直立状態」の姿勢)に回動されており、鉛直下方から鉛直上方に向かって貫通孔31aの断面形状が徐々に拡径する状態に保持される。
【0035】
また、ガラス成形型31は、「排出位置」では、図示しない回動機構部によって、水平方向に比して下向きに傾く姿勢(即ち「傾倒状態」の姿勢)に回動されており、ガラス成形型31の内部から成形した球状ガラス体Gを取り出すことができる状態に保持される。
【0036】
本実施形態における製造装置1では、旋回テーブル21を回転動作させてガラス成形型31が所定位置まで到達したときに、例えばピックアップ装置(図示せず)を用いて、成形された球状ガラス体G・G・・・を順次機外に排出することができる。
【0037】
また、ガラス成形型31は、貫通孔31aの下端部において、気体供給部40と連通されている。
【0038】
気体供給部40は、ガラス成形部30のガラス成形型31内に気体を供給するための部位であり、配管部材41や、図示しない気体発生源(エアコンプレッサや窒素発生装置等)、流量調整弁、フィルタ等によって構成されている。
【0039】
貫通孔31a内においては、気体供給部40より供給される気体が常に流動しており、上方に向かって流れる気流Aが生じている。
尚、この際、ガラス成形型31内に流動される気体の流量については、0.1L/min以上2.0L/min以下であることが好ましい。
【0040】
そして、ガラス供給部10からガラス成形型31内に供給された溶融ガラス塊Gaは、気流Aによって転がりながら浮上しつつ徐々に冷却されるとともに、稀に貫通孔31aの内周面(形成面)に接触しながら、球状ガラス体Gへと成形される。
【0041】
ガラス受け部50は、ガラス供給部10から滴下された溶融ガラス塊Gaを、ガラス成形型31に供給する前に、一旦受けるための部位であり、本体部51とシュート部52を備えている。
【0042】
図3(A)(B)に示す如く、略円筒状の本体部51は、下端側において、ガラス成形型31の上端部の円筒形状に対応した略円筒状の凹部53が形成されている。
そして、図4に示すように、ガラス受け部50は、ガラス成形型31の上端部に凹部53を嵌め合わせることによって、ガラス成形型31に対してガラス受け部50を装着することができるように構成されている。
【0043】
また、本体部51の上端側には、仮に溶融ガラス塊Gaが本体部51に接触した場合でも、溶融ガラス塊Gaをガラス成形型31へと導くために、略擂鉢状の貫通孔54が形成されており、該貫通孔54は凹部53と連通している。
【0044】
図3(A)(B)に示す如く、シュート部52は、ガラス供給部10から滴下された溶融ガラス塊Gaを衝突させるための部位であり、鉛直下向きに落下してくる溶融ガラス塊Gaを跳ね返して方向転換するための接触面55を備えている。接触面55は、水平方向に対して傾斜した斜面となっている。
そして、ガラス受け部50では、貫通孔54の内周面の一部を、シュート部52の接触面55によって構成している。
【0045】
尚、図1および図2に示すように、製造装置1では、シュート部52が、ガラス受け部50の周辺部の、ガラス成形型31の旋回方向における半径方向内側に対応する位置に配置されるように構成しているが、シュート部52の位置はこれに限定されるものではない。
尚、ガラス受け部50は、図示しないナット等によってガラス成形型31に対して固定されており、ガラス成形型31に対するガラス受け部50(シュート部52)の相対的な位置関係が一定に保持されている。
【0046】
製造装置1では、このような構成により、球状ガラス体Gを排出する際に、ピックアップ装置がシュート部52と接触することがないように構成している。
このため、製造装置1では、シュート部52をガラス成形型31に付設する構成としていても、球状ガラス体Gの排出がシュート部52によって阻害されることがなく、球状ガラス体Gが破損することもない。
【0047】
本実施形態で示すガラス受け部50において、本体部51は、SUS製の部材によって構成しており、シュート部52は、SiC(炭化ケイ素)製の部材によって構成している。それにより、ガラス受け部50では、接触面55の濡れ性を、ガラス受け部50の他の部位や、ガラス成形型31の貫通孔31a等に比して低くしている。
濡れ性を低くした接触面55では、溶融ガラス塊Gaとの接触角がより大きくなるため、接触面55に接触した溶融ガラス塊Gaが、接触面55からより離れやすくなる。
このため、製造装置1では、接触面55で溶融ガラス塊Gaを方向転換させるときの跳ね返りの態様が常に安定する(即ち、決まった方向に跳ね返る)ようになる。
【0048】
即ち、本発明の一実施形態に係る気流浮上式ガラス体製造装置1では、シュート部52の溶融ガラス塊Gaとの接触面55の濡れ性を、ガラス受け部50の他の部位に比して低くしており、溶融ガラス塊Gaがシュート部52の表面に付着(凝着)することを抑制し、溶融ガラス塊Gaをガラス成形型31に確実に供給することができる。これにより、シュート部52における溶融ガラス塊Gaの跳ね方のバラツキを抑えている。
【0049】
尚、本実施形態では、シュート部52をSiC製の部材によって構成している場合を例示したが、製造装置1におけるシュート部52はこれに限定されず、Si(窒化ケイ素)製等の部材によって構成してもよい。あるいは、シュート部52の接触面55をSiC、Si、DLC(Diamond−Like Carbon)またはTiAlN(窒化チタンアルミニウム)等を用いて表面処理をする構成としてもよい。
【0050】
また、製造装置1では、シュート部52の接触面55の水平方向に対する傾斜角度θ1(図3(B)参照)を、約60°としている。
接触面55の傾斜角度が20°より小さいと、軟化状態の溶融ガラス塊Gaをガラス成形型31へ供給することが困難となり、また、接触面55の傾斜角度が80°より大きくなると、溶融ガラス塊Gaがガラス成形型31へ直接供給されるのと略同じになって、ガラス成形型31内部に溶融ガラス塊Gaが詰まりやすくなる。
このため、製造装置1におけるシュート部52の接触面55の水平方向に対する傾斜角度θ1は、20°以上80°以下であることが好ましく、30°以上60°以下であることがより好ましい。
【0051】
即ち、製造装置1では、シュート部52の溶融ガラス塊Gaとの接触面55の水平方向に対する傾斜角度θ1を、20°以上80°以下としており、シュート部52で跳ねた溶融ガラス塊Gaを確実にガラス成形型31内の供給位置へ導く構成としている。
【0052】
また、製造装置1では、シュート部52の接触面55の算術平均粗さRaを、0.2μm以上5.0μm以下としている。
接触面55の算術平均粗さRaが0.2μmより小さい場合、および接触面55の算術平均粗さRaが5.0μmより大きい場合には、接触面55等に溶融ガラス塊Gaが付着(凝着)し、溶融ガラス塊Gaの供給が困難となる。
このため、製造装置1におけるシュート部52の接触面55の算術平均粗さRaは、0.2μm以上5.0μm以下であることが好ましく、0.5μm以上3.0μm以下であることがより好ましい。
【0053】
即ち、製造装置1では、シュート部52の溶融ガラス塊Gaとの接触面55の算術平均粗さRaを、0.2μm以上5.0μm以下としているため、シュート部52における溶融ガラス塊Gaの付着(凝着)を確実に抑えている。
【0054】
また、図4に示すように、製造装置1では、ガラス受け部50におけるシュート部52の上端位置Z1を、本体部51の上端位置Z2に比して高い位置としている。これにより、溶融ガラス塊Gaをシュート部52で受け止めやすくなり、溶融ガラス塊Gaをより確実にガラス成形型31へ供給することが可能になる。
【0055】
即ち、製造装置1では、ガラス受け部50におけるシュート部52の上端位置Z1を、本体部51の上端位置Z2よりも高くしているため、溶融ガラス塊Gaをシュート部52で受け止めやすくなり、溶融ガラス塊Gaを確実にガラス成形型31へ導くことができる構成としている。
【0056】
尚、ガラス受け部50におけるシュート部52の上端位置Z1は、本体部51の上端位置Z2に比して3mm以上20mm以下高い位置とすることが好ましく、5mm以上10mm以下高い位置とすることがより好ましい。
【0057】
また、図3(A)に示すように、製造装置1では、ガラス受け部50におけるシュート部52の形成範囲(ガラス成形型31の中心軸を基準とした角度θ2)を、約90°としている。
シュート部52の形成範囲(角度θ2)が45°より小さい場合には、溶融ガラス塊Gaがシュート部52上に乗らない頻度が高くなり、溶融ガラス塊Gaをガラス成形型31へ確実に供給することが困難になる。なお、形成範囲(角度θ2)の上限は特に限定されないが、大きすぎるとガラス受け部50の製造コストが高くなる傾向があるため、120°以下とすることが好ましい。
このため、製造装置1では、ガラス受け部50におけるシュート部52の形成範囲(角度θ2)を、120°以下45°以上とすることが好ましく、100°以下50°以上とすることがより好ましく、100°以下60°以上とすることが更に好ましい。
【0058】
また、製造装置1では、ガラス成形型31に対してガラス受け部50を着脱可能な構成としている。このため、製造装置1では、ガラス受け部50が損傷した時に、新しいガラス受け部50に交換する作業を容易に行うことができる。
【0059】
さらに、製造装置1では、ガラス受け部50においてシュート部52を着脱可能な構成としている。ガラス受け部50では、図3(A)(B)に示すように、本体部51側に凸部56を形成し、かつ、シュート部52側に凹部57を形成する構成としておき、凸部56と凹部57を嵌め合わせることによって、本体部51に対してシュート部52を付設する構成としている。このような構成では、本体部51に対してシュート部52が着脱可能となり、損傷しやすいシュート部52のみの交換作業が可能になるため、シュート部52が損傷した時の交換作業がさらに容易となり、製造装置1のランニングコストのさらなる低減が図られる。
尚、ガラス受け部50における、本体部51に対してシュート部52を付設する構成は、上記構成には限定されず、例えば、ナット等の螺合部材を用いる構成であってもよく、ガラス受け部50が旋回される際に生じる遠心力等によって外れることのない種々の構成を採用し得る。
【0060】
即ち、製造装置1では、シュート部52を、ガラス受け部50に対して脱着可能としており、シュート部52が劣化したときに、シュート部52のみを交換することが可能になっており、気流浮上式ガラス体製造装置1におけるメンテナンスの容易化、およびランニングコストの低減を図ることが可能になっている。
【0061】
そして、このような構成を有する製造装置1では、ガラス成形型31に対する溶融ガラス塊Gaの供給位置のバラツキを低減させることによって、溶融ガラス塊Gaの滴下間隔を高速化することが可能になり、球状ガラス体Gの実測直径における最大値と最小値の差を約50μm以下とした高精度を保ちつつ、約0.1sec/個を超える高速度で、球状ガラス体Gを大量生産することが可能になっている。尚、製造装置1では、従来に比して高速な、0.08〜0.1sec/個程度の製造速度を実現している。
【0062】
即ち、本発明の一実施形態に係る気流浮上式ガラス体製造装置1は、軟化状態の溶融ガラス塊Gaを滴下させて供給するガラス供給部10と、ガラス供給部10より滴下された溶融ガラス塊Gaを一旦受止めるガラス受け部50と、ガラス受け部50から溶融ガラス塊Gaを受け取り、溶融ガラス塊Gaを気流Aによって浮上させて球状に成形する複数のガラス成形型31と、を備え、ガラス受け部50は、溶融ガラス塊Gaをガラス成形型31へと案内するシュート部52を備え、ガラス受け部50を、複数のガラス成形型31・31・・・のそれぞれに付設している。
【0063】
このような構成の気流浮上式ガラス体製造装置1によれば、溶融ガラス塊Gaのガラス成形型31への供給位置のバラツキを抑制することができ、これにより、球状ガラス体Gの製造速度を速めることができる。
【0064】
次に、本発明の一実施形態に係る製造装置1による球状ガラス体Gの製造方法について、説明する。
図1に示す製造装置1により球状ガラス体Gを製造するときには、まず、図1および図2に示すように、ガラス供給部10の白金ノズル11より、ガラス成形型31の上部に配置したガラス受け部50に向けて、軟化状態の溶融ガラス塊Gaを滴下させる。
製造装置1では、ガラス受け部50に向けて滴下された溶融ガラス塊Gaをシュート部52の接触面55に接触させて、溶融ガラス塊Gaを接触面55において方向転換させて、ガラス成形型31内の所定位置(供給位置)に落下させる。
【0065】
図4に示すように、ガラス受け部50はガラス成形型31に対して一体的に付設されており、シュート部52とガラス成形型31の相対的な位置関係が、常に一定に保持される構成としている。
【0066】
そして、このようなシュート部52をガラス成形型31に対して付設する構成では、ガラス成形型に対してシュート部を別体で(離間させて)設ける従来の構成に比して、溶融ガラス塊Gaがシュート部52で跳ねた後、ガラス成形型31内の所定位置(供給位置)に収まるまでの、該溶融ガラス塊Gaの移動距離を小さく抑えることができる。
【0067】
このため製造装置1では、溶融ガラス塊Gaをガラス受け部50に滴下したときの供給位置及び供給タイミングのバラツキが、ガラス成形型31に対する溶融ガラス塊Gaの供給位置のバラツキに与える影響が低減されている。
【0068】
さらに、シュート部52では、接触面55に対して、ガラス受け部50の他の部位に比して濡れ性を低下させる表面処理を施しているため、シュート部52の接触面55における溶融ガラス塊Gaの跳ね方のバラツキが低減されている。
【0069】
このため製造装置1では、溶融ガラス塊Gaをガラス受け部50に滴下したときの跳ね方のバラツキに起因して、ガラス成形型31に対する溶融ガラス塊Gaの供給位置がバラつくことが抑制されている。
【0070】
そして、製造装置1を用いた気流浮上式ガラス体製造方法では、従来の気流浮上式ガラス体製造方法に比して、ガラス成形型31における溶融ガラス塊Gaの供給位置のバラツキが大幅に抑制することが可能になっており、球状ガラス体Gの実測直径における最大値と最小値の差を約50μm以下とした高精度を保ちつつ、0.1sec/個を超える高速度で、球状ガラス体Gを大量生産することが可能になっている。
【0071】
即ち、本発明に係る気流浮上式ガラス体製造方法では、ガラス供給部10によって溶融ガラス塊Gaを滴下させて、複数のガラス成形型31・31・・・に対して溶融ガラス塊Gaを順次供給し、ガラス成形型31において、溶融ガラス塊Gaを気流Aによって浮上させて球状に成形して球状ガラス体Gを製造する方法であって、ガラス成形型31ごとに付設したシュート部52によって、ガラス供給部10より滴下された溶融ガラス塊Gaを一旦受止めた後、溶融ガラス塊Gaをシュート部52からガラス成形型31へ供給する構成としている。
【0072】
このような構成の気流浮上式ガラス体製造方法によれば、溶融ガラス塊Gaのガラス成形型31への供給位置のバラツキを抑制することができ、これにより、球状ガラス体Gの製造速度を速めることができる。
【符号の説明】
【0073】
1 気流浮上式ガラス体製造装置(製造装置)
10 ガラス供給部
31 ガラス成形型
50 ガラス受け部
52 シュート部
55 接触面
A 気流
G 球状ガラス体
Ga 溶融ガラス塊
図1
図2
図3
図4